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  • 特開-発酵コーヒー豆の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113389
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】発酵コーヒー豆の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/02 20060101AFI20230808BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230808BHJP
   A23F 5/24 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A23F5/02
A23L5/00 J
A23F5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015729
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】521541284
【氏名又は名称】株式会社トワメイト
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】中原 達雄
【テーマコード(参考)】
4B027
4B035
【Fターム(参考)】
4B027FB21
4B027FB24
4B027FC02
4B027FK19
4B027FQ01
4B027FQ02
4B027FQ06
4B027FR05
4B035LC01
4B035LG33
4B035LG50
4B035LP02
4B035LP03
4B035LP25
4B035LP42
4B035LP44
(57)【要約】
【課題】 優れた風味を有する新規なコーヒー豆の製造方法を提供する。
【解決手段】 リゾープス(Rhizopus)菌を用いてコーヒー豆を発酵させることを特徴とする発酵コーヒー豆の製造方法。コーヒー生豆に対して重量が150%以上となるようにコーヒー生豆を水で膨潤させ、膨潤したコーヒー豆を用いて発酵を行うことが好ましい。また、28~36℃で42~54時間発酵させることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾープス(Rhizopus)菌を用いてコーヒー豆を発酵させることを特徴とする発酵コーヒー豆の製造方法。
【請求項2】
コーヒー生豆に対して重量が150%以上となるように前記コーヒー生豆を水で膨潤させ、膨潤したコーヒー豆を用いて前記発酵を行うことを特徴とする請求項1に記載の発酵コーヒー豆の製造方法。
【請求項3】
28~36℃で42~54時間発酵させることを特徴とする請求項1または2に記載の発酵コーヒー豆の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾープス(Rhizopus)菌を用いた発酵コーヒー豆の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アカネ科(Rubiaceae)コーヒーノキ属に属する低木の広葉樹であるコーヒーの果実は、楕円形をしており、熟すと赤紫色になる。コーヒー果実は、2粒の種子が向かい合う形で入っており、その2粒の種子の部分はコーヒー豆と呼ばれる。コーヒー果実よりコーヒー豆を取出し、焙煎し、粉砕後、熱湯などにより溶出させたものがポピュラーなコーヒーである。
【0003】
コーヒーはその焙煎方法の違いや粉砕粒子を変えることより同じコーヒー豆からでも違う味を楽しむことが出来る。また、その違いを出すためにいろいろな試みが成されてきた。例えば、乳酸菌による発酵(特許文献1)や酵母による発酵(特許文献2)、カタラーゼのような酵素を使用した製造方法(特許文献3)、コーヒー生豆に醸造酒または蒸留酒を吹きかけ特異な香気を与える方法(特許文献4)などである。しかし、人々を満足させる風味のコーヒーは未だに探求されている状況である。
【0004】
リゾープス(Rhizopus)菌は、R. oligosporusがインドネシアの大豆発酵食品であるテンペの製造に使用され、中国の紹興酒や清酒の醸造にも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-65448号公報
【特許文献2】特開平4-278072号公報
【特許文献3】特開2020-127436号公報
【特許文献4】特開2019-180291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に記載された発明は、いずれも乳酸菌や酵母での発酵の処理を施したコーヒー生豆を得ることを目的とするものである。しかしながら当該発明は単に乳酸菌や酵母をコーヒー生豆に植え付けるのではなく、pHの調整や糖類の添加など付随的な作用も加味した上での発酵工程となっている。
また、特許文献3の酵素を作用させたコーヒーはクロロゲン酸等の成分の低減を抑えることは可能になるが、コスト的に高いものとなってしまう可能性が高い。
さらに、特許文献4の醸造酒または蒸留酒等を吹きかけ香気を付けることはコーヒー特有の香気を損なわせてしまう可能性がある。
【0007】
そこで本発明は、優れた風味を有する新規なコーヒー豆の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、安全性の高い白カビの1種であるリゾープス菌を用いてコーヒー豆を発酵させることにより、優れた風味を有するコーヒー豆を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕 リゾープス(Rhizopus)菌を用いてコーヒー豆を発酵させることを特徴とする発酵コーヒー豆の製造方法。
〔2〕 コーヒー生豆に対して重量が150%以上となるように前記コーヒー生豆を水で膨潤させ、膨潤したコーヒー豆を用いて前記発酵を行うことを特徴とする〔1〕に記載の発酵コーヒー豆の製造方法。
〔3〕 28~36℃で42~54時間発酵させることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の発酵コーヒー豆の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、リゾープス菌による発酵により風味の優れた発酵コーヒー豆を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ブラジル産コーヒー生豆を発酵させて焙煎し、発酵させなかった豆とともに官能評価試験を行った結果を表すグラフである。
図2】コロンビア産コーヒー生豆を発酵させて焙煎し、発酵させなかった豆とともに官能評価試験を行った結果を表すグラフである。
図3】フィリピン産コーヒー生豆を発酵させて焙煎し、発酵させなかった豆とともに官能評価試験を行った結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態において使用するリゾープス(Rhizopus)菌は、接合菌類ケカビ科のカビで和名をクモノスカビとも呼ばれている。
Rhizopus stronifer 、R. arrhizus 、R. sexualis 、R. microsporus 、R. oligosporus が使用できるが、好ましくは、R. oligosporusである。
【0013】
使用できるコーヒー豆は、アカネ科コーヒーノキ属の果実から取れる種子であり、Coffee. arabica、C. benghalensis、C. canephora、C. congensis、C. liberica、C. stenophyllaの種があるが特定されるものではない。また同様にコーヒー豆の生産産地はどこの産地のコーヒー豆でも使用することが出来る。
【0014】
収穫されたコーヒー果実からコーヒー豆を取り出す方法は種々あるが、本発明を実施することにおいて、その精製方法に特段の規定はなく、一般的な方法で取り出されたコーヒー豆を使用することが出来る。
【0015】
一般的にコーヒー生豆は水分含量が10~12%になって流通されているが、本実施形態の発酵コーヒー豆を得るためには、リゾープス菌を植菌する前に、コーヒー生豆に対して重量が150%以上となるようにコーヒー生豆を水で膨潤させることが好ましい。このように膨潤したコーヒー豆を用いることで、リゾープス菌による発酵が効率的に進行する。水で膨潤させる方法としては、浸漬、煮沸、蒸すなどの方法で行うことが出来、これらを組み合わせることも可能である。
【0016】
また、培養温度はリゾープス菌の至適温度である28~36℃が好ましく、最も好ましいのは、30~34℃である。
【0017】
さらに、培養時間は42~54時間が好ましく、最も好ましくは46~50時間である。培養時間が短くなれば、リゾープス菌の増殖が不完全で、好ましい発酵コーヒー豆を得ることが出来ず、長すぎるとリゾープス菌が胞子を作り、黒色に変化するため、見た目が悪くなる。
【0018】
リゾープス菌は生育の初期に糖質を資化し、その間にセルラーゼやプロテアーゼを分泌し、糖質がなくなった際の次の栄養源としようとしている。この性質をコーヒー豆に利用することにより、発酵前と比べて脂質や糖質が減少し、これまでに無い風味のコーヒー豆を提供することが出来る。また、該発酵コーヒー豆は脂質や糖類が発酵前のコーヒー豆よりも低くなっていることから、低脂質・低糖質といった健康効果も期待できる。
【0019】
本発明の発酵コーヒー豆の使用方法は焙煎後、コーヒー飲料として引用することも可能であるが、そのまま若しくは粉砕した後に健康食品、お菓子、食品素材としても使用可能である。
【実施例0020】
〔製造例1〕
コーヒー生豆500gを蒸器で30分間蒸し、水気をよく切って重量を測定した*1)。得られたコーヒー豆にR. oligosporusを植菌後、32℃で48時間培養した。その後蒸気殺菌を行い、温風乾燥を行った。
【0021】
〔製造例2〕
コーヒー生豆500gを1時間、水道水に浸漬させた後、蒸器で30分間蒸し、水気をよく切って重量を測定した*1)。得られたコーヒー豆にR. oligosporusを植菌後、32℃で48時間培養した。その後蒸気殺菌を行い、温風乾燥を行った。
【0022】
〔製造例3〕
コーヒー生豆500gを15時間、水道水に浸漬させた後、蒸器で30分間蒸し、水気をよく切って重量を測定した*1)。得られたコーヒー豆にR. oligosporusを植菌後、32℃で48時間培養した。その後蒸気殺菌を行い、温風乾燥を行ったものを発酵コーヒー豆とした。
【0023】
〔実施例1〕
製造例1~3で調製したコーヒー豆が発酵するか否かの試験を行った。培養後、菌糸体の生育の状況(全面に菌糸体が生育しているかどうか)を確認し、発酵の程度を評価した。その結果を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
以上の結果から、重量がコーヒー生豆の150%以上となるように水で膨潤させることで発酵が効率的に進行することが分かった。
【0026】
〔実施例2〕
製造例3で調整したコーヒー豆の製造時間を検討した。発酵の状況は、培養後にコーヒー豆の全体に菌糸が生育している割合の程度を観察し、菌糸が無い状態を0%、全面が菌糸体に覆われている状態を100%として評価した。その結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
以上の結果から、発酵時間が36時間以下であれば、発酵が不十分であり、60時間を超えると胞子が形成され、黒くなることから発酵時間は、42~54時間が最適と考えられる。
【0029】
〔実施例3〕
ブラジル産生豆を用いて、製造例3の製法で発酵コーヒー豆を製造した。発酵前のコーヒー豆と発酵コーヒー豆の成分分析を行った。その結果を表3に示す。
【0030】
【表3】
【0031】
〔実施例4〕
ブラジル産、コロンビア産、フィリピン産のコーヒー生豆を製造例3の製造で製造し、官能試験を行った。焙煎は浅煎りと深煎りの2種類を用意した。パネラーはコーヒーの業務若しくは飲料の業務に従事したことのある男女6名、ブラインド試験で行った。対照としては一般的な浅煎り、深煎りのコーヒーを3点として、1~5点の点数付けをした。
その結果を図1~3に示す。
【0032】
官能評価の結果、浅煎りではブラジルとコロンビアは発酵させることで酸味が減り、甘みが増していることが分かった。これはリゾープス菌が増殖する過程で酸類を栄養源として消費することにより、甘みが強調されているのではないかと考えられる。深煎りではそれぞれの産地で発酵させることで評価数値が小さくなっている。このことは発酵により風味がまろやかになっていることを示していると考えられる。
図1
図2
図3