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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113399
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】摩擦接合用添板
(51)【国際特許分類】
   F16B 35/00 20060101AFI20230808BHJP
   F16B 31/02 20060101ALI20230808BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
F16B35/00 T
F16B31/02 B
F16B5/02 U
F16B5/02 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015741
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】591209246
【氏名又は名称】濱中ナット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】濱中 重信
(72)【発明者】
【氏名】濱中 恵史
(72)【発明者】
【氏名】香月 学
【テーマコード(参考)】
3J001
【Fターム(参考)】
3J001FA05
3J001GA02
3J001GB01
3J001HA02
3J001JA10
3J001KB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トルシアレンチによる一方向からの締め付けを可能にするとともに、ナットを使用する必要のないようにした摩擦接合用添板を提供すること。
【解決手段】スタッドボルトにトルクシャースタッド型破断溝とピンテイルを形成した形状をなし該ボルトの一方の半部に左ねじの雄ねじ21が形成されピンテイル側の半部に右ねじの雄ねじ23が形成され該右ねじの雄ねじ23にはナット22が螺合されているボルトを用い、被接合部材10と重ね合わせてボルトによって摩擦接合する際に用いる添板11であって、上記被接合部材10の下側に配置され、上記ボルトの左ねじの雄ねじ21が螺合する左ねじの雌ねじ11Aが形成されることによって一方向からの締め付けを可能となすとともに、二面幅の大きいナットとしての機能を付与するようにしたことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタッドボルトにトルクシャースタッド型破断溝(24A)とピンテイル(24)を形成した形状をなし該ボルトの一方の半部に左ねじの雄ねじ(21)が形成されピンテイル(24)側の半部に右ねじの雄ねじ(23)が形成され該右ねじの雄ねじ(23)にはナット(22)が螺合されているボルトを用い、被接合部材(10)と重ね合わせてボルトによって摩擦接合する際に用いる添板(11)であって、
上記被接合部材(10)の下側に配置され、上記ボルトの左ねじの雄ねじ(21)が螺合する左ねじの雌ねじ(11A)が形成されることによって一方向からの締め付けを可能となすとともに、二面幅の大きいナットとしての機能を付与するようにしたことを特徴とする摩擦接合用添板。
【請求項2】
添板(11)に高硬度鋼板が使用されることによって摩擦接合構造の軽量化が図られている請求項1記載の摩擦接合用添板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は摩擦接合用添板に関し、特に建築鉄骨構造物その他の鋼構造物等における鋼材の高力ボルトによる摩擦接合に用いる添板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造部材を接合する場合、一般に溶接による接合あるいは高カポルト摩擦接合によって行われる。
【0003】
溶接による接合では作業者の技量によって溶接部の力学的品質が大きく左右されるとともに、風や雨に対しても充分な対策が必要であり、必要な力学的品質を確保するためには多大な管理と労力を要する。
【0004】
そこで、接合部の力学的品質の確保が比較的容易な高カボルトによる摩擦接合が多く採用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
例えば、高カボルトを使用した鉄骨部材の摩擦接合構造には図4に示されるようなものがある。図4において、40は鉄骨部材(被接合部材)、41は鋼製添板、42はナット、43はボルトである。
【0006】
この摩擦接合構造では2つの鉄骨部材40に貫通孔45を設け、両鉄骨部材40の片面または両面に重ねられる鋼製添板41の重合面(摩擦面)が赤錆状態やプラスト処理状態に管理されると共に、鋼製添板41に貫通孔46を設け、これらの貫通孔45、46に渡って挿通螺合されて緊締された高カボルト43の締付け力により、両鉄骨部材40を連結する構造である。
【0007】
図4に示される摩擦接合構造では摩擦面の処理が比較的簡単で、製造コストも安価に済むため、H型鋼の摩擦接合に多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-138392号公報
【特許文献2】特開2015-194232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述の摩擦接合方式ではボルト頭部とナットで鉄骨部材と鋼製添板を挟んで締め付け、摩擦力を得ているので、ボルト又はナットを被接合部材の内側に差し込めない。JISB3466規定の一般構造用角形鋼管等を摩擦接合する際には複雑な機構の一方向ボルトを用いる必要があった。
しかも、ボルト頭部とナットで鉄骨部材と鋼製添え板を挟んで締め付け摩擦力をえているので、摩擦接合構造物の適切な摩擦力を得るため高力ボルトに標準ボルト張力まで軸力がかけられるので、この軸力を受ける高力ボルト用ナットには、JISB1181に規定される六角ナットより一回り大きな2面幅と呼び径の高さのサイズが規定される。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑み、トルシアレンチによる一方向からの締め付けを可能にするとともに、ナットを使用する必要のないようにした摩擦接合用添板を提供することを課題とする。
【0011】
そこで、本発明に係る摩擦接合用添板は、スタッドボルトにトルクシャースタッド型破断溝とピンテイルを形成した形状をなし該ボルトの一方の半部に左ねじの雄ねじが形成されピンテイル側の半部に右ねじの雄ねじが形成され該右ねじの雄ねじにはナットが螺合されているボルトを用い、被接合部材とを重ね合わせてボルトによって摩擦接合する際に用いる添板であって、上記被接合部材の下側に配置され、上記ボルトの左ねじの雄ねじが螺合する左ねじの雌ねじが形成されることによって一方向からの締め付けを可能となすとともに、二面幅の広いナットとしての機能を付与するようにしたことを特徴とする。
【0012】
本発明の特徴の1つはトルクシャースタッド型破断溝とピンテイルを形成したスタドボルトの左ねじの雄ねじを添板の左ねじの雌ねじに螺合させるように構成することによって、一方向からの締め付けを可能となし、又添板に二面幅の大きいナットとして機能させるようにした点にある。
【0013】
これにより、従来のように添板の下側にナットを用いる必要がなく、摩擦接合構造の軽量化を実現することができる。また、一方向ボルトのような非常に高価なボルトを使用することなく、市販のトルシアレンチなどの工具で強度区分F10Tの摩擦接合構造を実現することができる。
さらに、柱脚等の内部にあそびねじが入り込むので被接合部材毎に長さの自由度が大きい。また、軽量で信頼性の高い摩擦接合構造を実現することができる。
【0014】
また、添板の材質は特に限定されないが、添板に高硬度鋼板を使用すると、薄い鋼板を使用して所望の強度を得ることができる結果、摩擦接合構造の更なる軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る摩擦接合用添板の好ましい実施形態を示す側面図である。
図2】上記実施形態におけるナット付きスタッドボルトを示す図である。
図3】上記実施形態における摩擦接合の締め付け工程を模式的に示す図である。
図4】従来の摩擦接合構造の1例を示す図である。
図5】圧延のままの厚さ6mm、9mm、12mm及び16mmの鋼種SS400の添板及びボルトの破損形態を示す図である。
図6】圧延のままで非調質の厚さ6mm、9mm、12mm及び16mmの鋼種HT590の添板及びボルトの破損形態を示す図である。
図7】HT処理を行った厚さ6mm、9mm、12mm及び16mmの鋼種EVERHARDC400Lの添板及びボルトの破損形態を示す図である。
図8】添板の厚さと到達荷重の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1及び図2は本発明に係る摩擦接合用添板の好ましい実施形態を示す。図において、摩擦接合用ボルト20はスタッドボルトにトルクシャースタッド型破断溝24Aとピンテイル24を形成した形状をなし、ボルト20の一方の半部には左ねじ21が形成され、ピンテイル24側の半部には右ねじ23が形成され、右ねじ23にはボルト頭部として機能するナット22が螺合されている。つまり、ピンテイルと右ねじを有する構造用トルシア形高力ボルトの頭部があった部分に右ねじと同じ呼び寸法の左ねじを切った形状をしている。
【0017】
摩擦接合用ボルト20によって接合される被接合部材10には複数の摩擦接合用ボルト20の挿通孔10Aが相互に間隔をあけて形成され、摩擦接合用ボルト20に重ねられる添板11には複数の左ねじ孔11Aが被接合部材10の挿通孔10Aと等しい間隔をあけて形成されている。
【0018】
一般的に高カボルトによる鋼構造物の摩擦接合には構造用トルシア形高カポルト六角ナット、平座金のセットとトルシアレンチがその施工の容易さ、締付け軸力の安定性といった優れた特性から多く使われる。
【0019】
摩擦接合を行う場合、図2に示される摩擦接合用ボルト20のピンテイル24側に高力ボルト用六角ナット22をセットする。
【0020】
次に、図3に示されるように被接合部材10の下側に添板11を重ね合わせ、座金25を通して被接合部材10の上側から摩擦接合用ボルト20を差し込み、摩擦接合用ボルト20の左ねじ21を添板11の左ねじ付きボルト孔(スプライス)11Aにねじこむ。
【0021】
最後に、トルシトアレンチの締付け部A、Bを摩擦接合用ボルト20のピンテイル24とナット22にかぶせて回転させてピンテイル24を破断すると、トルシアボルト頭部の代わりにスプライスを切った左ねじ21と六角ナット22との間で被接合部材10が締付けられて摩擦接合が完成する。
【0022】
トルシアレンチによる摩擦接合用ボルト20への締付け軸力を確保するための締付けは、図3に示されるように次の工程で進む。
1.トルシアレンチ芯部のピンテイルつかみ治具Aで摩擦接合用ボルト20のピンテイ
ル24をつかみ、ナット22が停止した状態で、反時計方向に回転させる。
2.摩擦接合用ボルト20の反時計方向の回転により添板11の座面とナット22の座面が被締結部材10を挟む。
3.添板11の座面の摩擦抵抗によりピンテイル24の反時計方向の回転が停止する。
4.回転が停止したピンテイルつかみ治具Aはナット22の回転による反力受けとして機能する。
5.ピンテイルつかみ治具Aが停止すると、ナットつかみ治具Bが時計方向に回転してナット22が被接合部材10を締付け、摩擦接合用ボルト20に所定の締付け軸力が発生すると、ピンテイル24が破断し締め付けが完了する。
【0023】
(試験)
ねじ付き添板の実用化のための基礎資料として添板に一般的に使用されるSS400と高硬度鋼板に雌ねじを切り、保証荷重試験(引張方式)で限界板厚を比較した。
試験は鋼種としてSS400、HT590、EVERHARDC400LEを用い、試験片のサイズを75×75角とし、板厚を6mm、9mm、12mm及び16mmとし、ねじをM20右ねじ、ねじ下穴径を17.294/17.744とした。試験ボルトはF10T M20×150六角ボルトを12本使用した。
試験方法は1000KN万能試験機でJISB1052-2図1による軸方向引張荷重をかけ、最高到達荷重と試験後の破損形態を観察した。結果を表1に示し、試験片の破損形態を図5ないし図7に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
1.F10T M20のボルト、有効断面積245mm2 でボルト破断(250KN)を実現する添板厚さは添板硬度があがると薄くて済む。具体的には
SS400で必要な厚さは17mm(113%)、F10Tで必要な厚さは15mm(100%)、HT590で必要な厚さは13mm(80%)、EVERHARDC400LEで必要な厚さは11mm(73%)、である。
【0026】
添板の厚さと到達荷重の関係を調べた。添板の厚さを横軸(mm)、縦軸に到達荷重(KN)を調べた結果を図8に示す。
【0027】
2.添板のねじ抜けはSS400では添板のねじの剪断である。
3.添板のねじ抜けはEHではボルトのねじの剪断で発生する。
4.ボルトのねじ山剪断発生時は剪断応力比は小さくなる。
【0028】
次に、摩擦接合構造を実現するため、ねじ付き添板の材質と必要な厚さを検討した。
ボルトとナットの材質
摩擦接合用ボルトは構造用ボロン鋼を1000MPa以上に焼き入れ焼き戻しし、摩擦接合用ナットは機械構造用炭素鋼をHRC25程度に焼き入れ焼き戻しして使用される。
【0029】
ボルトの軸力を受け止めるボルトナットからなる締結構造は以下の経過でその機能を失う。
1.荷重を受けるナットの2面幅の座面側が広がり、ボルトとナットのねじ山の引っ掛かり高さが小さくなる。
2.ボルト又はナットのねじ山の引っ掛かり高さの位置の硬さにより決まる剪断強度がボルト又はナットが持つ剪断強度に達するとボルト又はナットのねじ山が剪断する。
【0030】
添板にねじを切る本発明では上記ナットの2面幅に比較して大きな面積でねじフランク面にかかる拡径荷重を受けるため、ねじ有効径の広がりによる引っ掛かり高さの低下が押さえられる。
この効果を確認するための実験結果を示す。
〔実験1〕
厚さ15.6mm幅75mm奥行き75mm 硬さHRB74の一般構造用圧延鋼材SS400にM20ねじを切り添板を作成し、M20 の1000Mpa級のボルトを添板に嵌合させ引張試験により破断形態を確認した。
荷重 235KNで添板のねじが剪断した。 この剪断荷重はF10T M20ボルトの標準ボルト張力182KNの129%にあたる。
〔実験2〕
厚さ11.9mm幅75mm奥行き75mm 硬さHRB90の特殊圧延鋼材HT590にM20ねじを切り添板を作成し、M20 の1000Mpa級のボルトを添板に嵌合させ引張試験により破断形態を確認した。
荷重 230KNで添板のねじとボルトのねじ同時に剪断した。 この剪断荷重はF10T M20ボルトの標準ボルト張力182KNの126%にあたる。
〔実験3〕
厚さ11.8mm幅75mm奥行き75mm 硬さHRC38の特殊圧延鋼材EH400lにM20ねじを切り添板を作成し、M20 の1000Mpa級のボルトを添板に嵌合させ引張試験により破断形態を確認した。
荷重 258KNで添板のねじに異常はなくとボルトのねじが剪断した。この剪断荷重はF10T M20ボルトの標準ボルト張力182KNの141%にあたる。
【0031】
以上のように、ナット分の質量の削減を実現し、従来の焼き入れ焼き戻しした機械構造用炭素鋼をナットに使う摩擦接合構造と同等の性能を圧延のままの一般構造用圧延鋼材を使用して実現することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 被接合部材
11 添板
11A 左ねじの雌ねじ
20 ボルト
21 左ねじの雄ねじ
22 ナット
23 右ねじの雄ねじ
24 ピンテイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8