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特開2023-113435寿命予測方法、寿命予測装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113435
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】寿命予測方法、寿命予測装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/76 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
B29C45/76
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015809
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】小末 将吾
(72)【発明者】
【氏名】落岩 崇
(72)【発明者】
【氏名】日原 啓太
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AM14
4F206AM22
4F206AM23
4F206AP09
4F206AP10
4F206AP15
4F206AP20
4F206JA07
4F206JL02
4F206JL09
4F206JP13
4F206JP14
4F206JT33
4F206JT38
(57)【要約】
【課題】産業機械を構成する部品の寿命を的確に予測することができる寿命予測方法を提供する。
【解決手段】産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、取得した物理量データに基づいて、部品が正常であるか否かを判定し、正常で無いと判定した場合、部品の寿命予測を開始する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、
取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否か判定し、
正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する
寿命予測方法。
【請求項2】
取得した前記物理量データ及び該物理量データの取得時を示す時間データを対応付けて記憶し、
取得した前記物理量データ及び前記時間データに基づいて、前記部品の寿命と相関のある指標値の経時変化を推定するための関数を算出し、
算出された関数を用いて前記部品の寿命を予測する
請求項1に記載の寿命予測方法。
【請求項3】
前記寿命予測の開始後も前記部品が正常であるか否かを判定し、
正常であると判定した場合、前記部品の前記寿命予測を中止する
請求項1又は請求項2に記載の寿命予測方法。
【請求項4】
前記寿命予測が開始された場合、寿命予測結果の出力を開始し、
正常であると判定した場合、寿命予測結果の出力を中止する
請求項3に記載の寿命予測方法。
【請求項5】
前記寿命予測を中止した後、再度、正常で無いと判定した場合、再度正常で無いと判定された時点から改めて前記部品の寿命予測を開始する
請求項3又は請求項4に記載の寿命予測方法。
【請求項6】
前記産業機械はボールねじを有する成形機であり、
前記ボールねじの寿命を予測する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の寿命予測方法。
【請求項7】
前記物理量データは、前記ボールねじの振動加速度、前記ボールねじを駆動するモータの電流又は駆動音を示すデータである
請求項6に記載の寿命予測方法。
【請求項8】
産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得する取得部と、
演算部と
を備え、
前記演算部は、
取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否かを判定し、
正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する
寿命予測装置。
【請求項9】
産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、
取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否かを判定し、
正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する
処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寿命予測方法、寿命予測装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、成形材料を溶融して射出する射出装置及び型締装置を備える。射出装置は、先端部にノズルを有する加熱シリンダと、当該加熱シリンダ内に周方向と軸方向とに回転可能に配されたスクリュとを備える。スクリュは駆動機構によって回転方向と軸方向とに駆動する。スクリュ駆動機構は、射出用サーボモータの回転駆動力をスクリュの軸方向への駆動力に変換して伝達するボールねじを備える(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-166702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、射出成形機の使用条件と使用時間などからボールねじの点検目安の時期を表示することが行われている。またボールねじの振動加速度と故障判定閾値とを比較することによる故障判定が行われている。
【0005】
しかしながら、同じように点検目安時期に到達してもボールねじの損傷具合は射出成形機毎に差がある。また単純な閾値判定ではボールねじの寿命を予測することができない。このような問題は、射出成形機に限らずボールねじを備える産業機械の全般で同様に起こり得る。
【0006】
本開示の目的は、産業機械を構成する部品の寿命を的確に予測することができる寿命予測方法、寿命予測装置及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る寿命予測方法は、産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否か判定し、正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する。
【0008】
本開示の一態様に係る寿命予測装置は、産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得する取得部と、演算部とを備え、前記演算部は、取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否かを判定し、正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する。
【0009】
本開示の一態様に係るコンピュータプログラム(プログラム製品)は、産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、取得した前記物理量データに基づいて、前記部品が正常であるか否かを判定し、正常で無いと判定した場合、前記部品の寿命予測を開始する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、産業機械を構成する部品の寿命を的確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1に係る射出成形機の構成例を示す模式図である。
図2】実施形態1に係る射出成形機の駆動装置の構成例を示す断面図である。
図3】実施形態1に係るプロセッサの処理手順を示すフローチャートである。
図4】ボールねじの状態を示す振動加速度信号を示す説明図である。
図5A】ボールねじの状態を示すFFT信号強度及び正常状態判定方法を示す説明図である。
図5B】ボールねじの状態を示すFFT信号強度及び正常状態判定方法を示す説明図である。
図6】ボールねじの劣化モデル及び寿命予測方法を示す説明図である。
図7】実施形態2に係る制御装置の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る射出成形機(寿命予測装置)、寿命予測方法及びコンピュータプログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0013】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る射出成形機1の構成例を示す模式図である。本実施形態1に係る射出成形機1は、金型21を型締めする型締装置2と、成形材料を可塑化して射出する射出装置3と、制御装置4とを備える。制御装置4は、本実施形態1に係る寿命予測装置として機能する。
【0014】
型締装置2はベッド20上に固定された固定盤22と、ベッド20上をスライド可能に設けられた型締ハウジング23と、ベッド20上を同様にスライドする可動盤24とを備える。固定盤22と型締ハウジング23は複数本、例えば4本のタイバー25、25、…によって連結されている。可動盤24は、固定盤22と型締ハウジング23の間でスライド自在に構成されている。型締ハウジング23と可動盤24の間には型締機構26が設けられている。
【0015】
型締機構26は、例えばトグル機構から構成されている。なお、型締機構26は、直圧式の型締機構、つまり型締シリンダによって構成してもよい。固定盤22と可動盤24にはそれぞれ固定金型21aと、可動金型21bが設けられ、型締機構26を駆動すると金型21が型開閉されるようになっている。
【0016】
射出装置3は、基台30上に設けられている。射出装置3は、先端部にノズル31aを有する加熱シリンダ31と、当該加熱シリンダ31内に周方向と軸方向とに回転可能に配されたスクリュ32とを備える。加熱シリンダ31の内部又は外周には、成形材料を溶融させるためのヒータが設けられている。スクリュ32は、ボールねじ51(図2参照)を有する駆動装置5によって回転方向と軸方向とに駆動する。
【0017】
加熱シリンダ31の後端部近傍には、成形材料が投入されるホッパ33が設けられている。また、射出成形機1は、射出装置3を前後方向(図1中左右方向)に移動させるノズルタッチ装置34を備える。ノズルタッチ装置34を駆動すると、射出装置3が前進して加熱シリンダ31のノズル31aが固定盤22の密着部にタッチするように構成されている。
【0018】
制御装置4は、型締装置2及び射出装置3の動作を制御するコンピュータであり、ハードウェア構成としてプロセッサ(演算部)41、記憶部42、操作部43、取得部44及び表示部45等を備える。なお、制御装置4は、ネットワークに接続されたサーバ装置であっても良い。また、制御装置4は、複数台のコンピュータで構成し分散処理する構成でもよいし、1台のサーバ内に設けられた複数の仮想マシンによって実現されていてもよいし、クラウドサーバを用いて実現されていてもよい。
【0019】
プロセッサ41は、CPU(Central Processing Unit)、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)、TPU(Tensor Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、NPU(Neural Processing Unit)等の演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の内部記憶装置、I/O端子、計時部等を有する。プロセッサ41は、後述の記憶部42が記憶するコンピュータプログラム(プログラム製品)42aを実行することにより、本実施形態1に係る寿命予測方法を実施する。なお、制御装置4の各機能部は、ソフトウェア的に実現しても良いし、一部又は全部をハードウェア的に実現しても良い。
【0020】
記憶部42は、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。記憶部42は、ボールねじ51の寿命予測処理をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム42aを記憶している。
【0021】
本実施形態1に係るコンピュータプログラム42aは、記録媒体6にコンピュータ読み取り可能に記録されている態様でも良い。記憶部42は、読出装置によって記録媒体6から読み出されたコンピュータプログラム42aを記憶する。記録媒体6はフラッシュメモリ等の半導体メモリである。また、記録媒体6はCD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM、BD(Blu-ray(登録商標)Disc)等の光ディスクでも良い。更に、記録媒体6は、フレキシブルディスク、ハードディスク等の磁気ディスク、磁気光ディスク等であっても良い。
【0022】
更にまた、通信網に接続されている外部サーバから本実施形態1に係るコンピュータプログラム42aをダウンロードし、記憶部42に記憶させても良い。
【0023】
操作部43は、タッチパネル、ソフトキー、ハードキー、キーボード、マウス等の入力装置である。
【0024】
取得部44は、後述のエンコーダ50dから出力される回転角信号、振動加速度センサ5aから出力される振動加速度信号をAD変換し、回転角データ及び振動加速度データを取得する。
【0025】
表示部45は、液晶パネル、有機ELディスプレイ、電子ペーパ、プラズマディスプレイ等である。表示部45は、プロセッサ41から与えられた画像データに応じた各種情報を表示する。
【0026】
射出成形機1には、射出開始時点、金型内樹脂温度、ノズル温度、シリンダ温度、ホッパ温度、型締力、射出速度、射出加速度、射出ピーク圧力、射出ストローク等の成形条件を定める設定値が設定される。
【0027】
また射出成形機1には、シリンダ先端樹脂圧、逆防リング着座状態、保圧切替圧力、保圧切替速度、保圧切替位置、保圧完了位置、クッション位置、計量背圧、計量トルク等の成形条件を定める設定値が設定される。
【0028】
更に射出成形機1には、計量完了位置、スクリュ後退速度、サイクル時間、型閉時間、射出時間、保圧時間、計量時間、型開時間等の成形条件を定める設定値が設定される。そして、これらの設定値が設定された射出成形機1は、当該設定値に従って動作する。
【0029】
図2は、実施形態1に係る射出成形機1の駆動装置5の構成例を示す断面図である。駆動装置5は、スクリュ32を軸方向に駆動するための射出用サーボモータ50及びボールねじ51を備える。射出用サーボモータ50には、回転角を検出し、回転角を示す回転角信号を制御装置4へ出力するエンコーダ50dが設けられている。制御装置4はエンコーダ50dから出力される回転角信号に基づいて、射出用サーボモータ50の回転を制御する。射出用サーボモータ50の出力軸には、小プーリ50aが設けられている。
【0030】
ボールねじ51は、ボールねじ軸51aと、ボールねじ軸51aに螺合したナット51bとを備える。ボールねじ軸51aの基端部は、孔部及び軸受け座を有する第1プレート52にベアリング52aを介して回転可能に支持されている。ボールねじ軸51aの基端部には大プーリ50cが設けられている。小プーリ50aと、大プーリ50cは、はタイミングベルト50bにより連結されており、小プーリ50aの回転力が大プーリ50cに減速伝達され、ボールねじ軸51aが回転する。
【0031】
以下、ボールねじ軸51aの基端部側の方向を(図1及び図2中、右側)を後退方向、その反対側の方向(図1及び図2中、左方向)を前進方向と呼ぶ。また、前進方向及び後退方向を合わせて進退方向と呼ぶ。射出用サーボモータ50が駆動して大プーリ50c及びボールねじ軸51aが回転すると、その回転方向に応じてナット51bは前進方向及び後退方向へ移動する。
【0032】
ナット51bの前進方向側の面には、ロードセル53が設けられ、ロードセル53の前進方向側の面は第2プレート54に固定されている。第2プレート54には複数の貫通孔が形成されており、貫通孔にはガイド軸55が挿通している。第2プレート54は、ガイド軸55によって案内され進退方向へ移動する。第1プレート52の前進方向側には、第3プレート56が設けられており、ガイド軸55の一端部及び他端部はそれぞれ第1プレート52及び第3プレート56に支持されている。ボールねじ軸51aが回転すると、ナット51b、ロードセル53及び第2プレート54は、ガイド軸55に沿って進退方向へ一体的に移動する。
【0033】
第2プレート54には孔部及び軸受け座が設けられており、孔部にベアリング54aを介して出力軸58が支持されている。出力軸58には可塑化用プーリ57が設けられている。可塑化用プーリ57は不図示のタイミングベルトを介して、不図示のスクリュ回転用モータに取り付けられたプーリに連結されている。出力軸58の回転中心はボールねじ軸51aの回転中心と一致している。出力軸58は、ナット51bが進退移動した際に、ボールねじ軸51aの先端部が侵入する凹部が形成されている。
【0034】
また、出力軸58には中心軸が一致するようにスクリュ32の一端が固定されている。第3プレート56には、スクリュ32が挿通する貫通孔が形成されている。第3プレート56の貫通孔を挿通したスクリュ32が加熱シリンダ31内を軸方向に移動できるように、加熱シリンダ31の一端部が第3プレート56に固定されている。
【0035】
また、ボールねじ51のナット51bには、ナット51bの振動を検出する振動加速度センサ5aが取り付けられている。振動加速度センサ5aは、検出した振動加速度信号を制御装置4へ出力する。制御装置4のプロセッサ41は振動加速度センサ5aから出力された振動加速度信号を取得部44にて振動加速度データにAD変換して取得する。制御装置4は、振動加速度データに基づいてボールねじ51の寿命を予測することができる。
【0036】
成形工程サイクルの概要は以下の通りであり、制御装置4は、繰り返される成形工程サイクルにおいて、ボールねじ51の寿命予測処理を行う。射出成形に際しては、周知の型閉工程、型締工程、射出ユニット前進工程、射出工程、計量工程、射出ユニット後退工程、型開工程及びエジェクト工程が順次に行われる。
【0037】
<寿命予測方法>
上記のように構成された射出成形機1に設けられたボールねじ51の寿命予測方法について説明する。ボールねじ51は、ボールねじ軸51a及びナット51bの間に異物が噛み込み、ねじ表面に微小な傷がつき、傷が付いた箇所をボールが通過することで、当該箇所からねじ表面が剥離する。さらに剥離した異物をボールが踏むことで新たな傷ができ、加速度的に磨耗が進む。
【0038】
従って、ボールねじ51の寿命に影響する最初の傷ができるまでは、ボールねじ51の振動を監視することによる寿命の予測が非常に困難である。またボールねじ51の寿命に影響する事象の発生を考慮せずに、ボールねじ51の蓄積された振動加速度データを用いて寿命予測を行った場合、寿命予測精度が低下する。
【0039】
射出成形機1においては、ガラス繊維又は金属粉末を含んだ樹脂を使うことがあり、ガラス繊維又は金属粉末がボールねじ51に噛み込み、傷付きの原因となりやすい環境にある。つまり、射出成形機1のボールねじ51は、その寿命予測が困難な環境にある。
【0040】
本開示の制御装置(寿命予測装置)4は、正常状態判定アルゴリズムと、寿命予測アルゴリズムとを用いた2段階判定アルゴリズムによって、ボールねじ51の寿命予測を行うものである。
【0041】
正常状態判定アルゴリズムは、ボールねじ51が正常か否かを判定するアルゴリズムである。つまり、正常状態判定アルゴリズムは、ボールねじ51の摩耗が加速度的に進行する原因となる事象の発生を検知するものである。当該事象の発生が原因となり、ボールねじ51の劣化が開始する。本実施形態1では、特定の周波数帯域における振動加速度データの周波数成分の大きさと、閾値とを比較することによって、ボールねじ51が正常であるか否かを判定する例を説明する。詳細は後述する。
【0042】
寿命予測アルゴリズムは、上記事象が生じたボールねじ51の振動を示す振動加速度データに基づいて、ボールねじ51の寿命予測を行うアルゴリズムである。本実施形態1では、ボールねじ51の寿命と相関がある状態インジケータ(指標値)の劣化モデルを用いたRUL(remaining useful life)推定により寿命を予測する例を説明する。詳細は後述する。
【0043】
2段階判定アルゴリズムは、初期の段階において、正常状態判定アルゴリズムを用いて、ボールねじ51の劣化の開始(ナット51bの傷)を検知する。ボールねじ51の劣化が開始すると、ボールねじ51の摩耗及び劣化が加速度的に進行する。当該摩耗及び劣化が進行する過程においては、ボールねじ51の振動状態が変化していくため、寿命予測アルゴリズムを用いてボールねじ51の寿命をより的確に予測することができる。
【0044】
図3は、実施形態1に係るプロセッサ41の処理手順を示すフローチャートである。ステップS111~ステップS114は、正常状態判定アルゴリズムに相当する処理である。ステップS115~ステップS119は寿命予測アルゴリズムに相当する処理である。
【0045】
プロセッサ41は取得部44を介して、振動加速度センサ5aからボールねじ51の状態を示す振動加速度データを取得する(ステップS111)。
【0046】
図4は、ボールねじ51の状態を示す振動加速度信号を示す説明図である。図4に示すグラフの横軸は時間、縦軸は振動加速度センサ5aが出力する振動加速度信号を示している。プロセッサ41は、振動加速度信号を取得部44にて振動加速度データにAD変換して取得する。
【0047】
次いで、プロセッサ41は、取得した振動加速度データと、当該振動加速度データを取得した時間を示す時間データとを対応付けて記憶部42に記憶する(ステップS112)。時間データは、計時部から得られる。
【0048】
次いで、プロセッサ41は、記憶部42が記憶する振動加速度データ及び時間データを高速フーリエ変換する(ステップS113)。高速フーリエ変換により、振動加速度データの周波数成分が得られる。以下、周波数成分の大きさをFFT(Fast Fourier Transform)信号強度と呼ぶ。
【0049】
図5A及び図5Bは、ボールねじ51の状態を示すFFT信号強度及び正常状態判定方法を示す説明図である。図5A及び図5Bに示すグラフの横軸は周波数、縦軸はFFT信号強度を示している。図5Aは、正常なボールねじ51から得られるFFT信号強度を示している。図5Bは、正常で無いボールねじ51から得られるFFT信号強度を示している。つまり、図5Bは、ボールねじ51の摩耗が加速度的に進行する原因となる事象の発生したときに得られるFFT信号強度を示している。
【0050】
ナット51bに傷が付くと、図5A及び図5B中、矩形枠で示す特定の周波数帯域のFFT信号強度の値が全体的に大きくなる。図5A及び図5B中、破線は、ボールねじ51が正常か異常かを判別するための閾値を示している。特定の周波数帯域と、閾値は、正常なボールねじ51を用いて実験的に得ることができる。記憶部42は、特定の周波数帯域及び閾値を記憶している。
【0051】
ステップS113の処理を終えたプロセッサ41は、特定の周波数帯域のFFT信号強度と、閾値とを比較することにより、ボールねじ51が正常であるか否かを判定する(ステップS114)。例えば、プロセッサ41は特定の周波数帯域におけるFFT信号強度の平均値が閾値未満である場合、ボールねじ51が正常であると判定する。プロセッサ41は特定の周波数帯域におけるFFT信号強度の平均値が閾値以上である場合、ボールねじ51が正常で無いと判定する。
【0052】
ボールねじ51が正常であると判定した場合(ステップS114:YES)、プロセッサ41は処理をステップS111へ戻し、ボールねじ51が正常であるか否かを判定する正常状態判定処理を継続して行う。
【0053】
ボールねじ51が正常で無いと判定した場合(ステップS114:NO)、プロセッサ41は、ボールねじ51の寿命予測を行うために、振動加速度センサ5aから振動加速度データを取得する(ステップS115)。プロセッサ41は、取得した振動加速度データと、当該振動加速度データを取得した時間を示す時間データとを対応付けて記憶部42に記憶する(ステップS116)。
【0054】
次いで、プロセッサ41は、記憶部42に蓄積した振動加速度データに基づいて、ボールねじ51の寿命と相関のある状態インジケータ(指標)を算出する(ステップS117)。状態インジケータは、例えば振動加速度データのピーク値である。寿命予測に使用する振動加速度データは、ボールねじ51が正常で無いと判定された時点以後に蓄積された振動加速度データである。
【0055】
プロセッサ41は、記憶部42が記憶する振動加速度データに基づく状態インジケータ及び時間データに基づいて、ボールねじ51の寿命と相関のある状態インジケータの計時変化を推定するための劣化モデルを算出する(ステップS118)。劣化モデルは、使用時間と状態インジケータとの関係を示す関数である。劣化モデルは、最尤推定法によって求めることができる。
【0056】
劣化モデルに係る関数は、例えば下記式(1)で表される。
P=a×ebt+c…(1)
但し、
P:状態インジケータ
t:使用時間
a,b,c:係数
【0057】
プロセッサ41は、平均二乗誤差が最小となる係数a,b,cを算出することによって、劣化モデルを求める。劣化モデルの信頼区間も同様にして求めることができる。
【0058】
図6は、ボールねじ51の劣化モデル及び寿命予測方法を示す説明図である。図6に示すグラフの横軸は、ボールねじ51の使用時間を示し、縦軸はボールねじ51の状態インジケータを示す。不規則に漸増している線は状態インジケータの経時変化を示している。滑らかな曲線はボールねじ51の劣化モデルであり、破線は劣化モデルの信頼区間を示している。太線は、故障判定閾値である。故障判定閾値はボールねじ51が故障するときの状態インジケータの値である。
【0059】
劣化モデルを用いて状態インジケータが故障判定閾値を超えるときの使用時間を求めることによりボールねじ51の寿命を予測することができる。なお、故障判定閾値は、傷をつけたボールねじ51を用いて実験的に得ることができる。記憶部42は故障判定閾値を記憶している。
【0060】
次いで、プロセッサ41は、劣化モデルを用いてボールねじ51の寿命予測を行う(ステップS119)。例えば、プロセッサ41は、劣化モデルを用いて算出される状態インジケータが故障判定閾値に達する時点を、故障時期として推定することができる。プロセッサ41は、故障時期から現時点の使用時間を減算することによって、残存耐用時間を求めることができる。
【0061】
次いで、プロセッサ41は、寿命予測結果を出力する(ステップS120)。例えば、プロセッサ41は、故障時期又は残存耐用時期を表示部45に表示する。プロセッサ41は、図6に示すようなグラフを表示部45に表示してもよい。
【0062】
次いで、プロセッサ41は、ステップS113及びステップS114と同様、振動加速度データを高速フーリエ変換し(ステップS121)、ボールねじ51が正常であるか否かを判定する(ステップS122)。つまり、プロセッサ41は、寿命予測中も、ボールねじ51が正常であるか否かを判定する。
【0063】
ボールねじ51が正常で無いと判定した場合(ステップS122:NO)、プロセッサ41は、処理をステップS115へ戻し、寿命予測処理を継続する。
【0064】
ボールねじ51が正常であると判定した場合(ステップS122:YES)、プロセッサ41は、寿命予測処理を中止し(ステップS123)、寿命予測結果の出力を中止し(ステップS124)、処理をステップS111へ戻す。
【0065】
以上の通り、本実施形態1に係る射出成形機1によれば、射出成形機1のボールねじ51の寿命を的確に予測することができる。具体的には、正常状態判定アルゴリズムと、寿命予測アルゴリズムとを用いた2段階判定アルゴリズムによって、ボールねじ51の寿命を的確に予測することができる。
【0066】
ボールねじ51が正常な状態にある場合、つまりボールねじ51の正確な寿命予測が困難な場合、プロセッサ41は寿命予測を行わず、寿命予測結果を表示部45に表示しない。射出成形機1のオペレータは、ボールねじ51の劣化が進行するような状態に無いことを認識することができる。オペレータは、ボールねじ51が正常状態から外れるまでは安心して射出成形機1を使用することができる。
【0067】
ボールねじ51が正常な状態から外れると、プロセッサ41は、寿命予測アルゴリズムによるボールねじ51の寿命予測を開始し、寿命予測結果を表示部45に表示する。オペレータは、ボールねじ51の劣化が進行する状態にあることを認識することができる。オペレータは、表示部45に表示される寿命予測結果により、ボールねじ51の寿命を知ることができる。
【0068】
プロセッサ41は、ボールねじ51の摩耗が進行し、状態インジケータが変化し得る状態でボールねじ51の寿命予測を開始するため、より的確にボールねじ51の寿命を的確に予測することができる。つまり、ボールねじ51が正常な状態から寿命予測を開始する場合に比べて、プロセッサ41は、より精度良くボールねじ51の寿命を予測することができる。
【0069】
また、ステップS121~ステップS124の処理によれば、誤判定により寿命予測処理が開始された場合であっても、寿命予測を中止し、ボールねじ51の状態監視処理に戻すことができる。ボールねじ51が正常な状態であるにもかかわらず寿命予測処理が継続し、予測精度の低い、あるいは誤った寿命予測結果が出力されることを防ぐことができる。
【0070】
寿命予測処理中にボールねじ51が正常であると判定された場合、プロセッサ41は一旦、寿命予測処理及び寿命予測結果の出力処理を中止する。再び、ボールねじ51が正常で無いと判定された場合、プロセッサ41は改めて初めから寿命予測処理を開始するため、寿命予測の精度が低下することを防ぐことができる。ボールねじ51の状態を誤判定した場合であっても、ボールねじ51の寿命を的確に予測することができる。
【0071】
更に、ボールねじ51が交換された場合、プロセッサ41は、特別な処理を実行せずとも、ボールねじ51の状態監視状態に戻すことができる。
【0072】
なお、本実施形態1で説明した正常状態判定アルゴリズム一例であり、FFT信号強度のピーク値又は他の統計値を用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するように制御装置4を構成してもよい。
【0073】
また、プロセッサ41は、電流センサを用いて射出用サーボモータ50の駆動電流データを取得して、ボールねじ51が正常であるか否かを判定してもよい。プロセッサ41は、駆動電流データを高速フーリエ変換して得られるFFT信号強度の平均値、ピーク値、その他の統計値と閾値とを比較することによって、上記判定を行う。
【0074】
プロセッサ41は、トルクセンサを用いて射出用サーボモータ50のトルクデータを取得して、ボールねじ51が正常であるか否かを判定してもよい。プロセッサ41は、トルクデータを高速フーリエ変換して得られるFFT信号強度の平均値、ピーク値、その他の統計値と閾値とを比較することによって、上記判定を行う。
【0075】
プロセッサ41は、駆動制御量データを高速フーリエ変換して得られるFFT信号強度の平均値、ピーク値、その他の統計値と閾値とを比較することによって、ボールねじ51が正常であるか否かを判定してもよい。
【0076】
プロセッサ41は、マイクを用いて射出用サーボモータ50の駆動音データを取得して、ボールねじ51が正常であるか否かを判定してもよい。プロセッサ41は、駆動音データを高速フーリエ変換して得られるFFT信号強度の平均値、ピーク値、その他の統計値と閾値とを比較することによって、上記判定を行う。
【0077】
ボールねじ51の振動を示す振動加速度データが入力された場合、ボールねじ51が正常であるか否かを示すデータを出力するように学習させた状態判定学習モデルを用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定してもよい。
【0078】
射出用サーボモータ50の駆動電流データが入力された場合、ボールねじ51が正常であるか否かを示すデータを出力するように学習させた状態判定学習モデルを用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するように制御装置4を構成してもよい。
【0079】
射出用サーボモータ50のトルクデータが入力された場合、ボールねじ51が正常であるか否かを示すデータを出力するように学習させた状態判定学習モデルを用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するように制御装置4を構成してもよい。
【0080】
射出用サーボモータ50の駆動制御量データが入力された場合、ボールねじ51が正常であるか否かを示すデータを出力するように学習させた状態判定学習モデルを用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するように制御装置4を構成してもよい。
【0081】
ボールねじ51の駆動音データが入力された場合、ボールねじ51が正常であるか否かを示すデータを出力するように学習させた状態判定学習モデルを用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するように制御装置4を構成してもよい。
【0082】
上記した複数種類の正常状態判定アルゴリズムを用意し、選択的に正常状態判定アルゴリズムを用いてボールねじ51が正常であるか否かを判定するようにしてもよい。例えばプロセッサ41は、複数種類の正常状態判定アルゴリズムを用いて判定を行い、所定数の正常状態判定アルゴリズムによって正常で無いと判定された場合、ボールねじ51が異常であると判定するようにしてもよい。更にまた、上記した複数種類の正常状態判定アルゴリズムを用いて得られた判定結果を加重平均した値を用いて、ボールねじ51が正常であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0083】
実施形態で説明した寿命予測アルゴリズムは一例であり、射出用サーボモータ50の駆動電流データ、駆動制御量データ、トルクデータ、ボールねじ51から得られる駆動音データなどを用いて、劣化モデルを作成してもよい。プロセッサ41は、当該劣化モデルを用いてボールねじ51の寿命を予測する。
【0084】
振動加速度データのピーク値は、状態インジケータの一例であり、振動加速度データに基づく他の値を状態インジケータとして用いてもよい。振動加速度データのFFT信号強度の特定の周波数帯域における平均値、ピーク値、その他の統計量を状態インジケータとして用いてもよい。
【0085】
正常状態判定アルゴリズムと同様、複数種類の寿命予測アルゴリズムを組み合わせてボールねじ51の寿命を予測するように構成してもよい。
【0086】
更に、本実施形態1ではボールねじ51の寿命予測を行う例を説明したが、型締装置2、射出装置3を構成するその他の部品の寿命を予測するように構成してもよい。
【0087】
更に、射出成形機1以外の産業機械を構成する部品の状態を示す物理量データを取得し、当該部品の寿命を予測するように構成してもよい。なお産業機械には、押出機、その他、産業分野で利用される任意の機器が含まれる。
【0088】
(実施形態2)
実施形態2に係る射出成形機1は、機械学習によりボールねじ51の寿命を予測する点が実施形態1と異なる。寿命予測アルゴリズム以外の他の処理内容は実施形態1と同様である。射出成形機1のその他の構成は、実施形態1に係る射出成形機1と同様であるため、同様の箇所には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0089】
図7は、実施形態2に係る制御装置4の構成例を示す模式図である。実施形態2に係る制御装置4のプロセッサ41は、機能部として学習処理部41aを備える。また、記憶部42は、ボールねじ51の残存耐用時間を予測するための学習モデル42bを記憶する。なお、学習処理部41aはソフトウェアで実現してもよいし、ハードウェアで構成してもよい。また学習処理部41aの一部をハードウェアで構成してもよい。
【0090】
プロセッサ41は、記憶部42から学習モデル42b及びコンピュータプログラム42aを読み出して実行する。
【0091】
学習モデル42bは、振動加速度データに基づくFFT信号強度の分布が入力された場合に、残存耐用時間を出力するニューラルネットワークである。学習モデル42bは、入力層と、隠れ層と、出力層とを備える。入力層は、FFT信号強度分布が入力される複数のノードを有する。隠れ層は、複数のノードを有する中間層を複数備え、入力側の中間層のノードは入力層のノードと結合されている。出力層は、残存耐用時間を出力するノードを有する。出力層の各ノードは、出力側の中間層のノードと結合されている。
【0092】
FFT信号強度の分布は例えば画像データであり、学習モデル42bは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional neural network)で構成される。
【0093】
学習モデル42bは、振動加速度データに基づくFFT信号強度分布と、残存耐用時間とを含む訓練データを用いて機械学習させることにより生成することができる。例えば、プロセッサ41の学習処理部41aは、訓練データを用いた誤差逆伝播法、誤差勾配降下法等によって、学習モデル42bの重み係数を最適化することにより、学習モデル42bを機械学習させる。
【0094】
プロセッサ41は、現時点で検出したFFT信号強度分布を学習モデル42bに入力することによって、ボールねじ51の残存耐用時間を算出することができる。
【0095】
本実施形態2に係る射出成形機1によれば、実施形態1と同様、2段階判定アルゴリズムにより、ボールねじ51の寿命を予測することができる。
【0096】
なお、本実施形態2ではCNNの学習モデル42bを説明したが、CNN以外のニューラルネットワーク、SVM(Support Vector Machine)、ベイジアンネットワーク等のその他の公知の機械学習モデルを用いて故障時期及び残存耐用時間を予測するように構成してもよい。
【0097】
また、本実施形態2では、寿命予測を機械学習モデルを用いて行う例を説明したが、ボールねじ51の正常状態判定処理も機械学習モデルを用いて行ってもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 射出成形機
2 型締装置
3 射出装置
4 制御装置(寿命予測装置)
5 駆動装置
5a 振動加速度センサ
6 記録媒体
51 ボールねじ
41 プロセッサ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7