(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113492
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】非水電解液電池及び非水電解液電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/06 20060101AFI20230808BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20230808BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230808BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230808BHJP
H01M 6/16 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H01M4/06 L
H01M4/50
H01M4/40
H01M4/06 X
H01M4/62 Z
H01M6/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015905
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 海
(72)【発明者】
【氏名】本池 紘一
【テーマコード(参考)】
5H024
5H050
【Fターム(参考)】
5H024AA03
5H024AA12
5H024BB05
5H024DD15
5H024DD17
5H024EE03
5H024EE09
5H024FF11
5H024HH01
5H050AA08
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA06
5H050CA05
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA04
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050FA16
5H050GA03
5H050GA08
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】正極の活物質量の減少や正極の抵抗の上昇を抑えつつ、高密度であっても電解液の吸液性が高い極板(正極板)を有する非水電解液電池を提供する。
【解決手段】正極12aとリチウム金属を含む負極12bと非水電解液とを有する非水電解液電池10において、正極12aが、導電性を有する芯体と芯体の表面に設けられた合剤層とを含み、合剤層が二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブを含む2種類以上のカーボン材料と、結着剤と、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する芯体と前記芯体の表面に設けられた合剤層とを含み、前記合剤層が二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブを含む2種類以上のカーボン材料と、結着剤と、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂とを含む正極と、
リチウム金属を含む負極と、
非水電解液と、
を有する非水電解液電池。
【請求項2】
前記合剤層における前記繊維状樹脂の濃度は、1wt%以下である、請求項1に記載の非水電解液電池。
【請求項3】
前記2種類以上のカーボン材料は、ケッチェンブラックを含み、前記合剤層における前記ケッチェンブラックの濃度は、2wt%以下である、請求項1または2に記載の非水電解液電池。
【請求項4】
正極とリチウム金属を含む負極と非水電解液とを有する非水電解液電池の製造方法において、
二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブを含む2種類以上のカーボン材料と、結着剤と、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂と、を含む合剤を作製し、
前記合剤をシート状の合剤層に成形し、
導電性を有する芯体の表面に前記合剤層を配置して圧延することで前記正極を作製する、
非水電解液電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液電池及び非水電解液電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正極に二酸化マンガン(MnO2)、負極にリチウム(Li)金属、電解液に非水電解液を用いた非水電解液電池は、長時間の駆動が可能であることから、電子メーターや車載機器に搭載されてきた。
【0003】
近年、ますます電池の需要が高まっており、安定的に電源供給を行うためにより高容量な電池が要求されている。これまで、電池の高容量化には極板の高密度化、正極中の活物質量の増加、活物質の高容量化などの手法が取られている。
【0004】
なお、従来、電池のセパレータに、電解液との親和性(濡れ性)に優れたPVA(PolyVinyl Alcohol)系繊維を用いることが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正極活物質とリチウムとが極板全体で均一に電極反応を起こすためには、電解液が極板内部まで含浸されている必要がある。他方、極板を高密度化した場合、極板中の空隙が減少することにより電解液の吸液性が悪化してしまう。そこで、PEO(PolyEthylene Oxide)などの高分子材料を添加することにより吸液性は改善されるが、重量比で数wt%以上添加しなければ効果が期待できず、このように高分子材料の添加量を増やすと、活物質量を減らさなければならなくなってしまう。それに加えて、正極に高分子を添加すると正極の抵抗が増大してしまう問題もある。
【0007】
1つの側面では、本発明は、正極の活物質量の減少や正極の抵抗の上昇を抑えつつ、高密度であっても電解液の吸液性が高い極板(正極板)を有する非水電解液電池及びそのような非水電解液電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの実施態様では、導電性を有する芯体と前記芯体の表面に設けられた合剤層とを含み、前記合剤層が二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブを含む2種類以上のカーボン材料と、結着剤と、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂とを含む正極と、リチウム金属を含む負極と、非水電解液と、を有する非水電解液電池が提供される。
【0009】
また、1つの実施態様では、正極とリチウム金属を含む負極と非水電解液とを有する非水電解液電池の製造方法において、二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブを含む2種類以上のカーボン材料と、結着剤と、ポリビニルアルコール樹脂を主体とした繊維状樹脂と、を含む合剤を作製し、前記合剤をシート状の合剤層に成形し、導電性を有する芯体の表面に前記合剤層を配置して圧延することで前記正極を作製する、非水電解液電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、本発明は、正極の活物質量の減少や正極の抵抗の上昇を抑えつつ、高密度であっても電解液の吸液性が高い極板(正極板)を有する非水電解液電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態の非水電解液電池に含まれる要素を模式的に示した斜視図である。
【
図2】合剤層の各構成要素の材料例を示す図である。
【
図3】非水電解液電池の製造方法の一例の流れを示すフローチャートである。
【
図4】比較例1~3の極板の接触角測定の測定結果を示す図である。
【
図5】KBの濃度と極板密度との関係を示す図である。
【
図6】比較例1~3の極板のインピーダンス特性を表すナイキストプロットを示す図である。
【
図7】繊維状樹脂のSEM(Scanning Electron Microscope)画像の例を示す図である。
【
図8】実施例の極板の接触角測定の測定結果を示す図である。
【
図9】実施例と比較例1~3の極板のインピーダンス特性を表すナイキストプロットを示す図である。
【
図10】繊維状樹脂の濃度を変えた場合の極板密度及び接触角の測定結果を示す図である。
【
図11】実施例と比較例の合剤製法を用いて作製した極板の接触角測定の測定結果を示す図である。
【
図12】実施例と比較例の合剤製法を用いて作製された合剤の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態の非水電解液電池に含まれる要素を模式的に示した斜視図である。
図1では、非水電解液電池10の一例として、フィルム外装電池が示されている。
【0013】
図1の非水電解液電池10は、セパレータ12cを介して対向配置された正極12a及び負極12bを有する電極体12と、電極体12を収納するフィルム外装体を形成するためのラミネートフィルム11a,11bとを有する。また、非水電解液電池10は、正極12aに電気的に接続する正極タブ13aと負極12bに電気的に接続する負極タブ13bを有する。
【0014】
ラミネートフィルム11a,11bは、熱ラミネート加工されたものであり、たとえば、押し出しラミネート法で作製されている。ラミネートフィルム11a,11bは、たとえば、箔状のアルミニウムまたはステンレスなどにより形成された金属層を、樹脂層と熱融着層とで挟んで形成されている。
【0015】
なお、ラミネートフィルム11a,11bにおいて、正極タブ13aと負極タブ13bに接する一辺には、タブフィルム14a,14bが貼り付けられている。
このようなラミネートフィルム11a,11bは、周辺領域において互いの熱融着層が熱溶着されており、電極体12と非水電解液を封入するように、袋状のフィルム外装体を形成する。
【0016】
正極12aは、導電性を有する芯体とその芯体の表面に設けられた合剤層とを含む極板である。合剤層は、二酸化マンガンと、少なくとも1種は単層カーボンナノチューブ(SWCNT:Single-Walled Carbon Nano Tube)を含む2種類以上のカーボン材料と、結着材と、ポリビニルアルコール樹脂(以下PVA樹脂と表記する)を主体とした繊維状樹脂を含む。
【0017】
図2は、合剤層の各構成要素の材料例を示す図である。
活物質として、二酸化マンガンが用いられる。さらに活物質にはカーボン材料が含まれていてもよい。導電材として、たとえば、ケッチェンブラック(KB: Ketjen Black)、グラファイト(Gr)などを用いることができる。さらに、導電材として、SWCNTが用いられる。結着剤として、たとえば、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)を用いることができる。なお、結着剤として、SBR(Styrene-Butadiene Rubber)やPVdF(PolyVinylidene diFluoride)などを用いることもできる。
【0018】
GrやSWCNTは、極板の空隙中に滑り込み、極板密度を上げるための滑り材としても機能する。
また、添加剤として、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂が用いられる。繊維状樹脂は、非水電解液の吸液性を高める機能を有する。なお、活物質量の減少につながらないように、合剤層における繊維状樹脂の濃度(添加量)は、1wt%以下に抑えることが望ましい。
【0019】
合剤層は、上記以外の材料を含んでいてもよい。
合剤層は、たとえば、活物質、導電材による混合粉に純水を加え混合し、さらに結着剤を添加し混錬し、最後に繊維状樹脂を添加し、再び混錬することで得られた合剤を、シート状に成形することで作製される。合剤層は、芯体表面に設けられ、芯体とともに圧延され切り出されることで、正極12aが作製される。正極12aの具体的な製造方法については後述する。
【0020】
なお、芯体として、たとえば、ラス板、平織り金網、エキスパンドメタル、金属箔などを用いることができる。芯体の材質として、正極電位に対する耐食性があるものであることが望ましい。そのような材質として、SUS(Steel Use Stainless)316、SUS444などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
負極12bは、リチウム金属を含む極板であり、リチウム金属またはリチウム合金をシート状に成形したものである。リチウム合金として、たとえば、リチウム-アルミニウム(Al)合金、リチウム-マグネシウム(Mg)合金、リチウム-スズ(Sn)合金、リチウム-亜鉛合金、リチウム-アンチモン(Sb)合金、リチウム-ケイ素(Si)合金などを用いることができる。
【0022】
なお、負極12bの表面にリチウムと合金化する金属を配置して、合金化層が形成されるようにしてもよい。たとえば、負極12bの表面にアルミニウム箔を配置してリチウムと合金化されるようにしてもよい。また、負極12bの表面に配置する金属は、合金化する元素であれば特に限定されるものではなく、たとえば、マグネシウム・スズ・亜鉛・ケイ素などを用いることができる。また、負極12bの表面に配置するものは金属箔に限らず、板、粉末やそれを加工したものであってもよい。
【0023】
セパレータ12cには、たとえば、セルロース製品などが用いられる。
なお、電極体12は、位置ずれを防止するため、ラミネートフィルム11a,11bに熱溶着されていてもよい。
【0024】
正極12aに電気的に接続する正極タブ13aは、一部がフィルム外装体から突出する。負極12bに電気的に接続する負極タブ13bも、一部がフィルム外装体から突出する。正極タブ13aと負極タブ13bは、たとえば、ニッケル(Ni)などによる金属板である。
【0025】
非水電解液は、非水系溶媒に添加剤を加えたものである。非水系溶媒として、たとえば、PC(Propylene Carbonate)と、EC(Ethylene Carbonate)と、DC(1,2-Dimethoxyethane)を混合したものを用いることができる。添加剤として、たとえば、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)などの支持塩を用いることができる。
【0026】
図3は、非水電解液電池の製造方法の一例の流れを示すフローチャートである。
たとえば、まず以下のような極板(正極12a)の作製工程が行われる。
極板の作製工程では、活物質、導電材、結着剤、添加剤を含む合剤が作製される(ステップS1)。合剤は、スラリー工法ではなく合剤工法により作製される。
【0027】
ステップS1の工程は、たとえば、以下の(1)~(5)の工程を含む。
(1)
図2に示したような、二酸化マンガン及び粗粒状のKBが攪拌擂潰機により混合される。
【0028】
(2)粗粒状のKBを粉砕後、カーボン材料が投入され混合される。
(3)(2)により得られた混合紛にSWCNTが添加され、さらに純水が加えられ、混合される。
【0029】
(4)(3)により得られた混合物に対して、PTFEが添加され、混錬が行われる。
(5)(4)により得られた混合物に対して、最後に
図2に示した繊維状樹脂が添加され、混錬後、合剤が完成する。
【0030】
上記の合剤工法では、合剤がスラリー状態とはならない。
その後、合剤が、シート状の合剤層に成形され(ステップS2)、芯体の表面に合剤層が配置され、芯体とともに合剤層が圧延される(ステップS3)。その後、適宜、非水電解液電池10に応じた大きさに切り出されることで(ステップS4)、正極12aが作製される。
【0031】
なお、正極12aには正極タブ13aが、たとえば、超音波溶接法により溶接される。
次に、たとえば、超音波溶接法により負極タブ13bが溶接された負極4と、セパレータ12cが用意され(ステップS5)、正極12a、負極12b、セパレータ12cによる電極体12が作製される(ステップS6)。
【0032】
なお、電極体12は、正極12aをラミネートフィルム11aの熱融着層に熱溶着したものと、負極12bをラミネートフィルム11bの熱融着層に熱溶着したものとを、セパレータ12cを挟んで貼り合わせることで得られる。
【0033】
ラミネートフィルム11a,11bは、電極体12を挿入した状態で、熱溶着により、周囲の4辺のうち3辺が互いに貼り合わされる(ステップS7)。ステップS7の工程により、一辺が開口された袋状のフィルム外装体が作製される。
【0034】
そして、フィルム外装体の開口部から非水電解液が注入され(ステップS8)、減圧含浸後、真空封止される(残りの一辺が封止される)(ステップS9)。これにより、非水電解液電池10が完成する。
【0035】
本実施の形態の非水電解液電池10によれば、正極12aの合剤層が、SWCNTとPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂とを含むことで、後述の評価結果で示されるように、極板(正極12a)を高密度化させることができるとともに、非水電解液の吸液性を高められる。このため、高密度極板でありながら均一な電極反応が生じ、高容量化が可能な非水電解液電池10が得られる。
【0036】
なお後述のように、合剤層において、上記効果が得られるSWCNTと繊維状樹脂の濃度(添加量)は、かなり低くて済むので、正極12aの活物質量の減少や正極12aの抵抗の上昇を抑えることができる。
【0037】
また、上記の製造方法では、正極12aの合剤層は、スラリー工法ではなく合剤工法により作製されている。スラリー工法では、導電材の高分散が可能となるが、条件しだいでSWCNTの束が一本一本ほどけてしまうという問題が生じる。SWCNTの束がほどけてしまうと導電性の低下に加え、SWCNTが極板の空隙に滑り込む滑り効果の低減により高密度極板の作製が困難である。このため、合剤工法を用いることが望ましい。
【0038】
(評価結果)
まず、SWCNTの適用が極板特性及び放電性能におよぼす影響について評価を行った結果を示す。
【0039】
上記評価には、以下の3通りの材料の組合せで作製した極板を用いた。以下これらを比較例1~3の極板という。
比較例1の極板は、
図2に示した材料のうち繊維状樹脂と、SWCNTとを除いた各材料を用いて作製されたものである。比較例2の極板は、
図2に示した材料のうち繊維状樹脂と、KBと、Grとを除いた各材料を用いて作製されたものである。比較例3の極板は、
図2に示した材料のうち繊維状樹脂と、Grとを除いた各材料を用いて作製されたものである。
【0040】
なお、合剤層において滑り材としても機能するSWCNTの濃度は、比較例2の極板においては、0.05wt%、比較例3の極板においては、0.02wt%である。一方、比較例1の極板では、滑り材としての機能をもつGrの濃度は、1wt%としている。KBの濃度は、比較例1の極板の方が比較例3の極板よりも高い。
【0041】
比較例1~3の極板は、前述の
図3のステップS1~S4の工程により作製された。なお、比較例1~3の極板は、真空状態で、150℃で乾燥したものである。
極板密度を測定した結果、比較例1については、2.95~3.05g/cm
3、比較例2については、3.25~3.35g/cm
3、比較例3についても、3.25~3.35g/cm
3であった。
【0042】
次に、接触角測定により、比較例1~3の極板の吸液性を評価した結果を示す。
図4は、比較例1~3の極板の接触角測定の測定結果を示す図である。横軸は時間[秒]を表し、縦軸は接触角[°]を表している。
【0043】
接触角測定は、液滴の接線と極板表面とのなす角度(接触角)の時間変化を測定する方法であり、接触角が小さくなる速度が速いほど、吸液性が高いことを示す。なお、接触角測定に用いた液体は、非水電解液電池10に用いられる非水電解液である。
【0044】
図4に示されているように、比較例1の極板は最も吸液性が優れている。その次に吸液性が優れているのは、比較例3の極板であり、比較例1~3の中で最も吸液性が劣っていたのは、比較例2の極板である。
【0045】
以上のように、SWCNTを含まない比較例1の極板は、最も吸液性に優れるが、極板密度が低い。比較例1の極板は、極板密度を上げる滑り材としての機能を有するGrを含むが、1wt%の濃度としても、SWCNTをわずか0.05wt%、0.02wt%の濃度とした比較例2及び比較例3の極板よりも、極板密度が劣っている。
【0046】
他方、導電材をSWCNTのみとした比較例2の極板は高密度となるが、吸液性が顕著に悪化してしまう。この違いは、中空構造を有し保液性に優れるKBの有無に起因している。また、SWCNTを用いると、極板密度が向上する理由は、圧延時において極板の空隙中にSWCNTが滑り込み、滑り材として機能しているためであると考えられる。したがって、比較例2の極板は、比較例1の極板よりもさらに空隙が減少することにより、毛細管現象による非水電解液の吸液が阻害されるため、比較例1の極板よりも吸液性が悪化してしまう。
【0047】
導電材としてSWCNTとKBを用いた比較例3の極板は、比較例2の極板と比較して吸液性はやや改善されるが、比較例1の極板には及ばない。
一方、KBの濃度を高めると、極板密度が低下する。
【0048】
図5は、KBの濃度と極板密度との関係を示す図である。横軸は極板の合剤層におけるKBの濃度[wt%]を表し、縦軸は極板密度[g/cm
3]を表している。
図5に示すように、KBの濃度と極板密度はトレードオフの関係になっており、高密度極板を維持するためには、KBの濃度を2wt%より高くすることは得策ではなく、2wt%以下とすることが望ましい。
【0049】
比較例1~3の極板についての放電容量を評価した結果、放電容量は、比較例1の極板では、711mAh/cm3、比較例2の極板では、125mAh/cm3、比較例3の極板では、669mAh/cm3であった。
【0050】
このように、SWCNTを含まない比較例1の極板の放電容量は、比較例1~3の極板の中で最も大きくなるが、導電材をSWCNTのみとした比較例2の極板の放電容量は、比較例1~3の極板の中で最も小さくなる。導電材としてSWCNTとKBを用いた比較例3の極板は、比較例2の極板と比較して放電容量が改善される。
【0051】
図6は、比較例1~3の極板のインピーダンス特性を表すナイキストプロットを示す図である。横軸のZreはインピーダンスの実部の値を表し、縦軸のZimはインピーダンスの虚部の値を表している。
【0052】
比較例1~3の極板のナイキストプロットはほぼ重なり、比較例1~3の極板の合剤層の組成の差異は、ナイキストプロットには反映されていない。このため、比較例1~3の極板における上記放電容量の差異は、極板の抵抗の差異に起因するものではなく、極板の吸液性の差異に起因するものと考えられる。
【0053】
次に、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂の適用が極板特性及び放電性能におよぼす影響について評価を行った結果を示す。
上記評価には、前述の比較例1~3の極板に加え、
図2に示した材料のうちGrのみを除いた各材料を用いて作製された極板(以下実施例の極板という)を用いた。
【0054】
なお、実施例の極板において、合剤層のSWCNTの濃度は0.02wt%、合剤層の繊維状樹脂の濃度は0.2wt%である。また、繊維状樹脂として、水に不溶な繊維状樹脂であるビニロンを用いた。
【0055】
ビニロンはPVA樹脂をアセタール化して得られる合成繊維の総称である。ビニロンは、ホルマール化により耐水性が付与されており水に不溶なものである。また、ビニロンは、繊維強度が高く、耐薬品性、対候性に優れている。なお、ビニロンは、セパレータ用の柔軟剤として使用される材料でもある。使用したビニロンは、繊維径が7μm、繊維長が2~3mmのものである。
【0056】
図7は、繊維状樹脂のSEM画像の例を示す図である。
図7には、加速電圧が15kV、倍率が500倍の条件における繊維状樹脂(ビニロン)のSEM画像が示されている。
【0057】
実施例の極板は、前述の
図3のステップS1~S4の工程により作製された。なお、実施例の極板は、真空状態で、150℃で乾燥したものである。
実施例の極板について極板密度を測定した結果、比較例2や比較例3と同様に、3.25~3.35g/cm
3であった。なお、図示を省略しているが繊維状ではない液状のPVA樹脂を用いた場合、極板密度が3.15g/cm
3程度しか示さなかった。液状のPVA樹脂は繊維状ではなく、繊維状樹脂に比べて、圧延時において極板の空隙中に滑り込むような効果がないため、このような極板密度の低下が生じたと考えられる。
【0058】
次に、接触角測定により、実施例の極板の吸液性を評価した結果を示す。
図8は、実施例の極板の接触角測定の測定結果を示す図である。横軸は時間[秒]を表し、縦軸は接触角[°]を表している。なお、
図8には、前述の比較例1~3の極板についての接触角測定の結果と、添加剤として、繊維状樹脂の代わりに、PEOを2wt%添加した極板についての接触角測定の結果についても示されている。
【0059】
図8に示されているように、実施例の極板は、比較例1の極板には劣るものの、比較例2及び比較例3の極板よりも吸液性が改善していることが分かった。吸液性に優れるPVA樹脂が比較的長い繊維状になっていることにより、極板に繊維の網が張り巡らされ、非水電解液の吸液経路が形成され、このような効果が得られたものと考えられる。
【0060】
また、添加剤として、繊維状樹脂の代わりに、PEOを用いることも考えられるが、
図8に示されているように、実施例の極板と同様の吸液性を得るためにはPEOを2wt%程度添加することになる。
【0061】
図9は、実施例と比較例1~3の極板のインピーダンス特性を表すナイキストプロットを示す図である。横軸のZreはインピーダンスの実部の値を表し、縦軸のZimはインピーダンスの虚部の値を表している。なお、
図9には、前述の比較例1~3の極板についての接触角測定の結果と、添加剤として、繊維状樹脂の代わりに、PEOを2wt%添加した極板のインピーダンス特性を表すナイキストプロットについても示されている。
【0062】
図9から、実施例の極板では比較例1~3と比べて抵抗が大きくなっているが、実施例の極板と同様の吸液性を得るためにPEOを2wt%加えた極板では、さらに抵抗が大きくなっていることがわかる。このため、PEOを添加剤として用いることは望ましくない。
【0063】
実施例の極板についての放電容量を評価した結果、放電容量は、798mAh/cm3であり、比較例1~3の極板よりも大きな値が得られていることがわかった。比較例1の極板と比べても、12%の放電容量の改善が見られた。
【0064】
以上のことから、極板の合剤層がSWCNTとPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂とを含むことで、極板を高密度化させることができるとともに、非水電解液の吸液性を高められる。また、合剤層において、SWCNTの濃度が低くても(上記の例では0.02wt%)高密度化が可能であり、繊維状樹脂の濃度が低くても(上記の例では、0.2wt%)、高い吸液性が得られる。このため、極板の活物質量の減少や極板の抵抗の上昇を抑えることができる。
【0065】
上記のように、繊維状樹脂の濃度がわずか0.2wt%でも効果を発現することは活物質の割合を増加させるにあたり非常に重要なことである。吸液性に優れる高分子材料として、PEOなどがあげられるが、数wt%以上の濃度としなければ吸液性改善の効果が得られない。このようにPEOの濃度を高くする場合、合剤層における活物質量を増加させることが困難である。
【0066】
他方、繊維状ではない液状のPVA樹脂を用いた場合、上記のように極板密度が3.15g/cm3程度しか示さず高密度な極板を作製できない。
したがって、高密度な極板における吸液性改善のためには、上記実施例の極板のように、PVA樹脂を主体とした繊維状樹脂を用いることが望ましいといえる。
【0067】
ところで、繊維状樹脂の濃度は、0.2wt%に限らないが、上記のように、活物質量の減少を避けるために、1wt%以下であることが好ましい。
図10は、繊維状樹脂の濃度を変えた場合の極板密度及び接触角の測定結果を示す図である。なお、接触角は、極板表面に液滴を滴下してから15秒後のものである。液滴は、非水電解液電池10で用いられる非水電解液である。
【0068】
合剤層における繊維状樹脂の濃度が0.2wt%以上の場合に、添加剤として繊維状樹脂を用いない比較例3よりも吸液性が高くなる。ただし、合剤層における繊維状樹脂の濃度が0.5wt%以上となると吸液性はより改善するが、極板密度が低下する。このため、繊維状樹脂の濃度は、極板密度を3.3g/cm3の高密度に維持しつつ吸液性に改善が見られた0.2wt%であることがより望ましい。
【0069】
(極板作製工程についての評価)
前述のように、本実施の形態の非水電解液電池10の製造方法において、合剤の作製工程(
図3のステップS1)では、最後に繊維状樹脂が添加される。以下、この製法を実施例の合剤製法という。
【0070】
一方、以下のような合剤の製法を、比較例の合剤製法という。比較例の合剤製法は、以下の(1)~(5)の工程を含む。
(1)
図2に示したような、二酸化マンガン及び粗粒状のKBが攪拌擂潰機により混合される。
【0071】
(2)粗粒状のKBを粉砕後、カーボン材料が投入され混合される。
(3)(2)により得られた混合紛にPVA樹脂を主体とした繊維状樹脂が添加され、混合される。
【0072】
(4)(3)により得られた混合物に対して、SWCNTが添加され、さらに純水が加えられ、混合される。
(5)(4)により得られた混合物に対して、PTFEが添加され、混錬が行われ、合剤が完成する。
【0073】
つまり、比較例の合剤製法では、繊維状樹脂が最後に添加されていない。
図11は、実施例と比較例の合剤製法を用いて作製した極板の接触角測定の測定結果を示す図である。横軸は時間[秒]を表し、縦軸は接触角[°]を表している。
【0074】
図11に示すように比較例の合剤製法では、実施例の合剤製法に比べて、吸液性が劣っている。
図12は、実施例と比較例の合剤製法を用いて作製された合剤の状態を示す図である。
図12には、デジタルマイクロスコープを用いて観察された、合剤の状態が示されている。
【0075】
比較例の合剤製法を用いて作製された合剤では、繊維状樹脂の繊維がほとんど確認されなかった。これに対して、実施例の合剤製法を用いて作製された合剤では、比較的長い繊維(繊維20a、20b,20cなど)が見られ、繊維状樹脂は遷移状態を維持していることが確認された。この違いが、実施例と比較例の合剤製法を用いて作製された合剤を有する極板間の吸液性の違いの要因であるものと推察される。
【0076】
したがって、実施例の合剤製法のように、合剤の作製工程(
図3のステップS1)において、最後に繊維状樹脂を添加することが、吸液性向上のために望ましい。
以上、実施の形態に基づき、本発明の非水電解液電池及び非水電解液電池の製造方法の一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
【0077】
たとえば、上記では非水電解液電池の一例として
図1に示すようなフィルム外装電池を例に挙げて説明したが、これに限定されない。非水電解液電池は、円筒型電池などであってもよい。
【符号の説明】
【0078】
10 非水電解液電池
11a,11b ラミネートフィルム
12 電極体
12a 正極
12b 負極
12c セパレータ
13a 正極タブ
13b 負極タブ
14a,14b タブフィルム
20a~20c 繊維