(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113507
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】フォトニック結晶面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/11 20210101AFI20230808BHJP
【FI】
H01S5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015936
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 進
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓也
(72)【発明者】
【氏名】江本 渓
(72)【発明者】
【氏名】小泉 朋朗
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AB52
5F173AB90
5F173AC15
5F173AH22
5F173AR32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】CW動作において、高次モード発振及びサイドローブを抑制し、高電流注入時に至るまで基本モードを維持し、安定した横モード及び縦モードを有する、ビーム品質の高いフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供する。
【解決手段】層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層14Pが形成された第1の半導体層12と、第1の半導体層上に形成された活性層15と、活性層上に形成された第2の半導体層18と、第2の半導体層上に形成され、第2の半導体層を露出する開口部31Cを中央領域に有する高屈折率層31と、開口部に露出した第2の半導体層を覆い、かつ第2の半導体層に電気的に接続され、高屈折率層よりも屈折率の低い透明導電体層20Bと、透明導電体層及び高屈折率層上に設けられ、開口部及び第2の半導体層を経て入射した光を反射する光反射膜32と、を有する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子であって、
層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層が形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に形成され、前記第2の半導体層が露出する開口部を中央領域に有する高屈折率層と、
前記開口部に露出した前記第2の半導体層を覆い、かつ前記第2の半導体層に電気的に接続され、前記高屈折率層よりも屈折率の低い透明導電体層と、
前記透明導電体層及び前記高屈折率層上に設けられ、前記開口部及び前記第2の半導体層を経て入射した光を反射する光反射膜と、
を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記透明導電体層は前記開口部を充填し、
前記光反射膜は、前記開口部と同軸で、かつ前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記開口部と相似形状であって前記開口部よりも大なる面積を有する、請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項3】
前記高屈折率層は前記透明導電体層よりも大なる層厚を有し、
前記透明導電体層は、前記開口部内において前記光反射膜によって埋設されており、
前記光反射膜は、前記開口部と同軸で、かつ前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記開口部と相似形状であって前記開口部よりも大なる面積を有する、請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項4】
前記高屈折率層は前記第2の半導体層の表面側から前記第2の半導体層の内部に達する深さで形成され、
前記高屈折率層の前記開口部内に、前記第2の半導体層の表面側の一部が前記透明導電体層によって埋設され、
前記光反射膜は、前記開口部と同軸で、かつ前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき前記開口部と相似形状であって前記開口部よりも大なる面積を有する、請求項1に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記開口部は前記フォトニック結晶層に対して垂直方向から見たとき円形状を有する請求項1ないし4のいずれか一項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記高屈折率層は、絶縁性の透光性誘電体層であるZrO2層、TiO2層、Ta2O5層、Nb2O5層及びSiNx層のうち少なくとも1層を含む請求項1ないし5のいずれか一項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記高屈折率層は、GaN層、AlGaN層、InGaN層、AlInGaN層及びAlN層のうち少なくとも1の半導体層を含み、前記少なくとも1の半導体層は、絶縁性であるか又は前記第2の半導体層の反対導電型である、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のフォトニック結晶面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトニック結晶(PC:Photonic-Crystal)を用いた、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic-Crystal Surface-Emitting Laser)の開発が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、フォトニック結晶レーザの面内回折効果と閾値利得差について開示され、非特許文献2は、正方格子フォトニック結晶レーザの三次元結合波モデルについて開示されている。
【0004】
また、異なるサイズの複数の空孔を格子点に配置して構成された多重格子フォトニック結晶を有するフォトニック結晶面発光レーザが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、板状の母材内に、該母材とは屈折率が異なる複数の領域から成り該領域のうち少なくとも2個の厚さが互いに異なる異屈折率領域集合体を多数、周期的に配置した2次元フォトニック結晶を有する2次元フォトニック結晶面発光レーザ光源が記載されている。
【0006】
また、非特許文献3には、フォトニック結晶の空孔サイズや格子定数を変化させることで、ビーム品質劣化を招く多モード発振を抑制することについて開示されている。
【0007】
しかし、フォトニック結晶は非常に小さな空孔を有するため、空孔のサイズや格子定数を精度よく製造することは困難である。
【0008】
このような2次元フォトニック結晶面発光レーザ素子においては、高次モード発振を抑制し、基本モードを維持しつつ高電流注入時においても安定した、ビーム品質の高いレーザ素子を実現することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】田中他、2016年秋季応用物理学会予稿集15p-B4-20
【非特許文献2】Y. Liang et al.:Phys. Rev.B Vol.84(2011)195119
【非特許文献3】M. Yoshida et al., Proceedings of the IEEE (2019). “Experimental Investigation of Lasing Modes in Double-Lattice Photonic-Crystal Resonators and Introduction of In-Plane Heterostructures.”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、フォトニック結晶面発光レーザ素子の連続発振動作又はCW動作(CW:Continuous Wave Operation)において、パルス動作とは異なるメカニズムにより、ビーム品質が低下するとの知見を得、当該知見に基づいてなされた。
【0012】
本発明は、CW動作において、高次モード発振及びサイドローブを抑制し、高電流注入時に至るまで基本モードを維持し、安定した横モード及び縦モードを有するビーム品質の高いフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1実施態様による面発光レーザ素子は、フォトニック結晶層を有するフォトニック結晶面発光レーザ素子であって、
層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有するフォトニック結晶層が形成された第1の半導体層と、
前記第1の半導体層上に形成された活性層と、
前記活性層上に形成された第2の半導体層と、
前記第2の半導体層上に形成され、前記第2の半導体層を露出する開口部を中央領域に有する高屈折率層と、
前記開口部に露出した前記第2の半導体層を覆い、かつ前記第2の半導体層に電気的に接続され、前記高屈折率層よりも屈折率の低い透明導電体層と、
前記透明導電体層及び前記高屈折率層上に設けられ、前記開口部及び前記第2の半導体層を経て入射した光を反射する光反射膜と、を有している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】実施例1のフォトニック結晶レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図1B】
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【
図2A】PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図である。
【
図2B】フォトニック結晶層14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図である。
【
図2C】PCSEL素子10の底面を模式的に示す平面図である。
【
図3】フォトニック結晶層14Pの面内で正方格子位置に配列された、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kを模式的に示す平面図である。
【
図4A】実施例1のPCSEL素子10に2Aの一定電流を印加したときの遠視野像(FFP)の計算結果を示す図である。
【
図4B】実施例1のPCSEL素子10に2Aの一定電流を印加したときの発振スペクトルの計算結果を示す図である。
【
図5A】比較例のPCSEL素子に2Aの一定電流を印加したときの遠視野像(FFP)の計算結果を示す図である。
【
図5B】比較例のPCSEL素子にAの一定電流を印加したときの発振スペクトルの計算結果を示す図である。
【
図6】実施例1(EMB1)及び比較例(CMP)の、電流非注入時及び電流注入時(CW)のフォトニックバンドを示す図である。
【
図7】実施例2(EMB2)のPCSEL素子40の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【
図8】実施例3(EMB3)のPCSEL素子50の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、本発明の好適な実施形態について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下の説明及び添付図面において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例0016】
[フォトニック結晶面発光レーザの構造]
フォトニック結晶面発光レーザ(以下、PCSELとも称する。)は、発光素子を構成する半導体発光構造層(n-ガイド層、発光層及びp-ガイド層からなる)に平行な共振器層を有し、当該共振器層に直交する方向にコヒーレントな光を放射する素子である。
【0017】
一方、半導体発光構造層を挟む一対の共振器ミラー(ブラッグ反射鏡)を有する分布ブラッグ反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR )レーザが知られているが、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)は、以下の点でDBRレーザとは異なっている。すなわち、フォトニック結晶面発光レーザ(PCSEL)では、フォトニック結晶層に平行な面内を伝搬する光波はフォトニック結晶の回折効果により回折され2次元的な共振モードを形成するとともに、当該平行面に垂直な方向にも回折される。すなわち、共振方向(フォトニック結晶層に平行な面内)に対して、光取り出し方向が垂直方向である。
【0018】
図1Aは、実施例1のフォトニック結晶レーザ素子(PCSEL素子)10の構造の一例を模式的に示す断面図である。PCSEL素子10は、複数の半導体層が基板上に積層されて構成されている。当該半導体層は、例えば、GaN系半導体などの六方晶系の窒化物半導体からなる。
【0019】
また、
図1Bは、
図1Aのフォトニック結晶層14P及びフォトニック結晶層14P中に配列された空孔(air hole)対14Kを模式的に示す拡大断面図である。
【0020】
図2Aは、PCSEL素子10の上面を模式的に示す平面図、
図2Bは、フォトニック結晶層(PC層)14Pのn-ガイド層14に平行な面(
図1B、A-A断面)における断面を模式的に示す断面図、
図2Cは、PCSEL素子10の底面を模式的に示す平面図である。
【0021】
図面を参照してPCSEL素子10の構造について以下に詳細に説明する。PCSEL素子10においては、基板11上に、第1の半導体層12、活性層15、第2の半導体層18が積層されて形成されている。
【0022】
第1の半導体層12は、n-クラッド層(第1のクラッド層)13及びn-ガイド層(第1のガイド層)14からなる。また、n-ガイド層(第1のガイド層)14は、下ガイド層14A、フォトニック結晶層(空孔層、またはPC層)14P及び埋込層14Bからなる。フォトニック結晶層14Pは層に平行な面内において2次元的な周期性を有して配された空孔を有している。
【0023】
活性層15は、GaNバリア層と、InxGayN(x+y=1)井戸層が交互に積層された多重量子井戸構造(MQW構造)を有している。
【0024】
第2の半導体層18は、活性層15上に設けられたpガイド層(第2のガイド層)16A、pガイド層16A上に設けられた電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)16B、及び電子障壁層16B上に設けられたpクラッド層(第2のクラッド層)16C、pクラッド層16C上に形成されたp-コンタクト層17から構成されている。pガイド層16A、電子障壁層16B及びpクラッド層16Cをp側半導体層16を構成している。
【0025】
p-コンタクト層17は、p電極とのオーミック接触性を向上させる半導体層であり、pクラッド層16Cよりもエネルギーバンドギャップが小さい半導体層及び/又は不純物濃度が高い半導体層で形成されている。
【0026】
すなわち、第1の半導体層12は第1導電型(例えばn型)の半導体層を含み、第2の半導体層18は、第1導電型とは反対導電型(例えばp型)の半導体層を含んでいる。
【0027】
本明細書においては第1導電型がn型、第1導電型の反対導電型である第2導電型がp型の場合について説明するが、第1導電型及び第2導電型がそれぞれp型、n型であってもよい。
【0028】
なお、本明細書において、「n-」、「p-」は「n側」、「p側」を意味するものであって、必ずしもn型、p型を有することを意味するものではない。例えば、n-ガイド層は活性層よりもn側に設けられたガイド層を意味し、アンドープ層(又はi層)であってもよい。
【0029】
また、n-クラッド層13は単一層ではなく複数の層から構成されていてもよく、その場合、全ての層がn層(nドープ層)である必要はなく、アンドープ層(又はi層)を含んでいてもよい。第2の半導体層18についても同様である。
【0030】
また、上記においては、フォトニック結晶レーザ素子10の具体的で詳細な半導体層の構成について説明したが、素子構造の一例を示したに過ぎない。要は、フォトニック結晶層14Pを有する第1の半導体層、第2の半導体層、及びこれらの層に挟まれた活性層(発光層)を有し、活性層への電流注入によって発光するように構成されていればよい。
【0031】
例えば、フォトニック結晶レーザ素子は、上記した全ての半導体層を有する必要はない。あるいは、フォトニック結晶レーザ素子は、素子特性を向上するための種々の半導体層(例えば、正孔障壁層、光閉込め層、電流閉込め層、トンネル接合層など)を有していてもよい。
【0032】
また、基板11の裏面には円環状のn電極(カソード)20A(第1の電極)が形成され、レーザ光出射面である基板11の裏面のn電極20Aの内側には反射防止膜22が設けられている。
【0033】
p-コンタクト層17の上面には、共振周波数調整膜(高屈折率層)31が設けられている。共振周波数調整膜31は、
図2Aに示すように、軸CXを中心軸とする円形(円柱状)の開口部31Cを有し、p-コンタクト層17の表面が開口部31Cから露出している。なお、開口部31Cは、上面視において、長円形状を有していてもよい。
【0034】
開口部31Cには、開口部31Cを埋め込む透明電極であるp電極20B(第2の電極)が形成されている。すなわち、p電極20Bは、開口部31Cから露出したp-コンタクト層17を覆い、かつp-コンタクト層17とオーミック接触によって接続されている。
【0035】
p電極20Bは、共振周波数調整膜(高屈折率層)31よりも屈折率の低い透明導電体層として形成されている。
【0036】
本実施例において、p電極20Bは、共振周波数調整膜31の端部上面を被覆するように形成され、中心軸CXに沿って上方から見た場合(上面視)において円形状を有している。
【0037】
p電極20B上には、光反射膜(以下、単に反射膜と称する。)32が設けられている。反射膜32は、上面視において、開口部31Cの中心軸CXと同軸で開口部31Cと相似形状で開口部31Cよりも大なる面積を有している。すなわち反射膜32は上面視において、開口部31Cを包含する大きさを有し、本実施例においては円形状を有している。
【0038】
なお、反射膜32は、透明導電体層であるp電極20B上、及び、共振周波数調整膜(高屈折率層)31の一部上に(すなわち、開口部31Cの周囲の一部上に)設けられていればよい。しかし、
図1Aに示すように、p電極20Bが共振周波数調整膜31の端部上面を被覆する被覆部を有する場合、反射膜32と共振周波数調整膜31との間にp電極20Bの当該被覆部を挟んで形成されていてもよい。
【0039】
また、反射膜32は、上面視において、少なくとも開口部31Cの全体を覆うように設けられているが、レーザ光の有効径(ビーム径)以上の大きさを有することが好ましい。例えば、反射膜32は中心軸CXと同軸の円形状を有し、ガウシアンビーム径(光強度がピ-クの1/e2となる径)以上の大きさを有することが好ましい。
【0040】
反射膜32上には、p電極20Bに電気的に接続されたパッド電極23が形成されている。パッド電極23は、p電極20B及び反射膜32を埋め込むように形成されている。なお、
図2Aにおいては、パッド電極23の図示は省略されている。
【0041】
積層された半導体層(すなわち、第1の半導体層12、活性層15及び第2の半導体層18)の側面、共振周波数調整膜31の側面及び上面の端部は、SiO2などの絶縁体による保護膜21で被覆されている。なお、図の明確さのため、保護膜21にはハッチングを施していない。
【0042】
フォトニック結晶層14Pから直接放出された光(直接放出光Ld)と、フォトニック結晶層14Pから放出され、p電極20B及び共振周波数調整膜31を透過して反射膜32によって反射された光(反射放出光Lr)とが基板11の裏面の光放出領域20Lから外部に放出される。
【0043】
図1Bに示すように、本実施例において、フォトニック結晶層14Pは二重格子構造を有している。すなわち、空孔対14K(主空孔14K1及び副空孔14K2)が、結晶成長面(半導体層成長面)、すなわちn-ガイド層14に平行な面(図中、A-A断面)において、周期PKを有する正方格子点位置に2次元配列されてn-ガイド層14内に埋め込まれて形成されている。なお、フォトニック結晶層14Pは二重格子構造に限らず、単一格子構造又は多重格子構造を有していてもよい。
【0044】
図2Bに示すように、フォトニック結晶層14Pにおいて空孔対14Kは、例えば円形の空孔形成領域14R内に周期的に配列されて設けられている。
図2Cに示すように、n電極(カソード)20Aは、フォトニック結晶層14Pに対して垂直方向から見たとき(すなわち上面視において)、空孔形成領域14Rに重ならないように空孔形成領域14Rの外側に環状の電極として設けられている。n電極20Aの内側の領域が光放出領域20Lである。
【0045】
また、
図2B及び
図2Cに示すように、環状のn電極20Aは共振周波数調整膜31の開口部31C及び空孔形成領域14Rと同軸であるように形成され、空孔形成領域14Rの直径DPは、n電極20Aの内径DEよりも小さい(DP<DE)。
[PCSEL素子10の各層の具体的構成]
以下に、PCSEL素子10の各層の詳細について説明する。後述する素子の特性シミュレーションは下記の詳細構成に基づいてなされた。しかしながら、PCSEL素子10の各層の組成、層厚等は特に指定しない限り、例示に過ぎず、適宜改変して適用可能である。
【0046】
(1)基板
基板11は、活性層15から放射された光に対して透過率が高い六方晶のGaN単結晶基板であり、成長用基板である。より詳細には、基板11は、主面が、Ga原子が最表面に配列した(0001)面である「+c」面のGaN単結晶である。
【0047】
なお、主面がオフセットしていないジャスト基板でも、あるいは、例えばm軸方向に1°程度までオフセットした基板でも良い。例えば、m軸方向に1°程度までオフセットした基板は、広範な成長条件下にて鏡面成長を得ることができる。
【0048】
主面と対向する光放出領域20Lが設けられた基板面(裏面)は、N原子が最表面に配列した(000-1)面である「-c」面である。-c面は酸化等に対して耐性があるので光取り出し面として適している。
【0049】
本実施例では、GaN基板11はn型GaN単結晶の基板であり、n電極とのコンタクト層の機能を有している。
【0050】
n-クラッド層13は、Al組成が4%のn型Al0.04Ga0.96N層(層厚:2μm)である。また、n-クラッド層13の室温でのキャリア濃度は1×1018 cm-3である。n-クラッド層はAl組成2%~10%、厚さは1~3μmとしてもよい。
【0051】
(2)n-ガイド層
n-ガイド層14の下ガイド層14Aは、n型GaNであり、層厚300nmを有している。下ガイド層14Aは、例えば20~500nmの層厚を有していてもよい。また、下ガイド層14Aの室温でのキャリア濃度は1×1018cm-3である。
【0052】
下ガイド層14A上のフォトニック結晶層14Pは、活性層15から放射された光を水平面内で共振させる規則的に配列された空孔(air hole)を備えている。
【0053】
フォトニック結晶層14Pは、アンドープのGaN層であり、層厚100nmを有している。フォトニック結晶層14Pは、例えば60~150nmの層厚を有していてもよい。なお、フォトニック結晶層14Pの空孔については図面を参照して詳細に後述する。
【0054】
フォトニック結晶層14P上の埋込層14Bは、アンドープのGaN層であり、層厚は100nmである。なお、埋込層14Bは、例えば、n-GaN若しくはn-InGaN、又はアンドープGaN若しくはアンドープInGaNからなる厚さ50~150nmの層であってもよい。
【0055】
(2.1)フォトニック結晶層
図3は、フォトニック結晶層14Pの面内で正方格子位置に配列された、主空孔14K1及び副空孔14K2からなる空孔対14Kを上面から見た場合を模式的に示す平面図である。すなわち、フォトニック結晶層14Pは、二重格子構造を有している。なお、図面の明確さのため、主空孔14K1及び副空孔14K2にハッチングを施して示している。
【0056】
より詳細には、主空孔14K1は、その重心CD1が互いに直交する2方向(x方向及びy方向)に周期PKで正方格子位置に配列されている。副空孔14K2も同様に、その重心CD2がx方向及びy方向に周期PKで正方格子位置に配列されている。具体的には、周期PK=179nmとした。本実施例の発振波長は、約441nmである。ここで、周期PKは活性層から発せられる利得波長に合わせて適宜調整してもよい。
【0057】
主空孔14K1は、上面視(すなわち、フォトニック結晶層14Pに垂直方向から見たとき)において、{10-10}面であるm面で囲まれた長六角形形状を有している。副空孔14K2も、m面で囲まれた形状を有している。
【0058】
なお、x方向及びy方向はそれぞれ、主空孔14K1の長軸方向(<11-20>方向)及び短軸方向(<1-100>方向)に対して45°傾斜した方向である。本明細書では、x-y座標を空孔座標とも称する。
【0059】
また、副空孔14K2の重心CD2は、主空孔14K1の重心CD1に対してx方向にΔx及びy方向にΔyだけ離間している。ここでは、Δx=Δyとした。すなわち、副空孔14K2の重心CD2は、主空孔14K1の重心CD1から<1-100>方向に離間している。具体的には、x方向の重心間距離Δx及びy方向の重心間距離Δyを82.8nmとした。ここで、x方向の重心間距離Δx及びy方向の重心間距離Δyは、例えば、レーザー素子を適用するデバイスに要求される電流値や、レーザーの出射強度のスロープ効率等の、レーザー特性に合わせて適宜調整してもよい。
【0060】
(3)活性層
活性層15は、厚さ6nmのGaNバリア層と、厚さ4.0nmのIn0.14Ga0.86N(x+y=1)井戸層が交互に積層された多重量子井戸構造(MQW構造)を有している。本実施例においては、井戸層が2層の量子井戸構造を用いた。
【0061】
活性層15は、空孔層(フォトニック結晶層14P)から180nm以内に配置し、空孔層による共振効果が十分に得られる距離とした。
【0062】
(4)第2の半導体層
第2の半導体層18のpガイド層16Aは、層厚が250nmのアンドープのInGaN層である。pガイド層16Aは、層厚が100~500nmであってもよく、アンドープのAlInGaN層であってもよい。
【0063】
また、pガイド層16Aは、ドーパントによる光吸収を考慮してアンドープ層としたが、良好な電気伝導性を得るために、例えばマグネシウム(Mg)をドープしても良い。
【0064】
pガイド層16A上に設けられた電子障壁層(EBL:Electron Blocking Layer)16Bは、層厚が15nmでAl組成が20%、マグネシウムドープされたp型Al0.20Ga0.80N層である。
【0065】
EBL16Bのアルミニウム(Al)組成は、キャリアである電子がpクラッド層16Cへ流れることを防ぐことができる障壁(エネルギー差)となる組成とした。ここでEBL16BはAl濃度が一定のAlGaN以外にも、Al濃度を変化させた多層構造としてもよい。
【0066】
pクラッド層16Cは、層厚が100nmで、マグネシウムドープされたp型Al0.06Ga0.94Nである。pクラッド層16Cは、Al組成2%~10%、100~350nmの層厚を有していてもよい。
【0067】
また、本実施例においては、pクラッド層16C上にpコンタクト層17が設けられている。pコンタクト層17は、層厚が25nmで、マグネシウムドープされたp型GaNであった。pコンタクト層17のキャリア濃度は、その表面に設けたアノード電極とオーミック接合できる濃度とした。
【0068】
さらに最表面に2nm以下の層厚のInGaN層や2nm以下の層厚のSiやOドープしたp型GaN層を設けてもよい。このような層を追加することで、p電極の接触抵抗を低減することができる。
【0069】
(5)共振周波数調整用膜(高屈折率層)
共振周波数調整膜(高屈折率層)31は、透明電極であるp電極20Bよりも高い屈折率を有し、活性層15の発振波長に対して透明で絶縁性の材料で形成されている。共振周波数調整膜31は、ZrO2をスパッタリング法により堆積して形成することができる。
【0070】
共振周波数調整膜31には、軸CXを中心軸とする円柱状(直径300μmφ)の開口部31Cが形成されている。当該開口部31Cは、ZrO2膜の化学エッチング又はドライエッチングなど、周知の方法で形成することができる。
【0071】
なお、共振周波数調整膜31の成膜方法はスパッタリング法に限らず、CVD法、電子線ビーム蒸着法、ALD法、イオンプレーティング法などを使用することができる。
【0072】
また、共振周波数調整膜31として、ZrO2、TiO2、Ta2O5、Nb2O5、SiNx等の絶縁性の透光性誘電体層を用いることができる。
【0073】
あるいは、GaN、AlGaN、InGaN、AlInGaN、AlN等の半導体層を用いることもできる。この場合、当該半導体層を下層の半導体層(n型)とは反対導電型(すなわち、p型)とするか、当該半導体層をイオン注入等により絶縁性とする。
【0074】
なお、p電極20B(ITO)の屈折率は約2.0であり、透光性誘電体層の屈折率を示すと、ZrO2(2.26)、TiO2(2.26)、Ta2O5(2.21)、Nb2O5(2.32)、SiNx(2.46)である(括弧内は、波長λ=440nmにおける屈折率)。
【0075】
また、半導体層は、組成によって変化するが、屈折率を例示すると、GaN(2.46)、Al0.1Ga0.9N(2.40)、In0.1Ga0.9N(2.60)、AlN(2.18)である(括弧内は、波長λ=440nmにおける屈折率)。
【0076】
以上のように、共振周波数調整膜31として、p電極20Bよりも高い屈折率を有するこれらの透光性誘電体層又は透光性半導体層を用いることができる。
【0077】
なお、上記した透光性誘電体層又は透光性半導体層を単層で用いてもよいが、これらの層を複数積層した層を共振周波数調整膜31として用いることができる。また、上記も層のうち少なくとも1層又は複数の層を含むようにしてもよい。
【0078】
また、上記した透光性誘電体層及び/又は透光性半導体層上にさらにSiO2等の透光性誘電体層を設けても良い。
【0079】
(6)p電極(アノード電極)
p電極20Bとして、透明導電体である酸化インジウムスズ(ITO)を用いた。ITOはスパッタリング法により形成することができる。また、p電極20Bは、135nmの厚さを有し、開口部31Cを充填するように形成されている。
【0080】
なお、成膜されたITOは結晶化させ、接触抵抗の低減、透明化を目的として、酸素を添加した窒素ガス雰囲気中でランプ加熱方式により加熱することが好ましい。
【0081】
p電極20Bには、ITOの他に、ZnO、GZO(Ga添加ZnO)等の透明導電体を用いることもできる。
【0082】
p電極20Bは、pコンタクト層17とオーミック接触している。厚さは50nm~300nmの範囲が好ましい。クラッド(光閉じ込め)として機能させるため50nm以上が好ましく、あまり厚いと応力が大きくなり、剥離しやすく、また吸収損失が増大するからである。
【0083】
(7)反射膜
p電極20B上の反射膜32は、膜厚が300μmのAg(銀)を用いた。反射膜32は、軸CXを中心とする直径350μmの円形状を有する。
【0084】
反射膜32の材料は、レーザ光に対して高い反射率を有するものが好ましく、例えば、Ag、Al、Rh、Pd、Ptなどの金属やこれらの材料をベースとした合金を用いることができる。また、例えば、SiO2/Ta2O5等を多層に積層した誘電体DBRを用いることもできる。さらに、誘電体DBRと高反射金属膜を組み合わせたものでもよい。
【0085】
(8)パッド電極
反射膜32上には、p電極20Bに電気的に接続されたパッド電極23が形成されている。パッド電極23は、それぞれ10nm、200nm、500nmの厚さを有するNi/Pd/Auからなり(Auが最表面)、p電極20B及び反射膜32を埋め込むように形成されている。
【0086】
パッド電極23は、上面視において700μm×700μmの矩形形状を有している。なお、PCSEL素子10の外形も約800μm×800μmの矩形柱形状である。
【0087】
(9)n電極(カソード電極)
n電極20Aは、Ti/Pt/Auからなり(Auが最表面)、成長用基板11とオーミック接触されている。電極材料は、Ti/Pt/Au以外にTi/Al、Ti/Rh、Ti/Al/Pt/Au、Ti/Au、V/Al/Au、V/Rh/Au、V/Al/Pt/Au、V/Pt/Auなどを選択することができる。最表面はAuのワイヤーボンディングのためにAuとすることが好ましい。
【0088】
(10)保護膜
保護膜21は、PCSELを構成するアルミ(Al)を含む結晶層を腐食性ガス等から保護する。また、付着物や実装時におけるはんだの這い上がりによる短絡等からも保護し、信頼性、歩留まりを向上させる。材料はSiO2に限らず、ZrO2、HfO2、TiO2、Al2O3、等を選択することができる。
【0089】
[PCSEL素子10の特性]
実施例1のPCSEL素子10の特性シミュレーションの結果を比較例のPCSEL素子と比較して以下に説明する。なお、当該比較例のPCSEL素子は、共振周波数調整膜31として用いる材料が異なる点を除いて実施例1のPCSEL素子10と同一の構造を有している。
【0090】
すなわち、実施例1においては、p電極20Bよりも高屈折率の材料を共振周波数調整膜31として用いているが、当該比較例においては、p電極20Bよりも屈折率の低い材料であるSiO2を用いている。
【0091】
このシミュレーションでは、電流注入領域においては発熱を考慮し、その発熱に応じた屈折率分布を設け、有効屈折率を設定している。電流注入領域外においては、共振周波数調整膜31で調整された有効屈折率を設定し、計算を行った。発熱は中心ピーク温度を約50℃と設定した。
【0092】
図4A及び
図4Bは、実施例1のPCSEL素子10に2A(アンペア)の一定電流を印加したときのそれぞれ遠視野像(FFP)及び発振スペクトルの計算結果を示している。また、
図5A及び
図5Bは、比較例のPCSEL素子に2A(アンペア)の一定電流を印加したときのそれぞれ遠視野像(FFP)及び発振スペクトルの計算結果を示している。
【0093】
また、
図6は、実施例1(EMB1)及び比較例(CMP)の、電流非注入時及び電流注入時(CW)のフォトニックバンドを示す図である。バンド端BE1及びBE2の間がフォトニックバンドギャップ(PBG)である。なお、領域I(中央領域)が開口部31C、すなわちp電極20Bとp-コンタクト層17との接触部、領域II(周囲領域)が共振周波数調整膜31の形成部に対応する。
【0094】
図4A及び
図5Aを参照し、実施例1及び比較例の電流2A時のビーム特性である遠視野像を比較する。実施例1においては広がり角の狭いきれいな遠視野像が観察された。一方、比較例においては、広がり角の狭いビームの周囲に十字状のサイドローブが現れた。
【0095】
これは、
図6に示すように、比較例(CMP)においては電流注入領域の発熱により、電流注入領域である領域Iではバンド端周波数が大きく低下した影響であると考えられる。
【0096】
一方で、電流注入時、電流注入領域である領域Iに対応する半導体層では、周囲領域である領域IIの半導体層よりもキャリア密度が増大し、屈折率が低下する。これにより、領域Iのバンド端周波数は高くなる現象が同時に生じる。しかし、CW動作の発熱による屈折率の上昇は、キャリア密度の増加による屈折率の低下よりもバンド端周波数に大きく影響する。その結果、領域Iはバンド端周波数が大きく低下したと発明者らは考察した。
【0097】
より詳細には、比較例の場合、ITOより屈折率の低いSiO2が周囲に成膜されているので、電流の非注入時から電流注入領域又は中央領域(領域I)のフォトニックバンドは低下した状態にある。
【0098】
そして電流注入時においては、これを助長するように、発熱によりフォトニックバンド周波数が低下し、周囲領域(領域II)とのフォトニックバンド周波数と大きく乖離する。このフォトニックバンドの位置関係だと、面内の光閉じ込めが大きく弱まり、狭い広がり角を発振させるモードの閾値利得が上昇し、十字状に発振するモードが現れたと考えられる。
【0099】
一方で実施例の場合は、適度なフォトニックバンド周波数の関係から、狭い広がり角のビームの閾値利得を悪化させず、シングルモードで発振できると考えられる。
【0100】
図4B及び
図5Bにそれぞれ示す実施例1及び比較例の発振スペクトルを参照すると、実施例1では縦シングルモードで発振するが、比較例は縦マルチモードで発振することがわかる。なお、比較例の440.85nm近傍のスペクトルが、十字状に伸びるビーム(
図5A)のスペクトルに対応している。
【0101】
したがって、CW動作において、高次モード発振及びサイドローブを抑制し、高電流注入時に至るまで基本モードを維持し、安定した横モード及び縦モードを有する、ビーム品質の高いフォトニック結晶面発光レーザ素子を提供することができる。
PCSEL素子40は、p電極20Bよりも厚い共振周波数調整膜31を有している点において実施例1のPCSEL素子10と異なっている。第1の半導体層12、活性層15及び第2の半導体層18からなる半導体発光構造層の層構成は実施例1のPCSEL素子10と同様である。
より詳細には、共振周波数調整膜31よりも小なる屈折率を有するp電極20Bは、共振周波数調整膜31よりも小なる厚さを有し、p-コンタクト層17上に形成されている。また、p電極20Bは、開口部31C内において反射膜32によって埋設されて形成されている。
換言すれば、本実施例においても、半導体発光構造層の上面の中央領域である開口部31C内に透明導電体層であるp電極20Bが設けられ、その周囲領域に透明導電体層よりも高い屈折率を有する共振周波数調整膜31が設けられている。
実施例2のPCSEL素子40によれば、共振周波数調整膜31の領域(領域II又は周囲領域)における半導体発光構造層に垂直方向の光路長が領域I(中央領域)よりも長くなり、調整範囲を大きくすることができる。したがって、CW動作時における横モード及び縦モードの安定性を高めることができる。