(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113528
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】コーティング用エマルジョン組成物、コーティング膜及び熱収縮性フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 133/02 20060101AFI20230808BHJP
C08F 220/06 20060101ALI20230808BHJP
C08F 265/02 20060101ALI20230808BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20230808BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20230808BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230808BHJP
B32B 7/028 20190101ALI20230808BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230808BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C09D133/02
C08F220/06
C08F265/02
C09D5/02
C09D7/63
C09D7/65
B32B7/028
B32B27/30 A
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015986
(22)【出願日】2022-02-03
(71)【出願人】
【識別番号】312016056
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】長岡 栞
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 匠
(72)【発明者】
【氏名】今井 沙織
(72)【発明者】
【氏名】大西 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】古屋敷 賢人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 杏夏
【テーマコード(参考)】
4F100
4J026
4J038
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK12A
4F100AK25A
4F100AK42B
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA19A
4F100DE01A
4F100EH46A
4F100EJ37B
4F100JA03B
4F100JA05A
4F100JK16
4F100JM01A
4F100YY00A
4J026AA43
4J026AA45
4J026AC09
4J026AC23
4J026BA05
4J026BA25
4J026BA27
4J026BB04
4J026BB07
4J026CA04
4J026DA04
4J026DA07
4J026DA14
4J026DB04
4J026DB08
4J026DB14
4J026DB24
4J026DB25
4J026DB32
4J026FA04
4J026FA07
4J026GA09
4J038CB032
4J038CG031
4J038HA306
4J038JB03
4J038KA02
4J038MA08
4J038MA09
4J038NA09
4J038NA20
4J038PB04
4J038PC08
4J100AB02R
4J100AJ02P
4J100AL03S
4J100AL04Q
4J100AL04T
4J100AL05Q
4J100BA16P
4J100BA20Q
4J100BA20S
4J100BA20T
4J100CA03
4J100CA29
4J100CA31
4J100DA09
4J100DA25
4J100EA06
4J100FA03
4J100FA04
4J100FA20
4J100FA28
4J100HA31
4J100HB43
4J100HC47
4J100HD19
4J100HE06
4J100HE12
4J100HG12
4J100HG20
4J100JA01
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】 本発明は、動摩擦係数が低く優れた耐磨耗性を有し且つ静電気の発生を低減する(帯電防止性)ことができるコーティング膜を形成することができるコーティング用エマルジョン組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のコーティング用エマルジョン組成物は、酸基を含むアクリル系重合体とアミン類との中和反応物を含むマトリックス樹脂、ワックス系滑剤、及び、水とを含むことを特徴とするので、基材フィルムなどの被塗工体に塗工した上で加熱、乾燥させることによって、優れた耐摩耗性及び帯電防止性を有するコーティング膜を容易に生成することができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を含むアクリル系重合体とアミン類との中和反応物を含むマトリックス樹脂、ワックス系滑剤、及び、水とを含むことを特徴とするコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項2】
酸基を含むアクリル系重合体は、酸基を含むエチレン性不飽和結合含有モノマー単位を含有していることを特徴とする請求項1に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項3】
中和反応物は、酸基を含むアクリル系重合体と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項4】
アミン類は、1.013×103hPa下における沸点が300℃以上のアミン類を含有していることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項5】
コーティング用エマルジョン組成物において、アミン類(酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類を含む)が有し且つ上記アクリル系重合体の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数と、アクリル系重合体における中和反応物を形成している酸基及び遊離状態の酸基の総モル数との比(アミノ官能基の総モル数/酸基の総モル数)0.5以上であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項6】
コーティング用エマルジョン組成物において、アミン類(酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類を含む)が有し且つ上記アクリル系重合体の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数と、コーティング用エマルジョン組成物に含まれているアンモニア(酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアンモニアを含む)の総モル数との比(アミン類のアミノ官能基の総モル数/アンモニアの総モル数)が0.25~2.0であることを特徴とする請求項3に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項7】
マトリックス樹脂は、コアシェル型の粒子であることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項8】
コアシェル型の粒子におけるシェル部のガラス転移温度は、-10~45℃であることを特徴とする請求項7に記載のコーティング用エマルジョン組成物。
【請求項9】
請求項1~8のコーティング用エマルジョン組成物から生成されたことを特徴とするコーティング膜。
【請求項10】
コーティング膜の膜厚が160~260nmであることを特徴とする請求項9に記載のコーティング膜。
【請求項11】
熱収縮性基材フィルムと、上記熱収縮性基材フィルム上に積層一体化された請求項9又は請求項10に記載のコーティング膜とを含む熱収縮性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用エマルジョン組成物、コーティング膜及び熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、清涼飲料水などを収容するための容器としてポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂製の容器が用いられている。容器の外周面には、ポリエチレンテレフタレートなどの合成樹脂から形成された熱収縮フィルムから形成されたラベルが装着されている。
【0003】
この熱収縮フィルムは、その耐摩耗性が低く、輸送時の衝撃によって、ラベル表面が摩耗し又は破れが発生することがあるという問題点を有している。
【0004】
そこで、ラベルの摩耗や破れを防止するために、ラベル表面にワックス系滑剤を含むコーティング用組成物を塗工し、ラベル表面の摩擦抵抗を低減させることが行なわれている。
【0005】
このようなワックス系滑剤を含むコーティング用組成物として、特許文献1には、水溶性ポリエステル又は水分散性ポリエステルを保護コロイドとして、エチレン性不飽和単量体( A ) を重合して得られるエマルジョンと、滑剤( B ) を含有するプラスチックコーティング用水性樹脂エマルジョンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記プラスチックコーティング用水性樹脂エマルジョンは、静電気が発生し帯電しやすく、ラベル加工時又はラベルを用いた加工製品の走行性不良の原因や、ラベル表面に埃などの塵芥を引き付け、ラベルや加工製品の品質不良を生じさせるという問題点を有している。
【0008】
本発明は、動摩擦係数が低く優れた耐磨耗性を有し且つ静電気の発生を低減する(帯電防止性)ことができるコーティング膜を形成することができるコーティング用エマルジョン組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコーティング用エマルジョン組成物は、酸基を含むアクリル系重合体とアミン類との中和反応物を含むマトリックス樹脂、ワックス系滑剤、及び、水とを含有する。
【0010】
[酸基を含むアクリル系重合体とアミン類との中和反応物を含むマトリックス樹脂]
本発明のコーティング用エマルジョン組成物は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を含むマトリックス樹脂を含有する。コーティング用エマルジョン組成物が、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を含むことによって、コーティング用エマルジョン組成物から形成されたコーティング膜(以下、単に「コーティング膜」ということがある)に優れた親水性(吸水性)を付与している。従って、コーティング膜は、電気伝導度の高い水分に起因して優れた電気伝導性を有し、コーティング膜が帯電した場合にあっても、電荷を減衰させることができ、優れた帯電防止性を有している。なお、本発明において、「帯電防止性」とは、帯電が完全に防止されること以外に帯電を低減することも含まれることを意図する。
【0011】
マトリックス樹脂中において、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましい。マトリックス樹脂中において、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の含有量は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の含有量が60質量%以上であると、コーティング膜の帯電防止性が向上する。酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の含有量が60質量%以上であると、コーティング膜の機械的強度が向上する。
【0012】
酸基を含むアクリル系重合体(A)は、アクリル系モノマー単位を含む重合体を主鎖とし、この主鎖に側鎖として酸基を有する。なお、本発明において、「主鎖」とは、分子中において最も長い分子鎖をいい、分子鎖の長さは分子鎖を構成する原子の数により判断され、原子の数が多いほど分子鎖が長いと判断することができる。
【0013】
アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート[ドデシル(メタ)アクリレート]、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンタニル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどの含窒素(メタ)アクリル系モノマー、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。アクリル系モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0014】
酸基を含むアクリル系重合体(A)は、(メタ)アクリル酸単位及び(メタ)アクリレート単位を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸単位及びアルキル(メタ)アクリレート単位を含有することがより好ましく、メタクリル酸単位及びアルキル(メタ)アクリレート単位を含有することがより好ましい。
【0015】
酸基を含むアクリル系重合体(A)中におけるアクリル系モノマー単位の含有量は、コーティング膜に延伸応力などの応力が加わった時にコーティング膜に亀裂が生じるのを抑制し、コーティング膜の動摩擦係数を低く維持して優れた耐磨耗性を維持することができるので、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)中におけるアクリル系モノマー単位の含有量は、コーティング用エマルジョン組成物の造膜性が向上し、コーティング膜の表面平滑性を向上させて、コーティング膜の動摩擦係数を低く維持して優れた耐磨耗性を維持することができるので、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0016】
アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、コーティング膜の帯電防止性を維持しつつ、コーティング膜の耐水性を向上させることができるので、4以上が好ましく、5以上がより好ましく、6以上がより好ましい。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、コーティング用エマルジョン組成物の分散安定性が向上するので、15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がより好ましい。
【0017】
アルキル(メタ)アクリレートは、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートを含むことが好ましく、2-エチルヘキシルアクリレート又は2-エチルヘキシルメタクリレートを含むことがより好ましく、2-エチルヘキシルアクリレート及び2-エチルヘキシルメタクリレートを含むことがより好ましい。
【0018】
酸基を含むアクリル系重合体(A)中におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の総含有量は、コーティング膜の耐摩耗性及び耐水性が向上するので、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)中におけるアルキル(メタ)アクリレート単位の総含有量は、コーティング用エマルジョン組成物の分散安定性が向上するので、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0019】
酸基を含むアクリル系重合体(A)中における(メタ)アクリル酸単位の総含有量は、コーティング用エマルジョン組成物の分散安定性が向上するので、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)中における(メタ)アクリル酸単位の総含有量は、コーティング膜の帯電防止性を維持しつつ、コーティング膜の耐水性を向上させることができるので、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0020】
酸基を含むアクリル系重合体(A)は、スチレン系モノマー単位を含有していることが好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)がスチレン単位を含有していると、基材フィルムに対する密着性が向上し好ましい。特に、熱収縮性基材フィルム上に、コーティング用エマルジョン組成物から生成されたコーティング膜を積層一体化させて熱収縮性フィルムを形成した場合、熱収縮性フィルムを熱収縮させた後においても、熱収縮性基材フィルム上にコーティング膜を安定的に密着させた状態に積層一体化させておくことができる。
【0021】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、メチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられ、熱収縮性基材フィルムに対する密着性が向上するので、スチレンが好ましい。なお、スチレン系モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0022】
アクリル系重合体中におけるスチレン系モノマー単位の含有量は、熱収縮性基材フィルムに対する密着性が向上するので、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。アクリル系重合体中におけるスチレン系モノマー単位の含有量は、コーティング膜の柔軟性が向上し、基材フィルムに対する密着性が向上するので、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0023】
酸基を有するアクリル系重合体(A)において、酸基としては、特に限定されず、例えば、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、リン酸基(-PO4H2)などが挙げられ、カルボキシ基が好ましい。
【0024】
酸基を含むアクリル系重合体(A)は、酸基を含むモノマー単位を含有していることが好ましく、酸基を含むエチレン性不飽和結合含有モノマー単位を含有していることが好ましく、酸基を含むエチレン性不飽和二重結合含有モノマー単位を含有していることがより好ましい。
【0025】
酸基を含むモノマー単位としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、β-カルボキシエチルメタクリレートなどのカルボキシ基含有アクリル系モノマー、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、(無水)シトラコン酸などのカルボキシ基含有モノマー;スルホエチルアクリレート、スルホエチルメタクリレート、スルホプロピルアクリレート、スルホプロピルメタクリレート、スルホブチルアクリレート、スルホブチルメタクリレート、3-アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-アクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-メタクリロキシ-1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸などのスルホン酸基含有アクリレート系モノマー;アシッドホスフォオキシエチルアクリレート、アシッドホスフォオキシエチルメタクリレート,モノ(2-ヒドロキシエチルアクリレート)ホスフェート,モノ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ホスフェートなどのリン酸基含有アクリレート系モノマーなどの酸基を含むエチレン性不飽和二重結合含有モノマーなどが挙げられる。酸基を含むモノマーとしては、カルボキシ基を有するアクリル系モノマーが好ましく、(メタ)アクリル酸がより好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0026】
酸基を含むアクリル系重合体(A)中において、酸基を含むモノマー単位の含有量は、コーティング膜の帯電防止性が向上するので、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)中における(メタ)アクリル酸単位の含有量は、熱収縮性基材フィルムに対する密着性が向上するので、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0027】
酸基を含むアクリル系重合体(A)の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、(1)カルボキシ基含有モノマー及びアクリル系モノマーに、好ましくはスチレン系モノマーを含むモノマー組成物を公知の要領で水中にて懸濁重合することによって、酸基(カルボキシ基)を含むアクリル系重合体(A)を製造する方法、(2)スルホン酸基含有モノマー及びアクリル系モノマーに、好ましくはスチレン系モノマーを含むモノマー組成物を公知の要領で水中にて懸濁重合することによって、酸基(スルホン酸基)を含むアクリル系重合体(A)を製造する方法などが挙げられる。又、アクリル系重合体に汎用の要領で、カルボキシ基やスルホン酸基などの酸基を導入してもよい。なお、懸濁重合を行なう水には、必要に応じて、アルコール(メタノール、エタノール、プロピルアルコールなど)などが添加されていてもよい。
【0028】
コーティング用エマルジョン組成物は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を含む。即ち、酸基を含むアクリル系重合体(A)は、一部又は全ての酸基においてアミン類との中和反応によって中和反応物を形成している。アミン類は、酸基を含むアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基を分子内に有しておればよく、酸基を含むアクリル系重合体(A)の酸基と塩を形成し、コーティング用エマルジョン組成物から生成されたコーティング膜の帯電防止性を付与し、コーティング膜に静電気が発生するのを低減することができる。なお、アミノ官能基には、-NH2、=NH[式(1)]、及び、≡N[式(2)]の1~3価の含窒素置換基が含まれる。
【0029】
【0030】
アミン類としては、特に限定されず、例えば、モノエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)-エチレンジアミン、2-アミノ-1-ブタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、3-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシエチル)-アミノメタンなどの第1級アルカノールアミン;ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、ブチルメタノールアミン、N-アセチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどの第2級アルカノールアミン;トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどの第3級アルカノールアミン;メチルアミン、エチルアミン、イソブチルアミン、t-ブチルアミン、シクロヘキシルアミンなど第1級アルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミンなどの第2級アルキルアミン;トリメチルアミンなどの第3級アルキルアミンなどが挙げられる。なお、アミン類は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0031】
アミン類は、アルカノールアミンを含有していることが好ましく、第3級アルカノールアミンを含有していることがより好ましい。アミン類中のアルカノールアミンの含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0032】
アミン類は、1.013×103hPa(1気圧)下における沸点(以下、単に「沸点」ということがある)が300℃以上のアミン類を含むことが好ましい。沸点が300℃以上のアミン類としては、例えば、トリエタノールアミン(335℃)、トリイソプロパノールアミン(305℃)などが挙げられる。アミン類の1.013×103hPa(1気圧)下における沸点は、500℃以下であることが好ましい。
【0033】
コーティング用エマルジョン組成物からコーティング膜を生成する工程において、コーティング用エマルジョン組成物は、加熱、乾燥される。一方、コーティング用エマルジョン組成物中の中和反応物は、アクリル系重合体(A)の酸基とアミン類とが電気的な吸引力によって塩を形成しており、上記コーティング用エマルジョン組成物の加熱乾燥時に加えられる熱エネルギーによって、アクリル系重合体(A)の酸基とアミン類との塩の一部が分解してアミン類が遊離する。沸点が300℃未満のアミン類は、遊離すると、コーティング用エマルジョン組成物外に揮散する虞れがあり、その結果、コーティング用エマルジョン組成物及びこのコーティング用エマルジョン組成物から生成されるコーティング膜中に含まれる、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物が減少し、コーティング膜の帯電防止性が低下することがある。
【0034】
一方、沸点が300℃以上のアミン類と酸基を含むアクリル系重合体との中和反応物である場合は、コーティング用エマルジョン組成物の加熱、乾燥工程において中和反応物が分解してアミン類がコーティング用エマルジョン組成物中に遊離した場合にあっても、アミン類は、コーティング用エマルジョン組成物外に揮散することが低減され、コーティング用エマルジョン組成物中に滞留しており、このコーティング用エマルジョン組成物から生成されるコーティング膜は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を十分に含有しており、優れた帯電防止性を有している。
【0035】
酸基を含むアクリル系重合体(A)は、その一部の酸基がアンモニアと中和反応をして中和反応物を形成していてもよい。即ち、中和反応物は、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応によって生成した中和反応物であってもよい。中和反応物が、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物を含むと、コーティング用エマルジョン組成物中におけるマトリックス樹脂の分散性が向上する。コーティング用エマルジョン組成物中にマトリックス樹脂が略均一に分散していることによって、コーティング用エマルジョン組成物から生成されるコーティング膜は、マトリックス樹脂中に後述するワックス系滑剤が均一に分散しており、優れた帯電防止性及び耐摩耗性を有している。
【0036】
酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物のガラス転移温度Tgは、-10℃以上が好ましく、-5℃以上がより好ましい。酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物のガラス転移温度Tgは、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましい。なお、本発明において、重合体のガラス転移温度Tgaは、フォックス(FOX)の式に基づいて算出された温度とする。具体的には、重合体がn種類のモノマー単位M1、M2・・・Mnから構成されている場合、各モノマー単位M1、M2・・・Mnのホモポリマーのガラス転移温度Tg[K(ケルビン)]をそれぞれ、Tg1、Tg2・・・Tgnとし、各モノマー単位M1、M2・・・Mnの含有量(含有比率)をそれぞれ、C1、C2・・・Cnとしたとき、重合体のガラス転移温度Tgaは、下記フォックス(FOX)の式にて表される。但し、C1+C2+・・・+Cn=1である。
【0037】
【0038】
コーティング用エマルジョン組成物は、上述の通り、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を含むが、酸基を含むアクリル系重合体(A)と中和反応することなく遊離状態で存在するアミン類を含んでいてもよい。
【0039】
コーティング用エマルジョン組成物は、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物を含む場合、酸基を含むアクリル系重合体(A)と中和反応することなく、遊離状態で存在するアミン類及びアンモニアを含んでいてもよい。
【0040】
アミン類中における沸点が300℃以上のアミン類の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0041】
コーティング用エマルジョン組成物中において、酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類及び遊離状態で存在するアミン類が有し且つアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数(以下、単に「アミン類のアミノ官能基の総モル数」ということがある)と、アクリル系重合体(A)における中和反応物を形成している酸基(中和反応している酸基)及び遊離状態の酸基の総モル数との比(アミノ官能基の総モル数/酸基の総モル数)(以下、「アミノ官能基モル/酸基モル比」ということがある)は、0.5以上が好ましく、0.6以上がより好ましく、0.7以上がより好ましい。「アミノ官能基モル/酸基モル比」が0.5以上であると、コーティング膜の帯電防止性が向上する。
【0042】
コーティング用エマルジョン組成物中において、酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類及び遊離状態で存在するアミン類が有し且つアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数(以下、単に「アミン類のアミノ官能基の総モル数」ということがある)と、アクリル系重合体(A)における中和反応物を形成している酸基(中和反応している酸基)及び遊離状態の酸基の総モル数との比(アミノ官能基の総モル数/酸基の総モル数)は、1.5以下が好ましく、1.25以下がより好ましく、1.0以下がより好ましい。「アミノ官能基モル/酸基モル比」が1.5以下であると、コーティング膜の帯電防止性を維持しつつ、コーティング膜の耐水性を向上させることができる。
【0043】
コーティング用エマルジョン組成物中に含まれる中和反応物が、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物を含む場合、コーティング用エマルジョン組成物中において、酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類及び遊離状態で存在するアミン類が有し且つアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数と、コーティング用エマルジョン組成物に含まれているアンモニア(酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアンモニア及び遊離状態で存在するアンモニア)の総モル数の比(アミン類のアミノ官能基の総モル数/アンモニアの総モル数)(以下、「アミノ官能基モル/アンモニアモル比」ということがある)は、0.25以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.8以上がより好ましく、1.0以上がより好ましい。「アミノ官能基モル/アンモニアモル比」が0.25以上であると、コーティング膜の帯電防止性が向上する。
【0044】
コーティング用エマルジョン組成物中に含まれる中和反応物が、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物を含む場合、コーティング用エマルジョン組成物中において、酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアミン類及び遊離状態で存在するアミン類が有し且つアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数と、コーティング用エマルジョン組成物に含まれているアンモニア(酸基を含むアクリル系重合体と中和反応物を形成しているアンモニア及び遊離状態で存在するアンモニア)の総モル数の比(アミン類のアミノ官能基の総モル数/アンモニアの総モル数)は、2.0以下が好ましく、1.5以下がより好ましく、1.2以下がより好ましい。「アミノ官能基モル/アンモニアモル比」が2.0以下であると、コーティング用エマルジョン組成物中におけるマトリックス樹脂の分散性が向上し、コーティング膜は、マトリックス樹脂中に後述するワックス系滑剤が均一に分散しており、優れた帯電防止性及び耐摩耗性を有する。
【0045】
なお、「アミノ官能基モル/酸基モル比」及び「アミノ官能基モル/アンモニアモル比」の算出にあたって、アミン類が、アクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基を複数個(n個:nは2以上の自然数である)有している場合、アミン類が有するアミノ官能基のモル数は、アミン類のモル数の複数倍(n倍)として計算する。
【0046】
酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の製造方法は、特に限定されず、例えば、酸基を含むアクリル系重合体(A)が分散している水中にアミン類を供給し、所定温度にて保持し、酸基を含むアクリル系重合体(A)の酸基をアミン類と中和反応させて中和させる方法が挙げられる。
【0047】
マトリックス樹脂は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物以外に、コーティング膜のマトリックスを構成し得る重合体を含有していてもよい。このような重合体としては、例えば、酸基を有しない重合体などが挙げられる。酸基を有しない重合体としては、特に限定されず、例えば、酸基を有しないアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられ、酸基を有しないアクリル系樹脂が好ましい。なお、重合体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0048】
上記酸基を有しないアクリル系樹脂(B)としては、酸基を有しないアクリル系モノマー単位を含む重合体が好ましい。酸基を有しないアクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート[ドデシル(メタ)アクリレート]、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンタニル(メタ)アクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどの含窒素(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。なお、酸基を有しないアクリル系モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0049】
酸基を有しないアクリル系樹脂(B)において、酸基を有しないアクリル系モノマー単位の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0050】
酸基を有しないアクリル系樹脂(B)には、酸基を有しないアクリル系モノマーと共重合可能な酸基を有しないモノマー単位が含有されていてもよい。このような酸基を有しないモノマー単位としては、特に限定されず、例えば、上記スチレン系モノマーなどが挙げられる。
【0051】
上記では、マトリックス樹脂は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物と、必要に応じて酸基を有しない重合体とを含む場合を説明したが、マトリックス樹脂として、粒子状が好ましく、コア部とこのコア部を被覆するシェル部とを含むコアシェル型の粒子であることがより好ましく、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物がシェル部を構成しているコアシェル型の粒子であることがより好ましく、酸基を有しない重合体がコア部を構成し且つ酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物がシェル部を構成しているコアシェル型の粒子であることがより好ましい。
【0052】
マトリックス樹脂が粒子である場合、コーティング用エマルジョン組成物の塗工時に、マトリックス樹脂の粒子間にワックス系滑剤が介在した状態となり、この状態でマトリックス樹脂が溶融して塗膜を形成するので、ワックス系滑剤を略均一に分散させた状態でコーティング膜を生成することができ、このコーティング膜の表面にワックス系滑剤をできるだけ露出させた状態に存在させることができる。従って、得られるコーティング膜は、優れた耐摩耗性及び帯電防止性を有している。
【0053】
マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径は、50nm以上が好ましく、80nm以上がより好ましい。マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径は、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下がより好ましく、300nm以下がより好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がより好ましい。マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径が50nm以上であると、コーティング膜の帯電防止性を維持しつつ、コーティング膜の耐水性を向上させることができる。マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径が1000nm以下であると、コーティング用エマルジョン組成物の造膜性が向上し、コーティング膜の表面平滑性を向上させて、コーティング膜の動摩擦係数を低く維持して優れた耐磨耗性を維持することができる。なお、マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された体積基準の粒度分布においての粒子径の小さい側からの頻度の累積が50質量%となる粒子径D50をいう。マトリックス樹脂の粒子の平均粒子径は、例えば、堀場製作所社から商品名「レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA―950V2」にて市販されている測定装置を用いて測定することができる。
【0054】
マトリックス樹脂の粒子は、コアシェル型の粒子であって、シェル部が酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物から構成されていることがより好ましい。コアシェル型の粒子において、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物がシェル部を構成していると、コア部上において、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物の表面積を大きくすることができ、コーティング膜の親水性を向上させて、コーティング膜の帯電防止性を向上させることができる。
【0055】
コアシェル型のマトリックス樹脂の粒子におけるシェル部を構成している重合体のガラス転移温度Tgは、-10℃以上が好ましく、-5℃以上がより好ましい。マトリックス樹脂のコアシェル型の粒子におけるシェル部を構成している重合体のガラス転移温度Tgは、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下がより好ましい。マトリックス樹脂のコアシェル型の粒子におけるシェル部を構成している重合体のガラス転移温度Tgが上記範囲内であると、マトリックス樹脂の粒子間にワックス系滑剤を良好に介在させた状態で、マトリックス樹脂を溶融させて塗膜を形成させることができ、ワックス系滑剤を略均一に分散させた状態でコーティング膜を生成することができる。従って、得られるコーティング膜は、優れた耐摩耗性及び帯電防止性を有している。
【0056】
コアシェル型のマトリックス樹脂の粒子の製造方法としては、特に限定されず、例えば、下記の要領で製造される。
【0057】
例えば、アクリル系モノマー及び酸基を含むモノマーを含むモノマー組成物を水中で重合して、酸基を含むアクリル系重合体(A)を製造した後、このアクリル系重合体(A)の酸基をアミン類で中和して、シェル部を構成する、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を製造する。次に、得られた中和反応物の存在下において、コア部を構成するモノマーを水中にて重合してコア部を生成し、このコア部の表面をシェル部によって被覆することによって、コアシェル型のマトリックス樹脂の粒子を製造することができる。
【0058】
[ワックス系滑剤]
コーティング用エマルジョン組成物は、ワックス系滑剤を含有している。コーティング用エマルジョン組成物がワックス系滑剤を含有していることにより、得られるコーティング膜の表面にワックス系滑剤を存在させ、コーティング膜の動摩擦係数を低減させて、コーティング膜に優れた耐摩耗性を付与していると共に、コーティング膜の動摩擦係数を低減させることによって、コーティング膜の表面にて生じる摩擦力を低減し、コーティング膜の帯電を低減することができる。
【0059】
ワックス系滑剤としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、これらの酸化物、これらのカルボキシル基を付与した誘導体などの変性物、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナウバワックスなどを水に分散したタイプ、あるいは自己乳化、乳化剤によって強制乳化したエマルジョンタイプのワックスなどが挙げられる。
【0060】
ワックス系滑剤は、粒子状であることが好ましい。ワックス系滑剤が粒子状であると、コーティング膜の表面に適度な間隔でもってワックス系滑剤を露出させた状態に散在させることができ、コーティング膜に適度な滑りを生じさせ、コーティング膜表面の動摩擦係数を低減させて、コーティング膜に優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0061】
一方、コーティング膜表面の動摩擦係数を低減し過ぎず、耐摩耗性を付与できる程度に動摩擦係数を低減させているので、コーティング膜を形成したフィルムの加工工程、搬送工程及び使用時などの後工程において、コーティング膜表面に適度な摩擦を生じさせ、フィルムの後工程を支障なく円滑に行なうことができる。
【0062】
ワックス系滑剤の平均粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.15μm以上がより好ましい。ワックス系滑剤の平均粒子径は、0.5μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.2μm以下がより好ましい。ワックス系滑剤の平均粒子径が0.01μm以上であると、コーティング膜の表面にワックス系滑剤を適度に露出させてコーティング膜の動摩擦係数を低減させて耐摩耗性を向上させることができる。ワックス系滑剤の平均粒子径が0.5μm以下であると、コーティング膜の表面にワックス系滑剤を適度に微分散させてコーティング膜の動摩擦係数を低減させて耐摩耗性を向上させることができる。なお、ワックス系滑剤の平均粒子径は、レーザー回折法によって測定された体積基準の粒度分布においての粒子径の小さい側からの頻度の累積が50質量%となる粒子径D50をいう。
【0063】
コーティング用エマルジョン組成物において、マトリックス樹脂の含有量とワックス系滑剤の含有量の比(マトリックス樹脂の質量部/ワックス系滑剤の質量部)は、1以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上がより好ましい。マトリックス樹脂の含有量とワックス系滑剤の含有量の比(マトリックス樹脂の質量部/ワックス系滑剤の質量部)は、20以下が好ましく、18以下がより好ましく、15以下がより好ましい。マトリックス樹脂の含有量とワックス系滑剤の含有量の比(マトリックス樹脂の質量部/ワックス系滑剤の質量部)が上記範囲内であると、コーティング膜は優れた耐摩耗性及び帯電防止性を有する。
【0064】
コーティング用エマルジョン組成物には、マトリックス樹脂及びワックス系滑剤の他に、コーティング用エマルジョン組成物の作用効果を損なわない範囲内において、造膜助剤などの添加剤が添加されてもよい。
【0065】
造膜助剤としては、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコールなどのアルコール類、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチルカルビトールなどのエーテル類、メチルセルソルブ、エテルセルソルブ、プロピルセルソルブ、プチルセルソルブ、ブチルセロソルブアセテートなどのセロソルブ系溶剤などが挙げられる。なお、造膜助剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0066】
造膜助剤としては、造膜性に優れているので、エーテル類及びセロソルブ系溶剤が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテートがより好ましい。
【0067】
コーティング用エマルジョン組成物中における造膜助剤の含有量は、マトリックス樹脂及びワックス系滑剤の総量100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がより好ましい。コーティング用エマルジョン組成物中における造膜助剤の含有量は、マトリックス樹脂及びワックス系滑剤の総量100質量部に対して15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0068】
コーティング用エマルジョン組成物は、マトリックス樹脂及びワックス系滑剤と、必要に応じて造膜助剤などの添加剤とを水中に分散させて構成されている。マトリックス樹脂は、酸基を含むアクリル系重合体(A)とアミン類との中和反応物を含んでおり、水中に均一に分散すると共に、上記中和反応物の作用によってワックス系滑剤も水中に均一に分散している。従って、コーティング用エマルジョン組成物によれば、均質なコーティング膜を容易に製造することができる。
【0069】
コーティング用エマルジョン組成物の製造方法としては、特に限定されず、例えば、(1)マトリックス樹脂及びワックス系滑剤と、必要に応じて造膜助剤などの添加剤とを水中に供給して混合し分散させてコーティング用エマルジョン組成物を製造する方法、(2)マトリックス樹脂を製造して得られた反応液、即ち、マトリックス樹脂が水中に分散してなる分散液に、ワックス系滑剤、及び、必要に応じて造膜助剤などの添加剤を供給して均一に混合してコーティング用エマルジョン組成物を製造する方法などが挙げられ、(2)が好ましい。
【0070】
コーティング用エマルジョン組成物中における水の含有量は、マトリックス樹脂及びワックス系滑剤の総量100質量部に対して100~500質量部が好ましい。
【0071】
コーティング用エマルジョン組成物の使用要領について説明する。コーティング用エマルジョン組成物は、熱収縮性基材フィルムなどの基材フィルム上に汎用の要領で塗工し、マトリックス樹脂が溶融一体化するように加熱、乾燥されることによって、優れた耐摩耗性及び帯電防止性に優れたコーティング膜を基材フィルム上に形成することができる。
【0072】
コーティング用エマルジョン組成物から生成されたコーティング膜は、基材フィルム上に強固に積層一体化される。従って、基材フィルムに加える延伸処理などの加工処理時に、基材フィルム上からコーティング膜が剥離することはなく、積層一体化した状態を良好に維持する。又、熱収縮性基材フィルムのようにコーティング膜を表面に形成した後に熱収縮させる熱収縮性フィルムにおいても、熱収縮後にコーティング膜が熱収縮性基材フィルムの表面から剥離することはなく、積層一体化した状態を良好に維持する。
【0073】
熱収縮性フィルムは、熱収縮性基材フィルムと、この熱収縮性基材フィルム上に積層一体化された、コーティング用エマルジョン組成物から形成されたコーティング膜とを含む。
【0074】
熱収縮性フィルムの製造方法としては、特に限定されず、例えば、(1)基材フィルム上にコーティング用エマルジョン組成物を塗工した上で加熱、乾燥させることによってコーティング膜を積層一体化して積層フィルムを作製した後、この積層フィルムに一軸延伸又は二軸延伸などの延伸処理を施すことによって、基材フィルムを熱収縮性基材フィルムとし、この熱収縮性基材フィルム上にコーティング膜が積層一体化されてなる熱収縮性フィルムを製造する方法、(2)基材フィルムに一軸延伸又は二軸延伸などの延伸処理を施して熱収縮性基材フィルムを製造した後、この熱収縮性基材フィルム上にコーティング用エマルジョン組成物を塗工した上で加熱、乾燥させることによってコーティング膜を積層一体化して熱収縮性フィルムを製造する方法、(3)基材フィルムに一軸延伸又は二軸延伸などの延伸処理を施した後、基材フィルム上にコーティング用エマルジョン組成物を塗工した上で加熱、乾燥させた後に再度、基材フィルムに一軸延伸又は二軸延伸などの延伸処理を施すことによって、基材フィルムを熱収縮性基材フィルムとし、この熱収縮性基材フィルム上にコーティング膜が積層一体化されてなる熱収縮性フィルムを製造する方法などが挙げられる。なお、積層フィルムの延伸処理としては、特に限定されず、チューブラー延伸法やテンター延伸法、ロール延伸法など公知の延伸法を用いることができる。
【0075】
基材フィルムとしては延伸処理を施すことによって熱収縮性を付与することができるフィルムであればよいが、基材フィルムにおいて、コーティング膜を積層一体化する面は、ポリエステル系樹脂又はポリスチレン系樹脂を含むことが好ましい。基材フィルムは、複数のフィルムを積層一体化させてなる多層フィルムであってもよい。
【0076】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ジカルボン酸とジオールとを重縮合させることにより得られる樹脂を使用することができる。
【0077】
上記ポリエステル系樹脂を得るために用いられるジカルボン酸としては、例えば、o-フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸、これらの無水物及び低級アルキルエステル等が挙げられる。
【0078】
上記ポリエステル系樹脂を得るために用いられるジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール)、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2、4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類;2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロへキシル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロへキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール類等が挙げられる。
【0079】
上記ポリスチレン系樹脂としては、例えば、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体、又は、芳香族ビニル炭化水素-共役ジエン共重合体と芳香族ビニル炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体との混合樹脂、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンなどが挙げられる。
【0080】
上記芳香族ビニル炭化水素としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が、共役ジエンとしては1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。
【0081】
上記共役ジエンとしては、例えば、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)などが挙げられる。
【0082】
上記脂肪族不飽和カルボン酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0083】
上記ゴム変性耐衝撃性ポリスチレンとは、例えば、スチレン、メタクリル酸アルキル、アクリル酸アルキルの3元共重合体からなる連続相と、共役ジエンを主体とするゴム成分からなる分散相とで構成されるものを基本とするものである。連続相を形成するアルキルメタクリレートとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどが、アルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレートなどが挙げられる。
【0084】
熱収縮性基材フィルムの厚みは、10~100μmが好ましく、20~80μmがより好ましく、25~70μmがより好ましい。
【0085】
熱収縮性基材フィルム上に形成されるコーティング膜の膜厚は、160nm以上が好ましく、165nm以上がより好ましい。基材フィルム上に形成されるコーティング膜の膜厚は、260nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、240μm以下がより好ましい。コーティング膜の膜厚が160nm以上であると、コーティング膜表面におけるマトリックス樹脂の比率を適度に向上させることができ、コーティング膜の帯電防止性が向上する。コーティング膜の膜厚が260nm以下であると、コーティング膜表面にワックス系滑剤を適度に露出させて、ワックス系滑剤の比率を適度に向上させることができ、コーティング膜の耐摩耗性を向上させることができる。
【0086】
上述の如くして製造された熱収縮性フィルムは、その熱収縮性基材フィルム表面に必要に応じて印刷層が形成された上で、清涼飲料水などを収容するための容器などに装着された後に加熱されて熱収縮し、容器などの形状に沿った状態に装着される。
【0087】
熱収縮性フィルムを構成している熱収縮性基材フィルムの表面にはコーティング膜が形成され、コーティング膜は優れた帯電防止性を有している。従って、上述した熱収縮性フィルムの原反となる積層フィルムや熱収縮性フィルムの搬送時及び加工処理時に、フィルム表面に静電気が生じて塵芥などが吸着することを低減することができ、フィルムの処理工程を円滑に行なうことができる。また、熱収縮性フィルムの使用時においても、フィルム表面に静電気が生じて塵芥などが吸着することを低減することができ美麗な状態にて使用することができる。
【0088】
また、熱収縮性フィルムの使用時に、熱収縮性フィルム同士が擦れ合い、或いは、熱収縮性フィルムが他の物と擦れ合ったりしても、熱収縮性フィルムのコーティング膜は優れた耐摩耗性を有しているので、熱収縮性フィルムに加えられる摩擦力は低減化されており、熱収縮性フィルムが摩擦力によって破損するのを概ね防止することができる。
【発明の効果】
【0089】
本発明のコーティング用エマルジョン組成物は、基材フィルムなどの被塗工体に塗工した上で加熱、乾燥させることによって、優れた耐摩耗性及び帯電防止性を有するコーティング膜を容易に生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0090】
以下に、本発明の実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、「課題を解決するための手段」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」として定義されている数値)に代替することができる。
【実施例0091】
実施例及び比較例において下記の化合物を用いた。
[シェル部を構成するマトリックス樹脂の合成]
[モノマー]
・スチレン
・アルキル(メタ)アクリレート[メチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート(ドデシルメタクリレート)]
・メタクリル酸
(中和種)
・アミン類[アルカノールアミン(トリエタノールアミン、エチルジエタノールアミン)]
・アンモニア
【0092】
[コア部を構成するマトリックス樹脂の合成]
[モノマー]
・アルキル(メタ)アクリレート[メチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート]
【0093】
[マトリックス樹脂のコアシェル型の粒子の作製]
(シェル部を構成するマトリックス樹脂の作製)
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を装備した反応装置に、表1に示した所定量の水、乳化剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬製 商品名「プライサーフA219B」)のアンモニウム塩、スチレン、アルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタンを供給して攪拌し、シェル部を構成するモノマーを含む乳化混合液(1)を調製した。
【0094】
反応装置内の空気を窒素ガスに置換した後、反応装置内の乳化混合液(1)を攪拌しながら、乳化混合液(1)の温度を88℃に加熱してラジカル重合を開始した。次に、反応装置内に重合触媒として過硫酸アンモニウム(APS)3質量部を添加した。過硫酸アンモニウムを添加してから1時間30分経過後に過硫酸アンモニウムを0.2質量部添加し、更に、1時間経過後に重亜硫酸ナトリウム0.2質量部を供給した。重亜硫酸ナトリウムを供給してから1時間経過後に乳化混合液(1)の温度を45℃まで冷却した。反応装置内にアンモニア水(25質量%)、エチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンを表1に示したモル比でもって供給して30分間に亘って中和反応を行って、酸基を含むアクリル系重合体(A)と、アミン類及びアンモニアとの中和反応物を含む乳白色の水性エマルション(A-1~A-6)を得た。
【0095】
表1にアミン類及びアンモニアの1.013×103hPa下における沸点(℃)を示した。
【0096】
表1にエマルション(A-1~A-6)の粘度を記載した。エマルション(A-1~A-6)の粘度は、JIS K5600-2-3(2014年)に準拠して測定した。
【0097】
表1の「モル比 アミン類」は、アミン類が有し且つアクリル系重合体(A)の酸基と反応可能なアミノ官能基の総モル数をメタクリル酸の有するカルボキシ基を100モルとして比例換算したモル数である。
【0098】
表1の「モル比 アンモニア」は、アンモニアのモル数をメタクリル酸の有するカルボキシ基を100モルとして比例換算したモル数である。
【0099】
(コア部を構成するマトリックス樹脂の作製)
表2に示した所定量のアルキル(メタ)アクリレートを混合して均一に攪拌し、コア部を構成するモノマー組成物を作製した。過硫酸アンモニウム(APS)2質量部を水75質量部に溶解させて過硫酸アンモニウム水溶液を作製した。
【0100】
次に、反応装置内の表2に示した所定量の水性エマルション(A-1~A-6)を93℃に加熱した後、水性エマルションに、モノマー組成物及び過硫酸アンモニウム水溶液をそれぞれ、3時間及び3時間30分かけて水性エマルション内に滴下した。そして、水性エマルションの温度を93℃に保持して2時間に亘ってラジカル重合反応を行なった後、反応液を室温まで冷却し、マトリックス樹脂のコアシェル型の粒子を含む水性エマルション(B-1~B-6)を得た。なお、表2に示した水性エマルション(A-1~A-6)の質量部は、水及び固形分(不揮発分)の総質量部である。水性エマルションの固形分(不揮発分)量は、JIS K5601-1-2(2008年)に準拠して測定した。
【0101】
得られた水性エマルション(B-1~B-6)の粘度及び固形分(不揮発分)濃度(質量%)を表2に示した。なお、水性エマルション(B-1~B-6)の粘度は、JIS K5600-2-3(2014年)に準拠して測定した。
【0102】
得られたマトリックス樹脂のコアシェル型の粒子について、コア部及びシェル部を構成している重合体のガラス転移温度Tg、並びに、平均粒子径を表3に示した。
【0103】
(実施例1~8、比較例1)
表3に示した所定量のエマルジョン(B-1~B-6)、ポリエチレンワックスエマルジョン(三井化学社製 商品名「ケミパールWF4002」、固形分(不揮発分):40質量%、融点:110℃、平均粒子径:0.2μm)及びブチルセロソルブと、濃度調整のための水とを混合してコーティング用エマルジョン組成物を作製した。なお、表3に示したエマルジョン(B-1~B-6)及びポリエチレンワックスの質量部は、固形分(不揮発分)の質量部である。
【0104】
得られたコーティング用エマルジョン組成物について、動摩擦係数及び表面固有抵抗値を下記の要領で測定し、その結果を表3に示した。
【0105】
得られたコーティング用エマルジョン組成物について、「アミノ官能基モル/酸基モル比」及び「アミノ官能基モル/アンモニアモル比」を表3に示した。
【0106】
(動摩擦係数)
ポリエチレンテレフタレートフィルムを基材フィルムとして用意した。基材フィルムを40℃に加熱した後、コーティング用エマルジョン組成物を基材フィルム上に均一に塗工した。基材フィルム上に塗工したコーティング用エマルジョン組成物を110℃にて30秒間に亘って乾燥させて、表3に示した膜厚を有するコーティング膜を基材フィルム上に積層一体化させて積層フィルムを得た。
【0107】
積層フィルムを90℃に加熱した上でテンター延伸法によって延伸倍率5倍に一軸延伸し、基材フィルムを厚みが35μmの熱収縮性基材フィルムとし、この熱収縮性基材フィルム上にコーティング膜が積層一体化してなる熱収縮性フィルムを得た。
【0108】
得られた熱収縮性フィルムのコーティング膜の動摩擦係数を島津製作所社から商品名「オートグラフAGS―X」にて市販されている測定装置を用いて測定し、下記基準に基づいて評価した。
A・・・0.25以下であった。
B・・・0.25を超え且つ0.3以下であった。
C・・・0.3を超えていた。
【0109】
(表面固有抵抗値)
動摩擦係数の測定時と同様の要領で熱収縮性フィルムを作製した。得られた熱収縮性フィルムのコーティング膜の表面固有抵抗値(23℃)を日東精工アナリテック社から商品名「ハイレスタUX-MCP-HT800」にて市販されている測定装置を用いて測定し、下記基準に基づいて評価した。
A・・・1×1012Ω/□以下であった。
B・・・1×1012Ω/□を超え且つ1×1013Ω/□以下であった。
C・・・1×1013Ω/□を超えていた。
【0110】
【0111】
【0112】