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特開2023-113584イミド化樹脂組成物の製造方法、及びイミド化樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113584
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】イミド化樹脂組成物の製造方法、及びイミド化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20230808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230808BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20230808BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08J3/22 CEY
C08J5/18
C08L101/02
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023012226
(22)【出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022015665
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】平井 佳太
(72)【発明者】
【氏名】羽田野 恵介
(72)【発明者】
【氏名】日色 知樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AB05
4F070AC45
4F070AC47
4F070AC66
4F070AC83
4F070AE09
4F070AE23
4F070FA12
4F070FB04
4F070FC06
4F071AA33
4F071AA78
4F071AC12
4F071AC19
4F071AE05
4F071AE11
4F071AF30
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB06
4F071BC01
4J002AA011
4J002AA07X
4J002AE05Y
4J002BB031
4J002BB03Y
4J002BB121
4J002BB151
4J002BB171
4J002BC031
4J002BG031
4J002BG03X
4J002BG061
4J002BG06X
4J002CF061
4J002CF071
4J002CF081
4J002CF181
4J002CL011
4J002CL031
4J002EC066
4J002EG036
4J002EG046
4J002EH026
4J002EH046
4J002EH076
4J002EP016
4J002EU187
4J002FD057
4J002FD176
4J002FD17Y
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】外観が良好であり、特に「横ダン」と呼ばれる、縦延伸時のTD方向の皺(例えば、比較的幅の細いTD方向の形状不良である筋等)の発生が少ないフィルムを与える、イミド化樹脂組成物の製造方法と、当該製造方法により製造し得るイミド化樹脂組成物とを提供する。
【解決手段】グルタルイミド単位と、(メタ)アクリル酸エステル単位とを含み、芳香族ビニル単位を少量しか含まないか含まないイミド化樹脂と、所定量の少量の滑剤を含むマスターバッチとを、押出機内で溶融混錬することによりイミド化樹脂組成物を製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミド化樹脂(A)及び滑剤(B)を含むイミド化樹脂組成物の製造方法であって、
押出機内のメインフィード口から、前記イミド化樹脂(A)を前記押出機内に供給することと、
前記押出機内の溶融した前記イミド化樹脂(A)に対して、前記滑剤(B)を添加することと、
前記押出機内で、前記イミド化樹脂(A)と前記滑剤(B)とを混錬することと、
前記押出機内から吐出される前記イミド化樹脂組成物を回収することと、
を含み、
前記イミド化樹脂(A)が、下記式(1)で表される単位と、下記式(2)で表される単位とを含み、下記式(3)で表される単位を含んでいてもよく、
前記イミド化樹脂(A)の質量に対する前記式(3)で表される単位の質量の比率が5質量%以下であり、
前記イミド化樹脂組成物が、前記イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%以上0.01質量%以下の前記滑剤(B)を含み、
前記滑剤(B)が、前記滑剤(B)と基材とを含むマスターバッチとして、前記押出機内に供給され、
前記マスターバッチが、前記メインフィード口よりも押出方向下流側に位置するサイドフィード口から前記押出機内に供給される、イミド化樹脂組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~15の芳香族基含有基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
【請求項2】
前記基材が、熱可塑性樹脂、及び/又は、紫外線吸収剤である、請求項1に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記基材が、紫外線吸収剤である、請求項2に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤が、トリアジン化合物である、請求項3に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
イミド化樹脂(A)及び滑剤(B)を含み、
前記イミド化樹脂(A)が、下記式(1)で表される単位と、下記式(2)で表される単位とを含み、下記式(3)で表される単位を含んでいてもよく、
前記イミド化樹脂(A)の質量に対する前記式(3)で表される単位の質量の比率が5質量%以下であり、
イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%以上0.01質量%以下の前記滑剤(B)を含む、イミド化樹脂組成物。
【化4】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~15の芳香族基含有基を示す。)
【化5】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
【化6】
(式(3)中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、R8は、炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
【請求項6】
紫外線吸収剤を含む、請求項5に記載のイミド化樹脂組成物。
【請求項7】
前記紫外線吸収剤が、トリアジン化合物である、請求項6に記載のイミド化樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載のイミド化樹脂組成物からなるフィルム。
【請求項9】
光学フィルムである、請求項8に記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド化樹脂組成物の製造方法、及びイミド化樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
仮想空間(VR)レンズ、及び拡張現実(AR)レンズをはじめとする光学レンズ、並びに車載用ディスプレイ等の光学部材では、画像品質の向上を目的に、位相差が小さい材料の使用が求められている。一方、従来から、偏光子保護フィルム等には、位相差が小さい材料が用いられている。
【0003】
偏光子保護フィルム等の材質として有用な樹脂としては、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体をイミド化剤により処理して得られる、グルタルイミド単位と、スチレン単位とを含むイミド化樹脂が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に開示されるようなスチレン単位をある程度多量に含むイミド化樹脂には、スチレン単位に由来する、耐溶剤性の低さや高コスト等の問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、グルタルイミド単位と、メタクリル酸メチル単位とを含み、スチレン単位を含まないイミド化樹脂であって、特定のイミド化率及び酸価を有するとともに、アクリル酸エステル単位の量が1質量%未満であるイミド化樹脂が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5787571号公報
【特許文献2】特許第5574787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らが検討したところ、イミド化樹脂が、スチレン単位を含まない場合、もしくは少量しか含まない場合、特に「横ダン」と呼ばれる縦延伸時のTD方向の皺(例えば、比較的幅の細いTD方向の形状不良である筋等)が発生しやすいという課題があり、外観が良好なフィルムを製造しにくい問題があることが明らかになった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、外観が良好であり、特に「横ダン」と呼ばれる、縦延伸時のTD方向の皺(例えば、比較的幅の細いTD方向の形状不良である筋等)の発生が少ないフィルムを与える、イミド化樹脂組成物の製造方法と、当該製造方法により製造し得るイミド化樹脂組成物とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
【0009】
[1]イミド化樹脂(A)及び滑剤(B)を含むイミド化樹脂組成物の製造方法であって、
押出機のメインフィード口から、イミド化樹脂(A)を押出機内に供給することと、
押出機内の溶融したイミド化樹脂(A)に対して、滑剤(B)を添加することと、
押出機内で、イミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを混錬することと、
押出機内から吐出されるイミド化樹脂組成物を回収することと、
を含み、
イミド化樹脂(A)が、下記式(1)で表される単位と、下記式(2)で表される単位とを含み、下記式(3)で表される単位を含んでいてもよく、
イミド化樹脂(A)の質量に対する式(3)で表される単位の質量の比率が5質量%以下であり、
イミド化樹脂組成物が、イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%以上0.01質量%以下の滑剤(B)を含み、
滑剤(B)が、滑剤(B)と基材とを含むマスターバッチとして、押出機内に供給され、
マスターバッチが、メインフィード口よりも押出方向下流側に位置するサイドフィード口から押出機内に供給される、イミド化樹脂組成物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~15の芳香族基含有基を示す。)
【化2】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、又は炭素原子数7~12のアラルキル基を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
[2]基材が、熱可塑性樹脂、及び/又は、紫外線吸収剤である、[1]に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
[3]基材が、紫外線吸収剤である、[2]に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
[4]紫外線吸収剤が、トリアジン化合物である、[3]に記載のイミド化樹脂組成物の製造方法。
[5]イミド化樹脂(A)及び滑剤(B)を含み、
イミド化樹脂(A)が、下記式(1)で表される単位と、下記式(2)で表される単位とを含み、下記式(3)で表される単位を含んでいてもよく、
イミド化樹脂(A)の質量に対する式(3)で表される単位の質量の比率が5質量%以下であり、
イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%以上0.01質量%以下の滑剤(B)を含む、イミド化樹脂組成物。
【化4】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~15の芳香族基含有基を示す。)
【化5】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、又は炭素原子数7~12のアラルキル基を示す。)
【化6】
(式(3)中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、R8は、炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
[6]紫外線吸収剤を含む、[5]に記載のイミド化樹脂組成物。
[7]紫外線吸収剤が、トリアジン化合物である、[6]に記載のイミド化樹脂組成物。
[8][5]~[7]のいずれか1つに記載のイミド化樹脂組成物からなるフィルム。
[9]光学フィルムである、[8]に記載のフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外観が良好であり、特に「横ダン」と呼ばれる、縦延伸時のTD方向の皺(例えば、比較的幅の細いTD方向の形状不良である筋等)の発生が少ないフィルムを与える、イミド化樹脂組成物の製造方法と、当該製造方法により製造し得るイミド化樹脂組成物とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪イミド化樹脂組成物の製造方法≫
イミド化樹脂組成物の製造方法によれば、イミド化樹脂(A)及び滑剤(B)を含むイミド化樹脂組成物が製造される。ここで、得られるイミド化樹脂組成物における滑剤(B)の含有率は、イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%以上0.01質量%以下である。
【0012】
イミド化樹脂(A)としては、下記式(1)で表される単位と、下記式(2)で表される単位とを含み、下記式(3)で表される単位を含んでいてもよい樹脂を用いる。イミド化樹脂(A)の質量に対する式(3)で表される単位の質量の比率は、5質量%以下である。
【0013】
【化7】
(式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、又は炭素原子数5~15の芳香族基含有基を示す。)
【0014】
【化8】
(式(2)中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、Rは、炭素原子数1~18のアルキル基、炭素原子数3~12のシクロアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、又は炭素原子数7~12のアラルキル基を示す。)
【0015】
【化9】
(式(3)中、Rは、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基を示し、R8は、炭素原子数6~10のアリール基を示す。)
【0016】
イミド化樹脂組成物の製造方法は、
押出機のメインフィード口から、イミド化樹脂(A)を押出機内に供給することと、
押出機内の溶融したイミド化樹脂(A)に対して、滑剤(B)を添加することと、
押出機内で、イミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを混錬することと、
押出機内から吐出されるイミド化樹脂組成物を回収することと、
を含む。
【0017】
式(3)で表される単位は、スチレン等の芳香族ビニル単量体に由来する単位である。前述の通り、スチレン等の芳香族ビニル単量体に由来する単位を含まないか、少量しか含まないイミド化樹脂を用いてフィルムを形成する場合、フィルムに横ダンが生じやすい。他方で、芳香族ビニル単量体に由来する単位をある程度多量に含むイミド化樹脂を用いる場合、フィルムに横ダンが生じにくい。
【0018】
本発明者らが、この点について鋭意検討したところ、芳香族ビニル単量体に由来する単位をある程度多量に含むイミド化樹脂では、当該単位が滑剤的な効果を奏することで、フィルムが安定して製造され、横ダンの発生が抑制されると推測するに至った。
【0019】
本発明者らが、この推測に基づいて、式(3)で表される芳香族ビニル単量体に由来する単位を含まないか少量しか含まないイミド化樹脂(A)に対して、滑剤(B)を添加し、且つ、滑剤(B)の添加量を最適化する検討を行ったところ、イミド化樹脂(A)に上記の所定量の滑剤(B)を添加することにより、横ダンの発生を抑制できることが見出された。
【0020】
しかし、上記の滑剤(B)の添加量は、非常に少量である。このため、押出機によりイミド化樹脂組成物を製造する場合、所望する量の滑剤(B)を、押出機中のイミド化樹脂(A)に安定して供給することが困難である。
【0021】
そこで、本発明らは、滑剤(B)を、基材と滑剤(B)とを含むマスターバッチとし、当該マスターバッチを、押出機のメインフィード口よりも押出方向下流側に位置するサイドフィード口から押出機内に供給しつつ、押出機内でイミド化樹脂(A)と樹脂(B)とを溶融混錬する方法を見出した。この方法によれば、上記の少量の滑剤(B)の含有率のばらつきを抑えつつ、所望する組成のイミド化樹脂組成物を製造することが可能である。
【0022】
以下、イミド化樹脂組成物の製造方法について、イミド化樹脂(A)及びマスターバッチ等の原材料について説明し、次いで、イミド化樹脂組成物の製造方法を構成する各工程について説明する。
【0023】
<イミド化樹脂(A)>
イミド化樹脂(A)としては、前述の式(1)で表される単位と、前述の式(2)で表される単位とを含み、前述の式(3)で表される単位を含んでいてもよい樹脂を用いる。イミド化樹脂(A)の質量に対する式(3)で表される単位の質量の比率は、5質量%以下である。
【0024】
式(1)で表される単位は、グルタルイミド骨格を有し、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれる。グルタルイミド単位は、グルタルイミド骨格を有する単位である。以下、式(1)で表される単位を、グルタルイミド単位とも記す。
【0025】
グルタルイミド単位において、式(1)中のR及びRが、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、Rが、水素原子、メチル基、n-ブチル基、又はシクロヘキシル基であるものが好ましい。また、式(1)中のRがメチル基であり、Rが水素原子であり、Rがメチル基であるものがより好ましい。
イミド化樹脂(A)は、1種類のグルタルイミド単位のみを含んでいてもよく、2種以上のグルタルイミド単位を組み合わせて含んでいてもよい。
【0026】
グルタルイミド単位は、式(2)で表される単位をイミド化することにより形成され得る。また、無水マレイン酸等の酸無水物、又はかかる酸無水物と、炭素原子数1~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸;等をイミド化することによっても、グルタルイミド単位を形成し得る。
【0027】
式(2)で表される単位は、(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステルに由来する単位である。以下、式(2)で表される単位を、(メタ)アクリル酸エステル単位とも記す。
【0028】
なお、(メタ)アクリル酸とは、通常、アクリル酸とメタクリル酸とについての総称である。つまり、(メタ)アクリル酸単位は、通常、式(2)におけるRが水素原子であり、Rが水素原子又はメチル基である単位である。ただし、本願明細書においては、式(2)において、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~8のアルキル基である単位について、便宜上、(メタ)アクリル酸エステル単位とする。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル単位を与える原料は、式(2)で表される単位を形成できれば特に限定されない。(メタ)アクリル酸エステル単位を与える原料の好適な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
イミド化樹脂(A)は、1種類の(メタ)アクリル酸エステル単位のみを含んでいてもよく、2種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位を組み合わせて含んでいてもよい。
【0030】
イミド化樹脂(A)は、イミド化樹脂(A)の質量に対して5質量%以下の範囲内で、式(3)で表される単位を含んでいてもよい。式(3)で表される単位は、一般的に芳香族ビニル単位と呼ばれる。以下、式(3)で表される単位を、芳香族ビニル単位とも記す。
【0031】
芳香族ビニル単位を与える原料は、式(3)で表される単位を形成できれば特に限定されない。芳香族ビニル単位を与える原料の好適な例としては、スチレン及びα-メチルスチレンが挙げられ、スチレンが好ましい。
イミド化樹脂(A)は、1種類の芳香族ビニル単位のみを含んでいてもよく、2種以上の芳香族ビニル単位を組み合わせて含んでいてもよい。
【0032】
イミド化樹脂(A)におけるグルタルイミド単位の含有率は、式(1)中のRの種類にもよるが、イミド化樹脂(A)の質量に対して20質量%以上が好ましく、20~95質量%がより好ましく、40~90質量%がさらに好ましく、50~80質量%が特に好ましい。
グルタルイミド単位の含有率が上記の範囲内であると、イミド化樹脂(A)の耐熱性、透明性、及び機械的特性のいずれもが高いレベルで優れるとともに、イミド化樹脂(A)の溶融粘度が成形加工に適した範囲内であることにより、イミド化樹脂組成物の成型加工性が特に優れる傾向にある。
【0033】
イミド化樹脂(A)における、式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有率は、前述の通り、イミド化樹脂(A)の質量に対して5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。イミド化樹脂(A)が、芳香族ビニル単位を含まないのも好ましい。
【0034】
イミド化樹脂(A)における、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、及び芳香族ビニル単位の含有率を調整することで、イミド化樹脂(A)の諸物性を調整できる。
例えば、メチルメタクリレート-スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体を重合した後に、(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体をイミド化して、イミド化樹脂(A)を製造する場合、(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体における、芳香族ビニル単位の含有率を調整することで、イミド化樹脂(A)に含まれる芳香族ビニル単位の含有率を調整できる。また、イミド化時に、1級アミン等のイミド化剤の添加量を調整することで、イミド化樹脂(A)における、グルタルイミド単位の含有率と、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率とを調整できる。
【0035】
所望する効果が損なわれない限りにおいて、イミド化樹脂(A)は、前述のグルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、及び芳香族ビニル単位以外のその他の単位を含んでいてもよい。
その他の単位を与えるモノマーの好適な例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単量体;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;等が挙げられる。
【0036】
イミド化樹脂(A)を製造する際、典型的には、メチルメタクリレート-スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体、又はメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体が、イミド化に供される。
(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体、及び(メタ)アクリル酸エステル重合体は、イミド化反応が可能であれば、リニアー(線状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、及び架橋ポリマーのいずれであっても構わない。ブロックポリマーはA-B型、A-B-C型、A-B-A型、又はこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても構わない。コアシェルポリマーについて、コア及びシェルのそれぞれが、1層のみで構成されても、2層以上で構成されてもよい。
【0037】
イミド化樹脂(A)の質量平均分子量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。イミド化樹脂(A)の質量平均分子量は、例えば、1×10以上5×10以下であるのが好ましい。イミド化樹脂(A)の質量平均分子量が上記の範囲内であると、イミド化樹脂の溶融粘度が成形加工に特に適した範囲内であることにより、イミド化樹脂組成物の成型加工が特に容易であり、また、イミド化樹脂組成物を用いて十分に高い機械的強度を有するフィルム等の成形品を得やすい傾向にある。
【0038】
イミド化樹脂(A)のガラス転移温度は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。イミド化樹脂(A)のガラス転移温度は、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。ガラス転移温度が上記の範囲内であると、イミド化樹脂組成物を用いて製造されるフィルム等の製品の、耐熱性が要求される用途への適用が容易である。
【0039】
イミド化樹脂(A)を製造する方法は特に限定されない。イミド化樹脂(A)は、典型的には、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル-芳香族ビニル共重合体、又はメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体を、イミド化剤により処理してイミド化する方法で製造することができる。イミド化剤としては、式(1)中の、Rの種類に応じたアミン化合物が使用される。例えば、Rがメチル基である場合、イミド化剤としてはメチルアミンが使用される。
イミド化剤によるイミド化は、押出機等を用いて行われてもよく、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いて行われてもよい。
【0040】
押出機を用いてイミド化樹脂(A)を製造する場合、例えば、単軸押出機、二軸押出機、又は三軸以上の多軸押出機を用いることができる。
原料ポリマーに対するイミド化剤の混合を促進できる点で、押出機としては、二軸押出機が好ましい。
二軸押出機の方式には、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等がある。二軸押出機の方式は、これらの方式のいずれであってもよい。
高速回転可能であって、原料ポリマーに対するイミド化剤の混合の促進が容易である点で、二軸押出機の方式としては、噛合い型同方向回転式が好ましい。
押出機は、1台を単独で用いてもよく、2台以上の複数台を直列に接続して用いてもよい。
【0041】
押出機は、未反応のイミド化剤、メタノール等の副生物、未反応のモノマー類を除去するために、ベント口を備えているのが好ましい。ベント口は、大気圧以下に減圧可能であるのが好ましい。
【0042】
イミド化樹脂(A)は、住友重機械プロセス機器株式会社製のバイボラック(登録商標)のような横型二軸反応装置や、スーパーブレンドのような竪型二軸撹拌槽等の高粘度対応の反応装置を用いて製造することもできる。
【0043】
イミド化樹脂(A)をバッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、原料ポリマーを加熱により溶融させることができ、溶融した原料ポリマーを十分に撹拌でき、イミド化剤や閉環促進剤等を反応槽に添加できる限り、反応槽の構造は特に限定されない。
反応の進行によりポリマーの粘度が上昇することを考慮すると、反応槽が、撹拌効率が良好な撹拌装置を有するのが好ましい。撹拌効率が良好な撹拌装置としては、住友重機械プロセス機器株式会社製のマックスブレンド(登録商標)等が挙げられる。
【0044】
イミド化樹脂(A)を製造する際、副生するカルボキシ基や酸無水物基を減少させる目的で、エステル化剤による変性を行うことも可能である。
【0045】
エステル化剤の具体例としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2-ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル-tert-ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ-N-ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、及びベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0046】
<マスターバッチ>
イミド化樹脂組成物は、後述する滑剤(B)を、イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%(15質量ppm)以上0.01質量%(100質量ppm)以下という少量含む。このため、押出機を用いて、イミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを溶融混錬してイミド化樹脂組成物を製造する場合、押出機内への滑剤(B)の安定した供給や、イミド化樹脂組成物中に滑剤(B)を均一に分散させることが困難である。この点、滑剤(B)を、基材と滑剤(B)とを含むマスターバッチとして押出機に供給することにより、上記の少量の滑剤(B)を、添加量のばらつきを抑制しつつ安定してイミド化樹脂(A)に配合でき、またイミド化樹脂組成物中に滑剤(B)を均一に分散させやすい。
【0047】
マスターバッチにおける滑剤(B)の含有率は、所望する量の滑剤(B)を含むイミド化樹脂組成物を製造できる限り特に限定されない。
マスターバッチにおける滑剤(B)の含有率は、マスターバッチの質量に対して0.1質量%(1,000質量ppm)~10質量%(100,000質量ppm)が好ましく、0.2質量%(2,000質量ppm)~5質量%(50,000質量%)がより好ましい。
マスターバッチにおける滑剤(B)の含有率が上記の範囲内であると、マスターバッチが、十分な量の滑剤(B)を含有しつつ、滑剤(B)が基材により十分に希釈された状態であるので、押出機中のイミド化樹脂(A)に対する、所望する量の滑剤(B)の安定した供給が特に容易である。
【0048】
マスターバッチの形態としては、マスターバッチを押出機内に定量的に供給できる限り特に限定されない。マスターバッチの形態としては、液状であっても固体状であってもよく、固体状が好ましい。固体状のマスターバッチの形態としては、粉体状、顆粒状、又はペレット状が好ましい。
【0049】
マスターバッチの製造方法は、基材と滑剤(B)とを均一に混合できる限り特に限定されない。
例えば、粉体状の滑剤(B)と粉体状の基材とを均一に混合した粉体混合物として、マスターバッチを製造してもよい。
また、粉体状の滑剤(B)と粉体状の基材とを均一に混合して、周知の方法に従い顆粒化したり、打錠のような方法によりペレット化したりして、マスターバッチを製造してもよい。
粉体状の滑剤(B)と粉体状の基材とを用いて顆粒やペレットを製造する場合、イミド化樹脂組成物の性質に悪影響を及ぼさない範囲で、公知の結着剤や賦形剤を用いてもよい。
【0050】
また、溶融した基材と、粉体状、又は融液状の滑剤(B)とを均一に混合した後、得られた混合物を冷却して固化させつつ、周知の方法により顆粒化、又はペレット化してマスターバッチを製造してもよい。溶融した基材と、粉体状、又は融液状の滑剤(B)とを均一に混合する方法としては、単軸押出機や二軸押出機等の押出機を用いる方法が挙げられる。
【0051】
〔基材〕
基材としては、イミド化樹脂組成物の透明性等の物性に過度の悪影響を与えず、マスターバッチをイミド化樹脂と混合する際の溶融混錬において、熱分解しにくい材料であれば特に限定されない。
基材としては、例えば、熱可塑性樹脂や、紫外線吸収剤や酸化防止剤等の従来より種々の樹脂に添加されている添加剤が挙げられる。上記の添加剤としては、紫外線吸収剤が好ましい。つまり、基材としては、熱可塑性樹脂、及び/又は紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤は、その性情に起因して押出機に定量的に供給することが困難な場合がある。紫外線吸収剤は、ブリッジやブロッキングを生じやすく粉体としての流動性に劣ることが多い。この点、紫外線吸収剤と滑剤(B)とを混合してマスターバッチ化することにより、紫外線吸収剤の流動性等の粉体特性が改良される。その結果、基材としての紫外線吸収剤と、滑剤(B)とを含むマスターバッチを用いることにより、滑剤(B)のみならず紫外線吸収剤のイミド化樹脂(A)への定量的な供給が容易になる。
【0052】
マスターバッチは、1種の基材のみを含んでいてもよく、2種以上の基材を含んでいてもよい。例えば、マスターバッチは、熱可塑性樹脂と、紫外線吸収剤とを組み合わせて基材として含んでいてもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、前述のイミド化樹脂;低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン等のポリオレフィン類;ポリメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PNE)、ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12、ナイロン6,12、MXDナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;等を用いることができる。
これらの熱可塑性樹脂の中では、イミド化樹脂組成物の物性への悪影響が少なく、滑剤(B)をイミド化樹脂組成物に均一に分散させやすいことから、前述のイミド化樹脂、及びポリメチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。
【0054】
紫外線吸収剤としては、特に限定されず、従来より種々の樹脂に配合されている紫外線吸収剤を用いることができる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物、シュウ酸アニリド化合物、シアノアクリレート化合物、サリシレート化合物、ベンゾフェノン化合物等を用いることができる。これらの中では、イミド化樹脂組成物の耐光性の観点から、トリアジン化合物が好ましい。
【0055】
トリアジン化合物としては、例えば、2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシフェニル-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチルオキシ)フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]フェノール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、及び2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-アルコキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンが好ましい。
2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-アルコキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンが有するアルコキシ基は、炭素原子数1~10の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基が好ましい。2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-アルコキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンとしては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンが好ましい。
【0056】
以上説明したトリアジン化合物の中では、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノール、及び2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-アルコキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンが好ましい。
【0057】
2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[2-(2-エチルヘキサノイルオキシ)エトキシ]フェノールは、アデカスタブLA-46(株式会社ADEKA製)として入手可能である。2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンは、アデカスタブLA-F70(株式会社ADEKA製)として入手可能である。
【0058】
基材として紫外線吸収剤を用いる場合、イミド化樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有率は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。紫外線吸収剤は、イミド化樹脂(A)の質量に対して、0.1質量%~3質量%含まれるのが好ましく、0.2質量%~2質量%含まれるのがより好ましい。
イミド化樹脂組成物が、上記の範囲内の量の紫外線吸収剤を含む場合、イミド化樹脂組成物の紫外線による劣化を良好に抑制でき、且つ、イミド化樹脂組成物を用いて形成されるフィルム等の成形品の透明性や機械的特性等への悪影響が特に少ない。
所望する量の滑剤(B)がイミド化樹脂組成物に含まれるようにマスターバッチを使用した場合に、イミド化樹脂組成物における紫外線吸収剤の含有量が所望する量に満たない場合、マスターバッチとは別に、イミド化樹脂組成物に紫外線吸収剤が添加されてもよい。
【0059】
〔滑剤(B)〕
滑剤(B)としては、熱可塑性樹脂、特にアクリル系樹脂、さらにイミド化樹脂に対して一般的に配合されている滑剤を特に制限なく用いることができる。
滑剤(B)の好適な例としては、脂肪酸アミド系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、金属石鹸系滑剤、高分子系滑剤、脂肪族炭化水素系滑剤、脂肪族アルコール系滑剤、及び脂肪族酸系滑剤が挙げられる。
滑剤(B)としては、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
脂肪酸アミド系滑剤は、脂肪酸と、アンモニア、アミン、又は尿素とが縮合したアミド化合物である。脂肪酸は、2価以上の多価カルボン酸であってもよい。アミンは、2価以上の多価アミンであってもよい。
脂肪酸アミド系滑剤の好ましい具体例としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、N-オレイルパルミトアミド、N-ステアリルエルカアミド、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物等が挙げられる。
【0061】
脂肪酸エステル系滑剤は、脂肪酸とアルコールとが縮合した化合物である。脂肪酸は、2価以上の多価カルボン酸であってもよい。アルコールは、2価以上の多価アルコールであってもよい。脂肪酸エステル系滑剤としては、1価アルコールの高級脂肪酸エステル、多価アルコールの高級脂肪酸(部分)エステル、モンタン酸エステル、モンタン酸部分ケン化エステル、及びモンタン酸の複合エステルが挙げられる。
脂肪酸エステル系滑剤の好ましい具体例としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸縮合エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸エステル、トリメチロールプロパントリオレート、トリメチロールプロパントリ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ネオペンチルグリコールジオレート、ペンタエリスリトールテトラオレート、ペンタエリスリトールテトラオレイン酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ネオペンチルグリコールジカプリン酸エステル、トリメチロールプロパンジカプリン酸エステル、ジペンタエリスリトールヘキサイソノナン酸エステル、トリメチロールプロパン脂肪酸縮合エステル等が挙げられる。
【0062】
金属石鹸系滑剤としては、公知の任意の金属石鹸系滑剤を用いることができる。金属石鹸系滑剤は、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ひまし油脂肪酸等の脂肪酸の金属塩である。金属塩としては、アルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。
金属石鹸系滑剤の好ましい具体例としては、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。これらの中では、ステアリン酸亜鉛がより好ましい。
【0063】
高分子系滑剤としては、公知の任意の高分子系滑剤を用いることができる。
高分子系滑剤の好ましい具体例としては、アクリル酸アルキル・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体等が挙げられる。
【0064】
脂肪族炭化水素系滑剤としては、公知の任意の脂肪族炭化水素系滑剤を用いることができる。
脂肪族炭化水素系滑剤の好ましい具体例としては、例えば、ポリエチレンワックス等のポリオレフィンワックス、C16以上の流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、並びにこれらの部分酸化物、フッ化物、塩化物等が挙げられる。
【0065】
脂肪族アルコール系滑剤としては、公知の任意の脂肪族アルコール系滑剤を用いることができる。
脂肪族アルコール系滑剤の好ましい具体例としては、例えば、ヘキサノール(カプロイルアルコール)、オクタノール(カプリルアルコール)、デカノール(デシルアルコール)、ドデカノール(ラウリルアルコール)、テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ヘキサデカノール(セチルアルコール)、オクタデカノール(ステアリルアルコール)、エイコサノール(アラキジルアルコール)、ドコサノール(ベヘニルアルコール)等が挙げられる。これらの中では、オクタデカノール(ステアリルアルコール)が好ましい。
【0066】
脂肪酸系滑剤としては、公知の任意の脂肪酸系滑剤を用いることができる。
脂肪酸系滑剤の好ましい具体例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の飽和脂肪酸や、オレイン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0067】
上記の滑剤(B)の中では、イミド化樹脂組成物を用いて形成されたフィルムにおける横ダンの抑制効果が高いことから、脂肪酸アミド系滑剤が好ましく、ステアリン酸アミドがより好ましい。
【0068】
<その他の成分>
イミド化樹脂組成物は、必要に応じて、安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー等の公知の添加剤やその他の樹脂を含有してもよい。ここで、上記の添加剤やその他の樹脂は、マスターバッチにおける基材とは別に、イミド化樹脂組成物に配合される材料である。
【0069】
<イミド化樹脂組成物の製造方法>
イミド化樹脂組成物の製造方法は、
押出機のメインフィード口から、イミド化樹脂(A)を押出機内に供給することと、
押出機内の溶融したイミド化樹脂(A)に対して、滑剤(B)を添加することと、
押出機内で、イミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを混錬することと、
押出機内から吐出されるイミド化樹脂組成物を回収することと、
を含む。
【0070】
押出機内へのイミド化樹脂(A)の供給は、押出機のメインフィード口から常法に従いイミド化樹脂(A)を供給することにより行われる。
例えば、定量フィーダー等を用いてイミド化樹脂(A)のペレットを供給する方法により、押出機内にイミド化樹脂(A)を供給してもよい。
また、前述の方法に従い押出機等を用いて、イミド化樹脂(A)を製造する場合、押出機等のイミド化樹脂(A)の製造装置の吐出口から、イミド化樹脂組成物の製造に使用される押出機のメインフィード口に、溶融したイミド化樹脂(A)を直接供給してもよい。この場合、通常、イミド化樹脂(A)の製造装置の吐出口と、イミド化樹脂組成物の製造に使用される押出機のメインフィード口とが、配管により接続される。
【0071】
押出機内へのイミド化樹脂(A)の供給量は特に限定されない。押出機内へのイミド化樹脂(A)の供給量は、押出機のサイズ、押出機内でのイミド化樹脂(A)の滞留時間等を勘案して適宜定められる。
【0072】
押出機内に供給されたイミド化樹脂(A)は、溶融した状態で、押出機内で滑剤(B)を含むマスターバッチと溶融混錬される。押出機のスクリュー構成は、滑剤(B)をイミド化樹脂組成物中に均一に分散させることができる限り特に限定されない。
【0073】
マスターバッチは、押出機において、メインフィード口よりも押出方向下流側に位置するサイドフィード口から押出機内に供給される。これにより、滑剤(B)の熱分解や揮発が抑制され、イミド化樹脂組成物への所望する量の滑剤(B)の添加が容易である。
【0074】
マスターバッチは、得られるイミド化樹脂組成物において、滑剤(B)の含有率が、イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%(15質量ppm)以上0.02質量%(200質量ppm)以下であるように供給される。
イミド化樹脂組成物における、滑剤(B)の含有率は、イミド化樹脂(A)の質量に対して0.0020質量%(20質量ppm)以上0.02質量%(200質量ppm)以下が好ましく、0.0025質量%(25質量ppm)以上0.015質量%(150質量ppm)以下がより好ましく、0.0030質量%(30質量ppm)以上0.010質量%(100質量ppm)以下がさらに好ましい。
【0075】
イミド化樹脂組成物における滑剤(B)の含有量が過多である場合、イミド化樹脂組成物を成形する際に、加熱による滑剤(B)に起因する揮発分が生じやすい。滑剤(B)に起因する揮発分が多量に生じると、ロール等の成形性装置が揮発分の付着により汚染されやすく、フィルム等の成形品の外観が損なわれたり、ロール等のクリーニング作業を高頻度で行うことによって成形品の製造効率が低下したりする問題が生じる。イミド化樹脂組成物における滑剤(B)の含有量が過少である場合、滑剤(B)の使用による、横ダンの発生の抑制効果を所望する程度に得にくい。
【0076】
押出機内でイミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを溶融混錬する場合、溶融混錬の条件に応じた滑剤(B)の揮散を勘案して、イミド化樹脂組成物中での所望する滑剤(B)の量よりも多い量の滑剤(B)を用いてもよい。例えば、イミド化樹脂組成物における滑剤(B)の含有量に対して1.01倍~10倍、好ましくは1.05倍~5倍、より好ましくは1.1倍~3倍の量の滑剤(B)が、押出機内に供給されてもよい。
【0077】
押出機内でイミド化樹脂(A)と、滑剤(B)とを溶融混錬する場合、押出機内での滑剤(B)の滞留時間は、滑剤(B)の過度の熱分解や揮散を抑制しつつ、イミド化樹脂組成物に所望する量の滑剤(B)を含有させる観点から、50秒以上300秒以下が好ましく、70秒以上200秒以下がより好ましい。
【0078】
押出機内でイミド化樹脂(A)と滑剤(B)とを溶融混錬する場合、押出機のバレル温度は、イミド化樹脂(A)が溶融する限り特に限定されない。また、滑剤(B)を含むマスターバッチが、基材として熱可塑性樹脂を含む場合、イミド化樹脂組成物に滑剤(B)を均一に分散させる観点から、押出機のバレル温度は、当該熱可塑性樹脂が溶融する温度であるのが好ましい。
イミド化樹脂(A)やマスターバッチに含まれる成分の熱分解や熱劣化を抑制しつつ、溶融混錬を特に良好に行うことができることから、押出機のバレル温度は、典型的には、180℃以上280℃以下が好ましく、200℃以上270℃以下がより好ましい。
【0079】
以上のようにして押出機内で溶融混錬されたイミド化樹脂(A)と滑剤(B)とは、イミド化樹脂組成物として押出機の吐出口より吐出される。吐出口より吐出されるイミド化樹脂組成物を回収する方法は特に限定されない。吐出口から吐出されるイミド化樹脂組成物は、通常、冷却されながらストランド状に引き取られ、ペレタイザーにより切断されることによりペレット化される。
【0080】
<フィルム>
以上説明したイミド化樹脂組成物を成膜することにより、イミド化樹脂組成物からなるフィルムが提供される。かかるフィルムは、単層のフィルムとして使用されてもよく、積層フィルムとして使用されてもよい。積層フィルムにおける1層、又は2層以上が、前述のイミド化樹脂組成物からなるフィルムである。
イミド化樹脂組成物からなる単層のフィルムの厚さは、特に限定されず、フィルムの用途に応じて適宜選択される。イミド化樹脂組成物からなる単層のフィルムの厚さは、10μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上60μm以下がより好ましい。
上記のフィルムは、例えば、ディスプレイ用の光学フィルムとして好適に使用することができる。ディスプレイ用の光学フィルムとしては、例えば、偏光子保護フィルム等の保護フィルムが挙げられる。
【0081】
上記のフィルムは延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムは未延伸フィルム(原反フィルムともいう)を延伸して得られる。未延伸フィルムを延伸することにより所望の厚さの延伸フィルムを製造することができたり、延伸フィルムの機械的特性を向上させることができる。延伸方法としては従来公知の方法を用いることができる。例えば溶融押出により成形した未延伸の原反フィルムを、一軸延伸、又は二軸延伸して所定の厚さの延伸フィルムを製造することができる。
【0082】
偏光子保護フィルムには、透明性に優れることが望まれる。上記のフィルムが偏光子保護フィルムとして使用される場合、フィルムのヘイズが小さいことが好ましい。フィルムのヘイズは、0.4以下が好ましく、0.3以下が好ましく、0.2以下がより好ましい。
ここでフィルムのヘイズは、Tダイ法により製造された膜厚40μmのフィルムを、温度135℃にてMD方向、TD方向ともに2倍の倍率で延伸された延伸フィルムのヘイズ値である。ヘイズ値は、例えば、日本電色工業のヘイズメーター「NDH2000」を用いて測定できる。
【実施例0083】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0084】
〔製造例1〕
(イミド化樹脂の製造)
第1押出機と第2押出機とを2台直列に並べたタンデム型押出反応機を用いて、樹脂を製造した。第1押出機及び第2押出機としては、ともに、直径75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74である同方向噛合型二軸押出機を使用した。第1押出機及び第2押出機は、直径38mm、長さ2mの配管で接続された。第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口とを接続する部品内圧力制御機構としては、定流圧力弁を用いた。
【0085】
定重量フィーダー(株式会社クボタ製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
第1押出機及び第2押出機における各ベントの減圧度は-0.095MPaであった。
第1押出機に関して、原料の樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド化樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部温度を280℃、スクリュー回転数を55rpm、原料樹脂供給量を150kg/時間、モノメチルアミンの添加量を原料樹脂100質量部に対して2.0質量部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口の直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部の圧力を8MPaに調整した。
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザーでカッティングし、ペレットとした。
ここで、第1押出機の樹脂の吐出口と第2押出機原料供給口とを接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機出口、第1押出機と第2押出機との接続部品中央部、及び第2押出機出口に樹脂圧力計を設けた。
【0086】
第2押出機に関して、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化反応試剤及び副生成物を脱揮した後、エステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンとの混合溶液を添加し、イミド化樹脂を製造した。この際、押出機の各バレル温度を260℃、スクリュー回転数を55rpmとした。炭酸ジメチルの添加量は、原料樹脂100質量部に対して3.2質量部であった。トリエチルアミンの添加量は、原料樹脂100質量部に対して0.8質量部であった。さらに、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザーでペレット化することで、イミド化樹脂を得た。
得られたイミド化樹脂について、イミド化率は3.7%であり、酸価は0.29mmol/gであり、カルボン酸量は0.05mmol/gであった。
【0087】
〔製造例2〕
紫外線吸収剤としての2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(アデカスタブLA-F70、株式会社ADEKA製)の粉体と、滑剤としてのステアリン酸アミドの粉体とを、粉体ブレンダー(スーパーミキサー、株式会社カワタ製)を用いてブレンドして、紫外線吸収剤と滑剤とを含むマスターバッチを得た。
上記の紫外線吸収剤は、ブリッジやブロッキングを生じやすく粉体としての流動性に劣る。この点、滑剤としてのステアリン酸アミドを、上記の紫外線吸収剤と混合してマスターバッチ化することにより、流動性等の粉体特性が改良された。
マスターバッチの質量に対する滑剤の含有率は、10,000質量ppmであった。
【0088】
〔製造例3〕
製造例1で用いたポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)と、滑剤としてのステアリン酸アミドとを、バレル温度280℃にて押出機により溶融混錬して、滑剤を含むマスターバッチを得た。マスターバッチの形態は、ペレット形態であった。
マスターバッチの質量に対する滑剤の含有率は、2,000質量ppmであった。
【0089】
〔実施例1〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して1質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して100質量ppmであった。
製造例2でマスターバッチの製造に用いた紫外線吸収剤自体は、流動性に劣る微粉体であるため、当該紫外線吸収剤のサイドフィード口からの押出機への定量的な供給が困難である。この点、製造例2で得たマスターバッチは、サイドフィード口から押出機に定量的に供給できた。
【0090】
〔実施例2〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して0.5質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して50質量ppmであった。
【0091】
〔実施例3〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例3で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して5質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して50質量ppmであった。
【0092】
〔実施例4〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例3で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して5質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することと、製造例2で用いた紫外線吸収剤を、イミド化樹脂100質量部に対して1質量部、マスターバッチを供給するサイドフィード口とは別のサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して50質量ppmであった。
実施例4では、紫外線吸収剤を、マスターバッチとは別にフィードした。実施例4では、マスターバッチを定量的に押出機に供給できたが、紫外線吸収剤については、押出機への供給はできたが、紫外線吸収剤の粉体の粘着性に起因して押出機への定量的な供給が出来なかった。
【0093】
〔比較例1〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して0.1質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して10質量ppmであった。
【0094】
〔比較例2〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、滑剤としてのステアリン酸アミドを、イミド化樹脂の質量に対して50質量ppm、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
しかし、滑剤の供給量が少な過ぎたことに起因して、イミド化樹脂組成物に定量的に所望する量の滑剤を配合することができなかった。
【0095】
〔比較例3〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して10質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して1000質量ppmであった。
【0096】
〔比較例4〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して5質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して500質量ppmであった。
【0097】
〔比較例5〕
第1押出機から第2押出機に供給されるイミド化樹脂に対して、製造例2で得たマスターバッチを、イミド化樹脂100質量部に対して3質量部、第2押出機が備えるサイドフィード口から供給することの他は、製造例1と同様に方法により、イミド化樹脂組成物のペレットを得た。
得られたイミド化樹脂組成物における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対して300質量ppmであった。
【0098】
得られた各実施例、及び比較例のイミド化樹脂組成部を用いて、以下の方法に従ってフィルムを製造し、ロール汚染の評価と、揮発ガス量の評価と、横ダンの評価と、ヘイズの評価とを行った。
【0099】
<フィルムの製造>
目開き5μmのリーフディスクフィルターを備えた、出口にTダイを接続した単軸押出機を用いてフィルムを製造した。押出機の温度調整ゾーンの設定温度を260℃、スクリュー回転数を20rpmとした。各実施例、及び各比較例のペレットを10kg/hrの割合で、押出機に供給し、溶融押出されたフィルムをキャストロールにより引き取ることにより、膜厚40μmのフィルムを得た。
【0100】
<ロール汚染評価>
上記の方法によりフィルムを製造した際に、キャストロールの表面を目視で観察し、以下の基準に従い、ロール汚染を評価した。
0:目視評価でキャストロールに付着物が全くない
1:目視評価でキャストロールに僅かに付着物が見られる
2:目視評価でキャストロールのフィルム接触部分の面積の1/10程度に付着物が見られる
3:目視評価でキャストロールのフィルム接触部分の面積の1/5程度に付着物が見られる
4:目視評価でキャストロールのほぼ全面に付着物があるが、僅かに付着していない箇所が見られる
5:目視評価でキャストロール全面に付着物があり、キャストロールの鏡面光沢が全く見られない
【0101】
<揮発ガス評価>
揮発ガスについて、フィルム製造時にダイを目視で観察して、以下の基準に従って評価した。
0:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが全くない
1:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが断続的に僅かに発生している
2:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが僅かに発生している
3:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが断続的に発生している
4:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが常時発生している
5:目視評価で樹脂がダイから吐出される際の揮発ガスが常時大量に発生している
【0102】
<横ダン評価>
上記の方法に従って得られたフィルム(原反)を、炉内温度135℃の条件でMD方向、TD方向ともに2倍の倍率で延伸して延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムを目視で観察して、以下の基準に従って横ダンの評価を行った。横ダンは、縦延伸されたフィルムにおいて発生するTD方向の皺(典型的には筋)である。
〇:目視評価で横ダンが全く見られない
×:目視評価で横ダンが見られる
【0103】
<ヘイズ評価>
日本電色工業のヘイズメーター「NDH2000」を用いて、横ダン評価と同様にして得られた延伸フィルムのヘイズを測定した。
【0104】
表1に、滑剤の添加方法と、滑剤に含まれる基材の種類と、滑剤の含有率と、ロール汚染の評価結果と、揮発ガス量の評価結果と、横ダンの評価結果と、ヘイズの評価結果とを記す。
なお、表1における滑剤の含有率は、イミド化樹脂の質量に対する滑剤の含有率である。
【0105】
【表1】
【0106】
表1によれば、前述の所定の単位を所定量含み、芳香族ビニル単位を含まないイミド化樹脂に対して、マスターバッチとして、滑剤をイミド化樹脂(A)の質量に対して0.0015質量%(15質量ppm)以上0.01質量%(100質量ppm)以下の量配合することにより、フィルム等の成形品の外観不良の原因となるロール汚染や、揮発ガスの発生を抑制しつつ、横ダンの発生を抑制できることが分かる。
他方、比較例1によれば、滑剤の配合量が過少である場合、横ダンの発生を抑制できないことが分かり、比較例3~5では、滑剤の配合量が過多である場合、フィルム等の成形品の外観不良の原因となるロール汚染や、揮発ガスの発生が起こりやすいことが分かる。
また、比較例2によれば、滑剤をマスターバッチとして配合しなければ、所定の少量の滑剤をイミド化樹脂に定量的に安定して配合することが困難であることが分かる。