(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113646
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】人乳オリゴ糖産生微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023077636
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2020505310の分割
【原出願日】2018-08-01
(31)【優先権主張番号】17184232.1
(32)【優先日】2017-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】519068788
【氏名又は名称】オリゴサイエンス バイオテクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ペラチャ,マクス
(72)【発明者】
【氏名】ウェンホフ,サブリナ
(72)【発明者】
【氏名】メインハルト,フリードヘルム
(57)【要約】 (修正有)
【課題】人乳オリゴ糖(HMO)を産生する、遺伝子組換え微生物、及びそれを用いる人乳オリゴ糖の産生方法を提供する。
【解決手段】人乳オリゴ糖(HMO)産生用の遺伝子組換え微生物であって、前記微生物が、場合によっては、細菌、好ましくは、大腸菌(E.coli)である、遺伝子組換え微生物を提供する。本発明の当該微生物には、細胞内、及び細胞外のHMOを容易に抽出しうる、誘導溶菌系、細胞内ラクトースレベルを高めうる、ラクトース透過酵素変異体、又はHMOの産生の主要な酵素の細胞内可用性を高めうる、シャペロンを含む、1又はそれ以上、の産生を向上させうる改変がされてよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人乳オリゴ糖産生用の遺伝子組換え微生物であって、前記微生物が、場合によっては、細菌、好ましくは、大腸菌(E.coli)である、遺伝子組換え微生物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人乳オリゴ糖(human milk oligosaccharide;HMO)を産生する、遺伝子組換え微生物、及び当該微生物を用いてHMOを産生する方法に関する。本発明はさらに、本発明の微生物が培養される培地、本発明の製造方法により産生された、精製HMO、及び当該培地、及び当該HMOの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人乳オリゴ糖(HMO)は、ヒト母乳中に見出される、構造的に多様な非抱合型グリカンである。現在までに、200以上のHMOが同定されており、これらはすべて5つの単糖構成要素、すなわちD-ガラクトース(Gal)、D-グルコース(Glc)、N-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)、L-フコース(Fuc)、及びシアル酸誘導体である、N-アセチル-ノイラミン酸(非特許文献1)のみから構成される。還元末端は、ラクトース、又は、ラクト-N-ビオース(Gal-β1,3-GlcNAc、I型)、又はラクトサミン(Gal-β1,4-GlcNAc、II型、LacNAc)である、2構造の、いくつかの二糖単位で伸長された(extended)ラクトースであってよい。HMOの構造、及び分類は、例えば、非特許文献1の
図1、及び表1に記載がある。
【0003】
HMOでは、2’-フコシルラクトース(2-FL)が最も豊富で、全てのHMOの約30%を占める。さらなる顕著なHMOは、3’-フコシルラクトース(3-FL)である。他のHMOは、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、及びラクト-N-フコペンタオースIである。人乳には、当該中性HMO、並びに、酸性HMOである、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、及び3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ジシアリルーラクトーN-テトラオース等も存在する。HMOは、カンピロバクター・ジェジュニ菌(Campylobacter jejuni)、腸管病原性大腸菌(Escherichia coli;E.coli)、及び赤痢アメーバ菌(Entamoeba histolytica)等の病原体を、防御することが知られている(非特許文献2)。2-FLは、毒素や病原体の上皮レベルでの付着を防ぐことにより、感染症を予防する機能があると考えられる。それは、ある種のビフィズス菌、及び受容体アナログの増殖を刺激して、乳児に最も高頻度にみられる毒性、及び病原性の攻撃に対して防御を行う。このような知見に基づき、HMO、特に、2-FL、及び3-FLを、乳児栄養、医療用栄養、機能性食品、及び動物用飼料等の製品の、機能性成分として用いることに、特に、関心がもたれる。
【0004】
HMOは、ヒト母乳、又は牛乳から抽出されることができる。しかし、いずれの場合も、大量に獲得すること、及び/又は十分な純度で獲得することは、困難である。
【0005】
HMOは化学的に合成されてもよいが、そのための技術は安定しておらず、HMOを化学的に合成する費用は、高価である。
【0006】
その一方で、遺伝子組換え微生物におけるHMO産生は、安定で安全な産生手段を低コストで提供する見込みがある。特許文献1は、lacZ遺伝子の不活化を含む、前駆体ラクトース由来の、遺伝子組換えされた大腸菌細胞による、オリゴ糖の産生方法を記載する。特許文献2~5は、さらに、遺伝子組換え微生物において、2-FL、又は3-FLを産生する、異なるフコシル転移酵素を記載する。非特許文献3は、遺伝子組換え大腸菌における、2-FL、又は3-FLの生合成、及びそれに対する複数のモジュール最適化戦略を記載する(非特許文献3)。特許文献4は、培地への2-FLの放出を高める、糖放出体(exporter)を発現する大腸菌を記載する。
【0007】
2-FLは、ラクトースとフコースからなる(非特許文献4)。大腸菌における、2-(3-)-FLの生合成経路を、
図1に模式的に示す。大腸菌は、特定の輸送体を介して、前駆体であるグルコースとラクトースを細胞内に取り込むことができる。グルコースは、リン酸転移酵素系を介して吸収され、グルコース6-リン酸に変換される。後者は、成長を促進する炭素源、及びエネルギー源として、かつ、コラン酸生合成の中間体である、GDP-L-フコースの前駆体として、機能する。GDP-L-フコースのde novo生合成経路は、解糖中間体であるフルクトース6-リン酸に由来し、すべて、大腸菌由来である、ManA(マンノース6-リン酸異性化酵素)、ManB(ホスホマンノムターゼ)、GTP依存性ManC(マンノース1-リン酸グアニリル転移酵素)、Gmd(GDP-D-マンノース4,6-脱水酵素(dehydratase))、及びNADPH依存性WcaG(GDP-L-フコース合成酵素)という酵素に基づく(
図2)。第2の前駆体であるラクトースは、ラクトース/H
+共輸送体である、ラクトース透過酵素(permease)LacYを介して細胞内に吸収される。2-FL産生の主要な酵素は、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌;Helicobacter pylori)由来の、α-1,2-フコシル転移酵素(FutC)であり、供与体のGDP-L-フコースのフコース部分を受容体のラクトースに転移し、2-FLを産生する(
図2)。α‐1,3‐フコシル転移酵素をコードするピロリ菌由来のfutA遺伝子で、futC遺伝子を置換することで、当該生合成経路を、3’-フコシルラクトースの産生に利用しうる。
【0008】
最近の進歩にもかかわらず、遺伝子組換え微生物におけるHMO、特に2-FL、及び/又は3-FLの生物工学的産生を改良する方法が、依然として必要である。本発明は、大腸菌における、既知の2-FL生合成経路による、HMOの合成、及び培地へのその放出を、有意に改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,521,212号明細書
【特許文献2】欧州特許第2675899号明細書
【特許文献3】欧州特許第2877574号明細書
【特許文献4】欧州特許第2440661号明細書
【特許文献5】欧州特許第3191499号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Petschacher and Nidetzky, J Biotechnol. 2016, 235:61-83
【非特許文献2】Bode, Early Hum Dev. 2015; 91(11):619-22
【非特許文献3】Huang et al., Metab Eng. 2017;(41):23-38
【非特許文献4】Pereira & McDonald, Sci Rep. 2012; 84(1):637-655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、HMO産生を改良する微生物、及びそれを用いたHMO産生方法、を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特に、本発明は、細胞内画分を得るためのさらなるプロセシング工程が必要なく、細胞内、及び細胞外のHMOの抽出を容易にしうる、誘導溶菌系を含む、微生物を提供する。誘導溶菌系の好ましい例としては、Mg2+で調節される自己誘導溶菌系があり、当該系では、細胞は、Mg2+欠乏条件、すなわち、細胞外Mg2+濃度が、特定の閾値を下回る場合に、溶菌される。細胞が溶菌されると、細胞内のHMOが培地に放出され、培地中のHMO濃度が、高まる。これにより、有利には、HMOの収率が向上し、かつ、時間、及びコストの節約につながりうる。
【0013】
本発明はまた、ラクトース透過酵素をコードする、外因性遺伝子を含む微生物を提供する。ラクトース透過酵素は、好ましくは、野生型LacYと比較して、細胞内ラクトースによる阻害を受けにくい、LacYの変異体である。これは、有利には、HMOの収率を向上させうる。
【0014】
本発明はさらに、本発明の上記微生物を用いて、HMOを産生する方法を提供する。
【0015】
また、HMOを産生する方法において、本発明の微生物が培養された、培地、及び本発明のHMOを産生する方法により得られた、精製HMOを提供する。
【0016】
好適な実施形態は以下のとおりである:
1. 人乳中のオリゴ糖を産生する、遺伝子組換え微生物。
2. 前記微生物が細菌である、1.に記載の、遺伝子組換え微生物。
3. 前記微生物が大腸菌である、1.、又は2.に記載の、遺伝子組換え微生物。
4. 前記遺伝子組換え微生物が、誘導溶菌系を備えることを特徴とする、1.~3.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
5.前記誘導溶菌系が自己誘導性である、4.に記載の、遺伝子組換え微生物。
6. 前記誘導溶菌系がMg2+により調節される、4.、又は5.に記載の、遺伝子組換え微生物。
7. 前記誘導溶菌系が、外因性遊離Mg2+濃度により調節される、4.~6.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
8. 前記微生物がMg2+調節プロモーターを含む、4.~7.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
9. 前記Mg2+調節プロモーターが、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)のmgtB遺伝子由来のPmgtプロモーター、又は大腸菌のPmgtAプロモーター、である、8.に記載の、遺伝子組換え微生物。
10. 前記微生物が、さらに、さらなるMg2+調節要素、好ましくは、大腸菌のmgtA遺伝子の5’UTR、を含む、8.、又は9に記載の、遺伝子組換え微生物。
11. 前記微生物が溶菌遺伝子を含む、4.~10.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
12. 前記溶菌遺伝子が、バクテリオファージ由来の溶菌遺伝子である、11.に記載の、遺伝子組換え微生物。
13. 前記バクテリオファージが、ラムダバクテリオファージである、12.に記載の、遺伝子組換え微生物。
14. 前記溶菌遺伝子は、ラムダバクテリオファージ溶菌遺伝子SRz、又はラムダバクテリオファージ変異体Sam7溶菌遺伝子である、13.に記載の、遺伝子組換え微生物。
15. 前記溶菌遺伝子が、遊離Mg2+欠乏条件下で、誘導的に発現される、11.~14.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
16. 前記微生物が、Mg2+調節プロモーター、及び溶菌遺伝子を含み、前記溶菌遺伝子の発現が、Mg2+調節プロモーター、及び、場合によっては、さらなるMg2+調節要素、により制御される、4.~15のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
17. 前記遺伝子組換え微生物が、ラクトースを、グルコース、及びガラクトースに分解できない、1.~16.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
18. lacオペロンが、不活化されている、1.~17.の、遺伝子組換え微生物。
19. 前記微生物が、ラクトース透過酵素をコードする外因性遺伝子を含む、1.~18.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
20. 前記ラクトース透過酵素が、大腸菌LacYタンパク質である、19.に記載の、遺伝子組換え微生物。
21. 前記ラクトース透過酵素のA198V、及び/又はS209Iの変異がある、19.、又は20に記載の、遺伝子組換え微生物。
22. 前記人乳オリゴ糖が、2’-フコシルラクトース、及び/又は3’-フコシルラクトースである、1.~20.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
23. フコシル転移酵素をコードする外因性遺伝子を含む、1.~22.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
24. 前記フコシル転移酵素が、α-1,2-フコシル転移酵素、及び/又はα-1,3-フコシル転移酵素である、23.に記載の、遺伝子組換え微生物。
25. フコシル転移酵素をコードする遺伝子が、異種遺伝子である、及び/又は異種プロモーターにより駆動される、項目23.、又は24.に記載の、遺伝子組換え微生物。
26. 前記微生物における発現のため、フコシル転移酵素をコードする遺伝子のコドンが最適化されている、23.~25.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
27. フコシル転移酵素をコードする遺伝子が、ピロリ菌由来のfutC、又はピロリ菌由来のfutAである、23.~26.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
28. シャペロンをコードする異種遺伝子を含む、1.~27.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
29. シャペロンが、ヒトHsp70である、28.に記載の、遺伝子組換え微生物。
30. 前記微生物が、GDP-L-フコースのde novo合成に関与する、遺伝子の発現を高める、転写調節タンパクを過剰発現する、1.~29.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
31. rcsA遺伝子が、過剰発現している、1.~30.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
32. rcsA遺伝子が、大腸菌由来である、30.、又は31.に記載の、遺伝子組換え微生物。
33. Lonプロテアーゼファミリータンパク質をコードする遺伝子が、不活化される、好ましくは、欠失により不活化される、1.~32.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
34. Lonプロテアーゼファミリータンパク質が、大腸菌Lonプロテアーゼである、33.に記載の、遺伝子組換え微生物。
35. wcaJ遺伝子が、不活化される、好ましくは、欠失により不活化される、1.~34.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
36. zwf遺伝子、及び2つのpntAB遺伝子が、過剰発現する、1.~35.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
37. zwf遺伝子、及びpntAB遺伝子が、大腸菌由来である、36.に記載の、遺伝子組換え微生物。
38. gsk遺伝子が、過剰発現する、1.~37.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
39. gsk遺伝子が、大腸菌由来である、38.に記載の、遺伝子組換え微生物。
40. trxA遺伝子が、過剰発現する、1.~39.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
41. trxA遺伝子が、大腸菌由来である、39.に記載の、遺伝子組換え微生物。
42. trxB遺伝子が、不活化される、好ましくは、欠失により不活化される、1.~41.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物。
43. 人乳オリゴ糖の製造方法であって、以下の工程:
(a)1.~42.のいずれか一項に記載の、遺伝子組換え微生物を、培地で培養する方法
を含む、方法。
44. 前記培地が、ラクトースをさらに含む、43.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
45. 前記培地が、遊離Mg2+をさらに含む、43.、又は44.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
46. 前記培養開始前の、前記培地中の遊離Mg2+濃度が、5mM以上である、45.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
47. 前記培地中の遊離Mg2+濃度が、前記培養終了時に、10μM以下である、45.、又は46.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
48. 前記培養が、バッチ培養、場合によっては、フィード-バッチ培養、である、43.~47.のいずれか一項に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
49. 培養液量が、10L以上、好ましくは、100L以上である、43.~48.のいずれか一項に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
50. 前記培地中の前記人乳オリゴ糖濃度が、前記培養終了時に、少なくとも15g/L、好ましくは、少なくとも20g/Lである、43.~49.のいずれか一項に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
51. 前記人乳オリゴ糖が、2’-フコシルラクトース、及び/又は3’-フコシルラクトースである、43.~50.のいずれか一項に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
52. さらに、以下の工程:
(b)培地、及び/又は微生物それ自体、から、人乳オリゴ糖を精製する工程、
を含む、43.~51.のいずれか一項に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
53. 誘導溶菌系を介して溶菌を誘導した後に、前記人乳オリゴ糖を、前記培地から精製する、52.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
54. 前記培地中の遊離Mg2+の濃度が、10μM以下である場合に、及び/又は前記溶菌が直接可視化されうる場合に、前記人乳オリゴ糖を、前記培地から精製する、52.、又は53.に記載の、人乳オリゴ糖の製造方法。
55. 前記溶菌が、前記培養物のOD600値の低下により、直接可視化されうる、54.に記載の人乳オリゴ糖の製造方法。
56. 43.~51.のいずれか一項に記載の方法で得られる、培地。
57. 52.~55.のいずれか一項に記載の方法により得られうる、人乳オリゴ糖。
58. 56.の培地、又は57.の人乳オリゴ糖の、動物用飼料の調製への使用。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】大腸菌における2’-(3’)-フコシルラクトースの生合成を示す図である。Glc-6-P:グルコース6-リン酸;Fru-6-P:フルクトース6-リン酸;Man-6-P:マンノース6-リン酸;6-P-Gluc:6-リン酸-グルコン酸;Ribu-5-P:リブロース5-リン酸(ribolusoe-5-phosphate);Ribo-5-P:リボース5-リン酸;PPP:ホスホリボシルピロリン酸;gal:ガラクトース;glc:グルコース;XMP:キサントシン5’-一リン酸;IMP:イノシン5-一リン酸;Pgi:ホスホグルコース異性化酵素;ManA:マンノース6-リン酸異性化酵素;ManB:ホスホマンノムターゼ;ManC:α-D-マンノース1-リン酸グアニル転移酵素;Gmd:GDP-マンノース6-デヒドロゲナーゼ;WcaG:GDP-L-フコース合成酵素;WcaJ:UDP-グルコース担体転移酵素;Wca A-F、I-M:コラン酸生合成遺伝子;LacA:β-ガラクトシドトランスアセチラーゼ;LacZ:β-ガラクトシダーゼ;LacY:ラクトース透過酵素;Lon:プロテアーゼ;ClpYQ(HslUV):プロテアーゼ;RscA:正の転写調節因子;guaA:GMP-シンテターゼ;GuaB:IMP-デヒドロゲナーゼ;GuaC:GMP-レダクターゼ;DeoD:プリンヌクレオチドホスホリラーゼ;Gpt:グアニンホスホリボシル転移酵素;Gnd:6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ;Ndk:ヌクレオチド二リン酸キナーゼを、各々示す。
【
図2】大腸菌発現ベクターpETDuet-1.を示す図であり、当該ベクターは、二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、ColE1 ori、アンピシリン耐性遺伝子(ampR)、lacリプレッサー(lacI)を備える。
【
図3】pET-manCB-gmd-wcaGを示す図であり、上記大腸菌発現ベクターpETDuet-1が二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、pBR322 ori、アンピシリン耐性遺伝子(ampR)、及びlacリプレッサー(lacI)を備え、manB:ホスホマンノムターゼ、manC:α-D-マンノース1-リン酸グアニリル転移酵素、gmd:GDP-マンノース6-デヒドロゲナーゼ、wcaG:GDP-L-フコース合成酵素を備える。
【
図4】大腸菌発現ベクターpCDFDuet-1Eを示す図であり、当該ベクターは、二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、CloDF13 ori、ストレプトマイシン耐性遺伝子(SmR)、lacリプレッサー(lacI)を備える。
【
図5】大腸菌クローニングベクターpUC19を示す図であり、当該ベクターは、アンピシリン耐性遺伝子(AmpR)、lacZアルファペプチド(lacZ’)、oriを備える。
【
図6】pCDF-futC-lacY
*-hHSP70-trxA-SRzを示す図であり、上記大腸菌発現ベクターpCDFDuet-1は、二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、CloDF13 ori、ストレプトマイシン耐性遺伝子(SmR)、及びlacリプレッサー(lacI)を備え、futC:α-1,2-フコシル転移酵素、lacY
*:S209I含有ラクトース透過酵素、hHSP70:ヒト熱ショックタンパク質70、trxA:チオレドキシン、SRRz:5’-UTR、及び3’LuxICDABEGターミネーターを備えるmtgA-プロモーターの制御下における、バクテリオファージラムダ由来の溶菌遺伝子。
【
図7】大腸菌発現ベクターpCOLADuet-1を示す図であり、当該ベクターは、二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、ColA ori、カナマイシン耐性遺伝子(KmR)、及びlacリプレッサー(lacI)を備える。
【
図8】pCOLA-pntAB-rcsA-zwf-gskを示す図であり、大腸菌発現ベクターpCOLADuet-1は、二重T7プロモーター(P
T7)、T7ターミネーター(T
T7)、ColA ori、カナマイシン耐性遺伝子(KmR)、lacリプレッサー(lacI)を備え、pntAB:膜結合トランスヒドロゲナーゼ、rcsA:コラン酸生合成の正の転写調節因子、zwf:グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、gsk:グアノシンイノシンキナーゼを備える。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔定義と一般的な手法〕
特段の定めのない限り、本明細書中で用いられる全ての技術用語、及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が、一般的に理解するものと同じ意味である。
用語「含む(comprise、又はcomprising)」等の用語は各々、場合によっては、用語「からなる(consists of、及びconsisting of)」に置き換えられるように用いられてよい。
用語「含む(include、又はincluding)」等の用語は各々、場合によっては、用語「からなる(consists of、及びconsisting of)」に置き換えられるように用いられてよい。
【0019】
用語「遺伝的組換えされた(genetically modified)」とは、細胞の遺伝物質が、当該細胞に導入された、いかなる改変をもいう。これには、新規遺伝物質の導入、遺伝物質の欠失、遺伝物質の変異等があげられる。
用語「誘導溶菌系」とは、細胞溶菌が、外的刺激により誘導されてもよいことをいう。用語「自己誘導性」は、外的刺激が、必ずしも、本発明を実施する当業者により、能動的に適用される必要がないことをいう。
用語「外的刺激(external stimulus、又はexternal stimuli)」とは、細胞外から当該細胞に、適用される、化学的、又は物理的な刺激をいう。
【0020】
用語「Mg2+調節」とは、遊離マグネシウム(Mg2+)イオンの有無により、ある物質が調節されることをいう。用語「外因性遊離Mg2+濃度」とは、細胞を取り囲む培地等の、外部から、細胞に作用される、遊離Mg2+イオンの濃度をいう。用語「Mg2+欠乏条件」とは、培地中の遊離Mg2+濃度が低いか、又は培地中に遊離Mg2+が完全に存在しないことをいう。
【0021】
「溶菌遺伝子」とは、ある因子、例えば、細胞内で発現されると、細胞溶菌を引き起こすようなタンパク質、をコードする遺伝子である。
用語「誘導的に発現される」は、遺伝子が構成的に発現されるのではなく、代わりに、発現が外的刺激により誘導されてよいことをいう。
【0022】
用語「溶菌遺伝子は、Mg2+調節プロモーターにより制御される」は、遊離のMg2+イオンの有無により、当該プロモーターが各々、活性、又は不活性である場合に、当該遺伝子が発現されるか、又は発現されないことをいう。
「遊離Mg2+イオン」とは、例えば、EDTA等のキレート剤により複合体化されていない、例えば、培養培地、に溶解されたものをいう。すなわち、例えば、キレート剤を添加して、培地中の遊離Mg2+の濃度を低下させてよい。本明細書において、特記しない限り、「Mg2+」は、「遊離Mg2+イオン」をいう。
【0023】
用語「外因性遺伝子」は、例えば、遺伝子導入により、細胞外から細胞に導入される遺伝子をいう。しかしながら、用語「外因性遺伝子」は、当該遺伝子の起源を決定づけるものではなく、例えば、大腸菌中の外因性遺伝子が、大腸菌由来であっても、又は他の生物に由来するものでもよい。外因性遺伝子は、例えば、プラスミド等の、(発現)ベクター中に存在する、エピソームであってもよく、又は、当該細胞の染色体中に組み込まれてもよい。
【0024】
用語「異種遺伝子」とは、外部から細胞に導入され、かつ、導入された当該細胞とは異なる生物に由来する遺伝子をいい、例えば、大腸菌中の異種遺伝子は、大腸菌に由来しない。異種遺伝子は、例えば、プラスミド等の、(発現)ベクター中に存在する、エピソームであってもよく、又は、当該細胞の染色体中に組み込まれてもよい。
【0025】
「異種プロモーター」とは、ある遺伝子に作動しうるように連結される場合に、当該遺伝子と本来的に結合するプロモーターではないプロモーターをいう。
【0026】
外因性、又は異種の遺伝物質は、当技術分野で一般的な公知技術により、微生物に導入することができる。たとえば、遺伝物質を、遺伝子導入により、細菌に導入することができる。遺伝子導入は、例えば、化学的にコンピテントな細菌の熱ショックにより、又はエレクトロコンピテントな細菌のエレクトロポレーションにより、行うことができる(例えば、Hanahan et al., Methods Enzymol.1991;204:63-113;Miller and Nickoloff,Methods Mol Biol.1995;47:105-13参照)。
【0027】
外因性、又は異種性遺伝物質は、ラムダレッド系を介する組込み、又はCRISPR/Cas9等の、当技術分野で一般的な公知技術により、細胞の染色体に組み込まれることもできる(例えば、Juhas and Ajioka,Microb Cell Fact.2016;15(1):172;Reisch and Prather,Sci Rep.2015;5:15096を参照)。
【0028】
大腸菌等の、特定の生物に「由来」する遺伝子は、(すなわち、変異、及び/又はコドン最適化によって、配列を修飾せずに)前記生物から(直接得られる)各遺伝子であってよい。あるいは、また、当該生物由来の元来の配列に、(例えば、1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1~3の)突然変異が導入されることにより得られる、突然変異体が含まれてもよく、及び/又はコドンが最適化された変異体もまた、含まれる。
【0029】
用語「微生物における発現のために最適化されたコドン」とは、遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の核酸配列が、当該遺伝子が導入される生物における、タンパク質への翻訳のために、最適化されることをいう。
【0030】
本発明に関する微生物が、特定のタンパク質をコードする遺伝子を含むと特定される場合は、当該微生物はまた、当該コードされたタンパク質を産生する遺伝子を発現することが意図される。
【0031】
遺伝子の文脈における用語「過剰発現された」、又は「過剰発現」は、遺伝子が過剰発現される微生物における当該遺伝子の発現レベルが、当該遺伝子を過剰発現しない同一微生物における同一遺伝子の発現レベルよりも高いことをいう。遺伝子は、当技術分野で一般的な公知技術により、過剰発現されることができる。例えば、さらなる外因性遺伝子のコピーを細胞に導入することができ、細胞を外因性転写アクチベーターで処理することができ、又は転写アクチベーターをコードする外因性遺伝子を、細胞に導入することができる。本発明では、さらなる遺伝子のコピーの導入が、好ましい。
【0032】
遺伝子の「不活化」とは、当該遺伝子が、いかなる機能的なタンパク質をも発現しないことをいう。これには、機能不全のタンパク質がほぼ完全に、又は完全に発現しないことがあげられる。ほぼ完全に、又は完全に発現しないことは、例えば、プロモーター等の制御配列の欠失、遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)の(一部の)欠失、又はプロモーター、及びORFを含む遺伝子全体の欠失により、達成されることができる。すなわち、遺伝子のノックアウトもまた、当該用語により包含される。機能不全タンパク質の発現は、例えば、部分的欠失、点変異、及び/又は、例えば、切断された、及び/又は触媒的に不活性な、タンパク質の発現をもたらす、ORF中の/又はORFへの挿入により達成されることができる。欠失、点変異、及び/又は挿入を導入する方法は、当技術分野において周知である。例えば、Reisch and Prather,2015(supra)、Zerbini et al.(Microb Cell Fact.2017;16(1):68)、又はJensen et al.(Sci Rep.2015;5:17874)を参照されたい。
【0033】
特定のヌクレオチド配列、例えば、目的の特定の遺伝子のもとになる配列、又はプロモーター配列等は、例えば、大腸菌等の生物のゲノム配列から、ポリメラーゼ連鎖反応により増幅することができるか、又は当技術分野で一般的に公知の方法により、化学的に合成することができる。
【0034】
GenBank受託番号(Accession number)番号とは、GenBankで用いられる固有の識別子をいい、例えば、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/からアクセスしうる。遺伝子識別子(GI)とは、特定の遺伝子を識別するために用いられる固有の番号いい、例えば、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/から、クエリーされる。
【0035】
〔実施形態〕
<HMO産生用の遺伝子組換え微生物>
本発明は、HMOの産生用の遺伝子組換え微生物の提供に関する。
【0036】
本発明において産生される当該HMOは、二糖ラクトース、又はN-アセチルラクトサミンに基づく。ラクトースに基づくHMOが、好ましい。
【0037】
本発明に関連する、好ましい人乳中のオリゴ糖類としては、2’-フコイルラクトース(2-Fucoyllactose(FL))、3’-フコシルラクトース(3-FL)、3’-シアリルラクトース(3-SL)、6’-シアリルラクトース(6-SL)、ラクト-N-テトラオース(LNT)、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)、ラクト-N-ヘキサオース(LNH)、イソ-ラクト-N-オクタオース、イソ-ラクト-N-ネオオクタオース、パラ-ラクト-N-オクタオース、ラクト-N-フコペンタオースI(LNFP I)、ラクト-N-フコペンタオースII(LNFP II)、ラクト-N-フコペンタオースIII(LNFP III)、ラクト-N-フコペンタオースV(LNFP V)、LS-四糖a(LST a)、LS-四糖b(LST b)、LS-四糖c(LST c)、及びジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT)が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
2-FL、及び/又は3-FLの三糖類は、好ましくは、本発明において製造され、2-FLが、特に、好ましい。2-FL、及び3-FLの構造は、非特許文献4に示される。
【0039】
本発明は、2-FL、及び/又は3-FLの産生に関する、遺伝子操作、及び腸内細菌大腸菌(E.coli)K-12株における経路に関して、より詳細に記載される。しかし、本発明は、大腸菌、又は大腸菌以外の微生物における、他のHMOの産生についても、同様に適用することができる。2-FL、及び/又は3-FL以外のHMOの微生物学的産生は、以前から報告がある。例えば、Priemらは、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)由来のβ1,3-N-アセチルグルコサミニル転移酵素LgtA(例えば、GI:904226)の発現を用いて、ラクトースをグリコシル化して、GlcNAc-β1,3-Galβ1,4-Glcを獲得しうることを示した。これは、同様に髄膜炎菌由来である、β1,4-ガラクトシル転移酵素LgtB(例えば、GI:904227)により、さらに、ラクト-N-ネオテトラオース(LNnT)に延伸することができる(Priem et al.,Glycobiology.2002;12(4):235-40)。さらに、ピロリ菌のβ1,3-フコシル転移酵素FutA、又はFutBにより触媒される、LNnTの細胞内フコシル化により、ラクト-N-ネオジフコヘキサオースII (LNnDFHII)を主生成物とする、HMO混合物を得ることができる(Dumon et al.,Biotechnol Prog.2004;20(2):412-9)。Hanらは、異なる製造方法について、さらに議論する(Han et al.,2012,Biotechnol Adv.2012; 30(6):1268-78)。
【0040】
本発明で用いられる微生物は、特に限定されない。好ましくは、HMOを産生する本来的な機能が備わっているか、又はHMOを細胞内で産生する前駆体分子を産生しうるか、又は細胞外空間から当該前駆体を導入しうる、微生物である。微生物の例としては、細菌、又は酵母があげられる。細菌の例としては、大腸菌、エルウイニア‐ヘルビコラ(Erwinia herbicola(パントエア菌;Pantoea agglomerans)、シトロバクター‐フロインディ(Citrobacter freundii)、Pantoea citrea菌、軟腐病菌(Pectobacterium carotovorum)、又はカンキツかいよう病菌(Xanthomonas campestris)があげられる。バチルス属の細菌もまた、用いることができ、それらには、枯草菌(Bacillus subtilis)、バチルス‐リケニフォルミス菌(Bacillus licheniformis)、バチルス‐コアグランス菌(Bacillus coagulans)、Bacillus thermophilus菌、Bacillus laterosporus菌、バシラス‐メガテリウム菌(Bacillus megaterium)、Bacillus mycoides、Bacillus pumilus、Bacillus lentus、セレウス菌(Bacillus cereus)、及びBacillus
circulansがあげられる。同様に、属ラクトバチルス(Lactobacillus)属、及びラクトコッカス(Lactococcus)属の細菌は、本発明の方法を用いて、改変されてよく、これらの細菌としては、アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、乳酸菌LS1(Lactobacillus salivarius)、プランタルム菌(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス菌(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・デルブリッキー菌(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・ラムノーサス菌(Lactobacillus rhamnosus)、ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、Lactobacillus crispatus、ラクトバチルス・ガセリ菌 (Lactobacillus gasseri)、カゼイ菌(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)、Lactobacillus jensenii、及びラクティス菌(Lactococcus lactis)があげられるが、これらに限定されない。サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、及びプロピオニバクテリウム‐フロイデンライヒ菌(Propionibacterium freudenreichii)もまた、本発明に適する細菌種である。また、本発明の一部としては、腸球菌(Enterococcus)属(例えば、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、及びEnterococcus thermophiles)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属(例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、及びビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、Spororolactobacillus属の細菌、Micromospora属の細菌、マイクロコッカス(Micrococcus)属の細菌、ロドコッカス(Rhodococcus)属の細菌、及びシュードモナス(Pseudomonas)属(例えば、シュードモナス・フルオレッセンス菌(Pseudomonas fluorescens)、及び緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa))から改変された菌株があげられる。酵母の例としては、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、乳酵母(Kluyveromyces lactis)、及びメタノール資化酵母(Pichia pastoris)があげられる。微生物は好ましくは細菌であり、大腸菌が、特に好ましい。用いられる大腸菌株は特に限定されない。
【0041】
細菌細胞からのHMOの放出は、工業的産生に不可欠なプロセスである。2-FLの収率の約50%は細胞内に残存し、残りは、培地中に放出される(非特許文献3)。全2-FL量を獲得するには、100℃での熱誘導溶菌が必要である。本発明の微生物では、自己溶菌系を確立して、回収プロセスを改善する。すなわち、本発明の微生物は、誘導溶菌系を含んでよい。当該溶菌系の種類は、外的刺激により溶菌を誘導できるのであれば、特に限定されない。例えば、バクテリオファージラムダ(S、R、及びRz)の溶菌遺伝子は、Mg2+-抑制性PmgtA-UTRプロモーター(Tamekou Lacmata et al.,Bioengineered.2017;26:1-6)の制御を受けうる。遊離Mg2+が(例えば、10μM以下に)消費されると、溶菌遺伝子の合成が誘導され、細胞壁成分のペプチドグリカンの分解により、培地への2-FLの放出が、促進される。Zhangら(J Microbiol Methods.2009;79(2):199-204)に記載されるMg2+制御プロモーター、Liu、及びCurtiss(Proc Natl Acad Sci USA.2009;106(51):21550-4)に記載されるニッケル誘導系、熱感受性ラムダリプレッサー(Juhas et al.,PLoS One.2016;11(10):e0165778)、ナイシン誘導性プロモーター(Visweswaran et al.,Appl Microbiol Biotechnol.2017 Feb;101(3):1099-1110)、アラビノース誘導性プロモーター(Masuda et al.,FEMS Microbiol Lett.2016;363(6))、MgSO4がシステムに対抗するアラビノース誘導性プロモーター(Li et al.,Curr Microbiol.2016;72(4):390-6)、又は溶媒の添加による溶菌誘導(Hajnal et al.,Appl Microbiol Biotechnol.2016;100(21):9103-9110)に基づく、自己溶菌系の確立に利用可能な、いくつかの代替手段がある.当該系をまた、表1にまとめる。
【0042】
表1 誘導自己溶菌系
【0043】
【表1】
Mg
2+制御系には、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、(Ca
2+やMg
2+等の)金属イオンを隔離するキレート剤を添加することによって、細胞溶菌を促進することができるという利点がある。さらに、二価金属イオンとしてのMg
2+が、α-1,2-、及びα-1,3-フコシル転移酵素活性に必要である(Zhang et al.,Glycobiology.2010;20(9):1077-88;Zhao et al.,Chem Commun(Camb).2016;52(20):3899-902)。すなわち、Mg
2+の存在下では、酵素活性が促進されるために、2’-フコシルラクトース合成が改善されうるが、その一方で、Mg
2+の非存在下では、細胞溶菌は、細胞壁破壊を介して、生成物の回収を促進するように誘導される。したがって、Mg
2+調節系は、本発明において、好ましく用いられ、好ましくは、Mg
2+調節系はMg
2+抑制性である。
【0044】
誘導溶菌系では、Mg2+調節プロモーターを用いることができる。Mg2+調節プロモーターは、好ましくは、外因性遊離Mg2+濃度で、調節される。好ましくは、Mg2+欠乏条件下で、活性である。Mg2+欠乏条件は、増殖培地が、遊離Mg2+を500μM以下、100μM以下、50μM以下、10μM以下、1μM以下、又は0μM含む条件である。好ましくは、Mg2+欠乏条件は、遊離Mg2+が、10μM以下である。Mg2+調節プロモーターは、好ましくは、ネズミチフス菌のmgtB遺伝子(例えば、GI:1250998)由来のPmgtBプロモーター、ネズミチフス菌のpagC遺伝子(例えば、1248241)由来のPpagCプロモーター、又は大腸菌のmgtA遺伝子(例えば、GI:948778)由来のPmgtAプロモーターである。ネズミチフス菌のmgtB遺伝子由来のPmgtBプロモーターは、例えば、Zhangら(2009;前出)に記載のとおりであり、かつ、例えば、ネズミチフス菌ゲノムを鋳型として、以下のプライマー、5’-GTATACTCCGGAGCAAAACGCCTGAACTCC-3’(配列番号1)、及び5’-TCTAGAGAAGAAAGAAAGAAAGTACGTGCTATTTTAG-3’(配列番号2)を用いた、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により獲得することができる。大腸菌由来のPmgtAプロモーターは、例えば、Tamekou Lacmataら,2017(前出)に記載のとおりであり、は、例えば、大腸菌ゲノムを鋳型として、以下のプライマー、5’-CGAGCTCCTTTTTTTTATTCATCATCCGCG-3’(配列番号3)、及び5’-CGAGCTCGCGCGATAATATACCTCTGGGC-3’(配列番号4)を用いた、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により獲得することができる。
【0045】
Mg2+調節プロモーターは、大腸菌のmgtA遺伝子の5’UTR等の、さらなるMg2+調節要素と組み合わされてもよい。大腸菌由来のmgtA遺伝子の5’UTRは、例えば、Tamekou Lacmataら,2017(前出)記載のとおりであり、かつ、PmgtAプロモーターは、mgtA 5’UTRと共に、例えば、大腸菌ゲノムを鋳型として、プライマー5’-CGAGCTCTTTTTTTTATTCATCAGCCCG-3’(配列番号3)、及び5’-CGAGCTCAAGGTCCTCCCGCACTGT-3’(配列番号5)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により獲得することができる。
【0046】
誘導溶菌系を含む微生物は、さらに、1又はそれ以上の溶菌遺伝子を含んでよい。当該溶菌遺伝子は、細胞内で発現されると、細胞を溶菌することができる限り、特に限定されない。例えば、当該溶菌遺伝子は、ラムダバクテリオファージ、MS2バクテリオファージ、ファイX174バクテリオファージ、又はRLTバクテリオファージ等のバクテリオファージ由来であってもよい。溶菌遺伝子の例としては、Masudaら、2016(前出)により記載される、大腸菌由来のydfD、Streptococcus dysgalactiase亜種equisimilis由来のsicG、大腸菌由来のvanX、サルモネラファージP22由来のSRRz、サルモネラ菌(S.enterica)血清型パラチフス菌(Paratyphi A)由来のyncE、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ファージP68由来の溶菌遺伝子があげられる。
【0047】
溶菌遺伝子の好ましい例としては、(例えば、GenBank受託番号:NC_001416の配列に見られるような)ラムダバクテリオファージ由来のSRRz遺伝子、又はS遺伝子の161位のGがAへ変異した、そのSam7変異体、Eタンパク質をコードするMS2ファージ溶菌遺伝子、又はLタンパク質をコードするファイX174バクテリオファージ溶菌遺伝子である。SRRz遺伝子は、例えば、Zhangら(2009;前出)に記載のとおりであり、例えば、ラムダバクテリオファージゲノムを鋳型とし、かつ、プライマー5’-CCGCATATGAAAAAAACATGACCTGATGAG-3’(配列番号6)、及び5’-TTAGTCGACGCAACTCTTCTTGCTC-3’(配列番号7)を用いた、PCRにより獲得することができる。MS2バクテリオファージ溶菌遺伝子、又はファイX174バクテリオファージ溶菌遺伝子は、Juhasら(2016;前出)記載のとおりである。
【0048】
当該微生物はまた、同じか、又は異なる、2又はそれ以上の溶菌遺伝子を含んでよい。異なる作用メカニズムが、より効率的な溶菌につながる場合があるため、場合によっては、2又はそれ以上の異なる溶菌遺伝子の組み合わせを用いることができる。例えば、当該微生物は、ラムダ、及びMS2バクテリオファージ、ラムダ、及びファイX174バクテリオファージ、MS2、及びファイX174バクテリオファージ、又はラムダ、MS2、及びファイX174バクテリオファージ、由来の溶菌遺伝子を含んでよい。しかしながら、本発明は、これらの組合せに限定されず、記載された他の溶菌遺伝子を、単独、又は組合せて用いてよい。好ましくは、2又はそれ以上の溶菌遺伝子は、タンデムに配置されてよく、多シストロン的に、同一のプロモーター、及び同一の、場合によっては、さらなる調節要素により制御される。
【0049】
1又はそれ以上の溶菌遺伝子を、Mg2+欠乏条件下で、誘導的に発現させることができ、好ましくは、さらなる調節要素の有無にかかわらず、Mg2+調節プロモーターにより、制御される。mgtA遺伝子の5’UTRがさらなる調節要素として用いられる場合、溶菌遺伝子の発現カセットは、好ましくは、Mg2+調節プロモーター、mgtA遺伝子の5’UTR、溶菌遺伝子のORFをその順で含む。
【0050】
上記のように誘導可能な溶菌に用いられうる発現カセットは、発現ベクター、例えばプラスミド等の、エピソームベクターとして当該微生物中に存在し得るか、又は宿主染色体中に組み込まれてよい。
【0051】
さらに、HMOの前駆体はラクトースであるので、HMOの細胞内産生では、ラクトースの細胞内レベルが高いことが望ましい。したがって、本発明の微生物は、ラクトースを、グルコース、及びガラクトースに切断することができなくてもよい。これは、ラクトース切断に関与する、β-ガラクトシダーゼLacZをコードするlacZ遺伝子を不活化するか、LacZ、ラクトースリプレッサーLacI、トランスアセチラーゼLacA、及び、ラクトース透過酵素LacY、をコードするlacオペロン全体を不活化することで、達成することができる。不活化は、発現の阻害剤により、不活化変異の導入により、又は欠失により、達成される。lacI、lacZ、lacY、及びlacA遺伝子を含むlacオペロン全体を不活化すると、i)ラクトースが、グルコースとガラクトースへ分解することを防ぎ、ii)アロラクトース、又はアセチルラクトースの生成を防ぐことにより、細胞内のラクトースの可用性を高めることができる。後者はさらに、2つの糖分子の混在を除去して、当該精製プロセスを単純化することができる。
【0052】
ラクトース透過酵素は、細胞内へのラクトースの取り込みを担う。多くの細菌は、(例えば、バチルス‐リケニフォルミス菌に見られるような)大腸菌のラクトース透過酵素のホモログである輸送タンパク質か、あるいは(例えば、カゼイ菌、及びラクトバチルス・ラムノーサス菌に見られるような)PTS糖輸送ファミリーのメンバーのいずれかである、輸送タンパク質を用いて、培地から細胞へラクトースを輸送する固有の機能を備える。したがって、大腸菌LacY等の、外因性ラクトース透過酵素遺伝子を導入すると、細胞内ラクトースレベルが高まる可能性がある。細胞外ラクトースを細胞内に輸送する固有の機能が備わっていない細菌(lacオペロン全体が不活化されている細菌を含む)の場合、当該機能は、大腸菌lacY等の外因性ラクトース透過酵素遺伝子を導入することにより、付与、又は回復することができる。したがって、本発明の微生物は、ラクトース透過酵素をコードする外因性遺伝子を含んでもよい。ラクトース透過酵素は、大腸菌LacY(例えば、GI:949083)であることが好ましい。大腸菌LacYが、A198V、及び/又はS209Iの変異を備えることが、特に好ましい(Wilson et al.,Biochim Biophys Acta.1990;1029(1):113-6)。当該変異はともに、LacYとその阻害剤タンパク質Enzyme-IIaGlcの間の相互作用を妨げると予測される(Hogema et al.,Mol Microbiol.1999;31(6):1825-33)。その結果、細胞内ラクトース濃度が高い場合には、自己調節機構が抑制されるかもしれない。このように、HMOの収量は、ラクトース摂取が高まることにより、増加するかもしれない。さらに、ラクトースは、T7プロモーター発現系(後述)の本来的な誘導因子であるため、例えば、2-FL合成に必要な酵素の発現は、細胞内ラクトースの可用性が高まると、より改善される可能性がある。
【0053】
好ましくは、本発明の微生物は、2-FL、及び/又は3-FLの産生用である。
【0054】
大腸菌における2-FL産生を高める、例示的な遺伝子組換えを表2に示す。
表2 大腸菌における2’-フコシルラクトースの産生を高める、遺伝子組換え
【0055】
【表2】
2-FL、又は3-FLは、活性化糖GDP-L-フコースをラクトースにカップリングさせて、生成することができる。上記のように、大腸菌は、ラクトース透過酵素LacY(ラクトース/H
+共輸送体)を介して、前駆体分子ラクトースを細胞内に取り込むことができる。さらに、大腸菌は、リン酸転移酵素系を介して、グルコースを細胞内に取り込むことができる。グルコースは、成長を促進するエネルギー源として、かつ、コラン酸生合成の天然中間体である、GDP-L-フコース産生の前駆体として、de novo経路を介して機能することができる(
図1参照)。活性化糖GDP-L-フコースの生合成のde novo経路は、解糖中間体であるフルクトース-6-リン酸から分岐し、大腸菌由来酵素であるManA、及びManB、GTP依存性ManC、NADPH依存性Gmd、及びWcaGに基づく。あるいは、GDP-L-フコースは、細胞内に取り込まれたフコースから、サルベージ経路によっても、生成されることができる。
【0056】
GDP-L-フコースのフコース部分は、フコース転移酵素(EC2.4.1.x)を介して細胞内の受容体ラクトースに転移されることができ、それにより、2-FL、又は3-FLが生成される(
図1参照)。2-FL生成に重要な酵素は、ピロリ菌由来のFutC等のα-1,2-フコシル転移酵素である。3-FLの生成には、ピロリ菌由来のFutA等のα-1,3-フコシル転移酵素を用いることができる。したがって、本発明の微生物はまた、フコシル転移酵素、好ましくは、α-1,2-フコシル転移酵素、及び/又はα-1,3-フコシル転移酵素をコードする外因性遺伝子を含む。フコシル転移酵素をコードする遺伝子は、好ましくは、異種遺伝子であり、及び/又は異種プロモーターにより駆動される。いくつかのフコシル転移酵素が、バクテロイデス・フラギリス菌(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ブルガータス菌(Bacteroides vulgatus)、カンピロバクター・ジェジュニ菌、大腸菌、Helicobacter bilis、H.hepaticus、H.mustelae、ピロリ菌、及びThermosynechococcus elongatus等の細菌で同定されている。多くの生物ではコドンの使用頻度が異なるため、同族tRNAアンチコドンの可用性が限定されるようなコドンがあると、リボソームが停動するために、異種遺伝子の発現を低下させうる。本発明の微生物において、高いタンパク質発現を確実にするために、(例えば、futC、及びfutA)遺伝子をコードする、α-1,2-、及びα-1,3-フコシル転移酵素のコドンの使用頻度を、本発明の微生物に対して最適化してもよい。したがって、フコシル転移酵素をコードする遺伝子は、当該微生物での発現のためにコドンを最適化することができる。コドンを最適化すると、細胞内フコシル転移酵素タンパク質レベルが上昇し、2-FL、及び/又は3-FLの収量が改善される可能性がある。
【0057】
本発明における使用に好ましい、α-1,2-フコシル転移酵素の例は、ピロリ菌由来のFutC(例えば、NCBI受託番号KY499613)、H.mustelae由来のFutL(例えば、NCBI受託番号WP.013023529.1)、H.bilis由来のFutF(例えば、NCBI受託番号WP.020995676.1)、バクテロイデス
フラジリス(Bacillus fragilis)NCTC 9343由来のWcfB(例えば、NCBI受託番号WP.005817145.1)、大腸菌O128由来のWbsJ(例えば、NCBI受託番号AAO3768.1)、大腸菌O86由来のWbwK(例えば、NCBI受託番号AA37719.1)、大腸菌O126由来のWbgL(例えば、NCBI)受託番号ADN43847.1、大腸菌O127由来のWbiQ(例:NCBI受託番号CAS09719.1)、カンピロバクター・ジェジュニ菌由来のFutG(例:NCBI受託番号WP_002861859.1)、バクテロイデス・ブルガータス菌ATCC
8482由来のFutN(例:NCBI受託番号ALK85429.1)、バクテロイデス・フラギリス菌NCTC9343由来のWcfB、及びWcfW(例えば、NCBI受託番号WP_005817145.1、及びWP_005813010.1)、があげられる。
【0058】
本発明における使用に好ましい、α-1,3-フコシル転移酵素の例は、ピロリ菌由来のFutA(例えば、NCBI受託番号AAD07447.1)、ピロリ菌26695由来のFutB(例えば、NCBI受託番号AAD07710.1)、H.trogontum由来のFutD(例えば、NCBI受託番号WP_052089242.1)、H.bilis由来のFutE(例えば、NCBI受託番号WP_0348028283.1)、H.typhlonius由来のFutH(例えば、NCBI受託番号WP_052082154.1)、H.hepaticus由来のFutJ(Hh0072)、及びFutK(Hh1776)(例えば、NCBI受託番号WP_011114915.1、及びAAP78373)、及びB.fragilis由来のFutM(例えば、NCBI受託番号CAH09151.1.1)である。
【0059】
好ましい態様では、フコシル転移酵素の活性は、Mg2+が存在すると、促進される。
【0060】
フコシル転移酵素は不溶性の細胞内封入体を形成する場合があるが、これにより、細胞内の活性フコシル転移酵素の可用性が低下する可能性がある。外因的に導入されたシャペロンの存在は、フコシル転移酵素の溶菌性に有利に影響し、それにより、2-FL、及び/又は3-FLの産生を改善する可能性がある。したがって、本発明の微生物は、シャペロンをコードする外因性遺伝子をさらに含んでよい。好ましい実施形態では、シャペロンは、ヒトHsp70(例えば、GenBank受託番号BC112963)である。シャペロン機能に加えて、ヒトHsp70を利用して、さらに、培養培地に、発現誘導体IPTGを添加せず、自己誘導性発現系を確立することができる(Briand et al.,Sci Rep.2016;6:33037)。IPTGはまた、ラクトース透過酵素の基質でもあるため、IPTGが添加されなければ、ラクトースの取り込みが高まり、HMO、特に2-FL、及び/又は3-FL、の産生がさらに改善されることができる。
【0061】
上記の改変修飾に加えて、当該細胞に、他の多くの遺伝子を導入、又は不活化して、HMO、特に、2-FL、及び/又は3-FL、の産生をさらに最適化することができる。RcsAは、大腸菌における、コラン酸生合成の正の転写調節因子であり、GDP-L-フコースを中間体として用いる。rcsA(例えば、GenBank受託番号M58003)の過剰発現により、GDP-L-フコース中間体の生合成に関与する遺伝子の転写が高まるが(
図1参照)、これにより、GDP-L-フコース経路を強化して、2-FL、及び/又は3-FL合成を改善することができる(非特許文献3)。したがって、本発明の微生物はまた、好ましくは、大腸菌由来の、rcsA遺伝子を過剰発現するものであってもよい。
【0062】
しかしながら、RcsAは、Lon-、及びClpYQプロテアーゼの制御を受ける。したがって、各々のlon、及びclpYQ遺伝子が不活化されて、所望のGDP-L-フコース生合成遺伝子のダウンレギュレーションを妨げることができる。rcsAの過剰発現を、lon/clpYQ不活化と組み合わせると、GDP‐L‐フコース、すなわち、2‐FL産生が劇的に改善される可能性がある。つまり、本発明の微生物では、Lonプロテアーゼファミリー遺伝子、好ましくは、大腸菌Lonプロテアーゼ(例えば、GenBank受託番号L20572)、及び/又はclpYQ遺伝子(NC_000913.3)を不活化することができる。
【0063】
さらに、wcaJ遺伝子(例えば、GenBank受託番号(アミノ酸)BAA15900)は、コラン酸生合成を開始すると予測される、UDP‐グルコース脂質担体転移酵素をコードする。wcaJ遺伝子の不活化を行うことにより、i)競合的コラン酸経路による、GDP-L-フコースの消費を妨げ、ii)外多糖類コラン酸の放出により。培地の粘度の増加を妨げ、かつ、iii)他に混在する糖分子(コラン酸)を除去して、2-FL精製プロセスを単純化する。したがって、本発明の微生物では、当該wcaJ遺伝子、好ましくは、大腸菌wcaJ遺伝子が不活化されてよい。
【0064】
補因子NADPH、及びGTPはまた、GDP-L-フコース生合成においても重要な機能を担い、これらの可用性により、活性化糖(GDP-L-フコース)の合成が制限されて、2-FL、及び/又は3-FL等のHMOの全収率も制限されることがある。本発明の微生物において、4つの遺伝子が過剰発現されると、GDP-L-フコース合成の補因子の可用性が高まる場合がある。Zwfはペントースリン酸経路の一部であるが、PntA、及びPntBはトランスヒドロゲナーゼ系に属する。zwf、及びpntABの過剰発現は、GDP-L-フコース合成に関与する、NADPH依存性WcaG酵素に必要な補因子をもたらすことにより、NADPHの再生に、多大に寄与することができる(
図1)。したがって、本発明の微生物は、zwf遺伝子、及び両pntAB遺伝子を共過剰発現し得る(KEGG Entry,大腸菌K-12 MG1655:b1852,b1603 and b1602)が、好ましくは、それらは大腸菌由来である。
【0065】
第二の補因子GTPは、2つの代替経路、すなわち、ホスホリボシルピロリン酸の生成を介したde novoGTP生合成経路、又は外因的送達グアノシン由来のサルベージ経路、を介して、合成される。どちらの場合も、GMPが十分に供給されると、GTP濃度が上昇し、GDP-L-フコースの産生効率が向上する。本発明の微生物における、両代謝経路に関与するgsk遺伝子(グアノシンイノシンキナーゼ、例えば、GI:946584)の過剰発現により、ManCに必要なGTP-可用性が高まる可能性がある(
図1)。その結果、GDP-L-フコース合成、及び、HMO産生が劇的に向上する能性がある(Lee et al.,Appl Microbiol Biotechnol.2012;93(6):2327-34)。したがって、本発明の微生物は、gsk遺伝子を過剰発現してもよく、好ましくは大腸菌由来gsk遺伝子を過剰発現してもよい。
【0066】
上記の例示的遺伝子のクローニング用プライマーは、例えば、非特許文献3の表S2(前出)にありうる。
【0067】
さらなる最適化には、チオレドキシン活性の操作が含まれる場合がある。trxA遺伝子(KEGG Entry、大腸菌K-12 MG1655:b3781)は、大腸菌の主要な生理的電子供与体をコードする。チオレドキシン(TrxA)の過剰発現は、難溶性タンパク質におけるジスルフィド結合形成の形成を促進して、異種タンパク質発現を向上させることが知られている。しかしながら、潜在的シャペロン機能、及びT7-DNAポリメラーゼの連続反応性因子としての機能という、2の他の機能も、TrxAに関連してきた(Weickert et al.,Curr Opin Biotechnol.1996;7(5):494-9)。したがって、trxAの過剰発現を行うことにより、i)HMO合成に必要な酵素の溶菌性が向上し、ii)各遺伝子の発現に正の影響が付与されてよい。したがって、本発明の微生物は、チオレドキシンtrxA遺伝子を過剰発現してもよく、好ましくは、大腸菌由来チオレドキシンtrxA遺伝子を過剰発現してもよい。
【0068】
さらに、trxB遺伝子(KEGG Entry、大腸菌BL21(DE3):ECD_00892)は、酸化型からTrxAを再生する、NADPH依存性チオレドキシンレダクターゼ(TrxB)を、コードする。trxBが不活化されると、細胞質における還元電位を制限し、ジスルフィド結合が形成されうる(Weickertら、1996年、前出)。trxBが不活化されると、i)タンパク質の溶菌性と酵素活性が向上し、ii)WcaGに必要な補因子NADPHの枯渇が妨げられる(
図1)。したがって、本発明の微生物において、trxB遺伝子は不活化されてよい。
【0069】
〔HMOの製造方法〕
本発明はまた、本発明の遺伝子組換え微生物を用いて、HMOを製造する方法を、提供する。
【0070】
本発明の微生物を培地で培養することにより、HMOを産生することができる。
【0071】
培地は、微生物の増殖が維持される限り、特に限定されない。本発明の微生物を培養する培地の例としては、LB培地(10g/Lトリプトン;5g/L酵母抽出物;10g/L NaCl、pH7.5)、炭素源としてグルコース(又はグリセロール)を含む、改変M9最小培地(36g/Lグルコース;12.8g/L Na2HPO4・7H2O、3g/L KH2PO4、2g/L NH4Cl、0.5g/L NaCl、0.25g/L MgSO4・7H2O、14.7mg/L CaCl2・2H2O、10mg/Lチアミン、2g/L酵母抽出物、0.1%(v/v)Triton-X 100、及び1mL/L微量金属溶液;保存金属溶液:25g/L FeCl3・6H2O、2g/L CaCl2・2H2O、2g/L ZnCl2、2g/L Na2MoO4・2H2O、1.9g/L CuSO4・5H2O、0.5g/L H3BO3、pH 7.2(非特許文献3、前出参照)、2.68g/L (NH4)2SO4、1g/L(NH4)2-H-クエン酸、26.42g/Lグリセロール、14.6g/L K2HPO4、0.241g/L MgSO4、2g/L Na2SO4、4g/L NaH2PO4・H2O、0.5g/L NH4Cl、10mg/Lチアミン、及び3ml/Lトレース元素溶液(0.5g/L CaCl2・2H2O、16.7g/L FeCl3・6H2O、20.1g/L Na2-EDTA、0.18g/L ZnSO4・7H2O、0.1g/L MnSO4・H2O、0.16g/L CuSO4・5H2O、及び0.18g/L CoCl2・6H2O)を含む最小培地(Baumgaertner et al.,Microb Cell Fact.2013;12:40)、又は20g/Lのグリセロール、13.5g/L KH2PO4、4.0g/L (NH4)2HPO4、1.7g/Lクエン酸、1.4g/L MgSO4・7H2O、10ml/L微量元素溶液(クエン酸鉄(III)10g/L、ZnSO4・7H2O、1.0g/L CuSO4・5H2O、0.35g/L MnSO4・H2O、0.23g/L Na2B4O7・10H2O、0.11g/L (NH4)6Mo7O24、2.0g/L CaCl2・2H2Oを含む最小培地(Chin et al.,J Biotechnol.2016.pii:S0168-1656(16)31632-7)である。
【0072】
本発明の微生物は、すなわち、16℃~37℃、例えば、16℃~30℃、好ましくは、16℃~25℃の温度の、増殖に適するいかなる温度にて、培養されてよい。
【0073】
好ましい態様では、当該培地は、ラクトースを含む。培養開始前の当該培地中のラクトース濃度は、20g/L以上、12g/L以上、10g/L以上、8g/L以上、8~20g/L、10~20g/L、又は12~20g/Lである。好ましくは、培養開始前の当該培地中のラクトース濃度は、10~20g/Lである。
【0074】
さらなる好ましい実施形態では、当該培地は、遊離Mg2+を含む。
【0075】
培養開始前の当該培地中の遊離Mg2+濃度(すなわち、遊離Mg2+濃度)は、80mM以上、70mM以上、60mM以上、50mM以上、40mM以上、30mM以上、20mM以上、10mM以上、5mM以上、1mM以上、1~50mM、5~50mM、10~50mM、20~50mM、1~10mM、1~5mM、又は約50~60μMであってよい。
【0076】
培養終了時の遊離Mg2+濃度は、500μM以下、100μM以下、50μM以下、10μM以下、1μM以下、又は0μMとすることができる。好ましくは、培養終了時の遊離Mg2+濃度は、10μM以下である。
【0077】
好ましくは、Mg2+は、MgSO4として、当該培地に添加される。
【0078】
培養終了時に、場合によっては、EDTA、又はEGTA等のキレート剤を、添加してもよく、好ましくは、残留遊離Mg2+イオンを隔離し、溶菌を誘発するのに十分な量で、添加してもよい。
【0079】
本発明のHMOを産生する方法は、好ましくは、回分培養(バッチ、batch culture)、又は流加培養(フェッドバッチ、fed-batch culture)で、行われる。回分培養は閉鎖系培養であり、特定の環境条件下で、細胞を、一定量の栄養培地で、栄養素を追加添加せずに、増殖させる。流加培養では、培養中に栄養素がバイオリアクターに供給される。どちらの培養でも、培養終了時まで、バイオリアクター中に、細胞、及び生成物が残存する。
【0080】
本発明のHMOの製造方法における培養液量は、好ましくは、10L以上、100L以上、1000L以上、10000L以上、50000L以上、10L~100L、100L~1000L、1000L~10000L、又は10000L以上が、好ましい。好ましくは、当該培養液量は、100L~1000Lである。
【0081】
培養終了時の培地中のHMO濃度は、好ましくは、少なくとも15g/L、より好ましくは、少なくとも20g/L、さらに好ましくは、少なくとも30g/L、最も好ましくは、少なくとも50g/Lである。
【0082】
本発明では、同時に、単一のHMOを、又は2つ以上のHMOを、産生することができるが、好ましくは、単一の遺伝子組換え微生物により、産生されてよい。例えば、同一細胞内で、α-1,2-フコシル転移酵素、及びα-1,3-フコシル転移酵素を発現させると、2-FL、3-FL、及び/又はラクトジフコテトラオース、又はラクト-N-ジフコヘキサオース等のジフコシル化構造物が、生成される場合がある。
【0083】
本発明で製造されるHMOは、好ましくは、2-FL、及び/又は3-FLであり、2-FLが、特に、好ましい。
【0084】
当該HMOは、上記培地、及び/又は上記微生物それ自体から回収することができる。当該微生物からHMOを回収する場合、微生物を破壊する必要がある。細胞溶菌による細胞破壊は、当技術分野で一般的に公知の化学的、又は物理的手段により行うか、又は上記のような誘導溶菌系により、溶菌が誘導されてもよい。
【0085】
本発明のHMOを製造する方法は、さらに、上記培養培地からHMOを精製する工程を含んでよい。この文脈での精製は、当該HMOが、精製後に、純粋な形態、又は本質的に純粋な形態で存在することをいう。精製後、当該HMO、例えば、2-FL、及び/又は3FLは、好ましくは、乾燥重量に関して、精製生成物の、少なくとも90%、95%、98%、99%、又は100%(w/w)で構成される。
【0086】
精製は、当業者に公知な技術により、行ってよい。例えば、HMOは、当業者に一般的に公知の方法、例えば、エタノール勾配、又はサイズ排除による、木炭工程、及び35~50%エタノールでの溶出、を用いたカラムクロマトグラフィー、により、上記培地から精製されてよい。
【0087】
純度は、当技術分野で一般的に公知の、薄層クロマトグラフィー、又は他の電気泳動、又はクロマトグラフィー等の技術の、いかなる公知の方法によって評価されることができる。
【0088】
好ましくは、当該HMOは、誘導溶菌系を介して溶菌が誘導された後、上記培養培地から精製される。細胞が溶菌されると、細胞内HMOが培地中に放出され、培地のHMO濃度が高まる。これにより、HMO生産性が向上し、並びに生産性が向上し、及び処理工程が少なくなるため、時間、及びコストを節約することができる。したがって、当該HMOは、培地中の遊離Mg2+の濃度が、10μM以下である場合、及び/又は溶菌が直接可視化されうる場合、上記培養培地から精製されることが、好ましい。溶菌は、例えば、培養物を視覚的に除去することにより、及び/又は600nm(光学密度)で培養物のOD600吸光度値を測定することにより、直接可視化することができる。培養物のOD600値は、当業者に一般的に公知の方法、例えば、分光光度計を用いて、測定することができる。OD600値が下がると、細胞が溶菌されたことを示す。したがって、本発明では、培養物のOD600値が低下することにより、溶菌を、直接可視化することができる。
【0089】
本発明は、さらに、本発明のHMOを製造するための方法により得られうる、培地を提供する。本発明の微生物を培養して、HMOを産生するため、当該培地には、HMOが含まれる。培養終了時の培地のHMO濃度は、好ましくは、少なくとも15g/L、より好ましくは、少なくとも20g/L、さらに好ましくは、少なくとも30g/L、最も好ましくは、少なくとも50g/Lである。本発明の媒体は、さらに、例えば、凍結乾燥により、脱水することができる。
【0090】
本発明はまた、本発明のHMOを製造する方法により得られうる、精製HMOを提供する。
【0091】
本発明の培地、及び精製HMOは、乳児栄養、及び/又は動物等の、ヒトによる消費のための製品の調製に用いてよい。本発明の培地、及び精製HMOは、動物用飼料の調製に用いてよい。当該動物用飼料は、愛玩動物(イヌ、ネコ)、家畜(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、又はブタ、及び家禽)、及び/又は魚であってもよい。当該動物用飼料は、牛用であることが、好ましい。好ましくは、動物用飼料は、子牛用の代用乳製品である。
【0092】
本発明を、以下の非限定的な実施例により、例示する。
【実施例0093】
〔材料及び方法〕
使用した株、プラスミド、及びプライマーを表3、及び4に示す。大腸菌BL21(DE3)株を、HMO産生用の宿主株として、大腸菌TOP10株を、プラスミド構築用、及び維持用に、用いる。大腸菌は、LB培地(10g/Lトリプトン、5g/L酵母抽出物、10g/L NaCl)で培養し、必要に応じて、アンピシリン(100μg/ml)、ストレプトマイシン(50μg/ml)、又はカナマイシン(50μg/ml)を添加する。遺伝子欠失は、Jensen et al.2015(Sci Rep 2015;5:17874)のラムダRed組換え酵素/フリッパーゼ系を用いることができる。ベクターpSIJ8を大腸菌BL21(DE3)のコンピテント細胞に遺伝子導入する。ラムダRed遺伝子は、15mMのL-アラビノースの存在下で誘導される。カナマイシン耐性カセット(kanR)は、ベクターpKD13(Datsenko、及びWanner、2000)から増幅されるが、50bp長の相同的標的配列、及びFRT部位で隣接し、L‐アラビノース誘導性コンピテント細胞に遺伝子導入される。欠失後、50mML-ラムノースの存在下で、フリッパーゼリコンビナーゼの誘導により抗生物質カセットが除去される。温度感受性ヘルパープラスミド(pSIJ8)を硬化させるため、細胞を42℃で、増殖させる。遺伝子発現には、ベクターpETDuet-1、pCDFDuet-1、及びpCOLADuet-1を用いてよい(表3、
図2、4、及び7)。プラスミドは、大腸菌BL21(DE3)のコンピテント細胞に遺伝子導入される。回分発酵では、大腸菌を、100mlの36g/Lグルコース含有LB中で、増殖させる。OD
600が0.6~0.8に到達した時点で、0.1mM IPTG、又は0.2%ラクトースを添加して、誘導する。16~25℃で、2~10時間、増殖させた後、5g/Lのラクトースを添加して、HMO産生を行う。
【0094】
表3 株、及びプラスミド
【0095】
【表3】
表4 遺伝子の過剰発現や欠失に用いられるプライマー
【0096】
【表4】
【表5】
下線:制限部位(過剰発現)、ベクター結合部位(ノックアウト)
〔発現ベクターの構築〕
pET-manCB-gmd-wcaG
manC-manB、及びgmd-wcaG遺伝子は、表4に記載されるプライマーを用いて、大腸菌K-12 MG1655株のゲノムDNAから増幅される。まず、gmd-wcaGのPCR産物を、NdeI/KpnIで消化し、同様に切断されたベクターpETDuet-1(
図2)に挿入して、pET-gmd-wcaGを得る。次に、manC-manBのPCR断片をNcoI/HindIIで消化し、類似の切断ベクターpET-gmd-wcaGに挿入して、ベクターpET-manCB-gmd-wcaG(
図3)を作製する。選択したクローンを、アンピシリン(100μg/ml)含有LBで増殖させ、制限酵素マッピング、及びDNA配列決定により確認する。
【0097】
pCDF-futC-lacY
*
-hHSP70-trxA-SRRz
大腸菌に最適化されたコドンを備えるヒトHSP70遺伝子を合成し、pUC57ベクター(GeneScript)で提供する。当該hHSP70遺伝子は、NdeI/BglII制限を介して、当該ベクターから単離され、同様に切断されたベクターpCDFDuet-1(
図4)に挿入されて、pCDF-hHSP70を獲得する。lacY-遺伝子は、表4に記載されるプライマーを用いて、大腸菌K12-MG1655のゲノムDNAから増幅される。サブクローニングには、PCR産物を、BamHI/HindIII制限を介して、ベクターpUC19(
図5)に挿入する。部位特異的突然変異誘発を行い、アミノ酸置換S209I(lacY*)の突然変異を導入する。次いで、lacY*遺伝子を、BamHI/HindIIIを介して、ベクターpUC19-lacY*から消化し、同様に切断されたベクターpCDF-hHSP70に挿入して、pCDF-lacY*-hHSP70を生成させる。pUC57ベクター(GeneScript)には、N末端トリプルAsp-tagの有無にかかわらず、ピロリ菌由来のfutC遺伝子が、結合し、大腸菌のコドンで最適化される。当該futC断片は、NcoI/BamHI制限を介して、pUC57から単離され、pCDF-lacY*-hHSP70/NcoI/BamHIに挿入され、pCDF-futC-lacY*-hHSP70が生成される。当該trxA遺伝子は、大腸菌K12-MG1655株から増幅され、BglII/KpnI消化を介して、pCDF-futC-lacY*-hHSP70に挿入され、プラスミドpCDF-futC-lacY*-hHSP70-trxAを、生成する。最後に、バクテリオファージラムダ由来SRRz遺伝子を、大腸菌BL21(DE3)株から増幅し、発光バクテリア(Vibrio fischeri)由来双方向性LuxICDABEG終結因子(terminator)を、3’末端に導入し、SacI/PstIで消化し、同様に切断したベクターpUC19に、挿入した。mgtAのプロモーターを、大腸菌BL21(DE3)株由来の5’UTR領域で増幅し、SacIで消化し、pUC19-SRz-laxTerm/SacIに挿入して、pUC-PmgtA-UTR-SRz-laxTermを、生成する。最終的に、遺伝子カセットPmgtA-UTR-SRz-laxTermを増幅し、Bsu36iで消化した後、pCDF-futC-lacY*-hHSP70-trxA/Bsu36iに挿入し、pCDF-futC-lacY*-hHSP70-trxA-SRz(
図6)を、生成する。選択したクローンを、ストレプトマイシン(50μg/ml)含有LBで増殖させ、制限酵素マッピング、及びDNA配列決定により確認する。
【0098】
pCOLA-pntAB-rcsA-zwf-gsk
大腸菌K12-MG1655株からrcsA遺伝子を増幅し、NdeI/BglIIで消化し、同様に切断したベクターpCOLADuet-1(
図7)に挿入して、pCOL-rcsAを生成する。次に、大腸菌K12-MG1655株からzwf遺伝子を増幅し、pCOLA-rcsA/BglII/KpnIに挿入して、pCOLA-rcsA-zwfを得る。続いて、大腸菌K12-ATCC10798株からgsk遺伝子を増幅し、KpnI/XhoIで消化し、pCOLA-rcsA-zwf/KpnI/XhoIに挿入して、pCOLA-rcsA-zwf-gskを生成する。最終的に大腸菌K12-MG1655株からpntAB遺伝子を増幅し、NcoI/BamHIで消化し、pCOLA-rcsA-zwf-gsk/NcoI/BamHIに挿入して、ベクターpCOLA-pntAB-rcsA-zwf-gsk(
図8)を作製する。選択されたクローンを、カナマイシン(50μg/ml)含有LBで増殖させ、制限酵素マッピング、及びDNA配列決定により確認する。
本発明は、人乳オリゴ糖(HMO)の改良された産生手段を提供する。本発明の微生物、及び産生方法により製造されるHMOは、広く産業的に適用することができ、例えば、乳児栄養、医療用栄養、機能性食品、及び動物用飼料の、機能性成分として適用されてよい。