(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113703
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】トラスツズマブ エムタンシンを用いて残存乳癌を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230808BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230808BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/517 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/5365 20060101ALI20230808BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K39/395 T
A61P15/00
A61P35/00
A61K31/517
A61K31/4709
A61K31/337
A61P43/00 121
A61K31/5365
A61K47/68
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023081595
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021520348の分割
【原出願日】2019-04-24
(31)【優先権主張番号】62/745,914
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】スミット, メラニー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ネオアジュバント治療に対して病理学的な完全寛解を達成しないHER2陽性早期乳癌を有する患者を治療する方法を提供する。
【解決手段】HER2陽性早期乳癌を有する患者に、単独療法として有効量のトラスツズマブエムタンシン(T-DM1)を投与することを含むアジュバント療法の方法であって、前記患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2陽性早期乳癌を有する患者に、単独療法として有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含むアジュバント療法の方法であって、前記患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、方法。
【請求項2】
前記残存病変が、乳房に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記残存病変が、リンパ節に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記残存病変が、乳房及びリンパ節に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記術前全身治療が、HER2標的療法を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記HER2標的療法が、トラスツズマブを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記HER2標的療法が、ペルツズマブを更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記HER2標的療法が、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、アファチニブ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を更に含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記術前全身治療が、タキサンを更に含む、請求項5~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記患者が、成人患者である、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、T-DM1の前記投与前に根治手術を受ける、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記患者が、前記根治手術後12週以内にT-DM1を投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記患者が、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法を用いる術前全身治療を完了している、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を投与される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法における使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)であって、前記アジュバントが、単独療法であり、かつ前記患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)。
【請求項22】
前記残存病変が、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する、請求項21に記載の使用のためのT-DM1。
【請求項23】
前記術前全身治療が、HER2標的療法を含む、請求項21又は22に記載の使用のためのT-DM1。
【請求項24】
前記HER2標的療法が、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む、請求項23に記載の使用のためのT-DM1。
【請求項25】
前記術前全身治療が、タキサンを更に含む、請求項21~25のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項26】
前記患者が、成人患者である、請求項21~25のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項27】
前記患者が、T-DM1の投与前に根治手術を受ける、請求項21~26のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項28】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項21~27のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項29】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、請求項21~28のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項30】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項21~29のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項31】
前記アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、請求項21~30のいずれかに記載の使用のためのT-DM1。
【請求項32】
患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法に使用するための医薬の製造におけるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の使用であって、前記アジュバントが、単独療法であり、前記患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用。
【請求項33】
前記残存病変が、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する、請求項32に記載の使用。
【請求項34】
前記術前全身治療が、HER2標的療法を含む、請求項32又は33に記載の使用。
【請求項35】
前記HER2標的療法が、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
前記術前全身治療が、タキサンを更に含む、請求項32~35のいずれかに記載の使用。
【請求項37】
前記患者が、成人患者である、請求項32~36のいずれかに記載の使用。
【請求項38】
前記患者が、T-DM1の投与前に根治手術を受ける、請求項32~37のいずれかに記載の使用。
【請求項39】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項32~38のいずれかに記載の使用。
【請求項40】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、請求項32~39のいずれかに記載の使用。
【請求項41】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項32~40のいずれかに記載の使用。
【請求項42】
前記アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、請求項32~41のいずれかに記載の使用。
【請求項44】
HER2陽性早期乳癌を有する患者において乳癌を治療するための方法であって、前記患者が、化学療法及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有する方法であって、
(i)根治手術によって前記乳房及び前記腋窩リンパ節内の臨床的に明らかなすべての腫瘍細胞を除去することと、
(ii)前記患者に、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を用いる単独療法のアジュバント療法を行うことと、を含む、方法。
【請求項45】
前記患者が、タキサン及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に前記乳房又は前記腋窩リンパ節内に残存病変を有する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記患者が、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法を用いるネオアジュバント療法を完了している、請求項44又は45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いるアジュバント治療を受ける、請求項44~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける、請求項44~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける、請求項44~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項44~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項44~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
ネオアジュバント療法後に残存病変を有する患者におけるHER2陽性早期乳癌の治療のための方法であって、前記方法が、前記患者が根治手術を受けた後に、前記患者に有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含む、方法。
【請求項54】
前記残存病変が、病理学的残存浸潤性疾患である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記残存病変が、リンパ節内の病理学的残存浸潤性疾患である、請求項53又は54に記載の方法。
【請求項56】
前記残存病変が、乳房内の病理学的残存浸潤性疾患である、請求項53~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記方法が、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない、請求項53~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記ネオアジュバント療法が、タキサン及びHER2標的療法を含む、請求項53~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記ネオアジュバント療法が、タキサン及びトラスツズマブを含む、請求項53~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記患者が、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している、請求項53~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している、請求項53~60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける、請求項53~61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける、請求項53~62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける、請求項53~63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項53~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項53~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
HER2陽性早期乳癌を有する患者において、癌再発のリスクを低減するための方法であって、前記方法が、前記患者に有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含み、前記患者が、ネオアジュバント療法により病理学的な完全寛解を達成しておらず、かつ前記患者が、T-DM1の前記投与前に根治手術を受けている、方法。
【請求項68】
前記方法が、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記ネオアジュバント療法が、タキサン及びHER2標的療法を含む、請求項67又は68に記載の方法。
【請求項70】
前記ネオアジュバント療法が、タキサン含有化学療法レジメン及びトラスツズマブを含む、請求項67~69のいずれか一項に記載の方法。
【請求項71】
前記患者が、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している、請求項67~70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している、請求項67~71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける、請求項67~72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける、請求項67~73のいずれか一項に記載の方法。
【請求項75】
前記患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける、請求項67~74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、請求項67~75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、請求項67~76のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
前記アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、請求項44~77のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、請求項44~78のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月15日に出願された米国特許仮出願第62/745,914号の利益を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、残存乳癌の治療のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
乳癌は、世界中で罹患率及び死亡率の極めて重大な原因である。毎年世界中で130万症例を超える乳癌が診断され、この疾患に関連する死亡例は450,000件を超える(Jemal A,Bray F,Center M,et al.「Global cancer statistics.」CA Cancer J Clin 2011;61(2):69-90)。
【0004】
HER2(ErbB2)受容体チロシンキナーゼは、膜貫通受容体の上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーのメンバーである。HER2の過剰発現は、ヒト乳癌のおよそ20%に観察され(以下、HER2陽性乳癌と称する)、これらの腫瘍に関連する侵攻性の成長及び臨床転帰不良に関連付けられている(Slamon et al(1987)Science 235:177-182)。HER2タンパク質過剰発現は、固定腫瘍ブロックの免疫組織化学に基づく評価を使用して決定され得る(Press MF,et al(1993)Cancer Res 53:4960-70)。
【0005】
トラスツズマブ(CAS 180288-69-1、HERCEPTIN(登録商標)、huMAb4D5-8、rhuMAb HER2、Genentech)は、組換えDNA由来のIgG1κ、モノクローナル抗体であり、HER2の細胞外ドメインに対して細胞ベースアッセイにおいて高親和性で選択的に結合する(Kd=5nM)、マウス抗HER2抗体(4D5)のヒト化形態である(米国特許第5677171号、同5821337号、同6054297号、同6165464号、同6339142号、同6407213号、同6639055号、同6719971号、同6800738号、同7074404号、Coussens et al(1985)Science 230:1132-9、Slamon et al(1989)Science 244:707-12、Slamon et al(2001)New Engl.J.Med.344:783-792)。トラスツズマブは、インビトロアッセイ及び動物の両方において、HER2を過剰発現するヒト腫瘍細胞の増殖を阻害することが示されてきた(Hudziak et al(1989)Mol Cell Biol 9:1165-72、Lewis et al(1993)Cancer Immunol Immunother;37:255-63、Baselga et al(1998) Cancer Res.58:2825-2831)。トラスツズマブは、抗体依存性細胞障害作用(ADCC)のメディエータである(Lewis et al(1993)Cancer Immunol Immunother 37(4):255-263、Hotaling et al(1996)Proc.Annual Meeting Am Assoc Cancer Res;37:471;Pegram MD,et al(1997)[Proc Am Assoc Cancer Res;38:602、Sliwkowski et al(1999)Seminars in Oncology 26(4),Suppl 12:60-70、Yarden Y.and Sliwkowski,M.(2001)Nature Reviews:Molecular Cell Biology,Macmillan Magazines,Ltd.,Vol.2:127-137)。
【0006】
HERCEPTIN(登録商標)は、広範な事前抗癌治療を受けた、HER2過剰発現転移性乳癌を有する患者の治療のために1998年に認可され(Baselga et al,(1996)J.Clin.Oncol.14:737-744)、その後300,000人を上回る患者に使用されてきた(Slamon DJ,et al.N Engl J Med 2001;344:783-92、Vogel CL,et al.J Clin Oncol 2002;20:719-26、Marty M,et al.J Clin Oncol 2005;23:4265-74、Romond EH,et al.T N Engl J Med 2005;353:1673-84、Piccart-Gebhart MJ,et al.N Engl J Med 2005;353:1659-72、Slamon D,et al.Breast Cancer Res Treat 2006,100(Suppl 1):52)。2006年に、FDAは、HER2陽性のリンパ節陽性乳癌を有する患者のアジュバント治療のために、ドキソルビシン、シクロホスファミド、及びパクリタキセルを含有する治療レジメンの一部として、HERCEPTIN(登録商標)(トラスツズマブ、Genentech Inc.)を承認した。
【0007】
抗体標的治療に対する代替的アプローチは、抗原発現腫瘍細胞に特異的に細胞障害薬を送達するために抗体を利用することである。抗体-薬物複合体、すなわちADCは、極めて強力な細胞障害性薬物が既に複合しているモノクローナル抗体である。ADCは、全身的に投与された抗腫瘍治療に腫瘍選択性を付与する新規アプローチを代表する。腫瘍特異的な、かつ/又は過剰発現した表面抗原を使用して、ADCは、腫瘍細胞に対する極めて強力な細胞障害性薬物の送達に注目して設計されている。このアプローチの潜在力とは、そのような薬剤について、遊離薬物として投与することにより達成できるであろう場合よりも、より有益な治療濃度域を生み出すことである。
【0008】
抗有糸分裂薬マイタンシンの誘導体、マイタンシノイドは、ビンカアルカロイド薬物に類似の様式で微小管に結合する(Issell BF et al(1978)Cancer Treat.Rev.5:199-207、Cabanillas F et al.(1979)Cancer Treat Rep,63:507-9。DM1は、天然物エステルのアンサマイトシンP3から誘導されたチオール含有マイタンシノイドである(Remillard S,Rebhun LI,Howie GA,et al.(1975)Science 189(4207):1002-1005.3、Cassady JM,Chan KK,Floss HG.(2004)Chem Pharm Bull 52(1):1-26.4)。関連する植物エステル、マイタンシンは、およそ800人の患者において化学療法剤として研究されており、単回投与又は3連続日のいずれかで3週ごとに2.0mg/m2の用量で投与された(Issell BF,Crooke ST.(1978)Maytansine.Cancer Treat Rev 5:199-207)。前臨床活性にもかかわらず、臨床におけるマイタンシンの活性は、安全に送達できるであろう用量で穏和であった。用量規定毒性(DLT)は、悪心、嘔吐、及び下痢(多くの場合便秘が続く)からなる胃腸毒性であった。これらの毒性は、用量依存性であったが、スケジュール依存性ではなかった。末梢神経障害(主に感覚)が報告されており、既存の神経障害を有する患者で最も見られた。肝トランスアミナーゼ、アルカリホスファターゼ、及び総ビリルビンの無症状一時的上昇が報告された。脱力、嗜眠、神経不安、及び不眠を含む体質毒性が共通して見られた。よりまれな毒性には、注入部位静脈炎及び軽度の骨髄抑制が挙げられた。薬剤の更なる開発は、狭い治療濃度域が理由で1980年代に中止された。
【0009】
HER2陽性乳癌の治療用の新規抗体-薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1、トラスツズマブ-MCC-DM1、アドトラスツズマブ エムタンシン、KADCYLA(登録商標))は、平均薬物負荷(薬物の抗体に対する比)が約3.5の、MCCリンカーを介してリシン側鎖でトラスツズマブと複合化された細胞毒性剤DM1(チオール含有マイタンシノイド抗微小管剤)からなる。腫瘍細胞上に発現されたHER2に結合後、T-DM1は、受容体介在内在化を受け、DM1を含有する細胞毒性異化産物の細胞内放出及びそれに続く細胞死をもたらす。
【0010】
現在、標準化学療法及びHER2標的治療からなるネオアジュバント療法を用いて病理学的な完全寛解を達成しないHER2陽性早期乳癌を有する患者は、疾患再発の顕著により高いリスクがあり、病理学的な完全寛解を実現する患者よりも生存期間が低下している。HER2陽性患者では、病理学的な完全寛解を実現することは、浸潤性疾患又は死亡のリスクの62%~73%低減に関連し、3年後のなんらかの原因による死亡のリスクの65%低減に関連した(Schneeweiss 2018、de Azambuja Lancet Oncol 2014、Gianni Lancet Oncol 2014)。しかしながら、病理学的な完全寛解は、これらの患者のおよそ30%~40%のみで達成される(Schneeweiss 2018、de Azambuja Lancet Oncol 2014、Gianni Lancet Oncol 2014、Untch JCO 2011)。したがって、ネオアジュバント治療に対して病理学的な完全寛解を達成しないそれらの癌患者を治療することについての満たされていない医療ニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0011】
本開示は、全般的に、抗体-薬物複合体、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を用いて乳癌患者を治療する方法に関する。
【0012】
一態様では、本開示は、HER2陽性早期乳癌を有する患者に、単独療法として有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含むアジュバント療法の方法であって、患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、方法、に関する。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房に存在する、リンパ節に、又は乳房及びリンパ節に存在する。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、トラスツズマブなどのHER2標的治療を含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及び/又はアファチニブを更に含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブ及びペルツズマブを含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブを含み、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブからなる群から選択される薬剤を更に含む。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンを更に含む。ある特定の実施形態では、患者は、成人患者である。ある特定の実施形態では、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を投与される。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法を用いる術前全身治療を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を投与される。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を投与される。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0013】
一態様では、本開示は、患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法における使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)であって、アジュバント療法が、単独療法であり、かつ患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)、に関する。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、HER2標的治療を含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブを含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及び/又はアファチニブを更に含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブ及びペルツズマブを含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブを含み、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブからなる群から選択される薬剤を更に含む。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンを更に含む。ある特定の実施形態では、患者は、成人患者である。ある特定の実施形態では、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0014】
一態様では、本開示は、患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法に使用するための医薬の製造におけるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の使用であって、アジュバント療法が、単独療法であり、かつ患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用、に関する。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、HER2標的治療を含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブを含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及び/又はアファチニブを更に含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブ及びペルツズマブを含む。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブを含み、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブからなる群から選択される薬剤を更に含む。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンを更に含む。ある特定の実施形態では、患者は、成人患者である。ある特定の実施形態では、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0015】
一態様では、本開示は、HER2陽性早期乳癌を有する患者において乳癌を治療するための方法であって、患者が、化学療法及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有し、当該方法が、(i)根治手術によって乳房及び腋窩リンパ節内のすべての臨床的に明らかな腫瘍細胞を除去することと、(ii)患者に、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療なしに、T-DM1を用いるアジュバント治療を行うことと、を含む、方法、に関する。ある特定の実施形態では、患者は、タキサン及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有する。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法レジメンを完了している。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を用いるアジュバント治療を受ける。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後少なくとも14日に実施される。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後9週以内に実施される。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0016】
一態様では、本開示は、ネオアジュバント療法後に残存病変を有する患者におけるHER2陽性早期乳癌の治療のための方法であって、当該方法は、患者が根治手術を受けた後に、当該患者に有効量のT-DM1を投与することを含む、方法、に関する。一態様では、残存病変は、病理学的残存浸潤性疾患である。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房及び/又は腋窩リンパ節内の病理学的残存浸潤性疾患である。ある特定の実施形態では、方法は、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない。ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及びHER2標的療法を含む。ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及びトラスツズマブを含む。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント化学療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後少なくとも14日に実施される。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後9週以内に実施される。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0017】
他の態様では、本開示は、HER2陽性早期乳癌を有する患者において、癌再発のリスクを低減するための方法であって、当該方法は、患者に有効量のT-DM1を投与することを含み、患者は、ネオアジュバント療法により病理学的な完全寛解を達成しておらず、かつ患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受けている、方法、に関する。ある特定の実施形態では、方法は、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない。ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及びHER2標的療法を含む。ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及びトラスツズマブを含む。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後少なくとも14日に実施される。ある特定の実施形態では、根治手術は、ネオアジュバント療法の完了後9週以内に実施される。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける。ある特定の実施形態では、患者は、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該治療は、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】KATHERINE試験デザインの概略図である。
【
図2A】KATHERINE臨床試験治療群のベースライン特性の概要を示す図である。
【
図2B】KATHERINE臨床試験治療群のベースライン特性の概要を示す図である。
【
図2C】KATHERINE臨床試験治療群のベースライン特性の概要を示す図である。
【
図3】無浸潤疾患生存期間のカプランマイヤープロットである。無浸潤疾患生存期間は、同側浸潤性乳房腫瘍再発、同側局所浸潤性病変再発、遠隔病変再発、対側浸潤性乳癌、又はなんらかの原因による死亡のうち最初に発生した日までの、無作為割付けからの時間として定義された。CIは、信頼区間を意味し、HRは、ハザード比を意味する。
【
図4A】再発浸潤性乳癌として組織学的に確認されるか、又は臨床的に診断されるかのいずれかであった、同側浸潤性乳房腫瘍又は局所浸潤性乳癌の再発以外の、任意の解剖学的部位内の乳癌のエビデンスとして定義された、遠隔再発のカプランマイヤープロットである。多重比較のために統計上の調整は行わなかった。
【
図4B】患者における最初の浸潤性病変事象の部位の概要を示す図である。
【
図5】KATHERINE臨床試験からの二次有効性エンドポイントの概要を示す図である。
【
図6A】無浸潤疾患生存期間のフォレストプロットである。
【
図6B】無浸潤疾患生存期間のフォレストプロットである。CIは、信頼区間を意味する。ホルモン受容体陰性は、エストロゲン受容体(ER)陰性及びプロゲステロン受容体(PgR)陰性を意味し、ホルモン受容体陽性は、ER陽性、PgR陽性、又はその両方を意味する。HER2は、ヒト上皮成長因子受容体を意味する。ICHは、免疫組織化学を意味する。IDFSは、無浸潤疾患生存期間を意味する。ISHは、インサイツハイブリダイゼーションを意味する。
【
図7】治療目的集団におけるネオアジュバントHER2標的療法による最初の浸潤性病変事象のリスクの概要を示す図である。
【
図8】患者集団の全生存期間のカプランマイヤープロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
これより本開示のある特定の実施形態を詳細に参照するが、それらの例は、添付の構造及び式に例示されている。本開示は、列挙される実施形態と併せて説明されるが、それらは、本開示をこれらの実施形態に限定することを意図するものではないことが理解されるであろう。反対に、本開示は、特許請求の範囲によって定義される本開示の範囲内に含まれ得る、すべての代替例、修正、及び同等物を網羅することを意図するものである。当業者であれば、本開示の実施に使用することができる、本明細書に記載されるものに類似又は同等である多数の方法及び材料を理解するであろう。本開示は、決して記載される方法及び材料に限定されるものではない。
【0020】
本開示全体で引用されるすべての参照文献は、参照によりそれら全体が本明細書に明示的に組み込まれる。組み込まれる文献、特許、及び同様の資料のうちの1つ以上が、本出願(定義される用語、用語の用法、記載される技法等を含むがそれらに限定されない)と異なるか、又は矛盾する場合は、本出願が優先される。
【0021】
開示を明確にする目的で、かつ限定を目的とせずに、詳細な説明を以下のサブセクションに分割する。
I. 定義、
II. トラスツズマブ エムタンシン、
III.トラスツズマブ エムタンシンの製剤、
IV. トラスツズマブ エムタンシンの投与、
V. 製品、
VI. 例示的な実施形態。
【0022】
I.定義
【0023】
「comprise(含む)」、「comprising(含むこと)」、「include(含む)」、「including(含むこと)」、及び「includes(含む)」という語は、本明細書及び特許請求の範囲内で使用される場合、述べられる特徴、整数、成分、又は工程の存在を特定することを意図するものであるが、それらは、1つ以上の他の特徴、整数、成分、工程、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。
【0024】
「治療する」及び「治療」という用語は、治療的処置及び予防的又は防止的手段の両方を指し、その目的は、所望されない生理学的変化又は疾患(がんなどの過剰増殖性状態の増殖、発症又は伝播など)を防止又は減速(緩和)することである。本開示の目的のために、有益又は所望の臨床結果としては、検出可能であるか検出不能であるかに関わらず、症状の軽減、疾患の程度の縮小、疾患の病態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患進行の遅延又は減速、疾患病態の回復又は緩和、及び(部分的か完全かに関わらず)寛解が挙げられるが、これらに限定されない。「治療」はまた、治療を受けていなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することも意味し得る。治療を必要とする者としては、病態若しくは疾患を既に有する者、及び病態若しくは疾患を有する傾向にある者、又は病態若しくは疾患を予防する必要がある者が挙げられる。
【0025】
「がん」及び「がん性」という用語は、制御されていない細胞成長を典型的に特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指すか、又は説明する。「腫瘍」は、1つ以上のがん性細胞を含む。がんの例としては、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病、又はリンパ系悪性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。そのようながんのより具体的な例としては、扁平上皮細胞癌(例えば、上皮性扁平上皮細胞癌)、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌(「NSCLC」)、肺の腺癌、及び肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜の癌、肝細胞癌、胃癌(gastric cancer)又は胃癌(stomach cancer)(消化管癌を含む)、膵臓癌、膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌(kidney cancer)又は腎臓癌(renal cancer)、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、並びに頭頸部癌が挙げられる。
【0026】
「初期乳癌(EBC)」又は「早期乳癌」という用語は、乳房又は腋窩リンパ節以外に伝播していない乳癌を指すために本明細書で使用される。この用語には、上皮内(in situ)及びI期、IIA期、IIB期、並びにIIIA期の乳癌、並びに、IIIA期を超えて進行しているが、IV期には進行していない乳癌が含まれる。
【0027】
腫瘍又はがんを「0期」、「I期」、「II期」、「III期」、又は「IV期」、及びこの分類内の様々な病期サブステージで呼ぶことは、当該技術分野で既知の総合病期分類(Overall Stage Grouping)又はローマ数字分類(Roman Numeral Staging)を用いる腫瘍又はがんの分類を指す。がんの実際の病期は、がんの種類によって決まるが、一般的には、0期がんは、上皮内病変であり、I期がんは、小型限局性腫瘍であり、II期がん及びIII期がんは、局所リンパ節の併発を示す局所進行腫瘍であり、IV期がんは、転移性がんを表す。腫瘍のそれぞれの種類について特異的な病期は、熟練臨床医には既知である。
【0028】
「転移性乳癌」という用語は、その癌細胞が元の部位から血管又はリンパ管を介して体内の他の部分の1つ以上の部位に伝播され、乳房以外の1つ以上の器官に1つ以上の二次腫瘍を形成する、乳癌の状態を意味する。
【0029】
「進行」がんとは、元の部位又は器官の外に、局所浸潤又は転移のいずれかによって広がったがんである。したがって、「進行」がんという用語には、局所進行疾患及び転移性疾患の両方が含まれる。
【0030】
「抵抗性」がんとは、化学療法などの抗腫瘍剤ががん患者に投与されているにもかかわらず進行するがんである。抵抗性がんの例は、白金抵抗性のがんである。
【0031】
「再発」がんとは、手術等の初期療法への応答後に、初期部位又は遠隔部位のいずれかにおいて再成長したがんである。
【0032】
「局所的再発」がんとは、治療後に以前に治療されたがんと同じ場所で再発するがんである。
【0033】
「手術可能な」がん又は「切除可能な」がんとは、主な器官に限局しており、手術(切除)に好適ながんである。
【0034】
「切除不能な(non-resectable)」がん又は「切除不能な(unresectable)」がんとは、本明細書で使用する場合、手術によって除去(切除)されることができないがんである。
【0035】
「HER2陽性」がんは、正常レベルよりも高いHER2を有するがん細胞を含む。HER2陽性がんの例としては、HER2陽性乳癌及びHER2陽性胃癌が挙げられる。任意選択で、HER2陽性がんは、2+若しくは3+の免疫組織化学(IHC)スコア、及び/又は≧2.0のインサイツハイブリダイゼーション(ISH)増幅率を有する。
【0036】
本明細書において、「患者」又は「対象」は、ヒト患者である。患者は、「がん患者」、すなわち、がん、特に胃癌若しくは乳癌の1つ以上の症状に罹患しているか、又は罹患するリスクがある患者であり得る。
【0037】
「患者母集団」は、本明細書で使用する場合、がん患者の群を指す。そのような母集団を使用して、Kadcylaなどの、薬物の統計的に有意な有効性及び/又は安全性を実証することができる。
【0038】
「再発」患者は、本明細書で使用する場合、寛解後にがんの兆候又は症状を有する患者である。任意選択で、患者は、アジュバント療法又はネオアジュバント療法後に再発した。
【0039】
「残存病変」を有する患者とは、療法に対して病理学的な完全寛解(PCR)を達成しなかった患者である。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房及び/又は腋窩リンパ節内の病理学的残存浸潤性疾患である。
【0040】
「HER発現、増幅、又は活性化を示す」がん若しくは生体試料とは、診断試験において、HER受容体を発現する(過剰発現を含む)、増幅したHER遺伝子を有する、かつ/又はそれ以外のHER受容体の活性化若しくはリン酸化を実証するものである。
【0041】
「ネオアジュバント療法」又は「術前療法」又は「術前全身治療」とは、本明細書で使用する場合、手術前に受ける療法を指す。ネオアジュバント療法の目的は、即時全身治療を提供することであり、標準的な一連の手術の後に全身治療が行われる場合、そうしなければ増殖するであろう微小転移を潜在的に根絶する。また、ネオアジュバント療法は、腫瘍のサイズを低減することによって、当初は切除不可能な腫瘍の完全切除、又は器官の一部及びその機能を保存することを可能にするのに役立ち得る。更に、ネオアジュバント療法は、薬剤有効性のインビボ評価を可能にし、その評価によりその後の治療の選択につなげることができる。
【0042】
「アジュバント療法」とは、本明細書で使用する場合、疾患再発のリスクを低減するために、根治手術後に付与される療法を指す。アジュバント療法の目的は、がんの再発を予防することであり、したがって、がん関連死の可能性を低減することである。本明細書におけるアジュバント療法は、ネオアジュバント療法を明確に除外する。
【0043】
「根治手術」とは、医学界で用いられる用語として用いる。根治手術には、例えば、肉眼で認められるすべての腫瘍の除去又は切除をもたらすものを含む、腫瘍の除去又は切除をもたらす手順、手術、又はその他のものが挙げられる。根治手術には、例えば、腫瘍の完全切除若しくは治療的切除又は肉眼的完全切除が挙げられる。根治手術には、1つ以上の段階で生じる手順が含まれ、例えば、1つ以上の手術又は他の手順が腫瘍の切除前に行われる多段階手術手順を含む。根治手術には、関連する器官、器官の一部及び組織、並びにリンパ節、器官の一部、又は組織などの周辺器官を含む腫瘍を除去又は切除するための手順が含まれる。除去は不完全であり得、腫瘍細胞が未検出であったとしても残存している恐れがある。
【0044】
「生存期間」とは、患者が生存したままであることを指し、無疾患生存期間(DFS)、無増悪生存期間(PFS)、及び全生存期間(OS)を含む。生存期間は、カプランマイヤー法により推定することができ、生存期間における任意の差異は、階層化ログランク検定を用いて計算される。
【0045】
「無増悪生存期間」(PFS)とは、治療の初日から、記録された疾患憎悪(単独CNS憎悪を含む)又は試験におけるなんらかの原因による死亡のいずれか早い方までの時間である。
【0046】
「無疾患生存期間(DFS)」とは、患者が生存したままであり、治療の開始から又は初期診断から約1年、約2年、約3年、約4年、約5年、約10年などの一定期間にわたりがんの再発がないことを指す。本開示の一態様では、DFSは、治療企図原理に従って解析される、すなわち、患者は、その割り当てられた療法に基づいて評価される。DFSの解析で使用される事象には、以前の事象がない患者におけるがんの限局性再発、局所再発、及び遠隔再発、二次がんの発生、並びになんらかの原因による死亡(例えば、乳癌再発又は二次原発がん)を挙げることができる。
【0047】
「無浸潤疾患生存期間(IDFS)」とは、同側浸潤性乳房腫瘍の再発、同側局所浸潤性病変の再発、遠隔病変再発、対側浸潤性乳癌などの浸潤性病変事象、又はなんらかの原因による死亡のうち最初に発生した日までの、患者無作為割付けからの時間を指す。
【0048】
「全生存期間(OS)」とは、本明細書で使用する場合、治療の開始から又は初期診断から約1年、約2年、約3年、約4年、約5年、約10年などの一定期間にわたり患者が生存したままであることを指す。本開示の基礎となる試験において、生存期間解析に使用された事象は、なんらかの原因による死亡であった。
【0049】
「生存期間の延長」とは、本明細書で使用する場合、未治療患者と比較して、又は対照治療プロトコルと比較して治療患者においてDFS及び/又はOSが増加することを指す。生存期間は、治療の開始後又は初期診断後、少なくとも約6か月、又は少なくとも約1年、又は少なくとも約2年、又は少なくとも約3年、又は少なくとも約4年、又は少なくとも約5年、又は少なくとも約10年などにわたり監視される。
【0050】
生存期間解析における「ハザード比」は、2つの生存期間曲線間の差のまとめであり、追跡期間にわたって対照と比較した治療に対する死亡リスクの減少を表す。「ハザード比」とは、事象発生率の統計的定義である。本開示の目的のために、ハザード比は、実験群における事象の確率を、任意の特定の時点で、対照群における事象の確率で割ったものを表すものとして定義される。
【0051】
「単独療法」とは、本明細書で使用する場合、治療期間の経過中にがん又は腫瘍の治療のための単剤療法剤のみを含む治療レジメンを指す。
【0052】
「維持療法」とは、本明細書で使用する場合、疾患再発又は疾患進行の可能性を低減するために付与される治療レジメンを指す。維持療法は、対象の寿命までの長期間を含む、任意の長さの時間にわたって提供され得る。維持療法は、初期療法後に提供されるか、又は初期療法若しくは追加の療法と組み合わせて提供され得る。維持療法に使用される投薬量は変化する可能性があり、他の種類の療法に使用される投薬量と比較して縮小した投薬量を含み得る。
【0053】
本明細書で定義されたように、「トラスツズマブ」、「HERCEPTIN(登録商標)」、及び「huMAb4D5-8」という用語は、同じ意味で使用される。
【0054】
「エピトープ4D5」又は「4D5エピトープ」若しくは「4D5」は、抗体4D5(ATCC CRL 10463)及びトラスツズマブが結合するHER2の細胞外ドメイン内の領域である。このエピトープは、HER2の膜貫通ドメインに近接し、HER2のドメインIV内にある。4D5エピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Ed Harlow and David Lane(1988)に記載されるものなどのルーチンクロスブロッキングアッセイを行うことができる。代替として、エピトープマッピングを行い、抗体がHER2の4D5エピトープ(例えば、HER2の、両端を含む約残基529~約残基625に由来する領域内の任意の1つ以上の残基)に結合するかどうかを評価することができる。
【0055】
本明細書で定義されたように、「T-DM1」、「トラスツズマブ-MCC-DM1」、「アドトラスツズマブ エムタンシン」、「トラスツズマブ エムタンシン」、及び「KADCYLA(登録商標)」という用語は、同じ意味で使用され、リンカー部分MCCを介してマイタンシノイド薬物部分DM1に連結されたトラスツズマブを指し、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、及び8個の薬物部分が抗体トラスツズマブに共有結合している、様々に搭載かつ結合された抗体-薬物複合体のすべての混合物を含む(全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7097840号、米国特許出願公開第2005/0276812号、同2005/0166993号を参照されたい)。トラスツズマブ-MCC-DM1は、平均3.5 DM1分子/抗体を含有する。
【0056】
「化学療法」とは、がんの治療に有用な化学療法剤の使用である。
【0057】
「HER2標的療法」又は「HER2指向療法」は、本明細書では同じ意味で使用され、HER2経路を標的とする薬剤の使用を指す。HER2経路を標的とする薬剤の非限定的な例には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブが挙げられる。
【0058】
ペルツズマブ(組換えヒト化モノクローナル抗体2C4、rhuMAb 2C4、PERJETA(登録商標)、Genentech,Inc,South San Franciscoとしてもまた既知)は、Her2を標的とする別の抗体治療である。ペルツズマブは、Her二量化阻害剤(HDI)であり、他のHer受容体との活性ヘテロ二量体又はホモ二量体(EGFR/Her 1、Her 2、Her 3、及びHer 4など)を形成するHer2の能力を阻害するように機能する。例えば、Harari and Yarden Oncogene 19:6102-14(2000);Yarden and Sliwkowski.Nat Rev Mol Cell Biol 2:127-37(2001);Sliwkowski, Nat Struct Biol 10:158-9(2003);Cho et al.Nature 421:756-60(2003);及びMalik et al.,Pro Am Soc Cancer Res 44:176-7(2003);米国特許第7560111号を参照されたい。
【0059】
ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブは、小分子HER2キナーゼ阻害剤である。ラパチニブ二トシル酸塩(Tyverb/Tykerb(登録商標))の形態で使用されるラパチニブ(CAS 231277-92-2)は、チロシンキナーゼ活性HER2/neu及びEGFR(上皮成長因子受容体)を阻害する。HER2/neu及びEGFRの更なる二重阻害剤は、ネラチニブ(CAS 698387-09-6、Nerlynx(登録商標))及びアファチニブ(CAS 850140-72-6、Gilotrif(登録商標)であるが、ダコミチニブ(CAS 1110813-31-4、Vizimpro(登録商標)は、EGFR、HER2、及びHER4のチロシンキナーゼの阻害剤、すなわち、汎HER阻害剤である。
【0060】
用語「有効量」とは、患者においてがんを処置するのに有効な薬物の量を指す。有効量の薬物は、がん細胞の数を低下、腫瘍サイズを低下、末梢器官へのがん細胞浸潤を阻害(すなわち、ある程度の減速及び好ましくは停止)、腫瘍転移を阻害(すなわち、ある程度の減速及び好ましくは停止)、腫瘍成長をある程度阻害、かつ/又はがんに関連する症状のうちの1つ以上をある程度軽減し得る。薬物が既存のがん細胞の成長の予防及び/又はそれらの殺滅を行うことができる限り、この薬物は、細胞増殖抑制性かつ/又は細胞毒性であり得る。有効量によって、無増悪生存期間(例えば、固体腫瘍の奏功評価基準(RECIST)又はCA-125変化によって測定される)が延び、客観的奏功(部分奏功(PR)又は完全奏功(CR)を含む)がもたらされ、全生存期間が延長し、かつ/又はがんの1つ以上の症状(例えば、FOSIによって評価される)が改善され得る。「有効量」という用語は、実施例1に記載の臨床試験の一次エンドポイント又は二次エンドポイントのいずれかを達成するために好適な量を具体的に含む。
【0061】
「タキサン」は、有糸分裂を阻害し、微小管を妨害する化学療法である。タキサンの例には、パクリタキセル(TAXOL(登録商標);Bristol-Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.);パクリタキセル又はnab-パクリタキセルのクレモフォール不含、アルブミン操作されたナノ粒子製剤(ABRAXANE(商標);American Pharmaceutical Partners,Schaumberg,Illinois);及びドセタキセル(TAXOTERE(登録商標);Rhone-Poulenc Rorer,Antony,France)が挙げられる。「タキサンベース」療法又は「タキサン含有」療法は、本明細書で同じ意味で使用され、タキサンを含む療法を指す。
【0062】
「化学療法抵抗性」がんとは、本明細書で使用する場合、がん患者が化学療法レジメンを受けている間に増悪した(すなわち、患者が「化学療法抵抗性」である)こと、又は患者が化学療法レジメンを完了した後、12か月以内に(例えば、6か月以内に)増悪したことを意味している。
【0063】
治療剤の「固定」用量又は「一定」用量は、本明細書で使用する場合、ヒト患者に患者の体重(WT)又は体表面積(BSA)に関係なく投与される用量を指す。したがって、この固定用量又は一定用量は、mg/kg用量又はmg/m2用量としてではなく、むしろ治療剤の絶対量として提供される。
【0064】
「負荷」用量は、本明細書で使用する場合、一般に、患者に投与される治療剤の初期用量を含み、その後その1つ以上の維持用量(複数可)が続く。一般に、単一負荷用量が投与されるが、複数の負荷用量が本明細書で企図される。通常、投与される負荷用量(複数可)の量は、投与される維持用量(複数可)の量を超過する、かつ/又は、負荷用量(複数可)は、治療剤の所望の定常状態における濃度を、維持用量(複数可)を用いて達成することができるものよりも早く達成するように、維持用量(複数可)よりも頻繁に投与される。
【0065】
「維持」用量とは、本明細書で使用する場合、治療期間にわたって患者に投与される治療剤の1つ以上の用量を指す。通常、維持用量は、ほぼ毎週、約2週間ごと、約3週間ごと、又は約4週間ごと、好ましくは3週間ごとなどの、スペースを置いた治療間隔で投与される。
【0066】
「注入」又は「注入する」とは、本明細書で使用する場合、治療と目的として、静脈から体内に薬物含有溶液を導入することを指す。一般に、これは、静注(IV)バッグを介して達成される。
【0067】
「静注バッグ」又は「IVバッグ」は、本明細書で使用する場合、患者の静脈を介して投与され得る溶液を保持することができるバッグである。ある特定の実施形態では、溶液は、生理食塩液である(例えば、約0.9%又は約0.45%NaCl)。任意選択で、IVバッグは、ポリオレフィン又はポリ塩化ビニルから形成される。
【0068】
「同時投与する」又は「同時投与」とは、本明細書で使用する場合、2つ以上の薬物を順次注入するのではなく、同一投与中の2つ(以上)の薬物の経静脈投与を指す。一般に、これは、2つ(以上)の薬剤をその同時投与前に同じIVバッグ内で混合することを含む。
【0069】
1つ以上の他の薬物と「同時に」投与される薬物は、同一治療サイクル中、1つ以上の他の薬物と同じ治療日に、及び任意選択で、1つ以上の他の薬物と同じ時間に投与される薬物である。例えば、3週間ごとに付与されるがん療法の場合、同時に投与される薬物はそれぞれ、3週間のサイクルの1日目に投与される。
【0070】
「バイアル」は、液体又は凍結乾燥調製物を保持するのに好適な容器である。ある特定の実施形態では、バイアルは、単回使用バイアル、例えば、栓を有する20ccの単回使用バイアルである。
【0071】
「添付文書」という用語は、かかる治療薬の適応症、使用法、投薬量、投与、禁忌症についての情報、及び/又はその使用に関する警告を含む、治療薬の商用のパッケージに通例含まれる説明書を指すように使用される。
【0072】
「有害事象」は、帰属にかかわらず、治験(医薬)品の使用又は他のプロトコルが課した介入と時間的に関連付けられる、任意の好ましくないかつ意図しない兆候、症状、又は疾患であり、以下を含む。AE報告期間前に存在しなかった乳癌と関連付けられる兆候又は症状を含む、プロトコル指定のAE報告期間中に出現する、患者において以前観察されていなかったAE;プロトコルが命じた介入(例えば、生検などの侵襲的手技)の結果として生じる合併症;該当する場合、薬剤ウォッシュアウト、治療導入なし、又は他のプロトコルが命じた介入に関連付けられる、研究治療の割当前に生じるAE;プロトコル指定のAE報告期間中に重症度若しくは頻度が悪化した、又は特徴が変化したことが治験責任医師によって判断される、既存の病状(研究される症状以外)。
【0073】
有害事象は、以下の基準を満たす場合、「重篤有害事象」(SAE)として分類される。死亡をもたらす(すなわち、AEが実際に死亡を引き起こす、又は死亡につながる);生命を脅かす(すなわち、AEが、治験責任医師の見解では、患者を即時の死亡の危険にさらしているが、もしもより重症の形態で起きていたならば死亡を引き起こす恐れがあったAEを含まない);患者の入院を必要とする、又は延長する;持続的又は重大な身体障害/不能をもたらす(すなわち、AEが、正常の生活機能を果たす患者の能力の大幅な障害をもたらす);治験薬に曝露された母親に生まれる新生児/乳児における先天異常/出生時欠損をもたらす;又は、医学的判断に基づいて治験責任医師により重大な医療事象と見なされる(例えば、患者を危険にさらす可能性がある、又は上記に列挙した転帰のうちの1つを予防するために医学的/外科的介入を必要とする可能性がある)。重篤の基準のうちのいずれも満たさないすべてのAEは、非重篤AEと見なされる。「重症」及び「重篤」という用語は、同義語ではない。重症度(又は強度)とは、特定のAEのグレード、例えば、軽度(グレード1)、中等度(グレード2)、又は重症(グレード3)の心筋梗塞を指す。「重篤」は、規制定義(上記定義を参照されたい)であり、患者の生命又は生体機能に脅威をもたらす事象と通常関連付けられる、患者又は事象転帰又は作用基準に基づく。重篤度(重症度ではない)は、試験依頼者から適用規制機関への規制報告義務を定義するためのガイドとして機能する。重症度及び重篤度は、AE及びSAEをeCRFに記録するときに、独立して評価されるべきである。
【0074】
II.トラスツズマブ エムタンシン
【0075】
本開示は、以下の構造を有する、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)、抗体-薬物複合体(CAS登録番号139504-50-0、トラスツズマブ-MCC-DM1、N
2’-(3-{1-[4-(トラスツズマブ)~1/3.5カルバモイルシクロヘキシルメチ]-2,5-ジオキソ-ピロリジン-3-イルスルファニル}-プロピオニル)-デアセチルマイタンシン)を用いる療法的処置を含み、構造:
を有し、式中、Trは、リンカー部分MCCを介してマイタンシノイド薬物部分DM1に連結されたトラスツズマブである(米国特許第5208020号、同6441163号)。微小管阻害薬マイタンシノイドDM1は、マイタンシノイドのマイタンシノールから合成され、ヘテロ二官能性試薬SMCCを用いて抗体のリシン残基に主に連結されている。薬物の抗体に対する比又は薬物搭載量は、トラスツズマブ エムタンシン(トラスツズマブ-MCC-DM1)の上記構造においてpで表され、整数値1~約8の範囲にある。トラスツズマブ-MCC-DM1は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、及び8個の薬物部分が抗体トラスツズマブに共有結合している、様々に搭載かつ結合された抗体-薬物複合体のすべての混合物を含む(米国特許第7097840号、米国特許出願公開第2005/0276812号、同2005/0166993号)。平均して、トラスツズマブ エムタンシンは、3.5 DM1分子/抗体を含有する。
【0076】
トラスツズマブは、哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣、CHO)懸濁培養によって産生することができる。HER2(又はc-erbB2)癌原遺伝子は、上皮成長因子受容体と構造的に関連する、185kDaの膜貫通型受容体タンパク質をコードする。トラスツズマブは、マウス4D5抗体(ATCC CRL 10463、ブダペスト条約の下で1990年Can 24にAmerican Type Culture Collection,12301 Parklawn Drive,Rockville,Md.20852に寄託)の抗原結合残基を有する、又はマウス4D5抗体から誘導された抗HER2抗体である。例示的なヒト化4D5抗体としては、米国特許第5821337号にあるような、huMAb4D5-1、huMAb4D5-2、huMAb4D5-3、huMAb4D5-4、huMAb4D5-5、huMAb4D5-6、huMAb4D5-7、及びhuMAb4D5-8(HERCEPTIN(登録商標))が挙げられる。
【0077】
トラスツズマブ エムタンシンは、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第20110165155号の実施例1に従って調製することができる。
【0078】
III.トラスツズマブ エムタンシンの製剤
【0079】
トラスツズマブ エムタンシン(アドトラスツズマブ エムタンシン、T-DM1)は、標準的な製薬実務に従って製剤化することができる。好適な担体、希釈剤、及び賦形剤は、当業者に周知であり、炭水化物、ワックス、水溶性ポリマー及び/又は水膨潤性ポリマー、親水性材料又は疎水性材料、ゼラチン、油、溶媒、水などの材料が挙げられる。使用される特定の担体、希釈剤、又は賦形剤は、本開示の化合物が適用される手段及び目的に依存する。溶媒は、一般的に、哺乳動物に投与することが安全(GRAS)であると当業者によって認識されている溶媒に基づいて選択される。一般に、安全な溶媒は、水及び水に可溶性又は混和性である他の非毒性溶媒などの非毒性水性溶媒である。好適な水性溶媒としては、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400、PEG300)など、及びそれらの混合物が挙げられる。製剤はまた、薬物(すなわち、本開示の化合物又はその医薬組成物)の的確な提示を提供するか、又は医薬品(すなわち、薬剤)の製造を補助するために、1つ以上の緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、湿潤剤、潤滑剤、乳化剤、懸濁化剤、防腐剤、抗酸化剤、乳白剤、流動促進剤、加工助剤、着色剤、甘味剤、芳香剤、香味剤及び他の既知の添加剤も含み得る。
【0080】
製剤は、従来の溶解手順及び混合手順を使用して調製することができる。例えば、原薬(すなわち、本開示の化合物、又は化合物の安定化形態(例えば、シクロデキストリン誘導体との複合体又は他の既知の複合体形成剤)が、上述の賦形剤のうちの1つ以上の存在下で、好適な溶媒に溶解される。本開示の化合物は、典型的には、容易に制御可能な薬物用量を提供し、所定のレジメンで患者コンプライアンスを可能にするように薬学的剤形に製剤化される。
【0081】
適用のための医薬組成物(又は製剤)は、薬物を投与するために使用される方法に応じて多様な方法で包装されてもよい。一般的に、分配用物品は、薬学的製剤をその中に適した形態で配置した容器を含む。好適な容器は、当業者に周知であり、瓶(プラスチック及びガラス)、小袋、アンプル、プラスチックバッグ、金属シリンダーなどの材料が挙げられる。容器はまた、パッケージの内容物への不用意なアクセスを防止するための不正開封防止アセンブリを含んでもよい。それに加えて、容器は、容器の内容物を説明するラベルをその上に配置している。ラベルはまた、適切な注意書き含んでいてもよい。
【0082】
医薬製剤は、凍結乾燥製剤、破砕粉体、又は水溶液の形態で、医薬的に許容可能な希釈剤、担体、賦形剤、又は安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences(1995)18th edition,Mack Publ.Co.,Easton,PA)と共に投与の様々な経路及び種類に対して調製することができる。製剤は、周囲温度で、適切なpHで、及び所望の度合いの純度で、生理学的に許容される担体、すなわち、用いられる用量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性である担体と混合することによって行われてもよい。製剤のpHは、具体的な用途及び化合物の濃度に主に依存するが、約3~約8の範囲であってもよい。
【0083】
医薬製剤は、好ましくは無菌である。特に、インビボ投与用に使用される製剤は、無菌でなければならない。かかる無菌化は、無菌濾過膜を通じた濾過によって容易に達成される。
【0084】
医薬製剤は、通常、固体組成物、凍結乾燥製剤、又は水溶液として保存することができる。
【0085】
本開示の医薬製剤は、グッドメディカルプラクティスと一致する様式で、すなわち、量、濃度、スケジュール、コース、ビヒクル、及び投与経路で処方され、投与される。これに関連して考慮すべき要因としては、治療される特定の障害、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。
【0086】
許容される希釈剤、担体、賦形剤、及び安定化剤は、用いられる投与量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及びその他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド;ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルアルコール、エタノール、又はベンジルアルコール;メチルパラベン又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンを含む単糖類、二糖類及びその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);並びに/又は、Tween 80を含むTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、若しくはPEG400を含むポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。活性薬学的成分はまた、例えば、コアセルベーション技法によって、又は界面重合によって調製されるマイクロカプセル中に、例えば、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセル中に、コロイド薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロ乳濁液、ナノ粒子、及びナノカプセル)中又はマクロ乳濁液中に取り込まれてもよい。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th edition,(1995)Mack Publ.Co.,Easton,PAに開示されている。薬物製剤の他の例は、Liberman,H.A.and Lachman,L.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,Vol 3,2nd Ed.,New York,NYに見出すことができる。
【0087】
医薬製剤は、本明細書に詳述される投与経路に好適なものを含む。製剤は、都合良く、単位剤形で提示されてもよく、薬学分野において周知の方法のいずれかによって調製され得る。技術及び製剤は、一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th Ed.(1995)Mack Publishing Co.,Easton,PAに見出される。かかる方法は、活性成分を、1つ以上の副成分を構成する担体と会合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性成分を液体担体若しくは微粉化固体担体、又はその両方と均一かつ密接に会合させ、次いで、必要に応じて、生成物を成形することによって調製される。
【0088】
医薬組成物は、水性又は油性の減菌注射用懸濁液などの減菌注射用調製物の形態であってもよい。この懸濁液は、上述されている好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って製剤化され得る。減菌注射用調製物は、1,3-ブタンジオール中の溶液などの非毒性の非経口的に許容される希釈剤若しくは溶媒中の溶液若しくは懸濁液であるか、又は凍結乾燥粉末から調製され得る。用いられ得る許容されるビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、減菌の固定油が、溶媒又は懸濁媒として慣習的に用いられ得る。この目的に関して、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、任意の穏やかな固定油が用いられ得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、注射剤の調製において同様に使用され得る。
【0089】
単一剤形を作製するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与様式に依存して変化する。例えば、ヒトへの経口投与を意図した徐放性製剤は、総組成物の約5~約95%(重量対重量)まで変化し得る、適切かつ都合の良い量の担体材料と共に、およそ1~1000mgの活性材料化合物を含有し得る。医薬組成物は、投与のために容易に測定可能な量を提供するように調製され得る。例えば、静脈内注入が意図される水溶液は、約30mL/時間の速度で好適な体積の注入が生じるように、1ミリリットルの溶液あたり約3~500μgの活性成分を含有し得る。
【0090】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、及び製剤を対象とするレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性及び非水性の滅菌注射溶液、並びに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。
【0091】
製剤は、単位用量又は多用量の容器、例えば、密封アンプル及びバイアルに包装されてもよく、使用直前に、注射するために、滅菌液体担体、例えば、水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保管されてもよい。即時調製の注射溶液及び懸濁液を、前述の種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製する。好ましい単位投与量製剤は、活性成分の本明細書に上記した一日用量又は一日単位副用量、又はその適切な画分を含有するものである。
【0092】
一般的提案として、投与量ごとに投与されるT-DM1の初期医薬有効量は、患者体重当たり約0.3~15mg/kg/日の範囲にある。
【0093】
市販のT-DM1製剤(KADCYLA(登録商標)、トラスツズマブ エムタンシン)は、単回使用バイアルの、無菌の白色からオフホワイトの防腐剤不含凍結乾燥粉末である。それぞれのバイアルは、100mg又は160mgのトラスツズマブ エムタンシンを含む。再構成後、それぞれの単回使用バイアルは、トラスツズマブ エムタンシン(20mg/mL)、ポリソルベート 20[0.02%(w/v)]、コハク酸ナトリウム(10mM)、及びスクロース[6%(w/v)]を含み、pHが5.0、密度が1.026g/mLである。20mg/mLのトラスツズマブ エムタンシンを含有する得られた溶液を希釈後に経静脈注入により投与する。
【0094】
IV.トラスツズマブ エムタンシンの投与
【0095】
本開示は、アジュバント療法としてのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の使用に関する。ある特定の実施形態では、T-DM1は、患者、例えば、成人患者においてHER2陽性早期乳癌を治療するためのアジュバント療法として使用される。ある特定の実施形態では、T-DM1は、HER2陽性の非転移性浸潤性乳癌を有する患者を治療するためのアジュバント療法として使用される。ある特定の実施形態では、T-DM1は、例えば、術前全身治療後に残存病変を有する個体における単独療法として投与することができる。
【0096】
ある特定の実施形態では、本開示のアジュバント療法の方法及び使用は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの約40%、約50%、又は約60%の低減をもたらす。例えば、限定されるものではないが、本明細書に記載のアジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす。ある特定の実施形態では、当該アジュバント療法は、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす。例えば、限定されるものではないが、当該アジュバント療法は、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす。
【0097】
本開示は、T-DM1を投与することを含むアジュバント療法のための方法を提供する。例えば、限定されるものではないが、アジュバント療法の方法は、HER2陽性早期乳癌を有する患者に、単独療法として有効量のT-DM1を投与することを含み、患者は、術前全身治療後に残存病変を有する。
【0098】
ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房及び/又はリンパ節内にある。例えば、限定されるものではないが、残存病変は、乳房内にある。代替的かつ/又は追加的に、残存病変は、リンパ節、例えば、腋窩リンパ節内にある。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房内及びリンパ節内にある。
【0099】
ある特定の実施形態では、術前全身治療は、HER2標的療法、例えば、1つ以上のHER2標的療法を含む。HER2標的療法の非限定的な例には、トラスツズマブ、ペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及び/又はアファチニブが挙げられる。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、トラスツズマブである。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ペルツズマブである。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ラパチニブである。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ネラチニブである。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、ダコミチニブである。ある特定の実施形態では、HER2標的療法は、アファチニブである。
【0100】
ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンの投与を含むことができる。タキサンの非限定的な例には、パクリタキセル及びドセタキセルが挙げられる。ある特定の実施形態では、タキサンは、パクリタキセルである。ある特定の実施形態では、タキサンは、ドセタキセルである。
【0101】
ある特定の実施形態では、方法は、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法の投与を含むことができる。例えば、限定されるものではないが、患者は、例えば、T-DM1による治療の前に、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法を用いる術前全身治療を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している。
【0102】
ある特定の実施形態では、本開示の方法は、根治手術を更に含むことができる。例えば、限定されるものではないが、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後1週以内、2週以内、3週以内、4週以内、5週以内、6週以内、7週以内、8週以内、9週以内、10週以内、11週以内、又は12週以内にT-DM1を投与される。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を投与される。
【0103】
本開示の主題は、HER2陽性早期乳癌を有する患者において乳癌を治療するための方法であって、患者が、化学療法及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有する、方法、を更に提供する。ある特定の実施形態では、方法は、根治手術によって乳房及び腋窩リンパ節内のすべての臨床的に明らかな腫瘍細胞を除去することと、患者にT-DM1を用いる単独療法のアジュバント療法を行うことと、を含むことができる。
【0104】
ある特定の実施形態では、患者は、タキサン及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有する。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法を用いるネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を用いるアジュバント治療を受ける。
【0105】
本開示の主題は、ネオアジュバント療法後に残存病変を有する患者においてHER2陽性早期乳癌を治療するための方法を更に提供する。ある特定の実施形態では、方法は、患者が根治手術を受けた後に、患者に有効量のT-DM1を投与することを含む。ある特定の実施形態では、残存病変は、病理学的残存浸潤性疾患である。ある特定の実施形態では、残存病変は、リンパ節内の病理学的残存浸潤性疾患である。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房内の病理学的残存浸潤性疾患である。ある特定の実施形態では、残存病変は、リンパ節内及び乳房内の病理学的残存浸潤性疾患である。
【0106】
本開示の主題は、HER2陽性早期乳癌を有する患者におけるがん再発のリスクを低減するための方法を提供する。ある特定の実施形態では、方法は、患者に有効量のT-DM1を投与することを含み、患者は、ネオアジュバント療法により病理学的な完全寛解を達成しておらず、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受けている。
【0107】
ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及び/又はHER2標的療法を含む。ある特定の実施形態では、ネオアジュバント療法は、タキサン及びHER2標的療法を含む。例えば、限定されるものではないが、ネオアジュバント療法は、タキサン及びトラスツズマブを含む。ある特定の実施形態では、本開示の方法に従って治療される患者は、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している。ある特定の実施形態では、患者は、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける。
【0108】
ある特定の実施形態では、本開示の方法は、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない。
【0109】
ある特定の実施形態では、本開示の方法は、3週ごとに3.6mg/kgの用量でのT-DM1の投与を含むことができる。例えば、限定されるものではないが、患者に、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたってT-DM1を投与することができる。
【0110】
本開示は、患者におけるHER2陽性早期乳癌のためのアジュバント療法として使用するための、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)及びその医薬組成物を更に提供する。ある特定の実施形態では、T-DM1は、単独療法を投与され、患者は、術前全身治療後に残存病変を有する。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、HER2標的療法、例えば、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンを更に含む。ある特定の実施形態では、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。
【0111】
更なる態様では、本開示の主題は、患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法に使用するための医薬の製造におけるT-DM1の使用であって、アジュバントが、単独療法であり、かつ患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用、を提供する。ある特定の実施形態では、残存病変は、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、HER2標的療法、例えば、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む。ある特定の実施形態では、術前全身治療は、タキサンを更に含む。ある特定の実施形態では、患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受ける。
【0112】
トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)及びその医薬組成物は、本開示の方法において、治療すべき症状に適するように、任意の経路で投与することができる。例えば、限定されるものではないが、好適な経路としては、経口、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、吸入、皮内、髄腔内(intrathecal)、硬膜外、及び注入技術を含む)、経皮、直腸、経鼻、局所(頬側及び舌下を含む)、膣内、腹腔内、肺内、及び鼻腔内が挙げられる。局所投与もまた、経皮パッチ又はイオントフォレシス装置などの経皮投与の使用を含むことができる。局所的な免疫抑制治療のために、移植前にグラフトを灌流又は他の方法で阻害剤と接触させることを含め、化合物を病変内投与により投与することができる。好ましい経路は、例えば、レシピエントの病態と共に変動し得ることが理解されるであろう。化合物が経口投与される場合、その化合物は、医薬的に許容される担体、流動促進剤又は賦形剤と共に丸薬、カプセル、錠剤等として製剤化されてもよい。化合物が非経口投与される場合、その化合物は、下記に詳述される通り、医薬的に許容される非経口ビヒクル又は希釈剤と共に注射用単位剤形で製剤化されてもよい。
【0113】
V.製品
【0114】
本明細書の治療方法に有用なT-DM1を含有する、製品又は「キット」が提供される。ある特定の実施形態では、キットは、T-DM1を含む容器を含む。本キットは、容器上の、又は容器に関連したラベル又は添付文書を更に含むことができる。「添付文書」という用語は、かかる治療薬の適応症、使用法、投薬量、投与、禁忌症についての情報、及び/又はその使用に関する警告を含む、治療薬の商用のパッケージに通例含まれる説明書を指すように使用される。好適な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチックなど様々な材料から形成され得る。容器は、本明細書の治療方法における使用に有効なT-DM1又はその製剤を保持することができ、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、静注溶液バッグ、又は皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有するバイアルであり得る)。ラベル又は添付文書は、組成物が本明細書に記載されて特許請求される治療方法で使用されることを表示する。製品はまた、医薬的に許容される緩衝剤、例えば、注入用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液を含む更なる容器を含むことができる。製品は、他の緩衝剤、希釈剤、フィルタ、針、及びシリンジを含む、商業的観点及びユーザの観点から望ましい他の材料を更に含み得る。
【0115】
本キットは、T-DM1の投与のための指示書を更に含むことができる。例えば、キットが、T-DM1を含む第1の組成物及び第2の医薬製剤を含む場合、キットは、第1及び第2の医薬組成物を、それを必要とする患者に同時に、順次に、又は別個に投与するための指示書を更に含むことができる。
【0116】
ある特定の実施形態では、本キットは、錠剤又はカプセルなどの、T-DM1の固体の経口形態の送達に好適である。かかるキットは好ましくは、いくつかの単位投薬量を含む。かかるキットは、それらの意図される使用の順序で配置された投薬量を有するカードを含み得る。そのようなキットの例は、「ブリスターパック」である。ブリスターパックは包装業界において周知であり、薬学単位用量剤形の包装に幅広く使用されている。所望される場合、治療スケジュール中の投薬量が投与され得る日を指定する、例えば数字、文字、若しくは他の印の形態での、又はカレンダインサートを用いた記憶補助が提供され得る。
【0117】
ある特定の実施形態では、本明細書における製品は、がん患者への投与に好適なT-DM1の安定した混合物を含有する静脈内点滴(IV)バッグを含む。任意選択で、混合物は、例えば、約0.9%NaCl又は約0.45%NaClを含む、生理食塩液中に存在する。例示的なIVバッグは、ポリオレフィン又はポリ塩化ビニル製の輸液バッグ、例えば、250mLのIVバッグである。本開示のある特定の実施形態によれば、バッグは、約100mg~約160mgのT-DM1を含む。
【0118】
任意選択で、IVバッグ中の混合物は、5℃又は30℃で最長24時間安定である。混合物の安定性は、色、外観及び透明度(CAC)、濃度分析及び濁度分析、微粒子分析、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリーゾーン電気泳動(CZE)、イメージキャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)、並びに効力アッセイからなる群から選択される1つ以上のアッセイによって評価することができる。
【0119】
VI.例示的な実施形態
【0120】
A。ある特定の非限定的な実施形態では、本開示の主題は、HER2陽性早期乳癌を有する患者に、単独療法として有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含むアジュバント療法の方法であって、患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、方法、を提供する。
【0121】
A1。残存病変が、乳房に存在する、Aに記載の上述の方法。
【0122】
A2。残存病変が、リンパ節に存在する、Aに記載の上述の方法。
【0123】
A3。残存病変が、乳房及びリンパ節に存在する、Aに記載の上述の方法。
【0124】
A4。術前全身治療が、HER2標的療法を含む、A~A3のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0125】
A5。HER2標的療法が、トラスツズマブを含む、A4に記載の上述の方法。
【0126】
A6。HER2標的療法が、ペルツズマブを更に含む、A5に記載の上述の方法。
【0127】
A7。HER2標的療法が、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、アファチニブ及びそれらの組み合わせからなる群から選択される薬剤を更に含む、A4又はA5に記載の上述の方法。
【0128】
A8。術前全身治療が、タキサンを更に含む、A~A7のいずれか1つに記載の上述の方法。
A9。患者が、成人患者である、A~A8のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0129】
A10。患者が、T-DM1の投与前に根治手術を受ける、A~A9のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0130】
A11。患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を投与される、A10に記載の上述の方法。
【0131】
A12。患者が、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法レジメン及びHER2標的療法を用いる術前全身治療を完了している、A~A11のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0132】
A13。患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している、A~A12のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0133】
A14。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を投与される、A~A13のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0134】
A15。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を投与される、A~A14のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0135】
A16。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、A~A15のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0136】
A17。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、A~A16のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0137】
A18。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、A~A17のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0138】
A19。当該アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、A~A18のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0139】
B。ある特定の実施形態では、本開示の主題は、患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法における使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)であって、アジュバントが、単独療法であり、かつ患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用のためのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)、を提供する。
【0140】
B1。残存病変が、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する、Bに記載のT-DM1の上述の使用。
【0141】
B2。術前全身治療が、HER2標的療法を含む、B又はB1に記載のT-DM1の上述の使用。
【0142】
B3。HER2標的療法が、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む、B2に記載のT-DM1の上述の使用。
【0143】
B4。術前全身治療が、タキサンを更に含む、B~B3のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0144】
B5。患者が、成人患者である、B~B4のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0145】
B6。患者が、T-DM1の投与前に根治手術を受ける、B~B5のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0146】
B7。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、B~B6のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0147】
B8。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、B~B7のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0148】
B9。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、B~B8のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0149】
B10。当該アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、B~B9のいずれか1つに記載のT-DM1の上述の使用。
【0150】
C。ある特定の実施形態では、本開示の主題は、患者のHER2陽性早期乳癌のアジュバント療法に使用するための医薬の製造におけるトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)の使用であって、アジュバントが、単独療法であり、かつ患者が、術前全身治療後に残存病変を有する、使用、を提供する。
【0151】
C1。残存病変が、乳房に存在する、リンパ節に存在する、又は乳房及びリンパ節に存在する、Cに記載の上述の使用。
【0152】
C2。術前全身治療が、HER2標的療法を含む、C又はC1に記載の上述の使用。
【0153】
C3。HER2標的療法が、トラスツズマブ又はトラスツズマブ並びにペルツズマブ、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ及び/若しくはアファチニブを含む、C2に記載の上述の使用。
【0154】
C4。術前全身治療が、タキサンを更に含む、C~C3のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0155】
C5。患者が、成人患者である、C~C4のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0156】
C6。患者が、T-DM1の投与前に根治手術を受ける、C~C5のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0157】
C7。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、C~C6のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0158】
C8。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、C~C7のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0159】
C9。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、C~C8のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0160】
C10。当該アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、C~C9のいずれか1つに記載の上述の使用。
【0161】
D。ある特定の非限定的な実施形態では、本開示の主題は、HER2陽性早期乳癌を有する患者において乳癌を治療するための方法であって、患者が、化学療法及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有し、当該方法が、
(i)根治手術によって乳房及び腋窩リンパ節内の臨床的に明らかなすべての腫瘍細胞を除去することと、
(ii)当該患者に、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を用いる単独療法のアジュバント療法を行うことと、を含む、方法、を提供する。
【0162】
D1。患者が、タキサン及びHER2標的療法を用いるネオアジュバント療法後に乳房又は腋窩リンパ節内に残存病変を有する、Dに記載の上述の方法。
【0163】
D2。患者が、少なくとも16週の、タキサン含有化学療法を用いるネオアジュバント療法を完了している、D又はD1に記載の上述の方法。
【0164】
D3。患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有化学療法を完了している、D~D2のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0165】
D4。患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いるアジュバント治療を受ける、D~D3のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0166】
D5。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける、D~D4のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0167】
D6。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入するアジュバント治療を受ける、D~D5のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0168】
D7。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、D~D6のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0169】
D8。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、D~D7のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0170】
E。ある特定の非限定的な実施形態では、本開示の主題は、ネオアジュバント療法後に残存病変を有する患者におけるHER2陽性早期乳癌の治療のための方法であって、当該方法は、患者が根治手術を受けた後に、当該患者に有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含む、方法、を提供する。
【0171】
E1。残存病変が、病理学的残存浸潤性疾患である、Eに記載の上述の方法。
【0172】
E2。残存病変が、リンパ節内の病理学的残存浸潤性疾患である、E又はE1に記載の上述の方法。
【0173】
E3。残存病変が、乳房内の病理学的残存浸潤性疾患である、E~E2のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0174】
E4。方法が、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない、E~E3のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0175】
E5。ネオアジュバント療法が、タキサン及びHER2標的療法を含む、E~E4のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0176】
E6。ネオアジュバント療法が、タキサン及びトラスツズマブを含む、E~E5のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0177】
E7。患者が、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している、E~E6のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0178】
E8。患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している、E~E7のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0179】
E9。患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける、E~E8のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0180】
E10。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける、E~E9のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0181】
E11。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける、E~E10のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0182】
E12。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、E~E11のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0183】
E13。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、E~E12のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0184】
F。ある特定の非限定的な実施形態では、本開示の主題は、HER2陽性早期乳癌を有する患者において、癌再発のリスクを低減するための方法であって、当該方法は、患者に有効量のトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を投与することを含み、患者は、ネオアジュバント療法により病理学的な完全寛解を達成しておらず、かつ患者は、T-DM1の投与前に根治手術を受けている、方法、を提供する。
【0185】
F1。方法が、化学療法を用いる事前の又は同時のアジュバント治療を含まない、Fに記載の上述の方法。
【0186】
F2。ネオアジュバント療法が、タキサン及びHER2標的療法を含む、F又はF1に記載の上述の方法。
【0187】
F3。ネオアジュバント療法が、タキサン含有化学療法レジメン及びトラスツズマブを含む、F~F2のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0188】
F4。患者が、少なくとも16週のネオアジュバント療法を完了している、F~F3のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0189】
F5。患者が、少なくとも6サイクルのタキサン含有ネオアジュバント療法を完了している、F~F4のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0190】
F6。患者が、根治手術後12週以内にT-DM1を用いる治療を受ける、F~F5のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0191】
F7。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量でT-DM1を注入する治療を受ける、F~F6のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0192】
F8。患者が、3週ごとに3.6mg/kgの用量で14サイクルにわたりT-DM1を注入する治療を受ける、F~F7のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0193】
F9。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、無浸潤疾患生存期間(IDFS)を実質的に増加させる、F~F8のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0194】
F10。当該治療が、トラスツズマブを用いるアジュバント治療と比較して、遠隔再発の減少をもたらす、F~F9のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0195】
F11。当該アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクの50%低減をもたらす、D~F10のいずれか1つに記載の上述の方法。
【0196】
F12。当該アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクの40%低減をもたらす、D~F11のいずれか1つに記載の上述の方法。
【実施例0197】
本開示を説明するために、以下の実施例が含まれる。しかしながら、これらの実施例は、本開示を制限するものではなく、本開示を実施する例示的な方法を提案することのみを意味することが理解されるべきである。
【0198】
実施例1-臨床試験デザイン
【0199】
第三相臨床試験
【0200】
この第三相非盲検試験(NCT01772472/BO27938/NSABPB-50-I/GBG 77;KATHERINE)には、ネオアジュバントタキサン含有化学療法+トラスツズマブ含有HER2標的療法を受け、かつ、乳房及び/又は腋窩リンパ節内に病理学的残存浸潤性疾患を有していた、HER2陽性早期乳癌を有する患者が登録された。患者は、14サイクルにわたるアジュバントT-DM1又はトラスツズマブに無作為割付けされた。一次エンドポイントは、無浸潤疾患生存期間(IDFS)であった。IDFSのこの単一事前指定中間解析についての有効性停止境界は、P<0.0124又は0.732以下のハザード比であった。
【0201】
患者
【0202】
本試験の患者集団は、原発性非転移性HER2陽性乳癌を有する患者である。
【0203】
選択基準
【0204】
患者は、次の試験登録基準を満たさなければならない:
1.HER2陽性乳癌。HER2陽性状態は、治療前生検材料に基づき、3+の免疫組織化学(IHC)スコアとして、及び/又は試験登録前に中央検査機関により将来を見越して(prospectively)確認されたインサイツハイブリダイゼーション(ISH)により陽性として定義される。ISH陽性は、17番染色体コピーのシグナル数に対するHER2遺伝子コピー数について≧2.0の比として定義される。ホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織ブロック又は部分ブロックは、HER2発現の中央判定のために利用可能である必要がある。サイトが現地の規則のために組織ブロックを送付できない場合、少なくとも8枚の未染色スライドをHER2試験のために送付し、追加で最大5枚のスライドを探索的バイオマーカー研究のために送付すべきである。中央検査機関は、IHC及びISHアッセイの両方を実施するが、一方の陽性結果のみが適格性のために必要である。治療前生検からの十分な材料が申請のために得られない場合には、適格性についての中央HER2判定は、根治手術の時点からの残存腫瘍組織について実施することができる。同時性両側浸潤性疾患を有する患者は、両方の病変がHER2陽性である場合に適格である。
【0205】
2.組織学的に確認された浸潤性乳癌。
【0206】
3.診察時の臨床的病期:T1-4、N0-3、M0(注:T1a/bN0腫瘍を有する患者は、適格とはされない)。
【0207】
4.術前全身化学療法及びHER2標的療法の完了。全身療法は、少なくとも9週のトラスツズマブ及び少なくとも9週のタキサンベース化学療法を含む、全期間が少なくとも16週の、少なくとも6サイクルの化学療法からなる必要がある。患者は、タキサン化学療法に加えて術前治療の一部としてアントラサイクリンを受けていてもよい。用量集中化学療法レジメンを受ける患者は、少なくとも8週のタキサンベース療法及び少なくとも8週のトラスツズマブを受けていた場合に適格である。6週にわたるパクリタキセルの用量漸増(225mg/m2 q2w)用量集中レジメンが許容されている。患者は、2つ以上のHER2標的療法を受けていてもよい。注:HER2標的療法単独期間は、術前全身化学療法のサイクルの要件を満たさない。すべての全身化学療法は、術前に完了すべきである。
【0208】
5.適切な切除:以下のような乳房及びリンパ節内のすべての臨床的に明らかな病変の外科的除去。
【0209】
乳房手術:切除の周辺に肉眼的残存病変がない乳房全切除術、又は切除の周辺が組織学的に陰性である乳房温存手術。乳房温存手術を受ける患者について、切除検体の周辺は、現地病理医により判定されるように、浸潤性腫瘍及びDCISが組織学的に存在していない必要がある。病理学的検査が切除線における腫瘍を示す場合、追加の手術手技を実行してクリアな周辺部を得ることができる。腫瘍が再切除(複数可)後に切除周辺部に依然として存在する場合、患者は、適格となるために乳房全切除術を受ける必要がある。上皮内小葉癌(LCIS)について陽性の周辺部を有する患者は、追加の切除なしに適格である。
【0210】
リンパ節手術:術前療法前に行われる細針吸引、コア生検、又はセンチネルリンパ節生検からの陽性結果の場合、術前療法に続いて腋窩の追加的手術評価が必要である。術前に微小転移のみがセンチネルリンパ節内に存在する場合(すなわち、センチネルリンパ節内のリンパ節転移の最大直径が0.2mm以下である場合)、腋窩の追加的手術評価は不要である。術前療法前に行われたセンチネルリンパ節生検が陰性であった場合、腋窩の追加的手術評価は、術前療法後に不要である。同位体スキャンにより特定されたセンチネルリンパ節のみが内胸鎖(internal mammary chain)内にある場合、腋窩の手術評価が推奨されている。
【0211】
術前療法後に行われたセンチネルリンパ節生検が陽性である場合、腋窩の追加的手術評価が推奨されている。術前療法後に行われたセンチネルリンパ節評価が陰性である場合、腋窩の更なる追加的手術評価は不要である。センチネルリンパ節評価なしでの腋窩切離は、術前療法後に許可されている。
【0212】
6.術前療法の完了後の乳房又は腋窩リンパ節内の残存浸潤性癌の病理学的エビデンス。浸潤性病変が両方の乳房に存在する場合、残存浸潤性癌は、術後に少なくとも1つの乳房又は腋窩リンパ節内に存在する必要がある。
【0213】
7.一次手術の日付と無作為割付けの日付との間が12週以内の間隔である。
【0214】
8.既知のホルモン受容体状態。ホルモン受容体-陽性状態は、既知の陽性ER状態又は既知の陽性PgR状態のいずれかによって判定することができ、ホルモン受容体-陰性状態は、既知の陰性ER及び既知の陰性PgRの両方によって判定する必要がある。
【0215】
9.治験サイトの施設内治験審査委員会(IRB)/倫理委員会(EC)により承認された署名付き書面でのインフォームドコンセント。
【0216】
10.年齢18歳以上
【0217】
11.米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)のパフォーマンスステータスが0又は1
【0218】
12.平均余命6か月以上
【0219】
13.以下のように定義される、スクリーニング中の適切な臓器機能:
a.絶対好中球数≧1200細胞/mm3
b.血小板数≧100000細胞/mm3
c.ヘモグロビン≧9.0g/dL。このレベルを得るために患者は赤血球輸血を受けてもよい
d.血清クレアチニン<1.5×正常上限(ULN)
e.国際標準比(INR)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)≦1.5×ULN
f.血清AST及びALT≦1.5×ULN
g.血清総ビリルビン(TBILI)≦1.0×ULN(正常範囲内)、ジルベール症候群を有する患者を除く、その患者について直接ビリルビンは、正常範囲内でなければならない。
h.血清アルカリホスファターゼ(ALK)≦1.5×ULN
i.ネオアジュバント化学療法を受けた後にECHO又はMUGAについてスクリーニングLVEF≧50%であり、事前化学療法LVEFから15%超の絶対点までLVEFの減少なし。又は、事前化学療法LVEFが評価されていなかった場合、スクリーニングLVEFは、ネオアジュバント化学療法の完了後に55%以上である必要がある。
【0220】
i.LVEF評価は、初期スクリーニング評価に続いて最大3週まで1回繰り返して、適合性を評価することができる。
【0221】
14.閉経後ではない(12か月以上の非治療誘導性無月経)又は外科的不妊(卵巣及び/又は子宮の欠如)ではない女性について:治療期間中及び治験薬の最終投与後少なくとも7か月にわたり禁欲を続けること、又は1年当たり1%未満の失敗率をもたらす単一の若しくは組み合わせた避妊法を使用することへの同意。
a.禁欲は、患者の好ましい通常の生活様式に合致する場合にのみ許容される。周期的な禁欲(例えば、カレンダー法、排卵法、症候体温法、又は排卵後法)及び中絶性交は、許容される避妊方法ではない。失敗率が1年当たり1%未満の避妊法の例としては、卵管結紮術、男性不妊手術、ホルモンインプラント、組み合わせた経口又は注入ホルモン避妊薬の確立された適切な使用、及びある特定の子宮内器具が挙げられる。あるいは、2つの方法(例えば、コンドーム及び子宮頸管キャップなどの2つのバリア式方法)を組み合わせて、1年当たり1%未満の失敗率を達成することができる。バリア式方法は、常に殺精子剤の使用を追加する必要がある。
b.パートナーが妊娠している男性患者は、コンドームを使うか、又は妊娠期間にわたり性的行為を真に慎む必要がある。
【0222】
15.卵管結紮術を受けた女性を含む閉経前女性及び閉経開始後12か月未満の女性について血清妊娠検査が陰性である。
【0223】
16.B型肝炎ウイルス(HBV)血清学及びC型肝炎ウイルス(HCV)血清学の記録が必要である:これは、HCV抗体検査に加えて、HB表面抗原(HBsAg)及び/又は総HBコア抗体(抗HBc)を含む。直近の血清学検査は、ネオアジュバント療法の開始前3か月以内に行われている必要がある。そのような検査が行われていなかった場合、スクリーニング中に検査を行う必要がある。
【0224】
除外基準
【0225】
以下の基準のいずれかを満たす患者は、試験登録から除外される:
疾患関連除外基準:
【0226】
1.第IV期(転移性)乳癌。
【0227】
2.上皮内小葉癌を除く任意の以前の(同側又は対側)乳癌の病歴
【0228】
3.術前療法及び手術後の臨床的に明らかな肉眼的残存病変又は再発病変のエビデンス。
【0229】
4.術前全身療法の完結時の治験責任医師に従ったPDの全奏功。
【0230】
5.研究治療開始前28日以内の任意の抗癌治験薬を用いる治療。
【0231】
6.頸部の適切に治療されたCIS、非黒色腫皮膚癌、第I期子宮癌、又は上述のものに類似する転帰を有する他の非乳房悪性腫瘍を除く、過去5年以内の他の悪性腫瘍の病歴。
【0232】
7.放射線療法が乳癌治療に推奨されるであろうが、医学的な理由(例えば、結合組織疾患又は以前の同側乳房照射)により禁忌である患者。
【0233】
8.現在のNCI CTCAE(バージョン4.0)グレード≧2の末梢神経障害。
【0234】
9.アントラサイクリンの以下の累積用量への曝露の履歴:
ドキソルビシン>240mg/m2。
エピルビシン又はドキソルビシン塩酸塩内包リポソーム(Myocet(登録商標))>480mg/m2。
他のアントラサイクリンについて、ドキソルビシン>240mg/m2と等価の曝露。
【0235】
10.以下のいずれかによって定義される通りの心肺機能不全:
a.NCI CTCAE(バージョン4.0)グレード≧3の症候性CHF又はNYHA診断基準分類≧IIの病歴。
b.抗狭心症薬を必要とする狭心症、十分な投薬によって制御されない重篤心不整脈、重症伝導異常、又は臨床的に有意な弁膜症。
c.高リスクのコントロール不良不整脈。すなわち、安静時心拍数が100/分を超える心房頻拍、重大な心室性不整脈(心室頻拍)、又は高度房室ブロック(第II度房室ブロックタイプ2[Mobitz2]又は第III度房室ブロック)。
d.術前療法を受けている間又は受けて以来の、左心室機能不全、心不整脈、又は心虚血に関連する重大な症状(グレード≧2)。
e.(例えば、術前療法中の)事前トラスツズマブ治療で<40%へのLVEFの減少履歴
f.コントロール不良高血圧(収縮期血圧>180mmHg、かつ/又は拡張期血圧>100mmHg)。
g.持続的酸素療法のためのECG要件における貫壁性梗塞のエビデンス
【0236】
11.トラスツズマブ エムタンシンによる事前治療
【0237】
一般的除外基準
【0238】
12.現在の重症の、コントロール不良全身性疾患(例えば、臨床的に有意な心臓血管疾患、肺疾患、又は代謝疾患、創傷治癒障害、潰瘍)。
【0239】
13.女性の患者については、現在の妊娠及び/又は授乳
【0240】
14.無作為割付けの前およそ28日以内の乳癌とは無関係な大規模な手術手順、若しくは重大な外傷、又は研究治療の過程において大規模な手術の必要性が予想されること
【0241】
15.なんらかの既知の進行中の肝疾患、例えば、HBV、HCVに起因する疾患、自己免疫性肝炎、又は硬化性胆管炎。既知の進行中の疾患がなく、HBV又はHCV血清検査で陽性の患者は、30日のスクリーニング期間内で、少なくとも1週間隔をあけて少なくとも2回の連続した機会において、ALT、AST、TBILI、INR、aPTT、及びアルカリホスファターゼ(ALK)についての適格性基準を満たす必要がある。
【0242】
16.同時の、重篤なコントロール不良の感染症又はHIを伴う既知の感染症。
【0243】
17.トラスツズマブ又はマウスタンパク質又は製品中のいずれかの成分に対する、グレード3~4のインフュージョンリアクション又は過敏症を含む、不耐性の履歴
【0244】
18.治療が必要なスクリーニングにおける進行中の未回復の感染症
【0245】
19.プロトコルの要件の遵守が不可能であるか、それを望まない治験責任医師による評価
【0246】
試験デザイン
【0247】
本試験に同意し、かつ適格である患者は、1:1の比で以下の治療群のうちのどちらかに無作為割付けされる。
A群:トラスツズマブ エムタンシン3.6mg/kg、IV、q3wで14サイクル投与。
B群:トラスツズマブ6mg/kg、IV、q3wで14サイクル投与(トラスツズマブの前回の投与以来6週超の間隔があった場合、8mg/kgの負荷用量を投与すべきである)。
【0248】
本試験には、術前療法の完了後に、乳房又は腋窩リンパ節のいずれかにおいて病理学的に記録された残存浸潤性疾患を有するおよそ1484人の患者が登録される。患者は、全期間が少なくとも16週で少なくとも6サイクルからなり、少なくとも9週のトラスツズマブ、及び少なくとも9週のタキサンベースの化学療法(あるいは、用量集中化学療法レジメンを受ける場合は、少なくとも6~8週のタキサンベースの療法、及び少なくとも8週のトラスツズマブ)を含む、術前全身治療を完了している必要がある。
【0249】
HER2標的療法及び化学療法は、同時に行うことができる。患者は、2種類以上のHER2標的療法を受けていてもよい。患者は、術前治療の一部としてアントラサイクリンを受けていてもよい。
【0250】
患者は、最大で14サイクルにわたって研究治療を受けることになる。治療は、疾患再発、許容できない毒性、又は試験依頼者による試験の終了の場合は、14サイクルよりも前に中断される。トラスツズマブ エムタンシンを中断する患者は、毒性を考慮して適切な場合にはトラスツズマブを用いて試験療法期間を完了できる。研究治療の中断又は完了後、患者は、試験の終了まで有効性及び安全性の目的のため経過観察を受け続ける。
【0251】
以下のガイドラインに基づき示唆される場合には、研究治療と同時に行う(ホルモン受容体陽性腫瘍を有する患者に対する)放射線療法及び/又はホルモン療法を行うべきである。
・診察(presentation)時にホルモン受容体陽性疾患を有する患者においては、ホルモン療法(アロマターゼ阻害薬、タモキシフェンなど)を開始すべきである。
・乳房温存手術を受けている患者については、全乳房照射が必要とされる。現地のポリシーに従い原発腫瘍床ブーストを行うことができる。初期診断において、患者に臨床的T3(T3N0を除く)若しくはT4疾患、及び/又は臨床的N2若しくはN3疾患が見出された場合は、局所リンパ節照射が必要である。T3N0の場合又はリンパ節において残存病変がある場合には、局所リンパ節照射が推奨される。
・乳房切除後の患者については、初期診断において、患者に臨床的T3(T3N0を除く)若しくはT4疾患、及び/又は臨床的N2若しくはN3疾患が見出された場合は、胸壁照射及び局所リンパ節照射が必要である。T3N0の場合又はリンパ節において残存病変がある場合には、胸壁照射及び局所リンパ節照射が推奨される。これらの基準を満たさない乳房切除後の患者については、施設の基準に基づき、治験責任医師の裁量で放射線療法を行う。
【0252】
並べ替えブロックランダム化スキームを用いて、およそ1:1の割り当てで、患者が、以下の層別因子について、トラスツズマブ エムタンシン、又はトラスツズマブを受けることを確保する。
・診察時の臨床的病期:手術不可能(病期T4NxM0又はTxN2-3M0)対手術可能(病期T1-3N0-1M0)
・ホルモン受容体の状態:エストロゲン受容体(ER)又はプロゲステロン受容体(PgR)陽性対、ER及びPgR陰性/不明
・術前HER2標的療法:トラスツズマブ対トラスツズマブ+付加的なHER2標的薬(複数可)
・術前療法後に評価した病理学的なリンパ節の状態:リンパ節陽性対リンパ節陰性/未実施
【0253】
有効性評価項目
【0254】
一次有効性評価項目
【0255】
この試験の一次有効性評価項目は次の通りである。
【0256】
一次有効性評価項目は、無作為割付けから以下の事象のうちのいずれかが最初に生じた日までの時間として定義されるIDFSである。
・同側浸潤性乳房腫瘍再発(すなわち、元の原発巣と同じ乳房実質に及ぶ浸潤性乳癌)。
・同側限局性-局所浸潤性乳癌再発(すなわち、腋窩、局所リンパ節、胸壁、及び/又は同側乳房の皮膚における浸潤性乳癌)。
・遠隔再発(すなわち、組織学的に再発性の浸潤性乳癌と確認されたか、又は臨床的に再発性の浸潤性乳癌と診断された、上述の2つの部位以外の、いずれかの解剖学的部位における乳癌のエビデンス)。
・対側浸潤性乳癌。
・乳癌、非乳房癌、又は
既知ではない原因を含むなんらかの原因による死亡(しかしながら、できる限り死亡原因は特定されるべきである。)。
【0257】
二次有効性評価項目
【0258】
二次有効性評価項目には以下のものが含まれる。
・一次エンドポイントについてのIDFSと同様に定義されるが、事象として二次原発非乳房浸潤性の癌を含む(任意の部位における非黒色腫皮膚癌及び上皮内癌[CIS]を除く)、二次原発非乳房癌を含むIDFS
・DFS:無作為割付けと、二次原発非乳房癌事象を含むIDFS事象、又は対側若しくは同側腺管上皮内癌(DCIS)が最初に生じた日との間の時間として定義される
・OS:無作為割付けからなんらかの原因による死までの時間として定義される
・DRFI:無作為割付けと、遠隔乳癌再発の日との間の時間として定義される
【0259】
安全性評価項目
【0260】
臨床及び検査AEがNCI CTCAE(バージョン4.0)に従って報告される。LVEFは、心エコー図(ECHO)又はマルチゲート収集(MUGA)のいずれかを用いて評価される。
【0261】
安全性は、AEの発生率、性質、及び重症度を決定することにより評価する。安全性評価項目は、以下のプロトコル特定的なAEである。
・NCI CTCAE(バージョン4.0)に基づくすべてのAEの発生率、種類、及び重症度。
・SAEの発生率、種類、及び重症度。
・投与の中断、変更、又は延期につながるAEの発生率及び種類。
・試験における死亡原因。
・異常な臨床検査値。
・LVEFの減少。
・心臓性事象、心臓性の原因による死亡、又はベースラインから、<50%のLVEFへの、≧10パーセントのLVEFの減少を伴う重症CHF(NYHA分類III又はIV)として定義される。
【0262】
患者報告アウトカム(PRO)項目
【0263】
この研究のPRO項目は以下の通りである。
・治療に関連する症状の発生率、及びEORTC QLQ-C30質問票、及びQLQBR23モジュールを用いて評価した、健康関連の生活の質(HRQOL)の評価。
・ヘルス・エコノミック・モデリングに関するEuroQol EQ-5D(商標)質問票を用いて評価した、健康状態の評価。
【0264】
用量、投与、及びコンプライアンス
【0265】
トラスツズマブ エムタンシン
【0266】
トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を、3.6mg/kg IVの用量で、3週サイクルq3wの一日目に投与する。もし投与が行われない休日にタイミングがあたる場合は、予定日の後、5営業日以内に投与を行うべきである。総用量は、各サイクルの一日目(又は最大3日前)の患者の体重に基づき上限なしで計算される。ベースラインから<10%の体重変化については用量の再計算は不要である。
【0267】
トラスツズマブ エムタンシンの用量は、用量変更のガイドラインに従い、2.4mg/kgまで減らすことができる。最後の投与から最大で42日まで投与を延期することができる。
【0268】
トラスツズマブ エムタンシンの一回目の注入は、90分(±10分)にわたって行われる。注入関連症状のある患者については、注入を減速又は中断してもよい。投与の前後に、バイタルサインを評価しなければならない。最初の投与の後、患者は、発熱、寒気、又は他の注入関連の症状について少なくとも90分観察される。(インフュージョンリアクションのいずれの兆候又は症状もなく)先の注入での忍容性が良好であれば、トラスツズマブ エムタンシンの後続投与を30分(±10分)にわたって行ってもよく、この場合、注入後に最低30分の観察期間を設ける。更なる観察及び監視については、もし該当する場合には、現地の保健機関のガイドラインに従わなければならない。治験責任医師の裁量で、悪心及びインフュージョンリアクションに対するプレメディケイション(例えば、アセトアミノフェン又は他の鎮痛剤、ジフェンヒドラミン又はコルチコステロイドなどの抗ヒスタミン剤)を行ってもよい。
【0269】
トラスツズマブ
【0270】
トラスツズマブを、6mg/kg IVの維持用量で、3週サイクルの一日目に投与する。先のトラスツズマブの投与から>6週が経過している場合は、8mg/kgの負荷用量が必要である。もし投与が行われない休日にタイミングがあたる場合は、予定日の後、5営業日以内に投与を行うべきである。
【0271】
トラスツズマブの注入は、現地のガイドライン及び/又は添付文書にしたがって行うべきである。
【0272】
実施例2-臨床試験の結果
【0273】
本実施例では、ネオアジュバント化学療法及びHER2標的療法の後にHER2陽性早期乳癌及び残存浸潤性疾患を有する患者において、アジュバントのトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)とトラスツズマブを比較した、KATHERINE(NCT01772472/BO27938/NSABPB-50-I/GBG77)第三相試験の結果を提供する。
【0274】
試験デザイン
【0275】
KATHERINEは、無作為割付け、多施設共同、非盲検第三相試験であり、適格な患者をアジュバント療法としてのT-DM1又はトラスツズマブに無作為割付けして行った(
図1)。
【0276】
試験の監督
【0277】
本試験は、German Breast Group(GBG)、The National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)Foundation、独立した治験責任医師、及び試験依頼者(F.Hoffmann-La Roche/Genentech)からのメンバーで構成される治験運営委員会によりデザインされ、独立データモニタリング委員会(IDMC)のガイダンスの下、行われた。データは、NSABP Foundationにより維持及び管理されているプラットフォームを用いて、試験依頼者により収集された。事前指定中間解析は、IDMCによりレビューされ、結果の報告が推奨された。推奨及び中間解析結果について、試験依頼者が、同意した試験運営委員会と共同でレビューした。治験運営委員会は、データ及び解析の完全性及び正確性について、並びに本試験のプロトコルに対する忠実度について保証する。本試験は、改正されたヘルシンキ宣言及びプロトコルに従って行われ、関与した各センターの施設内治験審査委員会により承認された。すべての患者が書面によるインフォームドコンセントを提供した。
【0278】
患者
【0279】
適格な患者は、ネオアジュバント療法及び外科的切除の後に、組織学的に確認された、HER2陽性、非転移性、浸潤性原発乳癌(T1-4、N0-3、M0)を、乳房及び/又は腋窩リンパ節において病理学的に記録された残存浸潤性疾患を伴って有していた。HER2状態は、治療前生検試料に基づくものであり、及び試験登録前に中央で(centrally)確認された。患者は、少なくとも9週のタキサンベース療法、及び少なくとも9週のトラスツズマブ療法による、少なくとも6サイクル(16週)の術前化学療法を完了している必要があった(用量集中レジメンについてはより短い治療期間が認められた)。アントラサイクリン及び付加的なHER2標的薬が認められた。除外基準には、初期の臨床的病期T1a/bN0;切除周辺での肉眼的残存病変;術前全身療法後の再発性又は進行性疾患;New York Heart Associationの分類II以上の心不全、又は事前トラスツズマブによる40%未満への左室駆出率の減少の履歴を含む心肺機能不全;及びドキソルビシン240mg/m2等量を超える事前累積曝露が含まれた。
【0280】
HER2陽性状態は、3+の免疫組織化学スコア、及び/又は、米国臨床腫瘍学会/米国病理学会のガイドラインに従って、原発腫瘍の局所病理学に基づく17番染色体コピーのシグナル数に対するHER2遺伝子コピー数について2.0以上の比率として定義される、インサイツハイブリダイゼーションによるHER2の増幅として定義された。
【0281】
治療
【0282】
患者は、手術の12週以内に、インタラクティブな音声又はウェブ応答システムを用いて1:1の比に無作為割付けされた。並べ替えブロックランダム化スキームを、診察時の臨床的病期に応じた層化(手術不可能[腫瘍病期T4又はリンパ節病期N2若しくはN3及び転移病期M0]対手術可能[腫瘍病期T1~T3、リンパ節病期N0又はN1、及び転移病期M0]);現地検査機関によるホルモン受容体状態(陽性対陰性又は不明);術前HER2標的療法(トラスツズマブ対トラスツズマブ+付加的なHER2標的薬[複数可]);及びネオアジュバント療法後に評価した病理学的なリンパ節の状態(リンパ節陽性対リンパ節陰性/未実施)と共に用いた。
【0283】
患者は、体重1キログラムあたり3.6mgのT-DM1、又は1キログラムあたり6mgのトラスツズマブを、それぞれ3週毎に14サイクルにわたって、静脈内投与された。前回のトラスツズマブ投与から6週超経過している場合は、1キログラムあたり8mgの負荷用量でトラスツズマブを投与した。毒性のためにT-DM1を中断した患者は、治験責任医師の裁量で、トラスツズマブによって14サイクルの研究治療を完了させることができた。施設の基準及びプロトコルに従って、内分泌療法及び放射線療法を行った。
【0284】
評価
【0285】
無作為割付け前のネオアジュバント療法及び手術後について、転移性疾患の再評価は必須ではなかった。疾患再発についての評価を、最大2年にわたって3か月毎に、3~5年の間は6か月毎に、及び6~10年の間は年一回行った。試験薬の各投与の前には、患者に対して、毒性についての評価を行った。左室駆出率は、サイクル2の最後の週の間に評価し、その後は4サイクル毎、試験薬完了時、3、6、12、18、及び24か月、その後は、5年目まで年一回評価した。
【0286】
統計分析
【0287】
一次エンドポイントは、無浸潤疾患生存期間であり、無浸潤疾患生存期間は、浸潤疾患事象、すなわち、同側浸潤性乳房腫瘍再発、同側局所浸潤性病変再発、遠隔病変再発、対側浸潤性乳癌、又はなんらかの原因による死亡、が最初に発生した日までの、無作為割付けからの時間として定義された。有効性エンドポイントの標準化された定義(STEEP)は、無浸潤疾患生存期間についての事象としての、二次原発非乳房癌を含み(Hudis JCO2007)、この定義を二次エンドポイントとして含めた。他の二次エンドポイントとしては、無疾患生存期間、全生存期間、無遠隔再発生存期間、及び安全性が含まれた。
【0288】
一次解析のために両側有意水準5%で0.75のハザード比を検出するために、80%の検出力を提供するための浸潤疾患事象数384の必要に基づき、患者1484人のサンプル数が計画された。この計算では、3年無浸潤疾患生存期間の比率について75.6%(T-DM1)及び70.0%(トラスツズマブ)を想定している。P<0.0124の有効性停止境界又は0.732以下の観測されたハザード比で、およそ267(67%)の対象の浸潤疾患事象が生じたときに、無浸潤疾患生存期間の中間解析が計画された。中間解析の結果は早期報告の境界を越えていた。
【0289】
治療目的集団に対して一次解析を行った。階層化ログランク検定を用いて群間で無浸潤疾患生存期間の比率を比較した。ハザード比及びその95%信頼区間(CI)を、コックス比例ハザードモデルを用いて推定した。各治療群の3年無事象率は、カプランマイヤー法を用いて推定した。記録事象を有さない患者からのデータは、最後に患者が生存し、かつ無事象であることがわかった日に削除された(censored)。
【0290】
一回目の中間全生存期間解析は、中間無浸潤疾患生存期間解析が事前指定の境界を越えた場合に、中間無浸潤疾患生存期間解析のときについて計画された。O’Brien-Fleming境界とLan-DeMetsのα消費関数を用いて、全生存期間解析について、全体の第一種過誤を0.05に調整した。
【0291】
結果
【0292】
1486人の患者が登録され、無作為割付けされた(T-DM1、n=743;トラスツズマブ、n=743)。治療目的集団において、追跡期間の中央値はおよそ41か月であった。ベースライン特性は治療群間でバランスがとれていた(
図2)。ホルモン受容体陽性疾患は患者の72.3%に存在した。患者の76.9%はアントラサイクリンを受け、また、患者の19.5%においてネオアジュバント療法の構成要素として付加的なHER2標的療法(通常はペルツズマブ)を行った。
【0293】
有効性
【0294】
この予め計画された中間解析において一次エンドポイントが満たされた。T-DM1を受けた患者では、トラスツズマブに比べて統計的に有意に無浸潤疾患生存期間が向上した(ハザード比、0.50;95%CI、0.39~0.64;P<0.0001(
図3A)。0.50のハザード比は、T-DM1一価アジュバント療法が、トラスツズマブを用いるアジュバント療法と比較して、浸潤性疾患再発のリスクを50%低減させたことを示す。
【0295】
無浸潤疾患生存期間事象は、T-DM1を受けた91人の患者(12.2%)で生じ、トラスツズマブを受けた165人の患者(22.2%)で生じた。3年無浸潤疾患生存期間は、88.3%(T-DM1)及び77.0%(トラスツズマブ)と推定された。最初の浸潤性病変事象としての遠隔再発は、T-DM1を受けた78人の患者(10.5%)と、トラスツズマブを受けた118人の患者(15.9%)で生じた(
図4A、4B)。
【0296】
遠隔再発のリスクは、T-DM1群においてトラスツズマブ群よりも低かった(ハザード比、0.60;95%CI、0.45~0.79(
図5)。0.60のハザード比は、T-DM1一価アジュバント療法が、アジュバントトラスツズマブと比較して、遠隔再発のリスクを40%低減させたことを示す。
【0297】
浸潤疾患事象として二次原発非乳房癌を含めると、事象のあった患者数は、T-DM1群で95人(12.8%)、トラスツズマブ群で167人(22.5%)まで増加し、無浸潤疾患生存期間における差異はT-DM1が優位なままであった(ハザード比、0.51;95%CI、0.40~0.66;P<0.0001)(
図5)。
【0298】
無浸潤疾患生存期間の下位群解析により、ホルモン受容体陽性疾患(ハザード比、0.48;95%CI、0.35~0.67)、ホルモン受容体陰性疾患(ハザード比、0.50;95%CI、0.33~0.74)、術前療法後に評価した病理学的リンパ節陽性状態(ハザード比、0.52;95%CI、0.38~0.71)、リンパ節陰性状態(ハザード比、0.44;95%CI、0.28~0.68)、小型残存病変を有する患者(ypT0/ypT1a/ypT1b/ypTmic/ypTis(ハザード比、0.66;95%CI、0.44~1.00)、ネオアジュバントトラスツズマブ単独(ハザード比、0.49;95%CI、0.37~0.65)、及びネオアジュバントトラスツズマブ+なんらかの付加的なHER2標的療法(ハザード比、0.54;95%CI、0.27~1.06)を有する患者下位群を含む、各患者下位群にわたってT-DM1の有益性が一貫していることが明らかとなった(
図6A及び
図6B)。ネオアジュバントトラスツズマブ単独又はネオアジュバントトラスツズマブ+ペルツズマブを受けた患者について、T-DM1とトラスツズマブを比較した場合にも同様の結果が確認された。アジュバントトラスツズマブに対するアジュバントT-DM1の有益性は、ネオアジュバントHER2標的療法とは無関係に観察された。化学療法とネオアジュバントトラスツズマブを受けた患者のうち、浸潤疾患事象は、T-DM1群の78人の患者で生じ、アジュバントトラスツズマブ群の141人の患者で生じた(ハザード比、0.49;95%CI、0.37~0.65)。化学療法とネオアジュバントトラスツズマブ+第2のHER2標的療法を受けた患者のうち、浸潤疾患事象は、T-DM1群の13人の患者で生じ、アジュバントトラスツズマブ群の24人の患者で生じた(ハザード比、0.54;95%CI、0.27~1.06)。第2のネオアジュバントHER2標的薬を受けた患者の93.8%においてペルツズマブが第2の療法であり、この群において、浸潤疾患事象は、T-DM1群の12人の患者で生じ、アジュバントトラスツズマブ群の24人の患者で生じた(ハザード比、0.50;95%CI、0.25~1.00)。(
図7)。第2の療法として使用された他のHER2標的療法には、ラパチニブ、ネラチニブ、ダコミチニブ、及びアファチニブが含まれた。
【0299】
98人が死亡し(患者42人(5.7%)、T-DM1;患者56人(7.5%)、トラスツズマブ)、全生存期間解析には不十分であり、境界を越していなかった(ハザード比0.70;95%CI、0.47~1.05;P=0.08)(
図5及び
図8)。先の浸潤疾患事象なしに死亡した患者数は、2人(T-DM1)及び3人(トラスツズマブ)であった。
【0300】
安全性
【0301】
総数1460人の患者について安全性を解析した(n=740、T-DM1;n=720、トラスツズマブ)。無作為割付け研究治療の計画された14サイクルは、70.9%(T-DM1)及び78.7%(トラスツズマブ)の患者で完了した。65人の患者でT-DM1を中断し、トラスツズマブで継続して全14サイクルの治療を完了した。最も多かったグレード3以上の有害事象は、T-DM1群では血小板数の減少と高血圧であり、トラスツズマブ群では高血圧と放射線による皮膚損傷であった。重篤な有害事象は、T-DM1を受けた94人の患者(12.7%)で生じ、トラスツズマブを受けた59人の患者(8.2%)で生じた。無作為割付け治療の中断につながる有害事象は、T-DM1で治療した患者の18.0%、トラスツズマブで治療した患者の2.1%で生じた。2つの致命的な有害事象が、各群において一例ずつ生じ、頭蓋内出血及び脳炎であった。
【0302】
いずれかのグレードの放射線肺炎が、T-DM1で治療した患者の11人(1.5%)、トラスツズマブで治療した患者の5人(0.7%)で生じた。いずれかのグレードのアミノ基転移酵素レベルの上昇は、TDM-1(アラニンアミノ基転移酵素、23.1%;アスパラギン酸アミノ基転移酵素、28.4%)の方が、トラスツズマブ(アラニンアミノ基転移酵素、5.7%;アスパラギン酸アミノ基転移酵素、5.6%)よりも頻度が高かった。これらの増加により、1.5%の患者(アラニンアミノ基転移酵素)及び1.6%の患者(アスパラギン酸アミノ基転移酵素)においてT-DM1が中断された。トラスツズマブ群では、アミノ基転移酵素の増加により治療が中断された患者はいなかった。判定された(adjudicated)結節性再生性過形成が2例生じたが、どちらもT-DM1群においてであった。
【0303】
考察
【0304】
KATHERINE試験において、ネオアジュバント化学療法+HER2標的療法後に、HER2陽性早期乳癌及び残存浸潤性疾患を有する患者では、T-DM1を用いたアジュバント治療は、アジュバントトラスツズマブと比べて浸潤性疾患再発又は死亡のリスクを50%減少させた。下位群解析により、ホルモン受容体の状態、手術での残存病変の程度、ネオアジュバントレジメンにおける単一又は二重HER2標的療法、及び患者のベースライン特性とは無関係に一貫した有益性が示された。重要なのは、T-DM1を受けた患者のうち、最初の浸潤性病変事象としての遠隔再発のあった患者が、トラスツズマブ(15.9%)と比較して、より少なかった(10.5%)ことである。これらの結果は、この高リスク集団における大きな治療上の進歩を示す。
【0305】
現在、ネオアジュバント治療後に残存浸潤性疾患を有する患者のアジュバント治療の選択は、他の条件での試験から推定したデータに基づいている。APHINITYにより、リンパ節陽性又は高リスクのリンパ節陰性患者において、アジュバント化学療法+ペルツズマブとトラスツズマブによる二重HER2遮断の、化学療法+トラスツズマブ単独との比較での、無疾患生存期間における優位性(ハザード比、0.81;95%CI、0.66~1.00;P=0.045)が実証された(von Minckwitz NEJM 2017)。これらのデータにも関わらず、ネオアジュバント二重遮断+化学療法後の、追加的な二重遮断アジュバント療法の有益性については不明なままである。KATHERINEからの下位群解析により、T-DM1が残存病変を有する患者にとって適切な選択肢となり得ることが示唆され、かつ、T-DM1に切り替えることが、二重HER2遮断+トラスツズマブ、及び化学療法のネオアジュバントレジメンを受けたそのような患者において利益をもたらすこと(ハザード比、0.54;95%CI、0.27~1.06)のエビデンスがもたらされた。この有益性は、術前化学療法+トラスツズマブを受けた患者で観察されたものと一致する(ハザード比、0.49;95%CI、0.37~0.65)。
【0306】
T-DM1の全体の安全性プロファイルは転移性条件で観察されたものと概ね一致し、トラスツズマブ単独と比較して、T-DM1に関連する有害事象は予期された増加を伴った。
【0307】
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【0308】
上述の説明は、本開示の原理のみを例示するものと見なされる。更に、多数の修正及び変更が当業者には容易に明らかとなるため、本開示を上記に示した厳密な構成及びプロセスに限定することを望むものではない。したがって、すべての好適な修正及び同等なものが、この後の特許請求の範囲により定義される本開示の範囲内にあると見なされ得る。