(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113725
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】平滑筋細胞媒介性疾患の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230808BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230808BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230808BHJP
A61P 9/14 20060101ALI20230808BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20230808BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20230808BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20230808BHJP
【FI】
A61K39/395 U
A61K39/395 D ZNA
A61K39/395 N
A61P9/10 101
A61P9/12
A61P9/14
A61P9/00
A61P43/00 105
A61P9/10
C07K16/24
C07K16/28
C12Q1/6869 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023085400
(22)【出願日】2023-05-24
(62)【分割の表示】P 2020520576の分割
【原出願日】2018-10-12
(31)【優先権主張番号】1716733.9
(32)【優先日】2017-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】508000700
【氏名又は名称】シンガポール・ヘルス・サービシーズ・ピーティーイー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】クック,スチュアート アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シェイファー,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】リム,ウェイ ウェン
(72)【発明者】
【氏名】ウン,ベンジャミン ウェイミング
(57)【要約】 (修正有)
【課題】平滑筋細胞(SMC)の機能障害に関連した疾患および状態を診断、治療および予防する医薬品を提供する。
【解決手段】医薬品は、IL-11に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片、またはIL-11受容体(IL-11Rα)に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片を有効成分として含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防用医薬品であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制する薬剤を有効成分として含有し、
前記IL-11媒介性シグナル伝達を抑制する薬剤が、IL-11に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片、またはIL-11受容体(IL-11Rα)に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片であり、
前記平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患が、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、弁上部狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症ならびに毛細血管拡張症からなる群から選択されることを特徴とする、医薬品。
【請求項2】
IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記医薬品が投与されるように用いられ、任意でIL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象に前記医薬品が投与されるように用いられる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
対象においてIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを判定する工程を含み、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記医薬品が投与されるように用いられる、請求項1または2に記載の医薬品。
【請求項4】
平滑筋細胞(SMC)の活性抑制用医薬品であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制する薬剤を有効成分として含有し、
前記IL-11媒介性シグナル伝達を抑制する薬剤が、IL-11に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片、またはIL-11受容体(IL-11Rα)に結合することができ、かつIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる抗体もしくはその抗原結合断片であることを特徴とする、医薬品。
【請求項5】
前記平滑筋細胞(SMC)が分泌型平滑筋細胞である、請求項4に記載の医薬品。
【請求項6】
前記平滑筋細胞(SMC)が血管平滑筋細胞(VSMC)である、請求項4または5に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑筋細胞(SMC)の機能障害に関連した疾患および状態の診断、治療および予防に関する。
【背景技術】
【0002】
平滑筋細胞(SMC)の機能障害は様々な疾患および状態において見られ、この機能障害では、上流の様々な疾患因子によって刺激された正常なSMCが、異常増殖し、肥大し、遊走し、脱分化し、細胞外マトリックスを産生する。
【0003】
この疾患関連表現型を有するSMCは、当技術分野において様々な名称で呼ばれており、「分泌型SMC」(たとえばRainger and Nash Circ Res 88 (6), 615-622 (2001)を参照されたい)、「合成型SMC」(たとえばBeamish et al., Tissue Eng Part B Rev. (2010) 16(5): 467-491を参照されたい)および「遊走型SMC」(たとえばSandison et al., J Physiol. (2016);594(21):6189-6209を参照されたい)と呼ばれている。本明細書では、この表現型のSMCを「分泌型SMC」と呼ぶ。
【0004】
多様な上流因子によってSMCの機能障害が引き起こされるが、有害な疾患関連分泌型のSMC表現型を維持する共通の下流因子がいくつか存在する。
【0005】
血管平滑筋細胞(VSMC)の機能障害を特徴とする疾患としては、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、弁上部狭窄症、肺動脈高血圧症、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症などが挙げられる。SMCは、様々な内臓器官の構成要素であり、食道、胃、小腸、大腸、直腸、尿管および膀胱の収縮装置を構成している。内臓器官におけるSMCの機能異常によって、アカラシア、嚥下障害、腸狭窄症、幽門狭窄症、下痢、便秘、憩室疾患および腎臓・膀胱疾患が起こることがある。また、SMCは、肺機能においても重要な役割を果たしており、気管支の気道に見られるSMCの細胞塊および気管支の気道でのSMCの収縮は、喘息、嚢胞性線維症、COPD、ARDSおよびその他の呼吸器疾患の病理に関与している。喘息におけるSMCの機能障害は、環境刺激および化学刺激(ケモカイン、インターロイキン、その他のサイトカインなど)に反応してSMCの表現型および挙動が変化することによって起こる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制により、平滑筋細胞(SMC)の活性(たとえば分泌型SMCの活性)に関連した病態を治療することに関する。
【0007】
一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を提供する。
【0008】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための医薬品の製造における、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用を提供する。
【0009】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む方法を提供する。
【0010】
本発明の様々な態様によれば、いくつかの実施形態において、平滑筋細胞(SMC)は分泌型平滑筋細胞である。したがって、いくつかの実施形態において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する前記疾患は、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である。本発明の様々な態様によれば、前記平滑筋細胞および/または前記分泌型平滑筋細胞は、血管平滑筋細胞(VSMC)である。したがって、いくつかの実施形態において、平滑筋細胞または分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患は、血管平滑筋細胞(VSMC)が病理学的に関与する疾患である。
【0011】
本発明の様々な態様によれば、いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤である。いくつかの実施形態において、該薬剤は、抗体またはその抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマーおよび小分子からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記薬剤は抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、前記薬剤はIL-11のデコイ受容体である。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤である。いくつかの実施形態において、前記薬剤はオリゴヌクレオチドまたは小分子である。
【0012】
本発明の様々な態様によれば、いくつかの実施形態において、前記疾患は、循環器系、消化器系、排泄器系、呼吸器系、腎臓系または生殖器系の疾患である。いくつかの実施形態において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する前記疾患は、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、セリアック病、過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎、腸狭窄症、憩室症、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性硬化症、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)、平滑筋腫、平滑筋肉腫ならびにヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)からなる群から選択される。
【0013】
本発明の様々な態様によれば、いくつかの実施形態において、前記治療方法または前記予防方法は、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記治療方法または前記予防方法は、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象に前記薬剤を投与する工程を含む。いくつかの実施形態において、前記治療方法または前記予防方法は、対象においてIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを判定する工程、およびIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む。
【0014】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用を提供する。
【0015】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤に平滑筋細胞(SMC)を接触させる工程を含む方法を提供する。
【0016】
別の一態様において、本発明は、対象において平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0017】
別の一態様において、本発明は、インターロイキン11(IL-11)の作用を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防に、対象が適しているのかどうかを判定する方法であって、対象において、IL-11またはインターロイキン11受容体(IL-11R)の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法を提供する。
【0018】
別の一態様において、本発明は、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防を行うために、対象を選択する方法であって、対象において、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法を提供する。
【0019】
別の一態様において、本発明は、対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、該方法は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である。いくつかの実施形態において、前記方法は、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む。
【0020】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、前記対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程、および前記判定に基づいて、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた前記対象の治療の予後を提供する工程を含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、該方法は、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象を選択する工程をさらに含む。
【0021】
別の一態様において、本発明は、対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)対象において測定する工程を含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、該方法は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である。いくつかの実施形態において、前記方法は、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む。
【0022】
別の一態様において、本発明は、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)前記対象において測定する工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
インターロイキン11およびIL-11受容体
脂肪細胞化抑制因子としても知られているインターロイキン11(IL-11)は多形質発現性サイトカインであり、IL-6、IL-11、IL-27、IL-31、オンコスタチン、白血病抑制因子(LIF)、カルジオトロフィン-1(CT-1)、カルジオトロフィン様サイトカイン(CLC)、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびneuropoetin(NP-1)を含むIL-6サイトカインファミリーのメンバーである。
【0024】
インターロイキン11(IL-11)は、様々な間葉系細胞において発現される1。IL-11のゲノム配列は、7番染色体の動原体領域と19番染色体にマッピングされており1、IL-11を細胞から効率的に分泌させる古典的シグナルペプチドが付加された状態で転写される。IL-11遺伝子のプロモーター配列内にあるアクチベータータンパク質複合体(cJun/AP-1)は、IL-11の基礎転写制御に重要である1。ヒトIL-11の前駆体は199個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、成熟型のIL-11は178個のアミノ酸残基からなるタンパク質である(Garbers and Scheller. , Biol. Chem. 2013; 394(9):1145-1161)。ヒトIL-11のアミノ酸配列はUniProtアクセッション番号P20809(P20809.1 GI:124294;配列番号1)から入手可能である。組換えヒトIL-11(オプレルベキン)も市販されている。その他の生物種由来のIL-11のいくつか、たとえば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、硬骨魚の数種、霊長類などのIL-11もクローニングされており、その配列が決定されている。
【0025】
本明細書において、IL-11は、あらゆる生物種由来のIL-11を指し、あらゆる生物種から得られたIL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。好ましい実施形態において、この生物種はヒト(ホモ・サピエンス)である。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、特定の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11前駆体または成熟型IL-11のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11Rαと結合することにより、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激することができる能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を特徴としてもよい。IL-11断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11の長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11の長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長または195アミノ酸長であってもよい。
【0026】
IL-11は、普遍的に発現される糖タンパク質130(gp130;糖タンパク質130、IL-6ST、IL-6-βまたはCD130としても知られている)のホモダイマーを介してシグナルを伝達する。gp130は膜貫通タンパク質であり、IL-6受容体ファミリーと会合することによってI型サイトカイン受容体を形成する受容体サブユニットである。特異性は個々のIL-11α受容体(IL-11Rα)によって発揮される。IL-11α受容体はシグナル伝達に直接関与はしないものの、α受容体にサイトカインが結合すると、gp130と会合して最終的な複合体を形成する。
【0027】
ヒトgp130(22個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含む)は、918個のアミノ酸からなるタンパク質であり、その成熟形態は866個のアミノ酸からなり、597個のアミノ酸からなる細胞外ドメイン、22個のアミノ酸からなる膜貫通ドメインおよび277個のアミノ酸からなる細胞内ドメインを含む。ヒトgp130の細胞外ドメインは、gp130のサイトカイン結合モジュール(CBM)を含む。gp130のCBMは、Ig様ドメインD1と、gp130のフィブロネクチンIII型ドメインD2およびD3とを含む。ヒトgp130のアミノ酸配列は、UniProtアクセッション番号P40189-1(配列番号2)から入手可能である。
【0028】
ヒトIL-11Rαは422個のアミノ酸からなるポリペプチド(UniProt Q14626;配列番号3)であり、マウスIL-11Rαと約85%のヌクレオチド配列同一性およびアミノ酸配列同一性を有する(Du and Williams., Blood Vol, 89, No,11, June 1, 1997)。IL-11Rαは、細胞内ドメインが異なる2種のアイソフォームが存在することが報告されている(DuおよびWilliams,上掲)。IL-11受容体α鎖(IL-11Rα)は、IL-6受容体α鎖(IL-6Rα)と構造および機能の面で多くの類似点がある。IL-11RαとIL-6Rαの細胞外ドメインは24%のアミノ酸同一性を有し、特徴的なTrp-Ser-X-Trp-Ser(WSXWS)保存モチーフを含む。IL-11RαとIL-6αの短い細胞内ドメイン(34アミノ酸長)には、JAK/STATシグナル伝達経路の活性化に必要とされるBox1領域およびBox2領域が含まれていない。
【0029】
マウスIL-11の受容体結合部位はマッピングされており、3つの部位(部位I、部位IIおよび部位III)が同定されている。部位II領域の置換や部位III領域の置換によって、gp130への結合力が低下する。部位III変異は検出可能なアゴニスト活性を示さず、IL-11Rαに対してアンタゴニスト活性を示す(Cytokine Inhibitors Chapter 8; Gennaro Ciliberto, Rocco Savino共編、Marcel Dekker, Inc. 2001)。
【0030】
本明細書において、IL-11受容体は、IL-11に結合可能なポリペプチドまたはポリペプチド複合体を指す。いくつかの実施形態において、IL-11受容体は、IL-11に結合することができ、かつ自体を発現する細胞においてシグナル伝達を誘導することができる。
【0031】
IL-11受容体は、どのような生物種に由来するものであってもよく、あらゆる生物種から得られたIL-11受容体のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。好ましい実施形態において、この生物種はヒト(ホモ・サピエンス)である。
【0032】
いくつかの実施形態において、IL-11受容体はIL-11Rαであってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11受容体は、IL-11Rαを含むポリペプチド複合体であってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11受容体は、IL-11Rαおよびgp130を含むポリペプチド複合体であってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11受容体は、IL-11が結合するgp130またはgp130含有複合体であってもよい。
【0033】
IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、特定の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11Rαのアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11と結合することにより、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激する能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を特徴としてもよい。IL-11受容体の断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11Rαの長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11Rαの長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11受容体の断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長、200アミノ酸長、250アミノ酸長、300アミノ酸長、400アミノ酸長または415アミノ酸長であってもよい。
【0034】
IL-11のシグナル伝達
IL-11は、低い親和性(Kd=約10nmol/L)でIL-11Rαに結合し、これらの結合パートナー間での相互作用のみでは生体シグナルを伝達することはできない。高い親和性(Kd=約400~800pmol/L)で結合してシグナルを伝達できる受容体の形成には、IL-11Rαとgp130の共発現が必要とされる(Curtis et al (Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12; Hilton et al., EMBO J 13:4765, 1994; Nandurkar et al., Oncogene 12:585, 1996)。細胞表面のIL-11RαにIL-11が結合すると、ヘテロ二量体化、チロシンのリン酸化、gp130の活性化および下流のシグナル伝達が誘導され、このシグナル伝達は、主として、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードおよびヤヌスキナーゼ/シグナル伝達兼転写活性化因子(Jak/STAT)経路を介して行われる(GarbersおよびScheller、上掲)。
【0035】
さらに、原則として、可溶性IL-11RαはIL-11と結合して生物学的に活性な可溶性複合体を形成することができることから(Pflanz et al., 1999 FEBS Lett, 450, 117-122)、IL-6と同様に、IL-11は、細胞表面のgp130に結合する前に、可溶性IL-11Rαに結合する場合があると考えられる(GarbersおよびScheller,上掲)。Curtisら(Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12)は、可溶性マウスIL-11受容体α鎖(sIL-11R)を発現させて、gp130発現細胞におけるシグナル伝達を検討したことを報告している。この研究では、gp130は存在するが、膜貫通型IL-11Rが存在しない条件下において、膜貫通型IL-11Rを介したシグナル伝達と同様に、可溶性IL-11Rによって、IL-11依存性のM1白血病細胞の分化とBa/F3細胞の増殖、および初期の細胞内事象(gp130、STAT3およびSHP2のリン酸化など)が誘導されたことが報告されている。可溶性IL-11Rαに結合したIL-11による膜結合型gp130を介したシグナル伝達の活性化が、近年実証されている(Lokau et al., 2016 Cell Reports 14, 1761-1773)。このいわゆるIL-11のトランスシグナル伝達は、疾患の発生機序に重要である可能性があるが、ヒト疾患におけるその役割はさらなる研究が待たれる。
【0036】
本明細書において、「IL-11のトランスシグナル伝達」は、IL-11Rαに結合したIL-11が、さらにgp130に結合することによって惹起されるシグナル伝達を指す。IL-11は、非共有結合によりIL-11Rαと結合して複合体を形成することができる。gp130は、膜結合型であり、細胞により発現され、IL-11:IL-11Rα複合体がgp130に結合することによってシグナル伝達が起こる。いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、可溶性IL-11Rαであってもよい。いくつかの実施形態において、可溶性IL-11Rαは、(たとえば膜貫通ドメインを欠く)IL-11Rαの可溶性(分泌型)アイソフォームである。いくつかの実施形態において、可溶性IL-11Rαは、膜結合型IL-11Rαの細胞外ドメインがタンパク質分解されることによって遊離した産物である。いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、膜結合型であってもよく、gp130を介したシグナル伝達は、膜結合型IL-11Rαに結合したIL-11が、さらにgp130に結合することによって惹起されてもよい。これを「IL-11のシスシグナル伝達」と呼ぶ。
【0037】
IL-11媒介性シグナル伝達は、造血を刺激し、破骨細胞の活性を刺激し、神経新生を刺激し、脂肪細胞化を抑制し、炎症促進性サイトカインの発現を減少し、細胞外マトリックス(ECM)の代謝を調節し、かつ消化管上皮細胞の正常な増殖制御を媒介することが示されている1。
【0038】
インターロイキン11(IL-11)の生理学的役割は未だ解明されていない。IL-11は、造血細胞の活性化や血小板の産生との関連性が最も強く認められているが、炎症促進作用のみならず、抗炎症作用および血管新生促進作用を有することが判明しており、腫瘍形成にとって重要であることが示唆されている。また、TGFβ1や組織損傷がIL-11の発現を誘導することがあることが知られている(Zhu, M. et al. PLOS ONE 10, (2015); Yashiro, R. et al. J. Clin. Periodontol. 33, 165-71 (2006); Obana, M. et al. Circulation 121, 684-91 (2010); Tang, W et al. J. Biol. Chem. 273, 5506-13 (1998))。
【0039】
IL-11は、TGFβ媒介性シグナル伝達の重要な転写後調節因子である。TGFβ1は、IL-11のAP-1プロモーター領域を刺激することが示されており、TGFβによりIL-11の分泌が誘導されると、これによって、腸筋線維芽細胞においてERK p42/44キナーゼおよびp38 MAPキナーゼの活性化が誘導されることが示されている(Bamba et al. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. (2003) 285(3):G529-38)。MAPキナーゼ阻害剤は、TGFβ誘導性のIL-11の分泌を有意に減少させることができ、p38 MAPキナーゼを介したmRNAの安定化は、TGFβ誘導性のIL-11の分泌に極めて重要であることが示されている。
【0040】
本明細書で述べる「IL-11のシグナル伝達」および「IL-11媒介性シグナル伝達」は、IL-11のIL-11受容体への結合を介したシグナル伝達、または成熟IL-11分子の機能を有するIL-11断片のIL-11受容体への結合を介したシグナル伝達を指す。
【0041】
平滑筋細胞(SMC)
平滑筋細胞(SMC)は、生体内の多くの臓器で見られる間葉系細胞の一種である。血管平滑筋細胞(VSMC)は、血管系のすべての大型動脈および細動脈において中膜層を形成しており、血管の緊張と血圧の維持に不可欠である。また、SMCは、様々な内臓器官でも見られ、食道、胃、小腸、大腸、直腸、尿管および膀胱の収縮装置を構成している。さらに、SMCは、呼吸器系(たとえば肺の)気道にも見られる。
【0042】
本発明の様々な態様による実施形態において、平滑筋細胞(SMC)は、血管平滑筋細胞(VSMC)、腸平滑筋細胞(iSMC)、気道平滑筋細胞(ASMC)、血管、動脈、細動脈、内臓器官、消化器系臓器、泌尿器系臓器、食道、胃、小腸、大腸、直腸、尿管、膀胱、腎臓(たとえばメサンギウム細胞)、呼吸器系臓器、気道、気管、肺、気管支または細気管支に由来する平滑筋細胞のいずれであってもよい。
【0043】
本発明の様々な態様による実施形態において、平滑筋細胞(SMC)は、血管平滑筋細胞(VSMC)、腸平滑筋細胞(iSMC)、血管、動脈、細動脈、内臓器官、消化器系臓器、泌尿器系臓器、食道、胃、小腸、大腸、直腸、尿管、膀胱または腎臓(たとえばメサンギウム細胞)に由来する平滑筋細胞のいずれであってもよい。別の実施形態において、SMCは、気道平滑筋細胞(ASMC)ではなく、呼吸器系臓器、気道、気管、肺、気管支または細気管支に由来する平滑筋細胞でもない。別の実施形態において、SMCは、血管平滑筋細胞(VSMC)ではない。別の実施形態において、SMCは、腸平滑筋細胞(iSMC)ではない。別の実施形態において、SMCは、血管、動脈、細動脈、内臓器官、消化器系臓器、泌尿器系臓器、食道、胃、小腸、大腸、直腸、尿管、膀胱、腎臓(たとえばメサンギウム細胞)に由来する平滑筋細胞のうちのいずれでもない。
【0044】
SMCは、正常な生理学的条件下では、たとえば培養した際の伸長した紡錘形の形態と低い増殖速度を特徴とする収縮型の表現型を有する(Beamish et al., Tissue Eng Part B Rev (2010) 16(5):467-491; Rzucidlo (2009) Vascular 17(Suppl 1):S15-S20)。さらに、収縮型の表現型は、たとえば、ミオカルディン(myocardin)、ミオシン11、smoothelin、平滑筋ミオシン重鎖(SMMHC)、α-平滑筋アクチン(αSMA)、SM22α、h1-カルポニン、h-カルデスモン、α1β1インテグリン、α7β1インテグリンおよび/またはジストロフィン糖タンパク質複合体(DGPC)の発現を特徴としてもよい(Owens et al., Physiol Rev (2004) 84(3):767-801, Xie et al., Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology (2011) 31:1485-1494; Beamish et al., Tissue Eng Part B Rev (2010) 16(5):467-491; Rzucidlo (2009) Vascular 17(Suppl 1):S15-S20)。特異的な細胞マーカーによって収縮型の血管平滑筋細胞(VSMC)を同定することができる。αSMAおよびSM22αは発達段階のSMCの初期マーカーであり、カルポニン、カルデスモンおよびSMMHCは後期マーカーである3。
【0045】
収縮型SMCは、特定の遺伝的刺激、機械的刺激、内分泌刺激、炎症性刺激、脂質刺激および神経液性刺激に応答して、「分泌型」(「合成型」または「遊走型」と呼ばれることもある)の表現型への変化が誘導されることがあり、分泌型SMCは、増殖速度および遊走能の増加、ならびに炎症促進性因子と細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)の発現および/または分泌を特徴とする。
【0046】
分泌型SMCは、収縮性タンパク質(たとえば、ミオカルディン(myocardin)、SM22α、SMMHC)をコードする平滑筋細胞関連遺伝子の発現の低下と、オステオポンチン、l-カルデスモン、非筋細胞ミオシン重鎖B(NM-B MHC)、ビメンチン、トロポミオシン4および細胞内レチノール結合タンパク質-1(CRBP-1)の発現の増加を示す。また、分泌型SMCは、アクチンフィラメント数の減少、分泌小胞数の増加、細胞の大きさの増加、培養した際の「hill-and-valley」形態およびα4β1インテグリンの発現の増加も示す。
【0047】
本明細書において分泌型と呼ばれる表現型を有するSMC(すなわち分泌型SMC)は、1種以上の炎症促進因子の発現;1種以上の細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)の発現および/または分泌;IL-11の発現および/または分泌;オステオポンチン、l-カルデスモン、非筋細胞ミオシン重鎖B(NM-B MHC)、ビメンチン、トロポミオシン4および細胞内レチノール結合タンパク質-1(CRBP-1)のうちの1種以上の発現;分泌小胞;インビトロ培養した際の「hill-and-valley」形態;ならびにα4β1インテグリンの発現のうちの1つ以上を特徴としてもよい。いくつかの実施形態において、分泌型SMCは、非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)を基準として評価した際の、増殖速度の増加;遊走速度の増加;1種以上の炎症促進因子の発現の増加;1種以上の細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)の発現および/または分泌の増加;IL-11の発現および/または分泌の増加;オステオポンチン、l-カルデスモン、非筋細胞ミオシン重鎖B(NM-B MHC)、ビメンチン、トロポミオシン4および細胞内レチノール結合タンパク質-1(CRBP-1)のうちの1種以上の発現の増加;分泌小胞数の増加;アクチンフィラメント数の減少;α4β1インテグリンの発現の増加;ならびに1種以上の収縮性タンパク質(たとえばミオカルディン(myocardin)、SM22α、SMMHC)の発現の減少のうちの1つ以上を特徴としてもよい。
【0048】
本明細書において収縮型と呼ばれる表現型を有するSMC(すなわち収縮型SMC)は、ミオカルディン(myocardin)、ミオシン11、smoothelin、平滑筋ミオシン重鎖(SMMHC)、α-平滑筋アクチン(αSMA)、SM22α、h1-カルポニン、h-カルデスモン、α1β1インテグリン、α7β1インテグリンおよびジストロフィン糖タンパク質複合体(DGPC)のうちの1種以上の発現;アクチンフィラメント;ならびにインビトロ培養した際の伸長した紡錘形の形態のうちの1つ以上を特徴としてもよい。いくつかの実施形態において、収縮型SMCは、非収縮型の同等のSMC(たとえば分泌型SMC)を基準として評価した際の、増殖速度の減少;遊走速度の減少;1種以上の炎症促進因子の発現の減少;1種以上の細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)の発現および/または分泌の減少;IL-11の発現および/または分泌の減少;オステオポンチン、l-カルデスモン、非筋細胞ミオシン重鎖B(NM-B MHC)、ビメンチン、トロポミオシン4および細胞内レチノール結合タンパク質-1(CRBP-1)のうちの1種以上の発現の減少;分泌小胞数の減少;アクチンフィラメント数の増加;α4β1インテグリンの発現の減少;ならびにミオカルディン(myocardin)、ミオシン11、smoothelin、SMMHC、αSMA、SM22α、h1-カルポニン、h-カルデスモン、α1β1インテグリン、α7β1インテグリンおよびジストロフィン糖タンパク質複合体(DGPC)のうちの1種以上の発現の増加のうちの1つ以上を特徴としてもよい。
【0049】
いくつかの実施形態において、分泌型SMCは、非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際のSM22αの発現の減少、非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際のミオカルディン(myocardin)の発現の減少、非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際のコラーゲンの発現および/もしくは分泌の増加、または非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際のIL-11の発現および/もしくは分泌の増加のうちの1つ以上を示してもよい。いくつかの実施形態において、分泌型SMCは、非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際の増殖の増加、遊走の増加、または非分泌型の同等のSMC(たとえば収縮型SMC)と比較した際の浸潤の増加のうちの1つ以上を示してもよい。
【0050】
本明細書で述べる「同等のSMC」は、たとえば、比較が行われるSMCと同じ臓器または同じ組織に由来するSMCであってもよい。
【0051】
本明細書で述べる「発現」は、遺伝子発現であってもよく、タンパク質発現であってもよい。遺伝子発現は、たとえば定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)により、たとえば、マーカーをコードするmRNAを検出する方法によって、あるいはレポーターを使用した方法によって、測定することができる。タンパク質発現は、たとえば抗体を使用した当業者に公知の方法により、たとえばタンパク質を検出することによって測定することができ、このような方法として、ウエスタンブロット、免疫組織化学的方法、免疫細胞化学的方法、フローサイトメトリー、ELISAなどが挙げられる。タンパク質発現は、レポーターを使用した方法、たとえばタンパク質の機能を分析するためのアッセイによって測定することができる。
【0052】
細胞の増殖は、一定時間にわたって細胞分裂を分析することによって測定することができる。細胞分裂は、たとえばFulcher and Wong, Immunol Cell Biol (1999) 77(6): 559-564(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、たとえば、3H-チミジンの取り込みをインビトロで分析することにより、またはCFSE希釈アッセイにより分析することができる。増殖中の細胞は、たとえばBuck et al., Biotechniques. 2008 Jun; 44(7):927-9およびSali and Mitchison, PNAS USA 2008 Feb 19; 105(7): 2415-2420(これらの文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、適切なアッセイにより5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)の取り込みを分析することによって同定してもよい。
【0053】
細胞の遊走は、たとえばLiang et al., Nat Protoc. (2007) 2(2):329-33(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)および実施例9に記載されているように、たとえば、スクラッチアッセイにおいて創傷の治癒をインビトロで分析することにより分析することができる。また、細胞の遊走は、Chen, Methods Mol Biol. (2005) 294:15-22(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)および実施例9に記載されているように、ボイデンチャンバーアッセイを使用して分析することもできる。
【0054】
本発明の態様は、分泌型SMCの活性の抑制を含む。すなわち、本発明の態様は、分泌型SMCの機能性の抑制(すなわち、その機能レベルの低減)を含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、分泌型SMCの活性は、増殖、遊走、浸潤、1種以上の細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)の発現および/または分泌、1種以上のマトリックス修飾酵素(たとえばTIMP1)の発現および/または分泌、1種以上の炎症促進性サイトカイン(たとえばTNFα)の発現および/または分泌、IL-11の発現および/または分泌、ならびに1種以上の炎症促進因子の発現のうちの1つ以上であってもよい。
【0056】
分泌型SMCの活性の抑制は、たとえば、分泌型SMCの1つ以上の活性を抑制することによって、またはSMCの数を減少させることによって達成してもよい。
【0057】
分泌型SMCの活性の抑制は、インビトロで行ってもよく、インビボで行ってもよい。いくつかの実施形態において、分泌型SMCの1つ以上の活性の抑制は、組織、臓器または対象において行ってもよい。いくつかの実施形態において、分泌型SMCの数の低減は、組織、臓器または対象において行ってもよい。
【0058】
SMCにおけるTGFβおよびIL-11のシグナル伝達
SMCの表現型の転換におけるTGFβ媒介性シグナル伝達の役割はよく分かっていない。また、SMCの表現型の転換におけるIL-11媒介性シグナル伝達の役割についても不明である。
【0059】
いくつかの実験モデルでは、TGFβが血管平滑筋細胞(VSMC)の収縮型を促進し、VSMCの遊走および増殖を抑制することが示されているが4、別の研究では、TGFβがSMCの遊走に極めて重要であることが示されている5。TGFβシグナル伝達の特異的な撹乱は、上行胸部大動脈瘤の遺伝的要因であることが文献で報告され、詳述されている(たとえば、TGFBR1、TGFBR2、SMAD3およびTGFB2の変異によるロイス・ディーツ症候群(LDS))。LDSおよびマルファン症候群では、TGFβ経路の上流において機能喪失が発生していることが証明されているが、これと矛盾して下流のエフェクターの活性化が認められる。
【0060】
Taki et al. Atherosclerosis (1999)144(2):375-80では、VSMCにおけるIL-11のシグナル伝達の役割が検討されている。Takiらは、VSMCにおいてTGFβ、IL-1AおよびTNFαが、IL-11遺伝子の発現およびIL-11タンパク質の産生を刺激することを見出しており、これによって抗アテローム性動脈硬化作用が発揮されることを提案した5,6。別の研究では、健常者の大動脈に由来するVSMCをbFGFで刺激した培養において、bFGF誘導性のVSMCの増殖が、IL-11によって濃度依存的に減少したことが示された。このモデルでは、2種のNF-κB依存性サイトカイン(IL-8およびIL-6)の減弱が、IL-11により誘導されたNF-κBの抑制に起因していることが示された7。
【0061】
本発明者らは、本開示の実験例において、TGFβ媒介性シグナル伝達およびIL-11媒介性シグナル伝達が、収縮型から分泌型への平滑筋細胞の表現型の転換を促進することを特定している。IL-11媒介性シグナル伝達は、TGFβ媒介性シグナル伝達の下流の重要なエフェクターであることが示されており、IL-11媒介性シグナル伝達を特異的に抑制することによって、TGFβの効果が阻害されることが示されている。
【0062】
IL-11の作用を抑制することができる薬剤
本発明の態様は、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制を含む。
【0063】
本明細書において「抑制」は、コントロール条件と比較して減少、低下または低減していることを指す。たとえば、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤によるIL-11の作用の抑制とは、該薬剤の非存在下かつ/または適切なコントロール薬剤の存在下でのIL-11媒介性シグナル伝達の強度/程度が、減少、低下または低減することを指す。
【0064】
また、本明細書において「抑制」は、中和または拮抗を指してもよい。すなわち、IL-11媒介性シグナル伝達(たとえば、IL-11またはIL-11含有複合体を介した相互作用、シグナル伝達またはその他の活性)を抑制することができる薬剤は、関連する機能またはプロセスに対する「中和」剤または「拮抗」剤であると言ってもよい。たとえば、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を、IL-11媒介性シグナル伝達を中和することができる薬剤と呼んでもよく、またはIL-11媒介性シグナル伝達のアンタゴニストと呼んでもよい。
【0065】
IL-11のシグナル伝達経路には、IL-11のシグナル伝達を抑制することができる複数のルートが存在する。IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤は、たとえば、IL-11受容体を介したシグナル伝達に関与する1つ以上の因子の作用、またはIL-11受容体を介したシグナル伝達に必要な1つ以上の因子の作用を抑制することによって、IL-11のシグナル伝達を抑制してもよい。
【0066】
たとえば、IL-11のシグナル伝達の抑制は、IL-11(またはIL-11含有複合体、たとえばIL-11とIL-11Rαからなる複合体)とIL-11受容体(たとえばIL-11Rα、IL-11Rαを含む受容体複合体、gp130、またはIL-11Rαとgp130を含む受容体複合体)の間の相互作用を破壊することによって達成してもよい。いくつかの実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、たとえばIL-11、IL-11Rαおよびgp130のうちの1種以上の遺伝子またはタンパク質の発現を抑制することによって達成される。
【0067】
別の実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、IL-11媒介性トランスシグナル伝達を破壊せずに、IL-11媒介性シスシグナル伝達を破壊することによって達成され、たとえば、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、膜結合型IL-11Rαを含むgp130媒介性シス複合体を抑制することによって達成される。別の実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、IL-11媒介性シスシグナル伝達を破壊せずに、IL-11媒介性トランスシグナル伝達を破壊することによって達成され、すなわち、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、可溶性IL-11Rαに結合したIL-11や、可溶性IL-6Rに結合したIL-6などの、gp130媒介性トランスシグナル伝達複合体を抑制することによって達成される。別の実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、IL-11媒介性シスシグナル伝達およびIL-11媒介性トランスシグナル伝達を破壊することによって達成される。IL-11媒介性シスシグナル伝達および/またはIL-11媒介性トランスシグナル伝達の抑制には、本明細書に記載の薬剤のいずれを使用してもよい。
【0068】
別の例において、IL-11のシグナル伝達の抑制は、IL-11/IL-11Rα/gp130の下流のシグナル伝達経路を破壊することによって達成してもよい。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、JAK/STATシグナル伝達を抑制することができる薬剤を使用する。いくつかの実施形態において、JAK/STATシグナル伝達を抑制することができる薬剤は、JAK1、JAK2、JAK3、TYK2、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5A、STAT5Bおよび/またはSTAT6の作用を抑制することができる。たとえば、JAK/STATシグナル伝達を抑制することができる薬剤は、JAK/STATタンパク質の活性化を抑制可能であってもよく、JAKタンパク質もしくはSTATタンパク質と細胞表面受容体(たとえばIL-11Rαもしくはgp130)の間の相互作用を抑制可能であってもよく、JAKタンパク質のリン酸化を抑制可能であってもよく、JAKタンパク質とSTATタンパク質の間の相互作用を抑制可能であってもよく、STATタンパク質のリン酸化を抑制可能であってもよく、STATタンパク質の二量体化を抑制可能であってもよく、STATタンパク質の細胞核への輸送を抑制可能であってもよく、STATタンパク質のDNAへの結合を抑制可能であってもよく、かつ/またはJAKタンパク質および/もしくはSTATタンパク質の分解を促進可能であってもよい。いくつかの実施形態において、JAK/STAT阻害剤は、ルキソリチニブ(Jakafi/ジャカビ;インサイト)、トファシチニブ(Xeljanz/Jakvinus;NIH/ファイザー)、オクラシチニブ(Apoquel)、バリシチニブ(オルミエント;インサイト/イーライリリー)、フィルゴチニブ(G-146034/GLPG-0634;Galapagos NV)、ガンドチニブ(LY-2784544;イーライリリー)、レスタウルチニブ(CEP-701;テバ)、モメロチニブ(GS-0387/CYT-387;ギリアド・サイエンシズ)、パクリチニブ(SB1518;CTI)、PF-04965842(ファイザー)、ウパダシチニブ(ABT-494;アッヴィ)、ペフィシチニブ(ASP015K/JNJ-54781532;アステラス)、フェドラチニブ(SAR302503;セルジーン)、ククルビタシンI(JSI-124)およびCHZ868から選択される。
【0070】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、MAPK/ERKシグナル伝達を抑制することができる薬剤を使用する。いくつかの実施形態において、MAPK/ERKシグナル伝達を抑制することができる薬剤は、GRB2の作用を抑制することができ、RAFキナーゼの作用を抑制することができ、MEKタンパク質の作用を抑制することができ、MAP3K/MAP2K/MAPKおよび/もしくはMycの活性化を抑制することができ、かつ/またはSTATタンパク質のリン酸化を抑制することができる。いくつかの実施形態において、ERKシグナル伝達を抑制することができる薬剤は、ERK p42/44を抑制することができる。いくつかの実施形態において、ERK阻害剤は、SCH772984、SC1、VX-11eおよびDEL-22379から選択される。実施形態において、ERK阻害剤は、ソラフェニブ(ネクサバール;バイエル/Onyx)、SB590885、PLX4720、XL281、RAF265(ノバルティス)、エンコラフェニブ(LGX818/ビラフトビ;Array BioPharma)、ダブラフェニブ(タフィンラー;GSK)、ベムラフェニブ(ゼルボラフ;ロシュ)、コビメチニブ(Cotellic;ロシュ)、CI-1040、PD0325901、ビニメチニブ(MEK162/メクトビ;Array BioPharma)、セルメチニブ(AZD6244;Array/アストラゼネカ)およびトラメチニブ(GSK1120212/メキニスト;ノバルティス)から選択される。
【0071】
結合性薬剤
いくつかの実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤は、IL-11に結合してもよい。いくつかの実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤は、IL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)に結合してもよい。このような薬剤がIL-11またはIL-11受容体に結合すると、IL-11受容体に対するIL-11の結合能が低減/阻害されて、IL-11媒介性シグナル伝達が抑制され、その結果、下流のシグナル伝達が抑制されてもよい。また、このような薬剤がIL-11またはIL-11受容体に結合すると、IL-11受容体(たとえばIL-11Rαおよび/またはgp130)に対するIL-11の結合能が低減/阻害されて、IL-11媒介性シスシグナル伝達および/またはIL-11媒介性トランスシグナル伝達が抑制され、その結果、下流のシグナル伝達が抑制されてもよい。前記薬剤は、IL-11と可溶性IL-11Rαからなる複合体などのトランスシグナル伝達複合体に結合して、gp130媒介性シグナル伝達を抑制してもよい。
【0072】
IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤は、どのような種類のものであってもよいが、いくつかの実施形態において、該薬剤は、抗体、その抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、アプタマー、小分子のいずれであってもよい。前記薬剤は、単離または精製された形態で提供してもよく、医薬組成物または医薬品として製剤化してもよい。
【0073】
抗体および抗原結合断片
いくつかの実施形態において、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤は、抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの実施形態において、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤は、ポリペプチド、たとえばデコイ受容体分子である。いくつかの実施形態において、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤は、アプタマーであってもよい。
【0074】
いくつかの実施形態において、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤は、抗体またはその抗原結合断片である。本明細書において「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、関連する標的分子に対して結合性を示すモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性抗体、多重特異性抗体(たとえば二重特異性抗体)および抗体断片を包含する。
【0075】
近年のモノクローナル抗体技術に関する手法によれば、大部分の抗原に対して抗体を作製することが可能である。抗原結合部分は、抗体の一部(たとえばFab断片)であってもよく、合成抗体断片(たとえば一本鎖Fv断片[ScFv])であってもよい。選択された抗原に対するモノクローナル抗体は、公知の技術によって作製してもよく、このような公知技術として、たとえば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H Zola (CRC Press, 1988)に記載されているものや、“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications ”, J G R Hurrell (CRC Press, 1982)に記載されているものが挙げられる。また、キメラ抗体は、Neubergerら(1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792-799)によって報告されている。モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法において特に有用である。モノクローナル抗体(mAb)とは、抗原上の単一のエピトープを特異的な標的とする均質な抗体集団である。
【0076】
また、本発明の方法では、ポリクローナル抗体も有用である。単一特異性ポリクローナル抗体が好ましい。好適なポリクローナル抗体は、当技術分野でよく知られている方法を使用して作製することができる。
【0077】
Fab断片やFab2断片などの、抗体の抗原結合断片を使用/提供してもよく、遺伝子組換え抗体および遺伝子組換え抗体断片を使用/提供することもできる。抗体の重鎖可変(VH)領域および軽鎖可変(VL)領域は、抗原の認識に関与することが知られているが、これは、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に見出され、げっ歯類の抗体を「ヒト化」した実験においても確認されている。げっ歯類由来の可変領域をヒト由来の定常領域に融合させて、げっ歯類由来の親抗体の抗原特異性を保持した抗体を作製することができる(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 81, 6851-6855)。
【0078】
本開示による抗体および抗原結合断片は、関連する標的分子(すなわち、IL-11/IL-11含有複合体/IL-11受容体)に結合することができる抗体の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0079】
IL-11に結合することができる抗体としては、たとえばBockhorn et al. Nat. Commun. (2013) 4(0):1393において使用されたモノクローナルマウス抗ヒトIL-11抗体クローン#22626;カタログNo.MAB218(R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)、クローン6D9A(Abbiotec)、クローンKT8(Abbiotec)、クローンM3103F11(BioLegend)、クローン1F1(Abnova Corporation)、クローン3C6(Abnova Corporation)、クローンGF1(LifeSpan Biosciences)、クローン13455(Source BioScience)、ならびに米国特許公開第2009/0202533(A1)号明細書、WO99/59608(A2)およびWO2018/109174(A2)に開示されている抗IL-11抗体が挙げられる。
【0080】
IL-11Rαに結合することができる抗体としては、モノクローナル抗体クローン025(Sino Biological)、クローンEPR5446(Abcam)、クローン473143(R&Dシステムズ)、米国特許公開第2014/0219919(A1)号明細書に記載されているクローン8E2および8E4、Blancら(J. Immunol Methods. 2000 Jul 31;241(1-2);43-59)に記載されているモノクローナル抗体、WO2014121325(A1)および米国特許公開第2013/0302277(A1)号明細書に開示されている抗体、ならびに米国特許公開第2009/0202533(A1)号明細書、WO99/59608(A2)およびWO2018/109170(A2)に開示されている抗IL-11Rα抗体が挙げられる。
【0081】
前記抗体/断片は、IL-11の生物学的活性を抑制または低減するアンタゴニスト抗体/断片であってもよい。前記抗体/断片は、IL-11の生物学的作用を中和する中和抗体であってもよく、たとえば、IL-11受容体を介してタンパク質合成シグナル伝達を刺激するIL-11の能力を中和する中和抗体であってもよい。中和活性は、T11マウス形質細胞腫細胞株においてIL-11誘導性増殖に対する中和能を評価することによって測定してもよい(Nordan, R. P. et al. (1987) J. Immunol. 139:813)。
【0082】
抗体は、通常、軽鎖可変領域(VL)の3つのCDR(LC-CDR1、LC-CDR2およびLC-CDR3)と、重鎖可変領域(VH)の3つのCDR(HC-CDR1、HC-CDR2およびHC-CDR3)からなる6つのCDRを含む。これら6つのCDRが一緒になって抗体のパラトープを定義しており、パラトープとは、標的分子に結合する抗体の一部分を指す。抗体のCDRを定義する慣例的な方法がいくつかあり、たとえば、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)およびChothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)に記載の方法、ならびにRetter et al., Nucl. Acids Res. (2005) 33 (suppl 1): D671-D674に記載のVBASE2などが挙げられる。
【0083】
本開示による抗体および抗原結合断片は、関連する標的分子に結合することができるモノクローナル抗体(mAb)の配列を使用して設計および調製してもよい。また、一本鎖可変断片(scFv)、Fab断片、Fab2断片などの、抗体の抗原結合領域を使用/提供してもよい。「抗原結合領域」は、元の抗体が特異性を示す標的に結合することが可能な抗体断片である。
【0084】
いくつかの実施形態において、前記抗体/断片は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる抗体のVL領域およびVH領域を含む。抗体の抗原結合領域にあるVL領域およびVH領域は、一緒になってFv領域を構成する。いくつかの実施形態において、前記抗体/断片は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる抗体のFv領域を含むか、またはこのFv領域からなる。Fv領域は、たとえば柔軟なオリゴペプチドなどで共有結合されたVH領域およびVL領域を含む一本鎖として発現されてもよい。したがって、前記抗体/断片は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる抗体のVL領域およびVH領域を含むscFvを含んでいてもよく、このscFvからなっていてもよい。
【0085】
抗体の抗原結合領域にある軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)と重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域1(CH1)は、一緒になってFab領域を構成する。いくつかの実施形態において、前記抗体/断片は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる抗体のFab領域を含むか、またはこのFv領域からなる。
【0086】
いくつかの実施形態において、前記抗体/断片は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる全長抗体を含むか、またはこの全長抗体からなる。「全長抗体」は、免疫グロブリン(Ig)の構造と実質的に似た構造を有する抗体を指す。たとえば、Schroeder and Cavacini J Allergy Clin Immunol. (2010) 125(202): S41-S52(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に、様々な種類の免疫グロブリンおよびそれらの構造が記載されている。免疫グロブリンG(すなわちIgG)は、2つの重鎖と2つの軽鎖を含む約150kDaの糖タンパク質である。重鎖は、N末端からC末端の方向に、重鎖可変領域(VH)と、それに続く3つの定常領域(CH1、CH2およびCH3)を含む重鎖定常領域とを含み、これと同様に、軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)とそれに続く軽鎖定常領域(CL)とを含む。免疫グロブリンは、重鎖の種類によって、IgG(たとえばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgA(たとえばIgA1、IgA2)、IgD、IgEまたはIgMに分類されてもよい。軽鎖は、カッパ(κ)鎖であってもよく、ラムダ(λ)鎖であってもよい。
【0087】
Fab抗体断片、Fv抗体断片、scFv抗体断片およびdAb抗体断片はいずれも、大腸菌において発現させて分泌させることが可能であることから、容易に大量生産することができる。
【0088】
全長抗体およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」とは、全長抗体およびF(ab’)2断片が、2つの抗原結合部位を有していることを意味する。これに対して、Fab断片、Fv断片、scFv断片およびdAb断片は、1つの抗原結合部位しか持たないため、一価である。IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる合成抗体は、当技術分野でよく知られているファージディスプレイ技術を使用して作製することもできる。
【0089】
抗体は、非修飾の親抗体と比較して抗原に対する親和性が向上された修飾抗体を作製するための親和性成熟法によって作製してもよい。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手法によって作製してもよく、親和性成熟抗体を作製するための手法は、たとえば、Marks et al.,Rio/Technology 10:779-783 (1992); Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci. USA 91:3809-3813 (1994); Schier et al. Gene 169:147-155 (1995); Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004 (1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7):331 0-15 9 (1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896 (1992)に記載されている。
【0090】
抗体/断片は、二重特異性抗体を含み、二重特異性抗体は、たとえば、2種の抗体のそれぞれに由来する2種の断片で構成されており、それによって2種の抗原に結合することができる。二重特異性抗体は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる本明細書に記載の抗体/断片を含む。二重特異性抗体は、第2の抗原に対する親和性を有する別の断片を含んでいてもよく、この第2の抗原は所望のものであればどのような抗原であってもよい。二重特異性抗体の作製技術は当技術分野でよく知られており、たとえば、Mueller, Dら(2010 Biodrugs 24 (2): 89-98)、Wozniak-Knopp Gら(2010 Protein Eng Des 23 (4): 289-297.)、およびBaeuerle, PAら(2009 Cancer Res 69 (12): 4941-4944)を参照されたい。二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片は、好適であればどのような形態で提供してもよく、たとえば、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-197(この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される)に記載されているような形態で提供してもよい。たとえば、二重特異性抗体または二重特異性抗原結合断片は、二重特異性抗体複合体(たとえばIgG2、F(ab’)
2またはCovX-Body)、二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばIgG、scFv
4-Ig、IgG-scFv、scFv-IgG、DVD-Ig、IgG-sVD、sVD-IgG、2 in 1-IgG、mAb
2、または軽鎖(LC)が共通化されたTandemab)、非対称性の二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばkih IgG、軽鎖(LC)が共通化されたkih IgG、CrossMab、kih IgG-scFab、mAb-Fv、電荷対を有するIgG、またはSEED-body)、小さな二重特異性抗体分子(たとえばDiabody(Db)、dsDb、DART、scDb、tandAb、tandem scFv(taFv)、tandem dAb/VHH、triple body、triple head、Fab-scFvまたはF(ab’)
2-scFv
2)、二重特異性Fc-C
H3融合タンパク質(たとえばtaFv-Fc、Di-diabody、scDb-C
H3、scFv-Fc-scFv、HCAb-VHH、scFv-kih-FcまたはscFv-kih-C
H3)、二重特異性融合タンパク質(たとえばscFv
2-アルブミン、scDb-アルブミン、taFv-毒素、DNL-Fab
3、DNL-Fab
4-IgG、DNL-Fab
4-IgG-cytokine
2)のいずれであってもよい。具体的には、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-19の
図2を参照されたい。
【0091】
二重特異性抗体の製造方法としては、たとえばSegal and Bast, 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16(この文献は引用によりその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、たとえば還元可能なジスルフィド結合または還元不能なチオエーテル結合を介して、抗体または抗体断片を化学的に架橋する方法が挙げられる。たとえば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート(SPDP)を使用して、ヒンジ領域のSH-基を介して、たとえばFab断片を化学的に架橋することによって、ジスルフィド結合で連結された二重特異性F(ab)2ヘテロ二量体を作製することができる。
【0092】
二重特異性抗体の別の製造方法としては、たとえばD. M. and Bast, B. J. 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16に記載されているように、抗体を産生するハイブリドーマを、たとえばポリエチレングリコールを使用して融合させ、二重特異性抗体を分泌することができるクアドローマ細胞を作製する方法が挙げられる。
【0093】
二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片は、組換え技術によって作製することもでき、たとえばAntibody Engineering: Methods and Protocols, Second Edition (Humana Press, 2012)のChapter 40: Production of Bispecific Antibodies: Diabodies and Tandem scFv (Hornig and Farber-Schwarz)、またはFrench, How to make bispecific antibodies, Methods Mol. Med. 2000; 40:333-339に記載されているように、たとえば抗原結合分子のポリペプチド配列をコードする核酸構築物から二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片を発現させてもよい。
【0094】
たとえば、2種の抗原結合領域の軽鎖可変領域および重鎖可変領域をコードし(すなわち、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる抗原結合領域の軽鎖可変領域および重鎖可変領域と、別の標的タンパク質に結合することができる抗原結合領域の軽鎖可変領域および重鎖可変領域とをコードし)、かつこれらの抗原結合領域を連結する適切なリンカーまたは二量体化領域をコードする配列を含むDNA構築物を、分子クローニング技術によって作製することができる。次いで、このDNA構築物を好適な宿主細胞(たとえば哺乳動物の宿主細胞)において(たとえばインビトロで)発現させて、組換え二重特異性抗体を産生させることができ、発現された組換え二重特異性抗体を必要に応じて精製することができる。
【0095】
デコイ受容体
IL-11またはIL-11含有複合体に結合することが可能な、ペプチドベースまたはポリペプチドベースの薬剤は、IL-11受容体に基づいて作製されたものであってもよく、たとえばIL-11受容体のIL-11結合断片に基づいて作製されたものであってもよい。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、IL-11Rα鎖のIL-11結合断片を含んでいてもよく、好ましくは可溶性であってもよく、かつ/または1つ以上の膜貫通ドメインを含んでいなくてもよく、膜貫通ドメインを全く含んでいなくてもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、gp130のIL-11結合断片を含んでいてもよく、好ましくは可溶性であってもよく、かつ/または1つ以上の膜貫通ドメインを含んでいなくてもよく、膜貫通ドメインを全く含んでいなくてもよい。このような分子をデコイ受容体と呼んでもよい。
【0097】
Curtisら(Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12)は、膜貫通型のIL-11Rおよびgp130を発現する細胞で試験した場合に、可溶性マウスIL-11受容体α鎖(sIL-11R)がIL-11の活性に対して拮抗作用を発揮することができたことを報告している。この研究で観察されたIL-11に対するsIL-11Rの拮抗作用は、膜貫通型IL-11Rを既に発現している細胞上における利用可能なgp130分子の数に依存することが提唱されている。
【0098】
シグナル伝達の抑制および治療的介入を目的とした可溶性デコイ受容体の使用は、たとえばVEGFとVEGF受容体などの他のシグナル伝達分子とその受容体のペアでも報告されている(De-Chao Yu et al., Molecular Therapy (2012); 20 5, 938-947; Konner and Dupont Clin Colorectal Cancer 2004 Oct;4 Suppl 2:S81-5)。
【0099】
このように、いくつかの実施形態において、結合性薬剤はデコイ受容体であってもよく、たとえば、IL-11および/またはIL-11含有複合体の可溶性受容体であってもよい。デコイ受容体によってIL-11および/またはIL-11含有複合体に対する競合が起こり、IL-11に対する拮抗作用が発揮されることが報告されている(Curtisら,上掲)。IL-11のデコイ受容体は、WO 2017/103108(A1)およびWO 2018/109168(A1)にも記載されている(これらの文献は引用によりその全体が本明細書に援用される)。
【0100】
IL-11のデコイ受容体は、IL-11および/またはIL-11含有複合体と結合することによって、gp130、IL-11Rαおよび/またはgp130:IL-11Rα受容体へのIL-11および/またはIL-11含有複合体の結合を阻害できることが好ましい。このように、IL-11のデコイ受容体は、TNFαのデコイ受容体として作用するエタネルセプトと非常によく似た方法で、IL-11およびIL-11含有複合体の「デコイ」受容体として作用する。IL-11媒介性シグナル伝達は、デコイ受容体の非存在下でのシグナル伝達よりも減少する。
【0101】
IL-11のデコイ受容体は、1つ以上のサイトカイン結合モジュール(CBM)を介してIL-11に結合することが好ましい。CBMは、天然のIL-11受容体分子のCBMであるか、天然のIL-11受容体分子のCBMに由来するものであるか、あるいは天然のIL-11受容体分子のCBMと相同なものである。たとえば、IL-11のデコイ受容体は、gp130および/またはIL-11Rαの1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11Rαの1つ以上のCBMからなるもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMに由来する1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMに由来する1つ以上のCBMからなるもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMと相同な1つ以上のCBMを含むもの、gp130および/またはIL-11RαのCBMと相同な1つ以上のCBMからなるものうちのいずれであってもよい。
【0102】
いくつかの実施形態において、IL-11のデコイ受容体は、gp130のサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列を含んでいてもよく、gp130のサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列からなっていてもよい。いくつかの実施形態において、IL-11のデコイ受容体は、IL-11Rαのサイトカイン結合モジュールに相当するアミノ酸配列を含んでいてもよい。本明細書において、特定のペプチド/ポリペプチドの参照領域または参照配列に「相当する」アミノ酸配列は、該参照領域/参照配列のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有しており、たとえば、該参照領域/参照配列のアミノ酸配列と少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有している。
【0103】
いくつかの実施形態において、デコイ受容体は、たとえば少なくとも100μM以下の結合親和性でIL-11に結合することが可能であってもよく、10μM以下、1μM以下、100nM以下、または約1~100nMの結合親和性でIL-11に結合してもよい。いくつかの実施形態において、デコイ受容体は、IL-11結合ドメインの全体またはその一部を含んでいてもよく、膜貫通ドメインの全体またはその一部を欠損していてもよい。デコイ受容体は、免疫グロブリンの定常領域(たとえばIgG Fc領域)に融合させたものであってもよい。
【0104】
阻害剤
本発明は、IL-11、IL-11含有複合体、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体のうちの1種以上に結合して、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる阻害剤分子の使用を企図する。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11、たとえばIL-11の変異体、バリアントまたは結合断片に基づいた、ペプチドベースまたはポリペプチドベースの結合性薬剤である。好適なペプチドベースまたはポリペプチドベースの薬剤は、IL-11受容体(たとえばIL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)に結合することによってシグナル伝達の開始を阻害したり、不十分なシグナル伝達しか起こさないものであってもよい。このようなタイプのIL-11変異体は、内在性IL-11の競合阻害物質として作用してもよい。
【0106】
たとえば、W147Aは、147番目のアミノ酸をトリプトファンからアラニンに変異させたことによって、IL-11のいわゆる「部位III」が破壊されたIL-11アンタゴニストである。この変異体はIL-11Rαに結合することができるが、gp130ホモダイマーとの会合は起こらず、その結果、IL-11のシグナル伝達が効率的に遮断される(Underhill-Day et al., 2003; Endocrinology 2003 Aug;144(8):3406-14)。また、Leeら(Am J respire Cell Mol Biol. 2008 Dec; 39(6):739-746)は、IL-11RαへのIL-11の結合を特異的に抑制することができるIL-11アンタゴニスト変異体(「ムテイン」)の作製を報告している。IL-11ムテインは、WO 2009/052588(A1)にも記載されている。
【0107】
Menkhorstら(Biology of Reproduction May 1, 2009 vol.80 no.5 920-927)は、雌性マウスにおいてIL-11の作用を効果的に抑制できるペグ化IL-11アンタゴニストPEGIL11A(CSL Limited、オーストラリア、ビクトリア州パークビル)を報告している。
【0108】
さらに、Pasqualiniら(Cancer (2015) 121(14):2411-2421)は、IL-11Rαに結合することができるリガンド標的ペプチド模倣薬bone metastasis-targeting peptidomimetic-11(BMTP-11)を報告している。
【0109】
いくつかの実施形態において、IL-11受容体に結合することができる結合性薬剤は、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体の小分子阻害剤の形態で提供してもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、IL-11またはIL-11含有複合体の小分子阻害剤の形態で提供してもよく、たとえば、Lay et al., Int. J. Oncol. (2012); 41(2): 759-764(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載のIL-11阻害剤の形態で提供してもよい。
【0110】
アプタマー
いくつかの実施形態において、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)に結合することができる薬剤は、アプタマーである。核酸リガンド/ペプチドリガンドとも呼ばれるアプタマーは、高い特異性および高い親和性で標的分子に結合する能力を特徴とする核酸分子またはペプチド分子である。現在までに同定されたアプタマーの大部分は非天然分子である。
【0111】
特定の標的(IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体)に結合するアプタマーは、Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEXTM)法で同定および/または作製してもよく、あるいはSOMAmer(slow off-rate modified aptamers)(Gold Let al. (2010) PLoS ONE 5(12):e15004)を構築することにより、同定および/または作製してもよい。アプタマーおよびSELEX法は、TuerkおよびGold(Science (1990) 249(4968):505-10)によって報告されており、WO91/19813にも記載されている。SELEX法およびSOMAmer技術では、たとえばアプタマーの化学的多様性を拡大するためにアミノ酸側鎖を模倣した官能基の付加が行われる。その結果、標的に対して高親和性のアプタマーが濃縮され、同定されうる。
【0112】
アプタマーはDNA分子であってもよく、RNA分子であってもよく、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。また、アプタマーは化学的に修飾された核酸を含んでいてもよく、たとえば、糖、リン酸塩および/または塩基が化学的に修飾された核酸を含んでいてもよい。このような修飾は、アプタマーの安定性を向上させるものであってもよく、アプタマーに分解抵抗性を付与するものであってもよく、リボースの2’位に修飾を含んでいてもよい。
【0113】
アプタマーは、当業者によく知られている方法によって合成してもよい。たとえば、アプタマーを、たとえば固相支持体上で化学的に合成してもよい。ホスホロアミダイト法を用いた固相合成法を使用してもよい。具体的には、固相化したヌクレオチドを脱トリチル化した後、適切に活性化されたヌクレオシドホスホロアミダイトとカップリングさせ、亜リン酸トリエステル結合を形成させる。次いでキャッピングを行い、酸化剤(通常ヨウ素)で亜リン酸トリエステルを酸化することができる。このサイクルを繰り返し、アプタマーを構築することができる(たとえば、Sinha, N. D.; Biernat, J.; McManus, J.; Koster, H. Nucleic Acids Res. 1984, 12, 4539; およびBeaucage, S. L.; Lyer, R. P. (1992). Tetrahedron 48 (12): 2223を参照されたい)。
【0114】
好適な核酸アプタマーの長さの下限は、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長のいずれであってもよい。好適な核酸アプタマーの長さの上限は、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長、51ヌクレオチド長、52ヌクレオチド長、53ヌクレオチド長、54ヌクレオチド長、55ヌクレオチド長、56ヌクレオチド長、57ヌクレオチド長、58ヌクレオチド長、59ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長、61ヌクレオチド長、62ヌクレオチド長、63ヌクレオチド長、64ヌクレオチド長、65ヌクレオチド長、66ヌクレオチド長、67ヌクレオチド長、68ヌクレオチド長、69ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長、71ヌクレオチド長、72ヌクレオチド長、73ヌクレオチド長、74ヌクレオチド長、75ヌクレオチド長、76ヌクレオチド長、77ヌクレオチド長、78ヌクレオチド長、79ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長のいずれであってもよい。好適な核酸アプタマーの長さは、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長、51ヌクレオチド長、52ヌクレオチド長、53ヌクレオチド長、54ヌクレオチド長、55ヌクレオチド長、56ヌクレオチド長、57ヌクレオチド長、58ヌクレオチド長、59ヌクレオチド長、60ヌクレオチド長、61ヌクレオチド長、62ヌクレオチド長、63ヌクレオチド長、64ヌクレオチド長、65ヌクレオチド長、66ヌクレオチド長、67ヌクレオチド長、68ヌクレオチド長、69ヌクレオチド長、70ヌクレオチド長、71ヌクレオチド長、72ヌクレオチド長、73ヌクレオチド長、74ヌクレオチド長、75ヌクレオチド長、76ヌクレオチド長、77ヌクレオチド長、78ヌクレオチド長、79ヌクレオチド長、80ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
【0115】
アプタマーは、特定の標的分子に結合するように選択または構築されたペプチドであってもよい。ペプチドアプタマーならびにその作製方法および同定方法は、Reverdatto et al., Curr Top Med Chem. (2015) 15(12):1082-101(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)でレビューされている。ペプチドアプタマーの長さの下限は、2アミノ酸長、3アミノ酸長、4アミノ酸長、5アミノ酸長、6アミノ酸長、7アミノ酸長、8アミノ酸長、9アミノ酸長、10アミノ酸長のいずれであってもよい。ペプチドアプタマーの長さの上限は、15アミノ酸長、16アミノ酸長、17アミノ酸長、18アミノ酸長、19アミノ酸長、20アミノ酸長、21アミノ酸長、22アミノ酸長、23アミノ酸長、24アミノ酸長、25アミノ酸長、26アミノ酸長、27アミノ酸長、28アミノ酸長、29アミノ酸長、30アミノ酸長、31アミノ酸長、32アミノ酸長、33アミノ酸長、34アミノ酸長、35アミノ酸長、36アミノ酸長、37アミノ酸長、38アミノ酸長、39アミノ酸長、40アミノ酸長、41アミノ酸長、42アミノ酸長、43アミノ酸長、44アミノ酸長、45アミノ酸長、46アミノ酸長、47アミノ酸長、48アミノ酸長、49アミノ酸長、50アミノ酸長のいずれであってもよい。好適なペプチドアプタマーの長さは、2~30アミノ酸長、2~25アミノ酸長、2~20アミノ酸長、5~30アミノ酸長、5~25アミノ酸長、5~20アミノ酸長のいずれであってもよい。
【0116】
アプタマーは、nMオーダーまたはpMオーダーのKdを有していてもよく、Kdは、たとえば、500nM未満、100nM未満、50nM未満、10nM未満、1nM未満、500pM未満、100pM未満のいずれであってもよい。
【0117】
IL-11結合性薬剤の特性
IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる本発明の薬剤は、以下の特性のいずれか1つ以上を示してもよい。
・IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に対する特異的結合
・10μM以下のKD、好ましくは5μM以下、1μM以下、100nM以下、10nM以下、1nM以下または100pM以下のKDでの、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体への結合
・IL-11とIL-11Rαの間の相互作用の抑制
・IL-11とgp130の間の相互作用の抑制
・IL-11とIL-11Rα:gp130受容体複合体の間の相互作用の抑制
・IL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の抑制
【0118】
これらの特性は、適切なアッセイにおいて関連因子を分析することによって測定することができ、適切なコントールと性能を比較することを含んでいてもよい。当業者であれば、特定のアッセイにおける適切なコントロール条件を決定することができる。
【0119】
たとえば、IL-11/IL-11含有複合体/IL-11受容体に対する試験抗体/抗原結合断片の結合能の分析に適したネガティブコントロールは、非標的タンパク質に対する抗体/抗原結合断片(すなわち、IL-11/IL-11含有複合体/IL-11受容体に特異的ではない抗体/抗原結合断片)であってもよい。適切なポジティブコントロールは、検証済みの(たとえば市販の)公知のIL-11結合抗体またはIL-11受容体結合抗体であってもよい。コントロールは、分析対象としての、推定上のIL-11/IL-11含有複合体/IL-11受容体結合性抗体/抗原結合断片と同じアイソタイプのものであってもよく、たとえば同じ定常領域を有していてもよい。
【0120】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)に特異的に結合可能であってもよい。特定の標的分子に特異的に結合する薬剤は、他の非標的分子に対する結合よりも高い親和性および/または長い持続期間で該標的分子に結合することが好ましい。
【0121】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、その他のIL-6サイトカインファミリーのメンバー(たとえば、IL-6、白血病抑制因子(LIF)、オンコスタチンM(OSM)、カルジオトロフィン-1(CT-1)、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびカルジオトロフィン様サイトカイン(CLC))のうちの1種以上に対する結合よりも高い親和性でIL-11またはIL-11含有複合体に結合してもよい。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、その他のIL-6受容体ファミリーのメンバーの1種以上に対する結合よりも高い親和性でIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)に結合してもよい。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-6Rα、白血病抑制因子受容体(LIFR)、オンコスタチンM受容体(OSMR)および毛様体神経栄養因子受容体α(CNTFRα)のうちの1種以上に対する結合よりも高い親和性でIL-11Rαに結合してもよい。
【0122】
いくつかの実施形態において、たとえばELISA、SPR、バイオレイヤー干渉法(BLI)、マイクロスケール熱泳動(MST)またはラジオイムノアッセイ(RIA)で測定した場合、非標的分子に対する結合性薬剤の結合の程度は、標的分子に対する該結合性薬剤の結合の程度の約10%未満である。あるいは、結合特異性は、結合親和性として反映されてもよく、この場合、結合性薬剤は、非標的分子に対するKDよりも少なくとも0.1桁(すなわち0.1×10n(nは桁数を表す整数))小さいKDでIL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合する。この桁数は、少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0のいずれであってもよい。
【0123】
標的に対する特定の結合性薬剤の結合親和性は、その解離定数(KD)で表されることが多い。結合親和性は、当技術分野で公知の方法により測定することができ、このような方法として、たとえば、ELISA、表面プラズモン共鳴(SPR;たとえばHearty et al., Methods Mol Biol (2012) 907:411-442;またはRich et al., Anal Biochem. 2008 Feb 1; 373(1):112-20を参照されたい)、バイオレイヤー干渉法(たとえばLad et al., (2015) J Biomol Screen 20(4): 498-507;またはConcepcion et al., Comb Chem High Throughput Screen. 2009 Sep; 12(8):791-800を参照されたい)、マイクロスケール熱泳動(MST)分析(たとえばJerabek-Willemsen et al., Assay Drug Dev Technol. 2011 Aug; 9(4): 342-353を参照されたい)、または放射標識抗原結合アッセイ(RIA)などが挙げられる。
【0124】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、50μM以下のKD、好ましくは、10μM以下、5μM以下、4μM以下、3μM以下、2μM以下、1μM以下、500nM以下、100nM以下、75nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、15nM以下、12.5nM以下、10nM以下、9nM以下、8nM以下、7nM以下、6nM以下、5nM以下、4nM以下、3nM以下、2nM以下、1nM以下、500pM以下、400pM以下、300pM以下、200pM以下または100pM以下のKDで、IL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる。
【0125】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、(たとえばELISAで測定した場合)EC50が10,000ng/ml以下、好ましくはEC50が5,000ng/ml以下、1000ng/ml以下、900ng/ml以下、800ng/ml以下、700ng/ml以下、600ng/ml以下、500ng/ml以下、400ng/ml以下、300ng/ml以下、200ng/ml以下、100ng/ml以下、90ng/ml以下、80ng/ml以下、70ng/ml以下、60ng/ml以下、50ng/ml以下、40ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、15ng/ml以下、10ng/ml以下、7.5ng/ml以下、5ng/ml以下、2.5ng/ml以下または1ng/ml以下の結合親和性でIL-11、IL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合する。ELISAは、たとえばAntibody Engineering, vol. 1 (2nd Edn), Springer Protocols, Springer (2010), Part V, pp657-665の記載に従って実施することができる。
【0126】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11受容体またはIL-11含有複合体の受容体(たとえばgp130またはIL-11Rα)への結合に重要な領域においてIL-11またはIL-11含有複合体に結合し、それによって、IL-11またはIL-11含有複合体とIL-11受容体の間の相互作用を抑制し、かつ/またはIL-11受容体を介したシグナル伝達を抑制する。いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11またはIL-11含有複合体への結合に重要な領域においてIL-11受容体に結合し、それによって、IL-11またはIL-11含有複合体とIL-11受容体の間の相互作用を抑制し、かつ/またはIL-11受容体を介したシグナル伝達を抑制する。
【0127】
2つのタンパク質間の相互作用に対する特定の結合性薬剤(たとえば、IL-11もしくはIL-11含有複合体またはIL-11受容体に結合することができる薬剤)の抑制能は、たとえば、該結合性薬剤の存在下において、または該結合性薬剤を相互作用パートナーの片方もしくは両方とインキュベートした後に、これらの相互作用パートナー間の相互作用を分析することにより測定することができる。特定の結合性薬剤が2つの相互作用パートナー間の相互作用を抑制できるかどうかを判定することができる好適なアッセイとしては、競合ELISAが挙げられる。
【0128】
特定の相互作用(たとえばIL-11とIL-11Rαの間の相互作用、IL-11とgp130の間の相互作用、IL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用、またはIL-11:IL-11Rαとgp130の間の相互作用)を抑制することができる結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)相互作用の程度と比較して、該結合性薬剤の存在下において、または該結合性薬剤を相互作用パートナーの片方もしくは両方とインキュベートした後に、これらの相互作用パートナー間の相互作用の程度が低下/減少していることから同定される。好適な分析は、たとえば、組換え相互作用パートナーまたは相互作用パートナーを発現する細胞を使用してインビトロで実施することができる。相互作用パートナーを発現する細胞は、内因性に該相互作用パートナーを発現してもよく、細胞に導入された核酸から該相互作用パートナーを発現してもよい。このようなアッセイを行う目的で、相互作用パートナーの片方もしくは両方および/または結合性薬剤を、検出可能な物質で標識するか、このような標識とともに使用して、相互作用の程度を検出および/または測定してもよい。たとえば、放射性原子、色素分子、蛍光分子、またはその他の任意の方法で容易に検出することができる分子で結合性薬剤を標識してもよい。検出可能な分子として好適なものとしては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、酵素基質および放射性標識が挙げられる。結合性薬剤は、検出可能な標識で直接標識してもよく、間接的に標識してもよい。たとえば、結合性薬剤は、標識されていなくてもよく、標識された別の結合性薬剤を使用して検出してもよい。あるいは、第2の結合性薬剤をビオチンに結合してもよく、標識されたストレプトアビジンを該ビオチンに結合させて、第1の結合性薬剤を間接的に標識してもよい。
【0129】
また、2つの結合パートナー間の相互作用に対する結合性薬剤の抑制能は、このような相互作用の下流の機能の帰結(たとえばIL-11媒介性シグナル伝達)を分析することによって同定することもできる。たとえば、IL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用またはIL-11:IL-11Rαとgp130の間の相互作用の下流の機能の帰結としては、たとえば、IL-11媒介性プロセス、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生、分泌型SMCの増殖もしくは遊走、またはたとえばコラーゲンもしくはIL-11の遺伝子発現/タンパク質発現が含まれていてもよい。
【0130】
IL-11またはIL-11含有複合体とIL-11受容体の間の相互作用に対する結合性薬剤の抑制能は、たとえば、TGFβ1で線維芽細胞を刺激し、該結合性薬剤の存在下において該細胞をインキュベートし、所定の時間が経過した後にαSMA陽性の表現型を有する細胞の割合を分析することによって分析することができる。このような例において、IL-11またはIL-11含有複合体とIL-11受容体の間の相互作用の抑制は、前記結合性薬剤の非存在下において(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下において)または適切なコントロール結合性薬剤の存在下においてTGFβ1で細胞を処理した陽性コントロール条件と比較して、αSMA陽性の表現型を有する細胞の割合が低下していることから同定することができる。このようなアッセイは、IL-11媒介性シグナル伝達に対する結合性薬剤の抑制能について分析する際にも適している。IL-11またはIL-11含有複合体とIL-11受容体の間の相互作用の抑制は、たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)およびKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような、3H-チミジン取り込みアッセイ、および/またはBa/F3細胞増殖アッセイを使用して分析することもできる。Ba/F3細胞は、IL-11Rαとgp130を共発現する。
【0131】
いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とIL-11Rαの間の相互作用の程度と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11とIL-11Rαの間の相互作用を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とIL-11Rαの間の相互作用の程度と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11とIL-11Rαの間の相互作用を抑制可能であってもよい。
【0132】
いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とgp130の間の相互作用の程度と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11とgp130の間の相互作用を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とgp130の間の相互作用の程度と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11とgp130の間の相互作用を抑制可能であってもよい。
【0133】
いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用の程度と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用の程度と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11とIL-11Rα:gp130の間の相互作用を抑制可能であってもよい。
【0134】
いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下における(または適切なコントロール結合性薬剤の存在下における)IL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の程度と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、前記結合性薬剤は、該結合性薬剤の非存在下におけるIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の程度と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用を抑制することができる。
【0135】
IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤
本発明の態様において、IL-11、IL-11Rαまたはgp130のうちの1種以上の発現を阻止または低減することにより、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を提供してもよい。
【0136】
前記発現は、遺伝子発現であってもよく、タンパク質発現であってもよく、本明細書に記載の方法で測定してもよい。発現は、対象における細胞/組織/臓器/器官系による発現であってもよい。たとえば、平滑筋細胞において発現を阻止/低減してもよい。
【0137】
好適な薬剤はどのような種類のものであってもよいが、いくつかの実施形態において、IL-11、IL-11Rαまたはgp130のうちの1種以上の発現を阻止または低減することができる薬剤は、小分子であってもよく、オリゴヌクレオチドであってもよい。
【0138】
IL-11、IL-11Rαまたはgp130のうちの1種以上の発現を阻止または低減することができる薬剤は、たとえば、IL-11、IL-11Rαもしくはgp130をコードする遺伝子の転写の抑制、IL-11、IL-11Rαもしくはgp130をコードするRNAの転写後プロセシングの抑制、IL-11、IL-11Rαもしくはgp130をコードするRNAの安定性の低減、IL-11、IL-11Rαもしくはgp130をコードするRNAの分解の促進、IL-11ポリペプチド、IL-11Rαポリペプチドもしくはgp130ポリペプチドの翻訳後プロセシングの抑制、IL-11ポリペプチド、IL-11Rαポリペプチドもしくはgp130ポリペプチドの安定性の低減、またはIL-11ポリペプチド、IL-11Rαポリペプチドもしくはgp130ポリペプチドの分解の促進を介して、IL-11、IL-11Rαまたはgp130のうちの1種以上の発現を阻止または低減してもよい。
【0139】
Takiら(Clin Exp Immunol (1998) Apr; 112(1): 133-138)は、インドメタシン、デキサメタゾンまたはインターフェロンγ(IFNγ)で処理したリウマチ滑膜細胞においてIL-11の発現が低下することを報告している。
【0140】
さらに本発明は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を阻止/低減するための、アンチセンス核酸の使用を企図する。いくつかの実施形態において、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を阻止または低減することができる薬剤は、RNA干渉(RNAi)によって該発現を低減してもよい。
【0141】
いくつかの実施形態において、前記薬剤は、アンチセンスRNAや低分子干渉RNAなどの抑制性核酸であってもよく、shRNAまたはsiRNAが挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
いくつかの実施形態において、前記抑制性核酸は、ベクターに組み込まれて提供される。たとえば、いくつかの実施形態において、前記薬剤は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130のうちの1種以上に対するshRNAをコードするレンチウイルスベクターであってもよい。
【0143】
オリゴヌクレオチド分子(特にRNA)を使用して遺伝子の発現を制御してもよい。このようなオリゴヌクレオチド分子としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド;低分子干渉RNA(siRNA)によるmRNAを標的とした分解;転写後遺伝子サイレンシング(PTG);マイクロRNA(miRNA)を使用した、発生過程で調節される配列に特異的なmRNA翻訳の抑制;および標的化された転写遺伝子サイレンシングが挙げられる。
【0144】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的オリゴヌクレオチド(たとえばmRNA)を標的とし、相補配列結合を介してこれに結合するオリゴヌクレオチド(好ましくは一本鎖オリゴヌクレオチド)である。標的オリゴヌクレオチドがmRNAである場合、mRNAにアンチセンスオリゴヌクレオチドが結合することによって、mRNAの翻訳が阻害されて、遺伝子産物の発現が阻害される。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ゲノム核酸のセンス鎖に結合して標的ヌクレオチド配列の転写を抑制するように設計してもよい。
【0145】
公知のIL-11、IL-11Rαおよびgp130の核酸配列(たとえば、アクセッション番号:BC012506.1 GI:15341754(ヒトIL-11)、BC134354.1 GI:126632002(マウスIL-11)、AF347935.1 GI:13549072(ラットIL-11)、NM_001142784.2 GI:391353394(ヒトIL-11Rα)、NM_001163401.1 GI:254281268(マウスIL-11Rα)、NM_139116.1 GI:20806172(ラットIL-11Rα)、NM_001190981.1 GI:300244534(ヒトgp130)、NM_010560.3 GI:225007624(マウスgp130)、NM_001008725.3 GI:300244570(ラットgp130)でGenBankから入手可能な公知のmRNA配列)を考慮に入れて、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を抑制またはサイレンシングするオリゴヌクレオチドを設計してもよい。
【0146】
このようなオリゴヌクレオチドはどのような長さであってもよいが、短いことが好ましく、たとえば100ヌクレオチド長未満、たとえば10~40ヌクレオチド長、または20~50ヌクレオチド長であってもよく、標的オリゴヌクレオチド(たとえばIL-11 mRNA、IL-11Rα mRNAまたはgp130 mRNA)中の対応する長さのヌクレオチド配列と、完全な相補性または実質的な相補性(たとえば80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の相補性)を有するヌクレオチド配列を含んでいてもよい。ヌクレオチド配列の相補領域はどのような長さであってもよいが、少なくとも5ヌクレオチド長であることが好ましく、50ヌクレオチド長以下であってもよく、たとえば、6ヌクレオチド長、7ヌクレオチド長、8ヌクレオチド長、9ヌクレオチド長、10ヌクレオチド長、11ヌクレオチド長、12ヌクレオチド長、13ヌクレオチド長、14ヌクレオチド長、15ヌクレオチド長、16ヌクレオチド長、17ヌクレオチド長、18ヌクレオチド長、19ヌクレオチド長、20ヌクレオチド長、21ヌクレオチド長、22ヌクレオチド長、23ヌクレオチド長、24ヌクレオチド長、25ヌクレオチド長、26ヌクレオチド長、27ヌクレオチド長、28ヌクレオチド長、29ヌクレオチド長、30ヌクレオチド長、31ヌクレオチド長、32ヌクレオチド長、33ヌクレオチド長、34ヌクレオチド長、35ヌクレオチド長、36ヌクレオチド長、37ヌクレオチド長、38ヌクレオチド長、39ヌクレオチド長、40ヌクレオチド長、41ヌクレオチド長、42ヌクレオチド長、43ヌクレオチド長、44ヌクレオチド長、45ヌクレオチド長、46ヌクレオチド長、47ヌクレオチド長、48ヌクレオチド長、49ヌクレオチド長、50ヌクレオチド長のいずれであってもよい。
【0147】
IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を抑制することによって、細胞/組織/臓器/器官系/対象により発現されるIL-11、IL-11Rαまたはgp130の量が低下することが好ましい。たとえば、適切な核酸の投与により特定の細胞におけるIL-11、IL-11Rαまたはgp130を抑制することによって、該細胞により発現されるIL-11、IL-11Rαまたはgp130の量が非処理細胞よりも低下する。抑制は部分的であってもよい。抑制の程度は少なくとも50%であることが好ましく、少なくとも60%、70%、80%、85%、90%のいずれかであることがより好ましい。抑制の程度が90%~100%である場合、発現または機能が「サイレンシング」されていると考えられる。
【0148】
ヘテロクロマチン複合体のターゲティングおよび特定の染色体座位のエピジェネティックな遺伝子サイレンシングにおいて、RNAi機構およびsmall RNAが果たす役割が実証されている。RNA干渉(RNAi)としても知られている二本鎖RNA(dsRNA)依存性転写後サイレンシングは、dsRNA複合体が、特定の遺伝子の相同部分を標的として短時間でサイレンシングすることができる現象である。RNAiは、配列同一性を有するmRNAの分解を促進するシグナルとして作用する。20ntのsiRNAであれば、通常、遺伝子特異的なサイレンシングを誘導するのに十分に長く、宿主応答を回避するのに十分に短い。標的遺伝子産物の発現の低下は、何種類かのsiRNA分子を使用することによって、90%にも達するサイレンシングを誘導することができる。RNAiを用いた治療薬は、様々な適応症を対象に第I相、第II相および第III相の臨床試験まで進んでいる(Nature 2009 Jan 22; 457(7228):426-433)。
【0149】
当技術分野において、上述のようなRNA配列は、その由来に応じて「短鎖干渉RNAもしくは低分子干渉RNA」(siRNA)または「マイクロRNA」(miRNA)と呼ばれる。これらのRNA配列を使用して、相補的RNAに結合させてmRNAの排除を誘導すること(RNAi)によって、遺伝子発現をダウンレギュレートしてもよく、あるいはmRNAからタンパク質への翻訳を阻害することによって遺伝子発現をダウンレギュレートしてもよい。siRNAは、長い二本鎖RNAがプロセシングされることによって得られ、天然のsiRNAは、通常、外来性である。マイクロ干渉RNA(miRNA)は、内在性にコードされた小さな非コードRNAであり、短いヘアピン構造がプロセシングされることによって得られる。siRNAおよびmiRNAはいずれも、RNAを切断することなく、部分的に相補的な標的配列を有するmRNAの翻訳を抑制することができ、完全な相補配列を有するmRNAを分解することができる。
【0150】
siRNAリガンドは、通常、二本鎖であり、このRNAによる標的遺伝子の機能のダウンレギュレーションの有効性を最適化するためには、siRNAによる標的mRNAの認識を仲介するRISC複合体によってsiRNAが正確に認識されるように十分に長く、かつ宿主応答を低く抑えることができるように十分に短くなるように、siRNA分子の長さを選択することが好ましい。
【0151】
miRNAリガンドは、通常、一本鎖であり、ヘアピン構造を形成することが可能な部分相補領域を有している。miRNAは、DNAから転写されるが、タンパク質には翻訳されないRNA遺伝子である。miRNA遺伝子をコードするDNA配列はmiRNAよりも長く、miRNA配列と、これとほぼ相補的な逆向きの配列とを含む。このDNA配列が一本鎖RNA分子に転写されると、miRNA配列とその逆相補配列からなる塩基対から、部分的に二本鎖のRNAセグメントが形成される。マイクロRNA配列の設計は、John et al, PLoS Biology, 11(2), 1862-1879, 2004において報告されている。
【0152】
siRNAまたはmiRNAの効果を模倣した前記RNAリガンドは、通常、10~40リボヌクレオチド長であり(またはその合成類似体であり)、17~30リボヌクレオチド長であることがより好ましく、19~25リボヌクレオチド長であることがより好ましく、21~23リボヌクレオチド長であることが最も好ましい。二本鎖siRNAを使用した本発明の実施形態のいくつかにおいて、二本鎖siRNA分子は対称な3’末端オーバーハングを有していてもよく、この3’末端オーバーハングは、たとえば1個または2個の(リボ)ヌクレオチドで構成されていてもよく、通常、3’末端UUまたはdTdTオーバーハングである。当業者であれば、本明細書の開示に基づき、たとえばAmbion siRNA finderなどのライブラリーを使用して、適切なsiRNA配列および適切なmiRNA配列を容易に設計することができる。siRNA配列およびmiRNA配列は、合成的に作製し、細胞外から添加することによって遺伝子のダウンレギュレーションを誘導することができ、あるいは発現系(たとえばベクター)を使用して作製することもできる。好ましい一実施形態において、siRNAは合成的に作製される。
【0153】
長鎖の二本鎖RNAを細胞内でプロセシングしてsiRNAを作製してもよい(たとえばMyers (2003) Nature Biotechnology 21:324-328を参照されたい)。長鎖dsRNA分子は、対称な3’末端または5’末端オーバーハングを有していてもよく、この3’末端または5’末端オーバーハングは、たとえば1個または2個の(リボ)ヌクレオチドで構成されていてもよく、あるいは長鎖dsRNA分子は平滑末端を有していてもよい。長鎖dsRNA分子は、25ヌクレオチド長以上であってもよい。長鎖dsRNA分子は、25~30ヌクレオチド長であることが好ましい。長鎖dsRNA分子は、25~27ヌクレオチド長であることがより好ましい。長鎖dsRNA分子は、27ヌクレオチド長であることが最も好ましい。30ヌクレオチド長以上のdsRNAは、pDECAPベクターを使用して発現させてもよい(Shinagawa et al., Genes and Dev., 17, 1340-5, 2003)。
【0154】
別の方法では、ショートヘアピン構造のRNA分子(shRNA)を細胞において発現させる。shRNAは合成siRNAよりも安定である。shRNAは、短いループ配列で連結された短い逆方向反復配列からなる。一方の逆方向反復配列は、標的遺伝子に相補的である。細胞内においてshRNAは、DICERによるプロセシングを受けてsiRNAになり、このsiRNAが標的遺伝子のmRNAを分解して、その発現を抑制する。好ましい一実施形態において、shRNAは、ベクターからの転写によって内因性に(細胞内で)生成される。shRNAは、RNAポリメラーゼIIIプロモーター(ヒトH1プロモーターやヒト7SKプロモーターなど)またはRNAポリメラーゼIIプロモーターの制御下でshRNA配列をコードするベクターで細胞をトランスフェクトすることによって細胞内で生成させてもよい。あるいは、shRNAは、ベクターからの転写によって外因性に(インビトロで)合成してもよい。次いで得られたshRNAを細胞内に直接導入してもよい。shRNA分子は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の部分配列を含むことが好ましい。shRNA配列の長さは40~100塩基長であることが好ましく、40~70塩基長であることがより好ましい。ヘアピン構造のステム部分の長さは19~30塩基対であることが好ましい。ステム部分は、ヘアピン構造を安定化させるためにG-U対を含んでいてもよい。
【0155】
siRNA分子、長鎖dsRNA分子またはmiRNA分子は、(好ましくはベクター内に組み込まれた)核酸配列の転写による組換え技術によって作製してもよい。siRNA分子、長鎖dsRNA分子またはmiRNA分子は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の部分配列を含むことが好ましい。
【0156】
一実施形態において、siRNA、長鎖dsRNAまたはmiRNAは、ベクターからの転写によって内因性に(細胞内で)生成される。ベクターは、当技術分野で公知の方法であればどのような方法で細胞に導入してもよい。これらのRNA配列の発現は、必要に応じて、組織に特異的な(たとえば心臓、肝臓、腎臓または眼に特異的な)プロモーターを使用して制御することができる。さらなる一実施形態において、siRNA、長鎖dsRNAまたはmiRNAは、ベクターからの転写によって外因性に(インビトロで)生成させてもよい。
【0157】
好適なベクターは、IL-11、IL-11Rαまたはgp130を抑制することができるオリゴヌクレオチド薬を発現するように構成されたオリゴヌクレオチドベクターであってもよい。このようなベクターは、ウイルスベクターであってもよく、プラスミドベクターであってもよい。オリゴヌクレオチド治療薬は、ウイルスベクターのゲノム中に組み込まれてもよく、発現を誘導する調節配列(たとえばプロモーター)に作動可能に連結されていてもよい。「作動可能に連結する」とは、ヌクレオチド配列が調節配列の影響下または制御下で発現されるように、選択されたヌクレオチド配列と調節ヌクレオチド配列が共有結合で連結されている状態を含んでいてもよい。したがって、調節配列が、選択されたヌクレオチド配列の全体またはその一部を構成するヌクレオチド配列の転写を誘導することができる場合、該調節配列は、選択されたヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。
【0158】
プロモーターによって発現が誘導されるsiRNA配列をコードするウイルスベクターは、当技術分野で公知であり、オリゴヌクレオチド治療薬を長期にわたって発現できるという利点がある。ウイルスベクターとしては、レンチウイルス(Nature 2009 Jan 22; 457(7228):426-433)、アデノウイルス(Shen et al., FEBS Lett 2003 Mar 27;539(1-3)111-4)およびレトロウイルス(Barton and Medzhitov PNAS November 12, 2002 vol.99, no.23 14943-14945)が挙げられる。
【0159】
別の実施形態において、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現の抑制が必要とされる部位へのオリゴヌクレオチド治療薬の送達を補助するように構成された担体を使用してもよい。このような担体としては、一般に、オリゴヌクレオチドと複合体化された正電荷を持つ担体(たとえば、細胞透過性カチオン性ペプチド、カチオン性ポリマー、カチオン性デンドリマー、およびカチオン性脂質);オリゴヌクレオチドに結合された小分子(たとえば、コレステロール、胆汁酸および脂質)、ポリマー、抗体およびRNA;または、ナノ粒子製剤中にカプセル化されたオリゴヌクレオチド(Wang et al., AAPS J. 2010 Dec; 12(4): 492-503)が挙げられる。
【0160】
一実施形態において、ベクターは、核酸配列がRNAとして発現された場合に、センス鎖部分とアンチセンス鎖部分とが会合して二本鎖RNAが形成されるように、センス鎖方向とアンチセンス鎖方向の両方に核酸配列を含んでいてもよい。
【0161】
あるいは、siRNA分子は、当技術分野で公知の標準的な固相合成法または液相合成法を使用して合成してもよい。ヌクレオチド間の結合は、リン酸ジエステル結合またはその他の結合であってもよく、たとえば、P(O)S(チオエート);P(S)S(ジチオエート);P(O)NR’2;P(O)R’;P(O)OR6;CO;またはCONR’2(式中、RはH(または塩)またはアルキル(C1~12)であり、R6はアルキル(C1~9)である)の式で表される連結基が、-O-または-S-を介して隣接するヌクレオチドに連結したものが挙げられる。
【0162】
天然の塩基に加えて、修飾ヌクレオチド塩基を使用することができ、修飾ヌクレオチド塩基は、これらを含むsiRNA分子に有利な特性を付与することができる。
【0163】
たとえば、修飾塩基は、siRNA分子の安定性を向上させ、それによって、サイレンシングに必要とされるsiRNA分子の量を低減することができる。修飾塩基を付加することによって、未修飾のsiRNAよりも安定性が向上または低下したsiRNA分子を作製することができる。
【0164】
「修飾ヌクレオチド塩基」は、修飾塩基および/または修飾糖が共有結合されたヌクレオチドを包含する。たとえば、修飾ヌクレオチドとしては、3’位のヒドロキシル基および5’位のリン酸基以外の低分子量有機基が共有結合された糖を有するヌクレオチドが挙げられる。したがって、修飾ヌクレオチドは、さらに、2’-O-メチルリボース、2’-O-アルキルリボース、2’-O-アリルリボース、2’-S-アルキルリボース、2’-S-アリルリボース、2’-フルオロリボース、2’-ハロリボース、2’-アジドリボースなどの2’位置換糖;炭素環式糖類似体;α-アノマー糖;アラビノース、キシロース、リキソースなどのエピマー糖;ピラノース糖、フラノース糖、およびセドヘプツロースを含んでいてもよい。
【0165】
修飾ヌクレオチドは当技術分野で公知であり、たとえば、アルキル化プリン、アルキル化ピリミジン、アシル化プリン、アシル化ピリミジン、その他の複素環が挙げられる。このような部類のピリミジンおよびプリンは当技術分野で公知であり、たとえば、プソイドイソシトシン、N4,N4-エタノシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデニン、4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンチルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、-D-マンノシルケウオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、プソイドウラシル、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、ケウオシン、2-チオシトシン、5-プロピルウラシル、5-プロピルシトシン、5-エチルウラシル、5-エチルシトシン、5-ブチルウラシル、5-ペンチルウラシル、5-ペンチルシトシン、2,6-ジアミノプリン、メチルプソイドウラシル、1-メチルグアニンおよび1-メチルシトシンが挙げられる。
【0166】
RNAiを使用して、C.elegans、ショウジョウバエ、植物および哺乳動物の遺伝子をサイレンシングする方法は、当技術分野で公知である(Fire A, et al., 1998 Nature 391:806-811; Fire, A. Trends Genet. 15, 358-363 (1999); Sharp, P. A. RNA interference 2001. Genes Dev. 15, 485-490 (2001); Hammond, S. M., et al., Nature Rev. Genet. 2, 110-1119 (2001); Tuschl, T. Chem. Biochem. 2, 239-245 (2001); Hamilton, A. et al., Science 286, 950-952 (1999); Hammond, S. M., et al., Nature 404, 293-296 (2000); Zamore, P. D., et al., Cell 101, 25-33 (2000); Bernstein, E., et al., Nature 409, 363-366 (2001); Elbashir, S. M., et al., Genes Dev. 15, 188-200 (2001); WO0129058; WO9932619およびElbashir S M, et al., 2001 Nature 411:494-498)。
【0167】
したがって、本発明は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130を発現する哺乳動物細胞(たとえばヒト細胞)に適切に導入または発現された場合に、RNAi法によってIL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を抑制することができる核酸を提供する。
【0168】
公知のIL-11、IL-11Rαおよびgp130の核酸配列(たとえば、アクセッション番号:BC012506.1 GI:15341754(ヒトIL-11)、BC134354.1 GI:126632002(マウスIL-11)、AF347935.1 GI:13549072(ラットIL-11)、NM_001142784.2 GI:391353394(ヒトIL-11Rα)、NM_001163401.1 GI:254281268(マウスIL-11Rα)、NM_139116.1 GI:20806172(ラットIL-11Rα)、NM_001190981.1 GI:300244534(ヒトgp130)、NM_010560.3 GI:225007624(マウスgp130)、NM_001008725.3 GI:300244570(ラットgp130)でGenBankから入手可能な公知のmRNA配列)を考慮に入れて、IL-11、IL-11Rαまたはgp130の発現を抑制またはサイレンシングするオリゴヌクレオチドを設計してもよい。
【0169】
前記核酸は、IL-11、IL-11Rαまたはgp130のmRNAの一部と実質的な配列同一性を有していてもよく、たとえば、GenBankアクセッション番号NM_000641.3 GI:391353405(IL-11)、NM_001142784.2 GI:391353394(IL-11Rα)もしくはNM_001190981.1 GI:300244534(gp130)で示される配列またはこれらのmRNAに相補的な配列などの一部と実質的な配列同一性を有していてもよい。
【0170】
前記核酸は二本鎖siRNAであってもよい。(当業者であれば十分に理解できるように、siRNA分子は3’末端に短いDNA配列をさらに含んでいてもよく、これについては以下で詳しく説明する。)
【0171】
あるいは、前記核酸はDNA(通常二本鎖DNA)であってもよく、このDNAが哺乳動物細胞内で転写されると、スペーサーを介して連結された2つの相補的部分を有するRNAが得られ、このRNAは、2つの相補的部分が互いにハイブリダイズした場合にヘアピン構造を取る。哺乳動物細胞において、このヘアピン構造部分はDICERと呼ばれる酵素によってRNA分子から切断されて、2種の異なるRNA分子がハイブリダイズされた二本鎖RNAを得ることができる。
【0172】
好ましい実施形態のいくつかにおいて、前記核酸は、通常、配列番号6~9(IL-11)に示す配列のいずれか1つ、または配列番号10~13(IL-11Rα)に示す配列のいずれか1つを標的とする。
【0173】
mRNA転写産物の一本鎖領域(すなわち自己ハイブリダイズしていない領域)のみがRNAiの標的として適していると予想される。したがって、IL-11またはIL-11RαのmRNA転写産物うち、配列番号6~9および10~13のいずれかによって示される配列に非常に類似しているその他の配列もRNAiの標的として適していると考えられる。このような標的配列の長さは、17~23ヌクレオチド長であることが好ましく、配列番号6~9および10~13のいずれかと(一方の末端で)少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個もしくは18個のヌクレオチドまたは19個のヌクレオチドすべてがオーバーラップしていることが好ましい。
【0174】
したがって、本発明は、IL-11またはIL-11Rαを発現する哺乳動物細胞に適切に導入または発現された場合に、RNAi法によってIL-11またはIL-11Rαの発現を抑制することができる核酸を提供し、この核酸は、配列番号6~9および10~13のいずれかで示される配列を通常の標的とする。
【0175】
「通常の標的とする」とは、前記核酸が、配列番号6~9および10~13のいずれかとオーバーラップする配列を標的としてもよいことを指す。具体的には、前記核酸は、配列番号6~9および10~13のいずれかで示される配列よりもわずかに長いか、わずかに短いことを除いては、これらの配列と同一のヒトIL-11 mRNA配列またはヒトIL-11Rα mRNA配列(好ましくは17~23ヌクレオチド長)を標的としてもよい。
【0176】
本発明の核酸と標的配列の間で完全な同一性/相補性があることが好ましいが、これは必須ではないと予想される。したがって、本発明の核酸は、IL-11 mRNAまたはIL-11Rα mRNAと比較して単一塩基ミスマッチを含んでいてもよい。しかしながら、単一塩基ミスマッチであっても、その存在によって効率の低下が予想されるため、ミスマッチが存在しないことが好ましい。3’末端オーバーハングが存在する場合、3’末端オーバーハングはミスマッチの数として考慮に入れなくてもよい。
【0177】
「相補性」とは、通常見られるような、天然のリボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチドからなる核酸同士の塩基対合に限定されず、非天然ヌクレオチドを含む本発明の核酸とmRNAの間の塩基対合も包含する。
【0178】
一実施形態において、前記核酸(本明細書において二本鎖siRNAと呼ぶ)には、配列番号14~17に示す二本鎖RNA配列が含まれる。別の一実施形態において、前記核酸(本明細書において二本鎖siRNAと呼ぶ)には、配列番号18~21に示す二本鎖RNA配列が含まれる。
【0179】
しかしながら、同じIL-11 mRNA領域またはIL-11Rα mRNA領域を標的とするわずかに短いか、わずかに長い配列でも、効果的であると予想される。具体的には、17~23bpの長さの二本鎖配列でも効果的であると予想される。
【0180】
前記二本鎖RNAを構成する各鎖は2塩基の短い3’末端オーバーハングを有していてもよく、このオーバーハングはDNAであってもよく、RNAであってもよい。3’末端DNAオーバーハングは、3’末端RNAオーバーハングを使用した場合と比べてsiRNA活性に対する効果が見られないが、核酸鎖を化学合成する際のコストが低くなる(Elbashirら,2001c)。この理由から、2塩基のDNAが好ましい場合がある。
【0181】
両3’末端に2塩基のオーバーハングが存在する場合、これらのオーバーハングは互いに対称であってもよいが、対称であることが必須ではない。実際、センス鎖(上の鎖)の3’末端オーバーハングは、mRNAの認識と分解に関与しないため、RNAi活性には関連しない(Elbashirら,2001a,2001b,2001c)。
【0182】
ショウジョウバエでのRNAi実験では、アンチセンス鎖の3’末端オーバーハングがmRNAの認識および標的化に関与している可能性が示されているが(Elbashirら,2001c)、哺乳動物細胞では、3’末端オーバーハングはsiRNAのRNAi活性に必要だとは考えられていない。したがって、3’末端オーバーハングが誤ったアニーリングを起こしても、哺乳動物細胞では影響はほとんどないと考えられる(Elbashirら,2001c;Czaudernaら,2003)。
【0183】
したがって、siRNAのアンチセンス鎖においては、どのような2塩基オーバーハングを使用してもよい。しかしながら、2塩基のオーバーハングは-UUまたは-UG(オーバーハングがDNAである場合は-TTまたは-TG)であることが好ましく、-UU(または-TT)であることがより好ましい。-UU(または-TT)からなる2塩基オーバーハングが最も効果的であり、RNAポリメラーゼIIIの転写終結シグナル(転写終結シグナルはTTTTTである)と一致する(すなわち転写終結シグナルの一部を構成することができる)。したがって、この2塩基が最も好ましい。AA、CCおよびGGの2塩基を使用することもできるが、それほど効果的ではなく、よってあまり好ましくない。
【0184】
さらに、siRNAは3’末端オーバーハングを全く含んでいなくてもよい。
【0185】
さらに本発明は、前述の二本鎖核酸の一方を構成鎖とする一本鎖核酸(本明細書において一本鎖siRNAと呼ぶ)を提供し、この一本鎖siRNAは、3’末端オーバーハングを有していることが好ましいが、3’末端オーバーハングを有していなくてもよい。さらに本発明は、このような一本鎖核酸のペアを含むキットを提供し、これらの一本鎖核酸はインビトロで互いにハイブリダイズして前述の二本鎖siRNAを形成することができ、この二本鎖siRNAは次いで細胞に導入されてもよい。
【0186】
さらに本発明は、哺乳動物細胞において、2つの相補的部分が自己ハイブリダイズして二本鎖モチーフを形成することができるRNA(本明細書においてshRNAとも呼ぶ)に転写されるDNAを提供し、形成される二本鎖モチーフとしては、たとえば、配列番号14~17および18~21からなる群から選択される配列、またはこれらの配列のいずれかにおいて単一の塩基対が置換されている配列が挙げられる。
【0187】
前記相補的部分は、通常、スペーサーによって連結され、このスペーサーは、これら2つの相補的部分が互いにハイブリダイズすることが可能となるような適切な長さと配列を有する。2つの相補的部分(すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖)は、5’末端と3’末端で連結されていてもよく、どちらが5’末端側であってもよい。前記スペーサーは、通常、約4~12ヌクレオチド長、好ましくは4~9ヌクレオチド長、より好ましくは6~9ヌクレオチド長の短い配列であってもよい。
【0188】
前記スペーサーの5’末端(上流の相補的部分の3’末端の直後)は、-UU-または-UG-の2塩基からなることが好ましく、ここでも、-UU-がより好ましい(しかし、ここでも、これらの特定の2塩基の使用は必須ではない)。OligoEngine社(米国ワシントン州シアトル)のpSuperシステムでの使用に推奨される好適なスペーサーはUUCAAGAGAである。このスペーサーやその他のスペーサーを用いた場合、スペーサーの両末端は互いにハイブリダイズされるため、たとえば、配列番号14~17または18~21に示される配列そのものよりも、少数の塩基対(たとえば1塩基対または2塩基対)だけ長い二本鎖モチーフが得られる。
【0189】
同様に、転写されたRNAは、下流の相補的部分に由来する3’末端オーバーハングを含むことが好ましい。ここでも、このオーバーハングとしては-UUまたは-UGが好ましく、-UUがより好ましい。
【0190】
前述したように、このようなshRNA分子は哺乳動物細胞内でDICER酵素によって切断され、ハイブリダイズされたdsRNAを構成する各一本鎖の一方またはその両方が3’末端オーバーハングを含む二本鎖siRNAを形成してもよい。
【0191】
本発明の核酸を合成するための技術は当技術分野においてよく知られていることは言うまでもない。
【0192】
当業者であれば、よく知られている技術および市販の材料を使用して、本発明のDNAに適した転写ベクターを容易に構築することができるであろう。具体的には、本発明のDNAには、プロモーターや転写終結配列などの調節配列が連結される。
【0193】
OligoEngine社製(米国ワシントン州シアトル)の市販品であるpSuperシステムおよびpSuperiorシステムが特に好適である。これらのシステムでは、ポリメラーゼIIIプロモーター(H1)とT5転写終結配列を使用しており、T5転写終結配列は転写産物の3’末端に2個のU残基を付加する(この転写産物がDICERでプロセシングされることによって、一方のRNA鎖に3’末端UUオーバーハングが付加されたsiRNAが得られる)。
【0194】
別の好適なシステムは、Shinら(RNA, 2009 May; 15(5): 898-910)に記載されており、このシステムでは、別のポリメラーゼIIIプロモーター(U6)が使用されている。
【0195】
本発明の二本鎖siRNAは、後述するような公知の技術を使用して、インビトロまたはインビボにおいて哺乳動物細胞に導入することにより、IL-11またはIL-11受容体の発現を抑制してもよい。
【0196】
同様に、本発明のDNAを含む転写ベクターは、後述するような公知の技術を使用してインビトロまたはインビボにおいて腫瘍細胞に導入し、RNAを一時的または安定に発現させることにより、IL-11またはIL-11受容体の発現を抑制してもよい。
【0197】
したがって、さらに本発明は哺乳動物(たとえばヒト)細胞においてIL-11またはIL-11受容体の発現を抑制する方法であって、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターを前記細胞に投与することを含む方法を提供する。
【0198】
同様に、さらに本発明は、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患/状態の治療方法であって、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターを対象に投与することを含む方法を提供する。
【0199】
さらに、本発明は、治療方法、好ましくは分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患/状態の治療方法において使用するための、本発明の二本鎖siRNAおよび本発明の転写ベクターを提供する。
【0200】
さらに、本発明は、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患/状態の治療用医薬品の製造における、本発明の二本鎖siRNAおよび本発明の転写ベクターの使用を提供する。
【0201】
さらに、本発明は、本発明の二本鎖siRNAまたは本発明の転写ベクターと、1種以上の薬学的に許容される担体との混合物を含む組成物を提供する。好適な担体としては、細胞膜透過性を向上させることができる親油性担体または小胞が挙げられる。
【0202】
本発明の二本鎖siRNAおよびDNAベクターの投与に適した材料および方法は当技術分野でよく知られており、RNAi技術は様々な可能性を秘めていることから、改良された方法が開発中である。
【0203】
核酸を哺乳動物細胞に導入するにあたり、通常、様々な技術を利用することができる。使用する技術は、核酸をインビトロで培養細胞に導入するのか、それともインビボで患者の細胞に導入するのかによって選択される。インビトロにおける哺乳動物細胞への核酸の導入に適した技術としては、リポソームの使用、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、細胞融合法、DEAEデキストラン法およびリン酸カルシウム沈殿法が挙げられる。インビボにおける遺伝子導入技術としては、ウイルスベクター(通常、レトロウイルスベクター)を使用したトランスフェクション、ウイルス外被タンパク質-リポソーム複合体を使用したトランスフェクション(Dzau et al. (2003) Trends in Biotechnology 11, 205-210)が挙げられる。
【0204】
具体的には、インビトロまたはインビボにおいて本発明の核酸を細胞に投与するのに好適な技術は、以下の文献に記載されている。
【0205】
総説:Borkhardt, A. 2002. Blocking oncogenes in malignant cells by RNA interference--new hope for a highly specific cancer treatment? Cancer Cell. 2:167-8. Hannon, G.J. 2002. RNA interference. Nature. 418:244-51. McManus, M.T., and P.A. Sharp. 2002. Gene silencing in mammals by small interfering RNAs. Nat Rev Genet. 3:737-47. Scherr, M., M.A. Morgan, and M. Eder. 2003b. Gene silencing mediated by small interfering RNAs in mammalian cells. Curr Med Chem. 10:245-56. Shuey, D.J., D.E. McCallus, and T. Giordano. 2002. RNAi: gene-silencing in therapeutic intervention. Drug Discov Today. 7:1040-6.
【0206】
リポソームを使用した全身送達:Lewis, D.L., J.E. Hagstrom, A.G. Loomis, J.A. Wolff, and H. Herweijer. 2002. Efficient delivery of siRNA for inhibition of gene expression in postnatal mice. Nat Genet. 32:107-8. Paul, C.P., P.D. Good, I. Winer, and D.R. Engelke. 2002. Effective expression of small interfering RNA in human cells. Nat Biotechnol. 20:505-8. Song, E., S.K. Lee, J. Wang, N. Ince, N. Ouyang, J. Min, J. Chen, P. Shankar, and J. Lieberman. 2003. RNA interference targeting Fas protects mice from fulminant hepatitis. Nat Med. 9:347-51. Sorensen, D.R., M. Leirdal, and M. Sioud. 2003. Gene silencing by systemic delivery of synthetic siRNAs in adult mice. J Mol Biol. 327:761-6.
【0207】
ウイルスを使用した導入:Abbas-Terki, T., W. Blanco-Bose, N. Deglon, W. Pralong, and P. Aebischer. 2002. Lentiviral-mediated RNA interference. Hum Gene Ther. 13:2197-201. Barton, G.M., and R. Medzhitov. 2002. Retroviral delivery of small interfering RNA into primary cells. Proc Natl Acad Sci U S A. 99:14943-5. Devroe, E., and P.A. Silver. 2002. Retrovirus-delivered siRNA. BMC Biotechnol. 2:15. Lori, F., P. Guallini, L. Galluzzi, and J. Lisziewicz. 2002. Gene therapy approaches to HIV infection. Am J Pharmacogenomics. 2:245-52. Matta, H., B. Hozayev, R. Tomar, P. Chugh, and P.M. Chaudhary. 2003. Use of lentiviral vectors for delivery of small interfering RNA. Cancer Biol Ther. 2:206-10. Qin, X.F., D.S. An, I.S. Chen, and D. Baltimore. 2003. Inhibiting HIV-1 infection in human T cells by lentiviral-mediated delivery of small interfering RNA against CCR5. Proc Natl Acad Sci U S A. 100:183-8. Scherr, M., K. Battmer, A. Ganser, and M. Eder. 2003a. Modulation of gene expression by lentiviral-mediated delivery of small interfering RNA. Cell Cycle. 2:251-7. Shen, C., A.K. Buck, X. Liu, M. Winkler, and S.N. Reske. 2003. Gene silencing by adenovirus-delivered siRNA. FEBS Lett. 539:111-4.
【0208】
ペプチドの送達:Morris, M.C., L. Chaloin, F. Heitz, and G. Divita. 2000. Translocating peptides and proteins and their use for gene delivery. Curr Opin Biotechnol. 11:461-6. Simeoni, F., M.C. Morris, F. Heitz, and G. Divita. 2003. Insight into the mechanism of the peptide-based gene delivery system MPG: implications for delivery of siRNA into mammalian cells. Nucleic Acids Res. 31:2717-24.
標的細胞へのsiRNAの送達に適していると考えられる他の技術としては、米国特許第6,649,192(B)号明細書および米国特許第5,843,509(B)号明細書に記載されているような、ナノ粒子またはナノカプセルを使用した方法が挙げられる。
【0209】
IL-11媒介性シグナル伝達の抑制
本発明の実施形態において、IL-11の作用を抑制することができる薬剤は、以下の機能特性のうちの1つ以上を有していてもよい。
・IL-11媒介性シグナル伝達の抑制
・IL-11Rα:gp130受容体複合体へのIL-11の結合を介したシグナル伝達の抑制
・gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達(すなわちIL-11のトランスシグナル伝達)の抑制
・IL-11を介したプロセスの抑制
・筋線維芽細胞の発生の抑制
・平滑筋細胞の増殖/遊走の抑制
・コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現/タンパク質発現の抑制
【0210】
これらの特性は、適切なアッセイにおいて関連因子を分析することによって測定することができ、適切なコントールと前記薬剤の性能を比較することを含んでいてもよい。当業者であれば、特定のアッセイにおいて適切なコントロール条件を決定することができる。
【0211】
IL-11媒介性シグナル伝達および/またはIL-11媒介性プロセスは、IL-11断片を介したシグナル伝達、およびIL-11またはその断片を含むポリペプチド複合体を介したシグナル伝達を含む。IL-11媒介性シグナル伝達は、ヒトIL-11および/またはマウスIL-11を介したシグナル伝達であってもよい。IL-11媒介性シグナル伝達は、IL-11またはIL-11含有複合体が結合する受容体に、IL-11またはIL-11含有複合体が結合することによって起こるシグナル伝達であってもよい。
【0212】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、IL-11またはIL-11含有複合体の生物学的活性を抑制可能であってもよい。
【0213】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、IL-11Rαおよび/またはgp130を含む受容体(たとえばIL-11Rα:gp130)を介したシグナル伝達により活性化される1つ以上のシグナル伝達経路に対するアンタゴニストである。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、IL-11Rαおよび/またはgp130を含む1つ以上の免疫受容体複合体(たとえばIL-11Rα:gp130)を介したシグナル伝達を抑制することができる。
【0214】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)IL-11媒介性シグナル伝達の量と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11媒介性シグナル伝達を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)IL-11媒介性シグナル伝達の量と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる。
【0215】
いくつかの実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達は、IL-11Rα:gp130受容体へのIL-11の結合を介したシグナル伝達であってもよい。このようなシグナル伝達は、たとえばIL-11Rαとgp130を発現する細胞をIL-11で処理するか、またはIL-11Rαとgp130を発現する細胞においてIL-11の産生を刺激することによって分析することができる。
【0216】
本発明の薬剤によるIL-11媒介性シグナル伝達の抑制のIC50は、たとえば、IL-11Rαおよびgp130を発現するBa/F3細胞を、ヒトIL-11および本発明の薬剤の存在下で培養し、DNAへの3H-チミジンの取り込みを測定することによって求めてもよい。いくつかの実施形態において、このようなアッセイにおける本発明の薬剤のIC50値は、10μg/ml以下であってもよく、好ましくは、5μg/ml以下、4μg/ml以下、3.5μg/ml以下、3μg/ml以下、2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.9μg/ml以下、0.8μg/ml以下、0.7μg/ml以下、0.6μg/ml以下または0.5μg/ml以下である。
【0217】
いくつかの実施形態において、IL-11媒介性シグナル伝達は、gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達であってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11:IL-11Rα複合体は可溶性であってもよく、たとえばIL-11Rαの細胞外ドメインとIL-11の複合体であってもよく、可溶性IL-11Rαアイソフォーム/断片とIL-11の複合体であってもよい。いくつかの実施形態において、可溶性IL-11Rαは、IL-11Rαの可溶性(分泌型)アイソフォームであるか、または膜結合型IL-11Rαの細胞外ドメインがタンパク質分解されることによって遊離した産物である。
【0218】
いくつかの実施形態において、IL-11:IL-11Rα複合体は、膜結合型であってもよく、たとえば膜結合型IL-11RαとIL-11からなる複合体であってもよい。gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達は、gp130を発現する細胞をIL-11:IL-11Rα複合体で処理することによって、たとえばペプチドリンカーによりIL-11Rαの細胞外ドメインに連結されたIL-11を含む組換え融合タンパク質(たとえば本明細書に記載のhyper IL-11)で処理することによって分析することができる。
【0219】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達を抑制可能であってもよく、IL-11Rα:gp130受容体へのIL-11の結合を介したシグナル伝達を抑制することもできる。
【0220】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、たとえばTGFβ1で刺激した後などの、IL-11を介したプロセスを抑制可能であってもよい。IL-11を介したプロセスとしては、たとえば、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生、平滑筋細胞(SMC)の増殖/遊走、およびたとえばコラーゲンやIL-11などの遺伝子発現/タンパク質発現が挙げられ、これらはインビトロまたはインビボで評価することができる。
【0221】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、たとえば線維化促進因子(たとえばTGFβ1)に線維芽細胞を暴露した後などの、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生を抑制可能であってもよい。線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生は、筋線維芽細胞マーカーを分析することによって調べることができる。
【0222】
線維芽細胞は、どのような組織から得られたものであってもよく、肝臓、肺、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管(たとえば大腸または小腸)、脳および骨髄から得られた線維芽細胞が挙げられる。特定の実施形態において、線維芽細胞は、心臓線維芽細胞(たとえば心房線維芽細胞)、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞のいずれであってもよい。線維芽細胞は、COL1A、ACTA2、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ、MAS516、FSP1のいずれか1種以上の遺伝子またはタンパク質の発現を特徴としてもよい。筋線維芽細胞マーカーとしては、(同等の線維芽細胞(たとえば同じ組織に由来する線維芽細胞)による発現量と比較した際の)αSMAの増加、ビメンチンの増加、palladinの増加、コフィリンの増加およびデスミンの増加のうちの1つ以上が挙げられる。
【0223】
線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生は、TGFβ1で線維芽細胞を刺激した後、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用してαSMAタンパク質の発現量を測定することによって分析することができる。たとえばWO 2017/103108(A1)(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)を参照されたい。
【0224】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生数と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生数と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の発生を抑制することができる。
【0225】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、たとえばTGFβ1で刺激した後などの、平滑筋細胞(たとえば分泌型平滑筋細胞)の増殖を抑制可能であってもよい。平滑筋細胞の増殖は、たとえば、本明細書で述べるような、3H-チミジン取り込みアッセイ、CFSE希釈アッセイまたはEdU取り込みアッセイを使用して測定することができる。
【0226】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)平滑筋細胞の増殖量と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで平滑筋細胞の増殖を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)平滑筋細胞の増殖量と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで平滑筋細胞の増殖を抑制することができる。
【0227】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、たとえばTGFβ1で刺激した後などの、平滑筋細胞(たとえば分泌型平滑筋細胞)の遊走を抑制可能であってもよい。平滑筋細胞の遊走は、たとえば実施例9およびLiang et al., Nat Protoc. (2007) 2(2):329-33に記載されているスクラッチアッセイを使用して測定することができ、あるいは実施例9およびChen, Methods Mol Biol. (2005) 294:15-22に記載されているボイデンチャンバーアッセイを使用して測定することができる。
【0228】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)平滑筋細胞の遊走の程度と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで平滑筋細胞の遊走を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)平滑筋細胞の遊走の程度と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで平滑筋細胞の遊走を抑制することができる。
【0229】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現/タンパク質発現を抑制可能であってもよい。遺伝子発現および/またはタンパク質発現は、本明細書の記載に従って測定することができる。
【0230】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現量/タンパク質発現量と比較して、その100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで、コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現/タンパク質発現を抑制可能であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の薬剤は、該薬剤の非存在下における(または適切なコントロール薬剤の存在下における)コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現量/タンパク質発現量と比較して、その1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで、コラーゲンまたはIL-11の遺伝子発現/タンパク質発現を抑制することができる。
【0231】
平滑筋細胞の機能障害および平滑筋細胞疾患
平滑筋細胞(SMC)の機能障害は、様々な疾患/状態において観察され、この機能障害では、SMCが異常増殖し、肥大し、遊走し、浸潤し、細胞外マトリックスを産生および/または修飾し、死に至る。
【0232】
分泌型のSMCは、SMCの機能障害が関与する疾患/状態の病原性エフェクターである。このような疾患/状態および/またはその症状の発症または進行は、分泌型SMCの1つ以上の活性と正の相関関係にあってもよい。すなわち、分泌型SMCの活性は、前記疾患/状態および/またはその症状の発症/進行を引き起こすものであってもよく、それに寄与するものであってもよい(たとえば、悪化させるものであってもよく、増強するものであってもよい)。
【0233】
場合によっては、前記疾患/状態は、収縮型から分泌型へのSMCの表現型の転換異常によって引き起こされるものであってもよく、それによって悪化するものであってもよい。別の場合、前記疾患/状態は、特定の組織/臓器/器官系/患者において(たとえば前記疾患/状態がない場合の分泌型SMCの数/割合と比較して)分泌型SMCの数/割合が増加していることによって引き起こされたものであってもよく、それによって悪化するものであってもよい。
【0234】
血管平滑筋細胞(VSMC)の機能障害を特徴とする疾患としては、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、弁上部狭窄症、肺動脈高血圧症、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症などが挙げられる。内臓器官におけるSMCの機能障害は、たとえば、嚥下障害、下痢、便秘、腎臓・膀胱疾患に関与しており、SMCの機能障害はさらに、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの呼吸器疾患にも関与している。
【0235】
SMCが病理学的に関与する疾患/状態については、以下の節でさらに説明する。
【0236】
全身性硬化症/強皮症
強皮症(SSc)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)、細胞外マトリックスおよび循環メディエーターの間での複雑な相互作用の寄与による血管リモデリング、血管痙攣および血管閉塞を特徴とする結合組織疾患である8。VSMCは、強皮症の線維化した血管内膜病変の形成に関与する9。強皮症患者は、TGFβシグナル伝達に過剰な反応性を示し、これが疾患の発生機序に重要な役割を果たしている2。
【0237】
肺動脈高血圧症
肺動脈高血圧症(PAH)はまれな疾患であるが、結合組織疾患(最も一般的には強皮症(SSc))によく見られる合併症である。内皮の損傷に続いて、SMCの遊走、増殖および細胞外マトリックスの沈着が活性化し、これと同時に内皮細胞の増殖が起こるという機序が、PAHの根本的な病理として極めて重要である10。血管平滑筋細胞(VSMC)は、炎症促進性刺激、低酸素刺激および分裂促進刺激の存在下で収縮型から分泌型へと表現型が転換し、PAHで見られる病変を引き起こす11。
【0238】
PAHの主要な遺伝的要因は、平滑筋機能およびTGFβの負の制御因子であるBMPR2の機能喪失変異である12。家族性の場合、最大で70%の患者において、VSMCの増殖およびPAHの発症に関連するBMPR2変異が認められる。
【0239】
叢状病変は、通常、筋性動脈の分岐点に存在し、PAHに特徴的であり、筋線維芽細胞をコアとして内皮細胞によって仕切られた脈管ネットワークからなる10。TGFβからの細胞分裂抑制性シグナル伝達の喪失が、叢状病変の異常増殖の原因であると考えられている10。
【0240】
マルファン症候群、大動脈瘤およびその他の関連疾患
マルファン症候群(MFS)は、複数の器官系が冒される常染色体優性結合組織疾患である13。MFS患者由来の大動脈試料では、pSMAD2/3およびRhoAのタンパク質レベルでの増加が見られることから、TGFβシグナル伝達の上昇が示される14。MFSにおけるTGFβシグナル伝達の上昇は、Dietz研究室による一連の実験に基づき、MFSの発生機序の中心原理として10年以上にわたって研究者らにより受け入れられている14~17。TGFβ中和抗体は、MFSモデルにおいて、大動脈基部の拡張速度を減少させ、大動脈壁構造および弾性線維の維持を改善し、大動脈壁の厚さを減少させ、コラーゲンの沈着を低下させることができる18。
【0241】
Furlong症候群およびシュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群は、頭蓋縫合の早期閉鎖、大動脈解離、頭蓋縫合の早期閉鎖および精神遅滞を示すMFS様疾患である13。これらの疾患では、TβRIおよびTGFβR2の変異が同定されており、これらの疾患の間で表現型が重複している理由を説明するものであると考えられる13。同様に、ロイス・ディーツ症候群(TGFβR1およびTGFβR2における体細胞突然変異)、家族性胸部大動脈瘤症候群(TGFβR2における生殖細胞突然変異およびTGFβR1におけるミスセンス変異)および動脈蛇行症候群では、MFSと類似した血管症状が見られ、このことからも、TGFβシグナル伝達の重要性が強調されている19。
【0242】
脳動脈瘤
脳動脈瘤は、脳動脈において発生し、主に、血流力学的せん断応力が高い分岐点において発生する20。VSMCの表現型の変化(炎症促進性の分泌型への表現型の変化)は、MMPの発現を増加させて内弾性板の消失を引き起こす。大部分の脳動脈瘤はこのようにして形成される20。さらに、VSMCの表現型の変化に応じて、SMCの形態学的変化(紡錘形細胞から蜘蛛状細胞への変化)と、収縮型SMCマーカー(平滑筋ミオシン重鎖および平滑筋α-アクチン)の発現および染色の減少が認められることが研究で示されている21。SMCは、TGFβと関連しており20、IL-11シグナル伝達経路と間接的な関連性を有すると考えられるその他の因子とも関連することから、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、脳動脈瘤の予防または治療に有用であると考えられる。
【0243】
再狭窄
再狭窄は、線維症、血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖、および医原性の血管損傷(たとえば血管形成術)から生じたリモデリングを特徴とする13。VSMCのアポトーシスによって、血小板およびフィブリンの凝集が誘導される。また、トロンビンも、成長因子の産生、VSMCの増殖およびECMの沈着を誘導する強力な因子である。さらに、活性化血小板は、FDGF(強力な誘導因子)、EGF、TGFβなどのマイトジェンと、血管収縮因子(トロンボキサン、セロトニン)を放出して、VSMCの増殖を悪化させる。また、ヒトの再狭窄試料では、TGFβのmRNAレベルが大幅にアップレギュレートされている22。さらに、無傷のブタ動脈においてTGFβを過剰発現させると、動脈壁におけるECMの沈着と細胞増殖が増加する23。同様に、バルーンカテーテルで損傷させたウサギ頸動脈において、抗体によりTGFβを阻害すると、再狭窄が抑制されることが示されている24。また、ヒトの狭窄病変では、アテローム性動脈硬化症の初期プラークと比較してSMAD3がアップレギュレートされている25。SMAD3の過剰発現によって、内膜/中膜比の増加、ならびに内膜および内膜下における細胞(PCNA陽性細胞)の増殖の増加が起こる26。さらに、(抑制作用を有する)SMAD7の過剰発現は、血管形成術後の再狭窄を減少させる27。これらの研究から、再狭窄とTGFβシグナル伝達の間に強い関連性があることが示唆される。
【0244】
アテローム性動脈硬化症
アテローム性動脈硬化症は、たとえば、化学的侵襲(高血糖)、修飾低密度リポタンパク(LDL)または物理的力(高血圧)による損傷によって誘導される動脈壁の慢性炎症反応である28。血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖および遊走は、アテローム性動脈硬化プラークの安定に極めて重要である29。また、アテローム性動脈硬化症の後期では、炎症性細胞の活性によるVSMCのアポトーシスにより、プラークの崩壊が起こることが知られている。さらに、TGFβシグナル伝達は、VSMCおよび内皮細胞の増殖および遊走を抑制し、VSMCおよび内皮細胞のアポトーシスを刺激することが示されている13。ヒトのアテローム性動脈硬化病変から単離されたVSMCは、TGFβの抗増殖作用およびアポトーシス作用に抵抗性を示し、TβRIIに変異を有し、かつ/またはTβRIIの発現が低下していることが示されている30。また、アテローム性動脈硬化症は、中和抗体を使用したTGFβシグナル伝達の全身性阻害31、ドミナントネガティブII型受容体の発現32、および1つのアレルの標的化欠失33によって悪化する。これに対して、タモキシフェンの投与によりTGFβを増加させると、アテローム性動脈硬化症が改善する34。
【0245】
線維筋性異形成症
線維筋性異形成症(FMD)は、まれな非動脈硬化性疾患であり、中程度の大きさの動脈に影響を及ぼし、動脈狭窄、数珠状変化、動脈解離および動脈瘤の原因となることが知られている35。線維筋性異形成症は、腎動脈に最も多く見られ(60~75%)、頸動脈および頭蓋内動脈(25~30%)、内臓動脈(9%)ならびに四肢動脈(5%)がこれに続く36。組織病理学的には、線維筋性異形成症の病変は、病変が主に認められる動脈層(中膜、内膜または外膜)と、動脈病変の組成(繊維増殖症として知られているコラーゲンの沈着、または頻度は少ないものの、平滑筋細胞の過形成)に基づいて分類される35。線維筋性異形成症の患者では、対応するコントロールと比較して、TGFβ1およびTGFβ2の分泌の増加、ならびにTGFβ1およびTGFβ2の血中濃度の増加が示されている37。
【0246】
腎動脈狭窄症
腎動脈狭窄症(RAS)は、虚血性腎症、高血圧および心障害症候群からなる3つの主要な臨床症候群を含む疾患である38。腎動脈狭窄症の最も一般的な原因はアテローム性動脈硬化症(90%)と線維筋性異形成症(10%)であり、これらの疾患が発生した後に病的機能変化が生じる38。
【0247】
高血圧
アンギオテンシンII(AGII)は、MAPK(ERK1/2、JNKおよびp38キナーゼ)、ヤヌスキナーゼ(JAK)/シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)、NF-κBおよびホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)を介して、血管平滑筋細胞(VSMC)増殖シグナル伝達を制御する39。VSMCによるECMの沈着およびVSMCの増殖は、高血圧における血管リモデリングにおいて重要な役割を果たしており、特に、血管コンプライアンスが低下し、収縮期血圧が上昇する加齢高血圧に重要である39。高血圧ラットでは、野生型のコントロールと比べて、VSMCの増殖傾向および遊走傾向が高い40。ラットにおける収縮型マーカーすなわち平滑筋アクチン(SMA)およびSM22αの低下は、PPAR-γの低下に伴って起こることから、高血圧では、PPAR-γ誘導性PI3K/Aktシグナル伝達の抑制を介してVSMCの表現型の転換が制御されている可能性がある40。最近の非常に大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)では、VSMCの機能が血圧の重要な決定因子として強く関連付けられている41。
【0248】
腎疾患
巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎および糖尿病性腎症(DN)は、重要な腎疾患である42。メサンギウム細胞の増殖は、これらの腎疾患の進行において重要な役割を果たしており、アテローム性動脈硬化症に非常によく似たプロセスで糸球体硬化症を引き起こす。メサンギウム細胞は、その由来、顕微解剖学的特徴、組織化学的特徴および収縮性の点で血管平滑筋細胞(VSMC)と非常によく似ており43、VSMCのサブタイプであると考えられる。メサンギウム細胞は、メサンギウム基質を分泌して、この基質で自体を取り囲んでおり、糸球体の構造の支持において中心的な役割を果たしている。病的状態下のメサンギウム細胞は、血管の損傷に応じたVSMCの表現型の転換と同様に、筋線維芽細胞様の表現型(mesangioblast)に脱分化し、マトリックス成分を過剰に産生する44。メサンギウム細胞は、脱分化時にαSMAなどのマーカーの発現もアップレギュレートする。メサンギウム基質の沈着によるメサンギウム領域の大きさの増加と、メサンギウム細胞の増殖および肥大は、糸球体硬化症の特徴である45。また、VSMCと同様に、PDGFがメサンギウム細胞の増殖の強力な誘導因子として作用することが同定されている42。メサンギウム細胞の増殖を促進するその他の重要な転写因子として、c-fos、c-mycおよびc-junが挙げられる。c-fosはc-junと二量体化してAP-1複合体を形成し、このAP-1複合体が、様々な標的遺伝子をトランス活性化する42。メサンギウム細胞および/もしくは血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖または糸球体の輸出動脈の収縮不全によって、糸球体の機能障害および高血圧が起こりうる。
【0249】
肺疾患
気道平滑筋細胞(ASMC)は、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺疾患に深く関与している46。気道平滑筋細胞は、平滑筋ミオシン重鎖、カルポニン、平滑筋α-アクチンなどの収縮性タンパク質の発現が比較的低いことを特徴とし、増殖モードを維持している47。TGFβは、気道平滑筋および気道線維芽細胞において、平滑筋α-アクチンやカルポニンなどの平滑筋収縮性タンパク質の発現を増加させ、気道平滑筋細胞の大きさとその数を増加させる48。
【0250】
喘息
喘息は、世界中で3億人を超える患者が罹患している慢性疾患であり、毎年250,000人が喘息により死亡している。喘息は、気道の炎症、過敏反応性およびリモデリングを特徴とする49。収縮アゴニスト、炎症メディエーターおよび成長因子により気道平滑筋細胞(ASMC)が頻繁に刺激を受けると、構造リモデリングが起こり、この結果、喘息の後期に不可逆な気道閉塞が起こる。様々なメディエーターのうち、TGFβが同定されている50。McMillanらは、抗TGFβ抗体でマウスを処置すると、既に確立された気道炎症およびTh2サイトカインの産生に影響を及ぼすことなく、肺における細気管支周囲の細胞外マトリックスの沈着、気道平滑筋細胞の増殖および粘液産生が有意に低下することを示した51。気道平滑筋細胞(ASMC)の収縮を緩和するβブロッカーを用いた急性喘息の悪化に対する初期治療では、喘息におけるASMCの中心的な役割が強調されている52。さらに、気道平滑筋細胞(ASMC)はコラーゲンを産生し、炎症促進性サイトカインを分泌することにより、疾患の発生機序に寄与している53。
【0251】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
COPDは、世界的に毎年300万人の死亡を引き起こしていると推定される慢性肺疾患である。COPDは、気管壁の肥厚と気道閉塞を起こす組織修復および上皮化生を特徴とする48。過去の研究では、気道平滑筋の量が肺機能と逆相関すること、およびβ-アゴニストや抗コリン薬などの気管支拡張薬により誘導される弛緩が、気管支周囲における外膜線維症によって抑制されうることが示されている48。TGFβは、COPDを有さない喫煙者と比較して、COPDを有する喫煙者の気道上皮および気道平滑筋細胞(ASMC)において過剰発現することが示されている54。
【0252】
腸の病理
腸管平滑筋細胞(iSMC)は、腸壁における狭窄(たとえば回腸の狭窄)の形成に重要な役割を果たしている。このプロセスは、炎症性腸疾患(たとえば、セリアック病、過敏性腸症候群、クローン病および潰瘍性大腸炎)および腸壁の炎症および肥厚を起こすその他の疾患で一般的に見られる。腸管平滑筋細胞(iSMC)は、生理学的条件下では収縮型で増殖性は示さず、正常な腸機能に必要とされる55。しかし、腸管平滑筋細胞(iSMC)は、様々な病的状態に反応して、脱分化し、細胞周期に再度入り、肥大し、分泌型のSMCに表現型が転換する55。腸管筋のカハール間質細胞は、腸の蠕動を制御する特別な種類のSMCである。カハール間質細胞は、腸の収縮に悪影響を及ぼす分泌型SMCへの形質転換に特に感受性を示す(Vetuschi et al., Eur J Clin Invest. (2006) 36(1):41-8)。腸のSMCは、急速に増殖して、コラーゲンなどのECMを合成および分泌する能力を有する。インビトロ実験では、腸管平滑筋細胞(iSMC)において、TGFβにより細胞1個あたりのコラーゲン合成の絶対量が100%増加したことが示されている56。
【0253】
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)
ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)は、プロジェリン(progerin)という変異型ラミンAによって引き起こされる重度のヒト早期老化疾患である。一般に、早老症患者における心血管疾患による死亡は、血管平滑筋細胞(VSMC)の重度の欠損に起因する57。プロジェリンの発現によってPARP1がダウンレギュレートされ、分裂期細胞死が起こり、SMCが死滅する57。早老症においてTGFβおよびSMADはアップレギュレートされ、この疾患において変化するものの一つとしてMAPK経路が挙げられる58。
【0254】
平滑筋腫および平滑筋肉腫
類線維腫として知られる平滑筋腫は、どのような臓器でも発生する可能性がある良性の平滑筋腫瘍である。平滑筋腫は、一般に、子宮(すなわち子宮平滑筋腫/類線維腫)、食道、胃および腸管に発生する。平滑筋腫の大部分は1個の平滑筋細胞の増殖から発生し、平滑筋腫には血管平滑筋細胞が含まれる。また、類線維腫も、線維芽細胞や類線維腫関連線維芽細胞などの分化した細胞集団を含むことが分かっている65。
【0255】
平滑筋腫は皮膚に発生することもあり、たとえば、単発性皮膚平滑筋腫、立毛筋から発生する多発性皮膚(または毛髪)平滑筋腫、血管平滑筋から発生する血管平滑筋腫(血管性平滑筋腫)、生殖器の肉様膜筋、乳輪および乳頭に発生する肉様膜(または性器)平滑筋腫、および血管脂肪平滑筋腫が挙げられる。
【0256】
平滑筋腫における17β-エストラジオール(E2)のシグナル伝達の変化は、リン酸化ERK1/2レベルを増加させ、それによって、MAPKの活性化および病的な細胞増殖が起こることが報告されている66。
【0257】
一方、平滑筋肉腫(LMS)は、どのような臓器でも発生する可能性がある悪性の平滑筋腫瘍である。平滑筋腫は、通常、悪性の平滑筋肉腫(LMS)へと発展するとは考えられていないが、平滑筋肉腫(LMS)は、しばしば類線維腫(たとえば子宮類線維腫)に付随して見られることがある67。平滑筋肉腫(LMS)は、通常、平滑筋アクチン(SMA)、デスミンおよびカルデスモンを発現することから、分泌型SMCの表現型を示すこともある。
【0258】
ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)
ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)は、眼皮膚白皮症および血小板機能異常症を特徴とする常染色体劣性疾患である。HPS患者は、致死性肺線維症、胃腸管および/もしくは結腸の炎症(大腸炎)、ならびに/または腎不全を発症することがある68。マウスのHPSモデルは、肺に線維症を発症し、高いTGFβ1レベルを示す69。
【0259】
平滑筋細胞関連疾患/状態の治療/予防
本発明は、平滑筋細胞(SMC)の機能障害に関連した疾患および状態の治療/予防のための方法および組成物を提供する。本発明により治療/予防される疾患/状態を、平滑筋細胞関連疾患/状態または平滑筋細胞媒介性疾患/状態と呼ぶこともある。
【0260】
より具体的は、本発明は、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患および状態の治療/予防のための方法および組成物を提供する。
【0261】
本発明の方法は、通常、分泌型平滑筋細胞の活性の抑制、すなわち、分泌型平滑筋細胞の機能特性の抑制(機能特性レベルの低減)を含む。これは、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することによって達成される。
【0262】
すなわち、本発明は、たとえば細胞または組織/臓器/器官系/対象において、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することによる、分泌型SMCにより発生/悪化した疾患/状態の治療/予防を提供する。
【0263】
分泌型SMCの数またはその活性の低減により恩恵を受け得る疾患/状態であれば実質的にどのようなものであっても、本発明の治療的有用性および予防的有用性を適用可能であることは、当業者であれば容易に理解できるであろう。
【0264】
分泌型SMCが「病理学的に関与する」疾患/状態は、たとえば、その発生、発症もしくは進行および/または1つ以上の症状の重症度が、分泌型SMCまたはその数/割合の増加と正の相関関係にある疾患/状態であってもよく、分泌型SMCまたはその数/割合の増加が、その発生、発症または進行の危険因子である疾患/状態であってもよい。分泌型SMCは、前記疾患の影響を受けている臓器/組織(たとえば、前記疾患/状態の症状が認められる臓器/組織)に存在していてもよい。分泌型SMCの割合は、関連する臓器/組織中の分泌型SMCと非分泌型SMC(たとえば収縮型SMC)の総数に対する割合として求めてもよい。
【0265】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、たとえば該疾患/状態の影響を受けている臓器/組織(たとえば該疾患/状態の症状が認められる臓器/組織)において分泌型SMCの数/割合/活性が増加していることを特徴とする疾患である。
【0266】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、該疾患の影響を受けている臓器/組織/対象において、たとえば正常な(すなわち疾患を有していない)臓器/組織/対象と比較して、細胞外マトリックス成分(たとえばI型コラーゲン)、IL-11、オステオポンチン、l-カルデスモン、NM-B MHC、ビメンチン、トロポミオシン4、CRBP-1、分泌小胞およびα4β1インテグリンのうちの1種以上の発現と分泌型SMCの数/割合/活性とのうちの1つ以上が増加していることを特徴としてもよい。いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、該疾患の影響を受けている臓器/組織/対象において、たとえば正常な(すなわち疾患を有していない)臓器/組織/対象と比較して、細胞外マトリックス成分、コラーゲンおよびIL-11のうちの1種以上の発現と分泌型SMCの数/割合/活性とのうちの1つ以上が増加していることを特徴としてもよい。
【0267】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、該疾患の影響を受けている臓器/組織/対象において、たとえば正常な(すなわち疾患を有していない)臓器/組織/対象と比較して、ミオシン11、smoothelin、SMMHC、αSMA、SM22α、h1-カルポニン、h-カルデスモン、α1β1インテグリン、α7β1インテグリン、アクチンフィラメントおよびジストロフィン糖タンパク質複合体(DGPC)のうちの1種以上の発現と収縮型SMCの数/割合とのうちの1つ以上が減少していることを特徴としてもよい。いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、該疾患の影響を受けている臓器/組織/対象において、たとえば正常な(すなわち疾患を有していない)臓器/組織/対象と比較して、ミオカルディン(myocardin)の発現、SM22αの発現および収縮型SMCの数/割合のうちの1つ以上が減少していることを特徴としてもよい。
【0268】
前記疾患/状態は、どのような組織、臓器または器官系に影響を及ぼすものであってもよい。いくつかの実施形態において、前記疾患/状態は、いくつかの組織/臓器/器官系に影響を及ぼすものであってもよい。
【0269】
いくつかの実施形態において、前記疾患/状態は、循環器系、消化器系、排泄器系、呼吸器系、腎臓系および生殖器系のうちの1つ以上に影響を及ぼす疾患/状態である。
【0270】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、循環器系の1つ以上の臓器に影響を及ぼす疾患/状態、たとえば血管に影響を及ぼす疾患/状態である(すなわち血管疾患/状態である)。いくつかの実施形態において、該疾患/状態は、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、全身性硬化症、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)、平滑筋腫および平滑筋肉腫のうちの1種以上である。
【0271】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、消化器系または排泄器系の1つ以上の臓器に影響を及ぼす疾患/状態である。いくつかの実施形態において、該疾患/状態は、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、腸狭窄症、幽門狭窄症、セリアック病、過敏性腸症候群、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎およびヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)のうちの1種以上である。
【0272】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、呼吸器系の1つ以上の臓器に影響を及ぼす疾患/状態、たとえば気道に影響を及ぼす疾患/状態である(すなわち呼吸器疾患/状態である)。いくつかの実施形態において、該疾患/状態は、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)およびヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)のうちの1種以上である。
【0273】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、腎臓系の1つ以上の臓器に影響を及ぼす疾患/状態、たとえば腎臓または膀胱に影響を及ぼす疾患/状態である(すなわち腎疾患/状態である)。いくつかの実施形態において、該疾患/状態は、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患およびヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)のうちの1種以上である。
【0274】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、腸狭窄症、幽門狭窄症、セリアック病、過敏性腸症候群、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性硬化症、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)、平滑筋腫、平滑筋肉腫ならびにヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)のうちの1種以上である。
【0275】
いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、呼吸器系の1つ以上の臓器に影響を及ぼす疾患/状態ではなく、たとえば気道に影響を及ぼす疾患/状態ではない(すなわち呼吸器疾患/状態ではない)。いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、腸狭窄症、幽門狭窄症、セリアック病、過敏性腸症候群、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患、全身性硬化症、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)、平滑筋腫、平滑筋肉腫、およびヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)の気道/肺に関連しない病変のうちの1種以上である。いくつかの実施形態において、本発明に従って治療/予防が行われる前記疾患/状態は、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、ヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)の気道/肺関連病変のいずれでもない。
【0276】
本発明による疾患および状態の治療/予防は、IL-11のアップレギュレーションに関連した疾患/状態の治療/予防であってもよく、たとえば、症状が認められる細胞もしくは組織または症状を発症する可能性のある細胞もしくは組織におけるIL-11のアップレギュレーションに関連した疾患/状態の治療/予防であってもよく、細胞外のIL-11またはIL-11Rαのアップレギュレーションに関連した疾患/状態の治療/予防であってもよい。
【0277】
前記治療は、前記疾患/状態の進行の阻止に有効であってもよく、たとえば、前記疾患/状態の悪化の低減/遅延/予防に有効であってもよく、前記疾患/状態の発症の低減/遅延/予防に有効であってもよい。いくつかの実施形態において、前記治療によって、前記疾患/状態が改善されてもよく、たとえば、前記疾患/障害の症状の重症度が低下してもよく、かつ/または前記疾患/障害の症状が好転してもよい。いくつかの実施形態において、前記治療によって生存が延長してもよい。
【0278】
「予防」は、前記疾患/状態の発症の予防および/または前記疾患/状態の悪化の予防であってもよく、たとえば、前記疾患/状態の後期または慢性期への進行の予防であってもよい。
【0279】
投与
IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の投与は、対象が恩恵を受けるのに十分な「治療に有効な」量または「予防に有効な」量で行うことが好ましい。
【0280】
実際の投与量、投与速度および投与後の時間推移は、疾患/状態の特性および重症度ならびに薬剤の特性に左右される。治療の処方(たとえば用量の決定など)は、一般医およびその他の分野の医師の責任下で行われ、通常、治療の対象となる疾患/状態、個々の対象の状態、送達部位、投与方法、および医師によく知られているその他の要因を考慮に入れて行われる。このような手法およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに記載されている。
【0281】
本発明の薬剤は、複数回用量で提供してもよい。1回以上の用量または各用量の投与と同時にまたは連続して別の治療薬を投与してもよい。
【0282】
複数回用量は所定の間隔を空けて投与してもよく、この間隔は、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、28日、29日、30日もしくは31日、または1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月もしくは6ヶ月から選択されるいずれであってもよい。一例として、7日ごとに1回、14日ごとに1回、21日ごとに1回、または28日ごとに1回(±3日、2日または1日)投与してもよい。
【0283】
治療用途において、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤は、当業者によく知られている1種以上の薬学的に許容されるその他の成分とともに医薬品または医薬製剤として製剤化することが好ましい。薬学的に許容されるその他成分としては、薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、保存剤、抗酸化剤、滑沢剤、安定剤、可溶化剤、界面活性剤(たとえば湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、香味剤および甘味剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0284】
本明細書において「薬学的に許容される」とは、合理的なベネフィット・リスク比に相応して、過度の毒性、刺激、アレルギー反応またはその他の問題や合併症を引き起こすことなく、妥当な医学的判断の範囲内において、投与対象(たとえばヒト)の組織との接触における使用に適した化合物、成分、材料、組成物、剤形などを指す。さらに、担体、アジュバント、賦形剤などはそれぞれ、製剤中の他の成分との適合性の点において「許容される」ものでなければならない。
【0285】
好適な担体、アジュバント、賦形剤などは、たとえば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th edition, Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1990;およびHandbook of Pharmaceutical Excipients, 2nd edition, 1994などの、医薬品についての標準的な教科書に記載されている。
【0286】
前記製剤は、薬学分野でよく知られている方法であれば、どのような方法で調製してもよい。このような方法は、1種以上の副成分を構成する担体と活性化合物とを混合する工程を含む。一般に、製剤は、担体(たとえば液体担体、微粉砕された固体担体など)と活性化合物を均一かつ密に混合し、得られた混合物を必要に応じて成形することによって調製される。
【0287】
前記製剤は、局所投与経路、非経口投与経路、全身投与経路、静脈内投与経路、動脈内投与経路、筋肉内投与経路、髄腔内投与経路、眼内投与経路、結膜内投与経路、皮下投与経路、経口投与経路、経皮投与経路(注射を含んでいてもよい)で投与される製剤として調製してもよい。注射製剤は、滅菌溶媒または等張溶媒中に選択された薬剤を含んでいてもよい。前記製剤および投与方法は、本発明の薬剤および治療対象の疾患/状態に応じて選択してもよい。
【0288】
IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤は、平滑筋細胞の機能障害に関連する疾患および状態のための別の治療と併用して、本明細書に記載の治療において投与してもよい。適切な別の治療は当業者に知られている。本発明の薬剤は、治療対象の疾患/状態に応じて、単独で投与してもよく、別の治療と組み合わせて、同時にまたは連続して投与してもよい。たとえば、本発明の薬剤は、別の治療の前、これと同時またはその後に投与してもよい。本発明の薬剤および別の治療は、たとえば前述したような製剤の形態で、一緒に配合して製剤化してもよく、別々に製剤化してもよい。
【0289】
IL-11およびIL-11受容体の検出
本発明の態様および実施形態のいくつかは、対象から得られた試料における、IL-11またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)の発現の検出に関する。
【0290】
いくつかの態様および実施形態において、本発明は、(タンパク質としての、またはIL-11もしくはIL-11受容体をコードするオリゴヌクレオチドとしての)IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーション(過剰発現)と、IL-11の作用を抑制することができる薬剤またはIL-11もしくはIL-11受容体の発現を阻害もしくは低減することができる薬剤を用いた治療に対する適合性の指標としての、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションの検出に関する。
【0291】
発現のアップレギュレーションは、特定の種類の細胞または組織において通常予想される発現量を上回る発現を含む。細胞または組織において関連因子の発現量を測定することによってアップレギュレーションを測定してもよい。対象から得られた細胞試料または組織試料における関連因子の発現量を、該関連因子の基準量(たとえば、同じ種類の細胞もしくは組織または対応する細胞もしくは組織における該関連因子の正常な発現量を示す数値または数値範囲)と比較してもよい。いくつかの実施形態において、基準量は、コントロール試料(たとえば、健常対象から得られた対応する細胞もしくは組織、または同じ対象の健常組織から得られた対応する細胞もしくは組織)におけるIL-11またはIL-11受容体の発現を検出することによって決定してもよい。いくつかの実施形態において、基準量は標準曲線または標準データセットから得てもよい。
【0292】
発現量は、絶対比較で定量してもよく、あるいは相対比較で定量してもよい。
【0293】
いくつかの実施形態において、測定試料中の発現量が基準量の少なくとも1.1倍である場合に、IL-11またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)がアップレギュレートされていると考えてもよい。より好ましくは、アップレギュレートされている場合の発現量は、基準量の少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3.0倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4.0倍、少なくとも5.0倍、少なくとも6.0倍、少なくとも7.0倍、少なくとも8.0倍、少なくとも9.0倍および少なくとも10.0倍から選択してもよい。
【0294】
発現量は、PCRを用いたアッセイ、インサイチューハイブリダイゼーションアッセイ、フローサイトメトリーアッセイ、免疫学的アッセイ、免疫組織化学的アッセイなどの公知の様々なインビトロ分析技術のいずれかによって測定してもよい。
【0295】
一例として、好適な技術は、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤と試料を接触させ、IL-11またはIL-11受容体と該薬剤からなる複合体の形成を検出することによって、該試料中のIL-11またはIL-11受容体の量を検出する方法を含む。前記薬剤は、適切な結合分子であればどのようなものであってもよく、たとえば、抗体、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマー、小分子などであってもよく、形成された複合体が検出(たとえば可視化)できるように標識されていてもよい。このような複合体の検出に適した標識および方法は当技術分野でよく知られており、たとえば、蛍光標識(たとえば、フルオレセイン、ローダミン、エオシン、NDB、緑色蛍光タンパク質(GFP);ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)などの希土類元素キレート;テトラメチルローダミン、テキサスレッド、4-メチルウンベリフェロン、7-アミノ-4-メチルクマリン、Cy3、Cy5)、同位体マーカー、放射性同位元素(たとえば、32P、33P、35S)、化学発光標識(たとえば、アクリジニウムエステル、ルミノール、イソルミノール)、酵素(たとえば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ)、抗体、リガンドおよび受容体が挙げられる。検出技術は当業者によく知られており、標識薬剤に応じて選択することができる。適切な技術としては、オリゴヌクレオチドタグのPCR増幅、質量分析、(たとえばレポータータンパク質による基質の酵素変換によって生成される)蛍光または色の検出、または放射能の検出が挙げられる。
【0296】
アッセイは、試料中のIL-11またはIL-11受容体の量を定量できるように構成されていてもよい。測定試料から定量したIL-11またはIL-11受容体の量を基準量と比較してもよく、このような比較によって、測定試料中に含まれるIL-11またはIL-11受容体の量が、選択した統計学的有意差の程度で基準値よりも高いのか、あるいは低いのかを判断してもよい。
【0297】
検出されたIL-11またはIL-11受容体を定量することによって、IL-11またはIL-11受容体をコードする遺伝子のアップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションまたは増幅を測定してもよい。測定試料が線維症細胞を含んでいる場合、このようなアップレギュレーション、ダウンレギュレーションまたは増幅を基準量と比較して、統計学的有意差の有無を判断してもよい。
【0298】
対象から得られる試料はどのような種類のものであってもよい。生体試料はどのような組織または体液から得てもよく、たとえば、血液試料、血液由来試料、血清試料、リンパ液試料、精液試料、唾液試料、滑液試料のいずれであってもよい。血液由来試料は、患者の血液に由来する選択された画分であってもよく、たとえば、選択された細胞含有画分、血漿画分、血清画分のいずれであってもよい。試料は、組織試料もしくは生検試料、または対象から単離した細胞を含んでいてもよい。また、試料は、生検や穿刺吸引などの公知の技術で回収してもよい。さらに、試料は、IL-11の発現量を測定するまで保存し、かつ/またはIL-11の発現量を測定する前に処理を行ってもよい。
【0299】
対象から得られた試料を使用して、該対象におけるIL-11またはIL-11受容体のアップレギュレーションを測定してもよい。
【0300】
好ましい実施形態のいくつかにおいて、試料は、血管組織もしくは心臓組織、内臓器官組織または呼吸器系臓器組織から得られた組織試料(たとえば生検試料)であってもよい。試料は細胞を含んでいてもよく、好ましくは、平滑筋細胞(SMC)を含んでいてもよい。
【0301】
対象においてIL-11またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)の発現のアップレギュレーションが確認されたことに基づいて、本発明に従って治療/予防を行う対象を選択してもよい。また、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションを、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療に適した、SMCが病理学的に関与する疾患/状態のマーカーとして使用してもよい。
【0302】
アップレギュレーションは、特定の組織におけるアップレギュレーションであってもよく、特定の組織に由来する選択された細胞におけるアップレギュレーションであってもよい。好ましい組織は、血管組織、心臓組織、内臓組織、呼吸器系臓器組織のいずれであってもよい。好ましい細胞は平滑筋細胞(SMC)であってもよい。IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションは、循環体液(たとえば血液)において測定してもよく、または血液由来試料において測定してもよい。アップレギュレーションは、細胞外IL-11またはIL-11Rαのアップレギュレーションであってもよい。いくつかの実施形態において、発現は、局所または全身でアップレギュレートされていてもよい。
【0303】
以下の節で述べる説明では、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を対象に投与してもよい。
【0304】
診断および予後
IL-11またはIL-11受容体(たとえば、IL-11Rα、gp130、またはIL-11Rαおよび/もしくはgp130を含む複合体)の発現のアップレギュレーションの検出は、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態を診断して、このような疾患/状態の発症のリスクがある対象を特定する方法において使用してもよく、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療に対する対象の反応性の予後を診断するか、または該反応性を予測する方法において使用してもよい。
【0305】
いくつかの実施形態において、たとえば対象の生体またはこれに由来する選択された細胞/組織における、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態を示すその他の症状の有無などに基づいて、対象が該疾患を有している疑いがあると判断してもよく、あるいは、たとえば、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の危険因子であることが知られている遺伝的素因があること、または分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の危険因子であることが知られている環境条件への暴露があることから、該疾患/状態の発症のリスクがあると考えてもよい。IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションを確認することによって、診断または疑いがあるという診断を確定してもよく、あるいは対象が前記疾患を発症するリスクがあることを確定してもよい。また、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションを確認することによって、前記状態または素因が、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療に適していることを診断してもよい。
【0306】
したがって、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患/状態に罹患している対象、または該疾患/状態に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、前記対象から得られた試料において、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを判定する工程、および前記判定に基づいて、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた前記対象の治療の予後を提供する工程を含む方法を提供してもよい。
【0307】
いくつかの態様において、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療に対する対象の反応性を診断する方法、またはこのような治療に対する対象の反応性の予後を診断するか、もしくはこの反応性を予測する方法は、IL-11またはIL-11受容体の発現量の測定を必要としなくてもよいが、IL-11またはIL-11受容体の発現または活性のアップレギュレーションを予測する遺伝因子を対象において測定することに基づいていてもよい。そのような遺伝因子としては、IL-11もしくはIL-11受容体の発現もしくは活性またはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションと相関し、かつ/またはこれらを予測可能な、IL-11、IL-11Rαおよび/またはgp130の遺伝子突然変異、一塩基変異多型(SNP)または遺伝子増幅の測定が挙げられる。遺伝因子を使用して、病態の素因または治療に対する反応性を予測することは当技術分野で知られており、たとえば、Peter Starkel Gut 2008;57:440-442; Wright et al., Mol. Cell. Biol. March 2010 vol. 30 no. 6 1411-1420を参照されたい。
【0308】
遺伝因子は、PCRを用いたアッセイ、たとえば定量PCRや競合的PCRなどの、当業者に公知の方法で分析してもよい。たとえば対象から得られた試料などにおいて、遺伝因子の有無を判断することによって、診断を確定してもよく、疾患/状態の発症のリスクがあるとして対象を分類してもよく、かつ/またはIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療に適しているとして対象を特定してもよい。
【0309】
いくつかの方法は、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の発症に対する感受性またはIL-11の分泌に関連した1つ以上のSNPの有無を特定することを含んでいてもよい。SNPは通常、二対立遺伝子であり、したがって、当業者に公知の様々な従来のアッセイのいずれかを使用して容易に特定することができる(たとえば、Anthony J. Brookes. The essence of SNPs. Gene Volume 234, Issue 2, 8 July 1999, 177-186; Fan et al., Highly Parallel SNP Genotyping. Cold Spring Harb Symp Quant Biol 2003. 68: 69-78; Matsuzaki et al., Parallel Genotyping of Over 10,000 SNPs using a one-primer assay on a high-density oligonucleotide array. Genome Res. 2004. 14: 414-425を参照されたい)。
【0310】
前記方法は、対象から得られた試料中にどのSNPアレルが存在するのかを特定することを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、マイナーアレルの有無を特定することによって、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の発症に対する感受性の増加またはIL-11の分泌の増加を特定してもよい。
【0311】
したがって、本発明の一態様において、対象をスクリーニングする方法であって、
対象から核酸試料を得る工程;および
前記試料中において、WO 2017/103108(A1)(この文献は参照によって本明細書に援用される)の
図33、
図34または
図35に挙げた1つ以上のSNPの多型ヌクレオチドの位置に、どのアレルが存在するのかを特定するか、またはこれらの図に挙げたSNPのいずれか1つとr
2≧0.8の連鎖不均衡を示すSNPを特定する工程
を含む方法を提供する。
【0312】
アレルまたはSNPを特定する前記工程は、試料中において、選択された多型ヌクレオチドの位置においてマイナーアレルの有無を特定することを含んでいてもよい。また、該工程は、0個、1個または2個のマイナーアレルの有無を特定することを含んでいてもよい。
【0313】
前記スクリーニング方法は、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の発症に対する対象の感受性を特定する方法、または前述の診断方法もしくは予後診断方法であってもよく、これらの方法の一部を構成してもよい。
【0314】
前記方法は、たとえば対象が前記多型ヌクレオチド位置にマイナーアレルを有していると特定された場合に、分泌型SMCが病理学的に関与する疾患/状態の発症に対する感受性を有しているものとして、または該疾患/状態を発症するリスクが高いものとして前記対象を特定する工程をさらに含んでいてもよい。前記方法は、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行う対象を選択する工程、および/またはIL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を前記対象に投与して、該対象の前記疾患/状態を治療するか、または前記対象の前記疾患/状態の発症もしくは進行を予防する工程をさらに含んでいてもよい。
【0315】
特定することができるSNPとしては、WO 2017/103108(A1)(この文献は参照によって本明細書に援用される)の
図33、
図34または
図35に挙げたSNPのうちの1つ以上が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記方法は、WO 2017/103108(A1)の
図33に挙げたSNPの1つ以上を特定する工程を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、WO 2017/103108(A1)の
図34に挙げたSNPの1つ以上を特定する工程を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記方法は、WO 2017/103108(A1)の
図35に挙げたSNPの1つ以上を特定する工程を含んでいてもよい。SNPは、P値またはFDR(偽発見率)が低いと特定されたことに基づいて選択されてもよい。
【0316】
いくつかの実施形態において、SNPは、異なる染色体上(trans)に位置するSNPによるVST
stimの制御(WO 2017/103108(A1)の
図33)に基づいて、抗IL-11治療に対する反応性を良好に予測する因子として選択される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、rs10831850、rs4756936、rs6485827、rs7120273およびrs895468から選択される1つ以上のSNPに、どのアレルが存在するのかを特定する工程を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、SNPは、同じ染色体上(cis)に位置するSNPによるVST
stim-VST
unstimの制御(WO 2017/103108(A1)の
図34)に基づいて、抗IL-11治療に対する反応性を良好に予測する因子として選択される。
【0317】
いくつかの実施形態において、SNPは、異なる染色体上(trans)に位置するSNPによるVST
stim-VST
unstimの制御(WO 2017/103108(A1)の
図35)に基づいて、抗IL-11治療に対する反応性を良好に予測する因子として選択される。いくつかの実施形態において、本発明の方法は、rs7120273、rs10831850、rs4756936およびrs6485827(WO 2017/103108(A1)の
図35)から選択される1つ以上のSNPに、どのアレルが存在するのかを特定する工程を含んでいてもよい。
【0318】
rs7120273 SNP、rs10831850 SNP、rs4756936 SNPおよびrs6485827 SNPは、11番染色体上で互いに強い連鎖不均衡(LD)にあり(いわゆる連鎖不平衡ブロック)、したがって、一緒に遺伝することが大変多い。
【0319】
遺伝子頻度の相関係数の二乗(r2)は、2つのSNP間の連鎖不均衡(LD)の程度を反映する。近接したSNPが連鎖不均衡(LD)にある場合、これらのゲノム領域は一緒に遺伝することから、タグ/プロキシSNPの遺伝子型を特定することによって、特定のSNPの遺伝子型を推定することができる。タグSNP/プロキシSNPペアを特定するために当技術分野で使用されるLDの閾値は、r2=0.8である(Wang et al. 2005, Nat. Rev. Genet. 6(2): 109-18; Barrett et al. 2006, Nat Genet., 38 (6): 659-662)。したがって、r2≧0.8の連鎖不均衡にあるタグ/プロキシSNPの遺伝子型を特定することによって、特定のSNPの遺伝子型を推定することができる。
【0320】
SNPのヌクレオチド配列は「rs」番号を使用して示される。SNPの完全長配列は、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/snpからアクセス可能なNational Center for biotechnology Information(NCBI)の一塩基多型(dbSNP)データベースから入手可能である。
【0321】
診断方法または予後診断方法は、対象から得られた試料を用いてインビトロで行ってもよく、あるいは対象から得られた試料を処理した後にインビトロで行ってもよい。試料が採取された患者は、インビトロでの診断方法または予後診断方法が実施されるまで待機しておく必要はなく、したがって、これらの方法はヒトまたは動物の生体上で実施する必要はない。
【0322】
本発明の方法は、その他の診断検査または予後検査と併用してもよく、これによって、診断または予後診断の精度を高めたり、本明細書に記載の試験方法を使用して得られた結果を確認したりすることができる。
【0323】
対象
対象は、動物であってもよく、ヒトであってもよい。対象は、哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。対象は、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることがより好ましい。対象は、雄性であってもよく、雌性であってもよい。対象は患者であってもよい。該患者は、本明細書に記載の疾患/状態を有していてもよい。対象は、治療を必要とする疾患/状態に罹患していると診断された対象であってもよく、このような疾患/状態に罹患している疑いがある対象であってもよく、このような疾患/状態を発症するリスクのある対象であってもよい。
【0324】
本発明による実施形態において、前記対象はヒト対象であることが好ましい。いくつかの実施形態において、本発明の治療方法または予防方法により治療が行われる対象は、がんを有している対象、またはがんを発症するリスクのある対象である。本発明による実施形態において、このような疾患/障害/状態の特定のマーカーの特性に基づいて、本発明の方法による治療を行う対象を選択してもよい。対象は、治療を必要とする疾患または障害に罹患していると診断されていてもよく、このような疾患/障害/状態に罹患している疑いがあってもよい。
【0325】
配列同一性
2個以上のアミノ酸配列間または核酸配列間の同一性(%)を求めるためのペアワイズ配列アラインメントおよび多重配列アラインメントは、当業者に公知の様々な方法を使用して行うことができ、たとえば、ClustalOmegaソフトウェア(Soding, J. 2005, Bioinformatics 21, 951-960)、T-coffeeソフトウェア(Notredame et al. 2000, J. Mol. Biol. (2000) 302, 205-217)、Kalignソフトウェア(Lassmann and Sonnhammer 2005, BMC Bioinformatics, 6(298))、MAFFTソフトウェア(Katoh and Standley 2013, Molecular Biology and Evolution, 30(4) 772-780)などの一般公開されているコンピュータソフトウェアを使用して行うことができる。このようなソフトウェアを使用する場合、たとえばギャップペナルティや伸長ペナルティなどにおいて、デフォルトパラメータを使用することが好ましい。
【0326】
【0327】
一連の陳述
付番した以下の項において、本発明の特定の態様および実施形態について述べる。
【0328】
項1.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤。
【0329】
項2.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための医薬品の製造における、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用。
【0330】
項3.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む方法。
【0331】
項4.前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、項1に記載の薬剤、項2に記載の使用または項3に記載の方法。
【0332】
項5.前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤である、項1~4のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0333】
項6.前記薬剤が、抗体またはその抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマーおよび小分子からなる群から選択される、項5に記載の薬剤、使用または方法。
【0334】
項7.前記薬剤が抗体またはその抗原結合断片である、項6に記載の薬剤、使用または方法。
【0335】
項8.前記薬剤がIL-11のデコイ受容体である、項6に記載の薬剤、使用または方法。
【0336】
項9.前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤である、項1~4のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0337】
項10.前記薬剤が、オリゴヌクレオチドまたは小分子である、項9に記載の薬剤、使用または方法。
【0338】
項11.前記疾患が、循環器系、消化器系、排泄器系、呼吸器系、腎臓系または生殖器系の疾患である、項1~10のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0339】
項12.前記疾患が、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、腸狭窄症、幽門狭窄症、セリアック病、過敏性腸症候群、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性硬化症ならびにハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)からなる群から選択される、項1~11のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0340】
項13.前記方法が、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む、項1~12のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0341】
項14.前記方法が、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象に前記薬剤を投与する工程を含む、項1~13のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0342】
項15.前記方法が、対象においてIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを判定する工程、およびIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む、項1~14のいずれか1項に記載の薬剤、使用または方法。
【0343】
項16.平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用。
【0344】
項17.平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤に平滑筋細胞(SMC)を接触させる工程を含む方法。
【0345】
項18.対象において平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を対象に投与する工程を含む方法。
【0346】
項19.前記平滑筋細胞(SMC)が分泌型平滑筋細胞である、項16~18のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0347】
項20.前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤である、項16~19のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0348】
項21.前記薬剤が、抗体またはその抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマーおよび小分子からなる群から選択される、項16~20のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0349】
項22.前記薬剤が抗体またはその抗原結合断片である、項16~21のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0350】
項23.前記薬剤がIL-11のデコイ受容体である、項16~21のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0351】
項24.前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤である、項16~21のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0352】
項25.前記薬剤が、オリゴヌクレオチドまたは小分子である、項16~21のいずれか1項に記載の使用または方法。
【0353】
項26.インターロイキン11(IL-11)の作用を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防に、対象が適しているのかどうかを判定する方法であって、対象において、IL-11またはインターロイキン11受容体(IL-11R)の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
【0354】
項27.インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防を行うために、対象を選択する方法であって、対象において、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
【0355】
項28.対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
【0356】
項29.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である、項28に記載の方法。
【0357】
項30.IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む、項28または29に記載の方法。
【0358】
項31.前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、項26~30のいずれか1項に記載の方法。
【0359】
項32.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、
前記対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程、および
前記判定に基づいて、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた前記対象の治療の予後を提供する工程
を含む方法。
【0360】
項33.IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象を選択する工程をさらに含む、項32に記載の方法。
【0361】
項34.対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)対象において測定する工程を含む方法。
【0362】
項35.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である、項34に記載の方法。
【0363】
項36.IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む、項34または35に記載の方法。
【0364】
項37.平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)前記対象において測定する工程を含む方法。
【0365】
項38.前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、項32~37のいずれか1項に記載の方法。
【0366】
本発明は、本明細書に記載の態様や好ましい特徴の組み合わせを包含し、そのような組み合わせが明らかに許容できない場合や明らかに回避すべき場合は除かれる。
【0367】
本明細書において使用された節の見出しは、本発明を系統立てて述べることのみを目的として設けられており、本明細書に記載の主題を制限するものであると解釈すべきではない。
【0368】
本発明の態様および実施形態を、添付の図面を参照しながら一例として以下に述べる。さらなる態様および実施形態は、当業者であれば容易に理解できるであろう。本明細書において引用された文献はいずれも、本明細書の一部を構成するものとして援用される。
【0369】
後述の請求項を包含する本明細書を通して、特に記載がない限り、「含む(comprise)」という用語、ならびにこの変化形である「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」という用語は、記載の要素もしくは工程または要素群もしくは工程群を包含すると理解されるが、記載されているもの以外の要素もしくは工程または要素群もしくは工程群を除外するものではない。
【0370】
本明細書および添付の請求項において使用されているように、単数形の「a」、「an」および「the」は、明確な記載がない限り、複数のものを含むことに留意されたい。本明細書において数値範囲は、「おおよその(about)」特定の値、および/または「おおよその」特定の値から「おおよその」別の特定の値までの範囲として示される。このような範囲が記載されている場合、別の一実施形態は、概数ではない前記特定の値、および/または概数ではない前記特定の値から前記別の特定の値までの範囲を含む。同様に、「約(about)」という先行詞を使用することによって特定の値がおおよその値として記載されている場合、概数ではない前記特定の値によって別の一実施形態を構成することができると理解される。
【0371】
本明細書に記載の方法は、インビトロ、エクスビボ、インビボのいずれで行ってもよく、また、本発明の製品は、インビトロ製品、エクスビボ製品、インビボ製品のいずれであってもよい。「インビトロ」は、実験室条件または培養において、材料、生体物質、細胞および/または組織を使用した実験を包含する。これに対して、「インビボ」は、生きたままの多細胞生物を使用した実験および操作を包含する。「エクスビボ」は、たとえばヒトまたは動物の体外などの生体外に存在するもの、または生体外で実施されるものを指し、生物から採取された組織(たとえば臓器全体)または細胞に存在するものや、このような組織または細胞において実施されるものであってもよい。
【0372】
本明細書において核酸配列が開示されている場合、その逆相補鎖も明確に想定されている。
【0373】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の原理を示す実施形態および実験を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0374】
【
図1】ベースラインにおけるヒト血管平滑筋細胞(VSMC)のRNA-seq解析の結果を示す棒グラフである。各棒は、1試料あたりのリード数を示す(n=17)。1試料あたりの総リード数は2000万個近くに達し、これを利用して、初代血管平滑筋細胞におけるRNA発現をゲノムワイドなスケールで解析した。
【0375】
【
図2】ボタン状にくり抜いた大動脈(AB)由来の初代ヒトVSMC(n=6)、左内胸動脈(LIMA)由来の初代ヒトVSMC(n=11)、心房線維芽細胞(FIB;n=84)および内皮細胞(EC;n=17)から得たRNA-seqデータから求めた転写量の主成分分析の結果を示すグラフである。
【0376】
【
図3A-3D】(
図3A)CD31(内皮細胞マーカー)、(
図3B)THY-1(線維芽細胞マーカー)、(
図3C)エラスチンおよび(
図3D)ファイブリン(fibulin)(VSMCマーカー)のRNA発現量をRNA-seq解析で測定した結果を示すグラフである[マン・ホイットニーのU検定、両側;中央値、10~90パーセンタイル]。
【0377】
【
図4】培養物中の初代ヒトVSMC、心房線維芽細胞および内皮細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。白色のスケールバーは100μmを示す。
【0378】
【
図5】TGFβ1で刺激したヒトVSMCのRNA-seq解析の結果を示す棒グラフである。各棒は、1試料あたりのリード数を示す(n=14)。1試料あたりの総リード数は2000万個近くに達し、これを利用して、RNA発現をゲノムワイドなスケールで分析した。
【0379】
【
図6A-6D】大動脈ボタン(AB)および左内胸動脈(LIMA)から得たヒトVSMCを刺激しなかった場合またはTGFβ1で刺激した場合のRNA発現シグネチャーを示したグラフおよび図表である。(
図6Aおよび
図6B)大動脈ボタン(AB)および左内胸動脈(LIMA)におけるDEseq263で補正したlog2 fold changeを、正規化したカウント数の平均値に対してプロットしたMAプロットである。(
図6Cおよび
図6D)大動脈ボタン(AB)由来VSMCおよび左内胸動脈(LIMA)由来VSMCにおいて、TGFβ1刺激に応答してアップレギュレートされたすべての遺伝子(fold change>1)を示したグラフと、染色体上のそれらのゲノムの位置を示したグラフである。IL-11を強調表示している。
【0380】
【
図7】VSMCからのIL-11の分泌が、TGFβ1の誘導によってアップレギュレートされたことを示した棒グラフである。VSMCに刺激を与えずにインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml、24時間)で刺激してインキュベートし、回収した上清をELISAで分析してIL-11濃度を測定した(n=3)。データは平均値±SDとして示し、対応のある両側t検定によりP<0.01であった。
【0381】
【
図8】500種以上の細胞におけるIL-11受容体(IL-11RA)およびIL-6受容体(IL-6R)の発現量を示したグラフである。平滑筋細胞におけるIL-11受容体の発現を大きな円で強調表示している。
【0382】
【
図9】IL-11検出用のELISAではhyper IL-11が検出できないことを示したグラフである。様々な濃度の組換えhyper IL-11をELISAプレートの各ウェルに加えた後、市販のIL-11検出用ELISAを使用して組換えhyper IL-11の測定を試みた。
【0383】
【
図10】VSMCからのIL-11の分泌がhyper IL-11により誘導されることを示した棒グラフである。用量を漸増したhyper IL-11とともにVSMCをインキュベートし、実験終了時に細胞培養上清中のIL-11を分析し、2回の生物学的反復を行った。データは平均値±SDとして示し、一元配置分散分析とDunnettの多重比較により比較を行った。*はp<0.05を示す。
【0384】
【
図11】大動脈ボタン(AB)および左内胸動脈(LIMA)から得たヒトVSMCを刺激しなかった場合およびIL-11で刺激した場合のRNA発現シグネチャーを示したグラフである。この分析では、AB VSMC(n=7)およびLIMA VSMC(n=11)をプールし、生物学的反復を行った。MAプロットは、正規化したカウント数の平均値に対して、DEseq2で補正したlog2 fold changeをプロットしたものを示す。
【0385】
【
図12A-12E】収縮型VSMCの表現型マーカーおよび分泌型VSMCの表現型マーカーの発現に対するTGFβ1刺激およびIL-11刺激の効果を示したグラフおよび写真である。VSMCに刺激を与えずに培養するか、またはTGFβ1(5ng/ml、24時間)もしくはIL-11(5ng/ml、24時間)の存在下でVSMCを培養した。生物学的反復を4回とし、画像から蛍光を自動定量することにより細胞を分析した。(
図12A)SM22α陽性細胞のパーセンテージを示す。(
図12B)ミオカルディン(myocardin)の免疫染色の強度を示す。(
図12C)I型コラーゲンの免疫染色の強度を示す。(
図12D)生物学的反復を5回とし、シリウスレッド総コラーゲンアッセイを使用して測定した細胞培養上清中のI型コラーゲンの含量を示す。(
図12E)VSMCをTGFβ1またはIL-11で処理した後の代表的な高解像度蛍光画像を示す。核(DAPI)、I型コラーゲン(Col I)およびF-アクチン(ローダミン(Rhod))を免疫染色したところ、TGFβ1およびIL-11はいずれも、分泌型VSMCを活性化させ、コラーゲンの発現を増加させることが示された。白色のスケールバーは200μmを示す。データはすべて平均値±SDとして示し、統計学的有意差は、一元配置分散分析とDunnettの多重比較により分析した。
【0386】
【
図13A-13B】インビトロ創傷治癒アッセイでのVSMCの遊走に対するIL-11およびTGFβ1の効果を示した写真(
図13A)および棒グラフ(
図13B)である。スクラッチ創傷治癒アッセイは、コンフルエントに達した単層のVSMCを使用して行った。低濃度血清培地(0.2%FBSを含むM231培地)中で24時間培養して細胞を同調させた後、滅菌したピペットチップを用いて直線状のスクラッチを作製し、IL-11(5ng/ml)もしくはTGFβ1(5ng/ml)で細胞を24時間処理するか、または細胞に処理を加えなかった(ベースライン)。0時間(上パネル)および24時間(下パネル)に創傷部位を写真撮影し、ImageJソフトウェアを使用して遊走能を算出した。データはすべて平均値±SDとして示した。一元配置分散分析とDunnettの多重比較により統計学的有意差を検定した。
【0387】
【
図14A-14B】ボイデンチャンバーアッセイにおけるVSMCの遊走に対するIL-11およびTGFβ1の効果を示した写真(
図14A)およびグラフ(
図14B)である。刺激因子を添加していない細胞培養培地(ベースライン)を入れたウェルまたはIL-11(5ng/ml)もしくはTGFβ1(5ng/ml)を含む培地を入れたウェルへのVSMCの遊走を24時間後に分析した。エラーバー上の各点は生物学的反復を示す。
【0388】
【
図15A-15C】収縮型VSMCの表現型マーカーおよび分泌型VSMCの表現型マーカーの発現に影響を及ぼすTGFβ1媒介性刺激に対するIL-11媒介性シグナル伝達の中和効果を示したグラフである。VSMCに刺激を与えずに培養するか、またはIgGコントロール抗体もしくは抗IL-11中和抗体(2μg/ml)の存在下もしくは非存在下において、TGFβ1(5ng/ml、24時間)を添加してVSMCを培養した。(
図15A)EdU陽性細胞のパーセンテージを示す。(
図15B)I型コラーゲンの免疫染色の強度を示す。(
図15C)生物学的反復を5回とし、シリウスレッド総コラーゲンアッセイを使用して測定した細胞培養上清中のI型コラーゲンの含量を示す。データはすべて平均値±SDとして示し、統計学的有意差は、一元配置分散分析とDunnettの多重比較により検定した。
【0389】
【
図16A-16B】インビトロ創傷治癒アッセイにおけるVSMCの遊走に対するIL-11およびTGFβ1の効果を示した写真(
図16A)および棒グラフ(
図16B)である。スクラッチ創傷治癒アッセイは、コンフルエントに達した単層のVSMCを使用して行った。低濃度血清培地(0.2%FBSを含むM231培地)中で24時間培養して細胞を同調させた後、滅菌したピペットチップを用いて直線状のスクラッチを作製し、IgGコントロール抗体もしくは抗IL-11中和抗体(2μg/ml)の存在下もしくは非存在下においてTGFβ1(5ng/ml)で24時間処理するか、または細胞に処理を加えなかった(ベースライン)。0時間(上パネル)および24時間(下パネル)に創傷部位を写真撮影し、ImageJソフトウェアを使用して遊走能を算出した。データはすべて平均値±SDとして示した。一元配置分散分析とDunnettの多重比較により統計学的有意差を検定した。塗りつぶした点はIgGコントロールによる処理を示し、中抜きの点は抗IL-11抗体による処理を示す。各点は生物学的反復を示す。データはすべて平均値±SDとして示した。一元配置分散分析とHolm-Sidakの多重比較により統計学的有意差を検定した。
【0390】
【
図17】IL-11またはPBSで処置したCol1a1-GFPレポーターマウスから得た結腸の凍結切片の顕微鏡写真である。上段:PBSで処置したマウスの代表的な写真である(n=3)。下段:組換えマウスIL-11で処置したマウスの代表的な写真である(n=4)。左パネル:Col1a1と、DAPIによる核染色を示す。中央パネル:αSMAの免疫蛍光染色と、Col1a1と、DAPIによる核染色を示す。右パネル:αSMAの発現を示す画像であり、バーは、IL-11で処置した動物において、複数の層からなる平滑筋層の厚さが増加したことを示す。スケールバーは100μmを示す。
【0391】
【
図18A-18E】心臓の平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。タモキシフェン誘導型CreによりIL-11を過剰発現させた平滑筋細胞特異的Creマウス(SMRS)では、SMWTコントロールと比較して、心臓でIL-11タンパク質が高発現し(
図18A)、心臓重量/体重(HW/BW)比が増加した(
図18B)。SMRSマウスから作製した心臓組織切片をマッソントリクロームで染色したところ、SMWTコントロールと比較して血管周囲線維症が認められた(
図18C)。また、SMRSマウスの心室では、SMWTコントロールと比較してコラーゲンの高発現が認められる(
図18D;**はP<0.01を示し、****はP<0.0001を示す)。IL-11の過剰発現により、心臓平滑筋細胞において細胞外マトリックス成分および炎症性遺伝子の発現が上昇する(
図18E)。左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒はIL-11過剰発現SMRSマウスを示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0392】
【
図19A-19D】心臓の大きさおよび機能に対するIL-11の発現増加の効果を示すグラフである。SMRSマウスの体重(
図19A)および左室(LV)重量(
図19B)は、SMWTコントロールよりも少ないが、体重で補正した左室重量比はSMRSマウスの方が高くなっている(
図19C)。左心房(LA)の直径は、コントロールと比較してSMRSマウスで増加が認められる(
図19D)。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【0393】
【
図20A-20C】拡張終期における前壁の厚さ(
図20A)、左心室の内径(
図20B)および左室後壁の厚さ(
図20C)が、SMWTコントロールと比較してSMRSマウスにおいて増加していることを示したグラフである。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【0394】
【
図21A-21D】収縮終期における前壁の厚さ(
図21A)、左心室の内径(
図21B)および左室後壁の厚さ(
図21C)が、SMWTコントロールと比較してSMRSマウスにおいて増加していることを示したグラフである。駆出率はSMRSマウスにおいて保持されている(
図21D)*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【0395】
【
図22A-22E】大動脈リモデリングでの平滑筋細胞におけるIL-11の発現を示す。SMRSマウスの胸部大動脈近位部におけるIL-11タンパク質の発現は、SMWTコントロールと比較して増加していることが認められる(
図22A)。SMRSマウスの大動脈基部の内径を拡張終期(
図22B)および収縮終期(
図22C)に測定し、体重で補正したところ、SMWTコントロールよりも大きいことが分かった。また、収縮終期に測定し、体重で補正したSMRSマウスの上行大動脈の内径は、SMWTコントロールよりも大きいことが分かった(
図22D)。SMRSマウスにおける大動脈の血流速度のピーク値は、コントロールと比較して保持されている(
図22E)。**はP<0.05を示し、****はP<0.0001を示す。
【0396】
【
図23A-23D】肺の平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。SMRSマウスは、SMWTコントロールと比較して、肺におけるIL-11タンパク質の発現の増加(
図23A)、肺重量/体重比の増加(
図23B)、および肺重量/体重比(LW/BW)で補正した肺におけるコラーゲン発現の増加を示す(
図23C)。
図23Dは、2つの代表的な例において、SMWTコントロールと比較して、SMRSマウスの肺で肺線維症が増加し、浸潤細胞が浸潤していることを示す。
【0397】
【
図24】SMRSマウスの肺において、細胞外マトリックス遺伝子および炎症性遺伝子の発現が上昇していることを示したグラフである。左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒はIL-11過剰発現SMRSマウスを示す。**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0398】
【
図25A-25C】肝臓の平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。SMRSマウスは、SMWTコントロールと比較して、肝臓におけるIL-11タンパク質の発現の増加(
図25A)、肝臓重量/体重比の不変(
図25B)、および肝臓におけるコラーゲン発現の増加を示す(
図25C)。*はp<0.05を示す。
【0399】
【
図26】SMRSマウスの肝臓において細胞外マトリックス遺伝子および炎症性遺伝子の発現が上昇していることを示したグラフである。左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒は平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現するSMRSマウスを示す。*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示す。
【0400】
【
図27A-27C】腎臓の平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。SMRSマウスは、コントロールと比較して、腎臓におけるIL-11タンパク質の発現の増加(
図27A)、腎臓重量/体重比の増加(
図27B)、および腎臓におけるコラーゲン発現の増加傾向を示す(
図27C)。*はp<0.05を示す。
【0401】
【
図28】SMRSマウスの腎臓において細胞外マトリックス遺伝子および炎症性遺伝子の発現が上昇していることを示したグラフである。左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒は平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現するSMRSマウスを示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0402】
【
図29A-29C】炎症性腸疾患における平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。SMRSマウスにおいてタモキシフェン(Tam)でIL-11を誘導すると、コントロール溶媒(Veh)としてトウモロコシ油を投与した場合や、タモキシフェンまたはトウモロコシ油で処置したコントロールSMWTマウスと比較して、赤色に腫脹した直腸(矢印)が認められる(
図29A)。タモキシフェンによる誘導後のSMRSマウスの糞便は、SMWTコントロールのものと比較して柔らかく色が薄い(
図29B)。SMRSマウスの糞便試料中のカルプロテクチン(S100A8/A9)濃度は、SMWTコントロールと比較して上昇している(
図29C)。
【0403】
【
図30A-30C】胃腸管の平滑筋細胞の病理に対するIL-11の発現増加の効果を示す。SMRSマウスから採取した胃腸管は、SMWTコントロールと比較して、赤みを帯び、腫脹が認められる(
図30A)。SMRSマウスの結腸におけるIL-11の発現は、SMWTコントロールと比較して高くなっている(
図30B)。SMRSマウスから採取した結腸および小腸をマッソントリクローム染色した代表的な切片は、SMWTコントロールのものと比較して、壁厚が厚く、腸線維症を呈している(
図30C)。
【0404】
【
図31】SMRSマウスの結腸において細胞外マトリックス遺伝子および炎症性遺伝子の発現が上昇していることを示したグラフである。左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒は平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現するSMRSマウスを示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0405】
【
図32A-32D】IL-11は、マルファン症候群(MFS)マウスの心臓、肺および大動脈組織においてアップレギュレートされている(
図32A)。
図32B~32Dは、デンシトメーターを用いて、MFSマウスの心臓、肺および大動脈におけるIL-11の発現とGAPDHの発現を比較した評価結果を示す。
【0406】
【
図33A-33D】抗IL-11RA抗体を用いてIL-11媒介性シグナル伝達を抑制すると、胸部大動脈狭窄(TAC)誘導性大動脈リモデリングが減少する。
図33Aおよび
図33Bは、TACを行っていないshamコントロール、およびTACの実施後に抗IL-11抗体、抗IL-11Rα抗体またはIgGコントロール抗体で処置したマウスの収縮終期および拡張終期における大動脈基部の内径を示す。
図33Cは大動脈弓における血流速度のピーク値を示し、
図33Dは圧力勾配を示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0407】
【
図34】胸部大動脈近位部の代表的な切片をマッソントリクローム染色で染色したところ(1群あたりn=5)、TAC誘導性大動脈リモデリングが、IL-11中和抗体およびIL-11Rα中和抗体により緩和されることが示された(矢印参照)。スケールバーは100μmを示す。
【0408】
【
図35A-35B】組換えマウスIL-11(5ng/ml)で処置したマウス、組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)と抗IL-11抗体(2μg/ml)または同じ濃度のIgGアイソタイプコントロールとで処置したマウス、および組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)で処置し、抗体による処置を行わなかったマウスから得たVSMCを、0時間(上パネル)または24時間(下パネル)にわたって遊走させた際の代表的な写真(
図35A)および累積プロット(
図35B)である。スケールバーは200μmを示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示す。
【0409】
【
図36A-36B】刺激剤なし、アンギオテンシンII(ANGII、100μM)、組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)、または組換えマウスIL-11(5ng/ml)で0時間(上パネル)および48時間(下パネル)にわたって処置した野生型(WT)マウスおよびIL11ra1除去(KO)マウスを示す代表的な写真(
図36A)および累積プロット(
図36B)である。スケールバーは200μmを示す。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【実施例0410】
以下の実施例において、本発明者らは、平滑筋細胞(SMC)をTGFβ1で処理すると、これに応答してSMCのIL-11遺伝子およびIL-11タンパク質の発現がアップレギュレートされること;SMCをIL-11で刺激すると、オートクリンループによりIL-11が産生されること; TGFβ1またはIL-11でSMCを刺激すると、SMCの正常な表現型である収縮型の発現が低下し、病的な表現型である分泌型マーカーの発現がアップレギュレートされること;ならびに抗IL-11中和抗体でIL-11媒介性シグナル伝達を抑制すると、SMCの表現型/活性に対するTGFβ1刺激の効果が阻害されることを実証している。
【0411】
SMCの表現型は、生理学的な収縮能/弛緩能を有する表現型と、病的な増殖性/過形成性/細胞外マトリックス合成性の表現型との間で転換することがある3。後者の病的な表現型は、TGFβ1シグナル伝達の増加およびその他の経路の活性化との関連性がしばしば認められるいくつかの疾患に関与している。
【0412】
TGFβ1とその受容体は、SMC関連疾患の治療標的となりうることが示唆されているが、これらを抑制すると重度の副作用が起こる59,60。本発明者らは、SMCにおいてTGFβ1シグナル伝達の作用に必要であり、かつTGFβ1の下流でターゲティング可能な因子を同定することを試みた。系統的かつ統合的な標的探索プラットフォームと数人から得た初代ヒト血管平滑筋細胞(VSMC)を使用して、SMCにおいてTGFβ1の作用による効果を示す堅牢なシグネチャーを同定した。
【0413】
実施例1:患者コホートおよび血管平滑筋細胞(VSMC)の調製
National Heart Centre Singaporeにおいて冠動脈バイパス術(CABG)を受ける21~81歳の患者を研究に採用した。心臓弁膜症患者および過去に心房の治療を受けたことのある患者は除外した。大動脈をボタン状にくり抜いたもの(aortic button(AB))と左内胸動脈(LIMA)組織を採取し、これらの試料を使用して外植片培養法を実施し、初代血管平滑筋細胞(VSMC)を増殖させた。さらに、冠動脈バイパス術(CABG)を受ける15人の患者から、大動脈ボタンおよび/または左内胸動脈の生検試料を採取した(AB:n=6;LIMA:n=11)。これらの試料から血管平滑筋細胞(VSMC)を以下のようにして調製した。
【0414】
開胸外科手術の際に冠動脈バイパス術(CABG)患者から大動脈ボタン(AB)および左内胸動脈(LIMA)の生検試料を採取した。外膜層を除去し、内皮を鉗子で丁寧に掻き取った後、中膜層を1~2mm3の小片に細断し、6cmのディッシュに入れた。隣接する組織片同士の間隔は約5mmとした。smooth muscle growth supplement(SMGS;S-007-25、ライフテクノロジーズ)と1% antibiotic-antimycotic(15240062、ライフテクノロジーズ)を添加したM231培地(M-231-500、ライフテクノロジーズ)中において、湿潤雰囲気下、95%空気/5%CO2中、37℃でヒト血管平滑筋細胞(VSMC)をインビトロ培養した。2~3日ごとに細胞培養培地を新鮮培地と交換して、細胞残渣を除去し、生理学的pHを維持した。80~90%コンフルエントになったところで、標準的な細胞分散技術を使用してアクターゼ(A6964、シグマ アルドリッチ)により細胞を剥離し継代した。1~2回継代した後、LDカラム(130-042-901、ミルテニーバイオテク)において、線維芽細胞除去用のCD90を結合したマイクロビーズ(Thy-1、130-096-253、ミルテニーバイオテク)および内皮細胞除去用のCD144を結合したマイクロビーズ(VE-カドヘリン、130-097-857、ミルテニーバイオテク)を使用した磁気分離を行い、線維芽細胞および内皮細胞を細胞培養から除去した。ネガティブ選択後に培養物中に残ったVSMCを使用して、さらに継代を行った。実験はいずれも継代数の少ない細胞(≦P4)を使用して実施し、0.2%ウシ胎児血清(10500064、ライフテクノロジーズ)を添加したM231基礎培地中で16時間培養することにより血清飢餓状態にして細胞を同調させてから、無血清M231培地中での処理を行った。
【0415】
TGFβ1刺激により誘導されるVSMCの表現型遷移の特性を評価するため、分子表現型解析および細胞表現型解析を行い、ヒト組織における遺伝子発現の巨大なデータベース(GTEx61)および様々な細胞種における遺伝子発現に関する巨大なデータベース(FANTOM62)に得られた結果を統合した。
【0416】
実施例2:RNA-seq解析
様々な種類の細胞のRNA-seq解析を以下のように実施した。
【0417】
Trizol Plus RNA mini kit(12183555、ライフテクノロジーズ)を使用してトータルRNAを単離した。Qubit RNA high sensitivity assay kit(ライフテクノロジーズ)を使用してRNAを定量し、LabChip GX RNA Assay Reagent Kit(パーキンエルマー)を使用して求めたRNA integrity number(RIN値)に基づき、RNAの分解を評価した。メーカーの標準的な説明書に従ってTruSeq Stranded mRNA Library Prep kit(イルミナ)を使用して、転写産物量を評価した。簡潔に述べると、RIN値が7を超えるトータルRNA0.8~1μgからpoly(A)+RNAを精製し、断片化し、得られたRNA断片を使用してcDNAを合成し、その後、3’末端のアデニル化、アダプターのライゲーションおよびPCR増幅を行った。メーカーの説明書に従って、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ)においてKAPA library quantification kit(KAPA Biosystems)を使用して、最終的に得られたライブラリーを定量した。LabChip GX DNA High Sensitivity Reagent Kit(パーキンエルマー)を使用して、最終的なライブラリーの品質および平均断片サイズを測定した。ライブラリーをプールし、75bpのペアエンドシーケンスケミストリーを使用してNextSeq 500ベンチトップシーケンサー上でシーケンスを行った。
【0418】
イルミナ社のbcl2fastq v2.16.0.10を使用して、ユニークなインデックスペアに基づき生の配列データ(.bclファイル)を分離(demultiplex)し、別々のFastQリードファイルに分けた。Trimmomatic v0.366を使用してアダプター配列と低品質リード/塩基配列をトリミングし、FastQC v0.11.5でリードの品質を評価した。高品質リードは、Spliced Transcripts Alignment to a Reference(STAR)v2.5.2b7により、EnsemblヒトGRCh38 v86リファレンスゲノムまたはマウスGRCm38 v86リファレンスゲノムにマッピングした。STARアラインメントツールのオプションは、ENCODEプロジェクトで使用されるパラメータに基づいて選択した。featureCounts8を使用して、1箇所のみにマッピングされたリード(uniquely mapped read)(ペアエンド)のストランド特異的な生のカウント数を要約し、遺伝子の特徴を遺伝子レベルで定量した(featureCounts -t exon -g gene_id -s 2 -p)。差次的発現(DE)の解析は、featureCountsで得た生のリードカウント数を使用してDESeq2 v1.14.1で行った。最小限のプレフィルタリングを行って、すべての試料から、リードがない遺伝子またはリードが1つしかない遺伝子を除外して、データサイズを縮小し、解析プロセスの速度を向上させた。試料によるバッチ効果を除去し、状態間の差異を検出する感度を向上させるため、DESeq2の設計式(design formula)に試料IDを共変量として含めた。一対比較では、基底状態を基準量として常に使用した。正規化したカウント数の平均値に対するlog2 fold changeを示した縮小推定MAプロットを作成し、調整p値が0.1未満の場合に各点を赤色で示した。
【0419】
初代ヒトVSMCは、1試料あたり約20Mのリード深度でシーケンスを行った。リードの大部分は、ゲノム上で1箇所のみにマッピングされた。1箇所のみにアライメントされたリードをカウントし、アノテーション付けされたすべての遺伝子の発現量を評価した(
図1)。
【0420】
実施例3:血管平滑筋細胞(VSMC)培養物の純度の検証
VSMC培養物が純粋なものであることを確認するため、(TGFβ1で刺激していない)VSMC培養物から得たRNA-seqデータを、初代心臓線維芽細胞(FIB)およびヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)のそれぞれから得たRNA-seqデータと比較することによって主成分分析(PCA)を行った。
【0421】
初代ヒト線維芽細胞は、冠動脈バイパス術(CABG)を受ける患者(n=84)の右心房から採取した心房生検試料を使用して外植法を実施することにより得た。ヒト心臓線維芽細胞(FIB)は以下のようにして調製した。右心房由来の生検試料の重量を測定し、1~2mm3の小片に細断し、6cmのディッシュに入れた。20%ウシ胎児血清(FBS、ハイクローン)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)を添加したDMEM(ライフテクノロジーズ)中において、湿潤雰囲気下、5%CO2中、37℃でヒト心臓線維芽細胞(FIB)を増殖させ、維持した。2~3日ごとに新鮮培地と交換した。80~90%コンフルエントになったところで、標準的なトリプシン処理法を使用して細胞を継代した。実験はいずれも継代数の少ない細胞(<P4)を使用して実施し、細胞を処理する前に、無血清DMEM培地中で16時間培養した。
【0422】
ヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)(CC-2519)は、ロンザ社から入手した。EGM-2 Bullet Kit培地(ロンザ、CC-3162)を入れた10cmのディッシュにおいて、湿潤雰囲気下、5%CO2中、37℃でヒト臍帯静脈内皮細胞(EC)を増殖させ、維持した。2~3日ごとに新鮮培地と交換した。80~90%コンフルエントになったところで、標準的なトリプシン処理法を使用して細胞を継代した。実験はいずれも継代数の少ない細胞(<P4)を使用して実施し、細胞を処理する前に、無血清EBM-2基礎培地中で16時間培養した。
【0423】
主成分分析の結果を
図2に示す。これらの細胞はいずれも異なる群に分類されることが見出され、大動脈ボタン(AB)に由来するVSMC培養物および左内胸動脈(LIMA)に由来するVSMC培養物は、臍帯静脈内皮細胞(EC)や心臓線維芽細胞(FIB)には該当しないことが確認できた。また、この分析から、大動脈ボタン(AB)に由来するVSMCと、左内胸動脈(LIMA)に由来するVSMCは、異なるものであることが示された。
【0424】
さらに、EC、FIBおよびVSMCのマーカー遺伝子のRNA発現量を分析したところ、前記主成分分析の結果が再確認された。CD31(内皮細胞マーカー遺伝子)は、ECにおいて発現が高かったが、VSMC培養物やFIB培養物では発現は見られなかった。この結果からも、VSMC培養物中にECが存在していないことが確認された。また、VSMCは、その他の種類の細胞と比較してTHY-1(線維芽細胞マーカー)の発現が低く、血管平滑筋マーカーであるエラスチン(ELN)およびファイブリン(fibulin)(FBLN)の発現量が高い(
図3A~3D)。
【0425】
さらに、顕微鏡観察で確認された、ECと線維芽細胞とVSMCの間の形態学的相違点を
図4に示す。
図2、
図3および
図4に示した結果を合わせると、以下で述べる研究結果は初代ヒトVSMCの純粋培養を使用して得られたものであることが実証された。
【0426】
実施例4:TGFβ1シグナル伝達に関連したRNA発現量の変化のRNA-seq解析
大動脈ボタン(AB)および左内胸動脈(LIMA)から採取し、3~4回の少ない継代を行ったVSMCにおいて、ベースラインおよびTGFβ1刺激後のRNA-seq解析を行い、TGFβ1シグナル伝達に応答したRNA発現のゲノムワイドな変化を評価した。VSMCをTGFβ1(5ng/ml;24時間)で刺激し、実施例2と同様にしてRNA-seq解析を実施した(
図5)。
【0427】
次に、TGFβ1で刺激したVSMCと刺激しなかったVSMCの間でRNA転写レベルを比較し、TGFβ1刺激によって発現がアップレギュレートされた遺伝子を同定した。各遺伝子座において、1箇所のみにアライメントされたリードをカウントし、DEseq263パッケージを使用して差次的発現を検出した。
【0428】
分析結果を
図6に示す。TGFβ1刺激に応答して、大動脈ボタン(AB)由来VSMCおよび左内胸動脈(LIMA)由来VSMCにおいてIL-11が有意にアップレギュレートされることが分かった(それぞれfold change=4.39およびfold change=3.16;それぞれ調整P値=1.69
e-11および調整P値=4.55
e-07)。大動脈ボタン(AB)由来VSMCおよび左内胸動脈(LIMA)由来VSMCのいずれにおいても、IL-11が非常に有意にアップレギュレートされたことから、様々な種類のVSMCおよび複数の被験者において、TGFβ1によりIL-11がRNAレベルでアップレギュレートされることが確認された。
【0429】
次に、本発明者らは、刺激していないVSMCおよびTGFβ1(5ng/ml、24時間)で刺激したVSMCから得た細胞培養上清を3連でELISA分析し、IL-11のアップレギュレーションを示した堅牢な発現シグネチャーが、タンパク質レベルでも見られることを確認した。TGFβ1で刺激したVSMCの細胞培養上清において、39倍のIL-11の増加が検出された(
図7)。TGFβ1刺激によって誘導されたIL-11の分泌の増加は、RNAレベルでのIL-11の増加よりも大きかった(
図6Cおよび
図6Dと
図7の比較)。このことから、TGFβ1が転写後調節を介してIL-11濃度に影響を与えている可能性が示唆された。
【0430】
実施例5:IL-11の標的の分析
TGFβ1による刺激に応答してVMSCから分泌されたIL-11が、VMSC自体に作用するのか、それとも近傍の他の種類の細胞に対してシグナル伝達のみを行うのかを調査するため、PHANTOM62カタログに掲載されている500種以上の細胞株についてIL-11受容体α(IL-11RA)の発現を分析した。
【0431】
様々な初代細胞のすべての遺伝子の発現量とその反復データを、FANTOM562ウェブリソースからダウンロードした(119種の細胞)。FANTOM5のデータは、CAGEシーケンシングにより計測された転写開始点(TSS)の発現量であることから、特定の遺伝子に帰属されたすべてのカウントを合計することにより遺伝子発現量を求めた。次に、求めた遺伝子発現量をライブラリーのサイズで正規化し、各遺伝子のTPMを求めた。IL-11RA遺伝子とIL-6R遺伝子の発現プロファイルを比較するため、すべての細胞系列由来の細胞種を網羅した様々な初代細胞試料から、これら2つの遺伝子のTPMを抽出した。いずれの場合も、IL-11RA遺伝子またはIL-6R遺伝子の発現量がノイズ量よりも高かった細胞種を強調表示し、FANTOM5の細胞オントロジーに従って各細胞を分類した。
【0432】
結果を
図8に示す。各細胞は、IL-11受容体またはIL-6受容体のいずれかを発現する傾向があり、これらの受容体の両方を同時に発現する細胞はほとんど見られなかった。IL-6受容体の発現の大部分は免疫細胞で見られ、IL-11受容体の発現は、間葉系細胞および平滑筋細胞において検出された(
図8において強調表示する)。
【0433】
実施例6:IL-11刺激に応答したVSMCによるIL-11の産生
いくつかの平滑筋細胞株はIL-11受容体を発現することから、IL-11は分泌されるだけでなく、VSMCに対して直接作用することが示唆された。このことから、IL-11がVSMC上で自体の発現を誘導するのであれば、IL-11のオートクリンループが存在する可能性が示唆された。この仮説を検証するため、hyper IL-1164と呼ばれるIL-11:IL-11RA融合タンパク質を、組換えDNA技術およびタンパク質発現技術により調製した。IL-11RA(ドメイン1~3を構成する1~317番目のアミノ酸残基;UniProtKB:Q14626)の断片と、IL-11(UniProtKB:P20809の22~199番目のアミノ酸残基)と、20アミノ酸長のリンカー(配列番号5)を使用して、hyper IL-11を構築した。hyper IL-11のアミノ酸配列を配列番号4に示す。
【0434】
hyper IL-11は、Lokau et al., Cell Reports (2016) 14, 1761-1773で報告されているIL-6:IL-6R融合タンパク質と同様に、IL-11のシグナル伝達の強力な刺激因子である。本発明者らは、分泌された可溶性IL-11の検出に使用したELISAでは、hyper IL-11が認識されないことを確認した(
図9)。簡潔に述べると、メーカーのプロトコルに従って、等量の細胞培養培地中の様々な濃度のIL-11をELISAプレートの各ウェルに加え、ヒトIL-11 Quantikine ELISAキット(D1100、R&Dシステムズ)を使用してIL-11の定量を行った。
【0435】
次に、本発明者らは、同じELISAキットを使用して、hyper IL-11で刺激したVSMCによる細胞培養培地中へのIL-11の分泌を分析した。簡潔に述べると、0.2ng/ml、0.5ng/mlまたは1ng/mlのhyper IL-11の存在下でVSMCを24時間培養した後、ヒトIL-11 Quantikine ELISAキットを使用して、細胞培養上清中のIL-11を分析した。このようにして、本発明者らは、VSMCにおける(hyper IL-11により誘導された)IL-11媒介性シグナル伝達によって、VSMCがオートクリンにIL-11を産生するのかどうかを確認することができた。
【0436】
結果を
図10に示す。VSMCからのIL-11の分泌がhyper IL-11により用量依存的に誘導されることが分かった。
【0437】
実施例7:VSMCの遺伝子発現に対するIL-11刺激の効果
次に、本発明者らは、VSMCのRNA発現に対するIL-11刺激の効果を分析した。ヒト大動脈ボタン(AB)由来VSMCおよびヒト左内胸動脈(LIMA)由来VSMCを、5ng/mlの組換えヒトインターロイキン11(IL-11;PHC0115、ライフテクノロジーズ)の存在下で24時間培養し、実施例2と同様にしてRNA-seq解析を行った。
【0438】
結果を
図11に示す。IL-11はVSMCにおいて強力な転写反応を誘導しないことが分かった。さらに、IL-11による刺激は、RNA発現やIL-11 RNAを強くアップレギュレートしなかったことから、IL-11を用いた処理に応答したIL-11タンパク質の発現の増加(
図10)は、転写後調節を介して達成されることが示唆された。
【0439】
実施例8:VSMCの表現型に対するIL-11処理の効果
次に、本発明者らは、Operettaプラットフォームを使用してSMCの様々な表現型マーカーを分析することによって、VSMCの表現型および活性に対するIL-11の効果をさらに調査した。
【0440】
96ウェルの黒色CellCarrierプレート(パーキンエルマー)にVSMCを1×104個/ウェルの密度で播種し、培地中で24時間インキュベートした。次に、細胞に刺激を与えずに培養するか、またはTGFβ1(5ng/ml)もしくはIL-11(5ng/ml)で刺激して24時間培養した。その後、リン酸緩衝食塩水(PBS)で細胞をリンスし、4%パラホルムアルデヒド(28908、ライフテクノロジーズ)中で15分間固定した。0.1%Triton X-100(シグマ アルドリッチ)を含むPBS溶液を加えて10分間インキュベートして細胞を透明化し、PBSと洗浄バッファー(0.25%BSAおよび0.1%Tween-20を含むPBS溶液)で細胞をリンスした。0.25%BSAを加えた洗浄バッファー(ブロッキング溶液;30分間)を使用して非特異的部位をブロックした。抗transgelin(SM22α)抗体(1:200;AB14106、Abcam)、抗I型コラーゲン(Col1)抗体(1:500;AB292、Abcam)および抗ミオカルディン(myocardin)(MYOCD)抗体(1:200;AB203614、Abcam)を細胞に加え、4℃で一晩インキュベートした。これらの一次抗体はすべてブロッキング溶液で希釈した。洗浄バッファーでリンスした後、ヤギ抗マウスAF488(AB150113、Abcam)または抗ウサギAF488(AB150077、Abcam)を細胞に加えて暗所室温(RT)で1時間インキュベートした。これらの二次抗体は、ブロッキング溶液で1:1000に希釈した。ローダミンファロイジン(1:1000、R415、ライフテクノロジーズ)およびDAPI(1μg/ml、D1306、ライフテクノロジーズ)を含むブロッキング溶液で細胞を対比染色した(1時間)。10倍の対物レンズを使用したOperettaハイコンテンツイメージングシステム1438(パーキンエルマー)でプレートをスキャンし、画像を取得した。各条件につき、少なくとも2つのウェルを使用し、1ウェルあたり最低でも7視野を分析した。Harmonyソフトウェア バージョン3.5.2(パーキンエルマー)を使用して、SM22α陽性細胞を定量した。Columbus 2.7.1(パーキンエルマー)を使用して、1領域あたりのI型コラーゲンの蛍光強度およびMYOCDの蛍光強度を測定した。
【0441】
さらに、比色測定法を使用してコラーゲンの沈着を分析した。メーカーの説明書に従ってシリウスレッドコラーゲン検出キット(9062、Chondrex)を使用して、細胞培養上清中に分泌された総コラーゲン量を測定した。
【0442】
実験結果を
図12A~12Eに示す。TGFβ1およびIL-11はいずれも、収縮型VSMCの表現型マーカー(すなわち、SM22α、ミオカルディン(myocardin))の発現を低下させ、分泌型VSMCの表現型マーカーであるI型コラーゲンの発現を上昇させることが分かった。
【0443】
この結果から、IL-11は、収縮型から分泌型へのVSMCの表現型の病的遷移のドライバーであり、TGFβ1による刺激に対する保護反応ではないことが示唆された。
【0444】
実施例9:VSMCの遊走に対するIL-11処理の効果
インビトロスクラッチアッセイおよびボイデンチャンバーアッセイを実施して、VSMCの遊走に対するIL-11刺激の影響を分析した。
【0445】
インビトロスクラッチ創傷治癒アッセイおよびボイデンチャンバーアッセイを各患者試料につき2連で行った。スクラッチ創傷治癒アッセイは、コンフルエントに達した単層のVSMCを使用して行った。低濃度血清培地(0.2%FBSを含むM231培地)中で24時間培養して細胞を同調させた後、滅菌したピペットチップを用いて直線状のスクラッチを作製し、IL-11(5ng/ml)またはTGFβ1(5ng/ml)で細胞を24時間処理した。0時間および24時間に創傷部位を写真撮影し、ImageJソフトウェアを使用して遊走能を算出した。簡潔に述べると、VSMCの遊走能は、式「遊走=(A0-A1)/A0×100」(式中、A0は0時間における創傷の面積であり、A1は24時間後にVSMCで覆われていない面積である)を使用して算出した。各処理につき6~10個の領域を無作為に選択し、分析して平均値を求めた。
【0446】
ボイデンチャンバーアッセイは、メーカーのプロトコルに従ってCell Migration Assay kit(CBA-100、Cell Biolabs社)を使用して行った。トランスウェルインサートの内側にVSMC(5×104個/ウェル)を播種し、ボイデンチャンバーの下部ウェルに細胞培養培地またはTGFβ1(5ng/ml)もしくはIL-11(5ng/ml)を添加した細胞培養培地を入れた。24時間後、比色法により560nmにおけるODを測定して、下部ウェルへのVSMCの遊走能を求めた。
【0447】
実験結果を
図13および
図14に示す。IL-11またはTGFβ1で処理することによって、創傷治癒面積が有意に増加した(
図13Aおよび
図13B)。また、VSMCの遊走能では、TGFβ1またはIL-11を含むコンパートメントへの遊走が増加する傾向が観察された(
図14Aおよび
図14B;P=0.15)。
【0448】
また、IL-11のシグナル伝達を抑制するため、TGFβ1の存在下において、IL-11中和抗体(2μg/ml、MAB218、R&Dシステムズ)またはマウスIgG2a(2μg/ml、MAB003、R&Dシステムズ)で細胞を24時間処理した。
【0449】
実施例10: VSMCにおけるTGFβ1媒介性作用に対するIL-11の中和効果の分析
本発明者らは、次に、VSMCの表現型および活性に対するTGFβ1媒介性作用にIL-11が必要とされるかどうかを調査した。
【0450】
実施例8と同様にして、96ウェルの黒色CellCarrierプレートにVSMCを播種し、培地中で24時間インキュベートした。次に、EdU(10μM/ml)の存在下で細胞に刺激を与えずに培養するか、またはEdU(10μM/ml)の存在下かつIgGコントロール抗体もしくは抗IL-11中和抗体(2μg/ml)の存在下もしくは非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)もしくはIL-11(5ng/ml)で刺激して細胞を24時間培養した。その後、実施例8と同様にして細胞をリンスし、固定し、染色して、分析を行った。Click-iT EdU labeling kit(C10350、ライフテクノロジーズ)を使用して、細胞に取り込まれたEdUをAlexaFluor(AF)488で標識した。Click-iT反応バッファー85μl、硫酸銅4μl、AF488アジド0.25μlおよび反応バッファー添加剤10μlからなるClick-iT反応カクテルを1ウェルあたり100μl使用した。この反応カクテルを添加し、室温で30分間インキュベートした後、Click-iT反応リンスバッファー100μlで細胞を1回洗浄した。さらに、洗浄バッファー(0.25%BSAおよび0.1%Tween-20を含むPBS溶液)で細胞をリンスした。実施例8と同様にして、プレートをスキャンし画像を取得した。Harmonyソフトウェア バージョン3.5.2(パーキンエルマー)を使用して、EdU陽性細胞を定量した。
【0451】
結果を
図15A~15Cに示す。抗IL-11中和抗体を使用してIL-11媒介性シグナル伝達を抑制すると、TGFβ1を介したVSMCの増殖刺激(
図15A)およびI型コラーゲンの産生刺激(
図15Bおよび
図15C)が抑制されることが分かった。
【0452】
さらに、実施例9と同様にして、抗IL-11中和抗体(2μg/ml、MAB218、R&Dシステムズ)またはマウスIgG2a(2μg/ml、MAB003、R&Dシステムズ)の存在下において、IL-11(5ng/ml)またはTGFβ1(5ng/ml)で24時間処理した細胞を使用したインビトロスクラッチ創傷治癒アッセイを行った。実施例9と同様にして、創傷部位の画像を取得し、分析した。
【0453】
結果を
図16Aおよび
図16Bに示す。抗IL-11中和抗体を使用してIL-11媒介性シグナル伝達を抑制すると、TGFβ1を介したVSMCによる創傷治癒面積の増加が阻害されることが分かった。
【0454】
TGFβ1の誘導による細胞増殖およびコラーゲン産生(
図13)は、IL-11中和抗体の使用により減少した。創傷の治癒におけるVSMCの遊走も、IL-11中和抗体の使用により減少した(
図14)。
【0455】
実施例11:統計分析
ハイコンテンツイメージングおよびタンパク質のデータの統計分析は、GraphPad Prism 6ソフトウェアを使用して行った。蛍光強度(I型コラーゲン、MYOCD)は、視野内で検出された細胞の数で正規化し、1ウェルあたり7視野について記録した。EdU発現細胞およびSM22α発現細胞は、前述のソフトウェアを使用して定量し、視野ごとにEdU陽性VSMCまたはSM22α陽性VSMCのパーセンテージを求めた。外れ値(ROUT 2%、Prismソフトウェア)は、分析前に除外した。いくつかの実験群を1つの条件(すなわち、刺激していない細胞)に対して比較する場合、Dunnett法によりP値を補正した。また、1つの実験においていくつかの条件を比較する場合、Holm-Sidak法により多重検定補正を行った。統計学的有意差の基準はP<0.05とした。*はP値<0.05を示し、**はP値<0.01を示し、***はP値<0.001を示し、****はP値<0.0001を示す。
【0456】
実施例12:結論
以上のデータから、IL-11が、VSMCにおいてTGFβ1シグナル伝達の下流に作用し、収縮型から分泌型へのVSMCの病的な転換を誘導し、かつVSMCにおけるTGFβ1媒介性作用に必要であることが示唆された。
【0457】
したがって、IL-11媒介性シグナル伝達の抑制は、収縮型から分泌型へのVSMCの表現型の遷移が関与する疾患および状態、ならびに/またはVSMCにおいてTGFβ1のシグナル伝達の作用が関与する疾患および状態に対する治療オプションであると同定された。
【0458】
実施例13:IL-11は腸管平滑筋細胞集塊およびコラーゲン量を増加させる
10週齢のCol1a1-GFPレポーター雄性マウスに、100μg/kgの用量の組換えマウスIL-11(rmIL11)または同じ用量のPBSを毎日、20日間にわたって皮下注射した(PBS:n=3、IL-11:n=4)。マウスを屠殺後、標準的な凍結切片作製プロトコルに従って、結腸を固定した。凍結ブロックを10μmの厚さに薄切した。連続切片を固定し、5%ウシ血清アルブミンでブロックし、一次抗体としてウサギ抗αSMA抗体(1:200に希釈、Ab5694、Abcam)を加えて4℃で一晩インキュベートした。切片をPBSで洗浄した後、ヤギ抗ウサギIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)647)抗体(1:500に希釈、Ab150079、Abcam)を加えてインキュベートし、DAPI核染色で対比染色した。切片を封入した後、ImageProソフトウェアを使用して、蛍光顕微鏡法によりオリンパス社製BX51顕微鏡下で画像を取得した。
【0459】
結果を
図17に示す。IL-11は、マウス結腸の粘膜筋板層、輪状筋層および縦走筋層の肥厚を誘導し、これらの層においてコラーゲン分泌型平滑筋細胞を増加させることが判明した。
【0460】
したがって、様々な組織において、IL-11媒介性シグナル伝達により分泌型平滑筋細胞の数およびその活性が増加することが示された。
【0461】
実施例14:IL-11の過剰発現は心臓/大動脈の平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェンの誘導により平滑筋細胞にIL-11を条件付き発現するマウスを使用して、心臓線維症に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0462】
平滑筋細胞特異的Cre雄性マウス(B6.FVB-Tg(Myh11-cre/ERT2)1Soff/J)をジャクソン研究所(01979;メイン州バー・ハーバー)から購入し、ジャクソン研究所から入手可能なROSA-IL11遺伝子を有する雌性マウス(C57BL/6N-Gt(ROSA)26Sortm1(CAG-Il11)Cook/J)(031928)と交配し、平滑筋細胞においてのみマウスIL-11を条件付き発現するマウス(SMRS)を作製した。タモキシフェンを用いた誘導操作は、6週齢から開始し、1mg/kgの用量のタモキシフェンを週に3回腹腔内注射し、次の1週間はウオッシュアウト期間とした。平滑筋特異的なCreのみを発現する同腹仔(SMWT)をコントールマウス系とし、タモキシフェンの溶媒コントロールとしてトウモロコシ油を投与した。
【0463】
図18Aは、タモキシフェンによる誘導(1群あたりn=6~7)を2週間行った後に免疫ブロット法でIL-11タンパク質を検出したところ、8週齢のSMRSマウスの心臓においてIL-11タンパク質の発現がSMWTコントロールよりも上昇したことを示す。
図18Bは、8週齢のSMRSマウスにおける心臓重量/体重(HW/BW)比がSMWTコントロールよりも増加したことを示す(1群あたりn=8)。
【0464】
SMRSマウスおよびSMWTマウスから作製した心臓切片をマッソントリクローム染色で染色してコラーゲンを評価した。コラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)成分の発現/分泌が増加すれば、分泌型の平滑筋細胞であることが示される。心臓組織を10%中性緩衝ホルマリン中で24~48時間固定し、脱水し、ホルマリンに包埋した。切片(5μm)に薄切し、マッソントリクローム染色で染色した。さらに、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、心室組織中のコラーゲン量を定量した。
【0465】
図18Cは、マッソントリクロームで染色した代表的な心臓切片を示す(1群あたりn=3)。SMRSマウスから得た心臓組織では、SMWTコントロールと比較して血管周囲線維症が認められる。
図18Dは、ヒドロキシプロリン(HPA)の定量による評価結果から、SMWTコントロールと比べて、SMRSマウスの心室においてコラーゲンの高発現が認められることを示す(1群あたりn=5~6)。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。**はP<0.01を示し、****はP<0.0001を示す。
【0466】
したがって、平滑筋細胞におけるIL-11の過剰発現は、心臓の血管周囲線維症の一因となる。
【0467】
細胞外マトリックス(ECM)遺伝子および炎症性遺伝子の発現
心臓組織における様々なECM成分の遺伝子および様々な炎症性遺伝子の発現をRT-PCRにより定量した。タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞にIL-11を過剰発現するマウスから心臓組織試料を採取した。
【0468】
急速凍結した組織をTrizol試薬(インビトロジェン)で処理した後、Purelink RNA miniキット(インビトロジェン)で精製してトータルRNAを抽出した。メーカーの説明書に従ってiScript cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製した。QuantStudio(アプライドバイオシステムズ)を使用したfast SYBR green法(キアゲン)によって、二連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を実施した。発現データはGAPDH mRNAの発現量で正規化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出した。Integrated DNA Technologiesから特異的なプライマープローブを入手し、それらを表1に示した。
【0469】
【0470】
結果を
図18Eに示す。IL-11の過剰発現により、心臓平滑筋細胞において細胞外マトリックス成分および炎症性遺伝子の発現が上昇する。各棒は平均遺伝子発現量(GAPDHの発現量で正規化)を示し、左側の棒はSMWTコントロールを示し、右側の棒はSMRS過剰発現群を示す(1群あたりn=5)。細胞外マトリックス遺伝子として、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1)、フィブロネクチン(FN1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP2)、および組織マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP-1)を解析した。炎症性遺伝子として、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)およびC-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)を解析した。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0471】
心臓の大きさおよび機能
タモキシフェン誘導型CreによりIL-11を過剰発現するマウスを使用して、心臓の大きさおよび機能に対するIL-11過剰発現の効果を分析した。
【0472】
IL-11の発現は前述と同様にして誘導した。周波数範囲18~38MHzのMS400リニアアレイ超音波プローブを備えたVevo 2100(VisualSonics)を使用し、遺伝子型および治療群を盲検化して、訓練を受けた1名の心エコー技師によりすべてのマウスの経胸壁心エコー検査を行った。2%イソフルオランでマウスに麻酔をかけ、0.6~1.0%イソフルランで麻酔を維持し、ヒーターマット上で体温を37℃に維持した。脱毛クリームで胸部および頚部の体毛を除去し、音響カプラーゲルを胸部に塗布した。過去に報告されている方法(Gao S, et al. Curr. Protoc Mouse Biol 2011, 1, 71-83)に従って、心室中央の乳頭筋レベルで、Mモードの標準的な二次元短軸断層像を平均10心周期分撮影して保存し、左室の大きさおよび壁厚をオフラインで分析した。左室駆出率は、Quinoneの方法の変法(Tortoledo FA, et al. Circulation 1983, 67, 579-584)を使用して算出した。左房(LA)の直径は、傍胸骨長軸断層像で測定し、3回の測定の平均値を求めた。左室重量は、過去の文献(Fard CY, et al. J Am Soc Echocardiogr 2000;13: 582-7)に従って推定した。
【0473】
結果を
図19~21に示す。
図19Aは、心エコー検査前に測定したSMRSマウスの体重が、SMWTコントロールよりも少ないことを示す。心エコー検査により推定した左室重量から、SMWTコントロールと比較してSMRSマウスの心臓の重量が少ないことが示されたが、体重で補正した左室重量比は、増加していることが示された(
図19Bおよび
図19C)。
図19Dは、傍胸骨長軸断層像で測定した左房(LA)の直径を示し、SMWTコントロールと比較してSMRSマウスの左房(LA)の大きさが増加していることを示している。
【0474】
図20A~20Cは、体重で補正した拡張終期における前壁の厚さ、左心室の内径、および左室後壁の厚さをそれぞれ示す。SMRSマウスにおけるこれら3種の測定値はいずれも、SMWTコントロールよりも増加していた。
【0475】
図21A~21Cは、体重で補正した収縮終期における前壁の厚さ、左心室の内径、および左室後壁の厚さをそれぞれ示す。SMRSマウスにおけるこれら3種の測定値はいずれも、SMWTコントロールよりも増加していた。
【0476】
図21Dは、SMRSマウスにおける駆出率が、SMWTコントロールと比較して保持されていることを示す。
【0477】
図19~21において、各点は個々のマウスを示す。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【0478】
このように、心エコー検査で評価したところ、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、左心室(LV)が肥大するとともに心室が硬くなるが、収縮機能は保たれることが分かった。
【0479】
大動脈のリモデリング
タモキシフェン誘導型CreによりIL-11を過剰発現するマウスを使用して、大動脈平滑筋細胞に対するIL-11過剰発現の効果を分析した。
【0480】
前述と同様にしてタモキシフェンによる誘導を2週間にわたり実施した8週齢のSMRSマウスにおいて検討を行った(1群あたりn=6~7)。
【0481】
周波数範囲18~38MHzのMS400リニアアレイ超音波プローブを備えたVevo 2100(VisualSonics)を使用し、遺伝子型および治療群を盲検化して、訓練を受けた1名の心エコー技師によりすべてのマウスの経胸壁心エコー検査を行った。2%イソフルオランでマウスに麻酔をかけ、0.6~1.0%イソフルランで麻酔を維持し、ヒーターマット上で体温を37℃に維持した。脱毛クリームで胸部および頚部の体毛を除去し、音響カプラーゲルを胸部に塗布した。米国および欧州のガイドラインで広く受け入れられている内側間距離測定法(Lang RM, et al. Recommendations for chamber quantification. Eur J Echocardiogr 7, 79-108 (2006))を使用して、BモードおよびMモードの傍胸骨長軸断層像から大動脈基部および上行大動脈の大きさを評価した。パルスドプラ法により大動脈弓から大動脈弁にかけて胸骨上窩断面像を撮影することによって、大動脈の血流速度のピーク値を求めた。測定値はすべて、3心周期ごとに平均した。
【0482】
結果を
図22に示す。各点は個々のマウスを示す。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。**はP<0.05を示し、****はP<0.0001を示す。
【0483】
図22Aは、8週齢のSMRSマウスの胸部大動脈近位部におけるIL-11タンパク質の発現が、SMWTコントロールよりも増加していることを示す(免疫ブロット法で検出)。
図22Bおよび
図22Cは、拡張終期および収縮終期に測定し、体重で補正したSMRSマウスの大動脈基部の内径が、SMWTコントロールよりも大きいことを示す。
図22Dは、収縮終期に測定し、体重で補正したSMRSマウスの上行大動脈の内径が、SMWTコントロールよりも大きいことを示す。
図22Eは、SMRSマウスにおける大動脈の血流速度のピーク値が、コントロールと比較して保持されていることを示す。
【0484】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、大動脈の血流速度は保たれるものの、大動脈リモデリングが起こる。
【0485】
実施例15:IL-11の過剰発現は肺の平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞にIL-11を過剰発現するマウスモデルを使用して、肺線維症に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0486】
前述と同様にしてタモキシフェンによる誘導を2週間にわたり実施した8週齢のSMRSマウスにおいて検討を行った(1群あたりn=3)。実施例14と同様にして、ヒドロキシプロリンの定量により、コラーゲンの発現を測定した(1群あたりn=6)。さらに、実施例14と同様にして、代表的な肺切片をマッソントリクローム染色で染色した(1群あたりn=3)。
【0487】
結果を
図23に示す。
図23Aは、8週齢のSMRSマウスの肺におけるIL-11タンパク質の発現が、SMWTコントロールよりも増加していることを示す(免疫ブロット法で検出)。
図23Bは、SMRSマウスの肺重量/体重比が、SMWTコントロールよりも増加していることを示す(1群あたりn=8)。
図23Cは、ヒドロキシプロリンの定量により測定し、肺重量/体重比で補正したSMRSマウスの肺におけるコラーゲン発現量が、コントロールよりも高くなっていることを示す。
図23Dは、マッソントリクロームで染色した代表的な肺切片を示し、SMWTコントロールと比べ、SMRSマウスの肺において肺線維症が増加し、浸潤細胞が浸潤していることが認められる。
【0488】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、肺線維症が増加する。
【0489】
細胞外マトリックス(ECM)遺伝子および炎症性遺伝子の発現
実施例14と同様にしてRT-PCRを実施した。
【0490】
図24は、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、肺において細胞外マトリックス遺伝子および炎症性遺伝子の発現が上昇することを示す。各棒は平均遺伝子発現量(GAPDHの発現量で正規化)を示し、左側の棒はSMWT群を示し、右側の棒はSMRS群を示す(1群あたりn=5)。細胞外マトリックス遺伝子として、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1)、フィブロネクチン(FN1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP2)、および組織マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP-1)を解析した。炎症性遺伝子として、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)およびC-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)を解析した。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0491】
実施例16:IL-11の過剰発現は肝臓の平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現するマウスモデルを使用して、肝線維症に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0492】
実施例14と同様にして、タモキシフェンによる誘導とヒドロキシプロリンの定量による評価を行った。
【0493】
結果を
図25A~25Cに示す。
図25Aは、タモキシフェンによる誘導を2週間にわたり行ったところ、8週齢のSMRSマウスの肝臓におけるIL-11タンパク質の発現が、SMWTコントロールと比較して上昇したことを示す(1群あたりn=6~7;免疫ブロット法で検出)。
図25Bは、SMRSマウスの肝臓重量/体重比がコントロールと比較して変化していないことを示す(1群あたりn=8)。
図25Cは、ヒドロキシプロリンの定量による評価結果から、コントロールと比べて、SMRSマウスの肝臓においてコラーゲンの高発現が認められることを示す(1群あたりn=5~6)。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はp<0.05を示す。
【0494】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、肝線維症が増加する。
【0495】
細胞外マトリックス(ECM)遺伝子および炎症性遺伝子の発現
実施例14と同様にしてRT-PCRを実施した。
【0496】
図26は、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、肝臓において細胞外マトリックスタンパク質の発現が上昇することを示す。各棒は平均遺伝子発現量(GAPDHの発現量で正規化)を示し、左側の棒はSMWT群を示し、右側の棒はSMRS群を示す(1群あたりn=5)。細胞外マトリックス遺伝子として、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1)、フィブロネクチン(FN1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP2)、および組織マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP-1)を解析した。炎症性遺伝子として、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)およびC-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)を解析した。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示す。
【0497】
実施例17:IL-11の過剰発現は腎臓において平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞にIL-11を過剰発現するマウスモデルを使用して、腎線維症に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0498】
実施例14と同様にして、タモキシフェンによる誘導とヒドロキシプロリンの定量による評価を行った。
【0499】
結果を
図27A~
図27Cに示す。
図27Aは、タモキシフェンによる誘導を2週間にわたり行ったところ、8週齢のSMRSマウスの腎臓におけるIL-11タンパク質の発現が、SMWTコントロールと比較して上昇したことを示す(1群あたりn=6~7;免疫ブロット法で検出)。
図27Bは、SMRSマウスの腎臓重量/体重比が、SMWTコントロールと比較して増加していることを示す(1群あたりn=8)。
図27Cは、ヒドロキシプロリンの定量による評価結果から、コントロールと比べて、SMRSマウスの腎臓においてコラーゲンが高発現する傾向が認められることを示す(P=0.12、1群あたりn=5)。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はp<0.05を示す。
【0500】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、腎線維症が増加する。
【0501】
細胞外マトリックス(ECM)遺伝子および炎症性遺伝子の発現
実施例14と同様にしてRT-PCRを実施した。
【0502】
図28は、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、腎臓において細胞外マトリックスタンパク質の発現が上昇することを示す。各棒は平均遺伝子発現量(GAPDHの発現量で正規化)を示し、左側の棒はSMWT群を示し、右側の棒はSMRS群を示す(1群あたりn=5)。細胞外マトリックス遺伝子として、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1)、フィブロネクチン(FN1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP2)、および組織マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP-1)を解析した。炎症性遺伝子として、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)およびC-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)を解析した。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0503】
実施例18:IL-11の過剰発現は炎症性腸疾患における平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞にIL-11を過剰発現するマウスモデルを使用して、炎症性腸疾患に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0504】
実施例14と同様にして、タモキシフェンによる誘導を行った。メーカーの説明書に従ってMouse S100A8/S100A9 Heterodimer Duoset ELISA(DY8596-05)を使用することにより糞便中カルプロテクチン(S100A8/A9)濃度を定量した。糞便抽出バッファー(0.1M Tris、0.15M NaCl、1.0M尿素、10mM CaCl2、0.1Mクエン酸一水和物、5g/L BSA)を使用して、糞便中のカルプロテクチンを抽出した。
【0505】
図29Aは、溶媒(トウモロコシ油)またはタモキシフェン(1mg/kg/日を3回)を投与した後のSMRSマウスおよびSMWTコントロールマウスの直腸を示す。タモキシフェンを投与したSMRSマウスは、他のマウス群と比較して、赤色に腫脹した直腸(矢印)が認められ、腸が炎症状態であることが示された。
【0506】
図29Bは、タモキシフェンによる処置後のSMRSマウスおよびSMWTマウスから得た糞便試料の代表的な写真を示す。SMRSマウスの糞便は、SMWTコントロールのものと比較して柔らかく色が薄い。
【0507】
図29Cは、腸の炎症性細胞の活性を反映するカルプロテクチン(S100A8/A9)の濃度が、SMWTコントロールと比較してSMRSマウスの糞便試料中で上昇していることを示す(1群あたりn=8)。
【0508】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、SMRSマウスの腸に炎症性表現型が認められる。
【0509】
実施例19:IL-11の過剰発現は胃腸管の平滑筋細胞の病理に寄与する
タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞にIL-11を過剰発現するマウスモデルを使用して、胃腸管に対するIL-11の発現増加の効果を調査した。
【0510】
実施例14と同様にして、タモキシフェンによる誘導とマッソントリクローム染色を行った。
【0511】
図30Aは、SMRSマウスから採取した胃腸管が、SMWTコントロールと比較して、赤みを帯び、腫脹していることを示す。
図30Bは、タモキシフェンによる誘導を2週間にわたり行ったところ、8週齢のSMRSマウスの結腸におけるIL-11の発現が、SMWTコントロールと比較して上昇したことを示す(1群あたりn=3;免疫ブロット法で検出)。
図30Cは、SMWTマウスおよびSMRSマウスから採取した小腸および結腸をマッソントリクローム染色した代表的な切片を示す(1群あたりn=3)。SMRSマウスの腸壁は、コントロールと比較して壁厚が厚く、腸線維症を呈していた。
【0512】
このように、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、胃腸管に炎症が起こり、腸線維症が発生する。
【0513】
細胞外マトリックス(ECM)遺伝子および炎症性遺伝子の発現
実施例14と同様にしてRT-PCRを実施した。
【0514】
図31は、タモキシフェン誘導型Creにより平滑筋細胞においてIL-11を過剰発現させると、結腸において細胞外マトリックスタンパク質の発現が上昇することを示す。各棒は平均遺伝子発現量(GAPDHの発現量で正規化)を示し、左側の棒はSMWT群を示し、右側の棒はSMRS群を示す(1群あたりn=5)。細胞外マトリックス遺伝子として、コラーゲン(Col1a1、Col1a2、Col3a1)、フィブロネクチン(FN1)、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP2)、および組織マトリックスメタロプロテイナーゼインヒビター(TIMP-1)を解析した。炎症性遺伝子として、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子α(TNFα)、C-Cモチーフケモカインリガンド2(CCL2)およびC-Cモチーフケモカインリガンド5(CCL5)を解析した。統計分析は対応のない両側t検定を使用して行った。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0515】
実施例20:マルファン症候群におけるIL-11の発現
マルファン症候群(MFS)は、TGFβシグナル伝達の増加を伴う常染色体優性の結合組織疾患である。MFSマウスを使用してIL-11の発現を調査した。
【0516】
この実験に使用したマウスはいずれもC57BL/6を遺伝的背景に持ち、すべて同じ部屋に収容して飼育し、食餌および水を自由に摂取させた。マルファン症候群(MFS)(B6.129-Fbn1tm1Hcd/J)マウスは、ジャクソン研究所(012885;メイン州バー・ハーバー)から購入した。ヒト疾患の古典的な特徴(大動脈瘤および肺の異常を含む)を示すヘテロ接合体マウスを実験に使用した。
【0517】
マウスの心臓、肺および胸部大動脈から総タンパク質を抽出し、ウエスタンブロット分析を行った。凍結した各組織を、溶解バッファー(プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤(ロシュ)を含むRIPAバッファー)中で緩やかに揺らしながらホモジナイズした後、遠心分離して溶解物を清澄化した。等量の各タンパク質溶解物をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、抗IL11抗体(MAB218、R&Dシステムズ)および抗GAPDH抗体(2118、Cell Signaling)を加えて一晩インキュベートした。適切な二次抗体として抗ウサギHRP(7074、Cell Signaling)または抗マウスHRP(7076、Cell Signaling)を加え、ECL検出システム(Pierce)を使用してタンパク質を可視化した。
【0518】
図32は、マルファン症候群(MFS)マウスの心臓、肺および大動脈においてIL-11がアップレギュレートされていることを示す。
図32Aは、ウエスタンブロット分析での評価により、野生型(WT)コントロールと比べ、MFSマウスの心臓、肺および大動脈組織においてIL-11の発現の増加が認められることを示す。
図32B~32Dは、デンシトメーターを用いて、MFSマウスの心臓、肺および大動脈におけるIL-11の発現とGAPDHの発現を比較した評価結果を示す。
【0519】
実施例21:大動脈リモデリングに対するIL-11抑制の効果
マウスに横行大動脈縮窄術(TAC)を実施し、平滑筋細胞によるTAC誘導性大動脈リモデリングに対するIL-11媒介性シグナル伝達の抑制の効果を分析した。
【0520】
この実験に使用したマウスはいずれもC57BL/6を遺伝的背景に持ち、すべて同じ部屋に収容して飼育し、食餌および水を自由に摂取させた。マウスを生存させたまま開胸術を実施し、上行大動脈狭窄を作製した。最終的な試験は大動脈縮窄術(TAC)の2週間後に実施した。週齢を一致させたshamコントロールに、TACを行わない開胸術を施した。経胸壁断層ドプラ心エコー法を用いて、TACの成功を示す(40mmHgを超える)圧力勾配の増加を確認した。組織学的評価および分子的評価を行うため、TACの2週間後にマウスを安楽死させた。術後薬物療法として、抗IL-11抗体、抗IL-11Rα抗体またはIgGコントロール抗体を、20mg/kgの用量で週2回、2週間連続して腹腔内投与した。
【0521】
結果を
図33A~33Dに示す。マウスにおいて圧負荷が維持されたにもかかわらず、抗IL-11RA抗体を用いてIL-11媒介性シグナル伝達を抑制したことによって、TAC誘導性大動脈リモデリングが減少していることが認められる。
【0522】
図33Aおよび
図33Bは、収縮終期および拡張終期における大動脈基部の内径を示す。
図33Cは大動脈弓における血流速度のピーク値を示し、
図33Dは圧力勾配を示す。統計分析は、一元配置分散分析と、事後検定としてのSidakの多重比較により行った。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示す。
【0523】
胸部大動脈近位部の代表的な切片を10%中性緩衝ホルマリン中で24~48時間固定し、脱水し、ホルマリンに包埋した。コラーゲンを評価するため、実施例14と同様にしてマッソントリクローム染色で切片(5μm)を染色した。
【0524】
図34は、TAC誘導性大動脈リモデリングが、IL-11中和抗体およびIL-11Rα中和抗体により緩和されることを示す(矢印参照)。胸部大動脈近位部の代表的な切片をマッソントリクローム染色で染色した(1群あたりn=5)。スケールバーは100μmを示す。
【0525】
実施例22:大動脈におけるVSMCの遊走に対するIL-11媒介性シグナル伝達の抑制の効果
公表されている文献(Metz, Richard P., et al. Cardiovascular Development. Humana Press, Totowa, NJ, 2012. 169-176; Weber, Sven C., et al. Pediatric research 70.3 (2011): 236)から採用した改変プロトコルを使用して、マウスVSMCを単離し、培養した。組換えマウスIL-11(5ng/ml)で処置したマウス、組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)と抗IL-11抗体(2μg/ml)または同じ濃度のIgGアイソタイプコントロールとで処置したマウス、および組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)で処置し、抗体による処置を行わなかったマウスから胸部大動脈を採取した。採取した大動脈組織を細断し、1%抗生物質-抗真菌剤混合溶液および0.25mg/mL Liberase TM(ロシュ)を含むM231培地中で緩やかに振盪しながら37℃で45分間消化し、SMGSおよび1%抗生物質-抗真菌剤混合溶液を添加した完全M231培地中において37℃で外植片培養した。消化した大動脈組織から得た混合細胞を培養し、1回目の継代時に80~90%のコンフルエントになったところで、メーカーの説明書に従ってMidiMACSセパレーターを使用して、CD45に対する磁気ビーズ(白血球;130-052-301、ミルテニーバイオテク)、CD90.2に対する磁気ビーズ(線維芽細胞;130-049-101、ミルテニーバイオテク)、およびCD31に対する磁気ビーズ(内皮細胞;130-097-418、ミルテニーバイオテク)を用いたネガティブ選択によりVSMCを濃縮した。3~5回の少ない継代数のマウス大動脈由来VSMCを以降の実験に使用した。コンフルエントに達した単層のマウスVSMCを使用して、インビトロスクラッチ創傷治癒アッセイを24時間にわたって実施し、VSMCの遊走を評価した。
【0526】
図35Aおよび
図35Bは、IL-11媒介性シグナル伝達を抗体で抑制することによって、TGFβ1を介したマウス大動脈由来VSMCの遊走が中和されることを示す。組換えマウスIL-11(5ng/ml)で処置したマウス、組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)と抗IL-11抗体(2μg/ml)または同じ濃度のIgGアイソタイプコントロールとで処置したマウス、および組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)で処置し、抗体による処置を行わなかったマウスから得たVSMCを24時間にわたって遊走させた際の代表的な写真(
図35A)および累積プロット(
図35B)である。0時間(上パネル)および24時間(下パネル)に創傷部位を写真撮影し、ImageJソフトウェアにおいてMRI wound healing toolを後述するように使用して遊走能を算出した。スケールバーは200μmを示す。データはすべて平均値±SDとして示した。二元配置分散分析とSidakの多重比較により統計学的有意差を検定した。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示す。
【0527】
さらに、別の試験において、IL-11Rαを除去したマウス大動脈由来VSMCに対する様々な公知のVSMC遊走刺激剤の効果を評価した。
【0528】
公表されている文献(Metz, Richard P., et al. Cardiovascular Development. Humana Press, Totowa, NJ, 2012. 169-176; Weber, Sven C., et al. Pediatric research 70.3 (2011): 236)から採用した改変プロトコルを使用して、マウスVSMCを単離し、培養した。簡潔に述べると、IL11ra1の機能性アレルを欠損している4~6週齢のマウス(Il11ra1-/-、KO)と、その野生型同腹仔(Il11ra1+/+、WT)を安楽死させ、VSMCを培養するために胸部大動脈を採取した。WTマウスおよびKOマウスから採取した胸部大動脈を細断し、1%抗生物質-抗真菌剤混合溶液および0.25mg/mL Liberase TM(ロシュ)を含むM231培地中で緩やかに振盪しながら37℃で45分間消化し、SMGSおよび1%抗生物質-抗真菌剤混合溶液を添加した完全M231培地中において37℃で外植片培養した。消化した大動脈組織から得た混合細胞を培養し、1回目の継代時に80~90%のコンフルエントになったところで、メーカーの説明書に従ってMidiMACSセパレーターを使用して、CD45に対する磁気ビーズ(白血球;130-052-301、ミルテニーバイオテク)、CD90.2に対する磁気ビーズ(線維芽細胞;130-049-101、ミルテニーバイオテク)、およびCD31に対する磁気ビーズ(内皮細胞;130-097-418、ミルテニーバイオテク)を用いたネガティブ選択によりVSMCを濃縮した。3~5回の少ない継代数のマウス大動脈由来VSMCを以降の実験に使用した。
【0529】
コンフルエントに達した単層のマウスVSMCを使用して、インビトロスクラッチ創傷治癒アッセイを実施し、VSMCの遊走を評価した。低濃度血清培地(0.2%FBSを含むM231)中で24時間培養して血清飢餓状態にした後、滅菌したピペットチップを用いて直線状のスクラッチを作製し、M231のみ(刺激なし)、アンギオテンシンII(ANGII、100μM)(シグマ アルドリッチ)、マウスIL-11(5ng/ml)(Genscript)またはマウスTGFβ1(5ng/ml)(R&Dシステムズ)で細胞を48時間処置した。「MRI wound healing tool」プラグイン(http://dev.mri.cnrs.fr/projects/imagej-macros/wiki/Wound_Healing_Toolから入手可能)を入れたImageJを使用して創傷部位を分析した。0時間および48時間に創傷部位の写真を撮影し、式「遊走=(A0-A1)/A0×100」(式中、A0は0時間における創傷の面積であり、A1は24時間後または48時間後にVSMCで覆われていない面積である)を使用して遊走能を算出した。各処理につき6~10個の領域を無作為に選択し、分析して平均値を求めた。WTマウスおよびKOマウスに由来するVSMCを使用したマウス刺激試験では、処置時間を48時間とした。
【0530】
結果を
図36Aおよび
図36Bに示す。刺激剤なし、アンギオテンシンII(ANGII、100μM)、組換えマウスTGFβ1(5ng/ml)、または組換えマウスIL-11(5ng/ml)で48時間にわたって処置した野生型(WT)マウスおよびIL11ra1除去(KO)マウスを示す代表的な写真(
図36A)および累積プロット(
図36B)である。0時間(上パネル)および48時間(下パネル)に創傷部位を写真撮影し、ImageJソフトウェアにおいてMRI wound healing toolを使用して遊走能を算出した。スケールバーは200μmを示す。データはすべて平均値±SDとして示した。二元配置分散分析とDunnettの多重比較により統計学的有意差を検定した。*はP<0.05を示し、**はP<0.01を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【0531】
このように、マウス大動脈のVSMCにおいてIL-11Rαを除去することにより、公知の様々なVSMC遊走刺激剤(IL-11を含む)に対する保護作用が得られる。
【0532】
本発明は、以下の発明を含む。
[1]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤。
[2]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療方法または予防方法において使用するための医薬品の製造における、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用。
[3]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を治療または予防する方法であって、治療を必要とする対象に、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の治療有効量を投与する工程を含む方法。
[4]前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、[1]に記載の薬剤、[2]に記載の使用または[3]に記載の方法。
[5]前記疾患が、血管平滑筋細胞(VSMC)が病理学的に関与する疾患である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[6]前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[7]前記薬剤が、抗体またはその抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマーおよび小分子からなる群から選択される、[6]に記載の薬剤、使用または方法。
[8]前記薬剤が抗体またはその抗原結合断片である、[6]または[7]に記載の薬剤、使用または方法。
[9]前記薬剤がIL-11のデコイ受容体である、[6]または[7]に記載の薬剤、使用または方法。
[10]前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[11]前記薬剤が、オリゴヌクレオチドまたは小分子である、[10]に記載の薬剤、使用または方法。
[12]前記疾患が、循環器系、消化器系、排泄器系、呼吸器系、腎臓系または生殖器系の疾患である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[13]前記疾患が、アテローム性動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、マルファン症候群、大動脈瘤、Furlong症候群、シュプリンツェン・ゴールドバーグ症候群、ロイス・ディーツ症候群、家族性胸部大動脈瘤症候群、動脈蛇行症候群、脳動脈瘤、血管の狭窄および再狭窄、アテローム性動脈硬化症、線維筋性異形成症(FMD)、弁上部狭窄症、腎動脈狭窄症、肺動脈高血圧症(PAH)、叢状病変、線維筋性異形成症、毛細血管拡張症、アカラシア、嚥下障害、下痢、便秘、炎症性腸疾患(IBD)、腸狭窄症、幽門狭窄症、セリアック病、過敏性腸症候群、憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、腎疾患、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症、半月体形成性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症(DN)、膀胱疾患、肺疾患、喘息、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、全身性硬化症、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群(HGPS)、平滑筋腫、平滑筋肉腫ならびにヘルマンスキー・パドラック症候群(HPS)からなる群から選択される、[1]~[12]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[14]前記方法が、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む、[1]~[13]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[15]前記方法が、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象に前記薬剤を投与する工程を含む、[1]~[14]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[16]前記方法が、対象においてIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを判定する工程、およびIL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされている対象に前記薬剤を投与する工程を含む、[1]~[15]のいずれか1つに記載の薬剤、使用または方法。
[17]平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制するための、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤の使用。
[18]平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤に平滑筋細胞(SMC)を接触させる工程を含む方法。
[19]対象において平滑筋細胞(SMC)の活性を抑制する方法であって、インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を対象に投与する工程を含む方法。
[20]前記平滑筋細胞(SMC)が分泌型平滑筋細胞である、[17]~[19]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[21]前記平滑筋細胞(SMC)が血管平滑筋細胞(VSMC)である、[17]~[20]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[22]前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体に結合することができる薬剤である、[17]~[21]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[23]前記薬剤が、抗体またはその抗原結合断片、ポリペプチド、ペプチド、オリゴヌクレオチド、アプタマーおよび小分子からなる群から選択される、[17]~[22]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[24]前記薬剤が抗体またはその抗原結合断片である、[17]~[23]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[25]前記薬剤がIL-11のデコイ受容体である、[17]~[23]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[26]前記薬剤が、IL-11またはIL-11受容体の発現を減少させることができる薬剤である、17]~[21]のいずれか1つに記載の使用または方法。
[27]前記薬剤が、オリゴヌクレオチドまたは小分子である、[26]に記載の使用または方法。
[28]インターロイキン11(IL-11)の作用を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防に、対象が適しているのかどうかを判定する方法であって、対象において、IL-11またはインターロイキン11受容体(IL-11R)の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
[29]インターロイキン11(IL-11)媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患の治療または予防を行うために、対象を選択する方法であって、対象において、IL-11またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
[30]対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程を含む方法。
[31]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である、[30]に記載の方法。
[32]IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む、[30]または[31]に記載の方法。
[33]前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、[28]~[32]のいずれか1つに記載の方法。
[34]前記疾患が、血管平滑筋細胞(VSMC)が病理学的に関与する疾患である、[28]~[33]のいずれか1つに記載の方法。
[35]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、前記対象から得られた試料において、インターロイキン11(IL-11)またはIL-11受容体の発現がアップレギュレートされているのかどうかを(任意にインビトロで)判定する工程、および前記判定に基づいて、IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた前記対象の治療の予後を提供する工程を含む方法。
[36]IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、IL-11またはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションが確認された対象を選択する工程をさらに含む、[35]に記載の方法。
[37]対象において、平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患を診断するか、または該疾患の発症のリスクを診断する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)対象において測定する工程を含む方法。
[38]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している疑いがある対象において、該疾患の診断を確定するための方法である、[37]に記載の方法。
[39]IL-11媒介性シグナル伝達を抑制することができる薬剤を用いた治療を行うために、対象を選択する工程をさらに含む、[37]または[38]に記載の方法。
[40]平滑筋細胞(SMC)が病理学的に関与する疾患に罹患している対象、または該疾患に罹患している疑いがある対象に予後を提供する方法であって、IL-11もしくはIL-11受容体の発現のアップレギュレーションまたはIL-11媒介性シグナル伝達のアップレギュレーションを予測する1つ以上の遺伝因子を(任意にインビトロで)前記対象において測定する工程を含む方法。
[41]前記疾患が、分泌型平滑筋細胞が病理学的に関与する疾患である、[35]~[40]のいずれか1つに記載の方法。
【0533】
引用文献
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