(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113806
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】注射製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/10 20060101AFI20230808BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230808BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230808BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20230808BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230808BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/10
A61K47/32
A61K47/38
A61K31/496
A61P25/18
A61P25/24
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092924
(22)【出願日】2023-06-06
(62)【分割の表示】P 2022004098の分割
【原出願日】2013-04-23
(31)【優先権主張番号】61/636,938
(32)【優先日】2012-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/792,089
(32)【優先日】2013-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 貴邦
(72)【発明者】
【氏名】星加 裕亮
(57)【要約】 (修正有)
【課題】保存安定性に優れた、難溶性薬物を有効成分として含み、かつ分散媒を含有する組成物を含む注射製剤を提供すること、及び当該注射製剤をシリンジに充填することで、小型、軽量化したプレフィルドシリンジを提供すること。
【解決手段】難溶性薬物、分散媒、及び特定の懸濁化剤を含み、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される、組成物を含む、注射製剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性薬物、分散媒、及び懸濁化剤を含み、
難溶性薬物の粒子の表面に付着した懸濁化剤の分子間、難溶性薬物の粒子の表面に付着した懸濁化剤分子と、付着せずに分散媒中に存在している懸濁化剤分子との間、及び難溶性薬物の粒子の粒子間からなる群から選択少なくとも1種での相互作用によるネットワーク構造を有する、注射製剤であって、
該懸濁化剤が、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩から選択される少なくとも1種を含み、
分散媒として少なくとも水を含み、
静置保存時にはゲル状で衝撃によりゾル化する、注射製剤。
【請求項2】
前記難溶性薬物の平均一次粒子径が0.5~100μmであって、且つ、平均二次粒子径が、平均一次粒子径の3倍以下である、請求項1に記載の注射製剤。
【請求項3】
前記難溶性薬物の濃度が200~600mg/mLである、請求項1又は2に記載の注射製剤。
【請求項4】
粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される
請求項1~3のいずれか一項に記載の注射製剤。
【請求項5】
懸濁化剤の濃度が0.05~150mg/mLである、請求項1~4のいずれか一項に記載の注射製剤。
【請求項6】
難溶性薬物が、アリピプラゾール又はその塩である、請求項1~5のいずれか一項に記載の注射製剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の注射製剤がプレフィルドされたプレフィルドシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリピプラゾール又はその塩のような、分散媒に対して難溶性の薬物、特定の懸濁化剤、及び分散媒を含有する組成物を含む注射製剤、及び当該注射製剤を含むプレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬組成物の有効成分として用いられるアリピプラゾールは、以下の構造式:
【0003】
【0004】
で表される化合物である。アリピプラゾールを含む医薬組成物は、統合失調症の治療に有用な非定型抗精神病薬として知られている。
【0005】
アリピプラゾールを有効成分とする医薬組成物の使用形態としては、例えば、アリピプラゾール及びそのためのビヒクルを分散媒によって懸濁させ、該懸濁液を凍結乾燥して得られるケーキ状組成物を調製し、該ケーキ状組成物を使用時に所望の分散媒(好ましくは
注射用水)と混合して再懸濁させることによって、該再懸濁液(注射製剤)を患者に筋肉内
注射又は皮下注射する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0006】
前記の特許文献1及び2のような医薬組成物の使用形態は、ケーキ状組成物を含むバイアルと分散媒を含有した容器、さらに、患者に投与する際のシリンジが必要となる。そのため、使用される医療器具の構造がシンプルでより小型、軽量化でき、使用時の利便性の高い製剤が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5006528号明細書
【特許文献2】特開2007-509148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような使用される医療器具をシンプルでより小型、軽量化でき、使用時の利便性の高い製剤を得るためには、例えば懸濁液(注射製剤)をそのままシリンジに充填したプレフィルドシリンジを開発することが考えられる。しかしながら、アリピプラゾール又はその塩のような、分散媒である水に対して難溶性の薬物(以下、難溶性薬物とも表記する)を有効成分として含む懸濁液は、時間の経過に伴い、有効成分粒子が沈降し、ケーキングが生じるため、懸濁液の再分散が困難になる、ということがある。また、たとえ再分散できる懸濁液でも、再分散のためには、例えば機器等を用いた、激しい振とうが必要であり、臨床上利便性に問題があった。そのため、時間の経過によっても粒子の沈降によるケーキ
ングが抑制された、保存安定性に優れた難溶性薬物を有効成分として含む注射製剤が求められていた。
【0009】
本発明は、難溶性薬物を有効成分として含み、かつ分散媒を含有する組成物を含む、保存安定性に優れた注射製剤を提供することを目的とする。より具体的には、長期保存後であっても難溶性薬物の沈降によるケーキングが生じず、使用時(患者への投与の際)には、有効成分が分散した懸濁液が容易に得られる注射製剤を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、当該注射製剤をシリンジに充填することで、小型、軽量化したプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。好ましくは、シリンジを弱く振とうしてから、若しくは、振とうもせずに、シリンジのプランジャーロッドを押し、注射製剤を注射針を通して押し出すだけで、粘度の低い懸濁液が投与できる、小型で軽量のプレフィルドシリンジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、難溶性薬物を有効成分とする注射製剤において、分散媒及び特定の懸濁化剤(以下「懸濁化剤A」ともいう)を含有することが、調製後から長期間(例えば患者への投与時までの間)保管しても有効成分の沈降によるケーキングが抑制されることを見出し、さらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.難溶性薬物、分散媒、及び懸濁化剤を含み、
該懸濁化剤は、以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤であり、
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される、
組成物
を含む、注射製剤。
【0013】
項2.難溶性薬物、分散媒、及び懸濁化剤を含み、
該懸濁化剤は、以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤であり、
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
25℃において粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される、
組成物
を含む、注射製剤。
【0014】
項3.分散媒として少なくとも水を含む組成物を含む、項1又は2に記載の注射製剤。
【0015】
項4.難溶性薬物が、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩である、項1~3のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0016】
項4a.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が0.5~100μmである、項1~4のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0017】
項4b.前記難溶性薬物の平均二次粒子径が、平均一次粒子径の3倍以下である、項1~4及び4aのいずれか一項に記載の注射製剤。
【0018】
項5.難溶性薬物として、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
前記難溶性薬物の平均一次粒子径が0.5~30μmであり、
前記難溶性薬物の濃度が200~600mg/mLである、
ゲル状組成物。
【0019】
項5a.アリピプラゾール又はその塩、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmであり、
アリピプラゾール又はその塩の濃度が200~600mg/mLである、
項5に記載のゲル状組成物。
【0020】
項5b.7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmであり、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の濃度が200~600mg/mLである、
項5に記載のゲル状組成物。
【0021】
項6.懸濁化剤として(i)ポリビニルピロリドンを含み、
ポリビニルピロリドンの濃度が0.1~100mg/mLである、
項5、項5a又は項5bに記載の組成物。
【0022】
項7.懸濁化剤として前記(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセル
ロース又はその塩を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~2mg/mLであり、
カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度が0.5~50mg/mLである、
項5~項6のいずれか一項に記載の組成物。
(「項5~」との記載には、項5、項5a及び項5bも含まれる。以下同じ。)
【0023】
項8.懸濁化剤として、(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含む、項5~7のいずれか一項に記載の組成物。
【0024】
項8a.懸濁化剤として、(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~100mg/mLである、項5~6のいずれか一項に記載の組成物。
【0025】
項9.前記難溶性薬物の平均二次粒子径が、平均一次粒子径の3倍以下である、項5~8及び8aのいずれか一項に記載の組成物。
【0026】
項10.粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される
項5~9のいずれか一項に記載の組成物。
【0027】
項11.25℃において粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される
項5~9のいずれか一項に記載の組成物。
【0028】
項12.項5~11のいずれか一項に記載の組成物を含む注射製剤。
【0029】
項13.アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を、200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
前記アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有
するゲル状組成物の製造方法。
【0030】
項13a.アリピプラゾール又はその塩を、200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
前記アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項13に記載の、アリピプラゾール又はその塩を含有するゲル状組成物の製造方法。
【0031】
項13b.7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を、200~600mg/mL、水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項13に記載の、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物の製造方法。
【0032】
項14.アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を、200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項13に記載の方法。
【0033】
項14a.アリピプラゾール又はその塩を、200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
アリピプラゾール又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項14に記載の、アリピプラゾール又はその塩を含有するゲル状組成物の製造方法。
【0034】
項14b.7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を、200~600mg/mL、水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項14に記載の、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物の製造方法。
【0035】
項15.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドンを含み、
ポリビニルピロリドンの濃度が0.1~100mg/mLである、
項13、13a、13b、14、14a又は14bに記載の方法。
【0036】
項16.前記混合液が(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~2mg/mLであり、
カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度が0.5~50mg/mLである、
項13、13a、13b、14、14a、14b又は15に記載の方法。
【0037】
項17.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含む、項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【0038】
項17a.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~100mg/mLである、
項13~15のいずれか一項に記載の方法。
(上記「項13~15」及び「項13~16」には、項13a、13b、14a及び14
bも含まれる。)
【0039】
項18.項13~17のいずれか一項に記載の方法により得られる、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物。
(上記「項13~17」には、項13a、13b、14a、14b、及び17aも含まれる。)
【0040】
項19.アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
前記アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
シリンジ中に充填すること、並びに、
上記混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジの製造方法。
【0041】
項19a.アリピプラゾール又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
前記アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
シリンジ中に充填すること、並びに、
上記混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項19に記載の、アリピプラゾール又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジの製造方法。
【0042】
項19b.7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである
混合液を
シリンジ中に充填すること、並びに、
上記混合液を5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項19に記載の、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジの製造方法。
【0043】
項20.アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液をシリンジ中に充填して5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項19に記載の製造方法。
【0044】
項20a.アリピプラゾール又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
アリピプラゾール又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液をシリンジ中に充填して5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項20に記載の、アリピプラゾール又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジの製造方法。
【0045】
項20b.7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、
上記粉砕後の混合液をシリンジ中に充填して5~70℃で5分以上静置すること、
を含む、
項20に記載の、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジの製造方法。
【0046】
項21.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドンを含み、
ポリビニルピロリドンの濃度が0.1~100mg/mLである、
項19、19a、19b、20、20a又は20bに記載の方法。
【0047】
項22.前記混合液が(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロー
ス又はその塩を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~2g/mLであり、
カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度が0.5~50mg/mLである、
項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【0048】
項23.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含む、項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【0049】
項23a.前記混合液が(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~100mg/mLである、
項19~21のいずれか一項に記載の方法。
(上記「項19~21」及び「項19~22」には、項19a、19b、20a及び20bも含まれる。)
【0050】
項24.項19~23及び23aのいずれか一項に記載の方法により得られる、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含有するゲル状組成物がプレフィルドされたプレフィルドシリンジ。
【0051】
項25.項24に記載のプレフィルドシリンジを備えたキット。
【0052】
項26.難溶性薬物として、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤を含み、
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
前記難溶性薬物の平均一次粒子径が1~10μmであり、
前記難溶性薬物の濃度が200~400mg/mLであり、
静置時にはゲル状で衝撃によりゾル化する、
組成物を含む、
1ヶ月当たり1回投与される持効性注射製剤。
【0053】
項27.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が2~7μmである、項26に記載の注射製剤。
【0054】
項28.難溶性薬物として、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、
水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤を含み、
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
前記難溶性薬物の平均一次粒子径が4~30μmであり、
前記難溶性薬物の濃度が300~600mg/mLであり、
静置時にはゲル状で衝撃によりゾル化する、
組成物を含み、
2又は3ヶ月当たり1回投与される持効性注射製剤。
【0055】
項29.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が5~20μmである、項28に記載の注射製剤。
【0056】
項30.懸濁化剤として前記(i)ポリビニルピロリドンを含み、
ポリビニルピロリドンの濃度が0.1~100mg/mLである、
項26~29のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0057】
項31.懸濁化剤として前記(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、
ポリエチレングリコールの濃度が0.05~2mg/mLであり、
カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度が0.5~50mg/mLである、
項26~30のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0058】
項32.懸濁化剤として、(i)ポリビニルピロリドン、並びに(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩、を含む、項26~31のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0059】
項33.前記難溶性薬物の平均二次粒子径が、平均一次粒子径の3倍以下である、項26~32のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0060】
項34.前記組成物が、
粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される
組成物である、項26~33のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0061】
項35.前記組成物が、
25℃において粘度をレオメーターにより測定すると、
剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され、
剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定される
組成物である、項26~33のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0062】
項36.項1~4、12及び26~35のいずれか一項に記載の注射製剤を投与することを含む、統合失調症、双極性障害、若しくはうつの治療又は再発予防方法。
【0063】
項37.前記注射製剤が筋肉内又は皮下に投与される、項36に記載の方法。
【0064】
項A-1.難溶性薬物、特定の懸濁化剤(懸濁化剤A)、並びに分散媒を含む懸濁液で、その懸濁液が静置時に高粘度であり、振とう若しくは注射針から排出された懸濁液が低粘度を示す保存安定性を有する水性懸濁性の注射製剤。
【0065】
項A-2.静置時の粘度が1,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が300mPa・s以下である、項A-1に記載の注射製剤。
【0066】
項A-3.静置時の粘度が5,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が300mPa・s以下である、項A-1又はA-2に記載の注射製剤。
【0067】
項A-4.静置時の粘度が10,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が300mPa・s以下である、項A-1~A-3のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0068】
項A-5.静置時の粘度が1,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が200mPa・s以下である、項A-1又はA-2に記載の注射製剤。
【0069】
項A-6.静置時の粘度が5,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が200mPa・s以下である、項A-1、A-2、A-3又はA-5に記載の注射製剤。
【0070】
項A-7.静置時の粘度が10,000mPa・s以上であり、振とう若しくは注射針から排出された時の粘度が200mPa・s以下である、項A-1~A-6のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0071】
項A-8.前記難溶性薬物の濃度が100~500mg/mLである、項A-1~A-7のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0072】
項A-9.前記難溶性薬物の濃度が200~480mg/mLである、項A-1~A-8のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0073】
項A-10.前記難溶性薬物の濃度が250~450mg/mLである、項A-1~A-9のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0074】
項A-11.前記難溶性薬物の濃度が約300mg/mL以上のとき、静置時にゲル状となるが、ゲル状の組成物は撹拌、振とう、又は外部からの衝撃等によって、流動性を示すゾルになる、項A-1~A-10のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0075】
項A-12.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が約0.5~約30μmである、項A-1~A-11のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0076】
項A-13.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が約1.0~約10μmである、項A-1~A-12のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0077】
項A-14.前記難溶性薬物の平均一次粒子径が約1.0~約5μmである、項A-1
~A-13のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0078】
項A-15.前記難溶性薬物がアリピプラゾール又はその塩であり、
ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の懸濁化剤、並びに
分散媒を含む、
組成物を含む、項A-1~A-14のいずれか一項に記載の注射製剤。
【0079】
項A-16.前記難溶性薬物がアリピプラゾール一水和物である、項A-15に記載の注射製剤。
【0080】
項A-17.前記難溶性薬物がアリピプラゾール又はその塩であり、
ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールよりなる群から選ばれる少なくとも1種の懸濁化剤、並びに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、並びに
分散媒を含む、
組成物を含む、保存安定性を有する、項A-15又はA-16に記載の注射製剤。
【0081】
項A-18.項A-1~A-17のいずれか一項に記載の注射製剤を含むプレフィルドシリンジ。
【0082】
本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist
of)」という意味と、「からなる(consist of)」という意味をも包含する。
【発明の効果】
【0083】
本発明の注射製剤は、難溶性薬物(すなわち、有効成分)の粒子が沈降によるケーキングをすることなく、保存安定性に優れる。
【0084】
そのため、使用時に懸濁液を調製する必要がなく、注射針中で目詰まりが生じ難い。
【0085】
より詳細には、(α)本発明の注射製剤は、静置によりゲル化するため、難溶性薬物粒子の沈降とケーキングが抑制され、よって、保存安定性に優れるという効果を奏する。またさらに、(β)本発明の注射製剤は、ゲル化しても、弱い衝撃により簡単に流動性を示すようになるため、使用時(注射時)に簡単に注射することが可能である。特に、ゲル化した注射製剤(ゲル状組成物)を、シリンジのプランジャーを押し込み注射針から排出させるだけで、流動性を示す(ゾル状になる)ため、そのままスムーズに注射針から排出させることができる。このため、注射時の痛みや局所障害性も比較的少なく、筋肉内あるいは皮下内へ良好に分散し得る。
【0086】
また、前記のように、本発明の注射製剤は、保存安定性に優れるため、注射製剤としてシリンジにそのまま充填し、プレフィルドシリンジとすることができ、医療用器具として小型軽量化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【
図1】実施例1で得られた注射製剤の調製直後の写真である。
【
図2】実施例1で得られた注射製剤を一定の間、静置後、ゆっくりと傾けた状態の写真である。
【
図3】実施例1で得られた注射製剤を一定の間、静置後、さらに容器をタッピングし、傾けた状態の写真である。
【
図4a】製造例A1~A6の注射製剤を透明な容器に入れ、5℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態の写真を示す。
【
図4b】製造例A1~A6の注射製剤を透明な容器に入れ、25℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態の写真を示す。
【
図4c】製造例A1~A6の注射製剤を透明な容器に入れ、40℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態の写真を示す。
【
図5a】製造例A1~A6の注射製剤の粘度をレオメーターにより測定した結果(測定温度:5℃)を示す。
【
図5b】製造例A1~A6の注射製剤の粘度をレオメーターにより測定した結果(測定温度:25℃)を示す。
【
図5c】製造例A1~A6の注射製剤の粘度をレオメーターにより測定した結果(測定温度:40℃)を示す。
【
図6】製造例Bの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。
【
図7】製造例Cの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。
【
図8】製造例Dの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。
【
図9a】製造例Eの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。図中、5dは5℃測定を、25dは25℃測定を、40dは40℃測定を、それぞれ示す。
【
図9b】5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したときの製造例Eの注射製剤を示す。
【
図9c】製造例Eの注射製剤を5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存した後(すなわち、
図9bに示される各製造例を)、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態を示す。
【
図10a】製造例F1(ポビドンK17, 0.1 mg/mL)及びF2(ポビドンK17, 4 mg/mL)の注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃又は25℃で測定した結果を示す。図中、5dは5℃測定を、25dは25℃測定を、それぞれ示す。
【
図10b】5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したときの製造例F1(ポビドンK17, 0.1 mg/mL)及びF2(ポビドンK17, 4 mg/mL)の注射製剤を示す。
【
図10c】製造例F1(ポビドンK17, 0.1 mg/mL)及びF2(ポビドンK17, 4 mg/mL)の注射製剤を5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存した後(すなわち、
図10bに示される各製造例を)、ゆっくりと傾けて倒した状態を示す。
【
図11】製造例G(4-アミノ安息香酸エチル400 mg/mL含有)、H(プロブコール300 mg/mL含有)及びI(シロスタゾール300 mg/mL含有)の注射製剤を透明な容器に入れ、5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態を示す。
【
図12】製造例Gの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃又は40℃で測定した結果を示す。
【
図13】製造例Hの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃又は40℃で測定した結果を示す。
【
図14】製造例Iの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃又は40℃で測定した結果を示す。
【
図15】製造例Jの注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。図中、5dは5℃測定を、25dは25℃測定を、40dは40℃測定を、それぞれ示す。
【
図16】製造例K、製造例L、比較例200及び比較例400の注射製剤をラットの下腿筋中へ投与した後の平均血中濃度対時間プロファイルを示すグラフである(n=4, 平均±標準偏差)。
【
図17】製造例A3~A6の注射製剤を、レオメーターに供して40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから粘度測定を行った時の測定結果を示す。
【
図18】製造例B及びCの注射製剤を、レオメーターに供して40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから粘度測定を行った時の測定結果を示す。なお、当該
図18には、試験例2で測定温度5℃又は25℃で粘度測定した結果も併せて示す。
【
図19a】製造例E及びE’の注射製剤を、レオメーターに供して40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから粘度測定を行った時の測定結果を示す。また、当該
図19aには、製造例E’の注射製剤を、試験例3と同様に5℃又は25℃で粘度測定した結果も示す。さらに、当該
図19aには、試験例3で5℃又は25℃で製造例Eの注射製剤を粘度測定した結果も示す。
【
図19b】製造例E’(ポビドンK17, 4 mg/mL)の注射製剤を5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態を示す。40℃保存のものだけゲル化している。
【
図20a】製造例M1及びM2の注射製剤の粘度をレオメーターにより5℃、25℃、又は40℃で測定した結果を示す。
【
図20b】製造例M1及びM2の注射製剤を5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存した後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0088】
本発明の注射製剤は、難溶性薬物、特定の懸濁化剤(懸濁化剤(A))、並びに分散媒を含む組成物を含む。よって、以下、本発明の注射製剤についての説明を行う場合、それは当該組成物についての説明を行っているのと同じである。例えば、本発明の注射製剤がある成分を含む、という説明をした場合、これは、本発明の注射製剤が特定の組成物を含み、当該組成物が当該成分を含む、ことを意味する。本発明において難溶性薬物とは、水に溶解しにくい薬物をいい、第十六改正日本薬局方に記載される「極めて溶けにくい」又は「ほとんど溶けない」に当てはまる薬物である。具体的には、薬物を水中に入れ(薬物が固
形の場合は、粉末とした後水中に入れる)、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混
ぜるとき、30分以内に溶ける度合を検討し、薬物1g又は1mLを溶かすのに要する水量が1,000mL以上10,000mL未満のものが「極めて溶けにくい」薬物であり、10,000mL以上のものが「ほとんど溶けない」薬物である。
【0089】
本発明の注射製剤に含有される難溶性薬物としては、例えばアリピプラゾール又はその塩が挙げられる。また、その他の難溶性薬物としては、例えば、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン(「ブレクスピプラゾール(brexpiprazole)」ともいう)又はその塩が挙げられる。
さらに、レバミピド、シロスタゾール、プロブコール、4-アミノ安息香酸エチル等が挙げられる。また、これらは塩の形態であってもよい。中でも、アリピプラゾール又はその塩あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩が好ましい。
【0090】
また、前記難溶性薬物が塩の形態を示す場合、薬理的に許容される塩であれば特に限定されず、例えば、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等);アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩等)等の金属塩;アンモニウム塩;炭酸アルカリ金属(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム等);炭酸水素アルカリ金属(例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリ
ウム等);アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等)等の無機塩基の塩;トリ(低級)アルキルアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-エチルジイソプロピルアミン等)、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、ジメチルアニリン、N-(低級)アルキル-モルホリン(例えば、N-メチルモルホリン等)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1、8-ジアザビシクロ[5.4.0]
ウンデセン-7(DBU)、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)等の有機塩基の塩;塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸の塩;ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、炭酸塩、ピクリン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、グルタミン酸塩、パモ酸塩等の有機酸の塩等が挙げられる。ここで、「(低級)アルキル」とは、「炭素数1~6のアルキル」を意味する。
【0091】
本発明の注射製剤中に含まれる難溶性薬物がアリピプラゾール又はその塩である場合の、アリピプラゾール又はその塩の結晶形としては、特に制限はされない。アリピプラゾール又はその塩は、一水和物形態(アリピプラゾール水和物A)、又は多数の無水形態、即ち
無水結晶B、無水結晶C、無水結晶D、無水結晶E、無水結晶F、及び無水結晶Gの形態で存在することが知られており、これらは全て、本発明の注射製剤におけるアリピプラゾール又はその塩として使用することができる。中でも一水和物形態が好ましい。
【0092】
上記の難溶性薬物は、公知の化合物であり、市販のものを用いてもよく、また、公知の製造方法によって容易に得ることができる。
【0093】
本発明の注射製剤では、分散媒として、少なくとも水が含まれることが好ましい。少なくとも水を含む分散媒としては、水、又は水と有機溶媒の含水溶媒が好適に用いられる。ここでの有機溶媒としては、水と混和性であるもの、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール;アセトン等のケトン;テトラヒドロフラン等のエーテル;ジメチルホルムアミド;及びそれらの混合物が挙げられ、中でもアルコールが好ましく、エタノールが特に好ましい。上記含水溶媒とする場合の水の含有割合は、特に限定されるものではないが、例えば、約50重量%以上に設定することが好ましい。
【0094】
好ましくは分散媒は水であり、滅菌された注射用水を用いることが特に好ましい。
【0095】
本発明の注射製剤に含まれる特定の懸濁化剤(懸濁化剤A)は、以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤を含む。
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
【0096】
使用されるポリビニルピロリドンとしては、K値(フィケンチャーのK値)が、約10~約90のものが好ましく、約12~約30のものがより好ましく、約12~約20のものが更に好ましい。また、使用されるポリビニルピロリドンの平均分子量としては、約2,000~約700,000が好ましく、約2,000~約40,000がより好ましく、約2,000~約10,000が更に好ましい。上記のK値及び平均分子量の範囲を有するポリビニルピロリドンを用いることにより、難溶性薬物の懸濁液の静置時のゲル化を形成し、粒子の沈降によるケーキングを抑制することができ、また、保存安定性に優れた注射製剤を調製することができる等の効果が得られる。ポリビニルピロリドンとしては、例えば、ポビドンK12、ポビドンK17、ポビドンK25、ポビドンK30等が挙げられ、ポビドンK17が最も好ましい。これら各種のポリビニルピロリドンは、1種単独で用いてもよく、ま
た、2種以上混合して用いてもよい。
【0097】
懸濁化剤Aとして使用されるポリエチレングリコール(マクロゴール)としては、平均分子量が約100~約10,000のものが好ましく、約150~約8,000のものがより好ましく、約200~約5,000のものが更に好ましい。上記の平均分子量の範囲を有するポリエチレングリコールを用いることにより、粒子の沈降によるケーキングを抑制することができ、保存安定性に優れた注射製剤を調製することができる。ポリエチレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール8000等が挙げられ、ポリエチレングリコール400が最も好ましい。これら各種のポリエチレングリコールは、1種単独で
用いてもよく、また、2種以上混合して用いてもよい。
【0098】
カルボキシメチルセルロース又はその塩としては、カルボキシメチルセルロースの他、カルボキシメチルセルロースの塩として、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩及びカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩が好ましく例示できる。具体的には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、カルボ
キシメチルセルロースリチウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウム等の塩が例示でき、中でもカルボキシメチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムが好ましく、カルボキシメチルセルロースナトリウムが特に好ましい。これら各種のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0099】
本発明の注射製剤は、調製後、しばらく静置すると、高い粘性を持ち流動性を失う(す
なわち、ゲル化する)。しかし、一旦ゲル化した注射製剤は、弱い衝撃を受けること(例えば、撹拌、振とう、タッピング、外部からの衝撃、あるいは注射針からの押し出し時の圧力等)によって、再び流動性を示す。限定的な解釈を望むわけではないが、本発明の注射
製剤は、構造粘性を示すと考えられる。構造粘性とは、非ニュートン流動の一種であり、せん断応力が増加すると液体の内部構造が弱いものから破壊されて粘性率が減少し、ニュートン流動に近づく性質のことである。
【0100】
この流動性を示す注射製剤を、再度しばらく静置すると、またゲル化し、当該ゲル状注射製剤も弱い衝撃(例えば、撹拌、振とう等)を受けることによって流動性を示し、再度静置するとゲル化する。すなわち、本発明の注射製剤は、チクソトロピックな性質(チクソ
トロピー)をも示すと考えられる。
【0101】
このような性質は、レオメーターにより注射製剤の粘度を測定することで確認することができる。レオメーターは粘度計の発展形で、さまざまなパラメータを自在に変えて、パラメータの条件ごとに精密に粘度を測定できる装置である。レオメーターを用い、剪断速度を徐々に上げながら本発明の注射製剤の粘度を測定すると、本発明の注射製剤は、概ね、徐々に粘度が低下する。レオメーターとしては、回転式レオメーターを用いることが好ましい。当該レオメーターとしては、例えば、Discovery Hybrid Rheometer-2 (DHR-2)又はDiscovery Hybrid Rheometer-3 (DHR-3)(メーカー:TAインスツルメント)が例示できる。
【0102】
特に、(α)本発明の注射製剤は、静置によりゲル化するため、難溶性薬物粒子の沈降とケーキングが抑制され、よって、保存安定性に優れるという効果を奏する。またさらに、(β)本発明の注射製剤は、ゲル化しても、弱い衝撃により簡単に流動性を示すようになるため、使用時(注射時)に簡単に注射することが可能である。特に、ゲル化した注射製剤(ゲル状組成物)を、シリンジのプランジャーを押し込み注射針から排出させるだけで、流動性を示す(ゾル状になる)ため、そのままスムーズに注射針から排出させることができる。このため、注射時の痛みと局所障害性も比較的少なく、筋肉内あるいは皮下へ良好に分散し得る。
【0103】
注射製剤がゲル化しているか(ひいては、上記(α)の効果を奏するか)は、レオメーターにより粘度測定を行う場合において、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少な
くとも1点において約40Pa・s以上の値が測定されるかで確認することができる。すなわち、0.01~0.02s-1という剪断速度において約40Pa・s以上の値が測
定されるということは、測定対象である注射製剤が流動性を失いゲル状になっていることを示す。特に、0.01~0.02s-1という剪断速度において約100Pa・s以上
の値が測定されれば、測定対象である注射製剤が確実に流動性を失いゲル状になっていることを示す。なお、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において
、約40~約20,000Pa・sの値が測定されることが好ましく、約50~約10,000Pa・sの値が測定されることがより好ましく、約75~約5,000Pa・sの値が測定されることが更に好ましく、約100~約3,000Pa・sの値が測定されることがより更に好ましい。またさらに、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲におい
て、粘度が約40Pa・s以上(特に、約100Pa・s以上)であることが好ましく、約
40~約20,000Pa・sであることがより好ましく、約50~約10,000Pa・sであることが更に好ましく、約75~約5,000Pa・sであることがより更に好ましく、約100~約3,000Pa・sであることが特に好ましい。
【0104】
また、注射製剤が上記(β)の効果を奏するかは、レオメーターにより粘度測定を行う場合において、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において約0
.2Pa・s以下の値が測定されるかで確認することができる。すなわち、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において約0.2Pa・s以下の値が測定
されるということは、測定対象である注射製剤が流動性を獲得しゾル状になっていることを示す。なお、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において、約
0.1Pa・s以下の値が測定されることが好ましく、約0.05Pa・s以下の値が測定されることがより好ましい。またさらに、剪断速度900~1,000s-1の範囲に
おいて、粘度が約0.2Pa・s以下であることが好ましく、約0.1Pa・s以下であることがより好ましく、約0.05Pa・s以下であることが更に好ましい。
【0105】
注射製剤がゲル化しているか(ひいては、上記(α)の効果を奏するか)は、特に、レオメーターにより25℃にて粘度測定を行う場合において、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において約40Pa・s以上の値が測定されるかで確認する
ことができる。すなわち、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点に
おいて約40Pa・s以上の値が測定されるということは、測定対象である注射製剤が流動性を失いゲル状になっていることを示す。特に、0.01~0.02s-1という剪断
速度において約100Pa・s以上の値が測定されれば、測定対象である注射製剤が確実に流動性を失いゲル状になっていることを示す。なお、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において、約40~約20,000Pa・sの値が測定される
ことが好ましく、約50~約10,000Pa・sの値が測定されることがより好ましく、約75~約5,000Pa・sの値が測定されることが更に好ましく、約100~約3,000Pa・sの値が測定されることがより更に好ましい。またさらに、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲において、粘度が約40Pa・s以上(特に、約100Pa・s以上)であることが好ましく、約40~約20,000Pa・sであることがより好ましく、約50~約10,000Pa・sであることが更に好ましく、約75~約5,000Pa・sであることがより更に好ましく、約100~約3,000Pa・sであることが特に好ましい。
【0106】
また、注射製剤が上記(β)の効果を奏するかは、特に、レオメーターにより25℃にて粘度測定を行う場合において、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも
1点において約0.2Pa・s以下の値が測定されるかで確認することができる。すなわち、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において約0.2Pa・
s以下の値が測定されるということは、測定対象である注射製剤が流動性を獲得しゾル状になっていることを示す。なお、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも
1点において、約0.1Pa・s以下の値が測定されることが好ましく、約0.05Pa・s以下の値が測定されることがより好ましい。また更に、剪断速度900~1,000s-1の範囲において、粘度が約0.2Pa・s以下であることが好ましく、約0.1P
a・s以下であることがより好ましく、約0.05Pa・s以下であることが更に好ましい。
【0107】
なお、これらの剪断速度(0.01~0.02s-1及び900~1,000s-1)での粘度測定は、小さな剪断速度での粘度測定からスタートし、徐々に剪断速度を大きくしながら順次粘度を測定することで行うことが好ましい。例えば、レオメーターを用いて、剪断速度0.001~1,000s-1の範囲で順次粘度測定することが好ましい。
【0108】
このようにして、ゲル状組成物について順次粘度測定した結果を、横軸(x軸)を剪断速度(s-1)、縦軸(y軸)を粘度(Pa・s)としてプロットすると、概ね右肩下がりのグラ
フが描かれる。上記の内容を、当該グラフを用いて説明し直すと、例えば、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なくとも1点において40Pa・s以上の値が測定され
るとは、剪断速度0.01≦x≦0.02の範囲において、当該グラフの少なくとも1部がy≧40を満たすことを意味するといえる。また、例えば、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲において粘度が40Pa・s以上であるとは、剪断速度0.01≦x≦0
.02の範囲において、当該グラフの全体がy≧40を満たすことを意味するといえる。また、例えば、剪断速度900~1,000s-1の範囲の少なくとも1点において約0
.2Pa・s以下の値が測定されるとは、剪断速度900≦x≦1,000の範囲において、当該グラフの少なくとも1部がy≦0.2を満たすことを意味するといえる。また、例えば、剪断速度900~1,000s-1の範囲において、粘度が約0.2Pa・s以
下であるとは、剪断速度900≦x≦1,000の範囲において、当該グラフの全体がy≦0.2を満たすことを意味するといえる。
【0109】
なお、レオメーターとしては、例えばDiscovery Hybrid Rheometer-2 (DHR-2)又はDiscovery Hybrid Rheometer-3 (DHR-3)(メーカー:TAインスツルメント)を利用することができる。
【0110】
本発明の注射製剤が、上記(α)及び(β)の効果を奏することができる大きな理由の一つは、難溶性薬物に上記特定の懸濁化剤(懸濁化剤A)を組み合わせて用いるところにある。すなわち、難溶性薬物の懸濁化剤は非常に多種多様なものが知られており、多くの懸濁化剤は、それらを用いても上記(α)及び(β)の効果を奏する組成物を調製することができないところ、上記懸濁化剤Aが、上記(α)及び(β)の効果を奏する注射製剤を得るために極めて好適なのである。したがって、難溶性薬物及び分散媒に懸濁化剤Aを組み合わせて懸濁液を調製し、その粘度を測定し上記条件を満たすものを選択することで、本発明の注射製剤を調製することができる。
【0111】
上記(α)及び(β)の効果を得るための、その他に重要な因子として、例えば、難溶性薬物の粒子径や濃度が挙げられる。
【0112】
本発明の注射製剤に含まれる難溶性薬物の平均一次粒子径は、通常約0.5~約100μmであり、約0.5~50μmが好ましく、約0.5~約30μmがより好ましく、約1~約20μmが更に好ましく、約1~約10μmがより更に好ましく、約1~約5μmがなかでも好ましく、約2~約5μmが特に好ましい。また、難溶性薬物の平均二次粒子径は、平均一次粒子径の3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることが更に好ましい。
【0113】
なお、前記“一次粒子径”とは、凝集せず一つ一つの粒子がばらばらになった状態での粒子径を意味し、“平均一次粒子径”は、レーザー回折散乱法によって測定される平均一次粒子の粒度分布から計算される体積平均直径から計算される。本発明では平均一次粒子径は、注射製剤を水溶媒中で循環させ、超音波照射を行う条件下で測定される。また、“二次粒子径”とは、粒子が凝集している状態の粒子径を意味し、“平均二次粒子径”は、レーザー回折散乱法によって測定される平均二次粒子の粒度分布から計算される体積平均直径から計算される。本願発明では平均二次粒子径は、超音波照射を行わず、注射製剤を水溶媒中で循環させて測定される。
【0114】
レーザー回折散乱法による平均粒子径の測定には、例えばSALD-3000J (メーカー:島津製作所)を用いることができる。
【0115】
なお、平均二次粒子径が平均一次粒子径より小さくなることは(測定誤差範囲を除けば)ないが、本発明の注射製剤には、平均一次粒子径と平均二次粒子径の値がほとんど同じである(すなわち、粒子の凝集がほとんど起こっていない)難溶性薬物を含む注射製剤も含まれる。超音波照射などの特定の操作(二次粒子を一次粒子にする操作)を行わない限り、平均一次粒子径よりも平均二次粒子径の方が大きい難溶性薬物が好ましい。
【0116】
難溶性薬物の平均一次粒子径を1μm以上に設定することにより、注射剤として用いた場合に、長期の徐放性を示すという効果が好ましく得られる。また、前記難溶性薬物の平均一次粒子径を100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは2~5μmに設定することが、本発明の組成物を調製する際、又は調製後から患者に投与するまでの間、難溶性薬物の沈降が抑制される点、注射時に注射針の詰まりを防止することができる点からも好ましい。
【0117】
前記の平均一次粒子径を有する難溶性薬物の調製方法としては、湿式粉砕手法が好ましい。湿式粉砕手法としては、湿式ボールミリング(wet ball milling)や高圧ホモジナイザー粉砕(high pressure homogenization)、高剪断ホモジナイゼーション(high shear homogenization)等が好ましい。前記粉砕手法に加えて、他の低及び高エネルギーミル(例えば、ローラーミル)も使用することができる。
【0118】
その他の使用可能な方法としては、制御された晶析法(controlled crystallization)等が挙げられる。
【0119】
また、前記の平均一次粒子径を有する難溶性薬物の製法としては、例えば、ブリストル-マイヤーズスクイブ社から出願されている衝突噴流結晶化方法(impinging jet crystallization method (特表2007-509153号公報参照)や大塚製薬株式会社により出願されている高圧ホモジナイザーを用いた湿式粉砕方法(特願2007-200088号
参照)等が挙げられるが、大塚製薬株式会社により出願されている高圧ホモジナイザーを
用いた湿式粉砕方法(特に2段階湿式粉砕方法)がより好ましい。
【0120】
本発明の注射製剤中に含まれる難溶性薬物の濃度としては、約200~約600mg/mLが好ましく、約200~約500mg/mLがより好ましく、約200~約480mg/mLが更に好ましく、約250~約450mg/mLがより更に好ましい。
【0121】
上記懸濁化剤Aが含まれ、難溶性薬物が上記の平均粒子径及び濃度条件を満たす注射製剤は、更に好ましく上記(α)及び(β)の効果が奏される。
【0122】
本発明の注射製剤中に含まれる懸濁化剤A(上記(i)又は(ii))の濃度としては、約0.05~約150mg/mLが好ましく、約0.1~約100mg/mLがより好ましく、約0.2~約50mg/mLが更に好ましい。
【0123】
なお、本発明の注射製剤中に、懸濁化剤Aとして上記(i)及び(ii)が含まれる場合、その合計濃度は、約0.05~約150mg/mLが好ましく、約0.1~約100mg/mLがより好ましく、約0.2~約50mg/mLが更に好ましい。
【0124】
本発明の注射製剤は、前記難溶性薬物、懸濁化剤A、及び分散媒以外にも、懸濁化剤A以外の懸濁化剤(以下、「懸濁化剤B」とも表記する)、緩衝剤、pH調整剤、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、保存剤、矯味剤、矯臭剤、等張化剤等の添加剤を適宜含有していてもよい。
【0125】
これらの添加剤としては、例えば、特表2007-509148号公報で挙げられたも
のを用いることができる。
【0126】
懸濁化剤Bとして使用される好適な他の懸濁化剤としては、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然プロダクト(natural products)、及び界面活性剤(非イオン性及びイオ
ン性界面活性剤を含む)、例えば、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシ
チン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス(cetomacrogol emulsifying wax)、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000のようなマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(polyoxyethylene castor oil derivatives);ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ポリオキシエチレンステアレート、コロイダル二酸化ケイ素、ホスフェート、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロースフタレート、非結晶性セルロース(noncrystalline cellulose)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンオキサイド及びホルムアルデヒドとの4-(1,1,3,3-テト
ラメチルブチル)-フェノールポリマー(チロキサポール(tyloxapol)、スペリオン(superione)、及びトリトン(triton)としても公知)、ポロキサミン(例えば、Tetronic 908(登録商標)、Poloxamine 908(登録商標)としても公知、これは、エチレンジアミンへのプロピ
レンオキサイド及びエチレンオキサイドの連続付加から誘導される四官能性ブロックコポリマーである(BASF Wyandotte Corporation, Parsippany, N.J.));荷電リン脂質(charged phospholipid)、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオクチルス
ルホサクシネート(DOSS);Tetronic 1508(登録商標)(T-1508)(BASF Wyandotte Corporation)、スルホコハク酸ナトリウムのジアルキルエステル(例えば、Aerosol OT(登録商標)、これはスルホコハク酸ナトリウムのジオクチルエステルである(American Cyanamid));Duponol P(登録商標)、これはラウリル硫酸ナトリウムである(DuPont);Tritons X-200(登
録商標)、これはアルキルアリールポリエーテルスルホネートである(Rohm and Haas);Crodestas F-110(登録商標)、これはスクロースステアレート及びスクロースジステアレー
トの混合物である(Croda Inc.);p-イソノニルフェノキシポリ-(グリシドール)、Olin-10G(登録商標)又はSurfactant 10-G(登録商標)としても公知(Olin Chemicals, Stamford, Conn.);Crodestas SL-40 (Croda,Inc.);並びにSA9OHCO、これはC18H37CH2(CON(CH3))-CH2(CHOH)4(CH2OH)2である(Eastman Kodak Co.);デカノイル-N-メチルグルカミド;n-デシル-β-D-グルコピラノシド;n-デシル-β-D-マルトピラノシド;n-ドデシル-β-D-グルコピラノシド;n-ドデシル-β-D-マルトシド;ヘプタノイル-N-メチルグルカミド;n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド;n-ヘプチル-β-D-チオグルコシド;n-ヘキシル-β-D-グルコピラノシド;ノナノイル-N-メチルグルカミド;n-ノニル-β-D-グルコピラノシド;オクタノイル-N-メチルグルカミド;n-オクチル-β-D-グルコピラノシド;オクチル-β-D-チオグルコピラノシド等が挙げられる。
【0127】
これらの懸濁化剤Bは、公知の薬学的賦形剤であり、そしてthe American Pharmaceutical Association及びThe Pharmaceutical Society of Great Britainによって共同発行されたthe Handbook of Pharmaceutical Excipientsに詳細に記載されており(The Pharmaceutical Press, 1986)、参照により具体的に組込まれる。前記懸濁化剤Bは、市販されて
おり、また、当該分野において公知の技術によって製造することができる。
【0128】
懸濁化剤Bの濃度としては、例えば約0.1~約50mg/mLが好ましく、約0.1~約20mg/mLがより好ましく、約0.3~約15mg/mLが更に好ましい。
【0129】
また、(i)ポリビニルピロリドンに加え、ポリエチレングリコールを混合して用いる
ことも好ましく、この場合、ポリビニルピロリドンの濃度としては、約0.1mg/mL以上が好ましく、約0.1~約100mg/mLがより好ましい。また、この場合、ポリエチレングリコールの濃度としては、約0.05~約100mg/mLが好ましく、約0.1~約50mg/mLがより好ましい。さらに、ポリエチレングリコールとしてポリエチレングリコール400を用いる場合、ポリエチレングリコール400の濃度としては、約0.1~約100mg/mLが好ましく、約0.1~約10mg/mLがより好ましく、約0.5~約5mg/mLが更に好ましい。また、ポリエチレングリコール4000を用いる場合、ポリエチレングリコール4000の濃度としては、約0.1~約40mg/mLが好ましい。
【0130】
懸濁化剤Aとして(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合においては、ポリエチレングリコールの濃度としては、約0.05~約2mg/mLが好ましく、約0.1~約1mg/mLがより好ましい。
【0131】
また、(i)ポリビニルピロリドンに加え、カルボキシメチルセルロース又はその塩を混合して用いる場合や、懸濁化剤Aとして(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を用いる場合においては、カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度としては、約0.5~50mg/mLが好ましく、1~30mg/mLがより好ましく、2~20mg/mLが更に好ましい。
【0132】
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことにより、製造時に粘度増加を抑え得る。このため、効率よくアリピプラゾール又はその塩などの難溶性薬物を粉砕して所望の粒径とすることが可能となり好ましい。また、ポリエチレングリコールを含むことにより、得られる注射製剤を長期間保存した場合に、離水が防止され得ることから好ましい。
【0133】
分散媒は、前記の難溶性薬物の含有割合の範囲となるように、適量含有される。例えば、最終的に、注射製剤全体の量が約0.2~約5.0mL、より具体的には、約0.4~約3.0mL、更に好ましくは、約0.5~約2.0mLに調製されるような量で分散媒が添加される。
【0134】
また、難溶性薬物、分散媒及び懸濁化剤Aを用いて調製した組成物(注射製剤)が、静置してゲル化しない場合であっても、加熱処理(エイジング処理)を行うことにより、ゲル化させることができる。そして、この場合であっても、本発明の効果が好ましく奏され得るものは、本発明の注射製剤として好ましく用いることができる。すなわち、このようにしてゲル化させた注射製剤であっても、上記の条件、特に、25℃において粘度をレオメーターにより測定すると、少なくとも、剪断速度0.01~0.02s-1の範囲の少なく
とも1点において40Pa・s以上の値が測定され、剪断速度900~1,000s-1
の範囲の少なくとも1点において0.2Pa・s以下の値が測定されるという条件を満たす注射製剤は、本発明の注射製剤として好適に用いることができる。例えば、静置時の温度条件を高めに設定することにより、あるいは、一時的に高めの温度で静置した後、常温(25℃程度)で静置保存することにより、注射製剤のゲル化を好ましく促進させ、本発明の注射製剤を製造し得る。
【0135】
エイジング処理は、例えば約30℃以上(好ましくは30~70℃程度、より好ましく
は40℃~60℃程度、更に好ましくは45~55℃程度)で数分から数日(例えば好ましくは5分~5日程度、より好ましくは1時間~3日程度、更に好ましくは12時間~24時間程度)加熱することで行うことができる。ただし、90℃以上の温度で加熱すると、
水分が蒸発してしまうことから、好ましくない。なお、エイジング処理により、難溶性薬物の二次粒子径が大きくなる傾向があるが、エイジング処理をしたとしても、上記の通り、難溶性薬物の平均二次粒子径が平均一次粒子径の3倍以下程度であることが好ましく、
2倍以下程度であることが更に好ましい。また、注射製剤が凍結してしまう程に低い温度で静置することも好ましくない。
【0136】
上記のことから理解できるように、本発明の注射製剤を静置してゲル化させるにあたっては、静置温度は約5~70℃程度が好ましく、20~70℃程度がより好ましく、25℃~65℃程度が更に好ましい。
【0137】
また、静置時間は、ゲル化させる注射製剤量や静置温度にもよるが、ゲル化するのに必要な時間以上であればよく、例えば、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。1時間以上においては、4時間以上が好ましく、12時間以上がより好ましく、24時間以上が更に好ましい。また、上限も特に限定はされないが、例えば数日(2、3、4又は5日)程度が例示できる。
【0138】
なお、上述したように、静置の間(好ましくは最初)にエイジング処理を組み入れることもできる。
【0139】
本発明の注射製剤には、等張化剤を添加することができる。等張化剤としては、特に限定されるものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトール、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、キシリトール、トレハロース、マルトース、マルチトール等が挙げられ、これらの1種及び2種以上が使用できる。塩化ナトリウムが更に好ましい。等張になる添加量を配合する。
【0140】
緩衝剤は、懸濁液のpHを、約6~約8、好ましくは約7に調整するために使用される。このようなpHを達成するために、緩衝剤の濃度は、その種類に応じて適宜設定されるが、約0.02~約2mg/mLが好ましく、約0.03~約1mg/mLがより好ましい。
【0141】
緩衝剤の具体例としては、リン酸ナトリウム、リン酸水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、それらの水和物、TRIS緩衝剤等から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。リン酸ナトリウム、リン酸水素一ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム及びこれらの水和物が好ましい。
【0142】
pH調整剤は、難溶性薬物の水性懸濁液のpHを、約6~約7.5の範囲、好ましくは約7に調整する量で使用され、本発明の注射製剤のpHに依存して、酸又は塩基が用いられる。注射製剤のpHを低くする場合には、酸性pH調整剤、例えば、塩酸、酢酸等が使用され、好ましくは塩酸が使用される。pHを高くする必要がある場合には、塩基性pH調整剤、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が使用され、好ましくは水酸化ナトリウムが使用される。pH調整剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0143】
本発明の注射製剤の調製方法としては、特に限定されるものではないが、難溶性薬物、懸濁化剤A、分散媒、及び必要に応じて添加剤を混合することによって調製される。より具体的には、懸濁化剤A、分散媒、及び必要に応じて添加剤を混合し、得られるビヒクル溶液と、難溶性薬物を混合し、さらに前記の方法によって、湿式粉砕を行うことによって本発明の注射製剤を得ることができる。なお、注射製剤のゲル化が始まるのを防止するため、調製時の温度は低温(例えば2~10℃程度、特に5℃前後)とするのが好ましい。
【0144】
前記の方法によって、所望の平均粒子径を有する難溶性薬物を含む保存安定性を有する注射製剤が得られる。
【0145】
本発明の注射製剤は、好ましくは1ヶ月1回投与、2ヶ月1回投与、又は3ヶ月1回投与する製剤として適宜調製される。注射製剤は、好ましくは筋肉内投与されるが、皮下注射も同様に許容される。
【0146】
特に本発明の注射製剤中に含まれる難溶性薬物がアリピプラゾール又はその塩である場合には、当該注射製剤は、例えば、ヒト患者における、統合失調症及び関連障害(例えば
、双極性障害、うつ、認知症など)を治療、あるいは症状の再発を予防するために好まし
く使用される。
【0147】
本発明の注射製剤は、上記のように、特定の懸濁化剤Aを含むことで、調製後から患者への投与時までの間において、難溶性薬物の沈降によるケーキングが抑制されて保存安定性に優れ、注射時にはシリンジと細い注射針からスムーズに排出できる注射製剤である。
【0148】
特に、本発明の注射製剤が構造粘性を示す場合には、調製直後は流動性を示すゾル状の形態をとる(
図1参照)。当該ゾル状の注射製剤を静置すると、ゲル状に状態変化し、ゆっくりと傾けた場合でも、流動性を示さない(
図2参照)。当該ゲル状に状態変化した注射製剤は、長時間放置しても難溶性薬物の粒子同士が沈降によるケーキングをせず、安定している。また、ゲル状の注射製剤は、撹拌、振とう、タッピング、外部からの衝撃又は注射針から押し出し圧力によって速やかにゾル状へと状態変化する(
図3参照)。当該ゾル状の注射製剤は、難溶性薬物が沈降によるケーキングがなく、均一に分散され、調製直後の注射製剤が再現されている。
【0149】
限定的な解釈を望むものではないが、このような注射製剤が有する構造粘性及びチキソトロピーは、以下のメカニズムによって生じているものと推測される。
【0150】
前記注射製剤は、分散媒中で、難溶性薬物の粒子と、一部の懸濁化剤Aが付着した構造を有しているものと考えられる。そのため、当該付着した懸濁化剤Aによって、難溶性薬物の粒子間同士に相互作用を示す。
【0151】
難溶性薬物の粒子の表面に付着した懸濁化剤Aの分子間、又は難溶性薬物の粒子の表面に付着した懸濁化剤A分子と、付着せずに分散媒中に存在している懸濁化剤A分子との間、若しくは難溶性薬物の粒子の粒子間で、分子間及び粒子間相互作用が働き、ネットワーク構造が構築されるものと考えられる。当該ネットワーク構造によって、当該注射製剤は、ゲル状へと状態変化するものと考えられる。
【0152】
前記ネットワーク構造が構築された懸濁化剤Aによる分子間相互作用は、弱い結合力である。そのため、撹拌、振とう、タッピング、外部からの衝撃又は注射針からの押し出し圧力等に対して、当該ネットワーク構造は崩れ、結果的に、ゲル状の注射製剤はゾルへと状態変化する。なお、注射製剤がゾル状態である場合、静置すると上記のネットワーク構造が再構築されるため、再び、ゲル状へと状態変化する。
【0153】
本発明の注射製剤は、そのまま、バイアルやシリンジに充填することができる点も大きな利点である。
【0154】
例えば、従来のアリピプラゾール又はその塩の投与形態としては、アリピプラゾール又はその塩を有効成分として含む懸濁液を調製し、さらに当該懸濁液をバイアル内で凍結乾燥し、使用時に、注射用液をバイアルに注入して、シリンジで吸出し、患者に投与するという形態をとっていた。
【0155】
本発明の使用形態では、注射製剤として、そのままバイアル又はシリンジに充填して用
いるため、注射製剤の製造過程で凍結乾燥を行う必要がなく、簡便に調製することができる。
【0156】
特に、本発明の注射製剤は、シリンジにそのまま充填することで、プレフィルドシリンジとして使用することが可能である。この場合、シリンジの構造がシンプルとなり、かつ小型軽量化が可能となる。また、シリンジに本発明の注射製剤を充填した場合は、好ましい事例では、シリンジを振とうする必要もなく、シリンジのプランジャーロッドを押し、本発明の注射製剤を注射針を通して押し出すだけで、ゾル状態の懸濁液が投与可能になる。臨床上、非常に利便性及び操作性に優れたプレフィルドシリンジの提供が可能になり、医療上・産業上極めて有用である。このようなプレフィルドシリンジを製造するにあたっては、例えば上記のように注射製剤を調製したのち、当該注射製剤をシリンジにプレフィルドして、上記のように静置保存して注射製剤をゲル化させる方法が好ましく例示できる。なお、本発明は、当該プレフィルドシリンジを備えたキットも包含する。
【0157】
なお、本願発明の注射製剤に用いる難溶性薬物としては、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、が特に好適である。よって、以下、難溶性薬物としてアリピプラゾール又はその塩を含む注射製剤、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含む注射製剤の更に好ましい態様について、詳述する。ただし、以下の記載により特に限定されない限りは、難溶性薬物としてアリピプラゾール又はその塩を含む注射製剤、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含む注射製剤についても、これまでの上記説明が当てはまる。
【0158】
アリピプラゾール又はその塩を含む本発明の注射製剤は、アリピプラゾール又はその塩、水、及び以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が約0.5~約30μmであり、アリピプラゾール又はその塩の濃度が200~600mg/mLであることが好ましい。
【0159】
特に、本発明の注射製剤がアリピプラゾール又はその塩を含む場合(以下、「本発明の
アリピプラゾール注射製剤」ともいう)には、アリピプラゾール又はその塩の濃度は重要
であり、200~600mg/mLを外れた濃度において、上記(α)及び(β)の効果を奏する注射製剤を製造することは難しく、特に100mg/mL以下の濃度においては、たとえ懸濁化剤Aを用いたとしても(更にはエイジング処理を行ったとしても)ゲル化する注射製剤を製造することは困難である。したがって、本発明の注射製剤がアリピプラゾール又はその塩を含む場合には、特定の懸濁化剤(懸濁化剤A)及び特定のアリピプラゾール又はその塩の濃度(200~600mg/mL、より好ましくは250~450mg/
mL)の組み合わせが特に重要である。なお、本発明の注射製剤がアリピプラゾールの塩
を含む場合、当該濃度はアリピプラゾール換算の濃度であることが好ましい。
【0160】
また、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含む本発明の注射製剤は、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩、水、及び以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、
7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が約0.5~約30μmであり、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の濃度が200~600mg/mLである。
【0161】
特に、本発明の注射製剤が7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含む場合(以下
、「本発明のブレクスピプラゾール注射製剤」ともいう)には、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の濃度は重要であり、200~600mg/mLを外れた濃度において、上記(α)及び(β)の効果を奏する注射製剤を製造することは難しく、特に100mg/mL以下の濃度においては、たとえ懸濁化剤Aを用いたとしても(更にはエイジング処
理を行ったとしても)ゲル化する注射製剤を製造することは困難である。したがって、本
発明の注射製剤が7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を含む場合には、特定の懸濁化剤(懸濁化剤A)及び特定の7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の濃度(200~
600mg/mL、より好ましくは250~450mg/mL)の組み合わせが特に重要
である。なお、本発明の注射製剤がブレクスピプラゾールの塩を含む場合、当該濃度はブレクスピプラゾール換算の濃度であることが好ましい。
【0162】
本発明のアリピプラゾール注射製剤、又はブレクスピプラゾール注射製剤において、懸濁化剤Aとして前記(i)ポリビニルピロリドンが含まれる場合、ポリビニルピロリドンの濃度は0.1~100mg/mLが好ましく、1~50mg/mLがより好ましく、2~20mg/mLが更に好ましい。
【0163】
また、本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤が、懸濁化剤Aとして(i)ポリビニルピロリドンを含み、更に1以上の他の懸濁化剤をも含む場合には、当該1以上の他の懸濁化剤としては、ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩からなる群より選択される少なくとも1種が含まれることが好ましい。すなわち、これらの本発明の注射製剤は、懸濁化剤Aとして(i)ポリビニルピロリドンを含み、さらに1以上の他の懸濁化剤をも含む場合には、懸濁化剤として、以下の(i-1)~(i-3)のいずれかを含むことが、好ましい。
(i-1)ポリビニルピロリドン、及びポリエチレングリコール
(i-2)ポリビニルピロリドン、及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
(i-3)ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
【0164】
なお、これらの本発明の注射製剤は、(i-1)~(i-3)のいずれを含む場合においても、ポリビニルピロリドンの濃度は、上記の通り、0.1~100mg/mLが好ましく、1~50mg/mLがより好ましく、2~20mg/mLが更に好ましい。(i-1)又は(i-3)においては、ポリエチレングリコールの濃度は、約0.05~約100mg/mLが好ましく、約0.1~約50mg/mLがより好ましい。(i-2)又は(i-3)においては、カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度は、約0.5~約50mg/mLが好ましく、1~30mg/mLがより好ましく、2~20mg/mLが更に好ましい。
【0165】
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含むことにより、製造時に粘度増加を抑え得る。このため、効率よくアリピプラゾール又はその塩、あるいはブレクスピプラゾール又はその塩を粉砕して所望の粒径とすることが可能となり好ましい。また、ポリエチレングリコールを含むことにより、得られる注射製剤を長期間保存した場合に、離水が防止され得ることから好ましい。(i-1)~(i-3)の中でも、これら両方の効果を得られうることから、特に(i-3)が好ましい。
【0166】
また、本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤が、懸濁化剤Aとして(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を含む場合は、ポリエチレングリコールの濃度は、約0.05~約2mg/mLが好ましく、約0.1~約1mg/mLがより好ましい。カルボキシメチルセルロース又はその塩の濃度は、約0.5~50mg/mLが好ましく、1~30mg/mLがより好ましく、2~20mg/mLが更に好ましい。
【0167】
また、本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤が、懸濁化剤Aとして(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、さらに1以上の他の懸濁化剤をも含む場合には、当該1以上の他の懸濁化剤としては、ポリビニルピロリドンが含まれることが好ましい。すなわち、本発明の注射製剤は、懸濁化剤Aとして(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩を含み、さらに他の懸濁化剤をも含む場合には、懸濁化剤として、上記(i-3)を含むことが、より好ましい。なお、この場合においては、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース又はその塩、及びポリビニルピロリドンの濃度は、上記(i-3)について記載した通りである。
【0168】
本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤において(i-3)の懸濁化剤を用いる場合に、特に好ましい組成としては、ポリビニルピロリドンが、0.5~20mg/mL、ポリエチレングリコールが0.1~100mg/mL、カルボキシメチルセルロース又はその塩が0.5~50mg/mL、アリピプラゾール又はその塩が250~450mg/mL(より好ましくは300~400mg/mL)、という組成が挙げられる。また、この際に、ポリエチレングリコールがポリエチレングリコール400
又はポリエチレングリコール4000であるとより好ましい。また、ポリビニルピロリドンが、K値が約12~約20のものであると更に好ましい。また、アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が、1~10μmであるとより更に好ましい。
【0169】
また、アリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径は、あまりに大きすぎると沈降してしまうおそれがあるため、好ましくは約0.5~約30μm程度であり、約1~約20μm程度がより好ましい。持効性を維持するためには、1ヶ月1回投与における本発明の注射製剤のアリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1~約10μm、より好ましくは2~7μm、更に好ましくは2~4μmである。2
ヶ月1回投与又は3ヶ月1回投与における本発明の注射製剤のアリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1~約50μm、より好ましくは4~30μm、更に好ましくは5~20μmである。
また、平均二次粒子径は平均一次粒子径の3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましい。
【0170】
なお、本発明のアリピプラゾール注射製剤についてさらに詳説すると、1ヶ月1回投与
における本発明の注射製剤のアリピプラゾール又はその塩の含有量は、アリピプラゾール換算で、好ましくは約200~約600mg/mL、より好ましくは約200~約400mg/mL、更に好ましくは約300mg/mLである。1ヶ月1回投与における本発明の注射製剤において、アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1
~約10μm、より好ましくは1~5μm、更に好ましくは2~4μmである。投与容量
は、好ましくは0.3~3mL、より好ましくは0.6~2mL、更に好ましくは1~1.5mLである。
【0171】
2ヶ月1回投与又は3ヶ月1回投与における本発明の注射製剤のアリピプラゾール又はその塩の含有量は、アリピプラゾール換算で、好ましくは約300~約600mg/mL、より好ましくは約350~約500mg/mL、更に好ましくは約400mg/mLである。2ヶ月1回投与又は3ヶ月1回投与における本発明の注射製剤において、アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1~約30μm、より好ましくは
4~20μm、更に好ましくは5~10μmである。2ヶ月1回投与の場合、投与容量は、好ましくは0.5~5mL、より好ましくは1~3mL、更に好ましくは1.5~2.
5mLである。3ヶ月1回投与の場合、投与容量は、好ましくは0.7~8mL、より好ましくは1.5~4.5mL、更に好ましくは2~4mLである。
【0172】
また、本発明のブレクスピプラゾール注射製剤について更に詳説すると、1ヶ月1回投与における本発明の注射製剤のブレクスピプラゾール又はその塩の含有量は、ブレクスピプラゾール換算で、好ましくは約200~約600mg/mL、より好ましくは約200~約400mg/mL、更に好ましくは約300mg/mLである。1ヶ月1回投与における本発明の注射製剤において、ブレクスピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1~約10μm、より好ましくは1~5μm、更に好ましくは2~4μmである。投与容量は、好ましくは0.3~3mL、より好ましくは0.6~2mL、更に好ましくは1~1.5mLである。
【0173】
2ヶ月1回投与又は3ヶ月1回投与における本発明の注射製剤のブレクスピプラゾール又はその塩の含有量は、ブレクスピプラゾール換算で、好ましくは約300~約600mg/mL、より好ましくは約350~約500mg/mL、更に好ましくは約400mg/mLである。2ヶ月1回投与又は3ヶ月1回投与における本発明の注射製剤において、ブレクスピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径は、好ましくは約1~約30μm、よ
り好ましくは4~20μm、更に好ましくは5~10μmである。2ヶ月1回投与の場合、投与容量は、好ましくは0.5~5mL、より好ましくは1~3mL、更に好ましくは1.5~2.5mLである。3ヶ月1回投与の場合、投与容量は、好ましくは0.7~8
mL、より好ましくは1.5~4.5mL、更に好ましくは2~4mLである。
【0174】
本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤は、上記(α)及び(β)の効果を奏するものであり、ゲル状である場合と流動性を示す場合(すなわち
ゾル状)である場合とがある。また、(α)及び(β)の効果を奏するかを、回転式レオ
メーターを用いて客観的に確認することができることは、上記の通りである。
【0175】
本発明のアリピプラゾール注射製剤又はブレクスピプラゾール注射製剤を製造するに当たっては、原料を混合した混合液を調製し、これに含まれるアリピプラゾール又はその塩、あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を所望の平均一次粒子径となるよう粉砕し、更に必要に応じてエイジング処理を行う方法が好適である。
【0176】
特に、本発明のゲル状のアリピプラゾール注射製剤の製造には、アリピプラゾール又はその塩を200~600mg/mL、水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、前記アリピプラゾール又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである混合液を5~70℃で5分以上静置すること、を含む、製造方法を好適に用いることができる。また、例えば、アリピプラゾール又はその塩を200~600mg/mL、水、及び以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、アリピプラゾール又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、上記粉砕後の混合液を5~70℃で5分以上静置すること、を含む、製造方法を、好適に用いることができる。
【0177】
また特に、本発明のゲル状のブレクスピプラゾール注射製剤の製造には、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、水、及び
以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含み、前記7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の平均一次粒子径が0.5~30μmである混合液を5~70℃で5分以上静置すること、を含む、製造方法を好適に用いることができる。また、例えば、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を200~600mg/mL、水、及び以下の(i)及び(ii)からなる群より選択される少なくとも1の懸濁化剤
(i)ポリビニルピロリドン
(ii)ポリエチレングリコール及びカルボキシメチルセルロース又はその塩
を含む混合液中で、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕して平均一次粒子径を0.5~30μmとすること、並びに、上記粉砕後の混合液を5~70℃で5分以上静置すること、を含む、製造方法を、好適に用いることができる。
【0178】
なお、これらの注射製剤を製造するにあたり、上記の通り5~70℃で5分以上静置することが好ましく、また、エイジング処理を行うことがより好ましい。エイジング処理を行うことにより、(例えば、低温で静置する場合や衝撃が断続的に生じる状況に置く場合
に比べて)より確実にゲル状組成物を製造することができる。また、上述したエイジング
処理条件であれば、水分が蒸発したり、あるいは、固くゲル化してしまい衝撃を与えても簡単にはゾル状とならない、といった問題もほとんど発生しない。
【0179】
また、上記混合液中に含まれる懸濁化剤の濃度は、上述した、注射製剤に含まれる懸濁化剤の濃度と同様であることが好ましい。当該混合液中の懸濁化剤の濃度が、そのまま注射製剤中の濃度となるからである。
【0180】
また、本発明のアリピプラゾール注射製剤を製造する場合における、混合液に配合されるアリピプラゾール又はその塩は、例えば上述のように、一水和物形態(アリピプラゾー
ル水和物A)、並びに多数の無水形態、即ち無水結晶B、無水結晶C、無水結晶D、無水
結晶E、無水結晶F、又は無水結晶Gであり得る。アリピプラゾール又はその塩は、好ましくは一水和物形態であり、アリピプラゾール水和物Aが特に好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0181】
また、本発明のブレクスピプラゾール注射製剤を製造する場合における、混合液に配合される7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩は、特に制限されないが、例えば無水物形態又は二水和物形態であり得る。好ましくは二水和物形態である。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0182】
また、混合液中のアリピプラゾール又はその塩あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩を粉砕する方法としては、特に制限されず、公知の方法を用い得る。例えば上述の方法を用い得る。具体的には、湿式粉砕手法が好ましい。湿式粉砕手法としては、湿式ボールミリング(wet ball milling)や高圧ホモジナイザー粉砕(high pressure homogenization)、高剪断ホモジナイゼーション(high shear homogenization)等が好ましい。前
記粉砕手法に加えて、他の低及び高エネルギーミル(例えば、ローラーミル)も使用することができる。その他の方法としては(and other methods)、制御された晶析法(controlled
crystallization)も挙げられる。また、例えば、ブリストル-マイヤーズスクイブ社か
ら出願されている衝突噴流結晶化方法(impinging jet crystallization method)(特表2
007-509153号公報参照)や大塚製薬株式会社により出願されている高圧ホモジ
ナイザーを用いた湿式粉砕方法(特願2007-200088号参照)等が挙げられるが、大塚製薬株式会社により出願されている高圧ホモジナイザーを用いた湿式粉砕方法(特に2段階湿式粉砕方法)がより好ましい。
【0183】
また、上記のゲル状のアリピプラゾール注射製剤の製造方法又はゲル状のブレクスピプラゾール注射製剤の製造方法において、当該混合液をシリンジに充填して静置することにより、ゲル状のアリピプラゾール注射製剤又はゲル状のブレクスピプラゾール注射製剤がプレフィルドされたプレフィルドシリンジを製造することができる。
【0184】
このようにして得られるプレフィルドシリンジは、中に含まれる注射製剤(ゲル状組成
物)を、シリンジのプランジャーロッドを押し込み注射針から排出させるだけで、流動性
を示す(ゾル状になる)ため、そのままスムーズに注射針から排出させることが可能である(すなわち、上記(β)効果を奏する)うえ、アリピプラゾール又はその塩あるいは7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン又はその塩の沈降とケーキングが抑制され、よって、保存安定性に優れる(すなわち、上記(α)効果を奏する)ことから、本発明の注射製剤は特に臨床現場において極めて有用である。
【0185】
なお、本発明は、当該プレフィルドシリンジを備えたキットも包含する。
【実施例0186】
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。なお、「q.s.」はquantum sufficiatの略であり、適量(sufficient quantity)という意味を表す。
【0187】
実施例1~7
表1に示す懸濁化剤、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物を水(注射用
水)で溶解し、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、ビヒクル溶液を調製した。有効
成分(アリピプラゾール一水和物)を調製したビヒクル溶液で懸濁し、クレアミックスS1.5
(メーカー:M Technique Co., Ltd.)にて予備粉砕を行い、高圧ホモジナイザーPanda model NS1001L2K (メーカー:Niro Soavi)で粉砕を行い、各注射製剤を調製した。なお、注射製剤の調製は、ビヒクル溶液に有効成分を懸濁する以降の操作はいずれも10℃以下で
行った。
【0188】
得られた各注射製剤の調製直後は、いずれも流動性を示しゾル状の懸濁液であった。
図1に実施例1の注射製剤の調製直後の写真を示す。得られた各注射製剤を透明な容器に入れて1時間、25℃にて静置したところ、いずれの注射製剤も流動性がなくなり、ゲル状
の注射製剤が得られた。実施例1の注射製剤入り容器を当該静置後、ゆっくりと傾けて倒した状態の写真を
図2に示す。さらに、ゲル化した各注射製剤を穏やかに振とうしたところ、ゲル化した注射製剤は、いずれもゾル化し、再び流動性を示した。実施例1の注射製剤を容器に入れ静置後、さらに容器をたたき(すなわち、ゲル化した注射製剤に弱い衝撃
を与え)、当該容器を傾けて倒し水平にした状態の写真を
図3に示す。
【0189】
実施例1~7の各注射製剤について、ゲル化後、更に40℃で1週間保管してから、振
とうして測定した平均粒子径(平均二次粒子径)を表1に示す。また、当該振とう時に超音波処理を行った際の平均粒子径(平均一次粒子径)を表1に示す。なお、平均粒子径の測定は、測定装置としてSALD-3000J (メーカー:島津製作所)を使用し、レーザー回折散乱法
により行った。以下の注射製剤(製造例)における薬物の平均粒子径の測定も、当該測定装置を使用し、レーザー回折散乱法により行った。
【0190】
さらに実施例1~7の各注射製剤について、振とう後のサンプルを1.0~1.2mL
採取し、25℃、50rpm、120秒の条件下で、B型回転粘度計(株式会社トキメッ
ク製のTVE-30H型円すい-平板形回転粘度計)を用いて粘度を測定した。表1に当該測定結果を示す。なお、前記粘度測定は、日本薬局方 粘度測定法 第2法に準じて行った。
【0191】
【0192】
試験例1
上記実施例1~7を調製したのと同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合し
pHを7.0に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下の表2に記載の組成を有する注射製剤(製造例A1~A6)を調製した。なお
、得られた製造例について、調製直後に、アリピプラゾール一水和物の平均一次粒子径及び平均二次粒子径を測定したところ、いずれも平均一次粒子径は約2.0~4.0μmであり、平均二次粒子径は約2.0~7.5μmであった(表2)。
【0193】
【0194】
調製後、それぞれの製造例を透明な容器に入れ、5℃、25℃、又は40℃で5日間静置保存した。容器に入れた注射製剤を保存後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態の写真を
図4a(5℃保存)、
図4b(25℃保存)、及び
図4c(40℃保存)に示す。なお、試験例1の説明(特に図表中)において、製造例A1を「ポビドンK17 0.1 mg/mL」と、製造
例A2を「ポビドンK17 1.0 mg/mL」と、製造例A3を「ポビドンK17 4.0 mg/mL」と、製造例A4を「ポビドンK17 10.0 mg/mL」と、製造例A5を「ポビドンK17 50.0 mg/mL」と、製造例A6を「ポビドンK17 100 mg/mL」と、それぞれ表記することがある。
【0195】
図4a~cの結果から、ポリビニルピロリドン(ポビドンK17)の濃度が低い方がゲル化
しやすい傾向があること、及び静置温度が高い方がゲル化しやすい傾向があること、が認められた。ただし、90℃で静置した場合には、水分が蒸発してしまい、注射製剤として不適な状態となった。
【0196】
さらに、5℃で保存した各製造例の製剤について、手でよく振とうしてゾル状としてから(静置後もゾル状である製剤についても念のため振とうしてから)レオメーターに供し、それぞれの粘度を測定した。当該粘度測定の条件は次の通りである。
【0197】
・測定装置:レオメーター〔Discovery Hybrid Rheometer-2 (DHR-2)又はDiscovery Hybrid Rheometer-3 (DHR-3)(メーカー:TAインスツルメント)
・剪断速度(Shear rate):10-5→1,000 (1/s)
・測定温度:5、25、40℃
・共軸二重円筒(Concentric Cylinder)を使用
・5℃で保存した各製造例の製剤を手で振とうしてゾル状としてから測定装置内に10mL入れ、各製造例の製剤を投入後、測定温度で5分~10分静置し、測定を開始した(
注射製剤がゲル化するものについては、当該測定装置内での静置により測定装置内でゲル化させることを意図している)。
【0198】
なお、以下、注射製剤(製造例)の粘度を測定するにあたっては、これと同様に、同じ測定装置を用い、剪断速度の変化範囲も同じとした。また、これと同様に共軸二重円筒を使用した。また、これと同様に、測定装置にサンプル投入後、測定温度で5分~10分静置してから測定を開始した。
【0199】
当該粘度測定の結果を
図5a(測定温度:5℃)、
図5b(測定温度:25℃)、及び
図5c(測定温度:40℃)に示す。なお、これらの図には、剪断速度10
-2~1,000(
1/s)の範囲での結果を示す。またさらに、各測定において、剪断速度0.01~0.
02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表3~表5に示す。表3は
図5aのデータと、表4は
図5bのデータと、表5は
図5cのデータと、それぞれ対応する。
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
特に
図5b及び表4(25℃での測定結果)をみると、ポリビニルピロリドンの濃度が2~50mg/mL程度であるときに、いずれの剪断速度においても最も粘度が低く、かつゲル化も達成されていることがわかった。したがって、ポリビニルピロリドン濃度が低い
方が粘度が高く、ポリビニルピロリドン濃度が高くなると20~50mg/mL程度までは粘度が低くなり、約100mg/mL以上に濃度が高くなると、粘度も再度高くなる傾向があることが認められた。
【0204】
試験例2
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表6に記載の組成を有する注射製剤(製造例B、C及びD)を調製した。これらの注射製剤は、25℃又は40℃で静置するとゲル化した。これらの注射製剤は、ゲル化しても手で軽く振とうするだけでゾル状となった。なお、アリピプラゾール一水和物の平均粒子径測定結果は次のとおりであった。製造例Bの平均一次粒子径は2.2μmであり、平均二次粒子径は2.4μmであった。また、製造例Cの平均一次粒子径は4.2μmであり、平均二次粒子径は4.3μmであった。製造例Dの平均一次粒子径は3.9μmであり、平均二次粒子径は3.9μmであった。
【0205】
【0206】
5℃で保存した製造例B~Dの注射製剤について、手で振とうしてゾル状としてからレオメーターに供し、5℃、25℃、又は40℃(測定温度)でそれぞれの粘度を測定した。なお、5℃保存後の製造例B及びCの注射製剤はゾル状であった。5℃保存後の製造例Dの注射製剤はゲル状であった。
【0207】
測定結果を、それぞれ
図6~8に示す。また、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をそれぞれ表7~9に示す(製造例Bの測定結果が
図6及び表
7、製造例Cの測定結果が
図7及び表8、製造例Dの測定結果が
図8及び表9に示される。)。
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
試験例3
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表10に記載の組成を有する注射製剤(製造例E)を調製した。製造例Eの注射製剤は、ゲル化しても手で軽く振とうするだけでゾル状となった。なお、アリピプラゾール一水和物の平均粒子径の測定結果は次のとおりであった。製造例Eの平均一次粒子径は5.4μmであり、平均二次粒子径は9.5μmであった。
【0212】
【0213】
製造例Eの注射製剤について、5℃で保存後、手でよく振とうしてゾル状としてからレオメーターに供し、5℃、25℃、又は40℃(測定温度)でそれぞれの粘度を測定した。結果を
図9aに示す。また、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値を表11に示す。
【0214】
【0215】
また、製造例Eの注射製剤を調製後、5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したところ、いずれの条件でも製造例Eの注射製剤はゲル化していた(注射製剤を容器に入れ5
日間静置保存した後の写真を
図9bに、保存後にゆっくりと傾けて倒し水平にした、注射製剤を含む容器の写真を
図9cに、それぞれ示す。)。
【0216】
製造例A1~Eの粘度測定結果は、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定される注射製剤の粘度が約40(Pa・s)以上であれば、製剤がゲル状であること、剪断速度が大きくなると製剤がゾル状となること、特に剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定される注射製剤の粘度が約0.2Pa・s以下であれば、そのまま注射することが可能な状態だといえること、を示している。
【0217】
試験例4
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表12に記載の組成を有する注射製剤(製造例F1及びF2)を調製した。製造例F1及びF2の注射製剤は、ゲル化しなかった。なお、アリピプラゾール一水和物の平均粒子径の測定結果は次のとおりであった。製造例F1の平均一次粒子径は3.2μmであり、平均二次粒子径は5.6μmであった。また、製造例F2の平均一次粒子径は2.7μmであり、平均二次粒子径は2.7μmであった。
【0218】
【0219】
製造例F1及びF2の注射製剤について、5℃で保存した後、手でよく振とうしてからレオメーターに供し、5℃又は25℃(測定温度)でそれぞれの粘度を測定した。結果を
図10aに示す。
【0220】
また、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値を表13に示す。
【0221】
【0222】
また、製造例F1及びF2の注射製剤の調製後、5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したところ、いずれの条件でも、製造例F1及びF2の注射製剤はゲル化していなかった。注射製剤を容器に入れ5日間静置保存した後の容器の写真を
図10bに、保存した後にゆっくりと傾けて倒して水平にした注射製剤を含む容器の写真を
図10cに、それぞ
れ示す。なお、試験例4の説明(特に図表中)において、製造例F1を「ポビドンK17 0.1 mg/mL」と、製造例F2を「ポビドンK17 4.0 mg/mL」と、それぞれ表記することがある。特に、
図10bから、いずれの条件でも、製造例F1及びF2において、粒子の沈降がみられることがわかった。ゲル化により粒子の均一な分散を保つ本発明の注射製剤としては、製造例F1及びF2は不適であることがわかった。
【0223】
以上の試験例1~4の結果から、懸濁化剤としてポリビニルピロリドンを用い、難溶性薬物の注射製剤を調製することにより、静置によりゲル化し、かつ軽い衝撃(例えば手で
振とうする等)を与えるだけでゾル状に戻る注射製剤を調製することが可能であることが
わかった。
【0224】
また、難溶性薬物として特にアリピプラゾールを用いた場合には、アリピプラゾールが特定の平均一次平均粒子径を有し、かつ200mg/mL~600mg/mLの濃度を有する注射製剤を調製することによって、静置によりゲル化し、かつ軽い衝撃(例えば手で
振とうする等)を与えるだけでゾル状に戻る注射製剤を調製することが可能であることが
わかった。また、特に約20~70℃程度の温度下で静置保存することにより好ましくゲル化され、且つ、軽い衝撃によりゾル状に戻ることがわかった。
【0225】
試験例5
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表14に記載の組成を有する注射製剤(製造例G、H及びI)を調製した。なお、これらの製造例の調製には、アリピプラゾール以外の難溶性薬物を用いた(表14参照)。調製後、製造例G、H及びIの注射製剤の粘度及び難溶性薬物の平均粒子径を上記製造例と同様に測定した。ここで調製した製造例G、H及びIの製剤は、ゲル化しても手で軽く振とうするだけでゾル状となった。
【0226】
【0227】
調製後、それぞれの製造例の製剤を透明な容器に入れ、5℃、25℃、又は40℃で5日間静置保存した。保存後、ゆっくりと傾けて倒し水平にした状態の注射製剤を含む容器の写真を
図11に示す。
【0228】
さらに、5℃で保存した各製造例の製剤について、手でよく振とうしてからレオメーターに供し、5℃、25℃、又は40℃(測定温度)でそれぞれの粘度を上記と同様にして測定した。製造例Gの粘度測定結果を
図12に、製造例Hの粘度測定結果を
図13に、製造例Iの粘度測定結果を
図14に、それぞれ示す。またさらに、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表15~表17に示す。表15は
図12のデータと、表16は
図13のデータと、表17は
図14のデータと、それぞれ対応する。
【0229】
【0230】
【0231】
【0232】
試験例6
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表18に記載の組成を有する注射製剤(製造例J)を調製した。製剤例Jの注射製剤は、5℃、25℃又は40℃で静置するとゲル化した。当該製造例Jの注射製剤は、ゲル化しても手で軽く振とうするだけでゾル状となった。なお、アリピプラゾール一水和物の平均粒子径測定結果は次のとおりであった。製造例Jの平均一次粒子径は5.5μmであり、平均二次粒子径は6.9μmであった。
【0233】
【0234】
製造例Jの注射製剤について、5℃で保存後、手でよく振とうしてゾル状としてからレオメーターに供し、5℃、25℃、又は40℃(測定温度)でそれぞれの粘度を測定した。結果を
図15に示す。また、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値を表19に示す。なお、5℃で5日間静置保存後に製造例Jの注射製剤はゲル化していた。
【0235】
【0236】
試験例7
上記実施例1~7と同様にして(すなわち、有効成分以外の成分を混合しpHを7.0
に調整したビヒクル溶液をまず調製し、これに有効成分を懸濁し、粉砕を行って)、以下
の表20に記載の組成を有する注射製剤(製造例K及びL)を調製した。調製後、当該注射製剤を60℃12時間で静置することによりエイジング処理を行った。また、WO2005/041937の実施例に記載の方法に準じて、アリピプラゾールを200mg/mL又は400mg/mL含む凍結乾燥注射製剤を調製した(それぞれ、比較例200、比較
例400とする)。なお、アリピプラゾール一水和物の平均粒子径測定結果は次のとおり
であった。製造例Kの平均一次粒子径は2.8μmであり、平均二次粒子径は4.3μmであった。また、製造例Lの平均一次粒子径は6.1μmであり、平均二次粒子径は7.9μmであった。そして、比較例200の平均一次粒子径は2.1μmであり、平均二次粒子径は2.1μmであった。比較例400の平均一次粒子径は2.0μmであり、平均二次粒子径は2.1μmであった。
【0237】
これらの注射製剤を、製造例K及び比較例200は50mg/kgの用量で、製造例L及び比較例400は100mg/kgの用量で、雄性ラットの下腿筋中へ注射した。投与後のアリピプラゾールの血中移行性評価のために、血液サンプルを投与後0.25、1、3、6、9、14、21、28、42、及び56日後に採取し、血清中におけるアリピプラゾールの濃度をそれぞれ測定した。なお、製造例K及び製造例Lの注射製剤は、調製後バイアルに入れて静置してゲル化させ、投与前に軽く振とうしてゲル状からゾル状へと変化させてから投与した。比較例200及び比較例400の注射製剤は、凍結乾燥されたものを水で再構成してから投与した。
【0238】
【0239】
【0240】
製造例Kは、比較例200とほぼ同等の薬物動態(PK)プロファイルを示し、1ヶ月当た
り1回投与される持効性注射製剤として好ましいPKプロファイルであった。製造例Lは、
比較例400に比べ、Cmaxが低くなり、且つ持続性も同等以上であることから、2~3ヶ月当たり1回投与される持効性注射製剤として、より好ましいPKプロファイルであっ
た。
【0241】
試験例8
試験例1において、5℃で保存した注射製剤(製造例A3~A6)について、再度粘度測定を行った。具体的には、5℃で静置した製造例A3~A6の注射製剤はゾル状ではあるが、手で振とうしてゾル状であることを確認してからレオメーターに供し、40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから測定を行った点以外は、試験例1と同様にして粘度測定を行った。
【0242】
当該粘度測定の結果を
図17に示す。また、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表21を示す。
【0243】
【0244】
試験例9
試験例2において、5℃で保存した注射製剤(製造例B及びC)について、再度粘度測定を行った。具体的には、5℃で静置した製造例B及びCの注射製剤はゾル状ではあるが、手で振とうしてゾル状であることを確認してからレオメーターに供し、40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから測定を行った点以外は、試験例2と同様にして粘度測定を行った。
【0245】
当該粘度測定の結果を
図18に示す。なお、
図18には、試験例2で測定温度5℃又は25℃で粘度測定した結果も併せて示す。また、
図18において、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表22に示す。表22中、測定温度欄の「40→25」は、製剤をレオメーター内で40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから測定したことを示す(以下の表も同様)。
【0246】
【0247】
試験例10
ポビドンK17の配合量を0.1mg/mLではなく4mg/mLとした以外は、試験例3で製造例Eを調製したのと同様にして、注射製剤(製造例E’)を調製し、5℃、25℃又は40℃で保存した。そして、5℃で保存した製造例E及びE’の製剤について、試験例3と同様にして粘度測定を行った。具体的には、5℃で静置した製造例E’の注射製剤はゾル状ではあったが、製造例E及びE’の製剤を手で振とうしてゾル状であることを確認してからレオメーターに供し、40℃で5分間静置し、その後25℃に戻してから測定を行った。また、製造例E’の製剤については、試験例3と同様の粘度測定も行った(
測定温度:5℃又は25℃)。
【0248】
当該粘度測定の結果を
図19aに示す。なお、
図19aには、試験例3で測定温度5℃又は25℃で製造例Eを粘度測定した結果も併せて示す。また、
図19aにおいて、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表23に示す。
【0249】
【0250】
また、製造例E’の注射製剤を5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したところ、40℃保存した製剤だけがゲル化していた(保存後にゆっくりと倒し水平にした注射製剤
を含む容器の写真を
図19bに示す。なお、図表中では、製造例E’を「ポビドンK17 4.0 mg/mL」と、表記することがある。)。
【0251】
試験例11
有効成分として7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン二水和物を用い、試験例1で製造例A1及びA2を製造したのと同様にして、以下の表24に記載の組成を有する注射製剤(製造
例M1及びM2)を調製した。なお、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イ
ル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン二水和物は、下記合成例1にて調製したものを用いた。
【0252】
製造例M1及びM2の注射製剤は、ゲル化しても手で軽く振とうするだけでゾル状となった。なお、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン二水和物の平均粒子径測定結果は次のとおりであった。製造例M1の平均一次粒子径は8.8μmであり、平均二次粒子径は10.8μmであった。また、製造例M2の平均一次粒子径は8.3μmであり、平均二次粒子径は10.2μmであった。
【0253】
【0254】
5℃で静置した後、製造例M1及びM2の注射製剤について粘度測定を行った。具体的には、5℃で静置した製造例M2の製剤はゾル状ではあったが、製造例M1及びM2の製剤とも手で振とうしてゾル状であることを確認してからレオメーターに供し、試験例1と同様にして5℃、25℃、又は40℃(測定温度)で粘度測定を行った。
【0255】
当該粘度測定の結果を
図20aに示す。また、
図20aにおいて、剪断速度0.01~0.02(1/s)の範囲で測定された粘度、及び剪断速度900~1,000(1/s)の範囲で測定された粘度について、具体的な数値をまとめたものを表25に示す。
【0256】
【0257】
また、製造例M1及びM2の注射製剤を調製後、5℃、25℃又は40℃で5日間静置保存したところ、製造例M2の製剤を5℃で保存したもの以外は、いずれもゲル化していた(5日間静置後にゆっくりと倒し水平にした注射製剤を含む容器の写真を
図20bに示
す。なお、試験例11の説明において、製造例M1を「ポビドンK17 0.1 mg/mL」と、製
造例M2を「ポビドンK17 1.0 mg/mL」と、それぞれ表記することがある。)。
【0258】
合成例1
メタノール(149L)、7-ヒドロキシ-1H-キノリン-2-オン(14.87kg)、及び水酸化カリウム(6.21kg)を反応容器中で混合し、得られた混合物を攪拌した。溶解後、1-ブロモ-4-クロロブタン(47.46kg)を配合し、還流下7時間攪拌した。その後、10℃で1時間攪拌した。析出晶を遠心分離し、メタノール(15L)で洗浄後、wet晶(wet crystal)を取り出しタンクに仕込んだ。水(149L)を加え、室温
で攪拌した。遠心分離し、水(30L)で洗浄後、wet晶を取り出しタンクに仕込んだ。メタノール(74L)を加え、還流下1時間攪拌した後、10℃に冷却し攪拌した。析出晶を遠心分離し、メタノール(15L)で洗浄した。分離晶は60℃で乾燥し、7-(4-クロロブトキシ)-1H-キノリン-2-オン(15.07kg)を得た。
【0259】
次いで、水(20L)、炭酸カリウム(1.84kg)、1-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン塩酸塩(3.12kg)、エタノール(8L)を反応容器中で混合し、50℃で攪拌し、ここへ7-(4-クロロブトキシ)-1H-キノリン-2-オン(2.8
0kg)を混合し、還流下9時間攪拌した。溶媒を常圧で8L濃縮後、90℃ で1時間攪拌した。その後、9℃まで冷却後、析出晶を遠心分離し、水(8L)、及びエタノール(6
L)で順次洗浄した。分離晶は60℃で乾燥し、粗生成物を得た。粗生成物(4.82kg)、エタノール(96L)を反応容器中で混合し、酢酸(4.8L)を流入した。還流下1時
間攪拌し粗生成物を溶解をした。塩酸(1.29kg)を流入した後、10℃に冷却した。再度加熱し1時間還流させた後7℃まで冷却した。析出晶を遠心分離しエタノール(4.
8L)で洗浄した。分離晶は60℃で乾燥し、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン
-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン・塩酸塩(5.09kg)を得た。得られた7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン・塩酸塩(5.00k
g)、エタノール(45L)、水30Lを反応容器中で混合し、還流下攪拌し7-[4-(
4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン・塩酸塩を溶解させた。活性炭(500g)、水(5L)を加え、還流下30分間活性炭処理を行った。熱時ろ過後、ろ液を還流下攪拌しながら水酸化ナトリウム(511g)を水(1.5L)に溶解した溶液を反応容器に流入した。還流下30分間攪拌後、水(10L)流入した後、40℃付近まで冷却後、析出晶を遠心分離し、水(125L)で洗浄した。分離晶は80℃で乾燥し、7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン(3.76kg)を得た。
【0260】
得られた7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン(3.2kg)、エタノール(64L)、水(7
4L)、酢酸(1.77kg)を反応容器中で混合し、酸性の混合液を調製した後、攪拌し
ながら還流することにより7-[4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オンを溶解させた(還流温度:8
4℃)。-5℃まで冷却した後、得られた溶液を、0℃に冷却した25%水酸化ナトリウム(5.9kg)、水(54L)の溶液に攪拌しながら30分かけて流入し、pH10の混合液を調製した。その後、5℃以下で1時間攪拌した後、混合液を20℃~30℃に昇温し、更に7時間攪拌し、固液分離した。得られた固形物中のアルカリがなくなるまで(具体
的には、濾液のpHが7になるまで)、水(320L)で洗浄した。恒量になるまで(すなわち、それ以上重量が変化しない状態になるまで)固形物を風乾し、白色固体として7-[
4-(4-ベンゾ[b]チオフェン-4-イル-ピペラジン-1-イル)-ブトキシ]-1H-キノリン-2-オン二水和物(未粉砕品、3.21kg)を得た。