(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113861
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】殺虫効力増強剤、害虫防除方法、及び加熱蒸散用水性殺虫剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 25/18 20060101AFI20230808BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20230808BHJP
A01N 25/34 20060101ALI20230808BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20230808BHJP
A01N 53/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A01N25/18 103D
A01N25/00
A01N25/34 Z
A01N53/06 110
A01N53/10 210
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023093914
(22)【出願日】2023-06-07
(62)【分割の表示】P 2021532787の分割
【原出願日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2019129826
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【弁理士】
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】三好 一史
(72)【発明者】
【氏名】下方 宏文
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】川尻 由美
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
(57)【要約】 (修正有)
【課題】比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、当該ピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力を効果的に増強し得る殺虫効力増強剤を提供する。
【解決手段】炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤であって、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に配合される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤であって、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有し、加熱蒸散用吸液芯に吸液される加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に配合され、
前記加熱蒸散用吸液芯は、焼成芯、又はセラミック芯である殺虫効力増強剤。
【請求項2】
前記炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子は、炭素位置番号が1位及び2位である請求項1に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項3】
前記グリコール系化合物は、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項2に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項4】
前記加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は、前記ピレスロイド系殺虫成分と、水性有機化合物と、水とを含有し、
前記水性有機化合物は、その20質量%以上が前記グリコール系化合物で構成される請求項1~3の何れか一項に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項5】
前記ピレスロイド系殺虫成分は、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、メペルフルトリン、ヘプタフルトリン、ジメフルトリン、及び4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1~4の何れか一項に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項6】
前記水性有機化合物は、グリコールエーテル系化合物をさらに含有する請求項4又は5に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項7】
前記グリコールエーテル系化合物は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及び3-メトキシ-3-メチルブタノールからなる群から選択される少なくとも一つである請求項6に記載の殺虫効力増強剤。
【請求項8】
加熱蒸散用吸液芯を用いた害虫防除方法であって、
請求項1~7の何れか一項に記載の殺虫効力増強剤が配合された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に、前記加熱蒸散用吸液芯の下部を浸漬する工程と、
前記加熱蒸散用吸液芯の下部より吸液された前記加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を前記加熱蒸散用吸液芯の上部に導き、80~150℃で加熱することにより、前記ピレスロイド系殺虫成分を大気中に蒸散させる工程と、
を包含し、
前記加熱蒸散用吸液芯は、焼成芯、又はセラミック芯である害虫防除方法。
【請求項9】
加熱蒸散用吸液芯に吸液される加熱蒸散用水性殺虫剤組成物であって、
30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分と、炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤とを含有し、
前記加熱蒸散用吸液芯は、焼成芯、又はセラミック芯である加熱蒸散用水性殺虫剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に配合される殺虫効力増強剤、当該殺虫効力増強剤が配合された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を用いる害虫防除方法、及び当該殺虫効力増強剤を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に関する。
【0002】
蚊等の飛翔害虫を防除するための飛翔害虫防除製品として、殺虫成分を含有する薬液に吸液芯を浸漬し、吸液された薬液を吸液芯の上部に導き、吸液芯を加熱することにより殺虫成分を大気中に蒸散させる方式を採用した、いわゆる「液体式蚊取」が市販されている。液体式蚊取の殺虫成分は、一般に、ピレスロイド系殺虫成分が使用されている。ピレスロイド系殺虫成分は、従来は、アレスリン、プラレトリン、フラメトリン等が主流であったが、近年は、殺虫活性に優れたトランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等の新しい成分が使用される傾向がある。
【0003】
また、液体式蚊取に使用する薬液には、灯油をベースとした油性処方と、水をベースとした水性処方とが存在する。これまでの液体式蚊取は、世界的には油性処方が主流であったが、水性処方は油性処方に比べて火気に対する危険性を軽減することができ、さらに、害虫に対する殺虫効果は油性処方に比べて同等以上と言われているため、今後は水性処方のニーズが増加していくことが予想される。
【0004】
従来の水性処方の飛翔害虫防除製品として、ピレスロイド系殺虫成分と、界面活性剤と、水とを含む薬液を使用した加熱蒸散用水性殺虫剤があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の加熱蒸散用水性殺虫剤は、加熱蒸散用の吸液芯を用いて薬液を加熱蒸散させる方式に使用されるものであり、薬液に界面活性剤を配合することで薬液の成分組成のバランスを維持し、ピレスロイド系殺虫成分を長期に亘って安定的に蒸散させようとするものである。
【0005】
また、別の従来の水性処方の飛翔害虫防除製品として、加熱蒸散性薬剤と、有機溶剤と、水とを含む加熱蒸散用水性薬剤があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の加熱蒸散用水性薬剤においては、界面活性剤に相当する成分として数多くの水性有機溶剤や水性有機化合物が網羅されており、加熱蒸散用水性薬剤の揮散性を調整することが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3-7207号公報
【特許文献2】特開平7-316002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
飛翔害虫防除製品を屋内で使用するに際し、飛翔害虫に対する防除作用を効果的に高めるためには、飛翔害虫防除製品から蒸散する蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分を飛翔害虫に効果的に接触させ飛翔害虫の体内に到達させる必要がある。そして、水性処方の飛翔害虫防除製品については、蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分が、界面活性剤(水性有機溶剤もしくは水性有機化合物)や水とバランスを保って揮散することが前提とされる。
【0008】
この点に関し、特許文献1の加熱蒸散用水性殺虫剤や、特許文献2の加熱蒸散用水性薬剤は、ピレスロイド系殺虫成分の濃度を一定に保つべく、蒸散安定性を高めたり、揮散性の調整を図ることを課題とするものである。すなわち、特許文献1や特許文献2を含む従来技術においては、蒸散性能の検討に止まり、蒸散粒子に含まれるピレスロイド系殺虫成分自体に着目した課題や、当該ピレスロイド系殺虫成分を飛翔害虫に効果的に接触させて殺虫効力を増強させるという技術思想は、従来技術の当時では未だ十分に認識されていなかった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、当該ピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力を効果的に増強し得る殺虫効力増強剤を提供することを目的とする。さらに、本発明は、ピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力が効果的に増強された害虫防除方法、及び加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成が上記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
【0011】
(1)炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤であって、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に配合される殺虫効力増強剤。
(2)前記炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子は、炭素位置番号が1位及び2位である(1)に記載の殺虫効力増強剤。
(3)前記グリコール系化合物は、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される少なくとも一つである(2)に記載の殺虫効力増強剤。
(4)前記加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は、前記ピレスロイド系殺虫成分と、水性有機化合物と、水とを含有し、前記水性有機化合物は、その20質量%以上が前記グリコール系化合物で構成される(1)~(3)の何れか一つに記載の殺虫効力増強剤。
(5)前記ピレスロイド系殺虫成分は、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、メペルフルトリン、ヘプタフルトリン、ジメフルトリン、及び4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも一つである(1)~(4)の何れか一つに記載の殺虫効力増強剤。
(6)前記ピレスロイド系殺虫成分は、トランスフルトリンである(5)に記載の殺虫効力増強剤。
(7)前記水性有機化合物は、グリコールエーテル系化合物をさらに含有する(4)~(6)の何れか一つに記載の殺虫効力増強剤。
(8)前記グリコールエーテル系化合物は、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及び3-メトキシ-3-メチルブタノールからなる群から選択される少なくとも一つである(7)に記載の殺虫効力増強剤。
(9)加熱蒸散用吸液芯を用いた害虫防除方法であって、(1)~(8)の何れか一つに記載の殺虫効力増強剤が配合された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に、前記加熱蒸散用吸液芯の下部を浸漬する工程と、前記加熱蒸散用吸液芯の下部より吸液された前記加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を前記加熱蒸散用吸液芯の上部に導き、80~150℃で加熱することにより、前記ピレスロイド系殺虫成分を大気中に蒸散させる工程と、を包含する害虫防除方法。
(10)30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分と、炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤とを含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の殺虫効力増強剤、及び害虫防除方法は、比較的蒸気圧が高いピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、当該加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の蒸散安定性や揮散調整に寄与するだけでなく、当該加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に含まれるピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力を効果的に増強し得るので極めて有用である。また、本発明の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は、ピレスロイド系殺虫成分の殺虫効果を増強するグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤を含むため、害虫防除製品として非常に優れたものとなり、実用上も極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の殺虫効力増強剤、害虫防除方法、及び加熱蒸散用水性殺虫剤組成物について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や実施例に限定されることを意図しない。
【0014】
<加熱蒸散用水性殺虫剤組成物>
本発明の殺虫効力増強剤が配合される本発明の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物(以下、「水性殺虫剤組成物」と称する。)は、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有する。本発明によれば、30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に、炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤を配合することにより、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の殺虫効力を増強させることができる。
【0015】
<ピレスロイド系殺虫成分>
ピレスロイド系殺虫成分は、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、テラレスリン、メペルフルトリン、ヘプタフルトリン、ジメフルトリン、及び4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレート等が挙げられる。これらのうち、加熱蒸散性、殺虫効力、安定性等を考慮すると、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、メペルフルトリン、ヘプタフルトリン、ジメフルトリン、及び4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル-2,2-ジメチル-3-(2-クロロ-2-トリフルオロメチルビニル)シクロプロパンカルボキシレートが好ましく、トランスフルトリンがより好ましい。上掲のピレスロイド系殺虫成分は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。また、ピレスロイド系殺虫成分において、酸部分やアルコール部分に不斉炭素に基づく光学異性体や幾何異性体が存在する場合、それらも本発明で使用可能なピレスロイド系殺虫成分に含まれる。
【0016】
加熱蒸散用水性殺虫剤組成物中のピレスロイド系殺虫成分の含有量は、0.1~3.0質量%が好ましく、0.7~2.0質量%がより好ましい。含有量が0.1質量%未満の場合、殺虫効力が低下する虞がある。一方、含有量が3.0質量%を超えると、水性殺虫剤組成物の性状に支障を来たす可能性がある。
【0017】
<殺虫効力増強剤>
本発明者らは、上記ピレスロイド系殺虫成分を含有する加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、特定のグリコール系化合物は、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の一成分(水性有機化合物)として使用できるだけでなく、ピレスロイド系殺虫成分の殺虫効果を増強する成分として機能し得ることを見出した。すなわち、本発明は、炭素数が4~7のアルカンの隣接する2つの炭素原子に水酸基が夫々一つ結合したグリコール系化合物を有効成分とする殺虫効力増強剤に係るものである。
【0018】
<グリコール系化合物>
グリコール系化合物としては、例えば、1,2-ブタンジオール(沸点:194℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点:210℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点:223℃)、3-メチル-1,2-ブタンジオール(沸点:206℃)、2,3-ブタンジオール(沸点:177℃)、4-メチル-2,3-ペンタンジオール(沸点:190℃)等が挙げられる。これらのグリコール系化合物のうち、隣接した2個の炭素原子の炭素位置番号が1位及び2位である、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、3-メチル-1,2-ブタンジオールが好適であり、1,2-ヘキサンジオールがより好適である。
【0019】
本発明で用いるグリコール系化合物を加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に配合すると優れた殺虫効力増強効果が奏される理由については明確ではないが、グリコール系化合物の分子構造中に存在する二つの水酸基が隣接することで両者間に水素結合が形成され、この水素結合がピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力増強効果に何らかの好影響を与えているものと考えられる。
【0020】
グリコール系化合物が配合された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、殺虫効力増強剤としてのグリコール系化合物の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物中の含有量は、2~70質量%が好ましく、6~60質量%がより好ましい。含有量が2質量%未満の場合、十分な殺虫効力増強効果が得られない虞がある。一方、含有量が70質量%を超えても飛翔害虫に対する殺虫効果や屋内侵入防止効果が頭打ちとなるばかりか、火気に対する危険性が増大することとなって、水性処方としてのメリットが損なわれる虞がある。
【0021】
<水性有機化合物>
本発明で用いる加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は、水性処方とするため溶媒として水が使用され、さらにピレスロイド系殺虫成分を可溶化させるために水性有機化合物が配合される。このように水性処方とすることで、油性処方に比べて火気に対する危険性を軽減することができ、害虫に対する殺虫効果は同等以上であると言われている。水性処方となすために配合される水性有機化合物は、(1)ピレスロイド系殺虫成分を可溶化できること、(2)加熱蒸散性を有すること、(3)ピレスロイド系殺虫成分と水との間に介在して3成分が一定の比率を保って加熱蒸散すること、を前提とするものである。本発明では、殺虫効力増強剤として機能するグリコール系化合物は、ピレスロイド系殺虫成分に対する可溶化能等に応じて、水性有機化合物の一部又は全部となるように配合してもよい。また、当該グリコール系化合物とともに、他の化合物、例えばグリコールエーテル系化合物を併用することで、水性有機化合物を構成してもよい。グリコールエーテル系化合物は、ピレスロイド系殺虫成分の可溶化能や加熱蒸散性に優れ、特許文献1や特許文献2においては主要な水性有機化合物(界面活性剤あるいは水性有機溶剤とも称される)として示されている。本発明においても、グリコールエーテル系化合物は、グリコール系化合物の補完成分として有用なものである。
【0022】
<グリコールエーテル系化合物>
グリコールエーテル系化合物としては、沸点が150~300℃のものが好ましく、170~260℃のものがより好ましい。かかるグリコールエーテル系化合物として、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:202℃、以降DEME)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃、以降DEMIP)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃、以降DEMB)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点:220℃、以降DEMIB)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:259℃、以降DEMH)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル(沸点:283℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、プロピレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(沸点:151℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:188℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:210℃、以降DPMP)、3-メトキシ-1,2-プロパンジオール(沸点:220℃)、及び3-メトキシ-3-メチルブタノール(沸点:174℃、以降ソルフィット)等が挙げられる。これらのグリコールエーテル系化合物のうち、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、及び3-メトキシ-3-メチルブタノールが好適である。上掲のグリコールエーテル系化合物は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。
【0023】
加熱蒸散用水性殺虫剤組成物中の水性有機化合物の含有量は、10~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。含有量が10質量%未満であると、水性製剤化に支障を来たす虞がある。また、飛翔害虫防除効果の持続性も乏しくなる。一方、含有量が70質量%を超えても飛翔害虫に対する殺虫効果や屋内侵入防止効果が頭打ちとなるばかりか、火気に対する危険性が増大することとなって、水性処方としてのメリットが損なわれる虞がある。なお、水性有機化合物のうち、殺虫効力増強剤として用いられるグリコール系化合物は、以下に述べる配合量で含有するのが好ましい。すなわち、水性有機化合物中のグリコール系化合物の配合量を20~100質量%とすることが好ましい。また、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物中のグリコール系化合物の配合量を2~70質量%とすることが好ましく、6~60質量%とすることがより好ましい。このような配合とすることで、水性製剤化を可能としながら優れた加熱蒸散性を維持し、さらに殺虫効力を増強させることができる。
【0024】
加熱蒸散用水性殺虫剤組成物には、殺虫効力増強剤として配合するグリコール系化合物がピレスロイド系殺虫成分の殺虫効力を増強させるという本発明の趣旨を逸脱しない限度において、その他の成分を配合することができる。例えば、ディート、1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシラート(イカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)等の非ピレスロイド系害虫忌避成分、シトロネロール、ゲラニオール、リナロール、p-メンタン-3,8-ジオール、メントール、及びメントン等のテルペン系化合物、シトロネラ油、ラベンダー油、ハッカ油、レモンユーカリ油、及びペパーミント油等の忌避効果がある天然精油、イソプロピルメチルフェノール等の抗菌剤、防カビ剤、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、パラヒドロキシ安息香酸メチルのような安定化剤、pH調整剤、着色剤、茶抽出物やチャ乾留液等の消臭剤などを適宜配合することができる。また、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を調製するにあたって、水性処方の利点を損なわない範囲であれば、水の他に、エタノール、イソプロパノールのような低級アルコール、灯油(ケロシン)のような炭化水素系溶剤、エステル系又はエーテル系溶剤、可溶化剤、分散剤を適宜使用しても構わない。
【0025】
<害虫防除方法>
上記のように調製された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は、加熱蒸散用吸液芯を備えた容器本体(図示せず)に充填され、害虫防除製品(液体式蚊取)を構成する。すなわち、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に加熱蒸散用吸液芯を浸漬し、吸液された加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を加熱蒸散用吸液芯の上部に導き、80~150℃で加熱することにより、ピレスロイド系殺虫成分を大気中に蒸散させる害虫防除方法に適用されるのである。
【0026】
加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を収容する薬液容器は、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリ塩化ビニールなどのプラスチック製容器が一般的である。薬液容器の上部には、中栓を介して吸液芯が取り付けられる。水性処方の場合、薬液容器の材質は、グリコール系化合物やグリコールエーテル系化合物等の物性を考慮して、ポリプロピレン等のポリオレフィン系プラスチックが好ましい。
【0027】
<加熱蒸散用吸液芯>
ところで、液体式蚊取の加熱蒸散用吸液芯は、一般的な区分けによれば、焼成芯、多孔質セラミック芯、フェルト芯、製紐芯、粘結芯に大別されるが、本発明では、焼成芯、多孔質セラミック芯、フェルト芯、製紐芯が好適に使用され、より好適には焼成芯又は多孔質セラミック芯が使用される。以下、加熱蒸散用吸液芯として焼成芯又は製紐芯を使用する場合について、説明する。なお、加熱蒸散用吸液芯の素材は、ピレスロイド系殺虫成分を含む加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に対して安定で、且つ毛細管現象で水溶液を吸液可能なものであれば、特に限定されない。
【0028】
焼成芯は、(a)無機物質(無機質粉体、無機質粘結剤等)、又は、好ましくはこれに(b)有機物質(炭素質紛体、有機質粘結剤等)を含む混合物を600~2000℃で焼成することによって得られる。ここで、(b)の配合量が少なく、ほぼ(a)のみから構成される焼成芯も存在するが、このような焼成芯は、多孔質セラミック芯と称される場合がある。
【0029】
無機物質は、無機質粉体を必須成分として含むが、必要に応じて、無機質粘結剤を補助成分として含むものであってもよい。無機質粉体は、例えば、マイカ、アルミナ、シリカ、タルク、ムライト、コージライト、及びジルコニア等が挙げられる。これらのうち、マイカは、特に液体式蚊取用の吸液芯に比較的均一な微細孔を生成できるため、好ましい材料である。上掲の無機質粉体は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における無機質粉体の含有量は、10~90質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましい。無機質粉体の形状は、外観、吸液性、強度等の物性の点から、50メッシュ以下の微粉状が好ましい。ただし、加熱蒸散用吸液芯の製造工程において、粉砕等の処理を伴う場合は、この限りではない。
【0030】
無機質粘結剤は、例えば、クレー(カオリンクレー)、ベントナイト、ハロサイト等の各種粘土、タールピッチ、水ガラス等が挙げられる。これらのうち、クレーは、粘結作用性に優れているため、好ましい材料である。上掲の無機質粘結剤は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における無機質粘結剤の含有量は、5~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。無機質粘結剤は、常温では粘結作用が乏しいが、600~2000℃で焼成することで十分な粘結作用を示すようになり、加熱蒸散用吸液芯として好適に使用可能となる。
【0031】
有機物質は、黒鉛、カーボンブラック、活性炭、木炭、及びコークス等の炭素質粉体、又はカルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等の有機質粘結剤が挙げられる。これらのうち、黒鉛は、比較的形状が均一で不純物が少ないため、好ましい材料である。黒鉛等の炭素質紛体を配合すると、加熱蒸散用吸液芯の外観、色調、吸液性、強度等を改善することができる。上掲の炭素質粉体又は有機質粘結剤は、単独で使用してもよいし、複数種を混合した状態で使用してもよい。加熱蒸散用吸液芯における有機物質の含有量は、5~40質量%が好ましい。この範囲であれば、加熱蒸散用吸液芯を焼成する過程で一酸化炭素や二酸化炭素等のガスが発生することにより加熱蒸散用吸液芯中に連続気孔が生成し、毛細管現象によって吸液性能を示すのに十分な多孔質構造を形成することができる。
【0032】
なお、加熱蒸散用吸液芯には、上記の物質の他に、防腐剤、4,4’-メチレンビス(2-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等の酸化防止剤を適宜添加してもよい。
【0033】
製紐芯は、芯材の外周面に加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を吸液し揮散させるための鞘材を被覆してなり、当該鞘材は天然繊維、合成繊維、及び無機繊維から選ばれる一種以上の繊維集合体として形成されるのが一般的である。製紐芯において、芯材は加熱蒸散用吸液芯の形状保持機能を有するものである。その材質としては、必ずしも加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を吸液する機能を備える必要はなく、例えば、130℃以上の耐熱性を有する熱可塑性及び/又は熱硬化性の合成樹脂で形成することができる。なお、形状保持機能を強化するため、芯材の補強材として、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維等の繊維状補強材や、ガラス紛体、無機フィラーと呼ばれるシリカ、アルミナ、酸化チタン等の紛体状補強材等によって熱可塑性及び/又は熱硬化性の合成樹脂を補強することも可能である。
【0034】
鞘材は通常繊維集合体として形成され、これを構成する繊維としては、例えば、木綿等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維、ガラス繊維や炭素繊維等の無機繊維等の一種以上が挙げられるが、その耐熱温度が130℃以上であるポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の合成繊維が好ましい。そして、このような繊維集合体は、ブレード、織布、編地、フェルト、あるいは不織布等の繊維素材で構成されるのが一般的である。その際、繊維素材に界面活性剤処理を施して吸液速度を調節したり、また、鞘材の表面を更にワニス等を用いて被覆したり、親水加工等の機能加工を施してもよい。
【0035】
こうして得られた加熱蒸散用吸液芯は、当該加熱蒸散用吸液芯を介して加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を加熱蒸散させる方式のリキッド製品に適用される。すなわち、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を薬液容器に収容し、中栓を介して加熱蒸散用吸液芯の下部を加熱蒸散用水性殺虫剤組成物中に浸漬させる。そうすると、薬液容器内の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物は加熱蒸散用吸液芯の上部に導かれ、加熱蒸散装置の上部に設けられた発熱体により60~130℃に加熱されて大気中に蒸散する。加熱蒸散用吸液芯は、発熱体を構成する中空筒状の放熱筒体と間隙を設けて対向しているので、加熱蒸散用吸液芯の上部の目的の表面温度(例えば、60~130℃)は、発熱体の温度をそれより高く(例えば、80~150℃)設定することにより達成される。加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の加熱温度が高くなり過ぎると、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物が早期に蒸散したり、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の熱分解や重合が生じる可能性があり、その結果、加熱蒸散用吸液芯の表面に高沸点物質が生成し、これが蓄積して目詰まりを起こす虞がある。一方、加熱温度が低くなり過ぎると、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物が蒸散し難くなり、十分な殺虫性能を達成できなくなる。
【0036】
本発明者らの検討によれば、加熱蒸散用吸液芯の上部(外径:6.7~7.3mm)と、これに対向する放熱筒体の内壁(内径:10mm、高さ:8~12mm)との位置関係も、間接的ではあるが害虫防除製品の侵入阻止効果に関与することが認められた。すなわち、放熱筒体の内壁と対向する加熱蒸散用吸液芯の上部の長さをaとし、放熱筒体の内壁の高さをbとすると、比率(a/b)は、加熱蒸散用吸液芯の上部を上下に移動させることにより変更可能である。本発明に係る害虫防除製品においては、上記の比率(a/b)は0.1~1.3の範囲で設定することができる。ここで、比率(a/b)が1.0を超える場合は、加熱蒸散用吸液芯の上部が放熱筒体の上端から突出する状態である。なお、比率(a/b)が1.0を超えると、ピレスロイド系殺虫成分の単位時間当たりの蒸散量は増加するが、特に加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の蒸散量の増加を必要としない場合は、前記比率(a/b)を0.2~0.8に設定することが好ましいことが認められた。
【0037】
害虫防除製品として用いる加熱蒸散装置は、前述の発熱体に加え、従来の装置に準じて種々の機能や部材が付設されたものとすることができる。発熱体の上部には安全上保護キャップが載置され、その中央部に開口部が形成されるが、その大きさ及び形状は、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物が過度に保護キャップや器体に凝縮、付着しない限りにおいて任意である。例えば、内径10~30mmの円筒状蒸散筒を開口部付近から垂下させることは有効であり、この場合、蒸散筒部分の耐熱性や蒸散性能の面から、蒸散筒下端と発熱体上面との距離は通常1~5mmの範囲内が好ましい。また、発熱体と接続する電源コード、オンオフ操作スイッチ、パイロットランプなどが適宜付設されてもよい。
【0038】
本発明が適用される害虫防除方法によれば、リビングルームや居室、寝室等の屋内で、ピレスロイド感受性系統は勿論、感受性が低下した、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類等だけでなく、イエバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類等の他の有害飛翔性昆虫に対しても実用的な殺虫効力のみならず、害虫の屋外から屋内への侵入を効率的に阻止する効果をも発揮する。特に、蚊類に対する侵入阻止効果が顕著に優れるため、極めて有用性が高いものである。
【実施例0039】
次に、実施例に基づき、本発明の殺虫効力増強剤、害虫防除方法、及び加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の有効性について説明する。
【0040】
〔実施例1〕
<加熱蒸散用水性殺虫剤組成物>
ピレスロイド系殺虫成分としてのトランスフルトリンを0.9質量%、殺虫効力増強剤としてのグリコール系化合物である1,2-ヘキサンジオールを40質量%、水性有機化合物としての3-メトキシ-3-メチルブタノール(ソルフィット)を10質量%、安定剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を0.1質量%、及び精製水を49質量%配合し、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を調製した。
【0041】
<加熱蒸散用吸液芯>
無機質粉体としてマイカ粉を52質量%、無機質粘結剤としてクレー粉を33質量%、有機物質として黒鉛を10質量%、有機質粘結剤としてカルボキシメチルセルロースを3質量%、澱粉を2質量%含む混合物に水を加えて混練し、混錬物を加圧しながら押出し、風乾した後、1100℃で焼成し、加熱蒸散用吸液芯(直径7mm、長さ66mmの丸棒)を得た。
【0042】
<害虫防除製品>
加熱蒸散用水性殺虫剤組成物45mLをプラスチック製容器に収容し、中栓を介して加熱蒸散用吸液芯を装填したのち、加熱蒸散装置[例えば、特許第2926172号に記載の加熱蒸散装置、吸液芯の上部の周囲に中空筒状の放熱筒体(内径:10mm、高さ:10mm、表面温度:137℃)を設置]に取り付け、実施例1の害虫防除製品とした。なお、放熱筒体の内壁に対向する加熱蒸散用吸液芯の上部の長さは放熱筒体の内壁の高さの0.7倍であった。
【0043】
<害虫防除効果確認試験>
実施例1の害虫防除製品を6畳の部屋(25m3)の中央に置き、四方側面の一つが屋外に面した窓を開放した状態で1日あたり12時間通電使用したところ、60日間(約700時間)にわたり、蚊が窓から屋内に侵入して人を刺咬することはなかった。
【0044】
〔実施例2~16、比較例1~6〕
実施例1に準じて、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物及び加熱蒸散用吸液芯を調製し、これらを加熱蒸散装置に装填して実施例2~16の害虫防除製品を作製した。このうち、実施例2~15の各害虫防除製品について、後述する(1)~(3)の測定及び試験を実施した。また、比較のために作製した比較例1~6の害虫防除製品についても、実施例と同様の測定及び試験を実施した。各実施例及び比較例における加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の処方、及び加熱蒸散用吸液芯の配合を表1~2に分けて示す。なお、表1には実施例1の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物の処方、及び加熱蒸散用吸液芯の配合についても記載する。
【0045】
〔比較例7〕
水性処方の殺虫剤組成物との比較のため、油性処方の殺虫剤組成物を調製した。具体的には、比較例1の加熱蒸散用水性殺虫剤組成物において、水性有機化合物(グリコール系化合物及びグリコールエーテル系化合物)を含まないものを調製し、さらに水の代わりに灯油(ケロシン)を使用して油性処方の殺虫剤組成物(加熱蒸散用油性殺虫剤組成物)を得た。加熱蒸散用油性殺虫剤組成物の蒸散に用いる加熱蒸散用吸液芯は、比較例1と同じ組成の焼成芯を使用し、これを加熱蒸散装置に装填して比較例7の害虫防除製品とした。比較例7の害虫防除製品についても、実施例と同様の測定及び試験を実施した。
【0046】
【0047】
【0048】
(1)蒸散性能
6畳の部屋(25m3)の中央に供試害虫防除製品を置き、通電加熱した。使用初期(使用日数2日目)に、加熱蒸散装置から上方1m離れた位置でシリカゲル充填カラムを用いて蒸散粒子をトラップし、アセトンで殺虫成分を抽出後、ガスクロマトグラフ分析により単位時間当たりの殺虫成分の蒸散量を求めた。
【0049】
(2)殺虫効力試験
内径20cm、高さ43cmのプラスチック製円筒を2段に重ね、その上に16メッシュの金網を介して内径20cm、高さ20cmの円筒(供試昆虫を入れる場所)を載せ、その上を同じ16メッシュの金網で仕切り、さらにその上に同径で高さ20cmの円筒を載せた。この4段重ねの円筒を台に載せた円板上にゴムパッキンを挟んで置いた。円板中央には5cmの円孔があり、この円孔の上に供試害虫防除製品を置き、通電加熱した。通電3時間後、上部3段目の円筒に供試昆虫のアカイエカ雌成虫約20匹を放った。時間経過に伴い落下仰転した供試昆虫を数え、KT50値を求めた。また、暴露20分後に全供試昆虫を回収して24時間後にそれらの致死率を調べた。殺虫効力試験は、使用初期(使用日数2日目)及び使用後期(有効期限の数日前)について実施した。
【0050】
(3)侵入阻止率
隣接する10畳の2居室の境界に窓を設け、窓以外は密閉した。一方の居室に供試害虫防除製品を置き、観察者が室内に留まるとともに通電加熱して薬剤処理区とした。隣接する無薬放虫区に供試昆虫のアカイエカ雌成虫100匹を放ち、窓を通って無薬放虫区から薬剤処理区に侵入する供試虫数を60分間観察した。また、効果判定の基準を設けるため、無処理対照区として害虫防除製品を使用しない試験を同様に実施した。侵入阻止試験は、供試害虫防除製品の使用初期(使用日数2日目)及び使用後期(有効期限の数日前)について2回繰返して実施した。無処理対照区についても同様に2回繰返し試験を行い、平均侵入虫数を求め、以下の式より侵入阻止率を算出した。
侵入阻止率(%) = (C-T)/C × 100
C:無処理対照区の60分間の平均侵入虫数(匹)
T:薬剤処理区の60分間の平均侵入虫数(匹)
【0051】
各実施例及び比較例における測定及び試験結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表1~3の結果より、本発明の殺虫効力増強剤を配合した加熱蒸散用水性殺虫剤組成物を用いた害虫防除製品(実施例1~15)は、水性有機化合物としてグリコールエーテル系化合物のみを配合した従来品(比較例1)と比べて同様に安定した蒸散性能を示す一方、殺虫効力の点では優れた増強効果を奏することが確認された。特に、ノックダウン効果と侵入阻止効果において顕著な増強効果が認められた。また、トランスフルトリン処方(実施例1)、メトフルトリン処方(実施例3)、プロフルトリン処方(実施例4)、ヘプタフルトリン処方(実施例5)、及びメペルフルトリン処方(実施例10)を比較すると、致死活性の点ではほぼ同等の効力を示す処方であっても、トランスフルトリン処方はノックダウン効果が高く、侵入阻止効果の点で特異的に優れていた。さらに、実施例12、実施例13、及び比較例1の対比から、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に使用する水性有機化合物として、その20質量%以上をグリコール系化合物で構成すると、ノックダウン効果、及び侵入阻止効果が高くなる傾向が見られ、好ましいものであった。
【0054】
一方、加熱蒸散用水性殺虫剤組成物に含まれる水性有機化合物として、グリコール系化合物であっても水酸基を有する2個の炭素原子が隣接していない1,6-ヘキサンジオール(比較例2)、炭素数が3である1,2-プロパンジオール(比較例3)、及び炭素数が10である1,2-デカンジオール(比較例4)を含むものは、殺虫効果の増強は認められなかった。このように、本発明に特有の殺虫効力増強作用は、特許文献2において、1,2-ヘキサンジオールが、1,6-ヘキサンジオール、及び1,2-プロパンジオールと同列に揮散調整作用を示したこととは対照的に、全く予想し得ない結果となった。また、ピレスロイド系殺虫成分の蒸気圧が本発明の範囲を外れるd,d-T80-プラレトリン(比較例5及び6)の場合、1,2-ヘキサンジオールに見られた殺虫効力増強作用は観察されず、本発明に特有の効力増強作用は、特定の蒸気圧範囲にあるピレスロイド系殺虫成分と組み合わせた場合にだけ発現する極めて異質な効果であることが確認された。さらに、水性処方ではなく油性処方とした場合(比較例7)でも、十分な殺虫効果は得られなかった。
本発明は、人体やペット用の害虫防除製品として利用可能なものであるが、その他の用途として、例えば、殺ダニ、殺菌、抗菌、消臭、及び防臭の用途で利用することも可能である。