(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113884
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】ループス腎炎の治療のための改善されたプロトコル
(51)【国際特許分類】
A61K 38/13 20060101AFI20230808BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20230808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K38/13
A61P13/12
A61K31/365
A61K31/5377
A61K31/573
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023094742
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2022054055の分割
【原出願日】2018-05-11
(31)【優先権主張番号】62/505,734
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/541,612
(32)【優先日】2017-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/835,219
(32)【優先日】2017-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519402236
【氏名又は名称】アウリニア ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソロモンズ ニール
(72)【発明者】
【氏名】ホイジンガ ロバート ビー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】望ましくない副作用が最小限に抑えられる、タンパク尿性腎疾患の治療法を提供する。
【解決手段】タンパク尿性腎疾患と診断された対象者に、少なくとも24週間の計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、さらに、(a)該治療期間のうち異なる日の少なくとも第1の時点および第2の時点で、該対象者の推算糸球体濾過量(eGFR)を評価すること;および(b)(i)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、所定値未満に目標%を上回って減少する場合には、1日量を7.9mgBID単位で減らすか、または該対象者へのボクロスポリンの投与を中止すること;(ii)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、該目標%を下回って減少する場合には、ボクロスポリンの同じ所定の1日量を該対象者に投与し続けること;を含んでなる薬力学的方法とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク尿性腎疾患を治療するための薬力学的方法であって、該疾患と診断された対象者に、少なくとも24週間の計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、さらに、
(a)該治療期間のうち異なる日の少なくとも第1の時点および第2の時点で、該対象者の推算糸球体濾過量(eGFR)を評価すること;および
(b)(i)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、所定値未満に目標%を上回って減少する場合には、1日量を7.9mgBID単位で減らすか、または該対象者へのボクロスポリンの投与を中止すること;
(ii)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、該目標%を下回って減少する場合には、ボクロスポリンの同じ所定の1日量を該対象者に投与し続けること;
を含んでなる方法。
【請求項2】
前記第1の時点が前記プロトコルを開始する直前である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定値が50~90ml/min/1.73m2の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記目標%が20~45%の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記所定値が約60ml/min/1.73m2である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記目標%が約30%である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記対象者に対して前記方法を実施する前に、
(a)該対象者の尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)が、朝の最初の排尿または24時間尿で測定して≧1mg/mgであると判定すること;および
(b)該対象者のeGFRが、Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration式(CKD-EPI)で測定して≧45ml/min/1.73m2であると判定すること;
によって、該方法に適している該対象者を識別することをさらに含み、
その際、(a)および(b)の条件を満たす場合に、該対象者を該方法に適しているとして識別する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記所定の1日量が、ボクロスポリン39.5mg BID、ボクロスポリン31.6mg BID、ボクロスポリン23.7mg BID、ボクロスポリン15.8mg BID、またはボクロスポリン7.9mg BIDである、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、eGFRを評価することによって、該治療期間の終了後のある時点で腎機能について該対象者を評価することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、該治療期間の終了後のある時点でタンパク/クレアチニン比(UPCR)を評価することによって、有効性について該対象者を評価することをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、該対象者に有効量のミコフェノール酸モフェチル(MMF)を投与することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項12】
前記対象者に有効量のコルチコステロイドを投与することをさらに含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
前記治療期間が少なくとも48週間である、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
前記対象者のeGFRを第3の時点で測定することをさらに含み、第3の時点で測定されたeGFRが第1の時点で測定されたeGFRと目標%を下回って異なる場合には、ボクロスポリンの前記所定の1日量の投与を再開する、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
前記目標%が20~45%である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記目標%が約30%である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク尿性腎疾患を治療するための薬力学的方法であって、タンパク尿性腎疾患と診断された対象者に、終了時点までの計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、さらに、
(a)該治療期間前の第1の時点と、該治療期間の開始後であるが終了時点前の第2の時点で、該対象者の尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)を測定し、第1の時点と第2の時点の間の該UPCRの低下を判定すること;および
(b)該対象者のUPCRが前記第2の時点で少なくとも所定量の低下を示さない場合は、該対象者へのボクロスポリンの投与を中断し、前記所定量の低下が示される場合には、該投与を継続すること;
を含んでなる方法。
【請求項18】
前記第1および前記第2の時点で該対象者の血液中のC3/C4の濃度を測定し、C3/C4の濃度が第2の時点で正常化されるかどうかを判定し、該正常化が見られる場合は、該対象者へのボクロスポリンの投与を元に戻すかまたは継続し、正常化が起こらなかった場合には、該中断を維持することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、該対象者に有効量のミコフェノール酸モフェチル(MMF)を投与することをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記対象者に有効量のコルチコステロイドを投与することをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項21】
前記所定の1日量が、ボクロスポリン39.5mg BID、ボクロスポリン31.6mg BID、ボクロスポリン23.7mg BID、ボクロスポリン15.8mg BID、またはボクロスポリン7.9mg BIDである、請求項17または18に記載の方法。
【請求項22】
タンパク尿性腎疾患を治療するための方法であって、ループス腎炎と診断された対象者に、少なくとも8週間の計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、該有効量がボクロスポリン15.8mg BIDまたは7.9mg BIDである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年12月7日に出願された米国特許出願第15/835,219号からの優先権を主張し、かつ2017年5月12日に出願された米国仮特許出願第62/505,734号、および2017年8月4日に出願された同第62/541,612号の米国特許法第119条(e)の下での恩典を主張するものである。上記特許出願の内容は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、ループス腎炎および他のタンパク尿性腎疾患のボクロスポリン(voclosporin)による治療に関する。さらに特定すると、本発明は、治療の改善されたプロトコルに従った対象の薬力学的投与(pharmacodynamic dosing)に関する。
【背景技術】
【0003】
ループス腎炎(lupus nephritis:LN)は多くのタンパク尿性腎疾患の1つであり、この場合には、腎臓の炎症が全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)に起因しており、そのためにSLE患者の最大60%にLNが発症している。LNは、衰弱性で費用のかかる疾患であり、多くの場合透析または腎移植を必要とする腎不全をもたらし、しばしば死に至る。実際、腎不全がある患者は、一般的なSLE患者と比較して、60倍以上に早期死亡のリスクが高まる。LNの臨床徴候は尿中への血液タンパク質の漏出であり、この疾患は、尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)を含めて、多くの要因によって診断することができ、0.5mg/mgを超えるUPCRは、その病態が活動状態にあることを示している。さらに、血液中の特定のマーカー、例えば、補体3(C3)、補体4(C4)、および抗dsDNA抗体でも、診断することができる。
【0004】
LNの標準治療(standard of care)は、大きな成功を収めていない。その標準治療は、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)または静脈内シクロホスファミドを使用するものである。こうした治療により、症例の約50%に部分寛解が見られたにすぎず、完全寛解を示したのは対象者の10%未満であった。したがって、これらのアウトカム(outcome)を改善する治療法が明らかに必要とされている。
【0005】
ボクロスポリンは、シクロスポリンAの類似体であり、自己免疫疾患の治療に、また、臓器移植の際の免疫抑制剤として、有用であることが見出されている。
【0006】
ボクロスポリンのE異性体とZ異性体の混合物は、米国特許第6,998,385号に記載されている。圧倒的多量のE異性体を含む混合物は、米国特許第7,332,472号に記載されている。‘472特許は、異性体のボクロスポリン混合物で治療できる、糸球体腎炎を含む多くの適応症を記載している。しかし、いくつかの動物試験は記載されているものの、ヒトへのプロトコルは一切開示されていない。
【0007】
ボクロスポリン混合物の様々な製剤もまた、米国特許第7,060,672号;同第7,429,562号;および同第7,829,533号に記載されている。
【0008】
2016年10月に、Aurinia Pharmaceuticals社を代表して実施された臨床研究の結果が要約として公開された。その要約によると、ループス腎炎(LN)に罹患していた対象者に、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)および用量を減らした副腎皮質ステロイドと組み合わせて、23.7mgのボクロスポリンを1日2回、24週間にわたって投与し、そのデータが提示された。この研究への参加基準は、腎生検の分類に応じて≧1.0mg/mgまたは≧1.5mg/mgの尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)、45mol/min/1.73m2以上のeGFR(推算糸球体濾過量)の判定、ならびにLNの血清学的証拠を含んでいた。このプロトコルの結果は、大部分の対象者において完全寛解または部分寛解を示した。
【0009】
さらに、8週でUPCRの25%以上の低下を達成した対象者は、24週または48週のプロトコルを通して利益(benefit)を維持する可能性が高いことが示された。
【0010】
2017年3月1日にAurinia Pharmaceuticals社から配信されたニュースリリースでは、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)と投与量を減らしたコルチコステロンを含むが、23.7mg 1日2回のボクロスポリンに加えて、39.5mg 1日2回の高用量を使用する、より広範な臨床研究の結果が記載された。この研究の結果は、24週および48週で多くの患者が完全寛解または部分寛解に成功したことを示した。23.7mg 1日2回(BID)の低用量の方が、39.5mg 1日2回(BID)の高用量よりもいっそう効果的であるようであった。
【0011】
MMF-1およびステロイドテーパー(steroid taper:ステロイドの段階的減量)と共に23.7 bidのボクロスポリンを用いた8週間の治療の後で測定された、様々な基準に基づく完全寛解(CR)に関する成功の予測可能性についてのデータが、2017年3月27日に開催された第12回SLE国際会議で本発明者らによって示された。これらの基準には、UPCR(無効性を示すと見なされた25%未満の低下)、ならびに補体3と補体4(C3およびC4)および抗dsDNAの正常化が含まれていた。しかしながら、C3、C4および抗dsDNAの正常化の基準は開示されなかった。
【0012】
ボクロスポリンではなくシクロホスファミドによるループス治療に関する初期の研究では、C4の正常化がマーカーとして示唆された(Dall'Era, M. et al Arth. Care and Res. (2011) 63:351-357)。
【0013】
今回、個々の患者の応答に基づいた薬力学的投与スケジュールを提供して、これらの刊行物に開示されたプロトコルを変更することによって、好結果(副作用の数および重症度の減少を含む)が得られることが判明した。さらに、より少ない用量のボクロスポリン、すなわち、15.8mgのボクロスポリン1日2回または7.9mgのボクロスポリン1日2回が効果的であることが明らかとなった。
【発明の概要】
【0014】
発明の開示
したがって、本発明は、個々の対象者の応答に関連するパラメータの評価を利用する、ループス腎炎と他のタンパク尿性腎疾患の治療のための改善されたプロトコルを提供する。本発明は、低用量のボクロスポリンを使用するプロトコルを含めて、タンパク尿性腎疾患の治療のためのプロトコルのパーソナライズされた形態(personalized form)である。使用するボクロスポリンは、好ましくは、約80%超のE異性体と約20%未満のZ異性体との混合物、より好ましくは、約90%超のE異性体と約10%未満のZ異性体の混合物である。そのプロトコルは、24、48、52週またはそれ以上の計画期間にわたるボクロスポリンの1日量を採用しており、その場合、ボクロスポリンは1日2回(BID)投与される。適切な投与量は、39.5mg、31.6mg、23.7mg、15.8mg、7.9mgなどの、7.9mgきざみの量である。低用量は39.5mgの高用量と比較して優れた結果を示す;こうした投与はそれぞれ1日2回行われる。15.8mgまたは7.9mgの低用量を1日2回投与することが効果的である。このプロトコルは、好ましくは、有効量のMMFおよび/または有効量のコルチコステロイド、典型的にはプレドニゾンを、研究期間全体にわたって用量レベルを減らして対象者に投与することをさらに含む。
【0015】
本発明のプロトコルはループス腎炎に効果的であることが確認されたが、そのような結果は、同じプロトコルを用いてタンパク尿性腎疾患を一般に治療できることを示している。治療できるタンパク尿性腎疾患としては、以下が挙げられる:糖尿病性腎症、ネフローゼ症候群(すなわち、腎実質性腎不全)、腎炎症候群、腎臓の中毒性病変、糸球体疾患、例えば膜性糸球体腎炎、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、IgA腎症(すなわち、Berger病)、IgM腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、膜性腎症、微小変化型疾患、高血圧性腎硬化症、および間質性腎炎。
【0016】
ボクロスポリンによる治療の副作用の1つは、望ましくない推算糸球体濾過量(eGFR)の減少である。1つの発明プロトコルは、対象者の応答に従ってその投与量を調整することにより、この望ましくない副作用の発生を減らすようにデザインされる。
【0017】
したがって、一態様において、本発明は、タンパク尿性腎疾患を治療するための薬力学的方法に関し、この方法は、該疾患と診断された対象者に、有効量のボクロスポリンの所定の1日量を少なくとも24週の計画された治療期間にわたって投与することを含んでなり、前記薬力学的方法はさらに、
(a)該治療期間のうち異なる日の少なくとも第1の時点および第2の時点で、該対象者の推算糸球体濾過量(eGFR)を評価すること;および
(b)(i)該対象者のeGFRが、第1の時点と第2の時点の間で、所定値未満にまで目標%を上回って減少する場合には、1日量を7.9mgBID単位で減らすか、または該対象者へのボクロスポリンの投与を中止すること;
(ii)該対象者のeGFRが、第1の時点と第2の時点の間で、該目標%を下回って減少する場合には、ボクロスポリンの同じ所定の1日量を該対象者に投与し続けること;
を含んでなる。
【0018】
特定の一実施形態では、本発明は、ループス腎炎を治療する薬力学的方法を含み、この方法は、ループス腎炎と診断された対象者に、有効量のボクロスポリンの所定の1日量を少なくとも24週の計画された治療期間にわたって投与することを含んでなり、前記薬力学的方法はさらに、
(a)該治療期間のうち異なる日の少なくとも第1の時点および第2の時点で、該対象者の推算糸球体濾過量(eGFR)を評価すること;および
(b)(i)該対象者のeGFRが、第1の時点と第2の時点の間で、60mL/min/1.73m2未満の値にまで30%以上減少する場合には、該対象者へのボクロスポリンの投与を中止すること;
(ii)該対象者のeGFRが、第1の時点と第2の時点の間で、60ml/min/1.73m2未満の値にまで20%~30%減少する場合には、減量したボクロスポリンを該対象者に投与すること;
(iii)該対象者のeGFRが、第1の時点と第2の時点の間で、20%以下だけ減少する場合には、ボクロスポリンの同じ所定の1日量を該対象者に投与し続けること;
を含んでなる。
【0019】
上述した60mL/min/1.73m2のeGFRが一般的に使用されるが、90mL/min/1.73m2、75もしくは70mL/min/1.73m2などのより高い値、または50mL/min/1.73m2、55mL/min/1.73m2などのより低い値も使用することができる。
【0020】
前記薬力学的方法は、第1および第2の時点に続く第3の時点を利用することができ、そこでは、目標パーセントの減少を再び測定して、第1の時点と比較した該パーセントの減少が目標パーセントを下回る場合には、治療を元に戻すことができ、該パーセントの減少が第2の時点で示される目標パーセントを上回る場合には、さらなる投与量の減量を指示することができる。
【0021】
第2の実施形態は、eGFRではなく、指標として血圧を使用することに関する。この第2の実施形態では、本発明は、ループス腎炎と診断された対象者に、有効量のボクロスポリンの所定の1日量を少なくとも24週の計画された治療期間にわたって投与することを含んでなる、ループス腎炎を治療する薬力学的方法に関し、前記薬力学的方法はさらに、
(a)該治療期間の少なくとも第1の時点で該対象者の血圧(BP)を測定すること;および
(b)該対象者の収縮期または拡張期のBP成分の値が>130/80である場合には、該対象者へのボクロスポリンの投与を中止するか、または減量したボクロスポリンを該対象者に投与すること;
を含んでなる。
【0022】
この場合には、BPを測定する追加の時点を利用してもよく、対象者の血圧の両成分が130/80未満である場合には、ボクロスポリンの所定の1日量の投与を再開することができる。
【0023】
したがって、血圧測定値の上昇は、治療の望ましくない別の副作用であり、この副作用を投与量調整のための基準として使用することができる。
【0024】
また、前記プロトコルの有効性を、治療期間の一部のみが経過した後で評価できることもわかった。これは、上記のプロトコルの代わりに、またはそれに加えて行うことができる。したがって、効果のない治療を継続することは一般的に望ましくないので、該プロトコルの計画された終了時点よりも早い時点で評価を行って、治療の有効性が確認されない場合には、その治療を終了する。本ケースでは、一般的に、免疫抑制剤の投与は、何らかの利益が達成されない限り、推奨されないため、このような終了は有用であるかもしれない。
【0025】
例えば、前記評価は、該プロトコルの早い時点である第1および第2の時点でUPCRを測定することを含み、第1の時点を該プロトコルの開始時に決定して、UPCRが第2の時点で所定量だけ、例えば15%、20%、25%または35%低下していない場合には、対象者へのボクロスポリンの投与を中止する。UPCRは、例えば朝の最初の排尿または24時間尿サンプルを使用して、標準的な手法により測定することができる。この評価は、血液中のC3およびC4の濃度の評価により補足または置換され得る。C3/C4濃度の正常化をもたらすように治療できないことは、不成功を示している。これらの要因の組み合わせを利用する場合に治療を中止するための規則は、成功の判断基準がどちらも満たされない場合、すなわち、対象者が第2の時点でUPCRの満足のいく低下を示さずかつ第2の時点でC3/C4の正常化を示さない場合に、治療を中止するということである。代替的に、どちらかの基準を単独で使用することもできる。
【0026】
あるいは、対象者が完全寛解の状態にあるようであれば、治療を継続する必要はないかもしれない。
【0027】
上記のプロトコルのいずれにおいても、好ましくは、1回量のMMFと用量を減らしたコルチコステロイドも治療期間中に投与される。一般的に、MMFは2グラム/日のレベルで投与され、経口コルチコステロイドは16週間かけて20~25mg/日から2.5mg/日まで減量する1日量で投与される。その後、減量された用量を研究期間中ずっと継続する。これらのプロトコルを
図1に示す。
【0028】
全ての場合に、この治療に適している対象者は、該対象者に対して上記方法を実施する前に、
(a)対象者の尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)が、好ましくは朝の最初の排尿で測定して、腎生検に応じて≧1.5mg/mgまたは≧1mg/mgである;および
(b)対象者が、Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration(CKD-EPI;慢性腎疾患疫学共同研究)の式、または他の適切な方法、例えばModification of Diet in Renal Disease(MDRD;腎疾患における食事の変更)Studyの式で測定して、≧45mL/min/1.73m2のeGFRを有する;
という判定により該対象者をスクリーニングすることによって識別される。サブパラグラフ(a)および(b)の判定が陽性である場合、その対象者は該プロトコルを受けるのに適していると見なされる。
【0029】
さらに、ボクロスポリンの投与量レベルを下げることは、効果的であることが示された。
【0030】
したがって、別の態様では、本発明は、ループス腎炎と診断された対象者に、有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなる、ループス腎炎を治療する方法に関し、ここで、前記有効量は15.8mg BIDまたは7.9mg BIDである。驚くべきことに、これらの低用量は、特に治療が24週を超えて延長される場合に、大多数の患者において効果的であることが見出された。31.6mg BID(4個のカプセル)の投与量を採用してもよい。これらの場合にも薬力学的投与を適用することができる。
【0031】
また、治療期間の終了時に該プロトコルで治療した対象者を評価して、完全寛解または部分寛解が起こったかどうかを判定することも有益であり、本発明の一部である。治療終了時の測定により達成された寛解が維持されているかどうかを評価するための、治療終了後のある時点でのさらなる評価が含められる。そのような評価は、投与量を減らせるかどうかを判定するために、治療中の中間時点で行うこともできる。単に説明のために使用される例示的な実施形態では、そのような結果に基づいて、ボクロスポリン23.6mg BIDの投与量を15.8mgまたは7.9mg BIDに減らすことができる。
【0032】
有効性の評価は、尿中のタンパク/クレアチニン比(UPCR)に基づいて行うことができ、この場合、≦0.5mg/mgの比が完全奏効を示す;代替的に、または追加的に、eGFR≧60mL/min/1.73m2またはeGFRのベースラインからの20%以上の減少がないことが示される。完全奏効のその他の指標には、静脈内ステロイド、シクロホスファミドなどのレスキュー薬(rescue medication)の必要性なし、もしくは、連続3日を超えてまたは合計7日を超えて≦10mgのプレドニゾンの必要性であることが含まれる。こうした評価は、治療のどの時点でも行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本発明の薬力学的治療が重ね合わされる、ボクロスポリンによるループス腎炎の治療のためのプロトコルのデザインをグラフで示す。
【
図2】
図2は、高用量のボクロスポリン(VCS)と比較した、低用量についての48週での完全寛解(CR)と48週での部分寛解(PR)の比較を示す棒グラフである。PRのパーセントにはCRのパーセントが含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
上述したように、本発明の薬力学的プロトコルは、対象者の特定の生理学的指標に応じてボクロスポリンの投与を調整することに関する。先に述べたように、ボクロスポリンの投与は、MMFの投与とコルチコステロイドの投与を背景にして行われることが好ましい。
【0035】
一般的に、本発明の基礎となる治療プロトコルは、現在の標準治療よりも劇的に優れた結果を示し、完全寛解率は、現在の標準治療を用いて達成される相当低いレベルと比較して、ほぼ50%であり、48週後の部分寛解率はさらに高い;ここで、この部分寛解率(PR)には完全寛解(CR)を示した対象者が含まれる。以下に示すように、低用量のボクロスポリンは比較可能なプロトコルで高用量よりも効果的であり、完全寛解は、高用量では対象者の40%で得られたのに対して、低用量のグループでは対象者の49%で得られた。
【0036】
本発明にとって極めて重要なことは、ボクロスポリン成分の薬力学的投与である。この薬物の効果はあまりにも強すぎ、かつ/または望ましくない副作用があるか、または結果が有効性の欠如を示すことがあるため、この薬力学的投与は不可欠である;したがって、ホメオスタシス(生体恒常性)により生理学的パラメータの適切なセットが再確立されるように、投与量が減らされるか、または投与が中断される。
【0037】
前記プロトコルは、少なくとも24週の治療期間をカバーするようにデザインされており、より長い期間、例えば48週または52週などに延長することができる。このレジメンは、ボクロスポリン成分の1日量を、典型的には1日2回の頻度で含むが、患者の反応および利便性に基づいて1日1回、1日3回または1日4回などの頻度に変えることもできる。例示として、このプロトコルを23.7mgの1日2回(BID)投与量に関して以下で説明することにする;当然、ボクロスポリン製剤が1日4回投与される場合には、用量が投与ごとに半分に減らされ、投与が1日1回のみである場合には、1日1回投与の用量はBID投与される23.7mgの2倍になる。
【0038】
さらに、本発明の薬力学的プロトコルに関して、投与量は、7.9mgの基本単位の任意の組み合わせとすることができ、したがって、例示された23.7mgだけでなく、7.9mg、15.8mg、31.6mg、または39.5mgとすることもできる。
【0039】
示された投与量、例えば23.7mg(または指定された他の用量)は、わずかに変化する可能性があり、通常は±10%である;あるいは、23.7mgの場合は、21mgから26mg BIDの間で指定される。これは、医薬品製造の一貫性のなさによるものであり、理想的な投与量は指定された用量、つまり、例えば23.7mg BIDである。同等の変化が代替投与量および示差調整(differential adjustment)に適用される。
【0040】
eGFRに基づく調整:
投与量の減量の望ましさの評価に使用される1つの重要なパラメータは、CKD-EPI式または他の適切な方法を使用したeGFRである。慢性腎疾患は、腎臓損傷の有無にかかわらず3ヶ月以上にわたる≦60mL/min/1.73m2のeGFRとして定義される。上述したように、eGFRのさらなる減少は、治療中に発生しうるマイナスの副作用である。その減少がひどすぎる場合は、本発明の処方指示に従ってプロトコルを変更すべきである。典型的には、eGFRのベースライン値は、プロトコルの開始時またはプロトコル期間中のある「第1の時点」で確立される。その減少が目標パーセント(第1の時点と比較して通常20%~45%)を上回る場合は、ゼロへの減量または治療の中止を含めて、投与量の減量が指示される。その減少が目標パーセントを下回る場合は、同じレベルでの治療の維持が指示される。eGFRの減少に基づいて治療を削減または終了すべきであるという指示に加えて、所定値未満までの減少もまた、治療を変更する必要があることを示している。この所定値は、一般的に50~90mL/min/1.73m2の範囲である。
【0041】
上述したように、eGFRのベースライン値は、治療の開始時または治療中に確立される。これは通常、プロトコルで薬物を投与する前の治療の初日に行われる。このベースラインは、投与量を調整するための基準として使用される。しかし、第1の時点は、プロトコル期間中の任意に選択された時点に定めることができる。
【0042】
1つの例示的なプロトコルでは、第1の時点に続く第2の時点(任意の治療日であり得る)で、eGFRがベースラインから<60ml/min/1.73m2(または、場合によっては、より高いカットオフ)にまで30%以上減少した対象者は、リピート試験を実施できるようになるまで治療を中断する必要がある。しかし、その減少が、寄与因子によるものでないこと(例えば、eGFRの高いベースライン;非ステロイド系抗炎症薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン2阻害剤遮断薬の添加もしくは変更;または同時に起こる脱水状態など)が確認された場合は、通常48時間以内の第3の時点の決定まで治療を控えるべきである。30%以上の減少が維持されない場合は、治療を元の投与量の3分の2または3分の1に戻して、耐えられる限り23.7mg BIDレベルまで増加する。
【0043】
便宜上、23.7mgの投与は、それぞれ7.9mgを含む3個のカプセルの剤形で経口投与される。したがって、任意の時点で3個のカプセルのうち2個だけを投与することによって、標準用量の3分の2を提供することは、容易である。
【0044】
第2の時点に関して、この例示的なプロトコルでは、eGFRが≦60ml/min/1.73m2にまで20%以上減少したが、ベースラインと比較して30%未満しか減少しなかった対象者は、治療を中断されないが、投与量を減らされる。7.9mg単位で減らすことが好ましい。この場合も、治療期間中の任意の後続日の追加の時点での、ベースライン値が回復したことを示す評価により、23.7mg BIDの元の投与量レベルを再開できることが示される。
【0045】
血圧に基づく調整
薬力学的投与量を決定するために使用できる代替パラメータは、血圧である。ボクロスポリンは血圧を望ましくないレベルに上昇させる可能性があるため、治療期間中の任意の時点で、対象者の血圧のいずれかの成分、すなわち収縮期血圧または拡張期血圧が≧130/80である場合には、治療を、好ましくは7.9mg単位で、減らす必要がある。後続の時点で、血圧の両成分が130/80を下回る場合には、治療を元のレベルに戻すことができる。
【0046】
UPCRの低下および/またはC3/C4の正常化に基づく調整
成功する確率、すなわち計画されたプロトコルの終了までに完全寛解または部分寛解を達成する確率、を早期に評価するための適切な基準が特定された。その基準は、対象者が投与スケジュールを継続することから利益を得る可能性が極めて低い場合、終了時点よりも早く治療を中止することを可能にする。こうした基準はUPCRの低下とC3/C4の正常化である。これらは組み合わせて、またはいずれか一方を選択して使用することができる。成功の可能性が高い24週または48週プロトコルにおける早期の測定を使用して、ボクロスポリンによる治療を継続すべきかどうかを判定できることがわかった;そのような知見は、かなり長期のプロトコルに適用可能である。例として、該レジメンの早期にUPCRが十分な量だけ低下していない場合、または該レジメンの早期にC3/C4が正常化されていない場合、長期の治療期間にわたる改善の可能性は少ないと結論付けることができる。例示的な試験におけるこれらの基準の適用は、実施例3で詳細に示される。
【0047】
しかし、治療を中止するための規則は、単独または組み合わせで採用されるUPCRの低下またはC3/C4の正常化に基づいている。組み合わせを採用する場合には、両方の基準に関しての不成功が治療の終了を指示するであろう。判定は、実施例3に記載の表に示される感度、特異度、および陽性予測値と陰性予測値の値に基づいている。これらの用語は実施例で定義される。
【0048】
単なる例として、そのような判定は、該レジメンの開始後約8週で行うことができる;8週に近い週数として6~10週の時間枠を採用することができる。UPCRの例えば25%以下の低下が達成されない場合、対象者がさらなる治療から利益を受ける可能性は低く、そのプロトコルは中止される。実施例に示すように、これはC3/C4正常化の評価により補完され得る;これを行う場合には、両方の判定を同じ早期の時点で行うことが望ましい。
【0049】
補助治療薬
本発明のボクロスポリン治療は、MMFおよび減量したコルチコステロイドにより補完される。
【0050】
例えば、コルチコステロイドに関して、体重が45kg以上の対象者には、研究の1日目と2日目に0.5グラムのメチルプレドニゾロンを静脈内投与し、3日目に経口コルチコステロイド療法を開始する。体重が45kg未満の対象者には、これらの投与量の半分のみを投与する。
【0051】
経口プレドニゾンについては、経口投与の開始用量は、体重45kg未満の対象者が20mg/日、体重45kg以上の対象者が25mg/日である。この投与量は、表1に示すプロトコルに従って減量される。
【0052】
【0053】
コルチコステロイドの減量とは対照的に、この研究全体を通して、コップ1杯の水で食前に1日2回投与での同用量のMMFが維持される。通常、個々の用量は1グラムであり、1日あたり2グラムの総用量になるが、これとは別に、対象者に500mgを1日4回投与してもよい。
【0054】
低用量
上記の薬力学的プロトコルに加えて、本出願人は、予想より大幅に低い投与量が多数の対象者に有効であり、その結果、薬力学的調整の有無にかかわらず、対象者のループス腎炎を治療する方法は、15.8mg BIDまたは7.9mg BIDのいずれかの投与量レベルに基づくことができることを見出した。7.9mg単位は7.9mgの用量レベルを含むカプセルの利用可能性によって決定づけられ、これは投与量を変更するための便利な土台を提供する。
【0055】
したがって、本発明の1つのさらなる態様は、論理的に調整された投与量または15.8mg BIDもしくは7.9mg BIDの一定投与量が使用されるループス腎炎の治療方法である。これらのプロトコルでは、高用量のボクロスポリンの場合と同様に、MMFおよびコルチコステロイドの上記バックグラウンド投与が該プロトコルに含められる。
【0056】
一般的要因
全ての場合に、対象者は、治療の完了時とその後の延長期間の両方で治療の成功について評価される。典型的な治療期間は少なくとも24週であるが、48週またはそれ以上が好ましい。1~2週間またはそれより長い期間にわたる治療期間終了後の再評価も採用される。対象者は完全寛解または部分寛解について評価される。完全寛解(CR)は次のように定義される:タンパク/クレアチニン比≦0.5mg/mgであることの確認、およびeGFR≧60mL/min/1.73m2またはeGFRのベースラインからの20%以上の減少がないことの確認。部分寛解は、ベースラインからのUPCRの50%低下として定義される。
【0057】
薬力学的投与レジメンを確立することにより、ループス腎炎の治療における前記プロトコルの有効性は最大限に高められる一方で、望ましくない副作用は最小限に抑えられる。
【0058】
全ての場合の治療プロトコルの長さは、少なくとも8週から、例えば12、16、24および48週または52週以上、さらには上述したレベル間の中止点を含めて60週まで変化する。例えば、10、11、15、20、29、31、36、43、51または55週の治療プロトコルを採用することができ、これは本発明の範囲内である。上記の評価は、該プロトコルの終了時だけでなく、その後の適切なある時期または複数の時期に実施される。これらの時期は、一般に、投与終了後1~2週から4~5ヶ月であり、時間間隔で介在することも本発明の範囲内に含まれる。
【0059】
時間間隔に関するこの記述は、ベースとなる投与量レベルに関係なく、本発明の薬力学的治療プロトコルに適用される。
【0060】
以下の実施例は、本発明を限定するためではなく、例示するためのものである。
【実施例0061】
実施例1
LN治療の48週研究
この研究に登録された対象者を3つのグループに分けた。88人の対象者を対照グループに入れて、2g/日のMMF、ならびに経口コルチコステロイド(すなわち、
図1にグラフで示される漸減用量のプレドニゾン)を20~25mg/日で開始して12週目後に2.5mg/日まで徐々に減らして、投与した。(一部の対象者には、胃腸の問題のために低用量のMMFを投与した。)低用量グループの89人の対象者には、このバックグラウンド治療を施したが、さらに、それぞれ7.9mgのボクロスポリンを含む3個のカプセル(すなわち23.7mg)を1日2回投与した。この研究で使用したボクロスポリンはE異性体を90%以上含んでいた。88人の対象者で構成された3番目のグループには、同様のバックグラウンド治療を施したが、さらに、5個の7.9mgカプセル、すなわち39.5mgを1日2回投与した。この研究を48週間にわたって実施し、安全性を24週で評価した。
【0062】
対象者は、この研究への参加に先立って、以下を判定することによりスクリーニングされた:(a)尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)が朝の最初の排尿で測定して>1.5mg/mgである;および(b)eGFRがChronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration式(CKD-EPI)で測定して>45ml/min/1.73m2である。対象者を24週および48週後に評価し、その後50週で評価した。
【0063】
図2に示すように、低用量投与は、高用量のボクロスポリン投与よりも良い結果を達成した。48週の治療後、高用量対象者の40%と比較して、低用量対象者の49%が、48週で完全寛解を示した。同じ研究であるが24週の治療後に、対照群の19.3%と比較して、低用量患者の32.6%は完全寛解(CR)を示したのに対し、高用量患者では27%のみであった。24週で、低用量患者の70%と高用量患者の66%は部分寛解(PR)を示したのに対し、対照群では49%であった。
【0064】
この実施例でのCRは、有効性、安全性および低用量ステロイド含む複合エンドポイントである:UPCR≦0.5mg/mg(確認済み);eGFR>60ml/min/1.73m2またはベースラインの20%以内;ステロイド≦10mg/日;レスキュー薬の投与なし。
【0065】
PRは、安全性と有効性を含む複合エンドポイントである:ベースラインからのUPCRの50%低下およびレスキュー薬の使用なし。
【0066】
薬力学的プロトコル(ここでは、副作用として経験されるeGFR減少の指標の有無に応じて投与量を減らすかまたは投与を中止する)の有効性を判定するために、これらの3グループの患者を、本発明のプロトコルに従って治療が変更されたかどうかに関して、24週および48週の治療後に評価した。3つ全てのグループにおいて、患者を上記の例示的プロトコルに示された基準に従って評価した;すなわち、各患者のeGFRを、ボクロスポリンの初回量を投与する直前および少なくとも1日後の第2の時点で測定し、そして
(i)該対象者のeGFRが第1および第2の時点の間で60mL/min/1.73m2未満の値にまで30%以上減少した場合は、該対象者へのボクロスポリンの投与を中止するか、その用量を減らす;
(ii)該対象者のeGFRが第1および第2の時点の間で60mL/min/1.73m2未満の値にまで20%~30%減少した場合は、減量したボクロスポリンを該対象者に投与する;
(iii)該対象者のeGFRが第1および第2の時点の間で20%以下だけ減少した場合は、同じ所定の1日量のボクロスポリンを該対象者に投与し続ける。
【0067】
結果を以下の表2および表3に示す。表2は、減量なしの患者と減量ありの患者についての24週後の完全寛解(CR)または部分寛解(PR)の割合を示し、表3は、48週後のこれらの値を示す。
【0068】
【0069】
【0070】
この研究では、CRは、UPCR≦0.5mg/mg;eGFR>60mL/min/1.73m2またはベースラインの20%以内;≦10mg/日のステロイド;レスキュー薬の投与なしの複合エンドポイントとして定義された。PRは、ベースラインからのUPCRの50%低下およびレスキュー薬の使用なしとして定義される。
【0071】
表2に示すように、プラセボの患者の12.5%、低用量の患者の43.8%、高用量ボクロスポリンの患者の53.4%は治療中に投与量の減量を受けた。24週後に完全奏効を示した患者の割合は、いずれの投与量グループでも薬力学的投与によって影響されなかった。部分奏効を示した割合もほぼ同じであったが、高用量グループでは部分的減量に伴い該割合が改善した。表3は48週での同様の結果を示すが、より高い割合の患者が減量を受けた。この場合も、全体的な奏効への劇的な影響は示されなかった。
【0072】
実施例2
低用量プロトコル
実施例1と同様の臨床研究の過程で、大部分の対象者は、1日2回(BID)投与される15.8mgのボクロスポリンへとほぼすぐに減量した投与量で、かなりの寛解を示したことが観察された。したがって、本出願人は、これらのデータを解析して、ボクロスポリン15.8mgまたは7.9mg BIDを提供する投与プロトコルが該プロトコルの薬力学的側面の有無にかかわらず有効であると結論づけた。
【0073】
カプセルはボクロスポリンを7.9mg含むため、1個のカプセルは7.9mgのボクロスポリンに相当し、2個のカプセルは15.8mgのボクロスポリンに相当し、3個のカプセルは23.7mgのボクロスポリンに相当する、といった具合である。相当数の対象者は、投与量を治療のかなり早い段階でボクロスポリン7.9mg BIDに減らしたときでさえ、完全寛解または部分寛解を示した。15.8mg BIDの投与でも同様の結果が得られた。
【0074】
実施例3
初期応答に基づく予測可能性
実施例1で報告した研究では、早期の時点でのマーカーに基づくアウトカムの予測可能性が決定された。これらの結果を表4~12に示す。
【0075】
実施例1に記載した研究では、治療期間中の様々な時点で評価されたマーカーが最終的な好ましいアウトカムを予測するかどうか、または治療の継続が無益である可能性が高いことを示すかどうかを確認するためのデータが得られた。たとえ治療が比較的安全であっても、患者を不必要な治療にさらすことは望ましくないので、このことは重要である。これらのデータを以下の表に示す。
【0076】
これらのデータに基づいて、48週の治療プロトコルの後に患者が部分寛解(PR)を示すかどうかに関して、各マーカーの評価の感度と特異度、およびそれらの対応する陽性予測値と陰性予測値を判定した。PRは、タンパク尿(すなわちUPCR)の少なくとも50%低下と定義される。これには、完全寛解(CR)を示した対象者も含まれる。
【0077】
感度は、48週でPRを示す対象者が、指定された早期の時点でマーカーに関して好ましい結果を示した確率として定義される。以下の表では、これは、48週でPRを示した全対象者の数に対する、好ましいマーカー結果(早期低下または正常化)を示した対象者の数の比率である。
【0078】
特異度は、48週でPRを示さない対象者が、指定された早期の時点でマーカーに関して好ましくない結果を示した確率として定義される。以下の表では、これは、48週でPRを示さない全対象者の数に対する、好ましくないマーカー結果(早期低下なしまたは正常化なし)を示した対象者の数の比率である。
【0079】
陽性予測値は、早期の時点でマーカーに関して好ましい結果を示す対象者が48週でPRを示す確率として定義される。以下の表では、これは、好ましいマーカー結果を示す48週でPRが得られた対象者の数の、好ましいマーカー結果(早期低下「あり」の列)を示す全対象者の数に対する比率である。
【0080】
陰性予測値は、早期の時点でマーカーに関して好ましくない結果を示す対象者が48週でPRを示さない確率として定義される。以下の表では、これは、好ましくないマーカー結果を示す48週でPRが得られなかった対象者の数の、好ましくないマーカー結果(早期低下「なし」の列)を示す全対象者の数に対する比率である。
【0081】
理想的なマーカーは、これら全てに対して100の値を示すであろうが、これは一般に達成不可能である。できるだけ高い値が望ましい。
【0082】
これらの表の結果に基づいて、本発明のプロトコルは、上記のパラメーターが最も好ましい早期の時点で、しかし48週の終了時点より前の妥当な時点で、治療を中止するようにデザインされる。(明らかに、終了時点に近いほど、指標はより好ましいものになるが、治療を中止する利点はそれに応じて少なくなる。)
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
したがって、例えば、8週または12週での結果は最終的なアウトカムの予測であるようであり、その時点でUPCRの>15%低下が見られない場合は、治療を中止することが有益である。
【0089】
完全を期すために、表9aおよび9bは、UPCRの25%低下を基準として使用して、プロトコルを24週間または48週間延長する場合の、8週の早期時点について同様の結果を示す。
【0090】
【0091】
有効性の別の基準は、血液中のC3および/またはC4濃度の正常化である。C3の正常な濃度は90mg/dlまたはそれ以上であり、C4の場合は16mg/dlまたはそれ以上である。本発明の治療の対象者は、一般にこれらの値より低い濃度を有する。C3の正常化は、対象者により示される90mg/dl未満からそのレベルを超えるまでの増加、またはベースライン(90未満)からの25%増加として定義され、C4の正常化は、対象者により示される16mg/dl未満からそのレベルを超えるまでの増加、またはベースライン(16未満)からの25%増加として定義される。
【0092】
表10~12は、UPCRについての表4~9のデータと同様の、これらの基準についてのデータを提供する。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
表13~17では、12週でのUPCRとC3/C4を組み合わせた結果について同様の計算が行われる。これらの表では、表4~8での12週の決定からのデータが、表12での12週の時点からのデータと合致している。
【0097】
示された感度、特異度、陽性予測値および陰性予測値のレベルに基づいて、治療を中止するか継続するかの決定が下される。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
実施例4
低用量コルチコステロイド
本出願人はまた、表18及び19に示すように、「標準治療」と比較して、コルチコステロイドの投与量を効果的に減らすことができ、さらに4mg/日またはそれ以下に減らすことができることを見出した。
【0104】
【0105】
【表19】
(付記)
(付記1)
タンパク尿性腎疾患を治療するための薬力学的方法であって、該疾患と診断された対象者に、少なくとも24週間の計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、さらに、
(a)該治療期間のうち異なる日の少なくとも第1の時点および第2の時点で、該対象者の推算糸球体濾過量(eGFR)を評価すること;および
(b)(i)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、所定値未満に目標%を上回って減少する場合には、1日量を7.9mgBID単位で減らすか、または該対象者へのボクロスポリンの投与を中止すること;
(ii)該対象者のeGFRが、前記第1の時点と前記第2の時点の間で、該目標%を下回って減少する場合には、ボクロスポリンの同じ所定の1日量を該対象者に投与し続けること;
を含んでなる方法。
(付記2)
前記第1の時点が前記プロトコルを開始する直前である、付記1に記載の方法。
(付記3)
前記所定値が50~90ml/min/1.73m
2の範囲である、付記1に記載の方法。
(付記4)
前記目標%が20~45%の範囲である、付記1に記載の方法。
(付記5)
前記所定値が約60ml/min/1.73m
2である、付記3に記載の方法。
(付記6)
前記目標%が約30%である、付記4に記載の方法。
(付記7)
前記対象者に対して前記方法を実施する前に、
(a)該対象者の尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)が、朝の最初の排尿または24時間尿で測定して≧1mg/mgであると判定すること;および
(b)該対象者のeGFRが、Chronic Kidney Disease Epidemiology Collaboration式(CKD-EPI)で測定して≧45ml/min/1.73m
2であると判定すること;
によって、該方法に適している該対象者を識別することをさらに含み、
その際、(a)および(b)の条件を満たす場合に、該対象者を該方法に適しているとして識別する、付記1に記載の方法。
(付記8)
前記所定の1日量が、ボクロスポリン39.5mg BID、ボクロスポリン31.6mg BID、ボクロスポリン23.7mg BID、ボクロスポリン15.8mg BID、またはボクロスポリン7.9mg BIDである、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記9)
前記方法が、eGFRを評価することによって、該治療期間の終了後のある時点で腎機能について該対象者を評価することをさらに含む、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記10)
前記方法が、該治療期間の終了後のある時点でタンパク/クレアチニン比(UPCR)を評価することによって、有効性について該対象者を評価することをさらに含む、付記9に記載の方法。
(付記11)
前記方法が、該対象者に有効量のミコフェノール酸モフェチル(MMF)を投与することをさらに含む、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記12)
前記対象者に有効量のコルチコステロイドを投与することをさらに含む、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記13)
前記治療期間が少なくとも48週間である、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記14)
前記対象者のeGFRを第3の時点で測定することをさらに含み、第3の時点で測定されたeGFRが第1の時点で測定されたeGFRと目標%を下回って異なる場合には、ボクロスポリンの前記所定の1日量の投与を再開する、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
(付記15)
前記目標%が20~45%である、付記14に記載の方法。
(付記16)
前記目標%が約30%である、付記15に記載の方法。
(付記17)
タンパク尿性腎疾患を治療するための薬力学的方法であって、タンパク尿性腎疾患と診断された対象者に、終了時点までの計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、さらに、
(a)該治療期間前の第1の時点と、該治療期間の開始後であるが終了時点前の第2の時点で、該対象者の尿タンパク/クレアチニン比(UPCR)を測定し、第1の時点と第2の時点の間の該UPCRの低下を判定すること;および
(b)該対象者のUPCRが前記第2の時点で少なくとも所定量の低下を示さない場合は、該対象者へのボクロスポリンの投与を中断し、前記所定量の低下が示される場合には、該投与を継続すること;
を含んでなる方法。
(付記18)
前記第1および前記第2の時点で該対象者の血液中のC3/C4の濃度を測定し、C3/C4の濃度が第2の時点で正常化されるかどうかを判定し、該正常化が見られる場合は、該対象者へのボクロスポリンの投与を元に戻すかまたは継続し、正常化が起こらなかった場合には、該中断を維持することをさらに含む、付記17に記載の方法。
(付記19)
前記方法が、該対象者に有効量のミコフェノール酸モフェチル(MMF)を投与することをさらに含む、付記17または18に記載の方法。
(付記20)
前記対象者に有効量のコルチコステロイドを投与することをさらに含む、付記17または18に記載の方法。
(付記21)
前記所定の1日量が、ボクロスポリン39.5mg BID、ボクロスポリン31.6mg BID、ボクロスポリン23.7mg BID、ボクロスポリン15.8mg BID、またはボクロスポリン7.9mg BIDである、付記17または18に記載の方法。
(付記22)
タンパク尿性腎疾患を治療するための方法であって、ループス腎炎と診断された対象者に、少なくとも8週間の計画された治療期間にわたって有効量のボクロスポリンの所定の1日量を投与することを含んでなり、該有効量がボクロスポリン15.8mg BIDまたは7.9mg BIDである、方法。