(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113903
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】臓器の虚血再灌流傷害を予防する方法における使用のためのIL-33のアンタゴニスト
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20230808BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20230808BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20230808BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20230808BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230808BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230808BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230808BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K45/00
A61L27/36 100
A61L27/36 410
A61L27/54
A61L27/22
A61K39/395 D
A61K39/395 U
A61K31/7088
A61K31/713
A61P13/12
A61P9/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023095440
(22)【出願日】2023-06-09
(62)【分割の表示】P 2020540401の分割
【原出願日】2019-01-24
(31)【優先権主張番号】18305054.1
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
3.NONIDET
4.SPAN
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】506155266
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
(71)【出願人】
【識別番号】518154594
【氏名又は名称】サントル オスピタリエ ユニヴェルシテル ドゥ ポワティエ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE DE POITIERS
(71)【出願人】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】エルブラン,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンベール,ジャン-マルク
(72)【発明者】
【氏名】フェルハト,マルア
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジラール,ジャン-フィリップ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】臓器の虚血再灌流傷害を予防する方法を提供する。
【解決手段】臓器における虚血再灌流傷害を予防するか、重症度を低減するか、又はそのリスクを低減する方法であって、治療有効量のIL-33アンタゴニストを臓器に投与することを含む方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
臓器における虚血再灌流傷害を予防するか、重症度を低減するか、又はそのリスクを低減する方法であって、治療有効量のIL-33アンタゴニストを臓器に投与することを含む方法。
【請求項2】
臓器が、レシピエントに移植されることになっている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
臓器が、有効量のIL-33アンタゴニストで灌流される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
臓器が、温虚血及び/又は冷虚血の対象である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
外科的処置であって、肝臓切除術;血栓溶解療法、ステント留置術、又は外科的修復などによる心筋梗塞後の血行再建術;血栓溶解療法又は外科的修復などによる脳卒中後の血行再建術;あるいは、虚血傷害後の四肢の修復若しくは再接合術又は動脈瘤の外科的修復を含む、血管損傷後の血行再建術のような外科的処置中に実行される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
外科的処置が、臓器への血液供給のクランプ固定を必要とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
外科的処置が、2つの血管の連結、例えば、冠動脈バイパス、末梢バイパス、血液透析アクセス(瘻孔の造設)、及び遊離皮弁手術(乳房及び顔面再建術)を伴う、請求項5記載の方法。
【請求項8】
心筋組織、血管組織及び神経組織(特に脳組織)のような組織において起こり得る、任意の虚血性発作又は虚血性イベントに適用される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
急性腎傷害(AKI)後の慢性腎疾患(CKD)への進行を防止するための、請求項1記載の方法。
【請求項10】
IL-33アンタゴニストが、IL-33に対して結合親和性を有する抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
IL-33アンタゴニストが、ST2の細胞外ドメインに対する抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
IL-33アンタゴニストが、場合によりFc領域のような免疫グロブリン定常ドメインに融合された、IL-33を捕捉することができる可溶性受容体を形成するように、ST2の細胞外ドメインの全部又は一部を含むポリペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項13】
IL-33アンタゴニストが、siRNA又はアンチセンスオリゴヌクレオチドのような、IL-33又はST2発現のインヒビターである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
IL-33アンタゴニストが、注入、ポンプ装置及び/又は任意の機械(例えば、バイパス機械)を使用して、対象又は単離された臓器に直接投与される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
有効量のIL-33アンタゴニストを含む保存溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器の虚血再灌流傷害を予防する方法における使用のためのIL-33のアンタゴニストに関する。
【背景技術】
【0002】
腎移植時の虚血再灌流傷害(IRI)は、ミトコンドリア機能障害、活性酸素種の放出、細胞壊死、アポトーシス及び組織損傷を伴う、複雑な病態生理を経て移植片損傷(1)の一因となる。その結果、臓器機能が損なわれ(2)、線維症につながる(3)。
【0003】
IRIモデルでの研究は、自然免疫系が介在する炎症反応が腎損傷を引き起こすことを実証している(2~6)。ただし、免疫細胞の初期活性化及び虚血後の腎臓への動員の機序はなお不明であり、非感染性炎症反応を開始できる宿主生体分子である炎症性の損傷関連分子パターン(DAMP)の関与の可能性の問題が浮かび上がる(7~8)。DAMPは通常細胞内にあり、細胞膜によって免疫系から保護されており(9~10)、組織損傷に続くそれらの放出は細胞損傷を伝達し、自然免疫系を活性化する(9~12)。アラーミン(alarmin)と呼ばれるDAMPのサブセットは、組織由来の核タンパク質であり、上皮バリア組織及び内皮バリアにおいて高レベルで構成的に発現している。ディフェンシン、カテリシジン、好酸球由来神経毒、高移動度群ボックスタンパク質(HMGB)1、及びインターロイキン(IL)-1αを含む、これらの強力な免疫刺激剤は、Toll様受容体(TLR)又はサイトカイン受容体を活性化する能力を持ち、そして隣接細胞/組織に警告を出し、自然免疫系及び適応免疫系を動員するための早期警戒信号として機能を果たす(13)。
【0004】
重要な炎症性機能はまた、従来のサイトカイン及びアラーミンの両方として、IL-33に起因するとされてきた(14~19)。IL-33は、当初NF-HEV(「高内皮細静脈の核因子(Nuclear Factor of High-Endothelial Venules)」)と呼ばれる核因子として同定され(20)、IL-1-β及びIL-18も含むサイトカインのIL-1受容体スーパーファミリーの最新のメンバーである。それは、内皮細胞及び上皮細胞及び/又は線維芽細胞の核において、腎臓を含む様々な組織によって構成的に発現される(14~19、21)。感染又は外傷に起因する組織ストレス状態で、IL-33は、アラーミンとして壊死細胞によって放出され、非免疫細胞及び自然免疫細胞の両方を急速に標的とし、それにより炎症性サイトカイン分泌を増加させる(18、19、22)。それの具体的な受容体のST2及び共受容体のIL-1受容体アクセサリータンパク質(IL-1RAcP)(14、15)に結合すると、IL-33はMyD88(骨髄分化一次応答遺伝子88)依存性炎症経路を開始させる。IL-33は、IL-33のデコイ受容体として作用するsST2(可溶性ST2)によって負に調節され得る(19)。
【0005】
IL-33は、腎毒性及び閉塞性AKIにおいて有害な効果を持つ強力な炎症性メディエーターとして説明されている(21、23)。ただし、2つのモデルでは、IL-33は従来のサイトカイン同様に、AKI誘導後2~4日以内に合成されるらしいため、IL-33の初期のアラーミン様放出は報告されていない。一方、2型自然リンパ球(24)及びTreg(25)のようなST2を発現する逆調節免疫細胞の活性化を介する外因性IL-33の保護効果は、幾つかの実験的AKI設定において報告されている。
【0006】
ヒトでは、IL-33は慢性腎疾患に関与している(26、27)。腎臓移植に関して、我々の最近の発見は、腎臓IRIの間に、IL-33が再灌流後に血清及び尿中に即座に放出されるアラーミンとして作用することを示唆している(28)。この臨床状況では、IL-33レベルとIRI期間が相関しており、腎細胞損傷とIL-33放出の間の密接な関係を支持している(28)。それにもかかわらず、実験的な腎臓IRIへのIL-33の関与の直接的な証拠はこれまで提供されていない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、臓器の虚血再灌流傷害を予防する方法における使用のためのIL-33のアンタゴニストに関する。特に、本発明は、特許請求の範囲によって規定される。
【0008】
発明の詳細な説明
炎症は、白血球浸潤及び尿細管傷害を特徴とする虚血再灌流傷害(IRI)の顕著な特徴である。ただし、これらのイベントを開始させる信号はよく理解されていないままである。本研究は、組織損傷の開始因子として、またマウスの実験的腎虚血再灌流によって引き起こされる自然免疫反応の主要な増幅因子として、核内アラーミンのインターロイキン(IL)-33を同定している。IL-33は、主に微小血管内皮細胞によって、尿細管周囲腔及び糸球体周囲腔に腎臓全体で構成的に発現されており、IRIの際にはここから直ちに放出される。IL-33を欠くマウス(IL-33Gt/Gt)では、早期の尿細管細胞傷害の減少、及びその後のIFN-γ/IL-17A産生好中球の浸潤の減少及び腎機能の維持によって証明されるとおり、IRIは減少する。この保護は、骨髄DC、NK及びiNKT細胞の減少に関連しており、これらは、IRIでの潜在的に有害な役割で知られている。主要なIL-33共作用物質である循環IL-12の増加、及びiNKT細胞の表面IL-33特異的受容体過剰発現は、好中球細胞浸潤のIL-33及びiNKT細胞依存期に先行する。この知見によって、IL-33がIFN-γとIL-17Aの両方を誘導することによりiNKT細胞を標的にするというインビトロの観察とともに、内因性IL-33がiNKT細胞動員及びサイトカイン産生を促進することにより腎臓IRIの一因となり、結果として傷害部位での好中球の浸潤及び活性化が生じることを本発明者らは提案するに至る。まとめると、発明者らの知見は、腎虚血再灌流によって誘導される自然免疫細胞の動員の一因となる新規な分子メディエーターを明らかにしており、腎移植に伴う急性腎傷害への新しい治療的洞察を提供し得る。
【0009】
したがって、本発明の第1の目的は、治療有効量のIL-33アンタゴニストを臓器に投与することを含む、臓器における虚血再灌流傷害を予防するか、重症度を低減するか、又はリスクを低減する方法に関する。
【0010】
本明細書に使用されるとき、「虚血」という用語は、結果として臓器の損傷又は機能不全を生じる血液供給の制限のことをいう。虚血は、低酸素症(酸素の不足を表す、より一般的な用語であり、通常は呼吸している空気中の酸素の不足の結果である)というよりは、臓器への血液供給の絶対的又は相対的な不足、即ち、酸素、グルコース及び他の血液由来成分の不足である。相対的な不足とは、血液供給(酸素/燃料供給)と組織の適切な代謝のための血液要求との不一致を意味する。虚血はまた、血液を供給する血管の収縮又は閉塞によって引き起こされる、身体の一部への不十分な血流として説明され得る。これは、限定されるわけではないが、低血糖症(通常の血糖値よりも低い);頻脈(異常に速い心臓の鼓動);アテローム動脈硬化(動脈管腔を閉塞する脂質を含むプラーク);低血圧(例えば、敗血症性ショック、心不全での低血圧);血栓塞栓症(血栓);血管の外部圧迫、例えば、圧力、血管の切断、移植臓器の植え込み、手術によるか、腫瘍によるなどの機械的に圧迫;塞栓症(循環中の異物、例えば、羊水塞栓症);鎌状赤血球症(異常形状の赤血球);アクロバット及び軍用飛行におけるように、血流を制限し、血液を身体の四肢に押し流す誘導重力;並びに凍傷、氷、又は不適切な低温圧迫療法によるような、局所的な極寒が原因である可能性がある。
【0011】
本明細書に使用されるとき、「再灌流」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、虚血後の組織への血流の回復のことをいう。
【0012】
したがって、「虚血再灌流」という用語は、虚血のエピソードの後に再灌流のエピソードが続くイベントを包含することが意図され、「虚血再灌流傷害」という用語は、虚血再灌流イベントによって引き起こされる組織損傷のことをいう。虚血期間の血液からの酸素及び栄養素の欠如は、循環の回復が、正常な機能の回復というよりは(又はそれとともに)酸化ストレスの誘導を通じて炎症及び酸化的損傷をもたらす状態を作り出す。
【0013】
本発明の方法は、線維症及び臓器機能不全を予防するのに特に適している。本明細書に使用されるとき、「線維症」という用語は、臓器又は組織の正常な構成要素としてではなく、修復又は反応過程としての線維組織の形成のことをいう。線維症は、任意の特定の組織における筋線維芽細胞の集積と、正常な沈着量を超えるコラーゲン沈着とを特徴とする。本明細書に使用されるとき、「臓器機能不全」という用語は、臓器の物理的構造又は機能の低下又は障害を意味しかつ含む。
【0014】
幾つかの実施態様において、本発明の方法の使用は、単離された(移植された)臓器に有効量のIL-33アンタゴニストを投与することによって臓器移植を改善することができる。したがって、幾つかの実施態様において、臓器はレシピエントに移植されることになっている。よって本方法は、単離された臓器にエクスビボで実行される。
【0015】
幾つかの実施態様において、移植された臓器は死体臓器であり、臓器が死体ドナーから得られるそれらの例では、IL-33アンタゴニストを死体又は摘出された臓器のいずれかに投与することができる。幾つかの実施態様において、移植された臓器は生体臓器提供であり、それらの例では、IL-33アンタゴニストを摘出された臓器に投与することができる。
【0016】
幾つかの実施態様において、臓器は単離され、有効量のIL-33アンタゴニストで灌流される。
【0017】
幾つかの実施態様において、移植臓器は、温虚血及び/又は冷虚血の対象である。
【0018】
本明細書に使用されるとき、「温虚血」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、正常温度条件下での細胞及び組織の虚血を説明するために使用される。
【0019】
本明細書に使用されるとき、「冷虚血」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、血液灌流の減少中又は血液供給がない場合の臓器冷却のことをいう。幾つかの実施態様において、有効量のIL-33アンタゴニストは、冷虚血時間に投与される。本明細書に使用されるとき、「冷虚血時間」又は「CIT」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、回収された臓器の低温保存の開始から移植後の温循環の回復までの時間のことをいう。受け入れ外科医/施設によって、及びドナーとレシピエントの特性によって変動する。直感的には、CITは短いほど良い。腎臓移植の場合、CITは24時間を下回るはずであり;膵臓移植の場合、CITは18時間を下回り、そして肝臓移植の場合、CITは8時間を下回るはずである(Bernat JL, D'Alessandro AM, Port FK, Bleck TP, Heard SO, Medina J, et al. Report of a National Conference on Donation after cardiac death. Am J Transplant. 2006;6:281-91)。
【0020】
幾つかの実施態様において、本発明の方法の使用は、臓器への血液供給の停止とそれに続く再灌流を必要とする、臓器保護の外科的処置を改善することができる。虚血再灌流傷害のリスクをもたらす外科的処置の例は、肝臓切除術;血栓溶解療法、ステント留置術、又は外科的修復などによる心筋梗塞後の血行再建術;血栓溶解療法又は外科的修復などによる脳卒中後の血行再建術;あるいは、虚血傷害後の四肢の修復若しくは再接合術又は動脈瘤の外科的修復を含む、血管損傷後の血行再建術を含む。その他の例としては、腹腔鏡手術を含む上部又は下部胃腸管の手術、人工心肺装置を使用するか又は使用しない開心術、鼻咽喉手術、血管手術、神経学的(脳)手術、移植(肝臓、心臓、肺、腎臓、腸)、肝臓手術及び帝王切開がある。幾つかの実施態様において、外科的処置は、狭心症を緩和し、冠動脈疾患による死亡のリスクを低減するために行われる外科的処置である、冠動脈バイパス移植(CABG)術又は心臓バイパス又は単にバイパス術としても知られる冠動脈バイパス術(Coronary Artery Bypass Surgery)である。患者の身体の他の部分からの動脈又は静脈が冠動脈に移植され、アテローム動脈硬化の狭窄部を迂回し、心筋(myocardium)(心筋(heart muscle))に供給する冠循環への血液供給を改善する。この手術は通常、心臓が停止した状態で行われるため、心肺バイパス法を使用する必要がある;拍動している心臓でのCABG、いわゆる「オフポンプ」術を実行するための手法が利用できる。幾つかの実施態様において、本発明の方法は、臓器への血液供給のクランプ固定を必要とする任意の外科的処置において使用することができる。特に、本発明の本方法は、2つの血管の連結、例えば、冠動脈バイパス、末梢バイパス、血液透析アクセス(瘻孔の造設)、及び遊離皮弁手術(乳房及び顔面再建術)を伴う全ての外科的処置に適用される。更に具体的には、本発明の方法は、吻合を必要とする任意の外科的処置に適用され得る。本明細書に使用されるとき「吻合」という用語は、血管のような管状構造間の外科的接続のことをいう。典型的には、有効量のIL-33アンタゴニストは、外科的処置の前、最中又は後に患者に投与され得る。特に、有効量のIL-33アンタゴニストは、臓器の再灌流中に患者に投与される。
【0021】
本発明の方法は、任意の虚血性発作又は虚血性イベントに適用され得る。虚血性イベントに特に影響を受けやすい組織は、心筋組織、血管組織及び神経組織(特に脳組織)を含む。虚血の影響を受けやすい他の組織は、腸、肝臓、腎臓及び眼からの組織を含む。外傷又は心停止の期間中の不安定狭心症のような特定の生理障害に起因して、心臓保護の必要が生じる場合がある。更に、脳卒中、一過性虚血発作又は切迫卒中(一過性黒内障(amarosis fugax))のような障害は、本発明の方法を使用する治療の候補症状である。二次性脳卒中のリスクを引き起こす脳卒中が発生した場合、又は数時間若しくは数日以内に脳卒中のリスクを引き起こす別の症状が発生した場合、本方法を適用してそのようなリスクを下げることができる。当業者は、他の虚血性組織損傷のリスクの増加に関連する状況を認識するであろう。そのような病状は、腸間膜動脈不全、腎動脈狭窄、肝静脈血栓症、末梢血管不全、多発性外傷、敗血症及び多臓器系不全を含む。他の虚血性イベントは、部分的冠動脈閉塞の血管造影の証拠、心筋損傷の心エコー検査の証拠、又は将来又は追加の虚血性イベントのリスクのその他の証拠(例えば、心筋梗塞(MI)のような心筋虚血性イベント、又は脳血管発作(CVA)のような神経血管虚血)を含む。虚血/再灌流は、心筋以外の組織を損傷する可能性がある。提供される方法は、脳、肝臓、腸(gut)、腎臓、腸(bowel)の組織、又はその他の組織における虚血再灌流傷害の減少に役立つ可能性がある。追加の用途は、銃創、刺創に起因する腹部への貫通創から、あるいは減速外傷及び/又は自動車事故に続発する貫通創又は鈍的腹部外傷から生じるものを含む、内臓への血流の中断をもたらす鈍的又は貫通性外傷を含む。他の好ましい用途は、失血による出血性ショック、心筋梗塞若しくは心不全による心原性ショック、神経性ショック又はアナフィラキシーを含む、内臓への血流を中断させるか又は減少させるかの全身性低血圧をもたらす疾患又は処置を含む。
【0022】
幾つかの実施態様において、本発明の方法は、急性腎傷害(AKI)後の慢性腎疾患(CKD)への進行を防止するのに特に適している。本明細書に使用されるとき、「慢性腎疾患」(CKD)という用語は、数ヶ月又は数年の期間にわたる腎機能の進行性の消失のことをいう。CKDは、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、腎臓に影響を与える多数の症状である、腎実質の破壊及び機能性ネフロン又は糸球体の消失を分類するために使用される。更に注目すべきは、CKDは様々な原因で発生する可能性があるが、最終的な経路は腎線維症のままである点である。「急性腎傷害」又は「急性腎不全」という用語は、典型的には体内の窒素老廃物の蓄積につながるのに十分な腎機能の急速な悪化によって特定される(例えば、Anderson and Schrier (1994), in Harrison's Principles of Internal Medicine, 13th edition, Isselbacher et al, eds., McGraw Hill Text, New Yorkを参照のこと)。少なくとも4~8mmol/L/日(10~20mg/dL/日)のBUNの増加率、及び少なくとも40~80μmol/L/日(0.5~1.0mg/dL/日)の血清クレアチニンの増加率は、急性腎不全において典型的である。尿試料はまた、急性腎傷害を患っている患者の尿細管傷害残渣を含む場合がある。異化(又は異化亢進)である対象では、BUNの増加率は100mg/dL/日を超える場合がある。BUN又は血清クレアチニンの増加率は、連続血液検査によって決定され得、そして好ましくは、少なくとも2回の血液検査が、6時間と72時間の間、又はより好ましくは、12時間と24時間の間の期間にわたって行われる。「急性」腎不全(数日間にわたる悪化)と「急速に進行する」腎不全(数週間にわたる悪化)とは区別されることがある。しかしながら、本明細書に使用されるとき、「急性腎傷害」という語句は、両方の症候群を包含することが意図されている。上記のとおり、急性腎傷害は臨床医によって定期的に特定されている。AKIは、血管収縮疾患(例えば、悪性高血圧症、強皮症、溶血性尿毒症症候群、血栓性血小板減少性紫斑病)及び血管炎(例えば、結節性多発動脈炎、過敏性血管炎、血清病、ウェゲナー肉芽腫症、巨細胞性動脈炎、混合性クリオグロブリン血症、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、全身性エリテマトーデス)のような血管系の異常に起因する場合がある。AKIはまた、感染後の異常(例えば、連鎖球菌、肺炎球菌、淋菌、ブドウ球菌、腸球菌、ウイルス[例えば、B型及びC型肝炎、おたふく風邪、麻疹、エプスタイン・バー]、マラリアの感染後、又はブルセラ症、レジオネラ、リステリア、シャント腎炎、ハンセン病、レプトスピラ症、若しくは内臓膿瘍に関連する)及び非感染性の異常(例えば、急速に進行する糸球体腎炎、膜増殖性糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、全身性エリテマトーデス、ウェゲナー肉芽腫症)のような糸球体の異常に起因する場合もある。幾つかの実施態様において、AKIは、薬物関連の原因(例えば、ペニシリン、スルホンアミド、カルベニシリン、セファロスポリン、エリスロマイシン、ナフシリン、オキサシリン、非ステロイド性抗炎症剤、利尿薬(フロセミド、エタクリン酸、チアジド、スピロノラクトン、水銀剤)、フェニトイン、フェノバルビタール、プロベネシド、アロプリノール、シメチジン)、感染に関連する原因(例えば、急性腎盂腎炎、連鎖球菌、ブドウ球菌、レプトスピラ症、マラリア、サルモネラ症)、乳頭壊死(例えば、糖尿病、鎌状赤血球症、鎮痛剤乱用、アルコール依存症に関連)、及び他の雑多な原因(例えば、サルコイドーシス、白血病、リンパ腫)に起因する急性間質性腎炎に起因する場合がある。幾つかの実施態様において、AKIは、結晶沈着(例えば、尿酸、シュウ酸塩、メトトレキサート)又は多発性骨髄腫及び軽鎖疾患による尿細管内閉塞に起因する場合がある。幾つかの実施態様において、AKIは、腎毒素(例えば、アミノグリコシド、テトラサイクリン、アンホテリシン、ポリミキシン、セファロスポリンのような抗菌剤)、重金属(例えば、水銀、鉛、ヒ素、金塩、バリウム)、及び他の雑多な化学物質(例えば、シスプラチン、ドキソルビシン、ストレプトゾシン、メトキシフルラン、ハロタン、エチレングリコール、四塩化炭素)、又は虚血(例えば、出血、低血圧、敗血症、火傷、腎梗塞、腎動脈解離、横紋筋融解症、外傷)、又は他の雑多な原因(例えば、造影剤、輸血反応、ミオグロビン血症、熱中症、ヘビ及びクモの咬傷)に起因する急性尿細管壊死に起因する場合がある。
【0023】
本明細書に使用されるとき、「IL-33」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、NCBIアクセッション番号NP_254274.1(ヒトアイソフォーム1)、NP_001186569.1(ヒトアイソフォーム2)、又はNP_001186570.1(ヒトアイソフォーム3)に明記されるアミノ酸配列を有するヒトIL-33タンパク質のことをいう。本明細書のタンパク質、ポリペプチド及びタンパク質断片への全ての言及は、非ヒト種(例えば、「マウスIL-33」、「サルIL-33」など)に由来するものとして明示的に指定されていない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド又はタンパク質断片のヒト版を指すことが意図されている。
【0024】
本明細書に使用されるとき、「ST2」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、NCBIアクセッション番号NP_057316.3に明記されるアミノ酸配列を有するIL-33の受容体のことをいう。
【0025】
本明細書に使用されるとき、「IL-33アンタゴニスト」という用語は、IL-33の活性又は発現を阻害する化合物のことをいう。特に、IL-33アンタゴニストは、IL-33又はその受容体(ST2)に結合し、IL-33シグナル伝達及び/又はIL-33と細胞表面受容体(即ち、ST2)の間の相互作用を遮断、減衰又はそうではなく妨害することができる任意の化合物のことをいう。典型的には、IL-33アンタゴニストは、有機低分子、ポリペプチド、アプタマー、抗体、イントラアンチボディ、オリゴヌクレオチド又はリボザイムである。
【0026】
幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、IL-33に対して結合親和性を有する抗体である。幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、ST2の細胞外ドメインに対する抗体である。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、ST2へのIL-33の結合を阻害することができる。幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、ST2に結合するIL-33の領域に対して結合親和性を有する抗体である。幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、IL-33に結合するST2のドメインに対して結合親和性を有する抗体である。
【0027】
よって本明細書に使用されるとき、「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子を指すために使用され、そしてこの用語は、Fab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(DAB)、TandAbダイマー、Fv、scFv(一本鎖Fv)、dsFv、ds-scFv、Fd、直鎖状抗体、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体断片、バイボディ、トリボディ(scFv-Fab融合物、それぞれ二重特異性又は三重特異性);sc-ダイアボディ;カッパ(ラムダ)ボディ(scFv-CL融合物);BiTE(二重特異性T細胞誘導抗体(Bispecific T-cell Engager)、scFv-scFvタンデムでT細胞を誘引する);DVD-Ig(二重可変ドメイン抗体、二重特異性フォーマット);SIP(小免疫タンパク質(small immunoprotein)、一種のミニボディ);SMIP(「小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceutical)」scFv-Fcダイマー);DART(ds安定化ダイアボディ「二重親和性再標的化試薬(Dual Affinity ReTargeting)」);1つ以上のCDRを含む小抗体模倣物などのような抗原結合ドメインを含む抗体断片を含む。種々の抗体ベースのコンストラクト及び断片を調製及び使用するための手法は、当技術分野において周知である(Kabat et al., 1991を参照のこと、引用によって本明細書に具体的に取り込まれる)。ダイアボディは、特に、EP 404,097及びWO 93/11161に更に記載されている;一方、直鎖状抗体は、Zapata et al. (1995)に更に記載されている。従来の手法を用いて抗体を断片化できる。例えば、抗体をペプシンで処理することによってF(ab’)2断片を作り出すことができる。得られるF(ab’)2断片を、ジスルフィド架橋を還元することで処理しFab’断片を生成することができる。パパイン消化により、Fab断片が形成され得る。Fab、Fab’及びF(ab’)2、scFv、Fv、dsFv、Fd、dAb、TandAb、ds-scFv、ダイマー、ミニボディ、ダイアボディ、二重特異性抗体断片及び他の断片も組換え技術によって合成することができるか、又は化学的に合成することができる。抗体断片を製造するための技術は当技術分野において周知であり報告されている。例えば、Beckman et al., 2006; Holliger & Hudson, 2005; Le Gall et al., 2004; Reff & Heard, 2001; Reiter et al., 1996; 及びYoung et al., 1995のそれぞれは、有効な抗体断片の製造を更に説明して可能にしている。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、一本鎖抗体である。本明細書に使用されるとき、「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、天然に軽鎖を欠くラクダ科の哺乳動物に見られるタイプの抗体の単一重鎖可変ドメインのことをいう。このような単一ドメイン抗体はまた、「ナノボディ(登録商標)」である。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明については、上で引用された先行技術、更にはEP 0 368 684、Ward et al. (Nature 1989 Oct 12; 341 (6242): 544-6)、Holt et al., Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490; 及びWO 06/030220、WO 06/003388も参照される。
【0028】
幾つかの実施態様において、抗体はヒト化抗体である。本明細書に使用されるとき、「ヒト化」とは、CDR領域外の幾つか、ほとんど又は全てのアミノ酸が、ヒト免疫グロブリン分子に由来する対応するアミノ酸で置き換えられている抗体を表す。ヒト化の方法は、米国特許第4,816,567号、5,225,539号、5,585,089号、5,693,761号、5,693,762号及び5,859,205号に記載されているものを含むが、これらに限定されず、そしてこれらは、引用によって本明細書に取り込まれる。
【0029】
幾つかの実施態様において、抗体は完全ヒト抗体である。完全ヒトモノクローナル抗体はまた、ヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子座の大部分の遺伝子導入マウスを免疫することによって調製され得る。例えば、米国特許第5,591,669号、5,598,369号、5,545,806号、5,545,807号、6,150,584号、及びそれらに引用された参考文献を参照のこと(これらの内容は引用によって本明細書に取り込まれる)。
【0030】
幾つかの実施態様において、本発明の抗体は一本鎖抗体である。本明細書に使用されるとき、「単一ドメイン抗体」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、天然に軽鎖を欠くラクダ科の哺乳動物に見られるタイプの抗体の単一重鎖可変ドメインのことをいう。このような単一ドメイン抗体はまた、「ナノボディ(登録商標)」である。
【0031】
幾つかの実施態様において、抗体は、ヒト重鎖定常領域配列を含むが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導しない。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、FcgRIIIA(CD16)ポリペプチドに実質的に結合することができるFcドメインを含まない。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、Fcドメインを欠く(例えば、CH2及び/又はCH3ドメインを欠く)か、又はIgG2若しくはIgG4アイソタイプのFcドメインを含む。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、ダイアボディ、一本鎖抗体断片、又は複数の異なる抗体断片を含む多重特異性抗体からなるか、又はこれらを含む。幾つかの実施態様において、本発明の抗体は、毒性部分に連結されていない。幾つかの実施態様において、アミノ酸残基から選択される1つ以上のアミノ酸は、抗体がC2q結合を変化させるか、及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を減少若しくは消失させるように、異なるアミノ酸残基で置き換えられ得る。このアプローチは、ldusogieらによる米国特許第6,194,551号に更に詳細に記載されている。
【0032】
幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、ST2の機能的同等物を含むポリペプチドである。本明細書に使用されるとき、「ST2の機能的同等物」は、IL-33に結合することができ、それによりST2とのIL-33の相互作用を妨げることができるポリペプチドである。「機能的同等物」という用語は、ST2の断片、変異体、及び突然変異タンパク質を含む。よって「機能的に同等」という用語は、タンパク質類似体がST2に結合する能力を保持するように、例えば、1つ以上のアミノ酸の欠失、置換又は付加によって、アミノ酸配列を変更することにより得られるST2の任意の同等物を含む。アミノ酸置換は、例えば、アミノ酸配列をコードするDNAの点突然変異によって行われ得る。機能的同等物は、IL-33に結合し、そしてIL-33を捕捉することができる可溶性受容体を形成するようにST2の細胞外ドメインの全部又は一部を含む分子を含む。よって機能的同等物には、ST2の可溶型が含まれる。これらのタンパク質の適切な可溶型、又はその機能的同等物は、例えば、膜貫通ドメインが化学的、タンパク質分解的又は組換え方法により除去されたタンパク質の切断型を含み得る。典型的には、機能的同等物は、対応するタンパク質と少なくとも80%相同である。幾つかの実施態様において、機能的同等物は、任意の従来の分析アルゴリズムによって評価されるとき、少なくとも90%相同である。本明細書に使用されるとき「機能的に同等の断片」という用語はまた、IL-33に結合するST2の任意の断片又は断片の集合体を意味し得る。したがって本発明は、IL-33へのST2の結合を阻害することができるポリペプチドを提供するが、このポリペプチドは、ST2の細胞外ドメインの少なくとも一部の配列に対応する配列を有する連続したアミノ酸を含み、その部分はIL-33に結合する。幾つかの実施態様において、ポリペプチドは、ST2の細胞外ドメインを含む。
【0033】
幾つかの実施態様において、ポリペプチドは、免疫グロブリン定常ドメイン(Fc領域)に融合されてイムノアドヘシンを形成するST2の機能的同等物を含む。イムノアドヘシンは、ヒト抗体の有用な化学的及び生物学的特性の多くを備え得る。イムノアドヘシンは、適切なヒト免疫グロブリンヒンジ及び定常ドメイン(Fc)配列に連結された所望の特異性を持つヒトタンパク質配列から作成できるため、全体にヒト成分を使用して目的の結合特異性を達成できる。免疫グロブリン配列は、典型的には、免疫グロブリン定常ドメインであるが、必ずしもそうではない。本発明のキメラの免疫グロブリン部分は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4サブタイプ、IgA、IgE、IgD又はIgMから得ることができるが、典型的にはIgG1又はIgG3である。幾つかの実施態様において、PD-1又はIL-33の機能的同等物及びイムノアドヘシンの免疫グロブリン配列部分は、最小のリンカーによって連結される。本明細書に使用されるとき、「リンカー」という用語は、本発明のポリペプチドと免疫グロブリン配列部分とを連結する少なくとも1個のアミノ酸の配列のことをいう。そのようなリンカーは、立体障害を防止するのに役立つ可能性がある。幾つかの実施態様において、リンカーは、4個;5個;6個;7個;8個;9個;10個;11個;12個;13個;14個;15個;16個;17個;18個;19個;20個;21個;22個;23個;24個;25個;26個;27個;28個;29個;30個のアミノ酸残基を有する。リンカー配列の1つの有用な群は、WO 96/34103及びWO 94/04678に記載されている重鎖抗体のヒンジ領域に由来するリンカーである。他の例は、ポリアラニンリンカー配列である。
【0034】
幾つかの実施態様において、IL-33アンタゴニストは、それぞれIL-33又はST2発現のインヒビターである。「発現のインヒビター」とは、遺伝子の発現を阻害する生物学的効果を有する天然又は合成の化合物のことをいう。本発明の好ましい実施態様において、遺伝子発現の前記インヒビターは、siRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド又はリボザイムである。例えば、アンチセンスRNA分子及びアンチセンスDNA分子を含むアンチセンスオリゴヌクレオチドは、IL-33又はST2 mRNAに結合することによってこれらのmRNAの翻訳を直接遮断してタンパク質翻訳を妨げるか、あるいはmRNAの分解を増加させて細胞におけるIL-33又はST2のレベル、ひいては活性を減少させるように作用するだろう。例えば、少なくとも約15塩基のアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、IL-33又はST2をコードするmRNA転写物配列の独特の領域に相補的であるものは、例えば、従来のホスホジエステル法により合成することができる。配列が既知である遺伝子の遺伝子発現を特異的に阻害するためのアンチセンス技術を使用する方法は、当技術分野で周知である(例えば、米国特許第6,566,135号、6,566,131号、6,365,354号、6,410,323号、6,107,091号、6,046,321号、及び5,981,732号を参照のこと)。低分子干渉RNA(siRNA)もまた、本発明における使用のための発現のインヒビターとして機能することができる。IL-33又はST2遺伝子発現が特異的に阻害されるように、患者又は細胞を低分子二本鎖RNA(dsRNA)と、又は低分子二本鎖RNAの産生を引き起こすベクター若しくはコンストラクトと接触させることにより、IL-33又はST2遺伝子発現を減少させることができる(即ち、RNA干渉又はRNAi)。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA及びリボザイムは、インビボで単独で、又はベクターと共同して送達され得る。その最も広い意味で、「ベクター」は、細胞、そして典型的にはIL-33又はST2を発現する細胞へのアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、又はリボザイム核酸の移行を促進することができる任意のビヒクルである。典型的には、ベクターは核酸を細胞に輸送するが、ベクターが存在しない場合の分解の程度と比較して分解は低減されている。一般に、本発明において有用なベクターは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA又はリボザイム核酸配列の挿入又は組み込みによって操作された、プラスミド、ファージミド、ウイルス、他のビヒクル(ウイルス又は細菌源に由来する)を含むが、これらに限定されない。ウイルスベクターは好ましいタイプのベクターであり、以下のウイルスからの核酸配列を含むが、これらに限定されない:レトロウイルス(モロニーマウス白血病ウイルス、ハーベイマウス肉腫ウイルス、マウス乳癌ウイルス、及びラウス肉腫ウイルスなど);アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス;SV40タイプのウイルス;ポリオーマウイルス;エプスタインバーウイルス;パピローマウイルス;ヘルペスウイルス;ワクシニアウイルス;ポリオウイルス;及びレトロウイルスなどのRNAウイルス。命名されていないが当技術分野で知られている他のベクターも容易に使用することができる。幾つかの実施態様において、発現のインヒビターはエンドヌクレアーゼである。「エンドヌクレアーゼ」という用語は、ポリヌクレオチド鎖内のホスホジエステル結合を切断する酵素のことをいう。デオキシリボヌクレアーゼIなどの幾つかの酵素は、比較的非特異的に(配列に関係なく)DNAを切断するが、多くは、典型的には制限エンドヌクレアーゼ又は制限酵素と呼ばれ、非常に特異的なヌクレオチド配列でのみ切断する。エンドヌクレアーゼに基づくゲノム不活性化の背後にある機序は、通常、DNA一本鎖又は二本鎖切断の最初の段階を必要とするが、これにより、DNA修復のための2つの異なる細胞機序を始動させることができ、そしてこれは、DNA不活化に利用できる:誤りがちな非相同末端結合(non-homologous end joining)(NHEJ)及び高忠実度の相同組換え修復(HDR)。特定の実施態様において、エンドヌクレアーゼはCRISPR-casである。本明細書に使用されるとき、「CRISPR-cas」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、そして塩基配列の短い反復を含む原核生物DNAのセグメントである、関連するクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(clustered regularly interspaced short palindromic repeat)のことをいう。幾つかの実施態様において、エンドヌクレアーゼは、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)に由来するCRISPR-cas9である。CRISPR/Cas9システムは、US 8697359 B1及びUS 2014/0068797に記載されている。幾つかの実施態様において、エンドヌクレアーゼは、Zetscheら(“Cpf1 is a Single RNA-guided Endonuclease of a Class 2 CRISPR-Cas System (2015); Cell; 163, 1-13)における更に最近になって特性決定されたプレボテラ属とフランシセラ属1由来のCRISPR(CRISPR from Provotella and Francisella 1)(Cpf1)であるCRISPR-Cpf1である。
【0035】
本明細書に使用されるとき、「有効量」という用語は、所望の治療結果(即ち、虚血再灌流傷害の予防)を達成するために必要な用量及び期間でのIL-33アンタゴニストの有効量のことをいう。IL-33アンタゴニストの治療有効量は、個体の病状、年齢、性別、及び体重、並びに個体において所望の応答を誘導するIL-33アンタゴニストの能力などの要因によって変化し得る。治療有効量はまた、治療上有益な効果が抗体又は抗体部分の任意の毒性又は有害な効果を上回る量でもある。IL-33アンタゴニストの効率的な投薬量及び投薬計画は、処置されるべき疾患又は症状に依存し、そして当業者により決定され得る。当技術分野において通常の技能を有する医師は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方することができよう。例えば、医師は、医薬組成物に使用されるIL-33アンタゴニストの用量を、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることができる。一般に、本発明の組成物の適切な用量は、特定の投薬計画により治療効果を生み出すのに有効な最低用量である、化合物の量であろう。そのような有効量は一般に上記の要因に依存するであろう。
【0036】
典型的には、本発明のIL-33アンタゴニストは、注入、ポンプ装置及び/又は任意の機械(例えば、バイパス機械)を使用して、対象又は単離された臓器に直接投与される。
【0037】
典型的には、IL-33アンタゴニストは、薬学的に許容し得る担体を含む医薬組成物の形態で患者に投与される。これらの組成物に使用され得る薬学的に許容し得る担体は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩又は電解質(硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩など)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ロウ、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂を含むが、これらに限定されない。患者への投与における使用のために、組成物は患者への投与のために処方される。本発明の組成物は、経口、非経口、吸入スプレーにより、局所、直腸内、鼻内、口腔内、膣内、又は移植リザーバーを介して投与され得る。本明細書で使用されるものは、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、くも膜下、肝内、病巣内及び頭蓋内注射又は注入手法を含む。本発明の組成物の無菌注射剤形は、水性又は油性の懸濁液であってよい。これらの懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を使用して、当技術分野で公知の手法によって処方され得る。無菌注射剤形はまた、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容し得る希釈剤又は溶媒中の無菌の注射可能な溶液又は懸濁液であってよい。使用可能な許容し得るビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液及び等張塩化ナトリウム溶液がある。更に、無菌の不揮発性油は、溶媒又は懸濁媒体として従来から使用されている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の無刺激性の不揮発性油が使用され得る。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、特にポリオキシエチル化バージョンのオリーブ油又はヒマシ油のような薬学的に許容し得る天然油と同様に、注射剤の調製に有用である。これらの油性溶液又は懸濁液はまた、長鎖アルコール希釈剤又は分散剤、例えば、乳剤及び懸濁液を含む薬学的に許容し得る剤形の製剤に一般的に使用されるカルボキシメチルセルロース又は類似の分散剤を含んでもよい。薬学的に許容し得る固体、液体、又は他の剤形の製造に一般的に使用される、Tween、Span及び他の乳化剤若しくは生物学的利用能増強剤のような、他の一般に使用される界面活性剤も、製剤目的で使用され得る。本発明の組成物は、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤又は液剤を含むがこれらに限定されない任意の経口投与可能な剤形で経口投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体は、乳糖及びコーンスターチを含む。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤も典型的には添加される。カプセル剤形での経口投与に、有用な希釈剤は、例えば、乳糖を含む。水性懸濁剤が経口使用に必要な場合、IL-33アンタゴニストは乳化剤及び懸濁剤と合わせられる。必要に応じて、特定の甘味剤、香味剤、又は着色剤も添加され得る。あるいは、本発明の組成物は、直腸内投与のための坐剤の剤形で投与され得る。これらは、室温で固体であるが直腸温度で液体であり、したがって直腸内で融解して薬物を放出する、適切な非刺激性賦形剤と薬剤を混合することによって調製することができる。そのような材料は、カカオバター、蜜蝋、及びポリエチレングリコールを含む。本発明の組成物はまた、特に処置の標的が、眼、皮膚、又は下部腸管の疾患を含む、局所適用により容易に到達可能な領域又は臓器を含む場合、局所投与され得る。適切な局所製剤は、これらの領域又は臓器のそれぞれに対して容易に調製される。局所適用のために、組成物は、1種以上の担体に懸濁又は溶解された活性成分を含む適切な軟膏剤に処方されてもよい。本発明の化合物の局所投与のための担体は、鉱油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ロウ及び水を含むが、これらに限定されない。あるいは、本組成物は、1種以上の薬学的に許容し得る担体に懸濁又は溶解された活性成分を含む適切なローション剤又はクリーム剤に処方され得る。適切な担体は、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を含むが、これらに限定されない。下部腸管への局所適用は、直腸坐剤製剤(上記参照)又は適切な浣腸製剤で行うことができる。貼付剤も使用できる。本発明の組成物はまた、鼻内エアゾール又は吸入により投与されてもよい。そのような組成物は、医薬製剤の技術分野で周知の手法により調製され、ベンジルアルコール又は他の適切な保存料、生物学的利用能を高めるための吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/又は他の従来の可溶化剤若しくは分散剤を使用して、生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0038】
幾つかの実施態様において、移植に適した単離された臓器は、有効量のIL-33アンタゴニストを含む保存溶液で灌流される。本明細書に使用されるとき、「保存溶液」又は「臓器保存液」という用語は、塩、好ましくは塩化物、硫酸塩、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びカリウム;糖、好ましくはマンニトール、ラフィノース、ショ糖、グルコース、フルクトース、ラクトビオン酸塩(耐水性である)、又はグルコン酸塩;抗酸化剤、例えば、グルタチオン;活性剤、例えば、アロプリノールなどのキサンチンオキシダーゼインヒビター、乳酸塩、ヒスチジン、グルタミン酸(又はグルタミン酸塩)、トリプトファンなどのアミノ酸;及び場合により、ヒドロキシエチルデンプン、ポリエチレングリコール又はデキストランなどのコロイドを含む、pH6.5~7.5を有する水溶液のことをいう。本発明の幾つかの実施態様において、臓器保存液は、以下から選択される:
-浸透圧 320mOsmol/kg及びpH7.4を有するUniversity of Wisconsinの溶液(UW又はViaSpan(登録商標))で、水中に1リットルでは以下の処方の溶液:ラクトビオン酸カリウム:100mM、KOH:100mM、NaOH:27mM、KH2PO4:25mM、MgSO4:5mM、ラフィノース:30mM、アデノシン:5mM、グルタチオン:3mM、アロプリノール:1mM、ヒドロキシエチルデンプン:50g/L、
-浸透圧 320mOsm/kg及びpH7.4を有するIGL-1(登録商標)で、水中に1リットルあたり以下の処方の溶液:NaCL:125mM、KH2PO4:25mM、MgSO4:5mM、ラフィノース:30mM、ラクトビオン酸カリウム:100mM、グルタチオン:3mM、アロプリノール:1mM、アデノシン:5mM、ポリエチレングリコール(分子量:35kDa):1g/L、
-浸透圧 320mOsm/kg及びpH7.3を有するCelsior(登録商標)で、水中に1リットルあたり以下の処方の溶液:グルタチオン:3mM、マンニトール:60mM、ラクトビオン酸:80mM、グルタミン酸:20mM、NaOH:100mM、塩化カルシウム二水和物:0.25mM、MgSO4:1.2mM、KCl:15mM、塩化マグネシウム六水和物:13mM、ヒスチジン30mM、
-BMPS Belzer(登録商標)又はBelzer機灌流溶液又はKPS1、特に100mEq/L ナトリウム、25mEq/L カリウムを含み、周囲温度でpH7.4、浸透圧 300mOsm/Lを有する溶液、
-室温でpH7.20、及び浸透圧 310mOsm/kgを有する、水中に1リットルあたり以下の処方を有するCustodiol(登録商標)HTK溶液:NaCl:18.0mM、KCl:15.0mM、KH2PO4:9mM、2-ケトグルタル酸水素カリウム:1.0mM、塩化マグネシウム六水和物:4.0mM;ヒスチジン、HCl、H2O:18.0mM、ヒスチジン:198.0mM、トリプトファン:2.0mM、マンニトール:30.0mM、塩化カルシウム二水和物:0.015mM、
-浸透圧 486mOsm/kg及びpH7.1を有するSoltran(登録商標)で、水中に1リットルあたり以下の処方を有する溶液:ナトリウム:84mM、カリウム:80mM、マグネシウム:41mM、硫酸塩:41mM、マンニトール33.8g/l、クエン酸塩:54mM、グルコース:194mM、
-浸透圧 295mOsmol/L及び水中に以下の処方を有するPerfadex(登録商標):50g/L デキストラン40(分子量:40,000)、Na+ 138mM、K+6mM、Mg2+:0.8mM、Cl-142mM、SO42- 0.8mM、(+H2PO4-、HPO42-):0.8mM、グルコース 5mM、
-周囲温度でpH6.0~7.5であり、浸透圧 276.8mOsmol/Lを有する乳酸リンゲル液(登録商標)で、水中に以下の処方の溶液::Na+ 130mM、K+ 5.4mM、Ca2+:1.8mM、Cl-:111mM、乳酸:27.7mM、
-水中に以下の処方のPlegisol(登録商標):KCl:1.193g/l、MgCl2、H2O:3.253g/L、NaCl:6.43g/L、CaCl2:0.176g/l、
-周囲温度でpH7.4であり、浸透圧 320mOsmol/Lを有するSolution Hospital Edouard Henriotで、水中に以下の処方の溶液:KOH:25mM、NaOH:125mM、KH2PO4:25mM、MgCl2:5mM、MgSO4:5mM、ラフィノース:30mM、ラクトビオン酸:100mM、グルタチオン:3mM、アロプリノール:1mM、アデノシン:5mM、ヒドロキシエチルデンプン 50g/L、並びに
-ヒト血清アルブミン、デキストラン、及び低濃度のカリウムを含む細胞外電解質を含むSteen(登録商標)溶液。
【0039】
これらの臓器保存液はすべて市販品である。典型的には、臓器を保存するためのデバイスであって、前記デバイスは、保存溶液を充填した臓器容器を含み、1種以上の化合物(例えば、IL-33アンタゴニスト)を臓器容器に注入するための1つ以上の手段を更に含むことを特徴とする、デバイスが使用される。
【0040】
本発明の更なる目的は、臓器を保存するためのデバイスであって、前記デバイスは、保存溶液を充填した臓器容器を含み、IL-33アンタゴニストを臓器容器に注入するための1つ以上の手段を更に含むことを特徴とする、デバイスに関する。幾つかの実施態様において、本発明のデバイスは、注入手段によるIL-33アンタゴニストの投与時間の通知を医療従事者に与えるアラームを含む。幾つかの実施態様において、本発明のデバイスは、必要なときに/プログラムされたときに、注入手段によりIL-33アンタゴニストを自動投与するためにプログラム可能である。幾つかの実施態様において、本発明のデバイスは、臓器容器、コンピューティングシステム、及び本発明のIL-33アンタゴニストを注入するための手段を含む。臓器容器は、臓器用の無菌の入れ物(receptacle)である。臓器容器には保存溶液を充填する。コンピューティングシステム、又は同様の電子計算デバイスは、コンピューティングシステムのレジスタ及び/又はメモリ内の電子などの物理量として表されるデータを、コンピューティングシステムのメモリ、レジスタ、又は他のそのような情報ストレージ、通信装置若しくは表示デバイス内の物理量として同様に表される他のデータへと操作及び/又は変換するように構成される。コンピューティングシステムは、データ提示及びデータ入力のためのディスプレイユニットを含む。IL-33アンタゴニストを注入するための手段は、アンタゴニストを含有する容器、及び臓器チャンバーへの化合物の注入を可能にするデバイスを含む。例えば、手段はシリンジである。幾つかの実施態様において、デバイスはソフトウェアを含む。ソフトウェアは、本発明の方法の実現を可能にし、注入されるIL-33アンタゴニストの注入時間の調整の役割を果たす。幾つかの実施態様において、臓器容器は、流体及び圧力に対して密封されている。幾つかの実施態様において、本発明のデバイスは、以下を更に含む:1種又は数種の循環システム、1種又は数種の冷却手段、1種又は数種の酸素供給器、1種又は数種のポンプ、1種又は数種のフィルター、1種又は数種のプローブ又はセンサー(例えば、温度、圧力又は任意の化合物濃度を検出する)、及び/又は1種又は数種のソフトウェア。
【0041】
本発明は、以下の図面及び実施例により更に説明される。しかしながら、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1A】IL-33欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓及び末梢血が得られた(1群あたり5~8匹)。(A-C)急性腎傷害の変化は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。IL-33欠損マウスは、血中クレアチニン(A)及び尿素窒素(BUN)(B)レベルの低下を示した。(C)尿細管傷害スコア(1群あたり5~8匹のマウス)。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。(D)IRI誘導酸化ストレス生成は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。WT及びIL-33欠損マウスの腎組織におけるROS産生は、CellROX(登録商標)グリーンと呼ばれる蛍光プローブを使用して測定された。CellROX蛍光強度の定量(1群あたり3匹)。AU:任意の単位。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01。ここで留意すべきは、Sham値とCtr値の間に差は見られなかったことであり(データは示さない)、これは、全ての検定パラメーターに有意なSham効果がないことを示している。
【
図1B】IL-33欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓及び末梢血が得られた(1群あたり5~8匹)。(A-C)急性腎傷害の変化は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。IL-33欠損マウスは、血中クレアチニン(A)及び尿素窒素(BUN)(B)レベルの低下を示した。(C)尿細管傷害スコア(1群あたり5~8匹のマウス)。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。(D)IRI誘導酸化ストレス生成は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。WT及びIL-33欠損マウスの腎組織におけるROS産生は、CellROX(登録商標)グリーンと呼ばれる蛍光プローブを使用して測定された。CellROX蛍光強度の定量(1群あたり3匹)。AU:任意の単位。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01。ここで留意すべきは、Sham値とCtr値の間に差は見られなかったことであり(データは示さない)、これは、全ての検定パラメーターに有意なSham効果がないことを示している。
【
図1C】IL-33欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓及び末梢血が得られた(1群あたり5~8匹)。(A-C)急性腎傷害の変化は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。IL-33欠損マウスは、血中クレアチニン(A)及び尿素窒素(BUN)(B)レベルの低下を示した。(C)尿細管傷害スコア(1群あたり5~8匹のマウス)。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。(D)IRI誘導酸化ストレス生成は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。WT及びIL-33欠損マウスの腎組織におけるROS産生は、CellROX(登録商標)グリーンと呼ばれる蛍光プローブを使用して測定された。CellROX蛍光強度の定量(1群あたり3匹)。AU:任意の単位。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01。ここで留意すべきは、Sham値とCtr値の間に差は見られなかったことであり(データは示さない)、これは、全ての検定パラメーターに有意なSham効果がないことを示している。
【
図1D】IL-33欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓及び末梢血が得られた(1群あたり5~8匹)。(A-C)急性腎傷害の変化は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。IL-33欠損マウスは、血中クレアチニン(A)及び尿素窒素(BUN)(B)レベルの低下を示した。(C)尿細管傷害スコア(1群あたり5~8匹のマウス)。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。(D)IRI誘導酸化ストレス生成は、IL-33欠損マウスでは軽減されている。WT及びIL-33欠損マウスの腎組織におけるROS産生は、CellROX(登録商標)グリーンと呼ばれる蛍光プローブを使用して測定された。CellROX蛍光強度の定量(1群あたり3匹)。AU:任意の単位。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01。ここで留意すべきは、Sham値とCtr値の間に差は見られなかったことであり(データは示さない)、これは、全ての検定パラメーターに有意なSham効果がないことを示している。
【
図2】
図2:IL-33欠損マウスでは死亡率が低下している。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham;1群あたり3匹)に付したか、又は対側腎摘出術後に32分の片側虚血(IRI;1群あたり6匹)に付した。偽手術及びIRIのWT及びIL-33欠損マウスのカプラン・マイヤー生存曲線。IRI誘導の30日後、IL-33欠損マウスでは100%の生存率が観察されたのに対し、WTマウスの50%は最初の3~4日以内に死亡した。WT IRI群の生存分布は、他の全てのマウス群とは有意に異なっていた。(マンテル-コックス、
*P<0.05)。虚血再灌流誘導WTマウスの大部分は、IRIの2~3日後になお無尿であったため、IRIが恐らく死因である。
【
図3A】
図3:ST2欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びST2KO(ST2欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓が得られた(1群あたり4~6匹)。IRI後のT24では、ST2欠損マウスは、その対応するWTと比較して、血中クレアチニンレベルはあまり上昇せず(A)、尿細管間質の損傷の軽減を示した(B)。対照血漿(T0)は未処置動物から得られた。尿細管傷害は、過ヨウ素酸シッフ(periodic acid-Shiff)(PAS)染色で評価された。WT及びST2欠損マウスの両方からのSham及び健常Ctr腎臓は、正常な尿細管構造を示した。データは平均値±SEMとして表される。三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図3B】
図3:ST2欠損マウスはIRIから保護されている。野生型(WT)及びST2KO(ST2欠損)マウスを、偽手術(Sham)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI)に付した。24時間(T24)の再灌流後、腎臓が得られた(1群あたり4~6匹)。IRI後のT24では、ST2欠損マウスは、その対応するWTと比較して、血中クレアチニンレベルはあまり上昇せず(A)、尿細管間質の損傷の軽減を示した(B)。対照血漿(T0)は未処置動物から得られた。尿細管傷害は、過ヨウ素酸シッフ(periodic acid-Shiff)(PAS)染色で評価された。WT及びST2欠損マウスの両方からのSham及び健常Ctr腎臓は、正常な尿細管構造を示した。データは平均値±SEMとして表される。三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
**P<0.01;
***P<0.001。
【
図4】
図4:IRI後のコラーゲン沈着はIL-33欠損マウスで減少している。野生型(WT)及びIL-33
Gt/Gt(IL-33欠損)マウスを、偽手術(Sham;n=3)に付したか、又は対側腎摘出術(Ctr)後に32分の片側虚血(IRI;n=6)に付した。再灌流後30日目(D30)に、生存マウスから腎臓が得られた。線維症は、シリウスレッド染色を使用して測定された。腎臓での有意なコラーゲン沈着は、それらの対応する健常Ctr(n=3)又はSham(n=3)と比較して、WT(n=3)の腎臓のIRI後D30で見つかったが、IL-33欠損(n=6)マウスでは見られなかった。IL-33欠損マウスで線維症への進行が少ないのは、IL-33の消失というよりは初期AKIが少ないためと考えられた。データは平均値±SEMとして表される。二群比較には両側マンホイットニーU検定を使用し、三群以上の比較には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用した。
*P<0.05;
**P<0.01;
***P<0.001。
【実施例0043】
材料と方法
動物
野生型C57BL/6マウスをJanvier Labs(Le Genest-Saint-Isle, France)から購入した。Lac-z遺伝子トラップ(Gt)レポーターを備えたIL-33欠損C57BL/6マウス(IL-33Gt/Gt)は、Piceryら(52)に報告されたとおり作成された。Jα18KO C57BL/6マウス(iNKT細胞を欠く)及びST2KO C57BL/6マウスは、それぞれM Taniguchi(53)及びA McKenzie(54)から提供された。全てのマウスは、特定の無菌条件下で我々の動物施設で維持された。体重25~30gの10~12週齢のオスマウスを全ての実験に使用した。動物の世話及び実験の操作は、フランス農林省(French Agriculture and Forestry Ministry)(法令87849)及び欧州共同体理事会指令(European Communities Council Directive)(86/609/EEC)のガイドラインに従って行われ、地域の倫理委員会(COMETHEA:CE2012-06)に承認された。
【0044】
虚血再灌流腎傷害のマウスモデル
片側腎虚血再灌流の確立されたマウスモデルが使用された。簡単に述べると、マウスをイソフルラン(誘導には2%、維持には1.5%)で麻酔した。側腹部切開後、まっすぐなSchwartzマイクロクリップ(Fine Science Tools, Heidelberg, Germany)を使用して右腎茎を32分間クランプ固定し、その後解放した。この虚血の期間は、高い死亡率なしに顕著な重症度の腎傷害を誘導するために選択され、機能回復後の線維症プロセスの評価を可能にした。左の対側腎臓(Ctr)を結紮し、IRI誘導前に摘出し、IRI及びSham腎臓との比較のための健常な内部対照として使用した。偽手術マウスは、腎茎のクランプ固定を除く同一の外科的処置を受け、IRIマウスの対照として機能した。体温は、処置全体を通じて制御された。次に、食餌と水を自由に摂取させて、動物を回復させた。イソフルラン麻酔したマウスの後眼窩洞から血液を採取し、1、3、6、又は24時間再灌流して右腎臓を摘出した。
【0045】
腎機能
血漿クレアチニン及び血中尿素窒素(BUN)は、報告されている高性能液体クロマトグラフィー(55)及びCobas C701自動分析装置(Roche Diagnostic)をそれぞれ使用して、再灌流の1、3、6、又は24時間後に測定されて腎機能が評価された。
【0046】
サイトカイン及びケモカインの測定
製造業者の取扱説明書に従い、マウスIL-33及びMCP-1(Quantikineキット)並びにマウスIL-17A及びヒトIL-8(Duotest)をサンドイッチELISA(R&D Systems)によって血漿中で定量した。以前に報告されているとおり(29)、マウスIFN-γを標準的なサンドイッチELISAによって定量した。製造業者の取扱説明書に従い、Luminex法を使用して、血漿中のマウスIL-12p70、MIP-2、CCL5/RANTES、CXCL9/MIG及びCXCL10を測定した(R&D Systems)。
【0047】
腎組織病理
腎臓を4%ホルモルで固定し、パラフィンワックスに包埋し、3.5μmで薄切した。過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色を使用して、尿細管傷害を評価した。組織学的変化は、示された尿細管の評価によって評価された:拡張、細胞壊死及び円柱形成、間質性浮腫及び間質性炎症に加えて刷子縁の消失。全ての組織学的検査は、以下のとおり半定量的スケールを使用して盲検法で腎病理学者(JMG)によって実行された。0(損傷なし);1(腎臓切片全体の25%未満に影響を与える損傷)、2(腎臓切片の25~50%に影響を与える損傷)、3(腎臓切片全体の50%以上に影響を与える損傷)。
【0048】
免疫染色及びイムノブロッティング
免疫染色及びウエスタンブロット分析には、マウスの全長(34~37kD)及び切断IL-33(19~22kD)を認識するポリクローナルヤギ抗マウスIL-33抗体(R&D Systems、クローンAF3626)を使用した。
【0049】
免疫蛍光試験では、5μmの凍結切片を4% パラホルムアルデヒド(PFA)で4℃で1時間固定した。切片をブロックにして、3% BSA、0.3% Triton-X100で透過処理した後、以下のとおり一次抗体で4℃で一晩染色した:ヤギ抗マウスIL-33(1:500)、ラット抗マウスCD31(1:500、BD Biosciences、クローンMEC13.3)、及びAPC結合抗CD45(1:200、BD Biosciences、クローン30-F11)。スライドを以下のとおり二次抗体と共に室温で1時間インキュベートした:Alexa Fluor 488ロバ抗ラットIgG(1:250;Life Technologies、A21208)、Alexa Fluor 568ロバ抗ヤギIgG(1:500;Life Technologies、A11057)を二次抗体として使用した。核染色は、DAPI(4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)(SouthernBiotech)で実行された。
【0050】
免疫組織化学によるIL-33検出では、5μmの凍結切片をアセトンで固定し、ペルオキシダーゼブロック溶液(Dako)に浸漬して内因性ペルオキシダーゼ活性を排除した。切片を1% FBSと、次にヤギ抗マウスIL-33抗体(1:200)と室温で4時間インキュベートした。HRP結合ウサギ抗ヤギIgG二次抗体(1:200、Invitrogen)とのインキュベーション後、DAB基質(Dako)を使用して免疫複合体を可視化した。画像は、全ての写真で同じレーザー出力及び利得強度を使用して、蛍光顕微鏡(Olympus BX41)又は共焦点顕微鏡(Olympus FV1000)によって得られた。IL-33発現は、Visilog7.1(登録商標)ソフトウェアを使用してデジタル的に定量された。動物毎に、5視野を分析した。
【0051】
イムノブロッティングでは、腎臓ホモジネートをRIPA溶解緩衝液(ホスファターゼ及びプロテアーゼインヒビターカクテル(Santa Cruz)を補足した、20mM トリス-HCl(pH 7.5)、150mM NaCl、1mM Na2EDTA、1mM EGTA、1% Nonidet P-40、1% デオキシコール酸ナトリウム)で溶解した。4℃で10分間14000gで遠心分離後、上清を回収した。腎臓溶解物をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜を脱脂粉乳でブロッキングし、ヤギ抗マウスIL-33抗体(1:500)と、次にHRP結合ウサギ抗ヤギポリクローナル抗体(1:2000、Invitrogen)と4℃で一晩インキュベートした。ChemiDoc(商標)MPイメージングシステム(Bio-Rad)を使用して、免疫反応性タンパク質をECL Primeウエスタンブロッティング検出試薬(Amersham)で可視化した。相対タンパク質レベルをローディングコントロールとしてのGAPDHに対して正規化した(1:2000、Cell Signaling)。
【0052】
線維症の定量評価
凍結保存された腎臓切片(5μm)を冷アセトンで10分間固定し、次に室温で30分間シリウスレッド(Diapath)で染色した。切片を酸性水、エタノール(95%、次に100%)で洗浄し、光学顕微鏡分析用にマウントした。分析された表面積全体で正規化されたコラーゲン沈着量(赤い面積)は、Visilog7.1ソフトウェアを使用してデジタル的に定量された。
【0053】
RNA抽出及びリアルタイム定量的逆転写(RTqPCR)
製造業者の取扱説明書(Macherey-Nagel)に従い、Nucleospin RNA抽出キットを使用して、マウスの腎組織から総RNAを抽出した。各試料からの総RNA(1μg)は、qScript cDNA Supermix(Quanta Biosciences)を使用して、cDNAに逆転写された。2X Perfecta SYBER Green Mix(Quanta Biosciences)及び500nM マウスIl-33特異的プライマーを使用して、Rotor-Gene Q Lightcycler(Qiagen)で定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実行した。結果は次にNono mRNA含有量で正規化された。
【0054】
腎臓白血球の単離及びフローサイトメトリー分析
新鮮な腎臓を細かく切り刻み、70μm こし器(BD Falcon)に通し、完全RPMI 1640(Life Technologies)中で300gで10分間遠心分離した。細胞ペレットを36% パーコール溶液(GE Healthcare)に再懸濁し、次に72% パーコール溶液の層にロードした後、500gで20分間、室温で遠心分離した。白血球をパーコールの界面層から回収し、PBS1Xで洗浄した。腎白血球の表現型分析は、以下のmAbを使用したフローサイトメトリーによって実行された:CD45-BV510(クローン30-F11;Biolegend)、CD11b-PE(クローン:M1/70;Biolegend)、F4/80-FITC(クローン:BM8;Biolegend)、GR-1-BV421(クローン:RB6-8C5;Biolegend)、NK1.1-APC(クローン:PK136;Biolegend)、NK1.1-PerCpCy5.5(クローン:PK136;BD Biosciences)、CD3-PerCpCy5.5(クローン:17A2;Biolegend)及びST2-APC(クローン:245707;R&D systems)。iNKT細胞を特定するために、α-ガラクトシルセラミド類似体PBS57を負荷したBV421に結合したマウスCD1dテトラマー(TT)で、又はその負荷していないテトラマーを対照として使用し、試料を染色した。
【0055】
細胞内サイトカイン染色では、細胞を単離して、Brefeldin A(Golgistop、BD Biosciences)の存在下で4~6時間インキュベートした。表面マーカー抗体で染色した後、細胞をFix/Perm緩衝液(BD Biosciences)で透過処理して、抗マウスIFN-γ-PE-Cy7(クローン:XMG102;BD Biosciences)及び抗マウスIL-17A-PE(クローン:TC11-18H10;BD Biosciences)抗体とインキュベートした。細胞は、BD FACS Verse(商標)サイトメーター(BD Biosciences)及びFlowJo v7ソフトウェア(TreeStar, Inc)を使用して分析された。
【0056】
死細胞は、Live/Dead Fixable Near-IR Dead Cell Stainキット(Life Technologies)を使用して除外された。
【0057】
iNKT細胞の精製及び培養
iNKT(PBS57負荷TT(+)CD5(+))細胞は、前述のように(29)、FACSによってソートされた。ソーティングの前に、製造業者の取扱説明書に従い、CD8、CD11b、CD62L、及びCD19細胞を磁気的に枯渇(Invitrogen Life Technology)させて、新たに単離された脾細胞からiNKT細胞を濃縮した。ソートされた細胞は、日常的に純度97%であった。コートされた抗CD3 mAb(1μg/mL、BD Pharmingen)を含むか含まない200μg/mL 完全RPMIで、マウスIL-33(10ng/mL、R&D Systems)及び/又はマウスIL-12(20ng/mL、R&D Systems)の存在下又は非存在下で、37℃及び5% CO2で丸底96ウェルプレート中、合計2.5×104個のソート済みiNKTを48時間培養した。IFN-γ及びIL-17Aは、ELISAにより上清中で測定された。
【0058】
腎近位尿細管上皮細胞培養
不死化マウス腎臓の近位尿細管上皮(TKPTS)細胞は、Elsa Bello-Reuss教授(Texas)から提供され、Dr Rafia Al-Lamki(Dr Bradley's laboratory所属, Cambridge, UK)から送付された。正常な腎臓に由来するヒト腎近位尿細管上皮細胞株HRPTEC及びHK-2は、それぞれATCCから購入され、Pr. Tauc(Sofia-Antipolis University, Nice, France)から提供された。細胞は、37℃で5% CO2の加湿雰囲気内で、4%(HRPTEC)、5%(TKPTS)又は10%(HK-2)のFBSを補足したフェノールレッドを含まないダルベッコ改変イーグル培地DMEM/F12で培養された。細胞コンフルエンスが70~80%に達するまで培地を2日毎にリフレッシュして、適切なマウス又はヒト組換えIL-33(R&D Systems、10~20ng/mL)の存在下又は非存在下で24時間又は48時間更にインキュベートした。IL-8及びMCP-1は、ELISAにより上清中で測定された。
【0059】
酸化ストレス測定
CellROX(登録商標)グリーン試薬(ThermoFisher Scientific)を使用して、酸化ストレスを反映する腎臓のスーパーオキシド産生を評価した。腎臓の凍結保存切片(5μm)を5μMのCellROXグリーン試薬と一緒に暗所で37℃で30分間インキュベートした。次に試料をPBS1Xで洗浄し、DAPI(SouthernBiotech)を含む培地でマウントして、Olympus BX41蛍光顕微鏡システムを使用して観察した。Image Jを使用して酸化ストレスを求めて算出した。データは任意の単位(AU)で陽性染色細胞のΣ平均(グリーン信号)/核のΣ平均(ブルー信号)の割合として表された。動物毎に、5~7視野を分析した。
【0060】
統計分析
GraphPad Prismソフトウェア、バージョン5.0を使用して統計分析を実行した。全ての実験群は、ノンパラメトリックのマンホイットニーU検定を使用して二群のP値を計算し、そして三群以上には一元配置分散分析に続くTukey事後検定を使用して比較した。生存分析には、ログランク検定と共にカプラン・マイヤープロットを使用した。P<0.05は統計的に有意であると見なされた。データは平均値±SEMとして示されている。
【0061】
結果
IL-33は、微小血管内皮細胞の核で構成的に発現している。
最初に、野生型(WT)マウスの健常腎臓におけるIL-33の発現及びその局在を調べた。Akcayら(21)の観察のとおり、IL-33は免疫組織化学により、糸球体周囲及び尿細管周囲に明確に検出された(データは示さない)。免疫染色の特異性は、IL-33欠損マウスの腎臓に免疫反応がないことで検証された。IL-33は、尿細管周囲細胞及び糸球体周囲細胞の両方で、大部分核で、構成的に発現していた(データは示さない)。IL-33欠損マウスでは免疫蛍光は検出されなかった(データは示さない)。IL-33と、非常に特異的な内皮細胞マーカーであるCD31との共染色により、間質細胞の過半数(約60~70%)が両分子を共発現していることが明らかになった(データは示さない)。20~30% CD31(-)IL-33(+)細胞は、一般的な白血球マーカーCD45との共染色によって評価されたとおり、常在免疫細胞ではなかった。実際、白血球として同定されたCD45強陽性細胞はIL-33を発現しなかった(データは示さない)。
【0062】
尿細管周囲及び糸球体周囲の内皮細胞からのIRI誘導IL-33放出は、転写を必要としない。
腎虚血再灌流後の組織損傷は、内皮細胞壊死につながる血流の急激な減少によって開始する。我々は、虚血再灌流直後にIL-33が壊死性内皮細胞から放出される可能性があると推測した。この仮定を検証するには、対側腎摘出後32分間腎茎の片側クランプ固定によってWT C57BL/6マウスでIRIを誘導した。IL-33免疫蛍光染色は、内部(定常状態)対照として使用される対応する健常な対側(Ctr)(データは示さない)と比較して、損傷した腎臓の再灌流の1時間後には、糸球体周囲及び尿細管周囲の内皮細胞(CD31(+))の両方で明らかに減少した(データは示さない)。アラーミン放出と一致して、細胞内IL-33は、クランプ固定なしの偽手術(Sham)マウスでは減少しなかった(データは示さない)。虚血性腎臓からのIL-33のこの部分的な早期消失は、ウエスタンブロット分析によって確認された(データは示さない)。これは、循環IL-33の上昇と同時であったが、IRI(T0)の前には事実上検出できず、クランプ固定後1時間で血漿中で増加した。この時点では、切開のみに起因して、Shamマウスに部分的で一時的であるがわずかな増加が見られた(データは示さない)。血漿IL-33レベルの上昇は最大6時間持続し、再灌流後24時間以内にベースラインに戻った(データは示さない)。再灌流の1時間後のIL-33の放出は、RTqPCR分析によって証明されたとおり、転写を必要としなかったが、これは、対照腎臓(Ctr)(1.0±0.035、平均値±SEM、n=7)と虚血後1時間の腎臓(0.95±0.08、平均値±SEM、n=5;p=0.67、t検定)の間のIl-33遺伝子発現に差がないことを明らかにした。これらのデータは、IL-33が虚血マウスでアラーミンとして作用するという見解のとおり、損傷直後のデノボ合成というよりは内因性タンパク質の放出を支持している。
【0063】
IL-33又はその特異的受容体ST2を欠くマウスは、IRIから保護されている。
クランプ固定24時間後のWT及びIL-33欠損マウスにおいて、血中クレアチニン(
図1A)及び尿素窒素(BUN)(
図1B)を測定することにより、腎機能に対するIL-33の影響を評価した。対応するそのShamと比較して、IL-33を欠くマウスではこれらの基準により腎機能障害がないことが明らかになった。この結果は、重症の腎不全の結果として、WTマウスの50% 生存とは対照的に、手術後の最初の3~4日以内のこれらの100% 生存率によって確認された(
図2)。皮髄境界部での刷子縁の消失、円柱形成、尿細管拡張及び炎症性浸潤によって評価された急性尿細管壊死(ATN)は、IL-33欠損腎臓ではその対応するWTに対して減少し(データは示さない)、ATNスコアは大幅に低下した(
図1C)。ST2欠損マウスの腎臓も同様に中程度のATNスコアを示し(
図3A及びB)、IL-33がその特異的ST2受容体を介して腎臓IRIを誘導することを証明している。
【0064】
虚血腎臓では、再灌流時の活性酸素種(ROS)の生成が有害な細胞応答のカスケードを開始させ、炎症、細胞死、及び急性腎不全を引き起こす(33、34)。我々の腎IRIモデルでCellROX染色によって、ROS産生に対するIL-33欠損の影響を評価した(
図1D)。WT及びIL-33欠損マウスの両方のSham腎臓で示されているとおり、基本条件では、蛍光染色は弱かった。虚血及びその後の24時間再灌流の後に、ROS産生はWTマウスで増加したが、対応するそのIL-33欠損マウスでは増加せず、IRI重症度はIL-33に依存するという仮説を支持した。この結論は、虚血腎臓におけるコラーゲン沈着(これもIRI重症度に依存することが知られている(35、36))を検討するにあたって確認された(
図4)。
【0065】
IL-33欠損は、骨髄細胞のIRI後輸送及び炎症性サイトカイン発現の両方を変化させる。
虚血/再灌流後に、好中球、単球/マクロファージ、及び骨髄樹状細胞(DC)が腎臓に動員され、IRIに介在する(6)。IRIの24時間後のWT及びIL-33欠損マウスにおいて、CD45(+)細胞として識別された総腎白血球の出現率を比較することにより、このプロセスに対するIL-33の寄与を評価した。総CD45(+)細胞数は、WTマウスでIRIを受けている腎臓では、未処置マウス及びShamマウスよりも有意に高く(データは示さない)、顕著な浸潤を示していた。特に、CD45(+)細胞動員は、IL-33を欠くマウスで少なくとも2倍減少した。これらの細胞を更に試験すると、単球/マクロファージ(CD11bhighF4/80low)(データは示さない)、骨髄DC(CD11blowF4/80high)(データは示さない)、及び好中球(GR-1highCD11bhigh)(データは示さない)の数が全て、骨髄の細胞輸送の減少を反映して減少したことが分かった。
【0066】
以前の研究は、急性腎IRIにおけるIFN-γ及びIL-17A産生好中球の潜在的な役割を証明している(31、32)。IRIの24時間後のWT及びIL-33欠損腎臓からの好中球で細胞内フローサイトメトリーを使用して、これら2種のサイトカインの発現を分析した。WT腎臓では大部分の浸潤性好中球がIFN-γ及びIL-17Aを共発現したが、このサブセットはIL-33欠損マウスでは明らかに減少していた。したがって、IFN-γ(-)/IL-17A(-)好中球の頻度は、対応するWTマウスに対してIL-33欠損マウスからの腎臓では増加した。
【0067】
腎iNKT細胞の動員、活性化及びサイトカイン産生は、IL-33欠損IRI後マウスにおいて障害されている。
虚血再灌流によって誘導されるiNKT細胞の活性化及び腎臓への動員は、腎傷害前の好中球浸潤及び炎症性サイトカイン産生にとって決定的に重要であると考えられている(6)。IL-33がiNKT細胞の活性化及び炎症組織への動員を推進することを知って(37)、その欠損がIRI誘導24時間後のこのサブセットにどのように影響するかを調べた。以前に報告されたように(31、32)、iNKT細胞(PBS57負荷CD1d TT(+)CD3(+))は、未処置及びSham対照と比較して、IRI後のWT腎臓で、細胞数(データは示さない)及び頻度(データは示さない)の両方に関して顕著に増加した。更には、それらのCD69細胞表面発現は、IRIによる活性化を反映して上方制御された(データは示さない)。同じ条件で、IL-33が欠損したマウスではいずれの増加もなかったが、このことは、IRI誘導iNKT細胞輸送におけるIL-33の重要な役割を確立した。炎症部位でiNKT細胞を動員する能力がよく認識されている3種のケモカインである(38、39)、IP-10/CXCL10、MIG/CXCL9及びRANTES/CCL5の血漿レベルは、IRI誘導後3時間以内に増加したが、これはWT及びIL-33欠損マウスにおいて同様に起こっており、これらのケモカインがIRI中のその産生についてIL-33に依存しないことを示唆する発見である。
【0068】
IRI中に、活性化iNKT細胞が、それらが生成するIFN-γ及びIL-17Aを介して、動員及び好中球によるIFN-γ産生を促進することが提案されている。このプロセスにおける内因性IL-33の潜在的な役割と一致して、IFN-γ(+)/IL-17A(+)T細胞の頻度は、IL-33欠損マウスでは減少する傾向があったが(データは示さない)、iNKT細胞におけるIFN-γ/IL-17A発現レベルは有意に低下した(データは示さない)。これは、IL-33がiNKT細胞を標的とし、インビトロでIFN-γ(29、30)及びIL-17A両方の産生を誘導するという我々の発見を裏付けている(データは示さない)。
【0069】
iNKT細胞として、IL-33の標的となり(29、30)、IRI中に動員される(40)ことも知られているNK細胞は、IRIの24時間後にWTマウスの腎臓における動員及びIFN-γ/IL-17発現の増加を示したが、その対応するIL-33欠損マウスでは部分的に失われた現象であった(データは示さない)。
【0070】
IL-33のIRI誘導放出は、iNKT細胞を欠くマウスにおいて腎傷害も好中球浸潤も促進しない。
腎IRIにおけるiNKT細胞活性化及び動員に介在するIL-33の重要な役割は、iNKT細胞欠損Jα18KOマウス及びIL-33欠損マウスの同様の表現型、即ち、IRIに対する完全な保護(データは示さない)と共に好中球(データは示さない)及び単球/マクロファージ(データは示さない)浸潤の減少によって支持される。ここで留意すべきは、末梢血へのIL-33放出の血漿レベル及び時間経過は、IRIを受けているJα18KOマウスのiNKT細胞欠損の影響を受けなかったが(データは示さない)、これはIL-33活性のメディエーターとしてのiNKT細胞の必要性を強調する発見である。
【0071】
同時の骨髄細胞動員のない初期のIRI誘導腎病変は、IL-33に依存する。
IRI誘導24時間後のIL-33依存性炎症反応のピークの前には、再灌流の最初の6時間を含む非常に早い段階があり、クレアチニン/BUNレベル及びATNスコアのわずかであるが有意な増加(データは示さない)、並びに骨髄細胞浸潤(データは示さない)を特徴とする。尿細管上皮壊死及び腎機能の変化の両方(しかし、骨髄細胞の動員(データは示さない)も炎症部位へのこれらの動員に関与する(41)ケモカインのMCP-1/CCL2及びMIP-2/CXCL2の増加(データは示さない)もこの限りでない)が、IRI6時間後のIL-33欠損マウスでは消失したという事実は、IL-33が免疫細胞に依存しないやり方で組織病変を開始させるという見解を支持する。この証拠は、IL-33が腎上皮細胞を標的とするという我々のインビトロの発見を裏付けている(データは示さない)。更には、この初期の炎症エピソードは、iNKT細胞(データは示さない)、NK細胞及び骨髄DC(データは示さない)の動員に先行したが、これは、IL-33/自然ST2発現細胞軸が、単球/マクロファージ及び好中球浸潤を開始させるというよりは増幅することを示している。
【0072】
iNKT細胞での循環IL-12及び表面ST2過剰発現の増加は、自然免疫細胞浸潤のIL-33依存期に先行する
興味深いことに、IL-33の放出はIRIの1時間後すぐにピークに達したが、骨髄細胞の動員に対するその影響はIRI誘導の24時間後にのみ発生した。恐らく、IL-33は、独立した刺激というよりは、TCR及び/又はIL-12刺激の補因子としてiNKT細胞を標的としていると考えられる。実際、我々は血漿IL-12の3倍の増加に注目したが、それはIR後わずか6時間でそのピークに達した(データは示さない)。IL-12の放出と同様に、iNKT細胞のTCR介在性活性化はIRIの誘導後最初の数時間以内に起こらないが(31)、IL-12と組合せてTCRで刺激されたiNKT細胞によるIFN-g産生を劇的に増強すると報告された((28~30)及びデータは示さない)。これらのデータは、iNKT細胞の表面ST2レベルの最大の増加がクランプ固定後最初の数時間以内に達成されなかったという事実(データは示さない)と共に、免疫細胞に対するIL-33の増幅効果がIRIの24時間後にのみ現れた理由を説明するかもしれない。
【0073】
考察:
内因性IL-33は、組織損傷中に危険信号を媒介するアラーミンとして同定されている(16)。この概念は最近、腎傷害が早期のIL-33放出に関連しているヒト腎移植に適用されている(28)。また、IRI後のインビボ条件を模倣する内皮細胞のインビトロ低酸素/再酸素化にも当てはまる(28)。
【0074】
内皮細胞からアラーミンとして放出される内因性IL-33が、免疫細胞と非免疫細胞の両方を標的とすることにより、IRI誘導腎傷害の病因に寄与することを初めて証明する。IL-33がないと、急性虚血性腎不全の臨床的及び組織学的特徴が弱められ、重症の尿細管間質性損傷が軽減され、腎機能が維持された。
【0075】
IL-33は、主としてかつ構成的に上皮バリア組織及び内皮細胞の核において発現しているため、細胞傷害に反応して即座に放出され得る。腎臓におけるIL-33の細胞内局在に関する幾つかの研究では、ヒトの腎大血管及び小血管の内皮核における構成的発現(42)、また同様の発現プロフィールを持つ(21、23)マウスの尿細管周囲血管内皮細胞における構成的発現が報告されている。これらのデータと一致して、健常なマウス腎臓では、IL-33は主として尿細管周囲の毛細血管の(CD31(+)CD45(-))内皮細胞により、及びCD31(-)CD45(-)間質細胞(これらは、周皮細胞、内皮前駆細胞及び/又は線維芽細胞であってもよい)により発現されることを証明する。
【0076】
腎虚血再灌流後に組織損傷を引き起こす最初のイベントは、血流の急激な減少とそれに続く内皮細胞の壊死である。我々は、完全長の活性IL-33が腎内皮細胞から消失し、再灌流からわずか1時間以内に循環中に増加し、Il-33 mRNA発現に変化がないことを発見した。この結果は、この状況においてIL-33が、瀕死の内皮細胞の核から放出されると、アラーミンとして損傷を伝達できることを証明している。
【0077】
即時の結果として、IL-33は、恐らく尿細管上皮細胞を直接標的とすることによって、免疫細胞に依存しないやり方で腎病変を開始させる。これらのデータは、IL-33が腎近位尿細管上皮細胞に対して細胞傷害活性を有するかどうか未だ決定されていないけれども、内皮損傷が腎IRIの最初のイベントであるというF Molitorisのグループの見解(43)と一致している。
【0078】
更に、IL-33は、特に、腎IRI中の有害作用が広く認識されているiNKTリンパ球に対する影響を介して好中球に関連する組織損傷を更に増幅する。実際、虚血再灌流に続いて、好中球は腎臓に動員され、そこで主要なIRIエフェクター細胞として作用する(44~46)。その動員及び活性化は、恐らくそのIFN-γ/IL-17A産生を介して、iNKT細胞に依存することが広く認められている(31、32)。我々は、IL-33とiNKT細胞とが直接相互作用して、虚血性腎臓における好中球浸潤を促進するという証拠を3項目提供する:(i)iNKT細胞は、IL-33受容体特異的ST2鎖を構成的に発現する(29、30);(ii)IL-33はiNKT細胞の動員を推進し、虚血再灌流に応答してそのIFN-γ/IL-17A産生を誘導し、そして(iii)組換えIL-33はインビトロでiNKT細胞を標的とし、IRIに介在する炎症性サイトカインを誘導するため、IL-33、iNKT細胞、及びIFN-γ/IL-17A産生は相互に関連している。iNKT細胞と同様に、好中球はST2を発現するため、IL-33に直接応答できた。ただし、iNKT細胞を欠くマウスにおいて好中球を動員できなかったことは、この仮定を支持していない。
【0079】
定常状態(29)及び病態生理学的設定(37)では、IL-33は、iNKT細胞を標的とすることによる独立した刺激としてではなく、IL-12及び/又はTCR刺激の補因子のように挙動するようである。IRI中の同様のシナリオと一致して、我々は血漿IL-12の増加に注目したが、Marquesら(47)はIL-12欠損マウスの保護を報告した。更には、IRI中のiNKT細胞の動員/活性化はCD1dとの相互作用を介して行われるが(31、32)、これは、恐らくCD1d分子と関連しており、インバリアントTCRによって認識される自己糖脂質である、内因性Agが関与していることを意味する(48)。これらの項目の証拠は、IRI中の骨髄DCの動員がIL-33に依存するという我々の証明と共に、DC区画がIL-12を同時に放出し、IRI中にiNKT細胞リガンドを提示する可能性を高めている(ストレス条件に応答して報告されているとおり(48~51))。
【0080】
IL-33がiNKT細胞と直接相互作用して肺の非感染性炎症を調節するという我々の証拠(37)と共に、現在の我々の研究は、IL-33/iNKT細胞軸が、組織損傷に関連している「無菌性炎症」に関与する新しい一般的な生理病理学的機序を表すという見解を支持している。また、IL-33の循環への即時放出が、iNKTリンパ球の早期活性化の原因である可能性があることを示す、我々の最近の予備研究で示唆されているとおり、ヒト腎移植中に発生するIRIにも適用される場合がある(28)。この研究及び別の最近の研究(27)は、血中に放出されたIL-33がヒトの早期のAKIバイオマーカーになり得るかどうかという問題を提起している。
【0081】
我々の現在の研究は、腎臓IR中のアラーミンとしてのIL-33の役割、特に腎内皮細胞と上皮細胞の間の動態におけるIL-33の意義の基本的な機序の理解を向上させる。更には、アラーミンのシグナル伝達経路は、IRI及びAKIに関与する自然炎症カスケードを中和することができる、新しい治療標的として役立つ可能性がある。このアプローチは、移植における主要な課題である、長期的な移植片の生存に有益であろう。
【0082】
参考文献:
本出願の至るところで、種々の参考文献により、本発明が関係する最新技術を説明している。これらの参考文献の開示は、引用によって本開示に取り込まれる。
【0083】