(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113959
(43)【公開日】2023-08-16
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20230808BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
H03H9/25 Z
H03H9/25 C
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023099130
(22)【出願日】2023-06-16
(62)【分割の表示】P 2021548454の分割
【原出願日】2020-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2019177324
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山根 毅
(72)【発明者】
【氏名】永友 翔
(72)【発明者】
【氏名】豊田 祐二
(57)【要約】
【課題】小型化を進めた場合であってもQ値を高めることができ、スプリアスの位置や大きさを制御することができる、弾性波装置を提供する。
【解決手段】ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムからなる圧電層2と、前記圧電層2の厚み方向に交差する方向において対向している少なくとも1対の電極3,4とを備え、圧電層2の厚みをd、少なくとも1対の電極3,4の隣り合う電極の中心間距離をpとした場合、d/pが0.5以下であり、少なくとも1対の電極3,4が長さ方向を有し、少なくとも1対の電極には、少なくとも1対の電極の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が互いに異なる第1電極3及び第2電極4が含まれている、弾性波装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムからなる圧電層と、
前記圧電層の厚み方向に交差する方向において対向している少なくとも1対の電極とを備え、
前記圧電層の厚みをd、前記少なくとも1対の電極の隣り合う電極の中心間距離をpとした場合、d/pが0.5以下であり、
前記少なくとも1対の電極が長さ方向を有し、
前記少なくとも1対の電極には、前記少なくとも1対の電極の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が互いに異なる第1電極及び第2電極が含まれている、弾性波装置。
【請求項2】
前記d/pが0.24以下である、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記少なくとも1対の電極の長さ方向に直交する方向のいずれかの断面において、前記圧電層に対する前記第1電極側面の少なくとも一部の傾斜角度が、前記第2電極の電極側面の少なくとも一部の傾斜角度と異なっている、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記少なくとも1対の電極の長さ方向に直交する方向のいずれかの断面において前記第1電極の厚みは、前記第2電極の厚みと異なっている、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記第1電極の幅が、前記第2電極の幅と異なっている、請求項1~4のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記少なくとも1対の電極が対向している方向に視たときに、前記少なくとも1対の電極が重なり合っている領域である励振領域に対する、前記励振領域内の前記少なくとも1対の電極の面積の割合であるメタライゼーション比MRが、MR≦1.75(d/p)+0.075を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記少なくとも1対の電極と接続される第1のバスバー及び第2のバスバーを備え、
前記少なくとも1対の電極は、前記第1のバスバーに接続される電極及び前記第2のバスバーに接続される電極を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項8】
前記ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムのオイラー角(φ,θ,ψ)が、以下の式(1)、式(2)または式(3)の範囲にある、請求項1~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
(0°±10°,0°~20°,任意のψ) …式(1)
(0°±10°,20°~80°,0°~60°(1-(θ-50)2/900)1/2) または (0°±10°,20°~80°,[180°-60°(1-(θ-50)2/900)1/2]~180°) …式(2)
(0°±10°,[180°-30°(1-(ψ-90)2/8100)1/2]~180°,任意のψ) …式(3)
【請求項9】
前記ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムのオイラー角(φ,θ,ψ)が、
図10において、ハッチングを付して示す領域内にある、請求項1~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記圧電層の前記少なくとも1対の電極が設けられている側とは反対側に設けられている支持部材をさらに備える、請求項1~9のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項11】
平面視した場合、前記少なくとも1対の電極が設けられている領域の少なくとも一部と重なる領域において、前記圧電層における前記少なくとも1対の電極が設けられている側とは反対側にはエアギャップを有する、請求項10に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記圧電層の前記少なくとも1対の電極が設けられている側とは反対側に積層された音響多層膜をさらに備え、前記音響多層膜は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層と、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層との積層構造を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項13】
前記少なくとも1対の電極は、前記圧電層の同一面上において対向している、請求項1~12のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電層を有する弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電膜を伝搬する板波を利用した弾性波装置が知られている。例えば、下記の特許文献1では、板波としてのラム波を利用した弾性波装置が開示されている。ここでは、LiNbO3またはLiTaO3からなる圧電膜の上面にIDT電極が設けられている。IDT電極の一方電位に接続される複数の電極指と、他方電位に接続される複数の電極指との間に電圧が印加される。それによって、ラム波が励振される。このIDT電極の両側には反射器が設けられている。それによって、板波を利用した弾性波共振子が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性波装置において、小型化を図るために、電極指の本数を少なくすることが考えられる。しかしながら、電極指の本数を少なくすると、Q値が低くなる。また、共振特性上にスプリアスが生じることがあった。
【0005】
本発明の目的は、小型化を進めた場合であっても、Q値を高めることができ、スプリアスの位置や大きさを制御することができる、弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムからなる圧電層と、前記圧電層の厚み方向に交差する方向において対向している少なくとも1対の電極とを備え、前記圧電層の厚みをd、前記少なくとも1対の電極の隣り合う電極の中心間距離をpとした場合、d/pが0.5以下であり、前記少なくとも1対の電極が長さ方向を有し、前記少なくとも1対の電極には、前記少なくとも1対の電極の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が互いに異なる第1電極及び第2電極が含まれている、弾性波装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る弾性波装置では、小型化を進めた場合であっても、Q値を高めることができる。また、スプリアスの大きさや位置を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の外観を示す略図的斜視図及び圧電層上の電極構造を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1(a)中のA-A線に沿う部分の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、従来の弾性波装置の圧電膜を伝搬するラム波を説明するための模式的正面断面図であり、
図3(b)は、本発明の一実施形態に係る弾性波装置における、圧電層を伝搬する厚み滑り1次モードのバルク波を説明するための模式的正面断面図である。
【
図4】
図4は、厚み滑り1次モードのバルク波の振幅方向を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1~3の共振子としての位相特性を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、隣り合う電極の中心間距離または中心間距離の平均距離をp、圧電層の厚みをdとした場合のd/2pと共振子としての比帯域との関係を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、隣り合う電極の中心間距離または中心間距離の平均距離をp、圧電層の厚みをdとした場合のd/2pと共振子としての比帯域との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、スプリアスが現れている参考例の弾性波装置の共振特性を示す図である。
【
図8】
図8は、比帯域と、規格化されたスプリアスの大きさとの関係を示す図である。
【
図9】
図9は、d/2pと、メタライゼーション比MRと、比帯域との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、オイラー角(0°,θ,ψ)のLiNbO
3において、d/pを限りなく0に近づけた場合の比帯域のマップを示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置の電極構造を示す平面図である。
【
図12】
図12は、第3の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。
【
図13】
図13は、第4の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。
【
図14】
図14は、第5の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。
【
図15】
図15は、第6の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。
【
図16】
図16は、第7の実施形態に係る弾性波装置の電極構造を示す正面断面図である。
【
図17】
図17は、本発明の第8の実施形態に係る弾性波装置を示す正面断面図である。
【
図18】
図18は、本発明の第9の実施形態に係る弾性波装置を示す正面断面図である。
【
図19】
図19(a)は、本発明の第10の実施形態に係る弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図19(b)は、その変形例を示す正面断面図である。
【
図20】
図20(a)は、本発明の第11の実施形態に係る弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図20(b)は、その変形例を示す正面断面図である。
【
図21】
図21は、本発明の第12の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。
【
図22】
図22は、本発明の第13の実施形態における圧電層及び1対の電極を示す正面断面図である。
【
図23】
図23(a)は、本発明の第14の実施形態における圧電層及び1対の電極を示す正面断面図であり、
図23(b)~
図23(d)は、その変形例を説明するための正面断面図である。
【
図24】
図24(a)~
図24(c)は、本発明の弾性波装置のさらに他の変形例を説明するための各正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
本願の第1,第2の発明は、ニオブ酸リチウムまたはタンタル酸リチウムからなる圧電層と、圧電層の厚み方向に交差する方向において対向している少なくとも1対の電極とを備える。少なくとも1対の電極が長さ方向を有し、少なくとも1対の電極には、少なくとも1対の電極の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が互いに異なる第1電極及び第2電極が含まれている。そのため、スプリアスの大きさや位置を制御することができる。
【0012】
第1の発明では、厚み滑り1次モードのバルク波が利用されている。また、第2の発明では、圧電層の厚みをd、少なくとも1対の電極の隣り合う電極の中心間距離をpとした場合、d/pが0.5以下とされている。それによって、第1,第2の発明では、小型化を進めた場合であっても、Q値を高めることができる。
【0013】
図1(a)は、第1,第2の発明についての第1の実施形態に係る弾性波装置の外観を示す略図的斜視図であり、
図1(b)は、圧電層上の電極構造を示す平面図であり、
図2は、
図1(a)中のA-A線に沿う部分の断面図である。
【0014】
弾性波装置1は、LiNbO3からなる圧電層2を有する。圧電層2は、LiTaO3からなるものであってもよい。厚み滑り1次モードを利用するには、圧電層2の厚みは、50nm以上、1000nm以下であることが好ましい。また、圧電層2におけるカット角は、本実施形態では、Zカットであるが、回転YカットやXカットであってもよい。さらに伝搬方位については、Y伝搬と、X伝搬±30°が好ましい。
【0015】
図1(b)に示すように、電極3,4は矩形形状であり、長さ方向を有する。電極3,4の長さ方向と直交する方向が電極3,4の幅方向である。電極3,4の幅は、この電極3,4の幅方向に沿う寸法をいうものとする。
【0016】
電極3,4は、電極3,4の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が異なる第1電極と第2電極とを有する。より具体的には、本実施形態では、電極3の幅よりも電極4の幅が大きい。従って、例えば、
図1(b)のP-P線に沿う断面において、すなわち電極3,4の長さ方向と直交する断面において、第1電極である電極3と第2電極である電極4とは断面形状が異なっている。本実施形態の弾性波装置1では、電極3,4は上記のように構成されているため、スプリアスの大きさや位置を制御することができる。これについては、後程具体的な実施例に基づき、より詳細に説明する。
【0017】
圧電層2は、対向し合う第1,第2の主面2a,2bを有する。第1の主面2a上に、少なくとも1対の電極3,4が設けられている。
図1(a)及び
図1(b)では、複数の電極3が、第1のバスバー5に接続されている。複数の電極4は、第2のバスバー6に接続されている。複数の電極3及び複数の電極4は、互いに間挿し合っている。電極3及び電極4は圧電層2の厚み方向に直交する方向において、対向している。また、電極3及び電極4は、矩形形状を有し、長さ方向を有する。この長さ方向と直交する方向において、電極3と、電極3と隣り合う電極4とが対向している。電極3,4の長さ方向、及び、電極3,4の長さ方向と直交する方向はいずれも、圧電層2の厚み方向に交差する方向である。このため、電極3と、隣りの電極4とは、圧電層2の厚み方向に交差する方向において対向しているともいえる。また、電極3,4の長さ方向が
図1(a)及び
図1(b)に示す電極3,4の長さ方向に直交する方向と入れ替わっても良い。すなわち、
図1(a)及び
図1(b)において、第1のバスバー5及び第2のバスバー6が延びている方向に電極3,4を延ばしてもよい。その場合、第1のバスバー5及び第2のバスバー6は、
図1(a)及び
図1(b)において電極3,4が延びている方向に延びることとなる。そして、一方電位に接続される電極3と、他方電位に接続される電極4とが隣り合う1対の構造が、上記電極3,4の長さ方向と直交する方向に、複数対設けられている。この対数は、整数対である必要はなく、1.5対や2.5対などであってもよい。
【0018】
圧電層2の第2の主面2b側には、絶縁層7を介して支持部材8が設けられている。絶縁層7及び支持部材8は、枠状の形状を有し、
図2に示すように、開口部7a,8aを有する。それによって、エアギャップ9が形成されている。エアギャップ9は、圧電層2の励振領域の振動を妨げないために設けられている。すなわち、エアギャップ9は、平面視した場合、少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分の少なくとも一部と重なる領域において、少なくとも1対の電極3,4が設けられている側とは反対側に形成されている。従って、上記支持部材8は、少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分と重ならない位置において、第2の主面2bに絶縁層7を介して積層されている。なお、絶縁層7は設けられずともよい。従って、支持部材8は、圧電層2の第2の主面2bに直接または間接に積層され得る。また、支持部材8は、平面視して、少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分と重ならない位置だけでなく、少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分と重なる位置にも設けられていてもよい。この場合、平面視して少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分と重なる位置においては、エアギャップ9が圧電層2と支持部材8との間に設けられていることとなる。
【0019】
絶縁層7は、酸化ケイ素からなる。もっとも、酸化ケイ素の他、酸窒化ケイ素、アルミナなどの適宜の絶縁性材料を用いることができる。支持部材8は、Siからなる。Siの圧電層2側の面方位は、(100)であってもよく、(110)、(111)であってもよい。また、好ましくは、抵抗率4kΩ以上の高抵抗のSiが望ましい。もっとも、支持部材8についても他の絶縁性材料や半導体材料を用いて構成することができる。
【0020】
上記複数の電極3,4及び第1,第2のバスバー5,6は、Al、AlCu合金などの適宜の金属もしくは合金からなる。本実施形態では、電極3,4は、Ti膜上にAl膜を積層した構造を有する。Ti膜は密着層であり、密着層はTi以外の材料からなるものであってもよい。
【0021】
駆動に際しては、複数の電極3と、複数の電極4との間に交流電圧を印加する。より具体的には、第1のバスバー5と第2のバスバー6との間に交流電圧を印加する。それによって、圧電層2において励振される厚み滑り1次モードのバルク波を利用した、共振特性を得ることが可能とされている。また、弾性波装置1では、圧電層2の厚みをd、複数対の電極3,4のうちいずれかの隣り合う電極3,4の中心間距離の距離をpとした場合、d/pは0.5以下とされている。そのため、上記厚み滑り1次モードのバルク波が効果的に励振され、良好な共振特性を得ることができる。より好ましくは、d/pは0.24以下であり、その場合には、より一層良好な共振特性を得ることができる。
【0022】
なお、電極3,4が隣り合うとは、電極3,4が直接接触している場合ではなく、電極3,4が間隔を介して隣り合って配置されている場合を指す。また、電極3,4が隣り合う場合、電極3,4の間には、電極3,4を含むホット電極またはグラウンド電極に接続される他の電極がない。さらに、電極3,4の少なくとも一方が複数本ある場合(電極3,4を一対の電極組とした場合に、1.5対以上の電極組がある場合)、電極3,4の中心間距離は、1.5対以上の電極3,4のうち隣り合う電極3,4それぞれの中心間距離の平均値を指す。
【0023】
なお、電極3,4間の中心間距離とは、電極3の長さ方向と直交する方向における電極3の寸法(幅寸法)の中心と、電極4の長さ方向と直交する方向における電極4の寸法(幅寸法)の中心とを結んだ距離である。
【0024】
また、本実施形態では、Zカットの圧電層を用いているため、電極3,4の長さ方向と直交する方向は、圧電層2の分極方向に直交する方向となる。圧電層2として他のカット角の圧電体を用いた場合には、この限りでない。ここにおいて、「直交」とは、厳密に直交する場合のみに限定されず、略直交(電極3,4の長さ方向と直交する方向と分極方向PZ1とのなす角度が例えば90°±10°)でもよい。
【0025】
本実施形態の弾性波装置1では、上記構成を備えるため、小型化を図ろうとして、電極3,4の対数を小さくしたとしても、Q値の低下が生じ難い。これは、反射器が有する反射電極指の本数が少なくても波を閉じ込められるので、伝搬ロスが少ないためである。また、厚み滑り1次モードのバルク波を利用していることによる。従来の弾性波装置で利用したラム波と、上記厚み滑り1次モードのバルク波の相違を、
図3(a)及び
図3(b)を参照して説明する。
【0026】
図3(a)は、特許文献1に記載のような弾性波装置の圧電膜を伝搬するラム波を説明するための模式的正面断面図である。ここでは、圧電膜201中を矢印で示すように波が伝搬する。ここで、圧電膜201では、第1の主面201aと、第2の主面201bとが対向しており、第1の主面201aと第2の主面201bとを結ぶ厚み方向がZ方向である。X方向は、IDT電極の電極指が並んでいる方向である。
図3(a)に示すように、ラム波では、波が図示のように、X方向に伝搬していく。板波であるため、圧電膜201が全体として振動するものの、波はX方向に伝搬するため、両側に反射器を配置して、共振特性を得ている。そのため、小型化を図った場合、すなわち、反射器が有する反射電極指の対数を少なくした場合、波の伝搬ロスが生じ、Q値が低下する。
【0027】
これに対して、
図3(b)に示すように、本実施形態の弾性波装置では、振動変位は厚み滑り方向であるから、波は、圧電層2の第1の主面2aと第2の主面2bとを結ぶ方向、すなわちZ方向にほぼ伝搬し、共振する。すなわち、波のX方向成分がZ方向成分に比べて著しく小さい。そして、このZ方向の波の伝搬により共振特性が得られるため、必ずしも反射器を必要としない。従って、小型化を進めようとして、電極3,4からなる電極対の対数を減らしたとしても、Q値の低下が生じ難い。
【0028】
上記のように、弾性波装置1では、電極3と電極4とからなる少なくとも1対の電極が配置されているが、X方向に波を伝搬させるものではないため、この電極3,4からなる電極対の対数は複数対ある必要は必ずしもない。すなわち、少なくとも1対の電極が設けられてさえおればよい。
【0029】
なお、厚み滑り1次モードのバルク波の振幅方向は、
図4に示すように、圧電層2の励振領域に含まれる第1領域451と、励振領域に含まれる第2領域452とで逆になる。
図4では、電極3と電極4との間に、電極4が電極3よりも高電位となる電圧が印加された場合のバルク波を模式的に示してある。第1領域451は、励振領域のうち、圧電層2の厚み方向に直交し圧電層2を2分する仮想平面VP1と、第1の主面2aとの間の領域である。第2領域452は、励振領域のうち、仮想平面VP1と、第2の主面2bとの間の領域である。
【0030】
例えば、上記電極3がホット電位に接続される電極であり、電極4がグラウンド電位に接続される電極である。もっとも、電極3がグラウンド電位に、電極4がホット電位に接続されてもよい。本実施形態では、少なくとも1対の電極は、上記のように、ホット電位に接続される電極またはグラウンド電位に接続される電極であり、浮き電極は設けられていない。
【0031】
次に、本実施形態の弾性波装置1において、スプリアスの大きさ及び位置を制御し得ることを、以下の実施例1~3の対比により明らかにする。実施例1~3では、いずれも、圧電層2として、オイラー角(0°,0°,90°)のLiNbO3膜を用いた。厚みは400nmとした。
【0032】
電極3,4の中心間距離であるピッチは3μmとした。電極3,4の材料としては、10nmのTi膜上に100nmの厚みのAl膜を積層した構造を用いた。電極3の幅方向寸法及び電極4の幅方向寸法を、下記の表1に示す通りとした。従って、d/pは、0.133である。
【0033】
電極3,4の電極3,4の長さ方向と直交する方向に視たときに重なり合っている領域すなわち励振領域の長さは20μmとした。電極3,4の対数は100対とした。
【0034】
【0035】
図5は、上記実施例1~3の共振子としての位相特性を示す図である。
図5から明らかなように、上記のように、電極3の幅及び電極4の幅を実施例1~3に示されているように異ならせることにより、5040MHz~5070MHz付近に現れるスプリアスの大きさ及び位置並びに5280MHz~5400MHz付近に現れるスプリアスの大きさ及び位置が変化することがわかる。従って、本実施形態の弾性波装置1では、上記のように、1対の電極3,4の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、他の電極と断面形状が異なる電極が含まれているため、この異ならせ方を調整することにより、スプリアスを小さくしたり、スプリアスを帯域から離れた位置にシフトさせたりすることができる。
【0036】
なお、第1の実施形態では、電極3の幅と電極4の幅とを異ならせたが、複数対の電極3,4が設けられている場合、全ての電極3の幅を等しくする必要はない。また電極4の幅についても全て等しくする必要はない。複数対の電極3,4が設けられている場合、電極3,4の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、断面形状が異なる電極が存在すればよい。
【0037】
ところで、上記圧電層2の厚みをd、電極3と電極4との電極の中心間距離をpとした場合、前述したように、本実施形態では、d/pは0.5以下、より好ましくは0.24以下である。これを、
図6A及び
図6Bを参照して説明する。
【0038】
d/2pを変化させ、複数の弾性波装置を得た。
図6A及び
図6Bは、このd/2pと、弾性波装置の共振子としての比帯域との関係を示す図である。
【0039】
図6Aから明らかなように、d/2pが0.25を超えると、すなわちd/p>0.5では、d/pを調整しても、比帯域は5%未満である。これに対して、d/2p≦0.25、すなわちd/p≦0.5の場合には、その範囲内でd/pを変化させれば、比帯域を5%以上とすることができ、すなわち高い結合係数を有する共振子を構成することができる。また、d/2pが0.12以下の場合、すなわちd/pが0.24以下の場合には、比帯域を7%以上と高めることができる。さらに好ましくは、d/2pが0.05以下であり、すなわち、d/pが0.025以下であれば、より一層結合係数を高めることができる。加えて、d/pをこの範囲内で調整すれば、より一層比帯域の広い共振子を得ることができ、より一層高い結合係数を有する共振子を実現することができる。従って、本願の第2の発明のように、d/pを0.5以下とすることにより、上記厚み滑り1次モードのバルク波を利用した、高い結合係数を有する共振子を構成し得ることがわかる。また、
図6Bから明らかなように、d/2pは、より好ましくは、0.048以下である。この場合、結合係数をより一層高めることができる。さらに好ましくは、d/2pは、0.024以上、0.036以下の範囲にある。この場合、ピッチpが変動したとしても、結合係数の変化が小さい。
【0040】
なお、前述したように、少なくとも1対の電極は、1対でもよく、上記pは、1対の電極の場合、隣り合う電極3,4の中心間距離とする。また、1.5対以上の電極の場合には、隣り合う電極3,4の中心間距離の平均距離をpとすればよい。
【0041】
弾性波装置1では、好ましくは、少なくとも1対の電極3,4が、電極3,4が対向している方向に視たときに重なっている領域である励振領域に対する、少なくとも1対の電極3,4のメタライゼーション比MRが、MR≦1.75(d/p)+0.075を満たすことが望ましい。その場合には、スプリアスを効果的に小さくすることができる。これを、
図7及び
図8を参照して説明する。
図7は、上記弾性波装置1の共振特性の一例を示す参考図である。矢印Bで示すスプリアスが、共振周波数と反共振周波数との間に現れている。なお、d/p=0.08として、かつLiNbO
3のオイラー角(0°,0°,90°)とした。また、上記メタライゼーション比MR=0.35とした。
【0042】
メタライゼーション比MRを、
図1(b)を参照して説明する。
図1(b)の電極構造において、1対の電極3,4に着目した場合、この1対の電極3,4のみが設けられるとする。この場合、一点鎖線Cで囲まれた部分が励振領域となる。この励振領域とは、電極3と電極4とを、電極3,4の長さ方向と直交する方向すなわち対向方向に視たときに電極3における電極4と重なり合っている領域、電極4における電極3と重なり合っている領域、及び、電極3と電極4との間の領域における電極3と電極4とが重なり合っている領域である。そして、この励振領域の面積に対する、励振領域C内の電極3,4の面積が、メタライゼーション比MRとなる。すなわち、メタライゼーション比MRは、メタライゼーション部分の面積の励振領域の面積に対する比である。
【0043】
なお、複数対の電極が設けられている場合、励振領域の面積の合計に対する全励振領域に含まれているメタライゼーション部分の割合をMRとすればよい。
【0044】
図8は本実施形態に従って、多数の弾性波共振子を構成した場合の比帯域と、スプリアスの大きさとしての180度で規格化されたスプリアスのインピーダンスの位相回転量との関係を示す図である。なお、比帯域については、圧電層の膜厚や電極の寸法を種々変更し、調整した。また、
図8は、ZカットのLiNbO
3からなる圧電層を用いた場合の結果であるが、他のカット角の圧電層を用いた場合においても、同様の傾向となる。
【0045】
図8中の楕円Jで囲まれている領域では、スプリアスが1.0と大きくなっている。
図8から明らかなように、比帯域が0.17を超えると、すなわち17%を超えると、スプリアスレベルが1以上の大きなスプリアスが、比帯域を構成するパラメータを変化させたとしても、通過帯域内に現れる。すなわち、
図7に示す共振特性のように、矢印Bで示す大きなスプリアスが帯域内に現れる。よって、比帯域は17%以下であることが好ましい。この場合には、圧電層2の膜厚や電極3,4の寸法などを調整することにより、スプリアスを小さくすることができる。
【0046】
図9は、d/2pと、メタライゼーション比MRと、比帯域との関係を示す図である。上記弾性波装置において、d/2pと、MRが異なる様々な弾性波装置を構成し、比帯域を測定した。
図9の破線Dの右側のハッチングを付して示した部分が、比帯域が17%以下の領域である。このハッチングを付した領域と、付していない領域との境界は、MR=3.5(d/2p)+0.075で表される。すなわち、MR=1.75(d/p)+0.075である。従って、好ましくは、MR≦1.75(d/p)+0.075である。その場合には、比帯域を17%以下としやすい。より好ましくは、
図9中の一点鎖線D1で示すMR=3.5(d/2p)+0.05の右側の領域である。すなわち、MR≦1.75(d/p)+0.05であれば、比帯域を確実に17%以下にすることができる。
【0047】
図10は、d/pを限りなく0に近づけた場合のLiNbO
3のオイラー角(0°,θ,ψ)に対する比帯域のマップを示す図である。
図9のハッチングを付して示した部分が、少なくとも5%以上の比帯域が得られる領域E,F,G,Hである。領域E,F,G,Hの範囲を近似すると、下記の式(1)、式(2)及び式(3)で表される範囲となる。
【0048】
(0°±10°,0°~20°,任意のψ) …式(1) …領域E
(0°±10°,20°~80°,0°~60°(1-(θ-50)2/900)1/2) または (0°±10°,20°~80°,[180°-60°(1-(θ-50)2/900)1/2]~180°) …式(2) …領域FまたはG
(0°±10°,[180°-30°(1-(ψ-90)2/8100)1/2]~180°,任意のψ) …式(3) …領域H
【0049】
従って、上記式(1)、式(2)または式(3)のオイラー角範囲の場合、比帯域を十分に広くすることができ、好ましい。
【0050】
上記の通り、本願の第1,第2の発明に係る弾性波装置では、反射器の電極指の本数を少なくしても、良好な共振特性を得ることができ、従って小型化を進めた場合でも、高いQ値を実現することができる。また、電極3と電極4とを、電極3,4の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面で断面形状を異ならせることにより、スプリアスの大きさや位置を制御することができる。
【0051】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置の電極構造を示す平面図である。第2の実施形態では、1対の電極3,4が圧電層2上に設けられている。このように、電極3,4からなる電極構造の対数は1対であってもよい。ここでも、電極4の幅が電極3の幅よりも広くされている。以下、本発明の他の実施形態及び変形例を説明する。
【0052】
第1の実施形態の弾性波装置1では、電極3の幅と電極4の幅とが異なるように少なくとも1対の電極3,4が構成されていた。これに対して、本発明においては、このような幅を異ならせたものに限らず、1対の電極3,4が長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、他の電極と断面形状が異なる電極が存在すればよく、その形態は様々に変更し得る。
【0053】
図12~
図16を参照して、第3~第7の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明する。
図12に示す第3の実施形態の弾性波装置では、電極3及び電極4が基端から先端に行くにつれて、細くなるように、テーパーが付けられた形状を有する。すなわち、等脚台形の形状を有している。ここで、電極3と電極4は、電極3,4の長さ方向と直交する方向のいずれかの断面で視た場合、電極3と電極4との断面形状が異なっている。すなわち、第3の実施形態の弾性波装置では、電極3が「第1電極」の一例であり、電極4が「第2電極」の一例である。例えば、
図12のP1-P1線に沿う断面において、電極3の断面形状と電極4の断面形状とは異なっている。このように、電極3や電極4を、等脚台形などの矩形以外の形状とすることにより、電極3,4の断面形状を、電極3,4の長さ方向と直交する断面において異ならせることができる。
【0054】
第3の実施形態においても、複数の電極3は全て等しい形状にする必要は必ずしもない。複数の電極4についても同様である。
【0055】
なお、電極3,4は等脚台形の形状を有していたが、非等脚台形や平行四辺形などの他の形状を有していてもよい。
【0056】
図13は、第4の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。第4の実施形態では、第1のバスバー5に、矩形形状の電極3が接続されている。また、第2のバスバー6に、複数の電極4と、電極4Aとが接続されている。電極4は、矩形形状を有し、電極3と同一形状とされている。他方、電極4Aでは、長さ方向に延びる一方の側辺に複数の凹部4aが設けられている。すなわち、電極4に凹部4aを設けた形状に相当する。この場合、長さ方向とは、電極4Aに外接している矩形Rの長さ方向となる。なお、第4の実施形態では凹部4aが設けられているが、凹部4a電極4に少なくとも1つ設けられていれば良い。
【0057】
第4の実施形態においても、上記凹部4aが設けられている位置を通るP2-P2線に沿う断面では、電極4Aの断面形状は、他の電極3,4と異なる。すなわち、第4の実施形態の弾性波装置では、電極4Aが「第1電極」の一例であり、電極3または電極4が「第2電極」の一例である。従って、この場合にも、電極3,4,4Aの断面形状を調整することにより、スプリアスの大きさや位置を制御することができる。
【0058】
図14は、第5の実施形態の弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。第5の実施形態の弾性波装置では、第1のバスバー5に、複数の電極3と電極3Bの一端が接続されている。第2のバスバー6に、複数の電極4Bと複数の電極4とが接続されている。ここで、電極3,4は矩形形状を有する。これに対して、電極3B,4Bは、図示のように、湾曲した形状を有する。すなわち、電極3Bは湾曲した1対の側辺3d,3eを有する。同様に、電極4Bは、湾曲した1対の側辺4d,4eを有する。このように湾曲した形状の電極3B,4Bでは、外接する矩形形状の長さ方向が電極3B,4Bの長さ方向となる。なお、「電極3B,4Bに外接する矩形形状」とは、少なくとも、電極3B,4Bにおいて第1のバスバー5または第2のバスバー6に接続されている箇所を除いた箇所に外接する矩形形状を含む。
【0059】
本実施形態においても、例えばP3-P3線に沿う断面において、電極3Bの断面形状と、電極4Bの断面形状とが異なっている。また、電極4Bの幅が、電極3や電極4の幅よりも大きい。すなわち、電極3Bが「第1電極」の一例であり、電極3、4、4B、が「第2電極」の一例である。または、電極4Bが「第1電極」の一例であり、電極3、3B、4が「第2電極」の一例である。そのため、この断面形状の異ならせ方を調整することにより、第1の実施形態と同様に、スプリアスの大きさや位置を調整することができる。
【0060】
図15は、第6の実施形態に係る弾性波装置の電極構造を説明するための平面図である。ここでは、第1のバスバー5に、電極3C,3Dの一端が接続されている。また、第2のバスバー6に、電極4C,4Dの一端が接続されている。すなわち、2対の電極3C,4C,3D,4Dが設けられている。もっとも、電極3Cは等脚台形の形状を有している。電極4Cは、電極3Cよりも細い台形形状を有している。さらに、電極4Dは、長さ方向中央に幅の細い部分4d1が設けられている形状を有する。電極3Dは、基端から先端に行くにつれて幅が広がっている形状を有している。このような様々な矩形以外の異形の電極3C,4C,3D,4Dを用いてもよい。この場合においても、電極3C,4C,3D,4Dの長さ方向と直交する方向のいずれかの断面において、電極形状が異なる電極が存在することになる。すなわち、電極3C、4C、3D、4Dのいずれかが「第1電極」の一例であり、残りの電極が「第2電極」の一例である。従って、電極形状の異ならせ方を調整することによりスプリアスの大きさや位置を制御することができる。
【0061】
図16は、第7の実施形態に係る弾性波装置の電極構造を示す正面断面図である。本実施形態では、電極3及び電極4は、圧電層2上に配置された幅広部3f,4fと、幅広部3f,4f上に設けられた矩形断面部3g,4gとを有する。もっとも、幅広部3f,4fの側面は、第1の主面2a側から矩形断面部3g,4gに行くにつれて細くなるようにテーパーが付けられている。もっとも、幅広部3fの側面よりも、幅広部4fの側面の傾斜が急になるように、幅広部4fのテーパーは、幅広部3fのテーパーと異なっている。従って、図示の断面形状、すなわち電極3,4の長さ方向と直交する方向の断面において、電極3の断面形状と電極4の断面形状は異なっている。言い換えれば、電極3が「第1電極」の一例であり、電極4が「第2電極」の一例である。従って、この異なり方を調整することにより、スプリアスの大きさや位置を調整することができる。
【0062】
なお、第7の実施形態では、電極3,4の幅広部3f,4fの側面の傾斜角度が異ならされていたが、電極3及び電極4の側面の全体の傾斜角度が異なるように構成されていてもよい。すなわち、電極3の側面の少なくとも一部の圧電層2に対する傾斜角度は、電極4の側面の少なくとも一部の傾斜角度と異なっていてもよい。
【0063】
図17は、第8の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。弾性波装置81では、電極3の厚みよりも、電極4の厚みが厚くされている。従って、本実施形態においても、電極3,4の長さ方向と直交する方向の断面において、電極3の断面形状と、電極4の断面形状とが異なっている。よって、異なり方を調整することにより、スプリアスの大きさや位置を調整することができる。また、少なくとも1対の電極3,4を覆うように、圧電層2の第1の主面2a上に、保護膜22が積層されている。保護膜22としては、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素などの絶縁性材料を好適に用いることができる。なお、保護膜22は、電極3と電極4との間のギャップ領域をも覆っているが、ギャップ領域を部分的に覆っていてもよい。
【0064】
以下の
図18、
図19(a),
図19(b)、
図20(a),
図20(b)、
図21及び
図22では、電極3,4の構造は第1の実施形態と同様とされている。すなわち、電極4の幅が電極3の幅よりも大きくされている。よって、電極4と電極3の断面形状としての幅の異ならせ方を調整することにより、スプリアスの大きさや位置を調整することができる。
【0065】
図18は、第9の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。弾性波装置91では、圧電層2の第1の主面2a上に、第1の実施形態と同様に、幅が異なる電極3,4が設けられている。また、圧電層2の第2の主面2bに音響多層膜42が積層されている。音響多層膜42は、音響インピーダンスが相対的に低い低音響インピーダンス層42a,42c,42eと、音響インピーダンスが相対的に高い高音響インピーダンス層42b,42dとの積層構造を有する。音響多層膜42を用いた場合、弾性波装置1におけるエアギャップ9を用いずとも、厚み滑り1次モードのバルク波を圧電層2内に閉じ込めることができる。弾性波装置91においても、上記d/pを0.5以下とすることにより、厚み滑り1次モードのバルク波に基づく共振特性を得ることができる。なお、音響多層膜42においては、その低音響インピーダンス層及び高音響インピーダンス層の積層数は特に限定されない。低音響インピーダンス層よりも、少なくとも1層の高音響インピーダンス層が圧電層2から遠い側に配置されておりさえすればよい。
【0066】
上記低音響インピーダンス層42a,42c,42e及び高音響インピーダンス層42b,42dは、上記音響インピーダンスの関係を満たす限り、適宜の材料で構成することができる。例えば、低音響インピーダンス層42a,42c,42eの材料としては、酸化ケイ素または酸窒化ケイ素などを挙げることができる。また、高音響インピーダンス層42b,42dの材料としては、アルミナ、窒化ケイ素または金属などを挙げることができる。
【0067】
図19(a)は、第10の実施形態に係る弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図19(b)は、その変形例を示す正面断面図である。
図19(a)では、第10の実施形態の弾性波装置101の一部、すなわち圧電層2及び少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分のみを示す。第10の実施形態の弾性波装置101では、圧電層2の第1の主面2a上に、少なくとも1対の電極3,4が設けられている。また、第2の主面2b上にも、少なくとも1対の電極3,4が設けられている。このように、第2の主面2b側にも、少なくとも1対の電極が設けられていてもよい。第2の主面2b上に設けられている電極3,4は、好ましくは、第1の主面2a上の電極3,4と圧電層2を介して重なるように設けられる。
【0068】
もっとも、
図19(b)に示す変形例の弾性波装置101Aのように、第1の主面2a上の電極3,4は、第2の主面2b上の電極3,4と部分的に重なっていてもよい。すなわち、少なくとも一部において、第1の主面2a上の電極3,4と、第2の主面2b上の電極3,4とが重なり合っていればよい。
【0069】
図19(a)では、図示を省略しているが、弾性波装置101では、圧電層2及び電極3,4以外は、弾性波装置1と同様に構成されている。従って、弾性波装置1と同様に、厚み滑り1次モードのバルク波による共振特性を良好に得ることができ、小型化を進めた場合であってもQ値を高めることができる。
【0070】
図20(a)は、第11の実施形態の弾性波装置を説明するための正面断面図であり、
図20(b)は、その変形例を示す正面断面図である。
図20(a)及び
図20(b)においても、
図19(a)と同様に、弾性波装置111の圧電層2及び少なくとも1対の電極3,4が設けられている部分のみを示す。弾性波装置111では、圧電層2の第1の主面2aが粗面とされている。その場合、粗面の程度を調整することにより、周波数調整を行うことができる。弾性波装置111は、その他の構成は、第1の実施形態の弾性波装置1と同様である。
【0071】
また、
図20(b)に示す変形例の弾性波装置111Aでは、電極3と電極4との間のギャップ部が削られて凹部2cが設けられている。この凹部2cの大きさや深さを調整することによっても、周波数調整を行うことができる。
【0072】
図21は、第12の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。弾性波装置121では、圧電層2の第1の主面2a上に質量付加膜72が設けられている。また、第2の主面2b上にも、質量付加膜73が設けられている。質量付加膜72,73は、励振領域外、すなわち複数の電極3,4が配置されている領域外に設けられている。励振領域外の任意の位置に、質量付加膜72や質量付加膜73を設けることができるが、
図21では、絶縁層7と重なる位置に、質量付加膜72,73が設けられている。
【0073】
質量付加膜72,73は、いずれか一方のみが設けられてもよい。また、質量付加膜72,73の材料としては、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、アルミナなどの絶縁体や、Alなどの金属もしくは合金を用いることができる。
【0074】
図22は、第13の実施形態に係る弾性波装置の圧電層及び1対の電極を説明するための正面断面図である。弾性波装置131では、圧電層2の第1の主面2a及び第2の主面2bが、曲面状となっている。このように、圧電層2は、平板状の圧電膜である必要はなく、少なくとも一部が湾曲していてもよい。
【0075】
図23(a)は、第14の実施形態に係る弾性波装置の圧電層及び1対の電極を説明するための正面断面図である。弾性波装置141では、少なくとも1対の電極3,4の断面形状が、矩形とは異なる異形形状を有している。すなわち、電極3,4は、それぞれ、第1の主面2a上に位置している幅広部3f,4fと、幅広部3f,4f上に設けられた矩形断面部3g,4gとを有する。幅広部3f,4fの側面は、第1の主面2a側から矩形断面部3g,4g側にいくにつれて細くなるように幅広部3f,4fにテーパーが設けられている。この幅広部3f,4fを設けることにより、電極3と電極4との間の距離を小さくすることができる。従って、電極間の容量を大きくすることができる。よって、共振特性を大きく変化させることなく、容量を大きくすることができる。
【0076】
このように、少なくとも1対の電極3,4の断面形状は、矩形と異なる形状、すなわち異形形状であってもよい。また、電極3,4の一部に、相手側の電極4,3側に延ばされた部分を有していてもよい。
【0077】
また電極3,4は、例えば、
図23(b)~
図23(d)のいずれかのような形状であってもよい。
図23(b)に示した電極3,4は、断面台形状の形状である。また、
図23(c)に示した電極3,4は、末広がり状の形状であり、幅方向の両側面が曲面である。また、
図23(d)に示した電極3,4は、上端側に断面台形状の部分を有し、下端側に上端側の断面台形状の部分よりも幅広の断面台形状の部分を有する。
【0078】
また、弾性波装置1は、
図24(a)~
図24(c)のいずれかに示すように、圧電層2の第1の主面2aと第1の主面2a上の電極3,4とを覆う誘電体膜10を備えていてもよい。
図24(a)では、誘電体膜10の厚さが電極3,4の厚さよりも薄く、誘電体膜10の表面が、下地の形状に沿った凹凸形状を有している。
図24(b)では、誘電体膜10の表面が、平坦化されており、平面状となっている。
図24(c)では、誘電体膜10の厚さが電極3,4の厚さよりも厚く、誘電体膜10の表面が、下地の形状に沿った凹凸形状を有している。
【符号の説明】
【0079】
1…弾性波装置
2…圧電層
2a…第1の主面
2b…第2の主面
2c…凹部
3,3B,3C,3D,4,4A,4B,4C,4D…電極
3d,3e,4d,4e…側辺
3f,4f…幅広部
3g,4g…矩形断面部
4a…凹部
4d1…幅の細い部分
5,6…第1,第2のバスバー
7…絶縁層
8…支持部材
7a,8a…開口部
9…エアギャップ
10…誘電体膜
22…保護膜
42…音響多層膜
42a,42c,42e…低音響インピーダンス層
42b,42d…高音響インピーダンス層
72…質量付加膜
73…質量付加膜
81,91,101,101A,111,111A,121,131,141…弾性波装置
201…圧電膜
201a…第1の主面
201b…第2の主面
451…第1領域
452…第2領域