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特開2023-113973ニコチン供給オーラルパウチ製品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113973
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ニコチン供給オーラルパウチ製品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24B 13/00 20060101AFI20230809BHJP
   A24B 15/30 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
A24B13/00
A24B15/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020079067
(22)【出願日】2020-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古越 雅之
(72)【発明者】
【氏名】住田 賢
(72)【発明者】
【氏名】桑原 淳
(72)【発明者】
【氏名】宮内 正人
(72)【発明者】
【氏名】横井 道徳
(72)【発明者】
【氏名】戸渡 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】永井 敦
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶
(72)【発明者】
【氏名】八川 真里那
【テーマコード(参考)】
4B043
【Fターム(参考)】
4B043BB22
4B043BC16
4B043BC19
(57)【要約】
【課題】流動性が改善された、又は、付着性が改善されたニコチン供給オーラルパウチ製品、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ゲル粒子を含む組成物と、該組成物を包装するパウチとを有するニコチン供給オーラルパウチ製品であって、該ゲル粒子が、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含み、該組成物がニコチンを含み、該組成物中の水の含有率が15重量%以上である、ニコチン供給オーラルパウチ製品。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル粒子を含む組成物と、該組成物を包装するパウチとを有するニコチン供給オーラルパウチ製品であって、
該ゲル粒子が、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含み、
該組成物がニコチンを含み、
該組成物中の水の含有率が15重量%以上である、
ニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項2】
前記アニオン天然ポリマー炭水化物が、カルボキシル基を有する、請求項1に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項3】
前記アニオン天然ポリマー炭水化物が、LMペクチンである、請求項2に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項4】
前記組成物において、前記アニオン天然ポリマー炭水化物が有する総カルボキシル基数と、前期カルシウムイオンの総個数との比が、100:1~2:1である、請求項3又は4に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項5】
前記組成物の構成物の乾燥時の最大粒度が、15mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項6】
前記パウチが不織布である、請求項1~5のいずれか1項に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
【請求項7】
少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン供給剤、及び水を含むゲル粒子を含む組成物を製造する組成物製造工程を有し、
該組成物がニコチンを含み、かつ、
該組成物中の水の含有率が、15重量%以上である、ニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
【請求項8】
前記カルシウムイオン供給剤が液体である、請求項7に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
【請求項9】
前記カルシウムイオン供給剤が、乳酸カルシウムを含む、請求項7又は8に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチン供給オーラルパウチ製品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔用たばこ製品等のニコチン供給オーラルパウチ製品は、不織布のような材料により形成されたパウチ(包装材)に、ニコチンを含む組成物が収納されてなる包装体であり、使用者はこれを口腔内に入れて使用する。
ニコチン供給オーラルパウチ製品は、それを使用者の口腔内に投入することで、組成物中のニコチン等の成分が包装材の外部に染み出ることにより、使用者に対して香喫味成分がデリバリーされる。
【0003】
ニコチン供給オーラルパウチ製品において、使用時における口腔内での使用感は重要であり、口当たりのよさを改善する技術や、製品と唾液とのなじみを改善する技術等が知られている。例えば、封止領域を小さくし、製品内の余剰空気の量を小さくすることにより、使用時の風味の所望の放出を可能とし、口腔内での口当たりのよさを改善する技術の開発(特許文献1)、また、組成物に特定の物質を含有させることにより、製品と唾液とのなじみを改善し、組成物内の物質の口腔内での迅速な経粘膜伝達を促進する技術の開発が進められている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-505174号公報
【特許文献2】特表2012-522765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、組成物内の物質の放出の容易さや、製品と唾液とのなじみの容易さ以外にも、ニコチン供給オーラルパウチ製品の使用時における口腔内の使用感に与える要素は挙げられ、該使用感を改善する余地は残されている。
本発明者らは、一般的なニコチン供給オーラルパウチ製品では、使用時におけるパウチ中の組成物の流動性、及び組成物を構成する材料間の付着性に着目した。パウチ製品中の組成物の流動性を高くすることにより、パウチ製品に圧力がかかる方向と垂直な方向に対するパウチ製品の変形が容易となるため、使用者は、パウチ製品を好みの形状に容易に変形させて口腔内で保持させることができる。また、組成物を構成する材料間の付着性を低くすることにより、パウチ製品に圧力がかかる方向に対するパウチ製品の変形が容易となるため、使用者は、厚みの大きい初期のパウチ製品を容易に薄く変形させることができる。
上記の流動性の改善は、使用者がパウチ製品を口に含み唾液がしみこんでから使用を終了して口から出すまでの間における使用感の改善であり、また、上記の付着性の改善は、使用者がパウチ製品を口に含んでから唾液がしみこむまでの初期の段階における使用感の改善であり、いずれ特性の改善も使用者にとって利点である。上記の特許文献1及び2には、これらの特性について何ら開示されていない。
【0006】
そこで、本発明は、流動性が改善された、又は、付着性が改善されたニコチン供給オーラルパウチ製品、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の物質を含むゲル粒子を含む組成物を用い、かつ、該組成物中の水の含有率を特定値以上とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
[1]ゲル粒子を含む組成物と、該組成物を包装するパウチとを有するニコチン供給オーラルパウチ製品であって、
該ゲル粒子が、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含み、
該組成物がニコチンを含み、
該組成物中の水の含有率が15重量%以上である、
ニコチン供給オーラルパウチ製品。
[2]前記アニオン天然ポリマー炭水化物が、カルボキシル基を有する、[1]に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
[3]前記アニオン天然ポリマー炭水化物が、LMペクチンである、[2]に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
[4]前記組成物において、前記アニオン天然ポリマー炭水化物が有する総カルボキシル基数と、前期カルシウムイオンの総個数との比が、100:1~2:1である、[2]又は[3]に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
[5]前記組成物の構成物の乾燥時の最大粒度が、15mm以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
[6]前記パウチが不織布である、[1]~[5]のいずれかに記載のニコチン供給オーラルパウチ製品。
[7]少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン供給剤、及び水を含むゲル粒子を含む組成物を製造する組成物製造工程を有し、
該組成物がニコチンを含み、かつ、
該組成物中の水の含有率が、15重量%以上である、ニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
[8]前記カルシウムイオン供給剤が液体である、[7]に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
[9]前記カルシウムイオン供給剤が、乳酸カルシウムを含む、[7]又は[8]に記載のニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、流動性が改善された、又は、付着性が改善されたニコチン供給オーラルパウチ製品、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2及び比較例1の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
図2】実施例3及び比較例2の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
図3】実施例4及び比較例3の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
図4】実施例1及び比較例4の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
図5】実施例4及び比較例5の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
図6】実施例5及び比較例6の各組成物における垂直応力と剪断応力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これらの説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0012】
<ニコチン供給オーラルパウチ製品>
本発明の実施形態であるニコチン供給オーラルパウチ製品は、ゲル粒子を含む組成物と、該組成物を包装するパウチとを有するニコチン供給オーラルパウチ製品であって、
該ゲル粒子が、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含み、
該組成物がニコチンを含み、
該組成物中の水の含有率が15重量%以上である、
ニコチン供給オーラルパウチ製品である。
【0013】
上記のオーラルパウチ製品では、パウチ内の組成物にゲル粒子を含ませ、さらに、ゲル粒子として、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物をカルシウムイオンで架橋させ、水を含む分散媒で膨潤させた構造を有するものを用い、かつ、組成物中の水の含有率を15重量%以上とすることにより、該組成物の流動性又は/及び付着性を改善することができる。具体的には、水を含んで膨潤するアニオン天然ポリマー炭水化物の流動性又は/及び付着性を改善することができる。
【0014】
[組成物]
組成物の組成は、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含むゲル粒子、及びニコチンを含んでいれば、特段制限されない。本発明における組成物とは、パウチ内に含まれる任意の物質の総称である。また、パウチ外への組成物の漏れを防ぐ観点から、組成物は液体でないことが好ましく、例えば、ゲル状のゲル粒子のみからなる、又はゲル粒子と固体状の物質からなることが好ましい。また、後述の粒度の好適態様を満たすようにするため、乾燥後に粒子形状(複数個の粒子)となることが好ましい。
【0015】
オーラルパウチ製品は、ゲル粒子を含む組成物を有する。組成物に含まれるゲル粒子は、粒子状のゲルであれば特段制限されない。
本明細書において「粒子状」とは、小さい粒状を表し、完全な球体上でなくともよく、具体的には、球体状、楕円体状、棒状、板状、又は外観上、これらの形状に近い形状などが含まれる。
また、本明細書において、「ゲル状」とは、流動性を有するゾル状の分解生成物が固化して弾性を維持しつつ自発的な流動性を喪失した状態をいい、そのような状態の物質を「ゲル」と称し、ゲルからなる物質を「ゲル物質」と称する。
【0016】
組成物中のゲル粒子の含有率は、特段制限されないが、通常0.01重量%以上であり、0.05重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、1.0重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常50.0重量%以下であり、20.0重量%以下であることが好ましく、10.0重量%以下であることがより好ましく、5.0重量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
ゲル粒子は、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、及び水を含んで入れば特段制限されない。
(ゲル化剤)
アニオン天然ポリマー炭水化物は、ゲル化剤であり、その種類は特段制限されないが、カルボキシル基を有する多糖類が好ましく、例えば、カラギーナン、ペクチン、アラビアガム、キサンタン、ジェラン、トラガントガム、アルギン酸が好ましく、さらには、カルシウムイオンの存在下でゲル化しやすく、カルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作り架橋構造を形成することができる観点から、カラギーナン、ペクチン、ジェラン、アルギン酸であることが好ましい。これらの中でも、後述の理由から、LMペクチンが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0018】
「ペクチン」は、ガラクツロン酸及びガラクツロン酸メチルエステルを構成単位とし、それらがα1,4-結合した多糖類である。ガラクツロン酸の他にも、いくつかの多様な糖を含むことが知られている。一般的にペクチンは、エステル化度が50%未満のLMペクチンと、エステル化度が50%以上のHMペクチンに分類され、上述の通り、本実施形態ではLMペクチンが好ましい。
ペクチンは、特に、カルシウムイオン等の2価の陽イオンの存在下でゲル化し、ペクチン中のガラクツロン酸のカルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作りゲルを形成する。ジャンクションゾーンの多い、即ち、エステル化度の低いペクチンの方が、ゲル化性が強くなる。
ペクチンのエステル化度は、20%以下であることが好ましく、12%以下があることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、また、エステル化度の下限を設定する必要はないが、通常6%以上となる。
【0019】
「ジェラン」は、真正細菌の1種のシュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea)によって合成される水溶性の多糖類として知られている。水溶液に陽イオンが加わると、電気的に中和されてゲランガムの水溶性が低下してゲル化する。ジェランは、2つのD-グルコース残基、1つのL-ラムノース残基及び1つのD-グルクロン酸の4糖からなる繰り返し単位が、直鎖状に連結した高分子化合物である。4糖の繰り返し構造は、以下の通りである。
[D-Glc(β1→4)D-GlcA(β1→4)D-Glc(β1→4)L-Rha(α1→3)]n
【0020】
「カラギーナン」は、直鎖含硫黄多糖類の一種で、D-ガラクトース(又は3,6-アンヒドロ-D-ガラクトース)と硫酸とから構成される陰イオン性高分子化合物である。
【0021】
「アルギン酸」は、主に褐藻に含まれる多糖類の一種である。α-L-グルロン酸、β-D-マンヌロン酸がピラノース型で1,4-グリコシド結合で結合した構造を有する(CAS 9005-38-3)。陽イオンを添加するとゲル化する性質を有する。
【0022】
「アラビアガム」は、「アラビアゴム」又は「アラビア樹脂」とも呼称され、マメ科ネムノキ亜科アカシア属アラビアゴムノキ(Acacia senegal)、またはその同属近縁植物の樹皮の傷口からの分泌物を乾燥させたものである。主成分は多糖類(ポリウロン酸)であり、アラビノガラクタン(75-94%)、アラビノガラクタン-プロテイン(5-20%)、糖タンパク質(1-5%)の混合物である。多糖類の構造は主鎖にガラクトース、側鎖にガラクトース、アラビノース、ラムノース、グルクロン酸を有する。細胞壁を構成するヘミセルロースとはカルボキシル基が遊離している点が異なり、通常カルシウム塩となっている。
【0023】
「キサンタン」は、多糖類の1種で、一般に、トウモロコシ糖のでんぷんを細菌により発酵させて製造される。グルコース2分子、マンノース2分子、グルクロン酸分子を単位とする繰り返し構造を有する(CAS 11138-66-2)。
【0024】
「トラガントガム」は、マメ科植物のトラガントの分泌液を乾燥させて得られた増粘多糖類でありアラビノース、キシロース、フコース、ガラクトース、ガラクツロン酸などから成る複雑な多糖類混合物である。主成分は酸性および中性の2種の多糖類であるが、デンプン、セルロース、無機質などを含む。
【0025】
GPC(Gel Permeation Chromatography)で測定し、標準ポリスチレンの検量線で換算したアニオン天然ポリマー炭水化物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、100,000g/mol以上、700,000g/mol以下であってよく、140,000g/mol以上、300,000g/mol以下であってよく、これらの範囲に制限されず、ゲル化が達成される最低限の分子量を担保していればよい。該重量平均分子量は、2価のカチオンの添加により増加させることができ、また、アルカリの添加により減少させることができる。
【0026】
組成物中のアニオン天然ポリマー炭水化物の含有率は、特段制限されないが、通常0.01重量%以上であり、0.1重量%以上であることが好ましく、1.0重量%以上であることがより好ましく、2.0重量%以上であることがさらに好ましく、また、通常50.0重量%以下であり、20重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましく、5重量%以下であることがさらに好ましい。
組成物中のアニオン天然ポリマー炭水化物の含有率は、液体クロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー質量分析計などによる種々の分画分離方法、検出方法で測定することができる。
【0027】
(ゲル化補助成分)
カルシウムイオンは、ゲル化補助成分であり、その供給源(ゲル化補助剤)は、特段制限されないが、例えば、カルシウムのハロゲン酸塩(塩化物等)、クエン酸、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、乳酸塩等が挙げられるが、これらのうち、パウチ製品への味の影響が少ない、溶解性が高い、溶解後のpHの観点から、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムが好ましく、特に、乳酸カルシウムが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0028】
組成物中のカルシウムイオンの含有率は、特段制限されないが、良好な流動性及び付着性を確保する観点から、組成物の重量に対するモル比率で、通常0.00023mol/kg以上であり、0.0023mol/kg以上であることが好ましく、0.023mol/kg以上であることがより好ましく、0.046mol/kg以上であることがさらに好ましく、また、通常1.15mol/kg以下であり、0.46mol/kg以下であることが好ましく、0.23mol/kg以下であることがより好ましく、0.11mol/kg以下であることがさらに好ましい。
組成物中のカルシウムイオンの含有率は、通常、原子吸光分析法で測定することができる。
【0029】
アニオン天然ポリマー炭水化物として、カルボキシル基を有する化合物を用いる場合、上述のゲル化剤を構成するアニオン天然ポリマー炭水化物は、2価の陽イオンの存在下でゲル化しやすく、カルボキシル基と陽イオンでジャンクションゾーンを作りゲルを形成する。ゲルにジャンクションゾーンが存在すると、ゲルを含む組成物は、網目構造となる。カルボキシル基とゲル化促進成分である2価の陽イオンを含む化合物とを効率良くゲル化させ、両者が2:1の個数比で存在することが望ましい。これは、アニオン天然ポリマー炭水化物中のカルボキシル基を含むモノマーと陽イオンのモル比が2:1である場合に対応する。したがって、アニオン天然ポリマー炭水化物が有する総カルボキシル基数と、カルシウムイオンの総個数との比は、好ましくは、100:1~2:1、50:1~2:1
、10:1~2:1の範囲である。
【0030】
(その他のゲル化補助成分)
組成物は、カルシウムイオン以外のゲル化補助成分を含有してもよく、例えば、カルシウムイオンと同様にゲル化剤をイオン結合で結合させることができるマグネシウム、銀、亜鉛、銅、金、アルミニウム等の金属イオン、カチオン性高分子のイオン等が挙げられ、これらの供給源(その他のゲル化補助剤)としては、例えば、これらの金属イオンのハロゲン酸塩(塩化物等)、クエン酸、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、カチオン性高分子等が挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0031】
(水)
組成物に含まれる水の種類は、特段制限されない。
組成物中の水の含有率(含水率)は、15重量%以上である。含水率が15重量%未満の場合、ざらつきのある食感となってしまい、また、組成物の製造が困難となる。さらに、組成物の良好な流動性及び付着性の確保、及び組成物の製造容易性の観点から、30重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、また、通常55重量%以下であり、50重量%以下であることが好ましい。該含水率は、添加する水の量を調整したり、製造段階で加熱処理や乾燥処理を設けたりすることによって調整することができる。
【0032】
上記の組成物の水の含有率(含水率)は、加熱乾燥式水分計(例えば、METTER TOLEDO社製:HB 43-S)を用いて測定する。測定に際し、試料を所定容器に投入し到達温度100℃まで加熱する。測定は60秒間で1mg以下の変化量となった時点で終了し、加熱前後の秤量値より含水率を算出する。
なお、本明細書における含水率の測定方法は、組成物以外の対象、例えば、後述する組成物の製造方法における混合物の含水率の測定においても同様に適用する。
【0033】
(ニコチン)
組成物は、ニコチンを含むが、ニコチンを含む態様は特段制限されず、例えば、化合物としてのニコチンを含有させてもよく、ニコチン塩や安定化させたニコチン(例えばイオン交換樹脂に吸着させたニコチン)等のニコチン含有化合物を含有させてもよく、また、ニコチン供給源としてたばこ葉を加えてもよく、たばこ葉等のニコチン含有物質を抽出することにより得られえるニコチン含有抽出液を含有させてもよい。また、ニコチンを含有させる態様も特段制限されず、上記の化合物やニコチン供給源、抽出液を、ゲル粒子に含有させてもよく、ゲル粒子とは別に組成物中に含有させてもよい。これらの態様の中でも、的確なニコチンの供給や、取扱い易さの観点から、ニコチン含有化合物の添加が好ましい。また、通常、たばこ葉を添加した場合、組成物やパウチ製品の色がたばこ葉の色となる傾向がある一方で、無色のニコチン含有化合物を用いた場合、白色の組成物やパウチ製品を提供することが可能となる。白色のパウチ製品を好む使用者にとって、このような態様は利点である。
上記の態様は、1つの態様を単独で適用してもよく、また、2つ以上の態様を併用して適用してもよい。
【0034】
組成物中のニコチンの含有率は、特段制限されないが、ユーザーの嗜好性の観点から、通常0.1重量%以上であり、また、通常6.7重量%以下である。なお、ニコチンがイオンとして存在する場合、上記の含有率は、ニコチンイオンとしての含有率である。
組成物中のニコチンの含有率は、ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)で測定することができる。
【0035】
(その他の物質)
組成物は、上記のアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン、その他のゲル化補助剤、水、ニコチン以外の物質(「その他の物質」とも称する)を含有していてもよく、該その他の物質は、ゲル粒子に含ませてもよく、また、ゲル粒子とは別に組成物に含ませてもよい。その他の物質としては、例えば、基材、香料、pH調整剤、甘味料、保湿剤、苦味抑制剤、白色剤等が挙げられる。
組成物中のその他の物質の含有率は、特段制限されず、製品設計に応じて適宜配合を調整することができる。
【0036】
基材の種類は、特段制限されず、例えば、セルロース、微結晶セルロース、球状セルロース、多孔質セルロース等が挙げられ、組成物のかさ密度調整の自由度の観点から、セルロースが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
組成物中の基材の含有率は、特段制限されないが、製造中又は製品保管中における水分の溶出の抑制という品質向上の観点から、通常24重量%以上であり、27量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、また、特段上限を制限する必要はないが、その他の原料を配合できる限界の観点から、通常65重量%以下であり、55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
【0037】
香料の種類は、特段制限されず、例えば、メンソール、葉たばこ抽出エキス、天然植物性香料(例えば、シナモン、セージ、ハーブ、カモミール、葛草、甘茶、クローブ、ラベンダー、カルダモン、チョウジ、ナツメグ、ベルガモット、ゼラニウム、蜂蜜エッセンス、ローズ油、レモン、オレンジ、ケイ皮、キャラウェー、ジャスミン、ジンジャー、コリアンダー、バニラエキス、スペアミント、ペパーミント、カシア、コーヒー、セロリー、カスカリラ、サンダルウッド、ココア、イランイラン、フェンネル、アニス、リコリス、セントジョンズブレッド、スモモエキス、ピーチエキス等)、糖類(例えば、グルコース、フルクトース、異性化糖、カラメル、蜂蜜、糖蜜等)、ココア類(パウダー、エキス等)、エステル類(例えば、酢酸イソアミル、酢酸リナリル、プロピオン酸イソアミル、酪酸リナリル等)、ケトン類(例えば、メントン、イオノン、ダマセノン、エチルマルトール等)、アルコール類(例えば、ゲラニオール、リナロール、アネトール、オイゲノール等)、アルデヒド類(例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド等)、ラクトン類(例えば、γ-ウンデカラクトン、γ-ノナラクトン等)、動物性香料(例えば、ムスク、アンバーグリス、シベット、カストリウム等)、炭化水素類(例えば、リモネン、ピネン等)が挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0038】
pH調整剤の種類は、特段制限されず、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、無水リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられ、製品の呈味への影響の観点から、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸二水素ナトリウムが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0039】
甘味料の種類は、特段制限されず、例えば、キシリトール、マルチトール、エリスリトール等の糖アルコール、およびアセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム等の甘味料などが挙げられ、味の調節の観点から糖アルコールが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0040】
苦味抑制剤は、特段制限されず、例えば、大豆レシチンが挙げられる。大豆レシチンとはリン脂質であり、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファ
チジン酸などが挙げられる。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0041】
保湿剤の種類は、特段制限されず、例えば、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられ、製品保存性の観点から、グリセリンが好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0042】
白色剤の種類は、特段制限されず、例えば、微粒二酸化ケイ素、二酸化チタン、炭酸カルシウム等が挙げられ、製品への味の影響の観点から、微粒二酸化ケイ素が好ましい。これらの物質は、1種類を単独で用いてもよく、また、2種類以上を任意の種類及び比率で併用してもよい。
【0043】
上記の各成分の含有率(水の含有率を除く)は、原料の仕込み量から算出することもできる。
【0044】
(組成物のpH)
測定温度22℃における組成物のpHは、特段制限されないが、製品の味への影響の観点から、通常6.0以上であり、7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましく、また、通常10.0以下であり、9.0以下であることが好ましい。該pHは、pH調整剤の添加量を制御することで調整することができる。なお、上記のpHの値だけでなく、本明細におけるpHの値は、測定温度22℃で測定した値である。
【0045】
上記の測定温度22℃における組成物のpHは、pH分析計(例えば、堀場製作所製:LAQUA F-72 フラットISFET pH電極)を用い、組成物2gに対して、水20ml投入し10分間振とう、その上清液を測定する。
機器の校正は、例えば、フタル酸pH標準液(pH4.01)、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)、ほう酸塩pH標準液(pH9.18)(いずれも和光純薬工業)を用いた3点校正で行う。
【0046】
(組成物の流動性)
上述したように、本明細書では、組成物の流動性を、測定温度22℃における垂直応力5kPaでの剪断応力で表す。使用者がパウチ製品を口に入れ、口内壁と歯茎との間や、口内壁と舌下との間に入れた場合における、パウチ製品にかかる圧力は通常垂直応力3~7kPaとなるため、5kPaの垂直応力を採用する。該剪断応力は、流動性又は/及び付着性の改善の観点から、通常5.99kPa以下であり、5.93kPa以下であることが好ましく、また、通常5.02kPa以上であり、5.13kPa以上であることが好ましく、5.42kPa以上であることがより好ましい。該剪断応力は、アニオン天然多糖類(ペクチン)およびCaイオンの配合で増加/減少させることができる。
【0047】
上記の垂直応力5kPaでの組成物の剪断応力は、レオメーターを用いて測定することができる。例えば、レオメーターとしてフリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用いた場合、下記の測定条件で測定する。
・測定モード:stantard program (25mm_shear_9kPa)
・測定温度:22℃
・測定湿度:60%RH
・測定容器:内径25mmの円筒容器、容積10ml
・垂直荷重:3~9kPa
測定原料をそれぞれ篩(1.18mm目開き)にかけ、粒子を細かく均一にしたものを測定サンプルとし、上記レオメーターの手順に沿って測定を行う。
【0048】
(組成物の付着性)
上述したように、本明細書では、組成物の付着性を、測定温度22℃における垂直応力0kPaでの剪断応力で表す。垂直応力0kPaは、使用者がパウチ製品を口に入れてから唾液がしみこむ前において、パウチ製品を厚さ方向に潰す際の圧力、つまり、この厚さ方向以外に圧力がかかっていない状態を想定した数値である。該剪断応力は、流動性又は/及び付着性の改善の観点から、通常1.83kPa以下であり、1.78kPa以下であることが好ましく、また、通常0.88kPa以上であり、1.12kPa以上であることが好ましく、1.26kPa以上であることがより好ましい。該剪断率は、アニオン天然多糖類(ペクチン)およびCaイオンの配合で増加/減少させることができる。
【0049】
上記の流動性の測定と同様に、垂直応力3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPaでの組成物の剪断応力を測定し、垂直応力を横軸に、剪断応力を縦軸にプロットしグラフを作成する。剪断応力は垂直応力に対して線型的に変化するため、このグラフのフィッティングを行い、そのフィッティングの結果から垂直応力0kPaにおける剪断応力を算出する。フィッティングの条件を以下に示す。
各垂直応力(3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPa)に対する剪断応力の各値から、計算により1次線形の回帰直線が導かれる。その傾きおよびY切片の値を算出する。算出されたY切片の値を垂直応力0kPaにおける剪断応力とする。
【0050】
(乾燥時の組成物の構成物の粒度)
組成物の構成物(単に「組成物」とも称する)のサイズは、特段制限されないが、例えば、乾燥させた組成物の構成物が下記の分級の条件を充たすものであることが好ましい。
乾燥した組成物は、以下の篩目を有する篩により分級されたものであることが好ましい。ユーザーの使用時の口触りの良さをはじめ、製造時の扱いやすさ、品質のばらつきを制御する観点から、通常15mmの篩目を有する篩を通過するもの(≦15mm)であり、10mmの篩目を有する篩を通過するもの(≦10mm)であることが好ましく、5mmの篩目を有する篩を通過するもの(≦5mm)であることがより好ましく、3.2mmの篩目を有する篩を通過するもの(≦3.2mm)であることがさらに好ましい。例えば、乾燥したゲル粒子の全てがXmmの篩目の篩を通過した場合、ゲル粒子の乾燥時の最大粒度がXmm以下であることを表す。
上記の乾燥した組成物は、組成物を70℃~80℃、3時間程度保持して乾燥することにより得られる。
組成物の最大粒度は、アニオン天然多糖類(ペクチン)およびCaイオンの配合や含有させる水分量により適宜増加/減少させることができる。
流動性又は/及び付着性の改善の観点からは、乾燥時の組成物の粒度の下限を設定する必要はないが、パウチからの漏れを防ぐ観点から、通常0.3μm以上である。
【0051】
[パウチ]
パウチ(包装材)は、上記の組成物を包装することができ、水に溶解しないものであり、かつ、液体(水や唾液等)や組成物中の水溶性成分の透過性があることがあれば、特段制限されず、公知のものを用いることができる。パウチの材料としては、例えば、セルロース系の不織布等が挙げられ、市販の不織布を用いてもよい。このような材料からなるシートを袋形状に成形し、その中に上記の組成物を投入し、ヒートシール等の手段によりシールすることによりパウチ製品を作製することができる。
上記のシートの坪量は、特段制限されず、通常12gsm以上、54gsm以下であり、24gsm以上、30gsm以下であることが好ましい。
上記のシートの厚さは、特段制限されず、通常100μm以上、300μm以下であり、175μm以上、215μm以下であることが好ましい。
【0052】
パウチの内面及び外面の少なくとも一方に部分的に撥水材料が塗布されていてもよい。撥水材料としては撥水性フッ素系樹脂が好適する。具体的には、この種の撥水性フッ素系樹脂としては、旭硝子社製のアサヒガード(登録商標)が挙げられる。撥水性フッ素系樹脂は、例えば、菓子類、乳製品、惣菜、ファストフードやペットフードなどの油脂類を含んだ食品や製品のための包材に塗布されているものである。それ故、この種の撥水性フッ素系樹脂は、口腔内に置かれるパウチに塗布されても安全である。なお、この撥水材料としてはフッ素系樹脂に限ることなく、例えば、パラフィン樹脂、シリコン系樹脂又はエポキシ系樹脂等の撥水作用を有するものであればよい。
【0053】
パウチは、任意の成分を含んでいてよく、例えば、香りや味を調節する原料や、香料、添加物、たばこ抽出液、色素等が挙げられる。また、これらの成分を含有させる態様は特段制限されず、パウチ表面に塗布したり、しみこませたり、繊維からなる場合には該繊維に含有させる態様等が挙げられる。
さらに、パウチの外観も特段制限されず、非透明なものだけでなく、半透明や透明なものであってもよく、この場合には、パウチに包装される組成物が透けてみえる。
【0054】
[パウチ製品]
パウチ製品は、上記の組成物と、該組成物を包装する上記のパウチとを有するもの(上記のパウチに上記の組成物を封入したもの)であれば、特段制限されない。
パウチ製品のサイズや重量は、特段制限されず、使用前のパウチ製品のサイズは、長辺が25mm(28mm、35mm、38mm)以上、40mm以下としてもよく、28mm以上、38mm以下としてもよく、短辺が10mm以上、20mm以下としてもよく、、14mm以上、18mm以下としてもよい。また、使用前のパウチ製品の重量は、0.1g以上、2.0g以下としてもよく、0.3g以上、1.0g以下としてもよい。
パウチ製品の全重量に対する組成物の重量の割合は、特段制限されないが、通常80重量%以上であり、85重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、また、通常99重量%以下であり、97重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることがより好ましい。
【0055】
本明細書における各特性の測定では、測定前に、測定する環境と同様の環境に測定サンプルを48時間以上保持する。また、測定温度、測定湿度、及び測定圧力については、特段特定されていない場合には、常温(22±2℃)、常湿(60±5%RH)、及び常圧(大気圧)とする。
【0056】
<ニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法>
本発明の別の実施形態であるニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法(単に「ニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法」、又は「製造方法」とも称する)は、少なくともアニオン天然ポリマー炭水化物、カルシウムイオン供給剤、及び水を含むゲル粒子を含む組成物を製造する組成物製造工程を有し、
該組成物がニコチンを含み、かつ、
該組成物中の水の含有率が、15重量%以上である、ニコチン供給オーラルパウチ製品の製造方法である。
【0057】
[組成物製造工程]
上記の組成物製造工程は、上記の組成物を製造できれば特段制限されない。該組成物の製造方法の一例を以下に示す。以下で示す各原料は、上述した各原料を用いることができる。
まず、ペクチン等のアニオン天然ポリマー炭水化物、安定化ニコチン化合物等のニコチン供給源、セルロース等の基材、二酸化ケイ素等の白色剤を混合して混合物(カルシウム供給源添加前混合物)を得る(カルシウム供給源添加前混合物作製工程)。その後、乳酸
カルシウム等のカルシウム供給源を含む水溶液、及び無水リン酸ナトリウム等のpH調整剤を含む水溶液を添加(例えば、噴霧による添加)し、これらを混合して混合物(加熱前混合物)を得る(加熱前混合物作製工程)。
カルシウム供給源は、水溶液として供給しても、固体として供給してもよいが、水溶液等の液体として供給した場合には、カルシウムをカルシウムイオンの状態で他の原料と混合することができ、固体で供給するよりもアニオン天然ポリマー炭水化物との接触効率が高くなる観点から、水溶液として供給することが好ましい。また、カルシウム供給源は、上述のように、アニオン天然ポリマー炭水化物を含む混合物を作製した後に添加しても、最初にアニオン天然ポリマー炭水化物とともに混合してもよいが、微細で均一なゲル粒子を生成させる観点から、アニオン天然ポリマー炭水化物を含む混合物を作製した後に添加する態様が好ましい。一方で、水溶液にした際に粘度が上昇するので取り扱いの観点から、ペクチン等のアニオン天然ポリマー炭水化物を水溶液として用いることは好ましくない。
カルシウム供給源添加前混合物作製工程後の各水溶液の添加において、所望の水分量を得るため、各水溶液とともに水を添加してもよい。
また、アニオン天然ポリマー炭水化物を事前に十分に溶解させる観点から、以下の加熱工程(ゲル粒子の形成工程)前に混合物に十分な量の水を取り込ませることが好ましく、例えば、上記の加熱前混合物作製工程完了後の時点で、混合物の含水率が10重量%以上、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、40重量%以下であることがより好ましい。
加熱前混合物は、pH調整がされていることが好ましく、例えば、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤により、加熱前混合物が酸性になるように添加量を調整することが好ましい。具体的には、加熱前混合物のpHを、3.0以上、6.0以下であることが好ましく、4.0以上、6.0以下であることがより好ましい。
本工程において、pHを6.0以下に調整することにより、加熱前混合物中に含まれるニコチンを安定な状態で保持しつつ加熱の行程に進めることができる。
【0058】
上記の加熱前混合物を加熱し、アニオン天然ポリマー炭水化物を水和させ、アニオン天然ポリマー炭水化物とカルシウムイオンとの接触を促進することにより、ゲル粒子を作製し、ゲル粒子を含む混合物(ゲル粒子含有混合物)を得る(加熱工程)。
加熱工程における加熱の方法は、特段制限されず、例えば、上記混合物を保持するミキサーのジャケット温度を上げる方法(ジャケット加熱)、および上記混合物の内部へ蒸気を注入する方法の一方または両方が挙げられる。加熱時の混合物の温度は、特段制限されないが、アニオン天然ポリマー炭水化物を効率よく水和させる観点から、60℃以上、90℃以下であることが好ましく、70℃以上、80℃以下であることがより好ましい。また、加熱時間は、特段制限されないが、アニオン天然ポリマー炭水化物とCaイオンを効率よく反応させる観点、および組成物中の水分を適宜調節する観点から、1時間以上、3時間以下であることが好ましく、1時間以上、2時間以下であることがより好ましい。
【0059】
上記の加熱工程の後、上記の混合物を乾燥する処理を行ってもよい(乾燥工程)。その後、冷却する処理を行ってもよい。冷却は自然冷却でもよいし、何らかの冷却手段を用いて行ってもよい(冷却工程)。乾燥を行うことで、例えば上記の混合物の含水量を5~45重量%に調整することができる。これにより、目的物としての組成物における含水量の調整が容易になる。
【0060】
上記の加熱工程(又は乾燥工程、冷却工程)で得られたゲル粒子含有混合物に、さらに、炭酸カリウム等のpH調整剤を含む水溶液を添加する。
炭酸カリウム等のpH調整剤により、加熱後混合物がアルカリ性になるように添加量を調整することが好ましく、具体的には、加熱前混合物のpHを、6.0以上、10.0以下であることが好ましく、8.0以上、9.0以下であることがより好ましい。
アセスルファムカリウム等の甘味料、メンソール等の香料、大豆レシチン等の苦味抑制剤、グリセリン等の保湿剤を添加し(ゲル粒子含有混合物への添加剤添加工程)、所望の組成物を得る。
なお上記の添加物等を添加する際には、固体でもよいし水に溶解した水溶液での添加でもよい。水溶液で添加する場合は、パウチ製品の最終水分含量になるように予め所定量の水に溶解して添加してもよい。
【0061】
[包装工程]
上記の組成物作製工程で得られた組成物を包装剤で包装しパウチ製品を得る(包装工程)。包装する方法は特段制限されず、公知の方法を適用することができ、例えば、袋形状の不織布に上記の組成物を投入した後シールする方法等、公知の方法を用いることができる。
包装工程において、包装剤に組成物を投入した後、包装剤をシールした後において、所望の水分含有率を有する組成物を得るため、さらに水を加えてもよい(水添加工程)。例えば、目的の組成物の水の含有率が50重量%であり、上記の組成物作製工程で得られた組成物の水の含有率が15重量%である場合、残りの35重量%分の水を添加する。
【0062】
<パウチ製品の用途>
パウチ製品の用途(使用態様)は、特段制限されないが、例えば、かみたばこやかぎたばこ、圧縮たばこ等の口腔用たばこ、またはニコチンパウチといわれる、ニコチン含有刺激製剤等が挙げられる。これらは、口腔内で唇と歯茎の間に挿入し、味や香りを愉しむものである。
【実施例0063】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0064】
<実験1>
[組成物の作製]
(実施例1)
ペクチン 75.0g(H&F社製のClassic CU902)、ニコチンポラクリレックス 680.0g(Contraf nicotex社製のNicotine Polacrilex 20%)、セルロース 2175g(J.RETTENMAIER & SOHNE社製の VITACEL L600-30)、二酸化ケイ素(シリカ) 75.0g(富士シリシア株式会社製のSYLOPAGE 720)を混合した後、該混合物に乳酸カルシウム水溶液 35.3g(太平化学産業株式会社製の乳酸カルシウム(顆粒))、及び無水リン酸ナトリウム水溶液 302.1g(Univar B.V. 社製の Monosodium phosphate anhydrous, FG (MSP A FG))、を添加し、これらを均一になるまで混合してpH6.2の混合物A(含水率23.5重量%)を得た。
得られた混合物Aを、ジャケット加熱(缶壁温度100℃)を原料の品温が70℃~80℃となるように1時間行った(加熱後の含水量は6.2重量%、pHは6.0(上記で説明したたばこ充填物の場合と同じ測定法により測定))。その後、周囲温度が20℃となる条件下で1時間冷却し、混合物B(冷却後のpHは6.2)を得た。
冷却して得られた混合物Bに、炭酸カリウム水溶液 256.1g(Univar B.V. 製の
POTASSIUM CARBONATE)を添加し、混合物Cを得た。
最後に、含水率を調整するために、水 0gを混合物Cに添加し(つまり、水の追加添加なし)、実施例1の組成物1(含水率15.10重量%、pH7.8) 200gを得た。
【0065】
(実施例2)
上記の組成物1において、混合物Cへの水の添加量を0gから1.71gに変更したこ
と以外は組成物1と同様の方法で、実施例2の組成物2(含水率18.47重量%)を100g作製した。
【0066】
(実施例3)
上記の組成物1において、混合物Cへの水の添加量を0gから42.57gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、実施例3の組成物3(含水率32.06重量%)を200g作製した。
【0067】
(実施例4)
上記の組成物1において、混合物Cへの水の添加量を0gから108.73gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、実施例4の組成物4(含水率46.98重量%)を200g作製した。
【0068】
(実施例5)
上記の組成物1において、混合物Cへの水の添加量を0gから66.80gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、実施例5の組成物5(含水率52.49重量%)を100g作製した。
【0069】
(比較例1)
上記の組成物1において、ペクチン及び乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと、及び混合物Cへの水の添加量を0gから3.46gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例1の組成物6(含水率18.18重量%、pH7.8)を100g作製した。
【0070】
(比較例2)
上記の組成物1において、ペクチン及び乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと、及び混合物Cへの水の添加量を0gから43.00gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例2の組成物7(含水率31.46重量%)を200g作製した。
【0071】
(比較例3)
上記の組成物1において、ペクチン及び乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと、及び混合物Cへの水の添加量を0gから109.27gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例3の組成物8(含水率46.60重量%)を200g作製した。
【0072】
[特性評価]
(含水率)
各組成物の水の含有率(含水率)は、加熱乾燥式水分計(例えば、METTER TOLEDO社製:HB 43-S)を用いて測定した。
・測定モード:FAST
・到達温度(安定時):100℃
・測定終了条件:AUTO60(60秒で1mg以下の変化量)
・結果表示:Moisture%
【0073】
(pH)
測定温度22℃における組成物のpHは、pH分析計(例えば、堀場製作所製:LAQUA F-72 フラットISFET pH電極)を用いて測定した。
機器の校正は、例えば、フタル酸pH標準液(pH4.01)、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)、ほう酸塩pH標準液(pH9.18)(いずれも和光純薬工業)を用いた3点校正で行った。
【0074】
(流動性)
垂直応力5kPaでの組成物の剪断応力は、レオメーターとしてフリーマンテクノロジー社製のパウダーレオメーターFT4を用い、下記の測定条件で測定した。
・測定モード:stantard program (25mm_shear_9kPa)
・測定温度:22℃
・測定湿度:60%RH
・測定容器:内径25mmの円筒容器、容積10ml
・垂直荷重:3~9kPa
測定原料をそれぞれ篩(1.18mm目開き)にかけ、粒子を細かく均一にしたものを測定サンプルとし、上記レオメーターの手順に沿って測定を行った。
【0075】
(付着性)
上記の流動性の測定と同様に、垂直応力3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPaでの組成物の剪断応力を測定し、垂直応力を横軸に、剪断応力を縦軸にプロットしグラフを作成した。剪断応力は垂直応力に対して線型的に変化するため、このグラフのフィッティングを行い、そのフィッティングの結果から垂直応力0kPaにおける剪断応力を算出した。フィッティングの条件を以下に示す。
各垂直応力(3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPa)に対する剪断応力の各値から、計算により1次線形の回帰直線が導かれる。その傾きおよびY切片の値を算出する。算出されたY切片の値を垂直応力0kPaにおける剪断応力とする。
【0076】
上記の各組成物の原料の使用比率、及び各特性の評価結果を下記の表1にまとめる。なお、表1に記載の原料は、含有される全ての原料を示してはおらず、含有される原料の一部を示している。また、表に記載の原料の数値は、組成物中の各成分の含有率ではなく、仕込み量である。また、表1中の組成物中の最大粒度における「≦X」の表記は、乾燥時の組成物の最大粒度がX以下であることを意味する。
また、表1中の「-」の表記は、無添加であることを示す。
また、上記の付着性に記載の垂直応力3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPaでの組成物の剪断応力の測定結果を表2に示し、かつ、実施例2と比較例1(含水率約18重量%)、実施例3と比較例2(含水率約30重量%)、実施例4と比較例3(含水率約45重量%)のそれぞれ測定結果をプロットしたグラフを図1~3に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】
【0079】
上記の表1より、上記の実施形態の要件を充たす実施例1~5の組成物は、該要件を充たしていない比較例1~3の組成物よりも、5kPaの垂直応力時の剪断応力、及び0kPaの垂直応力時の剪断応力が低い、つまり、流動性及び付着性が向上していることが分かる。具体的には、ペクチンと乳酸カルシウム水溶液を併用することにより、流動性及び付着性が改善することが分かった。
【0080】
<実験2>
[組成物の作製]
(実施例1~5)
実施例の組成物としては、上記の実施例1~5における組成物1~5を用いた。
【0081】
(比較例4)
上記の組成物1において、乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例4の組成物9(含水率16.12重量%、pH7.8)を200g作製した。
【0082】
(比較例5)
上記の組成物1において、乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと、及び混合物Cへの水の添加量を0gから105.33gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例5の組成物10(含水率47.06重量%)を200g作製した。
【0083】
(比較例6)
上記の組成物1において、乳酸カルシウム水溶液を添加しなかったこと、及び混合物Cへの水の添加量を0gから86.09gに変更したこと以外は組成物1と同様の方法で、比較例6の組成物11(含水率55.97重量%)を100g作製した。
【0084】
[特性評価]
上記の各組成物に対して、上記の実験1と同様の特性評価を行った。この特性の評価結
果を下記表3に示す。なお、表3に記載の原料は、含有される全ての原料を示してはおらず、含有される原料の一部を示している。また、表に記載の原料の数値は、組成物中の各成分の含有率ではなく、仕込み量である。また、表3中の組成物中の最大粒度における「≦X」の表記は、乾燥時の組成物の最大粒度がX以下であることを意味する。
また、上記の付着性に記載の垂直応力3kPa、4kPa、5kPa、6kPa、7kPaでの組成物の剪断応力の測定結果を表4に示し、かつ、実施例1と比較例4(含水率約15重量%)、実施例4と比較例5(含水率約45重量%)、実施例5と比較例6(含水率約50重量%)のそれぞれ測定結果をプロットしたグラフを図4~6に示す。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】
【0087】
上記の表3より、上記の実施形態の要件を充たす実施例1~5の組成物は、該要件を充たしていない比較例4~6の組成物よりも、5kPaの垂直応力時の剪断応力、及び0kPaの垂直応力時の剪断応力が低い、つまり、流動性及び付着性が向上していることが分かる。具体的には、乳酸カルシウム水溶液を使用することにより、流動性及び付着性が改善することが分かった。
さらに、上記の実験1における表1も考慮すると、組成物の含水率が約45%である実施例4、比較例2、比較例5を比較から、この順番で5kPaの垂直応力時の剪断応力、及び0kPaの垂直応力時の剪断応力が高くなっていることが分かる。つまり、ペクチンの添加により流動性及び付着性が改善し、さらに、乳酸カルシウム水溶液の添加により流動性及び付着性がさらに改善することが分かった。
【0088】
<実験3>
[組成物の作製]
(比較例4~6)
本実験では、上記の比較例4~6を用いた。
【0089】
(比較例7)
ペクチン 7.7g(H&F社製のClassic CU902)、ニコチンポラクリレックス 2.2g(Contraf nicotex社製のNicotine Polacrilex 20%)、微結晶セルロース 32.8g(Brenntag Nordic社製のHICEL 90M MCC)、炭酸ナトリウム 6.3g(UNIVAR社製のSODIUM CARBONATE ANHYDROUS)、マルチトール 41.2g(CALDIC NORDIC社製のC*Maltidex CH 16385)を均一になるまで混合して比較例7の組成物12(pH8.6、含水率7.0重量%)100gを得た。
本比較例7は、上記の製造方法から分かるように、水溶液や水の添加、加熱処理を行っていない。上記の含水率で示される水は、上記各原料中に元々含まれている水に由来する。
【0090】
[特性評価]
(官能性評価)
上記の比較例4~7の各組成物を用いて官能評価を行った。官能評価は、以下の方法により行った。パウチ製品の官能評価の専門パネラー5名により、前記組成物を用いて作成したパウチを各々口に含んで、口触り、風味、満足度等の各種指標で良好なもの~好ましくないものの段階評価を行った。
【0091】
上記の官能性評価の結果、水の添加(水溶液としての水の添加も含む)を行った比較例4、5、6と比較し、水の添加を行わなかった比較例7では、口に含んだ際の口腔内において、異物感があり、口が乾く感じがあり、また、唾液がなじみにくい、といった傾向がみられた。
【0092】
<パウチ製品の作製>
上記の各組成物を、例えば、0.65g/個となるように不織布(BFF technical fabrics社製、坪量27.0g/m)に投入した後、ヒートシールでシールして密封することによりパウチ製品を作製することができる。
【0093】
以上に示す通り、本発明によれば、流動性が改善された、又は、付着性が改善されたニコチン供給オーラルパウチ製品、及びその製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6