(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113974
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ニッケル亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20230809BHJP
H01M 4/32 20060101ALI20230809BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20230809BHJP
H01M 10/30 20060101ALI20230809BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20230809BHJP
【FI】
H01M4/62 C
H01M4/32
H01M4/52
H01M10/30 Z
H01M2/16 M
H01M2/16 P
H01M2/16 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020081350
(22)【出願日】2020-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(72)【発明者】
【氏名】牧 采佳
(72)【発明者】
【氏名】八木 毅
(72)【発明者】
【氏名】谷本 稔
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H050
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE21
5H028AA06
5H028CC11
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA11
5H050CA04
5H050CB13
5H050DA09
5H050EA12
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】正極のH
2ガス吸収反応を促進し、正負極容量ズレを生じにくくするすることが可能な、ニッケル亜鉛二次電池を提供する。
【解決手段】水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極と、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極と、正極と負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、電解液とを備えた、ニッケル亜鉛二次電池であって、正極が、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、ニッケル亜鉛二次電池。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極と、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極と、前記正極と前記負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、電解液とを備えた、ニッケル亜鉛二次電池であって、
前記正極が、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、ニッケル亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記添加剤が、銀化合物である、請求項1に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記銀化合物が、Ag2O、AgNiO2、及びAgxCoyNizO2(式中、x+y+z=2)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記添加剤が、マンガン化合物である、請求項1に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記マンガン化合物が、MnO2である、請求項4に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記添加剤が、チタン化合物である、請求項1に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記チタン化合物が、TiO2、Ti(OH)4、及びTiO(OH)2からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項8】
前記正極が、コバルトをさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項9】
前記セパレータが層状複水酸化物(LDH)セパレータである、請求項1~8のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【請求項10】
前記LDHセパレータが多孔質基材と複合化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のニッケル亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル亜鉛二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。特許文献4(国際公開第2019/077953号)には、正極板、負極板、LDHセパレータ及び電解液を含む電池要素を備え、かつ、正極集電タブと負極集電タブを介して互いに反対の側から集電可能とされている、亜鉛二次電池が開示されており、2以上の電池要素をケースに収容した積層電池の形態が好ましいことも記載されている。
【0004】
ところで、酸化銀電池やアルカリマンガン電池において、亜鉛負極から発生する水素ガスを抑制又は吸収する技術が知られている。例えば、特許文献5(特開2002-93427号公報)には、酸化銀又は二酸化マンガンである正極活物質に銀ニッケライト(AgNiO2)を添加することで、亜鉛から発生する水素ガス(H2)を吸収して内圧の上昇や電池の膨らみを抑制できることが記載されている。特許文献6(特開平11-162474号公報)には、アルカリマンガン乾電池内に、銀ニッケライト(AgNiO2)で作製された水素ガス吸収ペレットを配置することで、電池内の圧力の過度な増大及び電池からの漏液や破裂を防止することが開示されている。特許文献7(特開昭57-849号公報)には、アルカリ溶液中でNiOOHとAg2Oを反応させることでAgNiO2が生成すること、また、この物質が陽極(正極)活物質として有用であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/067884号
【特許文献4】国際公開第2019/077953号
【特許文献5】特開2002-93427号公報
【特許文献6】特開平11-162474号公報
【特許文献7】特開昭57-849号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、ニッケル亜鉛二次電池は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる点で、可燃性の有機溶媒を含む非水系電解液を用いる電池と比べて、安全性が格段に高いものである。しかし、ニッケル亜鉛二次電池のような亜鉛負極を備える電池では、保存時にガス発生を伴う自己放電反応が以下の反応式;
・負極: Zn+H2O→ZnO+H2↑
に従って起こる。この反応により電池ケース内にはH2ガスが充満しうることになる。この場合、電池ケースを密閉した場合にはケース破損による漏液の懸念が生じ、放圧弁を備えた場合には電池周囲に水素着火の懸念が生じる。この問題を解消するため、特に一次電池において、水素吸収作用のある銀化合物を電池内にペレット状等にして配置し、発生した水素を吸収する手法が提案されている(例えば特許文献6(特開平11-162474号公報)参照)。このとき、銀化合物は水素を吸収することにより自身が還元され金属Agとなる。例としてAg2O及びAgNiO2の各反応式を以下に示す。
・Ag2O+H2 →2Ag+H2O
・AgNiO2+2H2→Ag+Ni+2H2O
【0007】
とりわけ、ニッケル亜鉛二次電池が抱える課題として、ガス発生を伴う自己放電反応現象が起きる点と、それを相殺可能な正負極によるガス吸収反応が進行しづらいという点がある。反応式を以下に示す。
(自己放電反応)
・正極: NiOOH+1/2H2O→Ni(OH)2+1/4O2↑ …(1)
・負極: Zn+H2O→ZnO+H2↑ …(2)
(ガス吸収反応)
・正極: NiOOH+1/2H2→Ni(OH)2 …(3)
・負極: Zn+1/2O2→ZnO …(4)
【0008】
仮にガス吸収反応が自己放電反応と同時に進行すれば、正負極でそれぞれ自己放電反応が起こっても正負極間の容量に差異は生じない。これは、自己放電反応により正負極から発生したO2及びH2が互いにもう一方の電極を酸化又は還元するためである。しかし、一般的に、ニッケル正極の自己放電反応(1)より亜鉛負極の自己放電反応(2)の方が速く、かつ、ニッケル正極のH2吸収反応(3)は亜鉛負極のH2発生反応(2)より遅い。このため、電池内には余剰なH2が充満し、一定圧力以上になると放圧弁の作用によりケース外部に放出される。その結果、負極容量は正極容量よりも小さくなる。また、特許文献1~4に開示されるようなニッケル亜鉛二次電池で適用されている緻密なLDHセパレータは水酸化物イオン(OH-)しか通さず、ガスを透過しない。このことも、正極のH2吸収反応を遅らせる一因となっている。
【0009】
一次電池では、上記の正負極容量ズレは大きな問題とはならない。放電容量は容量の小さな電極に規制されるため容量減少の懸念は生じるが、負極の容量減少を見越して設計段階から充電物質である金属亜鉛を十分量搭載しておく等の対策が可能なためである。よって、H2ガスを水素吸収剤によって吸収できればケース破損を防ぐことができ、漏液による電池寿命を延長することができる。しかし、二次電池では、正負極容量ズレが起きた後に再び充放電と保存を繰り返すため、正極に未放電分が蓄積し、充電可能な容量が徐々に減っていくこととなる。よって、H2ガスを水素吸収剤により吸収するだけでは電池寿命を延ばすことができない。よって、二次電池では正負極容量ズレを防ぐことが重要となる。なお、この現象は、同様にニッケル正極を使用しているニッケル水素(Ni-MH)電池では生じない。これは、負極である水素吸蔵合金の自己放電反応はH2ガスを発生するものの、平衡反応として水素を吸収するためである。
【0010】
本発明者らは、今般、ニッケル亜鉛二次電池の正極に、銀化合物、マンガン化合物、チタン化合物、又はそれらの組合せを添加することにより、正極のH2ガス吸収反応(上記(3))を促進し、正負極容量ズレを生じにくくするすることができるとの知見を得た。
【0011】
したがって、本発明の目的は、正極のH2ガス吸収反応を促進し、正負極容量ズレを生じにくくするすることが可能な、ニッケル亜鉛二次電池を提供することにある。
【0012】
本発明の一態様によれば、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極と、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む負極と、前記正極と前記負極とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータと、電解液とを備えた、ニッケル亜鉛二次電池であって、
前記正極が、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、ニッケル亜鉛二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明によるニッケル亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
【
図2】
図1に示されるニッケル亜鉛電池のA-A’線断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び2に本発明によるニッケル亜鉛二次電池の一態様を示す。
図1及び2に示されるニッケル亜鉛二次電池10は、電池要素11を密閉容器20中に備えたものであり、電池要素11は、正極12と、負極14と、セパレータ16と、電解液18とを備える。正極12は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む。負極14は、亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む。セパレータ16は、正極12と負極14とを水酸化物イオン伝導可能に隔離する。そして、正極12は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む。このように、ニッケル亜鉛二次電池10の正極12に、銀化合物、マンガン化合物、チタン化合物、又はそれらの組合せを添加することにより、正極12のH
2ガス吸収反応(上記(3))を促進し、正負極容量ズレを生じにくくするすることができる。
【0015】
上記効果は以下のようにして発現されるものと考えられる。例えば、銀化合物の場合、正極12に添加された銀化合物の作用により、以下の反応:
・銀化合物: H2→2H++2e-
・正極: NiOOH+1/2H2→Ni(OH)2
が起きる。正極活物質と銀化合物を十分に混合することにより、銀化合物自体が還元する(従来技術)のではなく、銀化合物が分解したH+により周囲のNiOOHを還元させることができる。この効果により、負極14で発生したH2を正極12で効率よく消費することができ、保存中の自己放電による正負極容量ズレを防止することができる。また、マンガン化合物、チタン化合物、又はそれらの組合せを添加することによっても、上記作用ないしその向上が期待できる。さらに、副次的な効果として、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物はいずれも正極12の充電抵抗を小さくし、充電時の正極12における酸素発生を抑える効果がある。正極充電時には、20~30%充電した段階で正極充電反応と競合して下記の酸素発生反応:
・正極充電反応: Ni(OH)2+OH-→NiOOH+H2O+e-
・酸素発生反応: OH-→1/4O2↑+1/2H2O+e-
が同時に起こる。高温環境の場合は酸素過電圧が小さくなるため、この傾向は顕著となる。発生した酸素は負極14を酸化するため(背景技術で前述した(4)の反応式)、酸素発生を抑えることにより負極充電容量の損失を抑えることができる。
【0016】
正極12は水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを正極活物質として含む。典型的には、正極12は正極集電体(図示せず)をさらに含んでおり、正極集電体は正極12の上端から延出する正極集電タブ13を有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、
図2に示される正極12は正極集電体(例えば発泡ニッケル)を含むものであるが図示されていない。これは、正極集電体が正極活物質と渾然一体化しているため、正極集電体を個別に描出できないためである。ニッケル亜鉛二次電池10は、正極集電タブ13の先端に接続する正極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の正極集電タブ13が1つの正極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、正極端子26への接続もしやすくなる。また、正極集電板自体を正極端子26として用いてもよい。
【0017】
正極12ないし正極活物質に含まれる添加剤は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である。したがって、銀化合物、マンガン化合物、又はチタン化合物を単独で用いてもよいし、これらの化合物の2種又は3種を組み合わせて用いてもよい。添加剤はその量が多ければ多いほど、正極12のH2ガス吸収反応の促進効果が高くなる一方、高コストとなる。したがって、ニッケル亜鉛二次電池10の仕様に応じて、添加量を適宜決定するのが好ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、添加剤は銀化合物である。銀化合物は、特に限定されないが、Ag2O、AgNiO2、及びAgxCoyNizO2(式中、x+y+z=2)からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。より好ましくはAg2O又はAgNiO2、特に好ましくはAgNiO2である。また、AgxCoyNizO2(式中、x+y+z=2)も用いることができ、好ましくはx、y及びzはx+y+z=2のみならずx≦1.10、y>0(典型的にはx>0、z>0)を満たす実数である。
【0019】
本発明の別の好ましい態様によれば、添加剤はマンガン化合物である。マンガン化合物は、特に限定されないが、MnO2であるのが好ましい。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい態様によれば、添加剤がチタン化合物である。チタン化合物は、特に限定されないが、TiO2、Ti(OH)4、及びTiO(OH)2からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくはアナターゼ型TiO2である。
【0021】
正極12は、コバルトをさらに含んでいてもよい。コバルトは、オキシ水酸化コバルトの形態で正極12に含まれるのが好ましい。正極12において、コバルトは導電助剤として機能することで、充放電容量の向上に寄与する。
【0022】
負極14は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を負極活物質として含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液18と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0023】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0024】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0025】
好ましくは、負極14は負極集電体15をさらに含み、負極集電体15は負極14の上端から延出する負極集電タブ15aを有する。負極集電タブ15aは、正極集電タブ13と重ならない位置に設けられるのが好ましい。ニッケル亜鉛二次電池10は、負極集電タブ15aの先端に接続する負極集電板をさらに備えるのが好ましく、より好ましくは複数枚の負極集電タブ15aが1つの負極集電板に接続される。こうすることで簡素な構成でスペース効率良く集電を行えるとともに、負極端子28への接続もしやすくなる。また、負極集電板自体を負極端子28として用いてもよい。
【0026】
負極集電体15の好ましい例としては、銅箔、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタルが挙げられるが、より好ましくは銅エキスパンドメタルである。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。
【0027】
図2に示されるように、ニッケル亜鉛二次電池10は、負極14とセパレータ16の間に介在し、かつ、負極14の全体を覆う又は包み込む保液部材17をさらに備えるのが好ましい。こうすることで、負極14とセパレータ16の間に電解液18を万遍なく存在させることができ、負極14とセパレータ16との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材17は電解液18を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材17の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材17は0.01~0.20mmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは0.02~0.20mmであり、さらに好ましくは0.02~0.15mmであり、特に好ましくは0.02~0.10mmであり、最も好ましくは0.02~0.06mmである。上記範囲内の厚さであると、負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材17内に十分な量の電解液18を保持させることができる。また、
図2に示されるように、正極12の全体も保液部材17で覆う又は包み込むのも好ましく、上記同様の効果が期待できる。
【0028】
負極14の全体がセパレータ16(例えばLDHセパレータ)で覆う又は包み込まれているのが好ましい。こうすることで、セパレータ16と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能なニッケル亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。
【0029】
セパレータ16は、正極12と負極14とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するセパレータである。セパレータ16は層状複水酸化物(LDH)セパレータであるのが好ましい。また、LDHセパレータは多孔質基材と複合化されているのが好ましい。好ましいLDHセパレータは、多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐLDH及び/又はLDH様化合物とを含む。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないがLDHに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。LDHセパレータは、水酸化物イオン伝導性及びガス不透過性を呈するように(それ故水酸化物イオン伝導性を呈するLDHセパレータとして機能するように)LDH及び/又はLDH様化合物が多孔質基材の孔を塞いでいる。多孔質基材は高分子材料製であるのが好ましく、LDHは高分子材料製多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。例えば、特許文献1~4に開示されるような公知のLDHセパレータが使用可能である。
【0030】
電解液18はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。
図2において電解液18は局所的にしか図示されていないが、これは正極12及び負極14の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0031】
電池要素11は、
図2に示されるように、複数枚の正極12と、複数枚の負極14、複数枚のセパレータ16を備え、正極12/セパレータ16/負極14の単位が繰り返されるように積層された正負極積層体の形態とされるのが好ましい。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。
【0032】
密閉容器20は樹脂製であるのが好ましい。密閉容器20を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。密閉容器20は上蓋20aを有する。密閉容器20(例えば上蓋20a)はガスを放出するための放圧弁を有していてもよい。また、2以上の密閉容器20が配列されたケース群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【実施例0033】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0034】
例1
正極、負極、セパレータ、及び電解液を備えたニッケル亜鉛二次電池を以下のように作製することができる。
【0035】
(1)正極の作製
(1a)Coコーティングされた球状水酸化ニッケル粒子の作製
pH10程度に調整したNaOH又はKOH水溶液に、球状水酸化ニッケル粉末を100g投入する。この水溶液を攪拌しながら2mol/Lの硫酸コバルト水溶液を滴下するとともに、pHを10程度に保つために濃度0.1mol/LのNaOHの水溶液も滴下する。水溶液を30分攪拌した後、濾過、洗浄、及び真空乾燥を行い、水酸化コバルトに被覆された球状水酸化ニッケル粒子を得る。
【0036】
(1b)Coコーティング層の化学的酸化
上記(1a)で得た粒子を、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、及び過硫酸アンモニウムから選択される酸化剤を含んだ塩基性溶液中で酸化させ、水酸化コバルトをオキシ水酸化コバルトに化学的に変化させる。この酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムが特に好ましい。
【0037】
(1c)活物質スラリー作成
上記(1b)で得られたコバルトコーティング層を有する水酸化ニッケル粒子と、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘剤を溶解した水溶液と、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物から選択される少なくとも1種の添加剤を混合して活物質スラリーを調製する。活物質脱落防止のためポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を活物質スラリーに加えてもよい。
【0038】
(1d)活物質充填
気孔率90%以上のニッケル多孔体基板に対し上記(1c)で得られた活物質スラリーを充填する。その後、活物質が変性しない範囲の温度(160℃以下)で乾燥させる。
【0039】
(1e)プレス
上記(1d)で得られた正極板をプレスする。
【0040】
(2)電池の作製
上記(1)で作製した正極板と、以下に示される負極板、セパレータ、密閉容器、及び電解液とを用意する。
・亜鉛負極板:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含むペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの
・LDHセパレータ:ポリエチレン微多孔膜の孔内及び表面にNi-Al-Ti-LDH(層状複水酸化物)を水熱合成により析出させてロールプレスしたもの
・密閉容器:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の筐体(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)
・電解液:0.4mol/LのZnOを溶解させた5.4mol/LのKOH水溶液
【0041】
正極構造体12枚及び負極構造体12枚を、正負極間をLDHセパレータで隔離しながら交互に積層して密閉容器内に収容する。この密閉容器内に電解液を注入して、ニッケル亜鉛二次電池を作製する。
【0042】
こうして作製されるニッケル亜鉛二次電池は、正極に、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物の少なくとも1種が添加されていることで、正極のH2ガス吸収反応が促進され、正負極容量ズレを生じにくいものとなる。