(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114011
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】インピーダンス整合装置及びアンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/50 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
H01Q1/50
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016048
(22)【出願日】2022-02-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】000109668
【氏名又は名称】DXアンテナ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴陽
【テーマコード(参考)】
5J046
【Fターム(参考)】
5J046AA03
5J046AB01
5J046TA03
5J046TA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数のアンテナが接続可能であって、広帯域で性能が良好なインピーダンス整合装置を提供する。
【解決手段】インピーダンス整合装置1は、複数のアンテナANT1A、ANT1Bそれぞれに接続可能な複数の第1接続端E1A、E1Bと、信号伝送線に接続可能な第2接続端E2と、複数の第1接続端E1A、E1Bそれぞれと共通接続点CC1との間に設けられる複数の第1伝送線路L1A、L1Bと、共通接続点CC1と第2接続端E2との間に設けられる第2伝送線路L2と、を備える。複数の第1伝送線路L1A、L1Bの線路長と、第2伝送線路L2の線路長とは等しい。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナそれぞれに接続可能な複数の第1接続端と、
信号伝送線に接続可能な第2接続端と、
前記複数の第1接続端それぞれと共通接続点との間に設けられる複数の第1伝送線路と、
前記共通接続点と前記第2接続端との間に設けられる第2伝送線路と、
を備え、
前記複数の第1伝送線路の線路長と、前記第2伝送線路の線路長とが等しい、インピーダンス整合装置。
【請求項2】
前記複数のアンテナそれぞれ及び前記信号伝送線の基準インピーダンスがZoであり、前記複数のアンテナの数量がNである場合に、前記複数の第1伝送線路それぞれのインピーダンスZnと前記第2伝送線路のインピーダンスZpが下記の式を満たす、請求項1に記載のインピーダンス整合装置。
Zn=Zo*4√N
Zp=Zn/√N
【請求項3】
前記第1伝送線路と、前記第2伝送線路とが同一種類の部材である、請求項1又は請求項2に記載のインピーダンス整合装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のインピーダンス整合装置と、
前記複数のアンテナと、
を備える、アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアンテナが接続可能なインピーダンス整合装置及び当該インピーダンス整合装置を備えるアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のアンテナを備えるアンテナ装置が種々開発されている(例えば特許文献1参照)。複数のアンテナを備えるアンテナ装置は、電波を送信する送信アンテナ装置である場合には分配装置として機能するインピーダンス整合装置を備える。また、複数のアンテナを備えるアンテナ装置は、電波を受信する受信アンテナ装置である場合には合成装置として機能するインピーダンス整合装置を備える。また、複数のアンテナを備えるアンテナ装置は、電波を送受信する送受信アンテナ装置である場合には分配合成装置として機能するインピーダンス整合装置を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のアンテナを備えるアンテナ装置では、たとえアンテナ自体の性能が同じであっても、インピーダンス整合装置の構成が異なれば、アンテナ装置全体の性能が大きく変わる。
【0005】
図1は、後述する
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置の一部であり、その信号伝送装置の概略構成を模式的に示す図である。
図2は、
図1に示す信号伝送装置のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0006】
図1に示す信号伝送装置は、アンテナに接続可能な第1端E11と、第2端P1と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第1伝送線路L11と、を備える。第1伝送線路L11は、第1端E11と、第2端P1との間に設けられる。例えば放送受信用アンテナのインピーダンスは一般的に75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。伝送線路の長さが波長の四分の一でその特性インピーダンスがZ(Ω)の場合にその両端のインピーダンスをZ1及びZ2とするとZ
2=Z1×Z2の関係があるので第1伝送線路L11のインピーダンスは106Ωである。
【0007】
図3は、第一の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図である。
図4は、
図3に示すインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0008】
図3に示すインピーダンス整合装置は、2つのアンテナそれぞれに接続可能な2つの第1端E11A及びE11Bと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E12と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの2つの第1伝送線路L11A及びL11Bと、を備える。第1伝送線路L11Aは、第1端E11Aと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Bは、第1端E11Bと、第2端E12との間に設けられる。2つのアンテナそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。2つの第1伝送線路L11A及びL11Bそれぞれの特性インピーダンスは106Ωである。
【0009】
図3に示すインピーダンス整合装置は、
図1に示す信号伝送装置を用いることにより中心周波数で2倍の150Ωのインピーダンスに変換を行い、2つの第1伝送線路L11A及びL11Bを並列合成して二分の一の75Ωになりインピーダンス整合を行う。
【0010】
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置は、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数では効率良くインピーダンス整合できる。
【0011】
しかしながら、
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置は、テレビ放送帯のような広帯域では帯域両端付近での整合性が悪く、広帯域性に劣るという欠点を有している。
【0012】
図5は、第二の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図である。
図6は、
図5に示すインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0013】
図5に第二の従来例を示す。このインピーダンス整合装置は、2つのアンテナそれぞれに接続可能な2つの第1端E11A及びE11Bと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E12と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第2伝送線路L12と、を備える。第2伝送線路L12は、2つの第1端E11A及びE11Bと、第2端E12との間に設けられる。2つのアンテナそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。第2伝送線路L12の特性インピーダンスは53.03(=√(75/2*75))Ωである。
【0014】
図5に示す第二の従来例に係るインピーダンス整合装置は、2つの第1端E11A及びE11Bを共通接続することで2つのアンテナのインピーダンスを合成してインピーダンスを二分の一の37.5Ωに下げ、更に第2伝送線路L12によってインピーダンスを2倍の75Ωに上げることでインピーダンス整合を行うものである。
【0015】
図5に示す第二の従来例に係るインピーダンス整合装置は、
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置と全く同じインピーダンス特性を有する。つまり、
図5に示す第二の従来例に係るインピーダンス整合装置も、
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置と同様に、広帯域性に劣るという欠点を有している。
【0016】
図7は、第一の従来例に係るインピーダンス整合装置の実施例の外観断面を示す図である。
図8は、第二の従来例に係るインピーダンス整合装置の実施例の外観断面を示す図である。
図7及び
図8に示す実施例はインピーダンス整合装置単体である。当然の事ながら、インピーダンス整合装置は、インピーダンス整合装置一体型アンテナ装置に内蔵されることもある。
【0017】
一般に通信分野では、テレビ放送帯のように広帯域でアンテナを使用することは少ないので、従来例のようなインピーダンス整合装置における整合性に問題は生じないことが多い。
【0018】
一方、テレビ放送帯は広帯域であり、複数のアンテナを利用してアンテナ利得を上げる場合にインピーダンス整合装置の広帯域性が必要になる。
【0019】
アンテナの不整合は不整合損失を招き、実質のアンテナ利得(動作利得)を下げてしまうことになる。アンテナ利得はアンテナの大きさに概ね比例する。このためアンテナの不整合損失が少しでもあると、同じ動作利得を稼ぐにはアンテナサイズを大きくしなければならず不合理である。
【0020】
一般に広帯域アンテナは、インピーダンス特性が安定せず周波数により様々なインピーダンスを示すことが多い。このため複数のアンテナを利用する場合、インピーダンス整合装置単体の整合性を広帯域で良好にしておくことが望ましい。
【0021】
本発明は、上記の状況に鑑み、複数のアンテナが接続可能であって、広帯域で整合性が良好なインピーダンス整合装置及び複数のアンテナを備え、広帯域で動作利得が良好なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るインピーダンス整合装置は、複数のアンテナそれぞれに接続可能な複数の第1接続端と、信号伝送線に接続可能な第2接続端と、前記複数の第1接続端それぞれと共通接続点との間に設けられる複数の第1伝送線路と、前記共通接続点と前記第2接続端との間に設けられる第2伝送線路と、を備える。前記複数の第1伝送線路の線路長と、前記第2伝送線路の線路長とが例えば(電気的)波長の約四分の1で等しい。
【0023】
また、前記複数のアンテナそれぞれ及び前記信号伝送線の基準インピーダンスがZoであり、前記複数のアンテナの数量がNである場合に、前記複数の第1伝送線路それぞれの特性インピーダンスZnと前記第2伝送線路の特性インピーダンスZnが下記の式を満たすようにしてもよい。
Zn=Zo*4√N
Zp=Zn/√N
【0024】
また、前記第1伝送線路と、前記第2伝送線路とが同一種類の部材であるようにしてもよい。
【0025】
本発明に係るインピーダンス整合装置は、上記いずれかの構成のインピーダンス整合装置と、前記複数のアンテナと、を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、複数のアンテナが接続可能であって、広帯域で整合性が良好なインピーダンス整合装置及び複数のアンテナを備え、広帯域で動作利得が良好なアンテナ装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】信号伝送装置の概略構成を模式的に示す図(
図3の一部)
【
図2】
図1に示す信号伝送装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート
【
図3】第一の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図
【
図4】
図3に示す第一の従来例に係るインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート
【
図5】第二の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図
【
図6】
図5に示す第二の従来例に係るインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート
【
図7】第一の従来例に係るインピーダンス整合装置の実施例の外観断面を示す図
【
図8】第二の従来例に係るインピーダンス整合装置の実施例の外観断面を示す図
【
図10】
図9に示す信号伝送装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート
【
図11】本発明に係るインピーダンス整合装置の一部概略構成を模式的に示す図(
図13の一部で
図9を含む)
【
図12】
図11に示すインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート
【
図13】本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図
【
図14】
図13に示すインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート及び整合の理論的様子を示す解説図
【
図15】
図13に示すインピーダンス整合装置のインピーダンス特性と
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示すスミスチャート(比較図)
【
図16】
図13に示すインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスと
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスを示す図(比較図)
【
図17】第三の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図(アンテナ数3の場合)
【
図18】本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図(アンテナ数3の場合)
【
図19】
図18に示すインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスと
図17に示す第三の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスを示す図[比較図]
【
図20】第四の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図(アンテナ数4)
【
図21】本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的(アンテナ数4)
【
図22】
図21に示すインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスと
図20に示す第四の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子でのリターンロスを示す図[比較図]
【発明を実施するための形態】
【0028】
図9は、本発明の例(アンテナ数2)である
図13の一部であり信号伝送装置の概略構成を模式的に示す図である。
図10は、
図9に示す信号伝送装置のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0029】
図9に示す信号伝送装置は、アンテナに接続可能な第1端E1と、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E2と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第1伝送線路L1と、を備える。第1伝送線路L1は、第1端E1と、第2端E2との間に設けられる。例えばアンテナのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。このときの第1伝送線路L1の特性インピーダンスは条件式より89.19Ωである。(アンテナ数2の場合)
【0030】
図10に示すインピーダンス特性は、第1端E1と反対側から第1伝送線路L1のインピーダンスを見たものであり、
図2に示すインピーダンス特性と比較してインピーダンス変換比率(変位)が小さくインピーダンスの周波数による広がりも小さい。
【0031】
図11は、
図13の本発明に係るインピーダンス整合装置の右側半部の概略構成を模式的に示す図である。
図12は、
図11に示す共通接続点CC1から複数アンテナ側を見たインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0032】
図11に示すインピーダンス変換部は、2つのアンテナそれぞれに接続可能な2つの第1端E1A及びE1Bと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E2と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの2つの第1伝送線路L1A及びL1Bと、を備える。第1伝送線路L1Aは、第1端E1Aと、第2端E2との間に設けられる。第1伝送線路L1Bは、第1端E1Bと、第2端E2との間に設けられる。2つのアンテナそれぞれのインピーダンスは例えば75Ωである。2つの第1伝送線路L1A及びL1Bそれぞれの特性インピーダンスは前式より89.19(=75*√(√2))Ωである。
【0033】
図11に示すインピーダンス変換部は、四分の一波長の89.19Ω伝送線路により
図10に示す高いインピーダンスにインピーダンス変換を行い、2つの第1伝送線路L1A及びL1Bを並列合成して
図12(
図14の点線A-B)に示す二分の一の低インピーダンスにインピーダンス変換を行う。そして、
図13の第2伝送線路L2によりインピーダンスを上げて、
図14のA”、B”の状態に整合を行う。このときの第2伝送路L2の特性インピーダンスは63.07(=89.19/√2)Ωである。
【0034】
図13は、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1の概略構成を模式的に示す図である。
図14は、インピーダンス整合装置1のインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【0035】
本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置11は、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1と、2つのアンテナANT1A及びANT1Bと、を備える。
【0036】
本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1は、2つのアンテナANT1A及びANT1Bそれぞれに接続可能な2つの第1端E1A及びE1Bと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E2と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの2つの第1伝送線路L1A及びL1Bと、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第2伝送線路L2と、を備える。第1伝送線路L1Aは、第1端E1Aと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Bは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第2伝送線路L2は、共通接続点CC1と、第2端E2との間に設けられる。2つのアンテナANT1A及びANT1Bそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。2つの第1伝送線路L1A及びL1Bそれぞれのインピーダンスは89.19Ωである。第2伝送線路L2のインピーダンスは前述式より63.07Ωである。本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置11は、地上デジタルテレビ放送の電波を処理するアンテナ装置である。したがって、本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置11によって処理される電波の周波数帯域は470MHz~710MHzとなり、中心周波数fcが590MHzとなる。その結果、第1伝送線路L1A及びL1B、第2伝送線路L2を板金などで誘電体を用いない伝送線路で構成した場合には、第1伝送線路L1A及びL1Bの線路長、第2伝送線路L2の線路長はそれぞれ127mm(=590MHzのλ/4)となる。一方、第1伝送線路L1A及びL1B、第2伝送線路L2をプリント基板などに配置されるストリップラインとグランド板で構成し、ストリップラインとグランド板の間に誘電体がある場合には、第1伝送線路L1A及びL1Bの線路長、第2伝送線路L2の線路長はそれぞれ590MHzのλ/4に波長短縮率(1/√εs:εsは誘電体の比誘電率)を掛けた長さとなる。
【0037】
図14の点線A-Bは、
図12の実線A-Bのインピーダンスであり
図14中のA点は、2つの第1伝送線路L1A及びL1Bの合成後高域端すなわち共通接続点CC1における高域端のインピーダンスである。そして、第2伝送線路L2によってA点のインピーダンスは、A”点に到達する。
【0038】
図14中のB点は、2つの第1伝送線路L1A及びL1Bの合成後低域端すなわち共通接続点CC1における低域端のインピーダンスである。そして、第2伝送線路L2によってB点のインピーダンスは、B”点に到達する。
【0039】
ここで重要となるのは、高い周波数ほど回転角が大きくなるため、共通接続点CC1で一度広がったインピーダンスが、第2伝送線路L2によって収束傾向になることである。この特徴により、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1は、
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置よりも広帯域性が増すことになる。つまり、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1は、広帯域で整合性が良好になる。
【0040】
図15は、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1のインピーダンス特性と
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置のインピーダンスの比較特性を示すスミスチャートである。
図15中のインピーダンス特性IMP1はアンテナ装置1のインピーダンス特性を示しており、
図15中のインピーダンス特性IMP11は
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置のインピーダンス特性を示している。これより従来例に比較して本発明のインピーダンス特性の広がりが大変小さくなっていることが分る。
【0041】
図16は、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1の第2端子T2でのリターンロスと
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子T12でのリターンロスを示す図である。
図16中のリターンロスRL1は、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1の第2端子E2でのリターンロスを示している。
図16中のリターンロスRL11は、
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子E12でのリターンロスを示している。
【0042】
図16から分かるように、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1の第2端子T2でのリターンロスは、地上デジタルテレビ放送の周波数帯域の低域端及び高域端それぞれで10dB程度改善されている。つまり、本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置1は、
図3及び
図5に示す第一,二の従来例に係るインピーダンス整合装置と比較して第2端子T12でのリターンロスが大幅に良好である。つまりVSWRが大幅に改善されたことになる。
【0043】
図17は、第三の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0044】
図17に示すインピーダンス整合装置は、3つのアンテナそれぞれに接続可能な3つの第1端E11A~E11Cと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E12と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの3つの第1伝送線路L11A~L11Cと、を備える。第1伝送線路L11Aは、第1端E11Aと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Bは、第1端E11Bと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Cは、第1端E11Cと、第2端E12との間に設けられる。3つのアンテナそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。3つの第1伝送線路L11A~L11Cそれぞれの特性インピーダンスは129.9(=√(75×3×75))Ωである。
【0045】
図18は、本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2の概略構成を模式的に示す図である。
【0046】
本発明の第2実施形態に係るアンテナ装置12は、本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2と、3つのアンテナANT1A~ANT1Cと、を備える。
【0047】
本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2は、3つのアンテナANT1A~ANT1Cそれぞれに接続可能な3つの第1端E1A~E1Cと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E2と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの3つの第1伝送線路L1A~L1Cと、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第2伝送線路L2と、を備える。第1伝送線路L1Aは、第1端E1Aと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Bは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Cは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第2伝送線路L2は、共通接続点CC1と、第2端E2との間に設けられる。3つのアンテナANT1A~ANT1Cそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。3つの第1伝送線路L1A~L1Cそれぞれの特性インピーダンスは98.7(=75*√√3)Ωである。第2伝送線路L2の特性インピーダンスは57(=98.7/(√√3))Ωである。
【0048】
図19は、本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2の第2端子T2でのリターンロスと
図17に示す第三の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子E12でのリターンロスを示す図である。
図19中のリターンロスRL2は、本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2の第2端子E2でのリターンロスを示している。
図19中のリターンロスRL12は、
図17に示す第三の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子E12でのリターンロスを示している。
【0049】
図19から分かるように、本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置2の第2端子E2でのリターンロスは、地上デジタルテレビ放送の周波数帯域の低域端及び高域端それぞれで10dB程度改善されている。つまり、インピーダンス整合装置2は、
図17に示す第三の従来例に係るインピーダンス整合装置と比較して第2端子E12でのリターンロスが大幅に良好である。
【0050】
図20は、第四の従来例に係るインピーダンス整合装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0051】
図20に示す第四の従来例に係るインピーダンス整合装置は、4つのアンテナそれぞれに接続可能な4つの第1端E11A~E11Dと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E12と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの4つの第1伝送線路L11A~L11Dと、を備える。第1伝送線路L11Aは、第1端E11Aと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Bは、第1端E11Bと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Cは、第1端E11Cと、第2端E12との間に設けられる。第1伝送線路L11Dは、第1端E11Dと、第2端E12との間に設けられる。4つのアンテナそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。4つの第1伝送線路L11A~L11Dそれぞれの特性インピーダンスは150(=√(75×4×75))Ωである。
【0052】
図21は、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3の概略構成を模式的に示す図である。
【0053】
本発明の第3実施形態に係るアンテナ装置13は、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3と、4つのアンテナANT1A~ANT1Dと、を備える。
【0054】
本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3は、4つのアンテナANT1A~ANT1Dそれぞれに接続可能な4つの第1端E1A~E1Dと、同軸ケーブル等の信号伝送線に接続可能な第2端E2と、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの4つの第1伝送線路L1A~L1Dと、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数での四分の一波長と同じ長さの第2伝送線路L2と、を備える。第1伝送線路L1Aは、第1端E1Aと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Bは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Cは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第1伝送線路L1Dは、第1端E1Bと、共通接続点CC1との間に設けられる。第2伝送線路L2は、共通接続点CC1と、第2端E2との間に設けられる。4つのアンテナANT1A~ANT1Dそれぞれのインピーダンスは75Ωであり、信号伝送線のインピーダンスは75Ωである。4つの第1伝送線路L1A~L1Dそれぞれの特性インピーダンスは106.07(=75×√√4)Ωである。第2伝送線路L2の特性インピーダンスは53.03(=106.7/√4)Ωである。
【0055】
図22は、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3の第2端子E2でのリターンロスと
図20に示す第四の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子T12でのリターンロスを示す図である。
図22中のリターンロスRL3は、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3の第2端子E2でのリターンロスを示している。
図22中のリターンロスRL13は、
図20に示す第四の従来例に係るインピーダンス整合装置の第2端子E12でのリターンロスを示している。
【0056】
図22から分かるように、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3の第2端子E2でのリターンロスは、地上デジタルテレビ放送の周波数帯域の低域端及び高域端それぞれで10dB程度改善されている。つまり、本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置3は、
図20に示す第四の従来例に係るインピーダンス整合装置と比較して第2端子E12でのリターンロスが大幅に良好である。
【0057】
上述した本発明に係るインピーダンス整合装置1~3では、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数で完全整合できる条件で第1伝送線路L1A~L1Dのインピーダンス及び第2伝送線路L2のインピーダンスが設定されている。
【0058】
伝送される信号の周波数帯域の中心周波数で完全整合できる条件は、次のように求めることができる。
【0059】
第1伝送線路のインピーダンスをZnとし、第2伝送線路のインピーダンスをZpとし、複数のアンテナそれぞれ及び信号伝送線の基準インピーダンスをZoとする。また並列にした複数アンテナの数量をN個とする。
【0060】
アンテナに接続された第1伝送線路のアンテナと反対側から見た(昇圧した)インピーダンスをZupとする。
【0061】
第1伝送線路の長さを波長の四分の一(電気長)とすると、ZupとZnとZoとの間には下記式(1)の関係が成立する。
Zn2=Zup*Zo …(1)
【0062】
上記式(1)を変形すると、下記式(2)となる。
Zup=Zn2/Zo …(2)
【0063】
また、共通接続点の合成インピーダンスZgは、N個の並列接続のため下記式(3)で表される。
Zg=Zup/N …(3)
【0064】
上記式(2)及び上記式(3)により、下記式(4)が導出される。
Zg=Zn2/(Zo*N) …(4)
【0065】
一方、信号伝送線と第2伝送線路との合成点の合成インピーダンスZgの間には、第2伝送線路の長さを波長の四分の一(電気長)とすると、下記式(5)の関係が成立する。
Zp2=Zo*Zg=Zn2/N …(5)
【0066】
従って、伝送される信号の周波数帯域の中心周波数において第2端ら見たインピーダンスが完全整合するためには、下記式(6)の関係が成立すればよい。
Zp=Zn/√N …(6)
【0067】
しかしながら、リターンロスに換算できるVSWR(電圧定在波比)を広帯域で下げるためには、上記式(6)の関係だけで不十分であり、最適なZnを選定する必要がある。
【0068】
リターンロスに換算できるVSWR(電圧定在波比)を極力広帯域化するには、第1伝送線路のインピーダンス変換率及び第2伝送線路のインピーダンス変換率を極力下げることが最も良いと考えられる。すなわち、第1伝送線路ではインピーダンスをZoより高くする。そして、第1伝送線路の並列合成で合成インピーダンスはZoより低くなるため、第2伝送線路で再度インピーダンスを高くしている。
【0069】
各ステップでのインピーダンス変換率を同じにすることで、第1伝送線路のインピーダンス変換率及び第2伝送線路のインピーダンス変換率を最も小さくすることができる。従って、下記式(7)の関係が成立すると、第1伝送線路のインピーダンス変換率及び第2伝送線路のインピーダンス変換率が最も小さくなる。
Zup/Zo=Zo/Zg …(7)
【0070】
上記式(7)の変形により、下記式(8)が導出される。
Zup*Zg=Zo2 …(8)
【0071】
上記式(3)及び上記式(8)により、下記式(9)が導出される。
Zup2=N*Zo2 …(9)
【0072】
上記式(1)及び上記式(9)により、下記式(10)が導出される。
【0073】
Zn=Zo*4√N …(10)
【0074】
上記式(10)の関係を満たすことにより、リターンロスに換算できるVSWR(電圧定在波比)を広帯域で下げることができる。
【0075】
以上まとめると、上記式(6)及び上記式(10)の関係を満たすことが望ましい。
【0076】
上述した第1伝送線路L1A~L1D及び第2伝送線路L2は、例えば板金によって構成されてもよく、また例えばプリント基板に設けられる導体配線によって構成されてもよい。材料調達、製造工程等の簡単化を図る観点から、上述した第1伝送線路L1A~L1D及び第2伝送線路L2は同一種類の部材であることが望ましい。上述した第1伝送線路L1A~L1D及び第2伝送線路L2は、例えばグランド板に対してストリップラインを対面に配置して構成することもでき、また例えばグランド板に対してストリップラインを垂直に配置して構成することもできる。特にグランド板に対してストリップラインを垂直に配置すると、同じ幅でも伝送線路のインピーダンスを高くすることができるため、ハイインピーダンスの伝送線路が必要な場合に機構設計上有利になる。また、垂直配置型は、対面配置型に比べて、グランド板からストリップラインまでの高さを低くすることができるため放射損も低くできる。
【0077】
上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本明細書に開示されている発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。
【0078】
また、本発明に係るアンテナ装置の各パラメータは、設計値に対して誤差を有してもよい。つまり、例えば上述した第1伝送線路L1A~L1Dの線路長と、上述した第2伝送線路L2の線路長とが等しくなるように設計した場合でも、第1伝送線路L1A~L1Dの線路長と、第2伝送線路L2の線路長とが完全に一致していなくてもよい。換言すると、例えば第1伝送線路L1A~L1Dの線路長と、第2伝送線路L2の線路長とが等しくなるように設計した場合には、第1伝送線路L1A~L1Dの線路長と、第2伝送線路L2の線路長とが略一致していればよい。
【符号の説明】
【0079】
1 本発明の第1実施形態に係るインピーダンス整合装置
2 本発明の第2実施形態に係るインピーダンス整合装置
3 本発明の第3実施形態に係るインピーダンス整合装置
11 本発明の第1実施形態に係るアンテナ装置
12 本発明の第2実施形態に係るアンテナ装置
13 本発明の第3実施形態に係るアンテナ装置
ANT1A~ANT1D アンテナ
CC1 共通接続点
E1、E1A~E1D、E11、E11A~E11D 第1端
E2、E12、P1 第2端
IMP1、IMP11 インピーダンス特性
L1、L1A~L1D、L11、L11A~L11D 第1伝送線路
L2、L12 第2伝送線路
RL1~RL3、RL11~RL13 リターンロス
【手続補正書】
【提出日】2023-04-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナそれぞれに接続可能な複数の第1接続端と、
信号伝送線に接続可能な第2接続端と、
前記複数の第1接続端それぞれと共通接続点との間に設けられる複数の第1伝送線路と、
前記共通接続点と前記第2接続端との間に設けられる第2伝送線路と、
を備え、
前記複数の第1伝送線路の線路長と、前記第2伝送線路の線路長とが等しく、
前記複数のアンテナそれぞれ及び前記信号伝送線の基準インピーダンスがZoであり、前記複数のアンテナの数量がNである場合に、前記複数の第1伝送線路それぞれのインピーダンスZnと前記第2伝送線路のインピーダンスZpが下記の式を満たす、インピーダンス整合装置。
Zn=Zo*
4
√N
Zp=Zn/√N
【請求項2】
前記第1伝送線路と、前記第2伝送線路とが同一種類の部材である、請求項1に記載のインピーダンス整合装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のインピーダンス整合装置と、
前記複数のアンテナと、
を備える、アンテナ装置。