(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114046
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】オキシトシン分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230809BHJP
A61K 31/045 20060101ALI20230809BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230809BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230809BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/045
A61P43/00 105
A61P25/00
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016127
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 萌人
(72)【発明者】
【氏名】大野 敦子
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C206
【Fターム(参考)】
4B018LE01
4B018MD07
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LP01
4C206AA01
4C206AA02
4C206CA08
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZC01
(57)【要約】
【課題】優れたオキシトシン分泌促進作用を有する安全性の高い化合物、およびオキシトシン分泌促進作用を有する素材の配合によって気分を向上させることのできる組成物を提供すること。
【解決手段】ホトリエノールを有効成分とするオキシトシン分泌促進剤、およびこれを含有することにより気分を向上させるための組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホトリエノールを有効成分とするオキシトシン分泌促進剤。
【請求項2】
1日あたりの摂取量または投与量として0.001~0.5mgのホトリエノールを含有するものである、請求項1に記載のオキシトシン分泌促進剤。
【請求項3】
気分向上用の組成物である、請求項1または2に記載のオキシトシン分泌促進剤。
【請求項4】
組成物が飲食品、サプリメント、医薬品または日用品である請求項3に記載のオキシトシン分泌促進剤。
【請求項5】
オキシトシンの分泌を促進し、気分を向上する組成物を製造するための、ホトリエノールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたオキシトシン分泌促進作用を有する安全性の高い化合物、およびオキシトシン分泌促進作用を有する素材の配合によって気分を向上させることのできる組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,世界的な経済悪化や少子高齢化など、我々を取り巻く環境は大きく変容し、それに伴いストレスの内容も変化している。過度なストレスや慢性的なストレスは、肥満や糖尿病、睡眠障害などの症状を引き起こすことも知られ、その中でもうつ病などの気分障害の患者数は年々増加しており、ストレス対策は重要な社会課題となっている。
【0003】
このような背景から、日常的なストレス緩和を目的として飲食品やサプリメントに利用できる素材が開発されている。例えば、特許文献1には、L-テアニンを有効成分とする抗ストレス剤が開示されている。また、非特許文献1には、GABA含むチョコレートが精神的ストレスを軽減することが報告されている。
【0004】
しかしながら、これらの作用はいずれもストレス負荷状態からの脱却を意味するものであり、さらに感情や気分が向上したことを意味する「幸福感」や「安息感」が得られる食品成分の開発が強く求められている。そのような素材として、非特許文献2には桜の花の抽出物の主成分であるベンズアルデヒドには多幸感をもたらす作用があり、その作用機序はベンズアルデヒドがオキシトシンの分泌を促進させるためであると報告されている。
【0005】
オキシトシンは視床下部(視索上核および室傍核)で産生され、神経伝達物質として視床下部にある自律神経系を支配する脳の領域(血圧、心拍、運動、感情の制御に関係している部位)に影響を与える。また、視床下部で産生されたオキシトシンは脳下垂体後葉にも送られ、血中に分泌されるペプチドホルモンとしての役割もあり、血流を介して全身の応答器官に作用する。オキシトシンの効果として、母子間の愛情形成や他者との信頼形成に関連することが知られているほか、「癒し」、「安らぎ」、「心地よさ」、「愛着感」、「信頼感」、「幸福感」といった快適性を有する感情や気分と関連することが示唆されている(例えば非特許文献3、4)。また、セロトニン作動性ニューロンを直接活性化することで精神安定や安心感に関連するセロトニン放出を促進することが示唆されている(例えば非特許文献5)。また、自閉症スペクトラム患者の症状を緩和させることも知られ、オキシトシンの点鼻投与による治療も行われている(特許文献2)。また、自閉症スペクトラム障害を改善するための食品素材としてD-アルロースがオキシトシン分泌を促進することも開示されている(特許文献3)。血中でのオキシトシンのホルモン作用は動物実験により例証されており、行動に現れるオキシトシン注射の効果として不安が減り大胆さと好奇心が増す、痛み感覚の減少、学習能力の向上、個体間の相互作用の増加が報告されている。また、オキシトシン注射の生理学的効果として、体温の上昇、筋肉緊張の減少、体液分泌量の増加などの報告が知られている(非特許文献6)。
【0006】
一方、紅茶の香りにはストレス緩和効果を有することが知られており(非特許文献7)、特に、ダージリン紅茶に多く含まれる香気成分であるホトリエノールには、自律神経の調節作用や睡眠改善作用を有することが開示されている(特許文献4、5)。しかしながら、ホトリエノールとオキシトシン分泌の関係については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-100442号公報
【特許文献2】国際公開第2017/073798号
【特許文献3】特開2018-27896号公報
【特許文献4】特開2019-163248号公報
【特許文献5】国際公開第2020/059808号
【0008】
【非特許文献1】J.Nutr.Sci.Vitaminol.,2009,Vol.60,pp.106-113,doi:10.1080/09637480802558508
【非特許文献2】日本アロマテラピー学会誌,2020,Vol.19(1),pp.21-29
【非特許文献3】Z.Psychosom.Med.Psychother.2005,VOl.51(1),pp.57-80,doi:10.13109/zptm.2005.51.1.57.
【非特許文献4】Biophys.Physicobiol.,2019,Vol.16,pp132-139,doi: 10.2142/biophysico.16.0_132
【非特許文献5】ファルマシア,2019,Vol.55,No.4,p347
【非特許文献6】シャスティン・ウヴネース・モベリ著、「オキシトシン 私たちのからだがつくる安らぎの物質」、晶文社、2008年10月、pp.92-111
【非特許文献7】におい・かおり環境学会誌、2021年、52巻、6号、pp.344-357
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
オキシトシンには、「多幸感」のように気分を向上させる作用を有するが、点鼻や注射による血中への直接的な投与では速やかにオキシトシンは分解されてしまい、効果が限定的となってしまうことに加え、吸収や脳関門の通過性の点でも効果が不安定となる可能性がある。その点において、オキシトシンの分泌を促進する成分は非常に有効であると考えられるが、ベンズアルデヒドやD-アロースなど、ごく限られた成分にしかその作用は認められていない。
【0010】
このような技術背景から、本発明は、優れたオキシトシン分泌促進作用を有する安全性の高い化合物、およびオキシトシン分泌促進作用を有する素材の配合によって気分を向上させることのできる組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた過程で、ホトリエノールの摂取が唾液中のオキシトシンの濃度を有意に増加させる作用を有することを発見し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ホトリエノールを有効成分とするオキシトシン分泌促進剤。
[2]1日あたりの摂取量または投与量として0.001~0.5mgのホトリエノールを含有するものである、[1]に記載のオキシトシン分泌促進剤。
[3]気分向上用の組成物である、[1]または[2]に記載のオキシトシン分泌促進剤。
[4]組成物が飲食品、サプリメント、医薬品または日用品である[3]に記載のオキシトシン分泌促進剤。
[5]オキシトシンの分泌を促進し、気分を向上する組成物を製造するための、ホトリエノールの使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、優れたオキシトシン分泌促進効果を発揮する。したがって、オキシトシンの作用を介して気分を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】事前検査時の唾液中オキシトシン濃度を共変量として共分散分析を行った結果を示す。
【
図2】摂取前後のMMS評価結果の変化量について、実施例と比較例との差を示す。
【
図3】摂取前後のVAS評価結果の変化量について、実施例と比較例との差を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、特別な記載がない場合、「%」は質量%を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。
【0016】
本発明におけるホトリエノールは、化学式C10H16Oで表される、CAS登録番号20053-88-7のモノテルペンアルコール系化合物である。ホトリエノールは、3位に不斉炭素があり、3R-(-)-3,7-ジメチル-1,5(E),7-オクタトリエン-3-オール(以下、3R-(-)体という。)と3S-(+)-3,7-ジメチル-1,5(E),7-オクタトリエン-3-オール(以下、3S-(+)体という。)の光学活性体が存在するが、本発明に用いられるホトリエノールは、3R-(-)体であっても、3S-(+)体であってもよく、また、それらの混合物であってもよく、ラセミ混合物であってもよい。
【0017】
本発明におけるホトリエノールとは、発酵茶等の天然物から抽出されたものであっても、化学的に全合成されたものであっても、又は発酵茶等の天然物から抽出物を化学処理して半合成されたものであっても良い。科学的な合成方法としては、例えば特開2004-107207号公報や特開2000-192073号公報に記載の方法が例示できる。天然物からの抽出物の場合に、ホトリエノールが含まれる抽出物をそのまま又は濃縮等の操作をして用いることができ、抽出物を蒸留、カラムクロマトグラフィー等の分離精製操作を行って、ホトリエノールを単離精製したもの又はその他の成分を含む画分として用いることができる。市販のホトリエノールとしては例えば井上香料製造所社の製品(製品名:ホトリエノール、製品コード:0001199)が挙げられる。
【0018】
本発明において「オキシトシンの分泌促進」とは、視床下部などのオキシトシン産生組織で産生されるオキシトシンの分泌が促進されることを意味する。つまり、本発明の「オキシトシン分泌促進」とは、オキシトシン産生促進の作用を包含し、その結果、血中や脳内へのオキシトシンの分泌量が増加し、各組織でのオキシトシンによる作用が向上される状態となることを意味する。本明細書の実施例に示すように、ホトリエノールを経口摂取すると、唾液中のオキシトシン濃度が有意に増加する。すなわち、ホトリエノールはオキシトシンの分泌促進剤となりえる。そのため、ホトリエノールを有効成分として配合することによって、オキシトシンの分泌促進作用による気分の向上作用を目的とした組成物を得ることができる。また、オキシトシンの分泌促進作用による気分の向上作用を目的とした組成物の製造のためにホトリエノールを使用することができる。
【0019】
血中のオキシトシン濃度と唾液中のオキシトシン濃度との間には相関が認められている(第54回日本児童青年精神医学会総会抄録集、pp.437、2013年)。そのため、唾液中のオキシトシン濃度は血中オキシトシン濃度を反映していると考えられている。したがって、オキシトシンの分泌量は唾液中のオキシトシン濃度を測定することで確認することができ、ホトリエノール摂取の前後で濃度測定することで促進効果を把握することができる。オキシトシンの具体的な測定方法としては、ELIZA法やLC/MSを用いることができ、ELIZA法による測定キットを利用するのが簡便である。測定キットとしては、Enzo Life Sciences社やCayman Chemical社などから販売されている。
【0020】
オキシトシンの分泌は、「癒し」、「安らぎ」、「心地よさ」、「愛着感」、「信頼感」、「幸福感」といった快適性を有する感情や気分をもたらすことが知られている。そのため、本発明のオキシトシン促進剤を摂取することによって前記のような気分の向上作用を得ることができる。本発明において、気分の向上とは「活動的」、「親和」、「頭のすっきり感」、「集中(力)」、「意欲」、「爽快感」の感情が向上すること、すなわち、前向きで活動的、社交的な感情が高まることを意味する。
【0021】
上記した気分の向上を把握する手段としては、多面的感情尺度(MMS)、ストレスチェックリスト(SCL30)、気分プロフィール検査票(POMS)、WHOQOL評価短縮版(WHOQOL-BREF)などの心理学的な質問票を用いればよい。これらを用いて「活動的な気分」、「親和感」、「頭のすっきり感」、「集中(力)」、「意欲」、「爽快感」などの主観的気分を評価することができる。
【0022】
本発明のオキシトシン分泌促進剤であるホトリエノールの摂取量または投与量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動するため、投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定すればよい。一般的な例を挙げるとすれば、成人1人に対する1日あたりのホトリエノール摂取量としては、0.001~0.5mgが好ましく、0.003~0.3mgがより好ましく、0.01~0.1mgがさらに好ましい。ホトリエノールの摂取量がこの範囲であると、オキシトシンの分泌促進作用による気分向上の効果を有効に享受しやすくなる。
【0023】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、飲食品、サプリメント医薬品および日用品などの組成物として利用することができる。これらはホトリエノールを前記組成物の製造時に使用することで調製できる。組成物中のホトリエノールの配合量は、前記した1日あたりの摂取量として、有効成分であるホトリエノールを無理なく摂取できるような量となるように適宜決定すればよい。例えば、組成物が1粒で1gのサプリメントを1日あたり1回摂取することを想定した場合には、0.0001~0.05%となるようにホトリエノールを配合するのが好ましく、0.0003~0.03%がより好ましく、0.001~0.01%がさらに好ましい。
【0024】
本発明のオキシトシン分泌促進剤を飲食品組成物に適用した場合には、オキシトシンの分泌促進作用による気分の向上を目的とした飲食品とすることができる。飲食品の形態としては、炭酸飲料、果実飲料、ニアウォーター系飲料、コーヒー飲料および茶系飲料などの粉末又は液体の飲料、または、健康食品、水産加工食品、畜産加工食品、農産加工食品および菓子類などの食品とすることができ、それら一般的な製造過程において、ホトリエノールを適宜配合することで得ることができる。
【0025】
本発明のオキシトシン分泌促進剤をサプリメントに適用した場合には、オキシトシンの分泌促進作用による気分の向上を目的としたサプリメントとすることができる。サプリメントとしては、打錠剤、タブレット、ソフトカプセル、ハードカプセル、顆粒およびシロップなどの形態とすることができ、それら一般的な製造過程において、ホトリエノールを適宜配合することで得ることができる。
【0026】
また、本発明の飲食品およびサプリメントは、必要に応じてオキシトシンの分泌を促進する作用によって気分の向上効果が得られる旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品が包含される。これらの飲食品やサプリメントは機能表示が許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。
【0027】
その他、本発明のオキシトシン分泌促進剤は医薬品組成物とすることもできる。その剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、静脈内注射剤、筋肉注射剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤、湿布剤、バップ剤、軟膏、ローション、クリーム、口腔用製剤(歯磨剤、液状歯磨剤、洗口液、歯肉マッサージクリーム、口腔用軟膏、うがい用錠剤、トローチ、のど飴等)等の形態としてもよく、投与形態も経口投与(内用)、非経口投与(外用、注射)のいずれであってもよい。
【0028】
上記の他にも、本発明のオキシトシン分泌促進剤は、入浴剤、アロマスプレーなどの日用品組成物に利用することもできる。なお、ホトリエノールには揮発性があり、呼吸器官を介しても機能性を発揮できること(例えば特開2019-163248号公報)が知られているため、このような使用方法においても所望の効果を期待することができる。
【0029】
本発明のオキシトシン分泌促進剤の投与または摂取の回数は特に限定されず、単回投与または摂取でもよく、反復・連続して投与または摂取してもよい。反復・連続して投与または摂取する場合は、1日あたりに1~4回の摂取が望ましく、長期反復摂取する場合は、2週間以上、さらに4週間以上、さらに8週間以上に連続して投与または摂取することが好ましい。
【0030】
本発明のオキシトシン分泌促進剤は、摂食前または摂食後、食間、就寝前に投与または摂取することが好ましい。摂食の内容としては、特に限定されない。
【0031】
本発明のオキシトシン分泌促進剤の摂取が適当な対象者としては、それを必要とするもしくは希望するヒトであれば特に限定されない。対象の好ましい例として、ストレスを抱える者や気分の落ち込みがある者、快適感や安息感を必要とする者、対人関係に悩みを持つ者などがあげられる。
【実施例0032】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0033】
<製造例1>
ホトリエノールを1粒あたり0.03mg配合したタブレットを調製した。ホトリエノールはホトリエノールを505ppm含有する粉末製剤(メーカー:曽田香料、賦形剤:デキストリンなど)を使用した。タブレットは各粉末素材を表1の配合で混合した後に、連続式打錠機により打錠成型した。打錠の硬度は口腔内で約5分間崩壊せずに維持できるような硬度(約14kgf)となるように設計し、実施例1のタブレットを製造した。同様にして、実施例1の粉末製剤をデキストリンに置き換えて、ホトリエノールを含まない比較例1のタブレットを製造した。タブレット中に含有されるホトリエノールの含有量は特開2021-042162号公報の実施例に記載されているSPME-GC/MS法により分析し、所定の範囲であることを確認した。
【0034】
【0035】
<試験例1>
実施例1および比較例1のタブレットを用い、ホトリエノールのオキシトシンの分泌促進作用をランダム化プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験により検討した。被験者は本発明者らによる先行研究に基づき、平常時の唾液中オキシトシン濃度測定などの事前検査を行った上で、試験責任医師によって選択した41名とし、無作為にA群21名、B群20名の背景因子に差のない2群に割り付けた。A群は実施例から比較例のタブレットの順に、B群は比較例から実施例のタブレットの順に2週間のウォッシュアウト期間を設けた。被験者は試験日の前日から飲食を制限し、検査当日に200mLの水で口をゆすぎ、10分間の安静の後に約2mLの唾液を15分以内に採取した。その後、タブレット1錠を口腔内で噛まずに5分間にわたって口中で舐めるように溶かして摂取させ、10分間の安静の後に2mLの唾液を15分以内に採取した。
【0036】
唾液採取にはSalimetrics Oral Swab(Salimetrics社製)、およびSwab Storage Tube(Salimetrics社製)を用いた。採取後速やかに、-30℃以下で凍結保存した。測定時には、遠心分離(3000rpm、4℃、15分間)したのち上清を回収し、分析に供した。唾液中オキシトシン濃度の測定はOxytocin ELISA kit(ENZO社製)を用い、測定キットの手順に従って定量した。実施例タブレット摂取群および比較例タブレット摂取群においてそれぞれ摂取後から摂取前のオキシトシン分析値の変化量を算出し、対応のあるt検定を用いて群間比較を行った。その結果を表1に示した。また、事前検査時の唾液中オキシトシン濃度を共変量として共分散分析を行った結果を
図1に示した。
【0037】
【0038】
表1に示した通り、ホトリエノールを含む実施例タブレットの摂取群では唾液中のオキシトシン濃度が増加していた。また、
図1に示したとおり、事前検査時の唾液中オキシトシン濃度を共変量として共分散分析を行った場合では有意にオキシトシン濃度が上昇していた。この結果から、ホトリエノールには明らかにオキシトシンの分泌を促進する作用を有することが確認された。
【0039】
<試験例2>
試験例1と同様に、実施例1および比較例1のタブレットを用い、ホトリエノールのオキシトシン分泌促進作用による気分の変化をランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験により検討した。被験者は本発明者らによる先行研究に基づき、選択・除外基準を満たし、かつ、試験責任医師によって選択した28名とした。被験者28名を無作為にA群14名、B群14名の背景因子に差のない2群に割り付け、A群は実施例1のタブレットを、B群は比較例1のタブレットを摂取した。被験者は検査当日の検査1時間前から飲食を制限し、20分間の安静を指示したのち、気分や感情の主観的な評価指標として, 多面的感情尺度短縮版40問(MMS)およびVisual Analog Scale(VAS)に回答させた。その後に実施例1または比較例1のタブレット1錠を口腔内で噛まずに5分間にわたって口中で舐めるように溶かして摂取させた。最後に、摂取後の主観的な評価として、以下に示す方法によりMMSおよびVASに回答させた。各被検者の摂取前後の評価結果の変化量を算出し、それぞれの変化量についてA群(実施例)の平均値とB群(比較例)との平均値の差を求めた。その結果をMMSの結果を
図2に、VASの結果を
図3に示した。
【0040】
多面的感情尺度短縮版40問(MMS)は、多面的な感情や気分を主観評価するためのアンケートであり、「抑うつ・不安、敵意、倦怠、活動的、非活動的、親和、集中、驚愕」の8つの下位尺度に分類される40項目からなる。質問紙にはこれらの感情を表す言葉がランダムに並べられており、それぞれの言葉に対してその時の感情に当てはまる度合いを4段階(1点「全く感じていない」~4点「はっきり感じている」)で評定するものである(The Japanese Journal of Psychology,1992,Vol.62,No.6,p350―356)。
Visual Analog Scale(VAS)は、10cmの直線上に印をすることで、両端の評定語に対し相対的な位置を示す方法である。段階評価でないことから、相対化や点数化することが難しい感情をより正確に主観的評価できる(日本ペインクリニック学会誌,1994,Vol.1,No.3,p359-370)。VASでの評価項目は、「自発的ストレス」「退屈間」「頭のすっきり感」「集中力」「意欲」「爽快感」とし、それぞれの感情の強さの程度(左端「まったく感じない」~右端「はっきり感じる」)を自己評価させた。評価点は直線の左端から印までの距離を計測し、その長さ(ミリメートル)を点数とした。
【0041】
以上のMMSとVAS結果から、ホトリエノールを含有するタブレットの摂取によって、気分の向上(前向きで活動的な感情)の項目として、「活動的、親和、集中(力)、頭のすっきり感、意欲、爽快感」について評価点の向上が確認された。一方で脱力的な項目として、「抑うつ・不安、倦怠、自発的ストレス」の評価点については減少していることが確認された。すなわち、単にリラックスした状態ではなく、前向きで活動的、社交的な気分が向上していると判断された。これらの効果は試験例1で示されたように、ホトリエノールがオキシトシンの分泌を促進したためであると考えられた。