IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 能美防災株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-劣化診断システム 図1
  • 特開-劣化診断システム 図2
  • 特開-劣化診断システム 図3
  • 特開-劣化診断システム 図4
  • 特開-劣化診断システム 図5
  • 特開-劣化診断システム 図6
  • 特開-劣化診断システム 図7
  • 特開-劣化診断システム 図8
  • 特開-劣化診断システム 図9
  • 特開-劣化診断システム 図10
  • 特開-劣化診断システム 図11
  • 特開-劣化診断システム 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114092
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】劣化診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230809BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016206
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 晃広
【テーマコード(参考)】
2G024
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA27
2G024CA13
2G024CA26
2G024CA27
2G024DA01
2G024FA06
2G024FA15
(57)【要約】
【課題】複数のセンサによる検出結果に基づいて、劣化診断対象の劣化範囲を視覚化する。
【解決手段】劣化診断対象に設置された複数のセンサによる検出結果に基づいて劣化診断対象の劣化状態を可視化した表示情報を生成するセンサコントローラを備え、センサコントローラは、複数のセンサのそれぞれについて、検出結果に基づいて劣化診断対象に関する物理量を特徴量として算出し、複数のセンサのそれぞれについて算出された特徴量に基づいて、2つのセンサ間の相関値を劣化状態を示す劣化判断指標として算出し、複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、劣化判断指標をレイアウト表示と紐付けて視認可能とするように表示情報を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化診断対象の異なる場所に設置された複数のセンサによる検出結果に基づいて前記劣化診断対象の劣化状態を可視化した表示情報を生成するセンサコントローラを備えた劣化診断システムであって、
前記センサコントローラは、
前記複数のセンサのそれぞれについて、前記検出結果に基づいて前記劣化診断対象に関する物理量を特徴量として算出し、
前記複数のセンサのそれぞれについて算出された前記特徴量に基づいて、2つのセンサ間の相関値を、前記劣化状態を示す劣化判断指標として算出し、
前記複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、前記劣化判断指標を前記レイアウト表示と紐付けて視認可能とするように前記表示情報を生成する
劣化診断システム。
【請求項2】
劣化診断対象である構造物の異なる場所に設置され、前記構造物の加速度情報を出力する複数のセンサと、
前記センサから出力された前記加速度情報に基づいて前記構造物の劣化状態を可視化した表示情報を生成するセンサコントローラと
を備え、
前記センサコントローラは、
前記複数のセンサのそれぞれについて、前記加速度情報に基づいて前記構造物に関する物理量を特徴量として算出し、
前記複数のセンサのそれぞれについて算出された前記特徴量に基づいて、2つのセンサ間の相関値を、前記劣化状態を示す劣化判断指標として算出し、
前記複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、前記劣化判断指標を前記レイアウト表示と紐付けて視認可能とするように前記表示情報を生成する
劣化診断システム。
【請求項3】
前記センサコントローラは、
前記特徴量として、前記複数のセンサのそれぞれについて、前記加速度情報に基づいて前記構造物に関する前記物理量として第1の物理量および第2の物理量である複数の特徴量を算出し、
前記相関値として、第1の物理量に関する特徴量に基づく第1の相関値、および第2の物理量に関する特徴量に基づく第2の相関値を算出し、
同じ2つのセンサ間で算出した前記第1の相関値と前記第2の相関値との和または積を前記劣化判断指標として算出する
請求項2に記載の劣化診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のセンサのそれぞれにより検出された加速度情報を用いて劣化診断対象の劣化診断を行う際に、センサの位置関係と異常検知状態とを関連付けて可視化することのできる劣化診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両が通過する橋梁に相当する構造物は、車両の通過に伴う経年変化によって次第に劣化する。橋梁のような構造物は、壊れてしまう前に劣化状態を検知することが重要となる。
【0003】
構造物の状態変化を、より効率良く的確に把握するための従来技術がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に係る従来技術には、センサ間の複数の物理量について相関を算出し、相関が変化することで異常検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5832814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、構造物の異常検知にあたり、センサ間における物理量の相関関係の変化から、閾値を超える測定値を出力したセンサの組合せを検出している。
【0006】
ここで、橋梁のような構造物の劣化診断を行う際には、その構造物の種々の場所に多数のセンサを配置することが考えられる。特許文献1に係る従来技術では、閾値を超える測定値を出力したセンサの組合せを特定できるものの、そのような特定だけでは、構造物に対する各センサの配置と劣化状態とを紐付けしにくい。すなわち、従来技術では、劣化の範囲を特定しにくいという課題がある。また、構造物以外の劣化診断対象に対しても、劣化の範囲を特定することは重要である。
【0007】
本開示は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、複数のセンサによる検出結果に基づいて、劣化診断対象の劣化範囲を視覚化することができる劣化診断システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る劣化診断システムは、劣化診断対象の異なる場所に設置された複数のセンサによる検出結果に基づいて劣化診断対象の劣化状態を可視化した表示情報を生成するセンサコントローラを備えた劣化診断システムであって、センサコントローラは、複数のセンサのそれぞれについて、検出結果に基づいて劣化診断対象に関する物理量を特徴量として算出し、複数のセンサのそれぞれについて算出された特徴量に基づいて、2つのセンサ間の相関値を、劣化状態を示す劣化判断指標として算出し、複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、劣化判断指標をレイアウト表示と紐付けて視認可能とするように表示情報を生成するものである。
また、本開示に係る劣化診断システムは、劣化診断対象である構造物の異なる場所に設置され、構造物の加速度情報を出力する複数のセンサと、センサから出力された加速度情報に基づいて構造物の劣化状態を可視化した表示情報を生成するセンサコントローラとを備え、センサコントローラは、複数のセンサのそれぞれについて、加速度情報に基づいて構造物に関する物理量を特徴量として算出し、複数のセンサのそれぞれについて算出された特徴量に基づいて、2つのセンサ間の相関値を、劣化状態を示す劣化判断指標として算出し、複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、劣化判断指標をレイアウト表示と紐付けて視認可能とするように表示情報を生成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、複数のセンサによる検出結果に基づいて、劣化診断対象の劣化範囲を視覚化することができる劣化診断システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの構成図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの劣化診断対象である構造物の異なる場所に複数のセンサが設置された状態を示した説明図である。
図3】本開示の実施の形態1において、傾きを特徴量とした場合の、センサレイアウト、および各センサの傾きに関する散布図を示した図である。
図4】傾きを特徴量とした場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。
図5】本開示の実施の形態1に係る判定処理部によって、傾きを特徴量とした場合に生成される表示情報に関する説明図である。
図6】本開示の実施の形態1において、特徴量として活荷重変位を用いた場合の劣化診断に関する説明図である。
図7】本開示の実施の形態1において、活荷重変位を特徴量とした場合の各センサの最大変位量に関する散布図を示した図である。
図8】活荷重変位を特徴量として最大変位量を求めた場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。
図9】本開示の実施の形態1に係る判定処理部によって、活荷重変位を特徴量として最大変位量を求めた場合に生成される表示情報に関する説明図である。
図10】傾きおよび活荷重変位の2つの特徴量を考慮した場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。
図11】本開示きれる表示情報に関する説明図である。
図12】本開示の実施の形態1に係る判定処理部によって構造物の劣化範囲を視認可能とするために生成される、図5図9図11に示した表示情報とは異なる表示情報を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の劣化診断システムの好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本開示は、複数のセンサの検出結果からセンサ間の相関を劣化判断指標として求め、さらに、各センサの配置とセンサ間の相関とを関連付けた表示情報を生成することで、劣化診断対象の劣化範囲を視覚化できる機能を有することを技術的特徴とするものである。なお、以下では、劣化診断対象が構造物である場合を例に説明するが、劣化診断対象は構造物に限定されるものではなく、本開示は、劣化範囲を視覚化することに顕著な効果を有するものである。
【0012】
実施の形態1.
本実施の形態1では、劣化診断対象を構造物とし、複数のセンサによる測定結果に基づいて構造物の劣化診断を行う際に、各センサの配置とセンサ間の相関とを関連付けた表示情報を生成して表示させるための具体的な構成について説明する。
【0013】
図1は、本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの構成図である。本実施の形態1における劣化診断システムは、N個からなる複数のセンサ10(1)~10(N)と、センサコントローラ20とを備えて構成されている。
【0014】
また、図2は、本開示の実施の形態1に係る劣化診断システムの劣化診断対象である構造物の異なる場所に複数のセンサ10が設置された状態を示した説明図である。図2では、構造物の具体例として橋梁30が示されており、図2(A)が橋梁30の側面図、図2(B)が橋梁30の裏面図である。
【0015】
橋梁30は、車両1の通過に伴う経年変化によって次第に劣化する。そこで、本実施の形態1に係る劣化診断システムは、劣化診断に適した位置に設置された複数のセンサ10(1)~10(N)のそれぞれにより出力された加速度情報をセンサコントローラ20で解析することで、時々刻々と変化する橋梁30の劣化状態を診断する。
【0016】
さらに、本実施の形態1に係るセンサコントローラ20は、複数のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示を行うとともに、劣化判断指標となるセンサ間の相関状態をレイアウト表示と紐付けて視認可能とするための表示情報を生成する機能を備えている。
【0017】
センサ10は、橋梁30の構成部品である主桁31に設置される。ここで、主桁31は、劣化診断対象である構造物の構造体に相当する。図2(B)に示したように、主桁31は、一例として、3本の主桁31a、31b、31cとして構成されている。
【0018】
そして、図2(B)の例では、2つのセンサ10(1)、10(2)が、それぞれの主桁31a、31b、31cの四分位点(すなわち、左右の支承2の距離に相当する支間の4分の1および4分の3に相当する部分)に設置されている場合を例示している。設置位置である四分位点は、劣化診断に適した位置の一例に相当する。
【0019】
なお、以下の説明では、主桁31a、31b、31cのそれぞれに3つのセンサ10が設置され、それぞれのセンサ10による検出結果に基づいて劣化診断を行う場合について説明する。ただし、センサ10の個数および配置は、この例に限定されるものではない。
【0020】
それぞれのセンサ10は、橋梁30に発生する加速度情報を検出し、センサコントローラ20に対して加速度情報を出力する。センサ10の一例としては、薄膜の水晶振動子を用い、応答性に優れ、測定範囲がDC~数十Hz程度の加速度を測定可能な3軸加速度センサが挙げられる。
【0021】
このように、センサ10として3軸の加速度センサを用いることにより、水平出しが不要となり、傾きや振動の方向に関わらず、センサ出力を行うことができる。したがって、水平出しを行うなど、傾きの方向などが特定できる場合には、2軸あるいは1軸の加速度センサであってもよい。
【0022】
また、センサ10は、設置場所における構造物の3軸の加速度に関するアナログ信号を、所定のサンプリングレート(例えば、50Hzのサンプリングレート)でデジタル信号に変換し、加速度情報としてセンサコントローラ20へ送信することができる。
【0023】
それぞれのセンサ10から出力される加速度情報を受信するセンサコントローラ20は、先の図1に示したように、特徴量変換部21、相関値算出部22、および判定処理部23を備えて構成されている。
【0024】
特徴量変換部21は、それぞれのセンサ10から受信した加速度情報を、センサ10の設置場所における構造物に関する傾き、および活荷重変位に変換する。ここで、物理量である傾き、活荷重変位のそれぞれは、構造物の劣化を診断するための特徴量に相当する。
【0025】
なお、活荷重とは、荷重の大きさが一定ではなく、その作用位置が変化するものを意味している。このような活荷重が変位する要因としては、橋梁30を通過する車両1の重量のほか、橋梁30そのものの自重、地震によって橋梁30に働く慣性力などが挙げられる。以下の説明では、「変位」と「活荷重変位」を同義として扱う。
【0026】
相関値算出部22は、特徴量変換部21による変換処理で生成された複数の特徴量である傾きおよび活荷重変位のそれぞれについて、センサ間の相関値を算出する。
【0027】
さらに、判定処理部23は、劣化判断指標となるセンサ間の相関値を、センサの配置場所を反映したレイアウト表示と紐付けて表示するための表示情報を生成する。
【0028】
以下では、特徴量として、傾きを用いた場合、活荷重変位を用いた場合、傾きと活荷重変位の両方を用いた場合のそれぞれにおける表示情報の生成方法について詳細に説明する。
【0029】
<ケース1:特徴量として傾きを用いた場合の表示情報の詳細>
図3は、本開示の実施の形態1において、傾きを特徴量とした場合の、センサレイアウト、および各センサの傾きに関する散布図を示した図である。
【0030】
図3(A)は、劣化診断対象である構造物の主桁31a~31cに対して合計9個のセンサが設置された状態を示したセンサレイアウトである。すなわち、図3(A)は、9個のセンサの設置場所を反映したレイアウト表示に相当する。具体的には、主桁31aに3つのセンサ10(1)~10(3)が設置され、主桁31bに3つのセンサ10(4)~10(6)が設置され、主桁31cに3つのセンサ10(7)~10(9)が設置されている場合が例示されている。
【0031】
図3(B)は、各センサ10(1)~10(9)から出力された加速度情報に基づいて、特徴量変換部21により特徴量として算出された傾きに関する散布図を示したものである。図3(B)に示した散布図は、一例として、1時間平均の傾きを約1年半分収集して作成したものである。
【0032】
散布図に示した縦軸および横軸の1~9の数字は、図3(A)に記載したセンサ番号1~9に対応している。対角線上には、各センサからの加速度情報に基づいて算出された傾きに関するヒストグラムが表示されている。また、対角線以外の部分には、一方のセンサの検出結果に基づいて算出された傾きと、もう一方のセンサの検出結果に基づいて算出された傾きとの対応関係をプロットしたものである。
【0033】
例えば、横軸がセンサ1、縦軸がセンサ2のところには、センサ1の検出結果に基づいて算出された1時間平均の傾きを横軸、センサ2の検出結果に基づいて算出された1時間平均の傾きを縦軸として、1年半分のデータをプロットしたものが記載されている。
【0034】
従って、相関値算出部22は、図3(B)に示した散布図に基づいて、傾きに関する2つのセンサ間の相関値を算出することができる。
【0035】
図4は、傾きを特徴量とした場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。具体的には、図4中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図4(A):劣化前の傾きに関する相関行列のヒートマップ表示
図4(B):劣化進行時の傾きに関する相関行列のヒートマップ表示
【0036】
相関行列は、先の図3(B)の散布図に基づいて算出された相関値を数値化して行列形式として表示したものであり、対角線上の要素は自己相関値で1となり、その他の要素は、2つのセンサ間の相関値に相当する。
【0037】
また、相関行列の各要素の相関値について、大小関係を色の濃淡で階調表示したものがヒートマップ表示に相当する。従来技術では、このように相関行列のヒートマップ表示を行うことまでは行われていた。しかしながら、このような表示からは、各センサの実際の配置と関連付けて構造物の劣化状態を把握することが困難であった。
【0038】
すなわち、図4に示した表示内容を視認したオペレータは、劣化前の状態と劣化進行時の状態との階調表示を比較することはできるものの、各センサの実際の配置と関連付けて、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を把握することが困難であった。
【0039】
そこで、本実施の形態1に係る判定処理部23は、劣化判断指標となるセンサ間の相関値を、センサの配置状態を示すレイアウト表示と紐付けて表示するための表示情報を生成する機能を有している。このようにして生成された表示情報を視認したオペレータは、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を容易に把握することができる。そこで、傾きを特徴量として表示情報を生成する機能について、図5を用いて詳細に説明する。
【0040】
図5は、本開示の実施の形態1に係る判定処理部23によって、傾きを特徴量とした場合に生成される表示情報に関する説明図である。具体的には、図5中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図5(A):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化前のセンサ間の傾きに関する相関関係を可視化した表示情報
図5(B):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化進行時のセンサ間の傾きに関する相関関係を可視化した表示情報
【0041】
図5(A)および図5(B)に示すように、判定処理部23は、センサレイアウトに重ねて、センサ間を結ぶ線幅が、相関値が小さいほど細くなるようにして識別表示を行う表示情報を生成する。
【0042】
なお、例えば、傾きについて、センサ間の相関値は、本来、構造物に異常がない限り高い相関値となる。構造物の異常がなく通行車両の交通量にも変化がない限り、例えば、傾きの1時間の平均値に影響を与える要因は気温のみとなる。気温による影響は、同一構造物に設置されたセンサであれば、センサ間の気温差は大きくないため、各センサの傾きの変化度合いはほぼ同等となる。
【0043】
この場合、センサ間の傾きの相関値は高くなる(逆方向への傾き変化であれば逆相関の方向へ高くなる)。一方で、構造物への異常が発生した場合には、温度以外の要因が傾きに影響を及ぼし、その影響度合いはセンサ毎で異なると考えられるため、センサ間の相関が低くなり、無相関に近づく。
【0044】
なお、判定処理部23は、劣化前の各センサ間の相関値に基づいて閾値を設定しておき、劣化診断時において算出された相関値が閾値以下となった場合には、その部分の線色を例えば赤にするなどして、表示情報を生成することもできる。
【0045】
この結果、図5(A)あるいは図5(B)に示す表示情報を視認したオペレータは、線の太さあるいは線の色に着目することで、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を容易に視認できることとなる。
【0046】
<ケース2:特徴量として活荷重変位を用いた場合の表示情報の詳細>
図6は、本開示の実施の形態1において、特徴量として活荷重変位を用いた場合の劣化診断に関する説明図である。具体的には、図6中の(A1)~(A3)および(B1)~(B3)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図6(A1):劣化前における構造物の状態と2つのセンサの位置関係を示した説明図
図6(A2):劣化前において、2つのセンサによる検出結果に基づいて算出された活荷重変位の時系列データ
図6(A3):劣化前において、ある一定期間ごとに活荷重変位の時系列データの中での最大変位量を求め、横軸をセンサ1に関する最大変位量、縦軸をセンサ2の最大変位量としてプロットした、2つのセンサに関する最大変位量の相関関係を示した図
【0047】
図6(B1):劣化進行時における構造物の状態と2つのセンサの位置関係を示した説明図
図6(B2):劣化進行時において、2つのセンサによる検出結果に基づいて算出された活荷重変位の時系列データ
図6(B3):劣化進行時において、ある一定期間ごとに活荷重変位の時系列データの中での最大変位量を求め、横軸をセンサ1に関する最大変位量、縦軸をセンサ2の最大変位量としてプロットした、2つのセンサに関する最大変位量の相関関係を示した図
【0048】
図6では、劣化前の図6(A3)における相関値が0.94であったが、劣化進行時の図6(B3)における相関値が0.69まで減少した場合を例示している。従って、活荷重変位を特徴量とした場合には、一定期間ごとの最大変位量に関して相関関係を求めることで、散布図を得ることができる。
【0049】
図7は、本開示の実施の形態1において、活荷重変位を特徴量とした場合の各センサの最大変位量に関する散布図を示した図である。図7に示した散布図は、一例として、通行車両台数が昼間時に1時間当たり30台ほどの橋梁において、先の図3(A)で示した9個のセンサにより、約1年半にわたって一定期間ごとの最大変位量に関する相関関係をまとめたものである。
【0050】
なお、散布図の意味については、先の図3(B)を用いて説明しており、ここでは省略する。ただし、図7に示した散布図においては、2つのセンサ間の最大変位量に関する回帰直線が追記されている。
【0051】
相関値算出部22は、図7に示した散布図に基づいて、最大変位量に関する2つのセンサ間の相関値を算出することができる。
【0052】
なお、この相関値の意味合いとして、同一構造物に設置されたセンサであれば、各センサの最大変位量は通行車両の重量に応じて一定である。このため、センサ間での最大変位量の相関が高いことは、計測期間内では構造物として劣化などが進行しておらず、安定状態を保っていることを示す。
【0053】
一方、なんらかの損傷が構造物に生じた場合、各センサの最大変位量のバランスが損傷前に対して変化することになる。このため、損傷前の各センサの値も含めると、計測期間全体として相関が低くなっていくことになる。
【0054】
図8は、活荷重変位を特徴量として最大変位量を求めた場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。具体的には、図8中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図8(A):劣化前の最大変位量に関する相関行列のヒートマップ表示
図8(B):劣化進行時の最大変位量に関する相関行列のヒートマップ表示
【0055】
相関行列およびヒートマップ表示の意味については、先の図4(A)、図4(B)を用いて説明しており、ここでは省略する。従来技術では、このように相関行列のヒートマップ表示を行うことまでは行われていた。しかしながら、このような表示からは、各センサの実際の配置と関連付けて構造物の劣化状態を把握することが困難であった。
【0056】
すなわち、図8に示した表示内容を視認したオペレータは、劣化前の状態と劣化進行時の状態との階調表示を比較することはできるものの、各センサの実際の配置と関連付けて、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を把握することが困難であった。
【0057】
そこで、本実施の形態1に係る判定処理部23は、劣化判断指標となるセンサ間の相関値を、センサの配置状態を示すレイアウト表示と紐付けて表示するための表示情報を生成する機能を有している。このようにして生成された表示情報を視認したオペレータは、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を容易に把握することができる。
【0058】
そこで、活荷重変位を特徴量として最大変位量を求めた場合に生成された表示情報について、図9に示す。図9は、本開示の実施の形態1に係る判定処理部23によって、活荷重変位を特徴量として最大変位量を求めた場合に生成される表示情報に関する説明図である。具体的には、図9中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図9(A):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化前のセンサ間の最大変位量に関する相関関係を可視化した表示情報
図9(B):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化進行時のセンサ間の最大変位量に関する相関関係を可視化した表示情報
【0059】
図9(A)および図9(B)に示すように、判定処理部23は、センサレイアウトに重ねて、センサ間を結ぶ線幅が、相関値が小さいほど細くなるようにして識別表示を行う表示情報を生成する。
【0060】
なお、判定処理部23は、劣化前の各センサ間の相関値に基づいて閾値を設定しておき、劣化診断時において算出された相関値が閾値以下となった場合には、その部分の線の色を例えば赤にするなどして、表示情報を生成することができる。
【0061】
この結果、図9(A)あるいは図9(B)に示す表示情報を視認したオペレータは、線の太さあるいは線の色に着目することで、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を容易に視認できることとなる。
【0062】
<ケース3:特徴量として傾きと活荷重変位を用いた場合の表示情報の詳細>
図10は、傾きおよび活荷重変位の2つの特徴量を考慮した場合の従来技術としての表示情報に関する説明図である。具体的には、図10中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図10(A):劣化前の傾きに関する相関行列と、最大変位量に関する相関行列との対応する要素ごとの積あるいは和により求めた相関行列のヒートマップ表示
図10(B):劣化進行時の傾きに関する相関行列と、最大変位量に関する相関行列との対応する要素ごとの積あるいは和により求めた相関行列のヒートマップ表示
【0063】
相関行列およびヒートマップ表示の意味については、先の図4(A)、図4(B)を用いて説明しており、ここでは省略する。従来技術では、1つの特徴量に関する相関行列のヒートマップ表示を行うことまでは行われていた。しかしながら、2つの特徴量を考慮して、それぞれの相関行列の要素ごとの積/和により1つの相関行列を求めることまでは行われていなかった。
【0064】
従って、複数の特徴量を反映した相関行列を見ることはできず、各センサの実際の配置と関連付けて、複数の特徴量に基づく構造物の劣化状態を把握することが困難であった。
【0065】
また、図10に示したように、2つの特徴量を考慮したヒートマップ表示内容を視認したオペレータは、劣化前の状態と劣化進行時の状態との階調表示を比較することはできるものの、各センサの実際の配置と関連付けて、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を把握することが困難であった。
【0066】
そこで、本実施の形態1に係る判定処理部23は、劣化判断指標となるセンサ間の相関値を2つの特徴量を考慮して求め、その相関値をセンサの配置状態を示すレイアウト表示と紐付けて表示するための表示情報を生成する機能を有している。このようにして生成された表示情報を視認したオペレータは、劣化診断対象である構造物に関して、複数の特徴量の変化に基づいて、劣化が進行している範囲を容易に把握することができる。
【0067】
そこで、傾きおよび活荷重変位の2つを特徴量として1つの相関行列を求めた場合に生成された表示情報について、図11に示す。図11は、本開示の実施の形態1に係る判定処理部23によって、傾きおよび活荷重変位の2つの特徴量を考慮した場合に生成される表示情報に関する説明図である。具体的には、図11中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図11(A):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化前のセンサ間の傾きに関する相関行列および最大変位量に関する相関行列の要素ごとの積/和により算出した1つの相関関係を可視化した表示情報
図11(B):図3(A)に示したセンサレイアウトに重ねて、劣化進行時のセンサ間の傾きに関する相関行列および最大変位量に関する相関行列の要素ごとの積/和により算出した1つの相関関係を可視化した表示情報
【0068】
図11(A)および図11(B)に示すように、判定処理部23は、センサレイアウトに重ねて、2つの特徴量を考慮した1つの相関行列に関して、センサ間を結ぶ線幅が、相関値が小さいほど細くなるようにして識別表示を行う表示情報を生成する。
【0069】
なお、判定処理部23は、劣化前の各センサ間の相関値に基づいて閾値を設定しておき、劣化診断時において算出された相関値が閾値以下となった場合には、その部分の線の色を例えば赤にするなどして、表示情報を生成することができる。
【0070】
この結果、図11(A)あるいは図11(B)に示す表示情報を視認したオペレータは、線の太さあるいは線の色に着目することで、2つの特徴量の影響を考慮した上で、劣化診断対象である構造物に関して劣化が進行している範囲を容易に視認できることとなる。
【0071】
なお、図5図9図11に示した表示情報では、センサ間を結ぶ線の太さ、線の色により、劣化範囲を視認可能としていた。しかしながら、本開示における表示情報は線の太さ、線の色による識別表示には限定されない。
【0072】
図12は、本開示の実施の形態1に係る判定処理部23によって構造物の劣化範囲を視認可能とするために生成される、図5図9図11に示した表示情報とは異なる表示情報を示した図である。図12中の(A)および(B)は、それぞれ以下のような図を示したものである。
図12(A):劣化前において、各センサの検出結果から構造物が劣化していないと判断された正常状態を視覚化した表示情報
図12(B):劣化進行時において、各センサの検出結果から構造物の一部の範囲で劣化が進行していると判断された異常状態を視覚化した表示情報
【0073】
判定処理部23は、センサ間を結ぶ線の太さ、線の色を変化させる表示情報を作成する代わりに、図12に示したように、相関値の低下に応じて、対応するセンサ位置に表示する形状の面積を小さくするように変化させる表示情報を作成することができる。
【0074】
また、図5図9および図11において、劣化前の状態のセンサ間を結ぶ線の線幅を0として表示を行わず、相関値が小さくなった場合に線幅を大きくする、あるいは逆に劣化前の状態のセンサ間を結ぶ線の線幅を最大幅として、相関値が小さくなった場合に線幅を小さくするように変化させる表示情報を作成することができる。
【0075】
また、図5図9および図11において、劣化前の状態のセンサ間を結ぶ線に平行して、劣化進行時のセンサ間を結ぶ線を別の色や線種で相関値が小さくなった場合に線幅を小さくするように変化させる表示情報を作成することができる。
【0076】
また、表示情報を作成する際には、相関値の代わりに、相関値を二乗することで算出した決定係数を使用することも可能である。
【0077】
以上のように、実施の形態1によれば、複数のセンサの検出結果からセンサ間の相関を劣化判断指標として求め、さらに、各センサの配置とセンサ間の相関とを関連付けた表示情報を生成することで、構造物の劣化範囲を視覚化できる機能を備えている。また、必要に応じて2つの特徴量に基づく劣化診断を可視化することもできる。
【0078】
換言すると、本実施の形態1に係るセンサコントローラは、レイアウト表示におけるそれぞれ2つのセンサ間をつなぐ線を、相関値の大きさに対応した線幅あるいは線色により識別表示させるように、または、レイアウト表示におけるそれぞれのセンサの大きさを、相関値の大きさに対応したサイズにより識別表示させるようにして、表示情報を生成する機能を有している。
【0079】
この結果、従来技術と比較して、構造物の劣化状態および劣化範囲を視覚的により確実に判断するための表示情報を提供できる劣化診断システムを実現することができる。
【0080】
また、上述した実施の形態1では、加速度情報に基づいて算出される構造物に関する物理量として、傾きおよび活荷重変位の2つを示し、傾きに関する相関行列および最大変位量に関する相関行列の要素ごとの積/和により、1つの相関関係を可視化した表示情報を生成する場合について説明した。しかしながら、3つ以上の物理量のそれぞれに対応する3つ以上の相関行列の要素ごとの積/和により、1つの相関関係を可視化した表示情報を生成することも可能である。
【0081】
すなわち、最小構成としては、2つの相関行列を用いることで、1つの相関関係を可視化した表示情報を生成することができ、これに加えて、3つ目以上の相関行列をさらに用いて、1つの相関関係を可視化した表示情報を生成することも可能であり、同様の効果を実現できる。
【0082】
また、上述した実施の形態1では、センサによる検出結果として加速度情報を用いる場合について説明した。しかしながら、劣化状態を示す物理量を特徴量として算出できる検出結果であれば、加速度情報以外の検出結果を用いることによっても、構造物の劣化範囲を視覚化することができる劣化診断システムを実現することができる。
【0083】
また、上述した実施の形態1では、劣化診断対象が構造物である場合を例に説明したが、劣化診断対象は構造物に限定されるものではない。本開示は、構造物以外を劣化診断対象とした場合にも、劣化範囲を視覚化することができる顕著な効果を実現できる。
【符号の説明】
【0084】
10 センサ、20 センサコントローラ、21 特徴量変換部、22 相関値算出部、23 判定処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12