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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011413
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】シリンダ装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3236 20160101AFI20230117BHJP
   B60T 11/20 20060101ALI20230117BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20230117BHJP
【FI】
F16J15/3236
B60T11/20 A
F16J15/3232 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115249
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】日立Astemo上田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 一洋
(72)【発明者】
【氏名】杉本 耕一
【テーマコード(参考)】
3D047
3J006
【Fターム(参考)】
3D047BB27
3D047CC11
3D047DD03
3D047KK03
3J006AA01
3J006AB06
3J006AE25
3J006AE41
3J006CA01
(57)【要約】
【課題】カップシールのシール機能に影響が生じるのを抑えることができるシリンダ装置を提供する。
【解決手段】シリンダ穴12のシール溝23は、シール溝底面23aとシリンダ穴底部側面23bとシリンダ穴開口部側面23cとを有している。カップシール30Aは、シリンダ穴開口部側面23cに沿って配置される基部31と、基部31の内周部からシリンダ穴底部側面23bに向けて延びピストンの外周面に摺接する内周リップ部32と、基部31の外周部からシリンダ穴底部側面23bに向けて延設されシール溝底面23aに当接する外周リップ部33とを備えている。内周リップ部32の径方向外側となる外面には、カップシール30Aの軸方向に筋状に延びる多数の凹凸をカップシール30Aの周方向に連設してなる凹凸部34が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒状のシリンダ穴と、
前記シリンダ穴に設けられた環状のシール溝と、
前記シール溝内に配置されたカップシールと、
前記シリンダ穴に内挿されたピストンとを備え、
前記シール溝は、シール溝底面と、前記シール溝底面の一端に連続するシリンダ穴底部側面と、前記シール溝底面の他端に連続するシリンダ穴開口部側面とを有し、
前記カップシールは、
前記シリンダ穴開口部側面に沿って配置される基部と、
前記基部の内周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延び、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、前記基部の外周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記シール溝底面に当接する外周リップ部とを備え、
前記内周リップ部の径方向外側となる外面には、前記カップシールの軸方向に筋状に延びる多数の凹凸を前記カップシールの周方向に連設してなる凹凸部が形成されていることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記内周リップ部の外面の全周に亘って形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記凹凸部は、前記外周リップ部が当接した状態で前記外周リップ部との間に作動液が浸入する通路を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
有底円筒状のシリンダ穴と、
前記シリンダ穴に設けられた環状のシール溝と、
前記シール溝内に配置されたカップシールと、
前記シリンダ穴に内挿されたピストンとを備え、
前記シール溝は、シール溝底面と、前記シール溝底面の一端に連続するシリンダ穴底部側面と、前記シール溝底面の他端に連続するシリンダ穴開口部側面とを有し、
前記カップシールは、
前記シリンダ穴開口部側面に沿って配置される基部と、
前記基部の内周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、
前記基部の外周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記シール溝底面に当接する外周リップ部とを備え、
前記カップシールの周方向の所定位置には、前記基部の前記シリンダ穴開口部側面に対向する基部側面から前記外周リップ部の径方向外側となる外周リップ部外面に亘って溝部が形成されており、
前記内周リップ部の径方向外側となる外面には、前記カップシールの軸方向に延びる突条部が形成されており、
前記溝部と前記突条部とは、前記カップシールの径方向に重なる位置に配置されていることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項5】
前記シリンダ装置は、車両用液圧マスタシリンダであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシリンダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シリンダ穴内にカップシールを介してピストンを移動可能に内挿したシリンダ装置が開示されている。
特許文献1のシリンダ装置では、シリンダ穴の内周面に形成された環状のシール溝にカップシールが嵌着されている。カップシールは、シリンダ穴とピストンとの間をシールしている。
【0003】
カップシールは、基部と、基部に連続する内周リップ部及び外周リップ部を備えている。基部は、シール溝内のシリンダ穴開口部側に配置されている。内周リップ部は、基部の内周側からシリンダ穴底部に向けて延設されており、内周面がピストン(プランジャ)の外周面に摺動可能に当接している。外周リップ部は、基部の外周側からシリンダ穴底部に向けて延設されており、外周面がシール溝底面に当接している。
【0004】
内周リップの外周面上には、周方向に所定の間隔を空けて突起が形成されている。突起は、内周リップと外周リップとの間に介在し、外周リップが背圧を受けて撓んだ場合に、内周リップに対して張り付くことを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-186925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように特許文献1では、外周リップが内周リップに対して張り付くことを突起により防止している。しかしながら、ブレーキ液の交換作業時等には通常のブレーキ操作時よりも大きな背圧が外周リップに作用することがあり、そのような場合にはカップシールに負荷がかかってしまい、カップシールのシール機能に影響を与えるおそれがある。
【0007】
本発明は、前記した課題を解決し、通常使用時に想定される背圧よりも大きな背圧が作用したときでもカップシールのシール機能に影響が生じるのを抑えることができるシリンダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、有底円筒状のシリンダ穴と、前記シリンダ穴に設けられた環状のシール溝と、前記シール溝内に配置されたカップシールと、前記シリンダ穴に内挿されたピストンとを備えている。前記シール溝は、シール溝底面と、前記シール溝底面の一端に連続するシリンダ穴底部側面と、前記シール溝底面の他端に連続するシリンダ穴開口部側面とを有している。前記カップシールは、前記シリンダ穴開口部側面に沿って配置される基部と、前記基部の内周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延び、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、前記基部の外周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記シール溝底面に当接する外周リップ部とを備えている。前記内周リップ部の径方向外側となる外面には、前記カップシールの軸方向に筋状に延びる多数の凹凸を前記カップシールの周方向に連設してなる凹凸部が形成されている。
【0009】
本発明では、外周リップ部が外圧を受けて内周リップ部に向けて撓んだ場合に、外周リップ部が凹凸部を介して内周リップ部に当接する状態となる。したがって、本発明では、通常使用時に想定される背圧よりも大きな背圧が作用したときでも外周リップ部が内周リップ部に張り付き難くなる。これとともに、凹凸部は、カップシールの軸方向に筋状に延びる多数の凹凸をカップシールの周方向に連設してなる構成であるので、内周リップ部の局部的な剛性変化を抑えることができる。したがって、シール機能に影響が出るのを抑えることができる。
【0010】
また、前記凹凸部は、前記内周リップ部の外面の全周に亘って形成されていることが好ましい。
この構成では、内周リップ部の全周に亘って外周リップ部が張り付き難くなるので、カップシールのシール機能に影響が生じるのをより効果的に抑えることができる。
また、内周リップ部の剛性が全周均一となるので、シール機能も全周均一になる。
【0011】
また、前記凹凸部は、前記外周リップ部が当接した状態で前記外周リップ部との間に作動液が浸入する通路を形成することが好ましい。
この構成では、外周リップ部と内周リップ部との間に作動液の浸入する通路を確保できるので、外周リップ部が内周リップ部に張り付くのを確実に防止できるとともに、カップシールのシール機能に影響が生じるのを確実に抑えることができる。
【0012】
また、前記課題を解決するため、本発明のシリンダ装置は、有底円筒状のシリンダ穴と、前記シリンダ穴に設けられた環状のシール溝と、前記シール溝内に配置されたカップシールと、前記シリンダ穴に内挿されたピストンとを備えている。前記シール溝は、シール溝底面と、前記シール溝底面の一端に連続するシリンダ穴底部側面と、前記シール溝底面の他端に連続するシリンダ穴開口部側面とを有している。前記カップシールは、前記シリンダ穴開口部側面に沿って配置される基部と、前記基部の内周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記ピストンの外周面に摺接する内周リップ部と、前記基部の外周部から前記シリンダ穴底部側面に向けて延設され、前記シール溝底面に当接する外周リップ部とを備えている。そして、前記カップシールの周方向の所定位置には、前記基部の前記シリンダ穴開口部側面に対向する基部側面から前記外周リップ部の径方向外側となる外周リップ部外面に亘って溝部が形成されている。前記内周リップ部の径方向外側となる外面には、前記シリンダ穴の軸線方向に延びる突条部が形成されている。前記溝部と前記突条部とは、前記カップシールの径方向に重なる位置に配置されている。
【0013】
本発明では、カップシールが背圧を受けた場合に、溝部を通じて作動液が流れるため、溝部が形成された箇所で最初に外周リップ部が内周リップ部に向けて撓み易くなる。これにより、外周リップ部を突条部に好適に当接させることができる。したがって、突条部の側方に作動液の流れる通路が形成され、外周リップ部が内周リップ部に張り付き難くなるとともに、カップシールのシール機能に影響が生じるのを抑えることができる。
【0014】
また、前記シリンダ装置は、車両用液圧マスタシリンダであることが好ましい。
この構成では、外周リップ部が背圧を受けて内周リップ部に向けて撓んだ場合に、外周リップ部が内周リップ部に張り付き難くなるとともに、カップシールのシール機能に影響が生じるのを抑えることができ、車両用液圧マスタシリンダに好適なシリンダ装置が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリンダ装置によれば、カップシールのシール機能に影響が生じるのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置を適用した車両用液圧マスタシリンダを示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置を適用した車両用液圧マスタシリンダの部分拡大断面図ある。
図3】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの斜視図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの正面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの背面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの一部を断面で示す斜視図である。
図7】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの要部の拡大断面図である。
図8】本発明の第1実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの作用説明図である。
図9】本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの斜視図である。
図10】本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの正面図である。
図11】本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの一部を断面で示す斜視図である。
図12】本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールの要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本発明の実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。本発明のシリンダ装置は、自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)のほか、自動四輪車等の各種車両に適用可能である。以下の説明では、シリンダ装置をプランジャタイプの車両用液圧マスタシリンダに適用した例を示す。以下の説明において、シリンダ装置の上下左右を言うときは、便宜上、図1に示す方向を基準とするが、車両に対するシリンダ装置の上下左右を特定する趣旨ではない。なお説明において、同一の要素には同一の符号を用い、重複する説明は省略する。
【0018】
(第1実施形態)
はじめに、本実施形態のシリンダ装置が適用される車両用液圧マスタシリンダ(以下、「マスタシリンダ」という)1について説明する。
図1に示すように、マスタシリンダ1は、シリンダ本体11の内部に部品を組み付けることにより構成されている。シリンダ本体11は、例えば、アルミニウム合金製の鋳造品である。シリンダ本体11の内部には、有底円筒状のシリンダ穴12が形成されている。シリンダ本体11の上部には、一対のボス部11a,11aが突設されている。一方のボス部11aには、第1液通孔13が設けられており、他方のボス部11aには、第2液通孔14が設けられている。第1液通孔13および第2液通孔14は、いずれもシリンダ穴12に連通している。両ボス部11aには、グロメットシール15を介してリザーバタンク16が取り付けられている。
【0019】
シリンダ穴12には、ピストンとしての第1プランジャ21と第2プランジャ22とが底部側から間隔を空けて摺動可能に内挿されている。シリンダ穴12の底面12aと第1プランジャ21との間には、第1圧力室21aが形成されている。第1圧力室21aには、コイルばね21bを有する第1スプリング機構21cが介設されている。シリンダ穴12には、第1圧力室21aに連通する不図示の第1出力ポートが形成されている。
【0020】
第1プランジャ21と第2プランジャ22との間には、第2液圧室22aが形成されている。第2液圧室22aには、コイルばね22bを有する第2スプリング機構22cが介設されている。シリンダ穴12には、第2液圧室22aに連通する不図示の第2出力ポートが形成されている。第1プランジャ21には、第1プランジャ21の内外を貫通する小径の連通ポート21eが形成されている。また、第2プランジャ22には、第2プランジャ22の内外を貫通する小径の連通ポート22eが形成されている。
【0021】
第2プランジャ22の端部は、プッシュロッドP1を介して不図示のブレーキペダルに連結されている。第1プランジャ21及び第2プランジャ22は、ブレーキペダルの踏力を受けてシリンダ穴12内を摺動し、両圧力室21a,22a内のブレーキ液を加圧する。両圧力室21a,22a内で加圧されたブレーキ液は、第1,第2出力ポートを通じて出力される。第1,第2出力ポートには、不図示の液圧路がそれぞれ接続され、各液圧路は下流側の液圧制御装置等に接続されている。
【0022】
第1プランジャ21の周囲には、カップシール30A,30Bが配置されており、また、第2プランジャ22の周囲には、カップシール30C,30Dが配置されている。カップシール30A,30Bは、第1液通孔13の開口を挟んでシリンダ穴12の軸方向両側に形成された環状のシール溝23,24に嵌着されている。一方、カップシール30C,30Dは、第2液通孔14の開口を挟んでシリンダ穴12の軸方向両側に形成された環状のシール溝25,26に嵌着されている。
これらのカップシール30A~30Dのうち、シール溝23及びシール溝25に配置されるカップシール30A,30Cが、本発明を適用したものである。これ以外のシール溝24及びシール溝26に配置されるカップシール30B,30Dは、周知のカップシールである。
【0023】
以下の説明では、両カップシール30A,30Cが同一の構造を有することから、図2図6を参照して第1プランジャ21側のシール溝23及びカップシール30Aについて詳細に説明し、第2プランジャ22側のシール溝25及びカップシール30Cについての説明及び図示は省略する。
【0024】
シール溝23は、図2に示すように、シール溝底面23aと、シリンダ穴底部側面23bと、シリンダ穴開口部側面23cと、第1プランジャ21側に開口したシール溝開口23dとを有する環状溝である。シリンダ穴底部側面23bは、シール溝底面23aのシリンダ穴底部側となる一端に連続する面である。シリンダ穴底部側面23bは、シール溝底面23aからシール溝23の開口(シリンダ穴12の内周面)に向けてシリンダ穴底部側へ漸次傾斜する傾斜面とされている。シリンダ穴開口部側面23cは、シール溝底面23aのシリンダ穴開口部側となる他端に連続する面である。シリンダ穴開口部側面23cは、シリンダ穴12の軸線に直交する直交面とされている。
【0025】
カップシール30Aは、基部31と、内周リップ部32と、外周リップ部33とを備えている。基部31は、シール溝23のシリンダ穴開口部側面23cに沿って延在しており、軸方向に所定の厚さを有している。基部31の外周部は、シリンダ穴開口部側面23c向けて突出しており、その基部側面となる対向面31aがシリンダ穴開口部側面23cに面接触している。これに対して、基部31の内周部は、シリンダ穴開口部側面23cから離間しており、その基部側面となる対向面31bがシリンダ穴開口部側面23cとの間に隙間S1を形成している。この隙間S1は、マスタシリンダ1の非作動状態で形成されるものである。マスタシリンダ1の作動状態では、第1液圧室21aの液圧上昇により基部31が変形してシリンダ穴開口部側面23cに基部31の内周部が圧接する。これにより、隙間S1が閉じられる。
【0026】
基部31の対向面31bには、外周リップ部33の径方向外側となる外面に亘って延びる溝部31cが形成されている。溝部31cは、図5に示すように、カップシール30Aの周方向に間隔を空けて複数個(本実施形態では計5個)形成されている。
【0027】
内周リップ部32は、基部31の内周部からシール溝23のシリンダ穴底部側面23bに向けて延在しており、径方向に所定の厚さを有している。内周リップ部32の径方向の厚さ寸法は、外周リップ部33の径方向の厚さ寸法よりも大きく形成されている。内周リップ部32の先端部には、弾性突片32aが一体に形成されている。弾性突片32aは、図3に示すように、内周リップ部32の周方向に所定の間隔を空けて複数個(本実施形態では計5個)形成されている。
基部31の対向面31aから弾性突片32aの先端部までの長さ寸法は、シール溝23の軸方向の長さ寸法よりも大きく形成されている。これにより、各弾性突片32aは、シール溝開口23dの開口縁に弾性をもって当接する(図2ではその一部を図示)。
【0028】
内周リップ部32の内周面は、図2に示すように、第1プランジャ21の外周面に摺接している。内周リップ部32の内周面には、図7に示すように、第1プランジャ21の外周面に平行な円筒面32bと、円筒面32bに対して径方向内側に傾斜する傾斜面32cとが形成されている。傾斜面32cは、カップシール30Aをシール溝23に嵌着してシリンダ穴12に第1プランジャ21を内挿したときに、弾性変形する弾性突片32aの復元力を受けて第1プランジャ21の外周面に確実に当接する。傾斜面32cには、第1プランジャ21との摺動抵抗を低減するための複数の環状溝32dが周方向に並設されている。
【0029】
内周リップ部32の径方向外側となる外周面(外面)には、凹凸部34が形成されている。凹凸部34は、カップシール30Aの軸方向に筋状に延びる多数の凹凸をカップシール30Aの周方向に連設して形成されたものである。具体的に、凹凸部34は、断面略半円形状の複数の凸部と複数の凹部とを周方向に交互に連続して設けたものであり、正面視波形を呈している(図4参照)。本実施形態の凹凸部34の凸部の頂面および凹部の底面は、曲面で形成されている。複数の凸部は、外周リップ部33が背圧を受けて撓んだ際に外周リップ部33の内面が当接する当接部として機能する。また、複数の凹部は、外周リップ部33が背圧を受けて撓んだ際に、外周リップ部33の内面との間に隙間を画成してブレーキ液の流路を確保する隙間形成部として機能する。
【0030】
本実施形態では、凹凸部34の凸部の高さ(凹部の底からの高さ)Hと、隣り合う凸部同士の間隔Lとの比であるH:Lが、例えば、略1:2に設定されている。これにより、凹凸面の隙間によってブレーキ液の流路を確保しやすくしている。なお、H:Lの比は、前記した1:2の比に限られることはなく、後記する本発明の作用効果が得られる範囲で適宜設定することができる。
【0031】
なお、カップシール30Aは、第1プランジャ21の外周面への当接力が、基部31と内周リップ部32との角部32eで極大となるように構成されている。
【0032】
次に、マスタシリンダ1の作用について説明する。非ブレーキ作動時は、第1プランジャ21及び第2プランジャ22が、第1スプリング機構21c、第2スプリング機構22cの弾発力によって図1に示す位置に配置されている。この位置では、リザーバタンク16と第1液圧室21aとが、第1液通孔13、連通ポート21eを通じてブレーキ液の流通が可能であり、また、リザーバタンク16と第2液圧室22aとが、第2液通孔14、連通ポート22eを通じてブレーキ液の流通が可能である。そして、図2に示すように、カップシール30Aの基部31の対向面31bとシール溝23のシリンダ穴開口部側面23cとは離間しており、隙間S1が形成されている。
【0033】
一方、ブレーキ作動時にブレーキペダルの操作でプッシュロッドP1が押し込まれると、第2プランジャ22が、第2液圧室22aのコイルバネ22bを圧縮しながらシリンダ穴12を底部方向へ移動するとともに、第1プランジャ21が、第1液圧室21aのコイルバネ21bを圧縮しながらシリンダ穴12を底部方向に移動する。
【0034】
このとき、第2液圧室22a側では、第2プランジャ22の移動に伴って、連通ポート22eがカップシール30Cの内周リップ部32で塞がれた状態となり、第2液圧室22aに液圧が発生する。第2液圧室22aで発生したブレーキ液の液圧は、第2出力ポートを通じてブレーキ系統に供給される。なお、連通ポート22eがカップシール30Cの内周リップ部32で塞がれる際に、連通ポート22eの開口縁にカップシール30Cの角部32eがしっかりと密着するため、第2液圧室22aとリザーバタンク16との連通を確実に遮断でき、液圧を早期に発生させることができる。
【0035】
また、第1液圧室21a側では、第1プランジャ21の移動に伴って、連通ポート21eがカップシール30Aの内周リップ部32で塞がれた状態となり、第1液圧室21aに液圧が発生する。第1液圧室21aで発生したブレーキ液の液圧は、第1出力ポートを通じてブレーキ系統に供給される。この場合にも、連通ポート21eがカップシール30Aの内周リップ部32で塞がれる際に、連通ポート21eの開口縁にカップシール30Aの角部32eがしっかりと密着するため、第1液室21aとリザーバタンク16との連通を確実に遮断でき、液圧を早期に発生させることができる。
【0036】
次に、第1液圧室21aで液圧が発生した際のカップシール30Aの作用について説明する。第1液圧室21aに液圧が発生し始めると、発生した液圧により、カップシール30Aには、基部31、内周リップ部32及び外周リップ部33を内側から押し広げる力が作用する。これにより、基部31がシリンダ穴開口部側面23cに押し付けられ、内周リップ部32が第1プランジャ21の外周面に押し付けられ、さらに外周リップ部33がシール溝底面23aに押し付けられる。基部31がシリンダ穴開口部側面23cに押し付けられることで、基部31とシリンダ穴開口部側面23cとの間に形成されていた隙間S1が閉じられる。このとき、基部31の内周部は、径方向内側に伸長するように変形し、第1プランジャ21の外周面に角部32eを押し付ける。この場合、角部32eはシリンダ穴開口部側面23cにも圧接して両面の間に面圧が発生するが、この面圧は、基部31の対向面31bとシリンダ穴開口部側面23cとの間に生じている面圧よりも小さいため、基部31の内周部が径方向内側に伸長する変形が阻害されることがない。
【0037】
したがって、第1プランジャ21が連通ポート21eを遮断し、ブレーキが昇圧し始めた時点から、第1プランジャ21の角部32eを第1プランジャ21の外周面にスムーズに押し付けることができる。これにより、カップシール30Aと第1プランジャ21との間の面圧が適正化され、安定したシール力が得られる。さらに、第1プランジャ21の移動速度が遅い場合でも、無効ストロークが大きくなることを防止でき、良好な操作フィーリングが得られる。また、第1液圧室21aの液圧の上昇に伴い、内周リップ部32の内周面の傾斜面32cが第1プランジャ21の外周面に押し付けられるので、シール性が向上する。
【0038】
さらに、内周リップ部32の弾性突片32aが第1プランジャ21側に撓んだ状態でシール溝23のシリンダ穴底部側面23bに当接しているので、カップシール30Aの軸方向の移動が規制され、無効ストロークが大きくなったり、ばらついたりすることが防止される。また、内周リップ部32の弾性突片32aの撓みに対する反力によって、内周リップ部32が第1プランジャ21側に付勢された状態となり、シール性を確保することができる。
【0039】
次に、マスタシリンダ1内で負圧が発生した際のカップシール30Aの作用について、図8を参照して説明する。
ブレーキペダルによるブレーキ操作を解除した場合等に、シリンダ穴12内で第1プランジャ21及び第2プランジャ22が急に戻されることがある。このような場合に、第1液圧室21a内及び第2液圧室22a内で負圧が発生する。
第1液圧室21a内及び第2液圧室22a内で負圧が発生すると、これを解消するためにリザーバタンク16側からブレーキ液が補給される。
【0040】
例えば、図8に示すように、第1液圧室21a側では、リザーバタンク16からのブレーキ液が図中太線矢印に示すように、第1液通孔13を通じてシール溝23内に流入する。シール溝23内に流入したブレーキ液は、カップシール30Aの基部31とシール溝23のシリンダ穴開口部側面23cとの間を通じてシール溝底面23aに向けて流れ、その後、外周リップ部33の外周面とシール溝底面23aとの間を流れてシリンダ穴底部側面23bに向けて流れる。なお、ブレーキ液は、最初に溝部31cを通じてシリンダ穴底部側面23bに流れ易くなっている。
【0041】
シリンダ穴底部側面23bに向けて流れたブレーキ液は、外周リップ部33を内周リップ部32に向けて撓ませながら、内周リップ部32の弾性突片32aに向けて流れ、弾性突片32aの側方スペース32a1(図3参照)を通じてシール溝開口23dに流入する。その後、ブレーキ液は、シール溝開口23dからシリンダ穴12に形成されたシール溝通路23fを通じて第1液圧室21aに流入する。
【0042】
このようなブレーキ液の補給の過程で、カップシール30Aの外周リップ部33が内周リップ部32に向けて撓み、外周リップ部33が内周リップ部32に一時的に当接する状態となることがある。例えば、ブレーキ液交換時等において、ハイブリーダー(ブレーキ液交換機)を使用しながらペダルをポンピングすると、通常よりも大きな背圧(外圧)が発生する場合があり、このような場合に、外周リップ部33が内周リップ部32に一時的に当接する状態となる。
【0043】
この場合、内周リップ部32の外周面には、凹凸部34が形成されているので、複数の凸部に対して外周リップ部33の内周面が当接する状態となり、外周リップ部33が内周リップ部32に密着することが回避される。このように当接した状態では、外周リップ部33と内周リップ部32との間に凹部によるブレーキ液の流通が可能な通路が形成されるので、外周リップ部33と内周リップ部32とで囲われる内部に負圧が発生すること(容積変化による内圧低下が生じること)が防止される。したがって、その後に、外周リップ部33を内周リップ部32に向けて撓ませる背圧が開放されると、外周リップ部33は、その復元力により内周リップ部32から離れて元の位置に戻る。
【0044】
以上説明した本実施形態によれば、外周リップ部33が背圧を受けて内周リップ部32に向けて撓んだ場合に、外周リップ部33が凹凸部34を介して内周リップ部32に当接する状態となる。したがって、通常使用時に想定される背圧よりも大きな背圧が作用したときでも、外周リップ部33が内周リップ部32に張り付き難くなる。これとともに、凹凸部34は、シリンダ穴12の軸方向に筋状に延び、シリンダ穴12の周方向に多数の細かい凹凸が連続する構成であるので、内周リップ部32の局部的な剛性変化を抑えることができる。したがって、シール機能に影響が出るのを抑えることができる。
【0045】
また、凹凸部34は、内周リップ部32の外周面の全周に亘って形成されているので、内周リップ部32の全周に亘って外周リップ部33が張り付き難くなる。したがって、カップシール30A,30Cのシール機能に影響が生じるのをより効果的に抑えることができる。
また、内周リップ部32の剛性が全周均一となるので、シール機能も全周均一となる。
【0046】
また、凹凸部34により、外周リップ部33と内周リップ部32との間にブレーキ液の浸入する通路を確保できるので、外周リップ部33が内周リップ部32に張り付くのを確実に防止できるとともに、カップシール30A,30Cのシール機能に影響が生じるのを確実に抑えることができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、図9図12を参照して本発明の第2実施形態に係るシリンダ装置に用いられるカップシールについて説明する。本実施形態のカップシール30Aが前記第1実施形態のものと異なるところは、凹凸部34に代えて、溝部31cの形成位置に対応して内周リップ部32の外周面に突条部35を設けた点であり、第1実施形態と共通する部分は同一である。
【0048】
図9図10に示すように、突条部35は、内周リップ部32の外周面に所定の間隔を空けて複数個(本実施形態では計5個)設けられている。各突条部35は、図9図11に示すように、カップシール30Aの軸方向に延びており、内周リップ部32の径方向外側に突出する所定の突出高さを有している。各突条部35は、カップシール30Aの径方向において各溝部31cに重なる位置(対応する位置)に配置されている(図9図12参照)。
なお、各突条部35は、内周リップ部32において弾性突片32aが設けられていない位置に形成されている。これにより、弾性突片32aの弾性変形に突条部35の剛性が影響を及ぼさない構成となっている。したがって、弾性突片32aの弾性変形が好適に確保されている。
【0049】
次に、マスタシリンダ1内で負圧が発生した際のカップシール30Aの作用について、図1図8も適宜参照して説明する。
第1実施形態と同様に、ブレーキペダルによるブレーキ操作を解除すること等により第1液圧室21a内及び第2液圧室22a内で負圧が発生すると、これを解消するためにリザーバタンク16側からブレーキ液が補給される。
このようなブレーキ液の補給の過程で、前記と同様にカップシール30Aの外周リップ部33が内周リップ部32に向けて撓み、外周リップ部33が内周リップ部32に一時的に当接する状態となることがある。例えば、ブレーキ液交換時等において、ハイブリーダー(ブレーキ液交換機)を使用しながらペダルをポンピングすると、通常よりも大きな背圧(外圧)が発生する場合があり、このような場合に外周リップ部33が内周リップ部32に一時的に当接する状態となる。
【0050】
この場合にも、第1液圧室21a側では、補給されたブレーキ液が第1液通孔13を通じてシール溝23内に流入する。シール溝23内に流入したブレーキ液は、カップシール30Aの基部31とシール溝23のシリンダ穴開口部側面23cとの間を通じてシール溝底面23aに向けて流れる。その際、ブレーキ液は最初に溝部31cを通じて基部31の側面から外周リップ部33の外面に流れる。つまり、流れ込み易い溝部31cに対応する部分から外周リップ部33が内周リップ部32に向けて撓み始める。
【0051】
内周リップ部32には、溝部31cに重なる位置に突条部35が設けられているので(図11図12参照)、突条部35に対して外周リップ部33の撓んだ部分が当接する状態となり、外周リップ部33が内周リップ部32に密着することが早期に回避される。このように当接した状態では、突条部35の両側にブレーキ液の流通が可能な通路が形成されるので、外周リップ部33と内周リップ部32とで囲われる内部に負圧が発生すること(容積変化による内圧低下が生じること)が防止される。したがって、その後に、外周リップ部33を内周リップ部32に向けて撓ませる背圧が開放されると、外周リップ部33は、その復元力により内周リップ部32から離れて元の位置に戻る。
【0052】
以上説明した本実施形態によれば、カップシール30A,30Cが背圧を受けた場合に、溝部31cを通じてブレーキ液が流れるため、溝部31cが形成された箇所で最初に外周リップ部33が内周リップ部32に向けて撓み易くなる。これにより、外周リップ部33を突条部35に好適に当接させることができる。したがって、突条部35の側方にブレーキ液の流れる通路が形成され、外周リップ部33が内周リップ部32に張り付き難くなるとともに、カップシール30A,30Cのシール機能に影響が生じるのを抑えることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
前記第1実施形態では、凹凸部34を内周リップ部32の外周面の全周に亘って形成したが、これに限られることはなく、内周リップ部32の外周面の所定の範囲に設けたものであってもよい。この場合にも、凹凸部34の凸部の高さ(凹部の底からの高さ)Hと、隣り合う凸部同士の間隔Lとの比であるH:Lは、本発明の作用効果が得られる範囲で適宜設定することができる。
【0054】
また、凹凸部34は、断面略半円形状の複数の凸部と複数の凹部とが周方向に交互に連続する形状のものを示したが、これに限られることはなく、断面がギザギザの山谷形状や、断面が四角形状の山谷形状であってもよく、適宜の形状のものを採用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 マスタシリンダ(シリンダ装置)
12 シリンダ穴
12a 底面
21 第1プランジャ(ピストン)
22 第2プランジャ(ピストン)
23 シール溝
23a シール溝底面
23b シリンダ穴底部側面
23c シリンダ穴開口部側面
23d シール溝開口
25 シール溝
30A カップシール
30C カップシール
31 基部
31c 溝部
32 内周リップ部
33 外周リップ部
34 凹凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12