(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114134
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】バックル装置
(51)【国際特許分類】
A44B 11/26 20060101AFI20230809BHJP
B60R 22/18 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
A44B11/26
B60R22/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016297
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 拓志
(72)【発明者】
【氏名】久保 滋比古
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】梅林 和輝
【テーマコード(参考)】
3B090
3D018
【Fターム(参考)】
3B090BC05
3B090BC27
3D018BA12
(57)【要約】
【課題】慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレートの係合の解除を確実に防止可能なバックル装置を提供する。
【解決手段】バックル装置は、バックル本体、作動部材3および慣性部材9を含む。慣性部材9は、タングプレート15の幅方向に延びる回動中心軸90回りに回動可能に支持される。作動部材3は、タングプレート25の係合状態において、慣性部材9の第1レバー94と第1接触部31で接触可能であるとともに慣性部材9の第2レバー93と第2接触部32で接触可能である。第1レバー94は、作動部材3にA方向の第1慣性力FAが作用したときに第1接触部31にB方向の第1押圧力Fbであって第1慣性力FAよりも大きな第1押圧力Fbを付与する。第2レバー93は、作動部材3にB方向の第2慣性力FBが作用したときに第2接触部32にA方向の第2押圧力Faであって第2慣性力FBよりも小さな第2押圧力Faを付与する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートベルトに設けられたタングプレートが挿入され、挿入された前記タングプレートと着脱可能に係合するバックル装置であって、
中空のバックル本体と、
前記バックル本体内で前記タングプレートの挿入方向にスライド可能に支持され、前記タングプレートの係合を解除する解除操作に応じて作動する作動部材と、
前記バックル本体内で前記タングプレートの幅方向に延びる回動中心軸回りに回動可能に支持される慣性部材と、を備え、
前記慣性部材は、前記回動中心軸が貫通する本体部と、前記回動中心軸から離れる方向に前記本体部から突出する、前記回動中心軸の延在方向から見たときに前記タングプレートの挿入方向に所定間隔で並ぶ第1レバーおよび第2レバーを有し、
前記第1レバーは、前記第2レバーよりも前記タングプレートの挿入方向で前記バックル本体の奥側に位置し、
前記作動部材は、前記タングプレートの係合状態において、前記第1レバーと第1接触部で接触可能であるとともに前記第2レバーと第2接触部で接触可能であり、
前記第1接触部および前記第2接触部は、前記タングプレートの係合状態では前記タングプレートの挿入方向において前記第1レバーと前記第2レバーとの間に位置し、前記タングプレートの係合を解除する際には、前記慣性部材の回動に伴って前記第1レバーと前記第2レバーとの間から離脱する方向に移動し、
前記第1レバーは、前記タングプレートの係合状態において前記タングプレートの挿入方向の第1慣性力が前記作動部材に作用したときに前記第1接触部に前記タングプレートの挿入方向と反対方向の第1押圧力であって前記第1慣性力よりも大きな第1押圧力を付与し、
前記第2レバーは、前記タングプレートの係合状態において前記タングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が前記作動部材に作用したときに前記第2接触部に前記タングプレートの挿入方向の第2押圧力であって前記第2慣性力よりも小さな第2押圧力を付与することを特徴とするバックル装置。
【請求項2】
前記タングプレートの厚さ方向において、前記慣性部材の回動中心軸から前記第1接触部と第1レバーの接触点までの第1距離は、前記慣性部材の回動中心軸から前記第2接触部と第2レバーの接触点までの第2距離よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載のバックル装置。
【請求項3】
前記タングプレートの係合状態において、前記タングプレートの挿入方向と第1レバーの前記第1接触部側の面とがなす第1角度は、前記タングプレートの挿入方向の反対方向と第2レバーの前記第2接触部側の面とがなす第2角度よりも大きいことを特徴とする、請求項1にまたは2に記載のバックル装置。
【請求項4】
前記解除操作を受ける解除ボタンと、
前記バックル本体内に挿入される前記タングプレートと係合する係合部材と、
前記係合部材が前記タングプレートに係合した際に、ロック方向へ作動して、前記係合部材の係合が解除されるのを抑制し、前記解除ボタンが前記バックル本体の奥側に作動した際に、前記ロック方向とは反対方向へ作動して、前記係合部材の係合が解除されるのを許容するロック部材と、を備え、
前記作動部材は、前記解除ボタンまたは前記ロック部材の少なくとも一方であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のバックル装置。
【請求項5】
前記作動部材は前記解除ボタンと前記ロック部材の双方であり、前記第1接触部は前記ロック部材に設けられ、前記第2接触部は前記解除ボタンに設けられることを特徴とする、請求項4に記載のバックル装置。
【請求項6】
前記解除ボタンは、前記タングプレートの挿入方向と反対方向に付勢されており、
前記タングプレートが前記バックル本体内に挿入されていない状態で、前記第1レバーが前記ロック部材と接触し、かつ前記第2レバーが前記解除ボタンと接触することを特徴とする、請求項5に記載のバックル装置。
【請求項7】
前記タングプレートの係合状態において、前記第1レバーおよび前記第2レバーが記回動中心軸に対して前記タングプレートと反対側に位置することを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載のバックル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置の構成要素であるバックル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両のシートベルト(ウエビングともいう)に設けられたタングプレートが挿入され、挿入された前記タングプレートと着脱可能に係合するバックル装置が知られている。例えば、特許文献1には、
図15(a)に示すような、慣性力によりタングプレート110の係合が解除されることを防止するバックル装置100が開示されている。
【0003】
具体的に、特許文献1に開示されたバックル装置100では、図略の中空のバックル本体内にメカニカルアセンブリ120が配置される。メカニカルアセンブリ120は、タングプレート110の係合を解除する解除操作を受ける解除ボタン130と、慣性部材140を含む。
【0004】
慣性部材140は、回動中心軸150回りに回動可能である。
図15(b)に示すように、解除ボタン130における慣性部材140の回動中心軸150とタングプレート110の間に位置する部分には、タングプレート110の厚さ方向に開口するスロット131が設けられている。慣性部材140は、回動中心軸150からスロット131に向かって突出するレバー141を有し、レバー141の先端がスロット131内に挿入されている。慣性部材140の重心は、回動中心軸150に対してレバー141と反対側に設定されている。
【0005】
タングプレート110の係合状態において、バックル装置100にタングプレート110の挿入方向であるA方向と反対方向であるB方向の加速度が生じることによって、解除ボタン130にA方向の慣性力が作用した場合には、慣性部材140にもA方向の慣性力が作用して、慣性部材140に回動中心軸150回りのトルクが生じる。このため、解除ボタン130が慣性部材140のレバー141によってB方向に押圧される。このときの押圧力が解除ボタン130の慣性力よりも大きくなるように慣性部材140を構成することで、解除ボタン130にA方向の慣性力が作用したときの解除ボタン130の作動が慣性部材140によって阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国実用新案第9202526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のバックル装置100では、解除ボタン130にB方向の慣性力が作用したときにも、解除ボタン130の慣性力よりも大きな押圧力で慣性部材140のレバー141が解除ボタン130をA方向に押圧するので、慣性部材140によって解除ボタン130が作動させられるおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレートの係合の解除を確実に防止可能なバックル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車両のシートベルトに設けられたタングプレートが挿入され、挿入された前記タングプレートと着脱可能に係合するバックル装置であって、中空のバックル本体と、前記バックル本体内で前記タングプレートの挿入方向にスライド可能に支持され、前記タングプレートの係合を解除する解除操作に応じて作動する作動部材と、前記バックル本体内で前記タングプレートの幅方向に延びる回動中心軸回りに回動可能に支持される慣性部材と、を備え、前記慣性部材は、前記回動中心軸が貫通する本体部と、前記回動中心軸から離れる方向に前記本体部から突出する、前記回動中心軸の延在方向から見たときに前記タングプレートの挿入方向に所定間隔で並ぶ第1レバーおよび第2レバーを有し、前記第1レバーは、前記第2レバーよりも前記タングプレートの挿入方向で前記バックル本体の奥側に位置し、前記作動部材は、前記タングプレートの係合状態において、前記第1レバーと第1接触部で接触可能であるとともに前記第2レバーと第2接触部で接触可能であり、前記第1接触部および前記第2接触部は、前記タングプレートの係合状態では前記タングプレートの挿入方向において前記第1レバーと前記第2レバーとの間に位置し、前記タングプレートの係合を解除する際には、前記慣性部材の回動に伴って前記第1レバーと前記第2レバーとの間から離脱する方向に移動し、前記第1レバーは、前記タングプレートの係合状態において前記タングプレートの挿入方向の第1慣性力が前記作動部材に作用したときに前記第1接触部に前記タングプレートの挿入方向と反対方向の第1押圧力であって前記第1慣性力よりも大きな第1押圧力を付与し、前記第2レバーは、前記タングプレートの係合状態において前記タングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が前記作動部材に作用したときに前記第2接触部に前記タングプレートの挿入方向の第2押圧力であって前記第2慣性力よりも小さな第2押圧力を付与することを特徴とするバックル装置を提供する。
【0010】
上記の構成によれば、作動部材にタングプレートの挿入方向の第1慣性力が作用したときには、慣性部材の第1レバーから作動部材に、第1慣性力と逆向きの、第1慣性力よりも大きな第1押圧力が付与されるので、作動部材の作動が阻止される。逆に、作動部材にタングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が作用したときには、慣性部材の第2レバーから作動部材に第2慣性力と逆向きの第2押圧力が付与されるものの、その第2押圧力は第2慣性力よりも小さいので、作動部材が第2レバーによってタングプレートの挿入方向に作動させられることはない。従って、慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレートの係合の解除を確実に防止することができる。しかも、第1慣性力用の第1接触部および第1レバーと、第2慣性力用の第2接触部および第2レバーとが別々に設けられているので、それらの設計の自由度が高い。
【0011】
前記タングプレートの厚さ方向において、前記慣性部材の回動中心軸から前記第1接触部と第1レバーの接触点までの第1距離は、前記慣性部材の回動中心軸から前記第2接触部と第2レバーの接触点までの第2距離よりも小さくてもよい。あるいは、前記タングプレートの係合状態において、前記タングプレートの挿入方向と第1レバーの前記第1接触部側の面とがなす第1角度は、前記タングプレートの挿入方向の反対方向と第2レバーの前記第2接触部側の面とがなす第2角度よりも大きくてもよい。これらの構成によれば、比較的に簡単な構成で第1押圧力と第2押圧力との間に差を設けることができる。
【0012】
上記のバックル装置は、前記解除操作を受ける解除ボタンと、前記バックル本体内に挿入される前記タングプレートと係合する係合部材と、前記係合部材が前記タングプレートに係合した際に、ロック方向へ作動して、前記係合部材の係合が解除されるのを抑制し、前記解除ボタンが前記バックル本体の奥側に作動した際に、前記ロック方向とは反対方向へ作動して、前記係合部材の係合が解除されるのを許容するロック部材と、を備え、前記作動部材は、前記解除ボタンまたは前記ロック部材の少なくとも一方であってもよい。この構成によれば、バックル装置は通常は解除ボタンとロック部材を備えるため、部品を追加することなく、第1接触部および第2接触部を設定することができる。
【0013】
前記作動部材は前記解除ボタンと前記ロック部材の双方であり、前記第1接触部は前記ロック部材に設けられ、前記第2接触部は前記解除ボタンに設けられてもよい。この構成によれば、解除ボタンの形状およびロック部材の形状を単純化してそれらを容易に製造したり、強度や他の部材の形状を考慮した設定を容易にすることができる。
【0014】
前記解除ボタンは、前記タングプレートの挿入方向と反対方向に付勢されており、前記タングプレートが前記バックル本体内に挿入されていない状態で、前記第1レバーが前記ロック部材と接触し、かつ前記第2レバーが前記解除ボタンと接触してもよい。この構成によれば、タングプレートの非係合状態において、解除ボタンの移動と慣性部材の回動が阻止されるため、解除ボタンと慣性部材のガタツキによる異音を防止することができる。
【0015】
前記タングプレートの係合状態において、前記第1レバーおよび前記第2レバーが記回動中心軸に対して前記タングプレートと反対側に位置してもよい。この構成によれば、第1レバーおよび第2レバーならびに第1接触部および第2接触部の形状や大きさが、タングプレートによるスペース上の制約を受け難くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレートの係合の解除を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明の一実施形態に係るバックル装置の斜視図、(b)はタングプレートの斜視図である。
【
図2】
図1のバックル装置のバックル本体内に配置されるメカニカルアセンブリの斜視図である。
【
図3】解除ボタンを取り外した状態のメカニカルアセンブリの斜視図である。
【
図4】メカニカルアセンブリの解除ボタン以外の分解斜視図である。
【
図5】(a)は解除ボタンを斜め上から見た斜視図、(b)は解除ボタンを斜め下から見た斜視図である。
【
図6】(a)は慣性部材を斜め上から見た斜視図、(b)は慣性部材を斜め下から見た斜視図である。
【
図8】
図2のVIII-VIII線に沿った断面における非係合状態を示す図である。
【
図9】(a)~(c)はバックル装置にタングプレートを係合させる際のメカニカルアセンブリの動作を示す図である。
【
図10】(a)~(c)はタングプレートの係合を解除する際のメカニカルアセンブリの動作を示す図である。
【
図11】(a)および(b)はそれぞれタングプレートの係合状態における第1レバーおよび第2レバーを横断する位置でのメカニカルアセンブリの断面図であり、(a)は作動部材にタングプレートの挿入方向の第1慣性力が作用したときを示し、(b)は作動部材にタングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が作用したときを示す。
【
図12】(a)および(b)はそれぞれタングプレートの係合状態における第1レバーおよび第2レバーを横断する位置での第1変形例のバックル装置のメカニカルアセンブリの断面図であり、(a)は作動部材にタングプレートの挿入方向の第1慣性力が作用したときを示し、(b)は作動部材にタングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が作用したときを示す。
【
図13】(a)および(b)はそれぞれタングプレートの係合状態における第1レバーおよび第2レバーを横断する位置での第2変形例のバックル装置のメカニカルアセンブリの断面図であり、(a)は作動部材にタングプレートの挿入方向の第1慣性力が作用したときを示し、(b)は作動部材にタングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が作用したときを示す。
【
図14】(a)および(b)はそれぞれタングプレートの係合状態における第1レバーおよび第2レバーを横断する位置での第3変形例のバックル装置のメカニカルアセンブリの断面図であり、(a)は作動部材にタングプレートの挿入方向の第1慣性力が作用したときを示し、(b)は作動部材にタングプレートの挿入方向と反対方向の第2慣性力が作用したときを示す。
【
図15】(a)は従来のバックル装置の断面図、(b)はそのバックル装置の一部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1(a)に、本発明の一実施形態に係るバックル装置1を示す。バックル装置1は、車両のシートベルトに設けられた、
図1(b)に示すタングプレート15が挿入され、挿入されたタングプレート15と着脱可能に係合するものである。
【0019】
具体的に、バックル装置1は、中空のバックル本体2と、バックル本体2内に配置された、
図2に示すメカニカルアセンブリ10を含む。つまり、バックル本体2は、メカニカルアセンブリ10を収容するカバーの役割を果たす。
【0020】
以下、説明の便宜上、タングプレート15の挿入方向を後方、タングプレート15の挿入方向と反対方向を前方という。また、タングプレート15の厚さ方向の一方を上方、他方を下方というとともに、タングプレート15の幅方向を左右方向という。
【0021】
メカニカルアセンブリ10は、フレーム6と作動部材3を含む。フレーム6は、上向きに開口しながら前後方向に延びる断面U字の溝状の形状を有する。作動部材3は、前後方向にスライド可能となるようにフレーム6に支持されている。作動部材3は、タングプレート15の係合を解除する解除操作に応じて作動する。
【0022】
本実施形態では、作動部材3が、解除ボタン4とロック部材5(
図3参照)の双方である。
図3は、タングプレート15の係合状態(タングプレート15は省略)において、解除ボタン4を取り外した状態のメカニカルアセンブリ10の斜視図である。解除ボタン4は、解除操作を受ける。ロック部材5は、
図9(c)に示すタングプレート15の係合状態を維持するためのものである。
【0023】
図1(a)に示すように、バックル本体2は、前向きに開口する、左右方向に長い略長方形状の正面開口を有している。解除ボタン4は、その正面開口の上側部分を閉塞している。バックル本体2における正面開口の下方に位置する部分は、後方に向かって斜め上向きに傾斜した後に前後方向と平行となるタングプレート案内部21となっている。このタングプレート案内部21と解除ボタン4との間にタングプレート挿入口20が形成される。
【0024】
メカニカルアセンブリ10は、
図3および
図4に示すように、フレーム6および作動部材3の他に、エジェクタ7、係合部材8および慣性部材9を含む。エジェクタ7は、タングプレート挿入口20を通じてバックル本体2内に挿入されるタングプレート15と当接する。係合部材8は、タングプレート挿入口20を通じてバックル本体2内に挿入されるタングプレート15と係合する。慣性部材9は、タングプレート15の係合状態において慣性力による作動部材3の作動を阻止するためのものである。
【0025】
より詳しくは、
図4に示すように、フレーム6は、バックル本体2のタングプレート案内部21と連続してタングプレート案内面を構成する底壁61と、この底壁61の左右の両端部から立ち上がる一対の側壁62を有している。
【0026】
底壁61には、前後方向に延びる保持穴68が形成されている。この保持穴68内に、エジェクタ7が前後方向にスライド可能に挿入されている。エジェクタ7は、スプリング11によって前向きに付勢されている。
【0027】
エジェクタ7には、上向きに突出する左右一対のボス71が設けられている。これらのボス71は、タングプレート15の非係合状態(例えば、タングプレート15がバックル本体2内に挿入されていない状態)において、
図8に示すように、スプリング11の付勢力により解除ボタン4の後述する張り出し部45を押圧する。
【0028】
各側壁62の前端部には、前向きに開口する第1凹部66が形成されており、各側壁62の中央部には、上向きに開口する第2凹部63が形成されている。また、各側壁62には、第1凹部66の中央から下向きに窪む第3凹部67が形成されている。さらに、各側壁62には、第1凹部66よりも後方かつ第2凹部63よりも前方に、前後方向に延びる第1スリット65および第2スリット64が形成されている。第2スリット64は第1スリット65よりも下方に位置する。上下方向から見たときに、第1スリット65の後部と第2スリット64の前部が重なり合う。
【0029】
係合部材8は、本実施形態では、互いに嵌合する金属部8Aと樹脂部8Bを含む。ただし、係合部材8の構成はこれに限られず、適宜変更可能である。金属部8Aは、所定の形状の金属板が折り曲げ加工されたものである。具体的に、金属部8Aは、前後方向に延びる基部81と、基部81の前端部から垂れ下がるフック部82と、基部81の後端部から垂れ下がる左右一対の脚部84を含む。基部81には、樹脂部8Bとの嵌合用の貫通穴が設けられている。樹脂部8Bは、基部81の前端部上に位置する第1規制部86と、基部81の後端部上に位置するスプリング受け部87を含む。
【0030】
さらに、金属部8Aは、基部81の後端部から左右に張り出す一対の支点部83と、基部81の前端部から左右に張り出した後に前方に張り出す一対の第2規制部85を含む。支点部83がフレーム6の側壁62に形成された第2凹部63に挿入されることで、係合部材8が支点部83を支点として揺動可能となるようにフレーム6に支持される。
【0031】
ロック部材5は、
図8に示す待機位置と、
図9(c)に示すロック位置との間で移動する。ロック部材5は、係合部材8がタングプレート15に係合した際に、待機位置からロック方向(本実施形態では前方)へ作動して、係合部材8の係合が解除されるのを抑制し、解除ボタン4が後方に向かってバックル本体2の奥側に作動した際に、ロック位置からロック方向とは反対方向(本実施形態では後方)へ作動して、係合部材8の係合が解除されるのを許容する。
【0032】
より詳しくは、ロック部材5は、
図4および
図7に示すように、左右方向に延びる基部51を備えた樹脂部と、基部51を左右方向に貫通する貫通穴54に挿入される金属製のロックバー13を含む。基部51には、当該基部51の両端部から前方に延びる一対のアーム部52が設けられている。アーム部52の前部同士は、左右方向に延びる橋架部55によって接続されている。ロックバー13の両端部は、基部51から突出している。
【0033】
また、一対のアーム部52の先端には、外向きに突出する一対のボス53がそれぞれ設けられている。ロックバー13の両端部がフレーム6の側壁62に形成された第1スリット65に挿入されるとともに、ボス53が側壁62に形成された第1凹部66に挿入されることで、ロック部材5が前後方向にスライド可能となるようにフレーム6に支持される。
【0034】
ロック部材5の基部51と係合部材8のスプリング受け部87との間には、スプリング12が配置さている。なお、スプリング12は、図面の簡略化のために
図2,3では省略する。スプリング12は、係合部材8を上向きに揺動する(フック部82が上方に移動する)ように付勢するとともに、ロック部材5を前向きに付勢する。
【0035】
また、ロック部材5には、基部51の中央から下向きに突出する第1規制部56と、基部51の両端部から下向きに突出する一対の第2規制部57が設けられている。
図8に示すように、タングプレート15の非係合状態において基部51の前端部が係合部材8の第1規制部86に後方から接触する。これにより、ロック部材5が待機位置に維持される。
【0036】
タングプレート15の係合途中における、
図9(a)から、
図9(b)までの状態において、係合部材8が下向きに揺動して、係合部材8の第1規制部86がロック部材5の第1規制部56よりも下方に位置するまでは、第1規制部56が下向きに揺動する係合部材8の第1規制部86に接触しながら、前方に移動する。そして、係合部材8の第1規制部86がロック部材5の第1規制部56よりも下方に位置する
図9(b)に示す状態になると、ロック部材5の第2規制部57が、係合部材8の第2規制部85上をスライドしながら前方に移動する。
図9(c)に示すタングプレート15の係合状態においては、第2規制部57が係合部材8の第2規制部85と接触する。これにより、係合部材8が下向きに揺動した状態が維持される。
【0037】
解除ボタン4は、
図5(a)および(b)に示すように、左右方向に長い正面壁41と、正面壁41から後向きに延びる、フレーム6の双方の側壁62を挟持する一対の側壁42を含む。側壁42の後部の上端部同士は、左右方向に延びる橋架部43によって接続されている。
【0038】
橋架部43の中央部には、前向きに張り出す張り出し部44が設けられている。この張り出し部44は、左右一対のリブ48によって正面壁41の上端部の中央部と接続されている。リブ48の間には、慣性部材9の後述する第2レバー93が挿入される開口49が形成されている。正面壁41の下端部の中央部には、後向きに張り出す張り出し部45が設けられている。
【0039】
双方の側壁42の後端部には、下向きに垂れ下がり、先端に内向きに突出する爪を有する取付部46がそれぞれ設けられている。橋架部43がフレーム6の双方の側壁62の上端面上に載置されるとともに、双方の取付部46の爪が側壁62に形成された第2スリット64に挿入されることで、解除ボタン4が前後方向にスライド可能となるようにフレーム6に支持される。
【0040】
図3に示すように、上述したロックバー13の長さは、フレーム6の幅よりも長く設定されており、ロックバー13の両端部はフレーム6の側壁62よりも外側に突出している。
図5(a)および(b)に示すように、解除ボタン4の各側壁42の内側面には、ロックバー13の端部が挿入される、前後方向の幅がロックバー13の幅よりも広い溝47が形成されている。タングプレート15の非係合状態ではロックバーの13の端部が溝47の後側側面の近傍に隙間を開けて位置し、タングプレート15の係合状態ではロックバーの13の端部が溝47の前側側面に接触する。
【0041】
図8に示すように、慣性部材9は、左右方向に延びる回動中心軸90回りに回動可能となるようにフレーム6に支持されている。具体的に、慣性部材9は、
図6(a)および(b)に示すように、回動中心軸90が貫通する本体部91と、回動中心軸90から離れる方向に本体部91から突出する2つの第1レバー94および1つの第2レバー93を含む。第1レバー94と第2レバー93とは、左右方向(回動中心軸90の延在方向)から見たときに、前後方向に所定間隔で並んでいる。
【0042】
本体部91は、慣性部材9の重心9g(
図8参照)を回動中心軸90から離れた位置に設定するためのものである。本実施形態では、慣性部材9の重心9gが回動中心軸90よりも下方に位置する。
【0043】
本体部91の両側面からは、回動中心軸90に沿って一対のシャフト部92が突出している。これらのシャフト部92がフレーム6の側壁62に形成された第3凹部67に挿入されることで、慣性部材9が回動中心軸90回りに回動可能となるようにフレーム6に支持される。
【0044】
左右方向において、第2レバー93は本体部91の中央に配置されており、2つの第1レバー94は第2レバー93の両側に配置されている。第1レバー94は、回動中心軸90よりも後方の位置で本体部91から突出しており、第2レバー93は、回動中心軸90よりも前方の位置で本体部91から突出している。つまり、第1レバー94は、タングプレート15の挿入方向で第2レバー93よりもバックル本体2の奥側に位置する。第1レバー94および第2レバー93の突出方向は、重心9gと回動中心軸90とを結ぶ線とほぼ平行である。
【0045】
本体部91の両端部には、斜め下向きに尖るストッパー95が設けられている。一方、フレーム6の各側壁62の前部の内側面には、ストッパー95と接触可能な突出部69が設けられている。
【0046】
次に、
図9(a)~10(c)を参照して、バックル装置1の動作を説明する。
図9(a)~(c)はバックル装置1にタングプレート15を係合させる際のメカニカルアセンブリ10の動作を示し、
図10(a)~(c)はタングプレート15の係合を解除する際のメカニカルアセンブリ10の動作を示す。また、以下では、タングプレート15の挿入方向をA方向、タングプレート15の挿入方向と反対方向をB方向という。
【0047】
まず、
図8を参照して、タングプレート15の非係合状態を説明する。係合部材8はスプリング12の付勢力により上向きに揺動した状態に維持される。ロック部材5はスプリング12によってB方向に付勢され、ロック部材5の基部51の前端部が係合部材8の第1規制部86に接触する。解除ボタン4はエジェクタ7を介してスプリング11にB方向に付勢され、解除ボタン4の張り出し部44の前端部が、解除ボタン4の開口49内に位置する慣性部材9の第2レバー93に接触する。
【0048】
また、タングプレート15の非係合状態では、慣性部材9が、解除ボタン4を介してスプリング11によって第1レバー94から第2レバー93に向かう方向(
図7では反時計回り)に回動するように付勢され、第1レバー94がロック部材5の橋架部55の下面に接触する。これにより、解除ボタン4の移動と慣性部材9の回動が阻止されるため、解除ボタン4と慣性部材9のガタツキによる異音を防止することができる。
【0049】
図9(a)に示すように、タングプレート15がバックル本体2内に挿入されると、エジェクタ7がタングプレート15に押圧されて係合部材8の脚部84に接触するまでA方向に移動する。その後もエジェクタ7がタングプレート15に押圧されてA方向に移動することにより、
図9(b)に示すように係合部材8が下向きに揺動し、係合部材8のフック部82がタングプレート15に設けられた係合穴内15A内に挿入される。
【0050】
係合部材8の第1規制部86がロック部材5の第1規制部56よりも下方に位置するまで係合部材8が下向きに揺動すると、ロック部材5がスプリング12の付勢力によってB方向に移動する。ロック部材5の移動途中は、ロック部材5の第1規制部56が係合部材8の第1規制部86上をスライドする。
【0051】
ロック部材5は、ロックバー13の両端部が解除ボタン4の溝47の前側側面に接触する(
図9(b)に示す状態)までは単独でB方向に移動し、その後は、
図9(c)に示すように、ロック部材5が解除ボタン4と共にB方向に移動する。
【0052】
慣性部材9の動作に関しては、ロックバー13の両端部が解除ボタン4の溝47の前側側面に接触するまで、ロック部材5がB方向に移動すると、
図9(b)に示すように、ロック部材5の橋架部55が、左右方向(回動中心軸90の延在方向)で見たときに、慣性部材9の第1レバー94と第2レバー93の間に入り込む。その後のロック部材5および解除ボタン4のB方向への移動により、慣性部材9の第2レバー93が解除ボタン4の張り出し部44の前端部に押圧されて、慣性部材9が第1レバー94から第2レバー93に向かう方向(
図9(c)では反時計回り)に回動する。慣性部材9の回動は、慣性部材9のストッパー95がフレーム6の突出部69に接触することで停止し、これによりロック部材5および解除ボタン4のB方向への移動も停止する。この位置が、ロック部材5のロック位置である。すなわち、ロック位置では、解除ボタン4がロック部材5を介してスプリング12によりB方向に付勢される。また、ロック部材5がロック位置に移動すると、ロック部材5の第2規制部57が係合部材8の第2規制部85と接触する。
【0053】
その後、操作者によるタングプレート15の押し込みが解除されると、タングプレート15がエジェクタ7を介してスプリング11に付勢されることで、係合部材8のフック部82に押し付けられる。これにより、
図9(c)に示すタングプレート15の係合状態が形成される。タングプレート15の係合状態では、第1レバー94および第2レバー93が回動中心軸90に対してタングプレート15と反対側に位置する。
【0054】
タングプレート15の係合を解除する際は、
図10(a)に示すように、解除ボタン4が解除操作を受けて、ロック部材5と共にスプリング12の付勢力に抗してA方向に移動し、解除ボタン4の張り出し部44の前端部が慣性部材9の第2レバー93から離れる。
図10(b)に示すように、解除ボタン4が、ロック部材5のA方向でバックル本体2の奥側に移動するのに伴い、ロック部材5の橋架部55が慣性部材9の第1レバー94を押圧する。これにより、慣性部材9が第2レバー93から第1レバー94に向かう方向(
図10(b)では時計回り)に回動し、これに伴って、ロック部材5の橋架部55が慣性部材9の第1レバー94と第2レバー93の間から離脱する方向に移動する。
【0055】
ロック部材5の第1規制部56が、係合部材8の第1規制部86よりも後方に位置するまでロック部材5がA方向に移動すると、
図10(c)に示すように、スプリング12の付勢力によって係合部材8が上向きに揺動し、係合部材8のフック部82とタングプレート15との係合が解除される。これにより、タングプレート15がスプリング11の付勢力によってエジェクタ7のボス71が解除ボタン4の張り出し部45に接触するまで押し出される。また、この状態では、解除ボタン4の張り出し部44の前端部およびロック部材5の橋架部55が、慣性部材9の第1レバー94と第2レバー93の間から離脱する。
【0056】
その後、操作者による解除ボタン4の押し込みが解除されると、スプリング11の付勢力によって解除ボタン4が
図8に示す位置に移動する。
【0057】
次に、
図11(a)および(b)を参照して、慣性部材9の第1レバー94および第2レバー93の作用を詳細に説明する。
図11(a)および(b)に示すように、タングプレート15の係合状態においては、ロック部材5の橋架部55の後端部が第1レバー94と接触可能であり、解除ボタン4の張り出し部44の前端部が第2レバー93と接触可能である。つまり、ロック部材5の橋架部55の後端部が作動部材3の第1接触部31を構成し、解除ボタン4の張り出し部44の前端部が作動部材3の第2接触部32を構成する。
【0058】
タングプレート15の係合状態では、左右方向(回動中心軸90の延在方向)で見たときに、第1接触部31および第2接触部32が前後方向において第1レバー94と第2レバー93の間に位置する。また、
図10(a)~(c)に示すように、第1接触部31および第2接触部32は、タングプレート15の係合を解除する際は、慣性部材9の回動に伴って第1レバー94と第2レバー93の間から離脱する方向に移動し、
図10(c)に示す状態では、第1レバー94と第2レバー93の間から離脱する。
【0059】
図11(a)に示すように、タングプレート15の係合状態においてA方向の第1慣性力FAが作動部材3に作用したときに、慣性部材9にはA方向の慣性力F1が作用する。そして、第1レバー94は、A方向の慣性力F1によって第1接触部31にB方向の第1押圧力Fbを付与する。第1押圧力Fbは第1慣性力FAよりも大きくなるように設定されている。
【0060】
ここで、慣性部材9に作用するA方向の慣性力F1について、慣性力F1の方向に直交する方向での、回動中心軸90から慣性部材9の重心9gまでの距離を距離L0とすると、慣性部材9には、回動中心軸90回り(
図11(a)では反時計回り)に、F1×L0のトルクT1が生じる。また、第1接触部31と第1レバー94の接触点において、トルクT1により第1レバー94から第1接触部31に作用する力F1’の方向は、第1レバー94の第1接触部31側の面に対して直交する方向である。そして、第1レバー94の第1接触部31側の面に平行な方向での、第1接触部31と第1レバー94の接触点から回動中心軸90までの距離を第1距離L1とすると、F1’=T1/L1である。したがって、第1押圧力Fbは力F1’の第1慣性力FAの方向(A方向)での分力であるので、第1慣性力FAの作用方向と第1レバー94の第1接触部31側の面とのなす角度を第1角度θ1とすると、Fb=F1’×sinθ1、つまり、Fb=(T1/L1)×sinθ1である。
【0061】
また、
図11(b)に示すように、タングプレート15の係合状態においてB方向の第2慣性力FBが作動部材3に作用したときに、慣性部材9にはB方向の慣性力F2が作用する。そして、第1レバー93は、B方向の慣性力F2によって第2接触部32にA方向の第2押圧力Faを付与する。第2押圧力Faは第2慣性力FBよりも小さくなるように設定されている。
【0062】
ここで、慣性部材9に作用するB方向の慣性力F2について、慣性力F2の方向に直交する方向での、回動中心軸90から慣性部材9の重心9gまでの距離を距離L0とすると、慣性部材9には、回動中心軸90回り(
図11(b)では時計回り)に、F2×L0のトルクT2が生じる。また、第2接触部32と第2レバー93の接触点において、トルクT2により第2レバー93から第2接触部32に作用する力F2’の方向は、第2レバー93の第2接触部32側の面に対して直交する方向である。そして、第2レバー93の第2接触部32側の面に平行な方向での、第2接触部32と第2レバー93の接触点から回動中心軸90までの距離を第2距離L2とすると、F2’=T2/L2である。したがって、第2押圧力Faは力F2’の第2慣性力FBの方向(B方向)での分力であるので、第2慣性力FBの作用方向と第2レバー93の第2接触部32側の面とのなす角度を第2角度θ2とすると、Fa=F2’×sinθ2、つまり、Fa=(T2/L2)×sinθ2である。本実施形態では、第2角度θ2は90°なので、第2押圧力Faは力F2’と同じである。
【0063】
ここで、A方向とB方向の慣性力が同じとすると、作動部材3に作用する第1慣性力FAと第2慣性力FBは同じになる。従って、第1押圧力Fbを第1慣性力FAよりも大きく、第2押圧力Faを第2慣性力FBよりも小さくするために、本実施形態では、第1押圧力Fbを第2押圧力Faより大きく設定し、第1慣性力FAと第2慣性力FBが、第1押圧力Fbと第2押圧力Faの間の大きさになるように設定している。
【0064】
また、A方向とB方向の慣性力が同じ場合、慣性部材9に作用する慣性力F1と慣性力F2も同じになり、その結果、慣性部材のトルクT1とトルクT2も同じになるので、Fb=(T1/L1)×sinθ1、Fa=(T2/L2)×sinθ2から、例えば、第1距離L1を第2距離L2よりも小さくすることと、第1角度θ1を90°以下の範囲で第2角度θ2よりも大きくすることの少なくとも一方、または両方により、第1押圧力Fbよりも第2押圧力Faを大きく設定可能である。本実施形態では、形状的な制約から第1角度θ1が第2角度θ2よりも小さいものの、第1距離L1を第2距離L2よりも適切に小さくすることで、第1押圧力Fbを第2押圧力Faよりも大きくしている。このように、第1レバー93と第2レバー94は、第1押圧力Fbが第2押圧力Faよりも大きくなる範囲で、第1距離L1と第2距離L2、第1角度θ1と第2角度θ2を個別に調整できるため設計に自由度があり、第1レバー93と第2レバー94の強度や他の部材の形状等を考慮した設定が容易である。
【0065】
以上説明したように、本実施形態のバックル装置1では、作動部材3にA方向の第1慣性力FAが作用したときには、慣性部材9の第1レバー94から作動部材3に、第1慣性力FAと逆向きの、第1慣性力FAよりも大きな第1押圧力Fbが付与されるので、作動部材3の作動が阻止される。逆に、作動部材3にB方向の第2慣性力FBが作用したときには、慣性部材9の第2レバー93から作動部材3に、第2慣性力FBと逆向きの第2押圧力Faが付与されるものの、その第2押圧力Faは第2慣性力FBよりも小さいので、作動部材3が第2レバー93によってA方向に作動させられることはない。従って、慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレート15の係合の解除を確実に防止することができる。しかも、第1慣性力FA用の第1接触部31および第1レバー94が、第2慣性力FB用の第2接触部32および第2レバー93とは別々に設けられているので、それらの設計の自由度が高い。
【0066】
なお、本実施形態では、タングプレート15の係合状態において作動部材3である解除ボタン4とロック部材5がスプリング12によって前向き(B方向)に付勢されているので、スプリング12による付勢力は、第1慣性力FAを小さく、第2慣性力FBを大きくする方向に作用する。これにより、慣性力の方向に拘わらず、慣性力によるタングプレート15の係合の解除を確実に防止する効果を高めることができる。
【0067】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0068】
例えば、作動部材3は、
図12(a)および(b)に示すように解除ボタン4のみであってもよいし、
図13(a)および(b)に示すようにロック部材5のみであってもよい。このように、作動部材3が解除ボタン4とロック部材5の少なくとも一方であれば、バックル装置1は通常は解除ボタン4とロック部材5を備えるため、部品を追加することなく、第1接触部31および第2接触部32を設定することができる。ただし、前記実施形態のように、作動部材3が解除ボタン4とロック部材5の双方であり、第1接触部31がロック部材5に設けられ、第2接触部32が解除ボタン4に設けられれば、解除ボタン4の形状およびロック部材5の形状を単純化してそれらを容易に製造したり、強度や他の部材の形状を考慮した設定を容易にすることができる。
【0069】
また、前記実施形態では、第1レバー94と第2レバー93とが慣性部材9の回動中心軸90の方向に離間しているので、第1レバー94および第2レバー93ならびに第1接触部31および第2接触部32の設定の自由度が大きくなることや、慣性部材9の回動方向における第1レバー94と第2レバー93との間隔が小さくても、作動部材3の強度確保が容易になる利点がある。
【0070】
具体的に、
図12(a)および(b)に示す第1変形例では、ロック部材5の橋架部55が省略される代わりに、解除ボタン4の張り出し部44の下面に、慣性部材9の双方の第1レバー94に跨る長さのバー部40が一体的に設けられている。そして、バー部40の後端部が作動部材3の第1接触部31を構成し、張り出し部44の前端部が作動部材3の第2接触部32を構成することで、作動部材3を解除ボタン4のみで構成している。この場合、作動部材3にA方向の第1慣性力FAが作用したときに、ロック部材5には慣性部材9の第1レバー94から第1押圧力Fbが付与されないが、例えば、ロック部材5に作用する慣性力よりもスプリング12による前向き(B方向)への付勢力を大きくすればよい。
【0071】
また、
図13(a)および(b)に示す第2変形例では、ロック部材5の橋架部55の後端部が作動部材3の第1接触部31を構成し、橋架部55の前端部が作動部材3の第2接触部32を構成することで、作動部材3をロック部材5のみで構成している。
【0072】
前記実施形態では、第1角度θ1が第2角度θ2よりも小さいものの、第1距離L1を第2距離L2よりも適切に小さくすることで、第1押圧力Fbが第2押圧力Faよりも大きく設定されていた。しかし、
図13(a)および(b)に示す第2変形例のように、第1角度θ1と第2角度θ2とを同じ角度(ここでは90°)にして、第1距離L1を第2距離L2よりも小さくすることで、第1押圧力Fbを第2押圧力Faよりも大きく設定してもよい。
【0073】
また、
図14(a)および(b)に示す第3変形例では、第2変形例と同様に、作動部材3をロック部材5のみで構成している。しかし、第3変形例では、第1距離L1と第2距離L2とを同じにしているものの、第1角度θ1を第2角度θ2よりも大きくしており、このようにして第1押圧力Fbを第2押圧力Faよりも大きく設定してもよい。
【0074】
さらに、第1レバー94に第1角度θ1、第2レバー93に第2角度θ2を有する面を設ける代わりに、作動部材3の第1接触部31に第1レバー94側を向くとともに、第1慣性力FAの作用方向(A方向)に対して傾斜した面を設けて、そこに第1レバー94を接触させ、同様に、作動部材3の第2接触部32に第2レバー93側を向くとともに、第2慣性力FBの作用方向(B方向)に対して傾斜した面を設けて、そこに第2レバー93を接触させても良い。この場合でも、例えば、第1接触部31側の面の角度を90°以下の範囲で第2接触部32側の面の角度よりも大きくすることや、第1距離L1を第2距離L2よりも小さくすることにより、第1押圧力Fbよりも第2押圧力Faを大きく設定可能である。
【0075】
前記実施形態では、ロック部材5がロック位置と非ロック位置との間で前後方向にスライドするように構成されていたが、ロック部材5は、ロック位置と非ロック位置との間で回動するように構成されてもよい。
【0076】
また、前記実施形態とは逆に、慣性部材9の重心9gが回動中心軸90よりも上方に位置してもよい。ただし、前記実施形態のように、慣性部材9の重心9gが回動中心軸90よりも下方に位置する、換言すればタングプレート15の係合状態において第1レバー94および第2レバー93が回動中心軸90に対してタングプレート15と反対側に位置すれば、第1レバー94および第2レバー93ならびに第1接触部31および第2接触部32の形状や大きさが、タングプレート15によるスペース上の制約を受け難くなる。
【符号の説明】
【0077】
1 バックル装置
15 タングプレート
2 バックル本体
3 作動部材
31 第1接触部
32 第2接触部
4 解除ボタン
5 ロック部材
8 係合部材
9 慣性部材
90 回動中心軸
91 本体部
93 第2レバー
94 第1レバー