(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114236
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/12 20060101AFI20230809BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
H01L23/12 J
H01L21/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016493
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 駿
【テーマコード(参考)】
5F047
【Fターム(参考)】
5F047AA02
5F047AB03
(57)【要約】
【課題】半導体素子が搭載される金属層の面方向での放熱性の確保と、インダクタンスの増加抑制および出力密度の低下抑制とを両立可能な半導体装置を実現する。
【解決手段】半導体素子2は、絶縁基板31、高熱伝導層32および導電層33とによりなる金属絶縁基板3のうち高熱伝導層32に接合されている。金属絶縁基板3は、絶縁基板31の一面31aに高熱伝導層32が、その反対面の他面31bに導電層33が、それぞれ接合されている。高熱伝導層32は、厚み方向に対して直交する面方向における熱伝導率が398W/m・Kよりも大きい。これにより、高熱伝導層32は、半導体素子2が接合される部分の厚みが所定以下である場合においても、面方向における半導体素子2の放熱性を確保でき、その結果、インダクタンスの増加および出力密度の低下がそれぞれ抑制される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
半導体素子(2)と、
表裏の関係にある一面(31a)および他面(31b)を有する絶縁基板(31)と、前記一面に接合され、導電性を有し、かつ厚み方向に対して直交する面方向における熱伝導率が398W/m・Kよりも大きい高熱伝導層(32)と、前記他面に接合される導電層(33)とを有してなる金属絶縁基板(3)と、を備え、
前記半導体素子は、前記高熱伝導層に接合されている、半導体装置。
【請求項2】
前記高熱伝導層は、前記半導体素子よりも平面サイズが大きい凹部(321)を備え、
前記半導体素子は、前記凹部の内側に配置されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記高熱伝導層は、沸騰冷却装置である、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記高熱伝導層は、グラファイトで構成されたグラファイトシートである、請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記高熱伝導層は、外郭のなす辺のうち交差する二辺の長さが異なっている、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板の両面に導電性層が形成された金属絶縁基板に半導体素子が搭載されてなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックなどによりなる絶縁基板の両面に銅などによりなる導電性層が形成された金属絶縁基板のうち一方の導電性層に、IGBTやパワーMOSFET等のパワー半導体素子が搭載されてなる半導体装置が知られている(例えば特許文献1)。なお、IGBTとは、Insulated Gate Bipolar Transistorの略称である。MOSFETとは、Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略称である。
【0003】
特許文献1に記載の半導体装置は、セラミック基板の表裏の両面に銅製の金属層が接合された、いわゆるDBC基板のうち一方の金属層に凹部が設けられると共に、当該凹部の内側にパワー半導体素子が搭載されてなる。なお、DBCとは、Direct Bonded Copperの略称である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の半導体装置は、金属層のうちパワー半導体素子が搭載される部分の厚みが薄いことで、金属層の厚み方向に対して直交する面方向における放熱効率が低下し、高電流密度で駆動した場合に放熱効率が低下するおそれがある。
【0006】
そこで、面方向における放熱効率を高めるために、パワー半導体素子が搭載される金属層の厚みを厚くすることが考えられる。しかし、この場合、金属層の厚みの増加分だけ電流経路が長くなることによるインダクタンスの増加、および半導体装置の高さ、すなわち厚み方向におけるサイズアップの原因となってしまう。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、金属絶縁基板に半導体素子が搭載されてなる半導体装置において、半導体素子が搭載される金属層の面方向での放熱性の確保と、インダクタンスの増加抑制および半導体装置の厚み抑制とを両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置は、半導体装置であって、半導体素子(2)と、表裏の関係にある一面(31a)および他面(31b)を有する絶縁基板(31)と、一面に接合され、導電性を有し、かつ厚み方向に対して直交する平面方向における熱伝導率が398W/m・Kよりも大きい高熱伝導層(32)と、他面に接合される導電層(33)とを有してなる金属絶縁基板(3)と、を備え、半導体素子は、高熱伝導層に接合されている。
【0009】
これにより、金属絶縁基板のうち半導体素子が搭載される導電層が面方向における熱伝導率が398W/m・Kよりも大きい高熱伝導層とされ、その厚みが薄い場合においても放熱性を確保することができる半導体装置となる。そのため、この半導体装置は、面方向における放熱性の確保と、インダクタンスの増加抑制および半導体装置の厚み抑制とを両立可能となる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態の半導体装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1のII-II間の断面構成を示す断面図である。
【
図3】第2実施形態の半導体装置を示す図であって、
図2に相当する断面図である。
【
図4】他の実施形態の半導体装置を示す図であって、
図2に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について、図面を参照して説明する。
【0014】
〔半導体装置〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図1に示すように半導体素子2と、金属絶縁基板3とを備え、半導体素子2が金属絶縁基板3のうちその平面方向における熱伝導率が少なくとも銅よりも大きい後述の高熱伝導層32に搭載された構成となっている。
【0015】
半導体素子2は、例えば、Si(シリコン)やSiC(炭化珪素)などの半導体材料を主成分として構成されたIGBT、パワーMOSFETやFWDなどを備えるパワー半導体素子であり、公知の半導体プロセスにより製造される。FWDとは、Free Wheeling Diodeの略称である。半導体素子2は、例えば、高熱伝導層32のうち後述する凹部321よりも平面サイズが小さく、表面2aおよび裏面2bを有する矩形板状とされる。半導体素子2は、例えば
図2に示すように、高熱伝導層32の凹部321の内側に配置され、はんだ等によりなる図示しない接合材を介して高熱伝導層32に搭載される。半導体素子2は、例えば、高熱伝導層32とは反対側の表面2aが、高熱伝導層32のうち絶縁基板31とは反対側の上面32aのなす平面と略同一平面上に位置する配置とされる。なお、略同一平面上とは、半導体素子2の表面2aと高熱伝導層32の上面32aとが同一平面上にある状態に加えて、製造工程において不可避な程度に、表面2aが上面32aに対して僅かに傾く、あるいは僅かにはみ出す状態をも含む。半導体素子2は、例えば、オン状態のときに厚み方向に電流が生じる縦型のパワー半導体素子であり、表面2aおよび裏面2bに対をなす図示しない電極(エミッタ・コレクタ若しくはソース・ドレイン)を有し、表面2aに図示しないゲート電極を有する。
【0016】
金属絶縁基板3は、例えば、表裏の関係にある一面31aおよび他面31bを有する絶縁基板31と、一面31aに接合され、導電性を有し、面方向における熱伝導率が所定以上の高熱伝導層32と、他面31bに接合される導電層33とを有してなる。
【0017】
絶縁基板31は、例えば、Al2O3(酸化アルミニウム)やAlN(窒化アルミニウム)などの絶縁性材料によりなるセラミック基板である。絶縁基板31は、例えば、限定するものではないが、厚みが数百μmから数mmまでの範囲とされ、略長方形板状とされる。絶縁基板31は、高熱伝導層32および導電層33よりも平面サイズが大きく、端部が高熱伝導層32および導電層33から突き出た構成となっている。なお、絶縁基板31のうち高熱伝導層32および導電層33から突き出た部分の幅については、例えば数百μmから数mmまでの範囲内とされるが、これに限定されるものではなく、適宜変更されうる。
【0018】
高熱伝導層32は、絶縁基板31の一面31aの外郭内側に配置され、その外形が例えば略長方形板状となっている。高熱伝導層32は、本実施形態では、例えば
図2に示すように、凹部321および熱媒体324を収容する内側の空間である収容部323を備える導電性の基部322と、収容部323に封入された熱媒体324とを備える沸騰冷却装置である。高熱伝導層32は、液状の熱媒体324が、基部322の凹部321に接合された半導体素子2の熱を吸収して気化した後、半導体素子2から離れた位置で凝集して液化することを繰り返すことで半導体素子2の放熱を行う部材である。高熱伝導層32は、内部の収容部323内で熱媒体324が流動することで、面方向における熱伝導率が少なくとも銅の398W/m・Kよりも大きい構成となっている。これにより、高熱伝導層32は、低背化されつつも、その厚み方向に対して直交する面方向における放熱性を確保でき、半導体素子2が高電流密度で駆動した場合においても放熱効率が高い部材となっている。なお、ここでいう「高熱伝導」とは、面方向の熱伝導率が398W/m・Kよりも大きいことを指す。
【0019】
基部322は、例えば、凹部321を有する上板3221と、収容部323を有する中板3222と、絶縁基板31に接合される底板3223とを有し、銅等の金属またはその合金などの導電性材料で構成されている。基部322は、絶縁基板31側から底板3223、中板3222、上板3221の順に図示しない接合材により接合された構成となっている。
【0020】
上板3221の凹部321は、搭載される半導体素子2の平面サイズよりも大きい平面サイズとされる。中板3222の収容部323は、例えば、その内部に、図示しない複数の柱状部分や中板3222の面方向に沿って設けられ、当該柱状部分同士を繋ぐ図示しない中空部材を有し、熱により蒸発した熱媒体324が液体に再凝集することが可能な構造となっている。中板3222は、例えば、熱媒体324を外部から収容部323に注入するための図示しない注入口を有し、基部322を図示しないろう材で絶縁基板31に接合した後に、熱媒体324を収容部323に注入可能となっている。この図示しない注入口は、熱媒体324を収容部323内に注入した後に塞がれる。
【0021】
基部322は、インダクタンス低下抑制の観点から、凹部321が形成された部分、すなわち半導体素子2接合される部分の厚みtが例えば2mm以下となっている。熱媒体324は、例えば、沸点が100℃以下のフッ素系冷媒などが用いられるが、他の材料であってもよく、半導体素子2の発熱量に応じて適宜変更されうる。つまり、高熱伝導層32は、半導体素子2と共に電流経路の一部を構成しつつ、半導体素子2の熱を面方向に拡散するヒートスプレッダとしての役割を果たす部材である。
【0022】
なお、高熱伝導層32は、本実施形態では、絶縁基板31の他面31bに図示しないろう材で導電層33を接合した後に、熱媒体324の沸点未満の温度で絶縁基板31の一面31aに分子接合により接合されてもよい。分子接合により高熱伝導層32を絶縁基板31に接合する場合には、例えば、以下のような工程により行うことができる。高熱伝導層32のうち凹部321が形成された上面32aとは反対側の下面32bにプラズマ処理などを施した後、ジチオールトリアジン基を有する分子接合剤を含む溶液に浸漬し、下面32bの表層にジチオールトリアジン基を結合させる。そして、導電層33が接合された絶縁基板31の一面31aと、高熱伝導層32のうちジチオールトリアジン基が結合された下面32bとを接触させ、圧着することで絶縁基板31と高熱伝導層32とを接合することができる。なお、分子接合剤としては、例えば、TES(トリエトキシシリルプロピルアミノ-1,3、5-トリアジン-2,4-ジチオール)などを用いることができる。
【0023】
なお、高熱伝導層32は、略正方形板状であってもよいが、インダクタンス低減の観点から、外郭をなす辺のうち交差する二辺の長さが異なる形状(例えば略長方形板状など)とされることが好ましい。これにより、高熱伝導層32は、例えば、その短手方向に沿って半導体素子2に端子を接続した場合、短手方向が主の電流経路となってインダクタンスの増加を抑制しつつ、長手方向では広範囲に半導体素子2の熱を拡散でき、放熱効率をより高めることができる。
【0024】
導電層33は、例えば、銅などの金属またはその合金などの導電性材料で構成される部材である。導電層33は、例えば、銅箔とされ、凹部などを有しない平板状態で絶縁基板31に接合されている。導電層33は、絶縁基板31を介して高熱伝導層32と熱的に接続されており、ヒートシンクとして機能する。
【0025】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。半導体装置1は、例えば、次に説明する電力変換器などの一部として用いられると好適であるが、勿論、他のパワーデバイスの一部としても用いられ得る。
【0026】
本実施形態によれば、金属絶縁基板3のうち面方向の熱伝導率が398W/m・Kより大きい高熱伝導層32に半導体素子2が接合されているため、高熱伝導層32の厚みが薄い場合においても放熱性を確保することができる半導体装置1となる。また、半導体素子2の面方向における放熱性確保のために、高熱伝導層32の厚みを大きくする必要がないことから、インダクタンスの増加および半導体装置1の厚み方向におけるサイズアップを抑制できる。よって、この半導体装置1は、面方向における放熱性の確保と、インダクタンス増加抑制および装置全体の厚み抑制とを両立することが可能である。
【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について、
図3を参照して説明する。
【0028】
本実施形態の半導体装置1は、高熱伝導層32が沸騰冷却装置の代わりに、グラファイトシートで構成されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0029】
高熱伝導層32は、本実施形態では、例えば
図3に示すように、基部322が凹部321を有するが、内部に収容部323および熱媒体324を有しない構成となっている。高熱伝導層32は、例えば、面方向における熱伝導率が398W/m・Kより大きいグラファイトシートであり、任意の接合材で絶縁基板31の一面31aに接合されている。この場合であっても、高熱伝導層32のうち半導体素子2が接合される部分の厚みが2mm以下となり、半導体装置1が低背化されると共に、放熱性を確保しつつも、インダクタンスの増加抑制および出力密度の低下抑制が可能である。
【0030】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、高熱伝導層32としてグラファイトシートを用いることにより、導電層33よりも先に絶縁基板31に高熱伝導層32を接合することも可能となり、熱媒体324の封入工程が不要となる。
【0031】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0032】
上記各実施形態においては、例えば
図4に示すように、半導体装置1は、高熱伝導層32が凹部321を有しない構成であってもよい。この場合であっても、高熱伝導層32のうち半導体素子2が接合される部位の厚みを所定以下としつつも、半導体素子2の面方向における放熱性を確保することができる。
【符号の説明】
【0033】
2 半導体素子
3 金属絶縁基板
31 絶縁基板
31a 一面
31b 他面
32 高熱伝導層
321 凹部
33 導電層