(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114248
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】固体イオン伝導体、固体電解質、正極電極材料およびナトリウムイオン固体二次電池
(51)【国際特許分類】
C01G 31/00 20060101AFI20230809BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230809BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230809BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230809BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230809BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20230809BHJP
C01G 35/00 20060101ALI20230809BHJP
C01G 19/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C01G31/00
H01M10/0562
H01M10/054
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
H01B1/10
C01G35/00 Z
C01G19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016514
(22)【出願日】2022-02-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「実験と理論計算科学のインタープレイによる触媒・電池の元素戦略研究拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】ハレム ランディ
(72)【発明者】
【氏名】館山 佳尚
(72)【発明者】
【氏名】張 成燻
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AC06
4G048AD06
5G301CA05
5G301CA12
5G301CA17
5G301CA22
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AJ06
5H029AK05
5H029AL13
5H029AM12
5H029DJ09
5H029DJ17
5H029EJ07
5H029HJ02
5H050AA02
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA15
5H050FA19
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、イオン伝導率、充放電安定性および熱力学安定性に優れる固体電解質用リチウム化合物を提供することである。
【解決手段】 組成式がNa
5-2xAl
1-xV
xS
4、Na
5-2xAl
1-xTa
xS
4およびNa
5-2xIn
1-xSb
xS
4、0.375≦x≦0.625)からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上からなる化合物結晶を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がNa5-2xAl1-xVxS4、Na5-2xAl1-xTaxS4およびNa5-2xIn1-xSbxS4、0.375≦x≦0.625)からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上からなる化合物結晶を含む、固体イオン伝導体。
【請求項2】
組成式がNa4Al0.5V0.5S4からなる化合物の結晶からなる、請求項1記載の固体イオン伝導体。
【請求項3】
組成式がNa4Al0.5Ta0.5S4からなる化合物の結晶からなる、請求項1記載の固体イオン伝導体。
【請求項4】
組成式がNa4In0.5Sb0.5S4からなる化合物の結晶からなる、請求項1記載の固体イオン伝導体。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体からなる固体電解質。
【請求項6】
請求項1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体を含む正極電極材料。
【請求項7】
請求項1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体を有するナトリウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体イオン伝導体、固体電解質、正極電極材料およびナトリウムイオン固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充電により繰り返し使用が可能な二次電池は、ハイブリッドやEV自動車用、スマートフォンをはじめとする携帯端末用、PC等の電源用、太陽光発電蓄電用などのバッテリーとして、パーソナル用途から産業用途まで幅広い分野で用いられ、かつその市場は急激に広がっている。
【0003】
現在主流の二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池が挙げられる。前者は、比較的希少なリチウムを主材料として用いており、需要がさらに拡大したときの原料供給の問題が懸念され、またコストの問題も指摘されている。後者は、充電エネルギー密度が比較的少なく、メモリ効果があり、繰り返し使用回数も少ないという問題がある。
【0004】
このような状況から、資源が豊富で原料供給の問題が少なく、低コスト化が見込めて、さらにリチウムイオン二次電池の技術的知見を反映させることができる二次電池として、ナトリウムイオン二次電池が次世代の電池として脚光を浴びている。
【0005】
そこでは、取り扱いや液漏れの懸念およびその対策などの問題を回避できる固体電解質を用いることが嘱望されている。
ナトリウムイオン二次電池の固体電解質としては、高いイオン伝導率、優れた充放電特性および熱に対する高い安定性が求められている(非特許文献1参照)。
【0006】
このような背景の下、ナトリウムイオン二次電池の固体電解質として様々な検討がなされている。例えば、その取り組みとして非特許文献2を挙げることができ、そこでは、Na3-xSb1-xWxS4(0<x<0.18)が検討されている。また、非特許文献3でも、Na5-xAl1-xSixS4(0<x<1)が検討されている。なお、それらでは、熱力学的安定性は検討されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Hayashi et al.,Front. Energy Res.,2016,4:25
【非特許文献2】A.Hayashi et al.,Nat. Commun.,2019,10:5266
【非特許文献3】S.Harm et al.,Front. Chem.,2020,8,90
【非特許文献4】B.Eisenmann and A. Hofmann,Z. Kristallogr.,Cryst. Mater.,1991,197,169―170
【非特許文献5】E.Lee et al.,ECS Electrochem.Lett.,2012,1,A71―A73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、イオン伝導率が高く、熱力学安定性に優れる二次電池用固体電解質に好適な固体イオン伝導体化合物を提供することである。現状のナトリウムイオン二次電池の固体電解質は、室温でのイオン伝導率が10-7~10-3S/cmのレベルであり、十分ではない。
更に、その化合物を用いて、イオン伝導率、充電安定性に優れたナトリウムイオン二次電池用固体電解質およびナトリウムイオン固体二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
組成式がNa5-2xAl1-xVxS4、Na5-2xAl1-xTaxS4およびNa5-2xIn1-xSbxS4、0.375≦x≦0.625)からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上からなる化合物結晶を含む、固体イオン伝導体。
(構成2)
組成式がNa4Al0.5V0.5S4からなる化合物の結晶からなる、構成1記載の固体イオン伝導体。
(構成3)
組成式がNa4Al0.5Ta0.5S4からなる化合物の結晶からなる、構成1記載の固体イオン伝導体。
(構成4)
組成式がNa4In0.5Sb0.5S4からなる化合物の結晶からなる、構成1記載の固体イオン伝導体。
(構成5)
構成1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体からなる固体電解質。
(構成6)
構成1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体を含む正極電極材料。
(構成7)
構成1から4の何れか一記載の固体イオン伝導体を有するナトリウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、イオン伝導率が高く、熱力学安定性に優れる二次電池用固体電解質に好適な固体イオン伝導体化合物が提供される。
また、その化合物を用いて、イオン伝導率、充電安定性に優れたナトリウムイオン二次電池用固体電解質およびナトリウムイオン固体二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の化合物の構造を示す構造図である。
【
図2】本発明の第2の化合物の構造を示す構造図である。
【
図3】本発明の第3の化合物の構造を示す構造図である。
【
図4】時間アンサンブル平均二乗平均変位(MSD)の時間依存性を示す特性図である。
【
図5】イオン伝導率σの温度依存性(アレリウスプロット)を示す特性図である。
【
図6】Na
5-2xAl
1-xV
xS
4のイオン伝導率σの組成比x依存性を示す特性図である。ここで、(a)は温度Tが500K、(b)は300Kの場合である。
【
図7】Na
5-2xAl
1-xTa
xS
4のイオン伝導率σの組成比x依存性を示す特性図である。ここで、(a)は温度Tが500K、(b)は300Kの場合である。
【
図8】Na
5-2xIn
1-xSb
xS
4のイオン伝導率σの組成比x依存性を示す特性図である。ここで、(a)は温度Tが500K、(b)は300Kの場合である。
【
図9】本発明の固体二次電池の概要構成を示す要部断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する本発明の詳細な説明は、代表的な態様、実施形態、及び実施例に基づいてなされることがあるが、これらは例示であり、本発明はそのような態様、実施形態、及び実施例に限定されるものではない。
なお、「A~B」は、A以上B以下を示す。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、材料の探索方法の概要について説明する。
【0014】
本発明で探索した第1の化合物Na
5-2xAl
1-xV
xS
4の基本構造は、Na
5AlS
4の構造から、原子数100以上のスーパーセルをとって、さらに組成の変形を受けるものであり、MサイトをAl(アルミニウム)-V(バナジウム)とし、その比率xを0.375,0.5,および0.625の3水準振ったコンパウンドを仮定した。ここで、Al-Vとは、AlとVを含むことを意味する。その構造を、x=0.5を例にして
図1に示す。同図では、Naを11、Alを12、Vを13そしてSを14で示している。
【0015】
本発明で探索した第2の化合物Na
5-2xAl
1-xTa
xS
4の基本構造は、Na
5AlS
4の構造から、原子数100以上のスーパーセルをとって、さらに組成の変形を受けるものであり、MサイトをAl-Ta(タンタル)とし、その比率xを0.375,0.5,および0.625の3水準振ったコンパウンドを仮定した。その構造を、x=0.5を例にして
図2に示す。同図では、Naを21、Alを22、Taを23そしてSを24で示している。
【0016】
本発明で探索した第3の化合物Na
5-2xIn
1-xSb
xS
4の基本構造は、Na
5InS
4の構造から、原子数100以上のスーパーセルをとって、さらに組成の変形を受けるものであり、MサイトをIn(インジウム)-Sb(アンチモン)とし、その比率xを0.375,0.5,および0.625の3水準振ったコンパウンドを仮定した。その構造を、x=0.5を例にして
図3に示す。同図では、Naを31、Inを32、Sbを33そしてSを34で示している。
【0017】
その後、第1原理計算に基づいて、分解エネルギー(Decomposition Energy)を算出し、分解エネルギーが0.1eV以下のものになっているのを確かめ、次のステップに進む。ここで、この分解エネルギー0.1eVという基準は、材料合成の経験からくる経験値である。すなわち、分解エネルギーが0.1eVを超えると材料合成が難しいという経験に基づく。
【0018】
しかる後、500Kおよび室温(300K)でのNaイオン伝導率(Na ionic conductivity)を評価した。その算出方法は実施例のところで述べる。
その結果、詳細を実施例のところで記すように、第1から第3の化合物であるNa5-2xAl1-xVxS4、Na5-2xAl1-xTaxS4、およびNa5-2xIn1-xSbxS4(x=0.375、0.5、0.625)で、すべて500Kで10‐2S・cm-1以上、300Kで10‐3S・cm-1以上であることが確かめられた。
【0019】
また、充電安定性の指標としてバンドギャップ(Band gap)を評価した。
バンドギャップは、実施例のところで記すように、Na5-2xAl1-xVxS4、Na5-2xAl1-xTaxS4、およびNa5-2xIn1-xSbxS4(x=0.375、0.5、0.625)で、すべて1.5eV以上であることが確かめられた。
【0020】
ここで、高いNaイオン伝導率は内部抵抗の低減、電流特性の改善に寄与し、バンドギャップが高いものは充放電安定性が高くなる。
したがって、抽出されたNa固電解質の組成(フォーミュラ)の固体イオン伝導体は、イオン伝導率と充放電を含む安定性に優れたナトリウム二次電池用固体電解質に好適なものとなる。
【0021】
(実施の形態2)
実施の形態2では、ナトリウムイオン固体二次電池(Naイオン固体二次電池)101について、
図9を参照しながら、述べる。
Naイオン固体二次電池101は、負極活物質層2と集電極(負電極)1からなる負極、正極活物質層4と集電極(正電極)5からなる正極、および固体電解質3を主要構成物とする。本発明では、そのうちの固体電解質3に実施の形態1の組成の固体イオン伝導体を用いる。ここで、負極活物質層2としてNa金属、正極活物質層4としてNaVS
2などを挙げることができる。なお、NaVS
2に関しては非特許文献5に開示がある。
【0022】
実施の形態1による組成の固体イオン伝導体を固体電解質に用いることにより、イオン伝導率と充放電を含む安定性に優れ、かつ固体電池であるが故の取り扱いの容易さ、安全性、液漏れフリーといった特徴を兼ね備えたNaイオン固体二次電池を供給することが可能になる。
特に、固体電解質として第1の化合物Na4Al0.5V0.5S4、第2の化合物Na4Al0.5Ta0.5S4、あるいは第3の化合物Na4In0.5Sb0.5S4用いた場合は、イオン伝導率に優れて内部抵抗が低く、出力電流の高いNaイオン固体二次電池を供給することが可能になり、また、充放電特性の安定性にも強い特性をもつものになる。
Na5-2xAl1-xVxS4は、例えば、Na2S、Al2S3、V、およびSを混合し、十分粉砕、混合した後、真空封じして加熱して得る。ここでSは酸化性雰囲気とするために過剰に加えるとよい。
【0023】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例0024】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0025】
(実施例1)
実施例1では、下記シミュレーションを実施して、Naイオン伝導率、分解エネルギーおよびバンドギャップエネルギーの3つの視点から好適な材料を探索した結果を示す。もう少し詳しく述べると、実施例1では、密度汎関数理論設定および無機結晶構造データの準備を行った後、イオン交換スキームの下で熱力学計算を行って基底状態フェーズを決定し、イオン伝導率、分解エネルギーおよびバンドギャップを計算により求めた。
【0026】
1.密度汎関数理論(DFT)設定
イオン-電子相互作用のプロジェクター増強波(PAW)形式を用い、交換相関エネルギーの関数としては、Perdew、BurkeおよびErnzerhof(PBE)によってパラメーター化された一般化勾配近似(GGA)を使用した。
Na、In、V、Ta擬ポテンシャルとしては、原子価状態としてセミコアの状態を、他の原子タイプには標準の擬ポテンシャルを使用した。
ここで、運動エネルギーのカットオフは520eVに設定した。
メッシュとしては、Monkhorst-Packグリッドスキームで、少なくとも1000のkポイントメッシュを割り当てた。
すべての計算はスピン偏極条件下で行ない、最適化収束は、エネルギーで10μeV/原子未満、残留力で0.1eV/nm未満に設定した。
【0027】
2.無機結晶構造データ
無機結晶構造データとしては、Na5AlS4の構造に関しては、非特許文献3、Na5InS4の構造に関しては、非特許文献4を参照している。
【0028】
3.イオン置換スキーム
イオン置換スキームは、特別なサイト濃度比(x=0.325,0.5,0.675)での結晶対称グループとサブグループの関係に基づいてシミュレーションした。
【0029】
4.熱力学計算
(4-1)
熱力学に基づいて、特定の温度(T)および圧力(P)でのギブス自由エネルギー(G)を、G(T,P,NNa,NM,NS)=H(T,P,NNa,NM,NS)+PV(T,P,NNa,NM,NS)-TS(T,P,NNa,NM,NS)の式を使用して計算した。
ここで、Hはエンタルピー、Vは体積、Sはエントロピーである。PVおよびTSの項は無視できるとして、0Kの凝縮相ではゼロに設定した。
(4-2)
予測された化合物とそれらの競合するフェーズに対して、凸包アプローチを使用して基底状態フェーズを決定した。
(4-3)
化学ポテンシャルに関しては、以下に示すように元素の標準状態に基づいて使用される参照化学ポテンシャルを使用した。すなわち、ここでは、Na金属からの(μNa0)、S固体からのS(μS0)、Al金属からのAl(μAl0)、V金属からのV(μV0)、Ta金属からのTa(μTa0)、In金属からのIn(μIn0)、Sb金属からのSb(μSb0)を用いた。
【0030】
5.イオン伝導率の計算
イオン伝導率は、まず、温度T=500,600,700,800,および900Kでの分子動力学計算(MD)から推定した。ここで、MDによるNa軌道サンプリングには、少なくとも100原子のスーパーセルモデルとした。
詳細には、MD実行のステップサイズを1fsとしNVTアンサンブル条件下での100ps(100000MDステップ)MD軌跡サンプリングの前に、NVTアンサンブル条件下で5ps(5000MDステップ)以上の平衡化を実行した。
温度TでのNa拡散率は、時間アンサンブル平均二乗平均変位(MSD)プロットの勾配から次式のようにして決定した。
MSD=<[rv(t+τ)-rv(t)]
2>
ここで、rv(t)は時刻tにおける原子の位置であり、τは2つの位置rv(t+τ)とrv(t)の間の遅延時間である。
この計算の一例を
図4に示す。そこでは、第1の化合物Na
5-2xAl
1-xV
xS
4に対してXをパラメータにして計算を行った。
【0031】
Naの拡散係数(D)は、Einstein-Smoluchowski方程式に基づいて計算した。すなわち、下記式(1)を用いて計算した。ここで、dは拡散プロセスにおける格子次元数である。
【0032】
【0033】
各温度Tのイオン伝導率(σ)は、ネルンスト-アインシュタインの関係、すなわちσ=(ze2D)/(kT)に基づいて求めた。ここで、zは電荷キャリア密度、eは素電荷、kはボルツマン定数である。その後、縦軸をLog(σ)とし、横軸を温度の逆数(1/T)とする、いわば、アレニウスプロットを作成し、T=300Kへの外挿を実施することによって、ターゲット温度T=300Kでのイオン伝導率を求めた。Na
5-2xAl
1-xV
xS
4のアレリウスプロットを
図5に示す。
【0034】
分解エネルギーは、予測された化合物と、その化合物が含む元素から成り立つ他物質材料のエンタルピーの比較を行って求めた。その計算では、分解エネルギーの世界標準アルゴリズムともいえる、MaterialsProject.orgが提供するPhase Diagram Appを用いた。
【0035】
バンドギャップは、Heyd-Scruseria-Enzerhof(HSE)ハイブリッド汎関数を用いて求めた。
通常のDFT計算では、電子の局在化を過小評価し、バンドギャップも過小評価されてしまう傾向があるが、本実施例では、電子の交換汎関数にHSE方式を取り入れることによって、電子の局在化描像をより正しく見積もり、バンドギャップの過小評価を防いだ。
【0036】
その結果得られた、第1から第3の固体イオン伝導体であるNa5-2xAl1-xVxS4、Na5-2xAl1-xTaxS4、およびNa5-2xIn1-xSbxS4(x=0.375、0.5、0.625)における、分解エネルギー、イオン伝導率、および、バンドギャップを表1に掲載する。
【0037】
【0038】
表1に示すように、Na
5-2xAl
1-xV
xS
4、Na
5-2xAl
1-xTa
xS
4、およびNa
5-2xIn
1-xSb
xS
4(x=0.375、0.5、0.625)において、すべて、分解エネルギーが0.1eV/atom以下であり、温度Tが500K、300Kでのイオン伝導率が高い水準(それぞれ10
‐2S・cm
-1以上、10
‐3S・cm
-1以上)であり、バンドギャップが1.5eV以上であることが確認された。
特に、表1の番号2(Na
4Al
0.5V
0.5S
4)、5(Na
4Al
0.5Ta
0.5S
4)、および、8(Na
4In
0.5Sb
0.5S
4)は、温度T=500Kでのイオン伝導率が10
‐1S・cm
-1以上、T=300Kでのイオン伝導率が10
‐2S・cm
-1以上であり、バンドギャップが1.9eV以上である。よって、三つの組成とも、X=0.5において、内部抵抗が低く、充放電安定性も高い水準でとどまる。
ここで、イオン伝導率の組成比X依存性を
図6から8に示す。
図6はNa
5-2xAl
1-xV
xS
4、
図7はNa
5-2xAl
1-xTa
xS
4、そして
図8はNa
5-2xIn
1-xSb
xS
4についてのデータであり、(a)は温度Tが500K、(b)は300Kの場合を示す。どのデータとも組成比Xが0.5のときイオン伝導率は極大となる。
本発明により、ナトリウムイオン伝導率の高い固体イオン伝導体を提供することが可能になる。このイオン伝導体は、イオン伝導率が高いため二次電池の電気特性を向上させ、ナトリウムイオン二次電池の固体電解質や正極電極に好んで適用されるものである。また、このイオン伝導体は固体であり、液漏れなどの問題を生じない取り扱いの容易なものである。
ハイブリッドおよび電気自動車、高機能住宅、スマートフォンなどの携帯端末などスマート社会では大電流対応でかつ取り扱いの容易な二次電池が強く求められているので、本発明は、パーソナル用途を含めた産業や社会の発展に寄与するものと考える。