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特開2023-114281赤外ラマン顕微鏡及びデータ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114281
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】赤外ラマン顕微鏡及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20230809BHJP
   G02B 21/06 20060101ALI20230809BHJP
   G01N 21/359 20140101ALI20230809BHJP
【FI】
G01N21/65
G02B21/06
G01N21/359
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016565
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】藤原 直也
(72)【発明者】
【氏名】青位 祐輔
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA03
2G043FA02
2G043HA01
2G043JA01
2G043KA01
2G043KA02
2G043LA03
2G043NA05
2G043NA06
2G059EE03
2G059EE12
2G059FF03
2G059HH01
2G059JJ01
2G059KK04
2G059MM09
2G059MM10
2H052AA01
2H052AA03
2H052AA09
2H052AB25
2H052AC06
2H052AC07
2H052AC13
2H052AC14
2H052AC34
2H052AD20
2H052AF07
2H052AF14
2H052AF21
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行う際に、ソフトウェアを流用することができる赤外ラマン顕微鏡及びデータ処理方法を提供する。
【解決手段】赤外スペクトル表示処理部134が、赤外分光分析により得られる赤外スペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う。データ変換処理部136が、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換する処理を行う。ラマンスペクトル表示処理部135が、等間隔ラマンスペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上の試料に対して赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行うことができる赤外ラマン顕微鏡であって、
赤外分光分析により得られる赤外スペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う赤外スペクトル表示処理部と、
ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換する処理を行うデータ変換処理部と、
前記等間隔ラマンスペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行うラマンスペクトル表示処理部とを備える、赤外ラマン顕微鏡。
【請求項2】
前記データ変換処理部による処理には、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルの複数のデータ点の間で線形補間を行う処理が含まれる、請求項1に記載の赤外ラマン顕微鏡。
【請求項3】
ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換するデータ変換処理を含む、データ処理方法。
【請求項4】
前記データ変換処理には、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルの複数のデータ点の間で線形補間を行う処理が含まれる、請求項3に記載のデータ処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ上の試料に対して赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行うことができる赤外ラマン顕微鏡及びデータ処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料に光を照射して分析を行う分析法として、赤外分光分析及びラマン分光分析が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。赤外分光分析では、試料の測定位置に赤外光を照射し、各波長(波数)における光の吸収を測定することにより、赤外スペクトルが得られる。一方、ラマン分光分析では、試料の測定位置に特定波長の光を照射し、試料から発生する散乱光(ラマン散乱光)を測定することにより、ラマンスペクトルが得られる。
【0003】
赤外スペクトル及びラマンスペクトルは、いずれも分子の振動に基づく振動スペクトルである。分子振動には、スペクトル上にピークとして現れる振動モードと、ピークとして現れない振動モードがあり、吸収による赤外分光分析と散乱によるラマン分光分析とではピークの現れ方が異なる。そのため、赤外スペクトル及びラマンスペクトルの両方を用いて分析を行えば、より多くの種類の物質を同定することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-13095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
赤外分光分析では、赤外光が照射された試料からの反射光を赤外分光計で受光し、各波長の受光強度に対してフ―リエ変換を行うことにより、赤外スペクトルが得られる。この赤外スペクトルは、横軸が波数、縦軸が強度で表され、横軸方向に等間隔でプロットされたデータに基づいてグラフで表示される。
【0006】
一方、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルは、横軸がラマンシフト、縦軸が強度で表される。ラマンシフトは、入射光と散乱光との波数差であるため、横軸方向にプロットされるデータ間隔が、赤外スペクトルのように等間隔とはならない。
【0007】
赤外分光分析に使用されるソフトウェアの中には、スペクトル(赤外スペクトル)が横軸方向に等間隔でプロットされたデータであることを前提として処理を行うものがある。このようなソフトウェアでは、ラマンシフトを横軸とするラマンスペクトルを処理することができないため、ラマン分光分析に流用することができない。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行う際に、ソフトウェアを流用することができる赤外ラマン顕微鏡及びデータ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、ステージ上の試料に対して赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行うことができる赤外ラマン顕微鏡であって、赤外スペクトル表示処理部と、データ変換処理部と、ラマンスペクトル表示処理部とを備える。前記赤外スペクトル表示処理部は、赤外分光分析により得られる赤外スペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う。前記データ変換処理部は、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換する処理を行う。前記ラマンスペクトル表示処理部は、前記等間隔ラマンスペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う。
【0010】
本発明の第2の態様は、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換するデータ変換処理を含む、データ処理方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行う際に、ソフトウェアを流用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】赤外ラマン顕微鏡の構成例の一例を示す概略図である。
図2】赤外ラマン顕微鏡の構成例の一例を示す概略図である。
図3】赤外ラマン顕微鏡の電気的構成の一例を示すブロック図である。
図4】マップ測定を行った場合の比較表示画面の一例を示した図である。
図5】データ変換処理前のラマンスペクトルの一例を示した概略図である。
図6A】ラマンスペクトルに対するデータ変換処理について説明するための概略図である。
図6B】ラマンスペクトルに対するデータ変換処理について説明するための概略図である。
図6C】ラマンスペクトルに対するデータ変換処理について説明するための概略図である。
図7】データ変換処理後のラマンスペクトルを赤外スペクトルと重ね合わせて表示した一例を示す図である。
図8】赤外ラマン顕微鏡の電気的構成の具体例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.赤外ラマン顕微鏡の概略構成
図1及び図2は、赤外ラマン顕微鏡10の構成例の一例を示す概略図である。本実施形態における赤外ラマン顕微鏡10は、ステージ14上の試料Sに対して赤外分光分析とラマン分光分析とを切り替えて行うことができる顕微鏡である。
【0014】
また、図1は、ラマン分光分析を行う際の赤外ラマン顕微鏡10の状態(ラマン分析状態)を示しており、図2は、赤外分光分析を行う際の赤外ラマン顕微鏡10の状態(赤外分析状態)を示している。
【0015】
赤外ラマン顕微鏡10は、プレート12、ステージ14、駆動部16、対物光学素子18、対物光学素子20、ラマン光検出系22及び赤外光検出系30等を備える。試料Sは、プレート12に固定された状態でステージ14上に載置される。
【0016】
ステージ14は、駆動部16の駆動により、水平方向又は鉛直方向に変位可能とされる。駆動部16は、電気的に制御可能とされ、さらに、駆動部16とステージ14は、機械的に連結されている。駆動部16には、例えばモータ及びギアなどが含まれる。
【0017】
対物光学素子18は、ラマン分光分析に用いられ、例えば凸レンズと凹レンズとを組み合わせた構成である。ラマン分光分析を行う際には、図1に示すように、対物光学素子18がプレート12上の試料Sに対向する。すなわち、プレート12上の試料Sの直上方に対物光学素子18が位置する。
【0018】
対物光学素子20は、赤外分光分析に用いられ、例えば凹面鏡と凸面鏡とを組み合わせたカセグレン鏡である。赤外分光分析を行う際には、図2に示すように、対物光学素子20がプレート12上の試料Sに対向する。すなわち、プレート12上の試料Sの直上方に対物光学素子20が位置する。
【0019】
ラマン光検出系22は、ラマン分光分析を行う際に用いられるものであり、光源24、ラマン分光計26及び光学撮影素子28を含む。光源24から出射される光は、例えば可視域又は近赤外域の波長を有するレーザ光であり、その波長は数μmから数十μm程度である。図1に示すように、ラマン分光分析を行う際には、光源24から出射された光が、各種光学素子(図示は省略)により対物光学素子18に導かれる。
【0020】
対物光学素子18に入射した光は、プレート12に固定された試料S上に焦点を結ぶ。すなわち、光源24からの光は、対物光学素子18を透過することにより集光され、試料S上又は試料S中の焦点位置に照射される。光源24からの光が照射された試料Sからは、ラマン散乱光が発生し、この光が各種光学素子(図示は省略)によりラマン光検出系22に導かれる。対物光学素子18からラマン光検出系22に導かれた光の一部は、光学撮影素子28に入射し、残りの光は、ラマン分光計26に入射する。
【0021】
ラマン分光計26は、試料Sからのラマン散乱光を分光することにより、波長ごとの強度を検出する。このラマン分光計26からの検出信号に基づいて、ラマンスペクトルを取得することができる。ラマンスペクトルは、縦軸が強度、横軸が波数(入射光と散乱光との波数差であるラマンシフト)で表される。このように、赤外ラマン顕微鏡10では、試料Sからのラマン散乱光を検出器(ラマン分光計26)で受光することにより、ラマンスペクトルを取得することができる。
【0022】
光学撮影素子28は、ラマン散乱光が発生する試料Sの表面の可視画像を撮影する。光学撮影素子28は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを含み、試料Sの静止画又は動画を撮影可能に構成されている。光学撮影素子28では、試料Sの明視野像、暗視野像、位相差像、蛍光像及び偏光顕微鏡像などの全部又は少なくとも1つを撮影することができる。
【0023】
赤外光検出系30は、赤外分光分析を行う際に用いられるものであり、光源32、赤外分光計34及び光学撮影素子36を含む。光源32から出射される光は、例えばセラミックヒータから出射される赤外光であり、その波長は405nmから1064nm程度、多くの場合は532nmと785nmの波長を組み合わせた光が用いられる。図2に示すように、赤外分光分析を行う際には、光源32から出射された光が、各種光学素子(図示は省略)により対物光学素子20に導かれる。
【0024】
対物光学素子20に入射した光は、プレート12に固定された試料S上に焦点を結ぶ。すなわち、光源32からの光は、対物光学素子20を透過することにより集光され、試料S上又は試料S中の焦点位置に照射される。光源32からの光が照射された試料からの反射光は、各種光学素子(図示は省略)により赤外光検出系30に導かれる。対物光学素子20から赤外光検出系30に導かれた光の一部は、光学撮影素子36に入射し、残りの光は、赤外分光計34に入射する。
【0025】
赤外分光計34は、例えばフーリエ変換赤外分光計である。赤外分光計34に備えられた分光器は、マイケルソン干渉分光器であってもよい。赤外分光計34は、試料からの赤外光の反射光を分光することにより、波長ごとの強度を検出する。この赤外分光計34からの検出信号に基づいて、赤外スペクトルを取得することができる。赤外スペクトルは、縦軸が強度、横軸が波数で表される。このように、赤外ラマン顕微鏡10では、試料Sからの赤外光の反射光を検出器(赤外分光計34)で受光することにより、赤外スペクトルを取得することができる。
【0026】
光学撮影素子36は、赤外光が反射する試料Sの表面の可視画像を撮影する。光学撮影素子36は、光学撮影素子28と同様の構成であってもよい。光学撮影素子36では、光学撮影素子28と同様に、試料Sの静止画又は動画を撮影可能であり、試料Sの明視野像、暗視野像、位相差像、蛍光像及び偏光顕微鏡像などの全部又は少なくとも1つを撮影することができる。
【0027】
このように、本実施形態における赤外ラマン顕微鏡10では、赤外分光分析とラマン分光分析との切り替えが可能とされ、赤外分光分析からラマン分光分析に切り換えられた場合には、対物光学素子18とプレート12との位置関係が調整されることにより、対物光学素子18により集光される光の焦点位置が試料の所定の測定位置に合わせられる。一方、ラマン分光分析から赤外分光分析に切り換えられた場合には、対物光学素子20とプレート12との位置関係が調整されることにより、対物光学素子20により集光される光の焦点位置が試料の所定の測定位置に合わせられる。
【0028】
2.赤外ラマン顕微鏡の電気的構成
図3は、赤外ラマン顕微鏡10の電気的構成の一例を示すブロック図である。赤外ラマン顕微鏡10は、駆動部16、ラマン光検出系22及び赤外光検出系30等以外に、操作部40、表示部42及び制御部100等を備える。
【0029】
また、制御部100、駆動部16、光源24、ラマン分光計26、光学撮影素子28、光源32、赤外分光計34、光学撮影素子36、操作部40及び表示部42の各々は、バス等の回路46を介して、互いに電気的に接続される。
【0030】
制御部100は、赤外ラマン顕微鏡10の全体的な制御を担う。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)102を備える。また、制御部100は、CPU102が直接的にアクセス可能なRAM(Random Access Memory)104及び記憶部106を備える。
【0031】
RAM104は、CPU102のワーク領域及びバッファ領域として用いられる。記憶部106は、不揮発性メモリであり、たとえば、記憶部106としてHDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)等が用いられる。
【0032】
記憶部106には、赤外ラマン顕微鏡10を制御するための制御プログラム及び制御プログラムの実行に必要とされるデータ(実行用データ)等が記憶される。なお、記憶部106がRAM104を含むように構成されてもよい。
【0033】
操作部40は、ハードウェアキー(操作キー)を含む。また、操作部40には、入力装置が含まれても良い。入力装置としては、たとえば、キーボード及びマウス等が挙げられる。さらに、入力装置には、タッチパネルが含まれても良い。なお、この場合、タッチパネルは、表示部42の表示画面上に設けられる。また、タッチパネルと表示部42は、一体的に形成されてもよい。なお、表示部42は、汎用のディスプレイである。
【0034】
3.測定位置の指定
赤外分光分析又はラマン分光分析を行う際の測定位置の指定は、表示部42に表示される試料Sの可視画像上で行うことができる。測定位置とは、水平面内で選択される任意の位置である。本実施形態では、試料Sの可視画像上で任意の測定位置を1点ずつ指定して各点の測定を行うポイント測定、又は、試料Sの可視画像上で範囲を指定して当該範囲内の各点(各測定位置)の測定を行うマップ測定を選択して実行することができる。表示部42の表示画面には、光学撮影素子28又は光学撮影素子36からの信号に基づき、試料Sの可視画像がリアルタイムで表示される。ただし、表示部42に表示される試料Sの可視画像は、所定のタイミングで取得した静止画であってもよい。
【0035】
また、本実施形態では、予めマップ情報がデータ形式で記憶部106に記憶されている。マップ情報は、ステージ14上の座標、具体的には、2次元座標を示す情報である。表示部42に表示される試料Sの可視画像50は、ステージ14上の座標に対応付けて表示される。したがって、表示部42に表示される試料Sの可視画像上で測定位置を指定した場合には、その測定位置に対応する座標上の点が指定される。赤外分光分析又はラマン分光分析の際には、指定された座標上の点(測定位置)に光源24又は光源32からの光の光軸位置が合わせられた上で、測定が行われる。
【0036】
マップ測定を行う場合、表示部42に表示される試料Sの可視画像上の任意の範囲が指定されることにより、その範囲を格子状の複数の測定領域に分割したときの各測定領域内の1点が、測定位置として指定される。各測定領域内の1点(例えば中心点)が測定位置であり、任意の範囲を指定することにより、当該範囲内に等間隔で位置する各測定位置を指定することができる。
【0037】
4.比較表示
図4は、マップ測定を行った場合の比較表示画面200の一例を示した図である。マップ測定においてステージ14上の座標の範囲53が指定された場合には、当該範囲53内における複数の測定位置に対する赤外分光分析及びラマン分光分析が行われる。これにより、各測定位置に対応付けられた赤外スペクトル及びラマンスペクトルを取得することができる。また、取得した各測定位置における赤外スペクトル及びラマンスペクトルに対して解析を行い、その解析結果を表示部42のマップ表示領域55に表示させることができる。
【0038】
上記解析は、各測定位置におけるスペクトル(赤外スペクトル及びラマンスペクトル)の特性の解析であり、例えば、各測定位置におけるスペクトルに含まれるピークのピーク高さの算出結果、ピーク面積の算出結果、又は、多変量解析の結果などが、各測定位置におけるスペクトルの解析結果として得られる。得られた各測定位置における解析結果は、可視画像上で指定された範囲53の各測定領域54に、色又は濃度などの視覚的に解析結果の相違を識別可能な態様で表される。その結果、格子状に配列された複数の測定領域54が、それぞれ異なる色又は濃度などで表されることにより、各測定位置における解析結果の分布がマップ表示される。
【0039】
図4に示す比較表示画面200は、赤外分光分析の結果とラマン分光分析の結果とを比較して確認するための画面であり、作業者による入力操作が可能な操作画面の一例である。比較表示画面200には、赤外マップ表示領域551、ラマンマップ表示領域552及びグラフ表示領域56が含まれる。
【0040】
赤外マップ表示領域551には、ステージ14上の所定の座標の範囲53内で、各測定位置における赤外スペクトルの解析結果がマップ表示される。マップ表示される座標の範囲53は、作業者が操作部40を操作することにより調整可能である。したがって、作業者は、所望の座標の範囲53が赤外マップ表示領域551に表示されるように調整し、その範囲53内の各測定位置における解析結果の分布を確認することができる。
【0041】
ラマンマップ表示領域552には、ステージ14上の所定の座標の範囲53内で、各測定位置におけるラマンスペクトルの解析結果がマップ表示される。マップ表示される座標の範囲53は、作業者が操作部40を操作することにより調整可能である。したがって、作業者は、所望の座標の範囲53がラマンマップ表示領域552に表示されるように調整し、その範囲53内の各測定位置における解析結果の分布を確認することができる。
【0042】
赤外マップ表示領域551とラマンマップ表示領域552とで、マップ表示される座標の範囲53は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、赤外マップ表示領域551とラマンマップ表示領域552とで、マップ表示される座標の尺度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。作業者は、操作部40を操作することにより、赤外マップ表示領域551及びラマンマップ表示領域552の座標の尺度を個別に調整できてもよい。
【0043】
グラフ表示領域56には、赤外スペクトル561及びラマンスペクトル562がグラフ表示される。作業者は、赤外マップ表示領域551及びラマンマップ表示領域552のそれぞれにおいて、任意の測定領域54を選択することにより、当該測定領域54に対応する測定位置を指定することができる。赤外マップ表示領域551及びラマンマップ表示領域552において任意の測定位置が指定された場合には、指定された測定位置に対応付けられた赤外スペクトル561及びラマンスペクトル562が同一のグラフ表示領域56にグラフ表示される。なお、グラフ表示領域56には、横軸を波数、縦軸を強度として、赤外スペクトル561及びラマンスペクトル562が重ね合わせて表示される。
【0044】
5.ラマンスペクトルのデータ変換処理
本実施形態では、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルに対して、データ変換処理が行われた上で、そのデータ変換処理後のラマンスペクトル562がグラフ表示領域56に表示される。以下では、データ変換処理の具体例について説明する。
【0045】
図5は、データ変換処理前のラマンスペクトル562の一例を示した概略図である。ラマン分光計26からの検出信号に基づいてラマンスペクトル562を取得する際には、ラマン分光計26において得られた波長と強度との関係を表すデータが、波数と強度との関係を表すデータに変換される。
【0046】
具体的には、下記式(1)により、波長が波数に変換される。なお、下記式(1)において、vは波数(cm-1)、λは試料Sへの入射光の波長(nm)、λはラマン分光計26で受光した散乱光の波長(nm)である。この式(1)で表される波数vは、入射光と散乱光との波数差(ラマンシフト)である。
v=(1/λ-1/λ)×10 ・・・(1)
【0047】
このように、ラマン分光計26からの検出信号に基づいてラマンスペクトル562を取得する際には、波長が波数に変換されるため、図5に示すように、取得されたラマンスペクトル562において、横軸方向にプロットされるデータ点P~Pの間隔(データ間隔d)が等間隔とはならない。
【0048】
これに対して、赤外分光計34からの検出信号に基づいて赤外スペクトル561を取得する際には、各波長の受光強度に対してフ―リエ変換を行うことにより、波数と強度との関係を表す赤外スペクトル561が得られる。すなわち、ラマンスペクトル562のように波長を波数に変換する処理は行われない。そのため、赤外スペクトル561においては、横軸方向にプロットされるデータ点の間隔が等間隔となる。
【0049】
本実施形態では、図5のようにデータ間隔dが等間隔ではないラマンスペクトル562に対して、データ変換処理を行うことにより、等間隔の波数でデータ点Q~Q図6C参照)がプロットされたラマンスペクトル(等間隔ラマンスペクトル)に変換される。
【0050】
図6A図6Cは、ラマンスペクトル562に対するデータ変換処理について説明するための概略図である。データ変換処理では、まず、図6Aに示すように、各データ点P~Pの横軸方向の位置を等間隔に再配置する処理が行われる。
【0051】
具体的には、下記式(2)により、各データ点P~Pを横軸方向に等間隔に再配置した場合のデータ間隔dAVGが算出される。なお、下記式(2)において、dAVGはデータ間隔dの平均値、Xmaxはデータ点P~Pの横軸の最大値、Xminはデータ点P~Pの横軸の最小値、Nはデータ点P~Pの数である。
AVG=(Xmax-Xmin)/(N-1) ・・・(2)
【0052】
次に、図6Bに示すように、各データ点P~Pを横軸方向に等間隔に再配置した場合の各データ点Q~QN-1の位置が、下記式(3)~(6)を用いて算出される。ただし、データ点Qの位置はデータ変換処理前のデータ点Pの位置と一致し、データ点Qの位置はデータ変換処理前のデータ点Pの位置と一致する。したがって、下記式(3)~(6)において、nは2~N-1の値となる。なお、下記式(3)~(6)において、Xはデータ点Qの横軸の値、Yはデータ点Qの縦軸の値、xはデータ点Pの横軸の値、yはデータ点Pの縦軸の値である。
=Xn-1+dAVG ・・・(3)
=a+b ・・・(4)
=(yn+1-y)/(xn+1-x) ・・・(5)
=(yn+1-y)-a(xn+1-x) ・・・(6)
【0053】
上記式(3)~(6)の演算により、横軸方向に隣接するデータ点の間で線形補間が行われる。すなわち、本実施形態におけるデータ変換処理には、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルの複数のデータ点P~Pの間で線形補間を行う処理が含まれる。
【0054】
複数のデータ点P~Pの間で線形補間が行われた後のラマンスペクトル562は、図6Cに示すように、等間隔の波数でデータ点Q~Qがプロットされた等間隔ラマンスペクトルとなる。なお、図6Cでは、データ変換処理後の各データ点Q~Qがデータ変換処理前の各データ点P~Pから大きくずれているが、これは説明を分かりやすくするために各データ点P~Pの間隔を大きく表したことによるものであり、実際のずれ量は微量である。
【0055】
図7は、データ変換処理後のラマンスペクトル562を赤外スペクトル561と重ね合わせて表示した一例を示す図である。図7に示すように、データ変換処理後のラマンスペクトル(等間隔ラマンスペクトル)562は、赤外スペクトル561と同様に、横軸方向にプロットされるデータ点の間隔が等間隔となる。
【0056】
なお、赤外スペクトル561における横軸方向の各データ点の間隔と、データ変換処理後のラマンスペクトル562における横軸方向の各データ点の間隔とは、同一であってもよいし、同一でなくてもよい。
【0057】
6.電気的構成の具体例
図8は、赤外ラマン顕微鏡10の電気的構成の具体例を示す機能ブロック図である。制御部100は、CPU102(図3参照)がプログラムを実行することにより、赤外分析処理部110、ラマン分析処理部120及び表示処理部130などとして機能する。
【0058】
赤外分析処理部110は、ステージ14上の試料に対して赤外分光分析を行うための処理を実行する。すなわち、光源32から試料に対して赤外光を集光させて照射し、赤外分光計34からの検出信号に基づいて赤外スペクトルを取得する。また、赤外分析処理部110は、光学撮影素子36により撮影される可視画像に基づいて、赤外分光分析中における試料の表面画像を取得することができる。赤外分光分析の際には、駆動部16を制御することにより、ステージ14を移動させながら分析が行われてもよい。
【0059】
ラマン分析処理部120は、ステージ14上の試料に対してラマン分光分析を行うための処理を実行する。すなわち、光源24から試料に対してレーザ光を集光させて照射し、ラマン分光計26からの検出信号に基づいてラマンスペクトルを取得する。また、ラマン分析処理部120は、光学撮影素子28により撮影される可視画像に基づいて、ラマン分光分析中における試料の表面画像を取得することができる。ラマン分光分析の際には、駆動部16を制御することにより、ステージ14を移動させながら分析が行われてもよい。
【0060】
赤外分析処理部110の処理により得られた赤外分光分析中のデータ、及び、ラマン分析処理部120の処理により得られたラマン分光分析中のデータは、記憶部106に記憶される。記憶部106には、例えばラマン分光分析により取得されたラマンスペクトル、及び、赤外分光分析により取得された赤外スペクトルが記憶される。また、記憶部106には、各測定位置52における赤外スペクトルの解析結果(赤外データ)と、各測定位置52におけるラマンスペクトルの解析結果(ラマンデータ)とが、それぞれステージ14上の座標(マップ情報)に対応付けて記憶される。
【0061】
表示処理部130は、表示部42に対する表示を制御する。すなわち、表示処理部130の制御により、表示部42の表示画面に対して、操作画面などの各種画面が表示される。表示部42に操作画面が表示されているときには、操作部40を操作することにより、当該操作画面に対する入力操作を行うことができる。操作部40を用いて入力操作を行った場合には、その入力された情報(数値など)が表示部42の操作画面に反映されて表示される。
【0062】
表示処理部130には、赤外データ表示処理部131、ラマンデータ表示処理部132及びグラフ表示処理部133が含まれる。また、グラフ表示処理部133には、赤外スペクトル表示処理部134、ラマンスペクトル表示処理部135及びデータ変換処理部136が含まれる。
【0063】
マップ測定が行われた場合、赤外データ表示処理部131は、各測定位置の座標の点に対応付けて、各測定位置における赤外スペクトルの解析結果を赤外データとして赤外マップ表示領域551にマップ表示させる。また、ラマンデータ表示処理部132は、各測定位置の座標の点に対応付けて、各測定位置におけるラマンスペクトルの解析結果をラマンデータとしてラマンマップ表示領域552にマップ表示させる。
【0064】
グラフ表示処理部133は、赤外マップ表示領域551及びラマンマップ表示領域552において任意の測定位置(測定領域54)が指定された場合に、指定された測定位置に対応付けられた赤外スペクトル561及びラマンスペクトル562を同一のグラフ表示領域56にグラフ表示させる。具体的には、赤外スペクトル表示処理部134が赤外スペクトル561をグラフ表示領域56にグラフ表示させ、ラマンスペクトル表示処理部135がラマンスペクトル562をグラフ表示領域56にグラフ表示させる。このとき、各スペクトル561,562のピーク高さが一致するように、グラフ表示領域56にグラフ表示される赤外スペクトル561及びラマンスペクトル562の少なくとも一方の強度値の尺度が調整されてもよい。
【0065】
本実施形態では、データ変換処理部136が、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされたラマンスペクトル(等間隔ラマンスペクトル)に変換する処理を行う(図6A図6C参照)。そして、ラマンスペクトル表示処理部135が、データ変換処理後のラマンスペクトル(等間隔ラマンスペクトル)を、波数と強度との関係を表すグラフでグラフ表示領域56に表示させる処理を行う。
【0066】
一方、赤外スペクトルに対してはデータ変換処理は行われず、赤外スペクトル表示処理部134が、赤外分光分析により得られる赤外スペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフでグラフ表示領域56に表示させる処理を行う。
【0067】
7.態様
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0068】
(第1項)一態様に係る赤外ラマン顕微鏡は、
ステージ上の試料に対して赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行うことができる赤外ラマン顕微鏡であって、
赤外分光分析により得られる赤外スペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行う赤外スペクトル表示処理部と、
ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換する処理を行うデータ変換処理部と、
前記等間隔ラマンスペクトルを、波数と強度との関係を表すグラフで表示させる処理を行うラマンスペクトル表示処理部とを備えていてもよい。
【0069】
第1項に記載の赤外ラマン顕微鏡によれば、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルが、赤外スペクトルと同様に、等間隔の波数でデータ点がプロットされたスペクトルに変換されるため、赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行う際に、ソフトウェアを流用することができる。
【0070】
(第2項)第1項に記載の赤外ラマン顕微鏡において、
前記データ変換処理部による処理には、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルの複数のデータ点の間で線形補間を行う処理が含まれていてもよい。
【0071】
第2項に記載の赤外ラマン顕微鏡によれば、線形補間を用いて、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを等間隔ラマンスペクトルに良好に変換することができる。
【0072】
(第3項)一態様に係るデータ処理方法は、
ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを、等間隔の波数でデータ点がプロットされた等間隔ラマンスペクトルに変換するデータ変換処理を含んでいてもよい。
【0073】
第3項に記載のデータ処理方法によれば、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルが、赤外スペクトルと同様に、等間隔の波数でデータ点がプロットされたスペクトルに変換されるため、赤外分光分析又はラマン分光分析を切り替えて行う際に、ソフトウェアを流用することができる。
【0074】
(第4項)第3項に記載のデータ処理方法において、
前記データ変換処理には、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルの複数のデータ点の間で線形補間を行う処理が含まれていてもよい。
【0075】
第4項に記載のデータ処理方法によれば、線形補間を用いて、ラマン分光分析により得られるラマンスペクトルを等間隔ラマンスペクトルに良好に変換することができる。
【符号の説明】
【0076】
10 赤外ラマン顕微鏡
14 ステージ
56 グラフ表示領域
110 赤外分析処理部
120 ラマン分析処理部
130 表示処理部
131 赤外データ表示処理部
132 ラマンデータ表示処理部
133 グラフ表示処理部
134 赤外スペクトル表示処理部
135 ラマンスペクトル表示処理部
136 データ変換処理部
561 赤外スペクトル
562 ラマンスペクトル
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8