(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114283
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】電力系統解析システム、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230809BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230809BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230809BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20230809BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20230809BHJP
B60L 53/14 20190101ALI20230809BHJP
B60L 53/62 20190101ALI20230809BHJP
B60L 53/67 20190101ALI20230809BHJP
B60L 53/68 20190101ALI20230809BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20230809BHJP
G16Y 10/40 20200101ALI20230809BHJP
G16Y 20/30 20200101ALI20230809BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301B
H02J13/00 311T
H02J3/00 130
H02J7/00 P
H02J7/10 H
B60L50/60
B60L53/14
B60L53/62
B60L53/67
B60L53/68
B60L58/12
G16Y10/40
G16Y20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016567
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内 駿介
(72)【発明者】
【氏名】坂内 容子
(72)【発明者】
【氏名】小原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】大場 健史
(72)【発明者】
【氏名】志賀 慶明
(72)【発明者】
【氏名】小田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】前川 隆文
(72)【発明者】
【氏名】矢島 泰彦
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064CB08
5G064CB21
5G064DA11
5G066AA02
5G066AA03
5G503CA01
5G503FA06
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC23
5H125AC24
5H125BC05
5H125BC21
5H125BE01
5H125CC04
5H125DD02
5H125EE51
5H125EE55
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡易な処理で電気自動車の充電需要を踏まえて電力系統の解析を行う電力系統解析システム及びプログラムを提供する。
【解決手段】電力系統解析システム1は、複数のノードと複数のブランチから構成される電力系統について、ノード毎の電圧とブランチ毎の電流を解析する電力系統解析部66と、複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して電気自動車毎の時間別・充電器種類別の充電需要を算出する充電行動解析部63と、充電器設置場所DBに格納されたノード毎の充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、電気自動車毎の充電需要を電力系統のノード毎の電気自動車の充電電力に換算し、充電電力を電力系統解析部に対して出力する地点別充電需要算出部67と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノードと複数のブランチから構成される電力系統について、前記ノードごとの電圧と前記ブランチごとの電流を解析する電力系統解析部と、
複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して前記電気自動車ごとの時間別・充電器種類別の充電需要を算出する充電行動解析部と、
充電器設置場所DB(Data Base)に格納された前記ノードごとの充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、前記電気自動車ごとの前記充電需要を前記電力系統の前記ノードごとの前記電気自動車の充電電力に換算し、前記充電電力を前記電力系統解析部に対して出力する地点別充電需要算出部と、を備える電力系統解析システム。
【請求項2】
前記ノードごとの基地充電器の台数を、前記ノードごとの低圧需要家の軒数の比率に比例して決定する充電器位置推定部を、さらに備える、請求項1に記載の電力系統解析システム。
【請求項3】
前記充電器位置推定部は、前記ノードごとの目的地充電器の台数を、前記ノードごとの高圧需要家の軒数の比率に比例して決定する、請求項2に記載の電力系統解析システム。
【請求項4】
前記ノードごとの基地充電器の台数を、前記ノードごとの低圧需要家の契約容量の比率に比例して決定する充電器位置推定部を、さらに備える、請求項1に記載の電力系統解析システム。
【請求項5】
前記充電器位置推定部は、前記ノードごとの目的地充電器の台数を、前記ノードごとの高圧需要家の契約容量の比率に比例して決定する、請求項4に記載の電力系統解析システム。
【請求項6】
前記電力系統が複数のエリアに分割されており、それぞれの前記エリアでの前記電気自動車の普及率が既知である場合に、
前記充電器位置推定部は、前記電力系統のノードごとの前記基地充電器の台数、および、前記目的地充電器の台数の少なくとも一方を、前記エリアごとの前記普及率に応じて決定する、請求項3に記載の電力系統解析システム。
【請求項7】
前記ノードごとの急速充電器の台数を、前記電力系統の所属する地域の前記急速充電器の普及率と、前記電力系統がカバーしている面積の大きさと、に基づいて決定する充電器位置推定部を、さらに備える、請求項1に記載の電力系統解析システム。
【請求項8】
コンピュータを、
複数のノードと複数のブランチから構成される電力系統について、前記ノードごとの電圧と前記ブランチごとの電流を解析する電力系統解析部と、
複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して前記電気自動車ごとの時間別・充電器種類別の充電需要を算出する充電行動解析部と、
充電器設置場所DBに格納された前記ノードごとの充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、前記電気自動車ごとの前記充電需要を前記電力系統の前記ノードごとの前記電気自動車の充電電力に換算し、前記充電電力を前記電力系統解析部に対して出力する地点別充電需要算出部と、して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力系統解析システム、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力系統について、各ノードの電圧、各ブランチの電流、有効/無効電力潮流などの値を解析する技術がある。また、電力系統のうちの配電系統における新たな主要負荷として、配電系統に接続して充電を行う電気自動車の増加が見込まれている。なお、本明細書において、電気自動車とは、電気だけを動力源とするEV(Electric Vehicle)に限定されず、ほかに、プラグインハイブリッド車(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle)等の電気と電気以外(例えばガソリンなど)を動力とする自動車も含む。
【0003】
電気自動車の充電需要は配電系統の日負荷曲線に大きな影響を及ぼすことが予想され、電力系統、特に配電系統の電圧管理・潮流管理の面で課題となることが系統運用者において懸念されている。
【0004】
一方、電気自動車が不使用で充電器に接続されている期間にはこれらの電気自動車に搭載された蓄電池の充放電を電力系統側から制御して、電力系統の制御に役立てるV2G(Vehicle to Grid)技術が期待されている。
【0005】
このような状況の元で、電気自動車の充電需要を踏まえて電力系統の解析(算出、推定など)を行う様々な従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5656624号公報
【特許文献2】特許第5646877号公報
【特許文献3】特開2014-42383号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】前川隆文、小田拓也、渡辺陽子、ムハンマッド・アズイッズ、柏木孝夫、「充電要否判断モデルに基づく電気自動車の充電行動解析:基地充電の有無と電池容量増大の影響」、電気学会論文誌C139巻、11号、p.1357-1367、2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では、電気自動車の充電需要を踏まえて電力系統の解析を行うのに多くの計算を要する等の問題がある。
【0009】
そこで、本発明の実施形態は、簡易な処理で電気自動車の充電需要を踏まえて電力系統の解析を行うことができる電力系統解析システム、および、プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の電力系統解析システムは、複数のノードと複数のブランチから構成される電力系統について、前記ノードごとの電圧と前記ブランチごとの電流を解析する電力系統解析部と、複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して前記電気自動車ごとの時間別・充電器種類別の充電需要を算出する充電行動解析部と、充電器設置場所DBに格納された前記ノードごとの充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、前記電気自動車ごとの前記充電需要を前記電力系統の前記ノードごとの前記電気自動車の充電電力に換算し、前記充電電力を前記電力系統解析部に対して出力する地点別充電需要算出部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態の電力系統解析システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における充電行動解析部による計算結果例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態においてノード別の電気自動車の充電電力の割り当てを説明するための図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の電力系統解析システムによる処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第2実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。
【
図7】
図7は、第3実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を用いて、本発明の電力系統解析システム、および、プログラムの実施形態(第1~第3実施形態)について説明する。なお、本実施形態において、「シミュレーション」と「模擬」は同義である。
【0013】
また、電気自動車に充電を行う充電器としては、基地充電器、目的地充電器、急速充電器の三種類を想定する。基地充電器とは、電気自動車の基地となる場所(例えば、一般家庭)に設置される充電器である。目的地充電器とは、電気自動車の目的地となる場所(例えば、職場や商業施設等)に設置される充電器である。急速充電器とは、電気自動車の基地と目的地以外の場所(例えば、高速道路のSA/PA(Service Area/Parking Area)等)に設置される急速充電が可能な充電器である。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態では、低圧需要家の軒数の分布に基づいて基地充電器の分布を決定し、高圧需要家の軒数の分布に基づいて目的地充電器の分布を決定する例について説明する。
図1は、第1実施形態の電力系統解析システム1の機能構成を示すブロック図である。なお、
図1における矢印は主なデータの流れを示したものであり、矢印のない部分をデータが流れる場合もある。
【0015】
電力系統解析システム1は、例えばコンピュータ装置であり、記憶部2と、入力部3と、出力部4と、通信部5と、処理部6と、を備える。
【0016】
記憶部2は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等によって実現され、各種情報を記憶する。
【0017】
記憶部2は、例えば、系統構成DB(Data Base)21、充電器設置場所DB22、プログラム23を記憶する。
【0018】
系統構成DB21は、解析対象となる電力系統の送電線配置や需要家配置に関する情報を記憶するデータベースである。
【0019】
充電器設置場所DB22は、電力系統内の電気自動車の充電器の設置場所を記憶するデータベースである。
【0020】
プログラム23は、処理部6を動作させるため用意された、処理手順を指示する一連の命令の集まりである。
【0021】
入力部3は、ユーザによる情報入力手段であり、例えば、マウスやキーボードやタッチパネルである。
【0022】
出力部4は、情報出力手段であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置や、スピーカなどの音声発生装置である。
【0023】
通信部5は、外部装置や電力系統内の各種センサ等と各種情報の通信(送受信)を行うための通信インタフェースである。
【0024】
処理部6は、例えば、CPU(Central Processing Unit)によって実現され、各種演算処理を実行する。処理部6は、例えば、記憶部2に記憶されたプログラム23や各種データ(系統構成DB21、充電器設置場所DB22におけるデータ等)に基づいて動作することで、機能部として、取得部61、アグリゲータ模擬部62、充電行動解析部63、制御部64、充電器位置推定部65、電力系統解析部66、地点別充電需要算出部67を実現する。
【0025】
また、以下では
図2を併せて参照する。
図2は、第1実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。対象とする電力系統PS(以下、符号「PS」を省略する)としては、上位系統7に接続された配電用変電所8から放射状に延びる配電系統を想定する。ノード#1からノード#nのn個のノードに、高圧需要家と低圧需要家が接続されているものとする。そして、ノードkに接続されている低圧需要家の軒数をx
k、高圧需要家の軒数をy
kとする。ただし、ノードによっては高圧需要家と低圧需要家のどちらか一方のみが接続されている場合や、どちらも接続されていない場合があってもよい。
【0026】
取得部61は、外部装置や電力系統内の各種センサなどから各種情報を取得する。
【0027】
アグリゲータ模擬部62は、電気自動車に対して、電力系統の運用上、有利となるように充放電に関してインセンティブを与えるアグリゲータを模擬する動作を行う。例えば、アグリゲータ模擬部62は、電力系統解析部66の計算結果から得られた電力系統内の電圧や潮流情報に基づいて、電力系統の安定的な運用を実現するために望ましい電気自動車の充電行動を決定し、その充電行動を促すような充電誘導信号を充電行動解析部63に与える。充電誘導信号は、例えば、充電料金に対するインセンティブのような形で与えられる。この充電誘導信号に基づく、電気自動車のユーザによる充電行動の変容が充電行動解析部63で模擬される。なお、電気自動車によるV2G制御を考慮する場合は、例えば、アグリゲータ模擬部62がV2Gの制御信号を生成して充電行動解析部63に入力すればよい。
【0028】
充電行動解析部63は、複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して電気自動車ごとの時間別・充電器種類別の充電需要を算出する。例えば、充電行動解析部63は、設定された電気自動車の台数分(ここではK台とする。)の充電行動を、個別の電気自動車ごとについて計算する。
図3は、第1実施形態における充電行動解析部63による計算結果例を示す図である。
図3(a)~(c)に示すように、充電行動解析部63によって、電気自動車ごと(EV1、EV2、・・・、EVK)の基地充電(器)、急速充電(器)、目的地充電(器)の種別に応じた時間別充電需要(充電電力)の情報が出力される。
【0029】
例えば、充電行動解析部63は、シミュレーションにおける時刻の進展に伴って、電気自動車が、移動することで充電量を減少させ、充電器で充電を行うことで充電量を増加させるように、電気自動車ごとの充電状態の変化のシミュレーション処理を行う。
【0030】
図1、
図2に戻って、制御部64は、各部61~63、65~67が行う処理以外の各種処理を実行する。
【0031】
充電器位置推定部65は、系統構成DB21のデータに基づいて、電力系統内に配置された充電器の位置を推定(または特定)し、推定結果を充電器設置場所DB22に格納する。例えば、充電器位置推定部65は、ノードごとの基地充電器の台数を、ノードごとの低圧需要家の軒数の比率(全ノードの低圧需要家の軒数に対する比率)に比例して決定する。また、例えば、充電器位置推定部65は、ノードごとの目的地充電器の台数を、ノードごとの高圧需要家の軒数の比率(全ノードの高圧需要家の軒数に対する比率)に比例して決定する。
【0032】
また、充電器位置推定部65は、ノードごとの急速充電器の台数を、電力系統の所属する地域(国、都道府県、市区町村など)の急速充電器の普及率と、電力系統がカバー(給電)している面積の大きさと、に基づいて決定し、電力系統内のランダムに選んだノードに割り当てる。
【0033】
こうして割り当てが行われた各充電器と接続先ノードの対応情報が充電器設置場所DB22に記憶される。なお、ノード別の高圧需要家/低圧需要家の軒数の他に、需要家における電気自動車の充電器の所有の有無など、より詳細な情報が入手可能である場合は、それらの情報を反映してノード別の充電器台数の割り当てを修正してもよい。
【0034】
電力系統解析部66は、系統構成DB21のデータに基づいて、複数のノードと複数のブランチから構成される電力系統について、ノードごとの電圧やブランチごとの電流などを解析する。このとき、系統構成DB21からの入力情報としては、例えば、電力系統内のノードとブランチの接続関係を示したネットワーク構成情報、線路インピーダンス情報、変圧器などの電力機器情報、各ノードにおける電気自動車以外の負荷の電力情報、各ノードにおける分散電源の発電電力情報などがある。これらの情報に加えて、地点別充電需要算出部67にて算出されるノードごとの電気自動車の充電電力(充電需要)を入力とし、電力系統解析を行う。電力系統解析の具体的な計算内容としては、ノード電圧や、ブランチ電流の定常的な値を求める潮流計算のほか、電力系統の動的な特性を考慮した振る舞いを評価する実効値解析などがある。
【0035】
地点別充電需要算出部67は、充電行動解析部63が算出した電気自動車ごとの充電需要を、充電器設置場所DB22に格納されたノードごとの充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、電力系統のノードごとの電気自動車の充電電力(充電需要)に換算し、充電電力を電力系統解析部66に対して出力する。つまり、地点別充電需要算出部67は、充電器設置場所DB22に記憶された情報を基に電気自動車が充電を行う電力系統内の地点を特定し、地点別に電気自動車の充電電力の合計を求めることで当該換算を行う。
【0036】
以下、
図4も併せて参照して地点別充電需要算出部67について詳細に説明する。
図4は、第1実施形態においてノード別の電気自動車の充電電力の割り当てを説明するための図である。地点別充電需要算出部67は、充電行動解析部63で算出した各電気自動車の基地充電・急速充電・目的地充電の種別ごとの充電電力に関して、それぞれの充電電力がどのノードの電力に対応するかを決定する。このとき、基地充電はノードごとの基地充電器台数によって重みづけされた確率で、急速充電はノードごとの急速充電器台数によって重みづけされた確率で、目的地充電はノードごとの目的地充電器台数によって重みづけされた確率で、それぞれランダムに割り当て先のノードが選択される。そして、各ノードについて割り当てられた電気自動車の充電電力の合計を算出し、当該ノードにおける電気自動車の総充電電力とする。
【0037】
なお、電気自動車が充電するか否かを確率に応じて決定する場合、例えば、SOC(State of Charge)の値に応じて確率を変えるようにしてもよい。
【0038】
また、電気自動車の充放電電力を系統から制御するV2G制御を考慮する場合は、地点別充電需要算出部67は、充電行動解析部63が算出した個別の電気自動車の充電器接続状態の情報に基づいて、どの電気自動車に充放電指令を割り当てるかを決め、その電気自動車の接続先のノードを、充電需要の割り当てを決める場合と同様に選択する。
【0039】
次に、
図5を参照して、第1実施形態の電力系統解析システム1による処理について説明する。
図5は、第1実施形態の電力系統解析システム1による処理を示すフローチャートである。
【0040】
まず、ステップS1において、充電器位置推定部65は、系統構成DB21のデータに基づいて、電力系統内に配置された充電器の位置を推定(または特定)し、推定結果を充電器設置場所DB22に格納する。
【0041】
次に、ステップS2~S7において、処理部6は、単位時間(例えば30分など)分に関する処理を繰り返す。
【0042】
ステップS3において、充電行動解析部63は、複数の電気自動車それぞれの充電行動を模擬して電気自動車ごとの時間別・充電器種類別の充電需要を解析(算出)する。
【0043】
次に、ステップS4において、地点別充電需要算出部67は、ステップS3で算出した電気自動車ごとの充電需要を、充電器設置場所DB22に格納されたノードごとの充電器種類別の充電器台数の情報を用いて、電力系統のノードごとの電気自動車の充電電力(充電需要)に換算する。
【0044】
次に、ステップS5において、電力系統解析部66は、ステップS4で得られた充電電力のデータや系統構成DB21のデータに基づいて、電力系統について、ノードごとの電圧やブランチごとの電流などを解析する。
【0045】
次に、ステップS6において、アグリゲータ模擬部62は、電気自動車に対して、電力系統の運用上、有利となるように充放電に関してインセンティブを与えるアグリゲータを模擬する動作を行う。このアグリゲータ模擬部62による演算結果は、次以降の単位時間分に関する処理のステップS3で用いられる。
【0046】
このように、第1実施形態の電力系統解析システム1によれば、電気自動車ごとの充電行動を模擬して時間別・充電器種類別の充電需要を算出し、その充電需要を電力系統のノードごとの充電電力(充電需要)に換算することで、簡易な処理で電気自動車の充電需要を踏まえて電力系統の解析を行うことができる。
【0047】
また、ノードごとの基地充電器の台数は、ノードごとの低圧需要家の軒数の比率に比例して決定することで、簡易な処理で高精度な値とすることができる。
【0048】
また、ノードごとの目的地充電器の台数は、ノードごとの高圧需要家の軒数の比率に比例して決定することで、簡易な処理で高精度な値とすることができる。
【0049】
また、ノードごとの急速充電器の台数は、電力系統の所属する地域の急速充電器の普及率と、電力系統がカバーしている面積の大きさと、に基づいて決定することで、実情に即した高精度な値とすることができる。
【0050】
作用効果についてさらに詳述する。電気自動車の充電行動の解析において直接的に地図情報を扱わない場合や、電気自動車の実際の位置情報に関するデータを入手できない場合でも、電力系統内の高圧需要家/低圧需要家のノード別の軒数の分布から電力系統内の地点別の電気自動車の充電需要を模擬的に表現することが可能となり、電気自動車が導入された電力系統の現象を解析することが可能となる。これにより、電気自動車に起因する電力系統運用上の課題や新技術適用可能性の詳細を系統シミュレーションにて解析することが可能になる。
【0051】
次に、従来技術との比較について詳述する。電気自動車の充電需要のモデル化に関する従来技術として、例えば、交通流シミュレータから充電需要を模擬する技術がある。しかし、交通流シミュレータは詳細な地図情報やシミュレーション対象となる各車両の出発時刻・到着時刻・出発場所・到着場所・経路などの詳細な行動データを入力として必要とするため、入力データの収集・生成に労力を要するという問題がある。また、地図データ上の車両の移動経路を計算するため、計算量も膨大となり計算時間が長いという問題もある。一方、本実施形態の電力系統解析システム1によれば、電気自動車を考慮した電力系統解析実施時に、交通流シミュレーションを行うための詳細な電気自動車の行動に関する入力データの準備が不要となるので、交通流シミュレーションと電力系統解析を組み合わせた場合と比べて有意に少ない計算時間で電気自動車を考慮した電力系統解析が可能となる。
【0052】
また、電気自動車の位置情報を取得し、位置情報と充電状態情報を用いて、電気自動車の充電タイミングや充電位置を予測する従来技術がある。この技術では、現在の電気自動車の普及率における数日先などの短期的な充電需要の予測は可能であるものの、電気自動車が大量に普及した数年から数十年先の電気自動車の充電需要の予測は現在のデータに基づくため不正確になるという問題がある。一方、本実施形態の電力系統解析システム1によれば、例えば、電気自動車が大量に普及した数年から数十年先の電気自動車の充電需要を予測する場合には、電気自動車の設定台数(K台)を多くするだけで高精度に予測できる。
【0053】
また、電気自動車の移動について地図情報や実際の電気自動車からの計測情報を用いず、電気自動車の移動開始・完了時間、移動距離、起点及び終点となる充電器、経路上の急速充電器の有無といった限定的な情報から電気自動車ユーザの充電行動をシミュレーションで解析し、電気自動車の充電需要を推定する従来技術がある。しかしながら、この技術で推定された電気自動車の充電需要の情報を電力系統の解析に適用する場合、直接的に地図情報を用いていないため、電力系統内のどの位置で電気自動車の充電需要が発生しているかを特定することができないという問題がある。一方、本実施形態の電力系統解析システム1によれば、充電行動解析部63や地点別充電需要算出部67などの処理によって、電力系統内のどの位置で電気自動車の充電需要が発生するかを簡易な処理で高精度に算出することができる。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、低圧需要家の軒数とエリアごとの電気自動車普及率でノード別の基地充電器台数を決定する例について説明する。なお、第1実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。第2実施形態は、第1実施形態と比較して、充電器位置推定部65の処理が異なる。
【0055】
第2実施形態では、電力系統が複数のエリアに分割されており、それぞれのエリアでの電気自動車の普及率が既知であることを前提とする。その場合に、充電器位置推定部65は、電力系統のノードごとの基地充電器の台数、および、目的地充電器の台数の少なくとも一方を、エリアごとの普及率に応じて決定する。
【0056】
以下、
図6を参照して説明する。
図6は、第2実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。対象とする電力系統としては第1実施形態の場合と同様に放射状の配電系統を想定するが、系統内がエリア#1からエリア#mの複数のエリアに分かれており、それぞれのエリアにノード#1-1からノード#m-nまでのノードが割り当てられている。
【0057】
また、それぞれのエリアについて、エリア内の電気自動車の普及率が分かっており、エリア#lの電気自動車の普及率をp1%とし、エリア#mの電気自動車の普及率をpm%とする。また、各ノードには第1実施形態の場合と同様に高圧需要家と低圧需要家がそれぞれ接続されているものとする。そして、ノードk―jに接続されている低圧需要家の軒数をxkj、高圧需要家の軒数をykjとする。ただし、ノードによっては高圧需要家と低圧需要家のどちらか一方のみが接続されている場合や、どちらも接続されていない場合があってもよい。
【0058】
そして、充電器位置推定部65は、エリア別の電気自動車の普及率p
1とノードごとの低圧需要家の軒数の分布x
kjに基づいて基地充電器のノード別の台数を決定する。すなわち、対象とする電力系統内の基地充電器台数の総和をCとする場合、ノードk―jに接続される基地充電器の台数c
bkjは、以下の式(1)によって決定される。
【数1】
【0059】
なお、この式(1)の右辺における3つの項のうちの真ん中の項を削除すれば、第1実施形態での基地充電器のノード別の台数の算出式の例となる。
【0060】
また、目的地充電器と急速充電器のノードごとの台数の決定方法は第1実施形態の場合と同様である。
【0061】
このように、第2実施形態によれば、基地充電器の分布を決定する際に、エリア別の電気自動車の普及率も考慮してその分布を決定するため、実際の基地充電器の分布により近い分布を模擬することができる。これにより、地点別充電需要算出部67から得られるノード別の電気自動車の充電電力や、それを用いて電力系統解析部66から得られる電力系統の解析結果も実際の値により近い値となる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態では、低圧需要家の契約容量に応じてノード別の基地充電器の台数を決定し、高圧需要家の契約容量に応じてノード別の目的地充電器の台数を決定する例について説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態の少なくとも一方と同様の事項については説明を適宜省略する。第3実施形態は、第1実施形態、第2実施形態と比較して、充電器位置推定部65の処理が異なる。
【0063】
充電器位置推定部65は、ノードごとの基地充電器の台数を、ノードごとの低圧需要家の契約容量の比率に比例して決定する。また、充電器位置推定部65は、ノードごとの目的地充電器の台数を、ノードごとの高圧需要家の契約容量の比率に比例して決定する。
【0064】
以下、
図7を参照して説明する。
図7は、第3実施形態で対象とする電力系統と各情報を示す図である。第3実施形態では、第2実施形態の場合と同様に電力系統内がエリア1からエリアmの複数のエリアに分かれており、それぞれのエリアについて、エリア内の電気自動車の普及率が分かっているものと想定する。また、各ノードの需要家について、高圧需要家/低圧需要家別の契約容量の大きさ(それぞれw
kj、z
kj)が分かっているものとする。
【0065】
充電器位置推定部65は、エリア別の電気自動車の普及率plとノードごとの高圧需要家、低圧需要家の契約容量wkj、zkjの分布に基づいて基地充電器、目的地充電器のノード別の台数を決定する。
【0066】
すなわち、対象とする電力系統内の基地充電器台数の総和をC
bとする場合、ノードk―jに接続される基地充電器の台数c
bkjは、以下の式(2)によって決定される。
【数2】
【0067】
また、対象とする電力系統内の目的地充電器台数の総和をC
dとする場合、ノードk―jに接続される目的地充電器の台数c
dkjは、以下の式(3)によって決定される。
【数3】
【0068】
このように、第3実施形態によれば、基地充電器、目的地充電器の分布を決定する際に、エリア別の需要家の軒数の代わりに需要家の契約容量の大きさに基づいて決定する。契約容量が大きい需要家は、電気自動車の充電器の保有台数が多いことが見込まれるため、契約容量に基づいて決定した充電器台数の分布は、需要家軒数に基づく分布に比べて実際の充電器の分布により近い分布を模擬することができる。これにより、地点別充電需要算出部67から得られるノード別の電気自動車の充電電力や、それを用いて電力系統解析部66から得られる電力系統の解析結果も実際の値により近い値となる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0070】
また、本実施形態の電力系統解析システム1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータ装置で読み取り可能な記録媒体に記録して提供することができる。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1…電力系統解析システム、2…記憶部、3…入力部、4…出力部、5…通信部、6…処理部、7…上位系統、8…配電用変電所、21…系統構成DB、22…充電器設置場所DB、23…プログラム、61…取得部、62…アグリゲータ模擬部、63…充電行動解析部、64…制御部、65…充電器位置推定部、66…電力系統解析部、67…地点別充電需要算出部、PS…電力系統