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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114284
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】衝撃吸収部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20230809BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20230809BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20230809BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230809BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20230809BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20230809BHJP
   B22F 10/80 20210101ALI20230809BHJP
【FI】
F16F7/00 Z
B22F10/28
F16F7/12
B33Y80/00
B29C64/386
B33Y50/00
B22F10/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016569
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】北薗 幸一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智
【テーマコード(参考)】
3J066
4F213
4K018
【Fターム(参考)】
3J066AA22
3J066BA03
3J066BB01
3J066BD05
3J066BD07
3J066BF02
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL03
4F213WL12
4F213WL85
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA13
4K018AA14
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA33
4K018AA40
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA07
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
(57)【要約】
【課題】従来より等方的な圧縮変形特性を有する衝撃吸収部材及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の衝撃吸収部材は、不規則ラティス構造を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不規則ラティス構造を有する、衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記不規則ラティス構造の各セルが凸包である、請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
下記式(1)で表されるCV値が0.05~0.35の範囲の体積分布を有する、請求項1または2のいずれかに記載の衝撃吸収部材;
【数1】
ここで、vmeanは衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積、Ncellは衝撃吸収部材を構成するセルの総数である。
【請求項4】
エネルギー吸収量の異方性が10%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
不規則ラティス構造を有する衝撃吸収部材の製造方法であって、
前記衝撃吸収部材の3次元構造体データを作成する構造体データ作成工程と、
前記3次元構造体データに基づいて衝撃吸収部材を造形する造形工程と、を有し、
前記構造体データ作成工程は、所定の規則ラティス構造の3次元ボロノイ分割法における母点配置に対して変位を与えることによって不規則ラティス構造を作成する、衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項6】
前記変位を、下記式(1)で表されるCV値が所定の値になるように決定する、請求項5に記載の衝撃吸収部材の製造方法;
【数2】
ここで、vmeanは衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積、Ncellは衝撃吸収部材を構成するセルの総数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃吸収部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衝撃吸収部材は様々な用途に用いられている。例えば、宇宙開発では、探査機を着陸時の衝撃から守るための衝撃吸収部材の開発が重要課題となっている。また、従来、自動車等の車両においては、乗員の保護対策のために様々な衝撃吸収部材が用いられている。
【0003】
現在、多くの衝撃吸収部材は1次元または2次元の衝撃吸収部材である(例えば、特許文献1~3参照)。しかし、落下衝撃時に姿勢が変わる場合など3次元的に衝撃方向が特定しない場合では、それらを衝撃吸収材として用いるのは好ましくなく、また、重力天体への着陸ミッションでは起伏の大きな着地面にも対応できるように、3次元的な衝撃吸収特性を有する部材の使用が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-099116号公報
【特許文献2】特開2021-098464号公報
【特許文献3】特開2021-085462号公報
【特許文献4】特開2021-070206号公報
【特許文献5】特開2019-157916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、3次元吸収特性を持つ部材として、発泡材(例えば、特許文献4参照。)やラティス構造体(以下、「規則ラティス構造体」という。例えば、特許文献5参照。)が知られている。発泡材は比較的良好な衝撃吸収特性を示すが、気孔率を高くするにつれて空孔のサイズや分布の制御が難しくなり、特性の制御も難しくなる。また、規則ラティス構造体は規則的または周期的なユニットセルの繰り返し構造であり、セルのサイズや分布の制御は容易だが、その規則性や周期性に依存した圧縮変形異方性を有する。しかし、衝撃方向が特定しない場合において、圧縮変形特性は等方的であることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、従来より等方的な圧縮変形特性を有する衝撃吸収部材及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
本発明の第1態様に係る衝撃吸収部材は、不規則ラティス構造を有する。
【0009】
上記態様に係る前記衝撃吸収部材は、不規則ラティス構造の各セルが凸包であってもよい。
【0010】
上記態様に係る前記衝撃吸収部材は、下記式(1)で表されるCV値が0.05~0.35の範囲の体積分布のセルを有してもよい;
【数1】
ここで、vmeanは衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積、Ncellは衝撃吸収部材を構成するセルの総数である。
【0011】
上記態様に係る前記衝撃吸収部材は、エネルギー吸収量の異方性が10%以下であってもよい。
【0012】
本発明の第2態様に係る衝撃吸収部材の製造方法は、不規則ラティス構造を有する衝撃吸収部材の製造方法であって、前記衝撃吸収部材の3次元構造体データを作成する構造体データ作成工程と、前記3次元構造体データに基づいて衝撃吸収部材を造形する造形工程と、を有し、前記構造体データ作成工程は、所定の規則ラティス構造の3次元ボロノイ分割法における母点配置に対して変位を与えることによって不規則ラティス構造を作成する。
【0013】
上記態様に係る前記衝撃吸収部材の製造方法は、前記変位を、下記式(1)で表されるCV値が所定の値になるように決定してもよい;
【数2】
ここで、vmeanは衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積、Ncellは衝撃吸収部材を構成するセルの総数である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来より等方的な圧縮変形特性を有する衝撃吸収部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ボロノイ分割法を説明するための図である。
図2】規則ラティス構造のユニットセルを示す模式図であり、(a)はボロノイ分割法における母点配置をBCC配置として得られたものであり、(b)は母点配置をFCC配置として得られたものであり、(c)は母点配置をHCP配置として得られたものである。
図3】VG値とCV値との関係を示すグラフである。
図4】規則ラティス構造から成る円柱サンプルの投影図であり、(a)は、図2(aで示したユニットセルを〔001〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(b)は、図2(a)で示したユニットセルを〔101〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(c)は、図2(a)で示したユニットセルを〔111〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(d)は、図2(b)で示したユニットセルを〔001〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(e)は、図2(b)で示したユニットセルを〔101〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(f)は、図2(b)で示したユニットセルを〔111〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(g)は、図2(c)で示したユニットセルを〔0001〕方向にユニットセルを積層していった円柱サンプルであり、(h)は、図2(c)で示したユニットセルを
【数3】
にユニットセルを積層していった円柱サンプルである。
図5A】不規則ラティス構造から成る円柱サンプルの投影図であり、(a)はBCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とBCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.10となる円柱サンプルであり、(b)はBCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とBCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.21となる円柱サンプルであり、(c)はBCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とBCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.34となる円柱サンプルであり、(d)はBCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とBCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.39となる円柱サンプルであり、(e)はFCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とFCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.13となる円柱サンプルであり、(f)はFCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とFCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.27となる円柱サンプルである。
図5B】不規則ラティス構造から成る円柱サンプルの投影図であり、(g)はFCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とFCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.37となる円柱サンプルであり、(h)はFCC配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とFCC〔001〕方向が一致し、CV値が0.41となる円柱サンプルであり、(i)はHCP配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とHCP〔0001〕方向が一致し、CV値が0.09となる円柱サンプルであり、(j)はHCP配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とHCP〔0001〕方向が一致し、CV値が0.20となる円柱サンプルであり、(k)はHCP配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とHCP〔0001〕方向が一致し、CV値が0.33となる円柱サンプルであり、(l)はHCP配置に3次元的な変位を与えてボロノイ分割し、円柱軸方向とHCP〔0001〕方向が一致し、CV値が0.38となる円柱サンプルである。
図6】圧縮試験で用いた構成を示す断面模式図である。
図7図3(a)~(c)に示した規則ラティス構造の円柱サンプルおよび図4(a)~(l)に示した不規則ラティス構造の円柱サンプルを含む構造について得た50%ひずみまでのエネルギー吸収量を示すグラフである。(a)はBCC配置をベースの母点とした規則・不規則ラティス構造の平均エネルギー吸収を示し、(b)はFCC配置をベースの母点とした規則・不規則ラティス構造の平均エネルギー吸収を示し、(c)はHCP配置をベースの母点とした規則・不規則ラティス構造の平均エネルギー吸収を示し、(d)は規則・不規則ラティス構造におけるエネルギー吸収の異方性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した実施形態に係る衝撃吸収部材及びその製造方法について図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
(衝撃吸収部材)
本実施形態に係る衝撃吸収部材は、不規則ラティス構造を有する。
ここで、本明細書において、規則的な「ラティス(lattice)構造」(以下、「規則ラティス構造」という。)とは、周期的なユニットセルの繰り返し構造をいう。このユニットセルは中実のものではなく、内部に気孔あるいは隙間を有するものである。
これに対して、本明細書において「不規則ラティス構造」とは、所定の規則ラティス構造に対して、そのユニットセルの形状及び体積の少なくとも一方が同じではないセルが含まれている構造をいう。「不規則ラティス構造」は例えば、3次元ボロノイ(Voronoi)分割法を用いて設計した規則ラティス構造に対して、そのユニットセルの形状及び体積の少なくとも一方が同じではないセルが含めることによって作製することができる。
【0018】
ここで、ボロノイ分割法とは、要素の代表点(母点)を任意の空間位置に設定し、すべての分割線がその両側の母点から等距離になるように分割する方法である。ボロノイ分割法によって得られた図をボロノイ図という。
【0019】
図1に示す平面のボロノイ図を使ってボロノイ分割法について具体的に説明する。図1に示す例では、平面上に5個の母点が配置されている。隣接する2個の母点から等距離になるように分割線が引かれている。分割線に囲まれた領域はボロノイ領域をいう。分割線はボロノイ境界という。ボロノイ境界の交点をボロノイ点という。図1に示すボロノイ図では5個のボロノイ領域を有する。一般的なボロノイ図では、母点数とボロノイ領域数とは一致する。
【0020】
本実施形態に係る衝撃吸収部材は、各セルが凸包であることが好ましい。
ここで、凸包(凸多面体ともいう)とは、全ての辺(稜)における二面角が180°未満であり、かつ自己交差を持たない多面体である。逆に、いずれかの辺における二面角が180°を超える要素を含む多面体を凹多面体と称する。
各セルが凸包(凸多面体)であると、応力集中を生じる要素を含まないセルとなるため、衝撃吸収部材として好ましい。これに対して、凹多面体の場合、二面角が180°を超える要素において応力集中が生じるためセルが破壊しやすく、エネルギー吸収特性が低くなる。
ボロノイ分割法を用いて3次元構造体データを作成すると、ラティス構造の各セルは必ず凸包となる。
【0021】
本実施形態に係る衝撃吸収部材は、下記式(1)で表されるパラメータCVが0.05~0.35の範囲の体積分布を有することが好ましい。
【0022】
【数4】

ここで、vmeanは衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積、Ncellは衝撃吸収部材を構成するセルの総数である。CVは式(1)の通り、(衝撃吸収部材を構成するセルの体積分布の標準偏差)/(衝撃吸収部材を構成するセルの平均体積)として表されるものであり、セル体積の均一さの程度を示す指標である。CVの値が小さいほど均一さの程度が高く、値が大きいほど均一さの程度が低いことを示す。CVはセル体積分布の変動係数である。
【0023】
規則ラティス構造は構造の制御は容易だが、圧縮特性に異方性がある。圧縮特性の異方性は同じセルを規則的に繰り返す構造(ユニットセル構造)に由来しているため、セルの均一さの程度を低下させて不規則さを導入することで圧縮特性の異方性が低減して、より等方的になる。しかし、ユニットセル構造を制御なく無作為に不規則にすると部材のエネルギー吸収特性を大きく低下させてしまう。そこで、ユニットセル構造が等方性を示す程度に不規則にし、エネルギー吸収特性が下がりすぎない程度の不規則さに抑える必要がある。式(1)で表されるCVが0.05以上、0.35以下の範囲に入るように不規則なセル構造を制御して部材を設計することによって、式(1)で表されるCVが0.05以上、0.35以下の範囲の体積分布を有する不規則ラティス構造を得ることができる。
【0024】
式(1)で表されるCVは、不規則ラティス構造を構成するセル群のセルの体積分布のみによって規定されるパラメータであり、セル形状のバラつきに拠らないパラメータである。
【0025】
不規則ラティス構造が、所定の規則ラティス構造のユニットセルを形成するボロノイ分割法における母点に変位を導入して得られた構造体の場合で、CV値が小さいときは、ベースとされた当該ユニットセルあるいは当該所定の規則ラティス構造を特定することができる。
所定の規則ラティス構造のユニットセルは任意にとることができるが、例えば、結晶構造の格子点を母点としたボロノイ分割法によって得られる構造と相似な構造をとることができる。すなわち、三斜晶系、単斜晶系、斜方晶系、正方晶系、立方晶系、六方晶系、三方晶系の結晶構造の格子点を母点としたボロノイ分割法によって得られる構造に相似する構造を規則ラティス構造のユニットセルに用いることができる。具体的には、三斜晶系の結晶構造に属する単純三斜格子、単斜晶系の結晶構造に属する単純単斜格子、底心単斜格子、斜方晶系の結晶構造に属する単純斜方格子、体心斜方格子、底心斜方格子、面心斜方格子、正方晶系の結晶構造に属する単純正方格子、体心正方格子、立方晶系の結晶構造に属する単純立方格子、体心立方格子(BCC)、面心立方格子(FCC)、六方晶系に属する単純六方格子(最密六方格子:HCP)、三方晶系の結晶構造に属する単純三方格子の格子点を母点としたボロノイ分割法によって得られる構造に相似する構造を規則ラティス構造のユニットセルに用いることができる。
【0026】
これらの結晶構造のうち、立方晶系、とくにBCCを母点としたボロノイ分割法によって得られる構造は図2に示す切頂八面体構造であり、セル体積に対するセル表面積の比が大きく、その比が球形状の比に近いことにより比較的エネルギー吸収量の異方性が小さいため、立方晶系が好ましい。
【0027】
本実施形態に係る衝撃吸収部材は、エネルギー吸収量の異方性が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
本明細書において、「エネルギー吸収量の異方性が10%以下である」における“エネルギー吸収量の異方性”とは、衝撃吸収部材の任意の2つの選択された方向のエネルギー吸収量を比べたときに、以下の式(2);
{(大きい方のエネルギー吸収量-小さい方のエネルギー吸収量)/(2つのエネルギー吸収量の平均)}×100(%)・・・(2)
によって評価される値によって当該2つの方向のエネルギー吸収量の違いを求め、 “最大の2つの方向のエネルギー吸収量の違い”を意味するものとする。すなわち、「エネルギー吸収量の異方性が10%以下である」とは、式(2)で表される衝撃吸収部材の任意の2つの選択された方向のエネルギー吸収量の違いのうち、最大のエネルギー吸収量の違いが10%以下であることを意味する。
【0028】
衝撃吸収部材の材料としては、衝撃吸収部材の材料として用いられる公知の材料を用いることができる。3Dプリンターで造形する場合には、各種造形方式で用いることができる材料を採用する。例えば、樹脂、金属などが挙げられる。
【0029】
樹脂としては例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン樹脂(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などが挙げられる。
【0030】
金属としては例えば、アルミニウム、クロム、コバルト、銅、金、鉄、マグネシウム、シリコン、モリブデン、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、銀、錫、チタン、タングステンおよび亜鉛、ならびにこれらの元素を含む合金などが挙げられる。合金の例には、鋼やステンレスなどが含まれる。これらの金属材料は1種類のみ用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
航空宇宙機部材や自動車部材としては軽量部材であることが望ましく、重量比強度の高いアルミニウム合金やチタン合金、マグネシウム合金が好ましい。また、重量比エネルギー吸収の高い鋼やステンレスも好ましい。
【0031】
(衝撃吸収部材の製造方法)
本発明に係る衝撃吸収部材の製造方法は、衝撃吸収部材の3次元構造体データを作成する工程と、その3次元構造体データに基づいて衝撃吸収部材を造形する工程とを有する。
【0032】
衝撃吸収部材の3次元構造体データの作成方法としては例えば、3次元ボロノイ分割法や3次元ドロネー分割法を用いることができる。3次元ドロネー分割法ではユニットセルが四面体になるため、衝撃吸収部材を製造するためには3次元ボロノイ分割法の方が好ましい。
【0033】
3次元ボロノイ(Voronoi)分割法によって、不規則ラティス構造の3次元構造体データを作成する方法を、図を用いて説明する。
【0034】
まず、3次元ボロノイ分割法によって、不規則性導入前の規則ラティス構造のユニットセルを作成する。
次に、ボロノイ分割法における母点配置が、所定の構造をなすように母点配置を決定する。このとき、所定の構造として、BCC、FCC、HCPなどの結晶構造を用いることができる。後述する図2で示した規則ラティス構造は、ボロノイ分割法における母点配置をBCC配置、FCC配置、HCP配置として得られた構造である。こうして得られた規則ラティス構造は、均一のセル体積のセル群からなる規則ラティス構造である。
次に、各母点に対して、所定のCV値(ゼロではない)になるように、3次元的な変位を与える。こうして得られた各セルはその体積が所定のCV値(ゼロではない)を有するように分布しており、不均一のセル体積のセル群からなる不規則ラティス構造の3次元構造体データが得られる。
【0035】
衝撃吸収部材の製造方法で用いる造形方法としては、不規則ラティス構造を有するように造形することができる造形方法であれば、特に制限はなく、公知の造形方法を用いることができるが、3次元ソフトウェアで作成された3次元形態データに基づいて断面形状を積層し、立体造形することができる3Dプリンターが好ましい。
【0036】
3Dプリンターとしては例えば、サポート材がなくても高精細で複雑な造形が可能な粉末床溶融結合方式(PBF:Powder Bed Fusion)のものを用いることができる。粉末焼結積層造形方式(SLM:Selective Laser Melting)ということもある。この方式では、樹脂または金属の粉末粒子を平らに敷き詰めて粉末層を形成し、この粉末層の造形部分にレーザを照射して、粉末粒子を焼結または溶融させて結合させることで固化層を形成する。こうして形成された固化層の上に、さらに粉末粒子を敷き詰めて次の粉末層を形成し、この粉末層にレーザを照射して粉末粒子を溶融結合させることで、次の固化層を形成し、この手順を繰り返して、固化層を積み上げていくことで、所望形状の構造体を製造することができる。
ここで「固化層」は、「溶融凝固層」または「溶融結合層」、「焼結層」を意味する。
【0037】
レーザの強度の調整、レーザ走査の走査間隔の調整、粉末径の調整などによって、ポーラス状の構造体など複雑な形状の構造体を成形することができる。
【0038】
粉末床溶融結合方式の3Dプリンターを用いる場合、粉末材料とする樹脂としては例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン樹脂(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ABS樹脂、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などを用いることができる。
【0039】
また、粉末材料とする金属としては例えば、アルミニウム、クロム、コバルト、銅、金、鉄、マグネシウム、シリコン、モリブデン、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、銀、錫、チタン、タングステンおよび亜鉛、ならびにこれらの元素を含む合金などが挙げられる。合金の例には、鋼やステンレスなどが含まれる。これらの金属材料は1種類のみ用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
3Dプリンターとしては その他、光硬化タイプの液体樹脂に対し、紫外線を当て、一層ごとに樹脂を硬化させながら立体物を造形する光造形方式(SLA:Stereo Lithography Apparatus)、インクジェットプリンターのインク部分を紫外線硬化性の樹脂に置き換えて造形するインクジェット方式(マルチジェット・プリント方式)、インクジェット方式と同様に、プリントヘッドから着色材や接着剤を吐出し、石膏粉末を硬化させながら積層していって造形するインクジェット粉末積層方式(カラージェット・プリント方式)、ABS樹脂やPLA(ポリ乳酸)といった熱可塑性樹脂を融解させ、0.1mm~0.8mm程度の細いノズルの先端から溶解した樹脂を吐出し、積層して造形する熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)のものを用いることができる。
【実施例0041】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(サンプルの作製)
3次元ボロノイ分割法を用いて、規則ラティス構造、不規則ラティス構造を設計した。
【0043】
規則ラティス構造のユニットセルは図2に示すように、ボロノイ分割法における母点配置を結晶構造のBCC配置、FCC配置、HCP配置として得られる立体の稜(辺)から成る構造とした。このBCC配置の格子間隔は7.50mm、FCC配置の格子間隔は9.45mm、HCP配置の格子間隔は6.68mmとし、単位体積当たりの母点数が同じである。
図2は規則ラティス構造のユニットセルを示す模式図であり、(a)はボロノイ分割法における母点配置をBCC配置として得られたものであり、(b)は母点配置をFCC配置として得られたものであり、(c)は母点配置をHCP配置として得られたものである。
【0044】
また、不規則ラティス構造は、上記BCC配置およびFCC配置、HCP配置に3次元的な変位を与えた点群をボロノイ母点としてボロノイ分割法を用いることで得た。なお、この変位には空間XYZ方向それぞれに対して以下の式(2)で示される正規分布のランダム変位uを与えた。
【数5】

式(2)中のVGはBCC配置およびFCC配置、HCP配置の格子間隔の10%、20%、40%、60%の値とした。
図3に、VG値とCV値との関係を示すグラフを示す。VG値という不規則さを制御する設計パラメータを大きくするとCV値も大きくなる。VG値が十分に大きいとCV値は飽和する。理論的には不規則さが大きくなると母点数密度が同じなのでBCC、FCC、HCPのいずれがベースとなったかわからなくなる。これをランダム状態と考えて、グラフからCV値が0.35以上でランダムラティス構造とみなすことができる。
【0045】
BCC配置でVGを10%(0.750mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.10であり、FCC配置でVGを10%(0.945mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.13であり、HCP配置でVGを10%(0.668mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.09であり、BCC配置でVGを20%(1.50mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.21であり、FCC配置でVGを20%(1.89mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.27であり、HCP配置でVGを20%(1.336mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.20であり、BCC配置でVGを40%(3.00mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.34であり、FCC配置でVGを40%(3.78mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.37であり、HCP配置でVGを40%(2.672mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.33であり、BCC配置でVGを60%(4.50mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.39であり、FCC配置でVGを60%(5.67mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.41であり、HCP配置でVGを60%(4.008mm)として得られる構造のCV値はおよそ0.38である。
【0046】
規則ラティス構造、不規則ラティス構造について、以上のように設計することで、ラティス構造の単位体積当たりの母点数を同じにした。なお、ボロノイ分割法を用いることによって、ラティス構造の各セルは必ず凸包となる。また、規則ラティス構造のCV値は0(ゼロ)である。
【0047】
次に、図4および図5に示すように、規則ラティス構造、不規則ラティス構造のそれぞれから成る外形φ40mm×H40mm(直径×高さ)の円柱サンプルを設計した。図4および図5は各構造の投影図である。
なお、各円柱サンプルの気孔率が90%となるように、ラティス構造のストラト(strut)径を調整した。なお、このストラトの断面形状は円であり、その径は円柱サンプル内に含まれるストラトの全長に依存し、およそ1mmである。
【0048】
図4(a)~(c)は、積層していく(繰り返していく)図2(a)のユニットセルの配列方向に対して円柱軸方向が異なる3種類の規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図4(a)は、図2(a)で示したユニットセルの〔001〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルであり、図4(b)は、図2(a)で示したユニットセルの〔101〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルであり、図4(c)は、図2(a)で示したユニットセルの〔111〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルである。従って、図4(a)~(c)のそれぞれの円柱サンプルの円柱軸方向はボロノイ母点であるBCC配置の[001]方向、[101]方向、[111]方向に対して平行である。
なお、[001]方向、〔101〕方向及び〔111〕方向は方位対称性を有する。
図4(d)~(f)は、積層していく(繰り返していく)図2(b)に示すユニットセルの配列方向に対して円柱軸方向が異なる3種類の規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図4(d)は、図2(b)で示したユニットセルの〔001〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルであり、図4(e)は、図2(b)で示したユニットセルの〔101〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルであり、図4(f)は、図2(b)で示したユニットセルの〔111〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルである。従って、図4(d)~(f)のそれぞれの円柱サンプルの円柱軸方向はボロノイ母点であるFCC配置の[001]方向、[101]方向、[111]方向に対して平行である。
図4(g)~(h)は、積層していく(繰り返していく)図2(c)に示すユニットセルの配列方向に対して円柱軸方向が異なる2種類の規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図4(g)は、図2(c)で示したユニットセルの〔0001〕方向に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルであり、図4(h)は、図2(c)で示したユニットセルの
【数6】
に対して円柱軸方向が向いた規則ラティス構造の円柱サンプルである。従って、図4(g)~(h)のそれぞれの円柱サンプルの円柱軸方向はボロノイ母点であるHCP配置の[0001]方向、
【数7】
に対して平行である。なお、同種の円柱サンプルは5個ずつ設計した。
【0049】
図5(a)~(d)は、BCC配置に3次元的な変位を与えた点群をボロノイ母点としてボロノイ分割法を用いることで得た不規則ラティス構造で、円柱軸方向がBCC配置の〔001〕方向と一致し、CV値の異なる4種類の不規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図5(a)は、図4(a)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.10になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(b)は、図4(a)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.21になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(c)は、図4(a)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.34になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(d)は、図4(a)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.39になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルである。
図5(e)~(h)は、FCC配置に3次元的な変位を与えた点群をボロノイ母点としてボロノイ分割法を用いることで得た不規則ラティス構造で、円柱軸方向がFCC配置の〔001〕方向と一致し、CV値の異なる4種類の不規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図5(e)は、図4(d)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.13になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(f)は、図4(d)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.27になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(g)は、図4(d)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.37になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(h)は、図4(d)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.41になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルである。
図5(i)~(l)は、HCP配置に3次元的な変位を与えた点群をボロノイ母点としてボロノイ分割法を用いることで得た不規則ラティス構造で、円柱軸方向がHCP配置の〔0001〕方向と一致し、CV値の異なる4種類の不規則ラティス構造の円柱サンプルである。
図5(i)は、図4(g)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.09になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(j)は、図4(g)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.20になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(k)は、図4(g)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.33になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルであり、図5(l)は、図4(g)で示した規則ラティス構造に対してCV値が0.38になるように3次元的な変位を与えて不規則ラティス構造とした円柱サンプルである。
【0050】
以上の図5の他、BCC配置、FCC配置、HCP配置に3次元的な変位を与えた点群をボロノイ母点としてボロノイ分割法を用いることで得られる不規則ラティス構造の、円柱軸方向が異なる外形φ40mm×H40mm(直径×高さ)の円柱サンプルを設計した。
BCC配置ではCV値がおよそ0.10、0.21、0.34、0.39となる不規則ラティス構造で、それぞれ円柱軸方向がBCC配置の〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向に平行な円柱サンプルを設計した。FCC配置ではCV値がおよそ0.13、0.27、0.37、0.41となる不規則ラティス構造で、それぞれ円柱軸方向がFCC配置の〔001〕方向、〔101〕方向、〔111〕方向に平行な円柱サンプルを設計した。HCP配置ではCV値がおよそ0.09、0.20、0.33、0.38となる不規則ラティス構造で、それぞれ円柱軸方向がHCP配置の〔0001〕方向、〔2110〕方向に平行な円柱サンプルを設計した。なお、同種の円柱サンプルはそれぞれ5個ずつ設計し、合計160種類の不規則ラティス構造の円柱サンプルを設計した。
【0051】
以上のように設計した円柱サンプルを、ナイロン粉末、PA12を使って粉末床溶融結合方式(PBF:Powder Bed Fusion)にて造形した。なお、リサイクル粉末の割合は80%である。
【0052】
(圧縮試験)
以上の円柱サンプルについて圧縮試験を行った。次いで、圧縮試験の荷重-変位曲線から、50%ひずみ(20mm変位)までのエネルギー吸収量を計算して、異方性の程度を確認した。
【0053】
圧縮試験は、JIS K7220:2006に準拠して次のようにして測定した。
図6のように、円柱サンプルSを鋼鉄製のサンプル載置治具10上に載置し、円柱サンプル中央部の上面側から、鋼鉄製の圧縮子20により試験速度24mm/分の速度で圧縮試験を行い、荷重-変位曲線を得た。
50%ひずみ(20mm変位)までのエネルギー吸収量は、上記圧縮試験により得られた変位―荷重曲線を元に、20mm変位(50%ひずみ)まで荷重値を変位で積分することにより得ることができる。
【0054】
図7に、以上の円柱サンプルについて得た50%ひずみまでのエネルギー吸収量およびエネルギー吸収量の異方性を示した。エネルギー吸収量の異方性は以下の式(3)から求めた。
【数8】
図7(a)はBCC配置を母点とした規則ラティス構造(CV値:0)および不規則ラティス構造のエネルギー吸収を示す。CV値が0では、[001]方向、〔101〕方向及び〔111〕方向の各加重方向によってエネルギー吸収量が大きく異なり、強い異方性を有することがわかる。一方、図7(d)からCV値の増加に伴い異方性が小さくなり、各CV値での平均のエネルギー吸収はCV値が0.1以上では単調に低下することがわかる。CV値が0.10付近で異方性は8.3%であり、平均のエネルギー吸収は10.8Jであった。一方、CV値が0.39付近で異方性は2.1%であり、平均のエネルギー吸収は9.4Jであった。
図7(b)はFCC配置を母点とした規則ラティス構造(CV値:0)および不規則ラティス構造のエネルギー吸収を示す。CV値が0では、[001]方向、〔101〕方向及び〔111〕方向の各加重方向によってエネルギー吸収量が大きく異なり、強い異方性を有することがわかる。一方、図7(d)からCV値の増加に伴い異方性が小さくなるが、各CV値での平均のエネルギー吸収はCV値が0.1以上でわずかに減少することがわかる。CV値が0.13付近で異方性は13.4%であり、平均のエネルギー吸収は9.7Jであった。一方、CV値が0.41付近で異方性は5.7%であり、平均のエネルギー吸収は9.2Jであった。
図7(c)はHCP配置を母点とした規則ラティス構造(CV値:0)および不規則ラティス構造のエネルギー吸収を示す。CV値が0では、[0001]方向、
【数9】
の各加重方向によってエネルギー吸収量が大きく異なり、強い異方性を有することがわかる。一方、図7(d)からCV値の増加に伴い異方性が小さくなり、各CV値での平均のエネルギー吸収も単調に低下することがわかる。CV値が0.20付近で異方性は1.5%であり、平均のエネルギー吸収は10.2Jであった。一方、CV値が0.38付近で異方性は1.8%であり、平均のエネルギー吸収は9.4Jであった。
【0055】
以上の通り、CV値が0.05以上で0.35以下の不規則ラティス構造は式(3)で示すエネルギー吸収量の異方性が10%以下と低くなり、かつ、CV値が0.35以上となる構造よりも大きなエネルギー吸収量を有することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の衝撃吸収部材は、宇宙探査機、車両、電子機器、家具などの、衝撃から守ることが求められるあらゆる部位に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 サンプル載置治具
20 圧縮子
S 円柱サンプル
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7