(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114293
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/92 20060101AFI20230809BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20230809BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20230809BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230809BHJP
A61K 36/82 20060101ALI20230809BHJP
A61K 36/13 20060101ALI20230809BHJP
A61K 36/54 20060101ALI20230809BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230809BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20230809BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230809BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230809BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230809BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20230809BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20230809BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20230809BHJP
A23D 9/00 20060101ALN20230809BHJP
A61K 131/00 20060101ALN20230809BHJP
A61K 127/00 20060101ALN20230809BHJP
A61K 135/00 20060101ALN20230809BHJP
A61K 129/00 20060101ALN20230809BHJP
【FI】
A61K8/92
A61K8/06
A61Q17/04
A61Q19/00
A61K36/82
A61K36/13
A61K36/54
A61P39/06
A61P17/18
A61P35/00
A61K9/107
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A23D7/00
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A23D9/00
A61K131:00
A61K127:00
A61K135:00
A61K129:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016581
(22)【出願日】2022-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載アドレス (a)https://www.apstj.org/36/timetable_program (b)https://apstj36-online 2.掲載日 (a)令和3年5月7日、(b)令和3年5月11日 3.公開者 桑原菜摘、袴田雅俊、三宅健司、山下里恵、山田幸平、佐藤秀行、尾上誠良 [刊行物等] 1.掲載アドレス https://www.apstj.jp/restricted/ 2.掲載日 令和3年6月15日 3.公開者 桑原菜摘、袴田雅俊、三宅健司、山下里恵、山田幸平、佐藤秀行、尾上誠良 [刊行物等] 1.集会名、開催場所 公益社団法人日本薬剤学会第36年会 オンライン開催 https://www.apstj.org/36/ 2.開催日 令和3年5月15日 3.公開者 桑原菜摘、袴田雅俊、三宅健司、山下里恵、山田幸平、佐藤秀行、尾上誠良
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】尾上 誠良
(72)【発明者】
【氏名】山下 里恵
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 隆也
(72)【発明者】
【氏名】袴田 雅俊
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4C076
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD08
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4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB26
4C088ZC21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、茶の実油カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含む、活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなる、活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物。
【請求項2】
前記活性酸素種が一重項酸素およびスーパーオキシドから選択される少なくも一種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
光毒性抑制または低減のための、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
光遮断または吸収のための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
エマルション組成物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
界面活性剤およびアルコールをさらに含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
水をさらに含んでなる、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記界面活性剤が、リン脂質、エステル型界面活性剤、エーテル型界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記界面活性剤が、大豆レシチン、卵黄レシチンおよびこれらの酵素処理物からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記アルコールが、一価アルコール、二価アルコールおよび三価アルコールから選択される少なくとも一つのものである、請求項6~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記アルコールが、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項6~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が外用剤である、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、アルコール、ならびに水を含んでなる、エマルション組成物。
【請求項14】
茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、アルコール、ならびに水を含んでなるエマルション組成物の製造方法であって、
茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、ならびにアルコールを混合し混合物を得る工程、および、
前記混合物と水とを混合する工程
を含んでなる、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物に関し、より詳しくは、茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなる活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光毒性反応は、光毒性誘発化合物が、例えば太陽光に含まれる紫外線(ultraviolet light:UV)の一種であるUVA/Bおよび可視光領域(UVB,290-320nm;UVA,320-400nm;VIS,400-700nm)等の光を吸収することが引き金となることが知られている。光励起された上記化合物はエネルギー的に不安定な状態であるため、蛍光、燐光、熱および光化学的反応を介してエネルギーの放出を行うことでエネルギー的に安定な状態へ戻ることが報告されている(非特許文献1)。皮膚または眼に分布した化合物が日光曝露により光励起された場合、生体内分子であるタンパク質、脂質およびDNA等との光化学的反応を介して、細胞・組織障害を引き起こすと考えられている。生体内にはO2も豊富に存在しているため、光励起された化合物とO2とが反応することにより産生する活性酸素種(reactive oxygen species:ROS、以下、ROSともいう)は反応性が非常に高く、化合物の光毒性反応に寄与すると考えられている(非特許文献2)。そのため、活性酸素種産生を引き起こす光毒性誘発化合物は光線過敏症や皮膚がん等を誘発するリスクがあると報告されている(非特許文献3)。
【0003】
したがって、活性酸素種産生または光毒性を効果的に抑制しうることが求められているといえる。
【0004】
一方、茶の実油には食品素材としての利用の可能性が記載されている(特許文献1)。カヤ油には、化粧・美容用不織布に含まれる含油繊維の油分としての利用の可能性が記載されている(特許文献2)。ヤブニッケイ油には、キャンディを被覆する油脂としての利用の可能性が記載されている(特許文献3)。
【0005】
しかしながら、茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油と、活性酸素種産生または光毒性の抑制または低減作用との関係については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Onoue et al., Current Drug Safety, 2009, 4, pp.123-136
【非特許文献2】S. Onoue et al., Pharm Res., 2006, 23(1) pp.156-164
【非特許文献3】Juzeniene. A et al., Photochemical & Photobiological Sciences., 2007, 6(12) pp.1268-1274
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-152749号公報
【特許文献2】特開2010-195735号公報
【特許文献3】特開2004-321140号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油が活性酸素種産生を抑制または低減しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づくものである。
【0009】
したがって、本発明は、活性酸素種産生を抑制または低減するための技術的手段を提供する。
【0010】
本発明には、以下の発明が包含される。
[1] 茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなる、活性酸素種産生の抑制または低減のための組成物。
[2] 前記活性酸素種が一重項酸素およびスーパーオキシドから選択される少なくも一種である、[1]に記載の組成物。
[3] 光毒性抑制または低減のための、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 光遮断または吸収のための、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5] エマルション組成物である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[6] 界面活性剤およびアルコールをさらに含んでなる、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7] 水をさらに含んでなる、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[8] 前記界面活性剤が、リン脂質、エステル型界面活性剤、エーテル型界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一種である、[6]または[7]に記載の組成物。
[9] 前記界面活性剤が、大豆レシチン、卵黄レシチン、およびこれらの酵素処理物からなる群から選択される少なくとも一種である、[6]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[10] 前記アルコールが、一価アルコール、二価アルコールおよび三価アルコールから選択される少なくとも一つのものである、[6]~[9]のいずれか一つに記載の組成物。
[11] 前記アルコールが、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一種である、[6]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[12] 前記組成物が外用剤である、[1]~[11]のいずれか一つに記載の組成物。
[13] 茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、アルコール、ならびに水を含んでなる、エマルション組成物。
[14] 茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、アルコール、ならびに水を含んでなるエマルション組成物の製造方法であって、
茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油、界面活性剤、ならびにアルコールを混合し混合物を得る工程、および、
前記混合物と水とを混合する工程
を含んでなる、製造方法。
【0011】
本発明者らは、植物加工油が光毒性を抑制または低減しうることも見出した。したがって、本発明は、光毒性を抑制または低減するための技術的手段を提供する。
【0012】
本発明には、以下の発明が包含される。
[15] 茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなる、光毒性抑制または低減のための組成物。
[16] 活性酸素種産生の抑制または低減のための、[15]に記載の組成物。
[17] 前記活性酸素種が一重項酸素およびスーパーオキシドから選択される少なくも一種である、[16]に記載の組成物。
[18] 光遮断または吸収のための、[15]~[17]のいずれか一つに記載の組成物。
[19] エマルション組成物である、[15]~[18]のいずれか一つに記載の組成物。
[20] 界面活性剤およびアルコールをさらに含んでなる、[15]~[19]のいずれか一つに記載の組成物。
[21] 水をさらに含んでなる、[15]~[20]のいずれか一つに記載の組成物。
[22] 前記界面活性剤が、リン脂質、エステル型界面活性剤、エーテル型界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤からなる群から選択される少なくとも一種である、[20]または[21]に記載の組成物。
[23] 前記界面活性剤が、大豆レシチン、卵黄レシチン、およびこれらの酵素処理物からなる群から選択される少なくとも一種である、[20]~[22]のいずれか一つに記載の組成物。
[24] 前記アルコールが、一価アルコール、二価アルコールおよび三価アルコールから選択される少なくとも一つのものである、[20]~[23]のいずれか一つに記載の組成物。
[25] 前記アルコールが、エタノール、プロパノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールおよびグリセリンからなる群から選択される少なくとも一種である、[20]~[24]のいずれか一つに記載の組成物。
[26] 前記組成物が外用剤である、[15]~[25]のいずれか一つに記載の組成物。
【0013】
本発明によれば、活性酸素種の産生を抑制または低減することができる。また、本発明の組成物は、光毒性を抑制または低減することができる上で有利である。さらに、本発明によれば、植物加工油を含んでなるエマルション組成物は、光毒性をより抑制またはより低減することも可能である。また、本発明の組成物は、光を遮断または吸収することができる上で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】茶の実油含有ナノエマルション組成物(NE/TS)の形状の透過型電子顕微鏡による観察結果を示す。パネル1Aは調製直後における、NE/TSの形状の観察結果を示す。パネル1Bは調製24時間後における、NE/TSの形状の観察結果を示す。図中の白色バーは200nmを示す。
【
図2】UV無照射またはUV照射の、無処置群、TS非含有NE塗布群、TS塗布群、およびNE/TS塗布群における、トリフルオペラジン二塩酸塩を経口投与した後の、UV照射前とUV照射24時間後の皮膚表面の色差(ΔE)を示すグラフである。
【発明の具体的説明】
【0015】
本発明の活性酸素種産生抑制または低減用の組成物は茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなることを一つの特徴としている。茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種の植物加工油を含んでなる組成物を、本発明の組成物とも言う。
【0016】
植物加工油
本発明における植物加工油は、茶の実油、カヤの実油およびヤブニッケイ油からなる群から選択される少なくとも一種である。植物加工油の製造方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、従来公知の製造方法で行うことができる。従来公知の製造方法としては、例えば、圧搾法、抽出法、圧抽法等が挙げられ、特にヤブニッケイ油では蒸留法も適用できる。また、抽出した油分をさらに精製処理に供してもよい。精製処理としては、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、精密ろ過処理が挙げられる。これらの精製処理は、1種単独、または2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0017】
茶の実油
本発明における茶の実は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ(Camellia sinensis、別名Thea sinensis)の実であればよく、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。ここで、茶の実は、胚および胚乳が一体化した粒状の種子胚が薄皮に覆われ、更にこの薄皮の上に硬く厚い鬼皮が覆われた殻果状の種子である。
【0018】
本発明における茶の実油とは、茶の実(種子)に含まれる油成分をいい、茶の種子胚に含まれている。
【0019】
本発明の茶の実油の製造方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、茶の実を圧縮することにより搾油することができる。ここで、圧縮では、茶の実を鬼皮と薄皮に覆われた状態で圧縮しても良いし、また、鬼皮と薄皮を除去してから種子胚を圧縮しても良く、茶の実油の収率の向上の観点から、鬼皮と薄皮を除去し、更に粉砕してから圧縮することが好ましい。上記圧縮には、例えば、直圧式電動搾油機KT23-160EL((株)サン精機)を用いて、最高圧力69.3MPa、最高連続加圧時間8時間の条件で圧縮することが挙げられる。また、圧縮の前に、茶の実を乾燥させることが好ましい。
【0020】
本発明の組成物中の茶の実油の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、組成物における他の成分や、供給源の種類および性質に応じて当業者が適宜決定することができる。茶の実油の含有量は、例えば、組成物全体に対して、10~50質量%が挙げられ、好ましくは20~40質量%であり、乳化安定性の観点から、より好ましくは20~30質量%である。茶の実油は、例えばソックスレー抽出装置で油脂を分離後、その主な脂肪酸組成がオレイン酸10、リノール酸6、パルミチン酸3の比率であれば油脂の全量が茶の実油であり、それ以外の場合はほかの油脂の混入や茶の実油が使用されていない可能性が高いと推定することができる。なお、茶の実油の脂肪酸組成の比率は、例えば、油脂の構成脂肪酸を三フッ化ホウ素-メタノール法により脂肪酸メチルエステルに変換し、これをガスクロマトグラフ法(GC法)により分析することで、簡便に測定することができる。
【0021】
カヤの実油
本発明におけるカヤの実は、イチイ科カヤ属の常緑針葉樹であるカヤ(Torreya)の実であればよく、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。カヤとしては、カヤ(Torreya nucifera)のほか、コツブガヤ(Torreya nucifera var. igaensis)、ヒダリマキガヤ(Torreya nucifera var. macrosperma)、ハダカガヤ(Torreya nucifera var. nuda)、マルミガヤ(Torreya nucifera var. sphaerica)、チャボガヤ(Torreya nucifera var. radicans)の変種、品種が含まれる。ここで、カヤの実は、胚および胚乳が一体化した粒状の種子胚が薄い内種皮に覆われ、更にこの薄い内種皮の上に硬く厚い外種皮が覆われた殻果状の種子である。
【0022】
本発明におけるカヤの実油とは、カヤの実(種子)に含まれる油成分をいい、カヤの種子胚に多く含まれている。
【0023】
本発明のカヤの実油の製造方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、カヤの実を圧縮することにより搾油することができる。ここで、圧縮では、カヤの実を外種皮と内種皮に覆われた状態で圧縮しても良いし、また、外種皮と内種皮を除去してから種子胚を圧縮しても良く、カヤの実油の収率の向上の観点から、外種皮と内種皮を除去し、更に粉砕してから圧縮することが好ましい。上記圧縮には、例えば、直圧式電動搾油機KT23-160EL((株)サン精機)を用いて、最高圧力69.3MPa、最高連続加圧時間8時間の条件で圧縮することが挙げられる。また、カヤの実を圧縮する前に、洗浄、乾燥、灰汁抜き、焙煎してもよい。
【0024】
本発明の組成物中のカヤの実油の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、組成物における他の成分や、供給源の種類および性質に応じて当業者が適宜決定することができる。カヤの実油の含有量は、例えば、組成物全体に対して、10~50質量%が挙げられ、好ましくは20~40質量%であり、乳化安定性の観点から、より好ましくは20~30質量%である。カヤの実油は、例えばソックスレー抽出装置で油脂を分離後、その主な脂肪酸組成がリノール酸10、オレイン酸6、シアドン酸1~2の比率であれば油脂の全量がカヤの実油であり、それ以外の場合はほかの油脂の混入やカヤの実油が使用されていない可能性が高いと推定することができる。なお、カヤの実油の脂肪酸組成の比率は、例えば、油脂の構成脂肪酸を三フッ化ホウ素-メタノール法により脂肪酸メチルエステルに変換し、これをガスクロマトグラフ法(GC法)により分析することで、簡便に測定することができる。
【0025】
ヤブニッケイ油
本発明におけるヤブニッケイは、クスノキ科クスノキ属の常緑樹であるヤブニッケイ(Cinnamomum japonicum、別名 マツラニッケイ、クスタブ、クロダモ、英名 Japanese wild Cinnamon)であればよく、本発明の効果を妨げない限り特に限定されない。
【0026】
本発明におけるヤブニッケイ油は、ヤブニッケイの枝葉、樹皮等から圧搾、抽出、蒸留する等により得ることができる。
【0027】
本発明のヤブニッケイ油の製造方法は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、ヤブニッケイの生葉、枝、樹皮等を生のまま、もしくは乾燥してから水蒸気蒸留により抽出してもよい。ヤブニッケイ油の収率の向上の観点から、生葉、枝、樹皮等を粉砕してから蒸留することが好ましい。上記蒸留には、例えば、減圧から大気圧まで操作可能なアロマ減圧水蒸気蒸留装置((株)本村製作所製)を用いて、温度60℃以上、抽出時間1時間以上の条件で抽出することが挙げられる。
【0028】
本発明の組成物中のヤブニッケイ油の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、組成物における他の成分や、供給源の種類および性質に応じて当業者が適宜決定することができる。ヤブニッケイ油の含有量は、例えば、組成物全体に対して、10~50質量%が挙げられ、好ましくは20~40質量%であり、乳化安定性の観点から、より好ましくは20~30質量%である。本発明の組成物におけるヤブニッケイ油の含有量は、例えば、蒸留法により、一般的な精油定量の手順に従って測定することができる。このような測定は、市販の精油定量装置を用いることにより、簡便に行うことができる。ヤブニッケイ油は、例えば、精油定量装置で分離後、その主な成分組成がシメン3、シネオール2、カンファー1の比率であれば油の全量がヤブニッケイ油であり、それ以外の場合はほかの油の混入やヤブニッケイ油が使用されていない可能性が高いと推定することができる。なお、ヤブニッケイ油の成分組成の比率は、例えば、エタノール等の溶媒に希釈後、これをガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS法)により分析することで、簡便に測定することができる。
【0029】
本発明の組成物は、上記植物加工油と共に、所望により経口上許容可能または薬学的に許容可能な添加剤を配合した組成物として提供することができる。上記添加剤として、溶剤、溶解補助剤、溶解剤、滑沢剤、等張化剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、ゲル化剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤、甘味料または香料等が挙げられる。
【0030】
本発明の組成物は、上記植物加工油および所望により経口上許容可能または薬学的に許容可能な添加剤を混合、溶解、分散、懸濁するなどの公知の手法により、調製することができる。また、本発明の組成物の調製においては、本発明の効果を妨げない限り、上記手法により調製された混合物、溶解物、分散物、懸濁物などに、均質化処理、殺菌処理や乾燥処理を施してもよい。
【0031】
また、本発明の組成物の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されず、好ましくは、液状(油状、スラリー状を含む)、半固形状(ペースト状、ゲル状、ゼリー状を含む)または固形状が挙げられ、好ましくは液体状または半固体状である。
【0032】
本発明の組成物の剤形は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、注射剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、乳剤、液剤、吸入剤、エアロゾル剤、粉末吸入剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ローション、乳液、貼付剤、ゲル剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤等として提供することができる。
【0033】
本発明の組成物の摂取または投与方法としては、特に限定されないが、点滴、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射等の注射、経口、経粘膜、経皮、鼻腔内、口腔内、腹腔内等による摂取または投与が挙げられる。
【0034】
本発明の組成物としては、食品もしくは飲料等の飲食品、食品添加物等の飲食品添加物、飼料、医薬品、医薬部外品、または化粧料が挙げられる。
【0035】
エマルション組成物
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明の組成物はエマルション組成物(乳化組成物と称しても良い)である。本発明のエマルション組成物は、植物加工油を水中に微細かつ安定に分散させる観点から、植物加工油に加えて、界面活性剤およびアルコールを含有することが好ましく、水をさらに含有することがより好ましい。本発明のエマルション組成物において、界面活性剤およびアルコールを含有させることは、水中での乳化の観点、さらに、製造および保管時の安定性の向上、および/または、皮膚適用時の皮膚透過性の向上の観点からも有利である。したがって、上記エマルション組成物は、好ましくは水中油型エマルション組成物(水中油型乳化組成物と称しても良い)である。
【0036】
界面活性剤
本発明において使用される界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、医薬品、化粧品あるいは食品において使用され、または将来使用されるものが含まれる。
【0037】
界面活性剤としては、例えば、HLB値が8~18の界面活性剤が挙げられ、好ましくはHLB値が9~12の界面活性剤である。具体的な界面活性剤としては、グリセロリン脂質等のリン脂質、エステル型界面活性剤、エーテル型界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤および両性界面活性剤等が挙げられる。上記グリセロリン脂質としては、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチンおよびこれらの酵素処理物等のレシチン、リゾレシチン、ヒドロキシル化レシチン、ケファリン、リゾケファリンまたはプラスマローゲン等が挙げられる。上記エステル型界面活性剤としては、例えば、ショ糖ラウリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル;ソルビタンカプリル酸モノエステル等のソルビタン脂肪酸エステル;カプリル酸グリセリル等のモノグリセリン脂肪酸エステル;モノステアリン酸ジグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。上記エーテル型界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。上記陰イオン界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のC8~C24の炭化水素基(好ましくはアルキル基)を有するスルホン酸塩;ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩等が挙げられる。上記陽イオン界面活性剤としては、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩;ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド乳酸塩、ジラウリルアミン塩酸塩、オレイルアミン乳酸塩等のアミン塩等が挙げられる。上記両性界面活性剤としては、例えば、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のベタイン型両性界面活性剤;β-ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。上記界面活性剤は、好ましくはリン脂質であり、より好ましくは大豆レシチン等のレシチンである。
【0038】
本発明のエマルション組成物における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、植物加工油、界面活性剤、およびアルコールの合計に対し、1~90質量%、好ましくは10~70質量%、さらに好ましくは10~50質量%とすることができる。
【0039】
アルコール
本発明において使用されるアルコールとしては、特に限定されるものではなく、医薬品あるいは食品として使用され、または将来使用されるものが含まれる。
【0040】
アルコールとしては、エマルション組成物におけるエマルション粒子の粒子径、分散性等の観点から、一価アルコール、二価アルコールまたは三価アルコール等が挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノールもしくは2-プロパノールであるプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリン等が挙げられ、好ましくは一価アルコールまたは二価アルコールであり、より好ましくはエタノール、プロピレングリコールである。
【0041】
本発明のエマルション組成物におけるアルコールの含有量は、特に限定されないが、植物加工油、界面活性剤、およびアルコールの合計に対し、例えば、1~90質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは30~70質量%とすることができる。
【0042】
水
本発明において使用される水としては、特に限定されるものではなく、医薬品あるいは食品として使用され、または将来使用されるものが含まれる。かかる水としては、例えば、精製水、イオン交換水、蒸留水、超ろ過水、超純水(例えば、ミリQ水)、注射用水、生理食塩水等が挙げられ、好ましくは精製水である。
【0043】
本発明のエマルション組成物における水の含有量は、特に限定されないが、エマルション組成物全体に対し、例えば、99.9~50質量%、乳化安定性の観点から、好ましくは99.5~70質量%、より好ましくは99~80質量%とすることができる。
【0044】
また、本発明のエマルション組成物において、植物加工油、界面活性剤、およびアルコールの合計と水との質量比(植物加工油、界面活性剤、およびアルコールの合計:水)は、例えば、1:100~1:1が挙げられ、乳化安定性の観点から、好ましくは1:80~1:2であり、より好ましくは1:50~1:5である。
【0045】
本発明のエマルション組成物中のエマルション粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、25℃において、例えば1~10,000nm、好ましくは10~2,000nm、より好ましくは50~600nm、さらに好ましくは100~450nmである。なお、エマルション粒子の平均粒径が1,000nm以下であるエマルション組成物をナノエマルション組成物とも言う。かかる平均粒子径は、動的光散乱法により測定され、具体的には、後述するZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments社製)のような公知の装置を用いて測定することができる。
上記平均粒子径は、エマルション組成物の調製直後の平均粒子径であってもエマルション組成物の調製24時間後の平均粒子径であってもよいが、エマルション組成物の調製24時間後の平均粒子径であることが好ましく、エマルション組成物の調製24時間後の平均粒子径とエマルション組成物の調製直後の平均粒子径とが同様であることがより好ましい。
ここで、エマルション粒子の平均粒子径は、当業者に理解できるように、組成物中の成分の種類、それらの配合比率、pH、温度等の条件に基づき、適宜調節することができる。
【0046】
本発明のエマルション組成物中のエマルション粒子のPDI(polydispersity index:多分散性指数)は、特に限定されるものではないが、25℃において、例えば0.01~5、好ましくは0.05~1、より好ましくは0.1~0.5である。かかるPDIは、動的光散乱法により測定され、具体的には、後述するZetasizer Nano ZS(Malvern Instruments社製)のような公知の装置を用いて測定することができる。
上記PDIは、エマルション組成物の調製直後のPDIであってもエマルション組成物の調製24時間後のPDIであってもよいが、エマルション組成物の調製24時間後のPDIであることが好ましく、エマルション組成物の調製24時間後のPDIとエマルション組成物の調製直後のPDIとが同様であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明のエマルション組成物における植物加工油の含有量は、特に限定されないが、エマルション組成物全体に対し、植物加工油の含有量は、例えば、エマルション組成物全体に対して、0.1~30質量%が挙げられ、好ましくは0.5~10質量%である。
【0048】
本発明のエマルション組成物の製造方法としては、例えば、油層を調製する工程、好ましくは、所定量の植物加工油、界面活性剤、およびアルコールを混合する工程を含むことができる。上記混合には、ボルテックスミキサー、ホモミキサー等を用いることができる。さらに、上記混合により得られた混合物(以下、油層とも言う)を、撹拌下で水(以下、水層とも言う)と混合する工程を含んでいても良い。かかる撹拌には、超音波ホモジナイザー、真空乳化装置等を用いることができる。
【0049】
また、本発明のエマルション組成物の形態は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されず、好ましくは、液状(油状、スラリー状を含む)、半固形状(ペースト状、ゲル状、ゼリー状を含む)または固形状が挙げられ、好ましくは液体状または半固体状である。
【0050】
本発明のエマルション組成物の剤形は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、注射剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、粉剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、吸入剤、エアロゾル剤、粉末吸入剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ローション、乳液、貼付剤、スプレー剤、ゲル剤、点滴剤、点眼剤、点鼻剤等として提供することができる。好ましくは、実施例に示す通り、本発明のエマルション組成物が皮膚に塗布された場合に光保護作用が増強されることから、外用剤(好ましくは、皮膚外用剤)としての剤形であることが好ましく、軟膏、クリーム剤、ローション、乳液、貼付剤、スプレー剤が挙げられる。
【0051】
本発明のエマルション組成物の摂取または投与方法としては、特に限定されないが、点滴、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射等の注射、経口、経粘膜、経皮、鼻腔内、口腔内、腹腔内等による摂取または投与が挙げられ、好ましくは経皮投与である。
【0052】
本発明のエマルション組成物としては、食品もしくは飲料等の飲食品、食品添加物等の飲食品添加物、飼料、医薬品、医薬部外品、または化粧料が挙げられ、好ましくは、医薬品、医薬部外品、または化粧料である。
【0053】
本発明の植物加工油を含んでなる組成物は、活性酸素種の産生を抑制または低減することができる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、本発明の植物加工油を含んでなる組成物は、活性酸素種の産生を抑制または低減のための組成物として提供される。ここで、活性酸素種としては、特に限定されないが、好ましくは、一重項酸素、スーパーオキシド、またはその組合せである。
【0054】
さらに、本発明の植物加工油を含んでなる組成物は、光毒性反応を抑制または低減することができ、光毒性抑制作用や光保護作用を奏することが可能である。したがって、本発明の好ましい別の態様によれば、本発明の組成物は、光毒性抑制または低減のための組成物として提供される。
【0055】
光毒性反応により、例えば、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作が誘発されうる。上記皮膚炎症は発赤や紅斑を主徴としており、皮膚の色調変化との関連性が認められているところ、本発明の植物加工油を含んでなる組成物は後述の実施例に示す皮膚表面の色差(ΔE)を低下する作用を有する。ここで、光毒性誘発化合物とは、太陽光に含まれるUVA、UVBおよび/または可視光領域の光等の吸収により光励起され、O2との反応により活性酸素種を産生し、光毒性反応に寄与する性質を有する化合物であれば、特に限定されない。具体的な光毒性誘発化合物としては、例えば、トリフルオペラジンやトリフルオペラジン二塩酸塩等のフェノチアジン誘導体、キノロン系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ベンゾフェノン誘導体が挙げられ、好ましくは、トリフルオペラジン二塩酸塩等のフェノチアジン誘導体、キノロン系抗生物質である。
したがって、本発明の好ましい別の態様によれば、本発明の組成物は、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作の改善用組成物として提供される。本明細書において、「改善」とは、確立された病態の改善という「治療」の意味を含むだけでなく、想定される悪化に対して事前に備え、疾患の発生を未然に防ぐ「予防」の意味も含む。
なお、上記組成物としては、皮膚透過性および/または皮膚滞留性の観点から、エマルション組成物が好ましい。
【0056】
さらに、本発明の植物加工油を含んでなる組成物は、光を遮断または吸収することができる。したがって、本発明の好ましい別の態様によれば、本発明の組成物は、光を遮断または吸収のための組成物として提供される。ここで、上記光としては、特に限定されないが、好ましくは、UVA、UVBおよび/または可視光領域の光である。
【0057】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の組成物を適用する対象としては、例えば動物が挙げられ、好ましくは、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等であり、より好ましくは、ヒト、イヌ、ネコである。上記対象は健常者(健常動物)であっても患者(患者動物)であってもよい。
【0058】
本発明の別の態様によれば、対象の活性酸素種産生または光毒性を抑制または低減する方法であって、植物加工油の有効量を、それを必要とする対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、方法が提供される。また、対象の、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作を改善する方法であって、植物加工油の有効量を、それを必要とする対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、方法が提供される。また、対象において光を遮断または吸収する方法であって、植物加工油の有効量を、それを必要とする対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、方法が提供される。
【0059】
本発明のさらに別の態様によれば、植物加工油を有効量含んでなる組成物を対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、対象の活性酸素種産生または光毒性を抑制または低減する方法が提供される。また、植物加工油を有効量含んでなる組成物を対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、対象の、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作を改善する方法が提供される。また、植物加工油を有効量含んでなる組成物を対象に投与することまたは摂取させることを含んでなる、対象において光を遮断または吸収する方法が提供される。
【0060】
本発明のさらに別の態様によれば、上述の、活性酸素種産生または光毒性を抑制もしくは低減する方法、および光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作を改善する方法、および光を遮断または吸収する方法は、対象が健常者である場合、非治療的方法とされる。ここで、上述の非治療的とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療または診断する方法を含まない概念、より具体的には医師または医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療または診断を実施する方法を含まない概念である。本発明の活性酸素種産生または光毒性を抑制または低減する方法、および光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作を改善する方法、および光を遮断または吸収する方法は、本発明の組成物について、本明細書に記載された内容に従って実施することができる。
【0061】
本発明の植物加工油の有効量および本発明の組成物の投与回数は、特に限定されず、植物加工油の種類、純度、対象の種類、性質、性別、年齢、症状等に応じて当業者によって、適宜決定される。経口摂取または経口投与の場合、かかる有効量の好適な範囲としては、例えば、0.01~1000mg/体重kg/日が挙げられ、好ましくは0.05~1000mg/体重kg/日、より好ましくは0.1~500mg/体重kg/日である。また、経皮摂取または経皮投与の場合、かかる有効量の好適な範囲としては、成人一日当たり、例えば、0.01~20gが挙げられ、好ましくは0.05~10gである。投与回数は、例えば、1日に1~5回が挙げられ、好ましくは1日に1~3回である。
【0062】
また、本発明の別の態様によれば、活性酸素種産生または光毒性の抑制または低減のための組成物の製造における、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作の改善のための組成物の製造における、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光を遮断または吸収するための組成物の製造における、植物加工油の使用が提供される。
【0063】
また、本発明の別の態様によれば、活性酸素種産生または光毒性の抑制または低減のための組成物としての、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作の改善のための組成物としての、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光を遮断または吸収するための組成物としての、植物加工油の使用が提供される。本発明の好ましい態様によれば、上記使用は非治療的使用である。
【0064】
また、本発明の別の態様によれば、活性酸素種産生または光毒性の抑制または低減のための、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作の改善のための、植物加工油の使用が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光を遮断または吸収するための、植物加工油の使用が提供される。本発明の好ましい態様によれば、上記使用は非治療的使用である。
【0065】
また、本発明の別の態様によれば、活性酸素種産生または光毒性の抑制または低減のための、植物加工油が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光毒性誘発化合物による皮膚炎症、皮膚がん、色素沈着、しわ形成または皮膚感作の改善のための、植物加工油が提供される。また、本発明の好ましい別の態様によれば、光を遮断または吸収するための植物加工油が提供される。
【0066】
上記の使用、植物加工油の態様はいずれも、本発明の組成物や方法に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例0067】
以下、試験例、参考例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲は、これらの例示に限定されるものではない。なお、特に記載しない限り、本発明で用いられる全部のパーセンテージや比率は質量による。また、特に記載しない限り、本明細書に記載の単位や測定方法はJIS規格による。
【0068】
試験例、調製例で使用した物質は以下の通りである。
・イミダゾール:富士フィルム和光純薬株式会社
・p-ニトロソジメチルアニリン(以下、RNOともいう):シグマ アルドリッチ社
・キニン塩酸塩(以下、QNともいう):富士フィルム和光純薬株式会社
・ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)):富士フィルム和光純薬株式会社
・NaH2PO4・2H2O:富士フィルム和光純薬株式会社
・大豆レシチン(Lecithin,from Soybean(レシチン, 大豆由来)):富士フィルム和光純薬株式会社
・プロピレングリコール:富士フィルム和光純薬株式会社
・トリフルオペラジン二塩酸塩:富士フィルム和光純薬株式会社
・Tween(登録商標)20:富士フィルム和光純薬株式会社
【0069】
試験例、調製例で使用した機器は以下の通りである。
・搾油機:直圧式電動搾油機KT23-160EL((株)サン精機製)
・アロマ減圧水蒸気蒸留装置:アロマ減圧水蒸気蒸留装置((株)本村製作所製)
・耐光性試験機:アトラスサンセットCPS+(アトラス マテリアル テクノロジーLCC製)
ここで、アトラスサンセットCPS+は擬似太陽光の照射のためにキセノン(Xe)アークランプを備えていた。また、アトラスサンセットCPS+では短波長のUVをカットし実際の太陽光を模すためのフィルターを用いてCIE85/1989 daylight simulation requirementに対応した疑似太陽光を照射した。照射強度は250W/m2に設定した。アトラスサンセットCPS+内の温度は28°Cに保った。
・96-ウェルマイクロプレート:AGCテクノガラス社製、品番3881-096;クリア、平底
・マイクロプレート分光計:SAFIREマイクロプレート分光計(TECAN社製)
・ボルテックスミキサー:VORTEX GENIUS 3(IKA社製)
・超音波ホモジナイザー:ULTRASONIC HOMOGENIZER Smurt NR-50M(マイクロテック・ニチオン社製)
・ナノ粒子径分析器:Zetasizer Nano ZS (Malvern Instruments社製)
・電子顕微鏡親水化処理装置:HDT-400(日本電子株式会社製)
・透過型電子顕微鏡(TEM):H-7600(株式会社日立製作所製)
・ブラックライト:FL15BL-B(ナショナル製)
・UVメーター:UVA detector Dr. Hoenle #0037(Dr.Hoenle社製)
・色差計:NF333(日本電色工業社製)
【0070】
調製例1A:茶の実油の調製方法
まず、収穫後の茶の実を乾燥した。その後、得られた茶の実乾燥物の鬼皮を除去した後、搾油機を用いて、最高圧力69.3MPa、最高連続加圧時間8時間の条件で圧縮することで、茶の実油を得た。
【0071】
試験例1-1:茶の実油の活性酸素種(ROS)アッセイ
調製例1Aで得られた茶の実油についてROSアッセイを行った。
ROSアッセイは被験物質が疑似太陽光照射下で産生する活性酸素種のうち一重項酸素(以下、SOともいう)およびスーパーオキシドアニオン(以下、SAともいう)を測定する試験法であり、被験物質の光反応性を評価する試験法である。SOはイミダゾールをSOのアクセプタに用いて、p-ニトロソジメチルアニリン(RNO)水溶液の440nmにおける吸光度変化からその評価を行った。具体的には、茶の実油(200μM)、QN(50μM)、RNO(50μM)およびイミダゾール(50μM)を含む20mM NaPB(pH7.4)200μLを96-ウェルマイクロプレートに分注し、析出物の有無を確認後、マイクロプレート分光計を用いて、440nmの吸光値を測定した。その後、プレートを耐光性試験機に入れ石英の蓋を装着し、擬似太陽光を1時間照射した。照射後のプレートを振盪した後、440nmの吸光値を再び測定した。
【0072】
SAはニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)の還元によって生成されるニトロブルージホルマザンを560nmにおける吸光度変化より評価した。具体的には、茶の実油(200μM)、QN(50μM)およびNBT(50mM)を含む20mM NaPB(pH7.4)200μLを96-ウェルマイクロプレートに分注し、析出物の有無を確認後、SAFIREマイクロプレート分光計を用いて、560nmの吸光値を測定した。その後、プレートを耐光性試験機に入れ石英の蓋を装着し、擬似太陽光を1時間照射した。照射後のプレートを振盪した後、560nmの吸光値を再び測定した。
【0073】
抗酸化作用を評価するにあたり、陽性対照であるQNと茶の実油をともに被験物質として測定試料に添加することで茶の実油がQNによるROS産生をどれほど抑制したか算出した。その結果、茶の実油においては、QNによるROS産生をSOでは86%、SAでは46%まで抑制した。
【0074】
調製例1B:カヤの実油の調製方法
まず、収穫後のカヤの実を洗浄した後、乾燥した。乾燥したカヤの実を、搾油機を用いて、最高圧力69.3MPa、最高連続加圧時間8時間の条件で圧縮することで、カヤの実油を得た。
【0075】
試験例1-2:カヤの実油の活性酸素種(ROS)アッセイ
調製例1Aで得られた茶の実油の代わりに調製例1Bで得られたカヤの実油を用いたこと以外は、試験例1-1と同様にしてROSアッセイを行った。
その結果、カヤの実油においては、QNによるROS産生をSOでは92%、SAでは41%まで抑制した。
【0076】
調製例1C:ヤブニッケイ油の調製方法
まず、収穫後のヤブニッケイの枝葉を、アロマ減圧水蒸気蒸留装置を用いておよそ90~100℃で1時間水蒸気蒸留して得た蒸留物の下層部の水相から、上層部の油相を分離採取することにより、ヤブニッケイ油を得た。
【0077】
試験例1-3:ヤブニッケイ油の活性酸素種(ROS)アッセイ
調製例1Aで得られた茶の実油の代わりに調製例1Cで得られたヤブニッケイ油を用いたこと以外は、試験例1-1と同様にしてROSアッセイを行った。
その結果、ヤブニッケイ油においては、QNによるROS産生をSOでは97%、SAでは93%まで抑制した。
【0078】
調製例2A:茶の実油含有組成物の調製
調製例2A-1:油層検討
茶の実油(以下、TSともいう)、界面活性剤として大豆レシチンおよびアルコールとしてプロピレングリコールを使用し、その混合物をボルテックスミキサーにより10分間ボルテックスにかけ、油層とした。その後、超音波ホモジナイザーでの撹拌下、過量となる精製水50mLに油層1.0mLを滴下し乳化の有無を観察した。乳化の有無の観察としては、具体的には、健常な視力(視力1.0以上)を有するパネルが、照度1000ルクスの光の下、得られたエマルション組成物と目との距離を垂直方向で20cm離して行い、無色透明で沈殿物が認められない場合、乳化したものと判断した。
表1に結果を示す。表1中、乳化を示した組成を丸、調製24時間後に相分離が見られず安定だった組成比を二重丸で示した。二重丸で示したうち、組成物中の茶の実油含量が最も高い組成比(茶の実油:30質量%、大豆レシチン:40質量%、プロピレングリコール:30質量%)を最適化された油層組成比とした。
【表1】
【0079】
調製例2A-2:水層検討
動的光散乱法を用いて水の組成比を決定した。25℃、超音波ホモジナイザーでの撹拌下で各量の精製水(50、40、30、20、10、5、1mL)に、調製例2A-1で得られた油層を滴下し、茶の実油含有ナノエマルション組成物(以下、NE/TSともいう)を調製した。その後、NE/TSを精製水中に分散させ希釈し(100μg/ml)、測定試料とした。ナノ粒子径分析器を用いて、動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)法により粒度分布を測定し、平均粒子径およびPDIを算出した。調製24時間後についても測定を行った。24時間安定であり、TS含量が最も高いものを最適化された水の組成比とし、NE/TSを調製した。
【0080】
各組成比でのNE/TS中に分散する油滴の平均粒子径およびPDIを表2に示す。NE/TSは組成比の違いに関わらず、ナノサイズの微粒子を形成した。調製直後では、各NE/TSの平均粒子径はおよそ200nmと小さく、PDIはおよそ0.30と均一な粒子を形成することを確認した。調製24時間後では、組成比1:50~1:5のNE/TSにおいて、平均粒子径およびPDIは調製直後と同様の値を示し、均一で安定な微粒子であると推察される。一方、組成比1:1のNE/TSでは調製24時間後に目視で相分離を確認した。これらの結果より、24時間において充分な安定性を示し、TS含量が最も高い1:5を油層に対する水の比率として選択し、以降の試験(試験例2、3)を進めた。
【0081】
【0082】
調製例2B:カヤの実油含有組成物の調製
調製例1Bで得られたカヤの実油、界面活性剤として大豆レシチンおよびアルコールとしてプロピレングリコールを使用し、その混合物をボルテックスミキサーにより10分間ボルテックスにかけ、油層とした。このときの組成は、カヤの実油:30質量%、大豆レシチン:40質量%、プロピレングリコール:30質量%である。その後、超音波ホモジナイザーでの撹拌下、過量となる精製水50mLに油層1.0mLを滴下し乳化の有無を観察した。なお、乳化の有無は調製例2A-1と同様に行った。その結果、当該組成物は乳化を示し、動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は340nmであり、PDIは0.35であった。調製24時間後についても測定を行ったところ、平均粒子径は370nmであり、PDIは0.33であった。
【0083】
調製例2C:ヤブニッケイ油含有組成物の調製
調製例1Cで得られたヤブニッケイ油、界面活性剤として大豆レシチンおよびアルコールとしてプロピレングリコールを使用し、その混合物をボルテックスミキサーにより10分間ボルテックスにかけ、油層とした。このときの組成は、ヤブニッケイ油:30質量%、大豆レシチン:40質量%、プロピレングリコール:30質量%である。その後、超音波ホモジナイザーでの撹拌下、過量となる精製水50mLに油層1.0mLを滴下し乳化の有無を観察した。なお、乳化の有無は調製例2A-1と同様に行った。その結果、当該組成物は乳化を示し、動的光散乱(dynamic light scattering:DLS)法により粒度分布を測定したところ、平均粒子径は260nmであり、PDIは0.41であった。調製24時間後についても測定を行ったところ、平均粒子径は290nmであり、PDIは0.45であった。
【0084】
試験例2:茶の実油含有組成物の形状観察
透過型電子顕微鏡を用いてNE/TSの形状観察を行った。電子顕微鏡親水化処理装置により親水化処理したフォルムバール膜貼付メッシュ(日新EM株式会社)に、NE/TSを5μL添加し、30分静置した後、1%タングステンリン酸溶液にて染色し、観察を行った。TEMは80kVの電圧下で作動させた。
【0085】
調製直後および調製24時間後における、NE/TSの形状のTEMによる観察結果を
図1に示す。調製直後および調製24時間後において直径約200nmの均一で球形な微粒子が観察された。調製例2A-2、試験区2-6でのDLSによる検討では、NE/TSの平均粒子径は調製直後に219nm、調製24時間後に230nmを示しており、TEMによる観察で確認された粒子径と同様の粒子径であった。
【0086】
試験例3:茶の実油含有組成物を用いたin vivo光毒性試験
実験動物としては、7~12週令、体重約210~400gのSprague-Dawley系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社)を用いた。ラットは室温24±1℃、湿度55±5%、および明暗サイクル12時間で維持された動物飼育施設にて自由摂餌と飲水が可能な環境で飼育された。全ての動物実験は静岡県立大学実験動物倫理委員会のガイドラインに準じて実施した。
in vivo光毒性試験では、UV無照射・無処置群、UV照射・無処置群、UV照射・TS非含有NE塗布群、UV照射・TS塗布群、およびUV照射・NE/TS塗布群の5群に分けて、各試験群4匹で試験を行った。ここで、UV照射・TS非含有NE塗布群で用いたTSを含有しないナノエマルション組成物は、NE/TS組成からTSのみを除いたサスペンションである。また、UV照射・TS塗布群で用いたTSは、希釈していないTSそのものである。
UV照射・TS非含有NE塗布群、UV照射・TS塗布群、UV照射・NE/TS塗布群では、それぞれ、TSを含有しないナノエマルション、TS、および調製例2A-2で得られたNE/TSをラット背部に塗布(10μL/cm
2)し、アルミホイルで覆いサージカルテープおよび自着生伸縮包帯でアルミホイルを固定した。同時に光毒性誘発化合物であるトリフルオペラジン二塩酸塩(TF)をTween(登録商標)20水溶液(0.05w/v%)に溶解させ、経口投与(100mg/kg)させた。UV無照射・無処置群およびUV照射・無処置群では、塗布は行わないものの、TFの経口投与は上記と同様に行った。
TF経口投与3時間後に固定を外し、皮膚を生理食塩水にて洗い流した後、ブラックライトを用いてUVAとして約1.0mW/cm
2の強度で照射量が10J/cm
2となるまで照射した。照射強度はUVAの強度としてUVメーターを用いて確認した。
照射前および照射24時間後に、色差計を用いて皮膚表面の色調を計測した。色差は色調を3次元の軸上に表現するL
*a
*b
*system(CIE推奨)により記録した。輝度(L
*)は黒(L
*=0)から白(L
*=100)までの間で明るさを表し、色相(a
*)は赤(a
*=100)および緑(a
*=-100)間のバランスを表し、彩度(b
*)は黄色(b
*=100)および青(b
*=-100)間のバランスを表す。UV照射前後の皮膚表面の色差(ΔE)を以下の式より算出し、光毒性の指標とした。
【数1】
各データは平均値で示し、各データの統計処理は、a one-way analysis of variance(ANOVA)を用いて分散分析を行った後、Tukeyの多重比較検定によって統計学的処理を行った。
【0087】
本試験における光毒性反応は発赤や紅斑を主徴としており、皮膚の色調変化との関連性が認められている。UV照射前および照射24時間後における色調を測定しその変化(ΔE)を算出し皮膚炎症の指標とし、その結果を
図2に示す。UV照射・TS非含有NE塗布群およびUV照射・TS塗布群では、UV照射・無処置群と比して、ΔEの亢進を抑制した。さらに、UV照射・NE/TS塗布群では、UV照射・無処置群と比して、ΔEの亢進を有意に抑制した(*:p<0.01 vs UV照射・無処置群)。したがって、NE/TSによるTSの光保護作用増強が示唆された。