(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114303
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20230809BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20230809BHJP
C08G 73/14 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C08L79/08 C
C08J5/18 CFG
C08G73/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016596
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60
4F071AF13
4F071AF20Y
4F071AF21Y
4F071AH17
4F071AH19
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4F071BC12
4J002CM041
4J002CM042
4J002GM01
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4J043PA04
4J043PA19
4J043QB58
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4J043RA34
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4J043SA11
4J043SA43
4J043SB03
4J043TA11
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4J043UA122
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4J043UB021
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4J043VA021
4J043XA19
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4J043XB34
4J043ZA32
4J043ZA33
4J043ZA34
4J043ZB60
(57)【要約】
【課題】
フィルム状に成形したとき、高い弾性率と高い伸度とが両立したポリアミドイミド(PAI)フィルムを得ることできるポリアミドイミド(PAI)組成物の提供。
【解決手段】
以下の1)および2)を満たすポリアミドイミド(PAI)組成物。
1)酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)が用いられた、酸成分としてのダイマ酸(DA)共重合量が異なる2種類以上のポリアミドイミド(PAI)からなる。
2)PAI組成物中のTMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率(DA×100/(TMA+DA))が30モル%未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)および2)を満たすポリアミドイミド(PAI)組成物。
1)酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)が用いられた、酸成分としてのダイマ酸(DA)共重合量が異なる2種類以上のポリアミドイミド(PAI)からなる。
2)PAI組成物中のTMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率(DA×100/(TMA+DA))が30モル%未満である。
【請求項2】
2種類以上のPAIのうちの1種が、TMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率が2モル%未満のPAIである、請求項1記載のPAI組成物。
【請求項3】
2種類以上のPAIのうちの1種が、TMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率が、2モル%以上、60モル%以下のPAIである、請求項1または2記載のPAI組成物。
【請求項4】
フィルムとしたときの引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上である、請求項1~3いずれかに記載のPAI組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載のPAI組成物を用いて得られるフィルム。
【請求項6】
請求項1~4いずれかに記載のPAI組成物を用いて得られるシームレスベルト。
【請求項7】
請求項1~4いずれかに記載のPAI組成物と有機溶媒とからなるPAI組成物溶液。
【請求項8】
請求項7記載のPAI組成物溶液を、円筒状金型に塗布、乾燥後、脱型することを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、フィルム状に成形して、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等として好適に用いられるポリアミドイミド(PAI)組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高速化が求められる複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして、耐熱性、機械特性、寸法安定性に優れたPAI等のポリイミド系材料からなるフィルムが広く用いられている。これらのベルトは、例えば、PAIを含有する溶液を金型に塗布、乾燥することにより得ることができ、通常、厚みが30μm~150μmのPAIフィルムからなるシームレスのベルトとして用いられる。
【0003】
これらのベルトとして用いられるPAIフィルムとして、酸成分としてトリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてoートリジンジイソシアネート(TODI)を用いたPAIフィルムからなるPAIベルトは、寸法安定性、耐熱性、力学特性(特に剛性)に優れるので、複写機、プリンタ等の中間転写ベルト、定着ベルト等の成形用として好適に用いられることが特許文献1~5に記載されている。
【0004】
また、酸成分としてダイマ酸(DA)を用いることで、柔軟性を有し、かつ残存溶剤量を低減したPAIフィルムがシームレスベルトとして好適であることが特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-147199号公報
【特許文献2】特開2004-155947号公報
【特許文献3】特開2003-261768号公報
【特許文献4】特開2007-16097号公報
【特許文献5】特開2011-79965号公報
【特許文献6】特開2014-28921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~5に記載された酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIを用いたPAIからなるベルトは、ベルトとしての強靭性、すなわちフィルムとしたときの伸度が十分ではなく、ベルトを複写機に装着して長時間使用した際、破断や割れが起こることがあった。
【0007】
また、特許文献6に記載された酸成分としてDAを用いたPAIからなるベルトは、剛性が十分でないことから、大きな張力をかけると寸法変化が起こることがあった。
【0008】
このようなことから、複写機用のベルトとして用いられるPAIとしては、フィルムとした際に高い弾性率(剛性)を有することに加え、高い伸度を有するものが求められていた。すなわち、トレードオフの関係にある、高い弾性率と高い伸度とを両立させることができるPAIが求められていた。
【0009】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、フィルム状に成形したとき、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできるPAI組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の組成を有する新規なPAI組成物であって、特定の組成の配合比率が異なる2種類のPAIを配合することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明は、以下を趣旨とするものである。
以下の1)および2)を満たすポリアミドイミド(PAI)組成物。
1)酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)が用いられた、酸成分としてのダイマ酸(DA)共重合量が異なる2種類以上のポリアミドイミド(PAI)からなる。
2)PAI組成物中のTMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率(DA×100/(TMA+DA))が30モル%未満である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のPAI組成物をフィルム状に成形することにより、高い弾性率と高い伸度とが両立し、PAIフィルムとすることができる。従い、このPAIフィルムからなるPAIベルトは、複写機、プリンタの中間転写ベルト、定着ベルトとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のPAI組成物は、酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)が用いられた、酸成分としてのダイマ酸(DA)共重合量の異なる2種類以上のポリアミドイミド(PAI)からなる。2種類以上のPAIの中に、DAが共重合されていないPAIがあってもよい。
【0015】
本発明のPAI組成物を構成するPAIの1種として、TMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率(DA×100/(TMA+DA))が、2モル%未満であるPAI(以下、PAI-1という。)を用いることができる。
【0016】
本発明のPAI組成物を構成するPAIの1種として、TMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率(DA×100/(TMA+DA))が、2モル%以上、60モル%以下であるPAI(以下、PAI-2という。)を用いることができる。
【0017】
本発明のPAI組成物を構成する各PAIにおいては、溶媒への溶解性の促進のため、イソシアネート成分として、TODIに加えてメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)および/またはトルエンジイソシアネート(TDI)を併用することが好ましく、MDIおよび/またはTDIを、TODIとのイソシアネート成分の総量に対して10~60モル%使用することが好ましく、より好ましい使用量は15~40モル%である。本発明のPAI組成物を構成する各PAIにおいて、イソシアネート成分の組成は、同一であっても異なっていてもよい。
PAI組成物中のMDIおよび/またはTDIの総使用量は、上記と同様に、TODIとのイソシアネート成分の総量に対して10~60モル%が好ましく、より好ましくは15~40モル%である。
【0018】
本発明のPAI組成を構成する各PAIにおいて、ピロメリット酸無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等が酸成分中に10モル%以下の割合で共重合されていてもよい。この共重合量が10モル%を超えると、力学的特性値を両立させることが難しくなることがある。
【0019】
本発明のPAI組成物を作成するための、各PAIの配合比率は、PAI組成物の組成に応じて任意に設定でき、特に限定されないが、例えば、前記したPAI-1とPAI-2との2種を用いる場合には、合計質量に対し、PAI-2を1~75質量%とすることが好ましく、5~30質量%とすることがより好ましい。
【0020】
本発明のPAI組成物は、力学的特性値を両立させるため、PAI組成物中のTMAおよびDAの総モル数に対するDAのモル数の比率が30モル%未満となるように2種以上のPAIが配合されていることが好ましく、前記比率のより好ましい範囲は0.4~10モル%である。
【0021】
本発明のPAI組成物を構成する各PAIは、例えば、以下のような方法で、溶液として得ることができ、複数のPAI溶液を混合することでPAI組成物の溶液を調製することができる。
すなわち、略等モルの、TMAおよびDA(酸成分)と、TODI(イソシアネート成分)とを、溶媒中、重合反応させることにより得ることができる。
酸成分と、イソシアネート成分とのモル比は、1/1.00~1.05とすることが好ましい。
【0022】
重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物を触媒として酸成分に対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。
このような塩基性触媒を用いることにより、高粘度のPAI溶液とすることができる。
これらの塩基性触媒は、PAI重合の際の重合触媒として知られてはいるが、TMAと、TODIとからなるPAIの重合反応において、特異的に有効である。
【0023】
重合反応に用いられる溶媒に制限はないが、アミド系溶媒を用いることが好ましい。アミド系溶媒の具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または混合物として用いることができる。これらの中で、NMP、DMAc、およびそれらの混合物が好ましい。これらの重合溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0024】
重合反応を行う際の反応温度としては、100~200℃が好ましく、120~180℃がより好ましい。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。
【0025】
本発明のPAI組成物溶液の溶液粘度は特に限定されないが、ベルト等への成形性の観点から、10Pa・s以上、200Pa・s以下であることが好ましく、80Pa・s以上、150Pa・s以下とすることがより好ましい。
ここで、溶液粘度は、トキメック社製、DVL-BII型デジタル粘度計(B型粘度計)を用い、30℃における回転粘度を測定することにより確認することができる。
【0026】
前記溶液の濃度は、10質量%超、25質量%未満とすることが好ましく、16質量%以上、22質量%以下とすることがより好ましい。
【0027】
本発明のPAI組成物溶液の粘度や濃度は、粘度や濃度の異なる複数のPAI溶液を配合することで適宜調整することができる。
【0028】
前記のようにして得られる本発明のPAI組成物溶液は、基材上に塗布、乾燥することにより、本発明のPAI組成物からなるフィルムとすることができる。
用いる基材に制限はないが、銅箔等の金属箔、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム等の有機高分子フィルムを好ましく用いることができる。
また、本発明のPAI組成物溶液を、円筒状の金型に塗布、乾燥後、脱型することにより、PAIフィルムからなるシームレスのベルトとすることができる。
なお、PAI組成物溶液からフィルムを得る際の乾燥条件としては、50~180℃の温度で予備乾燥した後、200~300℃の温度でさらに乾燥することが好ましい。
また、成形されたPAIフィルムの厚みに制限はないが、通常、1~200μm程度である。
【0029】
本発明のPAI組成物は、フィルムとしたときの引張伸度が60%以上、引張弾性率が3.5GPa以上であることが好ましく、引張伸度は65%以上が、引張弾性率は3.8GPa以上が、それぞれ、より好ましい。
このようにすることにより、例えば、剛性と強靭性とが両立した複写機用のベルトとして用いることができる。
なお、PAIフィルムの弾性率と伸度とは、JIS K7127:1999に準拠して測定することにより確認することができる。
【0030】
本発明のPAI組成物は、フィルムとしたときの引張伸度を60%以上とすることにより、複写機用ベルトとしての耐折れ特性(MIT回数)が向上し、複写機に装着して長時間使用した際のベルトの破断や割れを防止することができる。
ここで、ベルトの耐折れ特性(MIT回数)は、ベルトから切り出したフィルムを、JIS-P8115(2001)に準拠して、荷重を9.8Nとして測定することにより確認することができ、MIT回数として2000回以上であることが好ましい。
【0031】
また、本発明のPAI組成物は、フィルムとしたときの引張弾性率を3.5GPa以上とすることにより、複写機用ベルトとしての座屈特性が向上し、複写機に装着して長時間使用した際のベルトの変形を防止することができる。
ここで、ベルトの座屈特性は、ベルトを平行な2枚の金属板の間に設置し、1mm/secの速度で圧縮して座屈するときの荷重を測定することにより確認することができ、この荷重が2.0kg以上であることが好ましい。
【0032】
本発明のPAI組成物は、吸湿性が低減されているため、環境変化に影響されにくいという特長も有する。
具体的な低吸湿の程度としては、例えば、吸水率が2.0質量%以下である。
なお、PAI組成物の吸水率は、JIS K7209:2000に準拠して測定することにより確認することができる。
【0033】
本発明のPAI組成物は、ベルトの他にも、従来のPAI樹脂と同様に、任意の成形法を用いてフィルム、繊維、不織布、フィラ等の任意の形態に成形可能である。
また、本発明のPAIを含有する溶液は、ワニスとして電線被覆、印刷インキ、光ファイバー被膜、IC用コート材、耐熱塗料等、種々の用途に使用できる。
また、金属箔にワニスを塗工して熱処理することにより、フレキシブルプリント基板の製造が可能である。
【実施例0034】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
実施例、比較例に用いたPAI溶液は以下のように製造した。
<製造例1>
(「PAI-1a」溶液の調製)
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、酸成分としてTMA:1.00モルを、イソシアネート成分としてTODI:0.82モルおよびMDI:0.20モルを、触媒としてDBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1a」溶液を得た。
【0036】
<製造例2>
(「PAI-1b」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.95モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.05モルを用いたこと以外は製造例1と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1b」溶液を得た。
【0037】
<製造例3>
(「PAI-1c」溶液の調製)
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、酸成分としてTMA:1.00モルを、イソシアネート成分としてTODI:0.82モルおよびTDI:0.20モルを、触媒としてDBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1c」溶液を得た。
【0038】
<製造例4>
(「PAI-1d」溶液の調製)
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、酸成分としてTMA:1.00モルを、イソシアネート成分としてTODI:0.61モルおよびMDI:0.40モルを、触媒としてDBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1d」溶液を得た。
【0039】
<製造例5>
(「PAI-1e」溶液の調製)
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、酸成分としてTMA:1.00モルを、イソシアネート成分としてTODI:0.90モルおよびMDI:0.12モルを、触媒としてDBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-1e」溶液を得た。
【0040】
<製造例6>
(「PAI-2a」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.40モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.60モルを用いたこと以外は製造例1と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-2a」溶液を得た。
【0041】
<製造例7>
(「PAI-2b」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.45モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.55モルを用いたこと以外は製造例1と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-2b」溶液を得た。
【0042】
<製造例8>
(「PAI-2c」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.60モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.40モルを用いたこと以外は製造例3と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-2c」溶液を得た。
【0043】
<製造例9>
(「PAI-2d」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.60モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.40モルを用いたこと以外は製造例4と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-2d」溶液を得た。
【0044】
<製造例10>
(「PAI-2e」溶液の調製)
酸成分としてTMA:0.60モルおよびDA(クローダジャパン社製、商品名:PRIPOL1009):0.40モルを用いたこと以外は製造例5と同様にして、PAI固形分濃度が18質量%の「PAI-2e」溶液を得た。
【0045】
表1に製造例1~10で作製したPAI溶液の酸成分比率およびイソシアネート成分比率を示す。
【表1】
【0046】
<実施例1>
PAI-1a溶液とPAI-2a溶液とを、攪拌下、30℃で混合し、PAI-1a:99質量%、PAI-2a:1質量%からなるPAI組成物溶液(固形分濃度:18質量%)を得た。
このPAI組成物溶液をポリエステルフィルム上に塗布し、80℃で10分、130℃で10分乾燥後、塗膜をポリエステルフィルムから剥離した。その後、この塗膜を金枠に挟持し、窒素ガス雰囲気下、290℃で60分乾燥することにより、厚みが40μmのPAIフィルムを得た。
得られたPAIフィルムの引張弾性率と引張伸度とをJIS K7127:1999に準拠して測定した。
また、PAI溶液を、外径200mm、周長330mmの円筒状金型の外面にディスペンサーで塗布後、回転させ均一な塗布面を得た。金型の外側より80℃の熱風を30分間あてた後、窒素ガス雰囲気下、130℃で60分、その後260℃で90分乾燥した。その後室温(25℃)に戻し、金型から剥離し、厚みが70μmのPAIベルトを得た。
このPAIベルトの前記した方法による耐折れ特性および座屈特性を下記の基準で評価した。
<評価基準>
耐折れ特性:MIT回数が2000回以上3000回未満を「〇」、2000回未満を「×」とした。MIT回数が3000回以上を「◎」とした。
座屈特性:座屈するときの荷重が2.0kg以上を「〇」、2.0kg未満を「×」とした。
【0047】
<実施例2~11、比較例1~4>2種類のPAI溶液の配合比率を表2に記載のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI組成物溶液(固形分濃度:18質量%)を得た後、この組成物溶液を用いて、厚みが40μmのPAIフィルムおよび厚みが70μmのPAIベルトを得た。
【0048】
<比較例5>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、酸成分としてTMA:1.00モルを、イソシアネート成分としてMDI:1.02モルを、触媒としてDBU:0.001モルを、脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、PAI固形分濃度が18質量%のPAI組成物溶液(PAI-3)を得た後、実施例1と同様にこのPAI組成物溶液を用いて、厚みが40μmのPAIフィルムおよび厚みが70μmのPAIベルトを得た。
【0049】
<比較例6>
酸成分としてTMA:0.98モルおよびDA:0.02モルを用いたこと以外は比較例5と同様にしてPAI組成物溶液(PAI-4)を得た後、実施例1と同様にこのPAI組成物溶液を用いて、厚みが40μmのPAIフィルムおよび厚みが70μmのPAIベルトを得た。
【0050】
表2に、実施例および比較例のPAI組成物の酸成分比率およびイソシアネート成分比率、並びに、PAIフィルムとPAIベルトの評価結果を示す。
【0051】
【0052】
実施例で示したように、本発明のPAI組成物からなるフィルムとすることにより、高い弾性率と高い伸度とが両立したPAIフィルムを得ることできる。また、耐折れ特性と座屈特性に優れたベルトを得ることができる。
【0053】
これに対して、比較例1~6には以下のような問題があった。
比較例1、2は、DA成分を含まない単一のPAI溶液であったため、フィルムの引張伸度が不足し、ベルトとしての耐折れ特性に劣っていた。
比較例3は、DA成分の比率が高い単一のPAI溶液であったため、フィルムの引張弾性率が不足し、ベルトとしての座屈特性に劣っていた。
比較例4は、2種類のPAI溶液を配合しているが、PAI組成物のDA成分比率が30モル%で高かったため、フィルムの引張弾性率が不足し、ベルトとしての座屈特性に劣っていた。
比較例5は、TODI成分を含まない単一のPAI溶液であったため、フィルムの引張伸度と引張弾性率が不足し、ベルトとしての耐折れ特性と座屈特性に劣っていた。
比較例6は、DA成分を含むが、TODI成分を含まない単一のPAI溶液であったため、フィルムの引張弾性率が不足し、ベルトとしての座屈特性に劣っていた。