(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114307
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツ
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20230809BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20230809BHJP
A41D 13/08 20060101ALI20230809BHJP
A41B 11/14 20060101ALI20230809BHJP
A41B 11/00 20060101ALI20230809BHJP
A41B 1/08 20060101ALI20230809BHJP
A41D 1/06 20060101ALI20230809BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20230809BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20230809BHJP
A41D 31/30 20190101ALI20230809BHJP
D04B 1/18 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
D04B1/14
D01F6/62 305A
A41D13/08
A41B11/14 Z
A41B11/00 A
A41B1/08 Z
A41D1/06 503Z
A41D19/00 Z
A41D31/00 503K
A41D31/00 503Z
A41D31/30
D04B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016607
(22)【出願日】2022-02-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトのアドレス https://store.descente.co.jp/descentegolf/item/dgbtjb00_wh00/ https://item.rakuten.co.jp/store-descente/dsndsgdgbtjb00/ https://paypaymall.yahoo.co.jp/store/descente-store/item/mebtjb04/?sc_i=pmall_pc_detail-item_prccmp https://zozo.jp/shop/descentestoregolf/goods/62244443/?did=102931233 https://zozo.jp/shop/descentestoregolf/goods/62244392/?did=102931135 https://zozo.jp/shop/descentestoregolf/goods/62244392/?did=102931136 https://item.rakuten.co.jp/t-on/mebtjb04-21/ https://item.rakuten.co.jp/t-on/dgbtjb00-21/ https://paypaymall.yahoo.co.jp/store/t-on/item/mebtjb04-21/ https://fashion.dmkt-sp.jp/product/detail/id_504477637-mc_05U https://web.hh-online.jp/fashion/goods/?ggcd=504477637 掲載日:令和 4年 2月 1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2.販売した場所 DESCENTサッポロファクトリー そごう千葉店 本館6F 大丸東京店 11F 東武百貨店 池袋店7F 西武池袋本店本館8F 松坂屋名古屋店 北館4F 高島屋京都店5F 阪神梅田本店6F 阪急うめだ本店8F 阪急阪神百貨店博多阪急6F 丸井今井函館店4F イオン室蘭店2F 東急百貨店札幌店7F 大丸札幌店6F 札幌丸井今井 一条館4F イオン発寒店2F イオン江別店2F イオン滝川店1F パルクアベニューカワトク3F 藤崎本館5F 仙台三越定禅寺通り館3F 西武秋田店3F うすい百貨店5F 伊勢丹浦和店5F 丸広百貨店川越店4F 八木橋百貨店4F 柏高島屋S館1F ボンベルタ成田2F そごう横浜店5階 高島屋横浜店6F さいか屋藤沢店4F 日本橋三越本店本館4F 日本橋高島屋本館5F 松屋銀座6F 松坂屋上野店本館5F 東急百貨店5F 高島屋新宿店9F 高島屋玉川店4F 京王百貨店5F 伊勢丹立川店5F 小田急百貨店町田店3F 水戸京成百貨店5F 東武宇都宮百貨店4F DESCENTE STORE 宇都宮 東武宇都宮百貨店大田原店2F 高崎高島屋4F スズラン前橋店本館4F DESCENTE STORE 甲府 井上アイシティ21 3F 新潟伊勢丹4F 大和富山店4F 香林坊大和5F 高島屋岐阜店6F 遠鉄百貨店本館5F ジェイアール名古屋タカシマヤ8F 名古屋三越栄店5F 近鉄百貨店四日市店4F JR京都伊勢丹9F 大丸京都店5F 高島屋洛西店2F 高島屋大阪店5F 心斎橋パルコ8階 あべのハルカス近鉄本店ウィング館6F 高島屋泉北店4F 大丸神戸店5F 山陽百貨店本館4F 近鉄百貨店奈良店4F 近鉄百貨店和歌山店4F 鳥取大丸3F 米子しんまち天満屋3F 米子高島屋3F 一畑百貨店松江店4F 天満屋岡山店4F 天満屋津山店2F 天満屋倉敷店1F 天満屋福山店5F 広島三越5F そごう広島店新館7階 福屋広島駅前店9F 高松三越本館4F 松山三越4F いよてつ高島屋5F 高知大丸3F 井筒屋本店新館6F 岩田屋三越岩田屋本店本館6F 博多大丸本館5F 鶴屋百貨店東館3F トキハ本店4F リウボウインダストリー5F 販売日:令和 4年 1月20日ごろ
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100187584
【弁理士】
【氏名又は名称】村石 桂一
(72)【発明者】
【氏名】宅見 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】海老名 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】添田 剛
(72)【発明者】
【氏名】辻 雅之
【テーマコード(参考)】
3B011
3B018
3B033
4L002
4L035
【Fターム(参考)】
3B011AA10
3B011AA11
3B011AB09
3B011AB18
3B011AC01
3B011AC17
3B018AA01
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3B033AC10
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA06
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4L002AB01
4L002AB02
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4L035EE11
4L035EE12
4L035EE20
4L035HH10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】菌の増殖を抑制することができる編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツを提供する。
【解決手段】本開示の編み物生地構造体は、圧電材料を含み、外部からの外力により表面電位を発生させる圧電性糸1と、伸縮性を有する弾性糸2と、を含んで成り、前記圧電性糸は、編み物生地構造体の全体基準で5%以上の混率である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材料を含み、外部からの外力により表面電位を発生させる圧電性糸と、
伸縮性を有する弾性糸と、を含んで成り、
前記圧電性糸は、編み物生地構造体の全体基準で5%以上の混率である、編み物生地構造体。
【請求項2】
前記圧電性糸は、前記編み物生地構造体の全体基準で65%以下の混率である、請求項1に記載の編み物生地構造体。
【請求項3】
前記弾性糸は、芯糸にポリウレタンを使用した糸、ウーリー加工したナイロン糸、およびポリトリメチレンテレフタレートから成る群から選択されるいずれかの糸である、請求項1または2に記載の編み物生地構造体。
【請求項4】
前記圧電材料は、ポリ乳酸を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の編み物生地構造体。
【請求項5】
前記圧電材料は、結晶化度が20%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の編み物生地構造体。
【請求項6】
前記圧電材料は、添加剤を含有していない、請求項1~5のいずれか1項に記載の編み物生地構造体。
【請求項7】
前記表面電位は、0.1V以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の編み物生地構造体。
【請求項8】
着衣して伸縮する位置に前記圧電性糸が配置される、請求項1~7のいずれか1項に記載の編み物生地構造体。
【請求項9】
前記着衣して伸縮する位置は、母指球よりつま先側である、請求項8に記載の編み物生地構造体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の編み物生地構造体を用いた靴下。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の編み物生地構造体を用いたレギンス。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の編み物生地構造体を用いたアームカバー。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載の編み物生地構造体を用いたシャツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より圧電繊維を使用した靴下が開示されている(特許文献1)。さらに特許文献1には、靴下(またはサポータ)は、歩行時の動きによって、関節に沿って伸縮が生じ、圧電糸に電荷を発生させて、菌の増殖を抑制することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の靴下によっても、菌の増殖を抑制する相応の効果をもたらしているが、菌の増殖を抑制する編み物生地構造体のニーズは留まるものではなく、更なる改良の余地を残しているのが実態である。
【0005】
そこで、本開示は、菌の増殖を抑制することができる編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。具体的には、「電場形成フィラメントを含んで成る糸」が外部からのエネルギー(例えば張力や応力など)を受けて電場を形成することで電位を発生し、例えば、このような電位によって抗菌作用などが奏されることに着目した。
【0007】
本開示の編み物生地構造体は、
圧電材料を含み、外部からの外力により表面電位を発生させる圧電性糸と、
伸縮性を有する弾性糸と、を含んで成り、
前記圧電性糸は、編み物生地構造体の全体基準で5%以上の混率である。
【0008】
また、本開示の靴下は、上述した本開示の編み物生地構造体を用いている。また、本開示のレギンスは、上述した本開示の編み物生地構造体を用いている。また、本開示のアームカバーは、上述した本開示の編み物生地構造体を用いている。また、本開示のシャツは、上述した本開示の編み物生地構造体を用いている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、菌の増殖を抑制することができる編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツを提供することができる。なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本開示の編み物生地構造体の模式図である。
【
図2】
図2(A)は、糸1(S糸)の構成を示す図であり、
図2(B)は、
図2(A)のA-A線における断面図であり、
図2(C)は、
図2(A)のB-B線における断面図である。
【
図3】
図3(A)および
図3(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電場形成フィラメント10の変形との関係を示す図である。
【
図4】
図4(A)は、糸1’(Z糸)の構成を示す図であり、
図4(B)は、
図4(A)のA-A線における断面図であり、
図4(C)は、
図4(A)のB-B線における断面図である。
【
図5】
図5は、電場形成フィラメント10の周りに誘電体100を備える糸の断面を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(A)は、本開示の編み物生地構造体を用いた靴下の模式図であり、
図6(B)は、本開示の編み物生地構造体を用いた靴下の足裏を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本開示の編み物生地構造体を用いたレギンスの模式図である。
【
図8】
図8は、本開示の編み物生地構造体を用いたアームカバーの模式図である。
【
図9】
図9は、本開示の編み物生地構造体を用いたシャツの模式図である。
【
図10】
図10は、本開示の編み物生地構造体の伸縮性の評価方法を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の編み物生地構造体、靴下、アームカバー、レギンスおよびシャツについて説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本開示の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。なお、本明細書で言及する各種の数値範囲は、特に明記しない限り、下限および/または上限の数値そのものも含むことを意図している。つまり、例えば1~10といった数値範囲を例にとれば、下限値の“1”を含むと共に、上限値の“10”をも含むものとして解釈され得る。また、各種数値に“約”または“程度”が付されている場合もあるが、この“約”および“程度”といった用語は、数パーセント、例えば±10パーセント、±5パーセント、±3パーセント、±2パーセント、±1パーセントの変動を含み得ることを意味する。
【0012】
本開示の編み物生地構造体Aは、例えば、
図1に示すように、高分子圧電材料を含み、外部からのエネルギーにより表面電位を発生させる圧電性糸1と、伸縮性を有する弾性糸2と、を含んでいる。ここで、本明細書でいう「編み物」とは、複数のループが互いに連結して成る組織を有する構造、すなわちニット構造を有するシート状の構造物を意味する。例えば、糸のループ(例えば輪状の部分)を作りそのループに次のループをひっかけることを連続して面または組織を形成することで編物を編成することができる。編物は、より具体的には、よこ編み、たて編み、丸編み、筒編み又は靴下編みなどの編み方により形成され得る組織を有していてよい。このような編物にはトリコットやラッセルなども含まれる。また、カットソーやニットソーなどの縫製品も本開示の編物に含まれる。さらにホールガーメントなどの無縫製品も本開示の編物に含まれる(WHOLEGARMENT(登録商標))。つまり、縦糸と横糸とが直角に交わることによって生地を形成する織物と明確に異なる概念である。
【0013】
本開示の編物に含まれ得る組織として、例えば、天竺(平編み、メリヤス編みとも呼ばれる)、ベア天竺、プレーティング天竺、スムース(インターロックとも呼ばれる)、鹿の子(表鹿の子、裏鹿の子)、ニットミス(フロートとも呼ばれる)、ハニカム、サーマル(ワッフルとも呼ばれる)、フライスなどの組織が挙げられるが、これらに限定されるものではない。編物の表裏で組織が異なっていてよい。また、組織に「タック」が含まれていてもよい。つまり、タック編みが併用されてもよい。組織には「ミス」が含まれていてよい。編物は、裏パイルであっても、裏起毛であってもよい。組織に依存して、布の肌触り、通気性、伸縮性などを変更することができる。
【0014】
本開示において、「ニット」、必要に応じて「タック」および/または「ミス」の繰り返し最小単位を含む組織を「完全組織」と称する。
【0015】
このような組織は編機を用いて形成しても、手編みにより形成してもよい。編機を使用する場合、その種類に特に制限はなく、従来公知の編機を特に制限なく使用することができる。
【0016】
-圧電性糸-
まず、圧電性糸1について
図2~4を参照しながら説明する。圧電性糸1は、「電場形成フィラメント10」(又は表面電荷により電場を形成することのできる繊維)を含んで成る。電場形成フィラメント10の数に特に制限はなく、例えば、2本以上、2~500本、好ましくは10~350本、より好ましくは20~200本程度の電場形成フィラメントが本開示の糸に含まれてよい。
【0017】
本開示において、「電場形成フィラメント」とは、基本的には、上述の通り、「外部からのエネルギー(例えば、張力および/または応力等)により電荷を発生して電位(具体的には、表面電位)および/または電場を形成することができる繊維(フィラメント)」を意味する(以下、「電位発生繊維」、「電位発生フィラメント」、「電場形成繊維」、「電荷発生繊維」または「電荷発生フィラメント」と称する場合もある)。電場形成フィラメントとして、例えば、特許第6428979号公報に記載の電荷発生繊維などを使用してよい。なお、「電位発生フィラメント」との用語は「電場形成フィラメント」と実質的に同義に用いることができる。
【0018】
「外部からのエネルギー」として、例えば、外部からの力(以下、「外力」と称する場合もある)、具体的には圧電性糸1もしくは電場形成フィラメント10に変形もしくは歪みを生じさせるような力および/または圧電性糸1もしくは電場形成フィラメント10の軸方向にかかる力、より具体的には、張力(例えば圧電性糸1もしくは電場形成フィラメント10の軸方向の引張力)および/または応力もしくは歪力(圧電性糸1もしくは電場形成フィラメント10にかかる引張応力もしくは引張歪み)および/または圧電性糸1もしくは電場形成フィラメント10の横断方向にかかる力などの外力が挙げられる。
【0019】
圧電性糸1において、外力の適用により発生する表面電位は、例えば0.1V以上、好ましくは1.0V以上であってよい(正負いずれの電位も発生させることができる)。表面電位が0.1V以上であると、本開示の編み物生地構造体Aにおいて、菌の増殖を抑制することができる。ここで、表面電位の測定方法に特に制限はなく、例えば走査型プローブ顕微鏡などを用いて測定することができる。また、表面電位により、直接的な殺菌・殺ウイルス作用を有していてもよく、細菌や真菌などの菌やウイルスが有する電位とは反対の電位を発生させることで菌やウイルスを寄せ付けないことに起因する作用であってもよい。
【0020】
電場形成フィラメント10の寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。このような電場形成フィラメント10を有して成る圧電性糸1は、太さの異なる複数の電場形成フィラメント10を含んでよい。従って、圧電性糸1は、長さ方向において、径が一定であっても、一定でなくてもよい。
【0021】
電場形成フィラメント10は、長繊維であっても、短繊維であってもよい。電場形成フィラメント10は、例えば0.01mm以上の長さ(寸法)を有してよい。長さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0022】
電場形成フィラメント10の太さ(径)に特に制限はなく、電場形成フィラメント10の長さに沿って、同一(一定)であっても、同一でなくてもよい。電場形成フィラメント10は、例えば0.001μm(1nm)~1mmの太さを有してよい。太さは、所望の用途に応じて、適宜、選択すればよい。
【0023】
さらに、圧電性糸1の繊維強度は、1~10cN/dtexであることが好ましい。これにより、圧電性糸1は、高い電位を発生するためにより大きな変形が生じたとしても、破断することなく耐えることができる。繊維強度は、1~7cN/dtexがより好ましく、1~5cN/dtexが最も好ましい。同様の趣旨により、圧電性糸1の伸度は、10~50%であることが好ましい。
【0024】
電場形成フィラメント10の形状、特に断面形状に特に制限はないが、例えば円形、楕円形、矩形、異形の断面を有していてよい。円形の断面形状を有することが好ましい。
【0025】
電場形成フィラメント10は、例えば、圧電効果(外力による分極現象)または圧電性(機械的ひずみを与えたときに電圧を発生する、あるいは逆に電圧を加えると機械的ひずみを発生する性質)を有する材料(以下、「圧電材料」又は「圧電体」と称する場合もある)を含んで成ることが好ましい。なかでも、圧電材料を含んで成る繊維(以下、「圧電繊維」と称する場合もある)を使用することが特に好ましい。圧電繊維は、圧電気により電場を形成することができるため、電源が不要であるし、感電のおそれもない。なお、圧電繊維に含まれる圧電材料の寿命は、例えば、薬剤等による抗菌効果よりも長く持続する。また、このような圧電繊維では、アレルギー反応を引き起こす可能性も低い。
【0026】
「圧電材料」は、圧電効果または圧電性を有する材料であれば特に制限なく使用することができ、圧電セラミックスなどの無機材料であっても、ポリマーなどの有機材料であってもよい。
【0027】
「圧電材料」(又は「圧電繊維」)は、「圧電性ポリマー」を含んで成ることが好ましい。 「圧電性ポリマー」として、「焦電性を有する圧電性ポリマー」や、「焦電性を有していない圧電性ポリマー」などが挙げられる。
【0028】
「焦電性を有する圧電性ポリマー」とは、概して、焦電性を有し、温度変化を与えるだけで、その表面に電荷(又は電位)を発生させることもできるポリマー材料から成る圧電材料を意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などが挙げられる。特に、人体の熱エネルギーによって、その表面に電荷(又は電位)を発生させることができるものが好ましい。
【0029】
「焦電性を有していない圧電性ポリマー」とは、概して、ポリマー材料から成り、上記の「焦電性を有する圧電性ポリマー」を除く圧電性ポリマーを意味する。このような圧電性ポリマーとして、例えば、ポリ乳酸(PLA)などが挙げられる。ポリ乳酸としては、L体モノマーが重合したポリ-L-乳酸(PLLA)や、D体モノマーが重合したポリ-D-乳酸(PDLA)などが知られている。
【0030】
なお、圧電性糸1は、電場形成フィラメント10(又は電荷発生繊維)として、芯糸に導電体を用いて、当該導電体に絶縁体を巻き(カバリング)、該導電体に電圧を加えて電荷を発生させる構成を有するものであってもよい。
【0031】
圧電性糸1は、複数の電場形成フィラメント10を単に引きそろえただけの糸(引きそろえ糸または無撚糸)であってよく、撚りをかけた糸(撚り合わせ糸または撚糸)であってもよく、捲縮をかけた糸(捲縮加工糸または仮撚糸)であってもよく、紡いだ糸(紡績糸)であってもよい。なお、糸の撚り合わせ方法、捲縮方法、紡績方法に特に制限はなく、従来公知の方法を使用することができる。
【0032】
例えば、
図2(A)に示す通り、圧電性糸1は、複数の電場形成フィラメント10を撚り合わせることによって構成することもできる。
図2(A)に示す態様では、圧電性糸1は、電場形成フィラメント10を左旋回して撚られた左旋回糸(以下、「S糸」と称する)であるが、電場形成フィラメント10を右旋回して撚られた右旋回糸(以下、「Z糸」と称する)であってもよい(例えば、
図4(A)の圧電性糸1’を参照のこと)。このように、圧電性糸1は、撚り合わせ糸の場合、「S糸」、「Z糸」のいずれであってもよい。
【0033】
圧電性糸1において、電場形成フィラメント10の間隔は、約0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。尚、電場形成フィラメント10の間隔が0μmである場合、電場形成フィラメント同士が互いに接触していることを意味する。
【0034】
以下、圧電性糸1を詳述するために、電場形成フィラメント10として圧電材料を含んで成り、かかる圧電材料が「ポリ乳酸」である態様を一例として挙げて、
図2~
図4を参照しながら、圧電性糸1の例をより詳しく説明する。
【0035】
圧電材料として使用することができるポリ乳酸(PLA)は、キラル高分子であり、主鎖が螺旋構造を有する。ポリ乳酸は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を発現することができる。さらに熱処理を加えて結晶化度を高めると圧電定数が高くなる。このように結晶化度を高めることで表面電位の値を向上させることができる。
【0036】
ポリ乳酸(PLA)の光学純度(エナンチオマー過剰量(e.e.))は、下記式にて算出することができる。
光学純度(%)={|L体量-D体量|/(L体量+D体量)}×100
例えば、D体およびL体のいずれにおいても、光学純度は、90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上100重量%以下、さらにより好ましくは99.0重量%以上100重量%以下、特に好ましくは99.0重量%以上99.8重量%以下である。ポリ乳酸(PLA)のL体量とD体量は、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いることができる。
【0037】
図2(A)に示す通り、一軸延伸されたポリ乳酸を含んで成る電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10は、厚み方向を第1軸、延伸方向900を第3軸、第1軸および第3軸の両方に直交する方向を第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。
【0038】
したがって、ポリ乳酸は、一軸延伸された方向に対して45度の方向に歪みが生じた場合に最も効率よく電荷(又は電位)を発生することができる。
【0039】
ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は、例えば6.2×104であり、重量平均分子量(Mw)は、例えば1.5×105である。なお、分子量は、これらの値に限定されるものではない。
【0040】
図3(A)および
図3(B)は、ポリ乳酸の一軸延伸方向と、電場方向と、電場形成フィラメント10および/または圧電性糸1を含む繊維の変形との関係を示す図である。
【0041】
図3(A)に示すように、電場形成フィラメント10は、第1対角線910Aの方向に縮み、第1対角線910Aに直交する第2対角線910Bの方向に伸びると、紙面の裏側から表側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、電場形成フィラメント10は、紙面表側では、負の電荷を発生させることができる。電場形成フィラメント10は、
図3(B)に示すように、第1対角線910Aの方向に伸び、第2対角線910Bの方向に縮む場合も電荷(又は電位)を発生することができるが、極性が逆になり、紙面の表面から裏側に向く方向に電場を生じさせることができる。すなわち、電場形成フィラメント10は、紙面表側では、正の電荷を発生させることができる。
【0042】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じ得るため、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5~30pC/N程度であり、ポリマーの中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0043】
電場形成フィラメント10は、断面が円形状の繊維であることが好ましい。電場形成フィラメント10は、例えば、圧電性ポリマーを押し出し成型して繊維化する手法、圧電性ポリマーを溶融紡糸して繊維化する手法(例えば、紡糸工程と延伸工程とを分けて行う紡糸・延伸法、紡糸工程と延伸工程とを連結した直延伸法、仮撚り工程も同時に行うことのできるPOY-DTY法、または高速化を図った超高速紡糸法などを含む)、圧電性ポリマーを乾式あるいは湿式紡糸(例えば、溶媒に原料となるポリマーを溶解してノズルから押し出して繊維化するような相分離法もしくは乾湿紡糸法、溶媒を含んだままゲル状に均一に繊維化するようなゲル紡糸法、または液晶溶液もしくは融体を用いて繊維化する液晶紡糸法などを含む)により繊維化する手法、または圧電性ポリマーを静電紡糸により繊維化する手法等により製造され得る。なお、電場形成フィラメント10の断面形状は、円形に限るものではない。
【0044】
例えば
図2に示す圧電性糸1は、このようなポリ乳酸を含んで成る電場形成フィラメント10を複数本で撚ってなる糸(マルチフィラメント糸)(S糸)であってよい(撚り方に特に制限はない)。各電場形成フィラメント10の延伸方向900は、それぞれの電場形成フィラメント10の軸方向に一致している。したがって、電場形成フィラメント10の延伸方向900は、圧電性糸1の軸方向に対して、左に傾いた状態となる。なお、その角度は、撚り回数に依存する。
【0045】
このようなS糸である圧電性糸1に「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、圧電性糸1の表面には負(-)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には正(+)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0046】
圧電性糸1は、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、圧電性糸1に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、圧電性糸1と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0047】
次に、
図4を参照すると、圧電性糸1’は、Z糸であるため、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の延伸方向900は、圧電性糸1’の軸方向に対して、右に傾いた状態となる。なお、その角度は、糸の撚り回数に依存する。
【0048】
このようなZ糸である圧電性糸1’に「外力」として例えば張力(好ましくは軸方向の張力)または応力(好ましくは軸方向の引張応力)をかけた場合、圧電性糸1’の表面には正(+)の電荷(又は電位)が発生し、その内側には負(-)の電荷(又は電位)を発生させることができる。
【0049】
圧電性糸1’も、この電荷により生じ得る電位差によって電場を形成することができる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成することができる。また、圧電性糸1’に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む)を有する物体に近接した場合に、圧電性糸1’と該物体との間に電場を生じさせることもできる。
【0050】
さらに、S糸である圧電性糸1と、Z糸である圧電性糸1’とを近接させた場合には、圧電性糸1と圧電性糸1’との間に電場を生じさせることもできる。
【0051】
圧電性糸1と圧電性糸1’とで生じる電荷(又は電位)の極性は互いに異なる。各所の電位差は、繊維同士が複雑に絡み合うことにより形成され得る電場結合回路、または水分等で糸の中に偶発的に形成され得る電流パスで形成され得る回路により定義され得る。
【0052】
圧電性糸1、圧電性糸1’については、特許第6428979号公報を読むとより深く理解することができる。また、特許第6428979号公報は、本明細書中に参照することで組み込まれる。
【0053】
圧電性糸1において、電場形成フィラメント10がポリ乳酸(PLA)から構成されることが好ましい。電場形成フィラメント10がポリ乳酸などの圧電材料を含むことで表面電位をより適切に制御することができる。また、ポリ乳酸は疎水性であることから、さらりとした肌触りを提供することができ、これによって、編み物構造体に快適性を付与することもできる。また、ポリ乳酸は、生分解性プラスチックとして知られているため、最終的にCO2と水に分解することができ、環境に対する負荷を低減することができる。
【0054】
「ポリ乳酸」の結晶化度は、例えば20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらにより好ましくは、50%以上、特に好ましくは55%以上であることが好ましい。結晶化度は、例えば、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)、X線回折法(XRD:X-ray diffraction)、広角X線回折測定(WAXD:Wide Angle X-ray Diffraction)などの測定方法により決定することができる。このような範囲内であると、ポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による分極をより効果的に生じさせることができる。なお、本開示において、WAXDを用いて測定された結晶化度の測定値と、DSCを用いて測定された結晶化度の測定値は、約1.5倍異なる知見(DSC測定値/WAXD測定値≒1.5)が得られている。
【0055】
圧電性糸1において、可塑剤や滑剤等の添加剤は入っていない。一般的に、圧電性糸1において添加剤が含有されていると、表面電位が発生し難い傾向にあることが分かっている。そこで、適切に表面電位を発生させるため、圧電性糸1には添加剤を含有させないことが好ましい。本開示でいう「可塑剤」とは、圧電性糸1に柔軟性を与えるための材料であり、「滑剤」とは、圧電糸1の分子の滑りを向上させる材料である。具体的には、ポリエチレングリコール、ヒマシ油系脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ステアリン酸アマイド、グリセリン脂肪酸エステル等を意図している。これらの材料が本開示の圧電性糸1に含有されていない。
【0056】
圧電性糸1は、上記の態様、特にポリ乳酸から構成され得る糸に限定して解釈されるべきではない。また、圧電性糸1の製造方法についても特に制限はなく、上記の製造方法に限定されるものではない。
【0057】
・圧電性糸の他の態様
さらに、圧電性糸1は、電場形成フィラメント10の周りに「誘電体」が設けられてよい。例えば、
図5の断面図で模式的に示すとおり、電場形成フィラメント(又は圧電繊維)10の周りには誘電体100を設けることができる。
【0058】
本開示において「誘電体」とは、「誘電性」(電場により電気的に正負に分極(又は誘電分極又は電気分極)する性質)を有する材料または物質を含んで成るものを意味し、その表面には電荷を溜めることができる。
【0059】
誘電体100は、電場形成フィラメント10の長手軸方向および周方向に存在してよく、電場形成フィラメントを完全に被覆していても、部分的に被覆していてもよい。なお、誘電体100が電場形成フィラメント10を部分的に被覆する場合、被覆されていない部分は、電場形成フィラメント10自体がそのまま露出していてよい。
【0060】
従って、誘電体100は、電場形成フィラメント10の長手軸方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてよい。また、誘電体100は、電場形成フィラメント10の周方向において、全体的に設けられていても、部分的に設けられていてもよい。
【0061】
また、誘電体100は、その厚みが均一であっても、不均一であってもよい(例えば、
図5を参照)。
【0062】
誘電体100は、複数の電場形成フィラメント10の間に存在していてもよく、この場合、複数の電場形成フィラメント10の間に誘電体100が存在しない部分があってもよい。また、誘電体100の中に気泡や空洞が存在していてもよい。
【0063】
誘電体100は、誘電性を有する材料または物質を含む限り特に制限はない。誘電体100として、主に繊維産業において表面処理剤(又は繊維処理剤)として使用できることが知られている誘電性の材料(例えば、油剤、帯電防止剤など)を用いてもよい。
【0064】
圧電性糸1において、誘電体100は、油剤を含んで成ることが好ましい。油剤として、電場形成フィラメント10の製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(製糸油剤)などを使用することができる(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)。また、製布(たとえば製編、製織など)の工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)や、仕上工程で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる油剤(例えば、アニオン性、カチオン性またはノニオン性の界面活性剤など)も使用することができる。ここでは代表例として、フィラメント製造工程、製布工程、仕上げ工程などを挙げたが、これらの工程に限定されるものではない。油剤として、特に電場形成フィラメント10の摩擦を低減するために用いられる油剤などを使用することが好ましい。
【0065】
油剤として、例えば、竹本油脂株式会社製デリオン・シリーズ、松本油脂製薬株式会社製マーポゾール・シリーズ、マーポサイズ・シリーズ、丸菱油化工業株式会社製パラテックス・シリーズなどが挙げられる。
【0066】
油剤は、電場形成フィラメント10に沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電場形成フィラメント10を圧電性糸1に加工した後、洗濯によって油剤の少なくとも一部または全部が電場形成フィラメント10から脱落していてもよい。
【0067】
また、電場形成フィラメント10の摩擦を低減するために用いられる誘電体100は、洗濯時に使用される洗剤や柔軟剤などの界面活性剤であってもよい。
【0068】
洗剤として、例えば、花王株式会社製アタック(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製トップ(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製アリエール(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0069】
柔軟剤として、例えば、花王株式会社製ハミング(登録商標)・シリーズ、ライオン株式会社製ソフラン(登録商標)・シリーズ、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社製レノア(登録商標)・シリーズなどが挙げられる。
【0070】
誘電体100は、導電性(電気を通す性質)を有していてよく、その場合、誘電体100は、帯電防止剤を含んで成ることが好ましい。帯電防止剤として、電場形成フィラメント10の製造で使用され得る表面処理剤(又は繊維処理剤)として用いられる帯電防止剤などを使用することができる。帯電防止剤として、特に電場形成フィラメント10のほぐれを低減するために用いられる帯電防止剤を使用することが好ましい。
【0071】
帯電防止剤として、例えば、株式会社日新化学研究所製カプロン・シリーズ、日華化学株式会社製ナイスポール・シリーズ、デートロン・シリーズなどが挙げられる。
【0072】
帯電防止剤は、電場形成フィラメント10に沿って、全体的に存在していても、少なくとも一部に存在していてもよい。また、電場形成フィラメント10を圧電性糸1に加工した後、洗濯によって帯電防止剤の少なくとも一部または全部が電場形成フィラメント10から脱落していてもよい。
【0073】
また、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などは、電場形成フィラメント10の周りに存在していなくてもよい。すなわち、電場形成フィラメント10または圧電性糸1は、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない場合もある。その場合、電場形成フィラメント10の間に存在する空気(又は空気層)が誘電体として機能し得る。従って、この場合、誘電体は空気を含んで成る。
【0074】
例えば、電場形成フィラメント10の周りに上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが付着した糸を洗濯や溶剤浸漬によって処理することで上述の表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などを含まない圧電性糸1を使用してもよい。その場合、無垢の電場形成フィラメント10が露出することになる。あるいは、本開示において、無垢の電場形成フィラメント10のみを含んで成る圧電性糸1を使用してもよい。
【0075】
また、本開示では、例えば洗濯や溶剤浸漬などの処理によって、上述の油剤や帯電防止剤などの表面処理剤(又は繊維処理剤)や、洗剤、柔軟剤などが部分的に除去されて無垢の電場形成フィラメント10が部分的に露出した糸を使用してもよい。
【0076】
誘電体100の厚み(又は電場形成フィラメント10の間隔)は、約0μm~約10μm、好ましくは約0.5μm~約10μm、より好ましくは約2.0μm~約10μm、一般的には5μm程度である。
【0077】
-弾性糸-
次に、弾性糸2について説明する。弾性糸は、伸縮性を有する糸を意図しており、本明細書でいう「伸縮性」とは、伸長回復率が40%以上であることを指している。なお、伸長回復率とは、伸長回復率とは、「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」にしたがって測定される値であり、もとの長さまで回復した場合が100%、伸長させた長さのままの場合が0%となる。また、「伸縮性」は、は、例えば「JIS L 1096織物及び編物の生地試験方法」などの試験方法に基づいて決定してもよい。ここで、上述した圧電性糸1のみからなる編み物生地構造体とすると、伸縮性が乏しく着衣時の着心地が悪くなる。そのため、編み物生地構造体には、圧電性糸1に加えて弾性糸2が含まれている(
図1参照)。
【0078】
好ましい弾性糸2としては、芯糸にポリウレタンを使用した糸、ウーリー加工したナイロン糸、およびポリトリメチレンテレフタレートから成る群から選択されるいずれかの糸が挙げられる。
【0079】
なお、弾性糸2の寸法(長さ、太さ(径)など)や、形状(断面形状など)に特に制限はない。また、弾性糸2は、長繊維であっても、短繊維であってもよい。
【0080】
このように、弾性糸2が本開示の編み物生地構造体に含まれていると、編み物生地構造体の伸縮性を担保し、着衣時の着心地を向上させている。また、生地自体が伸縮性を有するため、弾性糸2の伸縮に追随して圧電性糸1も伸縮する。これにより、圧電性糸1にエネルギー(外力)が加わるため、編み物生地構造体に表面電位を生じさせることができる。
【0081】
-その他付加的構成-
本開示の編み物生地構造体には、上述の圧電性糸1および弾性糸2に加えて、天然繊維および/または化学繊維からなる糸が含まれていてもよい。天然繊維の具体例として、綿、絹、麻、および/またはウール等が挙げられ、これら天然繊維を含むことにより、肌触りおよび/または着心地がよく、吸湿性や通気性が良好となる。また、化学繊維の具体例として、ナイロン、アクリルおよび/またはレーヨン等が挙げられ、これら化学繊維を含むことにより、編み物生地構造体の耐久性を向上させることができる。
【0082】
-編み物生地構造体の混率-
上述した圧電性糸1および弾性糸2を備えた本開示の編み物構造体において、圧電性糸1は、編み物生地構造体全体基準で5%以上の混率である。このような数値範囲であれば、適切に菌やウイルスを抑制することができる。なお、数値範囲の根拠は、後述する実施例にて詳細に説明する。
【0083】
また、本開示の編み物生地構造体Aの態様として、圧電性糸1は、編み物生地構造体全体基準で65%以下とすることが好ましい。言い換えると、圧電性糸1以外の糸(例えば、弾性糸2および綿等の糸)が、編み物生地構造体Aの全体基準で35%以上とすることが好ましい。圧電性糸1以外の糸が少なくとも35%程度含まれていれば、圧電性糸のみからなる編み物生地構造体と比較して、編み物生地構造体Aの伸縮性が担保され、編み物生地構造体Aの着衣時の着心地を向上させることができる。
【0084】
-編み物生地構造体の具体的な形態-
次に、本開示の編み物生地構造体の具体的な形態について説明する。本開示の編み物生地構造体は、靴下(
図6参照)、レギンス(
図7参照)、アームカバー(
図8参照)およびシャツ(
図9)から成る群から選択される形態に用いられてよい。
【0085】
好ましい編み物生地構造体の態様として、圧電性糸1は、着衣して伸縮する位置に配置されるとよい。このように圧電性糸1を配置することで圧電性糸1が伸縮し易くなり、表面電位を発生させ易くすることができる。したがって、表面電位の発生により菌やウイルスを抑制することができる。以下、具体的な編み物生地構造体について説明する。
【0086】
1.靴下
編み物生地構造体が靴下の場合(
図6参照)は、歩行時の動きにより足指の付け根が屈曲することで圧電性糸1を伸縮させることができる。そのため、本明細書でいう「靴下」とは、足または足及び下肢(下腿、上腿)を覆う袋状の布を意図している。靴下には、例えば、ソックス、ストッキング(ガーターストッキング、ノンガーターストッキングなど)、パンティストッキング等が含まれている。また靴下には、浅履きフットカバーや深履きフットカバーなどのフットカバー(パンプスソックス)、アンクレット、クルーソックス、ハイソックス、オーバーニーなどの様々な丈長さのものも含まれている。また、つま先部分が五本の指用に分岐した五本指靴下や、二股に分かれた足袋型靴下も含まれる。
【0087】
好ましい靴下の態様として、歩行時の動きによって圧電性糸1を伸縮させて表面電位を発生させるため、母指球bよりつま先側の領域R(
図6(B)参照)に圧電性糸1を配置することが好ましい。当該圧電性糸1の配置によれば、表面電位の発生により適切に菌やウイルスを抑制することができる。
【0088】
2.レギンス
編み物生地構造体がレギンスの場合(
図7参照)は、歩行時の動きにより、股関節および/または膝関節が屈曲することで圧電性糸1を伸縮させることができる。そのため、本明細書でいう「レギンス」とは、股関節および/または膝関節を覆う着用物を意図している。なお、本明細書でいう「レギンス」は少なくとも股関節または膝関節の可動により伸縮する着用物を意図しているため、スパッツまたはパンツのような丈が膝関節よりも上に位置する着用物や、膝関節の可動によって伸縮するレッグウォーマー等も含んでいる。
【0089】
好ましいレギンスの態様として、歩行時の動きによって圧電性糸1を伸縮させて表面電位を発生させるため、股関節および/または膝関節の領域に圧電性糸1を配置することが好ましい。当該圧電性糸1の配置によれば、表面電位の発生により適切に菌やウイルスを抑制することができる。
【0090】
3.アームカバー
編み物生地構造体がアームカバーの場合(
図8参照)は、腕の動き(肘関節、肩関節および/または手首の可動)により圧電性糸1を伸縮させることができる。そのため、本明細書でいう「アームカバー」とは、肘関節、肩関節および/または手首を覆う着用物を意図している。なお、本明細書でいう「アームカバー」は少なくとも肘関節、肩関節および/または手首の可動により伸縮する着用物を意図しているため、例えば、手袋等も含んでいる。
【0091】
好ましいアームカバーの態様として、歩行時の動きによって圧電性糸1を伸縮させて表面電位を発生させるため、股関節および/または膝関節の領域に圧電性糸1を配置することが好ましい。当該圧電性糸1の配置によれば、表面電位の発生により適切に菌やウイルスを抑制することができる。
【0092】
4.シャツ
編み物生地構造体がシャツの場合(
図9参照)は、上半身の動きにより圧電性糸1を伸縮させることができる。そのため、本明細書でいう「シャツ」は、上半身に着用可能な着用物を意図している。例えば、シャツの脇部は汗をかきやすく菌が繁殖しやすいため、当該箇所に圧電性糸1を設けることが好ましい。当該圧電性糸1の配置によれば、表面電位の発生により適切に菌やウイルスを抑制することができる。なお、圧電性糸1の配置は、脇部に限定されるものではなく、上半身の可動によってシャツが伸縮する箇所、例えば、背中部分、腰部分、膝部分、手首部分、首回り、胸部分および/または腹部分に設けてもよい。
【実施例0093】
本開示の編み物生地構造体に関して、菌抑制効果に関する実証試験を行った。
【0094】
-靴下に対する実施例-
編み物生地構造体として、以下の[表1]に示す実施例1~5および比較例に記載の靴下を製造した。
【0095】
【表1】
表中の「FTY(Filament Twisted Yarn)」とは、伸縮性のあるポリウレタン弾性糸を軸に、ナイロンなどの長繊維フィラメント糸を巻きつけた加工糸を意図している。
【0096】
なお、実証試験を行うにあたって、まず、比較例および実施例1~5の靴下に対する伸縮性を評価した。伸縮性は、足裏の長手方向に対する「靴下着用時の伸縮割合」と「靴下を着用して歩行時の伸縮割合」の合計としたところ、「靴下着用時の伸縮割合」は約15%、「靴下を着用して歩行時の伸縮割合」は、約35%であった。つまり、足裏の長手方向に対する靴下の合計の伸縮割合は約50%(15%+30%+誤差)であることが分かった。
【0097】
なお、伸縮性の評価は、マネキン(足長24~27cm、足幅9.1~9.7cm、インステップ囲23~25cm、足囲23~25cm)に靴下を着用した様子の画像データを非接触光学式三次元歪み計測システム(GOM社の3Dシステムソリューション「ARAMIS」)を用いて画像解析した結果から、約15%と算出した。さらに、「靴下を着用して歩行時の伸縮割合」の測定は、
図10に示すように、歩行時は、足の指の付け根を屈曲して足と床との間の角度が55°程度となることが予め分かっているため、マネキンに靴下を着用して歩行させた様子の画像データを同様に画像解析した結果から伸縮割合を約30%と算出した。
【0098】
また、上記伸縮性の評価より、靴下の合計伸縮割合が約50%である結果が得られたため、当該伸縮割合のときの靴下の表面電位を測定した。評価結果を[表2]に示す。なお、表面電位の評価は、特願2021-065673号に記載の電位測定装置を用いた手法を採用した。
【0099】
【表2】
(伸縮割合が約50%である靴下に対する表面電位)
【0100】
以上、表2の結果によれば、実施例1~5の靴下は、表面電位として0.1V以上発生している結果が得られた。一方で、比較例の靴下は圧電性糸1が含まれていないため表面電位が発生していない結果が得られた。
【0101】
次に、比較例および実施例1~5の靴下について、抗菌試験を行った。抗菌試験の内容は、以下のとおりである。
(1)初期状態の比較例および実施例1~5の靴下について、生菌数を測定する。
(2)比較例および実施例1~5の靴下を18時間静置後の生菌数を測定する。
(3)18時間静置した比較例および実施例1~5の靴下に対し、18時間連続して靴下を伸縮させて表面電位を発生させた後の生菌数を測定する。
なお、生菌数の評価は、特許6922546号公報および特許6292368号公報に記載されているように、JIS L1902の手法に基づいて行った。生菌数の測定結果を[表3]に示す。なお、表中の数値は、Colony Forming Unit(コロニー フォーミング ユニット)の対数値(1gあたりのコロニーの対数値)を示すものである。
【0102】
【0103】
表3の結果によれば、実施例1~5の靴下は、18h伸縮後生菌数(T3)と18h静置後生菌数(T3)の差が-2以上あり、菌が効果的に減少している一方で、比較例の靴下は、菌が増加している結果が得られた。これにより、圧電性糸1を伸縮させて表面電位を発生させることによって菌の増殖を抑制することができた。
【0104】
-レギンスに対する実施例-
編み物生地構造体として、以下の[表4]に示す実施例6および7に記載のレギンスを製造し、上述の抗菌試験を行った。なお、レギンスの場合の伸縮割合は、靴下の伸縮割合(約50%)と異なり、39%とした。これは、靴下の場合の足指の可動と、レギンスの場合の膝関節または股関節の可動とが異なることに起因する。
【0105】
【表4】
表中の「DCY(Double Covered Yarn)」とは、ポリウレタン弾性糸を軸に、他の紡績糸やフィラメント糸を互いに異なる方向に二重に巻きつけた加工糸を意図している。また、表中の「表糸」とは、織物表側面に露出する糸を意図し、「裏糸」とは、織物裏側面に露出する糸を意図し、「挿入糸」とは、表糸と裏糸との間に配置され、表糸のループと裏糸のループに挿入される糸を意図している。
【0106】
表4の結果によれば、実施例6および7のレギンスは、T3-T2の結果によれば、菌が効果的に減少している結果が得られた。
【0107】
-アームカバーに対する実施例-
編み物生地構造体として、以下の[表5]に示す実施例8に記載のアームカバーを製造し、上述の抗菌試験を行った。なお、アームカバーの場合の伸縮割合は、靴下の伸縮割合(約50%)と異なり、45%とした。これは、靴下の場合の足指の可動と、アームカバーの場合の肘関節の可動とが異なることに起因する。
【0108】
【0109】
表5の結果によれば、実施例8のアームカバーは、T3-T2の結果によれば、菌が効果的に減少している結果が得られた。
【0110】
-シャツに対する実施例-
編み物生地構造体として、以下の[表6]に示す実施例9~11に記載のシャツを製造し、上述の抗菌試験を行った。なお、シャツの場合の伸縮割合は、靴下の伸縮割合(約50%)と異なり、17%とした。これは、靴下の場合の足指の可動と、シャツの場合の肩関節の可動とが異なることに起因する。
【0111】
【表6】
表中の「PTT(Polytrimethylene terephthalate)」とは、伸縮性のあるポリエステルの一種であるポリトリメチレンテレフタレートからなる糸を意図している。
【0112】
表6の結果によれば、実施例9~11のシャツは、T3-T2の結果によれば、菌が効果的に減少している結果が得られた。
【0113】
なお、今回開示した実施態様は、すべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施態様のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、本発明の技術的範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。