(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114325
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】生産計画支援装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016632
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】疋田 雅也
【テーマコード(参考)】
3C100
【Fターム(参考)】
3C100AA16
3C100AA18
3C100BB12
3C100BB13
3C100BB14
3C100BB15
3C100BB19
3C100BB22
3C100BB27
(57)【要約】
【課題】複数の工作物を加工機で加工して生産する場合の複数の工作物の生産計画の立案を適切に支援し得る生産計画支援装置を提供する。
【解決手段】生産計画支援装置3は、複数の工作物を加工機で加工して生産するに際し、複数の工作物の生産計画の立案を支援する。生産計画支援装置3は、複数の工作物の加工機への投入順序を示す複数の投入順序パターンを生成する投入順序パターン生成手段32と、複数の投入順序パターンのそれぞれについて、加工に要する加工時間、段取り替え作業に要する段取り替え時間、ならびに加工又は段取り替え作業の待ち時間を含む複数の指標値に基づく評価を行う評価手段33と、評価手段33が行った評価の結果を提示する提示手段としてのディスプレイ4とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工作物を加工機で加工して生産するに際し、前記複数の工作物の生産計画の立案を支援する生産計画支援装置であって、
前記複数の工作物の前記加工機への投入順序を示す複数の投入順序パターンを生成する投入順序パターン生成手段と、
前記複数の投入順序パターンのそれぞれについて、加工に要する加工時間、段取り替え作業に要する段取り替え時間、ならびに加工又は段取り替え作業の待ち時間を含む複数の指標値に基づく評価を行う評価手段と、
前記評価手段が行った評価の結果を提示する提示手段と、
を備えた生産計画支援装置。
【請求項2】
前記複数の指標値として、完成品の客先までの輸送時間を含み、
前記評価手段は、前記客先への到着日を評価項目に含む、
請求項1に記載の生産計画支援装置。
【請求項3】
前記評価手段は、前記複数の工作物の加工順序の違いによる前記段取り替え時間の変動を考慮して前記評価を行う、
請求項1又は2に記載の生産計画支援装置。
【請求項4】
前記評価手段は、前記加工に用いることができる工具が複数ある場合、当該複数の工具を用いた場合のそれぞれについて前記加工時間及び前記段取り替え時間を計算し、前記評価を行う、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の生産計画支援装置。
【請求項5】
前記投入順序パターン生成手段は、複数の前記加工機によって前記複数の工作物の加工を行う場合、複数の前記加工機のそれぞれへの前記複数の工作物の投入順序を示す複数の投入順序パターンを生成し、
前記評価手段は、前記投入順序パターン生成手段が生成した前記複数の投入順序パターンのそれぞれについて前記評価を行う、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の生産計画支援装置。
【請求項6】
前記複数の投入順序パターンのうち客先への納期に遅延が生じない複数の投入順序パターンが存在する場合に当該複数の投入順序パターンに優先順位を付与する優先順位付与手段を備え、
前記提示手段は、前記評価の結果と共に前記優先順位付与手段によって付与された優先順位を提示する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の生産計画支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の工作物の生産計画の立案を支援する生産計画支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造物の生産計画の立案に関する様々な装置、システム、及び方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に記載された工程設計方法は、受注した製品に関する設計・製作における特性情報に基づき、設計・製作の実例情報を格納したデータベースを利用して複数の工程設計案を作成し、工程設計案ごとに求めた品質、加工コスト、納期それぞれの評価値に基づいて1つの工程設計案を決定する。
【0004】
特許文献2に記載された生産計画作成システムは、生産設備や作業者に係る情報を基に製品の製造順序の計画を作成し、製造計画の製造順序を複数回変更して製造時間が最短の製造計画を出力し、出力された製造計画と記録部の情報を基に、製品の原材料の入荷から製品の出荷までの全工程の生産計画を作成する。
【0005】
特許文献3に記載された投入計画作成支援装置は、共通するサブ工程を多く含む品種同士を組み合わせて品種グループセットを作成し、各品種の生産数と、各サブ工程の処理時間と、段取り替え時間とに基づいて、それぞれの品種グループセットを生産するのに必要な品種グループセット生産時間を算出し、品種グループの生産投入順序を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-073145号公報
【特許文献2】特開2006-309577号公報
【特許文献3】特開2020-077081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の工作物を研削機やマシニングセンタ等の加工機で加工して生産する場合には、加工機への加工投入順序によって、砥石や刃具などの工具の付け替えや加工機の部品の交換等に要する段取り時間、及び加工待ち時間が大きく変わる。従来提案されている生産計画の立案を支援する装置等には、このような複数の工作物の生産計画の立案に適したものがなく、例えば納期が近い順に生産を行ったり、あるいは熟練者が経験に基づいて加工機への投入順序を決定していた。
【0008】
そこで、本発明は、複数の工作物を加工機で加工して生産する場合の複数の工作物の生産計画の立案を適切に支援し得る生産計画支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、複数の工作物を加工機で加工して生産するに際し、前記複数の工作物の生産計画の立案を支援する生産計画支援装置であって、前記複数の工作物の前記加工機への投入順序を示す複数の投入順序パターンを生成する投入順序パターン生成手段と、前記複数の投入順序パターンのそれぞれについて、加工に要する加工時間、段取り替え作業に要する段取り替え時間、ならびに加工又は段取り替え作業の待ち時間を含む複数の指標値に基づく評価を行う評価手段と、前記評価手段が行った評価の結果を提示する提示手段と、を備えた生産計画支援装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る生産計画支援装置によれば、複数の工作物の生産計画の立案を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る生産計画支援装置が設置された工場を模式的に示す概略図である。
【
図2】複数の工作物を加工して出荷するまでの流れを示すフローチャートである。
【
図4】生産計画支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】現時点で研削盤に何れの治工具が取り付けられているか、また第1乃至第3の工作物を加工するにあたり何れの治工具が必要になるかを示す治工具表である。
【
図6】第1乃至第6の投入順序パターンのそれぞれの各加工ステップについて、センタ交換時間、仮受台交換時間、砥石交換時間、ならびにこれらの合計値である段取り替え時間を示す一覧表である。
【
図7】第1乃至第3の工作物について、納期残日数、段取り替え作業又は加工を開始できるまでの最小待ち時間、加工時間、及び客先までの輸送時間を示す表である。
【
図8】
図6及び
図7に示す内容に加え、第1乃至第6の投入順序パターンのそれぞれについて、現時点から納品完了までの総合計時間、納期遅れ時間、及び納期までに納品が完了するか否かの判定結果を示す一覧表である。
【
図9】(a)は、第2の工作物を第2の砥石によって加工する場合を示す模式図である。(b)は、第2の工作物を第3の砥石によって加工する場合を示す模式図である。
【
図10】(a),(b),(c)は、二つの加工機によって加工される第1乃至第3の工作物の加工形状を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
本発明の実施の形態及び応用例について、
図1乃至
図10を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び応用例は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
<生産計画支援装置を用いた生産方法の概要>
図1は、本発明の実施の形態に係る生産計画支援装置が設置された工場を模式的に示す概略図である。工場1には、加工機の一例としての研削盤2が設置されており、この研削盤2によって加工対象物である工作物11,12,13を研削加工して完成品である製品14,15,16とし、それぞれの製品14,15,16を梱包して客先17,18,19に向けて出荷する。製品14,15,16は、例えば建設機械や貨物の移載機などの産業機械に用いられる機械加工品である。
【0014】
生産計画支援装置3は、例えば工場1内で作業者10が使用するものであり、工作物11,12,13をどのような順序で加工すべきかについての生産計画を立案し、作業者10に提示する。作業者10は、提示された生産計画に沿って工作物11,12,13を研削盤2に投入する。なお、工作物11,12,13が製品14,15,16に至るまでには、研削加工以外にも熱処理や切削加工等が行われるが、ここでは、これらの工程を省略し、単純化して説明する。
【0015】
図2は、複数の工作物を加工して出荷するまでの流れの概要を示すフローチャートである。このフローチャートでは、まず、加工すべき複数の工作物の加工形状や要求仕様(寸法精度や面粗度)及び納期等の工作物情報を入手し(ステップS1)、これらの情報を基にして工場1内の何れの加工機で加工を行うかを選定する(ステップS2)。次に、選定された加工機で複数の工作物のそれぞれの加工に用いる治工具を選定する(ステップS3)。ここで、治工具とは、研削盤2に関しては、後述する砥石や主軸台、心押台、仮置台等である。次に、ステップS1で入手した工作物情報、及びステップS2,S3における選定の結果を生産計画支援装置3に入力し、生産計画支援装置3を使用して複数の工作物の加工順序を決定する(ステップS4)。そして、決定した加工順序に沿って複数の工作物の加工を行い(ステップS5)、それぞれの客先に出荷する(ステップS6)。
【0016】
なお、ステップS1~S4の処理は、受注前の見積もり段階でも行うことができる。この場合には、ステップS1~S4の処理結果に基づいて、納期を短時間で客先に提示することができる。
【0017】
<研削盤2の構成>
図3は、研削盤2の構成例を示す概略構成図である。
図3では、例として工作物11を加工する際の状態を示している。研削盤2は、基台であるベッド20と、ベッド20に取り付けられた主軸台21、心押台22、振れ止め装置23、及び仮受台241と、ベッド20に対してZ方向(工作物11の軸方向に平行な方向)に進退移動可能なZ軸テーブル25と、Z軸テーブル25に対してX方向(工作物11の軸方向に対して垂直な方向)に進退移動可能なX軸テーブル26と、X軸テーブル26に取り付けられた砥石用モータ27と、砥石用モータ27によって回転駆動される砥石281とを備えている。
【0018】
Z軸テーブル25は、Z軸モータ251によって回転駆動されるボールねじ252により、Z軸ガイドレール253,254に案内されてZ方向に移動する。X軸テーブル26は、X軸モータ261によって回転駆動されるボールねじ262により、X軸ガイドレール263,264に案内されてX軸方向に移動する。振れ止め装置23は、工作物11の外周面に接触するレスト231を有しており、レスト231によって工作物11の研削時における振れを抑制する。
【0019】
主軸台21は、工作物11を回転させるための主軸台モータ210と、工作物11の軸方向一端部に形成されたセンタ穴11aに嵌合する主軸台センタ211とを有している。心押台22は、工作物11の軸方向他端部に形成されたセンタ穴11bに嵌合する心押台センタ221を有している。主軸台センタ211及び心押台センタ221は、先端部が円錐状に形成されており、主軸台センタ211及び心押台センタ221が工作物11のセンタ穴11a,11bに嵌合することで、工作物11が仮受台241から浮き上がって芯出しされると共に、回転軸線Oを中心として回転可能に支持される。
【0020】
工場1内には、交換用の主軸台センタ212、心押台センタ222、及び仮受台242が用意してあり、加工対象の工作物の長さや大きさ等に応じて適したものが選択され、ベッド20に固定して使用される。また、砥石281についても、砥石幅等が異なる複数の砥石282,283が用意してあり、工作物の加工に適したものが使用される。砥石281,282,283は、加工に用いる工具の一態様である。
【0021】
以下、主軸台センタ211,212のそれぞれを第1の主軸台センタ211及び第2の主軸台センタ212とし、心押台センタ221,222のそれぞれを第1の心押台センタ221及び第2の心押台センタ222とする。また、仮受台241,242のそれぞれを第1の仮受台241及び第2の仮受台242とし、砥石281,282,283のそれぞれを第1乃至第3の砥石281,282,283とする。
【0022】
<生産計画支援装置3の構成及び機能>
図4は、生産計画支援装置3の機能構成を示すブロック図である。生産計画支援装置3は、例えばコンピュータ30と、コンピュータ30に接続された提示手段としてのディスプレイ4とによって構成される。
【0023】
コンピュータ30は、マイクロプロセッサが記憶装置300に記憶されたプログラム301を実行することにより、工作物情報取得手段31、投入順序パターン生成手段32、評価手段33、及び優先順位付与手段34として機能する。記憶装置300は、記憶内容を追加・変更・削除可能なものであり、例えばHDD(ハード・ディスク・ドライブ)又はSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)である。ディスプレイ4は、評価手段33が行った評価の結果、及び優先順位付与手段34によって付与された優先順位を、ユーザである作業者10に対して視覚によって認識可能に提示する。
【0024】
記憶装置300には、第1及び第2の主軸台センタ211,212、第1及び第2の心押台センタ221,222、第1及び第2の仮受台241,242、ならびに第1乃至第3の砥石281,282,283の諸元を示す治工具情報302が予め記憶されている。また、記憶装置300には、製品14,15,16の完成後、客先17,18,19への到着までに要する輸送時間(梱包に要する時間を含む)の情報、及びそれぞれの客先17,18,19の優先度を示す情報を含む客先情報303が記憶されている。優先度は、客先17,18,19の重要性等に基づいて、例えば作業者10によって予め設定されている。
【0025】
工作物情報取得手段31は、工作物11,12,13に関する情報を取得し、記憶装置300に工作物情報304として記憶する。工作物情報304には、研削盤2によって研削すべき工作物11,12,13の被加工部の位置や形状、直径、要求精度の情報、及び納期の情報が含まれる。工作物情報取得手段31は、例えば工作物11,12,13の三次元又は二次元のCADデータを読み込むことにより、これらの情報を取得することができる。また、コンピュータ30に接続されたキーボードやマウス等のポインティングデバイスの操作によって、工作物情報取得手段31がこれらの情報を取得してもよい。
【0026】
投入順序パターン生成手段32は、複数の工作物11,12,13の研削盤2への投入順序を示す複数の投入順序パターンを生成し、生成した投入順序パターンを記憶装置300に投入順序パターン情報305として記憶する。例えば三つの工作物11,12,13に対しては、投入順序パターン生成手段32が3×2の6通りの投入順序パターン(第1乃至第6の投入順序パターン)を生成する。工作物の数がn(nは2以上の自然数)であれば、投入順序パターン生成手段32がnの階乗(n!)通りの投入順序パターンを生成する。
【0027】
評価手段33は、投入順序パターン生成手段32が生成した複数の投入順序パターンのそれぞれについて、工作物11,12,13の加工に要する加工時間、段取り替え作業に要する段取り替え時間、加工又は段取り替え作業の待ち時間、及び完成品である製品14,15,16の客先17,18,19までの輸送時間を含む複数の指標値に基づく評価を行い、評価の結果を評価結果情報306として記憶装置300に記憶する。評価手段33が行う評価処理の詳細については後述する。
【0028】
優先順位付与手段34は、投入順序パターン生成手段32が生成した複数の投入順序パターンのうち客先17,18,19への納期に遅延が生じない複数の投入順序パターンが存在する場合に、当該複数の投入順序パターンに優先順位を付与する。この優先順位は、例えば客先情報303に含まれる客先17,18,19の優先度の情報に基づいて付与される。優先順位付与手段34が付与した優先順位は、評価手段33が行った評価の結果と共に、ディスプレイ4によって作業者10に提示される。
【0029】
また、優先順位付与手段34が最も高い優先順位を付与した投入順序パターンを作業者10が選択しなかった場合、優先順位付与手段34は、その選択結果を受け付け、客先情報303に含まれる客先17,18,19の優先度の情報を修正する学習処理を行い、次回以降の優先順位の付与処理に反映させる。なお、優先順位付与手段34は、段取り替え時間の長さに基づいて、段取り替え時間が短いものに高い優先順位を付与するようにしてもよい。
【0030】
<評価手段33の処理>
次に、評価手段33が行う評価処理の具体例について説明する。評価手段33が投入順序パターンを評価する際に参照する指標値の一つである段取り替え時間は、第1及び第2の主軸台センタ211,212、第1及び第2の心押台センタ221,222、第1及び第2の仮受台241,242、ならびに第1乃至第3の砥石281,282,283のうち、研削盤2に取り付けられているものと次の研削加工に用いるものが異なっている場合に、その交換を行うための時間である。例えば
図2に示すように、第1の主軸台センタ211、第1の心押台センタ221、第1の仮受台241、及び第1の砥石281が研削盤2に取り付けられており、次の工作物の加工にもこれらをそのまま用いる場合には段取り替え時間が0であるが、例えば次の工作物の加工に第2の砥石282を用いる場合には、第1の砥石281を第2の砥石282に交換する段取り替え作業が発生する。
【0031】
評価手段33は、複数の工作物11,12,13の加工順序の違いによる段取り替え時間の変動を考慮して投入順序パターンの評価を行う。段取り替え作業が発生しない、もしくは段取り替え作業が短くて済む加工順序で工作物11,12,13を加工すれば、より短い時間で工作物11,12,13の全ての加工を完了させることができ、作業者10の作業負担も軽減できる。次に、
図5乃至8を参照し、段取り替え時間の計算の具体例について説明する。また、以下の説明では、工作物11,12,13のそれぞれを第1乃至第3の工作物11,12,13とする。
【0032】
図5は、現時点(評価手段33が評価処理を行う時点)で研削盤2に何れの治工具が取り付けられているか、また、第1乃至第3の工作物11,12,13のそれぞれを加工するにあたり何れの治工具が必要になるかを示す治工具表である。
図5及び後述する
図6乃至8において、[0]は現時点の状態を示し、[1]は第1の工作物11、[2]は第2の工作物12、[3]は第3の工作物13をそれぞれ示す。
【0033】
図5に示す例では、現時点で研削盤2に第2の主軸台センタ212、第2の心押台センタ222、第2の仮受台242、及び第2の砥石282が取り付けられており、第2の工作物12の加工にもこれらの治工具を用いる。このため、第2の工作物12を最初に加工する場合には、その加工を行うにあたって段取り替え作業が発生しない。
【0034】
一方、第1の工作物11の加工には、第1の主軸台センタ211、第1の心押台センタ221、第1の仮受台241、及び第1の砥石281を用いるので、第1の工作物11を最初に加工する場合には、これらの治工具を全て交換する必要がある。また、第3の工作物13の加工には、第2の主軸台センタ212、第2の心押台センタ222、第2の仮受台242、及び第3の砥石283を用いるので、第3の工作物13を最初に加工する場合には、第2の砥石282を第3の砥石283に交換する必要がある。
【0035】
第1乃至第3の工作物11~13の加工に際し、何れの治工具を用いるかについては、例えば作業者10が設定してもよいが、それぞれの治工具がどのような工作物の加工に適しているかについての情報を予め治工具情報302として記憶させておき、この情報に基づいてコンピュータ30が治工具を選定するようにしてもよい。
【0036】
図6は、第1乃至第6の投入順序パターンのそれぞれの各加工ステップについて、主軸台21及び心押台22のセンタ交換時間、仮受台交換時間、砥石交換時間、ならびにこれらの交換時間の合計値である段取り替え時間を示す一覧表である。この一覧表では、主軸台21及び心押台22のセンタ交換時間、砥石交換時間、及び仮受台交換時間をそれぞれ0.25日とし、1番目、2番目、及び3番目に行う工作物のそれぞれの加工を一つの加工ステップとして、各治工具の交換時間及び段取り替え時間を示している。例えば、第1の工作物11を最初に加工する場合には、その加工に際し、センタ交換、仮受台交換、及び砥石交換が必要となるので、段取り替え時間が0.75日となる。また、第3の工作物13を最初に加工する場合には、その加工に際して砥石交換のみが必要となるので、段取り替え時間が0.25日となる。
【0037】
図7は、第1乃至第3の工作物11~13について、現時点から納品日までの残りの日数である納期残日数、研削盤2に対する段取り替え作業又は研削盤2による加工を開始できるまでの最小待ち時間、研削盤2による加工に要する加工時間、及び客先17,18,19までの輸送時間を示す表である。なお、ここでは、現時点において研削盤2で他の工作物の加工が行われているものとし、当該他の工作物の加工が終わるまでの最小待ち時間を1日としている。
【0038】
図8は、
図6及び
図7に示す内容に加え、第1乃至第6の投入順序パターンのそれぞれについて、第1乃至第3の工作物11~13の現時点から納品完了までの総合計時間(待ち時間、加工時間、輸送時間、及び段取り時間の合計値)、納期残日数から総合計時間からを減算した納期遅れ時間、及び納期までに納品が完了するか否かの判定結果を示す一覧表である。総合計時間は、製品14,15,16の客先17,18,19への到着日を示している。つまり、評価手段33は、客先17,18,19への到着日を評価項目に含んでいる。なお、
図8において、納期遅れ時間の-(マイナス)は、客先指定の納期よりも早く納品が完了することを示している。また、判定結果の〇は、納期遅れが発生しないことを示し、×は納期遅れが発生することを示している。
【0039】
例えば、第1の投入順序パターンでは、最初に加工を行う第1の工作物11の待ち時間が1日であり、2番目に加工を行う第2の工作物12の待ち時間は、第1の工作物11の待ち時間(1日)及び第1の工作物11の加工時間(4日)に、さらに第2の工作物12の加工を行うための段取り時間(0.75日)を加えた5.75日である。また、第3の工作物13の待ち時間は、第2の工作物12の加工待ち時間(5.75日)に、第2の工作物12の加工時間(2日)、及び第3の工作物13の加工を行うための段取り時間(0.75日)を加えた8.5日である。
【0040】
評価手段33による評価結果は、例えば
図8に示す一覧表の形式で、ディスプレイ4の画面表示によって作業者10に示される。
図8に示す例では、第4の投入順序パターンのみが第1乃至第3の工作物11~13の何れについても納期遅れが発生しないので、作業者10は、第4の投入順序パターンを採用し、第2の工作物12、第3の工作物13、及び第1の工作物11の順に研削盤2による加工を行い、加工が完了したものを順次客先17,18,19に発送する。
【0041】
以上説明したように、本実施の形態に係る生産計画支援装置3は、複数の工作物を加工するにあたり、全ての投入順序パターンについて総合計時間を計算し、その計算結果に基づいて納期までに納品が完了するか否かの判定等の評価を行うので、容易かつ正確に適切な加工順序を求めることができる。
【0042】
<第1の応用例>
次に、評価手段33が行う処理の第1の応用例について説明する。上記の実施の形態では、第1乃至第3の工作物11~13について、研削加工に使用する砥石(第1乃至第3の砥石281,282,283の何れか)が一意に決められている場合について説明したが、第1の応用例では、研削加工に使用する砥石によっては段取り替え時間が短くなり、総合計時間を短縮することができる可能性を評価手段33が検討する。このことについて、
図9を参照して具体的に説明する。
【0043】
図9(a)は、第2の工作物12を第2の砥石282によって加工する場合を示す模式図である。
図9(b)は、第2の工作物12を第3の砥石283によって加工する場合を示す模式図である。第2の砥石282は、第3の砥石283よりも砥石幅が広く形成されている。
【0044】
第2の工作物12を第2の砥石282によって研削加工する場合には、
図9(a)に示すように、3回のプランジ研削で加工が行える。一方、第2の工作物12を第3の砥石283によって研削加工する場合には、
図9(b)に示すように、4回のプランジ研削が必要となる。このため、加工時間のみに着目すれば、第2の工作物12の加工には第2の砥石282が適しているといえる。しかし、第2の工作物12を第3の砥石283によって研削加工すれば、第2の工作物12の次に第3の工作物13の加工を行う場合、及び第3の工作物13の次に第2の工作物12の加工を行う場合に砥石交換が不要となり、段取り替え時間を短縮することができ、総合計時間を短縮し得る。
【0045】
このような検討をコンピュータ30が評価手段33として実行する場合には、
図5に示す治工具表で指定されたものに限らず、第1乃至第3の砥石281,282,283のうち、砥石幅や加工面の粗さ等の品質に鑑みて、加工に用いることができる可能性のある他の砥石を用いるパターンを選択肢として候補に加え、このパターンについても総合計時間を計算する。そして、納期までに納品が完了するか否かの判定を行う。
【0046】
このように、第1の応用例では、第1乃至第3の工作物11~13の加工ステップにおいて加工に用いることができる砥石が複数ある場合、これら複数の砥石を用いた場合のそれぞれについて、評価手段33が加工時間及び段取り替え時間を計算して評価を行う。これにより、総合計時間がより短い加工順序を見出すことが可能となる。
【0047】
<第2の応用例>
次に、工作物情報取得手段31、投入順序パターン生成手段32、及び評価手段33が行う処理の第2の応用例について説明する。上記の例では、第1乃至第3の工作物11~13を一つの加工機(研削盤2)のみによって加工して製品化する場合について説明したが、第2の応用例では、二つの加工機(ここでは研削盤及び切削機)によって第1乃至第3の工作物のそれぞれの一部を加工する。
【0048】
図10(a),(b),(c)は、二つの加工機によって加工される第1乃至第3の工作物51~53の加工形状を示す構成図である。第1の工作物51は、切削加工される切削加工部511,512と、研削加工される研削加工部513とを有している。第2の工作物52は、切削加工される切削加工部521と、研削加工される研削加工部522とを有している。第3の工作物53は、切削加工される切削加工部531と、研削加工される研削加工部532,533とを有している。切削加工部511,512,521,531は、マシニングセンタ等の切削機によって加工される。
【0049】
工作物情報取得手段31は、第1の工作物51の切削加工部511,512及び研削加工部513、第2の工作物52の切削加工部521及び研削加工部522、ならびに第3の工作物53の切削加工部531及び研削加工部532,533の位置や形状、直径、及び要求精度の情報を取得し、工作物情報304として記憶装置300に記憶する。なお、第1乃至第3の工作物51~53の各加工部を切削加工するか研削加工するかは、例えば第1乃至第3の工作物51~53の三次元又は二次元のCADデータの注記情報に示されている。
【0050】
投入順序パターン生成手段32は、研削盤及び切削機のそれぞれについて、第1乃至第3の工作物51~53の投入順序パターンを組み合わせて生成する。この投入順序パターンの総数は、6×6の36通りとなる。なお、第1乃至第3の工作物51~53のうち、最初に研削加工を行うものと最初に切削加工を行うものとが同じであることは加工効率上あり得ないので、このような投入順序パターンは除いてもよい。
【0051】
複数の加工機で加工を行う場合は、例えば次に研削加工を行うべき工作物が切削加工中で、その切削加工の完了を待たなければならない場合のように、加工完了待ちが発生しやすい。評価手段33は、このような加工完了待ちが発生する場合を考慮して待ち時間を計算する。また、段取り替え作業を行う作業者が一人である場合には、例えば研削盤の段取り替え作業と切削機の段取り替え作業とを同時並行で行うことができないので、このような段取り替え待ちも発生し得る。評価手段33は、このような段取り替え待ちが発生する場合を考慮して待ち時間を計算する。
【0052】
このように、加工完了待ちや段取り替え待ちの発生を考慮して待ち時間を計算し、各投入順序パターンを評価することにより、加工完了待ちや段取り替え待ちが発生しにくい、あるいは発生したとしてもその時間が比較的短い投入順序パターンを、全ての投入順序パターンの中から抽出することができる。
【0053】
<第3の応用例>
上記実施の形態では、
図7に示すように、加工に要する加工時間が複数の工作物のそれぞれについて一意に設定されている場合について説明したが、加工方法の違いによる加工時間の上限値及び下限値を設定し、評価手段33がこの上限値及び下限値のそれぞれについて総合計時間を計算し、評価を行ってもよい。加工方法の違いは、例えば研削速度であり、砥石寿命を短くしながらも高速に研削を行えば加工時間を短縮することができ、研削速度を遅くして加工時間を長くすれば砥石寿命を延ばすことができる。
【0054】
<他の応用例>
上記実施の形態では、生産計画支援装置3が評価手段33の評価結果をディスプレイ4に表示し、作業者10が表示された内容に沿って第1乃至第3の工作物11,12,13を研削盤2に投入する場合について説明したが、段取り替えや複数の工作物の加工機への搬入出を自動化し、加工完了までの全工程を自動化してもよい。この場合、生産計画支援装置3は、評価手段33の評価結果を、例えば電子データを送信する形式で、生産システムの全体を統括するコントローラに提示する。
【0055】
また、生産計画支援装置3は、例えば複数の工作物の全てを納期に遅延が生じないように生産できる投入順序パターンが存在しないとき、評価手段33が複数の工作物のうち少なくとも何れかの加工時間の短縮を提案するように構成してもよい。この場合、評価手段33は、例えば納期遅れ時間が比較的短い投入順序パターンを選択し、選択した投入順序パターンにおいて複数の工作物のうち少なくとも何れかの工作物の加工時間を短縮して総合計時間を計算し、納期に遅延が生じないように変更した加工時間を当該投入順序パターンと共に提示する。作業者10は、提示された内容に基づき、例えば砥石の寿命が短くなっても短時間で加工を行えるように加工条件を見直し、加工を行う。
【0056】
また、例えば複数の工作物のうち何れかの工作物の素材の搬入が遅れ、当該工作物の加工機への投入が計画よりも遅れた場合には、その時点で加工中の工作物の加工に割り込ませて、素材の搬入が遅れた工作物の加工を行えるようにしてもよい。例えば、第1の工作物の荒加工が完了した後に割り込ませる形で第2の工作物の加工を行い、その加工完了後に第1の工作物の仕上げ加工を行うことができるようにしてもよい。
【0057】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
11~13…第1乃至第3の工作物
17,18,19…客先
2…研削盤(加工機)
3…生産計画支援装置
31…工作物情報取得手段
32…投入順序パターン生成手段
33…評価手段
34…優先順位付与手段
4…ディスプレイ(提示手段)