(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011434
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】両面研磨における定盤トルクの測定方法及びそれを用いた両面研磨機
(51)【国際特許分類】
B24B 49/16 20060101AFI20230117BHJP
B24B 37/08 20120101ALI20230117BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230117BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20230117BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B37/08
B23Q17/00 A
G01L5/00 G
H01L21/304 621A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115276
(22)【出願日】2021-07-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.ウェブサイトの掲載日及びアドレス 令和2年7月14日,https://www.planarization-cmp.org/meeting『第182回研究会「精密工学会2020年度春季オーガナイズドセッション発表会」』,「両面研磨に関する数値解析的アプローチ」 2.ウェブサイトの掲載日及びアドレス 令和2年11月14日,https://confit.atlas.jp/guide/event/icpe2020/notifications https://confit.atlas.jp/icpe2020?lang=en 「Experimental Investigation of Torques Acting on Upper and Lower Platens in Double-sided Lapping」 3.ウェブサイトの掲載日及びアドレス 令和2年11月7日,http://amti.w3.kanazawa-u.ac.jp/hoku-shin-jspe/ 「2020年度精密工学会北陸信越支部学術講演会」
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 洋平
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 稜
【テーマコード(参考)】
2F051
3C029
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
2F051AA11
2F051AB08
2F051AB09
2F051BA07
3C029EE01
3C034AA07
3C034BB75
3C034BB76
3C034CA16
3C034CB14
3C034DD10
3C158AA04
3C158AA09
3C158AA11
3C158AA16
3C158AA18
3C158AB04
3C158AB08
3C158AC02
3C158AC04
3C158BA01
3C158BA06
3C158BB02
3C158CB01
3C158DA06
3C158DA09
3C158DA18
3C158EA01
3C158EB01
3C158EB09
5F057AA32
5F057BA12
5F057BB03
5F057BB06
5F057BB09
5F057CA18
5F057DA03
5F057GA08
5F057GB25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】両面研磨において研磨条件の制御や品質管理に有用な定盤トルクの測定方法及びそれを用いた両面研磨機を提供する。
【解決手段】上下に対向配置された一対の定盤を用いて加工物の上下面を同時に研磨する両面研磨法における前記定盤に作用するトルクの測定方法であって、前記定盤側には被拘束部材11a、11bを有し、定盤外には支持部材16a、16bを有し、前記被拘束部材と前記支持部材間の接触力を計測するためのセンサー17a、17b、18a、18bを設けたことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に対向配置された一対の定盤を用いて加工物の上下面を同時に研磨する両面研磨法における前記定盤に作用するトルクの測定方法であって、
前記定盤側には被拘束部材を有し、
定盤外には支持部材を有し、
前記被拘束部材と前記支持部材間の接触力を計測するためのセンサーを設けたことを特徴とする両面研磨における定盤トルクの測定方法。
【請求項2】
前記上側の上定盤は複数のワイヤにて吊り下げ保持され、下側の下定盤に対して平行に回転スライドすることを特徴とする請求項1記載の両面研磨における定盤トルクの測定方法。
【請求項3】
下定盤側の駆動モータの消費電力から、下記式(1)により下定盤トルクを測定するために必要な下定盤側の損失電力を、上定盤と下定盤との間に加工物を介在させない共擦りの状態での上定盤の定盤トルクに基づいて求めることを特徴とする両面研磨における定盤トルクの測定方法。
ここで、T
L=下定盤のトルク,κ=定数,P=下定盤側の駆動モータの消費電力
P
loss=損失電力を示す。
【請求項4】
下定盤側の駆動モータトルクから下記式(1-1)により下定盤トルクを測定するために必要な下定盤側の損失トルクを、上定盤と下定盤との間に加工物を介在させない共擦りの状態での上定盤の定盤トルクに基づいて求めることを特徴とする両面研磨における定盤トルクの測定方法。
ここで、T
L1=下定盤トルク,T
ML=下定盤側の駆動モータトルク,κ
1=定数,T
loss=下定盤側の損失トルクを示す。
【請求項5】
複数のワイヤにて吊り下げ保持された上定盤と、研磨される加工物を回転自在に保持する下定盤とを備えた両面研磨機であって、
前記上定盤側には被拘束部材を有し、定盤外には支持部材を有し、
前記被拘束部材と前記支持部材間の接触力の計測手段を有していることを特徴とする両面研磨機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工物の上下面を同時に研磨する両面研磨法において、加工物の研磨面品質の管理や研磨条件の制御等に有用な定盤のトルク測定方法及びそれを用いた両面研磨機に関する。
【背景技術】
【0002】
両面研磨加工は、加工物の表面の表面粗さの低減や平面度の向上、及び上下の加工面の平行度が得やすいことから、いろいろな分野にて採用されている。
例えば、半導体ウェハ,半導体デバイス,水晶振子,フォトマスク等の光学部品等である。
特に近年は、ワイドバンドギャップ半導体と称されるSiC,GaN等の難削材,硬脆材分野でのニーズも高くなっている。
【0003】
従来の両面研磨機(装置)としては、例えば特許文献1に加工物の上面の仕事量と下面の仕事量に基づく制御システムを開示し、その仕事量の算出に必要な定盤トルクを駆動モータの電流値に基づいて算出している。
この場合に、上定盤と下定盤とからなる両面研磨機にあっては、上定盤に作用するトルクの測定は比較的容易であるが、下定盤は駆動モータから下定盤への駆動力の伝達にベルト,ギヤ,軸受け等の各種機械的要素が加わるために、これらが誤差要因となり、駆動モータの電流値等に基づく計測では、正確とは言えない。
【0004】
また、特許文献2には、半導体ウェハを保持するウェハ保持盤が回転軸に対して揺動自在に支持されるとともに、この回転軸にトルク伝達ピンが設けられている。
一方、ウェハ保持板側に設けたトルク駆動ピンが、上記トルク伝達ピンに係合することで、このウェハ保持盤が回転する機構を開示し、このトルク駆動ピンにひずみ検出ゲージを取り付け、摩擦力の変化を間接的にモニタリングする旨が記載されている。
しかし、上記技術は、定盤に回転力を伝達するためのものであって、両面研磨機に適用できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-10952号公報
【特許文献2】特開平10-256209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、両面研磨において研磨条件の制御や品質管理に有用な定盤トルクの測定方法及びそれを用いた両面研磨機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る両面研磨における定盤トルクの測定方法は、上下に対向配置された一対の定盤を用いて加工物の上下面を同時に研磨する両面研磨法における前記定盤に作用するトルクの測定方法であって、前記定盤側には被拘束部材を有し、定盤外には支持部材を有し、前記被拘束部材と前記支持部材間の接触力を計測するためのセンサーを設けたことを特徴とする。
【0008】
ここで、定盤側に設けた被拘束部材と定盤外に設けた支持部材との関係は、加工物の表面の研磨時における定盤と加工物との接触力により生じる摩擦力により、定盤が回転しようとするのを支持部材で規制する関係をいう。
従って、定盤側に設けた被拘束部材は、ピン形状や段差状の凸部であってよく、定盤外に設けた支持部材は、上記被拘束部材に接触し、定盤の回転する動きを規制できればアーム状,バー状等、その形状に制限はない。
【0009】
本発明に用いられるセンサーは、前記定盤側の被拘束部材と定盤外の支持部材間との接触力を検出し、定盤に作用する定盤トルクを測定するためのものである。
代表例としては、ひずみゲージやピエゾ素子が挙げられる。
ひずみゲージは、接触力により生じるひずみを検出するものであり、例えばCu-Ni合金等の厚さ数μmの抵抗箔を用いて、基材表面に微細線状に形成したもの等である。
ひずみゲージは、金属抵抗体の抵抗がその長さと断面積により変化する性質を利用したものであり、ひずみの量と抵抗の変化率との比例関係に基づく。
これに対してピエゾ素子は、接触力等の力を受けたことにより生じる電荷を検出するものである。
【0010】
両面研磨は、加工物の上面と下面とを同時に研磨できるものであり、上面と下面との平行度に優れる。
例えば、上側の上定盤は複数のワイヤにて吊り下げ保持され、下側の下定盤に対して平行に回転スライドするものが好ましい。
また、下定盤側の駆動モータの消費電力から、下記式(1)により下定盤トルクを測定するために必要な下定盤側の損失電力を、上定盤と下定盤との間に加工物を介在させない共擦りの状態での上定盤の定盤トルクに基づいて求めることができる。
ここでPは、下定盤側の駆動モータの消費電力,P
lossは下定盤側におけるギヤ等の伝達機構による損失電力,κは定数である。
定数κ及びP
lossは事前に求めることができ、詳細は後述する。
【0011】
上記式(1)は、上定盤と下定盤とを共擦りした状態では、上定盤と下定盤に作用するトルクは釣り合っていることから、そのことに基づいて下定盤トルクT
Lを下定盤側の駆動モータの消費電力と損失電力とから推定したものである。
このことは詳細は後述するが、上定盤が固定され、下定盤側が回転するタイプ(3way)のみならず、上定盤と下定盤の両方が相互に回転するタイプ(4way)にも適用できる。
上定盤側を回転させる駆動方式としては、上定盤をモータで直接駆動する方式や、下定盤側のモータから出力軸を分岐する方式等があるが、いずれの場合も上定盤側の定盤トルクは比較的計測しやすいのに対して、下定盤側は加工物の自転機構,公転機構等、複雑な伝達機構を有している場合が多く、モータの出力トルクの多くが上記伝達機構にて損失してしまう。
そこで、共擦りの状態で上記下定盤側のトルク損失を算出できれば、それに基づいて研磨時の下定盤トルクを算出することができる。
例えば、下記式(1-1)にて求めることができる。
ここでT
L1は下定盤トルク,T
MLは下定盤側の駆動モータトルク,κ
1は定数,T
lossは下定盤側の損失トルクである。
【0012】
前記定盤トルクの測定方法を採用した本発明に係る両面研磨機は、複数のワイヤにて吊り下げ保持された上定盤と、研磨される加工物を回転自在に保持する下定盤とを備えた両面研磨機であって、前記上定盤側には被拘束部材を有し、定盤外には支持部材を有し、前記被拘束部材と前記支持部材間の接触力の計測手段を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る両面研磨における定盤トルク測定方法は、加工物の表面との摩擦力により定盤に生じる回転方向の力を定盤側に設けた被拘束部材と、その動きを規制する支持部材との間に生じる実際の接触力にて測定したので、従来の駆動モータ側の電力や電流の変化のみで間接的に求める方法よりも測定精度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る定盤トルクを測定するための構造例を示す。
【
図3】上下に一対の定盤を対向配置した両面研磨機のうち、上定盤が回転しない3way方式の構造例を模式的に示す。
【
図6】研磨圧力変化に対するトルク変化とモータの電力変化の比較例を示す。
【
図8】下定盤側の駆動モータの電力とトルクの関係を示す。
【
図9】加工時間と駆動モータの電力との関係を示す。
【
図10】ドレッシングの有無によるトルク波形例を示す。
【
図11】下定盤の駆動モータトルクによる出力軸トルクの計算値と上定盤に作用したホルダー作用力に基づくトルクとの関係を示す。
【
図12】暖機運転時間、(a)5分,(b)30分,(c)60分での駆動モータトルクから計算された出力軸トルク(左側縦軸)とホルダーに作用した力に基づいて求めたトルク(右側縦軸)の変動グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る両面研磨加工における定盤トルクの測定方法を以下図に基づいて説明する。
まず、実験に用いた両面研磨機を
図2に示す。
この両面研磨機は、3BN-3M10L 浜井産業株式会社製の例である。
上定盤11は、ワイヤ14で吊った構造になっており、上定盤と下定盤12との間に研磨する加工物Wを有し、研磨中加工物に負荷する圧力はエアシリンダ15で調整する構造となっている。
本実施例では、エアシリンダ15のピストンロッド15aの先端部に、円盤状のプレート体13を連結し、これにワイヤ14で上定盤11を吊り下げた例になっている。
ワイヤで吊ることにより上定盤が下定盤に対して平行にスライドすることで加工物への追随性を高める効果があることが経験的に知られている。
上定盤の自重以上の圧力を負荷する設定では、ワイヤはたわみエアシリンダにより押し付けられた状態となる。
また、定盤に負荷している荷重は電空レギュレータによりエアシリンダの空気圧力を連続的に制御している。
図3に研磨機構を模式的に示す。
研磨工具は中空構造の上下定盤または定盤に貼り付けられた研磨パッドであり、加工物Wはキャリア12cに設けられた加工物よりもわずかに大きな穴にはめ込まれた構造となっているため加工物はキャリア内で自由に回転する。
それを上下研磨工具で挟み込んで研磨を行う。
図3に示すように、キャリアはサンギヤ12aにより公転し、インターナルギア12bにより自転する遊星運動をする。
両面研磨機の駆動方式にはサンギヤとインターナルギアでキャリアを自公転させ、上定盤と下定盤は駆動しない2way,下定盤,サンギヤ,インターナルギアを駆動させ、上定盤は駆動しない3way,上定盤,下定盤,サンギヤ,インターナルギアを全て駆動させる4way方式がある。
この中で、模式図に示す3way方式の両面研磨機においては、上定盤は加工物との摩擦力により回転しようとする。
【0016】
次に、
図1に
図3の3way方式を用いた場合の定盤トルクの測定構造例を示す。
図1にて、上定盤側に被拘束部材として半径r
H1,r
H2の位置に、2つの第1ストッパーピン11a,第2ストッパーピン11bを設け、上定盤外の研磨機本体側に設けた支持部材としての2ヶ所の第1ホルダー16a,第2ホルダー16bに、それぞれストッパーピンが当接し、回転力が規制されている上定盤にF
P1,F
P2が作用し、そのトルクを測定するのに支持部材の両側にそれぞれひずみゲージ(17a,17b,18a,18b)を貼り付けた。
ひずみゲージを接続するブリッジボックス,アンプ,測定器を研磨機の非回転部に設置し、比較的容易なトルクのリアルタイムモニタリングを実現する。
ひずみゲージ(KFGS-6-120-C1-16 L3M2R:共和電業製)からの出力はブリッジボックス(DBV-120A-4:共和電業製)を介してひずみ測定ユニット(EDX-11A:共和電業製)および制御ユニット(EDX-10B:共和電業製)により増幅・制御を行いノートPCで記録を行った。
ひずみゲージは支持部材の側面にシアノアクリレート系瞬間接着剤(CC-33A:共和電業製)を用いて貼付し、ひずみゲージの防汚,断線防止のためScotchVM Tape(3M製)により保護した。
本実施例では、2アクティブゲージ法を用いた。
具体的に説明すると、支持部材(第1,第2ホルダー)の両面にそれぞれひずみゲージを貼り付けた一方に圧縮応力、他方に引っ張り応力が生じることから、ひずみ方向の引っ張り、圧縮変化をキャンセルし、曲げひずみのみを検出することができる。
【0017】
実験方法及び実験結果について説明する。
図4には実験条件を示す。
研磨工具はTrizact Diamond Tile(TDT)と呼ばれる半固定砥粒パッドであり、上下定盤に接着されている。
TDTはダイヤモンド砥粒を樹脂に埋め込んだ構造となっており、砥粒を含んだ研磨液を供給する方式と異なり、砥粒分布の偏りがトルクに影響を与えるのを防ぎ、研磨液の供給状態によらない評価が可能である。
クーラントとして大智化学社製の725Nを用いた。
本実験ではキャリアを4枚設置し、各キャリアには1枚の加工物を保持する。
加工物の直径は25mm,厚みは1mmであり材料はホウケイ酸塩ガラスである。
キャリアの公転半径は248mmであり、ウェハ保持孔の中心位置はキャリアの中心から15mmオフセットした位置にある。
下定盤の回転速度は12min
-1,キャリアの公転は6min
-1,自公転数比は1.4である。
定盤に負荷する負荷荷重は20N,40N,60N,40N,20Nの順に変えて実験を行った。
なお、そのときに加工物に負荷する研磨圧力に換算するとそれぞれ9kPa,18kPa,27kPa,18kPa,9kPaとなる。
図5に負荷荷重60Nの条件で2分間研磨を行ったときに測定されるトルク波形を示す。
測定されるトルク波形は回転開始直後、支持部材(回転止め)がストッパーピンと接触した瞬間に衝撃力により急上昇し、その後定速域では23.4秒周期の周期的な変動が見られる。
回転停止後は一定値のまま静止するが、回転停止直後に回転止めとストッパーピンの接触をなくすことによりゼロとなる。
両面研磨においてウェハ中心位置はキャリアの中心位置からオフセットした位置にあるため、キャリアの遊星運動により定盤中心とウェハ中心の距離は変化する。
このことから、トルクの変動はキャリアの遊星運動によるウェハ中心位置の違いによるものであり、このウェハ中心位置の変化を適切に出力できていることが分かる。
図6には各負荷荷重における上定盤に作用するトルクと下定盤のモータ電力の平均値を示している。
上定盤トルクは同一負荷荷重条件において同一の値を示し正比例関係になっており、適切な測定が出来ている。
一方で負荷荷重と電力の関係においては、電力が次第に低下していく現象により研磨圧力を増加させても十分に上昇しておらず、同一の研磨圧力条件においても電力値が異なっており、完全な正比例関係となっていない。
このことからも電力から下定盤トルクを直接測定するのは困難であることが分かる。
【0018】
上記に説明したとおり、下定盤トルクを下定盤側のモータの消費電力や電流値から直接測定することは難しい。
しかし、両面研磨において、加工物の上下面での研磨現象は異なっていると考えられるため、次に下定盤トルクの推定方法を検討した。
研磨抵抗の変化による駆動モータの消費電力の変動の方が、駆動モータから下定盤へのギャセベルト等の伝達経路による損失電力よりも小さいが、この伝達経路で消費される損失電力の推定ができれば、それに基づいて下定盤トルクの推定を行うことができる。
下定盤に作用するトルクをT
L,駆動モータの消費電力をP,伝達経路で消費される損失電力をP
lossで表すと式(1)が成立する。
ここで、κは比例定数である。
そこで、比例定数κを求めることを検討した。
加工物を介さずに上定盤と下定盤とを擦り合せる共擦りを行うと、駆動モータの回転数が一定である場合に、上定盤と下定盤に作用するトルクは釣り合っていることになる。
図7の表に示した条件で共擦りを実施し、駆動モータの消費電力と定盤トルクとの測定値の関係を
図8に示す。
図8は暖機運転、5分,30分,60分後に、下定盤のみで空転させた「0N」の状態から上定盤に荷重20N,40N,60N,40N,20N,0Nと変化させたときの測定値である。
なお、駆動モータの消費電力は60秒間経過後の60秒間の平均値を示す。
この結果を示すグラフから暖機運転の時間が60分のときの消費電力と定盤トルクとは、ほぼ線形に近い関係を示したが、暖機運転5分,20分では近似直線からは、ばらつきが大きい。
これは、工業用潤滑油の温度上昇に伴う動粘度の低下や動力伝達用ベルトの温度上昇に伴う張力変化によるものと考えられる。
暖気運転60分のときの安定した状態にて駆動モータの消費電力と定盤トルクとの関係から前記式(1)において定κ=0.48Nm/Jとなった。
【0019】
ここで定数κの値は、下定盤回転数と伝達経路における伝達率によって決まる値であり、加工時間に対して式(1)の損失電力P
lossは、
図8のグラフに異なる暖機運転時間での電力変動に示すように、1次関数的に一定割合で減少すると仮定すると駆動モータの消費電力と加工時間の関係は、
図9に示す関係が得られる。
図9において、P
preは加工前2分間の空転時の1分経過後の1分間の平均消費電力、P
postは加工後2分間の空転時の1分間経過後の1分間の平均消費電力である。
ここで加工時間をt’とすると、下記式(2)の関係が得られる。
図9にて加工前空転時t’=0のときは、B=P
preとなるので定数Bが定まる。
加工時間をT(分)とすると、P
post=A(T+2)+P
preとなる。
この式を式(2)に代入すると、下記式(3)が得られる。
上記式(3)においてt’を加工開始時間tに置き換えるとt’=t-0.5となるから、加工開始時間を基準とすると式(3)は下記式(4)になる。
この式(4)から損失電力P
lossの値が求められることにより、これに基づいて式(1)より駆動モータの消費電力から下定盤トルクT
Lを求めることができる。
【0020】
次に、研磨パッドのドレッシングの有無による定盤トルク変化を実験した。
研磨パッドは3M社製のTrizact Diamond Tile(#1200)を、研磨液として大智化学社製の725Nを用いる。
加工物はホウケイ酸ガラスで直径および厚さはそれぞれ25mm,1mmである。
各キャリアには1枚ずつ加工物を設置し、4枚同時加工を行う。
下定盤回転数は12min
-1,キャリア公転は6min
-1であり、自公転数比は1.5とした。
負荷荷重は60Nに固定し、この時に各ウェハに作用する研磨圧力は27kPaである。
なお、加工時間は2分間もしくは4分間行った。
累計加工時間8分までは2分ごとにウェハを変えて研磨量を測定したが、8分から32分までは4分間ごとにウェハを変えて研磨量を測定した。
図10にはドレッシング直後に行った研磨と、ドレッシングを行わず加工のみを繰り返したトルク波形を示す。
20秒周期の変動は遊星運動の内周と外周の入れ替わりによるものであるが、全体的な傾向に着目すると、ドレッシング直後に行った加工では2分間の中でもトルクが次第に減少していく様子が確認できる。
一方でドレッシングを行わずにパッド性能が悪化した条件では減少はほとんど見られず、一定値となっている。
これはドレッシング直後にはパッド状態は急激に悪化していくが、加工時間と共に表面の状態が安定するためであると考えられる。
後述する研磨量の測定結果からも、このトルクの低下はパッド-加工物間の摩擦係数の低下に起因するものであると考えられる。
次に、遊星運動による最内周と最外周の入れ替わりによる20秒周期の変動に着目する。
パッド性能が悪化した条件ではトルクが減少しているが、加工物が最外周および最内周に位置するときに相当するトルクの最大値と最小値はほとんど変化しておらず、最外周と最内周の中間位置で最もトルクの低下が起こっているため、パッド-加工物間の摩擦係数の低下はパッド外周,内周よりもその中間位置で顕著に生じていることが分かる。
これはキャリアの遊星運動により定盤中間位置の方がウェハの累計滞在時間が長く、パッドの劣化が急激に進むためであると考えられる。
両面研磨においてドレッシングを行った状態を持続させることは極めて重要であり、パッドの劣化を均一に進めていくことも加工能率を向上させるために不可欠であると考えられる。
【0021】
図11に、駆動モータトルクから計算された出力軸のトルク(横軸)と、前述したホルダーに作用した力に基づいて求めたトルク(縦軸)との関係を調査したグラフを示す。
このグラフは、上定盤と下定盤とを共擦りさせ、下定盤のみで空転させた「0N」の状態から上定盤に荷重20N,40N,60N,40N,20N,0Nと変化させたときの下定盤側の駆動モータトルクと上定盤側のトルクをホルダーに作用する力に基づいて求めたものである。
この場合も暖気運転を60分行うと、下定盤側の出力軸トルク変化とホルダーに作用する力に基づいて求めた上定盤トルクとの変化が線形に近い。
このことから、下定盤側の伝達機構等による損失トルクが上定盤トルクよりも相当大きいものの、共擦りにより損失トルクを予め計測しておくことで、上記式(1-1)に基づいて下定盤トルクを推定(計測)することができる。
【0022】
図12に、暖機運転時間を5分,30分,60分と変えた際の共擦り試験において、60Nとした条件での駆動モータトルクから計算された出力軸のトルク(左側縦軸)と、前述したホルダーに作用した力に基づいて求めたトルク(右側縦軸)の変動グラフを示す。
暖気運転を60分行う場合、加工中の下定盤側の出力軸トルクはほぼ変化しないため、上記に示すようにホルダーに作用する力に基づいて求めた上定盤トルクとの変化が線形に近く、損失トルクを定数と考えることができる。
一方で、暖機運転が5分の場合、加工中に下定盤側の出力軸トルクがゆるやかに減少する。このため、暖機運転が短い場合は、損失トルクを線形や多項式関数と考えることで、上記式(1-1)に基づいて下定盤トルクを高精度に推定(計測)することができる。
【符号の説明】
【0023】
11 上定盤
11a 第1ストッパーピン
11b 第2ストッパーピン
12 下定盤
12a サンギヤ
12b インターナルギア
12c キャリア
14 ワイヤ
15 エアシリンダ
16a 第1ホルダー
16b 第2ホルダー
W 加工物