(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114345
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】光ファイバ用ガラス体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/014 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
C03B37/014 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016659
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】長洲 勝文
【テーマコード(参考)】
4G021
【Fターム(参考)】
4G021CA14
(57)【要約】
【課題】 クラッドとなるクラッドガラス体の少なくとも一部の層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該層において比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用ガラス体を、製造効率の低下を抑制して製造し得る光ファイバ用ガラス体の製造方法を提供する。
【解決手段】 光ファイバ用ガラス体の製造方法は、出発基材の外周面に前記所定のガラス体となるスートを堆積する堆積工程P11と、多孔質ガラス体20をフッ素雰囲気中で加熱して、フッ素を拡散させる拡散工程P12と、を備え、スートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなり、内周側では0.63g/cm
3以上0.87g/cm
3以下であり、外周側では0.54g/cm
3以上0.79g/cm
3以下であり、嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm
3以上0.09g/cm
3以下であり、拡散工程P12では、雰囲気中のフッ素濃度が1.8%以上7.4%以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
純粋シリカガラスに対する比屈折率差が-0.20%以上-0.05%以下、比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下であり、光ファイバのコアより外側に配置される所定の層となる所定のガラス体を含む光ファイバ用ガラス体の製造方法であって、
断面の形状が円形の出発基材の外周面に前記所定のガラス体となるスートを堆積する堆積工程と、
前記出発基材に前記スートが堆積された多孔質ガラス体をフッ素雰囲気中で加熱して、前記スートにフッ素を拡散させる拡散工程と、
フッ素が拡散された前記スートを焼結して透明ガラス化する焼結工程と、
を備え、
前記スートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなり、前記内周側では0.63g/cm3以上0.87g/cm3以下であり、前記外周側では0.54g/cm3以上0.79g/cm3以下であり、当該嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm3以上0.09g/cm3以下であり、
前記拡散工程では、前記雰囲気中のフッ素濃度が1.8%以上7.4%以下である
ことを特徴とする光ファイバ用ガラス体の製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程では、前記多孔質ガラス体が配置される雰囲気中のフッ素濃度が0.41%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用ガラス体の製造方法。
【請求項3】
前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ用ガラス体の製造方法。
【請求項4】
前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体と、前記光ファイバのクラッドよりも低い屈折率のトレンチ層となり前記コアガラス体を囲うトレンチ層ガラス体と、を含み、
前記スートは前記トレンチ層ガラス体の外周面上に堆積される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ用ガラス体の製造方法。
【請求項5】
前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体と、前記コアを囲い前記所定のガラス体よりも高い屈折率の内クラッドガラス体と、を含み、
前記スートは前記内クラッドガラス体の外周面上に堆積される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ用ガラス体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用ガラス体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッドの少なくとも一部にフッ素が添加された光ファイバが知られている。下記特許文献1には、このような光ファイバ及び当該光ファイバ用母材の製造方法が記載されている。この文献では、クラッドにおける最も内周側の領域にディプレスト層が形成されている。この光ファイバを製造するための光ファイバ用母材におけるディプレスト層となるガラス体を作製する際、コアとなるコアガラス体の外周面にディプレスト層となるスートを堆積させ、堆積されたスートをフッ素雰囲気中で加熱して、フッ素をスート中に拡散させている。そして、フッ素が拡散したスートを焼結することで、スートが透明ガラス化して、ディプレスト層となるガラス体が形成される。この文献では、ディプレスト層となるスートを堆積する際にスートの嵩密度が0.1g/cm3から0.4g/cm3であることが好ましいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体を作製する場合において、当該クラッドガラス体となるスートにフッ素を拡散させるとき、スートの嵩密度と、雰囲気中のフッ素濃度とにより、当該拡散度合いが変化する。上記特許文献1に記載のスートの嵩密度の場合、フッ素が拡散しすぎることで、ディプレスト層の純粋シリカに対する比屈折率差が負側に大きくなりすぎる、すなわち当該比屈折率差が深くなりすぎる懸念がある。これに対し、クラッドの少なくとも一部の層において純粋シリカガラスに対する比屈折率差を浅くしたい場合がある。そこで、当該層を作製するときに、フッ素を拡散させる際の雰囲気中のフッ素濃度を低くすることが考えられる。しかし、その場合、当該層の最内周の部位までフッ素が拡散しづらくなり、この部位では十分に屈折率が下がらず、当該領域の内周側と外周側とで屈折率の変動が大きくなりすぎる懸念がある。そこで、雰囲気中のフッ素濃度を小さくしつつ、当該層の最内周の部位までフッ素を十分に拡散させるために、フッ素雰囲気中で堆積された当該層となるスートを長時間加熱することが考えられる。しかし、この場合、光ファイバ用ガラス体の製造効率が低下する懸念がある。
【0005】
そこで、本発明は、光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体の少なくとも一部の層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該層において比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用ガラス体を、製造効率の低下を抑制して製造し得る光ファイバ用ガラス体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するため、本発明は、純粋シリカガラスに対する比屈折率差が-0.20%以上-0.05%以下、比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下であり、光ファイバのコアより外側に配置される所定の層となる所定のガラス体を含む光ファイバ用ガラス体の製造方法であって、断面の形状が円形の出発基材の外周面に前記所定のガラス体となるスートを堆積する堆積工程と、前記出発基材に前記スートが堆積された多孔質ガラス体をフッ素雰囲気中で加熱して、前記スートにフッ素を拡散させる拡散工程と、フッ素が拡散された前記スートを焼結して透明ガラス化する焼結工程と、を備え、前記スートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなり、前記内周側では0.63g/cm3以上0.87g/cm3以下であり、前記外周側では0.54g/cm3以上0.79g/cm3以下であり、当該嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm3以上0.09g/cm3以下であり、前記拡散工程では、前記雰囲気中のフッ素濃度が1.8%以上7.4%以下であることを特徴とするものである。
【0007】
このような光ファイバ用ガラス体の製造方法によれば、所定のガラス体となるスートの嵩密度が外周側に向かって低くなるため、製造の際にこの所定のガラス体の割れ等を抑制することができる。また、本発明者の検討の結果、この所定のガラス体となるスートの嵩密度と、拡散工程における雰囲気中のフッ素濃度とが上記条件を満たすことで、所定のガラス体の比屈折率差が上記のように浅い場合であっても、拡散工程の時間が長時間化することを抑制しつつも、所定のガラス体となるスートにフッ素を適切に添加することができることが分かった。これは、上記条件を満たすことで、堆積されたスートの外周側から入り込むフッ素が内周側まで適切に入り込むためと考えられる。従って、本発明の光ファイバ用ガラス体の製造方法によれば、コアよりも外側に配置される所定の層となる所定のガラス体の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用ガラス体の製造効率の低下を抑制し得る。なお、光ファイバ用ガラス体は、光ファイバの製造に用いられるガラス体であり、光ファイバ用母材や光ファイバ用母材となる前の光ファイバ用中間母材である。
【0008】
また、前記焼結工程では、前記多孔質ガラス体が配置される雰囲気中のフッ素濃度が0.41%以下であることとしてもよい。
【0009】
この場合、所定のガラス体の外周側で屈折率が不要に下降することを抑制し得る。なお、当該フッ素濃度が0.18%以上であれば、焼結工程において、所定のガラス体の外周側で屈折率が不要に上昇することを抑制できる。
【0010】
また、前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体としてもよい。
【0011】
この場合、純粋シリカに対する浅い屈折率のディプレスト層を有する光ファイバを製造可能な光ファイバ用ガラス体を製造し得る。
【0012】
また、前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体と、前記光ファイバのクラッドよりも低い屈折率のトレンチ層となり前記コアガラス体を囲うトレンチ層ガラス体と、を含み、前記スートは前記トレンチ層ガラス体の外周面上に堆積されてもよい。
【0013】
この場合、トレンチ型光ファイバにおいて、トレンチ層を囲う層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さいトレンチ型光ファイバを製造可能な光ファイバ用ガラス体を製造し得る。
【0014】
また、前記出発基材は、前記光ファイバの前記コアとなるコアガラス体と、前記コアを囲い前記所定のガラス体よりも高い屈折率の内クラッドガラス体と、を含み、前記スートは前記内クラッドガラス体の外周面上に堆積されてもよい。
【0015】
この場合、所定のガラス体が内クラッドガラス体よりも低い屈折率を有するため、トレンチ層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さいトレンチ型光ファイバを製造可能な光ファイバ用ガラス体を製造し得る。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体の少なくとも一部の層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該層において比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用ガラス体を、製造効率の低下を抑制して製造し得る光ファイバ用ガラス体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法によって製造される光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
【
図2】
図1の光ファイバの屈折率分布を示す図である。
【
図3】
図1に示す光ファイバを製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
【
図4】
図3の光ファイバ用母材の製造方法を含む光ファイバの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態の光ファイバの屈折率分布を
図2と同様に示す図である。
【
図8】第3実施形態の光ファイバの屈折率分布を
図2と同様に示す図である。
【
図9】実施例における内側クラッドガラス体の屈折率分布を示す図である。
【
図10】比較例における内側クラッドガラス体の屈折率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る光ファイバ用ガラス体の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができる。なお、以下で参照する図面では、理解を容易にするために、各部材の寸法を変えて示す場合がある。
【0019】
以下の実施形態では、光ファイバの製造に用いられる光ファイバ用ガラス体が光ファイバ用母材である例について説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態に係る光ファイバ用母材から製造される光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
図1に示すように、本実施形態では、光ファイバ1は、コア10と、コア10の外周面を囲うクラッド11と、クラッド11の外周面を被覆する被覆層12とを主な構成として備える。クラッド11は、コア10に接してコア10を囲う層である内側クラッド11a、内側クラッド11aに接して内側クラッド11aを囲う層である外側クラッド11bを有する。外側クラッド11bは、内側クラッド11aに接して内側クラッド11aを囲う層である第1領域b1と、第1領域b1を囲いクラッド11の最外周まで延在する層である第2領域b2とを含む。
【0021】
図2は、
図1の光ファイバ1の屈折率分布を示す図である。なお、以下、屈折率を示す図において、屈折率が対応する部位と同様の符号が付される。コア10の屈折率はクラッド11の屈折率よりも高く、本実施形態では、コア10は屈折率が高くなる塩素等が添加されたシリカガラスからなる。従って、コア10の屈折率は、不純物を含まない純粋シリカガラスの屈折率n0より高い。
【0022】
内側クラッド11aは、フッ素が添加されたシリカガラスから成り、純粋シリカガラスの屈折率n0より低い屈折率を有する。内側クラッド11aの屈折率は、コア10側である内周側から外周側に向かって概ね低くなり、純粋シリカガラスに対する比屈折率差は、概ね-0.20%以上-0.08%以下である。このように本実施形態の内側クラッド11aは、純粋シリカに対して比較的浅い比屈折率差を有する。本実施形態では、内側クラッド11aの厚みは、コア10の半径より僅かに大きい。ただし、内側クラッド11aの厚みは、コア10の半径と同等であっても、コア10の半径よりも小さくてもよい。なお、以後の説明において、単に比屈折率差という場合、純粋シリカガラスに対する比屈折率差を意味する。内側クラッド11aの厚みは、例えば20mm以上である。
【0023】
外側クラッド11bの第1領域b1は、内側クラッド11aに添加されるフッ素の濃度よりも低い濃度のフッ素が添加されたシリカガラスから成り、純粋シリカガラスの屈折率n0より低い屈折率を有する。第1領域b1の屈折率は、内周側で最も高く、内周側から外周側に向かって徐々に低くなる。第1領域b1の最低の屈折率は、内側クラッド11aの最低の屈折率よりも高い。従って、第1領域b1は、内側クラッド11aよりも更に浅い比屈折率差を有する。また、第1領域b1の厚みは内側クラッド11aの厚みより大きい。このため、第1領域b1の内周側から外周側に向かう屈折率の下がり方の傾斜は、内側クラッド11aの内周側から外周側に向かう屈折率の下がり方の傾斜よりも緩い。
【0024】
第2領域b2は、第1領域b1に添加されるフッ素の濃度よりも低い濃度のフッ素が添加されたシリカガラスから成る。第2領域b2の屈折率は、第1領域b1の最低の屈折率よりも高く、純粋シリカガラスの屈折率n0より低い屈折率である。従って、本実施形態の第2領域b2は、第1領域b1よりも更に浅い比屈折率差を有する。
【0025】
被覆層12は、樹脂からなる。被覆層12を構成する樹脂として、例えば熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂が挙げられる。被覆層12は、クラッド11を囲う1つの樹脂の層からなる単層構造とされてもよく、複数の樹脂の層からなる多層構造とされてもよい。
【0026】
次に、本実施形態に係る光ファイバ1を製造するために用いられる光ファイバ用母材について説明する。
【0027】
図3は、
図1に示す光ファイバ1を製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
図3に示すように、光ファイバ用母材1Pは、コア10となるロッド状のコアガラス体10Pと、コアガラス体10Pの外周面を囲いクラッド11となるクラッドガラス体11Pとから構成される。クラッドガラス体11Pは、内側クラッド11aとなる内側クラッドガラス体11Pa、及び外側クラッド11bとなる外側クラッドガラス体11Pbを備え、外側クラッドガラス体11Pbは、第1領域b1となる第1領域ガラス体Pb1、及び第2領域b2となる第2領域ガラス体Pb2を含む。
【0028】
光ファイバ用母材1Pの屈折率分布は、光ファイバ1の屈折率分布と概ね同様である。内側クラッドガラス体11Paは、コアガラス体10Pに接してコアガラス体10Pを囲う。内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差は、-0.20%以上-0.05%以下である。内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差の最大となる位置は概ね内周側に位置し、当該最大値は-0.16%以上-0.05%以下であり、比屈折率差の最小となる位置は、概ね外周側に位置し、当該最小値は-0.20%以上-0.08%以下である。また、この比屈折率差の最大値と最小値との差は0.03%以上0.04%以下である。
【0029】
本実施形態では、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差は、-0.20%以上-0.05%以下である。また、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差の最大値と最小値との差は0.03%以上0.04%以下である。
【0030】
外側クラッドガラス体11Pbの第1領域ガラス体Pb1は、内側クラッドガラス体11Paに接して内側クラッドガラス体11Paを囲う。第1領域ガラス体Pb1の比屈折率差は、例えば-0.20%以上-0.05%以下である。第1領域ガラス体Pb1の内周側における比屈折率差は、本実施形態では、例えば-0.16%以上-0.05%以下であり、外周側における比屈折率差は、例えば-0.20%以上-0.08%以下である。この比屈折率差の最大値と最小値との差は、例えば0.03%以上0.04%以下である。本実施形態では、内側クラッドガラス体11Paにおける比屈折率差の最大値と最小値との差よりも小さい。従って、第1領域ガラス体Pb1の平均の屈折率は、内側クラッドガラス体11Paの平均の屈折率よりも大きい。
【0031】
第2領域ガラス体Pb2は、第1領域ガラス体Pb1に接して第1領域ガラス体Pb1を囲う。第2領域ガラス体Pb2は、内周側から徐々に屈折率が高くなる。また、第2領域ガラス体Pb2は、第1領域ガラス体Pb1に接して第1領域ガラス体Pb1を囲う。第2領域ガラス体Pb2の比屈折率差は、例えば-0.20%以上-0.05%以下である。また、この比屈折率差の最大値と最小値との差は、例えば0.03%以上0.04%以下である。
【0032】
ここで、光ファイバ1の内側クラッド11aを所定の層とすると、内側クラッドガラス体11Paは、コア10よりも外側に配置される当該所定の層となる所定のガラス体と理解することができる。また、光ファイバ1の第1領域b1及び第2領域b2をそれぞれ上記所定の層とは別の所定の層とすると、第1領域ガラス体Pb1及び第2領域ガラス体Pb2は、それぞれコア10よりも外側に配置される所定の層となる所定のガラス体と理解することができる。また、第1領域b1と第2領域b2とを合わせた外側クラッド11bを上記所定の層とは別の所定の層とすると、第1領域ガラス体Pb1と第2領域ガラス体Pb2とを合わせた外側クラッドガラス体11Pbが、コア10よりも外側に配置される所定の層となる所定のガラス体と理解することができる。
【0033】
次に、光ファイバ用母材1Pの製造方法、及び光ファイバ1の製造方法について説明する。
【0034】
図4は、本実施形態に係る光ファイバ用母材1Pの製造方法を含む光ファイバ1の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態の光ファイバ用母材1Pの製造方法は、内側クラッドガラス体形成工程P1と、外側クラッドガラス体形成工程P2と、を備え、光ファイバ1の製造方法は、製造された光ファイバ用母材1Pを線引きする線引工程P3を備える。本実施形態では、外側クラッドガラス体形成工程P2により、第1領域ガラス体Pb1及び第2領域ガラス体Pb2が形成される。
【0035】
(内側クラッドガラス体形成工程P1)
本工程は、コアガラス体10Pの外周面上に内側クラッドガラス体11Paを形成する工程であり、堆積工程P11と、拡散工程P12と、焼結工程P13と、を備える。
【0036】
<堆積工程P11>
本工程は、外付け法により断面の形状が円形のコアガラス体10Pの外周面上にガラス微粒子であるスートを堆積させて多孔質ガラス体を形成する工程である。従って、本工程では、コアガラス体10Pが出発基材である。なお、円形とは、見た目に円形であればよく、例えば非円率2.0%以下のものをいう。
図5は、本工程の様子を示す図である。本工程では、コアガラス体10Pを準備して、コアガラス体10Pの表面上に内側クラッドガラス体11Paとなるスート11Saを堆積させる。スート11Saは、バーナ50から火炎と共に噴射させる。スート11Saの材料は、SiCl
4、OMCTS(オクタメチルシクロテトラシロキサン)、及びHMDSO(ヘキサメチルシロキサン)のいずれかであることが好ましい。このときバーナ50をトラバースさせる毎にデポジション温度を下げる。最も内周側のスート11Saを堆積させる際のデポジション温度は、1060℃以上1230℃以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることで、内側クラッドガラス体11Paとなるスート11Saの最も内側の嵩密度を0.63g/cm
3以上0.87g/cm
3以下にすることができる。また、最も外周側のスート11Saを堆積させる際のデポジション温度は、1000℃以上1175℃以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることで、スート11Saの最も外側の嵩密度を0.54g/cm
3以上0.79g/cm
3以下にすることができる。内周側から外周側に向かってデポジション温度が低くなるため、堆積されるスートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなる。また、内周側のデポジション温度と外周側のデポジション温度との差は、40度以上55度以下であることが好ましい。このような温度範囲内であるため、内側クラッドガラス体11Paとなるスートの嵩密度の最大値と最小値との差を0.05g/cm
3以上0.09g/cm
3以下にすることができる。なお、デポジション温度は、堆積されたスート11Saの表面温度である。
【0037】
本工程により、コアガラス体10Pの外周面上に内側クラッドガラス体11Paとなるスート11Saが堆積された多孔質ガラス体20が得られる。本工程で堆積されるスート11Saの厚みは、例えば、後述のようにガラス化された際に厚みが20mm以上となる厚みである。
【0038】
<拡散工程P12>
本工程は、堆積工程P11で形成された多孔質ガラス体のスート11Saにフッ素を添加する工程である。
図6は、本工程の様子を示す図である。
図6に示すように、本実施形態では、収容空間75を有する炉心管71と、当該炉心管71を加熱する発熱体72とを備える加熱炉70を用いて、多孔質ガラス体20のスート11Saにフッ素を添加する。まず、支持棒76に吊り下げられた多孔質ガラス体20を炉心管71の収容空間75内に収容させる。次に、不図示の給気口からフッ素を含有する拡散用ガスを収容空間75に供給しつつ、発熱体72によって収容空間75内を加熱する。拡散用ガスは、不活性ガスにフッ素ガスが混合したガスを用いる。不活性ガスとしては、He、N
2、Arを挙げることができる。フッ素ガスとしては、CF
4,C
2F
6,SF
6,SiF
4等を挙げることができる。このとき拡散用ガスの雰囲気中のフッ素濃度は1.8%以上7.4%以下である。また、収容空間75内の温度は、800℃以上1250℃以下であることが好ましく、900℃以上1100℃以下であることがより好ましい。このような条件とすることで、堆積工程P11で上記嵩密度に堆積されたスート11Saにフッ素をより適切な量添加することができる。
【0039】
また、拡散用ガスに塩素系ガスを混合することにより、本工程と同時に脱水工程を行ってもよい。塩素系ガスとしては、Cl2,SiCl4,SOCl2,CCl4等を挙げることができる。或いは、本工程の前に脱水工程を行ってもよい。
【0040】
こうして、多孔質ガラス体20のスート11Saにフッ素が添加される。
【0041】
<焼結工程P13>
本工程は、拡散工程P12でフッ素が添加されたスート11Saを焼結して透明ガラス化する工程である。本実施形態では、上記の加熱炉70を用いて、多孔質ガラス体20を加熱することでスート11Saを透明ガラス化する。なお、本工程では、不図示の給気口から焼結用ガスを収容空間75内に供給しつつ、多孔質ガラス体20を加熱する。焼結用ガスとして、例えば、上記の不活性ガスが挙げられる。また、雰囲気中の不要なフッ素を除去するには、焼結用ガスを一定時間炉心管71内に流したり、炉心管71内を一定期間減圧したり、1000℃-1200℃で堆積されたスート11Saを加熱することが挙げられる。また、多孔質ガラス体20を加熱する温度は、多孔質ガラス体20が焼結して透明ガラス化する温度であれば特に限定されず、例えば、1300℃以上1500℃以下であることが好ましい。また、焼結用ガスにフッ素ガスが混合されてもよい。この場合、焼結用ガスのフッ素の濃度は、0.41%以下であることが好ましく、0.18%以上であることが、適切な量のフッ素を内側クラッドガラス体11Pa添加する観点からより好ましい。なお、本工程は多孔質ガラス体20を焼結できればよく、加熱炉70の構成や焼結方法は特に制限されるものではない。
【0042】
なお、ガス中のフッ素の濃度という場合、雰囲気中のフッ素の分圧と言い換えても同様の結果となる。
【0043】
こうして、コアガラス体10Pの外周面上に内側クラッドガラス体11Paが形成されたガラス体を得る。
【0044】
(外側クラッドガラス体形成工程P2)
本工程は、コアガラス体10Pの外周面上に形成された内側クラッドガラス体11Paの外周面上に第1領域ガラス体Pb1及び第2領域ガラス体Pb2とから成る外側クラッドガラス体11Pbを形成する工程であり、堆積工程P21と、拡散工程P22と、焼結工程P23と、を備える。
【0045】
<堆積工程P21>
本工程は、堆積工程P11と概ね同様の方法で、内側クラッドガラス体11Paの外周面上に外側クラッドガラス体11Pbとなるスートを堆積させて多孔質ガラス体を形成する工程である。従って、本工程では、コアガラス体10の外周面上に内側クラッドガラス体11Paが設けられた断面の形状が円形のガラス体が出発基材となる。本工程においてもバーナ50をトラバースさせる毎にデポジション温度を下げる。最も内周側のスートを堆積させる際のデポジション温度は、1060℃以上1230℃以下であることが好ましい。このとき、堆積されるスートの最も内側の嵩密度を0.63g/cm3以上0.87/cm3以下にすることができる。また、最も外周側のスートを堆積させる際のデポジション温度は、1000℃以上1175℃以下であることが好ましい。このような温度範囲とすることで、堆積されるスートの最も外側の嵩密度を0.54g/cm3以上0.79/cm3以下にすることができる。本工程でも堆積されるスートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなる。また、内周側のデポジション温度と外周側のデポジション温度との差は、40℃以上55℃以下であることが好ましい。このような温度範囲内とすることで、堆積されるスートの嵩密度の最大値と最小値との差を0.05g/cm3以上/0.09cm3以下にすることができる。
【0046】
本工程により、内側クラッドガラス体11Paの外周面上に外側クラッドガラス体11Pbとなるスートが堆積された多孔質ガラス体が形成される。なお、本工程で堆積される第1領域ガラス体Pb1となるスートの嵩密度は、上記範囲内で堆積工程P11で堆積されるスート11Saの嵩密度よりも高いことが、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差を内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差よりも浅くする観点から好ましい。
【0047】
<拡散工程P22>
本工程は、拡散工程P12と概ね同様の方法で、堆積工程P21で形成された多孔質ガラス体のスートにフッ素を添加する工程である。本実施形態では、加熱炉70を用いる。本工程では、堆積工程P21で得られた多孔質ガラス体を炉心管71の収容空間75に収容させて、拡散工程P12と同様にして、スートにフッ素を拡散させる。なお、本工程での拡散用ガスの雰囲気中のフッ素濃度は拡散工程P12と同様に1.8%以上7.4%以下である。また、本工程での収容空間75内の温度、本工程の時間は、拡散工程P12と同様であることが好ましい。なお、本工程と同時或いは本工程の前に脱水工程を行ってもよい。こうして、堆積工程P21で形成された多孔質ガラス体のスートにフッ素が添加される。なお、本工程における拡散用ガスの雰囲気中のフッ素濃度は、上記範囲内において、拡散工程P12での拡散用ガスの雰囲気中のフッ素濃度よりも低いことが、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差を内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差よりも浅くする観点から好ましい。
【0048】
<焼結工程P23>
本工程は、拡散工程P22でフッ素が添加されたスートを焼結して透明ガラス化する工程である。本実施形態では、焼結工程P13と同様に行われる。なお、本工程で焼結用ガスにフッ素ガスが混合される場合、フッ素の濃度は、0.41%以下であることが好ましく、0.18%以上であることが、外側クラッドガラス体11Pbに適切な量のフッ素を添加する観点から好ましい。こうしてスートが透明ガラス化して外側クラッドガラス体11Pbとなり、コアガラス体10P、内側クラッドガラス体11Pa、及び外側クラッドガラス体11Pbが一体となった
図3の光ファイバ用母材1Pを得る。なお、本工程で焼結用ガスにフッ素ガスが混合される場合であっても、フッ素濃度は、焼結工程P13で用いられる焼結用ガスの雰囲気中のフッ素濃度よりも低いことが、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差を内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差よりも浅くする観点から好ましい。また、本工程では、フッ素ガスが混合されなくてもよい。
【0049】
(線引工程P3)
本工程は、光ファイバ用母材1Pを線引きして光ファイバ1を得る工程である。本工程については、特に図示せずに説明をする。本工程では、光ファイバ用母材1Pを紡糸炉で加熱して、光ファイバ用母材の下端部からガラスを線引きする。この線引きされたガラスは、すぐに固化して、コアガラス体10Pがコア10となり、クラッドガラス体11Pがクラッド11となり、コア10とクラッド11とから構成される光ファイバ裸線となる。この光ファイバ裸線の外周面上に、被覆層12を設けて、
図1に示す光ファイバ1が得られる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態は、純粋シリカガラスに対する比屈折率差が-0.20%以上-0.05%以下、比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下であり、光ファイバ1のコア10より外側に配置される所定の層となる所定のガラス体を含む光ファイバ用ガラス体としての光ファイバ用母材1Pの製造方法である。上記のように、内側クラッド11aを所定の層とし、出発基材をコアガラス体10Pとし、内側クラッドガラス体11Paを所定のガラス体として捉えることができる。或いは、上記のように、外側クラッド11bを所定の層とし、出発基材をコアガラス体10Pに内側クラッド11aが設けられたガラス体とし、外側クラッドガラス体11Pbを所定のガラス体として捉えることができる。これらの捉え方の場合、この製造方法は、出発基材の外周面に所定のガラス体となるスートを堆積する堆積工程P11,P21と、出発基材にスートが堆積された多孔質ガラス体をフッ素を含有する雰囲気中で加熱して、スートにフッ素を拡散させる拡散工程P12、P22と、フッ素が拡散されたスートを焼結して透明ガラス化する焼結工程P13,P23と、を備える。堆積されたスートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなり、内周側では0.63g/cm3以上0.87g/cm3以下であり、外周側では0.54g/cm3以上0.79g/cm3以下であり、当該嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm3以上0.09g/cm3以下であり、拡散工程P12では、雰囲気中のフッ素濃度が1.8%以上7.4%以下である。
【0051】
このような光ファイバ用母材1Pの製造方法によれば、所定のガラス体となるスートの嵩密度が外周側に向かって低くなるため、製造の際に所定のガラス体の割れ等を抑制することができる。また、スートの嵩密度と、拡散工程P12,P22における雰囲気中のフッ素濃度とが上記条件を満たすことで、所定のガラス体の比屈折率差が上記範囲の場合であっても、拡散工程P12,P22の時間が長時間化することを抑制しつつも、スートにフッ素を適切に添加することができる。従って、本実施形態の光ファイバ用母材1Pの製造方法によれば、光ファイバ1のコア10よりも外側に配置される所定の層となる所定のガラス体の純粋シリカに対する比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用母材1Pの製造効率の低下を抑制し得る。
【0052】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0053】
図7は、本実施形態の光ファイバの屈折率分布を
図2と同様に示す図である。本実施形態の光ファイバは、
図1に示す光ファイバ1の内側クラッド11aと外側クラッド11bとの間において、内側クラッド11aを囲うトレンチ層13を備える点において、
図1に示す光ファイバ1と異なる。本実施形態では、第1実施形態の内側クラッド11aと区別をするために、トレンチ層13で囲われる内側クラッド11aを内クラッド11aと呼ぶ。このような光ファイバは、トレンチ型光ファイバと呼ばれ、コア10、内クラッド11a、及びトレンチ層13でコア要素と呼ばれる場合がある。トレンチ型光ファイバでは、光は主にコア要素を伝搬する。
【0054】
トレンチ層13の屈折率は、内クラッド11a、外側クラッド11bよりも低く、トレンチ層の比屈折率差は、例えば、-0.20%以上-0.05%以下である。
【0055】
このようなトレンチ型光ファイバを製造するための光ファイバ用母材の製造方法は、第1実施形態の光ファイバ用母材の製造方法における内側クラッドガラス体形成工程P1と、外側クラッドガラス体形成工程P2との間にトレンチ層13となるトレンチ層ガラス体形成工程を備える。ただし、上記のように内側クラッド11aを内クラッド11aと読み替えるため、本実施形態では、内側クラッドガラス体11Paを内クラッドガラス体11Paと読み替え、内側クラッドガラス体形成工程P1を内クラッドガラス体形成工程P1と読み替える。内クラッドガラス体11Paは、光ファイバにおいて内クラッド11aとなる。トレンチ層ガラス体形成工程では、内クラッドガラス体形成工程P1まで完了し、コアガラス体10Pの外周面上に内クラッドガラス体11Paが形成されたガラス体をトレンチ層13と同様の屈折率を有するガラス管の貫通孔内に挿入して、コラプスする。こうして内クラッドガラス体11Paの外周面上にトレンチ層ガラス体が形成される。その後、外側クラッドガラス体形成工程P2を行う。なお、本実施形態の外側クラッドガラス体形成工程P2では、出発基材が光ファイバのコア10となるコアガラス体10Pと、光ファイバのクラッド11よりも低い屈折率のトレンチ層13となりコアガラス体10Pを囲うトレンチ層ガラス体と、を含み、外側クラッドガラス体11Pbとなるスートはトレンチ層ガラス体の外周面上に堆積される。こうして、本実施形態の光ファイバの製造に用いる光ファイバ用母材を得る。この光ファイバ用母材を用いて線引工程P3を行うことで
図7の屈折率分布を有する光ファイバを得る。
【0056】
なお、トレンチ層ガラス体形成工程では、コアガラス体10Pの外周面上に内クラッドガラス体11Paが形成されたガラス体に上記の堆積工程、拡散工程、焼結工程と概ね同様の工程を行いトレンチ層ガラス体を形成してもよい。この場合、例えば、堆積工程では第1実施形態の堆積工程P11よりも嵩密度を低くして、拡散工程では第1実施形態の拡散工程P12よりも雰囲気中のフッ素濃度を高くして、スートに添加されるフッ素濃度を高くする。
【0057】
本実施形態の光ファイバ用母材の製造方法では、トレンチ層13の内側でコア10を囲う内クラッド11aを所定の層とし、出発基材をコアガラス体10Pとし、内クラッドガラス体11Paを所定のガラス体として捉えることができる。このような捉え方の場合、コア10とトレンチ層13との間に所定の層が位置する場合に、当該所定の層となる所定のガラス体の比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用母材の製造効率の低下を抑制し得る。或いは、上記のように、出発基材をコアガラス体10Pとトレンチ層ガラス体とを含むガラス体とし、外側クラッド11bを所定の層とし、外側クラッドガラス体11Pbを所定のガラス体として捉えることができる。この場合には、トレンチ層13の外側に所定に層が位置する場合に、当該所定の層となる所定のガラス体の比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用母材の製造効率の低下を抑制し得る。
【0058】
なお、本実施形態のようにトレンチ層を有する光ファイバを製造するための光ファイバ用ガラス体の製造方法において、トレンチ層13となるガラス体を所定のガラス体としてもよい。この場合、出発基材は、コアガラス体10Pと、コアガラス体10Pを囲う内クラッドガラス体11Paと、を含み、スートは内クラッドガラス体11Paの外周面上に堆積される。この場合の内クラッドガラス体11Paは、コアガラス体10Pの屈折率よりも低く所定のガラス体の屈折率よりも高い屈折率を有する。この場合には、内クラッド11aとなる内クラッドガラス体11Paの屈折率が、一定であってもよい。
【0059】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等の構成要素については、特に説明する場合を除き、同一の参照符号を付して重複する説明は省略する。
【0060】
図8は、本実施形態の光ファイバの屈折率分布を
図2と同様に示す図である。本実施形態の光ファイバは、
図1に示す光ファイバ1のコア10と内側クラッド11aとの間において、中間クラッド14及びトレンチ層13を備える点において、
図1に示す光ファイバ1と異なる。従って、本実施形態の光ファイバは第2実施形態と同様にトレンチ型光ファイバである。ただし、本実施形態の光ファイバは、内側クラッド11aがトレンチ層13の外周面上に位置している点において、第2実施形態の光ファイバと異なる。
【0061】
このようなトレンチ型光ファイバを製造するための光ファイバ用母材の製造方法では、コア要素となるロッド状のコア要素ガラス体を準備する。コア要素ガラス体は、コア10となるコアガラス体10Pの外周面上に中間クラッド14となる中間クラッドガラス体が形成され、中間クラッドガラス体の外周面上にトレンチ層13となるトレンチ層ガラス体が形成された断面が円形のガラス体である。本実施形態では、第1実施形態の光ファイバ用母材の製造方法における内側クラッドガラス体形成工程P1において、コアガラス体10Pの代わりにこのコア要素ガラス体におけるトレンチ層ガラス体の外周面上にスート11Saを堆積させる。従って、本実施形態では、コア要素ガラス体が、内側クラッドガラス体11Paとなるスート11Saが堆積される出発基材である。その後、他の工程を第1実施形態の光ファイバ用母材の製造方法と同様に行う。こうして、
図8の屈折率分布を有する光ファイバの製造に用いる光ファイバ用母材を得る。この光ファイバ用母材を用いて線引工程P3を行うことで
図8の屈折率分布を有する光ファイバを得る。
【0062】
本実施形態の光ファイバ用母材の製造方法によれば、トレンチ型光ファイバにおけるコア要素周囲の層である内側クラッド11aが所定の層である場合に、当該所定の層となる所定のガラス体の比屈折率差が浅く、当該比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用母材の製造効率の低下を抑制し得る。
【0063】
なお、本実施形態では、中間クラッドが省略され、コア10がトレンチ層13に接していてもよい。その場合、内側クラッドガラス体形成工程P1で準備するガラス体は、コア10となるコアガラス体10Pの外周面上にトレンチ層13となるトレンチ層ガラス体が形成されたガラス体である。
【0064】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
例えば、上記実施形態では、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差が、-0.20%以上-0.05%以下であり、外側クラッドガラス体11Pbの比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下である例を示して説明した。しかし、上記実施形態と異なり、外側クラッドガラス体11Pbの全体において、この比屈折率差から外れていてもよい。この場合、内側クラッド11aのみが所定の層であり、内側クラッドガラス体11Paが所定のガラス体であり、外側クラッド11bは所定の層ではなく外側クラッドガラス体11Pbは所定のガラス体ではないと捉えることができる。また、外側クラッドの一部の層がこのような比屈折率差を有し、他の一部がこのような比屈折率差を有さなくてもよい。例えば、第2領域ガラス体Pb2の外周側がこのような比屈折率差を有さなくてもよい。この場合、上記比屈折率差を満たす領域を所定の層となる所定のガラス体と捉えることができる。また例えば、第1領域ガラス体Pb1のみが所定のガラス体とされてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、光ファイバの製造に用いられる光ファイバ用ガラス体が光ファイバ用母材である例を挙げて説明した。しかし、本発明は、これに限らない。例えば、第1実施形態において、コアガラス体10Pの外周面上に内側クラッドガラス体11Paが設けられた状態の中間母材は、本発明における光ファイバの製造に用いられる光ファイバ用ガラス体である。或いは、第3実施形態において、トレンチ層ガラス体の外周面上に内側クラッドガラス体11Paが設けられた状態の中間母材は、本発明における光ファイバの製造に用いられる光ファイバ用ガラス体である。
【0067】
以上より、本発明は、純粋シリカガラスに対する比屈折率差が-0.20%以上-0.05%以下、比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下であり、光ファイバ1のコア10より外側に配置される所定の層となる所定のガラス体を含む光ファイバ用ガラス体の製造方法であって、出発基材の外周面に所定のガラス体となるスートを堆積する堆積工程と、出発基材にスートが堆積された多孔質ガラス体をフッ素を含有する雰囲気中で加熱して、スートにフッ素を拡散させる拡散工程と、フッ素が拡散されたスートを焼結して透明ガラス化する焼結工程と、を備え、堆積されたスートの嵩密度は、内周側から外周側に向かって低くなり、内周側では0.63g/cm3以上0.87g/cm3以下であり、外周側では0.54g/cm3以上0.79g/cm3以下であり、当該嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm3以上0.09g/cm3以下であり、拡散工程P12では、雰囲気中のフッ素濃度が1.8%以上7.4%以下である。
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
VAD法で作製した塩素濃度1.5wt%のシリカガラスから成るφ20のコアロッドガラス体を準備した。このコアロッドガラス体の外周面上に堆積工程P11を行い、スートを堆積させて、多孔質ガラス体を得た。本工程では、最初のデポジション温度を1100℃とし、徐々に温度を下げて最終的なデポジション温度を1040℃とした。その結果、内周側でのスートの嵩密度は0.68g/cm3であり、外周側でのスートの嵩密度は0.61g/cm3であった。なお、嵩密度は、スート1層ごとの厚みをレーザを使って測定し、スート1層ごとのスート重量の増加分から算出する。次に、この多孔質ガラス体を加熱炉内に配置して、加熱炉内を150sccmのCl2、5SLMのHeガス雰囲気として、1050℃で5時間加熱して脱水処理を行った。次に、加熱炉内を200sccmのSiF4、5SLMのHeガス雰囲気として、1050℃で8時間加熱して、拡散工程P12を行い、フッ素をスートに添加した。この雰囲気中のフッ素濃度は2.8%である。そして10時間後にSiF4を12.5sccmとして、加熱炉内の雰囲気が十分に置換された後、1450℃で加熱して焼結工程P13を行って、スートを透明ガラス化した。焼結工程P13における雰囲気中のフッ素濃度は0.25%である。脱水処理の開始から焼結工程P13の終了まで20時間であった。こうして、コアガラス体10Pの外周面上に内側クラッドガラス体11Paが形成されたガラス体を得た。
【0070】
次に、このガラス体をφ25に延伸した後、堆積工程P21を行い、スートを堆積させて、多孔質ガラス体を得た。本工程では、最初のデポジション温度を1165℃とし、徐々に温度を下げて最終的なデポジション温度を1120℃とした。次に、上記の脱水処理、拡散工程P12、及び焼結工程P13と同様の条件で、脱水処理、拡散工程P22、及び焼結工程P23を行った。こうして光ファイバ用母材を得た。この光ファイバ用母材の内側クラッドガラス体11Paの内周側から外周側にかけての比屈折率差を表1及び
図9に示す。なお、規格化半径とは、それぞれの光ファイバ用母材の内側クラッドガラス体11Paの厚みで規格化した半径である。
【0071】
(実施例2-7)
最初のデポジション温度、最終的なデポジション温度を表1に示す温度として、実施例1と同様にして堆積工程P11を行い、内周側でのスートの嵩密度、外周側でのスートの嵩密度が表1の嵩密度である多孔質ガラス体を得た。次に、雰囲気中のフッ素濃度を表1の濃度として、実施例1と同様にして拡散工程及び焼結工程を行い、さらにその後の工程を実施例1と同様にして光ファイバ用母材を得た。この光ファイバ用母材の内側クラッドガラス体11Paの内周側から外周側にかけての比屈折率差を表1及び
図9に示す。
【0072】
(比較例1-6)
最初のデポジション温度、最終的なデポジション温度を表1に示す温度として、実施例1と同様にして堆積工程P11を行い、内周側でのスートの嵩密度、外周側でのスートの嵩密度が表1の嵩密度である多孔質ガラス体を得た。次に、雰囲気中のフッ素濃度を表1の濃度として、実施例1と同様にして拡散工程及び焼結工程を行い、さらにその後の工程を実施例1と同様にして光ファイバ用母材を得た。なお、比較例6の拡散工程は、実施例1の2倍の時間とした。この光ファイバ用母材の内側クラッドガラス体11Paの内周側から外周側にかけての比屈折率差を表1及び
図10に示す。
【0073】
実施例1-7では、表1の条件で光ファイバ用母材を作製することで、内側クラッドガラス体11Paとなるスートの嵩密度は、内周側から概ね外周側に向かって低くなり、内周側では0.63g/cm3以上0.87g/cm3以下であり、外周側では0.54g/cm3以上0.79g/cm3以下であり、当該嵩密度の最大値と最小値との差が0.05g/cm3以上0.09g/cm3以下となった。また、内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差は-0.20%以上-0.05%以下であり、当該比屈折率差の最大値と最小値との差が0.03%以上0.04%以下となることが分かった。つまり、内側クラッドガラス体11Paを浅い比屈折率差し得、内側クラッドガラス体11Paの屈折率の変動を抑えることができることが分かった。
【0074】
一方、比較例1,2は、内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差の変化が大きい結果となった。この原因は、比較例1では、焼結工程P13でのフッ素濃度が高いためと考えられ、比較例2では、嵩密度が実施例と概ね同じであるが拡散工程P12におけるフッ素濃度が低いためと考えられる。比較例3,4は、内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差が深くなりすぎる結果となった。この原因は、堆積されたスートの嵩密度が低すぎるためと考えられる。比較例5は、内側クラッドガラス体11Paの比屈折率差の変化が大きい結果となった。この原因は、嵩密度が低いものの、拡散工程P12でのフッ素濃度が低すぎ、フッ素がスートの内周側まで適切に入り込まなかったためと考えられる。また、上記のように、適切な特性を得られた比較例6は、拡散工程P12に長時間を要した。
【0075】
以上より、本発明の範囲内である実施例によれば、クラッドの内周側における領域の比屈折率差が浅い光ファイバの製造に用いる光ファイバ用ガラス体である光ファイバ用母材の製造効率の低下を抑制し得る光ファイバ用母材の製造方法が提供されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
発明によれば、光ファイバのクラッドとなるクラッドガラス体の少なくとも一部の層の純粋なシリカガラスに対する比屈折率差が浅く、当該層において比屈折率差の変動が小さい光ファイバ用ガラス体を、製造効率の低下を抑制して製造し得る光ファイバ用ガラス体の製造方法が提供され、光ファイバの製造等の分野で利用することが期待される。
【符号の説明】
【0077】
1・・・光ファイバ
1P・・・光ファイバ用母材
10・・・コア
10P・・・コアガラス体
11・・・クラッド
11a・・・内側クラッド(内クラッド)
11b・・・外側クラッド
11P・・・クラッドガラス体
11Pa・・・内側クラッドガラス体(内クラッドガラス体)
11Pb・・・外側クラッドガラス体
20・・・多孔質ガラス体
P1・・・内側クラッドガラス体形成工程(内クラッドガラス体形成工程)
P2・・・外側クラッドガラス体形成工程
P3・・・線引工程
P11,P21・・・堆積工程
P12,P22・・・拡散工程
P13,P23・・・焼結工程