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特開2023-11436質量分析システム、処理装置及び異常検出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011436
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】質量分析システム、処理装置及び異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230117BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N30/72 C
G01N27/62 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115280
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉山 益之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄一郎
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041HA01
(57)【要約】
【課題】液体クロマトグラフ質量分析装置における異常検出を容易に行うことを課題とする。
【解決手段】複数の流路を持つ液体クロマトグラフィと、質量分析装置110と、質量分析装置110から物質の測定結果である信号強度を取得する処理装置2とを有し、複数の流路のそれぞれは分離カラム105が備えられているとともに、複数の流路は互いに並列となるよう設置され、複数の流路はセレクタバルブ106によって質量分析装置110と接続される流路が選択され、複数の流路それぞれについて、所定の物質を溶液とともに流通させ、所定の物質を質量分析装置110で測定し、処理装置2、複数の流路それぞれについて、質量分析装置110による測定の結果得られる信号強度を基に、LC/MS1の異常を判定し、判定の結果を出力装置に出力することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路を持つ液体クロマトグラフィと、質量分析装置と、前記質量分析装置から物質の測定結果である信号強度を取得する処理装置とを有し、
前記複数の流路のそれぞれは分離カラムが備えられているとともに、前記複数の流路は互いに並列となるよう設置され、
前記複数の流路はセレクタバルブによって前記質量分析装置と接続される流路が選択され、
前記複数の流路それぞれについて、所定の物質を溶液とともに流通させ、前記所定の物質を前記質量分析装置で測定し、
前記処理装置は、
前記複数の流路それぞれについて、前記質量分析装置による測定の結果得られる前記信号強度を基に、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定し、
判定の結果を出力部に出力する
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置で汚染が生じてない状態で、前記所定の物質が前記複数の流路それぞれに流されることで、前記質量分析装置による事前測定が行われ、前記事前測定の結果得られる事前測定信号強度を基に、前記信号強度の閾値が前記流路ごとに予め設定され、
前記処理装置は、
前記事前測定の後に行われる測定で取得された前記信号強度と前記閾値とが比較されることによって、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項3】
前記処理装置は、
前記複数の流路のうち、所定の流路において前記信号強度が前記閾値より低く、その他の流路において、前記信号強度が前記閾値より高い場合、前記信号強度が前記閾値より低い流路を構成する部品に汚染が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析システム。
【請求項4】
前記複数の流路のすべてにおいて前記信号強度が前記閾値より低い場合、前記複数の流路のうち、各流路で共通の箇所、前記溶液、及び、前記質量分析装置に備えられているイオン源のいずれかにおいて汚染が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析システム。
【請求項5】
前記所定の物質として、イオン化効率が異なる複数の成分を有する混合サンプルが用いられ、
前記処理装置は、
前記流路ごとに前記混合サンプルの前記信号強度の比である信号強度比を算出し、
それぞれの流路における前記信号強度及び前記信号強度比を基に、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項6】
前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置を構成する各部が汚染されていない状態で、既知の成分濃度を有する前記混合サンプルに対して事前測定が行われ、
前記事前測定の結果得られる事前測定信号強度を基に、前記信号強度の閾値である信号強度閾値が前記成分ごとに設定されるとともに、
前記事前測定の結果得られる前記事前測定信号強度を基に、前記信号強度比の閾値がとりうる範囲である信号強度比閾値範囲が設定され、
前記事前測定の後、前記混合サンプルに対して測定が行われ、
前記処理装置は、
前記測定が行われた結果、取得される複数の前記信号強度と、前記信号強度閾値とを比較するとともに、
前記測定が行われた結果、取得される複数の前記信号強度から算出される前記信号強度比と、前記信号強度比閾値範囲とを比較することで、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置における異常を検出する
ことを特徴とする請求項5に記載の質量分析システム。
【請求項7】
前記処理装置は、
特定の流路において、すべての成分に関する前記信号強度が前記信号強度閾値より低く、かつ、信号強度比が前記信号強度比閾値範囲外に存在する場合、当該流路を構成する部品のいずれかに汚染が生じている
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析システム。
【請求項8】
前記処理装置は、
すべての流路において、すべての成分に関する前記信号強度が前記信号強度閾値より低く、かつ、すべての流路において、前記信号強度比が信号強度比閾値範囲内に存在する場合、前記質量分析装置の汚染及び劣化のうち、少なくとも一方が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析システム。
【請求項9】
前記処理装置は、
すべての流路において、すべての成分に関する前記信号強度が前記信号強度閾値より低く、かつ、すべての流路において、前記信号強度比が信号強度比閾値範囲外に存在し、
さらに、前記混合サンプルに含まれる、前記イオン化効率の異なる成分のうち、前記イオン化効率が高い成分について、前記信号強度閾値に対する前記信号強度の低下幅が、前記イオン化効率が低い成分の前記低下幅より大きく、かつ、前記イオン化効率が高い成分に関する前記信号強度と、前記事前測定信号強度との比が、前記イオン化効率が低い成分に関する前記信号強度と、前記事前測定信号強度との比より低い値を示す場合、前記溶液の汚染が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析システム。
【請求項10】
前記処理装置は、
すべての流路において、すべての成分に関する前記信号強度が前記信号強度閾値より低く、かつ、すべての流路において、前記信号強度比が信号強度比閾値範囲外に存在し、
さらに、前記混合サンプルに含まれる、前記イオン化効率の異なる成分のうち、前記イオン化効率が低い成分について、前記信号強度閾値に対する前記信号強度の低下幅が、前記イオン化効率が高い成分の前記低下幅より大きく、かつ、前記イオン化効率が低い成分に関する前記信号強度と、前記事前測定信号強度との比が、前記イオン化効率が高い成分に関する前記信号強度と、前記事前測定信号強度との比より低い値を示す条件を満たす場合、少なくとも各流路で共通の箇所において汚染が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項6に記載の質量分析システム。
【請求項11】
前記信号強度の時系列が、非連続的に低下する場合、異物の混入、及び、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の交換作業に伴う汚染のうち、少なくとも一方が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項12】
前記信号強度の時系列が、連続的に低下する場合、前記液体クロマトグラフィを構成する配管における汚染の蓄積、及び、前記質量分析装置を構成する部品の劣化のうち、少なくとも一方が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析システム。
【請求項13】
複数の流路を持つ液体クロマトグラフィと、質量分析装置と、を有する液体クロマトグラフ質量分析装置の前記質量分析装置から物質の測定結果である信号強度を取得する処理装置であって、
前記複数の流路のそれぞれに分離カラムが備えられているとともに、前記複数の流路は互いに並列となるよう設置され、
前記複数の流路はセレクタバルブによって前記質量分析装置と接続される流路が選択され、
前記複数の流路それぞれについて、所定の物質を溶液とともに流通させ、前記所定の物質を前記質量分析装置で測定し、
前記処理装置は、
前記複数の流路それぞれについて、前記質量分析装置による測定の結果得られる前記信号強度を基に、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定し、
判定の結果を出力部に出力する
ことを特徴とする処理装置。
【請求項14】
複数の流路を持つ液体クロマトグラフィと、質量分析装置と、前記質量分析装置から物質の測定結果である信号強度を取得する処理装置とを有する質量分析システムにおける異常検出方法であって、
前記複数の流路のそれぞれに分離カラムが備えられているとともに、前記複数の流路は互いに並列となるよう設置され、
前記複数の流路はセレクタバルブによって前記質量分析装置と接続される流路が選択され、
前記複数の流路それぞれについて、所定の物質を溶液とともに流通させ、前記所定の物質を前記質量分析装置で測定する
前記処理装置が、
前記複数の流路それぞれについて、前記質量分析装置による測定の結果得られる前記信号強度を基に、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定し、
判定の結果を出力部に出力する
ことを特徴とする異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離カラムを通る流路が複数ある液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)における質量分析システム、処理装置及び異常検出方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は、真空中で分子イオンの質量電荷比(m/z)によりイオンを分離する装置である。そして、質量分析装置によれば、イオンを高感度かつ高精度に分離・検出することが可能である。また、質量分析装置は、液体クロマトグラフ(LC)の検出器として一般的に用いられており、液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)と呼ばれる分析手法がよく用いられている。
【0003】
ここで、LCは移動相を送液ポンプで加圧して分離カラムを通過させ、サンプルを分離カラムの固定相および移動相との相互作用(吸着、分配等)の差で分離して検出する分析手法である。分離カラムを使った分析では分離カラムに流れる流量が高いほど分離に要する時間が短くなる。一方、分離カラムに流れる流量が高いほど必要な送液圧力が高くなるため、送液ポンプで高い圧力をかける必要がある。また、LC/MSの場合、流量が高いほどイオン化効率が低下する。このため、単一の流路を使ったLC分析ではスループットが限られる。そこで、特許文献1にはそれぞれに分離カラムをもった複数の流路で並列に分析を行うことで高いスループットを実現する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6908740号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術のように複数の流路を有するLC/MSでは、感度低下の要因が移動相、イオン源や、流路の汚染、送液ポンプでの溶液混合のエラー等複数あり、汚染箇所を特定するのが困難であるという課題がある。このような感度低下の原因を特定することが必要であるが、特許文献1には汚染箇所を特定するための手法が開示されていない。
【0006】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、液体クロマトグラフ質量分析装置における異常検出を容易に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するため、本発明は、複数の流路を持つ液体クロマトグラフィと、質量分析装置と、前記質量分析装置から物質の測定結果である信号強度を取得する処理装置とを有し、前記複数の流路のそれぞれは分離カラムが備えられているとともに、前記複数の流路は互いに並列となるよう設置され、前記複数の流路はセレクタバルブによって前記質量分析装置と接続される流路が選択され、前記複数の流路それぞれについて、所定の物質を溶液とともに流通させ、前記所定の物質を前記質量分析装置で測定し、前記処理装置は、前記複数の流路それぞれについて、前記質量分析装置による測定の結果得られる前記信号強度を基に、前記液体クロマトグラフィ及び前記質量分析装置の異常を判定し、判定の結果を出力部に出力することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体クロマトグラフ質量分析装置における異常検出を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】LC/MCシステムの構成例を示す図である。
図2】第1実施形態における処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
図3】第1実施形態における閾値設定処理の手順を示す。
図4】第1実施形態で行われる汚染箇所特定処理の手順を示すフローチャートである。
図5A】各流路について測定した標準サンプルの質量分析装置の信号強度を示す図(その1)である。
図5B】各流路について測定した標準サンプルの質量分析装置の信号強度を示す図である。
図6】第1実施形態のまとめを示す表である。
図7】第2実施形態における処理装置の構成例を示す機能ブロック図である。
図8】第2実施形態における各種閾値の設定処理の手順を示すフローチャートである。
図9】第2実施形態で行われる汚染箇所特定処理の手順を示すフローチャートである。
図10A】各流路について測定した標準サンプルの信号強度及び信号強度比を示す図(その1)である。
図10B】各流路について測定した標準サンプルの信号強度及び信号強度比を示す図(その2)である。
図10C】各流路について測定した標準サンプルの信号強度及び信号強度比を示す図(その3)である。
図11A】夾雑物の濃度と保持時間との関係、質量分析装置110の信号強度及び信号強度/信号強度初期値と成分の保持時間の関係を示す図(その1)である。
図11B】夾雑物の濃度と保持時間との関係、質量分析装置110の信号強度及び信号強度/信号強度初期値と成分の保持時間の関係を示す図(その2)である。
図12】第3実施形態のまとめを示す表である。
図13A】第3実施形態における汚染原因の特定方法を示す図(その1)である。
図13B】第3実施形態における汚染原因の特定方法を示す図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
[第1実施形態]
まず、図1図6を参照して第1実施形態を説明する。
(システム構成)
図1は、LC/MCシステムZの構成例を示す図である。
LC/MCシステムZは、LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)1と処理装置2とを有する。
LC/MS1は複数の溶液タンク101、複数の送液ポンプ102、インジェクタ103、複数のインジェクションバルブ104、複数の分離カラム105、セレクタバルブ106、及び、質量分析装置110を有する。LC/MS1における、それぞれの構成については後記する。
また、処理装置2は、質量分析装置110からサンプルを分析した結果を取得し、さらに、送液ポンプ102、インジェクションバルブ104、セレクタバルブ106の切り替えを制御する。なお、図1では図をみやすくするため、処理装置2は、1つの送液ポンプ102、インジェクションバルブ104に接続しているが、実際には、すべての送液ポンプ102、インジェクションバルブ104を制御している。
【0012】
それぞれの溶液タンク101には異なる種類の溶液が貯留されている。図1に示す例では2種類の溶液が、それぞれ2つの溶液タンク101a,101bに貯留されている。本実施形態では、溶液タンク101aに貯留されている溶液を第1溶液と称し、溶液タンク101bに貯留されている溶液を第2溶液と称する。
送液ポンプ102は溶液タンク101に貯留されている溶液を加圧して送液する。
送液ポンプ102は、コンダクタンスが小さい分離カラム105が配置されている状態でも質量分析装置110まで送液するための流量が得られるよう、十分な圧力による送液を行う。送液ポンプ102は、典型的には0.1~100MPa程度の圧力範囲で送液できるものが用いられる。なお、分離カラム105については後記する。
【0013】
図1に示す例では、それぞれの溶液タンク101a,101bに接続している配管121a,121bは、それぞれ3つに分岐する。3つに分岐した配管122a,122bのそれぞれに送液ポンプ102が備えられている。配管122aには第1溶液が流通し、配管122bには第2溶液が流通する。送液ポンプ102の下流では、送液ポンプ102から送液された溶液が合流し、流通する配管123(123a~123c)が配置されている。図1に示す例では、それぞれの配管123には、1組の配管122a,122bが合流している。従って、図1に示す例では、配管122a及び配管122bのそれぞれが3つ設置されているため、配管123は3つ(配管123a~123c)が設置されることになる。
【0014】
送液ポンプ102から送液された第1溶液及び第2溶液は配管123で合流し、混合される。第1溶液及び第2溶液の混合液は配管123a~123cにおいて並列に送液される。
【0015】
なお、送液ポンプ102は、低圧グラジエントを用いて、自身が接続している溶液タンク101から溶液を送液する。このようにすることで、混合率を任意の割合でグラジエントをかけた混合溶液を送液することができる。
【0016】
インジェクタ103はバイアル等からサンプル溶液をサンプルループ124に注入する。そして、処理装置2によって、インジェクションバルブ104が切り替えられることにより、サンプルが注入されているサンプルループ124が配管123a~123cのいずれかに接続される。配管123(123a~123c)のそれぞれは1つの分離カラム105(105a~105c)に接続されている。このような構成により、分離カラム105にサンプルが注入される。サンプルが注入された第1溶液及び第2溶液の混合溶液をサンプル溶液と適宜称する。
【0017】
分離カラム105それぞれの下流には配管125(125a~125c)が接続されている。つまり、それぞれの分離カラム105を通過したサンプル溶液は配管125a~125を流通する。
【0018】
そして、セレクタバルブ106によって、配管123a~123cのいずれかが質量分析装置110につながる配管126に接続される。すなわち、セレクタバルブ106によって、質量分析装置110に接続される配管126の接続先が、分離カラム105の下流に設けられている配管125a~125cのいずれかに切り替えられる。
【0019】
なお、本実施形態では、配管123a、分離カラム105a、配管125aの系統を第1流路と適宜称する。同様に、配管123b、分離カラム105b、配管125bの系統を第2流路と適宜称する。さらに、配管123c、分離カラム105c、配管125cの系統を第3流路と適宜称する。また、第1流路~第3流路をまとめて流路と適宜称する。
図1に示すように、サンプル溶液は第1流路~第3流路のそれぞれにおいて並列に流通する。
【0020】
なお、配管125a~125cのうち、セレクタバルブ106によって、質量分析装置110に接続されない流路は図示しない廃液タンクに接続される。これによって、サンプル溶液が外部に流出することを防止することができる。
【0021】
前記したように、それぞれ独立した分離カラム105を通る複数の配管125(125a~125c)がセレクタバルブ106を介して質量分析装置110に接続される。図1に示す例では流路が3本である例が示されているが、流路が2本以上の構成であれば本実施形態の方法を適用することができる。
【0022】
質量分析装置110はイオン源111及びキャピラリ112を有する。
質量分析装置110はサンプルをイオン源111でイオン化し、電場や磁場を用いて質量電荷比(m/z)ごとに試料を分離することによって、サンプルの成分を測定する。測定結果は信号強度の形式で出力され、処理装置2に入力される。
試料をイオン化するイオン源111は、例えばエレクトロスプレーイオン化イオン源、大気圧化学イオン化イオン源、大気圧光イオン化イオン源等が使用可能である。いずれのイオン源111でも試料を含む溶液は細い質量分析装置110に備えられているキャピラリ112によってイオン源111へ噴霧される。
【0023】
(処理装置2)
図2は、第1実施形態における処理装置2の構成を示す機能ブロック図である。適宜、図1を参照する。
処理装置2は、PC(Personal Computer)等で構成され、CPU(Central Processing Unit)201を有している。また、処理装置2は、HD(Hard Disk)や、SSD(Solid State Drive)等で構成される記憶装置202を有する。さらに、処理装置2は、LC/MS1を制御するための制御指示をLC/MS1へ送信したり、質量分析装置110から信号を受信したりする通信装置203を有する。そして、処理装置2は、キーボード等の入力装置204、ディスプレイ等の出力装置205を有する。また、処理装置2は、RAM(Random Access Memory)等で構成されるメモリ210を備えている。メモリ210には記憶装置202に格納されているプログラムがロードされる。そして、ロードされたプログラムがCPU201によって実行されることにより、取得部211、判定処理部212、制御部213が具現化する。
【0024】
取得部211は、質量分析装置110から測定結果(信号強度)を取得する。
判定処理部212は、質量分析装置110から取得した測定結果(信号強度)を基に汚染箇所特定を行うための判定を行う。
制御部213は、送液ポンプ102や、インジェクションバルブ104、セレクタバルブ106の制御を行う。
また、記憶装置202には、判定処理部212が汚染箇所を特定する際に用いる閾値TH1が格納されている。
【0025】
(フローチャート)
本実施形態による汚染箇所の特定方法を説明する。
図3は、第1実施形態における閾値設定処理の手順を示す。適宜、図1及び図2を参照する。
まず、汚染されていない状態で、インジェクタ103から既知濃度の標準サンプルが各流路(第1流路~第3流路)に流され、質量分析装置110によって測定される(S101)。汚染されていない状態とは、溶液タンク101、配管121a,121b,122a,122b,123,125、126、サンプルループ124、分離カラム105、質量分析装置110等が汚染されていない状態のことである。
測定結果は、質量分析装置110の信号強度として処理装置2の取得部211によって取得され、処理装置2の記憶装置202に記憶される。
そして、第1流路~第3流路のそれぞれから取得された標準サンプルの信号強度の平均値等を基に閾値TH1が設定される(S102)。閾値TH1はユーザによって決定及び設定される。ただし、処理装置2が閾値TH1を算出・設定してもよい。設定された閾値TH1は記憶装置202に記憶される。なお、第1実施形態において用いられる標準サンプルは1種類でよい。
【0026】
(汚染箇所判定処理)
図4は、第1実施形態で行われる汚染箇所特定処理の手順を示すフローチャートである。適宜、図1及び図2を参照する。なお、図4における各処理の詳細については後記する。
図4に示す処理は、図3に示す処理から所定期間(例えば、1ヶ月)経過した後に行われる。さらに、一定間隔(例えば、1か月ごと)で図4に示す処理が行われる。
まず、図3の処理で使用されたものと同様の条件を備える標準サンプルが、それぞれの流路(第1流路~第3流路)に流される。同様の条件とは、同様の種類や、同様の濃度や、同様の測定条件を有するという意味である。そして、質量分析装置110によって、それぞれの第1流路~第3流路ごとに、標準サンプルの測定が行われる(S201)。測定は、第1流路~第3流路のそれぞれが1つずつセレクタバルブ106によって質量分析装置110に接続され、その都度測定が行われる。
【0027】
そして、処理装置2の判定処理部212が、ステップS201の処理により得られた測定結果(質量分析装置110の信号強度)と設定されている閾値TH1とを比較する。信号強度は、分離カラム105の温度、移動相の条件、グラジエントの条件、質量分析装置110の電極電圧設定等の測定条件に依存する。また、移動相とは、図1における配管122a,122b~配管126までに相当するものである。そして、移動相の条件とは、移動相における温度条件等である。
【0028】
そして、判定処理部212はすべての流路(第1流路~第3流路のすべて)で信号強度が閾値TH1より大きいか否かを判定する(S202)。
すべての流路で信号強度が閾値TH1より大きい場合(S202→Yes)、判定処理部212は汚染なしと判定し、判定結果を出力装置205に出力する(S203)。
【0029】
また、信号強度が閾値TH1より低い流路が存在する場合(S202→No)、判定処理部212はすべての流路で信号強度が閾値TH1以下であるか否かを判定する(S211)。
すべての流路で信号強度が閾値TH1以下ではない場合(S211→No)、判定処理部212は当該流路(特定の流路)が汚染されていると判定し、判定結果を出力装置205に出力する(S212)。流路が汚染されているとは、流路を構成する配管122a,122b,123、125、サンプルループ124、送液ポンプ102、及び、分離カラム105のいずれかが汚染されているという意味である。
【0030】
すべての流路で信号強度が閾値TH1以下である場合(S211→Yes)、判定処理部212は共通部分、溶液、及び、イオン源111のいずれかが汚染されていると判定し、判定結果を出力装置205に出力する(S213)。共通部分とは、セレクタバルブ106、配管126、インジェクタ103、質量分析装置110のキャピラリ112である。
【0031】
(判定処理の詳細)
次に、図5A及び図5Bを参照して、図4の処理の詳細について説明する。
図5A及び図5Bは、各流路について測定した標準サンプルの質量分析装置110の信号強度を示す図である。
図5A及び図5Bにおいて、横軸はLCのカラムにサンプルを注入してから溶出されるまでに要する時間(保持時間)を示す。そして、縦軸は質量分析装置110でm/zを分離して検出した標準サンプルのイオンの信号強度(即ち、サンプル(本実施形態では標準サンプル)の測定結果)である。ちなみに、LCの保持時間、及びイオン源111で生成されるイオンのm/zはサンプル(本実施形態では標準サンプル)を構成する物質に固有の値である。
【0032】
図5Aにおいて、グラフ300Aにおける信号強度301は第1流路で測定された結果を示す。また、グラフ300Bにおける信号強度302は第2流路で測定された結果を示す。さらに、グラフ300Cにおける信号強度303は第3流路で測定された結果を示す。
図5Aに示す結果では、特定の流路(図5Aに示す例ではグラフ300B:第2流路)のみ、標準サンプルの信号強度302が閾値TH1以下になっている。そして、その他(グラフ300A,300C:第1流路、第3流路)では、信号強度301,303が閾値TH1より大きい。このような測定結果は、信号強度が閾値TH以下となっている流路(図5Aの例では第2流路)が汚染され、汚染箇所から溶出した夾雑物によるイオンサプレッションで標準サンプルの信号強度が低下したことを示している。前記したように、流路が汚染されているとは、流路を構成する配管122a,122b,123、125、サンプルループ124、送液ポンプ102、及び、分離カラム105のいずれかが汚染されていることを指す。
【0033】
従って、図5Aに示すような測定結果(信号強度)が得られた場合、判定処理部212は特定の流路(図5Aの例では第2流路)で汚染が生じていると判定する(図4のステップS212)。つまり、図5A図4に示す処理でステップS202「No」→ステップS211「No」が選択された結果に相当する。このように、図5Aに示す測定結果に基づいて判定が行われることで特定の流路の汚染を容易に検出することができる。
【0034】
次に、図5Bについて説明する。
図5Bにおいて、グラフ310Aにおける信号強度311は第1流路で測定された結果を示す。また、グラフ310Bにおける信号強度312は第2流路で測定された結果を示す。さらに、グラフ310Cにおける信号強度313は第3流路で測定された結果を示す。
図5Bに示す例では、すべての流路の測定で同程度に、質量分析装置110の信号強度が低下し、閾値TH1以下となっている。つまり、グラフ310A~310Cで示されるように、第1流路~第3流路で得られる信号強度311~313のすべてが閾値TH1より低い。このような結果は、共通部分、溶液、及び、イオン源111のいずれかが汚染されていることを示している。つまり、図5Bに示す例では、汚染箇所から溶出した夾雑物によるイオンサプレッション又は質量分析装置110内部の電極のチャージアップで信号強度が低下したことを示している。前記したように、共通部分とは、セレクタバルブ106、配管126、インジェクタ103、質量分析装置110のキャピラリ112である。
ちなみに、図5Bに示す結果は、図4のステップS213に相当する。つまり、図5B図4に示す処理でステップS202「No」→ステップS211「Yes」が選択された結果に相当する。
【0035】
このように、図5Bに示す測定結果に基づいて判定が行われることで共通部分、溶液、イオン源111の汚染を容易に検出することができる。
【0036】
なお、すべての流路を構成する配管122a,122b,123,125や、サンプルループ124、送液ポンプ102、分離カラム105が同時に同程度汚染されている場合も、図5Bと同様、すべての流路の測定で信号強度が低下する。しかし、流路の汚染は、一般に一流路ずつ独立に発生するため、すべての流路における配管122aが同時に汚染される確率は低い。配管122b,123,125や、サンプルループ124、送液ポンプ102、分離カラム105も同様である。従って、汚染箇所特定の測定を十分に高い頻度で実施することで、すべての流路が同時に汚染される可能性を低く抑えることができる。
【0037】
(第1実施形態のまとめ)
第1実施形態における汚染箇所の判定について図6に示す表にまとめる。適宜、図1及び図2を参照する。
図6に示すように、すべての流路で信号強度が閾値TH1より低い場合、判定処理部212は、共通部分、溶液、及び、イオン源111のいずれかにおいて汚染が生じていると判定する(図4のステップS213、図5B)。
また、特定の流路のみで信号強度が閾値TH1より低い場合、判定処理部212は、当該流路が汚染されていると判定する。具体的には、信号強度の低い流路における配管122a,122b,123、125、サンプルループ124、送液ポンプ102、及び、分離カラム105のいずれかが汚染されていると判定する(図4のステップS212、図5A)。
【0038】
以上に示すように、第1実施形態では、それぞれの流路の信号強度が閾値TH1と比較されることによって、移動相、質量分析装置110(イオン源111、キャピラリ112)の少なくともいずれかの汚染状態を判別することができる。
【0039】
そして、第1実施形態によれば、質量分析装置110から取得される信号強度によって汚染箇所が特定される。これにより、特別な装置を追加することなく汚染箇所の特定が可能となる。また、質量分析装置110から取得される信号強度によって汚染箇所が特定されることにより、LC/MS1の機差によらない汚染箇所の特定が可能となる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、図7図12を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態では標準サンプルとしてイオン化効率が異なる複数の成分の混合サンプルが用いられる。第2実施形態では、2種類の成分(第1成分、第2成分と称する)を含む標準サンプルが用いられるものとする。
なお、第2実施形態において、LC/MSシステムZ構成は図1と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0041】
(処理装置2a)
図7は、第2実施形態における処理装置2aの構成例を示す機能ブロック図である。
図7において、図2と同様の構成については同一の符号を付して、説明を省略する。
図7に示す処理装置2aでは、記憶装置202aに第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11B、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U、信号強度比閾値TH12の下限値TH12Lが格納されている。第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11B、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U、信号強度比閾値TH12の下限値TH12Lについては後記する。以下、第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11Bをまとめて信号強度閾値TH11と適宜称する。また、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び信号強度比閾値TH12の下限値TH12Lをまとめて信号強度比閾値TH12と適宜称する。
【0042】
そして、第2実施形態では、標準サンプルにおける成分ごとの信号強度が信号強度閾値TH11(第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11B)と比較される。さらに、第2実施形態では、流路ごとに標準サンプルの各成分について質量分析装置110から取得される信号強度の比(信号強度比)が算出される。そして、信号強度比と、信号強度比閾値TH12とが比較される。後記するように、具体的には、信号強度比と、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び信号強度比閾値TH12の下限値TH12Lとが比較される。
【0043】
また、後記するように信号強度閾値TH11及び信号強度比閾値TH12は、質量分析装置110に汚染が発生していない状態で事前に既知濃度の標準サンプルを測定することで予めユーザが決定し、設定する。設定された信号強度閾値TH11及び信号強度比閾値TH12は処理装置2aの記憶装置202aに記憶される。
【0044】
(フローチャート)
図8は、第2実施形態における各種閾値の設定処理の手順を示すフローチャートである。
まず、汚染されていない状態で、インジェクタ103から既知濃度の標準サンプルが各流路(第1流路~第3流路)に流され、質量分析装置110によって測定される(S301)。汚染されていない状態とは、溶液タンク101、配管121a,121b,122a,122b,123,125、126、サンプルループ124、分離カラム105、質量分析装置110等が汚染されていない状態のことである。この際、第1成分及び第2成分を有する混合サンプルである標準サンプルが第1流路~第3流路に流される。そして、セレクタバルブ106によって質量分析装置110と接続される流路が順次切り替えられ、第1流路~第3流路のそれぞれについて第1成分及び第2成分の測定が質量分析装置110によって行われる。なお、第1成分及び第2成分が分離カラム105を通過する時間は異なるため、それぞれの成分の測定は時間差をもって行われる。
【0045】
次に、ユーザはステップS301(汚染が生じていない状態での標準サンプルの測定)で取得した成分ごとの信号強度を基に信号強度閾値TH11を設定する(S302)。即ち、ユーザは第1成分について第1流路~第3流路のそれぞれから取得された信号強度の平均値等を基に第1成分の信号強度閾値TH11Aを設定する。同様に、ユーザは第2成分について第1流路~第3流路のそれぞれから取得された信号強度の平均値等を基に第2成分の信号強度閾値TH11Bを設定する。
【0046】
続いて、ユーザはステップS301で取得した信号強度を基に信号強度比閾値TH12を設定する(S303)。即ち、ユーザはそれぞれの成分について、第1流路~第3流路のそれぞれから取得された信号強度の平均値等を基に信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lを設定する。
設定された信号強度閾値TH11及び信号強度比閾値TH12は記憶装置202aに格納される。なお、信号強度閾値TH11及び信号強度比閾値TH12はユーザが算出し設定してもよいし、処理装置2が算出し設定してもよい。
【0047】
(汚染箇所判定処理)
図9は、第2実施形態で行われる汚染箇所特定処理の手順を示すフローチャートである。適宜、図1及び図7を参照する。また、図9における各処理の詳細については後記する。
図9に示す処理は、図8に示す処理から所定期間(例えば、1ヶ月)経過した後に行われる。さらに、一定期間ごと(例えば、1か月ごと)に図9に示す処理が行われる。
まず、図8で使用された標準サンプルが、それぞれの流路(第1流路~第3流路)に流される。前記したように、図8の例では2つの成分(第1成分及び第2成分)を有する混合サンプルである標準サンプルが、第1流路~第3流路のそれぞれに流されているため、本処理でも同様の条件で標準サンプルが流される。このとき、標準サンプルが流される条件(濃度、測定条件等)とは、図8のステップS301における測定と同じ条件となるようにする。
【0048】
そして、質量分析装置110によって、それぞれの成分、及び、それぞれの流路において、標準サンプルの測定が行われる(S401)。測定は、それぞれの流路が1つずつセレクタバルブ106によって質量分析装置110に接続され、その都度、質量分析装置110によってそれぞれの流路ごとに標準サンプルの測定を行う。この測定が、それぞれの成分(本実施形態では第1成分及び第2成分)について行われる。なお、前記したように第1成分、第2成分が分離カラム105を通過する時間は異なるため、それぞれの成分の信号強度が時間差をもって測定される。
【0049】
続いて、処理装置2aの判定処理部212は条件W11が成立しているか否かを判定する(S402)。ここで、条件W11はいずれかの流路において信号強度比が信号強度比閾値TH12の範囲外であるか否かである。信号強度比閾値TH12の範囲とは、信号強度比閾値TH12の上限値TH12Uと下限値TH12Lとの間の範囲(図10A図10Cにおける信号強度比閾値範囲TH12R)である。
【0050】
条件W11が成立している場合(S402→Yes)、判定処理部212は条件W21、条件W22のどちらが成立しているかを判定する(S411)。
条件W21及び条件W22は以下の条件である。
(条件W21)すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11以下であり、かつ、すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値TH12の範囲外である。
(条件W22)特定の流路で信号強度が信号強度閾値TH11以下であり、かつ、当該流路で信号強度比が信号強度比閾値TH12の範囲外である。
【0051】
ステップS411で条件W21が成立している場合(S411→W21)、判定処理部212は条件W31、条件W32のどちらが成立しているかを判定する(S412)。
条件W31及び条件W32は以下の条件である。
(条件W31)イオン化効率の低い成分における信号強度の低下幅がイオン化効率の高い成分より大きく、かつ、イオン化効率の低い成分におけるX/X0がイオン化効率の高い成分より低い。ここで、XはステップS401で測定された信号強度であり、X0は図8のステップS301で測定された信号強度である。なお、イオン化効率とは、質量分析装置110のイオン源111におけるイオン化のなりやすさであり、イオン化効率が高いほど、イオン源111においてイオン化しやすい。また、低下幅の定義については後記する。
(条件W32)イオン化効率の高い成分における信号強度の低下幅がイオン化効率の低い成分より大きく、かつ、イオン化効率の高い成分のX/X0がイオン化効率の低い成分X/X0より低い。なお、低下幅の定義については後記する。
【0052】
ステップS412で条件W31が成立している場合(S412→W31)、判定処理部212は共通部分又は溶液の汚染が発生していると判定し(S413)、その判定結果を出力装置205から出力する(S431)。なお、後記するように本処理を行う頻度を多くすることによってステップS413における溶液の汚染の可能性を低くすることができる。また、共通部分とは、第1実施形態と同様、セレクタバルブ106、配管126、インジェクタ103、質量分析装置110のキャピラリ112である。
ステップS412で条件W32が成立している場合(S412→W32)、判定処理部212は溶液が汚染していると判定し(S414)、その判定結果を出力装置205から出力する(S431)。
【0053】
ステップS411で条件W22が成立している場合(S411→W22)、判定処理部212は条件W22が成立している流路(特定の流路)で汚染が発生していると判定し(S415)、その判定結果を出力装置205に出力する(S431)。
【0054】
ステップS402で条件W11が成立していない場合(S402→No)、判定処理部212は条件W41が成立しているか否かを判定する(S421)。
条件W41は以下の条件である。
(条件W41)すべての成分、及び、すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低い。
【0055】
ステップS421で条件W41が成立している場合(S421→Yes)、判定処理部212は、質量分析装置110において汚染又は劣化が生じていると判定し(S422)、その判定結果を出力装置205から出力する(S431)。
ステップS421で条件W41が成立していない場合(S421→No)、判定処理部212は、異常なしと判定し(S423)、その判定結果を出力装置205から出力する(S431)。
【0056】
(判定処理の詳細)
次に、図10A図10C及び図11A図11Bを参照して、図9の各処理における判定について詳細に説明する。
図10A図10Cは、各流路について測定した標準サンプル(第1成分、第2成分)の質量分析装置110の信号強度を示す図である。
図10A図10Cの上段において横軸はLCの保持時間を示す。そして、縦軸は質量分析装置110でm/zを分離して検出した標準サンプルに含まれる成分に関するイオンの信号強度である。保持時間とイオンのm/zとの関係は物質に固有の値であるため、一般に成分ごとに異なる。
また、図10A図10Cのそれぞれにおいて、下段にはそれぞれの流路における信号強度比が示されている。なお、第1成分の信号強度をXA、第2成分の信号強度をXBとすると、信号強度比は、XA/XBで定義される。
また、以降の説明において、イオン化効率は第1成分より第2成分の方が高いものとする。
【0057】
まず、図10Aに示す測定結果が得られた場合について説明する。
図10Aにおいて、上段(グラフ400A~400C)には、各流路における第1成分、第2成分それぞれの信号強度が示されている。なお、図10Aにおいて、グラフ400A~400Cの図ではグラフ400Aが第1流路における測定結果を示し、グラフ400Bが第2流路における測定結果を示し、グラフ400Cが第3流路における測定結果を示している。また、グラフ400Aにおいて信号強度401Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度401Bは第2成分に関する信号強度である。同様に、グラフ400Bにおいて信号強度402Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度402Bは第2成分に関する信号強度である。さらに、グラフ400Cにおいて信号強度403Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度403Bは第2成分に関する信号強度である。前記したように、第1成分、第2成分は分離カラム105を通過する時間が異なるため、グラフ400A~400Cに示すように、第1成分の信号強度401A~403A、第2成分の信号強度401B~403Bは時間差をもって測定される。
【0058】
また、図10Aのグラフ400A~400Cに示すように、第1成分の信号強度閾値TH11A、及び、第2成分の信号強度閾値TH11Bが設定されている。
【0059】
そして、図10Aの下段(グラフ400D)について、信号強度比404Aは第1流路における信号強度比を示し、信号強度比404Bは第2流路における信号強度比を示し、信号強度比404Cは第3流路における信号強度比を示す。
さらに、グラフ400Dに示すように、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定されている。さらに、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lの範囲として信号強度比閾値範囲TH12Rが設定されている。
また、グラフ400Dにおいて、信号強度比Rは汚染がない場合における信号強度比を示す。汚染がない場合における信号強度比Rは予め測定されているものである(図8のステップS401)。前記したように、この信号強度比Rを基に信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定される。なお、汚染がない場合とはどのような場合かについては図8のステップS301において説明されている。
【0060】
図10Aでは、グラフ400B及びグラフ400Dに示されるように、特定の流路(図10Aに示す例では第2流路:以下、特定の流路を第2流路として説明)が以下に示す条件W22a及び条件W22bを満たしている。
(条件W22a)グラフ400Bに示すように、第1成分及び第2成分の信号強度402A,402Bの双方が低下して、それぞれ信号強度閾値TH11A,TH11B以下となっている。
(条件W22b)グラフ400Dで示されるように、第2流路の信号強度比404Bも汚染がない状態の信号強度比Rから変化して信号強度比閾値TH12の下限値TH12L以下又は信号強度比閾値TH12の上限値TH12U以上となっている。即ち、第2流路の信号強度比404Bのみが信号強度比閾値範囲TH12Rの外に位置している。なお、本実施形態において、「汚染がない状態の信号強度比Rから信号強度比が変化する」とは、元々、信号強度比は汚染がない状態の信号強度比Rの状態だったが、汚染によって信号強度比が変化し、低下したという意味である。また、条件W22a及び条件W22aは、図9の条件W22に相当する。即ち、図10A図9のステップS411:W22→ステップS415に相当する。
【0061】
図10Aに示すようなケースは、条件W22a及び条件W22bを満たしている流路(図10Aに示す例では第2流路)が汚染されていることを示す。流路が汚染されているとは、流路を構成する配管122a,122b,123、125、サンプルループ124、送液ポンプ102、及び、分離カラム105のいずれかが汚染されていることを意味する。すなわち、図10Aに示すケースは、第2流路における汚染箇所から溶出した夾雑物によるイオンサプレッションで標準サンプルの信号強度が低下したことを示している。なお、第1成分の方が第2成分よりイオン化効率が低いため、夾雑物によるイオンサプレッションの影響が大きい。そのため図10Aのグラフ400Bでは第1成分の信号強度402Aが第2成分の信号強度402Bより大きく低下している。また、第1成分の信号強度402Aが第2成分の信号強度402Bより大きく低下することによって、信号強度比404Bも大きく変化する。
このように、図10Aに示す測定結果に基づいて判定が行われることで特定の流路における汚染を容易に検出することができる。
【0062】
次に、図10Bについて説明する。
図10Bにおいて、上段(グラフ410A~410C)には、各流路における第1成分、第2成分それぞれの信号強度が示されている。なお、図10Bにおいて、グラフ410Aが第1流路における測定結果を示し、グラフ410Bが第2流路における測定結果を示し、グラフ410Cが第3流路における測定結果を示している。また、グラフ410Aにおいて信号強度411Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度411Bは第2成分に関する信号強度である。同様に、グラフ410Bにおいて信号強度412Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度412Bは第2成分に関する信号強度である。さらに、グラフ410Cにおいて信号強度413Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度413Bは第2成分に関する信号強度である。
【0063】
そして、図10Bの下段(グラフ410D)について、信号強度比414Aは第1流路における信号強度比を示し、信号強度比414Bは第2流路における信号強度比を示し、信号強度比414Cは第3流路における信号強度比を示す。
さらに、グラフ410Dに示すように、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定されている。さらに、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lの範囲として信号強度比閾値範囲TH12Rが設定されている。
また、図10Bのグラフ410Dにおいて、信号強度比Rは汚染がない場合における信号強度比を示す。汚染がない場合における信号強度比Rは予め測定されているものである(図8のステップS301)。前記したように、この信号強度比Rを基に信号強度比閾値範囲TH12Rの上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定される。なお、汚染がない場合とはどのような場合かについては図8のステップS301において説明されている。
【0064】
また、図10Bにおいて、第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11B、信号強度比閾値範囲TH12Rの上限値TH12U、下限値TH12Lは図10Aと同様の値である。
【0065】
そして、図10Bに示す例では以下の条件W21a、条件W21bが満たされている。
(条件W21a)グラフ410A~410Cに示すように、すべての流路(第1流路~第3流路)、及び、すべての成分(第1成分、第2成分)で信号強度が信号強度閾値TH11以下である。具体的には、信号強度411A~413Aのすべてが第1成分の信号強度閾値TH11Aより低い値となっている。同様に、信号強度411B~413Bのすべてが第2成分の信号強度閾値TH11Bより低い値となっている。
(条件W21b)グラフ410Dに示すように、すべての流路(第1流路~第3流路)で、信号強度比414A~414Cが信号強度比閾値範囲TH12Rの下限値TH12L以下又は上限値TH12U以上になっている。すなわち、すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲TH12Rの外に位置している。なお、図10Bでは、すべての流路において、すべての成分の信号強度比414A~414Cが信号強度比閾値範囲TH12Rの下限値TH12Lより低い値となっている場合が示されている。しかし、すべての成分の信号強度比414A~414Cが信号強度比閾値範囲TH12Rの上限値TH12Uより高い値となる場合もある。
そして、条件W21a及び条件W21bの成立は、図9の条件W21が成立している(ステップS411:W21)ことに相当する。
【0066】
図10Bのようなケースの場合、溶液の汚染、あるいは、共通部分の汚染によるイオンサプレッションで信号強度が低下したことがわかる。ここで、共通部分とは、セレクタバルブ106、配管126、インジェクタ103、質量分析装置110のキャピラリ112である。
【0067】
前記したように、図10Bのようなケースでは溶液の汚染、又は、共通部分の汚染が考えられる。そこで、図10Bのケースが生じた場合、さらに、図11A及び図11Bによってケースが切り分けられる。
【0068】
図11A及び図11Bは、夾雑物の濃度と保持時間との関係、質量分析装置110の信号強度とLCの保持時間の関係を示す図である。
【0069】
まず、溶液が汚染されている場合について図11Aを参照して説明する。
図11Aにおいて上段にはグラフ500Aとして夾雑物濃度の時間変化が示されている。また、中段にはグラフ500Bとして成分ごとの信号強度が示されている。そして、下段にはグラフ500Cとして成分ごとのX/X0が示されている。ここで、Xは図9のステップS401で測定された信号強度を示し、X0は図8のステップS301で測定された信楽強度(信号強度初期値)である。
【0070】
そして、グラフ500Bにおいて信号強度501Aは第1成分の信号強度を示し、信号強度501Bは第2成分の信号強度を示す。
また、グラフ500Cにおいて信号強度/信号強度初期値502Aは第1成分の信号強度/信号強度初期値(X/X0)であり、信号強度/信号強度初期値502Bは第2成分の信号強度/信号強度初期値(X/X0)である。信号強度初期値とは、図8のステップS301で測定された信号強度である。なお、グラフ500CにおいてXAは図9のステップS401で測定された第1成分の信号強度である(信号強度501Aと同じ値)。また、XBは図9のステップS401で測定された第2成分の信号強度である(符号501Bと同じ値)。さらに、グラフ500Cにおいて、XA0は図8のステップS301で測定された第1成分の信号強度である(信号強度初期値)。そして、XB0は図8のステップS301で測定された第2成分の信号強度である(信号強度初期値)。
【0071】
ここで、図11Aに示す処理は第1流路~第3流路のいずれかに注目して行えばよいが、図11Aでは、第1流路に注目しているものとする。つまり、図11Aに示すグラフ500A~500Cは第1流路に関するものとする。
また、図11Aのグラフ500Bの形状が、図10Bのグラフ410Aの形状とは異なっているが、これは図11Aに示す結果が、前記した条件W21a,W21bを満たしているものの、図10Bとは異なる例を示しているためである。なお、時刻ta,tbについては後記する。また、第1成分の信号強度閾値TH11A及び第2成分の信号強度閾値TH11Bは図10Bと同様である。
【0072】
溶液が汚染されている状態では、標準サンプルとともに溶液の夾雑物も分離カラム105を通過する。特に、溶液の混合比にグラジエントがかかっている場合、夾雑物濃度が分離カラム105の保持時間によって変化する(グラフ500A)。このため、イオンサプレッションの影響も保持時間に依存して変化する。以下、このことを詳細に説明する。ちなみに、夾雑物濃度は質量分析装置110の測定結果によってわかる。
【0073】
仮に、第2溶液に夾雑物が混合しているものとする。そして、第1溶液に対して、第2溶液が徐々に混合されていくものとする。この場合、図11Aのグラフ500Aに示すように、保持時間とともに夾雑物濃度が上昇していく。
【0074】
そして、グラフ500Bに示すように、時刻taで第1成分に関する信号強度501Aが測定され、時刻tbで第2成分に関する信号強度501Bが測定されたものとする。
【0075】
夾雑物濃度が低い時刻taで測定された第1成分よりも、夾雑物濃度が高い時刻tbで測定された第2成分の方が夾雑物によるイオンサプレッションの影響が大きい。そのため、図11Aのグラフ500Bに示すように、第2成分の信号強度501Bの方が第1成分の信号強度501Aより、大きく低下している。すなわち、信号強度閾値TH11Aに対する第1成分の信号強度411Aの低下幅より、信号強度閾値TH11Bに対する第2成分の信号強度411Bの低下幅の方が大きい。
【0076】
さらに、溶液における夾雑物濃度が高い時刻tbに測定された第2成分の信号強度501Bは、夾雑物濃度が低い時刻taに測定された第1成分の信号強度501Aより大きく低下する。ここで、低下とはそれぞれの成分における信号強度の初期値に対する低下である。そのため、図11Aのグラフ500Cに示すようにXA/XA0>XB/XB0となる。ここで、XA/XA0は、図10Bの信号強度/信号強度初期値502Aに相当し、XB/XB0は図10Bの信号強度/信号強度初期値502Bに相当する。
【0077】
このように第2成分の保持時間で夾雑物濃度が高く、第1成分の保持時間で夾雑物濃度が低い場合、信号強度の初期値に対して、イオン化効率が高い第2成分の信号強度のほうが大きく減少する。その結果、図11Aのグラフ500Cに示すようにXA/XA0>XB/XB0となる。
【0078】
なお、溶液の汚染関係が逆の場合(第1溶液が汚染されている場合)、図11Aに示す結果とは逆の結果が得られる。この場合、後記する図11Bにおけるグラフ510B,510Cと同様の結果が得られる。従って、溶液のグラジエントを逆にして、即ち、第1溶液→第2溶液のグラジエントパターンと、第2溶液→第1溶液のグラジエントパターンで測定を行うことが望ましい。
【0079】
図11Aで検出されている測定結果は以下の条件W32a、条件W32bが満たされている場合と考えることができる。
(条件W32a)イオン化効率の高い成分における信号強度の低下幅がイオン化効率の低い成分における信号強度の低下幅より大きい。ここで、低下幅は、それぞれの成分における信号強度閾値TH11A,TH11Bに対する低下幅である。以降において、低下幅は、この定義による低下幅となる。
(条件W32b)イオン化効率の高い成分におけるX/X0が、イオン化効率の低い成分におけるX/X0の値より低い値となっている。
このように、以下の条件W32a、条件W32bが満たされている場合、判定処理部212は、溶液の汚染が生じていると判定する。
条件W32a及び条件W32bが成立する場合とは、図9における条件W32が成立していることに相当する。すなわち、図11Aの状態が検出された場合は、図9におけるステップS412:W32→ステップS414の処理が行われたことに相当する。
【0080】
このように、図10B及び図11Aに示す測定結果に基づいて判定が行われることで溶液の汚染を容易に検出することができる。
【0081】
次に、図11Bを参照する。
図11Bにおいて上段にはグラフ510Aとして夾雑物濃度の時間変化が示されている。また、中段にはグラフ510Bとして成分ごとの信号強度が示されている。そして、下段にはグラフ510Cとして成分ごとのX/X0が示されている。
【0082】
そして、グラフ510Bにおいて信号強度511Aは第1成分の信号強度を示し、信号強度511Bは第2成分の信号強度を示す。
また、グラフ510Cにおいて信号強度/信号強度初期値512Aは第1成分の信号強度/信号強度初期値(X/X0)であり、信号強度/信号強度初期値512Bは第2成分の信号強度/信号強度初期値(X/X0)である。なお、グラフ510CにおいてXAは図9のステップS401で測定された第1成分の信号強度である(信号強度511Aと同じ値)。また、XBは図9のステップS401で測定された第2成分の信号強度である(信号強度511Bと同じ値)。さらに、グラフ510Cにおいて、XA0は図8のステップS301で測定された第1成分の信号強度である(信号強度初期値)。そして、XB0は図8のステップS301で測定された第2成分の信号強度である(信号強度初期値)。
【0083】
ここで、図11Bに示す処理は第1流路~Cのいずれかに注目して行えばよいが、図11Bでは、第1流路に注目しているものとする。つまり、図11Bに示すグラフ510A~510Cは第1流路に関するものとする。
また、図11Bのグラフ510Bの形状が、図10Bのグラフ410Aの形状とは異なっているが、これは図11Bに示す結果が、前記した条件W21a,W21bを満たしているものの、図10Bとは異なる例を示しているためである。なお、時刻ta,tbについては後記する。また、第1成分の信号強度閾値TH11A及び第2成分の信号強度閾値TH11Bは図10Bと同様である。
【0084】
なお、図11Bのグラフ510Bにおいて、信号強度511Aは、時刻taで測定された第1成分の信号強度を示す。同様に、信号強度511Bは、時刻tbで測定された第2成分の信号強度を示す。
共通部分の汚染では分離カラム105の後段に汚染が存在することになる。そのため、夾雑物による保持時間への依存性が小さい。従って、図11Bのグラフ510Aに示すように、保持時間を通して、ほぼ一定の濃度で夾雑物が溶出される。共通部分とは、前記したようにセレクタバルブ106、配管126、インジェクタ103、質量分析装置110のキャピラリ112である。
【0085】
このような状態では、どの成分も一様に夾雑物が含まれることになるため、信号強度はイオン化効率が低い成分ほどイオンサプレッションの影響を強く受ける。つまり、イオン化効率が低いサンプルほど強くサプレッションされる。
【0086】
前記したように、本実施形態では第1成分の方が第2成分よりイオン化効率が低い。そのため、共通部分に汚染が生じている場合、図11Bのグラフ510Bに示すように第1成分の信号強度511Aの低下幅は、第2成分の信号強度511Bの低下幅より大きい。つまり、第2成分の信号強度511Bより第1成分の信号強度511Aの方が信号強度の低下が大きい。
【0087】
そして、共通部分に汚染が生じると、前記したようにイオン化効率が高い第2成分よりイオン化効率が低い第1成分の方が強くイオンサプレッションが生じる。そのため、第1成分のX/X0であるXA/XA0が第2成分のX/X0であるXB/XB0の値よりも小さくなる。即ち、XB/XB>XA/XA0となる。XA/XA0は、図11Bにおける信号強度/信号強度初期値512Aに相当し、XB/XB0は、図11Bにおける信号強度/信号強度初期値512Bに相当する。
【0088】
従って、図11Bに示す測定結果は以下の条件W31a、条件W31bが満たされている状態である。
(条件W31a)イオン化効率の低い成分における信号強度の低下幅がイオン化効率の高い成分における信号強度の低下幅より大きい。
(条件W31b)イオン化効率の低い成分におけるX/X0が、イオン化効率の高い成分におけるX/X0より低い。
このように、以下の条件W31a、条件W31bが満たされる場合、判定処理部212は共通部分の汚染が生じていると判定する。
【0089】
ただし、すべての溶液(図11Bの例では第1溶液及び第2溶液の双方)において汚染が発生している場合でも、図11Bの状態、即ち、条件W31a、条件W31bが成立する。従って、条件W31a、条件W31bを満たす場合、共通部分の汚染のほか、溶液の汚染の可能性も考えられる。しかし、すべての溶液が同時に汚染される確率は低いため、本汚染判定を高頻度で行うことにより、条件W31a、条件W31bを満たす場合は共通部分の汚染であると特定可能である。
【0090】
なお、条件W31a及び条件W31bが成立する場合とは、図9の条件W31が成立する場合に相当する。従って、図11Bの状態が検出された場合は、図9のステップS412:W31→ステップS413に相当する。
このように、図10B及び図11Bに示す測定結果に基づいて判定が行われることで共通部分の汚染を容易に検出することができる。
【0091】
次に、図10Cの状態について説明する。
図10Cにおいて、上段(グラフ420A~420C)には、各流路における第1成分、第2成分それぞれの信号強度が示されている。なお、図10Cにおいて、グラフ420Aが第1流路における測定結果を示し、グラフ420Bが第2流路における測定結果を示し、グラフ420Cが第3流路における測定結果を示している。また、グラフ420Aにおいて信号強度421Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度421Bは第2成分に関する信号強度である。同様に、グラフ420Bにおいて信号強度422Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度422Bは第2成分に関する信号強度である。さらに、グラフ420Cにおいて信号強度423Aは第1成分に関する信号強度であり、信号強度423Bは第2成分に関する信号強度である。
【0092】
そして、図10Cの下段(グラフ420D)について、信号強度比424Aは第1流路における信号強度比を示し、信号強度比424Bは第2流路における信号強度比を示し、信号強度比424Cは第3流路における信号強度比を示す。
さらに、グラフ420Dに示すように、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定されている。さらに、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lの範囲として信号強度比閾値範囲TH12Rが設定されている。
また、図10Cのグラフ420Dにおいて、信号強度比Rは汚染がない場合における信号強度比を示す。汚染がない場合における信号強度比Rは予め測定されているものである(図8のステップS401)。前記したように、この信号強度比Rを基に信号強度比閾値TH12の上限値TH12U及び下限値TH12Lが設定される。なお、汚染がない場合とはどのような場合かについては図8のステップS401において説明されている。
【0093】
また、図10Cにおいて、第1成分の信号強度閾値TH11A、第2成分の信号強度閾値TH11B、信号強度比閾値TH12の上限値TH12U、下限値TH12Lは図10A及び図10Bと同様の値である。
【0094】
図10Cに示す例では、以下の条件W41、条件W11Nを満たしている。
(条件W41)図10Cのグラフ420A~420Cに示すように、すべての流路で信号強度421A~423A,421B~423Bが低下し、信号強度閾値TH11以下となっている。具体的には、第1成分の信号強度421A~423Aのすべてが第1成分の信号強度閾値TH11Aより低い値となっている。さらに、第2成分の信号強度421B~423Bのすべてが第2成分の信号強度閾値TH11Bより低い値となっている。条件W41は図9における条件W41と同様のものである(図9のステップS421:Yes)。
(条件W11N)すべての流路において、信号強度比424A~424Cが信号強度比閾値TH12の上限値TH12U未満かつ下限値TH12Lより大きい。換言すれば、すべての流路において信号強度比424A~424Cが信号強度比閾値範囲TH12Rの内にある。条件W11Nは図9の条件W11が成立しない場合である(図9のステップS402:No)。
条件W41、条件W11Nは、どちらもイオン化効率の影響を受けない質量分析装置110の内部においてイオン源111の電極が汚染されたり、劣化したりすることが原因で生じる。従って、条件W41、条件W11Nの双方が満たされる場合、判定処理部212は質量分析装置110(具体的にはイオン源111)に汚染又は劣化が生じていると判定する。
【0095】
なお、前記したように、条件W41が成立することは、図9の条件W41が成立することに等しい。また、条件W11Nが成立することは、図9の条件W11で「No」が成立したことに等しい。即ち、図10Cの状態が検出されたことは図9のステップS402:No→ステップS421:Yes→ステップS422の処理が行われたことに等しい。
【0096】
このように、図10Cに示す測定結果に基づいて判定が行われることで質量分析装置110(特にイオン源111)の汚染を容易に検出することができる。
【0097】
(まとめ)
図12に第3実施形態における汚染判定をまとめる。なお、図12において「W11」、「W21」、「W22」、「W31」、「W32」、「W41」は、図9の条件W11,W21,W22,W31,W32,W41に相当するものである。
まず、以下の各条件が成立する場合がある。
・いずれかの流路で信号強度比閾値TH12が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外)となっている(図9の条件W11:Yes)。
・すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低く、かつ、すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外:図9の条件W21が成立した場合)
・イオン化効率の低い成分における信号強度(X)の低下幅がイオン化効率の高い成分より大きく、かつ、イオン化効率の低い成分におけるX/X0がイオン化効率の高い成分より低い(図9の条件W31が成立した場合)。なお、図12においてX及びX0は図9図11A図11BにおけるX及びX0と同様である。
【0098】
このような条件が成立する場合とは、図10B及び図11Bの状態が検出された場合に相当する。従って、判定処理部212は、共通部分の汚染又は溶液の汚染が生じているものと判定する。ただし、前記したように、本汚染箇所の判定を行う頻度を高くすることによって、溶液の汚染が生じる可能性を低くすることができるため、図12では「△」としている。
【0099】
次に、以下の各条件が成立する場合がある。
・いずれかの流路で信号強度比閾値TH12が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外)となっている(図9の条件W11:Yes)。
・すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低く、かつ、すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外:図9の条件W21が成立した場合)。
・イオン化効率の高い成分が信号強度(X)の低下幅がイオン化効率の低い成分より大きく、かつ、イオン化効率の高い成分のX/X0がイオン化効率の低い成分X/X0より低い(図9の条件W32が成立した場合)。
このような条件が成立する場合とは、図10B及び図11Aの状態が検出された場合に相当する。従って、判定処理部212は溶液の汚染が生じているものと判定する。
【0100】
次に、以下の各条件が成立している場合がある。
・いずれかの流路で信号強度比閾値TH12が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外)となっている(図9の条件W11:Yes)。
・特定の流路において、当該流路の信号強度が他の流路より低く、当該流路の信号強度比が信号強度比閾値範囲外(信号強度比閾値範囲TH12Rの外)となっている(図9の条件W22が成立した場合)。
このような条件が成立する場合とは、図10Aの状態が検出されたことに相当する。従って、判定閾値は上記条件を満たしている流路(特定の流路)に汚染が生じていると判定する。
【0101】
続いて、以下の各条件が成立している場合がある。
・すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲内(信号強度比閾値範囲TH12Rの内)にある(図9の条件W11:No)。
・すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低い(図9の条件W41:Yes)。
このような条件が成立する場合とは、図10Cの状態が検出された場合に相当する。従って、判定処理部212は質量分析装置110(具体的にはイオン源111)の汚染又は劣化が生じていると判定する。
【0102】
なお、「すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲内にある」と判定された状態で、「特定の流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低い」状態が検出されることはない(図12において、斜線が示されている)。図9の処理では、「すべての流路で信号強度比が信号強度比閾値範囲内にある」ことが判定された状態(S402:No)で、「すべての流路で信号強度が信号強度閾値TH11より低い」条件(S421)が「No」と判定され場合、判定処理部212は異常なしと判定している。
【0103】
信号強度は汚染による影響以外でもイオン源111でのイオン化の状態、送液ポンプ102の脈動等で変動する。そのため、第1実施形態のように、信号強度の値(絶対値)のみで汚染箇所を判定する場合には閾値TH1(図5A及び図5B参照)を低く設定して判定の感度を下げ、誤判定を防ぐ必要がある。つまり、信号強度の値(絶対値)による汚染箇所特定では、イオン源111でのイオン化の状態、送液ポンプ102の脈動等による揺らぎを考慮し、閾値TH1を低く設定する必要がある。
【0104】
第2実施形態では信号強度に加えて、信号強度比の変化を参照することで、汚染以外の要因による信号強度のばらつき(揺らぎ)の影響を受けずに汚染の判定を行うことができる。このため、第1実施形態と比較して、信号強度の値(絶対値)における汚染判定で閾値(信号強度閾値TH11)を高く設定しても誤判定の確率を下げることができ、高感度の判定が可能になる。
【0105】
また、第2実施形態では、溶液汚染と共通部分との汚染状態の切り分け等、第1実施形態より細かい汚染箇所の特定が可能になる。これにより、異常判定の精度向上を図ることができる。なお、混合サンプルに含まれる成分の数は2つ以上であればよく、3つ以上でも同様に判定を行うことができる。その場合、信号強度比はどれか2つの特定の成分を使用した信号強度比を求めれば十分である。
【0106】
[第3実施形態]
図13A及び図13Bは、第3実施形態における汚染原因の特定方法を示す図である。
図13A及び図13Bでは、流路の汚染箇所測定時における信号強度の時系列データを記憶装置202に保持しておき、判定処理部212が時系列に沿って信号強度を比較している。例えば、図13Aに示す信号強度の時系列601のように徐々に(連続的に)信号強度が低下している場合、配管121a,121b,122a,122b,123,125への汚染の蓄積や、キャピラリ112等の消耗部品の劣化が考えられる。一方、図13Bに示す信号強度の時系列602のように、不連続に(非連続的に)信号強度が低下した場合は、溶液や、標準サンプルに埃等(異物)が混入していることや、交換作業に伴う汚染である可能性が疑われる。図13A及び図13Bにおける判定に、分離カラム105、キャピラリ112、溶液の交換の洗浄履歴等の情報と組み合わせると、さらに汚染箇所特定の精度をあげることができる。
第3実施形態によれば、一回の測定で判断する場合に比べて、より高精度に汚染箇所の判定ができる。
【0107】
第1~第3実施形態で示す方法によって汚染箇所が特定されれば、特定された汚染箇所の洗浄や部品交換等の復旧動作により汚染を取り除くことができる。そして、復旧動作後に図4に示す汚染箇所特定処理が再度行われる。そして、すべての流路で、信号強度が閾値TH1以上となれば、ユーザは汚染が除去されたと判断する。このような状態になれば、通常測定を行うことが可能である。ちなみに、通常測定とは、図3や、図4図8図9のような汚染箇所特定のための測定ではなく、任意のサンプルを測定することである。
【0108】
また、汚染箇所が特定の流路、イオン源111のキャピラリ112、分離カラム105である場合、汚染箇所に対して洗浄用の溶液が送液されることで洗浄が行われる。洗浄に適した溶液は、汚染の種類によって異なり、塩等の無機物を除去する際には純水が適している。また、高分子物質を除去する際にはイソプロパノール等の有機溶液が適している。洗浄によって信号強度が回復しなかった場合、分離カラム105、イオン源111のキャピラリ112等といった消耗品の交換が行われる。
【0109】
第1実施形態~第3実施形態において、汚染箇所の特定はアラーム等で報知されてもよい。また、汚染箇所の洗浄が自動洗浄で行われてもよい。
【0110】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0111】
また、前記した各構成、機能、各部211~213、記憶装置202,202等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図2や、図7に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU201等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HDに格納すること以外に、メモリ210や、SSD等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0112】
1 LC/MS(液体クロマトグラフ質量分析装置)
2,2a 処理装置
101,101a,101b 溶液タンク(溶液が貯留
102 送液ポンプ(液体クロマトグラフィ
103 インジェクタ(液体クロマトグラフィ
104 インジェクションバルブ(液体クロマトグラフィ
105,105a~105c 分離カラム(液体クロマトグラフィ
106 セレクタバルブ(液体クロマトグラフィ、各流路で共通の箇所
110 質量分析装置
111 イオン源
112 キャピラリ(各流路で共通の箇所
121a,121b 配管液体クロマトグラフィ、
122a,122b 配管(液体クロマトグラフィ、複数の流路、溶液が流通、流路を構成する部品
123,123a~123c 配管(液体クロマトグラフィ、複数の流路、溶液が流通、流路を構成する部品
124 サンプルループ(液体クロマトグラフィ、所定の物質が流通、混合サンプルが流通、流路を構成する部品
125,125a~125c 配管(液体クロマトグラフィ、複数の流路、溶液及び混合サンプルが流通、流路を構成する部品
126 配管(液体クロマトグラフィ、質量分析装置と接続される流路、各流路で共通の箇所
205 出力装置(出力部)
301~303,311~313,401A~403A,401B~403B,411A~413A,411B~413B,421A~423A,421B~423B,501A,501B,511A,511B 信号強度
404A~404C,414A~414C,424A~424C 信号強度比
502A,502B,512A,512B 信号強度/信号強度初期値(信号強度と事前測定信号強度との比)
601,602 時系列
R 信号強度比
S101,S301 汚染されていない状態で標準サンプルの測定(事前測定、事前測定信号強度が得られる)
TH1 閾値
TH11,TH11A,TH11B 信号強度閾値
TH12 信号強度比閾値
TH12U 上限値
TH12L 下限値
TH12R 信号強度比閾値範囲
Z LC/MSシステム(質量分析システム)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11A
図11B
図12
図13A
図13B