(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114364
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20230809BHJP
E02D 27/12 20060101ALI20230809BHJP
E02D 31/08 20060101ALI20230809BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230809BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/12 Z
E02D31/08
E04H9/02 351
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016689
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】村山 広樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
【テーマコード(参考)】
2D046
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2D046CA01
2D046CA06
2D046DA07
2D046DA11
2E139AA17
2E139AC19
2E139AC20
3J048AD07
3J048CB22
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】コンクリート床版を鉛直方向に加振したときに、コンクリート床版の周囲の地盤に伝播する特定の振動数の振動低減効果を得ることができる防振構造を提供する。
【解決手段】防振構造10は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、コンクリート床版14の中心軸に対して軸対称となるようにコンクリート床版14の支持部が配置され、支持地盤54まで打ち込まれると共に、表層地盤51と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、
前記コンクリート床版の中心軸に対して軸対称となるように前記コンクリート床版の支持部が配置され、支持地盤まで打ち込まれると共に、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、
を有する防振構造。
【請求項2】
前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数配置され、
鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている、請求項1に記載の防振構造。
【請求項3】
前記支持部材は、円周上に所定のピッチで構築された杭である、請求項1又は請求項2に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周囲に伝播する振動を低減させるための防振構造が提案されている。
【0003】
下記特許文献1に記載の防振構造は、支持地盤に支持されて地盤の上方に延びる複数の杭体と、地盤の上方に隙間をあけて配置されて複数の杭体に支持された基礎部と、杭体と上側地盤との摩擦を低減させる摩擦低減材と、を備えている。摩擦低減材は、例えば、杭体における上側地盤に埋設されている部分の周囲に塗布されたアスファルトである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の防振構造では、互いに直交する水平方向(X方向、Y方向)に間隔をあけて複数の杭体を配置している。このため、ロックコンサート等で観客が基礎部(マットスラブ)にタテノリ加振を与えたとき、振動が周辺地盤に伝搬することを抑制する振動低減効果が少ない。
【0006】
本発明は上記事実を考慮し、コンクリート床版を鉛直方向に加振したときに(すなわち、タテノリ加振を与えたとき)、コンクリート床版の周囲の地盤に伝播する特定の振動数の振動低減効果を得ることができる防振構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に記載の防振構造は、周囲の構造躯体と縁切して配置されたコンクリート床版と、前記コンクリート床版の中心軸に対して軸対称となるように前記コンクリート床版の支持部が配置され、支持地盤まで打ち込まれると共に、表層地盤と非接触状態で前記コンクリート床版を支持する支持部材と、を有する。
【0008】
第1態様に記載の防振構造によれば、支持部材で表層地盤と非接触状態で支持されたコンクリート床版が、鉛直方向に加振された場合に(すなわち、タテノリ加振されたとき)、コンクリート床版の中心軸に対して軸対称に配置された支持部材が平面視にて描く円の半径r、表層地盤の深さH、表層地盤のせん断波速度Vsにより決まる振動数帯域において、コンクリート床版の縁から水平に所定の距離離れた地点で振動低減効果を得ることができる。
より具体的には、最初に振動低減が起こる中心振動数f[Hz]は、下記式で算出される。
f=0.388×Vs/r (ただし、2r≦Hを満たす時)
第1態様に記載の防振構造では、中心振動数fだけでなく、中心振動数fの整数倍の振動数でコンクリート床版が加振された場合でも、振動低減効果が得られる。
【0009】
第2態様に記載の防振構造は、第1態様に記載の防振構造において、前記コンクリート床版が、互いに縁切りして複数配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれ前記コンクリート床版の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0010】
第2態様に記載の防振構造によれば、複数のコンクリート床版の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。
【0011】
第3態様に記載の防振構造は、第1態様又は第2態様に記載の防振構造において、前記支持部材は、円周上に所定のピッチで構築された杭である。
【0012】
第3態様に記載の防振構造によれば、円周上に所定のピッチで杭を構築するため、地下連続壁などを施工する場合と比較して、施工が容易である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の防振構造によれば、コンクリート床版を鉛直方向に加振したときに(すなわち、タテノリ加振を与えたとき)、コンクリート床版の周囲の地盤に伝播する特定の振動数の振動低減効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A)は、第1実施形態の防振構造の一部を切断した状態で示す斜視図であり、(B)は、第1実施形態の防振構造を示す立面図である。
【
図2】(A)~(C)は、第1実施形態の防振構造のコンクリート床版にタテノリ加振を与えたとき、コンクリート床版の縁から水平に10m~100m離れた地点、110m~200m離れた地点、及び210m~300m離れた地点までの鉛直方向の地表面アクセレランスを示す図である。
【
図3】(A)~(C)は、第1実施形態の防振構造のコンクリート床版にタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に10m~100m離れた地点、110m~200m離れた地点、及び210m~300m離れた地点までの水平方向の地表面アクセレランスを示す図である。
【
図4】(A)は、第1実施形態の防振構造のコンクリート床版に所定の振動数のタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に540m離れた地点までの鉛直方向の加速度分布を示す図であり、(B)は、第1実施形態の防振構造のコンクリート床版に所定の振動数のタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に540m離れた地点までの水平方向の加速度分布を示す図である。
【
図5】第2実施形態の防振構造を示す平面図である。
【
図6】(A)は、第2実施形態の防振構造において、各コンクリート床版に別々にタテノリ加振を与えたときの振動数と地表面アクセレランスとの関係を示す図であり、(B)は、第2実施形態の防振構造において、各コンクリート床版に同時にタテノリ加振を与えたときの振動数と地表面アクセレランスとの関係を示す図である。
【
図7】第3実施形態の防振構造を示す平面図である。
【
図8】(A)は、比較例の防振構造の一部を切断した状態で示す斜視図であり、(B)は、比較例の防振構造を示す立面図である。
【
図9】(A)~(C)は、比較例の防振構造のコンクリート床版にタテノリ加振を与えたとき、コンクリート床版の縁から水平に10m~100m離れた地点、110m~200m離れた地点、及び210m~300m離れた地点までの鉛直方向の地表面アクセレランスを示す図である。
【
図10】(A)~(C)は、比較例の防振構造のコンクリート床版にタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に10m~100m離れた地点、110m~200m離れた地点、及び210m~300m離れた地点までの水平方向の地表面アクセレランスを示す図である。
【
図11】(A)は、比較例の防振構造のコンクリート床版に所定の振動数のタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に540m離れた地点までの鉛直方向の加速度分布を示す図であり、(B)は、比較例の防振構造のコンクリート床版に所定の振動数のタテノリ加振を与えたときのコンクリート床版の縁から水平に540m離れた地点までの水平方向の加速度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について、図面を基に詳細に説明する。各図面において、本発明と関連性の低いものは図示を省略している。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1~
図4にしたがって、第1実施形態に係る防振構造について説明する。
【0017】
(防振構造の全体構成)
図1(A)、(B)には、第1実施形態に係る防振構造10が適用された構造物12の一例が示されている。
図1(B)に示すように、構造物12が構築される地盤50は、地表面52A側の表層地盤52と、表層地盤52の下側に存在する支持地盤54とを備えている。一例として、表層地盤52の深さ(すなわち、表層地盤52の厚さ)Hは、20mである。
【0018】
図1(A)、(B)に示すように、構造物12は、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版14を支持する複数の杭16と、を備えている。杭16は、支持部材の一例である。
【0019】
コンクリート床版14は、剛体であり、例えば、鉄筋コンクリートで構築されている。一例として、コンクリート床版14は、平面視にて円形状である。防振構造10において、コンクリート床版14は、鉛直方向に加振される(すなわち、タテノリ加振が与えられる)加振床である。
【0020】
本実施形態では、コンクリート床版14の外径φ1は、例えば、20mである(すなわち、半径は10mである)。
【0021】
図示を省略するが、コンクリート床版14の上側には、例えば、コンクリート床版14を囲むように、コンサート会場などの構造躯体が構築されている。コンクリート床版14は、これらの構造躯体と縁切して配置されている。
【0022】
複数の杭16は、平面視にて、コンクリート床版14の中心軸に対して軸対称となるように配置されており、複数の杭16の杭頭部16Aによって、コンクリート床版14が支持されている。複数の杭16の下端部は、支持地盤54まで打ち込まれている。複数の杭16の軸方向上端側の杭頭部16A付近よりも軸方向下側の部分は、表層地盤52に接触している。杭16は、軸剛性を有しており、例えば、コンクリート杭である。
【0023】
複数の杭16は、平面視にて円周上(すなわち、円周状)に所定のピッチで構築されている。言い換えると、複数の杭16は、平面視にて円を描くように配置されている。一例として、杭16は、16本であり、コンクリート床版14の外周部に沿ってほぼ等間隔で配置されている。杭16の杭頭部16Aは、コンクリート床版14の外周面である縁14A付近の下面に接合されている。杭頭部16Aは、コンクリート床版14の支持部の一例である。杭16の杭頭部16Aとコンクリート床版14は、剛結合とされており、例えば、鉄筋で連結されている。
【0024】
後述するが、平面視にて円周上(すなわち、円周状)に配置した複数の杭16の円周の半径をrとする。複数の杭16の円周は、各杭16の杭芯を通る円であり、この円の半径をrとする。
【0025】
コンクリート床版14が複数の杭16によって支持された状態で、コンクリート床版14と表層地盤52との間に空間Sが形成されている。本実施形態では、コンクリート床版14の外周円の中心を含む断面で見たときに(
図1(B)参照)、コンクリート床版14と杭16とで囲まれた空間Sは、横方向(すなわち、水平方向)に長い形状とされている。コンクリート床版14と杭16とで囲まれた空間Sが横方向に長いほど、より低周波数において、コンクリート床版14の周囲の振動低減効果が得られると考えられる。
【0026】
(防振構造の解析)
次に、防振構造10のコンクリート床版14が鉛直方向に加振された場合(すなわち、タテノリ加振された場合)の解析結果について説明する。防振構造10の解析は、軸対称有限要素法プログラム(Super-ALUSH)を用いて実施した。
【0027】
図1に示す防振構造10の解析モデル(軸対称モデル)を用い、コンクリート床版14の中心軸部分(すなわち、コンクリート床版14の中心)を鉛直方向に加振した際の、遠方における加速度を周波数応答解析によって算出する。
【0028】
防振構造10の解析モデルでは、表層地盤52と支持地盤54は、一様な地盤で構成されている。一例として、表層地盤52は、深さ(すなわち、厚さ)Hが20m、せん断波速度Vsが100m/s、密度ρが1.5t/m3、ポアソン比が0.49である。また、支持地盤54は、せん断波速度Vsが400m/s、密度ρが1.7t/m3、ポアソン比が0.45である。
【0029】
防振構造10の解析モデルでは、水平に500m、鉛直に300mまでモデル化している。解析モデルの境界条件としては、十分な余長を持たせた上で、外周および底面を粘性境界とした。解析では、水平500m地点、鉛直300m地点の境界部分での波の反射が起こると反射波が重なってしまうため、検討したい範囲よりも余長を持たせてモデル化することで反射波の影響を小さく抑えるとともに、反射する際の振幅をできるだけ小さくするために、粘性境界(すなわち、反射の際の減衰が大きい境界)としている。地盤50の部分の減衰定数hは2%とする。
【0030】
(比較例の防振構造)
ここで、比較例の防振構造について説明する。
【0031】
図8(A)、(B)には、比較例の防振構造200が適用される構造物202が示されている。
図8(A)、(B)に示すように、構造物202は、コンクリート床版204と、コンクリート床版204を支持する複数の杭206と、を備えている。コンクリート床版204は、平面視にて円形状であり、第1実施形態のコンクリート床版14と同様の寸法である。コンクリート床版204の下面及び縁204Aは、表層地盤52と接触するように配置されている。すなわち、比較例の防振構造200では、コンクリート床版204は、周囲の表層地盤52と縁切りされていない。
【0032】
複数の杭206は、16本であり、コンクリート床版204の中心に1本、コンクリート床版204の半径方向の中間部に4本、コンクリート床版204の縁204A付近に11本が配置されている。複数の杭206は、互いに間隔をおいて配置されている。杭206は、コンクリート杭であり、第1実施形態の杭16と同様の寸法である。
【0033】
(解析結果)
図2(A)~(C)と
図3(A)~(C)は、本実施形態の防振構造10について、コンクリート床版14の縁14Aから水平に10m離れた地点から300m地点までの地表面アクセレランスについて、鉛直方向と水平方向の解析結果を示すグラフである。地表面アクセレランスは、コンクリート床版14を全周波数に亘って単位加振したときの受振点の応答加速度である。各グラフには、10mごとに10地点分のアクセレランスを重ねている。
【0034】
また、
図9(A)~(C)と
図10(A)~(C)は、比較例の防振構造200について、コンクリート床版204の縁204Aから水平に10m離れた地点から300m地点までの地表面アクセレランスについて、鉛直方向と水平方向の解析結果を示すグラフである。
【0035】
図2(A)~(C)及び
図3(A)~(C)に示すように、本実施形態の防振構造10では、水平距離によらずに3.88Hzや7.88Hzを中心とする振動数の周辺で、アクセレランスが低減していることが確認できる。
【0036】
一方、
図9(A)~(C)と
図10(A)~(C)に示すように、比較例の防振構造200では、特定の振動数でアクセレランスが低減している部分は確認されない。
【0037】
すなわち、本実施形態の防振構造10における特定の振動数(3.88Hzや7.88Hzなど)でアクセレランスが低減する現象は、比較例の防振構造200では、発生しない現象である。
【0038】
なお、振動低減が発生する振動数周辺以外の振動数については、本実施形態の防振構造10と比較例の防振構造200とで、10Hz程度までの低振動数領域では大きく増幅しないことを確認している。
【0039】
また、
図2(A)~(C)及び
図3(A)~(C)のグラフには示していないが、10Hz以降では11.7Hzなどでも振動低減が発生している。このため、本実施形態の防振構造10では、最初に振動低減が起こる中心振動数fは、3.88Hzであり、3.88Hzのおよそ整数倍の振動数でも、振動低減が発生する。これは、多人数のタテノリ加振のように、基本ピッチの整数倍の振動数で加振力を発揮する人間の動作に対する振動対策として、極めて都合の良い性質であると言える。
【0040】
図4(A)と
図4(B)は、本実施形態の防振構造10について、コンクリート床版14を3Hzで加振した場合に、コンクリート床版14の中心から水平に540m離れた地点までの鉛直方向と水平方向の加速度分布を示す図である。
【0041】
また、
図11(A)と
図11(B)は、比較例の防振構造200について、コンクリート床版14を3Hzで加振した場合に、コンクリート床版14の中心から水平に540m離れた地点までの鉛直方向と水平方向の加速度分布を示す図である。
【0042】
図11(A)と
図11(B)に示すように、比較例の防振構造200では、コンクリート床版14の周辺の地盤50に伝播する振動が大きい。これに対し、
図4(A)と
図4(B)に示すように、本実施形態の防振構造10では、コンクリート床版14の周辺の地盤50に伝播する振動が低減されている。
【0043】
本発明者の推測であるが、振動低減のメカニズムは、以下のように考えらえる。杭16とコンクリート床版14と支持地盤54で囲まれた表層地盤52の空間S内に振動が伝播する際、特定の振動数において杭16の上部から伝播する振動と杭16の下部から伝播する振動が逆位相となる現象が発生し、お互いに打ち消し合うことでコンクリート床版14の周辺の地盤50に伝播し難くなると考えられる。
【0044】
(振動低減が発生する中心振動数の特徴)
次に、上記解析結果から、本実施形態の防振構造10において、振動低減が発生する中心振動数の特徴について説明する。
【0045】
表層地盤52と支持地盤54との2層で構成された一様な地盤50の場合、最初に振動低減が起こる中心振動数をf[Hz]、円周上(すなわち、円周状)に配置した複数の杭16の円周の半径をr、 表層地盤52の深さをH 、表層地盤52のせん断波速度をVsとしたとき、次の関係が成立する。
【0046】
・「2r≦H」の条件を満たす時に、中心振動数fにおいて振動低減効果が得られる。
・上記条件を満たす範囲で表層地盤52の深さHが変化しても、中心振動数fは変化しない。
・振動低減効果は、中心振動数fだけでなく、2f、3fなど、中心振動数fの整数倍の振動数においても得られる。
・中心振動数fの値は、表層地盤52のせん断波速度Vsの値と線形の比例関係にある(すなわち、Vsが2倍になれば中心振動数fも2倍になる)。
・中心振動数fの値は、複数の杭16の円周の半径rの値の逆数と線形の比例関係にある(すなわち、rが2倍になれば、fは1/2倍になる)。
【0047】
上記の軸対称有限要素法プログラムを用いて実施した解析結果により、以下の式が算出される。
f=0.388×Vs/r (ただし、2r≦Hを満たす時)
【0048】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0049】
本実施形態の防振構造10では、周囲の表層地盤52と縁切して配置されたコンクリート床版14と、支持地盤54まで打ち込まれると共に、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版を支持する複数の杭16とが設けられている。また、防振構造10では、コンクリート床版14の中心軸に対して軸対称となるように、コンクリート床版14を支持する複数の杭16の杭頭部16Aが配置されている。
【0050】
このため、防振構造10では、複数の杭16で表層地盤52と非接触状態で支持されたコンクリート床版14が、鉛直方向に加振された場合に(すなわち、タテノリ加振されたとき)、コンクリート床版14の中心軸に対して軸対称に配置された複数の杭16が平面視にて描く円周の半径r、表層地盤52の深さH、表層地盤52のせん断波速度Vsにより決まる振動数帯域において、コンクリート床版14の縁14Aから水平に所定の距離離れた地点で振動低減効果を得ることができる。
【0051】
前述したように、最初に振動低減が起こる中心振動数f[Hz]は、下記式で算出される。
f=0.388×Vs/r (ただし、2r≦Hを満たす時)
防振構造10では、中心振動数fだけでなく、中心振動数fの整数倍の振動数でコンクリート床版14が加振された場合でも、振動低減効果が得られる。
【0052】
また、防振構造10では、複数の杭16は、円周上に所定のピッチで構築されているため、地下連続壁などを施工する場合と比較して、施工が容易である。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0054】
(防振構造の構成)
図5には、第2実施形態の防振構造60が適用された構造物62が平面図にて示されている。
図5に示されるように、防振構造60では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版64、66が、互いに縁切りして配置されている。例えば、コンクリート床版64、66は、コンサート会場などの構造物62の床版を2つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版64、66は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版64、66は、周囲の表層地盤52(
図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0055】
図5中の左側のコンクリート床版64は、支持部材の一例としての複数の杭68で支持されている。複数の杭68は、例えば、12本である。複数の杭68は、平面視にて円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。
【0056】
図5中の右側のコンクリート床版66は、支持部材の一例としての複数の杭70で支持されている。複数の杭70は、例えば、10本である。複数の杭70は、平面視にて、円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。平面視にて複数の杭68が描く円周の半径rは、平面視にて複数の杭70が描く円周の半径rよりも大きい。
【0057】
防振構造60では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版64、66の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭68、70が配置されている。例えば、コンクリート床版64の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版66の中心振動数fは、3Hzに設定されている。
【0058】
コンサートでは曲ごとにテンポが異なるが、例えば、互いに縁切りして2つのコンクリート床版64、66を配置することで、どちらかの中心振動数f付近の曲の場合は、対応するコンクリート床版64又はコンクリート床版66について、振動低減効果を得ることができる。このため、観客の約半分であるコンクリート床版64上又はコンクリート床版66上の観客がタテノリ加振する分について、振動低減効果を得ることができる。
【0059】
本実施形態では、平面視にて複数の杭68、70は、略矩形状であるが、円形などの他の形状でもよい。なお、防振構造60の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0060】
(解析結果)
図6(A)は、コンクリート床版64、66上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を別々に行った場合の周辺地盤上でのアクセレランスを示すグラフである。
図6(A)に示すように、中心振動数fが2.5Hzに設定されたコンクリート床版64を加振した場合には、振動低減効果がほとんど得られず、中心振動数fが3Hzに設定されたコンクリート床版66を加振した場合には、振動低減効果が得られることが分かる。
【0061】
図6(B)は、コンクリート床版64、66上において、同人数が3Hzのタテノリ加振を同時に行った場合の周辺地盤上でのアクセレランスを示すグラフである。
図6(B)では、参考のため、振動低減されていない場合のアクセレランスの例を破線で示している。
図6(B)に示すように、本実施形態の防振構造60の場合は、3Hzの整数倍付近で、振動低減効果が得られることが分かる。
【0062】
(作用及び効果)
第2実施形態の防振構造60は、第1実施形態の防振構造10と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0063】
防振構造60は、コンクリート床版64、66が、互いに縁切りして複数(本実施形態では2つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版64、66の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0064】
防振構造60では、複数(本実施形態では2つ)のコンクリート床版64、66の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造60では、単一のコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0065】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態の防振構造について説明する。なお、前述した第1及び第2実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0066】
(防振構造の構成)
図7には、第3実施形態の防振構造80が適用された構造物82が平面図にて示されている。
図7に示されるように、防振構造80では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版84、86、88、90が、互いに縁切りして配置されている。例えば、平面視にてコンクリート床版84、86、88、90は、コンサート会場などの構造物82の床を十字状に4つに分割した構成である。例えば、コンクリート床版84、86、88、90は、平面視にて矩形状(本実施形態では、正方形状)である。図示を省略するが、コンクリート床版84、86、88、90は、周囲の表層地盤52(
図1参照)及び構造躯体と縁切して配置されている。
【0067】
コンクリート床版84は、支持部材の一例としての複数の杭92で支持されている。複数の杭92は、例えば、15本であり、平面視にて円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。また、コンクリート床版86は、支持部材の一例としての複数の杭94で支持されている。複数の杭94は、例えば、12本であり、平面視にて円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。また、コンクリート床版88は、支持部材の一例としての複数の杭96で支持されている。複数の杭96は、例えば、11本であり、平面視にて円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。さらに、コンクリート床版90は、支持部材の一例としての複数の杭98で支持されている。複数の杭98は、例えば、10本であり、平面視にて円周上(円周状)に所定のピッチで構築されている。
【0068】
コンクリート床版84、86、88、90では、平面視にて、複数の杭92が描く円周の半径r、複数の杭94が描く円周の半径r、複数の杭96が描く円周の半径r、複数の杭98が描く円周の半径rの順に、半径が小さくなる構成である。本実施形態では、平面視にて複数の杭92、94、96、98は、略矩形状であるが、円形などの他の形状でもよい。
【0069】
防振構造80では、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版84、86、88、92の中心振動数fが異なる値となるように複数の杭92、94、96、98が配置されている。例えば、コンクリート床版84の中心振動数fは、2.2Hzに設定されており、コンクリート床版86の中心振動数fは、2.5Hzに設定されており、コンクリート床版88の中心振動数fは、2.7Hzに設定されており、コンクリート床版90の中心振動数fは、3Hzに設定されている。なお、防振構造80の他の構成は、第1実施形態の防振構造10と同様である。
【0070】
(作用及び効果)
第3実施形態の防振構造80は、第1実施形態の防振構造10と同様の構成による作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
【0071】
防振構造80は、コンクリート床版84、86、88、90が、互いに縁切りして複数(本実施形態では4つ)に配置され、鉛直方向の加振に対応して、それぞれコンクリート床版84、86、88、92の中心振動数fが異なる値に設定されている。
【0072】
防振構造80では、複数(本実施形態では4つ)のコンクリート床版84、86、88、90の中心振動数fを変えることで、音楽によって変化する鉛直方向の加振(例えば、観客のタテノリ加振)の振動低減効果を得ることができる。このため、防振構造80では、4つより少ないコンクリート床版を有する場合と比較して、広い範囲の振動数で振動低減効果を得ることが可能である。
【0073】
〔その他〕
第1実施形態では、平面視にてコンクリート床版14は円形状であり、第2及び第3実施形態では、平面視にてコンクリート床版64、66及びコンクリート床版84、86、88、92は正方形状であるが、本開示はこの構成に限定されるものではない。加振床としてのコンクリート床版は、周囲の構造躯体及び表層地盤52と縁切りされていれば、形状は自由である。例えば、平面視にてコンクリート床版は、六角形、八角形、十二角形などの多角形状でもよい。また、複数の杭の配置は、平面視にて円周上に配置される構成に限定されるものではなく、平面視にて六角形、八角形、十二角形などの多角形状に配置してもよい。
【0074】
また、第1~第3実施形態では、コンクリート床版を支持する支持部材として、複数の杭を配置したが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、コンクリート床版を支持する支持部材として、平面視にて円筒状の地中壁を配置してもよい。
【0075】
また、第1~第3実施形態では、コンクリート床版と表層地盤52とを非接触とする非接触状態の一例として、コンクリート床版と表層地盤52との間に空間Sを設けたが、本開示はこの構成に限定されるものではない。本開示の防振構造では、支持部材によって、表層地盤52と非接触状態でコンクリート床版が支持されている構成であれば、コンクリート床版と表層地盤52との間に、振動を表層地盤52に伝えない部材を配置してもよい。例えば、振動を表層地盤52に伝えない部材を、コンクリート床版の下に配置して、表層地盤52から内部空間への湿気の侵入を防いでもよい。振動を表層地盤52に伝えない部材として、例えば、防湿シートと、グラスウールやロックウールなどの断熱材とを一体化させて防湿層を形成し、さらに通気層を設けて防湿及び断熱を行うようにした部材などがある。
【0076】
また、第2及び第3実施形態では、コンクリート床版を2つ又は4つに分割した例が記載されているが、本開示はこの構成に限定されるものではない。例えば、コンクリート床版を3つ又は5つ以上などの複数に分割し、各コンクリート床版の中心振動数fを異なる値に設定してもよい。
【0077】
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0078】
10 防振構造
14 コンクリート床版
16 杭
16A 杭頭部(支持部の一例)
52 表層地盤
54 支持地盤
60 防振構造
64、66 コンクリート床版
68、70 杭
80 防振構造
84、86、88、90 コンクリート床版
92、94、96、98 杭