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特開2023-114376分離膜、分離膜の製造方法及び分離膜の洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114376
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】分離膜、分離膜の製造方法及び分離膜の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20230809BHJP
   B01D 65/06 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20230809BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20230809BHJP
   C01B 32/198 20170101ALI20230809BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20230809BHJP
   B32B 3/24 20060101ALI20230809BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D65/06
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/16
B01D71/26
B01D71/36
B01D71/50
B01D71/68
C01B32/198
C01B32/194
B32B3/24 Z
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016707
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 広貴
(72)【発明者】
【氏名】多田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】隅倉 みさき
【テーマコード(参考)】
4D006
4F100
4G146
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006KC16
4D006KD24
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA40
4D006MB02
4D006MB11
4D006MB16
4D006MC03
4D006MC05X
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC49
4D006MC62
4D006MC63
4D006MC81
4D006NA44
4D006NA64
4D006PA01
4D006PB12
4D006PB52
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4F100AA20A
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4F100AJ06C
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4F100AL02A
4F100AT00C
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4F100DC11B
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4F100EJ33A
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4F100JA07
4F100JD02
4G146AA01
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4G146AD17
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4G146BA04
4G146CB05
4G146CB06
4G146CB08
4G146CB10
4G146CB12
4G146CB13
4G146CB15
4G146CB16
4G146CB17
4G146CB26
4G146CB29
4G146CB35
4G146CB37
(57)【要約】
【課題】透水性に優れた分離膜を提供する。
【解決手段】分離膜10は、厚さ方向に沿って貫通する第1孔14を有するマトリクス層12と、酸化グラフェンにより構成される複数の単位層のうち隣接する前記単位層同士が少なくとも前記厚さ方向に沿って架橋されるとともに、前記厚さ方向に沿って貫通する第2孔15を、第1孔14と重なるように有する酸化グラフェン層13と、支持体11とを含む。隣接する前記単位層同士の間隔は、第1孔14又は第2孔15のうちの小さな径を有する孔の径以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に沿って貫通する第1孔を有するマトリクス層と、
酸化グラフェンにより構成される複数の単位層のうち隣接する前記単位層同士が少なくとも前記厚さ方向に沿って架橋されるとともに、前記厚さ方向に沿って貫通する第2孔を、前記第1孔と重なるように有する酸化グラフェン層とを含む
ことを特徴とする分離膜。
【請求項2】
隣接する前記単位層同士の間隔は、前記第1孔又は前記第2孔のうちの小さな径を有する孔の径以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の分離膜。
【請求項3】
隣接する前記単位層同士の間隔は0.1nm以上10nm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項4】
前記第1孔及び前記第2孔の開口密度は、それぞれ独立して、0.1×10個/μm以上10×10個/μm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項5】
前記第1孔の開口径をdM、前記第2孔の開口径をdGとすると、下記式(1)を満たす
0.02×dM≦dG≦1.0×dM …式(1)
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項6】
前記第2孔の開口径が0.1nm以上20nmである
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜
【請求項7】
前記マトリクス層は、ブロック共重合体材料、メソポーラスシリカ、及び、ポーラスアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項8】
前記マトリクス層は、ブロック共重合体材料を含む
ことを特徴とする請求項7に記載の分離膜。
【請求項9】
透水性を有し、前記酸化グラフェン層の配置側とは反対側から少なくとも前記マトリクス層を支持する支持体を備え、
前記支持体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、及び酢酸セルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項10】
透水性を有し、前記酸化グラフェン層の配置側とは反対側から少なくとも前記マトリクス層を支持する支持体を備え、
前記支持体は多孔質材料により構成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項11】
前記マトリクス層は、前記第1孔以外の前記酸化グラフェン層の全体を支持する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項12】
前記隣接する単位層同士は、多価カルボン酸、多価アルコール、多価アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋剤に由来する架橋単位により架橋される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の分離膜。
【請求項13】
酸化グラフェンにより構成される複数の単位層のうち、隣接する前記単位層同士を架橋することで酸化グラフェン層を形成する酸化グラフェン層形成工程と、
前記酸化グラフェン層の表面にマトリクス材料を使用してマトリクス層を配置する第1配置工程と、
前記マトリクス層に第1孔を形成する第1孔形成工程と、
前記第1孔形成工程後、前記第1孔に沿って前記酸化グラフェン層に第2孔を形成する第2孔形成工程と、を含む
ことを特徴とする分離膜の製造方法。
【請求項14】
厚さ方向に沿って貫通する第1孔を有するマトリクス層と、酸化グラフェンにより構成される複数の単位層のうち隣接する前記単位層同士が少なくとも前記厚さ方向に沿って架橋されるとともに、前記厚さ方向に沿って貫通する第2孔を、前記第1孔と重なるように有する酸化グラフェン層とを含む分離膜への洗浄液の接触により、前記分離膜を洗浄する
ことを特徴とする分離膜の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は分離膜、分離膜の製造方法及び分離膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な機能を有する分離膜が知られている。例えば、淡水源がますます不足しつつあることから、海水を清浄な飲料水、脱イオン水等へ変換できる解決策が多くの国々によって求められている。海水の淡水化には逆浸透膜(RO膜)、ナノ濾過膜(NF膜)等のフィルタが用いられ、現在の市販フィルタの大部分は多孔質支持層上に薄い芳香族ポリアミド選択層が形成された構造となっている。芳香族ポリアミド選択層は次亜塩素酸ナトリウム等の洗浄液に対する耐性が低く、洗浄による分離性能回復が困難である。そのためフィルタの性能(分離性能、透水性、耐薬品性等)を向上させるために新規膜材料の需要は高い。
【0003】
その観点で、カーボン系材料が注目されている。特許文献1の請求項1には、「多孔質支持層と、前記多孔質支持層と流体連通している、場合により置換されている架橋された酸化グラフェンを含有する酸化グラフェン層とを含む膜であって、前記場合により置換されている架橋された酸化グラフェンが、場合により置換されている酸化グラフェン、および下記式によって表される架橋を含有する、膜」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2019-500212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の膜では、水は、架橋された酸化グラフェンの層間を通る(特許文献1の段落0040)。このため、架橋部分によって水の流通が阻害され、透水性が低下する。
本開示が解決しようとする課題は、透水性に優れた分離膜、分離膜の製造方法及び分離膜の洗浄方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の分離膜は、厚さ方向に沿って貫通する第1孔を有するマトリクス層と、酸化グラフェンにより構成される複数の単位層のうち隣接する前記単位層同士が少なくとも前記厚さ方向に沿って架橋されるとともに、前記厚さ方向に沿って貫通する第2孔を、前記第1孔と重なるように有する酸化グラフェン層とを含む。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、透水性に優れた分離膜、分離膜の製造方法及び分離膜の洗浄方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の分離膜の断面図である。
図2】本実施形態の分離膜の斜視図である。
図3】本実施形態の分離膜の上面図である。
図4】単位層同士の架橋を説明する図である。
図5】本実施形態の分離膜の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。
【0010】
図1は、本実施形態の分離膜10の断面図である。分離膜10は、例えばイオン(1価イオン、2価以上のイオン(多価イオン)等)、所定分子等の溶質を含む溶液から当該溶質を除去するために使用でき、例えば1次側を高圧にして2次側に流すことで、溶質を除去できる。溶媒は、水、有機溶媒等の任意である。他にも、分離膜10は、分散物を含むスラリから当該分散物を除去するためにも使用できる。
【0011】
分離膜10は自立可能であり、取り扱い性に優れる。分離膜10は図示の例では矩形状(図2)を有するが、分離膜10の形状は図示の例に限定されない。分離膜10は、支持体11と、マトリクス層12と、酸化グラフェン層13とを含む。分離膜10は、これら以外の任意の層を含んでもよい。また、支持体11が通常は備えられるが、支持体11は備えられなくてもよい。
【0012】
支持体11は、透水性を有し、酸化グラフェン層13の配置側とは反対側から少なくともマトリクス層12を支持するものである。支持体11を備えることで、分離膜10を自立化できるとともに、分離膜10の強度を向上でき、例えば高圧への耐久性を向上できる。支持体11の具体的な構成は特に制限されないが、例えば通水可能な多孔質材料により構成されることが好ましい。多孔質材料で構成することで、支持体11を通水させることができるとともに支持体11の強度を向上でき、分離膜10全体の強度を向上できる。多孔質材料により形成される開口は、支持体11の厚み方向(通水方向)に沿って一方向のみに延在してもよく、支持体11の内部でジグザグ上に延在してもよい。
【0013】
多孔質材料で構成する場合、通水時、支持体11の圧力損失は小さい方が好ましい。このため、支持体11の強度を維持できる範囲内で多孔質の空隙率を高くすることが好ましい。この場合、支持体11が有する開口(不図示)の開口径は、0.1μm以上100μm以下が好ましい。開口径は走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて測定できる。また、空隙率は、例えば40%以上80%以下であることが好ましい。空隙率はアルキメデス法等より測定できる。
【0014】
支持体11の材質は特に制限されず、例えば、
ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、酢酸セルロース、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル等の高分子材料、
シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等のセラミック材料、
のうちの少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、支持体11は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、及び酢酸セルロースからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの少なくとも1種を含むことで、分離膜10を軽くでき、かつ、分離膜10の強度を向上できる。
【0015】
支持体11の形状も特に制限されず、例えばメッシュ状、織布状、不織布状等にできる。
【0016】
支持体11は、マトリクス層12との密着性向上のため、少なくともマトリクス層12の配置側を適宜コーティングしてもよい。使用するコーティング材料は特に制限されないが、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)等の少なくとも1種が挙げられる。コーティング材料は、異なるコーティング材料同士を架橋処理させたものでもよい。
【0017】
マトリクス層12は、厚さ方向に沿って貫通する第1孔14を有する。厚さ方向とは、マトリクス層12、酸化グラフェン層13及び分離膜10の積層方向(配置方向)である。例えば、大きなタンパク質を溶解させた水溶液を考えると、小さな水分子を第1孔14及び第2孔15(後記)に通すことで、分離膜10によって大きなタンパク質を分離できる。特に、第1孔14及び第2孔15は開口であるため、水分子の流れが阻害され難く、透水性を向上できる。
【0018】
マトリクス層12を備えることで、酸化グラフェン層13に元々存在していた欠陥(大きさを制御していない開口の一例)等を閉止でき、意図しない分離膜10の透過を抑制できる。また、酸化グラフェン層13の第2孔15(後記)よりも大きな欠陥等が存在している場合でも、第1孔14によって当該欠陥を通じた分離膜10の透過を抑制できる。これらにより、分離膜10による分離性能を担保できるとともに、第1孔14の開口径に応じた大きさの物質を流すことができる。このため、物質選択性を向上できる。
【0019】
マトリクス層12の開口密度、即ち、通水方向に垂直な方向の平面における単位面積当たりの第1孔14の数は特に制限されない。マトリクス層12の開口密度は酸化グラフェン層13の開口密度の最大値に影響する要因である。第1孔14の開口密度(単位面積当たりの第1孔14の数)は分離膜10の透水性に影響する因子であり、高い方が好ましく、中でも、0.1×10個/μm以上10×10個/μm以下であることが好ましい。0.1×10個/μm以上にすることで、透水性を向上できる。一方で、10×10個/μm以下にすることで、詳細は後記するがマトリクス層12によるマスクとしての機能を発揮し易くできる。開口密度は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定した第1孔14の数に基づいて決定できる。
【0020】
第1孔14の開口径は特に制限されず、目的の透過物の大きさに応じて、適宜設定すればよい。ただし、第1孔14の開口径は、例えば0.1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは5nm以上、上限として例えば20nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは2nm以下(ただし下限値が2nmより小さい場合に限る)である。この範囲にすることで、酸化グラフェン層13に存在する欠陥等を閉塞する効果を大きくできる。また、開口密度を向上でき、透水性を向上できる。更には、パターニング時(後記)の精度を向上できる。第1孔14の開口径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)を用い測定できる。
【0021】
図2は、本実施形態の分離膜10の斜視図である。図3は、本実施形態の分離膜10の上面図である。第1孔14は例えば散点的に配置されるが、その具体的な形態は特に制限されない。例えば、第1孔14は、第1孔14を直線的に等間隔で連続的に配置した第1孔群141とし、複数の第1孔群141を同じく等間隔で並列に配置できる。また、隣接する3つの第1孔14の為す角度θが60°になる60°千鳥配置、隣接する3つの第1孔14の為す角度θが45°になる45°千鳥配置(不図示)等も挙げられる。ここでいう為す角度θは、隣接する3つの第1孔14の中心P同士を結ぶ2本の線分Lにより為される角度であり、最も小さい角度をいう。
【0022】
第1孔14の配置パターンとしては、開口密度を高くする観点から、図2及び図3に示す60°千鳥配置が好ましい。60°千鳥配置で構成する場合、第1孔14の開口径は例えば0.1nm以上20nm以下にできるとともに、隣接する第1孔14同士の間隔(中心間距離。1本の線分の長さ)は第1孔14の開口径の例えば2倍以上4倍以下(例えば10nm以上80nm以下)にできる。
【0023】
図1に戻って、マトリクス層12は、第1孔14以外の酸化グラフェン層13の全体を支持する。これにより、酸化グラフェン層13に意図しない欠陥等が存在しても、マトリクス層12の第1孔14によって透過物の大きさを制御できる。
【0024】
マトリクス層12の厚さ(膜厚)は特に制限されない。例えば、厚さは、5nm以上50nm以下が好ましい。5nm以上にすることで、第1孔14を形成し易くでき、かつ、酸化グラフェン層13の第2孔15を形成し易くできる。また、50nm以下にすることで、マトリクス層12の圧力損失を低減できる。
【0025】
マトリクス層12の構成材料は特に制限されない。例えば、マトリクス層12の構成材料としては、
ポジ型又はネガ型ホトレジスト材料、
ブロック共重合体材料、具体的にはポリスチレン(PS)-ポリメタクリル酸メチル(PMMA)共重合体、ポリシルセスキオキサンメタクリレート(PMAPOSS)-ポリメタクリル酸メチル共重合体、ポリイソプレン-ポリスチレン-ポリビニルピリジン共重合体等、
メソポーラスシリカ、ポーラスアルミナ等のセラミック材料、
等の少なくとも1種が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、マトリクス層12は、ブロック共重合体材料、メソポーラスシリカ、及び、ポーラスアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。マトリクス層12をこのような材料で構成することで、酸化グラフェン層13を支持可能なマトリクス層12を形成できる。中でも、マトリクス層12は、ブロック共重合体材料を含むことが好ましい。このような材料を含むことで、各構成要素の分子量比を変更することで第1孔14の開口径及び開口密度を容易に制御できる。
【0027】
酸化グラフェン層13は、マトリクス層12に支持されるとともに、上記厚さ方向に沿って貫通する第2孔15を、第1孔14と重なるように有するものである。酸化グラフェン層13では、酸化グラフェンにより構成される複数の単位層131(図4)のうち隣接する単位層131同士が少なくとも上記厚さ方向に沿って架橋される。
【0028】
図4は、単位層131同士の架橋を説明する図である。単位層131は、例えば、酸化グラフェンのシートにより構成される。酸化グラフェンは例えばグラファイトを酸化反応により製造可能であり、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の1種以上の酸素含有官能基を複数有する。本明細書において単に「酸化グラフェン層13」というときは、酸化グラフェン層13では、単位層131同士が架橋されているものとする。
【0029】
隣接する単位層131同士は、単位層131同士を架橋する架橋剤に由来する架橋単位132により架橋される。架橋単位132を備えることで隣接する単位層131同士を共有結合によって強固に固定でき、単位層131の強度を向上できる。特に、例えば酸化グラフェン層13の洗浄時(適宜物理的な力を付与してもよい)に単位層131の破損及び剥離を抑制できる。また、架橋単位132の長さを変えることで、隣接する単位層131の間隔L1(層間距離)を調整できる。
【0030】
架橋剤は、隣接する単位層131中の酸化グラフェンに含まれる例えば上記酸素含有官能基同士を架橋する。従って、架橋単位132は、通常は、架橋剤の構造の一部を有する。架橋剤は、酸素含有官能基同士を架橋できるものであれば特に制限されないが、通常は有機物であることが好ましく、中でも、多価カルボン酸、多価アルコール、多価アミン(ただし炭素を有するものに限る)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらを使用することで、単位層131同士を架橋できる。
【0031】
多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等の1種以上が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリトリトール等の1種以上が挙げられる。多価アミンとしては、エチレンジアミン、プトレシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン等の1種以上が挙げられる。
【0032】
隣接する単位層131同士の間隔L1(層間距離)は、第1孔14又は第2孔15(図1)のうちの小さな径を有する孔(図示の例では第2孔15)の径D1以下であることが好ましい。このようにすることで、隣接する単位層131同士の間を意図せず物質が透過することを抑制でき、第1孔14及び第2孔15を通じて所望物質のみを透過できる。特に、隣接する単位層131の間には架橋単位132が存在するため、架橋単位132による侵入阻害によって、この点でも、意図しない物質の透過を抑制できる。
【0033】
隣接する単位層131同士の間隔L1は、特に制限されないが、例えば、0.1nm以上10nm以下である。これにより、10nmを超える物質が隣接する単位層131同士の間に入ることを抑制できる。
【0034】
単位層131の積層数は、2層以上であれば特に制限されないが、中でも例えば10層以上、好ましくは20層以上、上限として例えば50層以下、好ましくは30層以下である。
【0035】
単位層131同士の架橋密度は高いほうが好ましい。架橋密度を高くすることで機械的強度が向上し、洗浄時を含め膜の破損を抑制できる。架橋密度は、IRスペクトルあるいはNMRスペクトルから見積もることができる。
【0036】
図1に戻って、第2孔15は単位層131(図4)を貫通するように形成される。このようにすることで、第2孔15の開口径制御により透過物の大きさを制御できる。
【0037】
第2孔15は、第1孔14と重なって形成される。「重なる」とは、第1孔14と第2孔15とが連通しており、溶質、分散物等の透過物を流すことができるようになっている状態をいう。重なりの程度として、第2孔15が完全に第1孔14を完全に重なる(即ち、例えば図1に示すように第2孔15の開口径が第1孔14の開口径より小さい)必要は無く、第2孔15が第1孔14の少なくとも一部と重なっていればよい。なお、詳細は後記するが、酸化グラフェン層13の第2孔15は、マトリクス層12をマスクとして形成される。従って、第2孔15の開口径と第1孔14の開口径とは、通常はほぼ同じ(完全に同じでもよい)になる。
【0038】
酸化グラフェン層13の開口密度、即ち、通水方向に垂直な方向の平面における単位面積当たりの第2孔15の数は特に制限されない。酸化グラフェン層13の開口密度は分離膜10の透水性に影響する因子であり、高い方が好ましく、中でも、第2孔15の開口密度(単位面積当たりの第2孔15の数)は、0.1×10個/μm以上10×10個/μm以下であることが好ましい。0.1×10個/μm以上にすることで、透水性を向上できる。一方で、10×10個/μm以下にすることで、例えば高強度を有するという酸化グラフェン層13としての機能を発揮し易くできる。開口密度は、例えば原子間力顕微鏡(AFM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用いて測定した第2孔15の数に基づいて決定できる。
【0039】
第2孔15の開口径は特に制限されず、目的の透過物の大きさに応じて、適宜設定すればよく、例えば0.1nm以上、好ましくは2nm以上、上限として例えば20nm以下、好ましくは10nm以下である。より具体的には例えば、タンパク(ヒト免疫グロブリンG(IgG)等)のような比較的大きな分子を水溶液から除去するのであれば例えば2nm以上10nm以下、低分子、イオン等の比較的な小さなものを除去するのであれば例えば0.1nm以上2nm以下とすることが好ましい。第2孔15の開口径は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)等を用い。第1孔14と同様の方法により測定できる。
【0040】
第1孔14の開口径(内径)をdM、第2孔15の開口径をdGとすると、下記式(1)を満たすように、第1孔14及び第2孔15の開口径を制御することが好ましい。
0.02×dM≦dG≦1.0×dM …式(1)
式(1)を満たすように第1孔14及び第2孔15の開口径を制御することで、第2孔15を形成易くできるとともに酸化グラフェン層13の強度を向上できる。
【0041】
上記のように、酸化グラフェン層13の第2孔15は、マトリクス層12をマスクとして形成される。従って、第2孔15の開口径dGの最大値は、通常はマスクであるマトリクス層12の開口径dMと一致する。一方で、最小値は、酸化グラフェンの六印環1つが除去された構造を想定すると0.5nm程度であり、dMの0.02倍以上0.1倍以下程度となる。そこで、上記(1)を満たすように第1孔14及び第2孔15の開口径を制御することで、第2孔15を形成し易くできる。
【0042】
酸化グラフェン層13に存在する第2孔15の内壁151(開口部を含む)を構成する第1官能基は、通常は、酸化グラフェンに含まれる水酸基、カルボキシル基、エポキシ基等の上記酸素含有官能基である。第1官能基は、第1官能基に結合可能な第2官能基により分子修飾されることが好ましい。第1官能基は、特に、詳細は後記するが、第2孔15の形成時に内壁151が酸化され、第2孔15の内壁にはこれらの酸素含有官能基が生成し易い。第2官能基によって修飾されることで、第2官能基の種類によって第2孔15を透過する物質を選択したり、第2官能基の大きさによって第2孔15を通る透過物の大きさを制御したりできる。
【0043】
第2官能基は、第1官能基と反応して結合可能なものであれば特に制限されない。第2官能基は、例えば、第1官能基と結合可能な反応性官能基と、第1官能基と結合可能で、更には開口径制御等の機能を発現する機能性官能基とを含む。
反応性官能基としては、アルコキシシリル基、クロロシリル基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の少なくとも1種が挙げられる。
機能性官能基としては、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等)、ポリエチレングリコール(PEG)に由来する官能基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、フルオロアルキル基、双性イオン(ホスホリルコリン、スルホベタイン、カルボキシベタイン等)を含む官能基、及びこれらの誘導体等の少なくとも1種が挙げられる。
【0044】
これらの中でも、第2官能基は、アルキル基、ポリエチレングリコールに由来する官能基、アクリル基、メタクリル基、アクリルアミド基、フルオロアルキル基、双性イオンを含む官能基、及び、これらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの少なくとも1種を含むことで、第2孔15の中央側に向けて第2官能基を結合させて、各種機能を発揮できる。
【0045】
図5は、本実施形態の分離膜10の製造方法を示すフローチャートである。以下、適宜図1も参照して図4を説明する。分離膜10の製造方法は、犠牲層形成工程S1と、酸化グラフェン層形成工程S2と、第1配置工程S3と、第1孔形成工程S4と、第2孔形成工程S5と、修飾工程S6と、第2配置工程S7と、を通常はこの順で含む。
【0046】
犠牲層形成工程S1は基板(例えばSi基板)上に例えば薄膜状の犠牲層を形成する工程である。犠牲層により、基板表面を平滑化できる。犠牲層形成のための犠牲層材料は、酸化グラフェン層13を表面に形成でき、かつ、基板から酸化グラフェン層13を分離できるものであれば任意であるが、例えばアルギン酸カルシウム等が挙げられる。基板に犠牲層の効果を含むものを使用する場合には犠牲層形成工程S1を行わなくてもよい。その場合の基板としては岩塩基板、銅薄等が挙げられる。犠牲層は、犠牲層材料の溶液をスピンコートにより形成できる。
【0047】
酸化グラフェン層形成工程S2は、酸化グラフェンにより構成される複数の単位層131(図4)のうち、隣接する単位層131同士を架橋することで酸化グラフェン層13を形成する工程である。酸化グラフェン層形成工程S2は、通常、更に、犠牲層上に未架橋の酸化グラフェン層13を形成する工程も含み、未架橋の酸化グラフェン層13に対し、上記の架橋が実行される。
【0048】
未架橋の酸化グラフェン層13は、犠牲層上に対し、例えば、酸化グラフェンのフレーク、粉末等を分散したスラリー(溶液でもよい)をスプレーコート、スピンコート等することにより形成できる。なお、架橋後に酸化グラフェン層13の犠牲層への密着性を高めるために、犠牲層の表面に接着層を配置し、配置層上に未架橋の酸化グラフェン層13を形成してもよい。接着層は、例えばポリビニルアルコールの薄膜により構成できる。
【0049】
単位層131同士の架橋は、未架橋の酸化グラフェン層13を含む基板全体を例えば架橋剤溶液に浸漬し、その後水洗及び乾燥することで、実行できる。実行により、架橋した酸化グラフェン層13が得られる。架橋剤溶液は、例えば、上記架橋剤を溶媒(例えば水)に溶解させた架橋剤溶液(例えば架橋剤水溶液)として使用できる。架橋剤の使用量は、例えば未架橋の酸化グラフェン層13に含まれる酸素含有官能基の濃度に応じて適宜決定すればよい。使用する架橋剤の種類(具体的には一対の架橋点間の長さ)は、所望の間隔L1(図4)に応じて決定すればよい。架橋剤溶液には、適宜、架橋促進のための触媒(例えば酸、塩基等)を添加してもよい。架橋時の温度は例えば室温(例えば25℃)にできるが、架橋促進のため、加温してもよい。
【0050】
第1配置工程S3は、例えば酸化グラフェン層形成工程S2で形成した酸化グラフェン層13の表面にマトリクス材料を使用してマトリクス層12を配置する工程である。マトリクス材料は、例えば、
ポジ型又はネガ型のホトレジスト材料、
ブロック共重合体材料、
メソポーラスシリカ、ポーラスアルミナ等のセラミック材料
等の少なくとも1種を使用できる。ブロック共重合体材料は複数種のポリマを共有結合で連結して1分子としたものである。
【0051】
これらの中でも、マトリクス材料は、ブロック共重合体材料を含むことが好ましい。ブロック共重合体材料を含むことで、ミクロ相分離によって一方の重合体を除去して第2孔15を形成し、残部に他方の重合体により構成されるマトリクス層12を形成できる。ブロック共重合体材料は、例えば、例えばポリスチレン(PS)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との共重合体、ポリシルセスキオキサンメタクリレート(PMAPOSS)とPMMAとの共重合体、ポリイソプレンとポリスチレンとポリビニルピリジンとの共重合体等の少なくとも1種が挙げられる。
【0052】
マトリクス材料の酸化グラフェン層13上への配置方法は特に制限されず、例えばマトリクス材料を含む溶液又はスラリを塗布し、乾燥又は固化させることで、形成できる。
【0053】
第1孔形成工程S4は、酸化グラフェン層13に配置されたマトリクス層12に第1孔14を形成する工程である。第1孔14の形成方法は特に制限されず、例えば以下のようにして行うことができる。例えば、マトリクス材料としてホトレジスト材料を用いる場合には、ホトレジスト材料を成膜後に紫外光、X線、電子線等を用いて露光し、その後現像液にて処理することで第1孔14を形成できる。
【0054】
マトリクス材料としてブロック共重合体材料を用いる場合には、成膜後熱処理を行うことでミクロ相分離を生じさせ、その後、紫外線の照射により一方のポリマ(上記の第2重合体に相当)を架橋及び不溶化し、他方のポリマ(上記の第1重合体に相当)を除去することで第1孔14を形成できる。ブロック共重合体材料を用いる場合、一方のポリマ及び他方のポリマの分子量、又は、分子量同士の比の少なくとも一方を変更することで開口径及び開口密度を制御できる。例えば、第1重合体に相当するポリマの分子量を大きくすることで、第1孔14の開口径を大きくできる。
【0055】
マトリクス材料としてセラミック材料を用いる場合、例えばメソポーラスシリカではテトラエトキシシラン(TEOS)等のSiO前駆体と臭化セチルトリメチルアンモニウム等の界面活性剤とを含む溶液を用いて成膜後、所定の温度で例えば全体が加熱される。その後、界面活性剤を洗浄により除去することで、第1孔14を形成できる、また、界面活性剤の種類、処理条件(温度、溶媒等)等の条件を変更することで、第1孔14の開口径及び開口密度を制御できる。
【0056】
第2孔形成工程S5は、第1孔形成工程S4の後、第1孔14に沿って酸化グラフェン層13に第2孔15を形成する工程である。第2孔15の形成は、例えば、第1孔14からマトリクス層12の側に露出する酸化グラフェン層13に対して行えれば、その具体的方法は特に制限されない。例えば、第1孔14を有するマトリクス層12をマスクとして用い、酸素プラズマ処理、UVオゾン処理等のドライプロセス、過マンガン酸カリウム水溶液への浸漬等のウェットプロセス等の少なくとも1つの方法により行うことができる。
【0057】
修飾工程S6は、第2孔15を構成する内壁151を構成する第1官能基を、前記第1官能基に結合可能な第2官能基で分子修飾する工程である。修飾工程S6により内壁151を第2官能基で分子修飾でき、第2孔15の開口径又は分離膜10の物質選択性の少なくとも一方を制御できる。例えば、第2官能基が長鎖アルキル基、嵩高い官能基等である場合、第2孔15の開口径を第2孔形成工程S5での形成時の開口径よりも小さくできる。これにより、第2孔形成工程S5での形成時の開口径が意図せず大きくなってしまった場合に、開口径を調整できる。化学修飾は例えば、第2官能基を有する化合物の溶液中に分離膜10を浸漬することで行うことができる。この際必要に応じて脱気処理、加熱処理、触媒の添加を行ってもよい。
【0058】
なお、修飾工程S6は、行われることが好ましいものの、行わなくてもよい。更に、修飾工程S6の実行時期は、第2孔15の形成途中でもよく、又は、形成後であればいつでもよい。
【0059】
第2配置工程S7は、第1孔14及び第2孔15をそれぞれ形成したマトリクス層12及び酸化グラフェン層13の一体物を、マトリクス層12の側が接触するように透水性を有する支持体11の表面に配置する工程である。配置の具体的方法は特に制限されないが、例えば、マトリクス層12と支持体11とを対向させて圧着させることで配置できる。この際、真空ラミネート装置等を用いて圧着してもよい。その後、犠牲層溶解可能な溶液への浸漬により犠牲層を除去することで、基板から犠牲層が剥離される。次いで、水洗及び乾燥することで分離膜10を得ることができる。なお、支持体11に圧着する前に犠牲層を除去し基板から剥離し、例えば水中でマトリクス層12及び酸化グラフェン層13の一体物を支持体11で掬い取ることで、分離膜10を得ることもできる。
【0060】
本開示の分離膜10によれば、開口である第1孔14及び第2孔15を通じて目的物質を透過させることで、透水性を向上できる。また、第1孔14及び第2孔15の開口径の制御により目的物質を分離できる。第1孔14及び第2孔15の開口径制御は、単位層131同士の間隔L1の制御よりも容易であるため、物質選択性を容易に向上できる。
【0061】
また、グラフェンでは、規則的な六印環の配列により、隣接するシート(単位層131に対応)間同士が強く引き付けあう。しかし、グラフェンは製造方法が煩雑であり、酸化され易いために取り扱いも煩雑である。一方で、酸化グラフェンでは、酸素含有官能基の存在により単位層131同士が引き付けあう引き使う力は弱い。しかし、酸化グラフェンは容易に製造でき、更には、取り扱いも容易である。そして、本開示の分離膜10では、酸化グラフェンの例えばシートである単位層131同士が共有結合によって架橋している。このため、酸化グラフェンを使用する分離膜10においても、グラフェンを使用した分離膜と同等の耐久性を有する。特に、酸化グラフェンはグラフェンよりも取り扱い性に優れるため、酸化グラフェンを使用する本開示によれば、優れた透水性とともに、耐久性及び取り扱い性にも優れる分離膜を容易に製造できる。
【0062】
また、本開示の分離膜10は、耐久性に優れることで、洗浄液を用いた洗浄を行うことで長期間繰り返し使用できる。即ち、本開示の分離膜の洗浄方法は、分離膜10への洗浄液(例えば次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の水溶液)の接触により、分離膜10を洗浄する方法である。接触は、例えば、洗浄液の流速(例えば水流)を速くし高い剪断力を与える手法、第1孔14及び第2孔15に洗浄液を流したり表面に沿って流したりする手法、等により実行できる。この場合であっても、単位層131同士が架橋していることで、単位層131の破損等を抑制できる。
【実施例0063】
以下、実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に制限されない。
【0064】
<実施例1>
図5に示したフローチャート(ただし修飾工程S6は行わない)に沿って、図1に示した分離膜10を作製した。支持体11としてポリスルホンの膜を、犠牲層材料としてアルギン酸ナトリウム(塩化カルシウム水溶液中でアルギン酸カルシウムに変化)を、マトリクス材料としてポリスチレン(数平均分子量:46100)とポリメタクリル酸メチル(数平均分子量:21000)とのブロック共重合体材料を用意した。
【0065】
Si製の基板(Si基板)上に上記犠牲層材料を塗布し塩化カルシウム水溶液に浸漬することで、アルギン酸カルシウムにより構成される犠牲層を基板表面に形成した(犠牲層形成工程S1)。犠牲層上に接着層(ポリビニルアルコールの薄膜)を形成したのち、スプレーコート法により未架橋の酸化グラフェン層13を形成した。その後、架橋剤水溶液(架橋剤としてのエチレンジアミンを0.1mol/Lの割合で含む水溶液)に室温(25℃)下で1時間以上浸漬した。1時間経過後、水洗、乾燥することで架橋された酸化グラフェン層13を得た(酸化グラフェン層形成工程S2)。
【0066】
酸化グラフェン層13上に、上記マトリクス材料を塗布及び固化してマトリクス層12を形成した(第1配置工程S3)。全体を真空中で加熱(230℃で1時間以上)することでマトリクス材料にミクロ相分離を生じさせ、ポリメタクリル酸メチルのシリンダ状ドメインが直立した構造を形成させた。その後、窒素中にて1分間の紫外線照射を行ってポリスチレン領域を不溶化し、さらに、2分間の酢酸浸漬によりポリメタクリル酸メチルを除去することで、マトリクス層12に第1孔14を形成した(第1孔形成工程S4)。
【0067】
マトリクス層12の走査型電子顕微鏡を用いた観察により、第1孔14の開口径は20nm、開口密度は0.75×10個/μmであった。
【0068】
第1孔14を形成後、全体を酸素プラズマ処理し、第1孔14を通じて酸化グラフェン層13に酸素プラズマを接触させ、第1孔14に沿って第2孔15を形成した(第2孔形成工程S5)。さらに、酸素プラズマ処理により、酸化グラフェン層13中に、新たな酸素含有官能基が生成した。酸素プラズマ処理時間は、第2孔15の開口径が0.1nm以上1nm以下になるように調整した。UVオゾン処理後、エチレンジアミン四酢酸・四ナトリウム水溶液に浸漬することで犠牲層を除去したのち、支持体11に転写することで(第2配置工程S7)、実施例1の分離膜10を得た。
【0069】
酸化グラフェン層13の透過型電子顕微鏡を用いた観察により第2孔15の開口密度を測定したところ、開口密度は0.5×10個/μmであった。また、第2孔15の開口径は、第1孔14の開口径と同じであった。
【0070】
<比較例1>
市販のNF膜を使用して、比較例1の分離膜を得た。
【0071】
<参考例1>
未架橋の酸化グラフェン層13を使用した(即ち酸化グラフェン層形成工程S2を行わない)こと以外は実施例1と同様にして、参考例1の分離膜を作製した。
【0072】
<性能評価>
実施例1の分離膜10、比較例1及び参考例1の分離膜のそれぞれに対し、タンパク質水溶液(ヒト免疫グロブリンG;IgGを5mg/Lの割合で含む)を透水し、タンパク質阻止能及び透水速度を評価した。ヒト免疫グロブリンGの大きさは10nm~20nmである。評価にはクロスフロー型のろ過装置を用いた。このろ過装置は、分離膜を支持する支持部(不図示)を備え、当該支持部によって各分離膜を支持して試験を行った。
【0073】
タンパク質水溶液を加圧しながら実施例1及び参考例1の分離膜10に通水すると、透過液が得られた。抗原抗体反応を利用して透過液中のIgG量を測定し、阻止率を算出したところ、いずれも90%以上であった。このことから第1孔14及び第2孔15の開口径よりも大きなIgGの透過を抑制し、当該開口径よりも小さな水分子を透過できた。
【0074】
比較例1の分離膜(NF膜)に通水させた場合も、実施例1の分離膜10と同様に透過液が得られた。しかし、通水のためのタンパク水溶液に付与した圧力は、実施例1の分離膜10の通水時に付与した圧力の10倍であった。しかし、通水のためのタンパク水溶液に付与した圧力は、実施例1の分離膜10の通水時に付与した圧力よりも大きかった。従って、実施例1の分離膜10を使用することで、比較例1の分離膜、即ち従来のNF膜を用いた分離と比べて低圧で分離できることがわかった。従って、分離膜10の優れた透水性を確認できた。また、分離膜10への透水性を向上できることで、分離膜10に付与される圧力を小さくできるため、分離膜10の耐久性も向上できる。
【0075】
<膜洗浄評価>
実施例1、比較例1及び参考例1の分離膜に対し、性能評価の場合と同様にタンパク水溶液を通水すると、分離膜10の表面にタンパクが付着し透過水量が低下した。そこで、洗浄液としての次亜塩素酸ナトリウム水溶液を第1孔14及び第2孔15に流通させて分離膜10の表面を洗浄した。洗浄後、再度同様にタンパク水溶液を通水し分離性能評価を行った。
【0076】
実施例1においては洗浄により分離性能を維持したまま透過水量が回復した。しかし、比較例1では、次亜塩素酸ナトリウム水溶液によってNF膜を構成する芳香族ポリアミド選択層が損傷し、再利用できなかった。また、更には、参考例1では、透過水量は回復したものの、分離性能が低下した。これは、洗浄に起因して、単位層131の一部が破損したためと考えられる。これらの点から、本開示の分離膜10は、洗浄等に対する物理的耐久性が高く、再利用に適した分離膜であることが分かった。
【0077】
以上、本開示に係る酸化グラフェンを用いた分離膜について実施形態および実施例により詳細に説明したが、本開示の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本開示を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 分離膜
11 支持体
12 マトリクス層
13 酸化グラフェン層
131 単位層
132 架橋単位
14 第1孔
141 第1孔群
15 第2孔
151 内壁
D1 径
dG 開口径
dM 開口径
L 線分
L1 間隔
S1 犠牲層形成工程
S2 酸化グラフェン層形成工程
S3 第1配置工程
S4 第1孔形成工程
S5 第2孔形成工程
S6 修飾工程
S7 第2配置工程
θ 角度
図1
図2
図3
図4
図5