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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114385
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】発熱装置および熱利用システム
(51)【国際特許分類】
   F24V 30/00 20180101AFI20230809BHJP
【FI】
F24V30/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016725
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】512261078
【氏名又は名称】株式会社クリーンプラネット
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川 英利
(72)【発明者】
【氏名】岩村 康弘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】吉野 英樹
(57)【要約】
【課題】発熱効率の低下を抑制する発熱装置及び熱利用システムを提供する。
【解決手段】発熱装置は、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜により構成される板状部材が巻回されて構成される巻回発熱体(31)と、巻回発熱体の巻回軸方向の端部を固定する渦巻状の溝(溝322及び溝332)を備える固定部(上固定部32及び下固定部33)と、を備える。熱利用システムは、発熱装置と、発熱装置により加熱された熱媒体を熱源として利用する熱利用装置と、を備える。
【選択図】図5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜により構成される板状部材が巻回されて構成される巻回発熱体と、
前記巻回発熱体の巻回軸方向の端部を固定する渦巻状の溝を備える固定部と、を備える発熱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱装置であって、
前記巻回発熱体は、その少なくとも一部が露出するように配置される、発熱装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発熱装置であって、
前記固定部は対をなして構成され、対をなす前記固定部が備える前記溝は、前記巻回発熱体の軸方向の両端部を固定する、発熱装置。
【請求項4】
請求項3に記載の発熱装置であって、
対をなす前記固定部は、前記巻回発熱体の外側に設けられる支柱を用いて固定される、発熱装置。
【請求項5】
請求項3に記載の発熱装置であって、
対をなす前記固定部は、前記巻回発熱体の内側に設けられる柱状部材を用いて固定される、発熱装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の発熱装置であって、
前記溝の溝長は、前記巻回発熱体の巻回長よりも長い、発熱装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の発熱装置であって、
前記巻回発熱体の軸方向の途中に配置され、前記巻回発熱体を保持する渦巻状の貫通溝を備えるガイドを、さらに備える、発熱装置。
【請求項8】
請求項7に記載の発熱装置であって、
前記貫通溝の溝は、前記固定部の溝と大きさが略等しい、発熱装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の発熱装置であって、
前記固定部は、非金属材料によって構成される、発熱装置。
【請求項10】
請求項9に記載の発熱装置であって、
前記固定部は、セラミックスにより形成される、発熱装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の発熱装置と、前記発熱装置により加熱された熱媒体を熱源として利用する熱利用装置と、を備える熱利用システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱装置および熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、一定の反応条件の下で多量の水素を繰り返し吸蔵及び放出する特性を有しており、この水素の吸蔵と放出時に多くの反応熱を伴うことが知られている。このような水素吸蔵合金を発熱部として利用した発熱装置の種々の態様が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/122097号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、発熱装置に用いられる発熱部の一態様として、板状に構成される発熱体を疎巻で巻回した巻回発熱体が開示されている。このような態様においては、巻回発熱体と筐体との接触や、隣接する巻回面同士の接触により、接触した箇所が癒着して有効発熱面積が減少し発熱量が低下したり、熱が逃げて発熱自体が停止してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、発熱効率の低下を抑制する発熱装置及び熱利用システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の一態様の発熱装置は、水素の吸蔵と放出によって発熱する多層膜により構成される板状部材が巻回されて構成される巻回発熱体と、巻回発熱体の巻回軸方向の端部を固定する渦巻状の溝を備える固定部と、を備える。
【0007】
本願発明の一態様の熱利用システムは、上記の発熱装置と、発熱装置により加熱された熱媒体を熱源として利用する熱利用装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本願発明の一態様の発熱装置によれば、巻回発熱体の巻回軸方向の端部が、固定部に設けられた溝に収容される。一般に巻回して構成される板状部材は変形しやすいが、端部が溝に収容されることで、巻回発熱体と筐体との接触や、隣接する巻回面同士の接触が防止され、発熱効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】各実施形態に共通の、第1層と第2層とを有する発熱体の構造を示す断面図である。
図2】過剰熱の発生を説明するための説明図である。
図3図3は、第1実施形態における熱利用システムの概略図である。
図4図4は、図3に示した熱利用システムが有する発熱モジュールの分解斜視図である。
図5図5は、図4に示した発熱モジュールが備える発熱構造体の分解斜視図である。
図6図6は、図5に示した発熱構造体の固定部の平面図である。
図7図7は、図4に示した発熱モジュールの断面図である。
図8図8は、他の例における発熱構造体の固定部の平面図である。
図9図9は、第2実施形態における熱利用システムが有する発熱モジュールの分解斜視図である。
図10図10は、図9に示した発熱モジュールが備える発熱構造体の分解斜視図である。
図11図11は、図9に示した発熱モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
図1を用いて本実施形態の発熱装置に用いられる発熱体1の詳細な構造について説明する。まず、図1及び図2を用いて、本願の各実施形態において共通する発熱体の構成及び発熱メカニズムについて説明する。
【0012】
図1に示すように、発熱体1は、台座101と多層膜102とを有する。台座101は、水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはプロトン導電体により形成される。水素吸蔵金属としては、例えば、Ni、Pd、V、Nb、Ta、Tiなどが用いられる。水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi5、CaCu5、MgZn2、ZrNi2、ZrCr2、TiFe、TiCo、Mg2Ni、Mg2Cuなどが用いられる。プロトン導電体としては、例えば、BaCeO3系(例えばBa(Ce0.95Y0.05)O3-6)、SrCeO3系(例えばSr(Ce0.95Y0.05)O3-6)、CaZrO3系(例えばCaZr0.95Y0.05O3-α)、SrZrO3系(例えばSrZr0.9Y0.1O3-α)、β Al2O3、β Ga2O3などが用いられる。
【0013】
多層膜102は、台座101に設けられる。図1では台座101の表面にのみ多層膜102が設けられているが、多層膜102は台座101の両面に設けてもよい。本実施形態において、発熱構造体は、台座101の両面に多層膜102が設けられた発熱体1を有する。
【0014】
多層膜102は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金により形成される第1層103と、第1層103とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金またはセラミックスにより形成される第2層104とにより形成される。台座101と第1層103と第2層104との間には、後述する異種物質界面105が形成される。図1では、多層膜102は、台座101の表面に、第1層103と第2層104がこの順で交互に積層されている。第1層103と第2層104とは、それぞれ5層とされている。なお、第1層103と第2層104の各層の層数は適宜変更してもよい。多層膜102は、台座101の表面に、第2層104と第1層103がこの順で交互に積層されたものでもよい。多層膜102は、第1層103と第2層104をそれぞれ1層以上有し、異種物質界面105が1以上形成されていればよい。
【0015】
第1層103は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金のうち、いずれかにより形成される。第1層103を形成する合金は、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第1層103を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0016】
第2層104は、例えば、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Co、これらの合金、SiCのうち、いずれかにより形成される。第2層104を形成する合金とは、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coのうち2種以上からなる合金であることが好ましい。第2層104を形成する合金として、Ni、Pd、Cu、Mn、Cr、Fe、Mg、Coに添加元素を添加させた合金を用いてもよい。
【0017】
第1層103と第2層104との組み合わせとしては、元素の種類を「第1層103-第2層104(第2層104-第1層103)」として表すと、Pd-Ni、Ni-Cu、Ni-Cr、Ni-Fe、Ni-Mg、Ni-Coであることが好ましい。第2層104をセラミックスとした場合は、「第1層103-第2層104」が、Ni-SiCであることが好ましい。
【0018】
図2に示すように、異種物質界面105は水素原子を透過させる。図2は、面心立法構造の水素吸蔵金属により形成される第1層103および第2層104に水素を吸蔵させた後、第1層103および第2層104を加熱したときに、第1層103における金属格子中の水素原子が、異種物質界面105を透過して第2層104の金属格子中に移動する様子を示した概略図である。
【0019】
第1層103の厚みと第2層104の厚みは、それぞれ1000nm未満であることが好ましい。第1層103と第2層104の各厚みが1000nm以上となると、水素が多層膜102を透過し難くなる。また、第1層103と第2層104の各厚みが1000nm未満であることにより、バルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。第1層103と第2層104の各厚みは、500nm未満であることがより好ましい。第1層103と第2層104の各厚みが500nm未満であることにより、完全にバルクの特性を示さないナノ構造を維持することができる。
【0020】
発熱体1の製造方法の一例を説明する。発熱体1は、板状の台座101を準備し、蒸着装置を用いて、第1層103や第2層104となる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を気相状態にして、凝集や吸着によって台座101上に、第1層103および第2層104を交互に成膜することにより製造される。第1層103および第2層104を真空状態で連続的に成膜することが好ましい。これにより、第1層103および第2層104の間には、自然酸化膜が形成されずに、異種物質界面105のみが形成される。蒸着装置としては、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を物理的な方法で蒸着させる物理蒸着装置が用いられる。物理蒸着装置としては、スパッタリング装置、真空蒸着装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置が好ましい。また、電気めっき法により台座101上に水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を析出させ、第1層103および第2層104を交互に成膜してもよい。
【0021】
なお、図1及び2において、台座101に設けられる多層膜102は、第1層103及び第2層104により構成されたが、これに限らない。多層膜102は、第3層をさらに有してもよい。第3層は、第1層103および第2層104とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。なお、多層膜102において、第3層が1層以上含まれていればよい。
【0022】
さらに、台座101に設けられた多層膜102は、第1層103と第2層104と第3層に加え、第4層をさらに有してもよい。第4層は、第1層103、第2層104および第3層とは異なる水素吸蔵金属、水素吸蔵合金、またはセラミックスにより形成される。なお、多層膜102において、第3層と同様に第4層が1層以上含まれていればよい。
【0023】
(第1実施形態)
次に、第1実施形態の熱利用システムについて、図3~7を用いて説明する。図3には、図1、2に示された発熱体1を利用した熱利用システム10が示されている。熱利用システム10では、発熱装置11に発熱体1が利用されている。発熱装置11は、発熱体1を備える発熱モジュール12が、密閉容器13に収容されて構成される。密閉容器13に水素系ガスが供給されることで、台座101および多層膜102により水素を吸蔵する。発熱体1は、密閉容器13への水素系ガスの供給が停止されても、台座101および多層膜102で水素を吸蔵した状態を維持する。
【0024】
発熱体1では、発熱モジュール12内に設けられるヒータ(図3に示されない)により加熱が開始されると、台座101および多層膜102に吸蔵されている水素が放出され、多層膜102の内部をホッピングしながら量子拡散する。水素は軽く、ある物質Aと物質Bの水素が占めるサイト(オクトヘドラルやテトラヘドラルサイト)をホッピングしながら量子拡散していくことが分かっている。発熱体1は、真空状態でヒータにより加熱が行われることで、異種物質界面105を水素が量子拡散により透過して、ヒータの加熱温度以上の過剰熱を発生させる。発熱体1が水素系ガスに含まれる水素を吸蔵し、ヒータにより加熱されることで、ヒータの加熱温度以上の熱(以下、過剰熱と称する)を発生する。
【0025】
熱利用システム10は、発熱装置11を熱源として、発熱装置11と熱媒体配管を介して接続される熱利用装置(図示なし)を作動させる。上述のように、発熱モジュール12は密閉容器13に収容された状態で、格納容器14内に格納される。格納容器14は、熱媒体の流入口14a及び流出口14bを備える。熱利用装置から流入口14aを介して格納容器14に熱媒体が流入すると、格納容器14内において熱媒体が発熱装置11により加熱される。加熱された熱媒体は、流出口14bから再び熱利用装置へと供給される。このようにして、熱利用装置が加熱された熱媒体を受け取り、加熱された熱媒体を用いてタービン等を動作させる。発熱モジュール12の過剰熱によって、熱媒体を例えば50℃以上1500℃以下の範囲内の温度とする。
【0026】
密閉容器13は、中空の容器であり、内部に発熱モジュール12を収容する。密閉容器13は、例えばステンレスなどで形成される。密閉容器13は、後述する供給用配管15bと接続する供給口13aと、後述する排気用配管16bと接続する排気口13bと、を有する。密閉容器13は、例えば、筒状に形成された容器本体(図示なし)と、容器本体の上端に設けられた上蓋(図示なし)と、容器本体の下端に設けられた下蓋(図示なし)とにより形成されている。例えば、供給口13aは下蓋に形成され、排気口13bは上蓋に形成されている。容器本体と上蓋と下蓋との内面により、密閉容器13の内部に空間が形成される。密閉容器13には、供給用配管15bと供給口13aを介して後述する水素系ガスが供給される。
【0027】
熱利用システム10は、さらに、ガス供給部15、ガス排気部16、ヒータ電源17、および、制御部18を備える。制御部18が、ガス供給部15、ガス排気部16、及び、ヒータ電源17を制御することで、発熱装置11が駆動される。
【0028】
ガス供給部15は、密閉容器13の内部に水素系ガスを供給する。ガス供給部15は、ガスボンベ15aと、供給用配管15bと、供給用バルブ15cとを有する。ガスボンベ15aは、水素系ガスを高圧で貯蔵する容器である。供給用配管15bは、ガスボンベ15aと密閉容器13とを接続する。供給用配管15bは、ガスボンベ15aに貯蔵された水素系ガスを密閉容器13へ流通させる。供給用バルブ15cは、供給用配管15bに設けられる。供給用バルブ15cは、供給用配管15bを流通する水素系ガスの流量を調整する。供給用バルブ15cは、制御部18と電気的に接続している。水素系ガスは、水素の同位体を含むガスである。水素系ガスとしては、重水素ガスと軽水素ガスとの少なくともいずれかが用いられる。軽水素ガスは、天然に存在する軽水素と重水素の混合物、すなわち、軽水素の存在比が99.985%であり、重水素の存在比が0.015%である混合物を含む。以降の説明において、軽水素と重水素とを区別しない場合には「水素」と記載する。
【0029】
ガス排気部16は、密閉容器13の内部を真空排気する。ガス排気部16は、真空ポンプ16aと、排気用配管16bと、排気用バルブ16cとを有する。真空ポンプ16aは、例えば、ターボ分子ポンプとドライポンプとにより形成される。排気用配管16bは、真空ポンプ16aと密閉容器13とを接続する。排気用配管16bは、密閉容器13の内部のガスを真空ポンプ16aへ流通させる。排気用バルブ16cは、排気用配管16bに設けられる。排気用バルブ16cは、排気用配管16bを流通するガスの流量を調整する。真空ポンプ16aと排気用バルブ16cは、制御部18と電気的に接続している。ガス排気部16の排気速度は、例えばターボ分子ポンプの回転数を調整することで制御可能とされている。
【0030】
ヒータ電源17は発熱モジュール12内のヒータ(図3に示されない)と電気的に接続しており、ヒータへの出力電力を制御してヒータを駆動する。この例では、図4に示されるように、ヒータは、円筒状に形成された電気炉であり、ヒータの外周に発熱体1が配置される。ヒータの加熱温度は、例えば、300℃以上であることが好ましく、500℃以上であることがより好ましく、600℃以上であることがさらに好ましい。
【0031】
発熱体1には温度センサ(図示されない)が設けられている。温度センサは、発熱体1の複数の箇所に設けられてもよい。温度センサは、制御部18と電気的に接続しており、検出した温度に対応する信号を制御部18に出力する。
【0032】
制御部18は、熱利用システム10の各部の動作を制御する。制御部18は、例えば、演算装置(Central Processing Unit)、読み出し専用メモリ(Read Only Memory)やランダムアクセスメモリ(Random Access Memory)などの記憶部などを主に備えている。演算装置では、例えば、記憶部に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する。
【0033】
制御部18は、供給用バルブ15c、真空ポンプ16a、排気用バルブ16c、ヒータ電源17、並びに、発熱体1及びヒータに取り付けられる温度センサと電気的に接続している。制御部18は、例えば、温度センサにより検出される発熱体1の温度に基づいて、ヒータ電源17の出力電力、水素系ガスの供給量、密閉容器13の圧力などを調整することにより、過剰熱の出力の制御を行う。
【0034】
発熱装置11は、密閉容器13の内部への水素系ガスの供給を行うことにより水素系ガスに含まれる水素を発熱体1に吸蔵させる。また、発熱装置11は、密閉容器13の内部の真空排気と発熱体1の加熱とを行うことにより発熱体1に吸蔵されている水素を放出させる。このように、発熱装置11は、発熱体1において水素の吸蔵と放出とを行うことにより、過剰熱を発生する。すなわち、発熱装置11を用いた発熱方法は、密閉容器13の内部への水素系ガスの供給を行うことにより水素系ガスに含まれる水素を発熱体1に吸蔵させる水素吸蔵工程と、密閉容器13の内部の真空排気と発熱体1の加熱とを行うことにより発熱体1に吸蔵されている水素を放出させる水素放出工程とを有する。実際には、水素吸蔵工程と水素放出工程とが繰り返し行われる。なお、水素吸蔵工程では、密閉容器13の内部への水素系ガスの供給を行う前に、発熱体1の加熱を行うことにより、発熱体1に付着している水などを除去してもよい。水素放出工程では、例えば密閉容器13の内部への水素系ガスの供給を停止した後、真空排気と加熱とが行われる。
【0035】
図4は、発熱モジュール12の分解斜視図である。図5は、発熱モジュール12の一部である発熱構造体21の分解斜視図である。以下では、図中の上下左右方向を用いて説明するが、発熱モジュール12の配置は下記の説明に用いられた方向に限定されるものではなく任意の方向に配置可能である。
【0036】
発熱モジュール12は、発熱構造体21、ヒータ22、支柱23、上蓋24、及び、下蓋25を備える。発熱構造体21は発熱体1を備えた中空構造であり、中空部に円柱状のヒータ22が挿入される。発熱構造体21の端面は、上蓋24及び下蓋25により閉じられ、上蓋24と下蓋25とは支柱23で繋がれる。
【0037】
発熱モジュール12を構成する支柱23、上蓋24、及び、下蓋25は多孔質体により構成され、これにより、発熱モジュール12が収容される密閉容器13内において、発熱モジュール12(支柱23、上蓋24、及び、下蓋25)の外部に存在する水素系ガスが発熱モジュール12内に配置される発熱構造体21に到達可能となる。なお、支柱23、上蓋24、及び、下蓋25は、多孔質体により構成されることに替えてまたは加えて、水素系ガスが通り抜け可能な孔を有してもよい。このようにして、発熱モジュール12が構成される。
【0038】
図5に示されるように、発熱構造体21は、巻回発熱体31、上固定部32、下固定部33、及び、ガイド34を備える。巻回発熱体31は、板状部材である発熱体1が巻回されて構成されたものである。巻回発熱体31は、その巻回軸方向の途中付近に配置されたガイド34に保持された状態で、巻回軸方向(上下方向)の端部が上固定部32と下固定部33により固定される。
【0039】
詳細には、巻回発熱体31は、板状の発熱体1が巻回されて(この図においては3周)構成されている。上固定部32は、中心に開口を備える円盤状の部材であって、下側の端面に渦巻状の溝322を備える。下固定部33は、中心に開口を備える円盤状の部材であって、上側の端面に渦巻状の溝332を備える。上固定部32及び下固定部33(固定部)は対をなして構成される。ガイド34は、中心に開口を備える円盤状の部材であって、軸方向に貫通する渦巻状の貫通溝342を備える。
【0040】
図6は、上固定部32の溝322を備える側の平面図である。図6に示される上固定部32の溝322は、その溝幅が巻回発熱体31の厚さよりもわずかに大きい。渦巻方向に沿った溝長は、巻回発熱体31の巻回長よりも長く、最外周において上固定部32の外周に向かって延伸し、外周面を貫通するように構成される。
【0041】
下固定部33の溝332、及び、ガイド34の貫通溝342の形状は、図6に示された上固定部32の溝322と同様の渦巻構造をしている。このような構成のために、発熱構造体21が組み立てられた状態においては、上固定部32の溝322には巻回発熱体31の上側端部が収容され、下固定部33の溝332には巻回発熱体31の下側端部が収容される。そして、巻回発熱体31の軸方向の途中部分が、ガイド34の貫通溝342によって固定される。溝322、332、及び貫通溝342の溝長が、巻回発熱体31の巻回長よりも長いので、巻回発熱体31の加熱時における熱膨張による伸び分のゆがみの発生を抑制できる。また、溝322、332、及び貫通溝342の溝幅及び溝長を略同じとすることで、巻回発熱体31のたわみなどによるヒータ22との接触や、巻回発熱体31の隣接する巻回面同士の接触を防ぐことができる。
【0042】
上固定部32、下固定部33、及び、ガイド34は、非金属材料、例えば、セラミックスにより形成される。これにより、発熱体1が発熱した際に、溝322、332、及び貫通溝342において癒着するのを抑制することができる。
【0043】
再び図4を参照すれば、上固定部32の上面には、2つの固定穴321が設けられており、上蓋24の下面に設けられる固定ピン241と篏合する。さらに、下固定部33の下面には、2つの固定穴(図4に示されない)が設けられており、下蓋25の上面に設けられる固定ピン251と篏合する。
【0044】
支柱23は、周方向の対向する位置に対をなして構成される軸方向に延存する板状部材であって、湾曲する断面を備える支柱本体231を有する。支柱本体231の湾曲する内面は、組み立て時において、発熱構造体21の上固定部32、下固定部33、及び、ガイド34の外周に沿うように接触する。さらに、支柱本体231には、軸方向の途中における同じ位置に内周側に突出する突出部232を備える。突出部232には、軸方向に沿って上方に向かって延在する固定ピン233が設けられている。
【0045】
支柱23の固定ピン233は、ガイド34の下面に設けられる固定穴と篏合する。さらに、支柱23は、両端部が上蓋24の側面の一部に設けられる溝242、及び、下蓋25の側面の一部に設けられる溝252と篏合するように構成される。溝242、252は、上蓋24、下蓋25において、外周の一部が軸方向の一部において削られて構成されている。支柱23は軸方向において発熱構造体21よりも軸方向に長く、発熱構造体21の端面に対して突出する端部が溝242、252と篏合する。
【0046】
このように、発熱構造体21の上側端面が上蓋24により閉じられる際に、上固定部32の固定穴321が上蓋24の固定ピン241と篏合する。発熱構造体21の下側端面が下蓋25により閉じられる際に、下固定部33の固定穴が下蓋25の固定ピン251と篏合する。このような構成のため、発熱構造体21は、支柱23、上蓋24、及び、下蓋25に対して固定される。さらに、支柱23の固定ピン233によりガイド34の位置が固定され、ガイド34の回転が抑制される。
【0047】
なお、支柱23は、この例においては2つ設けられているが、3つ以上設けられてもよい。また、ガイド34は、この例においては1つ設けられているが、2つ以上設けられてもよい。ガイド34が複数設けられる場合には、支柱23はガイド34の数に応じた突出部232及び固定ピン233を備えてもよい。
【0048】
ここでは、上蓋24及び下蓋25に支柱23と篏合する溝242、252が設けられる例について説明したがこれに限らない。上蓋24及び下蓋25に溝242、252が設けられず、軸方向の長さが支柱23と発熱構造体21とで略同じであってもよい。この場合には、発熱構造体21及び支柱23の上部端面が上蓋24により閉じられる際に、上固定部32の固定穴321が上蓋24の固定ピン241と篏合し、発熱構造体21及び支柱23の下部端面が下蓋25により閉じられる際に、下固定部33の固定穴が下蓋25の固定ピン251と篏合する。そして、支柱23は圧着や接着などにより上蓋24及び下蓋25に固定される。このようにして、発熱構造体21は、支柱23、上蓋24、及び、下蓋25に対して固定される。
【0049】
対をなす固定部(上固定部32及び下固定部33)は、巻回発熱体31の外側に設けられる支柱23を用いて固定される。なお、支柱23は、突出部232及び固定ピン233が設けられるならば湾曲した断面を有する板状部材に限らず、角柱状や円柱状の部材であってもよい。このような支柱23を用いることによって、発熱構造体21において巻回発熱体31の少なくとも一部が露出することになるため、発熱モジュール12の発熱時における外部への熱伝導効率の低下を防ぐことができる。
【0050】
図7は、発熱モジュール12の軸を含む平面における断面図である。この図では、上蓋24の固定ピン241、下蓋25の固定ピン251及び支柱23の固定ピン233を通る断面が示されている。
【0051】
円盤状の部材である上蓋24においては、上面側に設けられる小径の開口243と、下面側に設けられる大径の開口244とが相互に連通して設けられる。ヒータ22は、大径の開口244の内部に収容され、2つの開口243、244により形成される段部において係止される。上述のように、上蓋24は、下面側の外周部に支柱23と篏合する溝242を備える。また、上蓋24の下面には固定ピン241が設けられており、固定ピン241は上固定部32に設けられる固定穴321と篏合する。
【0052】
同様に、円盤状の部材である下蓋25においては、下面側に設けられる小径の開口253と、上面側に設けられる大径の開口254とが相互に連通して設けられる。ヒータ22は、大径の開口254の内部に収容され、2つの開口253、254により形成される段部において係止される。上述のように、下蓋25は、上面側の外周部に支柱23と篏合する溝252を備える。また、下蓋25の上面には固定ピン251が設けられており、固定ピン251は下固定部33に設けられる固定穴331と篏合する。ヒータ22は、上蓋24の開口243、244、及び、下蓋25の開口253、254の少なくとも一方を通る配線を介して、ヒータ電源17(図3に示される)と接続される。
【0053】
図中においては、支柱23の突出部232の箇所が拡大されて示されている。突出部232に設けられる固定ピン233が、ガイド34の下面に設けられる固定穴341に篏合する。
【0054】
巻回発熱体31は、巻回軸方向において、上側の一方の端部が上固定部32の溝322により固定され、下側の他方の端部が下固定部33の溝332により固定される。すなわち、対をなす固定部(上固定部32及び下固定部33)が備える溝(溝322及び溝332)は、巻回発熱体31の軸方向の両端部を固定する。さらに、巻回発熱体31は、巻回軸方向の途中において、ガイド34の貫通溝342により固定されている。
【0055】
このような構成であるため、発熱構造体21が組み立てられた状態において、巻回発熱体31は、上固定部32の溝322及び下固定部33の溝332により固定され、さらにガイド34の貫通溝342により固定される。これにより、巻回発熱体31のヒータ22との接触や、巻回発熱体31の巻回により隣接して対向する発熱体1同士の接触を防ぐことができる。
【0056】
上述の実施形態において、上固定部32の溝322、下固定部33の溝332、及び、ガイド34の貫通溝342は、図6に示されるように、溝の長手方向において、最外周において上固定部32の外周に向かって延伸し、外周面を貫通するように構成されたが、これに限らない。図8に示されるように、外周面を貫通せず、溝間隔が一定の渦巻状に構成されてもよい
【0057】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の熱利用システムについて、図9~11を用いて説明する。図9は、第2実施形態における熱利用システムが有する発熱モジュールの分解斜視図であって、第1実施形態の図4に相当する。図10は、図9に示した発熱モジュールが備える発熱構造体の分解斜視図であって、第1実施形態の図5に相当する。図11は、図9に示した発熱モジュールの断面図であって、第1実施形態の図7に相当する。
【0058】
図9に示されるように、第2実施形態においては、第1実施形態と比較すると支柱23が削除され、上蓋24及び下蓋25において支柱23の両端部と篏合する溝242、252が削除されている。上蓋24は大径の円盤部材とその上面に設けられる小径の円盤部材とを有する。下蓋25は大径の円盤部材とその下面に設けられる小径の円盤部材とを有する。
【0059】
さらに、図10に示されるように、発熱構造体21の上固定部32は、下面において渦巻状の溝322の内側に環状溝41を備える。同様に、ガイド34は、上面において渦巻状の貫通溝342の内側に環状溝42を備える。なお、環状溝42は、軸方向においてガイド34を貫通していない。そして、上固定部32とガイド34との間には、例えば熱伝導率に優れたセラミック等で構成された柱状部材(この例では中空円柱状)である上支持筐体43が設けられている。上支持筐体43は、上端部が上固定部32の下面に設けられる環状溝41と篏合し、下端部がガイド34の上面に設けられる環状溝42と篏合する。
【0060】
同様に、発熱構造体21の下固定部33は、上面において渦巻状の溝332の内側に環状溝44を備える。同様に、ガイド34は、下面において貫通溝342の内側に環状溝(図10において不図示)を備える。なお、ガイド34の下面に設けられる環状溝は、上面に設けられる環状溝42と同様に、軸方向においてガイド34を貫通していない。そして、下固定部33とガイド34との間には、例えば熱伝導率に優れたセラミック等で構成された柱状部材(この例では中空円柱状)である下支持筐体45が設けられている。下支持筐体45は、下端部が下固定部33の環状溝44と篏合し、上端部がガイド34の下面に設けられる環状溝と篏合する。
【0061】
さらに図11を参照すれば、ガイド34の下面に設けられ、図10において示されていなかった環状溝46が示されている。上述のように、上支持筐体43は、上端部が上固定部32の環状溝41と篏合し、下端部がガイド34の上面に設けられる環状溝42と篏合する。下支持筐体45は、下端部が下固定部33の環状溝44と篏合し、上端部がガイド34の下面に設けられる環状溝46と篏合する。対をなす固定部(上固定部32及び下固定部33)は、巻回発熱体31の内側に設けられる柱状部材(上支持筐体43及び下支持筐体45)を用いて固定される。
【0062】
さらに、上述のように、上蓋24は大径の円盤部材とその円盤部材の上面に設けられる小径の円盤部材とを有する。下蓋25は大径の円盤部材とその円盤部材の下面に設けられる小径の円盤部材とを有する。そして、図11に示されるように、上蓋24は、2つの円盤部材を貫通する軸方向に等径の開口47を備える。下蓋25は2つの円盤部材を貫通する軸方向に等径の開口48を備える。
【0063】
開口47、48の内径はヒータ22の外径と略等しく、ヒータ22は、上蓋24の開口47及び下蓋25の開口48に挿入される。上蓋24の上側の小径の円盤部材は、その側面に開口47まで到達する貫通孔49を有する。貫通孔49は側面側の大径部と中心側の小径部とが連通して構成され、両者の間に段部が構成されている。ネジ50のヘッドが段部にて係止された状態で大径部に収容される。さらに、貫通孔49の小径部には内面に螺合溝が設けられ、ネジ50の螺合部がこの螺合溝と螺合する。下蓋25の下側の小径の円盤部材は、上蓋24の上側の小径の円盤部材と同様の構成をしている。すなわち、下蓋25の小径の円盤部材に開口48まで到達する貫通孔51を有し、貫通孔51の大径部にネジ52のヘッドが収容され、貫通孔51の小径部に設けられた螺合溝においてネジ52の螺合部と螺合する。これらのネジ50、52により、ヒータ22を上蓋24及び下蓋25に対して固定することができる。
【0064】
このように、第2実施形態においては、上支持筐体43及び下支持筐体45が、巻回発熱体31とヒータ22との間に設けられることにより、巻回発熱体31とヒータ22との接触を防ぐことができる。上支持筐体43及び下支持筐体45により、上固定部32、下固定部33、及び、ガイド34の位置を固定することができる。熱伝導率に優れた上支持筐体43及び下支持筐体45により、ヒータ22の熱を均一化して巻回発熱体31へ伝えることができる。さらに、発熱構造体21において巻回発熱体31が露出することになるため、第1実施形態と同様に、発熱モジュール12の発熱時における外部への熱伝導効率の低下を防ぐことができる。
【0065】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0066】
1 発熱体
10 熱利用システム
11 発熱装置
12 発熱モジュール
21 発熱構造体
22 ヒータ
31 巻回発熱体
32 上固定部
33 下固定部
34 ガイド
322、332 溝
342 貫通溝
41、42、44、46 環状溝
43 上支持筐体
45 下支持筐体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11