(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114422
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの製造方法、および積層セラミックコンデンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230809BHJP
H01G 13/00 20130101ALI20230809BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230809BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
H01G13/00 351Z
B32B27/00 L
B32B27/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172986
(22)【出願日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2022016078
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山上 和馬
(72)【発明者】
【氏名】林 凌土
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA22
4F071AA46
4F071AF11Y
4F071AG12
4F071AG16
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB06
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4F071BC01
4F071BC12
4F071BC14
4F071BC17
4F100AA17
4F100AA17A
4F100AH04
4F100AH04A
4F100AK33
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4F100AK41A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100EH17
4F100EH17A
4F100EH46
4F100EJ38
4F100EJ38A
4F100EJ51
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4F100GB41
4F100JA11
4F100JA11A
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4F100JG04A
4F100JK14
4F100JK14A
4F100JL14
4F100JL14B
4F100YY00A
5E082AB03
5E082FG06
5E082FG26
(57)【要約】
【課題】生産性が良く、塗布性に優れ、特に離型用ポリエステルフィルムとして用いた場合に被離型物の品質に優れた、ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ、次の(1)及び(2)を満たすポリエステルフィルム。
(1)少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70を満たす。
(2)少なくとも一方の表面における、確率的粗大突起数が、フィルム1m2あたり20個以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ、次の(1)及び(2)を満たすポリエステルフィルム。
(1)少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70を満たす。
(2)少なくとも一方の表面において、以下の測定方法で求めた突起の数(以下、確率的粗大突起数という)がフィルム1m2あたり20個以下である。
<確率的粗大突起数の測定方法>
アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させる。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントする。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1m2あたりの個数を算出する。
【請求項2】
AFM(Atomic Force Microscope)で測定される、突起高さが1nm以上の突起個数が200個/μm2以上である、請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下である、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
硫黄元素の含有量が2~20質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmである、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
スルホン酸化合物及びホスホニウム化合物を含有する、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステル樹脂を溶融押出してシート状に押し出す工程、シート状に押し出した未延伸フィルムに対して表面処理を行う工程、フィルム長手方向へ延伸する工程、フィルム幅方向へ延伸する工程をこの順に有する、請求項1または2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
シート状に押し出した未延伸フィルムに対して表面処理を行う工程が、プラズマ処理、コロナ処理、ガンマ線処理から選択される少なくとも1つの処理である、請求項6に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
離型用途に用いられる、請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
請求項1に記載のポリエステルフィルムまたはそのフィルム加工品の上に被離型物を形成する工程を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、コストと機械特性、熱特性とのバランスが優れており、工業材料用途として多様な用途にて用いられるフィルムである。特に、電子部材関連の工程紙として、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムや、液晶偏光板のセパレータ、ドライフィルムレジスト用基材、層間絶縁樹脂離型用基材などに好適に用いられている。
【0003】
積層セラミックコンデンサの製造に用いる離型フィルムに関し、該離型フィルムを用いて製造する積層セラミックコンデンサは、自動車の電装化の拡大、電気自動車への展開、自動車の自動運転機能付加に伴うセンサー類の実装が進んでおり、需要が拡大している。これらの自動車用の積層セラミックコンデンサなどに対しては、信頼性が厳格に求められている。このため積層セラミックコンデンサの誘電体部品となるグリーンシートの成形においては、基材フィルムの表面形状が、グリーンシートの特性を決める要因となっている。中でも、離型層の厚みを超える高さの突起が基材フィルム表面に存在する場合、該箇所のみ塗布抜けが発生するため、グリーンシートの欠陥につながる。
【0004】
これらの課題に対して、特許文献1,2には、フィルム表面に存在する粗大突起個数を減少させるための検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/038703号
【特許文献2】特開2014-117904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗布抜けの原因となるような粗大突起を減少させる必要がある一方で、フィルムの走行性や巻き取り性を担保するため、フィルム表面には適度な粗さを付与する必要がある。特許文献1では、粒子同士が凝集し、粗大突起の原因となり得る無機粒子に代わり、粒子同士の凝集がしにくい有機粒子の添加が検討されている。しかしながら、特許文献1に記載の内容を追試して見ると、生産性が非常に悪く、また粗大突起の低減は十分に満足できるレベルまでできるものではなかった。また、特許文献2では、フィルム同士の密着性を高めることを目的として、製膜後に高温下でグロー放電を施す検討がされている。当手法は、グロー放電により、フィルムを構成する樹脂に結晶構造のような高密度な秩序構造を導入するため、フィルム表面に微細な凹凸を形成させることもでき、粒子を入れずともフィルム表面に粗さを付与するための達成手段となり得る。しかしながら、なぜか粗大突起の低減を満足できるレベルまでできるものではなかった。
【0007】
前述した従来の技術では、フィルムの走行性や巻き取り性を担保するため、フィルム表面に適度な粗さを付与しつつ、塗布抜けの原因となるような粗大突起を減少させるには不十分であった。そのため、フィルムの搬送性といった生産性がよく、かつ塗布性に優れたものを得ることは困難であった。そこで本発明が解決しようとする課題は、生産性が良く、塗布性に優れ、特に離型用ポリエステルフィルムとして用いた場合に被離型物の品質に優れた、ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい一態様は以下の構成を取る。
[1]カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ、次の(1)及び(2)を満たすポリエステルフィルム。
(1)少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70を満たす。
(2)少なくとも一方の表面において、以下の測定方法で求めた突起の数(以下、確率的粗大突起数という)がフィルム1m2あたり20個以下である。
<確率的粗大突起数の測定方法>
アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させる。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントする。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1m2あたりの個数を算出する。
[2]AFM(Atomic Force Microscope)で測定される、突起高さが1nm以上の突起個数が200個/μm2以上である、[1]に記載のポリエステルフィルム。
[3]溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下である、[1]または[2]に記載のポリエステルフィルム。
[4]硫黄元素の含有量が2~20質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmである、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[5]スルホン酸化合物及びホスホニウム化合物を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[6]ポリエステル樹脂を溶融押出してシート状に押し出す工程、シート状に押し出した未延伸フィルムに対して表面処理を行う工程、フィルム長手方向へ延伸する工程、フィルム幅方向へ延伸する工程をこの順に有する、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルムの製造方法。
[7]シート状に押し出した未延伸フィルムに対して表面処理を行う工程が、プラズマ処理、コロナ処理、ガンマ線処理から選択される少なくとも1つの処理である、[6]に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
[8]離型用途に用いられる、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
[9][8]に記載のポリエステルフィルムまたはそのフィルム加工品の上に被離型物を形成する工程を含む、積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、生産性が良く、塗布性に優れ、特に離型用ポリエステルフィルムとして用いた場合に被離型物の品質に優れた、ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特許文献2の技術では満足できるレベルまで粗大突起を低減できないことを、発明者らが鋭意検討したところ、特許文献2の技術では添加粒子由来の粗大突起は抑制できるものの、ポリエステル樹脂に添加されているアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、あるいは触媒金属へ集中的に電流が流れ、部分的に粗大な突起やくぼみが形成されてしまうことが明らかとなった。また、添加金属量を減少させると、フィルム製膜において、静電印加法と呼ばれる、未固化のシート状物の上面に高電圧を印加し、シート状物を回転冷却ドラムに密着させる工程にて、ポリエステルシートの静電印加性が悪化するため、フィルムの厚み均一性や透明性の低下、印加ムラによるフィルム表面の欠点を生じさせることにつながることが明らかとなった。そして、これら検討を踏まえたさらなる検討を行い、本発明に至った。以下、本発明の実施形態の好ましい一態様について説明する。
【0011】
本発明の好ましい一態様は、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ、次の(1)及び(2)を満たすポリエステルフィルム、である。
(1)少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70を満たす。
(2)少なくとも一方の表面において、以下の測定方法で求めた突起の数(以下、確率的粗大突起数という)がフィルム1m2あたり20個以下である。
<確率的粗大突起数の測定方法>
アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させる。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントする。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1m2あたりの個数を算出する。
【0012】
本発明でいうポリエステルは、ジカルボン酸構成成分とジオール構成成分を有してなるものである。なお、本明細書内において、構成成分とはポリエステルを加水分解することで得ることが可能な最小単位のことを示す。かかるポリエステルを構成するジカルボン酸構成成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体が挙げられる。
【0013】
また、かかるポリエステルを構成するジオール構成成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環式ジオール類、上述のジオールが複数個連なったものなどが挙げられる。中でも、機械特性、透明性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)、およびPETのジカルボン酸成分の一部にイソフタル酸やナフタレンジカルボン酸を共重合したもの、PETのジオール成分の一部にシクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコールを共重合したポリエステルが好適に用いられる。
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム全体を100質量%としたとき、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であることが好ましく、合計で38質量ppm未満であることがより好ましく、30質量ppm未満であることがさらに好ましい。本態様とすることで、色調が良好で、透明性も良く、金属凝集の少ないポリエステルフィルムを得ることができる。金属凝集が少ないと、これによる粗大突起も減るので塗布性も良好となる。特に、本発明のポリエステルフィルムに硫黄元素を含有させるためにスルホン酸化合物を使用する場合、スルホン酸とナトリウムイオン、マグネシウムイオン、マンガンイオンとが反応し、金属凝集物の形成原因となり得ることから、本発明のポリエステルフィルムは、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有しないことが、異物低減の観点から好ましい。また、カリウム元素、リチウム元素は、添加に伴いポリエステルフィルムの色調に影響を与えうることから、本発明のポリエステルフィルムは、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素を含有しないことが、色調が良好なポリエステルフィルムを得る観点から好ましい。なお、含有しないこと、とは1質量ppm未満であることをいう。
【0015】
なお、ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量は以下の方法で求めることとする。
<ポリエステルフィルムにおけるカリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量の求め方>
ポリエステルフィルムを細かく裁断した後、溶融濾過し、得られた濾液を円柱状に成型する。得られた円柱状樹脂に対して、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線から算出する。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70を満たすことが好ましい。一般的に、PETなどの結晶性ポリエステルからなるフィルムは、その分子鎖が配向することによって結晶化度が向上し、強固な構造を形成する結果、搬送性や機械強度や、加工性、耐熱性が向上するため生産性が向上する。また、コーティングなどで他の層を設ける際、トルエンやエタノールなどの有機溶剤を用いる場合には、フィルム表面の結晶化度が高く、強固な構造を形成していると、フィルムが溶剤によって膨潤することを抑制したり、乾燥させる工程で熱に対する耐久性が高くなるため、他の層の積層性が向上する。また、機械オイルなどに浸漬される場合に必要となる耐久性(耐薬品性)なども向上する。さらに、表面の結晶化度が向上し、表面が硬くなる結果、積層した他の層を離型する際、フィルムを剥離しやすく、剥離性が向上する。また、本発明のフィルムに離型層を設けて離型用フィルムとして用いる場合、離型層に設けた被離型物の剥離性が向上する。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面結晶化度Cs(%)が57%に満たない場合は、当該面に他の層を設ける際、例えばインク層、離型層や感光性層を溶剤に溶かして塗布する場合に、フィルム表面の耐溶剤性が劣る結果、塗布性が劣り、他の層の積層性が劣る場合がある。本発明のポリエステルフィルムの少なくとも一方の面の結晶化度が70%を超える場合は、結晶化度が高すぎてクラックが発生する結果、かえって耐久性(耐薬品性)が低下したり、構造が強固になりすぎてフィルムの製膜ができないことがある。本発明における少なくとも一方の表面結晶化度Cs(%)は、より好ましくは58%以上、さらに好ましくは61%以上、特に好ましくは64%以上である。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムの表面結晶化度は、後述のラマン分光法によって求められるものであり、フィルムを構成するポリエステルのエステル結合のラマンバンド(C=O結合伸縮バンド)を表す吸収ピークの半値幅を用いて求められる。本発明においては、ポリエステルフィルム中に最も多く含まれるポリエステル成分のエステル結合のラマンバンド(C=O結合伸縮バンド)の波数は、J.PolymerScience 10, 317-322(1972)に記載の値を用いる。例えば、ポリエチレンテレフタレートを最も多く含むポリエステルフィルムについては、1730cm-1付近のポリエチレンテレフタレートのエステル結合のラマンバンド(C=O結合伸縮バンド)の吸収ピークの半値幅を用いて表面結晶化度を求める。
【0019】
フィルム表面の結晶化度を上記の範囲とするための方法は特に限定されないが、例えば、フィルム全体の結晶化度を高くすることでフィルム表面の結晶化度を上記の範囲としようとすると、製膜性が悪化するため、一般的な溶融押出法でフィルムを得ることが困難となる場合がある。そのため、結晶性を強制的に高めたポリエステルフィルムを、通常のポリエステルフィルムの表面に貼り合わせる方法や、UV照射やアーク放電によるコロナ処理、グロー放電によるプラズマ処理などの表面処理を行う方法と二軸配向する方法の組み合わせが挙げられる。インラインでの製膜適応性やフィルム表面の結晶化度制御の観点からは、表面処理は、UV照射、アーク放電によるコロナ処理、大気圧グロー放電によるプラズマ処理が好ましく、処理の均一性やフィルムへのダメージが少ないことから大気圧グロー放電によるプラズマ処理が更に好ましい。ここでいう大気圧とは700Torr~780Torrの範囲である。
【0020】
大気圧グロー放電処理は、相対する電極とアースロール間に処理対象のフィルムを導き、装置中にプラズマ励起性気体を導入し、電極間に高周波電圧を印加することにより、該気体をプラズマ励起させ電極間においてグロー放電を行うものである。
【0021】
一般的に、大気圧グロー放電処理によって熱可塑性樹脂フィルムの表面を処理する場合、グロー放電によって生じるプラズマのエネルギーによって、フィルム表面の分子鎖の切断や、生じる低分子量体が気化し、フィルム表面が削られる現象(以降、アッシングと称することがある)が起こる。熱可塑性樹脂の未延伸のフィルム、とくにPETやPBTのように、未延伸のフィルムにおいても、結晶性が高い部分(結晶構造における分子鎖のコンフォメーションを有する部分、以下、結晶性部分と称することがある)とそうでない部分(以下、非晶性部分と称することがある)を持つフィルムの表面を大気圧グロー放電によって表面処理する場合、柔らかい非晶性部分からアッシングされていく。大気圧グロー放電処理することで、フィルム表面に結晶性部分を多く残存させることにより、後述の方法で二軸配向せしめ、フィルムとした場合に、フィルム表面の結晶化度を高くすることができる。また、大気圧グロー放電処理する前に、あらかじめ結晶性部分を増やしておくことでフィルム表面の結晶化度を高くすることが可能となる。例えば、ポリエステル樹脂の結晶性部分について、後述する製膜方法におけるキャストドラムの温度を上げて結晶性部分を増加させたり、ポリエステル樹脂中に結晶化促進剤を含有せしめることや、結晶化の早い樹脂を用いることで結晶性を高めるとCsを高くできるので好ましい。また、大気圧グロー放電処理の強度や、大気圧グロー放電処理の際に用いるプラズマ励起性気体の活性を上げることも好ましい実施形態である。特に、後述のプラズマ励起性気体のうち、アルゴン、酸素、二酸化炭素は、プラズマによって励起された場合に活性が高くなるため、好ましく用いられる。
【0022】
プラズマ励起性気体とは前記のような条件においてプラズマ励起されうる気体をいう。プラズマ励起性気体としては、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、窒素、二酸化炭素、酸素、またはテトラフルオロメタンのようなフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。また、プラズマ励起性気体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の混合比で組み合わせてもよい。プラズマによって励起された場合に活性が高くなる観点から、アルゴン、酸素、二酸化炭素のうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、酸素を含むことがより好ましい。プラズマ処理における高周波電圧の周波数は1kHz~100kHzの範囲が好ましい。また、以下方法で求められる放電処理強度(E値)は、10~2000W・min/m2の範囲で処理することが突起形成の観点から好ましく、より好ましくは10~2000W・min/m2であり、さらに好ましくは40~300W・min/m2である。放電処理強度(E値)が低すぎると、突起が十分に形成されない場合があり、放電処理強度(E値)が高すぎると、ポリエステルフィルムにダメージを与えてしまう、または、アッシングが進行し、好ましい突起が形成されない場合がある。
<放電処理強度(E値)の求め方>
E=Vp×Ip/(S×Wt)
E:E値(W・min/m2)
Vp:印加電圧(V)
Ip:印加電流(A)
S:処理速度(m/min)
Wt:処理幅(m)。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムに上記の表面処理を施す場合、表面処理時のフィルムの表面温度を150℃以下にすることが好ましい。更に好ましくは100℃以下、最も好ましくは50℃以下である。表面温度が150℃よりも大きいとフィルムの結晶化が進行し、アッシングが進行しない場合がある。一方、フィルムの表面温度が低すぎると、アッシングが起こりにくく、好ましい突起が形成されにくい場合があるため、表面温度は10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは25℃以上にすることが好ましい。また、表面処理温度は処理面と反対側の面を冷却ロール等で冷却することで調整することができる。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムは、少なくとも一方の表面において、上記した確率的粗大突起数がフィルム1m2あたり20個以下であることが好ましい。確率的粗大突起数が上記の値を超えると、離型剤を塗布時、塗布ムラ、ピンホール状の塗布抜け欠点を生じる場合があり、また、グリーンシートの厚さを薄くする際に、先述の離型剤塗布抜けにより、グリーンシートの剥離斑が生じることや、粗大突起が原因となりグリーンシートに凹みやピンホールを生じさせることがある。また、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の欠陥数を低減させるためにも、前記確率的粗大突起数が1m2あたり10個以下であることがより好ましい。また、両方の表面において、上記した確率的粗大突起数がフィルム1m2あたり20個以下であることがさらに好ましく、両方の表面において、上記した確率的粗大突起数がフィルム1m2あたり10個以下であることが特に好ましい。また、上記同様の観点から少なくとも一方の表面において、57≦Cs≦70かつ確率的粗大突起数がフィルム1m2あたり20個以下であることが好ましい。
【0025】
前記確率的粗大突起数を、フィルム1m2あたり20個以下であること、および少なくとも一方の表面の表面結晶化度Cs(%)について、57≦Cs≦70であることを同時に満たす方法として、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満と少なく、溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上であるシート状の未延伸ポリエステルフィルムに対し、UV照射やアーク放電によるコロナ処理、グロー放電によるプラズマ処理などの表面処理を行う方法と、二軸配向する方法を組み合わせることで達成することができる。これによりフィルム表面が微細に加工(アッシング)され突起が形成する。金属元素含有量が多いと、電気伝導率の大きい金属凝集がフィルム表面あるいは内部に発生し、上記コロナ処理やプラズマ処理を施した際に金属凝集部へ多くの電圧がかかることで、部分的に粗大な結晶核が生成する。その後、未延伸ポリエステルフィルムを二軸配向させた際に、粗大な結晶核がフィルム表面へ露出することで、前記確率的粗大突起となり得る。
【0026】
また、ポリエステル樹脂をフィルム化する際には、未固化のシート状物の上面に高電圧を印加し、シート状物を回転冷却ドラムに密着させる静電印加キャスト法が多く採用されている。静電印加キャスト法において製膜速度を高めるために回転冷却ドラムの速度を速くしていくと、シート状物と回転冷却ドラムとの密着力が低下しフィルムの厚み均一性や透明性の低下、印加ムラによるフィルム表面の欠点を生じさせ、確率的粗大突起数を増やしてしまう場合がある。そのため、溶融比抵抗を所定の範囲内に調整することが好ましく、その値は9.0×106Ω・cm以下であることが好ましく、4.0×106Ω・cm以下であれば、さらに好ましい。なお、静電印加キャスト法以外のキャスト方法、例えばニップキャストやエアチャンバーを使ったキャスト方法など、では、エアを噛みこんだり、回転冷却ドラムとの密着力が低下したり、エアによる表面粗化が起き、確率的粗大突起数を増やしてしまう場合がある。
【0027】
そのため、金属元素含有量が限りなく少なく、溶融比抵抗が9.0×106Ω・cm以下であるシート状の未延伸ポリエステルフィルムに対し、UV照射やアーク放電によるコロナ処理、グロー放電によるプラズマ処理などの表面処理を行う方法と、二軸配向せしめる方法を組み合わせることが、より好ましい。金属元素含有量が少ないながらに溶融比抵抗を9.0×106Ω・cm以下とする方法については後述する。
【0028】
表面処理は、UV照射、アーク放電によるコロナ処理、大気圧グロー放電によるプラズマ処理が好ましく、処理の均一性やフィルムへのダメージが少ないことから大気圧グロー放電によるプラズマ処理が更に好ましい。
【0029】
プラズマ処理における高周波電圧の周波数は1kHz~100kHzの範囲が好ましい。また、以下方法で求められる放電処理強度(E値)は、10~2000W・min/m2の範囲で処理することが突起形成の観点から好ましく、より好ましくは50~1000W・min/m2である。放電処理強度(E値)が10W・min/m2以上であることにより、突起を十分に形成でき、放電処理強度(E値)が2000W・min/m2以下であることにより、ポリエステルフィルムに過度なダメージを与えることを抑制でき、前述の粗大な結晶核の形成を低減でき、確率的粗大突起数を低減できる。
【0030】
なお、確率的粗大突起数は以下の方法で求めるものである。
【0031】
<確率的粗大突起数の測定方法>
確率的粗大突起数は、10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて、印可電圧をかけて静電気力で密着し、フィルム表面の粗大突起により発生する干渉縞、いわゆるニュートンリングの個数から求めることができる。また、干渉縞の形状から干渉縞の要因となった突起高さを推定することができる。光源の波長が564nmであり、干渉縞の環数が3重環以上であれば、ニュートンリングの中心から3番目の暗いリングの条件から干渉縞の原因物の突起の高さは計算上0.846μm以上と推測されるが、経験上、干渉縞の原因物の突起の高さ0.82μm以上であると推測できる。
【0032】
測定方法の詳細としては、アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させる。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントする。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1m2あたりの個数を算出する。このとき、10cm四方のフィルムサンプルは、製膜後のフィルムに対して、幅方向でなるべく均等にサンプリングできるようにし、特定の幅位置に集中しないよう採取するものとする。また、まずはフィルムのある一方の表面同士が重なるようにして測定し、当該一方の表面における確率的粗大突起数を求め、次いで、当該一方の表面の裏側の表面同士が重なるようにして、もう一方の表面における確率的粗大突起数を求める。
【0033】
なお、フィルムの間に挟まった埃などの異物による干渉縞とを区別するため、干渉縞が見つかったサンプルを顕微鏡観察したり、顕微FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)を用いて、干渉縞が突起由来であるか、突起以外(異物など)の由来であるかを判別し、上記方法で求めた個数から、突起由来ではない干渉縞の個数は除外するものとする。
【0034】
本発明におけるポリエステルフィルムは、少なくとも片側の表面が、AFM(Atomic Force Microscope)で測定される1nm以上の突起高さの個数が200個/μm2以上であることが好ましい。より好ましくは200個/μm2以上500個/μm2以下、さらに好ましくは220個/μm2以上400個/μm2以下である。1nm以上の突起高さの個数が200個/μm2に満たない場合、滑り性が悪化する場合がある。また、本発明のフィルムの、少なくとも片面における1nm以上の突起高さの個数が200個/μm2以上である場合、本発明のポリエステルフィルムの当該突起高さ個数を有するフィルム表面に他の層を設ける基材として用いたときに、積層性が良好となるだけでなく、剥離性を良好にできる。1nm以上の突起高さの個数が500個/μm2を超える場合、他の層を積層しにくくなる場合がある。
【0035】
フィルム表面の突起個数を上記の範囲とするための方法は特に限定されないが、例えば、ナノインプリントのようにモールドを用いて表面に形状を転写させる方法、UV照射やアーク放電によるコロナ処理、グロー放電によるプラズマ処理などの表面処理が挙げられる。インラインでの製膜適応性や微細な突起の形成個数の観点からは、UV照射、アーク放電によるコロナ処理、大気圧グロー放電によるプラズマ処理が好ましく、処理の均一性やフィルムへのダメージが少ないことから大気圧グロー放電によるプラズマ処理が更に好ましい。大気圧グロー放電によるプラズマ処理の好ましい条件については、前述の通りである。
【0036】
なお、1nm以上の突起高さの個数は以下の方法で求めることができる。
【0037】
<AFM(Atomic Force Microscope)による1nm以上の突起高さの個数カウント>
以下の測定条件によって得られるフィルム表面の画像を、付属の解析ソフトを用い、解析する。得られるフィルム表面の画像から、フィルム表面の基準面が自動的に決定される。該基準面から、突起高さの閾値を1nm、2nm・・・と1nmごとに定め、各閾値で得られる突起個数をカウントし、1nmでカウントされる個数を突起高さ1nm以上の突起個数(個/μm2)とする。
[AFM測定条件]
装置;Digital Insturuments社製 NanoScope3型 SPMコントロールステーション
SPMユニット;原子間力顕微鏡(AFM)
カンチレバー:シリコン単結晶
走査モード:タッピングモード
走査速度:0.8Hz
測定視野:1μm四方
サンプルライン:256
Flatten Auto:オーダー3
サンプル調整:23℃、65%RH、24時間静置
AFM測定環境:23℃、65%RH
場所を変えて20回測定し、その平均値を求める。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下であることが好ましい。溶融比抵抗が9.0×106Ω・cm以下であることにより、静電印加キャスト法における回転冷却ドラムとの密着性が上がり、得られるフィルムの厚さ均一性が向上し、印加ムラによるフィルム表面の欠点による塗布性悪化を低減することができる。同様の観点から、7.0×106Ω・cm以下がより好ましく、4.0×106Ω・cm以下がさらに好ましい。また、溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上であることにより、静電印加する際に印加端子から回転冷却ドラムへの放電が頻発して電荷が回転冷却ドラムに密着するまでに保持されず、フィルム表面の欠点が生じて塗布性が悪化してしまうことを抑制できる。さらに、シート状の未延伸ポリエステルフィルムに対し、UV照射やアーク放電によるコロナ処理、グロー放電によるプラズマ処理などの表面処理を行う場合、ポリエステルフィルムに過度なダメージを与えることを抑制でき、前述の粗大な結晶核の形成を低減でき、確率的粗大突起個数を低減できる。
【0039】
なお、溶融比抵抗は以下の方法で求めることができる。
【0040】
<溶融比抵抗の測定方法>
ポリエステルフィルムを290℃で溶融した後、面積0.5cm2のステンレス製電極2枚を8mmの間隔で並行に挿入し、温度が安定した後に抵抗計(日置電機株式会社製:抵抗計RM3545)で抵抗値(R)を測定する。続いて、ρ(Ω・cm)=R×0.5/0.8 の式から溶融比抵抗(ρ)を算出する。
【0041】
カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ、溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下である、ポリエステルフィルムとする達成手段として、スルホン酸化合物およびホスホニウム化合物を含有するポリエステルフィルムであって、前記ポリエステルフィルムの全質量に対する硫黄元素の含有量が2~20質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであるポリエステルフィルムとすることを好ましく挙げることができる。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムの好ましい一態様は、カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、かつ溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下であり、かつ、前記ポリエステルフィルムの全質量に対する硫黄元素の含有量が2~20質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであるポリエステルフィルムである。
【0043】
本態様とすることで色調が良好で、透明性も良く、かつ厚みムラが小さいうえに、大気圧グロー放電によるプラズマ処理などの電圧印加式表面処理を施した際に確率的粗大突起個数の少ないポリエステルフィルムを提供することができる。
【0044】
カリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素の含有量が合計で40質量ppm未満であり、前記ポリエステルフィルムの全質量に対する硫黄元素の含有量が2~20質量ppm、リン元素の含有量が2~20質量ppmであり、かつフィルムの溶融比抵抗が2.0×106Ω・cm以上9.0×106Ω・cm以下であるポリエステルフィルムとする方法として、スルホン酸化合物およびホスホニウム化合物を含有する方法が好ましく挙げられる。これら化合物がいわゆるイオン液体となって、金属イオンが少ない状態においてもフィルムの溶融比抵抗を適切な範囲とすることができる。
【0045】
本発明のポリエステルフィルムはスルホン酸化合物およびホスホニウム化合物を含有することが好ましい。本態様とすることにより、これら化合物がいわゆるイオン液体となって、金属イオンが少ない状態においてもフィルムの溶融比抵抗を適切な範囲とすることができる。
【0046】
全質量に対する硫黄元素の含有量は、2~20質量ppmの範囲であることが好ましい。硫黄元素の含有量が大きくなるにつれてフィルム成形時の良好な静電印加性を得ることができる。硫黄元素の含有量が2質量ppm以上であると、溶融比抵抗が低下し、フィルム成形時の静電印加キャスト性が良好となり、厚みムラを小さくできる。20質量ppm以下であると、色調の悪化を抑制することができる。同様の観点から 全質量に対する硫黄元素の含有量が9~17質量ppmであることがより好ましい。
【0047】
硫黄元素を含有するスルホン酸化合物としては、メタンスルホン酸、ブチルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロエタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、およびヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸より選ばれる1種以上のスルホニウムアニオンが好ましく、またこれらと対になるカチオンは、水素陽イオン、4級ホスホニウムカチオン、および4級アンモニウムカチオンより選ばれる1種以上が好ましい。なかでも、ポリエステル樹脂組成物溶融時のオリゴマの発生を抑える観点からスルホン酸化合物はポリエステルの分子鎖中に共重合されるものがより好ましく、ポリエステルの分子鎖中に共重合されるスルホン酸化合物としては、3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸などの2以上のエステル形成性官能基を有するスルホニウムアニオンであることがさらに好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムに硫黄元素を含有させる方法は、特に限定されないが、硫黄元素を含有する1種以上の化合物を、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法でポリエステル樹脂組成物に含有させることができる。
【0049】
本発明のポリエステルフィルムは、全質量に対するリン元素の含有量が2~20質量ppmの範囲にあることが好ましい。リン元素の含有量が2質量ppm以上であると、ポリエステルフィルムに良好な色調が得られ、20質量ppm以下であると、フィルム成形時の静電印加キャスト性が良好となり、厚みムラを小さくできる。同様の観点から、全質量に対するリン元素の含有量が2~10質量ppmであることがより好ましい。
【0050】
本発明のポリエステルフィルムにリン元素を含有させる方法は、特に限定されないが、リン酸、リン酸トリメチル、エチルジエチルホスホノアセテート、亜リン酸、4級ホスホニウムカチオンなどのイオン化合物など、公知のリン元素を含有する化合物を1種以上使用することができるが、上記したように、イオン液体を構成するカチオンとして働き、溶融比抵抗を適切な範囲とする観点から、有機ホスホニウム化合物を用いることが好ましい。これらのホスホニウム化合物を、ポリエステル樹脂組成物の重縮合反応時に添加する方法や、二軸混練押出機などを用いて重縮合反応後のポリエステル樹脂組成物と混練する方法など、公知の方法でポリエステル樹脂組成物に含有させることができる。
【0051】
なお、ポリエステルフィルムがスルホン酸化合物を含有することの確認方法や、硫黄元素の含有量、リン元素の含有量の測定方法は、実施例に記載の方法で行うものとする。
【0052】
本発明のポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を溶融押出してシート状に押し出す工程、シート状に押し出した未延伸フィルムに対して微細結晶化構造を付与する工程、フィルム長手方向へ延伸する工程、フィルム幅方向へ延伸する工程を、その順に有する製造方法により、より好ましい実施形態とすることができる。ポリエステル樹脂を溶融押出してシート状に押し出す工程とは、本発明の実施形態を示す際に詳細を記すが、当該工程にて得られたシートは未配向状態にあり、この未配向状態のシートに微細結晶化構造付与することにより、より均一な処理を実施することができる。なお、微細結晶化構造を未配向状態のシートに付与したのち、フィルム長手方向へ延伸する工程、フィルム幅方向へ延伸する工程を、その順に延伸を実施することにより、均一かつ微細な凹凸構造を形成する事ができる。
【0053】
本発明における、微細結晶化構造を規則的に付与する工程とは、未延伸(未配向)フィルムに、規則性を有する形で、化学的、機械的、電気的、光学的な処理を施し、フィルム表面を結晶化する工程である。具体的な処理の方法については、化学的処理は未延伸フィルムの表面を局所的に浸食させるエッチング処理、あるいは未延伸フィルムの表面に突起を印刷する処理を挙げることが出来る。機械的処理は、未延伸フィルムの表面に微細な凹みをつけることや、極めて微小な傷を規則的に付与することが挙げられる。電気的処理とは、グロー放電やアーク放電により未延伸フィルム上をアッシングする処理であり、前述したプラズマ処理、コロナ処理等が挙げられる。さらには、ガンマ線等の放射線を照射することにより、表面を改質することでも達成出来る。ガンマ線は高分子材料に照射すると、反応活性種を形成し、高分子鎖の切断が起こったり、高分子鎖同士の橋架け結合が起こったり、活性種と反応性の高い別の化合物と結合することにより、元の高分子鎖に新たな官能基を付与することができる。これらが延伸により凹凸形状を形成する種(Sheed)となる。これらは、未延伸フィルム表面に結晶核を形成する事により、延伸工程にて突起が形成される。また、光学的な処理としてはレーザー処理が挙げられ、規則性のある痕をフィルム表面に付与することができる。
【0054】
以下、本発明のポリエステルフィルムの製造方法について例を挙げて説明するが、本発明のポリエステルフィルムは、かかる例によって得られる物のみに限定して解釈されるものではない。
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは、以下の工程を有する方法によって得ることができる。
【0056】
まず、ポリエステルフィルムのもととなるポリエステル樹脂を得る工程について記載する。250℃にて溶解したBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコールからなるスラリーを徐々に添加し、水を留出させながらエステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、得られたエステル化反応物を留出装置の付いた重合装置に溶融状態で仕込む。三酸化二アンチモンと、硫黄元素やリン元素を含有する化合物とを、エチレングリコール溶液として添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、35分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して279℃とし、重合反応を実施してポリエステル樹脂を得る。
【0057】
続いてスリット状のスリットダイからシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。たとえば3層積層の場合は、3台の押出機、3層のマニホールドまたは合流ブロック(例えば矩形合流部を有する合流ブロック)を用いて3層に積層し、口金からシートを押し出す。この際の口金は、口金の間隙をヒーターにより自動調整できることが望ましい。口金から押し出したシートは、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。キャスティングロールに着地した未延伸フィルムは、ピニング装置を用い、静電気力を用いてキャストに密着させる。
【0058】
キャスティングロールに密着し冷却したフィルムは、引き離しロールを用いて、キャスティングロールからフィルムを剥離させる。この際の引き離しロールには、フィルム冷却のための通水を行ってもよいし、引き離しロールを駆動させてもよい。
【0059】
続いて、引き離しロールを経た未延伸(未配向)フィルムに、規則性を有する形で、化学的、機械的、電気的、光学的な処理を施し、フィルム表面に微細結晶化構造を規則的に付与する。この際、フィルム表面に微細な凹凸の付与を伴ってもよいし、結晶化のみで凹凸が付与されなくてもよい。化学的処理は未延伸フィルムの表面を局所的に浸食させるエッチング処理、あるいは未延伸フィルムの表面に突起を印刷する処理を挙げることが出来る。機械的処理は、未延伸フィルムの表面に微細な凹みをつけることや、極めて微小な傷を規則的に付与することが挙げられる。電気的処理とは、グロー放電やアーク放電により未延伸フィルム上をアッシングする処理であり、前述したプラズマ処理、コロナ処理等が挙げられる。さらには、ガンマ線等の放射線を照射することにより、表面を改質することでも達成出来る。ガンマ線は高分子材料に照射すると、反応活性種を形成し、高分子鎖の切断が起こったり、高分子鎖同士の橋架け結合が起こったり、活性種と反応性の高い別の化合物と結合することにより、元の高分子鎖に新たな官能基を付与することができる。これらが延伸により凹凸形状を形成する種(Sheed)となる。これらは、未延伸フィルム表面に結晶核を形成する事により、延伸工程にて突起が形成される。また、光学的な処理としてはレーザー処理が挙げられ、規則性のある痕をフィルム表面に付与することができる。
【0060】
次に、微細結晶化構造を付与された未延伸フィルムを縦横二軸方向に延伸する。最初の長手方向の延伸は、傷の発生を抑制する上で重要であり、延伸温度は90℃以上130℃以下、好ましくは100℃以上120℃以下である。延伸温度が90℃よりも低くなるとフィルムが破断しやすく、延伸温度が130℃よりも高くなるとフィルム表面が熱ダメージを受けやすくなる。また、延伸ムラ、及びキズを防止する観点からは延伸は2段階以上に分けて行うことが好ましく、トータル倍率は長さ方向に3倍以上4.5倍以下、好ましくは3.5倍以上4.2倍以下であり、幅方向に3.2倍以上5倍以下、好ましくは3.6倍以上4.3倍以下である。目標とするフィルムの破断強度を達成するため、適時倍率を選択できるが、幅方向の破断強度を高くするため、幅方向の延伸倍率を長手方向よりも高めに設定することがさらに好ましい。かかる温度、倍率範囲をはずれると延伸ムラあるいはフィルム破断などの問題を引き起こし、本発明のフィルムが得られにくい。
【0061】
逐次延伸において、長手方向の延伸過程は、フィルムとロールの接触し、ロールの周速とフィルムの速度差による傷が発生しやすい工程につき、ロール周速がロール毎に個別に設定できる駆動方式が好ましい。長手方向の延伸過程において、搬送ロールの材質は、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上に加熱するか、ガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱するかにより選択されるが、延伸前に未延伸フィルムをガラス転移点以上まで加熱する際は、加熱による粘着を防止するうえで、非粘着性シリコーンロール、セラミックス、テフロン(登録商標)から選択できる。また、延伸ロールは最もフィルムに負荷がかかり、該プロセスで傷や延伸斑が発生しやすい工程につき、延伸ロールの算術平均粗さRaは、0.005μm以上1.0μm以下、好ましくは0.1μm以上0.6μm以下である。Raが1.0μmよりも大きいと延伸時ロール表面の凸凹がフィルム表面に転写することがあり、一方0.005μmよりも小さいとロールとフィルム地肌が粘着し、フィルムが熱ダメージを受けやすくなる。表面粗さを制御するためには研磨剤の粒度、研磨回数などを適宜調整することが有効である。未延伸フィルムをガラス転移点未満の温度に保った状態で延伸ゾーンまで搬送し、延伸時に一挙に加熱する際、予熱ゾーンの搬送ロールは、ハードクロムやタングステンカーバイドで表面処理を行った、算術平均粗さRaが0.2μm以上0.6μm以下の金属ロールを使用するのが好ましい。
【0062】
次いで、かかる長手方向に延伸された一軸延伸フィルムを、横延伸機にて80℃以上120℃未満に加熱した後、3倍以上6倍未満で幅方向に延伸し、二軸延伸(二軸配向)フィルムとする。
【0063】
また、さらに、再延伸を各方向に対して1回以上行なってもよいし、同時2軸にて再延伸してもよい。更に、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行なうが、この熱処理はオーブン中、加熱されたロール上等、従来公知の任意の方法で行なうことができる。熱処理温度は通常150℃以上245℃未満の任意の温度とすることができ、熱処理時間は、通常1秒間以上60秒間以下行なうことが好ましい。熱処理は、フィルムをその長手方向および/または幅方向に弛緩させつつ行なってもよい。また、熱処理後は熱処理温度より0℃以上150℃以下の低い温度で幅方向に0%以上10%以下で弛緩させる。
【0064】
熱処理後のフィルムは、例えば中間冷却ゾーンや除冷ゾーンを設け、寸法変化率や平面性を調整することができる。また特に、特定の熱収縮性を付与するために、熱処理時あるいはその後の中間冷却ゾーンや除冷ゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に弛緩してもよい。
【0065】
二軸延伸後のフィルムは、搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後巻取り、中間製品を得る。この搬送工程にて、フィルムの厚みを測定し、該データをフィードバックして用いてダイ厚みなどの調整によってフィルム厚みの調整を行い、また、欠点検出器による異物検知を行う。
【0066】
エッジの切断時には、切粉の発生を抑制することが、本発明のポリエステルフィルムを得るに際し好ましい。エッジの切断は丸刃、シェアー刃、ストレート刃を使用して行うが、ストレート刃を用いる場合は、刃がフィルムに当たる箇所を、常に同じ箇所にさせないことが、刃の摩耗を抑制できるため好ましい形態である。このため刃を上下にオシレーションする機構を有することが好ましい。また、フィルム切断箇所に吸引装置を設けて、発生した切り粉や、切断後のフィルム端部同士が削れて発生する削れ粉を吸引することが好ましい。
【0067】
中間製品はスリット工程により適切な幅・長さにスリットして巻き取り、本発明の本発明のポリエステルフィルムのロールが得られる。スリット工程におけるフィルムの切断時も、先述のエッジの切断と同様な切断の方式から選定できる。
【0068】
本発明のポリエステルフィルムは、厚みムラが小さく、かつフィルム表面の粗大突起個数が少なく、かつフィルムの搬送性や巻き取り性が良好であるため、離型用途、特にセラミックシート製造用の離型フィルムにおける支持体として好適に使用できる。
【0069】
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム厚みムラが0.20μm以下であることが好ましい。本態様とすることにより塗布性を良好にすることができる。フィルム厚みムラは実施例に記載の方法で測定されるσ値をいう。本態様とするための達成手段として、フィルムの溶融比抵抗が9.0×106Ω・cm以下であり、フィルム製造する工程において、静電印加キャスト法にて製膜する工程を有することが好ましく挙げられる。
【0070】
本発明における積層セラミックコンデンサの製造方法は、本発明のポリエステルフィルムまたはそのフィルム加工品の上に被離型物を形成する工程を含むことが好ましい。本態様とすることで、セラミックコンデンサの積層不良などを抑制でき、品質を向上することができる。フィルム加工品としては、本発明のポリエステルフィルムと離型層と有する離型フィルムであったり、前記離型フィルムを断裁加工したものが含まれる。
【実施例0071】
実施例および比較例における特性値の測定方法および評価方法は次の通りである。
【0072】
(1)二軸配向ポリエステルフィルムの色調
二軸配向ポリエステルフィルムを溶融した後、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによってペレット化して粉体測定用セルに充填し、スガ試験機(株)社製の色差計(SMカラーメーターSM-T)で反射法を用いて、b値をn=3で測定した。測定値の算術平均を色調b値として、色調の評価指標とした。
【0073】
(2)ポリエステルフィルムの溶融比抵抗(単位:Ω・cm)
ポリエステルフィルムを290℃で溶融した後、面積0.5cm2のステンレス製電極2枚を8mmの間隔で並行に挿入し、温度が安定した後に抵抗計(日置電機株式会社製:抵抗計RM3545)で抵抗値(R)を測定した。続いて、ρ(Ω・cm)=R×0.5/0.8 の式から溶融比抵抗(ρ)を算出した。
【0074】
(3)フィルム表面結晶化度Cs(単位:%)
レーザーラマン分光法(顕微ラマン)によって、1730cm-1付近のラマンバンド(ポリエチレンテレフタレートのエステル結合のC=O結合伸縮バンド)の半値幅Δν1730を求め、以下の式(i)(ii)から、Cs(%)を求めた。
(i)密度ρ(g/cm3)=(305-Δν1730)/209
(ii)フィルム表面結晶化度Cs(%)=100×(ρ-1.335)/(1.455-1.335)
レーザーラマン分光法の測定条件は以下の通り。
・対物レンズ;×50倍
・ビーム径;2μm
・波長;266nm
・レーザーパワー;20mW
・検出器;NIPPON ROPER製CCD。
【0075】
(4)AFMでの突起個数測定方法
・装置:Digital Insturuments社製 NanoScope3型 SPMコントロールステーション
・SPMユニット:原子間力顕微鏡(AFM)
・カンチレバー:シリコン単結晶
・走査モード:タッピングモード
・走査速度:0.8Hz
・測定視野:1μm四方
・サンプルライン:256
・Flatten Auto:オーダー3
・サンプル調整:23℃、65%RH、24時間静置
・AFM測定環境:23℃、65%RH
場所を変えて20回測定し、その平均値を求めた。
【0076】
(5)確率的粗大突起数の測定方法(単位:個/m2)
アルミニウム製の印加板上に10cm四方の大きさのフィルムを2枚重ね合わせて置き、そこから1.5cmの高さに印加電極をセットしたのち、5kVの電圧を印加し、50mm/分の速度で印加電極をスライドさせることで、2枚のフィルムを静電密着させた。静電密着後のフィルムサンプルを、ハロゲンランプに564nmのバンドパスフィルターをかけたものを光源として用いた実体顕微鏡を使い30倍で観察し、干渉縞の個数をカウントした。当評価を、異なる取り位置で採取したフィルムサンプルで300回繰り返して3重環以上の干渉模様を示す干渉縞の数を求め、6で割って1m2あたりの個数を算出した。なお、当該評価はフィルムの一方の表面同士、およびフィルムのもう一方の表面同士が重なり合うようにしてそれぞれ測定し、数が多いほうの測定結果を表に記載した。
【0077】
(6)面厚みの面内での平均値に対するばらつきσ値(フィルム厚みムラ)
製膜機外に設置した厚み測定センサー:JFEテクノリサーチ株式会社製の膜厚分布測定装置“FiDiCa”(登録商標)を用いて、面厚みを測定した。製品幅1.5m、長手方向の1,000mについて測定した。速度は50m/minとした。この面厚みデータを元に、面厚みの面内での平均値に対するばらつきσ値を求め、これをフィルム厚みムラとした。
【0078】
(7)ポリエステルフィルム中のカリウム元素、リチウム元素、ナトリウム元素、マグネシウム元素、マンガン元素、リン元素含有量(単位:質量ppm)
ポリエステルフィルムを細かく裁断した後、溶融濾過し、得られた濾液を円柱状に成型する。得られた円柱状樹脂に対して、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線から算出した。
【0079】
(8)ポリエステルフィルム中の硫黄元素、リン元素、スルホン酸化合物、ホスホニウム化合物の含有量(単位:質量ppm)
ポリエステルフィルムをジクロロメタンに溶解し、メタノールによる再沈した後、遠心分離を行い、上澄液を採取した。上澄液は40℃に加温しながら緩やかに窒素ガスを吹き付け、濃縮後、メタノールにてメスアップを行いLC/MS試料とした。LC/MS試料中の硫黄元素を含有する化合物をLC-MS装置を用いて定性した。測定条件は以下の通りである。
装置:Agilent Technology社製1100シリーズ
LC条件
・カラム:Inertsil C8 (250×2.1mm,3μm)
・流速:0.2mL/min
・移動相:20mM酢酸アンモニウム水溶液/メタノール=17/83(体積比)
・カラム恒温槽:40℃
・注入量:10μm
MS条件
・検出モード:ESI negative
・乾燥ガス:N2(350℃,10L/min)
・ネブライザー圧:50psig
・フラグメンター電圧:140V
・キャピラリー電圧:5000V
また、あらかじめ作成しておいた検量線から、ポリエステルフィルム中のスルホン酸化合物およびホスホニウム化合物の含有量を求めた。また、各含有量と化合物の分子構造から硫黄元素とリン元素を求めた。
【0080】
(9)グリーンシートの塗布状態評価;ピンホール、凹みの有無
巻き取られたグリーンシートを、手で繰り出し、離型フィルムから剥がさない状態にて目視で観察し、ピンホールの有無や、シート表面および端部の塗布状態を確認した。なお観察する面積は幅300mm、長さ500mmである。
【0081】
離型フィルムの上に成型されたグリーンシートについて、背面から1000ルクスのバックライトユニットで照らしながら、塗布抜けによるピンホールあるいは、離型フィルム背面の表面転写による凹み状態を観察した。
A:ピンホールも凹みも無い。
B:ピンホールは無く、凹みが3個以内認められる
C:ピンホールが有り、また凹みが4個以上認められる。
なお、ピンホール、凹みの有無についてはAとBまでが良好であり、その中で最もAが優れている。
【0082】
(実施例1)
250℃にて溶解したBHT(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対して1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、水を留出させながらエステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~250℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とし、得られたエステル化反応物105質量部(PET(ポリエチレンテレフタレート)100質量部相当)を留出装置の付いた重合装置に溶融状態で仕込んだ。
【0083】
三酸化二アンチモンを0.0084質量部と、p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを0.0175質量部とを、エチレングリコール溶液として添加し、引き続いて重合反応槽内を除々に減圧にし、35分で0.13kPa以下とし、それと同時に除々に昇温して279℃とし、ポリエステル樹脂組成物の固有粘度が0.625となるまで重合反応を実施した。その後、窒素ガスによって重縮合反応槽を常圧に戻し、口金より冷水中にストランド状に吐出し、押し出しカッターによって円柱状にペレット化してポリエステル樹脂組成物を得た。
【0084】
さらに別に、モノマーを吸着させる方法によって得た体積平均粒子径1.0μm、体積形状係数f=0.51のジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子の水スラリーを、上記のポリエステル樹脂組成物ペレットに、ベント式二軸混練機を用いて含有させ、体積平均粒子径1.0μmのジビニルベンゼン/スチレン共重合架橋粒子をポリエステル樹脂組成物99質量部に対し1質量部含有するマスターペレットを得た。
【0085】
なお、体積形状係数fとは次式で表される。
f=V/Dm3
ここでVは粒子体積(μm3)、Dmは粒子の投影面における最大径(μm)である。体積形状係数fは粒子が球のとき、最大のπ/6をとる。
【0086】
これらのポリエステルをそれぞれ160℃で8時間減圧乾燥し、水分率を100ppmとした後、別々の押出機に供給し、275℃で溶融押出して、5μm以上の捕集効率95%の高精度フィルターで濾過した後、矩形の3層用合流ブロックで合流積層し、ポリエステル層B/ポリエステル層A/ポリエステル層B’からなる3層積層とした。ポリエステル層Bおよびポリエステル層B’へは上記マスターペレットを使用し、ポリエステル層Aには上記ポリエステル樹脂組成物を使用した。
【0087】
その後、285℃に保ったスリットダイを介し静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃のキャスティングロール上で7sec冷却固化し、厚み570μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸積層フィルムに逐次延伸(長手方向、幅方向)を実施する。まず長手方向の延伸を実施し、次に幅方向の延伸を実施した。長手方向の延伸は、予熱を105℃でテフロン(登録商標)ロールにて搬送した後に、ロールの周速差にて120℃で4.0倍延伸して一軸延伸フィルムとした。
【0088】
この一軸延伸フィルムをステンター内で横方向に115℃で4倍延伸し、続いて240℃で熱固定し、その際幅方向に5%弛緩し搬送工程にて冷却させた後、エッジを切断後に巻き取り、厚さ31μmの二軸延伸フィルムの中間製品を得た。得られた中間製品をスリッターにて裁断し、厚さ31μmの二軸延伸フィルムのロールを得た。
【0089】
次にこの二軸延伸フィルムロールのB層に、メラミン樹脂[三井サイテック社製 商品名「“サイメル”(登録商標)303」、ヘキサメトキシメチルメラミン、重量平均分子量390、固形分100質量%]:100質量部と、酸性触媒としてのp-トルエンスルホン酸:5質量部と、イソプロピルアルコールとイソブチルアルコールとの混合溶媒(質量比率4/1)と、を混合して固形分15質量%の平滑化層形成用組成物を得た。次いで、得られた平滑化層形成用組成物をバーコーターで塗布して、塗布層を得た。次に、この塗布層を120℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させることで、平滑化層(厚み:0.55μm)を形成した。次に、メラミン樹脂[三井サイテック社製 商品名「“サイメル”(登録商標)303」、ヘキサメトキシメチルメラミン、重量平均分子量390、固形分100質量%] :95質量部と、シリコーン化合物としてのシラノール末端ポリジメチルシロキサン[信越化学工業(株)製、KF-9701、固形分100質量%] :5質量部と、酸性触媒としてのp-トルエンスルホン酸:5質量部と、イソプロピルアルコールとイソブチルアルコールとの混合溶媒(質量比率4/1)と、を混合して固形分15質量%の剥離剤層形成用組成物を得た。次いで、得られた剥離剤層形成用組成物をバーコーターで平滑化層の上に塗布して、塗布層を得た。次に、この塗布層を120℃で1分間加熱することにより塗布層を硬化させることで、剥離剤層(厚み:0.50μm)を形成した。すなわち平滑化層および剥離剤層の2層からなる厚み1.05μmの離型層を形成した。得られたフィルムを、離型フィルムと呼ぶ。
【0090】
チタン酸バリウム(富士チタン工業(株)製商品名HPBT-1)100質量部、ポリビニルブチラール(積水化学(株)製商品名BL-1)10質量部、フタル酸ジブチル5質量部とトルエン-エタノール(質量比30:30)60質量部に、数平均粒径2mmのガラスビーズを加え、ジェットミルにて20時間混合・分散させた後、濾過してペースト状のセラミックスラリーを調整した。得られたセラミックスラリーを、離型フィルムの上に乾燥後の厚みが1.0μmとなるように、ダイコーターにて塗布し乾燥させ、巻き取り、グリーンシートを得た。
【0091】
二軸延伸フィルムのロールおよび上記で巻き取られたグリーンシートからサンプリングをし、評価した結果を表に示す。
【0092】
(実施例2、3)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、p-トルエンスルホン酸とテトラ-n-ブチルホスホニウムハイドロオキサイドを添加し、表に記載の硫黄元素とリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0093】
(実施例18)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、テトラ-n-ブチルホスホニウムハイドロオキサイドを添加し、表に記載のリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0094】
(実施例4~6、実施例19)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、p-トルエンスルホン酸を添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0095】
(実施例7~9)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、テトラ-n-ブチルホスホニウムハイドロオキサイドを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0096】
(実施例20)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、p-トルエンスルホン酸を添加し、表に記載の硫黄元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0097】
(実施例21)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、テトラ-n-ブチルホスホニウムハイドロオキサイドを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0098】
(実施例10、比較例1)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸カルシウム1水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、カルシウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0099】
(実施例11、比較例2)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸マグネシウム4水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、マグネシウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0100】
(実施例12、比較例3)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸マンガン4水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、マンガン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0101】
(実施例13)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸ナトリウム無水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、ナトリウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0102】
(実施例14)
三酸化二アンチモンとp-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムに加えて、酢酸リチウム無水和物を添加することで、表に記載の硫黄元素およびリン元素、リチウム元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0103】
(実施例15、16)
プラズマ処理強度を上げた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0104】
(実施例17)
p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加する代わりに、共重合成分である3,5-ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムを添加し、表に記載の硫黄元素およびリン元素の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0105】
(比較例4)
エステル化反応の代わりに、テレフタル酸ジメチルを100質量部、エチレングリコールを70質量部、酢酸マンガン4水和物をポリエステル樹脂組成物に対してマンガン元素量として85質量ppmとなるように反応器に仕込み、内容物を150℃で溶解させた後、撹拌しながら反応内容物の温度を230℃まで徐々に昇温して、所定量までメタノールを留出させてエステル交換反応を行い、低重合体のBHTを得た。重縮合反応以降は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。
【0106】
(比較例5)
プラズマ処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂組成物およびポリエステルフィルムを得た。結果を表に示す。比較例5においては、フィルムが非常に平滑であるため巻き出しにくく、かつキズがつきやすいため生産性に劣る。また、塗工時においてキズがつきやすいため、グリーンシートの塗布状態はあまり良いものではなかった。
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
本発明のポリエステルフィルムは、厚みムラが小さく、かつフィルム表面の粗大突起個数が少なく、かつフィルムの搬送性や巻き取り性が良好であるため、離型用途、特にセラミックシート製造用の離型フィルムにおける支持体として好適に使用できるが、用途がこれらに限定されるものではない。