IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人森林総合研究所の特許一覧 ▶ 地方独立行政法人大阪産業技術研究所の特許一覧 ▶ 株式会社環境経営総合研究所の特許一覧

特開2023-114437パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材
<>
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図1
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図2
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図3
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図4
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図5
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図6
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図7
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図8
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図9
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図10
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図11
  • 特開-パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114437
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】パルプ組成物、樹脂組成物および樹脂含有部材
(51)【国際特許分類】
   C08H 7/00 20110101AFI20230809BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230809BHJP
【FI】
C08H7/00 ZAB
C08L101/00 ZBP
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004039
(22)【出願日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2022016726
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】597022540
【氏名又は名称】株式会社環境経営総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】ネー ティティ
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
(72)【発明者】
【氏名】松下 敬通
(72)【発明者】
【氏名】山野 宏司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA02W
4J002AH00X
4J002CC03W
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】木材由来の成分を含有しながら、相溶性を改善するための特段の添加物を必要としない樹脂組成物、この樹脂組成物の原料の1つとなるパルプ組成物、および上記の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部材を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るパルプ組成物は、グリコール変性パルプを含有し、グリコール変性パルプは、数平均分子量200~600のポリエチレングリコールと木材原料との反応生成物であってもよく、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、上記のグリコール変性パルプと樹脂とを含有し、かかる樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部材は、熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定されてもよい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール系化合物で変性されたパルプであるグリコール変性パルプを含有することを特徴とするパルプ組成物。
【請求項2】
前記グリコール変性パルプは、木材原料とポリエチレングリコールとの反応生成物である、請求項1に記載のパルプ組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールは平均分子量が200~600である、請求項2に記載のパルプ組成物。
【請求項4】
熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、前記グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定される、請求項1に記載のパルプ組成物。
【請求項5】
メジアン径が20~200μmである、請求項1に記載のパルプ組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載されるパルプ組成物と熱硬化性樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂を含む、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、前記グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定される、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6に記載の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材。
【請求項10】
請求項7に記載の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材。
【請求項11】
請求項8に記載の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材。
【請求項12】
請求項1に記載されるパルプ組成物と熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材であって、前記樹脂含有部分を熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、前記グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定される樹脂含有部材。
【請求項13】
前記グリコール系化合物がポリエチレングリコールを含む、請求項12に記載の樹脂含有部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グリコール系化合物で変性されたパルプ(本明細書において「グリコール変性パルプ」ともいう。)を含有するパルプ組成物、かかるパルプ組成物と熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物およびかかる樹脂組成物から形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境保護の意識の高まりから、木粉やパルプなど、木材由来の成分を樹脂と混合させて得られる樹脂組成物を用いて樹脂含有部材を製造することが検討されている(例えば、特許文献1から特許文献6参照。)。
【0003】
特許文献7には、(a)リグノセルロースをポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン及びポリグリセリンから選択される少なくとも1種のグリコール系蒸解溶媒で、酸触媒の存在下、常圧下で加溶媒分解する工程と、(b)前記加溶媒分解工程後の反応混合物と希アルカリとを混合した後、グリコールリグニンを含む溶液画分と固形分とを分離する工程と、(c)前記溶液画分を硫酸で酸性化することにより、グリコールリグニンを沈殿物として得る工程と、(d)グリコールリグニンの沈殿物を、硫酸で酸性化した前記溶液画分から分離する工程と、(e)グリコールリグニンの沈殿物分離後の上清液を集積し、その集積溶液に水酸化ナトリウムを添加することにより、集積溶液を中和する工程と、(f)前記中和溶液を加熱することにより含水率10%以下に濃縮して蒸解溶媒を回収する工程と、(g)濃縮により生成した硫酸ナトリウムの結晶を分離することを含む工程とを含む、グリコールリグニンの製造方法が開示されている。特許文献8には、リグニンと親水性化合物との反応により生成されるリグニン誘導体を主成分とするコンクリート用混和剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-138214号公報
【特許文献2】特開2020-063326号公報
【特許文献3】特開2019-019174号公報
【特許文献4】特開2020-158606号公報
【特許文献5】特開2020-111690号公報
【特許文献6】特開2020-019850号公報
【特許文献7】特開2017-197517号公報
【特許文献8】特開2011-184230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献に開示された技術によれば、木材由来の成分および樹脂を含む混合物に対して、相溶性を改善するために各種添加剤を配合する場合がある。例えば、特許文献1では無水カルボン酸変性ポリオレフィンが相溶化剤として用いられ、特許文献5では特定の条件を満たすポリオレフィンワックスが相溶化剤として用いられている。相溶化剤を配合することにより相溶性が向上し、樹脂組成物を用いて得られた樹脂含有部材の機械特性も向上するが、かかる樹脂含有部材では、機械特性を適切に確保するためには、相溶化剤などの添加剤の配合量の管理を厳密に行うことが必要とされる。
【0006】
本発明は、パルプなど木材由来の物質に基づく成分を含有しながら、特許文献1や特許文献5に示されるような相溶性を改善するための特段の添加物を必要としない樹脂組成物、この樹脂組成物の原料の1つとなるパルプ組成物、および上記の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様に係るパルプ組成物は、グリコール系化合物で変性されたパルプであるグリコール変性パルプを含有する。このグリコール変性パルプは、木材原料とポリエチレングリコールとの反応生成物であってもよい。この場合において、ポリエチレングリコールは平均分子量が200~600であることが好ましい場合がある。
【0008】
上記のパルプ組成物は、熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定されてもよい。グリコール系化合物がポリエチレングリコールを含んでいる場合には、ポリエチレングリコールのフラグメントが測定されることになる。
【0009】
上記のパルプ組成物は、メジアン径が20~200μmであってもよい。パルプ組成物を微粉砕することにより、後述する樹脂組成物とした際に、当該パルプ組成物が樹脂に均一に分散され、樹脂組成物を加熱した際の流動性も向上させることができる。
【0010】
上記課題を解決するために提供される本発明の一態様に係る樹脂組成物は、上記のグリコール変性パルプと熱硬化性樹脂とを含有する。グリコール変性パルプはパルプよりも両親媒性に優れるため、熱硬化性樹脂と相互作用しやすい。このため、相溶性を高めるための特段の添加物がこの樹脂組成物に配合されていなくても、この樹脂組成物から形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材は、樹脂とグリコール変性パルプとの接着性が優れているため曲げ強度などの機械特性に優れる。
【0011】
上記の樹脂組成物が含有する熱硬化性樹脂の具体例として、熱硬化性樹脂がフェノール樹脂を含む場合が挙げられ、この場合には、樹脂組成物がフェノール樹脂の硬化剤をさらに含有することが好ましいことがある。
【0012】
上記の樹脂組成物を熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定されることが好ましい。
【0013】
本発明は、他の一態様として、上記の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材を提供する。
【0014】
本発明は、別の一態様として、グリコール系化合物で変性されたパルプであるグリコール変性パルプを含有するパルプ組成物と熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物から形成された樹脂含有部分を有する樹脂含有部材であって、樹脂含有部分を熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、グリコール系化合物に由来するフラグメントが測定される樹脂含有部材を提供する。グリコール系化合物はポリエチレングリコールを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、木材由来の成分を含有しながら、相溶性を改善するための特段の添加物を必要としない樹脂組成物、この樹脂組成物の原料の1つとなるパルプ組成物、および上記の樹脂組成物を用いて形成された樹脂含有部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例および比較例に係る樹脂含有部材の曲げ強度の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例および比較例に係る樹脂含有部材の曲げ弾性率の測定結果を示すグラフである。
図3】(a)実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図、(b)実施例2(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。
図4】(a)実施例3(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:40%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図、(b)実施例4(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:30%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。
図5】(a)比較例1(木粉の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図、(b)比較例2(木粉の添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。
図6】(a)比較例3(木粉の添加率:40%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図、(b)比較例4(木粉の添加率:30%)の樹脂含有部材の破断面の観察図である。
図7】比較例6(パルプの添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。
図8】(a)実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図、(b)比較例1(木粉の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
図9】(a)実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)の樹脂組成物を製造するために用いたパルプ組成物のグリコール変性パルプ(製造に用いたポリエチレングリコールの平均分子量:400)の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図、(b)比較例1(木粉の添加率:60%)の樹脂含有部材を製造するために用いた木粉の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
図10】(a)一般的なパルプの熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図、(b)実施例に用いたグリコール変性パルプ150gに水3Lを添加して15分撹拌してろ過を3回繰り返した後の固形分の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
図11】実施例および比較例に係る樹脂含有部材の比誘電率の測定結果を示すグラフである。
図12】(a)実施例5(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図、(b)実施例5(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)の樹脂組成物を製造するために用いたグリコール変性パルプ(製造に用いたポリエチレングリコールの平均分子量:600)の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本開示について説明する。
【0018】
本発明の一実施形態に係るパルプ組成物は、グリコール系化合物で変性されたパルプであるグリコール変性パルプを含有する。本発明の一実施形態に係るパルプ組成物は、実質的にグリコール変性パルプから構成されていてもよい。グリコール変性パルプは、例えば特許文献7に記載されるように、リグノセルロースを含む木粉などの木材原料をポリエチレングリコールなどのグリコール系化合物を含む反応液で加溶媒分解した後の混合液を濾別して得られる固形分を含む残渣(固体残渣)から得られる。すなわち、一例において、グリコール変性パルプは、木材原料とポリエチレングリコールとの反応生成物である。なお、濾過により得られた溶液画分には、グリコール系化合物で改質されたリグニンが含まれている。
【0019】
グリコール変性パルプは、当該パルプの主成分となるセルロースの還元末端(1位)にグリコール系化合物が選択的に付加してなる。グリコール変性によりパルプは両親媒性が高まり、それゆえ熱硬化性樹脂と相互作用しやすく、樹脂への分散性が良好となる。このため、本実施系に係る樹脂組成物に相溶性を高めるための特段の添加物が配合されていなくても、本実施系に係る樹脂組成物から形成された樹脂含有部材は、機械特性に優れる。具体的には、曲げ強度が向上したり、曲げ弾性率が低下して曲げたわみが大きくなったりする。
【0020】
グリコール系化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、各種分子量のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、各種分子量のポリプロピレングリコール、グリセリン(グリセロール)、各種分子量のポリグリセリン(ポリグリセロール)が挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。限定されない例示として、平均分子量が200~600のポリエチレングリコールを用いることが好ましい。ポリエチレングリコールの平均分子量が過度に大きい場合には、木材原料との反応性が低下し、パルプの分離・回収効率が大きく低下する。
【0021】
グリコール変性パルプを製造する際にグリコール系化合物と反応する木材原料の一例として、スギなどの針葉樹が挙げられる。日本国内のスギは、遺伝的に均一性が高い(すなわち、クローンである)ため、スギを構成する高分子構造の多様性が小さい。それゆえ、日本国内のスギを木材原料として用いると、品質安定性に優れるグリコール変性パルプが得られやすくなる可能性がある。加溶媒分解の触媒の具体例として硫酸が挙げられ、木材原料を加溶媒分解して得られた混合物をアルカリで希釈し、希釈後の混合物をフィルタープレスして得られる液体画分にグリコール改質リグニンが含まれ、液体成分から分離した固形物を含む残渣がグリコール変性パルプである。
【0022】
グリコール変性パルプは、熱分解ガスクロマトグラフィーで測定すると、グリコール系化合物のフラグメントに基づくピークが得られるため、パルプを原料として含む組成物がグリコール変性パルプを含有しているか否かは、熱分解ガスクロマトグラフィーの測定により容易に判別可能である。グリコール系化合物がポリエチレングリコールを含んでいる場合には、パルプ組成物を熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、ポリエチレングリコールに由来するフラグメントが測定される(図9(a)、図12(b)参照。)。
【0023】
また、本発明の一実施形態に係るパルプ組成物は、レーザ回折・散乱法にて測定したときに体積基準の粒度分布において小粒径側からの積算粒径分布が50%となる粒径であるメジアン径が20~200μmとなるように、例えば竪型ローラミル等の粉砕機により粉砕してもよい。このように、パルプ組成物を微粉砕することにより、後述する樹脂組成物とした際に、当該パルプ組成物が樹脂に均一に分散され、樹脂組成物を加熱した際の流動性も向上させることができる。均一分散性や流動性の向上をより安定的に確保する観点から、パルプ組成物のメジアン径は、20~100μmとすることが好ましく、25~50μmとすることがより好ましい。なお、パルプ組成物の粉砕方法については、特許第4536161号公報に記載の粉砕方法を参考とすることができる。
【0024】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、上記のグリコール変性パルプを含むパルプ組成物と熱硬化性樹脂とを含有する。本実施形態に係る樹脂組成物が含有する熱硬化性樹脂としては、成形用材料として用いられるいずれの樹脂をも用いることができる。
【0025】
熱硬化性樹脂として、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。以下、熱硬化性樹脂の中でも最も一般的な、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂について説明する。
【0026】
フェノール樹脂としては、酸触媒を用いるノボラック系あるいはアルカリ触媒を用いるレゾール系のいずれも使用可能であり、ノボラック系フェノール樹脂を使用することが好ましい。ノボラック系フェノール樹脂の具体例として、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、キシレノールノボラック樹脂、レゾルシノールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等が挙げられる。フェノール樹脂の原料となるフェノール類として、例えば、ビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールA、ビフェノール、ビスフェノールF、ジアリルビスフェノールF、トリフェニルメタン型フェノール、テトラキスフェノール、ビフェニルアラルキル骨格を有するフェノール(ビフェニル型フェノール)等が挙げられる。フェノール樹脂を形成する際にフェノール類と反応するアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられる。ノボラック系フェノール樹脂を形成するために用いられる酸触媒の具体例として、塩酸、硝酸、硫酸、蟻酸、シュウ酸、酢酸等が挙げられる。レゾール系フェノール樹脂を形成するために用いられるアルカリ触媒の具体例として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。フェノール樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
エポキシ樹脂は、一般的に、硬化剤を添加し加熱すると三次元網状化し、強固な硬化物を形成する性質を有する。このようなエポキシ樹脂としては、公知の種々のエポキシ樹脂が用いることができ、具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール類のグリシジルエーテル;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテル;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等のカルボン酸のグリシジルエーテル;アニリンイソシアヌレート等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したグリシジル型もしくはアルキルグリシジル型のエポキシ樹脂;ビニルシクロヘキサンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-ジシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等のように、分子内の炭素-炭素二重結合を例えば酸化することによりエポキシが導入された、いわゆる脂環型エポキシドを挙げることができる。その他、ビフェニル骨格、トリフェニルメタン骨格、ジシクロヘキサジエン骨格、ナフタレン骨格等を有するエポキシ樹脂を用いることもできる。これらエポキシ樹脂は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。上述したエポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールAのグリシジルエーテル(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂(ビフェニル型エポキシ樹脂)、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂(ナフタレン型エポキシ樹脂)またはこれらの組み合わせを使用することが好ましい。
【0028】
本実施形態の樹脂組成物は、硬化剤をさらに含有してもよい。硬化剤は、熱硬化性樹脂と反応して熱硬化性樹脂を硬化させることが可能である限り、特に限定されない。硬化剤を用いることで、適度な加熱時間で硬化する樹脂組成物を得ることができる。また、硬化剤を用いることで、成形品である樹脂含有部材の機械的強度をより高めることができる。
【0029】
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む場合には、硬化剤として、例えば脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香族ジアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなポリフェノール化合物(フェノール系硬化剤)、イミダゾール化合物等を用いることが好ましい。
【0030】
熱硬化性樹脂がノボラック型フェノール樹脂等のフェノール樹脂を含む場合、硬化剤としては例えばヘキサメチレンテトラミン等を用いることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る樹脂組成物は樹脂組成物を成形して得られる樹脂含有部材に求められる機能に応じて、各種添加剤を含有していてもよい。そのような添加剤の具体例として、フィラー類、顔料(有機系、無機系)、染料などの着色剤、滑剤、カルボン酸エステル類などの可塑剤、高級脂肪酸およびその金属塩などを含む離型剤、酸化防止剤、難燃剤(有機系、無機系)、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、4級アンモニウム塩などの抗菌剤、界面活性剤(非イオン性、アニオン性、カチオン性、両性)、脂肪酸エステルなどの帯電防止剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、スリップ防止剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、衝撃改良剤、架橋剤(熱可塑性樹脂の場合)等が挙げられる。フィラー類の具体例として、芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、セルロース繊維、各種エラストマーおよびフッ素系ポリマーなどの有機フィラーや、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、ウォラストナイト、ガラス繊維、水酸化マグネシウム、高炉スラグ、フライアッシュ、硫酸バリウム、シリカ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カーボンブラック、黒鉛およびカーボンファイバーなどの無機フィラー(無機充填剤)が挙げられる。滑剤の具体例として、ステアリン酸等の脂肪酸、ステアリルアルコール等の高級アルコール、ステアリン酸鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩が挙げられる。
【0032】
これらの添加剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら添加剤の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で用途に応じて、特に限定されない。なお、上記のように、本実施形態に係る樹脂組成物は相溶化剤を必要としないが、樹脂組成物の相溶性を特に高めるために、ポリプロピレン系ワックスなどの相溶化剤を添加剤として用いてもよい。
【0033】
本発明の一実施形態に係る樹脂含有部材は、本実施形態に係る樹脂組成物を用いて形成された部分を有する。樹脂含有部材は、本実施形態に係る樹脂組成物から形成された樹脂含有部分から全体が構成されていてもよいし、樹脂含有部分が樹脂含有部材の一部であってもよい。樹脂含有部分が樹脂含有部材の一部である場合の具体例として、樹脂含有部材が、金属材料を含むインサート成形で形成される場合、他の樹脂組成物との多色成形で形成される場合、樹脂含有部分の表面にめっきなど他の部材が設けられる場合などが挙げられる。
【0034】
上記のように、グリコール変性パルプを含むパルプ組成物は、熱分解ガスクロマトグラフィーで測定すると、グリコール系化合物のフラグメントに基づくピークが得られる、グリコール変性パルプを含むパルプ組成物を含有する樹脂組成物もこの樹脂組成物を用いて得られた樹脂含有部材も、同様に、グリコール系化合物のフラグメントに基づくピークが得られる。したがって、樹脂を含有する部材がグリコール変性パルプを含むパルプ組成物を含有しているか否かは、熱分解ガスクロマトグラフィーの測定により容易に判別可能である。グリコール系化合物がポリエチレングリコールを含んでいる場合には、樹脂含有部材を熱分解ガスクロマトグラフィーで分析したときに、ポリエチレングリコールに由来するフラグメントが測定される(図8(a)、図12(a)参照。)。
【0035】
以下、実施例を用いて本発明について具体的に説明する。
【実施例0036】
(製造例1)
特許文献7の実施例1に記載される製造方法に従って、平均分子量200~600のポリエチレングリコールを用いて加溶媒分解を行い、加溶媒分解反応後の混合物に対してフィルタープレス工程を実施して得られた固体残渣を乾燥・粉砕・分級して、グリコール変性パルプを含むパルプ組成物を製造した。得られたパルプ組成物をレーザ回折・散乱法にて測定して、体積基準の粒度分布を得た。この粒度分布から小粒径側からの積算粒径分布を求めた結果を表1に示す。表1に示されるように、パルプ組成物のメジアン径(積算値が50%の行の値)は、いずれも25μm~35μmの範囲に位置した。なお、特許文献7の実施例1に示されるように、フィルタープレス工程では、グリコールリグニンなどの可溶性物質の回収率向上を目的として、混合液をフィルタープレスして得られた固体残渣を温水で洗浄するため、最終的に得られた固体残渣には、未反応のポリエチレングリコールが実質的に含まれていないと考えてよい。
【0037】
【表1】
【0038】
(実施例1)
ノボラック型フェノール樹脂(旭有機材工業社製)300gと、充填剤として製造例1で得られたパルプ組成物(ポリエチレングリコールの平均分子量:400)450gと、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミン(リグナイト社製)36gと、離型剤としてのステアリン酸亜鉛(和光純薬工業社製)3.0gとを順次配合し、2本の熱ロールにて100℃で7分間混練して、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるパルプ組成物の配合量は約60質量%(57.0質量%)であった。
【0039】
(実施例2)
充填剤として製造例1で得られたパルプ組成物(ポリエチレングリコールの平均分子量:400)を300gに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるパルプ組成物の配合量は約50質量%(46.9質量%)であった。
【0040】
(実施例3)
充填剤として製造例1で得られたパルプ組成物(ポリエチレングリコールの平均分子量:400)を200gに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるグリコール変性パルプの配合量は約40質量%(37.1質量%)であった。
【0041】
(実施例4)
充填剤として製造例1で得られたパルプ組成物(ポリエチレングリコールの平均分子量:400)を129gに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるグリコール変性パルプの配合量は約30質量%(27.6質量%)であった。
【0042】
(実施例5~実施例8)
製造例1において平均分子量600のポリエチレングリコールを用いて得られたグリコール変性パルプを含むパルプ組成物を用いて、実施例1~実施例4と同様にして、パルプ組成物の配合量が異なる樹脂組成物を得た。
【0043】
(比較例1)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりに木粉を充填剤として用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における木粉の配合量は約60質量%(57.0質量%)であった。
【0044】
(比較例2)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりに木粉を充填剤として用いた以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における木粉の配合量は約50質量%(46.9質量%)であった。
【0045】
(比較例3)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりに木粉を充填剤として用いた以外は、実施例3と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における木粉の配合量は約40質量%(37.1質量%)であった。
【0046】
(比較例4)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりに木粉を充填剤として用いた以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物における木粉の配合量は約30質量%(27.6質量%)であった。
【0047】
(比較例5)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりにパルプ(未処理パルプ)を充填剤として用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるパルプの配合量は約60質量%(57.0質量%)であった。
【0048】
(比較例6)
グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の代わりにパルプ(未処理パルプ)を充填剤として用いた以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物を得た。この樹脂組成物におけるパルプの配合量は約50質量%(46.9質量%)であった。
【0049】
<評価・観察>
各実施例および各比較例において得られた樹脂組成物について、170℃において15分間トランスファ成形し、180℃で2時間後硬化を行うことにより、成形品として、曲げ試験用の矩形試験片と、75mmφの円盤形試験片およびシャルピー衝撃試験片とを得た。
【0050】
得られた成形品を、下記の方法により評価・観察した。
(1)曲げ強度等
JIS K6911(1995年版)に準拠して、クロスヘッド速度3mm/分、スパン100mmにて曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率および最大点伸度を測定した。
【0051】
(2)シャルピー衝撃強度
JIS K7111(1995年版)に準拠して、U型ノッチ入り試験片を用いて衝撃強度を測定した。
【0052】
(3)比誘電率
インピーダンスアナライザーE4991A(キーサイト・テクノロジー社製)を用い、周波数1GHzにおける比誘電率を測定した。
【0053】
(4)熱分解ガスクロマトグラフィー
成形品から切り出した試料を熱分解炉(フロンティア・ラボ社製「EGA/PY-3030D」)にて600℃で加熱し、この時発生したガスをGC-MS装置(島津製作所社製「GCMS-QP2010SE」、カラム:フロンティア・ラボ社製「Ultra ALLOY UA5-30M-0.25F」、キャリアガス:ヘリウム)により分析を行った。GC部の昇温条件は以下のとおりである。
開始温度50℃、10℃/分で300℃まで昇温、10分ホールド。
【0054】
評価結果を表2に示す。なお、ともに充填剤の配合量が約60質量%であった比較例1および比較例5に係る樹脂組成物は、トランスファ成形を適切に行うことができず、評価用サンプルを作製することができなかった。
【0055】
【表2】
【0056】
図1は、実施例および比較例に係る樹脂含有部材の曲げ強度の測定結果を示すグラフである。図2は、実施例および比較例に係る樹脂含有部材の曲げ弾性率の測定結果を示すグラフである。図11は、実施例および比較例に係る樹脂含有部材の比誘電率の測定結果を示すグラフである。いずれも、上記の表2の結果に基づき作成した。いずれのグラフも、グリコール変性パルプを含むパルプ組成物(いずれの図においても凡例では「変性パルプ」と略記した。)を含む樹脂組成物である実施例の結果は黒丸「●」で示した。木粉を含む樹脂組成物である比較例の結果は、測定できた場合には白丸「○」で示し、評価用サンプルを作製できなかった比較例1については、添加率を確認できるように縦軸の最小値に「*」を示した。パルプ(未処理パルプ)を含む樹脂組成物である比較例の結果は、測定できた場合(比較例6)には白三角「△」で示し、評価用サンプルを作製できなかった比較例5についても、添加率を確認できるように縦軸の最小値に「*」を示した。
【0057】
図1に示されるように、実施例(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物)の場合には、木粉を含有する場合(比較例)よりも曲げ強度が高くなる添加率の領域が認められた(~45質量%)。したがって、曲げ強度の観点では、充填剤であるグリコール変性パルプは改質材としての位置づけであることが確認された。
【0058】
図1に示されるように、比較例(木粉)の場合には、基本的な傾向として、添加量を増やせば増やすほど曲げ強度が低下した。比較例(パルプ)の曲げ強度は比較例(木粉)と同様の傾向を示した。したがって、曲げ強度の観点では、充填剤である木粉は強度低下因子であり、樹脂含有部材において単なる増量材としての位置づけであることが確認された。また、図2に示されるように、木粉を含有させることにより曲げ弾性率が単調増加することから、木粉の添加量を増やすと、樹脂の一部が硬い部材(木粉)に置き換わることによって、樹脂の体積が減少し、これによって弾性変形による曲げ力の吸収能力が低下して、曲げ強度が木片よりも低い樹脂部での破壊(凝集破壊)が生じやすくなっていると考えられる。また、図11に示されるように、実施例(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物)は、比較例(パルプ、木粉)よりも比誘電率が低くなる傾向が見られた。具体的には、実施例に係る樹脂含有部材では、比誘電率を4.0以下とすることが安定的に実現された。
【0059】
図3(a)は、実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図であり、図3(b)は、実施例2(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。図4(a)は、実施例3(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:40%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図であり、図4(b)は、実施例4(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:30%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。図5(a)は、比較例1(木粉の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図であり、図5(b)は、比較例2(木粉の添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。図6(a)は、比較例3(木粉の添加率:40%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図であり、図6(b)は、比較例4(木粉の添加率:30%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。図7は、比較例6(パルプの添加率:50%)に係る樹脂含有部材の破断面の観察図である。前述のように、比較例1に係る樹脂組成物からは詳細な評価を行うための整った形状を有するサンプルを成形できなかったが、得られた成形品から破断面の観察を行うことは可能であった。
【0060】
図3から図6に示されるように、実施例に係る樹脂含有部材の破断面と、比較例(木粉)に係る樹脂含有部材の破断面とは、明らかに様相が異なっていた。比較例に係る樹脂含有部材(図5および図6)では、一方向に延びるように塑性変形した破片が多く観察され、樹脂含有部材の破断の際に、樹脂の延性破壊が生じたと考えられる。充填剤がパルプの場合(図7)も、基本的な傾向は充填剤が木粉の場合と同様であった。
【0061】
これに対し、実施例に係る樹脂含有部材(図3および図4)では、比較例の場合のような大規模な塑性変形を伴う延性破壊は生じていなかった。充填剤であるグリコール変性パルプが存在していることにより、破壊の際に樹脂の塑性変形が生じにくくなったと考えられる。
【0062】
図8(a)は、実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図であり、図8(b)は、比較例1(木粉の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
【0063】
図9(a)は、実施例1(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)の樹脂組成物を製造するために用いたグリコール変性パルプの熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図であり、図9(b)は、比較例1(木粉の添加率:60%)の樹脂含有部材を製造するために用いた木粉の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
【0064】
図10(a)は、一般的なパルプの熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図であり、図10(b)は、実施例に用いたグリコール変性パルプ150gに水3Lを添加して15分撹拌してろ過を3回繰り返した後の固形分の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
【0065】
図12(a)は、実施例5(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)に係る樹脂含有部材の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。図12(b)は、実施例5(グリコール変性パルプを含むパルプ組成物の添加率:60%)の樹脂組成物を製造するために用いたパルプ組成物のグリコール変性パルプ(製造に用いたポリエチレングリコールの平均分子量:600)の熱分解ガスクロマトグラフィーの測定結果を示す図である。
【0066】
図8(a)および図12(a)に示されるように、実施例1および実施例5に係る樹脂含有部材の場合には、20分手前からポリエチレングリコールに由来する規則的なピークが数分おきに現れた。これらのピークは、図9(a)および図12(b)に示されるように、グリコール変性パルプを単独で測定した場合に得られるピークと等しい傾向を有していた。したがって、グリコール変性パルプを用いた樹脂組成物から形成された樹脂含有部材には、グリコール変性パルプが有していたポリエチレングリコールの変性部が残留していることが確認された。このような変性部の残留は、比較例に係る樹脂含有部材(図9(b))や、パルプ(図10(a))では認められなかった。なお、図10(b)に示されるように、グリコール変性パルプにおけるグリコール系化合物とパルプとの結合は、水洗を繰り返しても維持されていた。
【0067】
以上実施例を用いて説明したように、グルコール変性パルプを用いることで、比誘電率を下げながら、機械的特性(曲げ強度、曲げの最大点伸度および衝撃強度)を向上させることができる。
【0068】
ここで説明した実施形態は、本開示の理解を容易にするために記載されたものであって、本開示を限定するために記載されたものではない。従って、上記実施形態に開示された各要素は、本開示の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含むものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12