(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114465
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】膜ろ過装置及び中空糸膜の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230810BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20230810BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20230810BHJP
B01J 19/26 20060101ALI20230810BHJP
B01J 10/00 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D63/02
B01D65/02 520
B01J19/26
B01D65/02 530
B01J10/00 104
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011473
(22)【出願日】2022-01-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】598174978
【氏名又は名称】環水工房有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【弁護士】
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】坂井 正明
【テーマコード(参考)】
4D006
4G075
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006HA03
4D006HA19
4D006JA13Z
4D006JA18A
4D006JA31A
4D006JA53Z
4D006JA63Z
4D006KA43
4D006KC14
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC29
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB02
4D006PB06
4G075AA52
4G075AA57
4G075AA61
4G075BB01
4G075BD13
4G075BD24
4G075BD27
4G075DA02
4G075EA01
4G075EB21
(57)【要約】
【課題】逆洗浄によることなく中空糸膜の全体を洗浄して付着した懸濁物質を効率よく除去することができるとともに、洗浄に要する時間を低減することでろ過の効率を向上させることができる膜ろ過装置を提供すること。
【解決手段】原水7をろ過するための中空糸膜2が容器1内に配置され、容器1内の原水7を、中空糸膜2を透過した透過水8と、中空糸膜2を透過することなく懸濁物質71の濃度が上昇した濃縮水9とに分離するための膜ろ過装置100において、容器1には、原水供給部11と、処理部12と、透過水排出部13と、濃縮水排出部14と、複数の洗浄手段3・3…とが備えられ、中空糸膜2・2…の一端は、中空糸膜2の内側が透過水排出部13と連通するように固定された固定端であり、洗浄手段3・3…は、制御手段4が接続されることにより、中空糸膜2・2…の固定端近傍と中空糸膜2・2…の固定端近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過するための中空糸膜が容器内に配置され、前記容器内の原水を、前記中空糸膜を透過した透過水と、前記中空糸膜を透過することなく懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水とに分離するための膜ろ過装置において、
前記容器には、前記原水を容器内に流入させる原水供給部と、流入した原水に前記中空糸膜が浸漬してろ過する処理部と、前記処理部とは水密に区画されるとともに前記透過水を容器外に排出する透過水排出部と、前記処理部から前記濃縮水を容器外に排出する濃縮水排出部と、前記中空糸膜を洗浄する複数の洗浄手段とが備えられ、
前記中空糸膜の一端は、中空糸膜の内側が前記透過水排出部と連通するように固定された固定端であり、
前記洗浄手段は、制御手段が接続されることにより、中空糸膜の前記固定端近傍と中空糸膜の固定端近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能であることを特徴とする、膜ろ過装置。
【請求項2】
前記洗浄手段は、前記中空糸膜における前記固定端近傍と、固定端とは反対側の他端近傍と、固定端と前記他端との間の部分とを少なくとも洗浄可能とする、請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
前記洗浄手段は空気を噴出する複数の洗浄ノズルであり、
前記固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルが最も長い噴出時間または最も速い噴出速度で空気を噴出することを特徴とする、請求項1または2に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記制御手段は、一の空気供給源から供給される空気を複数の洗浄ノズルに異なる噴出時間または噴出速度で順次切り替えて送出することができることを特徴とする、請求項3に記載の膜ろ過装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の膜ろ過装置における中空糸膜の洗浄方法において、
前記洗浄手段は空気を噴出する複数の洗浄ノズルであり、
一の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍に所定の噴出時間及び所定の噴出速度で空気を噴出し、
他の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍以外の部分に前記固定端近傍よりも短い噴出時間または遅い噴出速度で空気を噴出することを特徴とする、中空糸膜の洗浄方法。
【請求項6】
前記中空糸膜における固定端近傍への空気の噴出と、中空糸膜における固定端近傍以外の部分への空気の噴出とを順次行うことを特徴とする、請求項5に記載の中空糸膜の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚濁した原水を中空糸膜によってろ過することで濁りを除去した透過水を得ることができる膜ろ過装置において、中空糸膜に付着した濁質を効率よく洗浄できる膜ろ過装置及び中空糸膜の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
河川水や池水等の汚濁した水を濁りのない水にするために、細長い円筒状の膜である中空糸膜を備えた膜ろ過装置が用いられる。ろ過膜のなかでも中空糸膜は円筒状であることにより単位容積中の膜面積が広く、省スペースでありながらもろ過の効率が良い。そのため、水の濁りを除去する目的で家庭用浄水器や産業用、浄水場等幅広く利用されている。
中空糸膜の使用例のひとつとしては、原水に圧力をかけることで中空糸膜の外側から内側に向かって原水を透過させる方法がある。原水が中空糸膜を透過すると、原水に含まれていた懸濁物質が中空糸膜の外側に付着するとともに中空糸膜の内側にはろ過された透過水が流出し、濁りのない水を得ることができる。
【0003】
このような方式は一般的に外圧式と呼ばれ、ポンプによって原水を容器内に連続的に供給する。供給される原水は中空糸膜が配置された容器内に貯留されるとともにポンプによって容器内部では原水の圧力が上昇する。これにより、中空糸膜外側と中空糸膜内側とで圧力差が生じ、その差圧によって中空糸膜の内側に透過水が連続的に透過する。すなわち、ポンプを稼動し続けることで原水をろ過し続けることができる。
【0004】
一方、中空糸膜のろ過によって容器内の原水は水分の割合が減少する。その結果、容器内では懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水が発生する。この濃縮水は、容器内の圧力が過度に上昇すること防止するとともに原水が滞留することなく新しい原水が順次供給されるようにするため、容器から所定の流量で排出される。
【0005】
ところが、連続的にろ過し続けると、中空糸膜の外側に懸濁物質が連続的に付着して中空糸膜に堆積する。付着した懸濁物質は中空糸膜の透過流量を低下させ、ろ過の効率を悪化させるという問題がある。また、懸濁物質が付着すると、中空糸膜における懸濁物質の付着量が少ない部位で原水が透過しようとする。そのため、中空糸膜の一部に圧力が集中して中空糸膜に除去不納な目詰まりを起こしたり、多孔質構造を破壊したりする等、中空糸膜の寿命を短くしてしまうという問題もある。
【0006】
中空糸膜における透過水の排出部付近は特に懸濁物質が付着する。中空糸膜の内側を流れる透過水はポンプや水位差を利用して容器外に排出されるため、透過水は排出部付近が最も流速が速く排出部から離れた部位ほど流速が遅くなって滞留しやすい。そのため、透過しようとする原水の流量も中空糸膜の排出部付近が最も多くなり、それに比例して懸濁物質が付着しやすくなる。
【0007】
この点、従来においては、中空糸膜の上端部の懸濁物質を効率よく除去する技術が開示されている。ここで、中空糸膜を上下方向に配置した膜ろ過装置においては、透過水排出部との連結部である中空糸膜の上端部は懸濁物質が特に付着しやすい部分である。
【0008】
例えば特許文献1では、洗浄部を備えた中空糸膜モジュールの技術が開示されている。前記洗浄部は、中空糸膜の上部に洗浄水を噴出させることで懸濁物質を洗浄する。この中空糸膜モジュールであれば上端部近傍の懸濁物質に対し集中的に洗浄液を噴きつけ、懸濁物質を効率よく洗浄し除去することができるとされている。
【0009】
特許文献1の技術を概説すると、
図9に示すように、中空糸膜モジュール800は、原水入口81、処理水出口82及び濃縮水出口83を有する容器80と、前記容器80内に上下方向に配置された複数の中空糸膜84・84…と、容器80内の上部に配置され前記中空糸膜84・84…の上端部を固定した上端固定部85と、前記上端固定部85の上側に形成され各中空糸膜84・84…の内部が連通した透過水室86と、前記中空糸膜84・84…の上部を洗浄するための洗浄部87・87…とを基本構成としている。
そして、前記洗浄部87・87…は、前記上端固定部85を上下方向に貫通する1又は複数のノズルからなるとともにノズルには図示しない洗浄水噴出孔を有する。また、前記濃縮水出口83は前記容器80の側壁の上部に設けられるとともに、前記噴出孔は濃縮水出口83の上縁と下縁との間の高さに位置するように構成されている。
【0010】
上端固定部85を貫通する複数のノズルの噴出孔から洗浄水を噴出するように構成することで、上端固定部85近傍の懸濁物質に対し集中的に洗浄液を噴きつけ、懸濁物質を効率よく洗浄し除去することができる効果があるとされている。特に、噴出孔と濃縮水出口83を略同一高さにすることで、噴出孔からの洗浄水の噴出により除去された懸濁物質を、近接した濃縮水出口83から効率よく排出できるとされている。
【0011】
一方、特許文献2では浴槽内の浴用水をろ過するため、膜洗浄噴出孔を長手方向に複数個配置した洗浄ノズルを備えた浴槽湯浄化装置に関する技術を開示している。
【0012】
特許文献2の技術を概説すると、
図10に示すように、浴槽湯浄化装置900は、吸い込み口91からポンプ92によって吸い込んだ浴用水をヒータ93で暖めて制菌装置94を介して浴槽へ戻す管路と、浴用水を膜ろ過装置95へ流入させる管路をと有し、これらは電磁弁961で切り替え可能となっている。電磁弁961の切り替えによって膜ろ過装置95へ送られた浴用水は、複数個の膜洗浄噴出孔971・971…を備えた洗浄ノズル97からろ過膜である中空糸膜951・951…へ噴出される。噴射された浴用水は、ヒータ93や制菌装置94を介して浴槽へ戻す管路と、三方弁962を介してポンプ92へ戻すか排出するかを選択できる管路とにさらに分かれ、それらは三方弁962及び別の電磁弁963によって切り替え可能となっている。
【0013】
ここで、中空糸膜951・951…の洗浄においては、電磁弁961の切り替えによって浴用水をすべて膜ろ過装置95へ流入させ、洗浄ノズル97から噴出する際の水流で中空糸膜951・951…に付着した懸濁物質を洗浄し、洗浄に用いた浴用水は三方弁962を介してさらにポンプ92へ戻して再度洗浄ノズル97から噴出して循環させ、連続的に洗浄する。洗浄が終了すると、洗浄に用いた浴用水は三方弁962を切り替えて外部へ排出される。
複数の膜洗浄噴出孔971・971…から噴射される噴射流により、中空糸膜951・951…の外面を上下各部にわたって洗浄することができるとされている。
【0014】
ところで、この洗浄ノズル97は一本だけでなく複数本設けることができ、膜洗浄噴出孔971・971…の設置高さが各洗浄ノズル97・97’…により異なるようにすることもできる。これにより、複数本の洗浄ノズル97・97’…に設けた膜洗浄噴出孔971・971…から噴出される噴出流が干渉しあうことがなく、水流の勢いが弱くなることがない。また、それぞれの洗浄ノズル97・97’…に設けた膜洗浄噴出孔971・971…の中空糸膜951・951…の対向部分が動かされようとすることで、その境界部分に剪断力が作用して中空糸膜951・951…がばらけやすくなり、これにより効果的に膜ろ過装置95の中空糸膜951・951…を洗浄できるとされている。
さらに、洗浄ノズル97は、上端側である中空糸膜951・951…の根本部分側の方が膜洗浄噴出孔971・971…の個数が多くなるようにすることもできる。これにより、詰まり易い中空糸膜951・951…の根本部分を集中的に洗浄することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2015-226884号公報
【特許文献2】特開平11-179353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1の技術に用いられている中空糸膜モジュールでは、上端固定部近傍の懸濁物質に対し集中的に洗浄液を噴きつけて除去することができ、除去された懸濁物質は噴出孔と略同一高さの濃縮水出口から効率よく排出できるとされている。
しかし、中空糸膜の中間部や下端部近傍は洗浄液が衝突しないため、これらの部分に付着した懸濁物質の除去には、従来の気泡を用いたバブリング洗浄や透過水を逆流させる逆洗浄を併用しなければならない。この場合、設備が複雑になるだけでなく洗浄時間も増大してろ過の恋率が悪化する。また、洗浄液によって中空糸膜から剥離した懸濁物質は、その一部が排出されずに容器内に落下して堆積することがある。落下して堆積した懸濁物質は中空糸膜の下端を覆ってろ過効率を低下させるため、巻き上げて濃縮水出口から排出しなければならない。この場合、やはりバブリング洗浄や逆洗浄が必要になる。
【0017】
バブリング洗浄は、中空糸膜の下側から気泡を上昇させて中空糸膜を揺動させることで付着した懸濁物質を中空糸膜から剥離して除去する方法である。しかし、中空糸膜の下端部には気泡が衝突しやすいものの、中空糸膜の中間部から上側にかけては気泡が衝突しにくい。そのため気泡を衝突させて揺動することによる懸濁物質の除去の効果は限定的である。
【0018】
一方、逆洗浄は、ろ過を一時的に停止したうえで、透過水を逆方向に送出して中空糸膜の内側から外側に対して透過させることで付着した懸濁物質を中空糸膜から剥離して除去する方法である。しかし、逆洗浄は中空糸膜内部に高い圧力が生じて中空糸膜に除去不納な目詰まりを起こしたり多孔質構造を破壊したりする等の劣化が発生しやすくなる。そのうえ、中空糸膜の上端部の懸濁物質が洗浄液で除去されていると、逆洗水はその多くが中空糸膜の上端部で外側に透過してしまい、中空糸膜の下端部では水圧が低下して懸濁物質の除去効率が低下してしまう。
【0019】
そのため、仮に洗浄ノズルにバブリング洗浄と逆洗浄とを組み合わせて洗浄したとしても、複雑な設備であるにも関わらず中空糸膜の中間部や下端部付近では懸濁物質を除去しきれないという問題があった。
【0020】
一方、特許文献2の技術の場合には、膜洗浄噴出孔を長手方向に複数個配置した洗浄ノズルから噴出する噴射流により、ろ過膜の外面を上下各部にわたって洗浄することができるとされている。
しかし、容器下方から突出する洗浄ノズルでは、長手方向に並列して設けられた膜洗浄噴出孔ごとに噴射流の流速が異なると考えられる。すなわち、下端側の膜洗浄噴出孔からの噴射流はポンプに近い部分であるため圧力損失が低く流速の早い噴射流が発生する。ところが、下端側の膜洗浄噴出孔から上端側の膜洗浄噴出孔にわたって噴射流が噴射すると、下端側から上端側にかけて洗浄ノズル内の圧力は順次減少していく。そのため、上端側の膜洗浄噴出孔になるほど圧力損失が大きくなり流速の遅い噴射流となってしまう。
【0021】
この問題は、洗浄ノズルにおける上端側の方が膜洗浄噴出孔の個数が多くなる構成とした場合には、圧力が複数の膜洗浄噴出孔に分散されるためさらに顕著になる。
また、複数本の洗浄ノズルを設け、膜洗浄噴出孔の設置高さが各洗浄ノズルにより異なる構成とした場合であっても、ポンプから流入する浴用水はひとつの配管から分配することになるため、洗浄ノズルを増やすほど圧力損失が大きくなり、全体的な流速が低下してしまう。
【0022】
そのため、懸濁物質が付着しやすい上端部近傍では、噴射流の流速が遅いために懸濁物質を十分に除去するためには長時間噴射し続けなければならない。その結果、洗浄ノズル全体として噴射している時間が長くなる。すなわち、ろ過する時間が減少してろ過の効率が低下してしまうという問題があった。
【0023】
本発明は、上記のような問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、逆洗浄によることなく中空糸膜の全体を洗浄して付着した懸濁物質を効率よく除去することができるとともに、洗浄に要する時間を低減することでろ過の効率を向上させることができる膜ろ過装置及び中空糸膜の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を以下に説明する。
本発明の膜ろ過装置は、原水をろ過するための中空糸膜が容器内に配置され、前記容器内の原水を、前記中空糸膜を透過した透過水と、前記中空糸膜を透過することなく懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水とに分離することができる装置である。なお、中空糸膜の容器内への配置方向は上下方向だけでなく左右方向等その他の方向でも配置可能であり、配置の方向は特に限定されない。また、中空糸膜は複数本束ねて用いる場合の他、複数本並列して用いる場合や1本のみ用いる場合であっても採用可能であり、本数は限定されない。
【0025】
前記容器には、前記原水を容器内に流入させる原水供給部と、流入した原水に前記中空糸膜が浸漬してろ過する処理部と、前記処理部とは水密に区画されるとともに前記透過水を容器外に排出する透過水排出部と、前記処理部から前記濃縮水を容器外に排出する濃縮水排出部と、前記中空糸膜を洗浄する複数の洗浄手段とを備えている。
【0026】
処理部は容器内の空間の大部分を構成し、中空糸膜はこの処理部内に配置される。処理部内に原水供給部を介して原水が流入することで、中空糸膜は流入した原水に浸漬される。また、容器の一部において処理部と水密に区画した部分を透過水排出部としている。処理部内の中空糸膜はその外側が流入した原水と接し、内側が透過水排出部と連通するように一端が固定されている。なお、透過水排出部は所定の空間として設けられる場合に限定されず、一例として中空糸膜が容器外部に直接連通する境界部である場合も透過水排出部に含まれる。
【0027】
濃縮水排出部は処理部と外部とを連通することで、処理部内に発生した濃縮水を外部に排出することができる。原水は原水供給部から順次処理部内に流入するが、その流入量に対して中空糸膜を透過して排出される透過水の量は少ない。したがって、処理部が密閉されていると順次流入する原水によって処理部内の圧力が過度に高くなる。また、中空糸膜を透過することなく懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水が排出されずに処理部内に滞留すると、新たな原水が処理部内に流入できず、ろ過が進まない。
そこで、発生した濃縮水を濃縮水排出部から所定の流量で排出することにより、処理部内の圧力を一定に保持するとともに、原水を処理部内に流入しやすくして新しい原水が中空糸膜に接触するようにしている。また、濃縮水排出部は洗浄手段によって除去された懸濁物質を容器の外部に排出する役割も担っている。
【0028】
洗浄手段は中空糸膜に付着した懸濁物質を除去して中空糸膜を洗浄する手段であり、容器内に複数備えられている。洗浄手段は、流体を中空糸膜に衝突させることで懸濁物質を直接的または中空糸膜の揺動等により間接的に除去することができる。衝突させる流体は噴出可能な流体であれば特に限定されず、一例として原水や透過水、雨水、薬剤を含む洗浄液等の液体の他、空気やガス等の気体が挙げられる。なお、洗浄手段は、中空糸膜の側方に近接して配置する場合に限られず、中空糸膜の端部の近傍に配置するものや中空糸膜から離間して配置するもの等、配置の場所は限定されない。
【0029】
一方、前記洗浄手段は、制御手段が接続されることにより、中空糸膜の前記固定端近傍と中空糸膜の固定端近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能に構成されている。ここで、洗浄条件とは噴出する流体に物理的な影響を与える条件をいい、一例を挙げるならば、流体の種類や噴出時間、噴出速度、流経等がある。
【0030】
制御手段によって複数の洗浄手段を個別に制御して中空糸膜の固定端近傍とそれ以外の部分とを異なる洗浄条件とすると、懸濁物質の付着しやすい中空糸膜の固定端近傍には集中的に洗浄を行い、それ以外の部分には懸濁物質の量に応じた適切な洗浄を行うことができる。また、制御手段によって制御可能とすることで、懸濁物質の付着量に応じて洗浄条件を適宜変更することができ、原水の汚濁の種類や程度、環境の変化等に応じて最適な洗浄を選択して行うこともできる。
これにより、中空糸膜全体の洗浄にかかる時間や洗浄に用いる流体の量または流体を噴出するためのエネルギーを節約することができる。
【0031】
本発明による課題を解決するための手段においては下記の手段を用いることも可能である。
前記洗浄手段は、前記中空糸膜における前記固定端近傍と、固定端とは反対側の他端近傍と、固定端と前記他端との間の部分とを少なくとも洗浄可能とするように構成することもできる。
【0032】
固定端近傍を洗浄可能とすることで、懸濁物質の付着しやすい固定端近傍を集中的に洗浄することができる。また、固定端と前記他端との間の部分を洗浄可能とすることで、中空糸膜を揺動させるとともに流体を懸濁物質に衝突させることで懸濁物質をより除去しやすくなる。一方、固定端とは反対側の他端近傍を洗浄可能とすることで、付着した懸濁物質の除去に加え、固定端近傍から落下して堆積した懸濁物質を除去することもできる。
【0033】
そして、制御手段によってこれら3箇所それぞれについて異なる洗浄条件で洗浄するように構成すれば、中空糸膜の位置毎における懸濁物質の付着の仕方や量の違いに応じて適切な洗浄を行うことができる。
これにより、中空糸膜全体の洗浄にかかる時間や洗浄に用いる流体の量または流体を噴出するためのエネルギーをより節約することができる。
【0034】
また、別の手段としては、洗浄手段としては空気を噴出する複数の洗浄ノズルとすることができ、前記固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルが最も長い噴出時間または最も速い噴出速度で空気を噴出するように構成することも可能である。
【0035】
洗浄手段として空気を噴出するように構成すれば、環境中から空気を容易に確保できるだけでなく、一般に流通している供給源や制御手段を用いることができ、膜ろ過装置の製造コストが低減でき、故障率も低減できる。
そして、固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルが最も長時間または最も速い速度で気泡を噴出するように構成することで、懸濁物質の付着しやすい中空糸膜の固定端近傍には集中的に洗浄を行い、それ以外の部分には懸濁物質の量に応じた適切な洗浄を行うことができる。
【0036】
固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルを最も長時間噴出する構成とした場合には、懸濁物質の付着量が多い固定端部分には長時間噴出し、懸濁物質の付着量が比較的少ない固定端部分以外の部分には短時間の噴出とすることができる。
これにより、中空糸膜全体の洗浄に要する全体の時間を節約することができる。
【0037】
固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルを最も速い速度で噴出する構成とした場合には、一つの流体の供給源から固定端部とそれ以外の部分に同時に噴出する際、懸濁物質の付着量の少ない部分の噴出速度を低くすることで、流体の供給源に求められる供給能力を低減させることができる。
これにより、中空糸膜の洗浄に用いる流体の量または流体を噴出するためのエネルギーを節約することができ、膜ろ過装置の製造コストや運用コストを低減させることができる。
【0038】
上記のように洗浄ノズルから空気を噴出する構成とする場合には、前記制御手段は、一の空気供給源から供給される空気を複数の洗浄ノズルに異なる噴出時間または噴出速度で順次切り替えて送出することができるように構成することができる。すなわち、一の空気供給源から複数の洗浄ノズルに接続される各流路を前記制御手段によって切り替えるとともに、送出する空気の流速または圧力を洗浄ノズルに接続される流路ごとに制御することができる。
【0039】
制御部によって空気を複数の洗浄ノズルに異なる噴出時間または噴出速度で順次切り替えて送出することにより、複数の空気供給源を備えることなく、中空糸膜の部位ごとにことなる噴出時間または噴出速度で空気を噴出することができる。
これにより、膜ろ過装置の製造コストや運用コストをより低減させることができる。
【0040】
以上のような本発明の膜ろ過装置を用いた中空糸膜の洗浄方法としては、以下の手段を用いることができる。
前記洗浄手段は空気を噴出する複数の洗浄ノズルとし、一の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍に所定の噴出時間及び所定の噴出速度で空気を噴出し、他の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍以外の部分には前記固定端近傍よりも短い噴出時間または遅い噴出速度で空気を噴出する手段とすることが可能である。なお、固定端近傍への空気の噴出と、固定端近傍以外の部分への空気の噴出は同時に行うか順次行うかは限定されない。また、噴出時間と噴出速度は何れか一方が異なるのか、何れも異なるのかは限定されない。
このような方法とすることで、懸濁物質の付着しやすい固定端近傍を集中的に洗浄することができる。
【0041】
また、特に前記中空糸膜における固定端近傍への空気の噴出と、中空糸膜における固定端近傍以外の部分への空気の噴出とを順次行うようにすれば、全体の洗浄時間を短くすることができるだけでなく、空気の供給源に対する負荷を軽減することができ、供給源に求められる供給能力を低減させることができる。
【0042】
また、固定端近傍から懸濁物質が剥離して容器内に落下した場合においては、固定端近傍の空気の噴出を止めて他端側にのみ空気を噴出すれば、落下した懸濁物質を中空糸膜の他端から除去するとともに、固定端側の空気の噴流に妨げられることなく懸濁物質を濃縮水排出部から排出させやすくすることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明では、中空糸膜によって原水を透過水と濃縮水とに分離してろ過する装置において、複数の洗浄手段を設けた構成としている。前記複数の洗浄手段により、中空糸膜全体を洗浄することができる。
特に、本発明は、洗浄手段と接続される制御手段によって中空糸膜の固定端近傍と中空糸膜の固定端近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能としている。洗浄手段ごとに異なる洗浄条件とすることにより、懸濁物質の付着量の異なる中空糸膜の部位ごとに複数の洗浄手段を配し、懸濁物質の付着量に応じた必要十分な条件で洗浄することができる。
これらにより、逆洗浄によることなく中空糸膜全体に付着した懸濁物質を効率よく除去して洗浄することができるとともに、洗浄に要する時間を低減することでろ過の効率を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図2】本発明の膜ろ過装置における洗浄手段を表す拡大図である。
【
図3】本発明の膜ろ過装置における制御手段による空気の制御の様子を表す説明図である。
【
図4】本発明の膜ろ過装置における中空糸膜への懸濁物質の付着の様子を表した説明図である。
【
図5】本発明の膜ろ過装置における中空糸膜の洗浄方法を表す説明図である。
【
図6】本発明の変形例1である膜ろ過装置を表す模式図である。
【
図7】本発明の変形例2である膜ろ過装置を表す模式図である。
【
図8】本発明の変形例3である中空糸膜の洗浄方法を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明を実施するための形態について、
図1から
図5に基づいて以下に説明する。
なお、以下の説明において中空糸膜2は説明を簡略化するために実際よりも本数を減らして模式的に記載している。
【0046】
本発明の膜ろ過装置100は、
図1に示すように略円筒形の樹脂製の容器1内に細長い円筒状の膜である中空糸膜2・2…を上下方向に複数本配置して構成されている。容器1には、下方に原水供給部である原水供給口11が設けられ、原水7が原水供給ポンプ6によって容器1内に流入可能となっている。原水供給口11から流入した原水7は処理部である処理槽12内に貯留され、配置された中空糸膜2・2…は流入した原水7によって浸漬する。
【0047】
処理槽12の上端には上端固定壁15が設けられており、容器1の内部は処理槽12と透過水排出部である透過水排出口13とに水密に区画されている。中空糸膜2・2…は上端部21が前記上端固定壁15に固定され、下端部23が処理槽12の下方側となるように配置されている。また、上端部21においては、中空糸膜2・2…の内側は透過水排出口13と連通し、外側は処理槽12に臨むように固定されている。
【0048】
中空糸膜2・2…の下端部23は、隣り合う中空糸膜2・2…とともに下端固定壁16で連結して固定されている。しかし、下端固定壁16は、処理槽12を水密に区画しておらず、原水供給口11から流入した原水7は、下端固定壁16の開口部を抜けて処理槽12内に流入できるようになっている。
【0049】
ここで、中空糸膜2・2…について説明すると、中空糸膜2は円筒状のろ過膜であり、PVDF(ポリフッ化ビリニデン)や、ポリエチレン、ポリプロピレン等を用いることができる。また、中空糸膜2の直径や長さ、全膜面積、本数は装置の規模に応じて適宜選択することができる。
【0050】
中空糸膜2・2…は下端部23が閉塞して上端部21が透過水排出口13と連通するように開口している。本発明の膜ろ過装置100はいわゆる外圧式の装置であり、中空糸膜2・2…の円筒状の外側に接している流入した原水7に圧力をかけることで中空糸膜2・2…の外側から内側にかけて原水7を透過させる。その結果、中空糸膜2・2…の内側に濁りが除去された透過水8が透過する。
【0051】
中空糸膜2中に透過した透過水8は、中空糸膜2・2…の下端部23が閉塞していることで上端部21に向かって上昇する。これにより、上端部21の開口部から透過水排出口13を介して透過水8を取り出すことができる。そして、透過水排出口13の直下の空間に一定量貯留され、満水になると、いわゆるサイホンの原理により水位差を利用して容器1の外に排出される。
【0052】
ところで、処理槽12の上方には外部と連通する濃縮水排出部である濃縮水排出口14が設けられている。
原水7には濁りの原因となる懸濁物質71が含まれている。中空糸膜2・2…を用いたろ過では、中空糸膜2・2…の外側から内側に原水7が透過する際、中空糸膜2・2…の外側表面に原水7中の懸濁物質71が付着し、濁りのない透過水8が中空糸膜2・2…の内側に透過する。このとき、中空糸膜2・2…の外側の原水7は水分の割合が減少し、それにともない懸濁物質71の割合が増加する。これにより、透過しなかった原水7は懸濁物質71の濃度が上昇した濃縮水9となる。
濃縮水排出口14はろ過により生じた濃縮水9を外部に排出するとともに、順次流入する原水7によって処理槽12内の圧力が過度に高くならないように圧力を調整している。
【0053】
一方、処理槽12には中空糸膜2・2…と並列して洗浄手段である洗浄ノズル3・3’・3’’が設けられている。この洗浄ノズル3・3’・3’’は空気を噴出するための3本の樹脂製のチューブであり、先端部は中空糸膜2の上端部21近傍、下端部23近傍及び上端部21と下端部23の間である中間部22とに近接している。
また、各洗浄ノズル3・3’・3’’の他端部は容器1の底面を介して外部に連通しており、制御手段である制御装置4を介して空気供給ポンプ5に接続されている。なお、空気供給ポンプ5と制御装置4との間には、気圧を一定に保つためのタンクを介してもよい。
【0054】
各洗浄ノズル3・3’・3’’から噴出した空気は、
図2に示すように気泡32・32…となり、中空糸膜2・2…に付着した懸濁物質71・71…を除去して中空糸膜2・2…を洗浄する。
図2(a)の形態では、洗浄ノズル3の先端部は屈曲あるいは湾曲して噴出口31が中空糸膜2に臨むようになっている。このようにひとつの噴出口31を中空糸膜2に向けることで、局部的に集中して気泡32・32…を衝突させることができる。
また、
図2(b)の形態では、洗浄ノズル3の先端部を閉口し、側面に複数の噴出口31・31…を設けた構成としている。このように複数の噴出口31・31…を中空糸膜2に向けることで、広い面積に効果的に気泡32・32…を衝突させることができる。
【0055】
制御装置4について説明すると、制御装置4は、
図3に示すように洗浄ノズル3・3’・3’’の本数に応じた電磁弁41・41’・41’’及びレギュレータ42・42’・42’’と、それらをプログラムに従って駆動させるコントローラ43とからなる。
各洗浄ノズル3・3’・3’’は各レギュレータ42・42’・42’’の出力側に接続され、さらに直列に電磁弁41・41’・41’’の出力側に接続されている。また、各電磁弁41・41’・41’’の入力側はまとめて空気供給ポンプ5に接続されている。
【0056】
空気供給ポンプ5から供給される空気の流れはコントローラ43により制御される。例えば
図3(a)に示すように、コントローラ43が電磁弁41を開にして他の電磁弁41’・41’’を閉とすると、洗浄ノズル3から空気が噴出し、他の洗浄ノズル3’・3’’からは空気は噴出しない。また、コントローラ43がレギュレータ42の絞り量を減らすと、洗浄ノズル3から噴出する空気の量は増加する。
また、
図3(b)に示すように、コントローラ43が電磁弁41’を開にして他の電磁弁41・41’’を閉とすると、洗浄ノズル3’から空気が噴出し、他の洗浄ノズル3・3’’からは空気は噴出しない。また、コントローラ43がレギュレータ42’の絞り量を減らすと、洗浄ノズル3’から噴出する空気の量は増加する。
さらに、
図3(c)に示すように、コントローラ43が電磁弁41’’を開にして他の電磁弁41・41’を閉とすると、洗浄ノズル3’’から空気が噴出し、他の洗浄ノズル3’・3’からは空気は噴出しない。また、コントローラ43がレギュレータ42’’の絞り量を減らすと、洗浄ノズル3’’から噴出する空気の量は増加する。
このように、コントローラ43は各電磁弁41・41’・41’’及び各レギュレータ42・42’・42’’をそれぞれ独立して、あるいは同時に制御することができる。
【0057】
ここで、中空糸膜2に付着した懸濁物質71について、
図4に基づいて説明する。前述のように、中空糸膜2を透過した透過水8は中空糸膜2の上端部21に向かって上昇する。上昇した透過水8は水位差を利用して容器1の外部に排出されるため、排出の力によって透過水8には所定の流速が発生する。一般的に、強制排出によって細い管内を流れる流体は、排出の端部が最も流速が速く、そこから離間するにしたがって流体の粘性と管壁の摩擦等により流速は低下する。すなわち、中空糸膜2の上端部21が最も流速が速く、下端部23が最も流速が遅い。
【0058】
この場合、
図4(a)に示すように、中空糸膜2の上端部21近傍では内部の透過水8は直ちに上昇するため原水7は順次透過することができる。しかし、下端部23近傍では内部の透過水8はあまり上昇せず滞留しやすいため原水7はなかなか透過してくることができない。そのため、原水7が中空糸膜2を透過する量は、上端部21が最も多く、下端部23は最も少なくなる。
その結果、
図4(b)に示すように、中空糸膜2の上端部21近傍には懸濁物質71が多く付着し、下端部23にいくにしたがって付着する懸濁物質71の量は少なくなる。
【0059】
上記構成の膜ろ過装置100における中空糸膜2・2…の洗浄方法について、
図5に基づいて説明する。なお、
図5では説明のためにひとつの洗浄ノズル3でひとつの中空糸膜2を洗浄する様子を表しているが、実際には、ひとつの洗浄ノズル3で複数の中空糸膜2・2…を洗浄することができる。
【0060】
中空糸膜2の洗浄においては、その部位によって洗浄の態様が異なる。まず、
図5(a)では、洗浄ノズル3によって中空糸膜2の上端部21近傍を洗浄する様子を示している。
上端部21近傍は、前述のように懸濁物質71が多く付着している部位である。そこに洗浄ノズル3によって気泡32・32…を集中的に衝突させると、気泡32・32…の衝突によるエネルギーや気泡32・32…の破裂によるエネルギー等によって、付着した懸濁物質71が中空糸膜2から剥離したり粉砕されたりする。
【0061】
このように中空糸膜2の表面から除去されて原水7中に浮遊した懸濁物質71’・71’…は、順次流入してくる原水7の流れに乗って、濃縮水9とともに上端部21に隣接する濃縮水排出口14から排出される。
しかし、一部の懸濁物質71’・71’…は濃縮水排出口14から排出されずに処理槽12内を落下して、下端部23周辺に堆積する場合もある。
【0062】
次に、
図5(b)では、洗浄ノズル3’によって中空糸膜2の中間部22を洗浄する様子を示している。
懸濁物質71が付着した中間部22に洗浄ノズル3’によって気泡32・32…を集中的に衝突させると、上端部21同様、気泡32・32…の衝突によるエネルギーや気泡32・32…の破裂によるエネルギー等によって、付着した懸濁物質71が中空糸膜2から剥離したり粉砕されたりする。
【0063】
また、それと同時に、中空糸膜2は、上端部21が固定されるとともに複数の中空糸膜2・2…同士が下端部23で固定されているため、中間部22に気泡32・32…が衝突すると、そのエネルギーで中間部22に撓みが生じる。気泡32・32…は連続的かつ離散的に中間部22に衝突するため、中間部22は撓みと復元を繰り返し、所定の周波数で振動する。この振動のエネルギーによっても付着した懸濁物質71を中空糸膜2から剥離させて除去することができる。
【0064】
中間部22においても、中空糸膜2の表面から除去されて原水7中に浮遊した懸濁物質71’・71’…は、順次流入してくる原水7の流れに乗って、濃縮水9とともに上端部21に隣接する濃縮水排出口14から排出される。
しかし、中間部22は濃縮水排出口14とはやや離間しているため、一部の懸濁物質71’・71’…は濃縮水排出口14から排出されずに処理槽12内を落下して、下端部23周辺に堆積する場合もある。
【0065】
次に、
図5(c)では、洗浄ノズル3’’によって中空糸膜2の下端部23を洗浄する様子を示している。
下端部23はろ過による懸濁物質71の付着は比較的少ないものの、上端部21や中間部22の洗浄によって落下した懸濁物質71’が堆積しやすくなっている。懸濁物質71が付着あるいは堆積した下端部23近傍に洗浄ノズル3’’によって気泡32・32…を集中的に衝突させると、上端部21や中間部22同様、気泡32・32…の衝突によるエネルギーや気泡32・32…の破裂によるエネルギー等によって、付着した懸濁物質71が中空糸膜2から剥離したり粉砕されたりする。
【0066】
また、それと同時に堆積した懸濁物質71’を下端部23近傍から巻き上げて除去する。
中空糸膜2の表面あるいは堆積していた部分から除去されて原水7中に浮遊した懸濁物質71’・71’…は、濃縮水9とともに上端部21に隣接する濃縮水排出口14から排出される。ここで、下端部23は濃縮水排出口14から遠い位置にあるが、浮遊した懸濁物質71’は、噴出した気泡32・32…がつくる水流及び順次流入してくる原水7の流れに乗って濃縮水排出口14から排出することができる。
【0067】
本発明の膜ろ過装置100では、上記上端部21近傍への噴出、中間部22への噴出、下端部23近傍への噴出を順次行うように、制御装置4によって制御される。
まず初めに
図5(a)のように洗浄ノズル3に空気を送って上端部21近傍へ気泡32・32…を噴出する。次に洗浄ノズル3の空気を遮断し、洗浄ノズル3’に空気を送って中間部22へ気泡32・32…を噴出する。最後に洗浄ノズル3’の空気を遮断し、洗浄ノズル3’’に空気を送って下端部23へ気泡32・32…を噴出する。
【0068】
これら一連のシーケンスに要する時間は合計で60秒程度であり、例えば上端部21近傍を30秒間、中間部22を20秒間、下端部23近傍を10秒間というように、固定端である上端部21近傍を最も長い噴出時間とするのが望ましい。
このようなシーケンスとすることで、懸濁物質71の付着しやすい上端部21近傍を集中的に洗浄することができるとともに、その他の部分の洗浄時間を短くすることで、洗浄に要する全体の時間を節約することができる。また、一つの空気供給ポンプ5から供給される空気の流路を順次切り替えることにより、空気の量または空気を噴出するためのエネルギーを節約することができる。
【0069】
以上のように、本発明の膜ろ過装置100は、洗浄ノズル3・3’・3’’と接続される制御手段4によって中空糸膜2・2…の上端部21近傍と上端部21近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能となっている。
これにより、中空糸膜2への負荷が大きいにも関わらず洗浄効果が十分ではない逆洗浄によることなく、中空糸膜2・2…全体に付着した懸濁物質71を効率よく除去して洗浄することができる。また、洗浄に要する時間を低減することでろ過の効率を向上させることができる。
【0070】
『変形例1』
次に、本発明の変形例に係る膜ろ過装置101について、
図6に基づいて説明する。なお、以降の説明においては同一の部分については同一の符号を用い、重複する説明は割愛する。
【0071】
本変形例では、容器1の基本構成は
図1の形態と同様である。しかし、制御装置4に接続される流体を供給する装置が空気供給ポンプ5ではなく、透過水8の一部あるいは原水7の一部となるように構成した点が異なる。
【0072】
洗浄に用いる流体について詳述すると、
図6に示すように、原水7は原水供給ポンプ6によって所定の流速で容器1内に流入されるとともに、流路を分岐して制御装置4内にも接続されている。なお、制御装置4には、原水7の流入と遮断とを切り替えるための電磁弁と、流入量を調節するためのレギュレータとが設けられている。
【0073】
また、中空糸膜2を介してろ過された透過水8は、容器1上部の透過水排出口13から外部に排出されるとともに、流路を分岐して制御装置4内にも接続されている。なお、制御装置4には、透過水8の流入と遮断とを切り替えるための電磁弁と、前記電磁弁の切り替え及び流入量を調節するためのレギュレータとが設けられている。
【0074】
この形態では、中空糸膜2に付着した懸濁物質71を、空気による気泡ではなく水を用いた水流によって除去する構成となっている。この場合の水にもちいる水は雨水を用いることも可能であるが、原水7あるいは透過水8を用いるようにすれば、雨水タンクやポンプ等の膜ろ過装置101以外の設備を導入する必要がない。
【0075】
また、原水7の汚濁の具合によっては洗浄ノズル3・3…が目詰まりを起こす可能性があるため、透過水8を一定割合で混合したり、全部を透過水8で洗浄したりできるように、制御装置4によって電磁弁の切り替えができるようにするのが望ましい。
【0076】
このように、本変形例では、中空糸膜2の洗浄のために空気供給ポンプ5を別途設ける必要がなく、膜ろ過装置の製造コストや運用コストを低減させることができる。
【0077】
『変形例2』
本発明の中空糸膜2を洗浄する洗浄手段の他の変形例を、
図7に基づいて説明する。
本変形例では、洗浄ノズル3は
図1の形態と同様、中空糸膜2の上端部21近傍に近接して設けられている。しかし、他の洗浄ノズル3’は、一つのノズルに二つの噴出口31が開口しており、それぞれ中空糸膜2の中間部22と下端部23近傍とに近接して設けられている。
【0078】
中空糸膜2における懸濁物質71の付着においては、その多くが上端部21に集中し、中間部22及び下端部23近傍には薄く付着するのみである場合がある。このような場合には、中間部22と下端部23とは同時に洗浄したとしても十分な洗浄効果を得ることができる。
【0079】
このようにすることで、処理槽12内に多くの洗浄ノズル3・3…を配置する必要がなく、処理槽12の有効容積を多くすることができる。また、制御装置4の規模を小さくすることができ、膜ろ過装置の製造コストや運用コストを低減させることができる。
【0080】
『変形例3』
本発明の中空糸膜2を洗浄する方法の他の変形例を、
図8に基づいて説明する。
本変形例では、
図1と同様の膜ろ過装置100を用いているが、制御部4の制御方法を変更している。
【0081】
本変形例では、まず、
図8(a)に示すように、制御装置4により電磁弁を切り替えて、懸濁物質71の付着量の多い上端部21近傍に向かって洗浄ノズル3から気泡32・32…を所定時間噴出する。このとき、中間部22を洗浄するための洗浄ノズル3’と下端部23近傍を洗浄するための洗浄ノズル3’’とからは、気泡32が噴出しないようにしている。
【0082】
次に、
図8(b)に示すように、制御装置4により電磁弁を切り替えて、中間部22を洗浄するための洗浄ノズル3’から気泡32・32…を所定時間噴出する。このとき、上端部21近傍を洗浄するための洗浄ノズル3からも気泡32・32…を噴出し続けるようにする。すなわち、2本の洗浄ノズル3・3’から気泡32・32…を噴出している状態とする。
【0083】
さらに、
図8(c)に示すように、制御装置4により電磁弁を切り替えて、下端部23を洗浄するための洗浄ノズル3’’から気泡32・32…を所定時間噴出する。このとき、すでに噴出中の洗浄ノズル3・3’からも気泡32・32…を噴出し続けるようにする。すなわち、3本の洗浄ノズル3・3’・3’’全部から気泡32・32…を噴出している状態とする。
【0084】
最後に、
図8(d)に示すように、制御装置4によりすべての電磁弁を遮断して、洗浄を終了する。
このシーケンスにおいては、各噴射時間を10秒とすることで、上端部21近傍には合計30秒間、中間部22には合計20秒間、下端部23近傍には10秒間噴出することになる。そのため、懸濁物質71の付着しやすい上端部21近傍には最も長い時間噴出して集中的に懸濁物質71を除去することができるとともに、全体としては合計30秒とより短い時間で洗浄を終えることができる。
【0085】
本発明は以上の実施形態に限られず、例えば洗浄方法においては、制御装置4は噴出時間以外の洗浄条件を制御するようにしてもよい。例えば、
図1において電磁弁41・41’・41’’を制御することで、3本の洗浄ノズル3・3’・3’’から空気を同時に噴出するとともに、上端部21近傍の洗浄ノズル3の噴出速度を最も早くする一方、その他の洗浄ノズル3’・3’’の噴出速度は洗浄ノズル3の噴出速度よりも遅くするように構成しても良い。
このようにすることで、全体の洗浄時間をさらに低減することができる。
【0086】
また、中空糸膜2の同じ部位に対して大きさの異なる噴出口31・31…を備えた複数の洗浄ノズル3・3…を設け、電磁弁によって切り替えるようにしてもよい。
このようにすることで、懸濁物質71の付着量に応じて、洗浄効果と中空糸膜2への負荷のバランスをとることができる。
【0087】
その他、
図1の形態において、電磁弁41・41’・41’’それぞれに図示しない個別の空気供給ポンプ5・5’・5’’を接続することもできる。それぞれに独立した空気供給源を接続することで、各空気供給ポンプ5・5’・5’’に要求される能力を小さいものとすることができる。また、空気供給ポンプ5・5’・5’’の吐出能力に差を設けることで、洗浄ノズル3・3’・3’’の懸濁物質71の付着量に応じて最適な噴出力とすることもできる。
【符号の説明】
【0088】
100,101 膜ろ過装置
1 容器
11 原水供給口
12 処理槽
13 透過水排出口
14 濃縮水排出口
15 上端固定壁
16 下端固定壁
2 中空糸膜
21 上端部
22 中間部
23 下端部
3 洗浄ノズル
31 噴出口
32 気泡
4 制御装置
41 電磁弁
42 レギュレータ
43 コントローラ
5 空気供給ポンプ
6 原水供給ポンプ
7 原水
71 懸濁物質
8 透過水
9 濃縮水
【手続補正書】
【提出日】2023-03-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水をろ過するための中空糸膜が容器内に配置され、前記容器内の原水を、前記中空糸膜を透過した透過水と、前記中空糸膜を透過することなく懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水とに分離するための膜ろ過装置において、
前記容器には、前記原水を容器内に流入させる原水供給部と、流入した原水に前記中空糸膜が浸漬してろ過する処理部と、前記処理部とは水密に区画されるとともに前記透過水を容器外に排出する透過水排出部と、前記処理部から前記濃縮水を容器外に排出する濃縮水排出部と、前記中空糸膜を洗浄する複数の洗浄手段とが備えられ、
前記中空糸膜の一端は、中空糸膜の内側が前記透過水排出部と連通するように固定された固定端であり、
前記洗浄手段は、制御手段が接続されることにより、中空糸膜の前記固定端近傍と中空糸膜の固定端近傍以外の部分とを異なる洗浄条件で洗浄可能であるとともに、容器内に堆積した懸濁物質を巻き上げ可能であり、
前記洗浄手段による洗浄中において、前記中空糸膜から除去された懸濁物質と、前記容器内に堆積した懸濁物質であって前記洗浄手段により巻き上げられた懸濁物質とが、前記原水供給部から流入し前記濃縮水排出部から排出する原水の流れに乗って排出されることを特徴とする、膜ろ過装置。
【請求項2】
前記洗浄手段は、前記中空糸膜における前記固定端近傍と、固定端とは反対側の他端近傍と、固定端と前記他端との間の部分とを少なくとも洗浄可能とする、請求項1に記載の膜ろ過装置。
【請求項3】
前記洗浄手段は空気を噴出する複数の洗浄ノズルであり、
前記固定端近傍に空気を噴出する洗浄ノズルが最も長い噴出時間または最も速い噴出速度で空気を噴出することを特徴とする、請求項1または2に記載の膜ろ過装置。
【請求項4】
前記制御手段は、一の空気供給源から供給される空気を複数の洗浄ノズルに異なる噴出時間または噴出速度で順次切り替えて送出することができることを特徴とする、請求項3に記載の膜ろ過装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の膜ろ過装置における中空糸膜の洗浄方法において、
前記洗浄手段は空気を噴出する複数の洗浄ノズルであり、
一の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍に所定の噴出時間及び所定の噴出速度で空気を噴出し、
他の洗浄ノズルからは、中空糸膜における固定端近傍以外の部分に前記固定端近傍よりも短い噴出時間または遅い噴出速度で空気を噴出することを特徴とする、中空糸膜の洗浄方法。
【請求項6】
前記中空糸膜における固定端近傍への空気の噴出と、中空糸膜における固定端近傍以外の部分への空気の噴出とを順次行うことを特徴とする、請求項5に記載の中空糸膜の洗浄方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
濃縮水排出部は処理部と外部とを連通することで、処理部内に発生した濃縮水を外部に排出することができる。原水は原水供給部から順次処理部内に流入するが、その流入量に対して中空糸膜を透過して排出される透過水の量は少ない。したがって、処理部が密閉されていると順次流入する原水によって処理部内の圧力が過度に高くなる。また、中空糸膜を透過することなく懸濁物質の濃度が上昇した濃縮水が排出されずに処理部内に滞留すると、新たな原水が処理部内に流入できず、ろ過が進まない。
そこで、発生した濃縮水を濃縮水排出部から所定の流量で排出することにより、処理部内の圧力を一定に保持するとともに、原水を処理部内に流入しやすくして新しい原水が中空糸膜に接触するようにしている。また、濃縮水排出部は洗浄手段によって除去された懸濁物質を容器の外部に排出する役割も担っている。詳述すると、前記洗浄手段による洗浄中において、前記中空糸膜から除去された懸濁物質と、前記容器内に堆積した懸濁物質であって前記洗浄手段により巻き上げられた懸濁物質とが、前記原水供給部から流入し前記濃縮水排出部から排出する原水の流れに乗って排出される。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
洗浄手段は中空糸膜に付着した懸濁物質を除去して中空糸膜を洗浄する手段であり、容器内に複数備えられている。洗浄手段は、流体を中空糸膜に衝突させることで懸濁物質を直接的または中空糸膜の揺動等により間接的に除去することができる。また、容器内に堆積した懸濁物質を巻き上げ可能としている。衝突させる流体は噴出可能な流体であれば特に限定されず、一例として原水や透過水、雨水、薬剤を含む洗浄液等の液体の他、空気やガス等の気体が挙げられる。なお、洗浄手段は、中空糸膜の側方に近接して配置する場合に限られず、中空糸膜の端部の近傍に配置するものや中空糸膜から離間して配置するもの等、配置の場所は限定されない。