(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114469
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】電鋳ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/04 20060101AFI20230810BHJP
B29C 33/38 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B29C59/04 C
B29C33/38
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016767
(22)【出願日】2022-02-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 電気通信回線を通じて発表した掲載年月日:令和3年10月25日、掲載アドレス:http://www.e-will.jp
(71)【出願人】
【識別番号】506273607
【氏名又は名称】株式会社ウィル
(74)【代理人】
【識別番号】100106378
【弁理士】
【氏名又は名称】宮川 宏一
(72)【発明者】
【氏名】内海 春夫
【テーマコード(参考)】
4F202
4F209
【Fターム(参考)】
4F202AF01
4F202AG01
4F202AG05
4F202AH73
4F202AJ02
4F202AJ09
4F202CA19
4F202CB02
4F202CD12
4F202CD30
4F202CR10
4F202CS10
4F209AF01
4F209AG01
4F209AG05
4F209AH73
4F209AJ02
4F209AJ09
4F209PA03
4F209PB02
4F209PQ03
(57)【要約】
【課題】低コストで時間をかけずに効率的に製造できる電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールを提供する。
【解決手段】レーザー溶接で円筒状電鋳板210を作成し、外径が円筒状電鋳板の内径よりも僅かに大きく、一方の端部のテーパー部110の先端側縮径部の外周面が円筒状電鋳板の外径よりも僅かに小さくテーパー部近傍に加圧気体供給孔が形成されたスリーブ100を用意し、円筒状電鋳板の一方の端部をスリーブのテーパー部に突き当ててスリーブに押し込むことで、円筒状電鋳板のスリーブとの接触部を拡開塑性変形させながらスリーブのテーパー部を円筒状電鋳板の内周面に入れ込んで加圧気体供給孔を円筒状電鋳板で塞いだ後にスリーブ内に気体を加圧供給して円筒状電鋳板とスリーブ間に加圧気体の層を介在させ、円筒状電鋳板の端部をスリーブに対して所定位置に達するまで押し込んだ後に気体の供給を停止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用シートの製造に使用するために所定寸法の矩形状に切断された電鋳板を用意して、当該電鋳板の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態で溶接することで所定の長さと所定の内径を有した円筒状電鋳板を作成すると共に、
前記円筒状電鋳板の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が当該円筒状電鋳板の内径よりも僅かに大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部であって当該テーパー部の先端側縮径部の外周面が前記円筒状電鋳板の外径よりも僅かに小さく、更には前記テーパー部の近傍位置に当該スリーブの内周面と外周面を貫通する加圧気体供給孔が当該スリーブの周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブを用意し、
前記円筒状電鋳板の一方の端部の縁部を全周に亘って前記スリーブのテーパー部に当該円筒状電鋳板と当該スリーブが同芯となる状態で突き当てて位置決めし、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら当該円筒状電鋳板の端部の前記スリーブのテーパー部の拡径部を当該円筒状電鋳板の内周面に入れ込み、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して更に押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら前記スリーブに形成された加圧気体供給孔の当該スリーブ外周面側開口部を当該円筒状電鋳板の内周面で塞いでいき、
前記スリーブに形成された全ての加圧気体供給孔の前記スリーブ外周面側開口部を前記円筒状電鋳板の内周面によって完全に塞いだ直後に前記円筒状電鋳板の前記スリーブへの互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、
前記スリーブの両端部を当該スリーブの内部が気密になるように閉塞させた状態で前記スリーブの少なくとも一方の端部から気体を加圧供給し、
前記スリーブ内に加圧供給された気体が前記複数の加圧気体供給孔を通して当該加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に前記加圧気体供給孔が形成された領域であってスリーブ外周面の先端側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させ、
前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させた状態を維持するように前記加圧気体を前記スリーブの内部に供給しながら、前記円筒状電鋳板の端部を前記スリーブのテーパー部形成側端部と反対側の基端側端部に向かって前記円筒状電鋳板が前記スリーブに対して長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいき、
前記円筒状電鋳板が前記所定の押し込み位置まで達した状態で前記スリーブへの前記加圧気体の供給を停止することで、当該スリーブと当該円筒状電鋳板との間に介在した気体を除去することにより、当該円筒状電鋳板の内周面全体を当該スリーブの外周面に密着した状態で固定すると共に、前記スリーブの両端部を塞ぐ閉塞板を取り除くことによって、電鋳ロールのサブアッシーを製造することを特徴とする電鋳ロールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールのサブアッシーを用意すると共に、この電鋳ロールのサブアッシーに組み込み可能な寸法形状を有しかつ内部に冷却部を有した芯金ロールを用意し、
前記電鋳ロールのサブアッシーのスリーブ内に前記芯金ロールを挿入して当該芯金ロールを前記電鋳ロールのサブアッシーに取り付けて両者を固定することによって電鋳ロールを製造することを特徴とする電鋳ロールの製造方法。
【請求項3】
請求項1によって製造された電鋳ロールのサブアッシー。
【請求項4】
請求項2によって製造された電鋳ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写シートを製造するのに適し、特にエンボスシートや光学関係フィルムなどの転写シートを製造するのに好適な電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からエンボスシートや光学関係フィルムなどの転写シートを製造するにあたっていわゆる電鋳ロールが使用されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の電鋳ロールは、サクションスリーブと、このサクションスリーブの外周に巻かれレーザー溶接でサクションスリーブに固定された電鋳板とを有している。
【0004】
また、特許文献2に記載の電鋳ロールは、サクションスリーブを用いて円筒状の切断剥離シートを形成し、その後サクションスリーブから円筒状の剥離シートを外して素管ロールに嵌め込み、固定した構造を有している。
【0005】
また、特許文献1及び特許文献2において開示された内容の問題点を解決した電鋳ロール及びその製造方法も知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-226698号公報
【特許文献2】特開2009-226697号公報
【特許文献3】特許第5518800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1に記載の電鋳ロールは、サクションスリーブに巻かれた電鋳板が焼き嵌め等でサクションスリーブに密着して一体化しているので、電鋳板を交換する際にこれをサクションスリーブから無理に引き剥がさなければならない。そして、この電鋳板の引き剥がし作業の際にサクションスリーブに無理な力を及ぼし、サクションスリーブ自体の同芯度を保つことができなくなる。これによって、この後にこのサクションスリーブを再利用して電鋳板をそのサクションスリーブに巻き付けた場合に、サクションスリーブ自体の同芯度が確保できないため、この電鋳ロールによって転写されるエンボスシートや光学関係フィルムへの転写が均一に行なわれなくなる可能性がある。
【0008】
更には、特許文献1に記載の電鋳ロールは、サクションスリーブの内部に冷却用のパイプ機構を有しないので、エンボスシートや光学関連フィルムへの転写時にサクションスリーブの加圧空気供給孔を介して冷却水がサクションスリーブ内部から外部に漏れ出さないように特別な工夫をする必要があり、その分コスト面に反映してしまう。
【0009】
また、上述した特許文献2に記載の電鋳ロールは、レーザー溶接で円筒状に形成された電鋳板をサクションスリーブから一旦抜き出して芯金に嵌め込む作業を必要とするため、この作業中に同芯度がずれないように注意する必要がある。また、この電鋳ロールは、芯金ロールに巻かれた電鋳板が焼き嵌めや冷やし嵌めで芯金ロールに密着して一体化しているので、電鋳板を交換する際にこれを芯金ロールから無理に引き剥がさなければならない。そして、この電鋳板の引き剥し作業の際に芯金ロールに無理な力を及ぼし、芯金ロール自体の同芯度を保つことができなくなる。これによって、この芯金ロールから電鋳板を引き剥がした後、芯金ロールの外周を削って再利用する際、電鋳板をその芯金ロールに焼き嵌めや冷やし嵌めによって固着させた場合に、芯金ロール自体の同芯度が確保できないため、この電鋳ロールによって転写される光学関係フィルムへの転写が均一に行なわれなくなる可能性がある。
【0010】
一方、特許文献3は、上述した特許文献1及び特許文献2に開示された発明の欠点を全て解決することができる優れた発明である。しかしながら、この発明においても更なる以下のような改善点が求められている。
【0011】
この発明においては、サクションスリーブの円周方向近隣する2箇所で長手方向に全体に平行に形成されたシール嵌合スリットと、この2本のシール嵌合スリットに嵌合される2つのシール部材を有している。そして、この2つのシール部材の間に電鋳板の巻き方向一方の端部と他方の端部と合わせて電鋳板の両端部を閉塞した状態でサクションスリーブ内を吸引することによって、電鋳板をサクションスリーブの外周面に密着させ、その状態で電鋳板の一方の端部と他方の端部をサクションスリーブの外周面に溶接するようになっている。
【0012】
即ち、この発明においては、溶接しろの円周方向両側にその溶接しろの長手方向全体に亘ってシール嵌合スリットを形成しなければならないので、加工のための時間を要すると共に、シール嵌合スリットを高い精度を保ったまま加工しなければならず、その分コストが嵩む。このようなシール嵌合スリットの加工コストや加工工数に起因する理由から、サクションスリーブの周面においてせいぜい1箇所溶接しろを設けるのが限界である。しかしながら、周方向1箇所に溶接しろを設けた場合、サクションスリーブをリサイクルするのは好ましくない。
【0013】
具体的には、電鋳板をサクションスリーブに溶接する溶接しろが2つのシール嵌合スリットの間に挟まれた特定の一箇所の領域として決まっているため、電鋳ロールを一度使用して電鋳板の摩耗度合に応じて新しい電鋳板に代えたり、印刷対象の内容を変えたりするために電鋳板を交換する際に特別な工具を用いて溶接部分を剥がして電鋳板をサクションスリーブから取り外し、サクションスリーブ外周面を再度研磨して新たな電鋳板をサクションスリーブの外周面に再び巻いて吸引しながら溶接することによりサクションスリーブをリサイクルすると、以下のような問題が生じる虞がある。
【0014】
具体的には、このようなリサイクル方法をとると、既に一度溶接したサクションスリーブの溶接しろと同じ個所に再び電鋳板の端部同士を合わせて溶接することになる。しかしながら、一度サクションスリーブに電鋳板を溶接した溶接しろの部分は、最初の溶接によってサクションスリーブの組織が合金化してしまう。
【0015】
そのため、サクションスリーブのリサイクル時に再度同じ位置に電鋳板を溶接しようとすると、溶接強度上問題が生じるだけでなく、電鋳板の同芯度や平面度を規定通りの高い値に維持することが不可能である。従って、このようなサクションスリーブの円周方向に電鋳板の端部同士を溶接する溶接しろが設けられた構造では、サクションスリーブ自体をリサイクルすることは好ましくない。
【0016】
上述の理由からサクションスリーブをリサイクルできるようにするためには、サクションスリーブの外周面に例えば周方向等間隔で2つのシール嵌合スリットの対を幾つか形成し、それぞれのシール嵌合スリットの対の間を溶接しろとすることで、サクションスリーブの外周面に複数の溶接しろを設け、サクションスリーブのリサイクルごとに新しい溶接しろを使用していく方法が考えられる。
【0017】
しかしながら、このような方法によると、サクションスリーブの外周面に多数のシール嵌合スリットを形成しなければならず、加工工数が増えて加工コストが嵩むことでサクションスリーブ自体の価格が高くなり、リサイクルのメリットが十分に生かせない。これに加えて、サクションスリーブの外周面に多数のシール嵌合スリットを形成していると、その断面構造が複雑となり、リサイクルに際して何回も溶接を行うことによりサクションスリーブ自体が歪んで同芯度や平面度を保つことが難しくなる虞がある。
【0018】
一方、上述のような問題を解決する具体的構成が、特許第5518800号公報に開示されている。この構成により、上述した課題を解決することが可能となるが、スリーブ全体に多数の吸引孔を加工して形成しなければならないことから、多数の吸引孔の加工に時間を要すると共に、加工時のスリーブへの影響をなるべく少なくするように吸引孔を形成する必要からそれなりのコストを必要とするようになる。
【0019】
本発明の目的は、低コストで時間をかけずに効率的に製造できる電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールであって、この電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールの使用後に新たな電鋳ロールを製造する際に使用済みの電鋳ロールを効率的にリサイクルしながら新たな電鋳ロールを製造することも可能な電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る電鋳ロールの製造方法は、
転写用シートの製造に使用するために所定寸法の矩形状に切断された電鋳板を用意して、当該電鋳板の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態で溶接することで所定の長さと所定の内径を有した円筒状電鋳板を作成すると共に、
前記円筒状電鋳板の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が当該円筒状電鋳板の内径よりも僅かに大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部であって当該テーパー部の先端側縮径部の外周面が前記円筒状電鋳板の外径よりも僅かに小さく、更には前記テーパー部の近傍位置に当該スリーブの内周面と外周面を貫通する加圧気体供給孔が当該スリーブの周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブを用意し、
前記円筒状電鋳板の一方の端部の縁部を全周に亘って前記スリーブのテーパー部に当該円筒状電鋳板と当該スリーブが同芯となる状態で突き当てて位置決めし、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら当該円筒状電鋳板の端部の前記スリーブのテーパー部の拡径部を当該円筒状電鋳板の内周面に入れ込み、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して更に押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら前記スリーブに形成された加圧気体供給孔の当該スリーブ外周面側開口部を当該円筒状電鋳板の内周面で塞いでいき、
前記スリーブに形成された全ての加圧気体供給孔の前記スリーブ外周面側開口部を前記円筒状電鋳板の内周面によって完全に塞いだ直後に前記円筒状電鋳板の前記スリーブへの互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、
前記スリーブの両端部を当該スリーブの内部が気密になるように閉塞させた状態で前記スリーブの少なくとも一方の端部から気体を加圧供給し、
前記スリーブ内に加圧供給された気体が前記複数の加圧気体供給孔を通して当該加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に前記加圧気体供給孔が形成された領域であってスリーブ外周面の先端側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させ、
前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させた状態を維持するように前記加圧気体を前記スリーブの内部に供給しながら、前記円筒状電鋳板の端部を前記スリーブのテーパー部形成側端部と反対側の基端側端部に向かって前記円筒状電鋳板が前記スリーブに対して長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいき、
前記円筒状電鋳板が前記所定の押し込み位置まで達した状態で前記スリーブへの前記加圧気体の供給を停止することで、当該スリーブと当該円筒状電鋳板との間に介在した気体を除去することにより、当該円筒状電鋳板の内周面全体を当該スリーブの外周面に密着した状態で固定すると共に、前記スリーブの両端部を塞ぐ閉塞板を取り除くことによって、電鋳ロールのサブアッシーを製造することを特徴としている。
【0021】
また、本発明の請求項2に係る電鋳ロールの製造方法は、
請求項1に記載の電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールのサブアッシーを用意すると共に、この電鋳ロールのサブアッシーに組み込み可能な寸法形状を有しかつ内部に冷却部を有した芯金ロールを用意し、
前記電鋳ロールのサブアッシーのスリーブ内に前記芯金ロールを挿入して当該芯金ロールを前記電鋳ロールのサブアッシーに取り付けて両者を固定することによって電鋳ロールを製造することを特徴としている。
【0022】
また、本発明の請求項3に係る電鋳ロールのサブアッシーは、請求項1によって製造された電鋳ロールのサブアッシーである。
【0023】
また、本発明の請求項4に係る電鋳ロールは、請求項2によって製造された電鋳ロールである。
【0024】
好ましくは、以上のようにして製造した電鋳ロールを利用して予め必要とされた所定枚数の転写用シートの製造を完了した後に、この電鋳ロールの電鋳板を除く全てを利用して新たな転写用シートを製造するための電鋳ロールを製造するのがリサイクルの観点から優れている。具体的には、この一旦使用済の電鋳ロールのリサイクルに関する方法の内容は以下の通りとなる。
【0025】
上述した電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールを用いて所望の転写を行った後、新たな転写用シートの製造に使用する電鋳板を製造するための電鋳ロールの製造方法であって、
使用終了後の電鋳ロールに備わった芯金ロールと電鋳ロールのサブアッシーとの固定を解除した後に、前記電鋳ロールから芯金ロールを抜き去って電鋳ロールのサブアッシーの形態に再び戻し、
前記電鋳ロールのスリーブの両端部を前記スリーブの内部が気密状態となるように閉塞部材で閉塞すると共に、当該スリーブの両端部に備わった閉塞部材の少なくとも一方から加圧空気を前記スリーブの内部に供給し、
前記スリーブ内に加圧供給された気体が前記複数の加圧気体供給孔を通して加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前記スリーブの外周面と円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に当該加圧気体供給孔が形成された領域であってスリーブ外周面の先端側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を再び介在させ、
前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を再び介在させた状態を維持するように加圧気体をスリーブの内部に供給しながら前記円筒状電鋳板をスリーブのテーパー部形成側端部と反対側の端部からテーパー部形成側端部に向かう引き抜き動作を行うことで、前記スリーブから前記使用済の円筒状電鋳板を引き抜いて両者を分離させ、
所定寸法の矩形状に切断された新たな転写用シートの製造に使用する新たな電鋳板を用意して、電鋳板の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態で溶接することで所定の長さと所定の内径を有した新たな円筒状電鋳板を作成すると共に、
新たな円筒状電鋳板の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が円筒状電鋳板の内径よりも僅かに大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部であってテーパー部の先端側縮径部の外周面が円筒状電鋳板の外径よりも僅かに小さく、更にはテーパー部の近傍位置にスリーブの内周面と外周面を貫通する加圧気体供給孔がスリーブの周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなる使用済みの円筒状電鋳板を抜き去った後のスリーブを再度用意し、
新たな円筒状電鋳板の一方の端部の縁部を全周に亘って前回使用したスリーブのテーパー部に当該円筒状電鋳板と当該スリーブが同芯となる状態で突き当てて位置決めし、
新たな円筒状電鋳板を前回使用したスリーブと同芯状態を保ちながら前回使用したスリーブに対して押し込むことで、新たな円筒状電鋳板の前回使用したスリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら新たな円筒状電鋳板の端部の前回使用したスリーブのテーパー部の拡径部を円筒状電鋳板の内周面に入れ込み、
新たな円筒状電鋳板を前回使用したスリーブと同芯状態を保ちながら前回使用したスリーブに対して更に押し込むことで、新たな円筒状電鋳板の前回使用したスリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら前回使用したスリーブに形成された加圧気体供給孔の前回使用したスリーブ外周面側開口部を新たな円筒状電鋳板の内周面で塞いでいき、
前回使用したスリーブに形成された全ての加圧気体供給孔の前回使用したスリーブ外周面側開口部を新たな円筒状電鋳板の内周面によって完全に塞いだ直後に円筒状電鋳板の前記前回使用したスリーブへの互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、
前回使用したスリーブの両端部を前回使用したスリーブの内部が気密になるように閉塞させた状態で前記前回使用したスリーブの少なくとも一方の端部から気体を加圧供給し、
前回使用したスリーブ内に加圧供給された気体が複数の加圧気体供給孔を通して加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前回使用したスリーブの外周面と新たな円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に加圧気体供給孔を形成された領域であってスリーブ外周面の全周領域からスリーブ外周面とこれに対向する新たな円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を再び介在させ、
前回使用したスリーブの外周面と新たな円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を再び介在させた状態を維持するように加圧気体を前回使用したスリーブの内部に供給しながら新たな円筒状電鋳板の端部をスリーブのテーパー部形成側端部と反対側の端部に向かって両者の長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいき、
新たな円筒状電鋳板が押し込み位置まで達した状態で前回使用したスリーブへの加圧気体の供給を停止することで、前回使用したスリーブと新たな円筒状電鋳板との間に介在した気体を除去することにより、新たな円筒状電鋳板の内周面全体を前回使用したスリーブであってリサイクルのための再加工を何ら行っていないスリーブの外周面に密着した状態で固定すると共に、前回使用したスリーブの両端部を塞ぐ加圧気体供給用の閉塞板を取り除くことによって、前回使用したスリーブに何ら再加工を施すことなく新たな電鋳ロールのサブアッシーを製造する。
【0026】
そして、上述した電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールのサブアッシーを用意すると共に、この電鋳ロールのサブアッシーに組み込み可能な寸法形状を有しかつ内部に冷却部を有した芯金ロールを用意し、
電鋳ロールのサブアッシーのスリーブ内に芯金ロールを挿入して当該芯金ロールを前記電鋳ロールのサブアッシーに取り付けて両者を固定することによって、新たな電鋳板を除く各部品をリサイクルして使用した電鋳ロールを製造する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、低コストで時間をかけずに効率的に製造できる電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールであって、この電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールの使用後に新たな電鋳ロールを製造する際に使用済みの電鋳ロールを効率的にリサイクルしながら新たな電鋳ロールを製造することも可能な電鋳ロールの製造方法及びこれにより製造された電鋳ロールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本実施形態により電鋳ロールを完成させた状態を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における切断前の電鋳板の平面図(
図2(a))、切断後に円筒状に丸めた状態を示す斜視図(
図2(b))、及び
図2(b)の形態から対向する縁同士をレーザー溶接して円筒状電鋳板の形態にした状態を示す斜視図(
図2(c))である。
【
図3】本実施形態におけるスリーブを示す斜視図である。
【
図4】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、電鋳板の下端をスリーブのテーパー部に接近させた状態を示している。
【
図5】電鋳板をスリーブの内部に加圧空気を供給する準備をした後、円筒状電鋳板をスリーブに押し込む直前の状態を示す斜視図である。
【
図6】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、円筒状電鋳板の下端をスリーブのテーパー部に当接させた状態を示している。
【
図7】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、円筒状電鋳板の下端をスリーブのテーパー部の拡径部を全周に亘って乗り越えさせた状態を示している。
【
図8】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、円筒状電鋳板の下端をスリーブの空気供給孔を塞ぐまで押し込んだ状態を示している。
【
図9】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、円筒状電鋳板の下端をスリーブの空気供給孔から加圧空気を供給しながら更に押し込んでいく状態を示している。
【
図10】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、円筒状電鋳板の下端をスリーブの所定位置(図面中下端)まで押し込んだ状態を示している。
【
図11】スリーブに電鋳板を取り付けていく工程を示す斜視図であり、
図10に示す工程の直後に加圧空気の供給を停止した状態を示している。
【
図12】円筒状電鋳板をスリーブに取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図13】芯金ロールの構成を示す部分的断面図である。
【
図14】円筒状電鋳板をスリーブに取り付ける工程であって、
図5に示した状態(
図14(a))から
図6に示した状態(
図14(b))に至る過程をより分かり易く示す説明図である。
【
図15】円筒状電鋳板をスリーブに取り付ける工程であって、
図6に示した状態(
図15(c))から
図7に示した状態(
図15(d))に至る過程をより分かり易く示す説明図である。
【
図16】円筒状電鋳板をスリーブに取り付ける工程であって、
図8に示した状態(
図16(e))から
図9に示した加圧空気を供給した状態(
図16(f))に至る過程をより分かり易く示す説明図である。
【
図17】円筒状電鋳板をスリーブに取り付ける工程であって、
図10に示した加圧空気を供給した状態(
図17(g))から
図11に示した加圧空気の供給を停止した状態(
図17(h))に至る過程をより分かり易く示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施形態に係る電鋳ロール1及びその製造方法について、図面に基づいて説明する。なお、各図面は、本発明の理解の容易化を図るために、それぞれの図面に示す構成要素である部品間の形状や寸法関係については、その違いを誇張して示しており、各図面の構成が実際の部品間の相対的な寸法関係に合致していないことを付言しておく。
【0030】
図1は、本実施形態により電鋳ロール1を完成させた状態を示す斜視図である。また、
図2は、本実施形態における切断前の電鋳板200の平面図(
図2(a))、切断後に円筒状にすべく丸めた状態を示す斜視図(
図2(b))、及び
図2(b)の形態から対向する縁同士をレーザー溶接してレーザー溶接結合部205として固定した円筒状電鋳板210の形態にした状態を示す斜視図(
図2(c))である。また、
図3は、本実施形態におけるスリーブ100を示す斜視図である。
【0031】
本実施形態に係る電鋳ロール1は、
図1に示すように、筒状をなしたスリーブ100と、スリーブ100の外周面に巻かれ、スリーブ100の外周面に密着した電鋳板200と、スリーブ100の内周面に挿入されスリーブ100を支持すると共に、内部に冷却部350を備えた芯金ロール300と、芯金ロール300とスリーブ100の端部に着脱可能に取付けられ芯金ロール300とスリーブ100を固定するフランジ500及び固定プレート500とを有している。
【0032】
以下、本実施形態に係る電鋳ロール1及びその製造方法について、それらの各構成要素を含めて図面に基づいて具体的に説明する。
【0033】
電鋳板200は、本実施形態の場合、
図2(a)の切断前の電鋳板200に示すように、例えば厚さ0.15mmから0.3mm程度のニッケルの電鋳箔からなり、一方の面に転写対象物となるエンボスシートや光学関係フィルムの表面の凹凸に対応した凹凸が形成されている。
【0034】
そして、
図2(a)における矩形状の点線201で示す部分に沿って所定の寸法に切断した後に、
図2(b)に示すように円筒状に丸め、
図2(c)に示すように、対向する縁同士をレーザー溶接してレーザー溶接結合部205によって形成された円筒状電鋳板210の形態にする。なお、上述したように板状の電鋳板を丸めた上でレーザー溶接によって円筒状電鋳板210として形成する代わりにプラズマ溶接によって円筒状電鋳板210を形成しても良く、このようにしても本発明の範囲内に含まれる。しかしながら、本実施形態においては、とりあえず説明の都合上「レーザー溶接」の用語を用いて本発明の内容を説明していく。
【0035】
なお、この状態の円筒状電鋳板210は、電鋳板自体の厚みが例えば0.15mmから0.3mm程度と薄いことと、円筒状にする際にこの厚さの薄い電鋳板200の対向する縁部同士を一端から他端までレーザー溶接することによる熱影響によって、円筒状電鋳板210の外周面は円筒状電鋳板210の軸心に沿って全ての領域が完全に同芯とならず、一部に僅かな歪みや変形が生じる傾向がある。
【0036】
スリーブ100は、
図3に示すように円筒形状をなし、スリーブ100の周面を含めたスリーブ100全体が正確な同芯度を有している。スリーブ100は、例えばステンレス鋼(SUS)や表面がニッケルめっきされた鋼鉄でできており、スリーブ100の一方の端部にはこの外周全周に亘ってテーパー部110が形成されている。
【0037】
スリーブ100の長さは、円筒状電鋳板210の全長より所定の長さだけ長くなっている。そして、スリーブ100の一方の端部にこの外周全周に亘って形成されたテーパー部110は、スリーブ100の長手方向に沿ってスリーブ100の先端に向かうに従ってその外径が小さくなっている。
【0038】
即ち、
図3に示すように、スリーブ100の一方の先端部にテーパー部110の縮径部111が形成され、縮径部111からスリーブ100の他端に向かうに従ってその外径が大きくなってスリーブ100の外周面の外径と同一の外径を有する拡径部112をなすように形成されている。
【0039】
そして、テーパー部110の拡径部112は、円筒状電鋳板210の内径よりも僅かに大きくなっている。また、テーパー部110の縮径部111は、円筒状電鋳板210の外径よりも僅かに小さくなっている。なお、テーパー部110の拡径部112の外径と円筒状電鋳板210の内径との寸法上の差は、円筒状電鋳板210の一方の端部全周をスリーブ100のテーパー部110に当接させた状態で、円筒状電鋳板210をスリーブ100に両者の同芯度を保ったまま作業者の手作業や専用の治具を用いて押し込んだ際に、円筒状電鋳板210のスリーブ当接側端部が拡開塑性変形してスリーブ106外周面を覆いながらスリーブ100のテーパー部110及びその近傍に形成された加圧空気供給孔211,212,213,・・・(210)を全て塞ぐことを可能とする寸法差となっている。
【0040】
上述のように円筒状電鋳板210のスリーブ当接側端部が拡開塑性変形することで、この部分がテーパー部110の形成されたスリーブ100の端部近傍の外周面全周に亘って等しく馴染むように覆い被さっっていくようになっている。
【0041】
また、テーパー部110の近傍には、加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)が形成されている。具体的には、スリーブ100のテーパー部110における拡径部112の近傍には、拡径部112から所定距離隔ててスリーブ100の周面に沿って加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)がスリーブ100の周方向に沿って所定間隔で形成されている。なお、本実施形態では、加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の個数は8個からなり、それぞれが互いに等間隔を隔てて形成されている。そして、各加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)は、スリーブ100の外周面と内周面を貫通するようになっている。
【0042】
なお、加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の個数は、例えば
図5から判断できる8個に限定されず、例えばそれより少ない6個又はそれより多い10個であっても良い。また、隣接する加圧空気供給孔120同士はそれぞれ所定の間隔を隔てていれば良いが、隣接する加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の周方向の間隔は全て等間隔であることが好ましい。
【0043】
加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の役割は次の通りである。スリーブ100に円筒状電鋳板210を備えた状態のサブアッシー10(
図12参照)を製造するにあたって、円筒状電鋳板210をスリーブ100と同芯状態を保ちながらスリーブ100に対して押し込む。この際、円筒状電鋳板210の使用したスリーブ100との接触部を拡開塑性変形させながら使用したスリーブ100に形成された加圧空気供給孔のスリーブ100外周面側開口部を円筒状電鋳板210の内周面で囲む。
【0044】
この際、スリーブ100に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部を囲む円筒状電鋳板210の内周面とスリーブ100の外周面の重なり部分の領域が均等に拡開塑性変形することで、この部分がテーパー部110の形成されたスリーブ100の端部近傍の外周面全周に亘って等しく馴染むように覆い被さっっていく。
【0045】
スリーブ100に形成された全ての加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部を新たな円筒状電鋳板210の内周面によって完全に囲んだ直後に、円筒状電鋳板210のスリーブ100への互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、スリーブ100の両端部をスリーブ100の内部が気密になるように閉塞させた状態でスリーブ100の少なくとも一方の端部から加圧空気を供給し、スリーブ100内に加圧供給された空気が複数の加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を介して加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部から互いに密着したスリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面との間に入り込ませる。
【0046】
これによって、スリーブ100の外周面と、これに重なった円筒状電鋳板210の内周面との間であって加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を形成された領域において、スリーブ外周面の全周領域からスリーブ外周面とこれに対向する円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900(
図9、
図10、
図16(f)、
図17(g)参照)を介在させる。
【0047】
そして、スリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させた状態を維持するように、加圧空気をスリーブ100の内部に供給しながら、円筒状電鋳板210の端部をスリーブ100のテーパー部形成側端部と反対側の端部に向かって両者の長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込み時の抵抗を受けることなくスムーズに押し込んでいく。
【0048】
円筒状電鋳板210が押し込み位置まで達した状態でスリーブ100への加圧空気の供給を停止することで、スリーブ100と円筒状電鋳板210との間に介在した加圧空気を除去することにより、円筒状電鋳板210の内周面全体をスリーブ100の外周面に密着した状態で固定すると共に、スリーブ100の両端部を塞ぐ加圧空気供給プレート600を取り除くことによって、電鋳ロール1のサブアッシー10(
図12参照)を製造するようになっている。
【0049】
なお、スリーブ100の大きさは、本実施形態の場合、直径φ=100mmから400mm、長さL=150mmから1200mmとなっている。また、加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の大きさは、本実施形態の場合、直径φ=3.0mmでスリーブ100の円周方向2等間隔で8カ所形成されている。また、スリーブ100の端部に形成されたテーパー部110のテーパー角度は、本実施形態の場合、スリーブ100の軸線方向に対して30°をなしている。
【0050】
しかしながら、本発明におけるスリーブ100の大きさや寸法、加圧空気供給孔120の大きさや個数、テーパー部110のスリープ軸線に対する角度については、本発明の作用発揮し得る範囲内であれば適宜寸法選択可能であり、、当然のことながら上述した具体的数値に限定されないことは言うまでもない。
【0051】
また、スリーブ100の一方の端面には、円周方向所定の間隔でスリーブ気密支持用固定プレート700(
図4参照)にスリーブ100の他端取付け用の雌ネジ部(図示せず)が形成されると共に、他方の端面には加圧空気供給用プレートの取付け用雌ネジ部100a(
図3参照)が所定の間隔で形成されている。
【0052】
図13は、芯金ロール300の構成を示す部分的断面図である。芯金ロール300は円筒形状をなし、例えばステンレス鋼(SUS)や表面がニッケルめっきされた鋼鉄でできており、その外径はスリーブ100の内周面に圧入することなく滑らかに嵌まり込む程度の寸法を有している。
【0053】
具体的には、本実施形態の場合、スリーブ100の内径が規定寸法に対して0μmから+20μm程度の寸法公差を有し、芯金ロール300の外径が規定寸法に対して0μmから-20μm程度の寸法公差を有している。
【0054】
フランジ500を芯金ロール300に取付けた状態でフランジ500を水平面に接地させ、芯金ロール300を垂直に立てた状態でスリーブ100を芯金ロール300の上方から嵌めこむと、スリーブ100がその自重で芯金ロール300に沿って芯金ロール300の下端に取付けられたフランジ500にスリーブ100の下端が当接するまでスリーブ100が下降するようになっている。
【0055】
なお、芯金ロール300の内周面には、例えば冷却パイプをロール内周面に沿って螺旋状に配置した冷却部350が備わっている。冷却部350は、電鋳ロール使用時に以下に説明するシャフト360,370の一方から他方に冷却水を流して芯金ロール300やスリーブ100、円筒状電鋳板210を冷却するようになっている。
【0056】
より具体的には、円板状をなすフランジ500の中央部分には、電鋳ロール回転駆動用のシャフト360,370が突設されている。なお、シャフト360には、冷却水を芯金ロール300内部に備わった冷却部350に流入させるための供給経路361(図中点線参照)が備わっている。
【0057】
また、円板状をなす固定プレート500の中央部分にも、電鋳ロール駆動用のシャフト370が突設されている。なお、シャフト370には、冷却水を芯金ロール内部に備わった冷却部350から流出させるための供給経路371(図中点線参照)が備わっている。
【0058】
そして、
図1に示す電鋳ロール1の形態において、フランジ500のシャフト360と固定プレート500のシャフト370を介して図示しないモーター等のアクチュエータにより電鋳ロール1を回転させ、スリーブ100の外周面に密着した円筒状電鋳板210を介してシート部材やフィルム部材に円筒状電鋳板210の表面の凹凸を転写させてエンボスシートや光学関係フィルム(図示せず)を製造するようになっている。
【0059】
なお、このエンボスシートや光学関係フィルムは、例えば大型の液晶ディスプレイの光拡散板に用いたり太陽電池の太陽光受光部に用いたり、電子部品製造用の回路パターンの転写印刷に用いたり、様々な技術分野に用いられる。
【0060】
続いて、本実施形態に係る電鋳ロール1の製造方法について時系列的に順を追って具体的に説明する。最初に第1工程として、
図2(a)の矩形状の円筒状電鋳板形成用切断点線201に示すように、電鋳板200を転写用シートの製造に使用するために所定寸法の矩形状に切断した後、
図2(b)に示すように電鋳板200の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って円筒状をなすように丸めて、更にこの丸めた電鋳板200の対向する縁同士を当接した状態でレーザー溶接することで、
図2(c)に示すような所定の長さと所定の内径を有した円筒状電鋳板210を作成する。
【0061】
次いで、第2工程として、
図3に基づいて上述した構成で説明したように、円筒状電鋳板210の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が円筒状電鋳板210の内径よりも僅かに大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部110であって、テーパー部110の先端側の縮径部111の外周面が円筒状電鋳板210の外径よりも僅かに小さく、更にはテーパー部110の近傍位置にスリーブ100の内周面と外周面を貫通する加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)がスリーブ100の周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブ100を用意する。
【0062】
そして、
図4に示すように、スリーブ100のテーパー形成側端部と反対側の端部をスリーブ気密支持用固定プレート700に固定すると共に、スリーブ100のテーパー形成側端部開口部を気密プレート600で塞ぐと共に、気密プレート600の一部からスリーブ100内に加圧空気を供給するコンプレッサー(図示せず)及び加圧空気供給用チューブ620を取り付ける。
【0063】
次いで、第3工程として、
図5及び
図14(a)から(b)への変化状態に示すように、円筒状電鋳板210の長手方向を垂直方向に向けた後に、この一方の端部(下側端部)の縁部を全周に亘って
図4に示す状態で固定されたスリーブ100の上端側に形成されたテーパー部110に円筒状電鋳板210とスリーブ100が同芯となる状態で突き当てて、
図6及び
図14(b)に示す状態で位置決めする。
【0064】
この際、円筒状電鋳板210をスリーブ100に対して互いの同芯度を保った状態を維持しながら、円筒状電鋳板210の下端部の全周をスリーブ100の上端部に備わったテーパー部110の全周に突き当てる。
【0065】
この付き当てに際して、本実施形態においては、円筒状電鋳板210の内径がスリーブ100の外径よりも20μm~30μm程度小さくなっているので、スリーブ100の一端のテーパー部110の縮径部111と拡径部112の間あたりのテーパー面の位置にテーパー部110の全周に亘って円筒状電鋳板210の下端部の全周縁を突き当てるようにする。
【0066】
次いで、第4工程として、
図6及び
図14(b)から
図15(c)への変化状態に示すように、円筒状電鋳板210をスリーブ100と同芯状態を保ちながらスリーブ100に対して押し込む。
【0067】
円筒状電鋳板210の厚みはスリーブ100の厚みに比べて極めて薄いので、上述したようにこのような押し込み動作により、円筒状電鋳板210のスリーブ100との接触部を拡開塑性変形させながら円筒状電鋳板210の端部のスリーブ100のテーパー部110の拡径部111を円筒状電鋳板210の内周面に入れ込む。
【0068】
より詳細には、この状態において上述した同芯度を保ちながら円筒状電鋳板210をスリーブ100に更に押し込むことによって、円筒状電鋳板210の下端部全周の一定領域はスリーブ100のテーパー部110の外径が拡径部112に向かって徐々に大きくなるに従って、これに応じて均等に塑性変形して広がりながら、やがてはテーパー部110の拡径部112を同時に乗り越えて、この拡径部112のスリーブ長手方向近傍に所定の距離だけ周方向等間隔に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)に向かって円筒状電鋳板210の下端部の外径が強制的に僅かに周方向均等に広められながらスリーブ100の長手方向に沿って同芯状態を保ちながら押し込んでいく。
【0069】
円筒状電鋳板210の端部のスリーブ100のテーパー部110の拡径部111を円筒状電鋳板210の内周面に入れ込むと共に、更にこれを押し込むことで、レーザー溶接時における熱影響により局部的に歪や変形が生じていた部分を含めて軸線に対して正確な同芯度を保っているスリーブ100の外周面に密着しながら、スリーブ100の外周面に押し込まれていく。これに伴って、円筒状電鋳板210の歪みや変形も除去されて、完全な同芯度を保つように矯正されていく。
【0070】
次いで、第5工程として、
図7から
図8及び
図15(d)から
図16(e)に示すように、円筒状電鋳板210をスリーブ100と同芯状態を保ちながらスリーブ100に対して更に押し込むことで、円筒状電鋳板210のスリーブ100との接触部を拡開塑性変形させながらスリーブ100に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ100外周面側開口部を円筒状電鋳板210の内周面で完全に塞ぐ。
【0071】
この過程において、このように押し込み続けることによって、円筒状電鋳板210の下端部及びその近傍はその薄さにより拡開塑性変形して、やがてはスリーブ100のテーパー部110全体を覆って、その後にテーパー部110の拡径部112を覆いながら押し込められていき、更にその後にスリーブ100の周方向に等間隔に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面開口部を全て塞ぐまでに押し込まれていく。
【0072】
次いで、第6工程として、
図8及び
図16(e)に示すように、スリーブ100に形成された全ての加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部を、円筒状電鋳板210の内周面によって完全に囲んだ直後に、円筒状電鋳板210のスリーブ100への互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止する。そして、スリーブ100の両端部をスリーブ100の内部が気密になるように閉塞させた状態で、スリーブ100の少なくとも一方の端部から加圧空気を供給する(
図16(f)参照)。
【0073】
そして、スリーブ100内に供給された加圧空気を、複数の加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を介して、加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部から互いに密着したスリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面との間に入り込ませる。これによって、スリーブ100の外周面であって加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)が形成されたスリーブ外周面のテーパー部形成側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させる(
図9及び
図16(f)参照)。
【0074】
この状態において、スリーブ100の内部に供給された加圧空気910は、スリーブ100の両端部がしっかりと閉塞されているため、スリーブの内周面と外周面を貫通する上述した加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)にそれぞれ均一な圧力で侵入していく。
【0075】
この際の加圧空気910の圧力によって、スリーブの内部に供給された加圧空気910が、スリーブ100の各加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を介してスリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面の重なり部の間に均一に入り込む。
【0076】
これによって、極めて薄い空気の層900をスリーブ100の外周面とこれに重なる円筒状電鋳板210の内周面との間の全体領域に均一に形成させる。なお、本出願の図面においては、本発明の作用の理解を容易化するために、スリーブ100の厚さと円筒状電鋳板210の厚さを、実際の両者の厚さと異なるように後者をかなり厚めに描いている。
【0077】
次いで、第7工程として、
図10及び
図17(g)に示すように、スリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させた状態を維持したまま、加圧空気910をスリーブ100の内部にコンプレッサー(図示せず)及び加圧空気供給用チューブ620を介して供給しながら、円筒状電鋳板210の端部をスリーブ100のテーパー部形成側端部と反対側の基端側端部に向かって、円筒状電鋳板210がスリーブ100に対して長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込む。
【0078】
また、この押し込み動作の過程において、実際はスリーブ100の厚みに対して円筒状電鋳板210の厚みは極めて薄くなっているので、この加圧空気910を供給する前の円筒状電鋳板210の内周面のスリーブ外周面への押し込み動作と、その後のこれら両者の重なり領域に形成された均一な圧力の極めて薄い加圧空気の層900により、当初レーザー溶接で円筒状に形成した際に僅かに生じていた円筒状電鋳板210のゆがみや変形、歪み等を長手方向に沿って周方向全面に亘って全て矯正しながら円筒状電鋳板210がスリーブ100に押し込まれていくことで、この押し込み過程において円筒状電鋳板210の内周面全体がこれに応じて長手方向全体に亘って同一直径の真円に近づいていく。
【0079】
また、このように円筒状電鋳板210の内周面とスリーブ100の外周面との間において、スリーブ100の加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)から供給される加圧空気910によって、互いの重なり領域の全周に亘って極めて薄い加圧空気の層900が形成されることで、その後に円筒状電鋳板210をスリーブ100のテーパー部110と反対側端部、即ち図中下端部に向かって所定位置まで押し込んでいく際に極めて薄い加圧空気の層900を供給する前のスリーブ100の外周面と円筒状電鋳板210の内周面同士の重なり部の接触抵抗がなくなり、円筒状電鋳板210のスリーブ100に対する押し込み動作をスムーズにかつ迅速に時間をかけずに容易に行うことができる。更にはこの押し込み動作において、円筒状電鋳板210の内周面とスリーブ100の内周面との間に傷等をつけることなく行うことができる。
【0080】
次いで、第8工程として、円筒状電鋳板210が所定の押し込み位置まで達した状態で、
図11及び
図17(h)に示すように、スリーブ100への加圧空気の供給を停止することで、スリーブ100と円筒状電鋳板210との間に介在した極めて薄い加圧空気の層900を除去することにより、円筒状電鋳板210の内周面全体をスリーブ100の外周面全体にしっかりと密着した状態で固定する。この密着固定の過程によって、円筒状電鋳板210の歪みや変形も除去されて、完全な同芯度を保つように矯正される。
【0081】
より具体的には、円筒状電鋳板210の内周面とスリーブ100の外周面との間に形成されていた極めて薄い空気の層900がなくなり、これによって内周面全体が僅かに均一に拡張弾性変形していた円筒状電鋳板210の内周面全体が、上記弾性変形による拡開がなくなりスリーブ100円の取付け前の内径より塑性変形域における寸法の範囲内で僅かに大きいスリーブ100の外周面全体と等しい内径まで再び均一に弾性収縮してスリーブ100の外周面に直接重なるようになる。
【0082】
即ち、円筒状電鋳板210の内径は、レーザー溶接によって形成した状態においては、上述したようにスリーブ100のテーパー部110の拡径部112の外径よりも僅かに小さかったため、円筒状電鋳板210の本来の寸法まで収縮して戻ることはなく、円筒状電鋳板210の内周面にスリーブ100の外周面から均一な圧力が加えられた状態で円筒状電鋳板210自体が何ら付加的なレーザー加工を施すことなくスリーブ100の外周面にしっかりと密着固定する。
【0083】
この密着固定に際して、上述したように円筒状電鋳板210の厚みはスリーブ100の厚みに対して極めて薄いので、円筒状電鋳板210をレーザー溶接で形成された際に生じた熱影響による僅かな変形や歪みについては完全に矯正されて除かれる。
【0084】
より詳細には、上述したように元々円筒状電鋳板210の内周面はスリーブ100の外周面よりも僅かに小さくなるように寸法設計して形成されていたことに起因して、円筒状電鋳板210の内周面がスリーブ100の外周面に強制的にかなり強い圧力で均一に押し付けられることで、これらの僅かな変形や歪みは全て矯正されて取り去られ、円筒状電鋳板210自体も厳密な真円度を保った外周面を有するスリーブ100と同様に僅かな変形や歪みも有さない厳密な真円度を保った円筒状電鋳板210として、何ら後加工を施すことなくスリーブ100にしっかりと密着固定される。
【0085】
次いで、第9工程として、スリーブ100の両端部を塞ぐ加圧空気供給プレート600及びスリーブ気密支持用固定プレート700の双方をスリーブ100から取り除くことによって、
図12に示すような円筒状電鋳板210をスリーブ100に取り付けた電鋳ロール1のサブアッシー10を製造する。
【0086】
このように、元々円筒状電鋳板210の内周面はスリーブ100の外周面よりも僅かに小さくなるように寸法設計して形成されたことを起因して、円筒状電鋳板210の内周面はスリーブ100の外周面に強制的にかなり強い圧力で均一に押し付けられることにより、スリーブ100と円筒状電鋳板210は完全に一体化して互いにずれの生じない電鋳ロールのサブアッシー10として製造される。
【0087】
即ち、従来のようにその後のスリーブ100の外周面に対して円筒状電鋳板210を固着させるレーザー溶接などの追加加工等を全く必要とすることなく、電鋳ロール1の一部として用いられる円筒状電鋳板210がスリーブ100に固着して一体化したサブアッシー10を完成させることができる。
【0088】
次いで、第10工程として、第9工程において得られた電鋳ロール1のサブアッシー10の内周部に、
図13に示す芯金ロール300を挿入して、芯金ロール300の一方の端部のフランジ500と他方の端部と固定プレート400とでしっかりと挟み込んで、締結ボルト(図示せず)を固定プレート500の固定穴401(
図1参照)にねじ込んでスリーブ100及びこれに収容された芯金ロール300を完全に一体化させた状態にし、
図1に示す電鋳プレートの製造を完了する。
【0089】
以上の製造工程を経ることによって、電鋳ロール1を低コストで時間をかけずに効率的に製造できる。更には、後に詳細に説明するように、この電鋳ロール1の製造方法によって製造された電鋳ロール1の使用後に新たな電鋳ロール1を製造する際に、使用済みの電鋳ロール1を効率的にリサイクルしながら新たな電鋳ロール1を製造することも可能とする。
【0090】
以下に上述した実施形態を含む本発明に係る電鋳ロールの製造方法の特別な作用効果(優位点)を記載する。上述のような本発明特有の電鋳ロールの製造方法を実施することにより、従来の電鋳ロールの製造方法とは全く異なる様々な優位点(作用効果)を発揮することができる。
【0091】
具体的には、円筒状電鋳板をレーザー溶接などの熱を加えながらスリーブに取り付ける必要がないことによるメリットとして、以下の項目がとりあえず挙げられる。
【0092】
第1の本発明の優位点として、スリーブに円筒状電鋳板を密着固着する際に付随加工としてレーザー溶接等を用いる必要がない。その結果、この工程に際して円筒状電鋳板に余分な熱影響を与えることがなく、完成した電鋳ロールの印刷精度を所望の精度に保つことができ、品質の良いパターン転写やパターン印刷を行うことができる電鋳ロールを実現する。
【0093】
更に、第2の本発明の優位点として、所定量のパターン転写やパターン印刷等の印刷作業を終えて電鋳ロールを予定通りに使い終わった後に、電鋳ロールを分解して円筒状電鋳板をスリーブから取り除くに際して、上述した工程と逆の工程で簡単に取り除くことができる。
【0094】
具体的には、スリーブに円筒状電鋳板を密着固定する際にレーザー溶接等を用いる必要がないので、電鋳ロールを使い終わった際に上述した第2の優位点で述べたように円筒状電鋳板をスリーブから従来のように再び熱加工や機械加工などを用いて除去する必要がない。
【0095】
その結果、円筒状電鋳板をスリーブから迅速に効率良く取り除くことができ、更にはスリーブを取り除く際に熱歪みや機械歪みを全く生じさせることがなくなる。これによって、従来のようにスリーブを再研磨や再メッキしてからリサイクル利用することなく、電鋳板を抜き去った状態のスリーブを再びそのまま再利用できるので、リサイクル性に優れる。
【0096】
更に、第3の本発明の優位点として、上述した第2の優位点に関連して、例えば試作品としての電鋳板を作成してとりあえず試験使用してみた後、電鋳板の印刷パターンを変更する必要が見つかった場合にコストを抑えながら迅速かつ効率的に電鋳板をそれまで仮に使用していたスリーブにそのまま付け替えて同じく印刷品質の精度の高い正規の電鋳ロールのサブアッシーとすることができる。
【0097】
なお、このような電鋳板の試験使用とは別に、電鋳板の印刷パターンの不具合の解消や適宜生じる印刷パターンの設計変更などにおいても、同様にコストを抑えながら迅速かつ効率的に新たな電鋳ロールを製造することができる。
【0098】
即ち、電鋳ロールの使用に際して、これが電子部品を製作するための印刷ロールとして使われたり、光学系のフィルムを製作するための転写ロールとして使われたりする場合に、特にこれら双方の試作品の開発に伴う頻繁に起こり得ることが考えられる細かい設計変更に低コストで対応することができる。
【0099】
更に、第4の本発明の優位点として、本実施形態においてはスリーブ全面に吸引穴(サクション穴)が空いておらず、一方の端部のテーパー部の近傍のみに加圧空気供給孔が最低限の数だけ空いている構成となっている。これによって、製造した電鋳ロールを転写ロールとして使用した場合において相手のニップロールで加圧した際に、前者のような電鋳板表面にサクション穴の影響が生じるようなことはなく、転写ロールとしての高精度な品質を確実に維持することができる。
【0100】
更に、第5の本発明の優位点として、本発明によって使用済の電鋳ロールから新たな電鋳板を備えた新たな電鋳ロールをリサイクルする際に、上述したように使用済の電鋳板をスリーブから簡単に取り外すことができることに起因するリサイクル上の優れたメリットが挙げられる。
【0101】
即ち、使用済の電鋳板をスリーブから除去する際に、余分な熱加工や機械加工を行うことなく、スリーブをそのままリサイクルして利用できるので、近年のリサイクルによる省資源化に貢献する。これに加えて、従来におけるような使用済の電鋳板をスリーブから除去するための余分な熱加工や機械加工に伴って発生する好ましくない大気中への熱拡散やスリーブの再研磨に伴う細かな切削屑などの切削残留物の発生、スリーブの再利用に伴う再メッキ工程等を完全になくすことができる。
【0102】
その結果、電鋳ロールの製造やリサイクルに関わる作業者の労働環境の安全面や衛生面での向上を確保すると共に、電鋳ロール製造現場の周辺エリアの良好な環境を維持し、かつ余分な熱拡散による近年問題となっている地球温暖化の防止にも少なからず貢献することが可能となる。
【0103】
続いて、本発明を利用した電鋳ロール1のリサイクルに関する方法について以下に説明する。上述した製造方法によって製造した電鋳ロール1を用いて所定量の回路パターンの印刷やフィルム形成などの転写の作業を行い、予め決められたスケジュールでの使用の役目を果たした場合、新たな回路パターンを印刷するための電鋳ロールに交換する必要が生じる。
【0104】
これ以外においても、上述した製造方法によって製造した電鋳ロール1を用いて規定回数以上使用していくと、印刷量が多くなり電鋳ロール1のパターンの消耗が進んで正規の印刷の品質の維持ができなくなる可能性が考えられる。このような場合においては、同一パターンの円筒状電鋳板210を備えた電鋳ロール1に交換する必要が生じる。
【0105】
このような状況に対応するために、本発明を用いた電鋳ロール1のリサイクル性に優れた製造方法について以下に説明する。最初に使用終了後の電鋳ロール1に備わった芯金ロール300の一端と電鋳ロール1に備わったスリーブ100の一端を固定したフランジ500の固定解除を行うと共に、芯金ロール300の他端とスリーブ100の他端を固定する固定プレート500を取り外す。
【0106】
次いで、電鋳ロール1から芯金ロール300を抜き去り、電鋳ロール1のサブアッシー10の状態に戻した後に、電鋳ロール1のスリーブ100の一方の端部をスリーブ100の内部が気密状態となるようにスリーブ気密支持用固定プレート700に取り付けると共に、スリーブ100の他端に加圧空気供給プレート600を取り付ける。
【0107】
この際、加圧空気供給プレート600の一方の端部に加圧空気供給用チューブ620の一端を備えてこの加圧空気供給用チューブ620の他端を、加圧空気910を供給できるコンプレッサー(図示せず)に接続する。即ち、
図11に示した状態と同等の状態、つまり使用済の円筒状電鋳板210をスリーブ100から取り去る前の状態にする。
【0108】
次いで、コンプレッサー(図示せず)から加圧空気供給用チューブ620及び加圧空気供給プレート600を介して加圧空気910をスリーブ100の内部に供給する。これによって、加圧空気910がスリーブ100の加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を介してスリーブ外周面側開口部から互いに密着したスリーブ100の外周面と、これと重なり合っている円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させる。つまり、
図10と同等の状態にする。
【0109】
次いで、スリーブ100の外周面と、この外周面に極めて薄い加圧空気の層900を介在させながら重なった円筒状電鋳板210の内周面の形態となったことを利用して、円筒状電鋳板210をそのままの形態、つまり極めて薄い加圧空気の層900を形成させた状態のままでスリーブ100から円筒状電鋳板210を垂直上方に引き抜いていく。
【0110】
そして、最終的に
図4に示すように、使用済の円筒状電鋳板210に電鋳板除去のための何ら特別な加工を施すことなく円筒状電鋳板210をスリーブ100から分離させる。この際、上述した極めて薄い加圧空気の層900を形成させながら引き抜くことで、特別な引き抜き抵抗を受けることなく円筒状電鋳板210をスリーブ100からスムーズに引き抜くことができると共に、円筒状電鋳板引き抜き後のスリーブ100の外周面に引き抜き痕などの傷をつけることなくスリーブ100が綺麗な外周面を保ったまま円筒状電鋳板210をスリーブ100から分離することができる。
【0111】
次いで、上述した電鋳ロールの製造方法と同様の製造方法で新たな電鋳ロール1を製造する。この際、使用済の電鋳ロール1の除去の際に何ら熱影響を受けておらずかつ電鋳ロールの円筒状電鋳板210の剥離の際に生じたキズなどの剥離痕が全く生じていない使用済のスリーブ100を再研磨や再メッキ等の何ら新たな再加工を行うことなく再利用できると共に、芯金ロール300についても一旦使用したものをそのまま再利用できるリサイクル性に非常に優れた点に本発明特有の優位点を有効活用する。
【0112】
なお、この新たな電鋳ロール1の製造方法の提示について念のため以下に説明する。最初に所定寸法の矩形状に切断された新たな転写用シートの製造に使用する新たな電鋳板200を用意する。
【0113】
次いで、電鋳板200の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態でレーザー溶接することで、所定の長さと所定の内径を有した新たな円筒状電鋳板210を作成する。
【0114】
次いで、使用済で上述したように円筒状電鋳板210を取り去った使用済のスリーブ100をそのまま何ら研磨等の機械的加工やメッキ等の化学的加工等の再加工を行うことなく用意する。この際、使用済の円筒状電鋳板210の各部分の寸法は、新たな円筒状電鋳板210の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が円筒状電鋳板210の内径よりも僅かに大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部110であってテーパー部110の先端側の縮径部111の外周面が円筒状電鋳板210の外径よりも僅かに小さいことを確認する。
【0115】
即ち、使用済みの円筒状電鋳板210を抜き去った後のスリーブ100であってテーパー部110の近傍位置にスリーブ100の内周面と外周面を貫通する加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)がスリーブ100の周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブ100に何ら特別な加工を施すことなく、下端開口部及び上端開口部を閉塞すると共に、上端開口部に加圧空気供給用チューブ620を介して加圧空気供給用コンプレッサーを取り付ける。具体的には、使用済のリサイクルのためのスリーブ100を
図4に示す状態と同等の状態にセッティングする。
【0116】
次いで、新たな円筒状電鋳板210の一方の端部の縁部を全周に亘って前回使用したスリーブ100のテーパー部110に円筒状電鋳板210とスリーブ100が同芯となる状態で突き当てて位置決めする。
【0117】
次いで、新たな円筒状電鋳板210を前回使用したスリーブ100と同芯状態を保ちながら前回使用したスリーブ100に対して押し込むことで、新たな円筒状電鋳板210の前回使用したスリーブ100との接触部を拡開塑性変形させながら新たな円筒状電鋳板210の端部の前回使用したスリーブ100のテーパー部110の拡径部111を円筒状電鋳板210の内周面に入れ込む。
【0118】
次いで、新たな円筒状電鋳板210を前回使用したスリーブ100と同芯状態を保ちながら前回使用したスリーブ100に対して更に押し込むことで、新たな円筒状電鋳板210の前回使用したスリーブ100との接触部を拡開塑性変形させながら前回使用したスリーブ100に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の前回使用したスリーブ外周面側開口部を新たな円筒状電鋳板210の内周面で塞ぐ。
【0119】
次いで、前回使用したスリーブ100に形成された全ての加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)の前回使用したスリーブ外周面側開口部を新たな円筒状電鋳板210の内周面によって完全に囲んだ直後に、円筒状電鋳板210の前回使用したスリーブ100への互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止する。
【0120】
次いで、前回使用したスリーブ100の両端部を前回使用したスリーブ100の内部が気密になるように閉塞させた状態で前回使用したスリーブ100の一方の端部から加圧空気910を供給する。
【0121】
次いで、前回使用したスリーブ100内に供給された加圧空気910が複数の加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を通して加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前回使用したスリーブ100の外周面と新たな円筒状電鋳板210の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)を形成された領域であってスリーブ外周面の全周領域からスリーブ外周面とこれに対向する新たな円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させる。つまり、
図8に示す状態に極めて薄い加圧空気の層900が形成された状態にする。
【0122】
次いで、前回使用したスリーブ100の外周面と新たな円筒状電鋳板210の内周面との間全体に極めて薄い加圧空気の層900を介在させた状態を維持するように加圧空気910を前回使用したスリーブ100の内部に供給しながら、新たな円筒状電鋳板210の端部をスリーブ100のテーパー部形成側端部と反対側の端部に向かって両者の長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいく。つまり、
図10に示す状態と同様の状態にする。
【0123】
次いで、新たな円筒状電鋳板210が押し込み位置まで達した状態で前回使用したスリーブ100への加圧空気910の供給を停止することで、前回使用したスリーブ100と新たな円筒状電鋳板210との間に介在した極めて薄い加圧空気の層900を除去することにより、新たな円筒状電鋳板210の内周面全体を前回使用したスリーブ100の外周面に密着した状態で固定すると共に、前回使用したスリーブ100の両端部を塞ぐ加圧空気供給プレート600及びスリーブ気密支持用固定プレート700を取り除くことによって、前回使用したスリーブ100に何ら加工を施すことなく、新たな電鋳ロール1のサブアッシー10を製造する。
【0124】
次いで、上述した電鋳ロールの製造方法によってリサイクル製造された電鋳ロール1のサブアッシー10を用意すると共に、この電鋳ロール1のサブアッシー10に組み込み可能な寸法形状を有しかつ内部に冷却部350を有した芯金ロール300を用意する。なお、この芯金ロール300も前回利用したものを再利用するのがリサイクルの実効性を上げる観点から好ましい。
【0125】
次いで、リサイクルした新たな電鋳ロール1のサブアッシー10のスリーブ100内に芯金ロール300を挿入して芯金ロール300の一端とスリーブ100の一端をフランジ500で固定すると共に、芯金ロール300の他端とスリーブ100の他端を固定プレート500で固定することによってリサイクル後の電鋳ロール1を製造する。
【0126】
本発明に係る電鋳ロールの製造方法を用いて、電鋳ロールを製造して使用した後に使用済みの電鋳板を取り除いて新たな電鋳板を取り付けるリサイクルに際して、本発明特有の優位点を有しているので、この優位点について以下に具体的に説明する。
【0127】
従来の電鋳ロールの場合、スリーブに電鋳板を巻き付けた状態で溶接して製造しているので、仮に使用済の電鋳ロールのスリーブを再利用する場合に電鋳板を一旦強制的に剥離してこの剥離した電鋳板をスリーブに溶着させた際に残ったスリーブ外周面の溶接痕を除去するためにスリーブの外周面全体を機械加工により研磨する。そして、研磨後のスリーブに再メッキして再度研磨を行うスリーブリサイクルのための複雑な工程の作業を行う必要がある。
【0128】
また、何度もスリーブをリサイクルする場合、リサイクル毎に上述のようなスリーブ外周面全体の研磨を行うことになるので、スリーブの外径が徐々に小さくなっていく。そのため、ある程度の回数リサイクルを繰り返すと、電鋳ロールを取り付ける駆動装置の稼働スペックとなる電鋳ロールの外径寸法の要件を満たさなくなり、それ以上スリーブのリサイクル使用を行うことができなくなる。
【0129】
しかしながら、本発明によると、スリーブのリサイクルにあたってこのような作業を一切必要とせず、かつ使用済の円筒状電鋳板を取り去る際に再び加圧空気でこの円筒状電鋳板の内周面を僅かに拡開弾性変形させ、これらの間に製造時と同じような極めて薄い空気の層を形成させてスリーブに一切の余分な熱影響や機械的影響を及ぼすことなく使用済の円筒状電鋳ロールをスリーブから取り去ることができる。
【0130】
その結果、リサイクルによって繰り返し製造した電鋳ロールについても、厳密な同芯度を保った品質の良い電鋳ロールとすることができる。その上、リサイクル時に従来のように電鋳ロールの外径が小さくなることがないので、従来よりも遥かに多くの回数に亘ってリサイクルに使用することが可能となる。
【0131】
これによって、電鋳ロールの製造や終了後の電鋳ロールのリサイクルに際して極めて迅速かつ効率的に行うことができると共に、コストダウンを十分に図ることができる。特にスリーブをそのままの状態で従来とは比較できないほど多数回リサイクルできる。これによって、リサイクル毎のコストダウンが積分することで、長期の観点で見ると大幅なコストダウンにつなげることが可能となる。
【0132】
なお、上述した実施形態における電鋳ロールの製造方法及びこれに関する電鋳ロールを構成する各部品の形状は、本発明のあくまで一例を示したものに過ぎず、本発明の作用効果を発揮し得る範囲内で、その製造手順や各部品の形状、寸法、材質、加圧空気供給孔の個数を適宜変更できることは言うまでもない。
【0133】
例えば、上述の実施形態としては、加圧気体としてコンプレッサーによって圧縮した加圧空気を利用したが、空気の代わりにこれと同等の作用効果を発揮し得る気体を利用可能である。
【0134】
また、本実施形態においては、上述したように板状の電鋳板を丸めた上でレーザー溶接によって円筒状電鋳板として形成したが、レーザー溶接の代わりにプラズマ溶接によって円筒状電鋳板を形成しても本発明の作用効果を発揮することが可能である。
【0135】
また、円筒状電鋳板をスリーブに取り付けるに際して、
図4乃至
図11に示すように、スリーブを垂直に立てた状態で行う必要はなく、水平の状態やその他の軸心の角度を維持する状態で行っても良い。
【0136】
また、加圧気体を、
図8乃至
図10に示すように、スリーブの一方の端部からスリーブ内に供給する代わりに、スリーブの両端部から供給しても構わない。
【0137】
また、スリーブをリサイクルして新たな電鋳板を備えた電鋳ロールを製造するに際して、スリーブと同じく芯金ロールをリサイクルすることが可能であるが、この代わりに新たな芯金ロールを利用しても良い。
【符号の説明】
【0138】
1 電鋳ロール
10 サブアッシー
100 スリーブ
100a 取付け用雌ネジ部
110 テーパー部
111 縮径部
112 拡径部
121,122,123,・・・(120) 加圧空気供給孔
200 電鋳板
201 円筒状電鋳板形成用切断点線
205 レーザー溶接結合部
210 円筒状電鋳板
300 芯金ロール
350 冷却部
360,370 シャフト
361,371 供給経路
400 固定プレート
401 固定穴
500 フランジ
600 加圧空気供給プレート
620 加圧空気供給用チューブ
700 スリーブ気密支持用固定プレート
900 加圧空気の層
910 加圧空気
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写用シートの製造に使用するために所定寸法の矩形状に切断された電鋳板を用意して、当該電鋳板の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態で溶接することで所定の長さと所定の内径を有した円筒状電鋳板を作成すると共に、
前記円筒状電鋳板の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が当該円筒状電鋳板の内径よりも大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部を有するスリーブであって当該テーパー部の先端側縮径部の外周面が前記円筒状電鋳板の外径よりも小さく、更には前記テーパー部の近傍位置に当該スリーブの内周面と外周面を貫通する加圧気体供給孔が当該スリーブの周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブを用意し、
前記円筒状電鋳板の一方の端部の縁部を全周に亘って前記スリーブのテーパー部に当該円筒状電鋳板と当該スリーブが同芯となる状態で突き当てて位置決めし、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら当該円筒状電鋳板の端部の前記スリーブのテーパー部の拡径部を当該円筒状電鋳板の内周面に入れ込み、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して更に押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら前記スリーブに形成された加圧気体供給孔の当該スリーブ外周面側開口部を当該円筒状電鋳板の内周面で塞いでいき、
前記スリーブに形成された全ての加圧気体供給孔の前記スリーブ外周面側開口部を前記円筒状電鋳板の内周面によって完全に塞いだ直後に前記円筒状電鋳板の前記スリーブへの互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、
前記スリーブの両端部を当該スリーブの内部が気密になるように閉塞させた状態で前記スリーブの少なくとも一方の端部から気体を加圧供給し、
前記スリーブ内に加圧供給された気体が前記複数の加圧気体供給孔を通して当該加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に前記加圧気体供給孔が形成された領域であってスリーブ外周面の先端側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を介在させ、
前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させた状態を維持するように前記加圧気体を前記スリーブの内部に供給しながら、前記円筒状電鋳板の端部を前記スリーブのテーパー部形成側端部と反対側の基端側端部に向かって前記円筒状電鋳板が前記スリーブに対して長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいき、
前記円筒状電鋳板が前記所定の押し込み位置まで達した状態で前記スリーブへの前記加圧気体の供給を停止することで、当該スリーブと当該円筒状電鋳板との間に介在した気体を除去することにより、当該円筒状電鋳板の内周面全体を当該スリーブの外周面に密着した状態で固定すると共に、前記スリーブの両端部を塞ぐ閉塞板を取り除くことによって、電鋳ロールのサブアッシーを製造することを特徴とする電鋳ロールの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールのサブアッシーを用意すると共に、この電鋳ロールのサブアッシーに組み込み可能な寸法形状を有しかつ内部に冷却部を有した芯金ロールを用意し、
前記電鋳ロールのサブアッシーのスリーブ内に前記芯金ロールを挿入して当該芯金ロールを前記電鋳ロールのサブアッシーに取り付けて両者を固定することによって電鋳ロールを製造することを特徴とする電鋳ロールの製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、転写シートを製造するのに適し、特にエンボスシートや光学関係フィルムなどの転写シートを製造するのに好適な電鋳ロールの製造方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
本発明の目的は、低コストで時間をかけずに効率的に製造できる電鋳ロールの製造方法であって、この電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールの使用後に新たな電鋳ロールを製造する際に使用済みの電鋳ロールを効率的にリサイクルしながら新たな電鋳ロールを製造することも可能な電鋳ロールの製造方法を提供することにある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0020
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0020】
上述した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る電鋳ロールの製造方法は、
転写用シートの製造に使用するために所定寸法の矩形状に切断された電鋳板を用意して、当該電鋳板の対向する1組の一辺同士を長手方向全体に亘って当接した状態で溶接することで所定の長さと所定の内径を有した円筒状電鋳板を作成すると共に、
前記円筒状電鋳板の全長より所定の長さだけ長くかつ外径が当該円筒状電鋳板の内径よりも大きく、かつ一方の端部の縁部において全周に亘って形成されたテーパー部を有するスリーブであって当該テーパー部の先端側縮径部の外周面が前記円筒状電鋳板の外径よりも小さく、更には前記テーパー部の近傍位置に当該スリーブの内周面と外周面を貫通する加圧気体供給孔が当該スリーブの周方向所定の間隔を隔てて形成された筒状体からなるスリーブを用意し、
前記円筒状電鋳板の一方の端部の縁部を全周に亘って前記スリーブのテーパー部に当該円筒状電鋳板と当該スリーブが同芯となる状態で突き当てて位置決めし、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら当該円筒状電鋳板の端部の前記スリーブのテーパー部の拡径部を当該円筒状電鋳板の内周面に入れ込み、
前記円筒状電鋳板を前記スリーブと同芯状態を保ちながら当該スリーブに対して更に押し込むことで、前記円筒状電鋳板の前記スリーブとの接触部を拡開塑性変形させながら前記スリーブに形成された加圧気体供給孔の当該スリーブ外周面側開口部を当該円筒状電鋳板の内周面で塞いでいき、
前記スリーブに形成された全ての加圧気体供給孔の前記スリーブ外周面側開口部を前記円筒状電鋳板の内周面によって完全に塞いだ直後に前記円筒状電鋳板の前記スリーブへの互いの同芯状態を保ちながら押し込み動作を停止し、
前記スリーブの両端部を当該スリーブの内部が気密になるように閉塞させた状態で前記スリーブの少なくとも一方の端部から気体を加圧供給し、
前記スリーブ内に加圧供給された気体が前記複数の加圧気体供給孔を通して当該加圧気体供給孔のスリーブ外周面側開口部から互いに密着した前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間に入り込ませることで、両者の間に前記加圧気体供給孔が形成された領域であってスリーブ外周面の先端側から一定の幅の領域と、この一定の幅の領域において重なり合っている前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に加圧気体の層を介在させ、
前記スリーブの外周面と前記円筒状電鋳板の内周面との間全体に前記加圧気体の層を介在させた状態を維持するように前記加圧気体を前記スリーブの内部に供給しながら、前記円筒状電鋳板の端部を前記スリーブのテーパー部形成側端部と反対側の基端側端部に向かって前記円筒状電鋳板が前記スリーブに対して長手方向所定の押し込み位置に達するまで押し込んでいき、
前記円筒状電鋳板が前記所定の押し込み位置まで達した状態で前記スリーブへの前記加圧気体の供給を停止することで、当該スリーブと当該円筒状電鋳板との間に介在した気体を除去することにより、当該円筒状電鋳板の内周面全体を当該スリーブの外周面に密着した状態で固定すると共に、前記スリーブの両端部を塞ぐ閉塞板を取り除くことによって、電鋳ロールのサブアッシーを製造することを特徴としている。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0027】
本発明によると、低コストで時間をかけずに効率的に製造できる電鋳ロールの製造方法であって、この電鋳ロールの製造方法によって製造された電鋳ロールの使用後に新たな電鋳ロールを製造する際に使用済みの電鋳ロールを効率的にリサイクルしながら新たな電鋳ロールを製造することも可能な電鋳ロールの製造方法を提供することができる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
そして、テーパー部110の拡径部112は、円筒状電鋳板210の内径よりも僅かに大きくなっている。また、テーパー部110の縮径部111は、円筒状電鋳板210の外径よりも僅かに小さくなっている。なお、テーパー部110の拡径部112の外径と円筒状電鋳板210の内径との寸法上の差は、円筒状電鋳板210の一方の端部全周をスリーブ100のテーパー部110に当接させた状態で、円筒状電鋳板210をスリーブ100に両者の同芯度を保ったまま作業者の手作業や専用の治具を用いて押し込んだ際に、円筒状電鋳板210のスリーブ当接側端部が拡開塑性変形してスリーブ106の外周面を覆いながらスリーブ100のテーパー部110及びその近傍に形成された加圧空気供給孔211,212,213,・・・(210)を全て塞ぐことを可能とする寸法差となっている。
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0040
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0040】
上述のように円筒状電鋳板210のスリーブ当接側端部が拡開塑性変形することで、この部分がテーパー部110の形成されたスリーブ100の端部近傍の外周面全周に亘って等しく馴染むように覆い被さっていくようになっている。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0044
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0044】
この際、スリーブ100に形成された加圧空気供給孔121,122,123,・・・(120)のスリーブ外周面側開口部を囲む円筒状電鋳板210の内周面とスリーブ100の外周面の重なり部分の領域が均等に拡開塑性変形することで、この部分がテーパー部110の形成されたスリーブ100の端部近傍の外周面全周に亘って等しく馴染むように覆い被さっていく。