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▶ 鈴木 英二の特許一覧

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  • 特開-股関節装具 図1
  • 特開-股関節装具 図2
  • 特開-股関節装具 図3
  • 特開-股関節装具 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114476
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】股関節装具
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20230810BHJP
   A61H 1/02 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61H1/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016778
(22)【出願日】2022-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】508065525
【氏名又は名称】鈴木 英二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英二
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA09
4C046AA25
4C046AA42
4C046BB03
4C046BB08
4C046CC01
4C046DD06
4C046DD38
4C046DD39
4C046DD41
4C046FF02
4C046FF12
4C046FF25
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で、股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、補助の方向と強さを調整して実施できる股関節装具を提供すること。
【解決手段】上記課題を達成するために、体幹コルセット部と大腿カフ部を持ち、両者が伸縮性のある平らなゴムなどのバンドで連結されており、立位歩行時の股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、バンドの固定位置や緊張の度合いや本数を調整することにより、補助の方向や強度を調整して実施できる股関節装具。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体幹コルセット部と大腿カフ部を持ち、両者が伸縮性のある平らなゴムなどのバンドで連結されており、立位歩行時の股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、バンドの固定位置や緊張の度合いや本数を調整することにより、補助の方向と強さを調整して実施できる股関節装具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歩行練習のための股関節装具に関する。
【背景技術】
【0002】
股関節装具は、人工股関節置換術後に脱臼防止のため股関節外転位保持を目指し処方されることがある。また、小児疾患であるペルテス病、先天性股関節脱臼に対し、股関節の外転位保持のために用いられる(非特許文献1)。
【0003】
また股関節装具は、重度の脳性麻痺などにおいて、ダイヤルロックまたはリングロックを用いて股関節を固定し、立位、歩行の練習のために処方される(非特許文献2)。
【0004】
一方、脳卒中片麻痺患者の歩行練習では、股関節をコントロールする機能のある装具はほとんど処方されない。脳卒中片麻痺患者に対して最も処方が多いのは、足関節のみをコントロールする短下肢装具である。
【0005】
短下肢装具は、脳卒中患者の足関節の痙性による運動障害を矯正するための標準的装具である。短下肢装具を装着した歩行で不安定性な場合は、まず足関節固定角度の調整で対処できないかをみる。
【0006】
足関節固定角度の調整で歩行の安定性が確認されれば、歩行練習が進むにつれて足関節継手に可動性をもつ装具が検討対象となる。GaitsolutionやRapsなどの足関節の遊動性を保ちながら痙性を制御する様々な工学的機構を持つ短下肢装具が制作されている(非特許文献5、非特許文献6)。
【0007】
逆に、短下肢装具を用いて色々な試行錯誤を行っても歩行を安定させることができない場合は、膝関節も固定できる長下肢装具が選択される。
【0008】
さらに長下肢装具を用いても、障害が重度で歩行が不安定なことがある。これは股関節に十分な随意性や筋力がない場合である。
【0009】
しかし、このような重症脳卒中症例でも、長下肢装具の機能に加えて股関節制動機能も有する装具はほとんど処方されない。そのような装具は高額となり、装着が大変で、将来的な実用性は低いと判断されるためである。
【0010】
こうした股関節の随意的コントロールが不十分な重症脳卒中症例では、股関節の不安定性は治療者による介助により補われ、前述のような長下肢装具を用いて歩行練習が実施される。当然ながら、歩行練習はかなり難渋することになる。
【0011】
その他の重症脳卒中症例に対する歩行練習のための機材として体幹牽引装置がある。体幹牽引装置は、歩行時の側方重心移動を妨げるので、歩行練習中に弱めの牽引力をかけて転倒事故防止装置として使用する意義はあるが、歩行を積極的に補助する装置として使用することはできない。
【0012】
一般に、脳卒中における歩行障害の原因は、筋緊張が異常に亢進する下肢痙性と、体幹や下肢の筋力低下である。痙性とは、不随意的に筋の緊張が異常に亢進した状態である。
【0013】
脳卒中患者の足関節の痙性に関しては、段落番号6に示したように色々な短下肢装具が開発されてきた。しかし、脳卒中による歩行障害のもう一つの原因である筋力低下、特に股関節周囲筋などの下肢近位部の筋力低下に対して、装具によって対応することはあまりなされてこなかった。
【0014】
しかし、重症脳卒中症例では従来の装具に加えて股関節周囲筋の筋力低下を補い安定させる機構が必要な症例が増えている。これは、高齢者が増加し、脳卒中再発例や、内科的合併症により臥床を余儀なくされ近位筋の筋力低下が問題となる廃用症候群の症例が増えてきたためである。
【0015】
また、整形外科疾患である大腿骨頸部骨折や変形性股関節症の術後のリハビリテーションでも、膝、足関節には問題ないが股関節周囲筋が弱いという病態への対応が必要である。この場合、股関節周囲筋の筋力低下を単独に補う装具により、立位、歩行バランスの改善を図り、歩行の動作学習をスムースに進めていくことができる。
【0016】
しかし現状では、このような治療目的をもった股関節装具は制作されていない。
【0017】
我々は、近年増加している高齢者へのリハビリテーション治療の経験から、歩行時の体幹、股関節などの近位筋に対する補助方法について、もっと検討しなくてはいけないという考えに至った。
【0018】
こうした重度障害高齢患者の歩行練習時は、立位バランスの保持、股関節伸展による前方への重心移動、下肢振り出しなど非常にたくさんの事項へ注意を払わなくてはならない。股関節周囲筋の筋力低下を適切に補助できる機材があれば、こうした練習において有用である。
【0019】
股関節周囲筋の機能補助を電子制御によるアクチュエーターで行う装置はたくさん開発されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4)。
【0020】
これらの装置が有効である可能性はあるが、高価となり、装着から出力調整にも時間がかかり、1つの施設で複数用意して多くの患者に装着してもらい歩行練習ができる状況は、当面想定しがたい。また、これらの装置の患者の機能変化や体格への対応は必ずしも柔軟ではない。
【0021】
アクチュエーターによる股関節機能補助システムの機構上の問題点について、図4左の股関節伸展補助をする例を用いて説明する。どの装置も、アクチュエーターの力を生体に伝達する方式について同様の力学的機構で構成されている。
【0022】
駆動部のアクチュエーターは股関節の側方に位置し、体幹と大腿のカフに金属アームで力を伝達している。このカフの幅が「てこ」のレバーアームとして作用することになる。この方式では大きな力をかけることはできないし、カフがずれやすい。
【0023】
これは、補助機構が、図4右に示すような装具の3点固定の原則(装具中央の1点で関節を押し、関節の上下の2点のレベルで逆方向から押すことで矯正力を発揮するという装具の力学的原則)に基づいていないためであり、身体機能補助の方式として不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特願2019-186345(P2019-186345)
【特許文献2】特願2019-9158(P2019-9158)
【特許文献3】特願2018-77424(P2018-77424)
【特許文献4】特開2015-139666(P2015-139666A)
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】笠原吉孝:ペ ル テ ス 病 に 対 す るSPOC装具、日本義肢装具学会誌4(3):195~196,1988
【非特許文献2】啓愛義肢装具販売所カタログ 2021股関節 股関節ダイヤルロック、リングロック www.po.kioa.co.jp/po-gest/pdf/kashi_2021.pdf (kioa.co.jp) r3.12.28参照
【非特許文献3】渡辺英夫:最近の下肢装具の適応.リハビリテーション医学 vol. 21 no. 1 1984年1月 p61-64
【非特許文献4】阿部浩:急性期から行う脳卒中重度片麻痺例に対する歩行トレーニング 理学療法の歩み27 巻1 号 2016 年1月、p17-27
【非特許文献5】GAITSOLUTION PACCIC SUPPLY社 https://www.p-supply.co.jp/data/files/00001157-1.pdf r3.1.8参照
【非特許文献6】RAPS Remodeled Adjustable Posterior Strut 東名ブレイス株式会社 https://www.tomeibrace.co.jp/products/pdf/raps.pdf r3.1.8参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、簡単な構造で、股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、補助の方向と強さを調整して実施できる股関節装具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0027】
股関節装具であって、体幹コルセット部と大腿カフ部を持ち、両者が伸縮性のある平らなゴムなどのバンドで連結されており、立位歩行時の股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、バンドの固定位置や緊張の度合いや本数を調整することにより、補助の方向と強さを調整して実施できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
股関節装具であって、体幹コルセット部と大腿カフ部を持ち、両者が伸縮性のある平らなゴムなどの素材のバンドで連結されており、立位歩行時の股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、バンドの固定位置や緊張の度合いや本数を調整することにより、補助の方向と強さを調整して実施できることを特徴とすることで、簡単な構造で、股関節の伸展補助、外転補助、屈曲補助を、補助の方向と強さを調整して実施できる股関節装具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明を実施するための最良の形態の右下肢用の股関節装具の正面図である。股関節の伸展を補助するように伸縮性のある平らなゴムなどのバンドが股関節の後方に取り付けられている。病態に応じて、バンドの固定位置を変更することにより立位歩行時の股関節の伸展、外転、屈曲を補助でき、バンドの緊張の度合いや本数の違いにより補助の強度を調整できる。
図2】本発明を実施するための最良の形態の右下肢用の股関節装具を後面から見た図である。
図3】本発明を実施するための最良の形態の右下肢用の股関節装具で示す。左図では股関節の伸展を補助するように伸縮性のある平らなゴムなどのバンドが股関節の後方に取り付けられている。中央図では股関節の外転を補助するように伸縮性のある平らなゴムなどのバンドが股関節の側方に取り付けられている。右図では股関節の屈曲(下肢振り出し)を補助するように伸縮性のある平らなゴムなどのバンドが股関節の前方に取り付けられている。
図4】左は段落番号13,段落番号14に示したような股関節の側方に位置するアクチュエーターによる股関節伸展補助の様式を示す。右は本発明による装具の3点固定の原則に基づいた股関節伸展補助の様式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面に示す発明を実施するための最良の形態により、本発明を詳細に説明する。
【0031】
図1図2の本発明を実施するための最良の形態において、1は体幹コルセット、2は大腿カフ、3は伸縮性のある平らなゴムバンドである。
【0032】
1の体幹ベルトは体格に合わせて長さを調整できる。体幹ベルトの表側には、全周にわたり、2の伸縮性のあるゴムバンドを病状にあわせて調整し強固に付着できるように面ファスナーなどの固定機構を備えている。
【0033】
2の大腿カフは患者の体型にあわせて調整できる機構をもつ。3の伸縮性のあるゴムバンドを縫着などの方法で固定している。
【0034】
3の伸縮性のあるゴムバンドは、重ねる枚数や長さで牽引の強度を調整できる。
【0035】
本発明では、図4右に示すように、装具の3点固定の原則(装具中央の関節レベルの1点で押し、上下の2点のレベルで逆方向から押すことで矯正力を発揮するという装具の力学的原則)を用いており、段落番号13,段落番号14に示したような電子制御によるアクチュエーターで行う装置よりも大きな補助力を安定して加えることができる。
【0036】
股関節伸展補助をする場合は、図3左に示すように伸縮性のあるゴムバンドが股関節後方になるように取りつける。股関節外転補助をする場合は、図3中に示すように伸縮性のあるゴムバンドが股関節外側なるように取りつける。股関節伸展屈曲(歩行時の振りだし)を補助する場合は、図3右に示すように伸縮性のあるゴムバンドが股関節前方になるように取りつける。
【実施例0037】
段落番号8で示したような、股関節伸展機能が弱い脳卒中患者では、長下肢装具や短下肢装具+膝関節固定装具により足関節や膝関節を安定させた上で、本装具のゴムバンドが大腿後方に位置するように取りつけることで股関節伸展の補助が可能となる。患者の筋出力が弱ければゴムバンドの補助力を強力にする必要がある。訓練が進むにつれ、ゴムバンドの補助力を弱めていく。また、股関節伸展補助力により、歩行時の下肢振り出しがに対する介助が必要となる症例もありうる。
【0038】
歩行時に体幹が側方へ動揺する場合は、中殿筋の筋力低下が原因である。図3中央に示したように、本装具のゴムバンドを大腿外側に位置させ、補助力を体幹側方へ作用させることで、歩行の安定性を得られる。
【0039】
腸腰筋など歩行時の下肢振り出しの筋力が低下している場合は、腸腰筋の筋力低下が原因である。図3右に示したように本装具のゴムバンドを大腿前面に位置させ、補助力を体幹前方に作用させることで、歩行時の下肢振出を改善できる。
【0040】
大腿骨頸部骨折や変形性股関節症の術後では、股関節伸展機能が単独で低下している症例が多い。この場合は本装具を単独で用いる。図3左に示すように、本装具のゴムバンドが大腿後方に位置するように取りつけることで股関節伸展の補助が可能となる。
【0041】
股関節装具を個別に作成しても、重度障害の脳卒中患者や整形外科疾患である大腿骨頸部骨折や変形性股関節症の術後において、リハビリテーションの一段階においては有用であっても、退院後も長期間にわたり日常生活上使用する可能性は必ずしも高くない。
【0042】
従って本装具は、患者個別に作製するよりも、リハビリテーション科訓練室の備え付け備品として、いくつかのサイズ、補助強度のものを用意し、多くの患者が共用で使用することを前提としている。
【符号の説明】
【0043】
1・・・体幹部コルセット
2・・・大腿部カフ
3・・・伸縮性のある平らなゴムなどのバンド
図1
図2
図3
図4