(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114481
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】聴診システム
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
A61B7/04 U
A61B7/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016786
(22)【出願日】2022-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】522050088
【氏名又は名称】塩安 佳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100108567
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】塩安 佳樹
(57)【要約】
【課題】患者の体内器官が発する器官音を平面ディスプレイのような表示器において表示することが可能な聴診システムにおいて、表示器による表示の中で患者の器官音の特徴が際立つように表示することを可能にする。
【解決手段】聴診器で集音された体内器官から発する器官音のデータは、複数の周波数区域ΔF1~ΔF4毎の区域データに区分けされる。表示器においては、周波数軸(f)に沿って区分けされた周波数区域ΔF1~ΔF4のうち一部又は複数の指定周波数区域が指定され、器官音の音強度の強さが音強度軸(i)に沿う方向の波高さとして表示される。表示器には、区域データに基づいて、器官音が時間軸(t)に沿う時間経過に伴って変化する波形として擬似的に三次元表示される。表示器には、周波数の区分けに基づいて器官の正常でない成分が検出されて表示され、器官についての診断が容易になる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の体内器官から発する器官音を集音する聴診器、
前記聴診器に接続可能であり、前記聴診器から入力される前記器官音について時間の経過に伴って変化する音強度を含む器官音データを生成する本体装置、及び
前記本体装置に接続されており、前記本体装置が生成した前記器官音データに基づいて、前記器官音の時間変化を表示する表示器
を備えており、
前記本体装置は、前記器官音データを複数の周波数区域毎の区域データに区分けし、前記表示器には、前記複数の周波数区域を表示させるとともに、前記周波数区域のうち指定された一つ又は複数の指定周波数区域に応じて、当該指定周波数区域に対応した前記区域データに基づく前記音強度の時間経過を表示させること
から成る聴診システム。
【請求項2】
前記表示器での前記指定周波数区域に応じた前記音強度の表示は、当該音強度の高さ方向に増幅表示可能であること
からなる請求項1に記載の聴診システム。
【請求項3】
前記本体装置には前記音強度に基づく音声を出力可能なスピーカが接続されており、前記スピーカから出力される前記指定周波数区域に応じた前記音強度の音声出力は、増幅出力可能であること
からなる請求項1又は2に記載の聴診システム。
【請求項4】
前記周波数区域は、隣り合う前記周波数区域の間で前記周波数の重複及び空白が生じることなく前記周波数の軸に沿って連続して並ぶ態様が維持されつつ、前記指定周波数区域が変更可能であること
から成る請求項1~3のいずれか一項に記載の聴診システム。
【請求項5】
前記器官音データは、二つ以上の異なる聴診日時において聴診された前記器官音についてのデータであり、前記表示器においては、前記各聴診日時における前記器官音データに基づく前記指定周波数区域における前記音強度の前記時間経過が、表示色又は表示線種を変えて並べて表示されること
から成る請求項1~4のいずれか一項に記載の聴診システム。
【請求項6】
前記器官音は心音であり、前記指定周波数区域は、前記心音のI音とII音がそれぞれ生じると推測される周波数区域、若しくは前記I音後で且つ前記II音前、又は前記II音後にそれぞれ異常音が生じると推測される周波数区域であること
から成る請求項1~5のいずれか一項に記載の聴診システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、人体の心臓、肺又は消化器官等の体内器官から発生する器官音を聴診器で集音し、集音された器官音から変換された電気的な音信号データに基づいて器官音の時間変化を表示する聴診システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の呼吸器・循環器・消化器等の各体内器官の疾患を診断するために聴診器が広く用いられている。医師が聴診器を用いた場合には、通常、その医師のみが患者の各器官から発生する器官音を当該聴診器で集音して聴き、その器官音の特徴に基づいて患者の体内器官の病状等を診断している。しかしながら、当該医師の周囲に他の医師や看護師等の医療従事者がいたとしても、聴診器を装着していない者は患者が発する器官音を聴くことができない。周囲の医療従事者は、実際に器官音を聴いている医師との間で患者の体内器官についての情報を共有することができないので、必ずしも患者への的確な対応を協調して取ることができないおそれがある。また、患者本人も自己の器官音を聴くことができないので、患者の医師等の診断に対する納得度や信頼度に影響が出ることも有り得る。
【0003】
そこで、人体から発生される呼吸音、心音、消化器音等の可聴音をリアルタイムで三次元表示することで、視認性、操作性を高くしたビジュアル聴診器、その画像表示方法及びその画像表示プログラムが提案されている(特許文献1、2)。
【0004】
特許文献1には、呼吸音を集音しアナログ電気信号に変換する集音器と、アナログ電気信号をデジタルデータである呼吸音データに変換するA/D変換手段と、周波数成分、時間及び音強度を基に表示呼吸音データを三次元表示する表示手段を備え、少なくとも一フレーム時間長の呼吸の呼吸音を実時間で時系列的に三次元表示することを特徴とする呼吸音監視モニタ装置、呼吸音可視化方法及び呼吸音可視化プログラムが開示されている。
呼吸音データを音強度(波高値)軸、時間軸および周波数軸の3軸で、少なくとも一周期の呼吸の呼吸音を実時間で時系列的に、表示手段の画面上に三次元的に可視化することが可能となり、患者の呼吸の様子がリアルタイムで且つ三次元表示として動的に表示・確認される。この結果、多くの医師や看護師が、同時にかつリアルタイムで患者の呼吸状態を、呼吸音を聴き取るのと同様な感覚で目視しつつ呼吸音の全体像を容易に把握することができ、客観的で且つ迅速な診察・処置が可能となる。
【0005】
特許文献1では、低レベル伸張回路で、伸張レベル以下の波高値の呼吸音データを、所定の拡大率で伸張レベル以上に伸張し、小さな大きさの呼吸音を目視しやすい大きさに強調して表示でき、呼吸音の全体像を適格に把握することを行っている。また、可聴周波数帯域全域を幾つかの周波数帯域に分割しており、分割する周波数幅は低い周波数から高い周波数に向かって幅が拡がる周波数幅であり、それぞれに区画された周波数帯域に相異なる重み付け値が設定される。この周波数帯域の分割の周波数幅は、人間の聴感特性(低周波数の音では周波数の違いを聞き分けやすく、高周波数の音では周波数の違いを聞き分けにくい)に合致したもので、高音に比べ低音を細密に表示する。実時間で呼吸音を三次元表示するのみではなく、記憶装置に呼吸音データを保存しておき、記憶されたものも事後的に表示しても良いとされ、また、マイクは無線手段や、LAN等の電気通信回線を用いてネットワークを介して接続してもよい、としている。
【0006】
特許文献2は、特許文献1に開示された可聴音の監視モニタ装置の視認性、操作性及び監視対象の範囲の改善を図ろうとする技術が提案されている文献であり、例えば、開示されているビジュアル聴診器によれば、呼吸音および心音を含む人体から発生する可聴音がデジタルデータに変換された可聴音デジタルデータを入力し、複数の周波数毎の振幅データに変換する周波数変換手段と、複数の周波数毎の振幅データに変換された可聴音デジタルデータを、振幅、周波数および時間に基づいて三次元画像として実時間で表示させるための画像処理を行う三次元画像処理手段と、周波数変換手段および前記三次元画像処理手段に対する各種パラメータを設定するパラメータ設定手段と、前記三次元画像処理手段によって画像処理される三次元画像を予め定めた手順に従って自動的に変更する表示自動変更手段とを備えている。
【0007】
ところで、患者の心音等の体内器官が発する器官音は元来、個人差のある音であるが、上記した従来技術では器官音を三次元表示するにしても、その患者個人が示すかもしれない器官音の特徴までを考慮して対処し表示しようとするものではない。即ち、患者の器官音を三次元表示しても、そこの潜む可能性のある患者個人の特徴を的確に表示することができるようになっていなければ、患者にとって相応しい診断やそれに基づく治療方針が得づらくなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-033254号公報
【特許文献2】特許第3625294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、患者の体内器官が発する器官音を平面ディスプレイのような表示器に表示することが可能な聴診システムにおいて、その表示の中で器官音の患者個人によって異なり得る特徴を的確に表示することを可能にする点で解決すべき課題がある。
【0010】
この発明の目的は、上記課題を解決することであり、患者の心音等の体内器官が発する器官音を平面ディスプレイのような表示器に表示をするときに、患者個人によって異なり得る特徴を的確に表示可能とすることで、医療従事者が当該特徴を当該患者に相応しい診断や治療方針に役立つ情報として利用することができる聴診システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明による聴診システムは、
人体の体内器官から発する器官音を集音する聴診器、
前記聴診器に接続可能であり、前記聴診器から入力される前記器官音について時間の経過に伴って変化する音強度を含む器官音データを生成する本体装置、及び
前記本体装置に接続されており、前記本体装置が生成した前記器官音データに基づいて、前記器官音の時間変化を表示する表示器
を備えており、
前記本体装置は、前記器官音データを複数の周波数区域毎の区域データに区分けし、前記表示器には、前記複数の周波数区域を表示させるとともに、前記周波数区域のうち指定された一つ又は複数の指定周波数区域に応じて、当該指定周波数区域に対応した前記区域データに基づく前記音強度の時間経過を表示させること
から成っている。
【0012】
この聴診システムによれば、医師等の医療従事者が聴診器を患者の胸部、腹部、背部等の各部に当てることによって体内器官が発する器官音を聴くときには、聴診器によって集音された器官音は本体装置に送られる。本体装置においては、入力された器官音について、器官音の時間経過に伴って変化する音強度と、その経過時間の要素を含む器官音データが生成される。
本体装置は、生成された器官音データに基づく器官音を表示器上で表示するに際して、器官音データを複数の周波数区域毎の区域データに区分けする。表示器には複数の周波数区域が表示される。周波数区域のうち指定された一つ又は複数の指定周波数区域に応じて、当該指定周波数区域に対応した区域データに基づいて、音強度の時間経過が表示される。指定周波数区域に応じて、音強度が音強度軸に沿う方向の波高さとされ、当該音強度が時間の経過に従って変動する様子が、その経過時間を表す時間軸に沿う波形として表示される。本体装置に接続されている表示器においては、表示画面は二次元ではあるが、複数の周波数区域を区切って表示させるために用いられる周波数軸と、各周波数区域に応じて音強度を表示するための音強度軸と、音強度が変動する様子を表示するための時間軸とから成る擬似的な三次元軸が表示され、器官音データによる波形がその擬似的な三次元軸の座標上に表示される。
患者から発する器官音には、元来、広範囲に分布する周波数成分が含まれている。患者の体内器官に組織的又は機能的な不具合が生じている場合には、聴診器によって集音された器官音には、正常な器官では現れることがないが患者個人に依存する周波数領域において有意で特徴的な音強度が示されることがある。指定周波数区域においては、当該区域の周波数帯域に応じて患者の器官音の音強度が時間軸に沿って変化する波形として表示されるので、医療従事者はその音強度の波形に患者の病状的な特徴が表れている場合には、その特徴に基づいて適切な診断をすることができる。
【0013】
この聴診システムにおいて、前記表示器での前記指定周波数区域に応じた前記音強度の表示は、当該音強度の高さ方向に増幅表示することができる。
表示器における表示の中で、指定周波数区域に応じた音強度が十分強くない場合には、指定周波数区域に応じた代表的な音強度を増幅して表示することで、医療従事者が音強度の表示を見やすくすることができる。この増幅表示は、医療従事者の操作により表示させることが好ましい。
【0014】
この聴診システムにおいて、前記本体装置には前記音強度に基づく音声を出力可能なスピーカが接続されており、前記スピーカから出力される前記指定周波数区域に応じた前記音強度の音声出力を増幅出力することができる。
本体装置にスピーカを接続することで、聴診器で集音した器官音をスピーカから音声出力させて、周囲の医療従事者や、場合によっては患者自身も集音された器官音を聴くことができる。指定周波数区域に応じた当該音強度についてスピーカからの音声出力が十分強くない場合には、スピーカの音声出力を増幅することで聴きやすくすることができる。この音声の増幅出力についても医療従事者の操作により行うことが好ましい。指定周波数区域に応じた当該音強度については、表示器における増幅表示とスピーカからの音量増幅とを同時に行うことで、医療従事者が更に診断しやすくなる。
【0015】
この聴診システムにおいて、前記周波数区域は、隣り合う前記周波数区域の間で前記周波数の重複及び空白が生じることなく前記周波数の軸に沿って連続して並ぶ態様を維持しつつ、前記指定周波数区域を変更することができる。
複数の周波数区域への分割については、器官音データが周波数に関して重複する、或いは空白が存在する、というような状況を生じさせないために、隣接する周波数区域が一部でも重複することなく、また隣接する周波数区域間で空白となる周波数領域が生じることなく、周波数区域が周波数の軸に沿って連続して並ぶ態様に分割することが好ましい。周波数区域の変更は、当該区域の上限と下限の周波数の変更であり、この変更には当該上下限の周波数間の区域幅(周波数幅)を維持しながらシフトさせる変更のみならず、当該区域幅を増減させる変更も含まれる。
体内器官に応じて器官音の周波数区域が予め予想される場合には、体内器官毎にプログラムの従ってそうした周波数区域の分割を自動的に行ってよい。また、複数の周波数区域の分割、或いは周波数区域の調整を医師等の医療従事者が手動で行えるようにすることが好ましい。
【0016】
この聴診システムにおいて、前記器官音データは、二つ以上の異なる聴診日時において聴診された前記器官音についてのデータであり、前記表示器においては、前記各聴診日時における前記器官音データに基づく前記指定周波数区域における前記音強度の前記時間経過を表示色又は表示線種を変えて並べて表示することができる。
表示器上においては、例えば、現在の診断時の器官音データに基づく表示と以前の診断時の器官音データに基づく表示というように、時間が離れた複数の表示が同時に表示されるので、これらの表示を画面切り替え無しに一度に見ることができる。この場合、表示色又は表示線種を変えて表示することにより、新旧の器官音データを区別して見ることができる。現在の診断時の器官音データの表示を以前の診断時の器官音データの表示と比較することで、患者の症状の変化の有無や変化の程度の診断に資することができる。
表示器の分割された表示領域に並べて表示すること、或いはこれらの表示を重ねて表示することができる。この場合、表示器上においては、特定の周波数区域のみについて、現在及び以前の診断時の表示をすると、表示が簡素化されて分かり易くなり、患者の症状の診断に好適となる。
【0017】
この聴診システムにおいて、前記器官音は心音であり、前記指定周波数区域は、前記心音のI音とII音がそれぞれ生じると推測される周波数区域、若しくは前記I音後で且つ前記II音前、又は前記II音後にそれぞれ異常音が生じると推測される周波数区域であるとすることができる。
器官音を心音とする場合には、特に、心音のI音とII音がそれぞれ生じると推測される周波数区域について、音強度の時間変化を表示することで、この聴診システムは、I音とII音の時間的に分裂が生じている場合の診断に有効である。
【発明の効果】
【0018】
この発明による聴診システムは、上記のように構成されているので、本体装置は生成された器官音データを複数の周波数区域毎の区域データに区分けし、区分けされた周波数区域のうち一つ又は複数の周波数区域が指定され、本体装置に接続されている表示器には、当該指定された周波数区域について、当該区域データに基づいて器官音の音強度が時間経過に伴って変化する様子が波形として表示される。患者から発する器官音には、元来、広範囲に分布する周波数が含まれているが、この周波数範囲を複数の周波数区域に区分けすることで、表示器においては、器官音を区分けされた周波数区域毎にその音強度の時間経過に伴って変化する波形を表示することができる。
表示すべき音強度は、指定周波数区域の選択と調整を行い、選択と調整が行われた当該指定周波数区域に属する音強度を表示することで、患者個人の病状に応じて当該指定周波数区域において際立たされた特徴的な音強度として表示することが可能になる。
この聴診システムによれば、聴診器を装着していない周囲の他の医師や看護師等の医療従事者が、呼吸音、心音、消化器音等の患者が発する器官音についての情報に接することができ、聴診器を装着した医師との間で、正確な患者情報を共有することが可能になる。医療従事者は、全員で、患者への的確な対応を協調して取ることができる。また、患者の体内器官が発する器官音を平面ディスプレイのような表示器に表示するときに、正常な器官では現れることのない周波数領域において、患者によっては有意の特徴的な音強度際立たせて表示することで、当該患者にとって相応しい診断や治療方針に役立つ聴診システムを提供することができる。
聴診器には膜型やベル型のような構造の異なる型式があり、それぞれ集音する周波数領域について得手・不得手がある。本発明では強調度合いを調節することで音強度が強調表示されるので、聴診器の型式に囚われることなく、考慮すべき周波数領域に亙って器官音を集音することができる。また、両型式の聴診器を常に確保しておくことも不要になり、型式の変更作業、或いは元の型式に戻す作業等に手間取ることもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明による聴診システムの例を概略で示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明による聴診システムに備わる表示器に表示される心音の表示の例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明による聴診システムにおいて音強度の表示とスピーカからの音声出力の増幅を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明による聴診システムの表示器において複数の表示を同一表示画面で表示する態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付した図面に基づいて、この発明による聴診システムの実施例を説明する。
図1は本発明による聴診システムの例を概略的に示す斜視図であり、
図1(a)は、ゴムチューブ式の聴診器を用いており且つ本体装置との間を有線にて接続している聴診システムの実施例を示す図面であり、
図1(b)は無線式の聴診器を用いており且つ聴診器と本体装置との間も無線で接続している聴診システムの実施例を示す図である。実施例では、人の器官音として、心臓が発する音(心音)を例に取って説明する。
【0021】
図1(a)に示す聴診システム1aと
図1(b)に示す聴診システム1bは、聴診器2a,2b(総称する場合には符号2を用いる。以下同じ)がゴムチューブ式か無線式かであるかの構造、及び聴診器2と本体装置3との接続形態が異なる以外は、基本的に同じ構成を備えている。即ち、聴診システム1aと聴診システム1bは、いずれも、聴診器2が接続可能な本体装置3と、本体装置3に接続可能であって聴診器2によって集音された心音を表示可能な表示器4とを備えている。本体装置3は、例えば、図示されているように、デスクトップ型のパーソナルコンピュータの構成とすることができ、こうした構成を採用する場合には、パーソナルコンピュータに通常備わる入力手段であるマウス11やキーボード12を用いて、表示器4の表示画面上で、聴診器2、本体装置3及び表示器4の各種設定や操作を行うことができる。
【0022】
本体装置3には、パーソナルコンピュータの構成と同様に、器官音を再生・出力するスピーカ13,13を備えることができる。表示器4は、液晶パネルのような平面ディスプレイであってよい。表示器4は、本体装置3がデスクトップ型のパーソナルコンピュータであるので、本体装置3から分離したものとして示されているが、本体装置3に一体化したもの、例えば両者を一体の薄板構造としたタブレットのような型式であってもよい。また、本体装置3をデスクトップ型に代えてノート型のパーソナルコンピュータの構成とすることによって、表示器4は本体装置3と折り畳み可能なもの、或いは本体装置3から分離可能なものとすることもできる。図示の例では、スピーカ13,13は、外部スピーカとして本体装置3に有線で接続されているが、内蔵スピーカとして本体装置3や表示器4に内蔵させることもできる。
【0023】
本体装置3と表示器4との間の接続については、ケーブルやハーネスのような有線にて接続することができ、或いはブルートゥース(登録商標)等の送受信機を備えることで無線にて接続することもできる(以下、本体装置3と表示器4間に限らず、本発明の実施例に用いられる無線通信について同様)。表示器4上での表示操作としては、ON・OFFや拡大・縮小、コントラスト等の表示器4自体の基本的な操作・設定に加えて、後述するように、心音データに関する表示等の詳細な又は複雑な操作・設定についても行うことができる。大型の表示器4を用いれば、多くの医療従事者が同時にスピーカ13,13で心音を聴きながら、表示器4の表示画面上に表示される心音情報を共有することができるので、適切な診断等に資することができる。
【0024】
図1(a)に示す聴診システム1aでは、心音を集音する聴診器2aは、患者(心音の場合には胸部、心音以外を聴診目的とする場合には、腹部、背部等)に当てられるチェストピース5と、チェストピース5に対して先端側で繋がれる接続手段としてのゴム管6と、ゴム管6の手元端側で接続され且つ二股に分岐した耳管7,7と、耳管7,7のそれぞれに接続されるイヤーピース8,8を備えたゴム管式の聴診器である。チェストピース5で集音された器官音としての心音は、ゴム管6、耳管7,7及びイヤーピース8,8を通じて、空気を媒体とした音信号として、聴診器2aを用いている医師や看護師等の医療従事者の耳に伝達される。聴診器2aの適当な部位、図示の例では耳管7,7が分岐する部位に、空気振動としての音信号を電気信号に変換する変換器9が設けられており、変換された電気信号は、変換器9と本体装置3を繋ぐケーブル等の有線14を通じて本体装置3に入力される。変換器9の設置箇所としては、上記した部位に限らず、例えば聴診器2aのチェストピース5とすることもできる。なお、チェストピース5は、高周波音を集音する場合には膜型が適しており、低周波音を集音する場合にはベル型が適している。心雑音等はベル型でも聴取することができる。
【0025】
図1(b)に示す聴診システム1bでは、心音を集音する聴診器2bは、患者に当てられる集音部としてのチェストピース5、耳管7,7及びイヤーピース8,8を備えた無線式の聴診器である。図示の例では耳管7,7を備えているが、イヤーピース8,8は電気信号を音信号に変換する機能を備えたイヤーフォンやヘッドフォンの形態でも構わないので、この形態の場合には図示されているようなタイプの耳管7,7は必ずしも必要ではない。聴診器2bにおいては、本体装置3を中心として、チェストピース5とイヤーピース8,8(場合によっては耳管7,7)に設けられる変換器9,9との間の接続を無線で行う形態を示している。ゴム管6を用いていなくてもチェストピース5が集音した音信号は当該無線通信機能を介してイヤーピース8,8にて再生されるので、聴診器2bの構成が簡素化され且つゴム管6の長さに制約されない使い勝手が良好なものとなる。なお、無線式の聴診器2bの利便性を向上させるため、変換器9,9間の通信チャンネルを変更するなどして、本体装置3を介さなくてもチェストピース5からイヤーピース8,8(場合によっては耳管7,7)に対して直接に無線通信する機能を備えることもできる。
【0026】
聴診システム1bでは、チェストピース5及びイヤーピース8,8と本体装置3との間において無線による通信機能が備わっており、聴診システム1aにおいてチェストピース5側と耳管7側に備わる変換器9,9を、本体装置3との間で無線通信機能を備えたものに置き換えたものである(ゴム管6が省略される)。チェストピース5が集音した音信号は、変換器9によって電気信号に変換された後、変換器9に備わる送信機能を介して本体装置3に対して無線にて送信され、本体装置3に入力される。聴診器2bと本体装置3との間で無線通信をする場合、聴診器2bと本体装置3とを有線接続するとした場合のケーブルやハーネス等の有線14は不要であるので、聴診器2bと本体装置3の回りの配線に配慮することがなくなる。有線14を不要とすることは、聴診器2bがゴム管6を必要としていない無線式とすることと相まって、聴診システム1bのシステム構成を簡素化させるとともに、心音の聴診が聴診システム1aで用いられるようなゴム管6や有線14の長さに制約されることもなくなり、聴診システム1bの使用勝手を格段に向上させることができる。
【0027】
聴診システム1bでは、聴診器2bを装着する医療従事者は、チェストピース5で集音され且つチェストピース5から直接的に送信される心音をイヤーピース8,8から聴くことになる。医療従事者は、本体装置3に接続されるスピーカ13,13を通して心音を聴くこともできる。スピーカ13,13を通して聴くことで医療従事者の耳に掛かる負担が軽減されるとともに、スピーカ13,13の配置や音量を調節することで聴診音の聞き落としや聞き漏らしを防ぐこともできる。医療従事者が複数居る場合には、他の医療従事者は、スピーカ13,13を通して、又は装置本体3と送受信可能な別の聴診器2bのイヤーピース8,8を通して、聴診器2bを装着する医療従事者と同様に心音を聴くことができる。他の医療従事者がスピーカ13,13を通して聴く心音は、医療従事者がイヤーピース8,8を通して聴く直接的な心音と同時で且つ同質である。これにより、診断の利便性を高めることができるとともに診断の有り様を高度化することができる。更に、インフォームドコンセントの観点から、医療従事者のみならず、患者(その近親者も含まれ得る)にも、スピーカ13,13から聴診音を聴かせることや、表示器4上に表示される心音情報を見せることができる。
【0028】
本体装置3は、聴診器2に集音された心音について時間の経過に伴って変化する音強度を含む心音データを生成する。本体装置3は、後述するように、表示器4での表示のために心音に含まれる周波数領域を複数の周波数区域に区分けし、区分けされた周波数区域のうち指定された一つ又は複数の周波数区域については、表示器4において、指定周波数区域に応じた音強度の時間経過が時間軸に沿って表示されるように制御を行う。
【0029】
図2は、
図1に示す聴診システム1のブロック図である。本体装置3は、患者の体内からの心音(広義には器官音)を集音し電気信号に変換する変換器9(
図1参照)を備える聴診器2と、周波数区域毎に音強度の時間経過を表示するための表示器4との間に配置される聴診システム1の基幹装置である。
【0030】
本体装置3は、聴診器2から出力される電気信号を音デジタル信号に変換するA/D変換器15と、A/D変換器15から出力される音デジタル信号を必要な周波数区域毎に区分けして出力する信号区分けフィルタ16と、信号区分けフィルタ16から出力される複数の周波数区域に区分けられた音デジタル信号に基づいて、特定の周波数区域において、音強度の時間変化を周波数軸、音強度軸及び時間軸から成る三つの軸について擬似的に三次元表示をするための信号処理を行う三次元処理器17とを備えている。周波数軸は、聴診音を区切られた周波数帯域毎に音強度の波形を表示するために、当該複数の周波数区域の区切りを示すのに用いる軸である。信号区分けフィルタ16は、周波数軸上の複数の周波数区域に応じてそれぞれ通過帯域を有する低域通過フィルタ、高域通過フィルタ及び帯域通過フィルタを束ねたデジタルフィルタとしてよい。信号区分けフィルタ16から三次元処理器17を経て、画像化されたデータを表示する表示器4が順次直列的に接続されて構成されている。三次元処理器17は、表示器4に対して、区分けされた周波数区域毎に時間経過に沿って変化する音強度成分の値を表示器4の表示画面上に表示させるために必要な信号を出力する。なお、A/D変換器15を聴診器2側に備えておき、本体装置3は音デジタル信号を直接に受信する構成としてもよい。聴診器2は、音感度等について本体装置3側からの設定等の信号を受信するように構成することが好ましい。
【0031】
聴診システム1の各構成要素を操作・設定するため、マウス11やキーボード12等(表示器4の表示画面上でのタッチパネル操作を含む)の入力部18から制御部19に操作・設定信号が入力される。制御部19は、入力部18からの操作・設定信号を受けてそれぞれが作動する、周波数区域設定部21と、増幅設定部22とを備えている。周波数区域設定部21は、信号区分けフィルタ16において器官音の周波数帯域を定めることで周波数軸を複数の周波数区域に区分けし、区分けされた周波数区域のうちの一つ又は複数の指定周波数区域を指定する。増幅設定部22は、後述する表示器4での音強度の表示の増幅とスピーカ13,13における音声出力の増幅を司る。制御部19は記憶部20と信号を遣り取りすることができ、入力部18からの操作・設定信号に基づいて、記憶部20のデフォルト記憶部24に記憶されている聴診器2、A/D変換器15、信号区分けフィルタ16、三次元処理器17、表示器4等の各機器の設定デフォルトデータを引き出して当該各機器の設定・制御の指令を行う。制御部19はまた、入力部18からの操作・設定信号を受けて、記憶部20の過去データ記憶部25に記憶されている心音(器官音)データを読み出して、三次元処理器17での三次元処理や表示器4での表示や設定・制御の指令を行う。本体装置3が基本的にデジタル動作であるので、制御部19の各部21,22による設定は、デジタル処理により簡便に且つ容易に行うことができる。
【0032】
聴診システム1には、器官音の電気的な音信号データについて、特にデジタル器官音データとして記録可能な記録媒体10を設けることが好ましい。記録媒体10は、本体装置3において内蔵ハードディスクのように固定式の記録媒体として備えることができるが、それ以外にも外付けハードディスク、USBメモリ、SDカード等の本体装置3に対して取り外し可能な外部記録媒体を装着することが好ましい。このような記録媒体10を別の本体装置3、別の分析装置、カルテ等の保存装置等に接続させることが可能となり、記録媒体10の使い勝手を更に向上させることができる。記録媒体10は、また、本体装置3以外の、例えば聴診器2に変換器9を備える場合には、その変換器9に対して取り外し可能に接続することもできる。この場合、変換器9と記録媒体10の各機能を更に一体化することも可能である。即ち、変換器9における器官音の音信号からデジタル信号への変換機能や本体装置3との間における通信機能に加えて、記録媒体10の本来の記録機能を一つの機器に纏めることができる。
【0033】
器官音の電子データは、聴診器2に取り付けられる記録媒体10、本体装置3内の記録媒体、保存装置等において、受診している個人及び聴診日時について特定されたデジタル電子的データとして記録・保存される。したがって、過去に聴診器による診断を受けたことがあり器官音データが保存されている患者については聴診・診断の履歴の電子的な保存が可能となり、医師等の医療従事者は、過去の器官音の聴診日時について特定された電子データと比較することで、患者の症状変化の診断を行うことができる。
【0034】
図3には、本発明による聴診システム1において、表示器4における心音の表示の一例が斜視図として示されている。
図3においては、表示上、横方向に延びる軸が時間軸(t)であり、縦方向に延びる軸が音強度軸(i)であり、原点Oから斜め左下に延びる軸が周波数軸(f)である。これら3つの軸は本来、直交する三次元の軸であるが、
図3に示す三次元表示は、二次元のパネル画面に表示した擬似的な三次元表示である。時間軸(t)は長さが時間に比例した目盛が刻まれているが、音強度軸(i)と周波数軸(f)については対数目盛等の他の目盛で刻んでもよい。
【0035】
周波数軸(f)については、図示の例では、0~1,000Hz、1,000~5,000Hz、5,000~20,000Hz及び20,000Hz以上の四つの周波数区域ΔF1~ΔF4に分割されている。これらの四つの周波数区域ΔF1~ΔF4毎に、心音の音強度i(ΔF1)~i(ΔF4)が時間軸に沿って変化する様子が一本の波形線で描かれている。この例では四つの周波数帯に分けているが、これに限られることはなく、例えば、6~8帯のようなより多くの周波数帯に分ける方が、医学的・診断的に意味のある分け方になることもある。聴診音の周波数帯域については、人の耳には聞こえないような領域にまで余裕を以て解析がなされるように、広めの帯域を設定するのが好ましい。なお、実際の聴診音として、波形iが最も手前側の時間軸に沿って示されているが、示された波形はI音、II音に相当する音のみを示す波形であり、実際にはこれら以外の音も含まれている。なお、
図3に示す心音の音強度iは、上記したように、心音を数周波区域毎に区分けしたときの当該数周波区域について得られる波形である。
【0036】
区切られた周波数帯域毎に聴診音の音強度の波形は、理論上は、聴診音の信号に対して、周波数軸上の複数の周波数区域に応じてそれぞれ通過帯域を有する低域通過フィルタ、高域通過フィルタ又は帯域通過フィルタのようなフィルタリングを施し、更に適宜の平滑化フィルタによる平滑化処理を施すことで、滑らかな波形として得られると考えられる。
図3に示す波形は、アナログ波形であるとすると、周波数区域に示した幅広い周波数帯域の音声入力信号の積算値を示したものに相当する。アナログのフィルタリングに対応してデジタルのフィルタリングを構築することは、一般には、マイクロコンピュータを利用したソフトウェアで対処可能である。デジタルであれば、高速フーリエ変換を用いた汎用性の高い応用プログラムも容易に入手可能であり、こうしたプログラムによるデータ処理が簡単で、しかも機器の小型化を実現することもできる。また、アナログ処理では隠れてしまうような特異な音波形もデジタルであれば検出可能であり、任意の周波数区域に対応したデータ検証も可能である。更に、音強度・時間・周波数の三次元デジタルデータを用いることで、器官音の正常パターンと疾患パターンとの相互相関分析も容易になる。
【0037】
周波数区域の区分けと周波数区域の指定は、入力部18からの設定入力に基づいて、制御部19の周波数区域設定部21により行われる。図示の例では、周波数区域が指定周波数区域ΔF1~ΔF4とされているので、音強度i(ΔF1)~i(ΔF4)の波形は指定周波数区域ΔF1~ΔF4のすべてについてそれぞれ一つの音強度の波形として示されている。これに代えて、診断上、特定の一部の周波数区域のみを指定して、その指定周波数区域についてのみ一つの音強度の波形として示すこともできる。
【0038】
心音は、心臓の弁が閉じるときに発生する音である。
図3に示される波形に表れているように、心音の特徴的な現象として、左系の僧帽弁と右系の三尖弁が閉じるときに発生するI音と、I音よりも時間的に遅れて左系の大動脈弁と右系の肺動脈弁が閉じるときに発生するII音がある。I音に対する波形Iが比較的に低い周波数区域に現れ、次に比較的に高い周波数区域でII音に対応する波形IIが現れる。心音には、心疾患に起因して「分裂」と称され、時間的に波形が分離して生じることがある。周波数1000Hzの線上には、分裂しているI音に対応して、時間的に接近して二つの山が現れる波形Iが示されている。周波数5000Hzの線上には、II音(分裂が生じていない)に対応して、一つの山が現れる波形IIが示されているが、II音にも分裂が生じ、時間的に接近して二つの山が現れることがある。
【0039】
健康な人、即ち、正常な心音の場合には、I音においてもII音においても両方の弁が同時に閉じるので、左右において弁が閉じるタイミングに差異が生じることはなく、このような心音の分裂(I音分裂、II音分裂)は生じない。心尖部(心臓の一番とがった部分、解剖学的な位置としては一番下の腹部に一番近い部分)では、I音(振動に近い、ベル型で強調される)が大きく聴こえ、心基部(心臓の一番上の部分)ではII音が大きく聴こえるのが正常である。強弱はI音とII音の比較で決まるが、周波数はどちらが高い・低いについては一概には決められない。心拍数がゆっくりである時は、収縮期と拡張期の期間長の比は、1:2であって拡張期の方が長いので、I音とII音の区別が可能であることが多い。
【0040】
I音が現れる時期とII音が現れる時期の間の時期に、より高い周波数区域においてI音~II音間の異常音に対応する波形E1が現れる。更に、II音が現れる時期の後の時期に、一層高い周波数区域においてII音後の異常音に対応する波形E2が現れる。これらの異常音の周波数は20,000Hz以上の音であるので人の耳には聴こえないが、これらの異常音が表れる場合には心臓疾患が疑われる。
【0041】
図3に示す心音の表示例では、指定周波数区域ΔF1~ΔF4は、心音のI音とII音がそれぞれ生じると推測される周波数区域ΔF1とΔF2、I音後で且つII音前の周波数区域ΔF3、及びII音後の周波数区域ΔF4のように、それぞれ異常音が生じると推測される周波数区域である。聴診システム1によれば、心音のI音とII音が生じると推測される周波数区域が同じ周波数区域であっても、音強度の時間変化を表示することで、I音とII音について時間的に分裂が生じている場合にI音とII音の各山の波形を区別して表示できるので、医療従事者による分裂の診断に有効である。同様に、器官音の異常音の波形E1,E2についても、これらの波形を際立たせてその時間経過が表示されるので、異常音の診断に有効である。
【0042】
上記の心音表示において心音の「分裂」が表れるのは、そのような病状を有する患者を聴診する場合のみであり、病状をもたない人では心音の「分裂」が表れないものと想定される。デフォルト記憶部24で設定されている指定周波数区域において且つその区域で特定するように定められた仕方で音強度を表示するだけでは、常に最も適切に表示されるとは限らない。そこで、入力部18からの設定入力に基づいて、制御部19の周波数区域設定部21によって指定周波数区域について区域の位置と幅を変更することで、結果的に表示される音強度の波形に病状特有の特徴が表れることがあり、その音強度が当該指定周波数区域において代表的な音強度とされる。
【0043】
図3に示されている各周波数区域ΔF1~ΔF4は、指定の有無に関わらず、隣接する周波数区域が一部でも重複することなく、また隣接する周波数区域間で空白となる周波数領域が生じることなく、周波数軸(f)に沿って連続して並ぶ態様に区分けされている。このように区分けすることで、区域データが周波数に関して重複する、或いは空白が存在する、というような状況を回避することができる。複数の周波数区域への区分けと周波数区域の変更は、当該区域の上限と下限の周波数の変更であり、この変更には当該上下限の周波数間の区域幅(周波数幅)を維持しながらシフトさせる変更のみならず、当該区域幅を増減させる変更も含まれる。心音を含めて体内器官に対応した器官音の周波数区域が予め予想される場合には、体内器官毎に周波数区域をデフォルト記憶部24に記憶させる、あるいはプログラムに従って周波数区域の分割を自動的に行ってよい。また、複数の周波数区域の分割、或いは指定周波数区域の変更・調整を医師等の医療従事者が入力部18からの入力設定によって手動で行えるようにすることが好ましい。
【0044】
図4は、聴診システムにおいて音強度の表示の増幅を説明する図である。聴診システム1においては、表示器4での表示において、指定周波数区域に応じた代表的な音強度を増幅表示することができる。
図4に示すように、表示器4では、心音のI音とII音が生じると推測される指定周波数区域ΔF1,ΔF2について音強度が増幅して表示されている。時間軸の進み方については変更されていない。こうした音強度の増幅表示により、医療従事者にとって心音のI音とII音が見やすくなる。表示器4での増幅表示は、医療従事者が入力部18を操作することにより制御部19における増幅設定部22の制御の下で行うことができる。
【0045】
聴診システム1においては、本体装置3に接続されているスピーカ13,13からの音声出力を増幅することができる。例えば、心音のI音とII音が生じると推測される指定周波数区域ΔF1,ΔF2(
図4)について、スピーカ13,13から出力される音声が増幅される。音強度の音声増幅出力によって、医療従事者が心音のI音とII音を聴きやすくなる。周囲に複数の医療従事者が居る場合や、場合によっては患者自身や近親者も集音された器官音を聴くことができる。スピーカ13,13での音声増幅出力は、医療従事者が入力部18を操作することにより、制御部19における増幅設定部22の制御の下で行うことができる。表示器4での強調表示とスピーカ13,13による音量増幅とを同時に行うことで、周囲に居る医療従事者は視覚と聴覚とを通じて心音への認識を高めることができる。
【0046】
聴診システム1においては、上記したように、集音部であるチェストピースの型に応じて音強度出力が低くなる周波数区域が存在するが、このような場合でも、当該音強度出力が低い周波数区域については、表示器4での三次元表示での音強度(波の高さ)の表示とスピーカ13,13からの音声出力(音量)を増幅して強調することができる。
【0047】
図5は、本聴診システム1の表示器4において複数の心音表示を同一表示画面で表示する態様を示す図である。
図5では、
図3に示した波形から心音の分裂を示す波形が切り出されて示されている。表示器4の表示画面上においては、例えば、現在の診断時の心音データに基づく表示と以前の診断時の心音データに基づく表示というように、聴診時間が異なる複数の心音表示を同時に表示することができる。これら複数の心音表示を画面切り替え無しに一度に見ることができるようにすることが好ましい。新旧の聴診時の心音表示を互いに比較することで、患者の症状の変化の有無や変化の程度を診断することができる。複数の心音表示については、
図5(a)に示されているように、聴診日時T1~T4における四つの心音表示が表示画面4aを分割した表示領域に並べて表示されている。また、
図5(b)に示されているように、聴診日時T1~T4における四つの心音表示を一つの表示画面4bに重ねて表示することができる。この場合、表示器4の表示画面4bにおいては、特定の(指定)周波数区域のみについて、新旧の心音表示をすることで表示が簡素化されて分かり易くなり、患者の症状の診断に好適である。図示されているように表示線種を変えて三次元表示を表示すると、新旧の器官音データの三次元表示を区別しやすくなる。線種に代えて表示色を変えて表示してもよい。
【0048】
図1では、チューブ式の聴診器1aと本体装置3とを有線で接続した実施例と、無線式の聴診器1bと本体装置3とを無線で接続した実施例とを示したが、両者の中間的な聴診システム、即ち、聴診器としてはチューブ式の聴診器1aを用いながら、本体装置3とは無線で接続した例も実施可能である。更に、表示器4での音強度の増幅表示とスピーカからの音声出力の増幅、及び聴診時間が異なる複数の心音表示の例についても、
図4と
図5に示す例は一例であり、他の表示例であってもよいことは明らかである。
【0049】
聴診システム1において、一つの本体装置3に対して複数の表示器4が接続可能であり、複数の表示器4間で心音表示を共有することができる。また、聴診システム1において、本体装置3は、インターネット等の電気通信回線を通じて他の聴診システムと接続可能とすることができる。受診を受けている患者が聴診システム1の本体装置3の位置から遠方に離れた所に居ても、インターネット等の電気通信環境が整っている場所であれば、聴診システム1の本体装置3との間でデータの遣り取りをして、過去の受診歴や現在の心音データを呼び出すことができる。これらデータを他の聴診システムの表示器に表示することで、医師等による診断に役立てることができる。また、聴診システム1と他の聴診システムとが異なる位置に置かれている場合も、インターネット等の電気通信環境が整っている場所であれば、両システム間でデータの遣り取りを行う等の有効な活用を図ることができる。
【0050】
以上、主として、心音の聴診について説明をしたが、気道音や、肺音、消化器音のような心音の以外の器官音の聴診についても、同様に適用可能である。また、本実施例ではデジタル信号処理を示したが、周波数区域が固定されていれば、心音をデジタル化することなく、アナログ信号のまま処理して、器官音を表示してもよい。
【0051】
聴診器には膜型やベル型のような構造の異なる型式があり、それぞれ集音する周波数領域について得手・不得手がある。本発明では強調度合いを調節することで音強度が強調表示されるので、聴診器の型式に囚われることなく、考慮すべき周波数領域に亙って的確に器官音を集音し、表示器の表示画面に表示し、スピーカから音声出力することができる。また、両型式の聴診器を常に確保しておくことも不要になり、型式の変更作業又は元の型式への戻し作業等に手間取ることも、更に集音部を別の型式に変換して再度聴診することもない。
【符号の説明】
【0052】
1 聴診システム 2 聴診器
3 本体装置 4 表示器 4a,4b 表示画面
5 チェストピース 6 ゴム管
7,7 耳管 8,8 イヤーピース
9 変換器 10 記録媒体
11 マウス 12 キーボード
13,13 スピーカ
15 A/D変換器 16 信号区分けフィルタ
17 三次元処理器 18 入力部
19 制御部 20 記憶部
21 周波数区域設定部 22 増幅設定部
24 デフォルト記憶部 25 過去データ記憶部
(f) 周波数軸 (i)音強度軸
(t)時間軸
I I音の波形 II II音の波形
E1 I~II音間の異常音波形 E2 II音後の異常音波形
ΔF1~ΔF4 指定周波数区域
i(ΔF1)~i(ΔF4) 周波数区域の音強度波形
T1~T4 聴診日時