(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011450
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】生分解性電子材料およびこれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/137 20100101AFI20230117BHJP
H01M 4/60 20060101ALI20230117BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20230117BHJP
H01G 11/30 20130101ALI20230117BHJP
【FI】
H01M4/137
H01M4/60
H01M10/36 Z
H01G11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021115307
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】521306546
【氏名又は名称】株式会社エムケイエス
(74)【代理人】
【識別番号】100087664
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】野本 修
(72)【発明者】
【氏名】高村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】福山 満
(72)【発明者】
【氏名】市橋 松男
(72)【発明者】
【氏名】中井 宏行
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA14
5E078AB01
5E078BA30
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK16
5H029AL16
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029DJ16
5H050AA15
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA20
5H050CB20
5H050FA17
(57)【要約】
【課題】外部電界を加えるだけで蓄放電動作をなす、生分解性に優れた新規な電子材料と、これを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】生分解性電子材料は、複数の酸化数を呈する遷移金属を生分解性有機重合体に結合させて形成した有機金属錯体を、集電板の一方面に塗着して構成した固体電荷蓄積層を備え、この固体電荷蓄積層に、集電板を通じて与える電界の方向を変えることで、集電板との間で電子を吸収、放出させて充放電を行う構成になっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の酸化数を呈する遷移金属を生分解性有機重合体に結合させて形成した有機金属錯体を、集電板の一方面に塗着して構成した固体電荷蓄積層を備え、
この固体電荷蓄積層に、前記集電板を通じて与える電界の方向を変えることで、前記固体電荷蓄積層と前記集電板との間で電子を吸収、放出させて蓄放電を行う構成にしている、生分解性電子材料。
【請求項2】
請求項1において、
前記生分解性有機重合体は、PLA,PGA,PLGAなどの生分解性有機重合体で構成されている、生分解性電子材料。
【請求項3】
請求項1において、前記金属錯体は、粉体として製造されている生分解性電子材料。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記遷移金属は、第3族~第7族より選択された3以上の酸化数を呈する遷移金属である生分解性電子材料。
【請求項5】
請求項1に記載の生分解性電子材料を1組準備し、それぞれの集電板が反対する向きになるように、絶縁スペーサを介在させて整合させるとともに、集電板の一方には正極端子、他方には負極端子を設けた構造にした、二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載の二次電池を、積層させて、それぞれを直列又は並列に接続した構造にしている、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性に優れた新規な生分解性電子材料、これを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、主流になっているリチウムイオン電池は、鉛蓄電池、ニッケル水素、アルカリ蓄電池などの二次電池と比べると、小形で、公称電圧が高く、耐用年数、耐用充電サイクルも永く、エネルギー密度も高いという利点があるが、電解液を使用しているので、そのまま有機物として廃棄することはできない。
また、高い温度には耐えがたく、爆発の危険性があるため安全性に劣るという欠点がある。
そのため、近時においては、使用後は、電極などの金属部品を除けば、有機廃棄物として処分できる生分解性二次電池が望まれ、開発されている。
そのような二次電池に関する先行技術としては、次の特許文献1、2がある。
ここに、特許文献1、2は、生分解特性のあるポリ乳酸又はポリグリコール酸を基材に使用し、この基材にバナジウム結合させて、正、負極の活物質を生成する方法と、それを用いた二次電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6443084号公報
【特許文献2】特許第6704544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、本発明者らが生分解性に優れた有機金属錯体を分析し、鋭意検討した結果、到達したもので、新規な生分解性電子材料と、この生分解性電子材料を用いた二次電池を提案するものである。
本発明者らは、液体電解質を使用しない、リチウム電池に代わり得る二次電池を種々の面から検討した結果、同じ分子構造の有機体を重合させた有機重合体に、複数の酸化数を呈する特定の遷移金属を結合させて有機金属錯体を構成したものは、その有機金属錯体に集電板を取付けて一方向の電界を加えると、有機金属錯体が集電板に電子を放出して蓄電する。また、電界の方向を反対にすると、有機金属錯体が電子を吸収して放電を行う。このような知見を取得し、本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、第一の本発明である生分解性電子材料は、複数の酸化数を呈する遷移金属を、生分解性有機重合体に結合させて有機金属錯体を形成し、この有機金属錯体に集電板の一方面に塗着して構成した固体電荷蓄積層を備えており、この固体電荷蓄積層は、前記集電板を通じて与える電界の方向を変えることで、前記集電板との間で電子を吸収、放出させて畜放電する機能を有する。
ここに、固体電荷蓄積層の基材となる有機重合体としては、PLAやPGAあるいはPLAとPGAを重合させたPLGAなどの生分解機能に優れた有機重合体が適用され、特定の遷移金属は、3以上の酸化数を呈するもので、第3族~第7族の遷移金属から選択され、有機重合体と結合して有機金属錯体を構成するものが採択される。
また、第二の発明は、第一の発明の生分解性電子材料を主たるパーツとして構成した、二次電池を提案するものである。
【発明の効果】
【0006】
第一の本発明によれば、生分解性に優れた二次電池の主たるパーツとして使用できる。
また、有機金属錯体は、熱可塑性の粉体として製造されるので、加熱することで、ペースト状にして集電板に塗着して固体電荷蓄積層を形成することができる。したがって、集電板への塗着は印刷技術を使用すれば、固体電荷蓄積層をフィルム状にも形成でき、高速作業も可能である。
また、材料、そのものが燃えにくく半永久的に使用ができ、有毒なガスの発生や爆発の危険性がない。
有機金属錯体を製造するにあたっては、高度なクリーンルームを必要としないので、製造コストが著しく安価であり、有毒な化学物質を使用しない。
また、電荷を蓄積しておけば、その状態を電力消費無しに維持できるので、バックアップ用のメモリデバイスの記憶素子としても利用できる。
更に、固体電荷蓄積層を塗着した集電板の反対側に別の集電板を接合させれば、コンデンサーと同様な構造体となる一方で、コンデンサーとは異なる性質を呈するので、コンデンサーと電池の中間的な性質を持つ電子デバイスとしても利用できる。
第二の本発明は、第一の発明である生分解性電子材料の一組を、絶縁セパレータを介在させ、それぞれに正、負の電極端子を設けて二次電池を構成しているので、電極における酸化やOH化が発生しないので、大電流で比較的軽量な電池を提供できる。
また、電池の使用後は、正、負の電極端子などの金属部品を取り外せば、そのまま土中に埋めても環境問題を生じない生分解性二次電池となる。
この二次電池は、集電板を湾曲させた形状にしても、固体電荷蓄積層を集電板に沿った形状に出来る。また金型成形も可能であり、使用目的に応じて湾曲させた大型の二次電池を製造することも出来る。
この二次電池は、高温特性に優れ(環境温度85℃でも動作可能、100℃以上でも保存可能)、充放電の制御も容易である。
また、二次電池の基材として使用される有機重合体は粉体であるので、フィルムに封入すれば、薄型で容易に持ち運びができ、かつ形状を自在に変化させたものに製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第一の本発明の生分解性電子材料の一実施例を示す説明図である。
【
図2】(a)、(b)は、本発明の生分解性電子材料の蓄電、放電動作の説明図である。
【
図3】第二の発明である二次電池の分解斜視図である。
【
図4】二次電池を絶縁フィルムに封入した外観の説明図である。
【
図5】(a)、(b)は、二次電池の充電、放電動作の説明図である。
【
図6】有機金属錯体内のバナジウムの充電、放電時における、酸化数の変化を示す図である。
【
図9】二次電池の複数枚数を収容した電池パッケージの説明図である。
【
図10】電池パッケージを複数収容した電池ボックスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の望ましい実施例を説明する。
まず、第一発明である、生分解性電子材料を説明する。
生分解性電子材料Aは、
図1に示すように、集電板1に固体電荷蓄積層2を塗着した構造体である。
集電板1は、銅、アルミ等の金属や炭素等の導体によって構成される。一方の固体電荷蓄積層2は、後述するように、複数の酸化数を呈する遷移金属を、有機重合体に結合させて形成された生分解電子材料であり、遷移金属を結合させる時には、真空環境や、直接ムラなく加熱するためにマイクロ波照射が好適に使用される。
【0009】
ついで、生分解性電子材料Aの基材として使用され得る有機重合体について説明する。
有機重合体としては、例えば、ポリ乳酸重合体(PLA)、ポリグリコール酸重合体(PGA)、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)等が望ましい。化1はPLAの分子構造、化2はPGAの分子構造、化3はPLGAの分子構造を示している。これらの重合体は、化石燃料ではなく、乳酸、酢酸などのバイオ製品や、有機廃棄物を原料として製造できるので、カーボンニュートラルに寄与する環境に優しい電子材料となる。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
有機重合体に結合して、有機金属錯体を形成する遷移金属元素は、チタン、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガンなど第3族~第9族のうちから複数の酸化数を呈するものが選ばれ、有機重合体と結合させて形成した有機金属錯体は、ミクロンレベル、ナノレベルの粉体として製造できる。したがって、これを加熱しペースト状にして集電板に塗着すれば、固体電荷蓄積層が容易に製造される。この明細書の実施例では、理解を容易にするため第5族のバナジウムを使用して説明する。
化4はPLA有機金属錯体の分子構造の一例、化5はPGA有機金属錯体の一例、化6はPLGA有機金属錯体の一例である。ここにRは遷移金属元素である。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
本発明者らは、かくして形成した生分解性電子材料は、外部から電界を印加させるだけで、固体電荷蓄積層が容易に電子を吸収、放出して、蓄放電がされることを知見した。
この事実は、集電板に接続された固体電荷蓄積層に、外部から電界を作用させれば、集電板1固体電荷蓄積層との間で電子移動を生じて蓄電、放電させることが出来るという発見であり、これをミクロ的に見れば、有機金属錯体の分子内、分子間、更に集電板との間で電子移動を生じて、蓄電または放電するものと推察される。
【0018】
このときの生分解性電子材料Aの基本原理を
図2(a),(b)に示す。
電界E1が、集電板1側から固体電荷蓄積層2側の方向に加えられると、固体電荷蓄積層2から集電板1側に電子eが移動するが、この移動に係る電子eは、固体電荷蓄積層2の有機金属錯体に結合している遷移金属元素から放出されたものである。その結果、遷移金属元素Vの原子価は電界E1を加える前の状態よりも高くなり、酸化されたということになる。
つまり、この電子eの移動によって、固体電荷蓄積層2は電子密度が低下した状態、つまり充電状態になる。
これに対して、電界E2が、固体電荷蓄積層2側から集電板1側の方向に加えられると、集電板1から固体電荷蓄積層2側に電子eが移動するが、この移動に係る電子eは遷移金属元素Vに吸収されたものである。その結果、遷移金属元素Vの原子価は電界E2を加える前の状態よりも低くなり、還元されたということになる。つまり、この電子eの移動によって固体電荷蓄積層2は放電状態(電子密度が高上した状態)になる。
以上のような電子eの移動は、遷移金属元素Vの価数の変化可能な範囲で生じるので、例えば、5族のバナジウムであれば、変化し得る価数は2~5であるから、バナジウムの1元素当たりでは最大3電子が移動して、充放電がなされるものと推察される。
【0019】
一方、このような充放電動作に対して、有機金属錯体内では、価数が変化した遷移金属元素に結合する元素が水素から酸素に変わる(あるいはその逆)程度の微細なもので、その入れ替わりも可逆的である。特に有機金属錯体の基材として、PLA、PGA、PLGA等では、炭素と遷移金属元素との間に二重結合が存在しているので、基本構造はほとんど変化せず、そのためこの生分解電子材料、これをパーツとしている二次電池も充放電を繰り返しても、ほとんど劣化するようなことはなく非常に長寿命となる。
【0020】
ついで、PLGA有機金属錯体の製造方法を説明する。
簡潔に云えば、PLAとPGAとを例えば1:1の比率として公知の方法で共重合させて比較的低分子量のPLGAとし、それに遷移金属元素を含む添加剤を混合してから更にマイクロ波によって重合させれば、所定分子量のPLGA有機金属錯体を製造することができる。マイクロ波を照射して重合させる環境を真空下で行えば、迅速かつ正確な重合処理ができる。
【0021】
PLGAは、一般にPGAの比率が高いほど分解性が高くなるが、その例外として、PGAとPLAの比率50:50の場合に分解性が最も高くなる。またその比率により結晶化度が変わるという性質もあるので、二次電池の材料にすれば、電池の生分解性、物理的強度等を容易にコントロールできるという利点がある。
【0022】
PLA有機金属錯体、PGA有機金属錯体の製造方法も前記に類似したものである。すなわち、一旦PLA又はPGAの比較的低分子のオリゴマーを準備し、それに遷移金属元素を含む添加剤を混合してから更にマイクロ波によって重合させることにより、所定分子量のPLA有機金属錯体又はPGA有機金属錯体が製造される。
【0023】
次いで、本発明の有機金属錯体を用いて構成した二次電池について説明する。
二次電池Bは、
図3に示すように、2枚の生分解性電子材料A1、A2を、絶縁セパレータ3を介在させて、正、負の集電板11,21が外側になるように整合させ、集電板11の一方に正極端子11a、もう一方の集電板21に負極端子21aを設けた基本構造であり、生分解性電子材料A1、A2及び絶縁セパレータ3を熱圧着する等によって容易に製造できる。そして、全体を保護するため、
図4に示すように、これらの正極端子11aと負極端子21aのみが露出するように、全体を絶縁フィルム4で封止する。
正極端子11aには、充電装置の正極、負極端子21aには、充電装置の負極を接続して充電を行い、充電が完了すれば充電装置を取外し負荷を接続して電池として使用でき、電池が放電すれば、同じような方法で充電すればよく、放電すれば充電を行う動作を繰り返すことで何度でも使用できる。
ここに、正極端子11a、負極端子21aは、銅、アルミ等の一般的な金属で構成された薄板であり、金属の種別は特に制限されない。また、生分解性電子材料A1、A2を構成する固体電荷蓄積層2は、同一の有機金属錯体が用いられる。
絶縁セパレータ3は、絶縁性を呈し化学的に安定であればよく、その種別は特に制限されない。例えば紙、樹脂、ガラス等を用いることができる。
【0024】
ついで、二次電池Bにおける充放電動作を説明する。
以下では、有機金属錯体の遷移金属元素にバナジウムを使用した二次電池について説明する。
本発明者らは、バナジウムを使用した二次電池Bでは、正極側、負極側の固体電荷蓄積層12、22におけるバナジウムの酸化数は、充電されない状態では、4価または3価、あるいはこれらが混在した状態で安定していることを確認している。
(充電時の動作→満充電)
充電時の動作は
図5(a)に示している。
二次電池Bは充電装置7が接続されると充電が行われ、正極側は、充電中は電子の放出動作(電流は逆方向)となる。具体的には、充電が進むに連れて、電子は固体電荷蓄積層12から放出されて集電板11に移動するので、固体電荷蓄積層12のバナジウムの価数が4価(又は3価)から上がり、フル充電の状態では、最大の価数5のバナジウムが増大して安定する。
これに対して他方の負極側は、電子の吸収動作となる。具体的には、充電が進むにつれて、集電板21から電子が移動して個体電荷蓄積層22に吸収されるので、個体電荷蓄積層22のバナジウムの価数は3価(又は4価)から下がり、フル充電の状態では、最小の価数2のバナジウムが増大して安定する。
二次電池Bは、充電中に起電力を生じさせ、これに抗して充電装置7が電流を強制的に流すのでエネルギーが蓄積されていく。そして、充電されたあとの二次電池Bに負荷8を接続すると、その起電力によって電流が流れて放電状態になる。
(放電時の動作→完全放電)
放電時の動作は
図5(b)に示している。
放電中、正極側は、電子の吸収動作となる。具体的には、放電が進むに連れて、電子は集電板11から移動して個体電荷蓄積層12に吸収されるので、個体電荷蓄積層12のバナジウムの価数は5価から下がり、完全放電の状態では、価数4(又は3価)が増大して安定する。
これに対して、他方の負極側は、電子の放出動作となる。具体的には放電が進むにつれて、固体電荷蓄積層22から電子が放出されて集電板21に移動するので、固体電荷蓄積層22のバナジウムの価数は2価から上がり、完全放電の状態では、価数3(又は4価)で安定する。
二次電池Bは、放電中、その起電力によって負荷8に対して強制的に電流を流すので、次第にエネルギーを放出して行くことになり、ある時点で電流を流すことが困難な完全放電に至る。
【0025】
図6は、遷移金属元素にバナジウムを利用した固体電荷蓄積層の有機金属錯体内におけるバナジウムの酸化数の変化を示している。
バナジウムのこのような酸化数の変化について考察すると、二次電池の製造直後の状態では、正極側、負極側の固体電荷蓄積層には、いずれも酸化数3と4のバナジウムが混在している。この比率は製造条件等によるが、酸化数の3と4が混在しているということは、バナジウムの酸化数の平衡値が3乃至4であることを意味する。
そして、この状態から二次電池が充電されると、正極側では、電子が放出されるので、バナジウムの酸化数が上昇して行き、フル充電では、酸化数が5に変化したバナジウムが増大し、平均的な酸化数が5価になる。
これに対して、負極側では、電子を吸収するので、バナジウムの酸化数が減少して行き、フル充電では、酸化数が2に変化したバナジウムが増大し、平均的な酸化数が2価になる。
そして、フル充電によって、正極側、負極側において、上記したように変化したバナジウムの酸化数は、放電動作に入ると、正極側、負極側において変化して行き、完全放電になれば、製造直後の状態に戻る。
本発明では、固体電荷蓄積層は、以上のような原理で集電板と有機金属錯体との間で電子の放出、吸収を行って、充電、放電動作を行うので、バナジウムの酸化数を、起電力を生じない完全放電時には、正極側、負極側のいずれにおいても有機金属錯体の製造後の状態になるように初期化しておけば、フル充電時には、正極側、負極側の有機金属錯体においては、バナジウムの酸化数が最大である5価、最小である2価に変化させて、安定した充放電動作が可能となる。
【0026】
そして、初期化されたあとの充電では、正極側では、プラス電位を更に印加し、同時に負極側には、マイナス電位を更に印加させることで、二次電池には充電電流が流れ、正極側の電荷蓄積層内の金属元素は酸化数は4から5に変化し、負極側の電荷蓄電層内の金属元素の酸化数は3から2に変化していく。そして正極側の電荷蓄積層内の全ての金属元素の酸化数が5になり、かつ負極側の電荷蓄積層内の金属元素の酸化数が2になった時点で充電を終了させればよい(満充電)。
【0027】
充電されたあとの二次電池には正極側をプラス電位、負極側をマイナス電位とした起電力が生じているので、二次電池を負荷に接続すると、正極側から負極側に向かって放電電流が流れ、それに従って、正極側の電荷蓄積層内の金属元素の酸化数は5から4に戻って行き、負極側の電荷蓄積層内の金属元素の酸化数は2から3に戻っていく。
なお二次電池は、完全放電したとしても、電荷蓄積層内の分子の基本構造は変化していないので、性能が劣化することはない。そのため、長寿命で使用できる。
【0028】
図7、
図8はいずれも二次電池の断面図である。
図7に示す二次電池Bは、
図3に示す二次電池と同様に一重構造のフィルム状二次電池であり、
図8に示す二次電池BはB1とB2を直列に接続した二重構造のフィルム状二次電池である。このように二次電池Bは、一重、二重、更にそれ以上の多重構造にし、直列または並列に接続させることにより、起電力を自由に設定することが可能である。なお二重及び多重構造のものも一重構造のものと同様の方法で製造できる。
【0029】
なお二次電池Bは、集電板11、21を湾曲させた形状にしても、固体電荷蓄積層12、22を集電板11,21に沿った形状に出来る。また金型成形も可能であり、使用目的に応じて湾曲させた大型の二次電池を製造することも出来る。
この二次電池Bは、高温特性に優れ(環境温度85℃でも動作可能、100℃以上でも保存可能)、充放電の制御も容易である。
【0030】
図9は、前記二次電池Bをパッケージ化した蓄電ユニットの透過斜視図であり、
図10はその蓄電ユニットを集合させた大型蓄電装置の斜視図である。
【0031】
蓄電ユニットCは、二次電池Bを積層し、かつそれらを直列乃至並列に積層して絶縁ケース4に収容したものである。絶縁ケース4には陽極ターミナル51と、陰極ターミナル52とが設けられている。このような蓄電ユニットは、絶縁ケース4、陽極ターミナル51、陰極ターミナル52のサイズや配置、起電力等を既存規格品である汎用蓄電池と一致させれば、その代替品として使用できる。
【0032】
大型蓄電装置Dは、複数台の前記蓄電ユニットCをラック6に配列固定したものである。これらの蓄電ユニットCは自由に組み合わせて直列、又は並列に接続することが可能であり、大型蓄電装置Dは非常電源、大型移動機械やプラントなどに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0033】
A、A1、A2 生分解性電子材料
B 二次電池
E1、E2 電界
1、11、21 集電板
2、12、22 固体電荷蓄積層
11a 正極端子
21a 負極端子