(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114526
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置および被膜の剥離方法
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20230810BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
B09B5/00 R ZAB
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016866
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 一敬
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聖
(72)【発明者】
【氏名】東田 佳久
【テーマコード(参考)】
4D004
4F401
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004AA12
4D004AA50
4D004BA07
4D004CA02
4D004CA08
4D004CB12
4D004CB45
4D004CC01
4D004CC03
4D004CC20
4F401AA15
4F401AA22
4F401AA27
4F401AD01
4F401BA06
4F401BA10
4F401CA39
4F401CA41
4F401CB33
4F401EA46
4F401EA76
(57)【要約】
【課題】
剥離した被膜をフィルムに再付着させずに、安定して被膜付きフィルムから被膜を剥離できる被膜剥離装置および被膜剥離方法を提供する。
【解決手段】
本発明の剥離装置は、フィルム幅方向に延在する稜線を有し、この稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が稜線から離れるにつれて鉛直方向下側に向かい、稜線が被膜付きフィルムの被膜表面に接触するように配置された掻き取り部と、被膜付きフィルムから剥離された被膜を受けるためのフィルム幅方向に延在する凹面を有し、この凹面が稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面に連なるように配置された受け部と、を有する掻き取り装置と、受け部の前記凹面に沿って、フィルム幅方向の一端から他方の一端に向けて気体あるいは液体を供給する供給装置と、を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムから当該被膜を剥離する装置であって、
前記被膜付きフィルムから前記被膜を掻き取るための装置であって、
フィルム幅方向に延在する稜線を有し、当該稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が前記稜線から離れるにつれて鉛直方向下側に向かい、前記稜線が前記被膜付きフィルムの被膜表面に接触するように配置される掻き取り部と、
前記被膜付きフィルムから剥離された被膜を受けるためのフィルム幅方向に延在する凹面を有し、当該凹面が前記稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面に連なる受け部と、
を有する掻き取り装置と、
前記受け部の前記凹面に沿って、フィルム幅方向の一端から他方の一端に向けて気体あるいは液体を供給する供給装置と、
を有する、被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置。
【請求項2】
前記稜線から前記凹面の底までの鉛直方向の距離が150mm以下である、請求項1の被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置。
【請求項3】
前記稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が、前記稜線から前記凹面に向かう途中で、フィルム走行方向下流側に向かって屈曲または湾曲している、請求項1または2の被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置。
【請求項4】
前記掻き取り装置のフィルム走行方向上流側に、前記被膜付きフィルムの被膜表面に向けて洗浄液を吐出する洗浄液付与装置を備えた、請求項1~3のいずれかの被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置。
【請求項5】
基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムを走行させながら、前記基材フィルムから前記被膜を剥離し、
前記剥離した被膜を、前記基材フィルムから離れるにつれて鉛直方向下側に向かう傾斜面に沿って流動させ、
前記流動した被膜を、前記傾斜面に連なる凹面で受けて、前記基材フィルムから離間した箇所に捕捉し、
前記捕捉された被膜を、気体あるいは液体によって流動させて回収する、
被膜付きフィルムからの被膜の剥離方法。
【請求項6】
前記被膜付きフィルムの被膜表面に洗浄液を付与した後に被膜を剥離する、請求項5の被膜付きフィルムからの被膜の剥離方法。
【請求項7】
前記被膜が水溶性樹脂を含む、請求項6の被膜付きフィルムからの被膜の剥離方法。
【請求項8】
前記被膜が硬化型シリコーン樹脂を含む、請求項5~7のいずれかの被膜付きフィルムからの被膜の剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜付きフィルム表面の被膜を効率よく除去することが可能な剥離装置および剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックによる環境負荷低減や資源有効活用の観点から、使用済みの被膜付きフィルムにおいてフィルムと被膜とを分離して、フィルムを再利用する試みがなされている。フィルムの再利用にあたって、一般的にはフィルムを構成する成分と被膜を構成する成分は異なる組成であるため、フィルムと被膜とを完全に分離させることが望ましい。もし、フィルムと被膜の分離が不十分で被膜を構成する成分を含んだ状態のフィルムをそのまま再溶融して再生フィルムを製膜しようとすると、被膜を構成する成分が異物となるため、製膜プロセスの不安定化や、フィルム品質の低下を引き起こし、生産効率・生産品位ともに著しく悪化させてしまう。
【0003】
特許文献1では、離型フィルムから離型層を剥離して、フィルムと分離する方法として、基材フィルムと離型層との間に水溶性樹脂層を形成した離型フィルムを使用して、水槽への浸漬によって離型フィルムに水を付与し、その後回転するブラシによって離型層を剥離する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2では、MLCC(積層セラミックコンデンサ)製造工程で使用されたキャリアシートからセラミックグリーンシート層を剥離して、キャリアシートを分離する方法として、フィルムの走行方向と直交する回転軸の外周部に周設された刃によってセラミックグリーンシート層を剥離する方法が開示されている。この時、回転刃が発生する気流によって、剥離したセラミックグリーンシート層を回収する方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-363140号公報
【特許文献2】特開2017-56675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では剥離した被膜が水槽中を浮遊し、フィルムに再付着して後工程へ運ばれて、回収フィルムに被膜が混入したり、後工程のロールを汚染したり、といった問題が生じる。さらに、剥離した被膜が回転するブラシに付着するため、処理時間の経過とともにブラシの剥離能力が低下するといった問題もある。これらの問題は、フィルム走行速度が増速するほどより顕著に発生するため、解消するには、装置の定期的な清掃やフィルム走行速度の低速化、1回に処理するフィルム長さの短尺化などが必要となる。そうすると、単位時間当たりの剥離処理能力が大幅に低下して、効率的に剥離処理を行うことができない。
【0007】
また、特許文献2では回転刃の擦過によって、剥離した被膜は微細な粉塵となって飛散しやすく、かつ帯電した状態となる。そのため、剥離した被膜の種類によっては回転刃の回転で発生する気流で舞い上がり、フィルムや剥離装置へ再付着するといった問題が生じることがある。この問題は、回転刃の回転速度を増速させるほどより顕著に発生するため、解消するには、回転刃の回転速度を低速化することが必要となる。そうすると、単位時間当たりの剥離処理能力が大幅に低下して、効率的に剥離処理を行うことができない。
【0008】
このように、走行するフィルムの片面から被膜を剥離する剥離装置において、処理時間の経過やフィルム走行速度の増速によって剥離した被膜の量が増加した場合でも、剥離した被膜がフィルムへ再付着することを抑制し、かつ剥離能力を維持しながらフィルムから被膜を剥離する剥離装置は見出されていない。
【0009】
そこで本発明は、剥離した被膜のフィルムへの再付着を抑制でき、高速で長時間の剥離処理であっても安定して被膜付きフィルムから被膜を剥離できる被膜剥離装置および被膜剥離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置は、走行する基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムから当該被膜を剥離する装置であって、
上記被膜付きフィルムから上記被膜を掻き取るための装置であって、
フィルム幅方向に延在する稜線を有し、当該稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が上記稜線から離れるにつれて鉛直方向下側に向かい、上記稜線が上記被膜付きフィルムの被膜表面に接触するように配置される掻き取り部と、
上記被膜付きフィルムから剥離された被膜を受けるためのフィルム幅方向に延在する凹面を有し、当該凹面が上記稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面に連なる受け部と、
を有する掻き取り装置と、
上記受け部の上記凹面に沿って、フィルム幅方向の一端から他方の一端に向けて気体あるいは液体を供給する供給装置と、
を有する。
【0011】
本発明の剥離装置は、以下のいずれかの態様であることが好ましい。
・上記稜線から上記凹面の底までの鉛直方向の距離が150mm以下である。
・上記稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が、上記稜線から上記凹面に向かう途中で、フィルム走行方向下流側に向かって屈曲または湾曲している。
・上記掻き取り装置のフィルム走行方向上流側に、上記被膜付きフィルムの被膜表面に向けて洗浄液を吐出する洗浄液付与装置を備えている。
【0012】
ただし、本発明の剥離装置の構成には、基材フィルムや被膜付きフィルムは含まない。
【0013】
上記課題を解決する本発明の被膜付きフィルムからの被膜の剥離方法は、
基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムを走行させながら、上記基材フィルムから上記被膜を剥離し、
上記剥離した被膜を、上記基材フィルムから離れるにつれて鉛直方向下側に向かう傾斜面に沿って流動させた後、上記傾斜面に連なる凹面で受けて、上記基材フィルムから離間した箇所に捕捉し、
上記捕捉された被膜を、気体あるいは液体によって流動させて回収する。
【0014】
本発明の剥離方法は、以下のいずれかの態様であることが好ましい。
・上記被膜付きフィルムの被膜表面に洗浄液を付与した後に被膜を剥離する。
・上記被膜が水溶性樹脂を含む。
・上記被膜が硬化型シリコーン樹脂を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明の被膜の剥離装置を用いれば、フィルムの走行速度を増速させ、長時間の剥離処理を行った場合でも、剥離した被膜が回収フィルムに混入することなく、安定して被膜付きフィルムから被膜を剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施形態の剥離装置100の概略図である。
【
図2】剥離装置100の概略断面図および剥離装置100を用いた被膜剥離時の様子を示す図である。
【
図3】本発明の別の実施形態の剥離装置200の概略図である。
【
図4】本発明のフィルム回収装置4を示す概略図である。
【
図5】本発明とは異なる剥離装置300の概略図である。
【
図6】従来のフィルム回収装置400の概略図である。
【
図7】
図5の剥離装置300の概略図および剥離装置300を用いた被膜剥離時の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の望ましい実施の形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は図面に示された形態に限定されるものではなく、発明の目的を達成できて、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更は有り得る。
【0018】
また、以下の説明において、「フィルム走行方向」、「フィルム幅方向」、「鉛直方向」とは、本発明の剥離装置を使用して被膜付きフィルムから被膜を剥離する状態における方向のことである。
【0019】
図1を参照する。
図1は、本発明の剥離装置100の一実施形態の概略図である。この剥離装置100は、掻き取り装置110と捕捉した被膜を流動させるための気体あるいは液体を供給する供給装置120とを備えている。掻き取り装置110は、被膜付きフィルムの被膜表面に接触する稜線101を有し、被膜付きフィルムから被膜を剥離する掻き取り部111と、被膜付きフィルムから剥離した被膜を受けるための凹面102を有する受け部112とを有している。稜線101を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する斜面103は、稜線101から離れるにつれて鉛直方向下側に向かうように配置され、この斜面103に凹面102が連なっている。また、供給装置120には、凹面102のフィルム幅方向(x軸方向と定義する)に沿って、気体あるいは液体を供給するための供給口121が備えられており、この供給口121は、凹面102のx軸方向の一端に接して配置されている。さらに、他方の一端には、流動した被膜を回収するための回収装置(図示しない)が配置されている。ここで、稜線101に平行な方向をx軸方向、鉛直方向をz軸方向、x軸方向とz軸方向に垂直な方向をy軸方向と定義する。
【0020】
次に、本発明の剥離装置100を用いて被膜付きフィルムから被膜を剥離し、剥離した被膜を捕捉して基材フィルムに再付着させることなく回収する様相について
図2を用いて詳細に説明する。
【0021】
図2を参照する。
図2は本発明の剥離装置100の概略断面図および剥離装置100を用いて被膜を剥離した様子を示す図である。まず、被膜付きフィルム1と剥離装置100は、被膜付きフィルム1の被膜表面と稜線101で接し、被膜付きフィルム1から被膜が剥離され、基材フィルム2と剥離した被膜3とに分離する。剥離した被膜3は、剥離した被膜3の重力によって、z軸方向に平行な斜面103に沿ってz軸方向に滑落あるいは落下し、受け部112に捕捉される。この時、凹面102は斜面103と連なっているため、剥離した被膜3は斜面103から凹面102へ滑落しやすく、受け部112に捕捉させることができる。受け部112に捕捉された剥離した被膜3は、供給装置120の供給口121から凹面102のx軸方向紙面奥から手前に向けて供給された気体あるいは液体によって、凹面102に沿ってx軸方向に流動し、供給口121と反対の一端に設置された回収装置(図示しない)に回収される。これにより、稜線101で分離した基材フィルム2には、剥離した被膜3が再付着しないため、回収フィルムには剥離した被膜3が混入しない。剥離した被膜3が斜面103に留まらず、すぐ回収できるように、稜線101から凹面102の底までのz軸方向長さL1の上限は150mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましい。L1の下限は特に限定するものではないが、稜線101を形成するための現実的な寸法として4mm以上であることが好ましい。また、斜面103を滑落する剥離した被膜3が被膜付きフィルム1に再付着し、回収効率が悪化してしまうことを防ぐには、斜面103と被膜付きフィルム1とのなす角度(鋭角)は、10°以上として、被膜付きフィルム1と斜面103の距離を離すことが好ましい。また、剥離した被膜3の全てを凹面102で捕捉するために、被膜付きフィルム1は稜線101のみで剥離装置100と接触させることが好ましく、被膜付きフィルム1と受け部112は接触しないように設置されていることが好ましい。
【0022】
供給装置120は、供給装置120の供給口121から凹面102に沿って気体あるいは液体を供給する。気体を供給する場合、供給装置120にはコンプレッサやブロワなどを接続する。液体を供給する場合、供給装置120には送液ポンプや空気圧力によって送液する手段などを接続する。これらの方式に限らず、供給する気体あるいは液体の種類や供給量に応じて任意に選択することができる。気体あるいは液体の供給量は、凹面102に補足された剥離した被膜3を流動させるために、気体であれば凹面102のフィルム幅方向に沿って風速5m/s以上、流体であれば凹面102のフィルム幅方向に沿って流速0.01m/s以上とすることが好ましい。供給する流体は任意に選定することができるが、剥離した被膜3が粉塵状であるなどの理由で飛散しやすい場合、供給装置120からは液体を供給することが好ましい。したがって、本発明の剥離装置100では、剥離した被膜3を継続して稜線101から遠ざけることができ、掻き取り部111に剥離した被膜3が堆積しないため、高速での剥離において、処理時間が経過しても剥離装置100の剥離能力が低下しない。
【0023】
図3を参照する。
図3は、本発明の別の実施形態である剥離装置200の概略図である。
図1の剥離装置100の形態では、剥離した被膜3を回収しやすくするために稜線101から凹面102の底までのz軸方向長さL1を短くした場合、稜線101のフィルム走行方向上流側で走行する被膜付きフィルム1が受け部112と接触する場合がある。これを回避しうる実施形態が、剥離装置200である。剥離装置200の掻き取り部211は、稜線201を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する斜面203が、稜線201から凹面202に向かう途中で、y軸方向でフィルム走行方向下流側に向かって屈曲している。これにより、受け部212が稜線201に対してy軸方向でフィルム走行方向上流側に飛び出るのを最小限にできるため、稜線201のフィルム走行方向上流側において、走行する被膜付きフィルム1が受け部212と接触することなく、稜線201から凹面202の底までのz軸方向長さL2を短くすることができる。これによって、剥離した被膜3が斜面203に留まらず、すぐ回収することができる。剥離した被膜が基材フィルムに再付着しないように、斜面203のうち、稜線201から屈曲している箇所までのz軸方向長さL’の上限は100mm以下が好ましく、30mm以下がより好ましい。L’の下限は特に限定するものではないが、稜201を形成するための現実的な寸法として0.05mm以上であることが好ましい。また、斜面203は、稜線201から凹面202に向かう途中で、屈曲ではなく湾曲していてもよい。
【0024】
上記の通り、本発明にかかる剥離装置を用いれば、フィルムの走行速度を増速させ、長時間の剥離処理を行った場合でも、剥離した被膜が回収フィルムに混入することなく、安定して被膜付きフィルムから被膜を剥離することができる。
【0025】
なお、剥離装置100(200)は、掻き取り装置110(210)と供給装置120(220)とが別部材として構成されていることが好ましいが、一体物であっても良い。また、掻き取り装置110(210)は、掻き取り部111(211)と受け部112(212)とが同一部材として一体物であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明の剥離装置100を用いて被膜付きフィルムから被膜を剥離して基材フィルムを回収するフィルム回収装置4について
図4を用いて説明する。
図4は、本発明のフィルム回収装置4の一例を示す概略図である。
【0027】
フィルム回収装置4は、被膜付きフィルム1を巻き出す巻出部5と被膜付きフィルム1から被膜を剥離した後の基材フィルム2を巻き取る巻取部6が備えられている。巻出部5と巻取部6との間には、被膜付きフィルム1を搬送するための駆動装置9、10、被膜付きフィルム1の被膜表面に向けて洗浄液を吐出する洗浄液付与装置7、被膜付きフィルム1から被膜を剥離するための剥離装置100、剥離した被膜の基材フィルム2への再付着の有無を検査する外観検査装置11が備えられている。この中で、洗浄液付与装置7および剥離装置100はブース8で囲まれている。
【0028】
さらに洗浄液吐出機構として、洗浄液付与装置7に洗浄液を送液するための送液ポンプ12、洗浄液を貯留しておくタンク13を備えている。
【0029】
洗浄液付与装置7は、洗浄液を走行する被膜付きフィルム1の被膜表面に付与できれば良く、シャワーやスプレーノズル、洗浄液を貯留した水槽などが例示されるが、その限りではない。さらに、洗浄液付与装置7は、洗浄の効率を良くするために、加温した洗浄液を吐出できることが好ましく、40℃以上に加温した洗浄液を吐出できることが特に好ましい。洗浄液の加温方法としては、洗浄液付与装置7に熱源を備える方法や、洗浄液を貯留するタンク13を加温する方法などが例示されるが、その限りではない。洗浄液付与装置7は、加温した洗浄液を吐出するため、洗浄液付与装置7の材質は金属あるいは、耐熱性を有した樹脂であることが好ましい。
【0030】
また、ロール状に巻かれた被膜付きフィルムの被膜がロールの内側、外側いずれの面であっても対応できるよう、被膜付きフィルム1の巻出方向を切り替えて、被膜付きフィルム1の被膜表面が洗浄液付与装置7および剥離装置100と対向して走行できるよう、巻出部5は上出しと下出しのいずれにも対応できる機構であることが好ましい。
【0031】
フィルム回収装置4のブース8は、洗浄液付与装置7から吐出された洗浄液が周囲に飛散するのを防止することと、加温した洗浄液の温度が低下することを防止するために、洗浄液付与装置7から剥離装置100までを囲うように配置されている。ブース8は、加温した洗浄液によって加熱されるため、耐熱性を有していることが好ましく、ブース8の材質は金属あるいはガラス等が好適に用いられる。
【0032】
次に、本発明の被膜付きフィルムからの被膜剥離方法について、再び
図4を用いて説明する。駆動装置9によってブース8内に被膜付きフィルム1を走行させ、洗浄液付与装置7から洗浄液を被膜付きフィルム1の被膜表面に向けて吐出する。その後、被膜付きフィルム1を剥離装置100に接触させ、被膜付きフィルム1の被膜を洗浄液ごと基材フィルム2から剥離し、基材フィルム2を巻取部6で巻き取る。一方で、剥離した被膜は、剥離装置100において、基材フィルム2から離れるにつれて鉛直方向下側に向かう斜面に沿って流動し、斜面に連なる凹面に捕捉された後、気体あるいは液体によって流動して回収される。これにより、被膜付きフィルム1から剥離した被膜が基材フィルム2に再度付着することがなく、回収フィルムに剥離した被膜が混入することを抑制することができる。このとき、剥離した被膜を流動させるために供給する気体あるいは液体の供給量は、剥離した被膜の流動様相によって調整する。剥離した被膜の流動が不十分で、剥離した被膜が剥離装置100に堆積する場合は、気体あるいは液体の供給量を増加し、剥離した被膜の流動が過剰で、剥離した被膜が飛散する場合には、気体あるいは液体の供給量を減少させる。
【0033】
また、回収フィルムに剥離した被膜等の異物が混入し、品位を劣化させないために、剥離装置100で被膜付きフィルム1から被膜を剥離した後で、剥離した被膜等の異物の付着を検査する手段を設けることが好ましい。異物の付着が検出された場合は、フィルム回収装置4の運転を停止し、剥離装置100やロールの清掃によって異物付着原因を取り除くことで、回収フィルムのロスを最小限に抑えることができる。この異物の付着を検査する手段としては、ラインカメラによる監視などが例示されるが、その限りではない。
【0034】
被膜付きフィルムの被膜は、環境への負荷等を考慮した水溶性樹脂を含む被膜であることが好ましい。中でも、水溶性樹脂として、水溶性のポリエステル系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレンアイオノマー系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、エチレン―ビニルアルコール系樹脂、でんぷんのうちの少なくとも1種を主たる成分とするものがより好ましい。水溶性樹脂を含む被膜は、水溶性樹脂を含む単層体であっても、水溶性樹脂を含む2つ以上の層の積層体であっても、水溶性樹脂を含む層と水溶性樹脂を含まない層の積層体であってもよい。
【0035】
また、被膜の一部に水溶性樹脂のほかに硬化型シリコーン樹脂を含むことが好ましい。被膜は、水溶性樹脂と硬化型シリコーン樹脂が混合していても、それぞれの層が積層されていても良い。積層された被膜の場合には、基材フィルムの直上に水溶性樹脂を含む層が存在し、最表面に硬化型シリコーン樹脂を含む層が形成されていることが好ましく、硬化型シリコーン樹脂としては、水の浸透性が高いジメチルシロキサンを主骨格とする硬化型シリコーン樹脂化合物を用いることが特に好ましい。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0037】
<被膜付きフィルム>
ポリエチレンテレフタレートの厚み25μmの基材フィルム上に、水溶性樹脂としてポリビニルアルコール樹脂を膜厚0.1μm形成し、さらにその上に、離型成分として硬化型シリコーン樹脂を膜厚0.1μm形成した被膜付きフィルムを作製した。
【0038】
<回収フィルムへの異物混入評価方法>
回収フィルムへの異物混入有無の評価は、(1)塗膜剥離不十分による混入、(2)剥離した被膜の再付着による混入、を対象として実施した。(1)の評価は、市販のぬれ張力試験用混合液(関東化学株式会社製、表面エネルギー:30.0、65.0mN/m)を用いて、以下の方法で実施した。
【0039】
室温23℃の環境下で、ぬれ張力試験用混合液を綿棒に含浸させ、回収フィルムの表面にその綿棒でぬれ張力試験用混合液を塗り付け、4秒以上塗り付けた状態を保持する場合は、そのぬれ張力試験用混合液の表面エネルギーよりも回収フィルム表面のエネルギーの方が高いと判断した。
【0040】
被膜付きフィルムの表面に、離型成分の硬化型シリコーン樹脂が残れば、回収フィルム表面の表面エネルギーは30mN/m未満であるため、いずれのぬれ張力試験用混合液も回収フィルム表面では弾かれて、塗り付けた状態を保持することができない。
【0041】
一方、離型成分の硬化型シリコーン樹脂の被膜が剥離されて、被膜付きフィルムの表面にポリビニルアルコール樹脂が残れば、回収フィルムの表面エネルギーは65mN/m以上であるため、いずれのぬれ張力試験用混合液も回収フィルム表面で塗り付けた状態を保持することができる。
【0042】
さらに、離型成分の硬化型シリコーン樹脂とポリビニルアルコール樹脂のいずれも剥離されて、回収フィルム表面に基材フィルムが表出している場合は、回収フィルム表面がポリエチレンテレフタレートであるため、表面エネルギーが43.8mN/mとなり、30mN/mのぬれ張力試験用混合液の塗り付け状態は保持するが、65mN/mのぬれ張力試験用混合液の塗り付け状態は保持できない。以上の評価方法より、被膜付きフィルムの被膜が剥離できたか否かを判断した。
【0043】
一方、(2)の評価は、剥離した被膜の挙動を目視で観察し、剥離した被膜の基材フィルムへの再付着の有無を確認した。また、剥離装置と巻取部の間に設けられたラインカメラによって、基材フィルムに再付着し、巻取部に持ち込まれる剥離した被膜の個数を数え、フィルム走行速度と走行時間から、フィルム走行100mあたりの回収フィルムに持ち込まれた剥離した被膜の個数を算出し、剥離した被膜の再付着による回収フィルムへの混入を抑制できたか否かを判断した。
【0044】
<被膜付きフィルムからの被膜剥離>
[実施例1]
剥離装置100を備えた
図4のフィルム回収装置4を使用して被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。剥離装置100の稜線101から凹面102の底までのz軸方向長さL1を50mmとし、凹面102には、供給装置120より水を0.02m/sで供給した。被膜剥離手順としては、フィルムを走行速度20m/minで走行させ、被膜付きフィルムの被膜表面に向けてシャワーを用いて洗浄液として水(温度:80℃)を吐出した後に、剥離装置100によって被膜付きフィルムの被膜を剥離した。シャワーからの水吐出量は、被膜付きフィルムの単位面積1.0m
2あたり30mLとした。
【0045】
[実施例2]
稜線101から凹面102の底までのz軸方向長さL1を180mmにした以外は、実施例1と同じ条件で被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。
【0046】
[実施例3]
フィルム走行速度を50m/minにした以外は、実施例1と同じ条件で被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。
【0047】
[実施例4]
剥離装置200を用いて、被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。剥離装置200の稜線201から凹面102の底までのz軸方向長さL2を180mmとし、稜線201から屈曲している箇所までのz軸方向長さL’を10mmとした以外は、実施例1と同じ条件で被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。
【0048】
[比較例1]
図5に示す剥離装置300を用いて、被膜付きフィルムの被膜を剥離した。剥離装置300は、剥離装置100の掻き取り部111に相当する部材のみで構成され、受け部112および供給装置120は備えていない。また、斜面303のz軸方向長さL3は50mmとした。この剥離装置300を用いて、実施例1と同じ条件で被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。
【0049】
[比較例2]
図6に示す従来のフィルム回収装置400を用いて、被膜付きフィルムの被膜剥離を実施した。フィルム回収装置400は、洗浄液である水を溜めた水槽414、被膜付きフィルムの表面を擦過して被膜を剥離するブラシロール415、415’を備える。被膜剥離手順としては、被膜付きフィルムをフィルム回収装置400の巻出装置404にセットし、フィルムを走行速度20m/minで走行させ、水槽414を通過させることで洗浄液である水(水温:20℃)に接触させて、ブラシロール415、415’によって被膜付きフィルムの被膜を剥離した。その後、洗浄装置416、水滴除去装置417を通過させたのちに、基材フィルムを巻取装置405で巻き取った。被膜に含まれる水溶性のポリビニルアルコール樹脂が溶出して溶液の濃度が上昇することで、ポリビニルアルコール樹脂の溶出性が低下してしまうため、水槽内には継続的に新しい洗浄液を供給した。連続して被膜を剥離し続けるためには、被膜付きフィルムの単位面積1.0m
2あたり25000mLの洗浄液を供給する必要があった。
【0050】
上記の実施例、比較例での被膜付きフィルムの被膜剥離結果を表1に示す。表中の被膜剥離可否において、被膜剥離とは、基材フィルム上の被膜であるポリビニルアルコール樹脂と硬化型シリコーン樹脂の両方が基材フィルムから剥離し、被膜付きフィルムが被膜と基材フィルムに分離したことを示す。また、被膜一部残存とは、基材フィルム上の被膜のうち、表層に位置する硬化型シリコーン樹脂のみが剥離し、ポリビニルアルコール樹脂は基材フィルム上に残存して、基材フィルムから分離していないことを示す。そして、被膜残存とは、基材フィルム上の被膜であるポリビニルアルコール樹脂および硬化型シリコーン樹脂の両方が基材フィルム上に残存し、被膜が基材フィルムから分離していないことを示す。
【0051】
【0052】
[実施例1と比較例1の対比]
凹面102を持たない比較例1では、剥離した被膜の基材フィルムへの再付着が確認された。一方、実施例1では、稜線101で剥離した被膜が凹面102に捕捉されたのちに、流動する水によって回収されることで、剥離した被膜が基材フィルムに再付着することは無かった。比較例1で剥離した被膜が再付着した要因について、
図7を参照して説明する。
図7は剥離装置300の概略図および剥離装置300を用いた被膜剥離時の様子を示す図である。剥離した被膜3は、斜面303に沿ってz軸方向下方へ流動するが、剥離した被膜3が粘性を持つため、剥離装置300のz軸方向最下方から落下せずに、斜面303と被膜付きフィルム1との間に堆積していく。そして、処理時間の経過に伴い、堆積した剥離した被膜3は被膜付きフィルム1の幅方向内寸に収まりきらず、フィルム幅よりも外側に流出する。その後、フィルム幅よりも外側に流出した剥離した被膜3が、被膜付きフィルム1の側面および裏面に再付着する様子が確認できた。
【0053】
[実施例1と比較例2の対比]
実施例1では、処理時間の経過によって被膜剥離性能が低下することは無く、剥離した被膜が基材フィルムに再付着することも無かった。一方、比較例2では、剥離初期では被膜剥離性能は良好であったが、処理時間の経過とともに剥離した被膜がブラシロールに堆積することで、ブラシの目詰まりが発生して、次第にポリビニルアルコール樹脂が残存していることを濡れ試薬で確認した(被膜一部残存)。処理時間がさらに経過すると、さらにブラシロールの目詰まりが進み、被膜剥離能力が著しく低下して、被膜が残存した。さらに、ブラシロールに堆積した剥離した被膜の一部がフィルムに再付着する様子を確認した。
【0054】
[実施例1、2の対比]
実施例1で稜線から凹面の底までの長さを短くすることで、剥離した被膜を受け部ですぐ回収することができ、剥離した被膜の再付着を減らすことができた。実施例2では剥離した被膜が再付着してはいるが、再付着の量は十分に抑制できている。
【0055】
[実施例1、3の対比]
実施例1、3いずれの場合においても被膜を剥離しつつ、剥離した被膜が基材フィルムに再付着していないことを確認した。したがって、剥離装置100を用いることで、速度に依らず、剥離した被膜が基材に再付着することを抑制できることを確認した。
【0056】
[実施例2、4の対比]
実施例2、4は稜線から凹面の底までの長さは同じだが、実施例4は稜線を形成する2面のうちフィルム走行方向上流側に位置する面が、稜線から凹面に向かう途中で、フィルム走行方向下流側に向かって屈曲しているため、剥離した被膜が屈曲した斜面に沿って流動し、走行する被膜付きフィルムから遠ざかることで、剥離した被膜が基材に再付着しないことを確認した。
本発明は、樹脂や紙、金属薄膜、布などの基材フィルムの片面に被膜が形成された被膜付きフィルムからの被膜の剥離装置および被膜の剥離方法に適用できるが、これに限られるものではない。