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特開2023-114533眼科装置、眼科装置の制御方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114533
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】眼科装置、眼科装置の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/10 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016879
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】森口 祥聖
(72)【発明者】
【氏名】藤井 宏太
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA03
4C316AA09
4C316AA10
4C316AA24
4C316AA25
4C316AB02
4C316AB11
4C316AB16
4C316FA09
4C316FB12
4C316FB21
4C316FB24
4C316FB29
4C316FY01
4C316FY05
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大するための新たな技術を提供する。
【解決手段】眼科装置は、光学系と、光学部材と、画像形成部とを含む。光学系は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与する。画像形成部は、干渉光の検出結果に基づいて被検眼のOCT画像を形成する。
【選択図】図6B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、
前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、
前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成部と、
を含む、眼科装置。
【請求項2】
前記光学部材は、前記基準位置からAスキャン位置が離れるほど連続的又は段階的に変化量が大きくなるように前記光路長差を前記測定光に付与する
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記光学部材は、前記基準位置に入射する前記測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が前記第1領域の周辺領域の光路長差より短くなるように構成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記光学部材は、前記第1領域を光束が通過するように開口部が形成されている透光部材である
ことを特徴とする請求項3に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記光学部材は、前記被検眼の眼底と光学的に略共役な位置に配置される
ことを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記光学部材は、前記基準位置に入射する前記測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が前記第1領域の周辺領域の光路長差より長くなるように構成される
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の眼科装置。
【請求項7】
前記光学部材は、前記被検眼の角膜と光学的に略共役な位置に配置される
ことを特徴とする請求項6に記載の眼科装置。
【請求項8】
前記光学部材は、前記測定光の光路の交差方向に移動可能である
ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項9】
前記Aスキャン位置に応じて異なる補正処理を前記干渉光の検出結果又は前記OCT画像に対して実行する補正処理部を含む
ことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項10】
前記補正処理部は、前記Aスキャン位置毎に前記測定光に付与された前記光路長差をキャンセルするように前記干渉光の検出結果又は前記OCT画像を補正する
ことを特徴とする請求項9に記載の眼科装置。
【請求項11】
前記補正処理部は、前記Aスキャン位置毎に1ピクセルのサイズを揃えるように前記OCT画像を補正する
ことを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の眼科装置。
【請求項12】
前記補正処理部は、前記Aスキャン位置毎に波長分散を補償するように前記干渉光の検出結果を補正する
ことを特徴とする請求項9~請求項11のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項13】
前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御部を含み、
前記表示制御部は、前記光学部材により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を識別可能な枠で囲んで前記表示手段に表示させる
ことを特徴とする請求項1~請求項12のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項14】
前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御部を含み、
前記表示制御部は、第1光路長差が付与されたBスキャン範囲の第1OCT画像と、前記第1光路長差と異なる第2光路長差が付与されたBスキャン範囲の第2OCT画像との間にギャップを設けて前記第1OCT画像と前記第2OCT画像とを前記表示手段に表示させる
ことを特徴とする請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項15】
前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御部を含み、
前記表示制御部は、互いに光路長差が異なる測定光を用いた第1Bスキャン範囲の第1OCT画像及び第2Bスキャン範囲の第2OCT画像の少なくとも一方を、双方の光路長差をキャンセルするようにAスキャン方向に移動させることにより前記第1OCT画像と前記第2OCT画像とを合成して前記表示手段に表示させる
ことを特徴とする請求項1~請求項13のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項16】
前記光学部材は、前記測定光に付与する前記光路長差が変化する変化領域を有し、
前記画像形成部は、前記変化領域に対する当該変化領域を通過する前記測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいて取得された前記干渉光の検出結果に基づいて2以上のOCT画像を形成し、
前記2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成する画像合成部を含む
こと特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の眼科装置。
【請求項17】
光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、
前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法であって、
前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、
前記Aスキャン位置に応じて異なる補正処理を前記干渉光の検出結果又は前記OCT画像に対して実行する補正ステップと、
を含む、眼科装置の制御方法。
【請求項18】
光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、
前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法であって、
前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、
前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御ステップと、
を含み、
前記表示制御ステップは、前記光学部材により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を識別可能な枠で囲んで前記表示手段に表示させる、眼科装置の制御方法。
【請求項19】
光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、
前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法であって、
前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、
前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御ステップと、
を含み、
前記表示制御ステップは、互いに光路長差が異なる測定光を用いた第1Bスキャン範囲の第1OCT画像及び第2Bスキャン範囲の第2OCT画像の少なくとも一方を、双方の光路長差をキャンセルするようにAスキャン方向に移動させることにより前記第1OCT画像と前記第2OCT画像とを合成して前記表示手段に表示させる、眼科装置の制御方法。
【請求項20】
光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、
前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含み、前記光学部材は、前記測定光に付与する前記光路長差が変化する変化領域を有する、眼科装置の制御方法であって、
前記変化領域に対する当該変化領域を通過する前記測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいて取得された前記干渉光の検出結果に基づいて、前記被検眼の2以上のOCT画像を形成する画像形成ステップと、
前記画像形成ステップにおいて形成された前記2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成する画像合成ステップと、
を含む、眼科装置の制御方法。
【請求項21】
コンピュータに、請求項17~請求項20のいずれか一項に記載の眼科装置の制御方法の各ステップを実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、眼科装置、眼科装置の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザー光源等からの光ビームを用いて被測定物体の表面形態や内部形態を表す画像を形成するための光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:OCT)が注目を集めている。OCTは、X線CT(Computed Tomography)のような人体に対する侵襲性を持たないことから、特に医療分野や生物学分野における応用の展開が期待されている。例えば眼科分野においては、眼底や角膜等の画像を形成する装置が実用化されている。
【0003】
このようなOCTを用いた眼科装置において、簡便に広い視野で被検眼の撮影部位の観察や撮影ができれば、眼疾患のスクリーニングや治療等に有用である。しかしながら、撮影部位の広い範囲に対してOCTスキャンを実行する場合、Bスキャン方向のスキャン長が長くなる。眼底や前眼部などの撮影部位では、断面形状が湾曲しているため、Bスキャン方向のスキャン長が長くなると、取得されたスキャンデータがOCTの深さ方向の画像化レンジ内に収まらなくなり、画像のフリップ(折り返し)が発生する。
【0004】
OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大する手法として、例えば、OCT計測結果のサンプリング速度を高速化する手法と、フルレンジOCT(例えば、特許文献1)を用いる手法とが知られている。しかしながら、OCT計測結果のサンプリング速度を高速化には、高速なデジタイザーが必要となる。高速なデジタイザーは、極めて高価である。また、フルレンジOCTを用いる手法では、位相変調器等のハードウェアの追加と、複雑な信号処理とが必要になる。
【0005】
このように、従来の画像化レンジを拡大する手法では、低コストで、簡便に広角のOCTデータを取得することが困難である。
【0006】
例えば、特許文献2及び特許文献3には、2つの参照光路を設け、眼底中心部と眼底周辺部とで異なる参照光路を経由した参照光を用いてOCTデータを取得する手法が開示されている。
【0007】
また、例えば、非特許文献1には、測定アーム側のスキャンに同期して参照アームの光路長を変化させる手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015-506772号公報
【特許文献2】特開2018-171168号公報
【特許文献3】特開2019-080804号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. G. Fujimoto et al., “High-Speed, Ultrahigh-Resolution Spectral-Domain OCT with Extended Imaging Range Using Reference Arm Length Matching”, Translational vision science & technology, June 2020, Vol. 9, No. 7, Article 12, p.1-14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3に開示された手法では、2つの参照光路を設ける必要があるため、光学系のサイズが大きくなり、制御が複雑化する。
【0011】
また、非特許文献1に開示された手法では、測定アーム側のスキャンに同期して参照アームの光路長を変化させる機構を追加する必要があるため、機構の追加に伴う高コスト化を招く上に、同期制御が難しく、OCTデータの品質に影響する可能性がある。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大するための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態の1つの態様は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成部と、を含む眼科装置である。
【0014】
また、実施形態の別の態様は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法である。眼科装置の制御方法は、前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、前記Aスキャン位置に応じて異なる補正処理を前記干渉光の検出結果又は前記OCT画像に対して実行する補正ステップと、を含む。
【0015】
また、実施形態の更に別の態様は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法である。眼科装置の制御方法は、前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御ステップと、を含む。前記表示制御ステップは、前記光学部材により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を識別可能な枠で囲んで前記表示手段に表示させる。
【0016】
また、実施形態の更に別の態様は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含む眼科装置の制御方法である。眼科装置の制御方法は、前記干渉光の検出結果に基づいて前記被検眼のOCT画像を形成する画像形成ステップと、前記OCT画像を表示手段に表示させる表示制御ステップと、を含む。前記表示制御ステップは、互いに光路長差が異なる測定光を用いた第1Bスキャン範囲の第1OCT画像及び第2Bスキャン範囲の第2OCT画像の少なくとも一方を、双方の光路長差をキャンセルするようにAスキャン方向に移動させることにより前記第1OCT画像と前記第2OCT画像とを合成して前記表示手段に表示させる。
【0017】
また、実施形態の更に別の態様は、光スキャナを含み、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、前記光スキャナにより偏向された前記測定光を被検眼に投射し、前記被検眼からの前記測定光の戻り光と前記参照光との干渉光を検出する光学系と、前記測定光の光路における前記光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を前記測定光に付与する光学部材と、を含み、前記光学部材は、前記測定光に付与する前記光路長差が変化する変化領域を有する、眼科装置の制御方法である。眼科装置の制御方法は、前記変化領域に対する当該変化領域を通過する前記測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいて取得された前記干渉光の検出結果に基づいて、前記被検眼の2以上のOCT画像を形成する画像形成ステップと、前記画像形成ステップにおいて形成された前記2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成する画像合成ステップと、を含む。
【0018】
また、実施形態の更に別の態様は、コンピュータに、上記のいずれかの眼科装置の制御方法の各ステップを実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大するための新たな技術を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る眼科装置の光学系の構成の一例を表す概略図である。
図2】実施形態に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図3】実施形態に係る眼科装置の光学系の構成の一例を表す概略図である。
図4】実施形態に係る眼科装置の処理系の構成の一例を表す概略図である。
図5】実施形態に係る眼科装置の処理系の構成の一例を表す概略図である。
図6A】実施形態の比較例に係る眼科装置の動作説明図である。
図6B】実施形態に係る眼科装置の動作説明図である。
図7A】実施形態の第1変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7B】実施形態の第2変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7C】実施形態の第3変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7D】実施形態の第4変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7E】実施形態の第5変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7F】実施形態の第6変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図7G】実施形態の第7変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図8】実施形態に係る眼科装置の動作例のフロー図である。
図9】実施形態に係る眼科装置の動作例のフロー図である。
図10】実施形態に係る眼科装置の動作例のフロー図である。
図11】実施形態に係る眼科装置の動作説明図である。
図12】実施形態に係る眼科装置の動作説明図である。
図13】実施形態に係る眼科装置の動作説明図である。
図14】実施形態の第8変形例に係る光学部材の構成例を表す概略図である。
図15】実施形態の変形例に係る眼科装置の動作説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係る眼科装置、眼科装置の制御方法、及びプログラムの実施形態の例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書において引用された文献の記載内容や任意の公知技術を、以下の実施形態に援用することが可能である。
【0022】
実施形態に係る眼科装置は、光スキャナを有する光学系と、光学系からの測定光の光路に配置可能な光学部材とを含む。光学系は、光源からの光を測定光と参照光とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光を検出する干渉光学系を含む。光学部材は、通過する測定光に対して、画角に応じた光路長を付与する光路長補正部材である。具体的には、光学部材は、通過する測定光が被検眼の計測部位(撮影部位)に入射するAスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光(光束)に付与する。これにより、基準画角(Aスキャンの基準位置)の測定光の光路長を基準として、画角(Aスキャン位置)毎に光路長差を測定光に付与することができる。
【0023】
光学部材は、通過する測定光の光路における上記の光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置される。いくつかの実施形態では、光学部材は、被検眼の計測部位と光学的に略共役な位置に配置される。それにより、測定光のビームセパレーションが最も良好な位置で画角毎に光路長(光路長差)を測定光に付与することができるため、所望の画角範囲に対して所望の光路長(光路長差)を精度良く付与することができる。
【0024】
いくつかの実施形態では、眼科装置は、このように画角毎に光路長差が付与された測定光を用いたOCTスキャンにより得られたスキャンデータ(OCTデータ)に基づいてOCT画像を形成する。この場合、光学部材により基準画角に対して光路長差が付与された領域では、例えば、深さ方向の位置が深くなるようにOCT画像がシフトされる。
【0025】
例えば、光学部材は、Aスキャンの基準位置(例えば、撮影中心、光学系の光軸に想到する位置)から離れた位置で光路長がより長くなるように光路長差を測定光に付与する。この場合、眼底のように断面形状が凹状である計測部位では、基準画角(Aスキャンの基準位置)から遠い部位に対して実行されたAスキャンにより得られたOCT画像のz位置を深さ方向に深くなるようにシフトさせることができる。
【0026】
例えば、光学部材は、Aスキャンの基準位置からAスキャン位置が離れた位置で光路長がより短くなるように光路長差を測定光に付与する。この場合、前眼部、又は眼底における浮腫のように断面形状が凸状である計測部位では、基準画角から近い部位に対して実行されたAスキャンにより得られたOCT画像のz位置を深さ方向に浅くなるようにシフトさせることができる。
【0027】
以上のように、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することが可能になり、画像のフリップを防ぐことができるようになる。
【0028】
画角毎に付与される光路長差は、光学部材の材質や構造から既知の情報である。いくつかの実施形態では、眼科装置は、既知の光路長差が付与された領域を特定し、特定された領域の画像を表示手段に識別表示させる。いくつかの実施形態では、眼科装置は、既知の光路長差に対応した深さ方向のシフト分をキャンセルして、光路長差が付与された領域と光路長差が付与されていない領域との合成画像、又は互いに異なる光路長差が付与された2以上の領域の合成画像を生成する。
【0029】
実施形態に係る眼科装置の制御方法は、上記の眼装置を制御するための1以上のステップを含む。実施形態に係るプログラムは、実施形態に係る眼科装置の制御方法の各ステップをコンピュータ(プロセッサ)に実行させる。実施形態に係る記録媒体は、実施形態に係るプログラムが記録されたコンピュータより取り可能な非一時的な記録媒体(記憶媒体)である。
【0030】
本明細書において、プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路を含む。プロセッサは、例えば、記憶回路又は記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。記憶回路又は記憶装置がプロセッサに含まれていてよい。また、記憶回路又は記憶装置がプロセッサの外部に設けられていてよい。
【0031】
以下の実施形態では、眼科装置は、断面形状が凹状の眼底を撮影する場合について説明する。しなしながら、実施形態に係る構成は、角膜や眼底における浮腫のように断面形状が凸状の部位を撮影する眼科装置に適用可能である。この場合、光学部材における光路長差の付与方向が以下の実施形態と反対となり、付与された光路長差に対応したシフト分をキャンセルする方向が以下の実施形態と反対となる。
【0032】
いくつかの実施形態に係る眼科装置は、眼科撮影装置と、眼科測定装置と、眼科治療装置とのうちのいずれか1つ以上を含む。いくつかの実施形態の眼科装置に含まれる眼科撮影装置は、例えば、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡、スリットランプ検眼鏡、手術用顕微鏡等のうちのいずれか1つ以上である。また、いくつかの実施形態の眼科装置に含まれる眼科測定装置は、例えば、眼屈折検査装置、眼圧計、スペキュラーマイクロスコープ、ウェーブフロントアナライザ、視野計、マイクロペリメータ等のうちのいずれか1つ以上である。また、いくつかの実施形態の眼科装置に含まれる眼科治療装置は、例えば、レーザー治療装置、手術装置、手術用顕微鏡等のうちのいずれか1つ以上である。
【0033】
以下の実施形態に係る眼科装置は、OCT計測が可能なOCT装置と眼底カメラとを含む。
【0034】
以下では、被検眼の眼底に対するOCT計測が可能な眼科装置を例に説明するが、実施形態に係る眼科装置は、被検眼の前眼部に対してOCT計測が可能であってよい。いくつかの実施形態では、測定光の焦点位置を変更するレンズを移動することで、OCT計測の範囲や計測部位を変更する。いくつかの実施形態では、1以上のアタッチメント(対物レンズ、前置レンズ等)を加えることで、眼底に対するOCT計測と、前眼部に対するOCT計測と、眼底及び前眼部を含む全眼球に対するOCT計測とが可能な構成である。いくつかの実施形態では、眼底計測用の眼科装置において、対物レンズと被検眼との間に前置レンズを配置することで平行光束にされた測定光を被検眼に入射させることで前眼部に対するOCT計測を行う。
【0035】
この明細書では、OCTによって取得される画像をOCT画像と総称することがある。また、OCT画像を形成するための計測動作をOCT計測と呼ぶことがある。また、この明細書では、Aスキャンの基準位置に入射する測定光の光路長を基準とすることを前提に、単に「光路長差」と表記することがある。
【0036】
以下、実施形態では、OCTを用いた計測又は撮影においてスウェプトソースタイプのOCTの手法を用いる場合について特に詳しく説明する。しかしながら、他のタイプ(例えば、スペクトラルドメインタイプ又はタイムドメインタイプ)のOCTを用いる眼科装置に対して、実施形態に係る構成を適用することも可能である。
【0037】
以下、x方向は、対物レンズの光軸方向に直交する方向(左右方向、水平方向)であり、y方向は、対物レンズの光軸方向に直交する方向(上下方向、垂直方向)であるものとする。z方向は、対物レンズの光軸方向であるものとする。
【0038】
[構成]
<光学系の構成>
図1図2、及び図3に示すように、眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2は、従来の眼底カメラと略同様の光学系を有する。OCTユニット100には、眼底(又は前眼部)のOCT画像を取得するための光学系が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の演算処理や制御処理等を実行するコンピュータを具備している。
【0039】
〔眼底カメラユニット2〕
図1に示す眼底カメラユニット2には、被検眼Eの眼底Efの表面形態を表す2次元画像(眼底画像)を取得するための光学系が設けられている。眼底画像には、観察画像や撮影画像などが含まれる。観察画像は、例えば、近赤外光を用いて所定のフレームレートで形成されるモノクロの動画像である。撮影画像は、例えば、可視光をフラッシュ発光して得られるカラー画像、又は近赤外光若しくは可視光を照明光として用いたモノクロの静止画像であってもよい。眼底カメラユニット2は、これら以外の画像、例えばフルオレセイン蛍光画像やインドシアニングリーン蛍光画像や自発蛍光画像などを取得可能に構成されていてもよい。
【0040】
眼底カメラユニット2には、被検者の顔を支持するための顎受けや額当てが設けられている。更に、眼底カメラユニット2には、照明光学系10と撮影光学系30が設けられている。照明光学系10は眼底Efに照明光を照射する。撮影光学系30は、この照明光の眼底反射光を撮像装置(CCDイメージセンサ(単にCCDと呼ぶことがある)35、38)に導く。また、撮影光学系30は、OCTユニット100からの測定光を眼底Efに導くとともに、眼底Efを経由した測定光をOCTユニット100に導く。
【0041】
照明光学系10の観察光源11は、例えばハロゲンランプを含む。観察光源11から出力された光(観察照明光)は、曲面状の反射面を有する反射ミラー12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ17、18、絞り19及びリレーレンズ20を経由する。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー48を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efを照明する。なお、観察光源としてLED(Light Emitting Diode)を用いることも可能である。
【0042】
観察照明光の眼底反射光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー48を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この眼底反射光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に結像される。CCDイメージセンサ35は、例えば所定のフレームレートで眼底反射光を検出する。表示装置3には、CCDイメージセンサ35により検出された眼底反射光に基づく画像(観察画像)が表示される。なお、撮影光学系30のピントが前眼部に合わせられている場合、被検眼Eの前眼部の観察画像が表示される。
【0043】
撮影光源15は、例えばキセノンランプを含む。撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに照射される。撮影照明光の眼底反射光は、観察照明光のそれと同様の経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、集光レンズ37によりCCDイメージセンサ38の受光面に結像される。表示装置3には、CCDイメージセンサ38により検出された眼底反射光に基づく画像(撮影画像)が表示される。なお、観察画像を表示する表示装置3と撮影画像を表示する表示装置3は、同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。また、被検眼Eを赤外光で照明して同様の撮影を行う場合には、赤外の撮影画像が表示される。また、撮影光源としてLEDを用いることも可能である。
【0044】
LCD(Liquid Crystal Display)39は、固視標や視力測定用視標を表示する。固視標は被検眼Eを固視させるための視標であり、眼底撮影時やOCT計測時などに使用される。
【0045】
LCD39から出力された光は、その一部がハーフミラー33Aにて反射され、ミラー32に反射され、合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー48を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投影される。
【0046】
LCD39の画面上における固視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更できる。被検眼Eの固視位置としては、例えば、従来の眼底カメラと同様に、眼底Efの黄斑部を中心とする画像を取得するための位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための位置などがある。また、固視標の表示位置を任意に変更することも可能である。
【0047】
更に、眼底カメラユニット2には、従来の眼底カメラと同様にアライメント光学系50とフォーカス光学系60が設けられている。アライメント光学系50は、被検眼Eに対する装置光学系の位置合わせ(アライメント)を行うための指標(アライメント指標)を生成する。フォーカス光学系60は、眼底Efに対してフォーカス(ピント)を合わせるための指標(スプリット指標)を生成する。
【0048】
アライメント光学系50のLED51から出力された光(アライメント光)は、絞り52、53及びリレーレンズ54を経由してダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過する。孔部を通過した光は、ダイクロイックミラー48を透過し、対物レンズ22により被検眼Eの角膜に投影される。
【0049】
アライメント光の角膜反射光は、対物レンズ22、ダイクロイックミラー48及び上記孔部を経由し、その一部がダイクロイックミラー55を透過し、合焦レンズ31を通過し、ミラー32により反射され、ハーフミラー33Aを透過する。ハーフミラー33Aを透過した角膜反射光は、ダイクロイックミラー33に反射され、集光レンズ34によりCCDイメージセンサ35の受光面に投影される。CCDイメージセンサ35による受光像(アライメント指標)は、観察画像とともに表示装置3に表示される。ユーザは、従来の眼底カメラと同様の操作を行ってアライメントを実施する。また、演算制御ユニット200がアライメント指標の位置を解析して光学系を移動させることによりアライメントを行ってもよい(オートアライメント機能)。
【0050】
フォーカス調整を行う際には、照明光学系10の光路上に反射棒67の反射面が斜設される。フォーカス光学系60のLED61から出力された光(フォーカス光)は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射される。ミラー65により反射された光は、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー48を透過し、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに投影される。
【0051】
フォーカス光の眼底反射光は、アライメント光の角膜反射光と同様の経路を通ってCCDイメージセンサ35により検出される。CCDイメージセンサ35による受光像(スプリット指標)は、観察画像とともに表示装置3に表示される。演算制御ユニット200は、従来と同様に、スプリット指標の位置を解析して合焦レンズ31及びフォーカス光学系60を移動させてピント合わせを行う(オートフォーカス機能)。また、スプリット指標を視認しつつ手動でピント合わせを行ってもよい。
【0052】
ダイクロイックミラー48は、眼底撮影用の光路からOCT計測用の光路を分岐させている。ダイクロイックミラー48は、OCT計測に用いられる波長帯の光を反射し、眼底撮影用の光を透過させる。このOCT計測用の光路には、OCTユニット100側から順に、コリメートレンズユニット40と、光路長変更部41と、光スキャナ42と、コリメートレンズ43と、ミラー44と、OCT合焦レンズ45と、光学部材80と、フィールドレンズ(リレーレンズ)46とが設けられている。
【0053】
光学部材80は、通過する測定光に対して、画角に応じた光路長を付与する光路長補正部材である。具体的には、光学部材80は、通過する測定光が被検眼の撮影部位に入射するAスキャン位置毎に、Aスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与することで、Aスキャン位置に応じた光路長を付与する。例えば、光学部材80は、Aスキャンの基準位置を通る測定光に付与する基準光路長と異なる光路長を画角に応じて測定光に付与するように構成される。
【0054】
撮影部位が眼底のような断面形状が凹状である場合、光学部材80は、Aスキャンの基準位置に入射する測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が、当該第1領域の周辺領域の光路長差より短くなるように構成される。
【0055】
図2に、実施形態に係る光学部材80の構成例を模式的に示す。図2は、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図2において、光学部材80は、その中心が光学系(対物レンズ22)の光軸Oに略一致するように配置された状態を表す。
【0056】
例えば、光学部材80は、上記の第1領域を光束が通過するように開口部が形成されている透光部材である。光学部材80は、媒質中の屈折率が実質的に一様なリング状の低分散(例えば、アッベ数νが64以上)のガラス部材であってよい。すなわち、光学部材80は、Aスキャンの基準位置を含む領域に対応して開口部が形成される。この場合、基準光路長はゼロである。Aスキャンの基準位置として、対物レンズ22(干渉光学系)の光軸に相当する位置(撮影中心の位置)などがある。光学部材80は、画角に応じて厚みを異ならせることで、通過する測定光に対して、画角に応じた光路長を付与する。
【0057】
このような光学部材80は、被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置に配置される。
【0058】
いくつかの実施形態では、光学部材80は、あらかじめ決められた位置に配置される。いくつかの実施形態では、光学部材80は、測定光の光路に対して挿脱可能に構成される。いくつかの実施形態では、光学部材80は、測定光に対して互いに異なる光路長を付与する2つの領域の境界領域(又は当該境界領域を含む所定領域)の位置を変更するように、測定光の光路に直交する方向(交差する方向)に移動可能である。
【0059】
また、撮影部位のライブ画像に対して後述の操作部240Bを用いて指定された位置に基づいて、測定光の光路に光学部材80(具体的には、測定光に対して互いに異なる光路長を付与する2つの領域の境界領域)が配置されるようにしてもよい。
【0060】
光学部材80は、対物レンズ22とダイクロイックミラー48との間、又は対物レンズ22と被検眼Eとの間に配置されていてもよい。
【0061】
光路長変更部41は、図1に示す矢印の方向に移動可能に構成され、OCT計測用の光路の光路長を変更する。この光路長の変更は、被検眼Eの眼軸長に応じた光路長の補正や、干渉状態の調整などに利用される。光路長変更部41は、例えばコーナーキューブと、これを移動する機構とを含んで構成される。
【0062】
光スキャナ42は、眼底撮影時には、被検眼の瞳孔と光学的に共役な位置(瞳孔共役位置)又はその近傍に配置される。なお、前眼部撮影時には、光スキャナ42は、被検眼の瞳孔と光学的に非共役な位置に配置される。光スキャナ42は、OCT計測用の光路を通過する光(測定光)の進行方向を変更する。光スキャナ42は、後述の演算制御ユニット200からの制御を受け、測定光を1次元的又は2次元的に偏向することができる。
【0063】
光スキャナ42は、例えば、第1ガルバノミラーと、第2ガルバノミラーと、これらを独立に駆動する機構とを含む。第1ガルバノミラーは、OCTユニット100に含まれる干渉光学系の光軸に直交する水平方向(x方向)に撮影部位(眼底Ef又は前眼部)をスキャンするように測定光LSを偏向する。x方向は、干渉光学系の光軸に垂直な平面における水平方向である。第2ガルバノミラーは、干渉光学系の光軸に直交する垂直方向(y方向)に撮影部位をスキャンするように、第1ガルバノミラーにより偏向された測定光LSを偏向する。y方向は、干渉光学系の光軸に垂直な平面における垂直方向である。それにより、撮影部位を測定光LSでxy平面上の任意の方向に走査することができる。
【0064】
例えば、光スキャナ42に含まれる第1ガルバノミラーの向きと第2ガルバノミラーの向きを同時に制御することで、xy面上の任意の軌跡に沿って測定光の照射位置を移動刺させることが可能である。それにより、所望のスキャンパターンに従って撮影部位のスキャンを行うことができる。
【0065】
OCT合焦レンズ45は、測定光LSの光路(干渉光学系の光軸)に沿って移動可能である。OCT合焦レンズ45は、後述の演算制御ユニット200からの制御を受け、測定光LSの光路に沿って移動する。
【0066】
いくつかの実施形態では、OCT合焦レンズ45に代えて液晶レンズ又はアルバレツレンズが設けられる。液晶レンズ又はアルバレツレンズは、OCT合焦レンズ45と同様に、演算制御ユニット200により制御される。
【0067】
〔OCTユニット100〕
図3を参照しつつOCTユニット100の構成の一例を説明する。OCTユニット100には、眼底EfのOCT画像を取得するための光学系が設けられている。この光学系は、従来のスウェプトソースタイプのOCT装置と同様の構成を有する。すなわち、この光学系は、波長走査型(波長掃引型)光源からの光を測定光と参照光とに分割し、眼底Efを経由した測定光と参照光路を経由した参照光とを干渉させて干渉光を生成し、この干渉光を検出する干渉光学系である。干渉光学系における干渉光の検出結果(検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す信号であり、演算制御ユニット200に送られる。
【0068】
光源ユニット101は、一般的なスウェプトソースタイプのOCT装置と同様に、出射光の波長を走査(掃引)可能な波長走査型(波長掃引型)光源を含んで構成される。光源ユニット101は、人眼では視認できない近赤外の波長帯において、出力波長を時間的に変化させる。
【0069】
光源ユニット101から出力された光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏波状態(偏光状態)が調整される。偏波コントローラ103は、例えばループ状にされた光ファイバ102に対して外部から応力を与えることで、光ファイバ102内を導かれる光L0の偏波状態を調整する。
【0070】
偏波コントローラ103により偏波状態が調整された光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0071】
参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束となる。平行光束となった参照光LRは、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、コーナーキューブ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRと測定光LSの光路長(光学距離)を合わせるための遅延手段として作用する。分散補償部材113は、参照光LRと測定光LSの分散特性を合わせるための分散補償手段として作用する。
【0072】
コーナーキューブ114は、コリメータ111により平行光束となった参照光LRの進行方向を逆方向に折り返す。コーナーキューブ114に入射する参照光LRの光路と、コーナーキューブ114から出射する参照光LRの光路とは平行である。また、コーナーキューブ114は、参照光LRの入射光路及び出射光路に沿う方向に移動可能とされている。この移動により参照光LRの光路(参照光路)の長さが変更される。
【0073】
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換されて光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれて参照光LRの偏波状態が調整される。
【0074】
偏波コントローラ118は、例えば、偏波コントローラ103と同様の構成を有する。偏波コントローラ118により偏波状態が調整された参照光LRは、光ファイバ119によりアッテネータ120に導かれて、演算制御ユニット200の制御の下で光量が調整される。アッテネータ120により光量が調整された参照光LRは、光ファイバ121によりファイバカプラ122に導かれる。
【0075】
ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127により導かれ、コリメートレンズユニット40により平行光束とされる。平行光束にされた測定光LSは、光路長変更部41、光スキャナ42、コリメートレンズ43、ミラー44、OCT合焦レンズ45、光学部材80、及びフィールドレンズ46を経由してダイクロイックミラー48に到達する。そして、測定光LSは、ダイクロイックミラー48により反射され、対物レンズ22により屈折されて眼底Efに照射される。測定光LSは、眼底Efの様々な深さ位置において散乱(反射を含む)される。眼底Efによる測定光LSの後方散乱光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0076】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバカプラ122は、所定の分岐比(例えば1:1)で、測定光LSと参照光LRとの干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。ファイバカプラ122から出射した一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバ123、124により検出器125に導かれる。
【0077】
検出器125は、例えば一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを有し、これらによる検出結果の差分を出力するバランスドフォトダイオード(Balanced Photo Diode)である。検出器125は、その検出結果(干渉信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。DAQ130には、光源ユニット101からクロックKCが供給される。クロックKCは、光源ユニット101において、波長掃引型光源により所定の波長範囲内で掃引(走査)される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニット101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、クロックKCに基づき、検出器125の検出結果をサンプリングする。DAQ130は、サンプリングされた検出器125の検出結果を演算制御ユニット200に送る。演算制御ユニット200は、例えば一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、検出器125により得られた検出結果に基づくスペクトル分布にフーリエ変換等を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。
【0078】
実施形態ではマイケルソン型の干渉計を採用しているが、例えばマッハツェンダー型など任意のタイプの干渉計を適宜に採用することが可能である。実施形態では、干渉光学系は、図3に示す構成に加えて、図1に示すコリメートレンズユニット40、光路長変更部41、光スキャナ42、コリメートレンズ43、ミラー44、OCT合焦レンズ45、光学部材80、フィールドレンズ46を含んでもよい。
【0079】
〔演算制御ユニット200〕
演算制御ユニット200の構成について説明する。
【0080】
図4及び図5に、実施形態に係る眼科装置1の処理系の構成例のブロック図を示す。図5は、図4の補正処理部232の構成例の機能ブロック図である。図4において、図1又は図3と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0081】
演算制御ユニット200は、検出器125から入力される検出信号を解析して眼底EfのOCT画像を形成する。そのための演算処理は、従来のスウェプトソースタイプのOCT装置と同様である。
【0082】
図4に示すように、演算制御ユニット200は、制御部210を含み、眼底カメラユニット2、表示装置3の機能を有するユーザインターフェイス240、及びOCTユニット100の各部を制御する。例えば、演算制御ユニット200は、眼底EfのOCT画像(断層画像、3次元画像)を形成し、形成されたOCT画像を表示装置3に表示させる。
【0083】
眼底カメラユニット2の制御として、観察光源11、撮影光源15及びLED51、61の動作制御、CCDイメージセンサ35、38の動作制御、LCD39の動作制御、合焦レンズ31の移動制御、OCT合焦レンズ45の移動制御、反射棒67の移動制御、フォーカス光学系60の移動制御、光路長変更部41の移動制御、光スキャナ42の動作制御、光学部材80の駆動制御などがある。
【0084】
OCTユニット100の制御として、光源ユニット101の動作制御、コーナーキューブ114の移動制御、検出器125の動作制御、DAQ130の動作制御、アッテネータ120の動作制御、偏波コントローラ103、118の動作制御などがある。
【0085】
演算制御ユニット200は、光学系の制御に加えて、画像の形成処理、各種データ処理を実行する。
【0086】
演算制御ユニット200は、例えば、従来のコンピュータと同様に、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、眼科装置1を制御するためのコンピュータプログラムが記憶されている。演算制御ユニット200は、各種の回路基板、例えばOCT画像を形成するための回路基板を備えていてもよい。また、演算制御ユニット200は、キーボードやマウス等の操作デバイス(入力デバイス)や、LCD等の表示デバイスを備えていてもよい。いくつかの実施形態では、演算制御ユニット200の機能は、1以上のプロセッサにより実現される。
【0087】
眼底カメラユニット2、表示装置3、OCTユニット100及び演算制御ユニット200は、一体的に(つまり単一の筺体内に)構成されていてもよいし、2つ以上の筐体に別れて構成されていてもよい。
【0088】
制御部210は、主制御部211と、記憶部212とを含む。
【0089】
(主制御部211)
主制御部211は、前述の眼科装置1の各部に制御信号を出力することにより各種制御を行う。特に、主制御部211は、眼底カメラユニット2に対して、CCDイメージセンサ35、38、LCD39、合焦駆動部31A、光路長変更部41、光スキャナ42、OCT合焦駆動部45A、及び光学部材駆動部80Aを制御する。更に、主制御部211は、OCTユニット100に対して、光源ユニット101、参照駆動部114A、偏波コントローラ103、118、アッテネータ120、検出器125、DAQ130を制御する。
【0090】
主制御部211は、CCDイメージセンサ35又はCCDイメージセンサ38の露光時間(電荷蓄積時間)、感度、フレームレート等を制御する。いくつかの実施形態では、主制御部211は、所望の画質の画像を取得するようにCCDイメージセンサ35又はCCDイメージセンサ38を制御する。
【0091】
主制御部211は、LCD39に対して固視標や視力測定用視標の表示制御を行う。それにより、被検眼Eに呈示される視標が切り替えられたり、視標の種別が変更されたりする。また、LCD39における視標の表示位置を変更することにより、被検眼Eに対する視標呈示位置を変更することが可能である。
【0092】
合焦駆動部31Aは、合焦レンズ31を光軸方向に移動する。主制御部211は、合焦レンズ31が所望の合焦位置に配置されるように合焦駆動部31Aを制御する。それにより、撮影光学系30の合焦位置が変更される。
【0093】
例えば、主制御部211は、CCDイメージセンサ35により得られた受光像(スプリット指標)におけるスプリット指標の位置を解析して、合焦駆動部31A及びフォーカス光学系60を制御する。或いは、例えば、主制御部211は、被検眼Eのライブ画像を後述の表示部240Aに表示させながら、後述の操作部240Bに対してユーザが行った操作に応じて合焦駆動部31A及びフォーカス光学系60を制御する。
【0094】
主制御部211は、光路長変更部41を制御することにより測定光LSの光路長を変更する。それにより、測定光LSの光路長と参照光LRの光路長との差が変更される。
【0095】
例えば、主制御部211は、OCT計測により得られた干渉光LCの検出結果(又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像)を解析し、計測部位が所望の深さ位置になるように光路長変更部41を制御する。
【0096】
主制御部211は、光スキャナ42を制御する。光スキャナ42は、主制御部211からの制御を受け、測定光LSを1次元的又は2次元的に偏向する。主制御部211は、事前に設定されたスキャンモードに対応した偏向パターンに従って測定光LSを偏向するように光スキャナ42を制御する。このようなスキャンモードの例として、ラインスキャン、十字スキャン、サークルスキャン、ラジアルスキャン、同心円スキャン、マルチラインクロススキャン、らせん状スキャン、リサジュー(Lissajous)スキャン、3次元スキャンなどが挙げられる。
【0097】
上記のようなスキャンモードに対応した偏向パターンに従って測定光LSで撮影部位をスキャンすることにより、スキャンライン(スキャン軌跡)に沿う方向と眼底深度方向(z方向)とにより張られる面におけるOCT画像を取得することができる。
【0098】
OCT合焦駆動部45Aは、測定光LSの光路に沿ってOCT合焦レンズ45を移動する。主制御部211は、OCT合焦レンズ45が所望の合焦位置に配置されるようにOCT合焦駆動部45Aを制御する。それにより、測定光LSの合焦位置が変更される。測定光LSの合焦位置は、測定光LSのビームウェストの深さ位置(z位置)に相当する。
【0099】
例えば、主制御部211は、OCT計測により得られた干渉光LCの検出結果の信号対雑音比、又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像の画質に対応した評価値(評価値の統計値を含む)に基づいてOCT合焦駆動部45Aを制御する。
【0100】
OCT合焦レンズ45に代えて液晶レンズ又はアルバレツレンズが設けられる場合、主制御部211は、OCT合焦駆動部45Aに対する制御と同様に、液晶レンズ又はアルバレツレンズを制御することが可能である。
【0101】
光学部材駆動部80Aは、光学部材80を移動する。主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御することにより測定光LSの光路に対して光学部材80の挿脱を制御する。これにより、測定光LSの光路に光学部材80が挿入されたり、測定光LSの光路から光学部材80が退避されたりする。
【0102】
いくつかの実施形態では、光学部材駆動部80Aは、測定光LSの光路に交差する方向(例えば、直交する方向)に光学部材80を移動することにより、測定光LSの光束断面内において測定光LSの光路に対する光学部材80の相対位置を変更する。例えば、光学部材80が、通過する測定光LSに対して互いに異なる光路長を付与する2以上の領域を有する場合に、主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御することにより、測定光LSの光束断面内において2以上の領域の境界領域を移動する。これにより、眼底Efにおける任意の部位の近傍に対して互いに異なる光路長を付与することができる。
【0103】
主制御部211は、光源ユニット101を制御する。光源ユニット101の制御には、光源の点灯と消灯の切り替え、出射光の強度制御、出射光の中心周波数の変更、出射光の掃引速度の変更、掃引周波数の変更、掃引波長範囲の変更などが含まれる。
【0104】
参照駆動部114Aは、参照光の光路に設けられたコーナーキューブ114を、この光路に沿って移動する。それにより、測定光LSの光路長と参照光LRの光路長との差が変更される。
【0105】
例えば、主制御部211は、OCT計測により得られた干渉光LCの検出結果(又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像)を解析し、計測部位が所望の深さ位置になるように参照駆動部114Aを制御する。いくつかの実施形態では、光路長変更部41と参照駆動部114Aのいずれか一方だけが設けられる。
【0106】
主制御部211は、偏波コントローラ103、118を制御する。例えば、主制御部211は、OCT計測により得られた干渉光LCの検出結果の信号対雑音比、又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像の画質に対応した評価値(評価値の統計値を含む)に基づいて偏波コントローラ103、118を制御する。
【0107】
主制御部211は、アッテネータ120を制御する。例えば、主制御部211は、OCT計測により得られた干渉光LCの検出結果の信号対雑音比、又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像の画質に対応した評価値(評価値の統計値を含む)に基づいてアッテネータ120を制御する。
【0108】
主制御部211は、検出器125を制御する。検出器125の制御には、露光時間(電荷蓄積時間)、感度、フレームレート等の制御がある。
【0109】
主制御部211は、DAQ130を制御する。DAQ130の制御には、サンプリングタイミング等の制御がある。
【0110】
移動機構150は、被検眼Eに対して眼底カメラユニット2(OCTユニット100)を3次元的に相対的に移動する。例えば、主制御部211は、移動機構150を制御して、眼底カメラユニット2に設けられた光学系を3次元的に移動させることができる。この制御は、アライメントやトラッキングにおいて用いられる。トラッキングとは、被検眼Eの運動に合わせて装置光学系を移動させるものである。トラッキングを行う場合には、事前にアライメントとピント合わせが実行される。トラッキングは、被検眼Eを動画撮影して得られる画像に基づき被検眼Eの位置や向きに合わせて装置光学系をリアルタイムで移動させることにより、アライメントとピントが合った好適な位置関係を維持する機能である。
【0111】
マニュアルアライメントの場合、光学系に対する被検眼Eの変位がキャンセルされるようにユーザが後述のユーザインターフェイス240に対して操作することにより光学系と被検眼Eとを相対移動させる。例えば、主制御部211は、ユーザインターフェイス240に対する操作内容に対応した制御信号を移動機構150に出力することにより移動機構150を制御して光学系と被検眼Eとを相対移動させる。
【0112】
オートアライメントの場合、光学系に対する被検眼Eの変位がキャンセルされるように主制御部211が移動機構150を制御することにより光学系と被検眼Eとを相対移動させる。いくつかの実施形態では、主制御部211は、光学系の光軸が被検眼Eの軸に略一致し、かつ、被検眼Eに対する光学系の距離が所定の作動距離になるように制御信号を移動機構150に出力することにより移動機構150を制御して光学系と被検眼Eとを相対移動させる。ここで、作動距離とは、対物レンズ22のワーキングディスタンスとも呼ばれる既定値であり、光学系を用いた測定時(撮影時)における被検眼Eと光学系との間の距離に相当する。
【0113】
上記のアライメントにより、光学系(OCTユニット100に含まれる干渉光学系、撮影光学系30)の射出瞳の位置が撮影部位又は撮影部位と光学的に略共役な位置に一致する。眼底Efを撮影する場合、光学系の射出瞳の位置が眼底Ef又は眼底Efと光学的に略共役な位置に一致する。前眼部を撮影する場合、光学系の射出瞳の位置が前眼部又は前眼部と光学的に略共役な位置に一致する。
【0114】
主制御部211は、眼底カメラユニット2等を制御することにより眼底撮影及び前眼部撮影を制御する。また、主制御部211は、眼底カメラユニット2及びOCTユニット100等を制御することによりOCT計測を制御する。主制御部211は、OCT計測を行う前に複数の予備的な動作を実行可能である。予備的な動作としては、アライメント、フォーカス粗調整、偏光調整、フォーカス微調整などがある。複数の予備的な動作は、所定の順序で実行される。いくつかの実施形態では、複数の予備的な動作は、上記の順序で実行される。
【0115】
いくつかの実施形態では、主制御部211は、トラッキング制御により得られたトラッキング情報(被検眼Eの移動に対して光学系(干渉光学系)を追従することにより得られたトラッキング情報)に基づいて、OCT撮影のためのスキャン範囲(第2スキャン範囲)の位置をリアルタイムに補正する。主制御部211は、補正されたスキャン範囲を測定光LSでスキャンするように光スキャナ42を制御することが可能である。
【0116】
また、主制御部211(後述の表示制御部211A)は、各種情報を表示装置3(又は後述の表示部240A)に表示させる。表示装置3に表示される情報には、撮影結果(観察画像、OCT画像)、測定結果(測定値)、後述する撮影条件の変更結果を表す情報などがある。
【0117】
例えば、本撮影(本計測)の前に、仮撮影(仮計測)が実行される。仮撮影において取得された干渉光LCの検出結果又は当該検出結果から形成されたOCT画像に基づいて、本撮影のための撮影条件が調整される。
【0118】
図4に示すように、主制御部211は、表示制御部211Aを含む。
【0119】
表示制御部211Aは、上記のような表示装置3に対する表示制御に加えて、後述の画像形成部220により形成された画像の表示制御、後述のデータ処理部230により得られたデータ処理結果の表示制御などを行うことが可能である。
【0120】
また、主制御部211は、記憶部212にデータを書き込む処理や、記憶部212からデータを読み出す処理を行う。
【0121】
(記憶部212)
記憶部212は、各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底画像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者に関する情報や、左眼/右眼の識別情報などの被検眼に関する情報を含む。
【0122】
記憶部212に記憶された上記のデータの少なくとも一部は、眼科装置1の外部に設けられた記憶部に記憶されていてもよい。例えば、眼科装置1は、院内LAN(Local Area Network)等のネットワークを介して、上記のデータの少なくとも一部を記憶する機能を有するサーバ装置と通信可能に接続される。ここで、眼科装置1とサーバ装置は、インターネット等のWAN(WideAreaNetwork)を介して接続されていてもよい。また、LANとWANとを組み合わせたネットワークを介して眼科装置1とサーバ装置を接続してもよい。
【0123】
(画像形成部220)
画像形成部220は、検出器125により検出されDAQ130によりサンプリングされた検出信号(干渉信号)に基づいて、断層画像の画像データを形成する。すなわち、画像形成部220は、干渉光学系による干渉光LCの検出結果に基づいて被検眼Eの画像を形成する。この処理には、従来のスウェプトソースタイプの光コヒーレンストモグラフィと同様に、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルター処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理が含まれている。このようにして取得される画像データは、複数のAライン(被検眼E内における各測定光LSの経路)における反射強度プロファイルを画像化することにより形成された一群の画像データを含むデータセットである。
【0124】
画質を向上させるために、同じパターンでのスキャンを複数回繰り返して収集された複数のデータセットを重ね合わせる(加算平均する)ことができる。
【0125】
画像形成部220は、例えば、前述の回路基板を含んで構成される。なお、この明細書では、「画像データ」と、それに基づく「画像」とを同一視することがある。また、眼底Efの部位とその画像とを同一視することもある。
【0126】
(データ処理部230)
データ処理部230は、干渉光LCの検出結果、又は画像形成部220により形成された画像に対して各種のデータ処理(画像処理)や解析処理を施す。例えば、データ処理部230は、干渉信号の信号対雑音比の解析、画像の輝度補正、光路長補正、光学倍率補正、分散補正等の各種補正処理を実行する。
【0127】
また、データ処理部230は、眼底カメラユニット2により得られた画像(眼底画像、前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施す。
【0128】
データ処理部230は、断層画像の間の画素を補間する補間処理などの公知の画像処理を実行して、眼底Efの3次元画像の画像データを形成する。なお、3次元画像の画像データとは、3次元座標系により画素の位置が定義された画像データを意味する。3次元画像の画像データとしては、3次元的に配列されたボクセルからなる画像データがある。この画像データは、ボリュームデータ或いはボクセルデータなどと呼ばれる。ボリュームデータに基づく画像を表示させる場合、データ処理部230は、このボリュームデータに対してレンダリング処理(ボリュームレンダリングやMIP(Maximum Intensity Projection:最大値投影)など)を施して、特定の視線方向から見たときの擬似的な3次元画像の画像データを形成する。表示部240A等の表示デバイスには、この擬似的な3次元画像が表示される。
【0129】
また、3次元画像の画像データとして、複数の断層画像のスタックデータを形成することも可能である。スタックデータは、複数の走査線に沿って得られた複数の断層画像を、走査線の位置関係に基づいて3次元的に配列させることで得られる画像データである。すなわち、スタックデータは、元々個別の2次元座標系により定義されていた複数の断層画像を、1つの3次元座標系により表現する(つまり1つの3次元空間に埋め込む)ことにより得られる画像データである。
【0130】
データ処理部230は、取得された3次元データセット(ボリュームデータ、スタックデータ等)に各種のレンダリングを施すことで、任意断面におけるBモード画像(縦断面像、軸方向断面像)、任意断面におけるCモード画像(横断面像、水平断面像)、プロジェクション画像、シャドウグラムなどを形成することができる。Bモード画像やCモード画像のような任意断面の画像は、指定された断面上の画素(ピクセル、ボクセル)を3次元データセットから選択することにより形成される。プロジェクション画像は、3次元データセットを所定方向(z方向、深さ方向、軸方向)に投影することによって形成される。シャドウグラムは、3次元データセットの一部(例えば、特定層に相当する部分データ)を所定方向に投影することによって形成される。Cモード画像、プロジェクション画像、シャドウグラムのような、被検眼の正面側を視点とする画像を正面画像(en-face画像)と呼ぶ。
【0131】
データ処理部230は、OCTにより時系列に収集されたデータ(例えば、Bスキャン画像データ)に基づいて、網膜血管や脈絡膜血管が強調されたBモード画像や正面画像(血管強調画像、アンギオグラム)を構築することができる。例えば、被検眼Eの略同一部位を反復的にスキャンすることにより、時系列のOCTデータを収集することができる。
【0132】
いくつかの実施形態では、データ処理部230は、略同一部位に対するBスキャンにより得られた時系列のBスキャン画像を比較し、信号強度の変化部分の画素値を変化分に対応した画素値に変換することにより当該変化部分が強調された強調画像を構築する。更に、データ処理部230は、構築された複数の強調画像から所望の部位における所定の厚さ分の情報を抽出してen-face画像として構築することでOCTA像を形成する。
【0133】
データ処理部230により生成された画像(例えば、3次元画像、Bモード画像、Cモード画像、プロジェクション画像、シャドウグラム、OCTA像)もまたOCT画像に含まれる。
【0134】
図5に示すように、データ処理部230は、解析部231と、補正処理部232とを含む。
【0135】
(解析部231)
解析部231は、少なくとも、干渉光LCの検出結果又は画像形成部220により形成されたOCT画像を解析する。いくつかの実施形態では、解析部231は、干渉光LCの検出結果又はOCT画像を解析することによりOCT画像の画質(信号対雑音比)に対応した評価値(評価値の統計値を含む)を解析結果として出力する。主制御部211は、解析部231により得られた解析結果に基づいてOCT合焦駆動部45A、光路長変更部41、偏波コントローラ103、118の少なくとも1つを制御することが可能である。
【0136】
例えば、解析部231は、OCT計測により得られた干渉光の検出結果を解析して、フォーカス微調整制御における測定光LSのフォーカス状態を判定する。例えば、主制御部211は、OCT合焦駆動部45Aを所定のアルゴリズムにしたがって制御しつつ、反復的なOCT計測を行う。解析部231は、OCT計測により繰り返し取得される干渉光LCの検出結果を解析することで、OCT画像の画質に関する所定の評価値を算出する。解析部231は、算出された評価値が閾値以下であるか否か判定する。いくつかの実施形態では、フォーカス微調整は、算出される評価値が閾値以下になるまで継続される。すなわち、評価値が閾値以下であるとき測定光LSのフォーカス状態が適正であると判断され、フォーカス微調整は、測定光LSのフォーカス状態が適正であると判断されるまで継続される。
【0137】
いくつかの実施形態では、主制御部211は、上記のような反復的なOCT計測を行って干渉信号を取得しつつ、逐次に取得される干渉信号の強度(干渉強度、干渉感度)をモニタする。更に、このモニタ処理を行いながら、OCT合焦レンズ45を移動させることにより、干渉強度が最大となるようなOCT合焦レンズ45の位置を探索する。このようなフォーカス微調整によれば、干渉強度が最適化されるような位置にOCT合焦レンズ45を導くことができる。
【0138】
また、解析部231は、OCT計測により得られた干渉光の検出結果を解析して、測定光LS及び参照光LRの少なくとも一方の偏波状態を判定する。例えば、主制御部211は、偏波コントローラ103、118の少なくとも一方を所定のアルゴリズムにしたがって制御しつつ、反復的なOCT計測を行う。いくつかの実施形態では、主制御部211は、アッテネータ120を制御して、参照光LRの減衰量を変更する。解析部231は、OCT計測により繰り返し取得される干渉光LCの検出結果を解析することで、OCT画像の画質に関する所定の評価値を算出する。解析部231は、算出された評価値が閾値以下であるか否か判定する。この閾値はあらかじめ設定される。偏波調整は、算出される評価値が閾値以下になるまで継続される。すなわち、評価値が閾値以下であるとき測定光LSの偏波状態が適正であると判断され、偏波調整は、測定光LSの偏波状態が適正であると判断されるまで継続される。
【0139】
いくつかの実施形態では、主制御部211は、偏波調整においても干渉強度をモニタすることが可能である。
【0140】
更に、解析部231は、OCT計測により得られた干渉光の検出結果、又は当該検出結果に基づいて形成されたOCT画像に対して所定の解析処理を行う。所定の解析処理には、被検眼Eにおける所定の部位(組織、病変部)の特定;指定された部位間の距離(層間距離)、面積、角度、比率、密度の算出;指定された計算式による演算;所定の部位の形状の特定;これらの統計値の算出;計測値、統計値の分布の算出;これら解析処理結果に基づく画像処理などがある。所定の組織には、血管、視神経乳頭、中心窩、黄斑などがある。所定の病変部には、白斑、出血などがある。
【0141】
いくつかの実施形態では、解析部231は、セグメンテーション処理部として、取得された被検眼のデータに基づいてAスキャン方向の複数の層領域を特定する。この場合、解析部231は、3次元のOCTデータに対してセグメンテーション処理を施すことにより、被検眼の複数の組織に相当する複数の部分データセットを特定する。セグメンテーション処理は、特定の組織や組織境界を特定するための画像処理である。例えば、解析部231は、スキャンデータに含まれる各Aスキャン画像における画素値(輝度値)の勾配を求め、勾配が大きい位置を組織境界として特定する。なお、Aスキャン画像は、眼底の深さ方向にのびる1次元画像データである。なお、眼底の深さ方向は、例えば、z方向、測定光LSの入射方向、軸方向、干渉光学系の光軸方向などとして定義される。
【0142】
典型的な例において、解析部231は、眼底(網膜、脈絡膜等)及び硝子体を表す3次元のOCTデータを解析することにより、眼底の複数の層組織に相当する複数の部分データセットを特定する。各部分データセットは、層組織の境界によって画成される。部分データセットとして特定される層組織の例として、網膜を構成する層組織がある。網膜を構成する層組織には、内境界膜、神経繊維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層、RPEがある。解析部231は、ブルッフ膜、脈絡膜、強膜、硝子体等に相当する部分データセットを特定することができる。いくつかの実施形態では、解析部231は、病変部に相当する部分データセットを特定する。病変部の例として、剥離部、浮腫、出血、腫瘍、ドルーゼンなどがある。
【0143】
いくつかの実施形態では、解析部231は、RPEに対して強膜側の所定のピクセル数分の層組織をブルッフ膜として特定し、当該層組織に相当する部分データセットをブルッフ膜の部分データセットとして取得する。
【0144】
(補正処理部232)
補正処理部232は、上記のように、光学部材80を通過した測定光LSを用いて取得されたスキャンデータ又はスキャンデータに基づいて形成されたOCT画像に対して補正処理を行う。
【0145】
図5に示すように、補正処理部232は、光路長補正部232Aと、光学倍率補正部232Bと、分散補正部232Cとを含む。補正処理部232は、光路長の補正処理、光学倍率の補正処理、及び分散の補正処理の少なくとも1つを実行することが可能である。例えば、光路長の補正処理、及び光学倍率の補正処理のそれぞれは、OCTスキャンにより得られたスキャンデータ、又はスキャンデータに基づいて形成されたOCT画像に対して実行される。例えば、分散の補正処理のそれぞれは、スキャンデータに対して実行される。なお、光路長補正部232A、光学倍率補正部232B、及び分散補正部232Cの少なくとも1つは、画像形成部220に含まれていてもよい。
【0146】
ここで、実施形態に係る補正処理について説明する。
【0147】
図6Aに、実施形態の比較例に係るOCTスキャンの動作説明図を示す。図6Aにおいて、図1と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。図6Aは、対物レンズ22を介して被検眼Eに入射する測定光の光線を模式的に表したものである。
【0148】
例えば、光スキャナにより測定光を偏向して、被検眼Eの眼底Efをy方向にスキャンすることにより、断層画像IMG0を取得することができる。このとき、眼底Efの断面形状は湾曲しているため、Bスキャン方向のスキャン長が長くなると、スキャン中心(撮影中心)から離れた部位が画像化レンジに収まらなくなり、画像のフリップが発生する場合がある。
【0149】
そこで、実施形態に係る眼科装置1は、光学部材80を測定光の光路に配置することで、所望の計測部位をスキャンする測定光に光路長を付与する。それにより、Bスキャン方向のスキャン長が長い場合でも、例えばスキャン中心に対して光路長差が付与されているため、スキャン中心(撮影中心)から離れた部位を画像化レンジに収め、画像のフリップの発生を防止することができる。
【0150】
図6Bに、実施形態に係るOCTスキャンの動作説明図を示す。図6Bにおいて、図1又は図6Aと同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。図6Aは、対物レンズ22を介して被検眼Eに入射する測定光の光線を模式的に表したものである。
【0151】
図6Bでは、例えば、測定光LSの画角に応じて光路長を補正する光路長補正部材81、82、83が配置されているものとする。光路長補正部材81、82、83のそれぞれは、スキャン中心と異なる光路長を測定光LSに付与する。図6Aと同様に、光スキャナにより測定光を偏向して、被検眼Eの眼底Efをy方向にスキャンすると、光路長補正部材81、82、83を通過する測定光LSにより得られたAスキャンデータは深さ方向にシフトする。その結果、これらのスキャンデータを用いて形成された断層画像IMG1では、Aスキャンの位置に応じて眼底Efの描出位置がz方向にシフトされる。すなわち、所望の画角(測定光LSによるAスキャン位置)に光路長補正部材を測定光LSの光路に配置することで、Bスキャン方向のスキャン長が長くなった場合でも、スキャン中心(撮影中心)から離れた部位を画像化レンジに収めることができるようになる。
【0152】
この実施形態では、図6Bに示す光路長補正部材として、光学部材80が所望の画角に対応した測定光LSの光線の経路に配置される。
【0153】
ここで、実施形態では、撮影部位(眼底Ef)に対するスキャンを行う場合に、光学部材80の画角に応じて測定光LSの経路が異なる。そこで、補正処理部232は、光学部材80における画角(光学部材80を通過する測定光LSの光線)に応じて、信号処理(補正処理)を変更することが可能である。補正処理部232は、Aスキャン位置に応じて異なる補正処理をスキャンデータ(干渉光の検出結果)又はOCT画像に対して実行することができる。
【0154】
例えば、補正処理部232(光路長補正部232A)は、図6Bに示すように画角に応じて異なる経路を進行する測定光LSを用いたOCTスキャンにより取得されたスキャンデータ又はOCT画像に対して、光路長を揃えるように光路長の補正処理を行う。図2又は図6Bに示す例では、補正処理部232は、図6Bに示すように深さ方向にシフトしたスキャンデータ又はOCT画像(断層画像)に対して、光路長補正部材により付与された光路長をキャンセルするように光路長の補正処理を行う。すなわち、補正処理部232は、Aスキャン位置毎に測定光LSに付与された光路長差をキャンセルするようにスキャンデータ又はOCT画像を補正することができる。
【0155】
また、例えば、補正処理部232(光学倍率補正部232B)は、図6Bに示すように画角に応じて異なる経路を進行する測定光LSを用いたOCTスキャンにより取得されたスキャンデータ又はOCT画像に対して、光学倍率のばらつきを補正する光学倍率の補正処理を行うことができる。すなわち、補正処理部232は、Aスキャン位置毎に1ピクセルのサイズを揃えるようにOCT画像を補正することができる。
【0156】
更に、例えば、補正処理部232(分散補正部232C)は、図6Bに示すように画角に応じて異なる経路を進行する測定光LSを用いたOCTスキャンにより取得されたスキャンデータに対して、波長分散のばらつきを補正する分散の補正処理を行うことができる。すなわち、補正処理部232は、Aスキャン位置毎に波長分散を補償するようにスキャンデータを補正することができる。
【0157】
以上のように、補正処理部232は、測定光LSの光学部材80の通過により付与された光路長の補正処理、測定光LSの光学部材80の通過に起因した光学倍率のずれの補正処理、及び、測定光LSの光学部材80の通過に起因した分散の補正処理の少なくとも1つを実行する。
【0158】
(光路長補正部232A)
光路長補正部232Aは、OCTスキャンにより得られたスキャンデータ又はスキャンデータに基づいて形成されたOCT画像に対して光路長の補正処理を行う。光路長の補正処理は、光学部材80により測定光LSに対して画角毎に付与された光路長によって生じた深さ方向のずれを揃える処理を含む。光路長補正部232Aは、スキャンデータ又はOCT画像を、光路長に対応したシフト量だけ深さ方向(z方向)にシフトさせることで光路長を補正することができる。
【0159】
[第1処理例]
例えば、xy平面における光学部材80の厚さの分布と、光学部材80の媒質の屈折率と、光学系における光学部材80の位置とは、既知である。そこで、光学部材80の厚さの分布と、屈折率と、光学部材80の位置とを用いて測定光LSの光線追跡シミュレーションを事前に行い、シミュレーション結果から測定光LSの各光線に対して補正すべき光路長補正量を求めてもよい。求められた光路長補正量を補正情報として記憶部212又はデータ処理部230に記憶することができる。補正情報は、光線(画角)毎に算出された複数の光路長補正量、光学部材80のxy平面の所定の領域毎に算出された複数の光路長補正量、又は、光路長が付与された領域毎に算出された1以上の光路長補正量を含む。この場合、光路長補正部232Aは、あらかじめ記憶された補正情報を参照して、スキャンデータ又はOCT画像に対して光路長の補正処理を行う。
【0160】
[第2処理例]
例えば、眼科装置毎に、測定光LSの光路に光学部材80が配置されたときの複数のAスキャン位置における光路長の分布と、測定光LSの光路から光学部材80が退避されたときの複数のAスキャン位置における光路長の分布とを事前に測定し、双方の測定結果から複数のAスキャン位置における光路長差の分布を求めてもよい。求められた光路長差の分布に対応した光路長補正量を補正情報(キャリブレーションデータ)として記憶部212又はデータ処理部230に記憶しておくことができる。補正情報は、光線(画角)毎に得られた複数の光路長補正量、光学部材80のxy平面の所定の領域毎に得られた複数の光路長補正量、又は、光路長が付与された領域毎に得られた1以上の光路長補正量を含む。この場合、光路長補正部232Aは、あらかじめ記憶された補正情報を参照して、スキャンデータ又はOCT画像に対して光路長の補正処理を行う。
【0161】
[第3処理例]
例えば、光路長の補正前のスキャンデータ又はOCT画像を訓練データとして、光路長の補正後のスキャンデータ又はOCT画像を教師データとする教師あり機械学習を実行することで、学習済み補正モデルを事前に生成してもよい。生成された学習済み補正モデルを記憶部212又はデータ処理部230に記憶しておくことができる。この場合、光路長補正部232Aは、あらかじめ記憶された学習済み補正モデルに、光路長の補正前のスキャンデータ又はOCT画像を入力して、学習済み補正モデルから出力された光路長の補正後のスキャンデータ又はOCT画像を取得する。
【0162】
[第4処理例]
例えば、解析部231は、スキャンデータ又はOCT画像に対してセグメンテーション処理を行って、眼底Efにおける所定の層領域を特定する。光路長補正部232Aは、互いに異なる光路長が付与される2つの領域の境界において、解析部231によって特定された層領域がなめらかに接続されるように深さ方向(z方向)にシフトさせることで、スキャンデータ又はOCT画像に対して光路長の補正処理を行う。
【0163】
(光学倍率補正部232B)
光学倍率補正部232Bは、OCTスキャンにより得られたOCTデータ又はOCT画像に対して光学倍率の補正処理を行う。光学倍率の補正処理は、光学部材80により画角毎に測定光LSが異なる経路を進行する(又は、測定光LSが異なる媒質を通過する)ことによって生じた光学倍率のずれを揃える処理を含む。光学倍率補正部232Bは、スキャンデータ又はOCT画像に対して、光学倍率の補正量に対応した伸縮、拡張、回転、アフィン変換などを行うことで、1ピクセルのサイズを補正することができる。
【0164】
[第1処理例]
例えば、xy平面における光学部材80の厚さの分布と、光学部材80の媒質の屈折率と、光学系における光学部材80の位置とは、既知である。そこで、光学部材80の厚さの分布と、屈折率と、光学部材80の位置とを用いて測定光LSの光線追跡シミュレーションを事前に行い、シミュレーション結果から測定光LSの各光線に対して補正すべき光学倍率補正量を求めてもよい。求められた光学倍率補正量を補正情報として記憶部212又はデータ処理部230に記憶することができる。補正情報は、光線(画角)毎に算出された複数の光学倍率補正量、光学部材80のxy平面の所定の領域毎に算出された複数の光学倍率補正量、又は、光路長が付与された領域毎に算出された1以上の光学倍率補正量を含む。この場合、光学倍率補正部232Bは、あらかじめ記憶された補正情報を参照して、スキャンデータ又はOCT画像に対して光学倍率の補正処理を行う。
【0165】
[第2処理例]
例えば、眼科装置毎に、測定光LSの光路に光学部材80が配置された状態で基準部材を撮影することにより得られた画像と、測定光LSの光路から光学部材80が退避された状態で基準部材を撮影することにより得られた画像とを比較することで、複数のAスキャン位置における光学倍率のずれの分布を求めてもよい。基準部材の例として、格子状にパターンが描出された部材(例えば、プレート)などがある。求められた光学倍率のずれの分布に対応した光学倍率補正量を補正情報として記憶部212又はデータ処理部230に記憶しておくことができる。補正情報は、光線(画角)毎に得られた複数の光学倍率補正量、光学部材80のxy平面の所定の領域毎に得られた複数の光学倍率補正量、又は、光路長が付与された領域毎に得られた1以上の光学倍率補正量を含む。この場合、光学倍率補正部232Bは、あらかじめ記憶された補正情報を参照して、スキャンデータ又はOCT画像に対して光学倍率の補正処理を行う。
【0166】
[第3処理例]
例えば、光学倍率の補正前のスキャンデータ又はOCT画像を訓練データとして、光学倍率の補正後のスキャンデータ又はOCT画像を教師データとする教師あり機械学習を実行することで、学習済み補正モデルを事前に生成してもよい。生成された学習済み補正モデルを記憶部212又はデータ処理部230に記憶しておくことができる。この場合、光学倍率補正部232Bは、あらかじめ記憶された学習済み補正モデルに、光学倍率の補正前のスキャンデータ又はOCT画像を入力して、学習済み補正モデルから出力された光学倍率の補正後のスキャンデータ又はOCT画像を取得する。
【0167】
[第4処理例]
また、例えば、眼底Efのen-face画像に描出された特徴部位のつながり又はサイズの差異に基づいて、光学部材80の挿入の有無に起因した光学倍率のずれを補正してもよい。具体的には、データ処理部230は、3次元のOCTスキャンにより取得された3次元スキャンデータ又は3次元OCT画像からen-face画像を作成する。解析部231は、3次元スキャンデータ又は3次元OCT画像における特徴部位を特定すると共に、対応するen-face画像における上記の特徴部位を特定する。特徴部位の例として、血管、視神経乳頭、中心窩、黄斑、疾患部位などがある。解析部231は、光学部材80の挿入の有無に起因した部位として、en-face画像上で特徴部位のつながり、及びサイズ(特徴部位が血管の場合は血管径)の差異の少なくとも一方を特定する。光学倍率補正部232Bは、特定された特徴部位のつながり、及びサイズの差異の少なくとも一方に基づいてen-face画像に対する光学倍率補正量を決定し、決定された光学倍率補正量を用いてen-face画像に対して光学倍率の補正処理を行う。再び、解析部231は、en-face画像上で特徴部位のつながり、及びサイズの差異の少なくとも一方を特定する。en-face画像上で特徴部位がつながり、又は特徴部位のサイズの差異がなくなるまで、en-face画像上で特徴部位のつながり、及びサイズの差異の少なくとも一方を特定と、光学倍率の補正とを繰り返すことで、光学倍率補正量を決定する。光学倍率補正部232Bは、決定された光学倍率補正量に基づいて、OCT画像に対して光学倍率の補正処理を行う。
【0168】
なお、上記の処理例では、光学部材80を通過した測定光LSにより得られたOCT画像に対して光学倍率の補正処理を実行することで、Bスキャン全体の光学倍率のばらつきを補正する場合について説明したが、実施形態に係る構成はこれに限定されない。例えば、光学部材80を通過していない測定光LSにより得られたスキャンデータ又はOCT画像に対して光学倍率の補正処理を実行することで、Bスキャン全体の光学倍率のばらつきを補正してもよい。
【0169】
(分散補正部232C)
分散補正部232Cは、OCTスキャンにより得られたスキャンデータに対して分散の補正処理を行う。分散の補正処理は、光学部材80により画角毎に測定光LSが異なる経路を進行する(又は、測定光LSが異なる媒質を通過する)ことによって生じた波長分散の影響を打ち消す処理を含む。分散補正部232Cは、スキャンデータに対して、分散補正量に対応した分散係数を用いた分散補償関数を乗算することにより分散の補正処理を行うことができる。
【0170】
[第1処理例]
例えば、xy平面における光学部材80の厚さの分布と、光学部材80の媒質の屈折率と、光学系における光学部材80の位置とは、既知である。そこで、光学部材80の厚さの分布と、屈折率と、光学部材80の位置とを用いて測定光LSの光線追跡シミュレーションを事前に行い、シミュレーション結果から測定光LSの各光線に対して補正すべき分散補正量(分散補正係数)を求めてもよい。求められた分散補正量を補正情報として記憶部212又はデータ処理部230に記憶することができる。補正情報は、光線(画角)毎に算出された複数の分散補正量、光学部材80のxy平面の所定の領域毎に算出された複数の分散補正量、又は、光路長が付与された領域毎に算出された1以上の分散補正量を含む。この場合、分散補正部232Cは、あらかじめ記憶された補正情報を参照して、スキャンデータに対して分散の補正処理を行う。
【0171】
[第2処理例]
例えば、分散の補正前のスキャンデータを訓練データとして、分散の補正後のスキャンデータを教師データとする教師あり機械学習を実行することで、学習済み補正モデルを事前に生成してもよい。生成された学習済み補正モデルを記憶部212又はデータ処理部230に記憶しておくことができる。この場合、分散補正部232Cは、あらかじめ記憶された学習済み補正モデルに、分散の補正前のスキャンデータを入力して、学習済み補正モデルから出力された分散の補正後のスキャンデータを取得する。
【0172】
いくつかの実施形態では、補正処理部232は、撮影モード、後述の表示モード、計測部位、及び測定光LSの画角(Aスキャン位置)に応じて上記の補正処理の中から選択された1以上の補正処理を実行する。
【0173】
データ処理部230は、撮影光学系30を用いて取得された眼底画像とOCT画像との位置合わせを行うことができる。眼底画像とOCT画像とが並行して取得される場合には、双方の光学系が同軸であることから、同時(略同時)に取得された眼底画像とOCT画像とを、撮影光学系30の光軸を基準として位置合わせすることができる。また、眼底画像とOCT画像との取得タイミングに関わらず、OCT画像をxy平面に投影して得られる画像と眼底画像との位置合わせをすることにより、そのOCT画像とその眼底画像とを位置合わせすることも可能である。この位置合わせ手法は、眼底画像取得用の光学系とOCT計測用の光学系とが同軸でない場合においても適用可能である。また、双方の光学系が同軸でない場合であっても、双方の光学系の相対的な位置関係が既知であれば、この相対位置関係を参照して同軸の場合と同様の位置合わせを実行することが可能である。
【0174】
以上のように機能するデータ処理部230は、例えば、前述のプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をマイクロプロセッサに実行させるコンピュータプログラムがあらかじめ格納されている。
【0175】
(ユーザインターフェイス240)
ユーザインターフェイス240には、表示部240Aと操作部240Bとが含まれる。表示部240Aは、前述した演算制御ユニット200の表示デバイスや表示装置3を含んで構成される。操作部240Bは、前述した演算制御ユニット200の操作デバイスを含んで構成される。操作部240Bには、眼科装置1の筐体や外部に設けられた各種のボタンやキーが含まれていてもよい。例えば眼底カメラユニット2が従来の眼底カメラと同様の筺体を有する場合、操作部240Bは、この筺体に設けられたジョイスティックや操作パネル等を含んでいてもよい。また、表示部240Aは、眼底カメラユニット2の筺体に設けられたタッチパネルなどの各種表示デバイスを含んでいてもよい。
【0176】
なお、表示部240Aと操作部240Bは、それぞれ個別のデバイスとして構成される必要はない。例えばタッチパネルのように、表示機能と操作機能とが一体化されたデバイスを用いることも可能である。その場合、操作部240Bは、このタッチパネルとコンピュータプログラムとを含んで構成される。操作部240Bに対する操作内容は、電気信号として制御部210に入力される。また、表示部240Aに表示されたグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)と、操作部240Bとを用いて、操作や情報入力を行うようにしてもよい。
【0177】
表示装置3又は表示部240Aは、この実施形態に係る「表示手段」の一例である。OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系は、実施形態に係る「光学系」の一例である。
【0178】
<光学部材80の構成例>
光学部材80の構成は、図2に示す構成に限定されるものではない。
【0179】
図7Aに、実施形態に係る光学部材80の第1変形例を模式的に示す。図7Aは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Aにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0180】
実施形態に係る光学部材80は、Aスキャンの基準位置(例えば、対物レンズ22の光軸に相当する位置)からAスキャン位置が離れるほど連続的又は段階的に変化量が大きくなるように光路長差を測定光LSに付与するように構成されてよい。第1構成例に係る光学部材80は、図2と同様に、上記の第1領域を光束が通過するように開口部が形成されている透光部材である。しかしながら、第1構成例では、光学部材80は、多段リング状に構成される。すなわち、光学部材80は、Aスキャンの基準位置から離れるほどz方向に厚くなるように構成される。第1構成例によれば、光路長を段階的に付与しつつ、図2に示す構成と同様に、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大させることが可能になる。
【0181】
いくつかの実施形態では、光学部材80は、厚さが変化する面(図7Aの上面)がOCTユニット100(干渉光学系)の側に向き、厚さが変化しない面(図7Aの下面)が被検眼Eの側に向くように配置される。いくつかの実施形態では、光学部材80は、厚さが変化する面(図7Aの上面)が被検眼Eの側に向き、厚さが変化しない面(図7Aの下面)がOCTユニット100(干渉光学系)の側に向くように配置される。
【0182】
図7Bに、実施形態に係る光学部材80の第2変形例を模式的に示す。図7Bは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Bにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0183】
第1構成例では、2段構成で厚さが変化する場合について説明したが、第2構成例では、3段構成で厚さが変化する。第2構成例によれば、第1構成例より細かく光路長を付与することができる。それにより、画質の劣化をより低減できる可能性がある。なお、光学部材80は、4段以上の構成で厚さが変化するように構成されていてもよい。
【0184】
図7Cに、実施形態に係る光学部材80の第3変形例を模式的に示す。図7Cは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Cにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0185】
第1構成例又は第2構成例では、z方向の厚さが段階的に変化する場合について説明したが、第3構成例では、z方向の厚さが連続的に変化する。具体的には、第3構成例では、光路長を付与する領域と開口部が形成されている領域の境界において厚さが徐々に変化するように勾配が形成されている。第3変形例によれば、光路長の変化を連続的に変化させることができるため、急峻な光路長の変化に起因した多重反射等のアーチファクトの影響をなくし、光路長補正による画質の劣化を低減できる場合がある。
【0186】
図7Dに、実施形態に係る光学部材80の第4変形例を模式的に示す。図7Dは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Dにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0187】
第1構成例~第3構成例では、光学部材80の輪郭の形状が円形である場合について説明したが、実施形態に係る光学部材80の構成はこれに限定されるものではない。光学部材80の輪郭の形状は、図7Dに示すように矩形であってもよい。第4変形例によれば、第1変形例と同様の効果を得ることができる。
【0188】
図7Eに、実施形態に係る光学部材80の第5変形例を模式的に示す。図7Eは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Eにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0189】
第1変形例~第4変形例では、光学部材80が、光学系の光軸に相当する位置を含むように円形状の開口部が形成される場合について説明したが、実施形態に係る光学部材80の構成はこれに限定されるものではない。例えば、光学部材80は、上記の図2図7A図7Dに示す構成の一部を有する部材であってよい。図7Eでは、光学部材80は、光軸に相当する位置を中心に第1構成例に係る光学部材を4等分して得られた部材である。
【0190】
いくつかの実施形態では、光軸に相当する位置を中心に第5変形例に係る光学部材80を回動可能である。
【0191】
図7Fに、実施形態に係る光学部材80の第6変形例を模式的に示す。図7Fは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Fにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0192】
第6変形例に係る光学部材80は、矩形形状を有する。この場合も、光学部材80は、媒質中の屈折率が実質的に一様なガラス部材であってよい。いくつかの実施形態では、第6変形例に係る光学部材80を、光軸に交差する方向(例えば、x方向、y方向)に移動可能である。これにより、所望の部位をスキャンする測定光だけに光路長を付与することができる。
【0193】
図7Gに、実施形態に係る光学部材80の第7変形例を模式的に示す。図7Gは、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図7Gにおいて、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0194】
第7変形例に係る光学部材80は、Aスキャンの基準位置からAスキャン位置が離れるほど連続的又は段階的に変化量が大きくなるように光路長差を測定光LSに付与するように構成される。第7変形例では、光学部材80は、光軸に相当する位置(Aスキャンの基準位置)に入射する測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が、当該第1領域の周辺領域の光路長差より長くなるように構成される。すなわち、第7構成例では、Aスキャンの基準位置に近いほどz方向に厚くなるように構成される。これにより、撮影部位が眼底における浮腫や、前眼部の角膜のような断面形状が凸状である場合、光軸付近のAスキャン位置に入射する測定光に対して、周辺領域のAスキャン位置に入射する測定光よりも長い光路長を付与することができる。第7変形例によれば、眼底Efとは逆に凸状の断面形状の湾曲の度合いがより大きくなった場合でも、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大させることが可能になる。
【0195】
例えば、撮影部位が眼底Efにおける浮腫の場合、光学部材80は、上記のように、被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置に配置されることが望ましい。これに対して、例えば、撮影部位が角膜(前眼部)の場合、光学部材80は、被検眼Eの角膜と光学的に略共役な位置に配置されることが望ましい。
【0196】
実施形態に係る光学部材80は、光学的な共役位置の移動を伴わない程度の屈折力を有するレンズ素子であってもよい。眼底Efなどの凹状の部位を撮影する場合、レンズ素子として凸レンズなどがある。前眼部などの凸状の部位を撮影する場合、レンズ素子として凹レンズなどがある。
【0197】
また、上記の光学部材80は、媒質中の屈折率が実質的に一様なガラス部材を用いて、画角毎に光軸方向の厚さが異なるように構成される場合について説明したが、実施形態に係る光学部材80の構成はこれに限定されるものではない。
【0198】
例えば、実施形態に係る光学部材80は、光軸方向の厚さが一定の部材を用いて、画角毎に屈折率が異なるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、光学部材80は、画角毎に屈折率を変更可能である。画角毎に屈折率を変更可能な光学部材80の例として、液晶素子、液体レンズ、空間光変調器(Spatial Light Modulator)、屈折率分布型の光学部材などがある。また、光学部材80は、画角ごとに光軸方向の厚さを変更可能であってよい。屈折率分布型の光学部材の例として、Gradient-index(GRIN)平行平面板、Gradient-indexレンズなどがある。
【0199】
更に、上記の光学部材80は、測定光LSを透過することにより光路長を付与する場合について説明したが、実施形態に係る光学部材80の構成はこれに限定されるものではない。例えば、光学部材80は、画角ごとにミラーにより測定光LSを反射させることで、画角毎に測定子LSに光路長を付与する部材を含んでもよい。例えば、光学部材80の機能は、回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)、又はデフォーマブル素子を用いて実現されてもよい。
【0200】
[動作例]
実施形態に係る眼科装置1の動作例について説明する。
【0201】
図8図9、及び図10に、実施形態に係る眼科装置1の動作例のフロー図を示す。図8は、実施形態に係る眼科装置1の動作例のフローチャートを表す。図9及び図10は、図8のステップS7の動作例のフローチャートを表す。記憶部212には、図8図9、及び図10に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。主制御部211は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図8図9、及び図10に示す処理を実行する。
【0202】
(S1:アライメント)
まず、所定の固視位置に固視標を提示した状態で、主制御部211は、被検眼Eに対する光学系のアライメント調整を行う。アライメント調整の例として、手動で行う場合と自動で行う場合とがある。
【0203】
アライメント調整を手動で行う場合、主制御部211は、アライメント光学系50により一対のアライメント指標を被検眼Eに投影する。表示部240Aには、これらアライメント指標の受光像として一対のアライメント輝点が表示される。また、主制御部211は、一対のアライメント輝点の移動目標となる位置を表すアライメントスケールを表示部240Aに表示させる。アライメントスケールは、例えば括弧型の画像である。
【0204】
被検眼Eと眼底カメラユニット2(対物レンズ22)との位置関係が適正である場合、公知の手法により、一対のアライメント輝点は、所定位置(例えば、角膜頂点と角膜曲率中心との中間位置)においてそれぞれ一旦結像して被検眼Eに投影されるようになっている。ここで、上記の位置関係が適正であるとは、被検眼Eと眼底カメラユニット2との間の距離(ワーキングディスタンス)が適正であり、且つ、眼底カメラユニット2の光学系の光軸と被検眼Eの眼軸(角膜頂点位置)とが一致(略一致)していることを意味する。検者(ユーザ)は、一対のアライメント輝点をアライメントスケール内に導くように眼底カメラユニット2を3次元的に移動させることにより、被検眼Eに対する光学系のアライメント調整を行うことが可能である。
【0205】
アライメント調整を自動で行う場合、眼底カメラユニット2を移動させるための移動機構150が用いられる。データ処理部230は、表示部240Aに表示される画面中の各アライメント輝点の位置を特定し、特定された各アライメント輝点の位置とアライメントスケールとの変位を求める。主制御部211は、この変位をキャンセルするように移動機構150により眼底カメラユニット2を移動させる。各アライメント輝点の位置の特定は、例えば、各アライメント輝点の輝度分布を求め、この輝度分布に基づいて重心位置を求めることにより実行できる。アライメントスケールの位置は一定であるので、例えばその中心位置と上記重心位置との変位を求めることにより、目的の変位を求めることが可能である。眼底カメラユニット2の移動方向及び移動距離は、あらかじめ設定されたx方向、y方向及びz方向の各方向における単位移動距離を参照して決定することが可能である。単位移動距離は、例えば、眼底カメラユニット2をどの方向にどれだけ移動させると、アライメント指標がどの方向にどれだけ移動するかを事前に計測した結果から特定される。主制御部211は、決定された移動方向及び移動距離に応じた信号を生成し、この信号を移動機構150に送信する。それにより、被検眼Eに対する光学系の位置が自動で調整される。
【0206】
(S2:スキャン位置を設定)
続いて、主制御部211は、スキャン位置を設定する。ここで、スキャン位置は、スキャン範囲、スキャン開始位置、及びスキャン終了位置を含む。
【0207】
例えば、主制御部211は、操作部240Bを用いてユーザにより眼底Efの画像上で指定されたスキャン位置を設定する。例えば、主制御部211は、操作部240Bを用いて眼底Efの眼底画像に対して指定された位置をスキャン位置として設定する。眼底画像の例として、撮影光学系30を用いて取得された撮影画像、OCT計測により得られたライブOCT画像(プロジェクション画像、en-face画像)などがある。例えば、主制御部211は、操作部240Bを用いてユーザにより指定された、撮影部位に対応した撮影モードに基づいて、撮影モードにあらかじめ関連付けられた撮影部位にスキャン位置を設定する。
【0208】
(S3:光学部材を配置)
次に、主制御部211は、光学部材80を測定光LSの光路に配置する。光学部材80があらかじめ配置されている場合は、ステップS3は省略される。
【0209】
例えば、主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御して、光学部材80を図1に示すようにOCT合焦レンズ45とフィールドレンズ46との間に配置させる。
【0210】
いくつかの実施形態では、主制御部211は、ステップS2において指定されたスキャン位置に基づいて光学部材80を配置させる。例えば、主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御することにより、ステップS2において指定されたスキャン位置に、光学部材80において互いに異なる光路長を付与する領域の境界領域が重なるように光学部材80を配置させる。
【0211】
(S4:深さ位置を調整)
次に、主制御部211は、被検眼Eにおける注目部位に相当する画像領域が断層画像における所定の深さ範囲に入るように、注目部位に相当する画像領域が描出される深さ位置の調整を行う。
【0212】
例えば、主制御部211は、LCD39の所定位置にOCT計測用の固視標を表示させる。主制御部211は、眼底Efにおける光学系の光軸の位置に対応するLCD39の表示位置に固視標を表示させることが可能である。
【0213】
続いて、主制御部211は、OCTユニット100を制御してOCT仮計測を実行させ、深さ方向の計測範囲の基準位置を調整するための調整用断層画像を取得させる。具体的には、主制御部211は、光スキャナ42を制御することにより、光源ユニット101から出射された光L0に基づいて生成された測定光LSを偏向し、偏向された測定光LSで被検眼Eの眼底Efをスキャンさせる。測定光LSのスキャンにより得られた干渉光の検出結果は、クロックKCに同期してサンプリングされた後、画像形成部220に送られる。画像形成部220は、得られた干渉信号から被検眼Eの断層画像(OCT画像)を形成する。
【0214】
続いて、例えば、主制御部211は、得られた断層画像における所定の部位(例えば、強膜)を解析部231に特定させ、特定された所定の部位の位置に対して深さ方向に所定の距離だけ離れた位置を計測範囲の基準位置として設定する。主制御部211は、基準位置に対応して、光路長変更部41及び参照駆動部114Aの少なくとも一方を制御する。また、測定光LSと参照光LRの光路長が略一致するようにあらかじめ決められた所定の位置が計測範囲の基準位置として設定されてもよい。
【0215】
(S5:フォーカス調整)
次に、主制御部211は、フォーカス調整制御を実行する。
【0216】
例えば、主制御部211は、OCT合焦駆動部45Aを制御してOCT合焦レンズ45を所定の距離だけ移動させた後、OCTユニット100を制御してOCT計測を実行させる。主制御部211は、上記のように、OCT計測により得られた干渉光の検出結果に基づいて測定光LSのフォーカス状態をデータ処理部230に判定させる。データ処理部230による判定結果に基づいて測定光LSのフォーカス状態が適正ではないと判断されたとき、主制御部211は、再びOCT合焦駆動部45Aの制御を行い、フォーカス状態が適正であると判断されるまで繰り返す。
【0217】
(S6:偏波調整)
次に、主制御部211は、偏波調整を実行する。
【0218】
例えば、主制御部211は、偏波コントローラ103、118の少なくとも一方を制御して光L0及び測定光LSの少なくとも一方の偏波状態を所定の量だけ変更した後、OCTユニット100を制御してOCT計測を実行させ、取得された干渉光の検出結果に基づくOCT画像を画像形成部220に形成させる。主制御部211は、上記のように、OCT計測により得られたOCT画像の画質をデータ処理部230に判定させる。データ処理部230による判定結果に基づいて測定光LSの偏波状態が適正ではないと判断されたとき、主制御部211は、再び偏波コントローラ103、118の制御を行い、偏波状態が適正であると判断されるまで繰り返す。
【0219】
(S7:スキャンデータを取得)
続いて、主制御部211は、ステップS1~ステップS6により調整された測定環境の下でOCT計測を実行することによりスキャンデータを取得させる。
【0220】
ステップS3において測定光LSの光路に光学部材80が配置されたことにより、測定光LSを偏向して得られるBスキャンデータには、光路長のばらつき、光学倍率のばらつき、ピントのばらつき、及び波長分散のばらつきが生ずる。ステップS7では、これらのばらつきの少なくとも1つが補正される。ステップS7の詳細については、後述する。
【0221】
(S8:表示)
次に、表示制御部211Aは、ステップS7において取得されたスキャンデータに基づいて断層画像を表示部240Aに表示させる。
【0222】
例えば、ステップS7において、光路長のばらつき、光学倍率のばらつき、ピントのばらつき、及び波長分散のばらつきが補正されたスキャンデータが取得されたとき、表示制御部211Aは、取得されたスキャンデータに基づいて形成された断層画像を表示部240Aに表示させる。
【0223】
例えば、ステップS7において光路長のばらつきが補正されない場合であっても、主制御部211は、画像形成部220又はデータ処理部230を制御して、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のスキャンデータに基づいて複数のOCT画像を形成させることが可能である。表示制御部211Aは、生成された複数のOCT画像を表示部240Aに表示させる。
【0224】
以上で、眼科装置1の動作は終了である(エンド)。
【0225】
図8のステップS7では、例えば、図9及び図10に示すフローが実行される。図9及び図10では、ステップS3において配置された光学部材80により測定光LSに付与される画角(Aスキャン位置)と光路長とが既知であるものとする。
【0226】
(S11:偏向制御)
まず、主制御部211は、ステップS2において設定されたスキャン位置に基づいて決定されるAスキャン位置に測定光LSを入射するように光スキャナ42に対して偏向制御を実行する。
【0227】
(S12:測定光の経路に光学部材?)
続いて、主制御部211は、ステップS11において偏向された測定光LSの光路に光学部材80が配置されているか否かを判定する。
【0228】
例えば、主制御部211は、光学部材80の配置位置に基づいて、当該Aスキャンのスキャン位置に入射する測定光LSの光路に光学部材80が配置されているか否かを判定することが可能である。
【0229】
当該Aスキャンのスキャン位置に入射する測定光LSの光路に光学部材80が配置されていると判定されたとき(S12:Y)、眼科装置1の動作はステップS13に移行する。当該Aスキャンのスキャン位置に入射する測定光LSの光路に光学部材80が配置されていないと判定されたとき(S12:N)、眼科装置1の動作はステップS14に移行する。
【0230】
(S13:合焦レンズを移動)
当該Aスキャンのスキャン位置に入射する測定光LSの光路に光学部材80が配置されていると判定されたとき(S12:Y)、主制御部211は、OCT合焦駆動部45Aを制御することにより、光学部材80に付与される光路長に対応した移動量だけOCT合焦レンズ45を光軸方向に移動させる。
【0231】
これにより、画角に応じて光路長を付与する光学部材80を配置することによるピントずれによる画像のぼけを防止することができる。
【0232】
(S14:Aスキャンを実行)
ステップS13に続いて、又は、ステップS12において当該Aスキャンのスキャン位置に入射する測定光LSの光路に光学部材80が配置されていないと判定されたとき(S12:N)、主制御部211は、OCTユニット100を制御してAスキャンを実行させる。Aスキャンにより得られた干渉光LCは、検出器125により検出され、クロックKCによりDAQ130に取り込まれる。
【0233】
(S15:リスケーリング)
次に、主制御部211は、画像形成部220を制御して、ステップS14において取得されたスキャンデータに対してリスケーリング処理を施す。リスケーリング処理は、干渉光LCの検出結果をクロックKCにより時間軸上において等間隔でサンプリングすることにより得られたスキャンデータを、時間軸上において波数が線形的に(直線的に)変化するように並び替える処理である。リスケーリング処理を行うことにより、時間軸上において波数が線形的に変化する波数クロックにより干渉光LCの検出結果をサンプリングする場合と同様に画像を形成することができる。
【0234】
(S16:分散補正)
続いて、主制御部211は、データ処理部230又は画像形成部220に含まれる分散補正部232Cを制御することにより、ステップS15においてリスケーリング処理されたスキャンデータに対して分散補正を行わせる。分散補正部232Cは、上記の補正情報に基づいて、光学部材80を配置することにより生じた波長分散を補償するための分散係数を用いた分散補償関数をスキャンデータに乗算することで、波長分散を打ち消す処理を行う。
【0235】
(S17:窓関数処理)
続いて、主制御部211は、ステップS16において分散の補正処理後のスキャンデータに対して窓関数処理を実行する。窓関数は、画像化レンジに対応した所定の波長幅を有する関数である。窓関数の例として、矩形窓、ガウス窓、ハン窓、サイン窓などを表す関数がある。窓関数処理を行うことで、スキャンデータは、窓関数にしたがって波長位置毎に重み付けされるため、画像化レンジの境界近傍にスキャンデータやノイズ成分が残存する場合でも、その影響をより一層低減することができるようになる。
【0236】
(S18:フーリエ変換)
続いて、主制御部211は、ステップS17において窓関数処理が施されたスキャンデータに対して、公知のフーリエ変換を施す。
【0237】
(S19:次のAスキャン?)
次に、主制御部211は、次のAスキャンを実行するか否かを判定する。
【0238】
例えば、主制御部211は、ステップS2において設定されたスキャン位置により定まるスキャン範囲に従って、次のAスキャンを実行するか否かを判定することができる。
【0239】
次のAスキャンを実行すると判定されたとき(S19:Y)、眼科装置1の動作はステップS11に移行する。次のAスキャンを実行しないと判定されたとき(S19:N)、眼科装置1の動作はステップS20に移行する。
【0240】
(S20:光路長補正)
ステップS19において、次のAスキャンを実行しないと判定されたとき(S19:N)、主制御部211は、光路長補正部232Aを制御することにより、上記の補正情報に基づいて、フーリエ変換処理のスキャンデータに対して光路長の補正処理を行わせる。
【0241】
例えば、光学部材80の配置位置が既知であるため、光学部材80を通過する測定光LSが入射するAスキャン位置も既知である。主制御部211は、当該Aスキャンが光学部材80を通過する測定光LSを用いたAスキャンであるか否かを判定する。当該Aスキャンが光学部材80を通過する測定光LSを用いたAスキャンであると判定されたとき、主制御部211は、光路長補正部232Aを制御することにより、上記の補正情報に基づいて、上記のよう光路長の補正処理を行わせることが可能である。当該Aスキャンが光学部材80を通過する測定光LSを用いたAスキャンではないと判定されたとき、主制御部211は、測定光に対して光路長の補正処理を行わない。これにより、Aスキャン位置(画角)に応じてAスキャンデータ単位で光路長の補正処理が行われる。
【0242】
(S21:Bスキャンデータを生成)
次に、主制御部211は、ステップS20の処理後のAスキャンデータをBスキャン方向に配列することでBスキャンデータを生成する。
【0243】
例えば、画像形成部220は、BスキャンデータからBスキャン画像を形成することが可能である。画像形成部220は、フーリエ変換により得られた実数部と虚数部とを用いて、当該Aラインの各画素について振幅成分を求めることができる。例えば、Bスキャン画像を構成するAライン数(1024ライン)分の処理が終了したとき、画像形成部220は、全画素の振幅成分を求め、例えば、振幅成分Amに対し20×log10(Am+1)により対数変換を施す。その後、画像形成部220は、断層画像内で基準ノイズレベルを決め、この基準ノイズレベルを基準に、上記のように対数変換された振幅成分に応じて各画素に対し所定の輝度値範囲内のいずれかの値を割り当てる。画像形成部220は、割り当てられた各画素の輝度値を用いてBスキャン画像(断層画像)を形成することが可能である。
【0244】
(S22:光学倍率補正)
次に、主制御部211は、光学倍率補正部232Bを制御することにより、ステップS21において生成されたBスキャンデータ(断層画像)に対して、上記の補正情報に基づいて光学倍率の補正処理を行わせる。
【0245】
以上で、図8のステップS7の処理は終了である(エンド)。
【0246】
以上のように、光学部材80を配置することにより、画角に応じて光路長が付与された測定光LSを用いてOCTスキャンを行い、得られたスキャンデータ又はOCT画像に対して光路長補正、光学倍率補正、ピントずれの補正、及び分散補正を行う。それにより、Bスキャン方向のスキャン長が長くなった場合でも、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することができるようになる。
【0247】
なお、図8図10の処理例では、スキャンデータに対して光路長補正、光学倍率補正、ピントずれの補正、及び分散補正を行う場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、スキャンデータに対して光路長補正、光学倍率補正、ピントずれの補正、及び分散補正の少なくとも1つを省略し、省略された補正を、当該スキャンデータに基づいて形成されたOCT画像に対して実行するようにしてもよい。例えば、スキャンデータに対して光路長補正を行うことなく、このスキャンデータに基づいて形成されたOCT画像に対して光路長補正を行ってもよい。
【0248】
図11に、OCT画像に対して光路長補正を行った場合のOCT画像の表示例を示す。
【0249】
例えば、ステップS7において光路長のばらつきが補正されない場合であっても、主制御部211は、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCTデータに基づいて複数のOCT画像IMG11、IMG12を形成させる。図11では、OCT画像IMG11は、光学部材80により光路長が付与されないBスキャン範囲(第1Bスキャン範囲)の断層画像(第1OCT画像)である。OCT画像IMG12は、光学部材80により光路長が付与されたBスキャン範囲(第2Bスキャン範囲)の断層画像(第2OCT画像)である。
【0250】
主制御部211は、光路長補正部232Aを制御して、各OCT画像を光路長差に対応したシフト量だけz方向にシフトさせることで、OCT画像IMG11、IMG12の光路長差をキャンセルする。図11では、OCT画像IMG12がz方向にシフトされる。データ処理部230は、OCT画像IMG11、IMG12を合成することで、図11に示すような合成画像を生成する。表示制御部211Aは、生成された合成画像を表示部240Aに表示させる。
【0251】
いくつかの実施形態では、光路長の補正処理を行うことなく、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCTデータに基づいて形成された複数のOCT画像を識別可能に表示部240Aに表示させる。
【0252】
図12に、OCT画像に対して光路長補正を行わない場合のOCT画像の表示例を示す。
【0253】
例えば、表示制御部211Aは、光学部材80により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を識別可能な枠で囲んで表示部240Aに表示させる。図12では、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して第1光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像IMG21が枠G1に囲まれ、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して第2光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像IMG22が枠G2に囲まれている。
【0254】
枠G1、G2は、光学部材80により互いに異なる光路長が付与される領域の境界領域を覆うように設けられてよい。これにより、付与される光路長の違いに起因するアーチファクトの影響を受けることなく、医師の診断等への影響を回避することができる。
【0255】
枠G1、G2は、あらかじめ決められた模様が付されたり、あらかじめ決められた色が付されたりしてよい。
【0256】
いくつかの実施形態では、表示制御部211Aは、OCT画像IMG21、IMG22と共に眼底の全体を表す眼底画像IMG23を表示させ、OCT画像IMG21、IMG22のそれぞれが眼底のどの領域に相当するかを把握するための補助情報を提供する。眼底画像IMG23の例として、光路長補正後のOCT画像IMG21、IMG22の合成画像、眼底の一般的な断面構造を表す画像(あらかじめ作成された画像)などがある。
【0257】
図13に、OCT画像に対して光路長補正を行わない場合のOCT画像の他の表示例を示す。
【0258】
例えば、表示制御部211Aは、光学部材80により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲の複数のOCT画像を、ギャップを設けて表示部240Aに表示させる。図13では、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して第1光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像IMG31(枠G11に囲まれている)(第1OCT画像)と、光学部材80によりAスキャンの基準位置に対して第2光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像IMG32(枠G12に囲まれている)(第2OCT画像)が分離して表示される。なお、OCT画像IMG31、IMG32のそれぞれは、枠に囲まれていなくてもよい。
【0259】
すなわち、互いに異なる光路長が付与された領域の複数のOCT画像を、敢えて間隔をあけて表示部240Aに表示させる。それにより、付与される光路長の違いに起因するアーチファクトの影響を受けることなく、医師の診断等への影響を回避することができる。
【0260】
いくつかの実施形態では、表示制御部211Aは、OCT画像IMG31、IMG32と共に眼底の全体を表す眼底画像IMG33を表示させ、OCT画像IMG31、IMG32のそれぞれが眼底のどの領域に相当するかを把握するための補助情報を提供する。眼底画像IMG33の例として、光路長補正後のOCT画像IMG31、IMG32の合成画像、眼底の一般的な断面構造を表す画像(あらかじめ作成された画像)などがある。
【0261】
<変形例>
上記の実施形態では、光学部材80を配置することにより、Bスキャン方向のスキャン長が長くなった場合でも、1回のOCT本計測だけで、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大する手法について説明した。しかしながら、実施形態に係る構成はこれに限定されるものではない。
【0262】
図14に、実施形態に係る光学部材80の第8変形例を模式的に示す。図14は、光学部材80の上面図と断面図とを模式的に表したものである。図14において、図2と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。
【0263】
第8変形例に係る光学部材80は、媒質中の屈折率が実質的に一様な直方体形状の低分散(例えば、アッベ数νが64以上)のガラス部材であってよい。光学部材80は、スキャン範囲の全体を覆うように配置される。
【0264】
すなわち、光学部材80を測定光LSの光路に配置された状態で第1OCT計測(本計測)を行うと共に、光学部材80が測定光LSの光路から退避された状態で第2OCT計測(本計測)とが行われる。第1OCT計測により得られた第1OCT画像と第2OCT計測により得られた第2OCT画像とから、画像のフリップが発生した領域を特定し、特定された領域の第1OCT画像に対して光路長補正を行う。光路長補正が行われた第1OCT画像と、画像のフリップが発生していない領域の第2OCT画像とを合成することで、図11に示すような合成画像を取得することができる。
【0265】
また、表示部240Aにおける垂直方向の表示レンジに制限があることを鑑みて、表示部240Aに表示されるOCT画像の表示倍率に応じて、表示態様を切り替えても良い。
【0266】
図15に、実施形態の変形例に係る眼科装置の動作説明図を示す。
【0267】
表示制御部211Aは、操作部240Bを用いたユーザの操作により指定された表示倍率でOCT画像を表示部240Aに表示させることが可能である。例えば、表示倍率があらかじめ決められた第1倍率以下のとき、表示制御部211Aは、図8図10のフローに従って光路長の補正処理が行われた断層画像IMG41を表示部240Aに表示させる。断層画像IMG41は、上記のように、光学部材80を用いて光路長を付与してOCTスキャンを行い、光路長補正が行われたため、画像のフリップが発生しない。
【0268】
ここで、ユーザが操作部240Bを用いて表示倍率を変更して、表示倍率が第1倍率を超えたとき、主制御部211は、データ処理部230を制御して、断層画像IMG41から、光路長補正が行われた領域の画像を分離させる。これにより、光路長補正が行われた画像IMG42、IMG43と、光路長補正が行われなかった画像IMG44とが分離される。例えば、表示制御部211Aは、画像IMG42、画像IMG44、画像IMG43を水平方向に並べて表示部240Aに表示させる。このとき、表示制御部211Aは、図12又は図13に示すように画像IMG42、画像IMG44、画像IMG43を表示部240Aに表示させてもよい。
【0269】
これにより、表示部240Aにおける垂直方向の表示レンジに制限があり、Bスキャン方向のスキャン長が長い場合であっても、簡便に、低コストで、断層画像を詳細に観察することができるようになる。
【0270】
上記の実施形態では、例えば1回のOCT計測で、簡便に、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することが可能な手法について説明したが、実施形態に係る構成は、これに限定されるものではない。例えば、光学部材80は、測定光の進行方向に交差する方向に、測定光に付与する光路長差が変化する変化領域を有する場合に、2回以上のOCT計測を実行して、当該変化領域に起因するOCT画像の画質の劣化を防止するようにしてもよい。光学部材80の変化領域として、測定光の進行方向に直交する平面内において、通過する測定光の進行方向の厚さが変化する境界領域を含む領域、屈折率が変化する境界領域を含む領域などがある。測定光の進行方向の厚さが変化する境界領域を含む領域の例として、図2等に示す開口部の輪郭部分を含む領域などがある。
【0271】
例えば、主制御部211(制御部210)は、OCTユニット100を制御して、光学部材80の変化領域に対する、当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいてOCT計測を実行させる。
【0272】
2以上の状態の第1の例として、測定光の進行方向に交差する方向にAスキャン位置を光学部材80の変化領域に対して相対移動する前と後の状態がある。例えば、主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御することにより、光学部材80の変化領域に対するAスキャン位置の相対位置を変更することが可能である。
【0273】
2以上の状態の第2の例として、測定光の光路に光学部材80を挿入した状態と当該光路から退避させた状態がある。例えば、主制御部211は、光学部材駆動部80Aを制御することにより、測定光の光路に光学部材80を配置したり、測定光の光路から光学部材80を退避したりすることが可能である。
【0274】
2以上の状態の第3の例として、前記変化領域を通過する測定光の光路の位置又は測定光の進行方向を変更する前と後の状態がある。
【0275】
測定光の光路の位置を変更する場合、例えば、眼科装置には、測定光の光路の光軸の位置を変更する光学部材が、測定光の光路に対して挿脱可能に設けられる。主制御部211は、この光学部材を測定光の光路に対して挿脱することが可能な図示しない移動機構を制御することにより、光学部材80の変化領域に対する、当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置を変更することができる。このような光学部材の例として、測定光の光路に対して厚さ方向が斜めになるように配置可能な平行平面部を含む光学部材(例えば、平行平面板)などがある。
【0276】
例えば、眼科装置は、測定光の光路に配置された偏向部材を含む。主制御部211は、この偏向部材を制御して、光学部材80の変化領域を通過する測定光の進行方向を変更することで、光学部材80の変化領域に対する、当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置を変更することができる。このような偏向部材の例として、光スキャナ42とは別に設けられた光スキャナなどがある。
【0277】
2以上の状態の第4の例として、被検眼Eの眼底Efに投影される固視標が第1投影位置に投影された状態と、眼底Efに投影される固視標が第1投影位置と異なる第2投影位置に投影された状態とがある。例えば、主制御部211は、LCD39を制御することにより、眼底Efにおける固視標の投影位置を変更することが可能である。このとき、主制御部211は、LCD39を制御して、2以上の状態のそれぞれにおけるOCT画像において、光学部材80の変化領域を通過する測定光に基づいて形成された画像領域が重複しないように、眼底Efにおける固視標の投影位置を変更する。いくつかの実施形態では、光学部材80により光路長差が付与される領域(変化領域を含む)と、眼底Efにおける固視標の投影位置との対応関係を示す対応関係情報が記憶部212にあらかじめ記憶される。図1の構成では、LCD39を含む固視投影系と干渉光学系とは同軸に結合されるため、光学部材80により光路長差が付与される領域(変化領域を含む)と、眼底Efにおける測定光の入射位置との対応関係を示す対応関係情報が記憶部212にあらかじめ記憶される。主制御部211は、上記の対応関係情報を参照してLCD39を制御することにより、眼底Efにおける固視標の投影位置を変更することが可能である。
【0278】
続いて、主制御部211は、画像形成部220を制御して、上記のいずれかの2以上の状態のそれぞれにおいて取得された干渉光の検出結果に基づいて、2以上のOCT画像を形成させる。
【0279】
そして、主制御部211は、データ処理部230を制御して、画像形成部220により形成された2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成させる。このとき、データ処理部230は、変化領域に対してAスキャン位置を相対移動した後の当該変化領域を通過する測定光を用いて形成されたOCT画像の画像領域を用いて、相対移動する前の当該変化領域を通過する測定光を用いて形成されたOCT画像の画像領域の画質の劣化を補うように合成画像を形成することができる。
【0280】
例えば、データ処理部230は、相対移動の前と後の2つのOCT画像の相関関数を求め、2つのOCT画像の相対位置を変更しつつ相関関数により得られた相関値が最も高い両画像の相対位置を探索する。データ処理部230は、探索された相対位置における相対移動前のOCT画像の中で、画質の変化の差が大きい画像領域(類似度が低い画像領域)を、光学部材80の変化領域を通過した測定光を用いて形成された画像領域として特定することが可能である。データ処理部230は、相対移動前のOCT画像における特定された画像領域を、相対移動後のOCT画像における対応する画像領域に置き換えることで合成画像を形成する。この場合、データ処理部230は、対応する画像領域を重畳させることで合成画像を形成してもよい。いくつかの実施形態では、光学部材80により光路長差が付与される領域(変化領域を含む)と、光スキャナ42による測定光の偏向角度との対応関係を示す対応関係情報が記憶部212にあらかじめ記憶される。相対移動後に、主制御部211は、上記の対応関係情報を参照して光スキャナ42を制御して、光学部材80の変化領域を含む領域だけをスキャンし、光学部材80の変化領域を通過した測定光を用いて部分画像を形成させる。主制御部211は、データ処理部230を制御して、相対移動前のOCT画像における、変化領域を通過した測定光を用いて形成された画像領域を、相対移動後に取得された部分画像に置き換えることで合成画像を形成する。
【0281】
或いは、データ処理部230は、上記と同様に相関関数を用いて、相対移動の前と後の2つのOCT画像のそれぞれにおいて、光学部材80の変化領域を通過した測定光を用いて形成された画像領域を特定し、当該画像領域に描出された眼底の所定の層領域(例えば、RPE、又はIS/OSライン(視細胞内節/外節ライン))を特定する。続いて、データ処理部230は、2つのOCT画像のそれぞれにおいて、Bスキャン方向の位置とAスキャン方向の位置とを変数とする公知のフィッティング関数で、特定された層領域に対してフィッティング処理を施し、フィッティング処理により特定されたフィッティング関数を用いて両画像のそれぞれにおける上記の画像領域における接線の位置及び方向を求める。データ処理部230は、求められた2つの画像領域の接線の位置及び方向が略一致するように、相対移動前のOCT画像における特定された画像領域を、相対移動後のOCT画像における対応する画像領域に置き換えることで合成画像を形成する。いくつかの実施形態では、相対移動後に、主制御部211は、上記の対応関係情報を参照して光スキャナ42を制御して、光学部材80の変化領域を含む領域だけをスキャンして、光学部材80の変化領域を通過した測定光を用いて部分画像を形成させる。データ処理部230は、形成された部分画像について層領域の特定と、フィッティングと、接線の位置及び方向の算出とを行い、部分画像の接線の位置及び方向が相対移動前のOCT画像における画像領域の接線の位置及び方向に略一致するように、相対移動前のOCT画像における画像領域を上記の部分画像に置き換えることで合成画像を形成する。
【0282】
いくつかの実施形態では、上記の眼科装置の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。このようなプログラムを、コンピュータによって読み取り可能な非一時的な(non-transitory)任意の記録媒体に記憶させることができる。記録媒体は、磁気、光、光磁気、半導体などを利用した電子媒体であってよい。典型的には、記録媒体は、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ、ソリッドステートドライブなどである。また、インターネットやLAN等のネットワークを通じてこのプログラムを送受信することも可能である。
【0283】
[作用]
実施形態に係る眼科装置、眼科装置の制御方法、及びプログラムについて説明する。
【0284】
実施形態の第1態様は、光学系(OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系)と、光学部材(80)と、画像形成部(220)とを含む眼科装置(1)である。光学系は、光スキャナ(42)を含み、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼(E)に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置(画角)毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与する。画像形成部は、干渉光の検出結果に基づいて被検眼のOCT画像(断層画像)を形成する。
【0285】
このような態様によれば、測定光の光路に光学部材を配置して、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与するようにしたので、所望の部位に対するスキャンにより得られた干渉光の検出結果を深さ方向にシフトさせることができる。それにより、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することが可能になる。
【0286】
実施形態の第2態様では、第1態様において、光学部材は、基準位置からAスキャン位置が離れるほど連続的又は段階的に変化量が大きくなるように光路長差を測定光に付与する。
【0287】
このような態様によれば、Aスキャンの基準位置を基準に深さ方向に形状が変化する計測部位に対してOCTスキャンを行う場合、Bスキャン方向にスキャン長が長くなっても簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することができるようになる。
【0288】
実施形態の第3態様では、第1態様又は第2態様において、光学部材は、基準位置に入射する測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が第1領域の周辺領域の光路長差より短くなるように構成される。
【0289】
このような態様によれば、眼底のような断面形状が凹状の計測部位に対してOCTスキャンを行う場合、Bスキャン方向にスキャン長が長くなっても、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することができるようになる。
【0290】
実施形態の第4態様では、第3態様において、光学部材は、第1領域を光束が通過するように開口部が形成されている透光部材(ガラス部材)である。
【0291】
このような態様によれば、Aスキャンの基準位置に入射する測定光が開口部を通過するように光学部材が配置されるため、光路長の補正処理に伴う画質の劣化を回避しつつ、光学部材の小型化を図ることができるようになる。
【0292】
実施形態の第5態様では、第1態様~第4態様のいずれかにおいて、光学部材は、被検眼の眼底(Ef)と光学的に略共役な位置に配置される。
【0293】
このような態様によれば、測定光のビームセパレーションが最も良好になる位置においてAスキャン位置毎に測定光に光路長を付与することができるため、より高精度な光路長の付与により断面形状が凹状の計測部位が描出されたOCT画像の画質を向上させることができるようになる。
【0294】
実施形態の第6態様では、第1態様又は第2態様において、光学部材は、基準位置に入射する測定光の光束が通過する第1領域の光路長差が第1領域の周辺領域の光路長差より長くなるように構成される。
【0295】
このような態様によれば、角膜や眼底における浮腫のような断面形状が凸状の計測部位に対してOCTスキャンを行う場合、Bスキャン方向にスキャン長が長くなっても、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大することができるようになる。
【0296】
実施形態の第7態様では、第6態様において、光学部材は、被検眼の角膜と光学的に略共役な位置に配置される。
【0297】
このような態様によれば、測定光のビームセパレーションが最も良好になる位置においてAスキャン位置毎に測定光に光路長を付与することができるため、より高精度な光路長の付与により断面形状が凸状の計測部位が描出されたOCT画像の画質を向上させることができるようになる。
【0298】
実施形態の第8態様では、第1態様~第7態様のいずれかにおいて、光学部材は、測定光の光路の交差方向に移動可能である。
【0299】
このような態様によれば、測定光の光路に配置される光学部材の位置を高精度に調整することが可能になるため、所望のAスキャン位置に入射する測定光に対して高精度に光路長を付与することができるようになる。それにより、OCTの深さ方向の画像化レンジが拡大されたOCT画像の高画質化を図ることが可能になる。
【0300】
実施形態の第9態様は、第1態様~第8態様のいずれかにおいて、Aスキャン位置に応じて異なる補正処理を干渉光の検出結果(スキャンデータ)又はOCT画像に対して実行する補正処理部(232)を含む。
【0301】
このような態様によれば、光学部材を通過した測定光を用いたOCTスキャンにより得られた干渉光の検出結果又はOCT画像に対して補正処理を実行することができるようになる。それにより、OCTの深さ方向の画像化レンジが拡大されたOCT画像の高画質化を図ることが可能になる。
【0302】
実施形態の第10態様では、第9態様において、補正処理部は、Aスキャン位置毎に測定光に付与された光路長差をキャンセルするように干渉光の検出結果又はOCT画像を補正する。
【0303】
このような態様によれば、光学部材を通過した測定光を用いたOCTスキャンにより得られた干渉光の検出結果又はOCT画像に対して、光学部材により付与された光路長をキャンセルして、Bスキャン方向にスキャン長が長くなっても、簡便に、低コストで、OCT画像のフリップを防ぐことができるようになる。
【0304】
実施形態の第11態様では、第9態様又は第10態様において、補正処理部は、Aスキャン位置毎に1ピクセルのサイズを揃えるようにOCT画像を補正する。
【0305】
このような態様によれば、光学部材を通過した測定光を用いたOCTスキャンにより得られたOCT画像に対して光学倍率のばらつきを抑えるように補正し、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大しつつ、OCT画像の高画質化を図ることが可能になる。
【0306】
実施形態の第12態様では、第9態様~第11態様のいずれかにおいて、補正処理部は、Aスキャン位置毎に波長分散を補償するように干渉光の検出結果を補正する。
【0307】
このような態様によれば、光学部材を通過した測定光を用いたOCTスキャンにより得られた干渉光の検出結果に対して波長分散のばらつきを抑えるように補正し、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大しつつ、OCT画像の高画質化を図ることが可能になる。
【0308】
実施形態の第13態様は、第1態様~第12態様のいずれかにおいて、OCT画像を表示手段(表示部240A、表示装置3)に表示させる表示制御部(211A)を含む。表示制御部は、光学部材により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像(IMG21、IMG22)を識別可能な枠(G1、G2)で囲んで表示手段に表示させる。
【0309】
このような態様によれば、光学部材によりAスキャンの基準位置に対して同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を枠で囲んで識別しやすく表示手段に表示させるため、互いに異なる光路長を付与することにより発生するアーチファクトの影響を受けることなく、光路長が付与された領域のOCT画像を容易に観察することができる。
【0310】
実施形態の第14態様は、第1態様~第13態様のいずれかにおいて、OCT画像を表示手段(表示部240A、表示装置3)に表示させる表示制御部(211A)を含む。表示制御部は、第1光路長差が付与されたBスキャン範囲の第1OCT画像(OCT画像IMG32)と、第1光路長差と異なる第2光路長差が付与されたBスキャン範囲の第2OCT画像(OT画像IMG31)との間にギャップを設けて第1OCT画像と第2OCT画像とを表示手段に表示させる。
【0311】
このような態様によれば、光学部材によりAスキャンの基準位置に対して互いに異なる光路長が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を分離して表示手段に表示させるため、互いに異なる光路長を付与することにより発生するアーチファクトの影響を受けることなく、光路長が付与された領域のOCT画像を容易に観察することができる。
【0312】
実施形態の第15態様は、第1態様~第13態様のいずれかにおいて、OCT画像を表示手段(表示部240A、表示装置3)に表示させる表示制御部(211A)を含む。表示制御部は、互いに光路長差が異なる測定光を用いた第1Bスキャン範囲の第1OCT画像(OCT画像IMG11)及び第2Bスキャン範囲の第2OCT画像(OCT画像IMG12)の少なくとも一方を、双方の光路長差をキャンセルするようにAスキャン方向に移動させることにより第1OCT画像と第2OCT画像とを合成して表示手段に表示させる。
【0313】
このような態様によれば、Bスキャン方向のスキャン長が長くなっても、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大しつつOCT画像を表示させることが可能になる。それにより、OCT画像のフリップの影響を受けることなく、Bスキャン方向のスキャン長が長いOCT画像を詳細に観察することができるようになる。
【0314】
実施形態の第16態様は、第1態様~第8態様のいずれかにおいて、光学部材は、測定光に付与する光路長差が変化する変化領域(例えば、開口部の輪郭部分を含む境界領域)を有する。画像形成部は、変化領域に対する当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいて取得された干渉光の検出結果に基づいて2以上のOCT画像を形成する。眼科装置は、2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成する画像合成部(データ処理部230)を含む。
【0315】
このような態様によれば、光学部材の変化領域に対する、当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上のOCT画像を形成することができる。それにより、上記の相対位置を変更するだけで、変化領域を通過する測定光による得られる干渉光の検出結果に基づくOCT画像の画質が劣化した部分を補うように合成画像を形成することができるようになる。
【0316】
実施形態の第17態様は、光学系(OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系)と、光学部材(80)を含む眼科装置の制御方法である。光学系は、光スキャナ(42)を含み、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼(E)に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与する。眼科装置の制御方法は、画像形成ステップと、補正ステップとを含む。画像形成ステップは、干渉光の検出結果に基づいて被検眼のOCT画像を形成する。補正ステップは、Aスキャン位置に応じて異なる補正処理を干渉光の検出結果又はOCT画像に対して実行する。
【0317】
このような態様によれば、測定光の光路に光学部材を配置して、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与するようにしたので、所望の部位に対するスキャンにより得られた干渉光の検出結果を深さ方向にシフトさせることができる。それにより、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大させることが可能になる。
【0318】
実施形態の第18態様は、光学系(OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系)と、光学部材(80)を含む眼科装置の制御方法である。光学系は、光スキャナ(42)を含み、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼(E)に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与する。眼科装置の制御方法は、画像形成ステップと、表示制御ステップとを含む。画像形成ステップは、干渉光の検出結果に基づいて被検眼のOCT画像を形成する。表示制御ステップは、OCT画像を表示手段(表示部240A、表示装置3)に表示させる。表示制御ステップは、光学部材により同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像(IMG21、IMG22)を識別可能な枠(G1、G2)で囲んで表示手段に表示させる。
【0319】
このような態様によれば、光学部材によりAスキャンの基準位置に対して同一の光路長差が付与されたBスキャン範囲のOCT画像を枠で囲んで識別しやすく表示手段に表示させるため、互いに異なる光路長を付与することにより発生するアーチファクトの影響を受けることなく、光路長が付与された領域のOCT画像を容易に観察することができる。
【0320】
実施形態の第19態様は、光学系(OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系)と、光学部材(80)を含む眼科装置の制御方法である。光学系は、光スキャナ(42)を含み、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼(E)に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与する。眼科装置の制御方法は、画像形成ステップと、表示制御ステップとを含む。画像形成ステップは、干渉光の検出結果に基づいて被検眼のOCT画像を形成する。表示制御ステップは、OCT画像を表示手段(表示部240A、表示装置3)に表示させる。表示制御ステップは、互いに光路長差が異なる測定光を用いた第1Bスキャン範囲の第1OCT画像(OCT画像IMG11)及び第2Bスキャン範囲の第2OCT画像(OCT画像IMG12)の少なくとも一方を、双方の光路長差をキャンセルするようにAスキャン方向に移動させることにより第1OCT画像と第2OCT画像とを合成して表示手段に表示させる。
【0321】
このような態様によれば、Bスキャン方向のスキャン長が長くなっても、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大しつつOCT画像を表示させることが可能になる。それにより、OCT画像のフリップの影響を受けることなく、Bスキャン方向のスキャン長が長いOCT画像を詳細に観察することができるようになる。
【0322】
実施形態の第20態様は、光学系(OCTユニット100から対物レンズ22までの測定光LSが通過する光学系)と、光学部材(80)を含む眼科装置の制御方法である。光学系は、光スキャナ(42)を含み、光源(光源ユニット101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、光スキャナにより偏向された測定光を被検眼(E)に投射し、被検眼からの測定光の戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する。光学部材は、測定光の光路における光学系の射出瞳の位置と光学的に非共役な位置に配置され、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与し、測定光に付与する光路長差が変化する変化領域を有する、眼科装置の制御方法である。眼科装置の制御方法は、画像形成ステップと、画像合成ステップとを含む。画像形成ステップは、変化領域に対する当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上の状態のそれぞれにおいて取得された干渉光の検出結果に基づいて、被検眼の2以上のOCT画像を形成する。画像合成ステップは、画像形成ステップにおいて形成された2以上のOCT画像を合成して合成画像を形成する。
【0323】
このような態様によれば、光学部材の変化領域に対する、当該変化領域を通過する測定光が入射するAスキャン位置の相対位置が異なる2以上のOCT画像を形成することができる。それにより、上記の相対位置を変更するだけで、変化領域を通過する測定光による得られる干渉光の検出結果に基づくOCT画像の画質が劣化した部分を補うように合成画像を形成することができるようになる。
【0324】
実施形態の第21態様は、コンピュータに、第17態様~第20態様のいずれかの眼科装置の制御方法の各ステップを実行させるプログラムである。
【0325】
このような態様によれば、測定光の光路に光学部材を配置して、Aスキャン位置毎にAスキャンの基準位置に対する光路長差を測定光に付与するようにしたので、簡便に、低コストで、OCTの深さ方向の画像化レンジを拡大させることが可能になる。
【0326】
以上に説明した構成は、この発明を好適に実施するための一例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を適宜に施すことが可能である。適用される構成は、例えば目的に応じて選択される。また、適用される構成に応じ、当業者にとって自明の作用効果や、本明細書において説明された作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0327】
1 眼科装置
3 表示装置
80 光学部材
100 OCTユニット
200 演算制御ユニット
210 制御部
211 主制御部
211A 表示制御部
212 記憶部
220 画像形成部
230 データ処理部
231 解析部
232 補正処理部
232A 光路長補正部
232B 光学倍率補正部
232C 分散補正部
240A 表示部
240B 操作部
E 被検眼
LC 干渉光
LR 参照光
LS 測定光
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15