(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114543
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】マルチパルス光源及びマルチパルス光生成方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20230810BHJP
H04B 10/2513 20130101ALI20230810BHJP
【FI】
G02F1/01 D
H04B10/2513
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016894
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】新垣 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 考二
(72)【発明者】
【氏名】重松 恭平
【テーマコード(参考)】
2K102
5K102
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA05
2K102BB01
2K102BB04
2K102BC04
2K102BD02
2K102CA16
2K102DB08
2K102DC08
2K102DC09
2K102DD02
2K102EB01
2K102EB06
2K102EB08
2K102EB10
2K102EB11
2K102EB16
2K102EB20
5K102AA01
5K102KA02
5K102KA31
5K102KA42
5K102PB01
5K102PB16
5K102PB20
5K102PH01
5K102PH45
5K102PH47
5K102PH48
(57)【要約】
【課題】ピーク強度の減衰を抑制した分散補償を実現できるマルチパルス光源を提供する。
【解決手段】マルチパルス光源1は、複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与部4と、複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償部6と、を備え、分散補償部6は、複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光素子61と、複数の波長成分のうち一つ以上の波長成分を含む第1光パルス群La1と、一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2光パルス群La2と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離光学素子63と、第1光パルス群La1が入射し、第1光パルス群La1に対して波長成分毎の分散を補償する第1空間光変調器65と、第2光パルス群La2が入射し、第2光パルス群La2に対して波長成分毎の分散を補償する第2空間光変調器66と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光源と、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与部と、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償部と、を備え、
前記分散補償部は、
前記複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光素子と、
前記分光素子の前段又は後段に設けられ、前記複数の波長成分のうち一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、前記一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離光学素子と、
前記第1波長成分群が入射し、前記第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第1変調領域を含む第1空間光変調器と、
前記第2波長成分群が入射し、前記第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第2変調領域を含む第2空間光変調器と、を有する、マルチパルス光源。
【請求項2】
中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光源と、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与部と、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償部と、を備え、
前記分散補償部は、
前記複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光素子と、
前記分光素子の前段又は後段に設けられ、前記複数の波長成分のうち一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、前記一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離光学素子と、
前記第1波長成分群が入射し、前記第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第1変調領域と、前記第2波長成分群が入射し、前記第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第2変調領域と、を含む空間光変調器と、を有し、
前記第1変調領域と、前記第2変調領域とは、前記第1変調領域及び前記第2変調領域にそれぞれ入射するときの前記第1波長成分群及び前記第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる、マルチパルス光源。
【請求項3】
前記分光素子は、回折格子を含む、請求項1又は2に記載のマルチパルス光源。
【請求項4】
前記分離光学素子は、ダイクロイックミラーを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマルチパルス光源。
【請求項5】
前記分離光学素子に入射する前の、前記第1波長成分群に含まれる前記一つ以上の波長成分の偏光方向と、前記第2波長成分群に含まれる前記一つ以上の波長成分の偏光方向と、を互いに直交させる偏波制御部と、
前記分離光学素子と、前記第1変調領域との間の光路上に設けられ、前記第1波長成分群の偏光方向を90°回転させる波長板と、を更に備え、
前記分離光学素子は、偏光ビームスプリッタ、又は複屈折結晶を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマルチパルス光源。
【請求項6】
前記遅延付与部が前記偏波制御部を兼ねる、請求項5に記載のマルチパルス光源。
【請求項7】
前記遅延付与部は、前記複数の波長成分をそれぞれ伝搬する複数の偏波保持ファイバを有し、前記複数の偏波保持ファイバの長さが互いに異なり、前記複数の偏波保持ファイバの光入力端から光出力端までの間に、前記第1波長成分群に含まれる波長成分を伝搬する前記偏波保持ファイバの偏波面が、前記第2波長成分群に含まれる波長成分を伝搬する前記偏波保持ファイバの偏波面に対して90°回転する、請求項6に記載のマルチパルス光源。
【請求項8】
前記分散補償部は、前記遅延付与部の後段に配置されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のマルチパルス光源。
【請求項9】
前記遅延付与部は、前記複数の波長成分をそれぞれ伝搬する、互いに長さの異なる複数の光ファイバを有する、請求項1~6,8のいずれか一項に記載のマルチパルス光源。
【請求項10】
中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光生成ステップと、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与ステップと、
前記遅延付与ステップの前または後に、前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップと、を備え、
前記分散補償ステップは、
前記複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光ステップと、
前記分光ステップの前又は後に、前記複数の波長成分のうち、一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、前記一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離ステップと、
前記第1波長成分群が入射する第1変調領域を有する第1空間光変調器において、前記第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行うとともに、前記第2波長成分群が入射する第2変調領域を有する第2空間光変調器において、前記第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う変調ステップと、を有する、マルチパルス光生成方法。
【請求項11】
中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光生成ステップと、
前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与ステップと、
前記遅延付与ステップの前または後に、前記複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップと、を備え、
前記分散補償ステップは、
前記複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光ステップと、
前記分光ステップの前又は後に、前記複数の波長成分のうち、一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、前記一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離ステップと、
前記第1波長成分群が入射する第1変調領域と、前記第2波長成分群が入射する第2変調領域と、を有し、前記第1変調領域と、前記第2変調領域とが、前記第1変調領域及び前記第2変調領域にそれぞれ入射するときの前記第1波長成分群及び前記第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる空間光変調器において、前記第1波長成分群及び前記第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う変調ステップと、を有する、マルチパルス光生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチパルス光源及びマルチパルス光生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、マルチパルス光源の一例が記載されている。広帯域光源からのパルス光を、導波路回折格子によって複数の波長成分に分光する。分光した複数の波長成分を長さの異なるファイバ内を伝送させることで、それぞれに異なる遅延を付与する。その後、マルチプレクサによって、複数の波長成分を結合することで、互いに中心波長が異なる複数のパルス光が所定の時間間隔で並ぶマルチパルス光を生成する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】YunshanJiang et al., “Time-stretch LiDAR as a spectrally scanned time of-flightranging camera” NATURE PHOTONICS, VOL. 14, pp. 14-18, January2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に記載のマルチパルス光源では、複数の波長成分のそれぞれに対して遅延を付与する際に、波長分散によって、結合後のマルチパルス光のパルス幅が広がってしまう。具体的には、マルチパルス光のピーク強度、半値全幅、ピーク時間間隔といった特徴量が大きく変化してしまう。そして、これらの変化の程度は、パルス毎に異なる。
【0005】
そこで、マルチパルス光の分散を波長成分毎に補償することが考えられる。例えば、複数の波長成分をそれぞれの波長成分に分光するとともに、空間光変調器の変調面を、分光方向に沿って複数の変調領域に分割する。そして、複数の変調領域には、それぞれに対応する各波長成分を入射させ、波長成分毎に分散を補償するための変調パターンを各変調領域に表示させる。しかしながら、複数の波長成分にそれぞれ対応する複数の変調領域が入射光の分光方向のみに並ぶ単一の空間光変調器を用いる場合、波長分解能の制約によって分散補償の効果には限界がある。
【0006】
本発明は、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができるマルチパルス光源及びマルチパルス光生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマルチパルス光源は、中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光源と、複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与部と、複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償部と、を備える。分散補償部は、複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光素子と、分光素子の前段又は後段に設けられ、複数の波長成分のうち一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、該一つ以上の波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離光学素子と、第1波長成分群が入射し、第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第1変調領域を含む第1空間光変調器と、第2波長成分群が入射し、第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第2変調領域を含む第2空間光変調器と、を有する。
【0008】
上記のマルチパルス光源では、パルス光源から出力されたパルス光が遅延付与部に入力され、波長成分毎に異なる遅延を付与されることにより、中心波長が互いに異なる複数のパルスを含むマルチパルス光が生成される。更に、このマルチパルス光源は、波長成分毎に分散を補償する分散補償部を備える。分散補償部では、第1波長成分群が第1空間光変調器に入射し、第2波長成分群が第2空間光変調器に入射する。そして、それぞれの波長成分群に対して、波長成分毎の分散を補償する。それにより、単一の空間光変調器を用いる場合に比べて各波長成分に対する波長分解能が向上し、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができる。
【0009】
本発明のマルチパルス光源は、中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光源と、複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与部と、複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償部と、を備える。分散補償部は、複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光素子と、分光素子の前段又は後段に設けられ、複数の波長成分のうち一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、第1波長成分群に含まれる波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離光学素子と、第1波長成分群が入射し、第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第1変調領域と、第2波長成分群が入射し、第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う第2変調領域と、を含む空間光変調器と、を有し、第1変調領域と、第2変調領域とは、第1変調領域及び第2変調領域にそれぞれ入射するときの第1波長成分群及び第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。
【0010】
上記のマルチパルス光源では、パルス光源から出力されたパルス光が遅延付与部に入力され、波長成分毎に異なる遅延を付与されることにより、中心波長が互いに異なる複数のパルスを含むマルチパルス光が生成される。更に、このマルチパルス光源は、波長成分毎に分散を補償する分散補償部を備える。分散補償部の空間光変調器では、第1変調領域と、第2変調領域とが、第1変調領域及び第2変調領域にそれぞれ入射するときの第1波長成分群及び第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。それにより、複数の波長成分にそれぞれ対応する複数の変調領域が入射光の分光方向のみに並んでいる場合に比べて各波長成分に対する波長分解能が向上し、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができる。
【0011】
上記のマルチパルス光源では、分光素子は、回折格子を含んでいてもよい。この場合、回折格子を用いることにより、複数の波長成分を適切に分光した上で空間光変調器に入射させることができる。また、分光素子を簡易に構成できる。
【0012】
上記のマルチパルス光源では、分離光学素子は、ダイクロイックミラーを含んでいてもよい。この場合、ダイクロイックミラーを用いることにより、複数の波長成分を、波長域に応じて反射又は透過させることができ、好適に第1波長成分群と第2波長成分群とを分離することができる。また、分離光学素子を簡易に構成できる。
【0013】
上記のマルチパルス光源は、分離光学素子に入射する前の、第1波長成分群に含まれる一つ以上の波長成分の偏光方向と、第2波長成分群に含まれる一つ以上の波長成分の偏光方向と、を互いに直交させる偏波制御部と、分離光学素子と第1変調領域との間の光路上に設けられ、第1波長成分群の偏光方向を90°回転させる波長板と、を更に備え、分離光学素子は、偏光ビームスプリッタ、又は複屈折結晶を含んでいてもよい。この場合、偏波制御部によって、偏光方向の制御を行った上で、偏光ビームスプリッタ、又は複屈折結晶を用いることにより、偏光方向に応じて、第1波長成分群と第2波長成分群とを異なる光路に導光することができる。そして、第1波長成分群を波長板に通すことにより、第1波長成分群の偏光方向を第2波長成分群の偏光方向と一致させた上で、第1波長成分群及び第2波長成分群を空間光変調器に入射させることができる。
【0014】
上記のマルチパルス光源では、遅延付与部は偏波制御部を兼ねてもよい。この場合、必要な構成要素の数を減らしてマルチパルス光源を簡素化できる。
【0015】
上記のマルチパルス光源では、遅延付与部は、複数の波長成分をそれぞれ伝搬する複数の偏波保持ファイバを有し、複数の偏波保持ファイバの長さが互いに異なり、複数の偏波保持ファイバの光入力端から光出力端までの間に、第1波長成分群に含まれる波長成分を伝搬する偏波保持ファイバの偏波面が、第2波長成分群に含まれる波長成分を伝搬する偏波保持ファイバの偏波面に対して90°回転してもよい。この場合、偏波保持ファイバの長さに応じて遅延を付与しつつ、第1波長成分群に含まれる一つ以上の波長成分の偏光方向と、第2波長成分群に含まれる一つ以上の波長成分の偏光方向とを好適に調整することができる。
【0016】
上記のマルチパルス光源では、分散補償部は、遅延付与部の後段に配置されていてもよい。この場合、互いに異なる遅延が付与されたことによって互いに異なる波長分散が生じている複数の波長成分(パルス)のそれぞれに対して、直接的に分散補償を行うため、個々の波長成分(パルス)に対する分散補償の効果を効率的に確認することができる。
【0017】
上記のマルチパルス光源では、遅延付与部は、複数の波長成分をそれぞれ伝搬する、互いに長さの異なる複数の光ファイバを有していてもよい。この場合、光ファイバの長さに応じて遅延を付与することができるので、遅延付与部を簡易に構成できる。
【0018】
本発明のマルチパルス光生成方法は、中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光生成ステップと、複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与ステップと、遅延付与ステップの前または後に、複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップと、を備える。分散補償ステップは、複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光ステップと、分光ステップの前又は後に、複数の波長成分のうち、一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、第1波長成分群に含まれる波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離ステップと、第1波長成分群が入射する第1変調領域を有する第1空間光変調器において、第1波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行うとともに、第2波長成分群が入射する第2変調領域を有する第2空間光変調器において、第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う変調ステップと、を有する。
【0019】
本発明のマルチパルス光生成方法では、パルス光生成ステップにおいて生成されたパルス光に対し、遅延付与ステップにおいて波長成分毎に異なる遅延が付与される。それにより、中心波長が互いに異なる複数のパルスを含むマルチパルス光が生成される。更に、このマルチパルス光生成方法は、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップを備える。分散補償ステップでは、第1波長成分群が第1空間光変調器に入射し、第2波長成分群が第2空間光変調器に入射する。そして、それぞれの波長成分群に対して、波長成分毎の分散を補償する。それにより、単一の空間光変調器を用いる場合に比べて各波長成分に対する波長分解能が向上し、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができる。
【0020】
本発明のマルチパルス光生成方法は、中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能なパルス光を生成するパルス光生成ステップと、複数の波長成分に対して、波長成分毎に異なる遅延を付与する遅延付与ステップと、遅延付与ステップの前または後に、複数の波長成分に対して、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップと、を備える。分散補償ステップは、複数の波長成分を、それぞれの波長成分に分光する分光ステップと、分光ステップの前又は後に、複数の波長成分のうち、一つ以上の波長成分を含む第1波長成分群と、第1波長成分群に含まれる波長成分と異なる一つ以上の波長成分を含む第2波長成分群と、をそれぞれ異なる光路に導光する分離ステップと、第1波長成分群が入射する第1変調領域と、第2波長成分群が入射する第2変調領域と、を有し、第1変調領域と、第2変調領域とが、第1変調領域及び第2変調領域にそれぞれ入射するときの第1波長成分群及び第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる空間光変調器において、第1波長成分群及び第2波長成分群に対して波長成分毎の分散を補償するための変調を行う変調ステップと、を有する。
【0021】
本発明のマルチパルス光生成方法では、パルス光生成ステップにおいて生成されたパルス光に対し、遅延付与ステップにおいて波長成分毎に異なる遅延が付与される。それにより、中心波長が互いに異なる複数のパルスを含むマルチパルス光が生成される。更に、このマルチパルス光生成方法は、波長成分毎に分散を補償する分散補償ステップを備える。分散補償ステップでは、第1変調領域と、第2変調領域とが、第1変調領域及び第2変調領域にそれぞれ入射するときの第1波長成分群及び第2波長成分群の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。それにより、複数の波長成分にそれぞれ対応する複数の変調領域が入射光の分光方向のみに並んでいる場合に比べて各波長成分に対する波長分解能が向上し、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができるマルチパルス光源及びマルチパルス光生成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るマルチパルス光源の構成を概略的に示す図である。
【
図2】第1実施形態に係る分光部、遅延付与部、及び結合部の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る分散補償部の構成を示す図である。
【
図4】(a),(b)第1実施形態に係る空間光変調器の変調面を示す図である。
【
図5】第1実施形態のマルチパルス光生成方法を示すフローチャートである。
【
図6】比較例に係る空間光変調器の変調面を示す図である。
【
図7】比較例に係る空間光変調器を並列に並べた図である。
【
図8】第2実施形態に係る分散補償部の構成を示す図である。
【
図9】第2実施形態に係る空間光変調器の変調面を示す図である。
【
図10】第2実施形態のマルチパルス光生成方法を示すフローチャートである。
【
図11】第2実施形態の変形例に係る分散補償部の構成を示す図である。
【
図12】実施例に係るマルチパルス光源の構成を示す図である。
【
図13】実施例に係る遅延付与部を説明するための図である。
【
図14】(a),(b)実施例と比較例に係る各波長成分のピーク強度の変化を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
[第1実施形態]
【0025】
図1は、第1実施形態に係るマルチパルス光源1の構成を概略的に示す図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るマルチパルス光源1は、パルス光源2と、分光部3と、遅延付与部4と、結合部5と、分散補償部6と、を備え、光学的にカップリングされている。パルス光源2は、単一のパルス光L1を出射する光源である。パルス光源2は、例えば、レーザ光源であり、フェムト秒領域或いはピコ秒領域の近赤外の超短パルス光を出射する。パルス光源2は、具体的には、例えばチタンサファイアレーザ、Yb:YAGレーザ、Ybファイバレーザ、Erファイバレーザ、Tmファイバレーザなどによって構成されている。パルス光L1は、中心波長が異なる複数の波長成分に分離可能な、波長域に或る程度の拡がりを有する光である。言い換えると、パルス光L1は、中心波長が異なる複数の波長成分を含む。
【0026】
分光部3は、パルス光L1を複数の波長成分に分光する部分である。
図2は、分光部3、遅延付与部4、及び結合部5の一例を示す図である。
図2に示されるように、分光部3は、例えば、アレイ導波路回折格子31を含む。分光部3は、アレイ導波路回折格子31のみからなってもよい。アレイ導波路回折格子31は、分光素子であり、パルス光L1に含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離してそれぞれを独立した光パルスLa(
図1を参照)とし、後段の遅延付与部4にそれぞれ入射させる。つまり、アレイ導波路回折格子31は、中心波長が互いに異なる複数の光パルスLaを生成する。
【0027】
遅延付与部4は、分光部3によって分光された複数の波長成分(光パルスLa)に対して、波長成分毎(光パルスLa毎)に異なる遅延を付与する部分である。遅延付与部4は、例えば、複数の光ファイバ41を含む。遅延付与部4は、複数の光ファイバ41のみからなってもよい。光ファイバ41の数は、分光部3によって分光された波長成分の個数と等しい。複数の光ファイバ41は、例えばシングルモードファイバやフォトニック結晶ファイバ等である。複数の光ファイバ41の長さは互いに異なる。各光パルスLaは、複数の光ファイバ41の長さの違いに応じて、互いに異なる量だけ遅延される。また、各光パルスLaの形状は、複数の光ファイバ41のそれぞれを伝搬するうちに、各光ファイバ41の分散に応じて変化する。複数の光ファイバ41の長さが互いに異なるので、複数の光ファイバ41のそれぞれを伝搬したのちの複数の光パルスLaの分散も互いに異なる。したがって、各光パルスLaが複数の光ファイバ41のそれぞれを伝搬するうちに生じるパルスの形状の変化も光パルスLa毎に異なる。
【0028】
複数の光ファイバ41のそれぞれを通過した各光パルスLaは、結合部5に入射する。結合部5は、例えば、アレイ導波路回折格子31とは別のアレイ導波路回折格子51を含む。結合部5は、アレイ導波路回折格子51のみからなってもよい。アレイ導波路回折格子51は、光ファイバ41をそれぞれ通過した複数の光パルスLaを一つの光路上に合波する。つまり、アレイ導波路回折格子51は、中心波長が互いに異なり且つ互いに時間間隔を有する複数の光パルスLaを含むマルチパルス光Lb(
図1を参照)を生成する。
【0029】
再び
図1を参照する。分散補償部6は、パルス光源2から分散補償部6までの間(主に遅延付与部4)において複数の光パルスLaに生じた波長分散を補償する部分である。具体的には、分散補償部6は、各光パルスLaの波長分散を個別に補償することによって、各光パルスLaの形状の変化を抑制する。分散補償部6は、マルチパルス光Lbを分散補償した、分散補償後のマルチパルス光Lcを生成する。
【0030】
図3は、第1実施形態に係る分散補償部6の構成図を示す。分散補償部6は、分光素子61と、レンズ62と、分離光学素子63と、第1空間光変調器65と、第2空間光変調器66と、を有する。第1実施形態においては、分光素子61は回折格子61aを含む。一例として、分光素子61は回折格子61aのみからなってもよい。また、分離光学素子63はダイクロイックミラー63aを含む。一例として、分離光学素子63はダイクロイックミラー63aのみからなってもよい。ここで、マルチパルス光Lbが入射する方向をZ軸方向とし、Z軸方向と直交する面における水平方向をX軸方向、垂直方向をY軸方向とする。分散補償部6において、マルチパルス光Lbが、Z軸方向に沿って、回折格子61aに入射する。回折格子61aは、マルチパルス光Lbに含まれる各光パルスLaを、空間的に分光する。分光方向は、X軸方向と一致する。なお、分光素子61は、回折格子61aに代えて、又は回折格子61aとともにプリズム等の他の光学部品を含んでもよい。各光パルスLaは、レンズ62によってXZ平面内において平行化され、平行光としてダイクロイックミラー63aに達する。レンズ62は、光透過部材からなる凸レンズ、凹状の光反射面を有する凹面鏡やシリンドリカルレンズであってもよい。
【0031】
分離光学素子63は、レンズ62を介して分光素子61の後段に配置されている。ダイクロイックミラー63aは、複数の光パルスLaのうち、一つ以上の光パルスLaを含む第1光パルス群(第1波長成分群)La1を反射させ、第1光パルス群La1に含まれる光パルスLaとは異なる一つ以上の光パルスLaを含む第2光パルス群(第2波長成分群)La2を透過させることにより、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とを、それぞれ異なる光路に導光する。具体的には、ダイクロイックミラー63aは、第1光パルス群La1をX軸方向に沿った光路に導光する。この際に、第1光パルス群La1の分光方向は、反射に伴い、X軸方向からZ軸方向に変換される。また、ダイクロイックミラー63aは、第2光パルス群La2をZ軸方向に沿った光路に導光する。この際、第2光パルス群La2の分光方向は、X軸方向のままである。第1光パルス群La1は、第1空間光変調器65に入射し、第2光パルス群La2は、第1空間光変調器65とは別体の第2空間光変調器66に入射する。第1空間光変調器65は、第1光パルス群La1の光路上に配置され、該光路を介してダイクロイックミラー63aと光学的に結合されている。第2空間光変調器66は、第2光パルス群La2の光路上に配置され、該光路を介してダイクロイックミラー63aと光学的に結合されている。光パルスLaの個数を4とし、それらの中心波長がそれぞれλ1、λ2、λ3、及びλ4である場合、波長がλ1である光パルスLaと波長がλ2である光パルスLaとを第1光パルス群La1に含め、波長がλ3である光パルスLaと波長がλ4である光パルスLaとを第2光パルス群La2に含めてもよい。ただし、第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2は一つ以上の光パルスLaを含んでいればよく、各波長成分群を構成する光パルスLaの個数はこれに限られない。また、以下の説明では波長λ1、λ2、λ3、及びλ4の大小関係をλ1<λ2<λ3<λ4として説明するが、波長λ1、λ2、λ3、及びλ4の大小関係はこれに限られず、任意である。
【0032】
第1空間光変調器65及び第2空間光変調器66は、ダイクロイックミラー63aと光学的に結合されている。第1空間光変調器65は、第1光パルス群La1に含まれる各光パルスLaの位相を、各光パルスLaに含まれる波長毎に変調する。第1空間光変調器65は、例えば、位相変調のみを行うLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、第1空間光変調器65は、強度変調のみを行ってもよいし、位相変調と強度変調を合わせて行ってもよい。また、
図3には、反射型の第1空間光変調器65を示しているが、第1空間光変調器65は透過型であってもよい。第2空間光変調器66は、第2光パルス群La2に含まれる各光パルスLaの位相を、各光パルスLaに含まれる波長毎に変調する。第2空間光変調器66のその他の構成は、第1空間光変調器65と同様である。
【0033】
図3に示されるように、第1空間光変調器65は、YZ平面において定義された変調面65a(第1変調領域)を有する。変調面65aにおいては、複数の画素が二次元状に配置されている。変調面65aには、第1光パルス群La1に含まれる光パルスLaと同数の変調領域が、Z軸方向に並んでおり、かつ、Y軸方向に延びている。
図4(a)は、変調面65aの一例を示す図である。
図4(a)に示される例は、第1光パルス群La1に2つの光パルスLaが含まれる場合を示している。この場合、変調面65aにおいては、2つの変調領域65aa、65abが、Z軸方向に並んでおり、かつ、Y軸方向に延びている。変調領域65aaと、変調領域65abとのそれぞれには、第1光パルス群La1に含まれる各光パルスLaのうち、それぞれに対応する光パルスLaが入射する。
【0034】
図4(a)には、変調面65aにおける位相分布が色の濃淡によって示されている。同図において、色が濃いほど位相値が2π(rad)に近く、色が淡いほど位相値が0(rad)に近い。変調領域65aaと、変調領域65abとのそれぞれには、位相変調パターンが表示されている。位相変調パターンは、Z軸方向に沿って変化し、Y軸方向に一定である。位相変調パターンにおいては、位相の変調量が大きいほど、大きな分散を補償することができる。
図4(a)に示す例では、変調領域65abに表示されている位相変調パターンの位相変調量は、変調領域65aaのそれよりも大きい。したがって、変調領域65abに入射した光パルスLaに対する分散補償量は、変調領域65aaに入射した光パルスLaに対する分散補償量よりも大きくなる。
【0035】
図3に示すように、第2空間光変調器66は、第1空間光変調器65と同様に、変調面66a(第2変調領域)を有する。変調面66aには、複数の画素が二次元状に配置されている。変調面66aには、第2光パルス群La2に含まれる光パルスLaと同数の変調領域が、X軸方向に並んでおり、かつ、Y軸方向に延びている。
図4(b)は、変調面66aの一例を示す図である。
図4(b)に示される例は、第2光パルス群La2に2つの光パルスLaが含まれる場合を示している。この場合、変調面66aにおいては、2つの変調領域66aa、66abがX軸方向に沿って並んでいる。変調領域66aaと、変調領域66abとのそれぞれには、第2光パルス群La2に含まれる各光パルスLaのうち、それぞれに対応する光パルスLaが入射する。
【0036】
図4(b)には、変調面66aにおける位相分布が色の濃淡によって示されている。同図において、色が濃いほど位相値が2π(rad)に近く、色が淡いほど位相値が0(rad)に近い。変調領域66aaと、変調領域66abとのそれぞれには、位相変調パターンが表示されている。位相変調パターンは、X軸方向に沿って変化し、Y軸方向に一定である。
図4(b)に示す例では、変調領域66abに表示されている位相変調パターンの位相変調量は、変調領域66aaのそれよりも大きい。さらに、
図4(a)と比較すると、位相変調パターンの位相変調量は、変調領域65aa、65ab、66aa、66abの順に大きくなっている。つまり、分散補償量は、変調領域65aa、65ab、66aa、66abの順に大きくなる。遅延付与部4において、それぞれの長さの異なる複数の光ファイバ41を用いた場合、光ファイバ41の長さが長いほど、その光ファイバ41を通過した光パルスLaの波長分散が大きくなる。そのため、長さが最も長い光ファイバ41を通過した光パルスLaを変調領域66abに入射させ、長さが最も短い光ファイバ41を通過した光パルスLaを変調領域65aaに入射させることによって、各光パルスLaの波長分散に応じた大きさで分散補償を行う。
【0037】
再び
図3を参照する。第1空間光変調器65によって変調され、反射された第1光パルス群La1と、第2空間光変調器66によって変調され、反射された第2光パルス群La2とは、ダイクロイックミラー63aによって再び一つの共通の光路上に導光される。複数の光パルスLaは、レンズ62によって回折格子61a上の一点に集められる。このときのレンズ62は、各光パルスLaを集光する集光光学系として機能する。回折格子61aは合波光学系として機能し、複数の光パルスLaを合波する。すなわち、これらのレンズ62及び回折格子61aにより、各光パルスLaは互いに集光・合波されて、分散補償後のマルチパルス光Lcとなる。
【0038】
分散補償部6は、
図3の構成に限られない。例えば、分光素子61(回折格子61a)を分離光学素子63(ダイクロイックミラー63a)の後段に配置し、マルチパルス光Lbに含まれる各光パルスLaをダイクロイックミラー63aによって第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とに分離して導光した後に、回折格子61aによって各光パルス群La1,La2に含まれる各光パルスLaを分光させてもよい。
【0039】
第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2に加えて、第3光パルス群があってもよい。そのためには、例えば、
図3において、レンズ62とダイクロイックミラー63aとの間に、新たにダイクロイックミラーを追加することによって、第3の波長成分群を第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2とは異なる光路に導光させてもよい。その場合、第3光パルス群に対応する空間光変調器を更に設けるとよい。
【0040】
以上に説明したマルチパルス光源1を用いるマルチパルス光生成方法について説明する。
図5は、本実施形態のマルチパルス光生成方法を示すフローチャートである。まず、パルス光源2によって、中心波長が異なる複数の光パルスLaに分離可能なパルス光L1が生成される(パルス光生成ステップST1)。次に、分光部3によって、パルス光L1が複数の波長成分に分光されることにより、中心波長が互いに異なる複数の光パルスLaが生成される(分光ステップST2)。続いて、遅延付与部4において、複数の光パルスLaが、長さがそれぞれ異なる複数の光ファイバ41をそれぞれ通過する。これにより、複数の光パルスLaに対して光パルスLa毎に異なる遅延が付与される(遅延付与ステップST3)。続いて、光ファイバ41をそれぞれ通過した複数の光パルスLaが、結合部5において一つの光路上に合波される。その結果、中心波長が互いに異なり且つ互いに時間間隔を有する複数の光パルスLaを含むマルチパルス光Lbが生成される(結合ステップST4)。
【0041】
続いて、分散補償部6において、複数の光パルスLaに対して光パルスLa毎に分散が補償される(分散補償ステップST5)。なお、この例では結合ステップST4の後に分散補償ステップST5を行っているが、パルス光生成ステップST1と分光ステップST2との間に分散補償ステップST5を行ってもよい。
【0042】
分散補償ステップST5は、分光ステップST51と、分離ステップST52と、変調ステップST53と、を含む。分光ステップST51では、分光素子61によって、各光パルスLaが分光される。分離ステップST52では、分離光学素子63によって、複数の光パルスLaのうち、一つ以上の光パルスLaを含む第1光パルス群La1と、第1光パルス群La1を構成する光パルスLaと異なる一つ以上の光パルスLaを含む第2光パルス群La2と、をそれぞれ異なる光路に導光する。なお、この例では分光ステップST51の後に分離ステップST52を行っているが、分離ステップST52をまず行い、その後に分光ステップST51を行ってもよい。
【0043】
変調ステップST53では、第1光パルス群La1が入射する変調面65aを有する空間光変調器65において、第1光パルス群La1に対して光パルスLa毎の分散を補償するための変調を行う。同時に、第2光パルス群La2が入射する変調面66aを有する空間光変調器66において、第2光パルス群La2に対して光パルスLa毎の分散を補償するための変調を行う。
【0044】
以上に説明した本実施形態のマルチパルス光源1及びマルチパルス光生成方法によって得られる効果について、比較例と共に説明する。
図6には、比較例としての変調面7aにおける位相分布が、色の濃淡によって示されている。
図6に示される例では、4つの光パルスLaが、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とに分離されずに、単一の空間光変調器に入射する。したがって、変調面7aでは、複数の光パルスLaにそれぞれ対応する4つの変調領域7aa、7ab、7ac、及び7adが、単一の変調面7aにおいて、分光方向に沿って並んでいる。ここで、空間光変調器における波長分解能は、入射する光の波長帯域を、分光方向における変調面の画素数で除算した値となる。本実施形態では、第1空間光変調器65及び第2空間光変調器66といった二つの空間光変調器を用いて分散補償を行う。
図4(a)及び
図4(b)と
図6とを比較すると明らかなように、その場合、単一の空間光変調器を用いる場合と比較して、各光パルスLaに対応する変調領域の分光方向における幅が二倍となり、同方向における画素数も二倍となる。したがって、波長分解能も二倍に向上することとなる。
【0045】
このように、本実施形態のマルチパルス光源1及びマルチパルス光生成方法では、単一の空間光変調器を用いる場合と比べて、各光パルスLaに対する波長分解能が向上する。これにより、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、光パルスLa毎に中心波長が異なるマルチパルス光Lbの分散を、光パルスLa毎に、より効果的に補償することができる。
【0046】
別の比較例として、
図7に、第1空間光変調器65と第2空間光変調器66とを、分光方向に並列に並べた図を示す。この比較例では、分離光学素子63を設けず、マルチパルス光Lbを、第1光パルス群La1と、第2光パルス群La2とに分離せずに、第1空間光変調器65及び第2空間光変調器66に入射させる。この場合、第1空間光変調器65の変調面65aと、第2空間光変調器66の変調面66aとの間に、デッドスペースDが発生する。デッドスペースDに入射した光は変調されないので、各光パルスLaの全ての帯域を変調するためには、
図3に示されたように、分離光学素子63によって、第1光パルス群La1と、第2光パルス群La2とをそれぞれ異なる光路に導光した上で、それぞれの光路上に、第1空間光変調器65と第2空間光変調器66とを配置するとよい。
【0047】
本実施形態では、分光素子61は、回折格子61aを含んでいる。回折格子61aを用いることにより、複数の光パルスLaすなわち複数の波長成分を適切に分光した上で第1空間光変調器65及び第2空間光変調器66に入射させることができる。また、分光素子61を簡易に構成できる。
【0048】
本実施形態では、分離光学素子63は、ダイクロイックミラー63aを含んでいる。ダイクロイックミラー63aを用いることにより、複数の光パルスLa(波長成分)を、波長域に応じて反射又は透過させることができ、好適に第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とを分離することができる。また、分離光学素子63を簡易に構成できる。
【0049】
本実施形態では、分散補償部6は、遅延付与部4の後段に配置されている。これにより、互いに異なる遅延が付与されたことによって互いに異なる波長分散が生じている複数の光パルスLa(波長成分)のそれぞれに対して、直接的に分散補償を行うことができる。したがって、個々の光パルスLa(波長成分)に対する分散補償の効果を効率的に確認することができる。
【0050】
本実施形態では、遅延付与部4は、複数の波長成分をそれぞれ伝搬する、互いに長さの異なる複数の光ファイバ41を有している。これにより、光ファイバ41の長さに応じて遅延を付与することができるので、遅延付与部4を簡易に構成できる。
[第2実施形態]
【0051】
図8に、第2実施形態に係る分散補償部6Aの構成図を示す。第2実施形態において、パルス光源2、分光部3、遅延付与部4、及び結合部5の構成は、第1実施形態と同様である。分散補償部6Aは、分光素子61Aと、レンズ62と、分離光学素子63Aと、空間光変調器67と、を有する。
図3における第1実施形態と異なり、分離光学素子63Aは、分光素子61Aの前段に配置されている。第2実施形態においては、一例として、分光素子61Aが、第1回折格子61bと、第2回折格子61cとを有する。第1回折格子61bと、第2回折格子61cとは、Y軸方向に沿って並んでいる。また、一例として、分離光学素子63Aは、ダイクロイックミラー63bと、ミラー63cとを有する。ダイクロイックミラー63bと、ミラー63cとは、Y軸方向に沿って並んでいる。第1回折格子61bは、ダイクロイックミラー63bと空間光変調器67との間の光路上に配置されている。第2回折格子61cは、ミラー63cと空間光変調器67との間の光路上に配置されている。
【0052】
分散補償部6Aに入力されたマルチパルス光Lbは、まず、ダイクロイックミラー63bに入射する。ダイクロイックミラー63bは、第1光パルス群La1を透過させ、第2光パルス群La2を、ミラー63cに向けて、Y軸方向に反射させる。その後、ミラー63cは、ダイクロイックミラー63bによって反射された第2光パルス群La2を、第1光パルス群La1の光路と平行な方向であるZ軸方向に向けて反射させる。その結果、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とは、それぞれ異なる光路に導光される。
【0053】
第1回折格子61bは、第1光パルス群La1に含まれる各光パルスLaを、空間的に分光する。第2回折格子61cは、第2光パルス群La2に含まれる各光パルスLaを、空間的に分光する。分光方向はX軸方向である。第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とは、Y軸方向に沿って並んでいるので、これらの光パルス群La1,La2の分光方向と、これらの光パルス群La1,La2が並ぶ方向とは、互いに交差する。レンズ62は、分光素子61Aと空間光変調器67との間の光路上に配置されている。分光された第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2は、レンズ62によって主にXZ平面において平行化され、空間光変調器67の変調面67aに入射する。
【0054】
図9は、変調面67aの一例を示す図である。
図9に示されるように、変調面67aは、X軸及びY軸に沿って延在する。変調面67aには、複数の画素が二次元状に配置されている。また、変調面67aは、第1光パルス群La1が入射する第1変調領域67a1と、第2光パルス群La2が入射する第2変調領域67a2とを含む。第1変調領域67a1と、第2変調領域67a2とは、Y軸方向に沿って並んでいる。つまり、第1変調領域67a1と、第2変調領域67a2とは、第1変調領域67a1及び第2変調領域67a2にそれぞれ入射するときの第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。
【0055】
図9に示される例は、第1光パルス群La1に2つの光パルスLaが含まれ、第2光パルス群La2に2つの光パルスLaが含まれる場合を示している。この場合、第1変調領域67a1においては、変調領域67aaと、変調領域67abとが、X軸方向に並んでおり、かつ、Y軸方向に延びている。変調領域67aaと、変調領域67abとのそれぞれには、第1光パルス群La1に含まれる各光パルスLaのうち、それぞれに対応する光パルスLaが入射する。第2変調領域67a2においては、変調領域67acと、変調領域67adとが、X軸方向に並んでおり、かつ、Y軸方向に延びている。変調領域67acと、変調領域67adのそれぞれには、第2光パルス群La2に含まれる各光パルスLaのうち、それぞれに対応する各光パルスLaが入射する。
【0056】
図9には、変調面67aにおける位相分布が色の濃淡によって示されている。同図において、色が濃いほど位相値が2π(rad)に近く、色が淡いほど位相値が0(rad)に近い。変調領域67aa、67ab、67ac、及び67adのそれぞれには、位相変調パターンが表示されている。位相変調パターンは、X軸方向に沿って変化し、Y軸方向に一定である。位相変調パターンにおいては、位相の変調量が大きいほど、大きな分散を補償することができる。
図9に示す例では、変調領域67adに表示されている位相変調パターンの位相変調量が最も大きく、変調領域67aaに表示されている位相変調パターンの位相変調量が最も小さい。したがって、変調領域67adに入射した光パルスLaに対する分散補償量は、変調領域65aaに入射した光パルスLaに対する分散補償量よりも大きくなる。
【0057】
再び
図8を参照する。空間光変調器67によって変調され、反射された第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2は、レンズ62によって回折格子61b,61c上の一点に集められる。回折格子61bは合波光学系として機能し、第1光パルス群La1を構成する一つ以上の光パルスLaを合波する。回折格子61cもまた合波光学系として機能し、第2光パルス群La2を構成する一つ以上の光パルスLaを合波する。第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2は、ダイクロイックミラー63bによって再び一つの共通の光路上に導光され、分散補償後のマルチパルス光Lcとなる。
【0058】
本実施形態の分散補償部6Aを用いるマルチパルス光生成方法について説明する。
図10は、本実施形態のマルチパルス光生成方法を示すフローチャートである。なお、パルス光生成ステップST1、分光ステップST2、遅延付与ステップST3、及び結合ステップST4については第1実施形態と同様なので説明を省略する。
【0059】
結合ステップST4ののち、分散補償部6Aにおいて、複数の光パルスLaに対して光パルスLa毎に分散が補償される(分散補償ステップST5A)。なお、この例では結合ステップST4の後に分散補償ステップST5Aを行っているが、パルス光生成ステップST1と分光ステップST2との間に分散補償ステップST5Aを行ってもよい。
【0060】
分散補償ステップST5Aは、分離ステップST54と、分光ステップST55と、変調ステップST56と、を含む。分離ステップST54では、分離光学素子63Aによって、複数の光パルスLaのうち、一つ以上の光パルスLaを含む第1光パルス群La1と、第1光パルス群La1を構成する光パルスLaと異なる一つ以上の光パルスLaを含む第2光パルス群La2と、をそれぞれ異なる光路に導光する。分光ステップST55では、分光素子61Aによって、各光パルスLaが分光される。なお、この例では分離ステップST54の後に分光ステップST55を行っているが、分光ステップST55をまず行い、その後に分離ステップST54を行ってもよい。
【0061】
変調ステップST56では、第1光パルス群La1が入射する第1変調領域67a1と、第2光パルス群La2が入射する第2変調領域67a2とを含む変調面67aを有する空間光変調器67において、第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2に対して光パルスLa毎の分散を補償するための変調を行う。前述したように、第1変調領域67a1と、第2変調領域67a2とが、第1変調領域67a1及び第2変調領域67a2にそれぞれ入射するときの第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。
【0062】
以上に説明した第2実施形態によって得られる効果について説明する。ここでは、第1実施形態と同様に、本実施形態の変調面67aにおける各光パルスLaに対する分解能と、
図6に記載の変調面7aにおける各光パルスLaに対する分解能との比較を行う。前述したように、
図6に示される例では、4つの光パルスLaが、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とに分離されずに、単一の空間光変調器に入射する。したがって、変調面7aでは、複数の光パルスLaにそれぞれ対応する4つの変調領域7aa、7ab、7ac、及び7adが、単一の変調面7aにおいて、分光方向に沿って並んでいる。これに対し、第2実施形態に係る分散補償部6Aでは、マルチパルス光Lbを、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とに分離した上で、第1光パルス群La1を空間光変調器67の第1変調領域67a1に入射させ、第2光パルス群La2を空間光変調器67の第2変調領域67a2に入射させる。第1変調領域67a1と、第2変調領域67a2とは、第1変調領域67a1及び第2変調領域67a2にそれぞれ入射するときの第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2の各分光方向と交差する方向に沿って並んでいる。したがって、
図9と
図6とを比較すると明らかなように、各光パルスLaに対応する変調領域の分光方向における幅が二倍となり、同方向における変調領域の画素数も二倍となる。前述したように、空間光変調器における波長分解能は、入射する光の波長帯域を、分光方向における変調面の画素数で除算した値となる。故に、波長分解能が二倍に向上することとなる。
【0063】
このように、第2実施形態のマルチパルス光源及びマルチパルス光生成方法によれば、空間光変調器における各光パルスLaに対する波長分解能が向上するので、最大分散補償量を大幅に改善することができる。その結果、光パルスLa毎に中心波長が異なるマルチパルス光Lbの分散を、光パルスLa毎に、より効果的に補償することができる。
[変形例]
【0064】
図11に、第2実施形態の変形例に係る分散補償部6Bの構成を示す。変形例の分散補償部6Bは、第2実施形態の分離光学素子63A(ダイクロイックミラー63b及びミラー63c)の代わりに、分離光学素子63Bを有する。分離光学素子63Bは、偏光ビームスプリッタ63d及びミラー63eを含む。なお、分離光学素子63Bは、偏光ビームスプリッタ63dの代わりに、複屈折率結晶を含んでもよい。また、分散補償部6Bは、波長板64を更に有する。波長板64は、分離光学素子63Bと分光素子61Aとの間における第1光パルス群La1の光路上に配置されている。
【0065】
本変形例のマルチパルス光源は、偏波制御部42を更に備える。本変形例のマルチパルス光源の分散補償部6B及び偏波制御部42を除く他の構成は、第1実施形態と同様である。偏波制御部42は、分離光学素子63Bに入射する前の、第1光パルス群La1に含まれる一つ以上の光パルスLaの偏光方向と、第2光パルス群La2に含まれる一つ以上の光パルスLaの偏光方向と、を互いに直交させる。偏波制御部42は、例えば、複数の光パルスLaと同数の偏波保持ファイバを含む。複数の偏波保持ファイバの光入力端から光出力端までの間に、後に第1光パルス群La1として導光される光パルスLaを伝搬する偏波保持ファイバの偏波面が、後に第2光パルス群La2として導光される光パルスLaを伝搬する偏波保持ファイバの偏波面に対して右回り方向又は左回り方向に90°回転する。各光パルスLaを対応する偏波保持ファイバ内に伝送させることにより、後に第1光パルス群La1として導光される各光パルスLaの偏光方向と、後に第2光パルス群La2として導光される各光パルスLaの偏光方向とを直交した状態に制御することができる。なお、
図2に示された複数の光ファイバ41が上記複数の偏波保持ファイバであってもよい。その場合、遅延付与部4は偏波制御部42を兼ねる。そして、複数の偏波保持ファイバの長さは互いに異なる。
【0066】
偏波制御部42によって偏波制御された複数の光パルスLaを含むマルチパルス光Lbは、偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)に入射する。偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)は、第1光パルス群La1を透過させ、第2光パルス群La2を、ミラー63eに向けて、Y軸方向に反射させる。その後、ミラー63eは、第2光パルス群La2を、第1光パルス群La1の光路と平行な方向であるZ軸方向に向けて反射させる。その結果、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とは、それぞれ異なる光路に導光される。
【0067】
第1光パルス群La1は、波長板64に入射する。波長板64によって、第1光パルス群La1の偏光方向は、右回り方向又は左回り方向に90°回転する。それにより、第1光パルス群La1の偏光方向は、第2光パルス群La2の偏光方向と一致することとなる。
【0068】
図3に示された第1実施形態に係る分散補償部6においても、本変形例と同様に、ダイクロイックミラー63aに代えて、偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)、及びミラー63eを用いてもよい。その場合、マルチパルス光源1は、偏波制御部42を更に備えるとよい。偏波制御部42は、複数の光パルスLaが偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)に入射する前に、第1光パルス群La1に含まれる光パルスLaの偏光方向と、第2光パルス群La2に含まれる光パルスLaの偏光方向とを、互いに直交させる。偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)は、偏光方向に基づき、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とを、それぞれ異なる光路に導光する。
【0069】
ダイクロイックミラー63aに代えて、偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)、及びミラー63eを用いる場合、分散補償部6は、分離光学素子63と第1空間光変調器65との間に、波長板64を更に有するとよい。
【0070】
本変形例のマルチパルス光源によれば、偏波制御部42によって、偏光方向の制御を行った上で、偏光ビームスプリッタ63d(又は複屈折結晶)及びミラー63eを用いることにより、偏光方向に応じて、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とを異なる光路に導光することができる。そして、第1光パルス群La1を波長板64に通すことにより、第1光パルス群La1の偏光方向を第2光パルス群La2の偏光方向と一致させた上で、第1光パルス群La1及び第2光パルス群La2を空間光変調器67に入射させることができる。
【0071】
前述したように、遅延付与部4は、偏波制御部42を兼ねてもよい。これにより、必要な構成要素の数を減らしてマルチパルス光源を簡素化できる。
【0072】
前述したように、偏波制御部42は、複数の光パルスLaをそれぞれ伝搬する複数の偏波保持ファイバを有し、複数の偏波保持ファイバの長さが互いに異なり、複数の偏波保持ファイバの光入力端から光出力端までの間に、第1光パルス群La1に含まれる光パルスLaを伝搬する偏波保持ファイバの偏波面が、第2光パルス群La2に含まれる光パルスLaを伝搬する偏波保持ファイバの偏波面に対して右回り方向又は左回り方向に90°回転してもよい。この場合、偏波保持ファイバの長さに応じて遅延を付与しつつ、第1光パルス群La1に含まれる一つ以上の光パルスLaの偏光方向と、第2光パルス群La2に含まれる一つ以上の光パルスLaの偏光方向とを好適に調整することができる。
[実施例]
【0073】
まず、必要な分散補償量を見積もる。光ファイバ41の屈折率を1.5とし、複数の光パルスLaの時間間隔をdtとし、複数の光ファイバ41の長さの刻み値をLとすると、下記の数式が成り立つ。但し、Cは光速である。
dt=n・L/C
例えば、マルチパルス光Lbに含まれる複数の光パルスLaの時間間隔dtを3nsとするためには、複数の光ファイバ41の長さを0.6m刻みで長くするとよく、時間間隔dtを5nsとするためには、複数の光ファイバ41の長さを1m刻みで長くするとよい。なお、3ns~5nsといった時間間隔は、蛍光寿命に相当し、マルチパルス光Lbが蛍光観察に用いられる場合に好適な値である。光パルスLaの個数を4とし、最も短い光ファイバ41の長さを0.5mとすると、最も長い光ファイバ41の長さは3.5mとなる。この長さを分散に換算すると、70000fs2となる(光ファイバ41の2次分散β2を20ps2/kmと仮定)。この分散をできる限り補償することが望まれる。
【0074】
図12に、実施例に係るマルチパルス光源1Aの構成を示す。パルス光源2は、レーザ光源とし、フェムト秒領域の近赤外のパルス光L1を出射する。パルス光L1は、中心波長が、λ1:938nm、λ2:1013nm、λ3:1088nm、λ4:1163nmである四つの光パルスLaに分離可能な程度の波長帯域の拡がりを有する。続いて、分光部3にて、パルス光L1を四つの光パルスLaに分光する。分光部3は、ダイクロイックミラーアレイであり、分光した四つの光パルスLaを遅延付与部4に入射する。
【0075】
遅延付与部4は、長さの異なる四本の光ファイバ41を含む。
図13に示されるように、本実施例では、波長λ1の光パルスLaを最も短い光ファイバ41に入射し、波長λ2、λ3、λ4の順に、入射する光ファイバ41の長さを次第に長くする。なお、最も短い光ファイバ41の長さは0.5mであり、そこから1m刻みで長くする。つまり、最も長い光ファイバ41の長さは3.5mである。
【0076】
再び、
図12を参照する。遅延付与部4を伝送した各光パルスLaは、結合部5にて結合され、マルチパルス光Lbとなる。その後、第2実施形態に係る分散補償部6Aにて、分散補償が行われ、分散補償後のマルチパルス光Lcが生成される。
【0077】
図14に、遅延付与部4に入射する前の各光パルスLaの時間強度波形(破線)と、分散補償後の各光パルスLaの時間強度波形(実線)とを示す。
図14(a)は、比較例に係る結果である。比較例では、複数の光パルスLaにそれぞれ対応する複数の変調領域が、変調面に入射する際の各光パルスLaの分光方向のみに並ぶ空間光変調器7(
図6を参照)を用いた。そして、分離光学素子63を用いず、マルチパルス光Lbを、第1光パルス群La1と第2光パルス群La2とに分離せずに、空間光変調器7の変調面7aに入射させた。一方、
図14(b)は、第2実施形態に係る分散補償部6を使用した場合の結果である。なお、実施例及び比較例の双方において、空間光変調器67,7の分光方向の画素数を1280とし、光学分解能を23.7μmとした。また、実施例の回折格子61b,61cにおける格子密度を1100ライン/mmとし、比較例の回折格子における格子密度を600ライン/mmとした。
【0078】
遅延付与部4に入射する前の各光パルスLaのピーク強度を100%とした場合、分散補償後の各光パルスLaのピーク強度は、
図14(a)では、波長λ1において97%、波長λ2において80%、波長λ3において57%、波長λ4において37%となった。一方、
図14(b)では、波長λ1において99%、波長λ2において94%、波長λ3において86%、波長λ4において75%となった。つまり、実施例においては、比較例と比べて大幅にピーク強度の減衰を抑制できていることが分かる。これは、空間光変調器における各変調領域の波長分解能の違いに起因している。比較例においては、一つの変調領域あたりの分光方向の画素数は1280/4=320であり、各変調領域の波長分解能は、一つの光パルスLaの波長帯域75nmを画素数320で除算した0.234nmである。それに対し、実施例においては、一つの変調領域あたりの分光方向の画素数は1280/2=640であり、各変調領域の波長分解能は、一つの光パルスLaの波長帯域75nmを画素数640で除算した0.117nmである。このように、実施例においては比較例と比べて波長分解能が2倍となる。なお、本実施例では第2実施形態の構成を採用しているが、波長分解能は第1実施形態でも同様の値となるので、第1実施形態においても本実施例と同様の分散補償効果を得ることができる。
[応用例]
【0079】
第1実施形態及び第2実施形態に係るマルチパルス光源は、マルチモーダル顕微鏡に応用することができる。近年では、従来の蛍光観察に代えて、多光子励起や高次高調波発生といった現象に基づく非線形光学顕微鏡が着目されてきている。多光子励起や高次高調波の発生といった複数の観測方式(modality)に基づく光応答を弁別することによって、複数の異なるターゲットを識別できる機能を有する顕微鏡は、マルチモーダル顕微鏡と称される。マルチモーダル観察では、複数の異なる観察方式に対応する幅広い波長のパルス光を用いるので、マルチパルス光源が有用である。しかし、マルチパルス光Lbの各光パルスLaの形状が波長分散に伴い互いに異なっている場合、ターゲットごとに異なるピーク強度となってしまい、安定した測定ができない。そこで、第1実施形態及び第2実施形態に係るマルチパルス光源を用いることにより、パルス毎に中心波長が異なるマルチパルス光の分散を、パルス毎に、より効果的に補償することができるので、マルチモーダル観察を安定して行うことができる。
【符号の説明】
【0080】
1…マルチパルス光源、2…パルス光源、4…遅延付与部、41…光ファイバ、42…偏波制御部、6…分散補償部、61…分光素子、61a…回折格子、63…分離光学素子、63a…ダイクロイックミラー、63b…ダイクロイックミラー、63c…ミラー、63d…偏光ビームスプリッタ、64…波長板、65…第1空間光変調器、66…第2空間光変調器、67…空間光変調器、67a1…第1変調領域、67a2…第2変調領域、L1…パルス光、La1…第1波長成分群、La2…第2波長成分群。