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特開2023-114555イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114555
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20230810BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20230810BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016926
(22)【出願日】2022-02-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-24
(71)【出願人】
【識別番号】503303466
【氏名又は名称】学校法人関西文理総合学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】掛橋 竜祐
(72)【発明者】
【氏名】安井 憲臣
(72)【発明者】
【氏名】森井 完
(72)【発明者】
【氏名】倉林 敦
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】
本発明は、イチモンジタナゴ由来DNAを検出するための方法、前記検出に使用するためのキット、及び前記検出に使用するためのリアルタイムPCR用の試薬を提供することを課題とする。
【課題解決手段】
イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法であって、
前記方法に使用されるPCR反応液は、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性DNAポリメラーゼと、鋳型DNAサンプルと、を含み、
PCR反応は、DNAの熱変性を行う第1のステップと、前記変性したDNAにプライマー及びプローブのアニーリングを行い、アニーリングしたプライマーからの伸張反応を50℃~57℃で行う第2のステップとを、20サイクルから80サイクル繰り返すステップとを含む、方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法であって、
前記方法に使用されるPCR反応液は、
フォワードプライマーと、
リバースプライマーと、
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、
dNTPと、
マグネシウムイオンと、
耐熱性DNAポリメラーゼと、
鋳型DNAサンプルと、
を含み、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT(配列番号1)-3’ で表される配列を有するプローブであり、
前記鋳型DNAサンプルは、イチモンジタナゴ由来DNAを含むか、イチモンジタナゴ由来DNAを含む可能性があるサンプル、
PCR反応は、
DNAの熱変性を行う第1のステップと、
変性したDNAにプライマー及びプローブのアニーリングを行い、アニーリングしたプライマーからの伸長反応を50℃~57℃で行う第2のステップとを、
20サイクルから80サイクル繰り返すステップとを含む、
方法。
【請求項2】
前記鋳型DNAサンプルが、淡水魚が生息する環境水から回収されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブとを含むキットであって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列を有するプローブである、
キット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含むリアルタイムPCR用の試薬であって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列を有するプローブである、
試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法、前記検出に使用するためのキット、及び前記検出に使用するためのリアルタイムPCR用の試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
環境省では、絶滅危惧種をはじめとした淡水魚類の全国的な分布情報の把握や希少種の保全活動を行っている(非特許文献1)。
【0003】
イチモンジタナゴは、最高ランクの絶滅リスク(レッドリストIA類)に挙げられている希少性と、その外観の美しさから、各分布地で企業、行政、市民団体等による保全活動が行われている。現在、本種を保全するため、本種がまだ生き残っている分布地の正確な把握は急務となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】環境省自然環境局生物多様性センター: https://www.biodic.go.jp/edna/edna_top.html
【非特許文献2】一般社団法人環境DNA学会(2020 年 4 月 3日 発行)環境DNA調査・実験マニュアルVer. 2.2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、絶滅危惧種の分布調査は、非侵襲的な環境DNA調査により行われている(非特許文献2)。しかし、現在環境中のイチモンジタナゴ由来DNAを検出するためのプライマーセット、及びプローブは開発されていない。
【0006】
本発明は、イチモンジタナゴ由来DNAを検出するための方法、前記検出に使用するためのキット、及び前記検出に使用するためのリアルタイムPCR用の試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の実施形態を含む。
項1.
イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法であって、
前記方法に使用されるPCR反応液は、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性DNAポリメラーゼと、鋳型DNAサンプルと、を含み、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT(配列番号1)-3’ で表される配列を有するプローブであり、
前記鋳型DNAサンプルは、イチモンジタナゴ由来DNAを含むか、イチモンジタナゴ由来DNAを含む可能性があるサンプル、
PCR反応は、
DNAの熱変性を行う第1のステップと、
変性したDNAにプライマー及びプローブのアニーリングを行い、アニーリングしたプライマーからの伸長反応を50℃~57℃で行う第2のステップとを、
20サイクルから80サイクル繰り返すステップとを含む、
方法。
項2.
前記鋳型DNAサンプルが、淡水魚が生息する環境水から回収されたものである、項1に記載の方法。
項3.
項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブとを含むキットであって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列を有するプローブである、
キット。
項4.
項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含むリアルタイムPCR用の試薬であって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列を有するプローブである、
試薬。
【発明の効果】
【0008】
イチモンジタナゴ由来DNAを他のタナゴ亜科由来DNAと区別して検出することができる。また、環境DNAから、イチモンジタナゴ由来DNAを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】イチモンジタナゴ、及びその他のタナゴ類のミトコンドリアDNA上に座位するtRNA-Val遺伝子から16SrRNA遺伝子までの領域の配列を示す。
図2】デザインしたプライマー及びプローブを使い、アニーリング及び伸長反応を60℃にてイチモンジタナゴ、及び他のタナゴ類のDNAを鋳型としてリアルタイムPCRを行った場合の増幅曲線を示す。
図3】フォワードプライマーとリバースプライマーの終濃度を0.9μMとし、アニーリング及び伸長反応の温度を55℃として、イチモンジタナゴのDNAをリアルタイムPCRにて増幅した場合の増幅曲線を示す。
図4】フォワードプライマーF44とリバースプライマーR113の組み合わせ、及びフォワードプライマーF60とリバースプライマーR113の組み合わせについて各プライマーの終濃度を0.05, 0.3, 0.9 μMと変えてリアルタイムPCRにて増幅した場合の増幅曲線を示す。
図5】フォワードプライマーF44とリバースプライマーR113の組み合わせ、又はフォワードプライマーF60とリバースプライマーR113の組み合わせをもちいたリアルタイムPCRの特異性を示す。鋳型は12S-16S領域クローンDNA領域である。
図6】フォワードプライマーF44とリバースプライマーR113の組み合わせ、又はフォワードプライマーF60とリバースプライマーR113の組み合わせをもちいたリアルタイムPCRの検出感度を示す。
図7】フォワードプライマーF44とリバースプライマーR113の組み合わせをもちいたリアルタイムPCRの特異性を示す。鋳型は全ゲノムまたは環境水から回収したDNAである。
図8】フォワードプライマーF44とリバースプライマーR113の組み合わせをもちいたリアルタイムPCRによる飼育水からのイチモンジタナゴ由来DNAの検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法
本発明のある実施形態は、イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法に関する。
【0011】
前記方法に使用されるPCR反応液は、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性DNAポリメラーゼと、鋳型DNAサンプルと、を含み得る。
【0012】
本明細書においてプライマー及びプローブは、イチモンジタナゴのミトコンドリアDNA(Acheilognathus cyanostigma mitochondrial DNA:GenBank: AP013346.1)のtRNA-Val遺伝子から16SrRNA遺伝子までの領域の一部とハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドである。
【0013】
本明細書において、ヌクレオチド配列は、図1に示す配列番号5で表される配列及び配列番号6で表される配列を除き、5’側を文頭側として文末側へ向かって標記する。「A」はアデニル酸骨格を示し、「G」はグアニル酸骨格を示し、「C」はシチジル酸骨格を示し、「T」は、チミジル酸骨格を示す。
【0014】
フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)、又は5’-TCACTTACACCGAGAAGACAT-3’(配列番号2)で表される配列を有するプライマーである。好ましくは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、又は5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)で表される配列を有するプライマーである。より好ましくは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)で表される配列を有するプライマーである。
【0015】
リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、又は5’-CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT-3’(配列番号6)で表される配列を有するプライマーである。好ましくは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)で表される配列を有するプライマーである。
【0016】
フォワードプライマー及びリバースプライマーは、PCR反応液に対して、終濃度で、0.03μM~1μMの範囲で添加することができる。好ましくは、0.05μM~0.9μMの範囲である。フォワードプライマーが5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)で表される配列を有するプライマーであるとき、PCR反応液に対して、終濃度で、0.8μM~1μMの範囲で使用することが好ましい。フォワードプライマーが5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)で表される配列を有するプライマーであるとき、PCR反応液に対して、終濃度で、0.03μM~0.08μMの範囲で使用することが好ましい。リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)、であるとき、PCR反応液に対して、終濃度で、0.8μM~1μMの範囲で使用することが好ましい。
【0017】
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブの、プローブ部分は、5’-CTAATATTTTTAATAACAT(配列番号1)-3’ で表される配列を有する。
【0018】
プローブに標識する蛍光色素及びクエンチャーの組み合わせは、一般的にプローブの合成を外注した際に、合成の受託先が決定する。特にクエンチャーは、物質が公開されていないこともあるが、本発明の目的が達成される限り制限されない。
【0019】
蛍光色素(レポーターと呼ばれることもある)と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブの代表例としてTaqMan(商標)プローブ、あるいはEprobe(商標)(T. Hanami, et al, Eprobe Mediated real-time PCR Monitoring and Melting Curve Analysis, Plos One, 8, e70942 (2013))を挙げることができる。
【0020】
蛍光色素として、例えば、FITC(fluorescein isothiocyanate)、FAM(商標)、VIC(商標)、HEX(商標)、TET(商標)、NED(商標)、Yakima Yellow(商標)、 Cy(商標)3、TEX615(商標)、LC Red 640、Tye(商標)655、Cy(商標)5等を挙げることができる。クエンチャーとして、FITC、FAM及びHEX(商標)にはIowa Black(商標) FQ/ZEN(商標)等を使用することができる。Cy(商標)3、TEX615(商標)、LC Red 640、Tye(商標)655、Cy(商標)5には、Iowa Black(商標)RQ等を使用することができる。また、蛍光色素がFAMであるとき、クエンチャーとして、例えば、Eclipse(商標)クエンチャー等の非蛍光クエンチャー、TAMRA(商標)クエンチャー(Applied Biosystems)、ブラックホールクエンチャー(商標)(BHQ(商標)、Biosearch Technologies)等を使用してもよい。
【0021】
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブの代表例としてTaqMan(商標)プローブを用いる場合、蛍光色素としてFAM(商標)、Hex(商標)、VIC(商標)、TET(商標)、 NED(商標)、Yakima Yellow(商標)等を使用でき、クエンチャーとしてEclipse等を使用でき、クエンチャーには、Miner Groove Binder(MGB)(商標)が付加される。TaqMan(商標)プローブは、受託合成可能である。
【0022】
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブが、TaqMan(商標)プローブである場合、一般的にはプローブの5’末端側に蛍光色素が標識され、3’末端にクエンチャーが標識される。しかし、増幅に応じた蛍光色素由来の蛍光強度を測定できる限り、蛍光色素、及び前記蛍光色素に対するクエンチャーのプローブにおける標識部位は制限されない。
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブは0.1μM~0.5μMで添加することが好ましい。
【0023】
本明細書において、「dNTP」は、デオキシアデノシン三リン酸(dATP),デオキシシチジン三リン酸(dCTP),デオキシグアノシン三リン酸(dGTP),チミジン三リン酸(TTP又はdTTP)の総称である。
PCR反応液に対するdNTPの添加量は、リアルタイムPCRにより本発明の課題を解決できるかぎり制限されない。例えば、各塩基あたり 50μM~ 500 μM程度である。
【0024】
耐熱性DNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼである限り制限されない。耐熱性DNAポリメラーゼとして、好ましくはTaq DNAポリメラーゼ、及びその誘導体を挙げることができる。より好ましくはApplied Biosystems(商標)AmpliTaq(商標) Gold DNAポリメラーゼを挙げることができる。
【0025】
耐熱性DNAポリメラーゼは、一般的に増幅反応のさいマグネシウムイオンを必要とする。したがって、PCR反応液にはマグネシウムイオンの供給源を添加することが好ましい。マグネシウムイオンの供給源として、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムを挙げることができる。マグネシウムイオンは、例えば終濃度で1 mM~4 mMで添加することが好ましい。
【0026】
また、PCR反応液は、バッファーによりのpH7.0~pH9.0の範囲となるように調整されていることが好ましい。バッファーとして、例えばTris-HClバッファーを使用することができる。
PCR反応液は、さらに塩化カリウム、EDTA等を含んでいてもよい。
【0027】
フォワードプライマー、リバースプライマー、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブ、鋳型DNAサンプル以外のPCR反応液に必要な組成を含む溶液として、例えば、×2 TaqMan(商標)Environmental Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を使用することができる。
【0028】
鋳型DNAサンプルは、イチモンジタナゴ由来DNAを含むか、イチモンジタナゴ由来DNAを含む可能性があるサンプルを使用することができる。
イチモンジタナゴ由来DNAを含むサンプルは、イチモンジタナゴの魚体の一部(例えばひれ、うろこ等)から回収されたDNAサンプル;イチモンジタナゴが明らかに存在する、飼育水槽、又は一時的にイチモンジタナゴが入れられていた水から採取されたDNAサンプルを含み得る。
【0029】
イチモンジタナゴ由来DNAを含む可能性があるサンプルは、イチモンジタナゴの生息を調査するための淡水魚が生息する環境水から回収されたDNAサンプルである。
イチモンジタナゴの魚体の一部からDNAを回収する場合、一般的なDNAの抽出方法により魚体の一部からDNAを抽出することができる。
【0030】
イチモンジタナゴが明らかに存在する、飼育水槽、又は一時的にイチモンジタナゴが入れられていた水、若しくは、環境水からDNAを回収する方法は、環境DNA調査・実験マニュアルV. 2.2(非特許文献2)に準拠する。当該マニュアルに記載の環境DNA分析方法は、一般社団法人環境DNA学会により標準化された方法である。
PCR反応は、蛍光標識プローブからの蛍光強度を測定できるサーマルサイクラーをもちいて行うことができる。
【0031】
PCR反応は、DNAの熱変性を行う第1のステップと、前記変性したDNAにプライマー及びプローブのアニーリングを行い、アニーリングしたプライマーからの伸張反応を50℃~57℃で行う第2のステップとを、20サイクルから60サイクル繰り返すステップとを含む。好ましくは、アニーリング及び伸張反応の温度は、51℃~53℃である。また、第2のステップにおけるサイクル数は、50サイクルから80サイクルである。
【0032】
PCR反応は、第1のステップの前に、予備的なステップ(例えば、約50℃ 2分程度の加温を1サイクル、約95℃ 10分程度を1サイクル)を含んでいてもよい。
【0033】
2.キット
本発明のある実施形態は、イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法に使用するためのキットに関する。前記キットは、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブとを含む。
【0034】
フォワードプライマー、リバースプライマー、及び蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブの説明は、上記1.に記載の説明を引用する。
【0035】
キットは、フォワードプライマー、リバースプライマー、及び蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブをそれぞれ独立した容器に梱包し、これら3との容器をさらに1つの容器に梱包したものであってもよい。
【0036】
キットは、フォワードプライマー、及びリバースプライマーを1つの容器に梱包し、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブをそれぞれ独立した1つの容器に梱包し、これら2つの容器をさらに1つの容器に梱包したものであってもよい。
【0037】
キットは、フォワードプライマー、リバースプライマー、及び蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブを1つの容器に梱包したものであってもよい。
【0038】
フォワードプライマー、リバースプライマー、及び蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブは、乾燥状態であってもよいが、バッファー(例えばTris-EDTAバッファー等)に溶解された状態であってもよい。
【0039】
3.リアルタイムPCR用の試薬
本発明のある実施形態は、イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法に使用するためのリアルタイムPCR用の試薬に関する。
試薬は、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含む。
【0040】
フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼに関する説明は、上記1.の説明をここに援用する。
【0041】
ただし、各成分の含有量は、上記1.において説明した含有量の2倍から5倍程度であることが好ましい。これは、鋳型DNAサンプルを添加した上で、PCR反応実行時の終濃度を上記1.において述べた含有量に調製するためである。
なお、リアルタイムPCR用の試薬は、グリセロール、βメルカプトエタノール、ジチオスレイトール、緩衝液、EDTA等を含んでいてもよい。
【実施例0042】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0043】
1.プライマーとプローブのデザイン
イチモンジタナゴのDNAを特異的に検出するプライマー及びプローブをデザインするため、はじめに、ミトコンドリアDNA上に座位するtRNA-Val遺伝子から16SrRNA遺伝子までの領域について、イチモンジタナゴ(GenBank: AP013346.1)と、イチモンジタナゴの自然分布地と重複して分布するタナゴ類8種4亜種、イタセンパラ(GenBank: LC631940)、マタナゴ(GenBank: AP012985.1)、カネヒラ(NCBI Reference Sequence: NC_028433.1)、シロヒレタビラ(GenBank: AP013344.1)、ミナミアカヒレタビラ(GenBank: AP013343.1)、アカヒレタビラ(GenBank: LC494270.1)、セボシタビラ(GenBank: AP013347.1)、ゼニタナゴ(GenBank: AB239602.1)、アブラボテ(GenBank: KM386633.1)、ヤリタナゴ(NCBI Reference Sequence: NC_024566.1)、及びタイリクバラタナゴ(GenBank: DQ026430.1)の塩基配列を比較した(図1)。その領域内で、イチモンジタナゴのみに1塩基の挿入が見られるヌクレオチド座位を特定し、その領域にハイブリダイズする19 merのTaq-Man(商標)プローブ[Ichimonji_16S_FAM_MGB: 5’FAM- CTAATATTTTTAATAACAT(配列番号1)-MGB(商標)-Eclipse(商標) Quencher]を作成した。さらに、プローブ部位を含む領域を増幅するために、以下の3種類のフォワードプライマーと、2種類のリバースプライマーをデザインした。
【0044】
<フォワードプライマー>
Acyan_Val_28F(「F28」ともいう): TCACTTACACCGAGAAGACAT(配列番号2)
Acyan_Val_44F(「F44」ともいう): AGACATCTATGCAAATTAGATCAC(配列番号3)
Acyan_Val_60F(「F60」ともいう): AGATCACCCTGAGCCAATC(配列番号4)
【0045】
<リバースプライマー>
Acyan_16S_113R(「R113」ともいう): CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA(配列番号5)
Acyan_16S_R2(「R2」ともいう): CGGTACTTTTTCTATTGCTTCAAAT(配列番号6)
【0046】
2.採水と水からのDNAの濾過
別添の環境DNA調査・実験マニュアルV. 2.2(非特許文献2)に準拠して、DNAの回収を行った。より具体的には、同マニュアル 「3-2. 採水とグラスファイバーフィルターを用いた実験室での濾過(P.26-32)」の方法で行った。以下、概略を記述する。
【0047】
(1)採水ボトルに1 Lの環境水を採取した。
(2)採取した環境水に10%塩化ベンザルコニウム溶液を1mL 添加した(終濃度0.01%)。
(3)濾過まで4℃で保存した。
(4)グラスファイバー製のフィルター(平均孔径0.7μm)1枚で環境水を濾過した。(マニュアルには、1Lの水を2枚のフィルターで濾過しているが、我々は1枚で行っている)
(5)濾過後のフィルターをアルミホイルで包み、超低温槽(-80℃)で保存した。
【0048】
3.フィルターからのDNA抽出
環境DNA調査・実験マニュアルV. 2.2(非特許文献2)に準拠して、環境水を濾過したフィルターからDNAの抽出を行った。より具体的には、同マニュアル「4-2. グラスファイバーフィルターからのDNA 抽出(P.47-56)」の方法で行った。以下、概略を記述する。
【0049】
(1)濾過後のフィルターをサリベット上部に入れた。
(2)DNeasy Blood & Tissue Kit (QIAGEN) を用い、フィルターからDNAを抽出した。具体的には、フィルターを入れたサリベット上部に420 μlのAL Buffer、20 μlのProteinase K液を加え、56℃で60 min静置した。6,050 r.p.m. で3 min遠心し、反応液をザリペット下部に落とした。サリベット上部のフィルターに220 μl のTris-EDTA (TE)bufferを加え、混合後1 min 室温で静置した。6,050 r.p.m. 3 min遠心分離し、TEをサリベット下部に落とした。サリベット下部に溜まった反応液とTEの混合液を回収し、400μl の99.5% EtOH を加え、ピペッティングで懸濁した。650μl程度の懸濁液をDNeasy カラムに加え、12,000 r.p.m. で2 min遠心し、カラムを通過した液体を廃棄した。残りの懸濁液をDNeasy カラムに加え、再度12,000 r.p.m. で2 min遠心し、カラムを通過した液体を廃棄した。遠心後のカラムを新しいコレクションチューブにのせ、カラムに500μlのAW1 Buffer を添加し、12,000 r.p.m. で2 min遠心した。カラムを新しいコレクションチューブに載せ、再度500μlのAW2 Buffer を添加し、12,000 r.p.m. で3 min遠心し、カラムを1.5ml低吸着チューブにのせた。カラムに110 μlのAE Buffer を添加し、1min 静置後12,000 r.p.m. で2 min遠心した。もう一度同じカラムに110 μlのAE Buffer を添加し、1min 静置後12,000 r.p.m. で2 min遠心した。2回分の濾液を混合し、環境DNA溶液として実験に使用した。
【0050】
4.PCR反応条件の決定とプライマーの比較
(1)実験条件
大腸菌ベクター pCR4.0(Invitrogen社)にライゲーションされたイチモンジタナゴ(兵庫県産)12S-16S rRNA遺伝子領域のクローンを鋳型に、1.においてデザインした3つのフォワードプライマーと2つのリバースプライマー、合計6つの組み合わせについて、最も増幅効率の良い組み合わせを検討した。同時に、最適なプライマー濃度を、フォワードプライマー及びリバースプライマーについて、それぞれ3通り(終濃度0.05、0.3、0.9 μM)について検討した。つまり、プライマーの種類の組み合わせ6通りについて、異なるプライマーの濃度の組み合わせを3×3の9通り、合計54通りの定量的PCR反応を行った。
【0051】
定量的PCRには、TaqMan(商標) Environmental Master Mix2.0(Thermo Fisher Scientific)試薬と、 サーマルサイクラーとしてLight Cycler 480 II(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用いた。反応系は以下の通りとした。
【0052】
<定量的PCR反応液組成>
×2 TaqMan(商標) Environmental Master Mix 10 μl
TaqMan(商標) Probe (Ichimonji_16S_FAM_MGB) 5μM 1 μl
鋳型DNA(1×106コピー/μl) 2 μl
フォワードプライマー原液(0.5, 3.0 , or 9.0 μM) 2 μl
リバースプライマー原液(0.5, 3.0 , or 9.0 μM) 2 μl
distilled deionized water 3 μl
計 20 μl
【0053】
<PCRサイクル>
50℃ 2 min (1サイクル)

95℃ 10 min(1サイクル)

95℃ 15 sec -60℃,55℃,or 52℃ 1 min(55サイクル)
(このステップは、95℃で熱変性を行い、60℃、55℃又は52℃でアニーリングと伸長反応を行う)
【0054】
(2)結果
図2に増幅結果を示す。アニーリングと伸長反応を60℃で行った場合、正しい増幅が得られなかった。
そこで、フォワードプライマーとリバースプライマーの終濃度を0.9μMとし、アニーリングと伸長反応の温度を55℃として、PCRを行った。その結果を図3に示す。その結果、F44とR113との組み合わせ(B2)ではCp値は22.03であり、F60とR113との組み合わせ(C2)ではCp値は22.19であった。残りの組み合わせでのCp値は、F28+R2 = 20.80、F28+113R = 20.58、F44+R2=22.25、F60+R2=22.75であった。
【0055】
この2種のプライマーの組み合わせについて、増幅量が最大になるプライマーの終濃度を、各プライマーについて3通り(0.05, 0.3, 0.9 μM)に調製し、合計9通りで検討した。その際、より確実な増幅を行うために、アニーリング及び伸張反応の温度を52℃に変更し、実験を行なった(3試行)。結果を図4に示す。F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM) が最も増幅がよかった(Cp = 28.21, 26.93, 27.09)。一方で、Cp値は、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)(Cp = 24.59, 24.98, 24.71)の方がより良かった。
【0056】
5.12S-16S領域クローンDNAを用いたイチモンジタナゴプライマー/プローブの特異性の検討
次に、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)と、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)の2通りのプライマーの組み合わせを、8種の他のタナゴの12S-16S領域のクローン(106コピー)を鋳型DNAとして、これらのプライマーセットとプローブの組み合わせが、イチモンジタナゴのDNAを種特異的に検出しうるかを確認した。実験は3回試行した。その結果を図5に示す。どちらのプライマーの組み合わせも、イチモンジタナゴの12S-16S領域クローンを鋳型とした時は増幅が見られたが、それ以外のタナゴの12S-16S領域クローンを鋳型にした場合は増幅が見られなかった。
【0057】
以上の結果から、タナゴ類の12S-16S領域を鋳型とした場合、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)と、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)のプライマーの組み合わせは、どちらもイチモンジタナゴのDNAのみを検出することがわかった。
【0058】
6.イチモンジタナゴプライマー/プローブの検出限界の推定
次にイチモンジタナゴの12S-16Sクローンの希釈系列を作成し、これらのプライマーの検出感度を検討した。なお、上記5.において、Cp値については、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)の組み合わせにおいてCp = 24.59、24.98、24.71であり、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)の組み合わせにおいてはCp = 28.21、26.93、27.09であったため、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)の組み合わせについては3試行、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)の組み合わせは1試行の検出感度の検討を行なった。
【0059】
イチモンジタナゴ12S-16SクローンDNAの希釈系列(106, 5×105,105, 5×104, 104, 5×103, 103, 5×102, 102, 5×10, 10, 5コピー)を作成し、この希釈系列をもちいて検出感度を検討した。その結果、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)については、回帰式 y = -3.2473x + 45.244 (決定係数 R2= 0.98329)が得られ、増幅効率は、1サイクルにつき100%(2倍)であった。また、5コピーまでリニアな増幅が確認された。F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)については、回帰式y = -3.4126x + 43.307 (決定係数 R2 = 0.99765)が得られ、増幅効率は、1サイクルにつき96.35%(1.93倍)であった。また、やはり5コピーまでリニアな増幅が確認された(図6)。これらの結果から、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)とF44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)は、そのどちらも、少なくともDNA 5コピーがあれば検出可能であることが示された。なお、増幅効率については、F60 (0.05μM) + R113 (0.9μM)の方がF44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)より優れていた。しかし、上記5.における検討では、検出感度に対応するCp値に関し、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)の方が優れていた。このため、以降の種特異性の確認と、飼育水からのイチモンジタナゴDNAの検出は、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)を用いて行った。
【0060】
7.イチモンジタナゴプライマー/プローブの種特異的検出の確認
上記6.において、12S-16SrRNA遺伝子領域を含むクローンについて、作製したプライマーとプローブのセットがイチモンジタナゴに対して種特異的増幅をすることを確認した。しかし、実際の環境DNAには、ターゲットとする遺伝子領域だけでなく、ゲノムDNAが全て含まれている。そこで、タナゴ類のゲノムDNAを鋳型とした場合でも、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)のプライマーセットと、Taq-Man プローブ(Ichimonji_16S_FAM_MGB)の組み合わせが、イチモンジタナゴのDNAのみを検出するかを検討した。
【0061】
ここでは、イチモンジタナゴ2個体(上記で使用していた兵庫県産サンプルに加え、岡山県産個体)、および、日本産タナゴ7種4亜種 (マタナゴ、タイリクバラタナゴ、カネヒラ、ヤリタナゴ、ゼニタナゴ、アブラボテ、シロヒレタビラ[亜種]、セボシタビラ[亜種]、ミナミアカヒレタビラ[亜種]、アカヒレタビラ[亜種]) のゲノムDNAを鋳型に用いた。なお、ゲノムDNAは、各タナゴの尾鰭から、DNeasy Blood & Tissue Kitを用い、キットに添付のマニュアルに従って抽出した。さらに、保護動物のイタセンパラについては、ゲノムDNAが入手できないが、イタセンパラ飼育水槽から抽出した環境DNA 0.15 ngをこの実験に用いた。
【0062】
まず、以下の条件で定量的PCRを行なった。
<定量的PCR反応液組成>
×2 TaqMan(商標) Environmental Master Mix 10 μl
TaqMan(商標) Probe (Ichimonji_16S_FAM_MGB) 5μM 1 μl
鋳型DNA(各タナゴゲノムDNA 10 ng/μl) 1 μl
(イタセンパラの場合は飼育水槽環境DNA 5 μl)
フォワードプライマー原液(9.0 μM) 2 μl
リバースプライマー原液(9.0 μM) 2 μl
distilled deionized water 4 μl
(イタセンパラの場合はdistilled deionized waterを添加せず)
計 20 μl
【0063】
<PCRサイクル>
50℃ 2 min (1サイクル)

95℃ 10 min(1サイクル)

95℃ 15 sec - 52℃ 1 min(55サイクル)
(このステップは、95℃で熱変性を行い、52℃でアニーリングと伸長反応を行う)
【0064】
結果を図7に示す。図7に示すように、イチモンジタナゴ(Cp = 22.33 [岡山県産:符号B2]、24.27 [兵庫県産:符号B1])のみに増幅が見られた。同じ実験を3回繰り返したが、やはり、F44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)のプライマーセットとTaq-Man プローブ(Ichimonji_16S_FAM_MGB)を用いた、上記の反応条件では、イチモンジタナゴのDNAしか増幅されなかった。このため、今回開発したプライマーセットとプローブの組み合わせと、PCR反応条件を用いることで、イチモンジタナゴの種特異的検出が可能であることが確認された。
【0065】
8.飼育水からのイチモンジタナゴDNAの検出
今回開発したF44 (0.9μM) + R113 (0.9μM)のプライマーとTaq-Manプローブ(Ichimonji_16S_FAM_MGB)のセット、および、上記のPCR条件が、実際に環境DNAからイチモンジタナゴのDNAを増幅できるかを検討した。具体的には、およそ180 L容量の水槽(水温23℃)にイチモンジタナゴ(体長約4 cm)1匹を放ち、その後、1日後と3日後に1 Lずつ採水を行い、採取した水から、上記2.に記述した方法で、環境DNAを抽出した(各220 μlのAE Bufferで抽出)。このDNA液を鋳型DNA液とし、以下の条件でPCRを行なった。
【0066】
<定量的PCR反応液組成>
×2 TaqMan(商標)Environmental Master Mix 10 μl
TaqMan(商標) Probe (Ichimonji_16S_FAM_MGB) 5μM 1 μl
【0067】
フォワードプライマー原液(9.0 μM) 2 μl
リバースプライマー原液(9.0 μM) 2 μl
鋳型DNA液 5 μl
計 20 μl
【0068】
<PCRサイクル>
50℃ 2 min (1サイクル)

95℃ 10 min(1サイクル)

95℃ 15 sec - 52℃ 1 min(55サイクル)
(このステップは、95℃で熱変性を行い、52℃でアニーリングと伸長反応を行う)
【0069】
その結果、1日目及び3日目の環境DNA液のどちらからも、3回の試行全てにおいて、イチモンジタナゴDNAの増幅が確認された。図8には、1試行の結果のみしめす。この結果から、今回開発したプライマーとTaq-Man プローブ及びプライマーのセットと、上記のPCR条件により、実際に水に含まれる環境DNAからイチモンジタナゴのDNAを増幅できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023114555000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチモンジタナゴ由来DNAをリアルタイムPCRにより検出する方法であって、
前記方法に使用されるPCR反応液は、
フォワードプライマーと、
リバースプライマーと、
蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、
dNTPと、
マグネシウムイオンと、
耐熱性DNAポリメラーゼと、
鋳型DNAサンプルと、
を含み、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、又は5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)で表される配列からなるプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)で表される配列からなるプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT(配列番号1)-3’で表される配列からなるプローブであり、
前記鋳型DNAサンプルは、イチモンジタナゴ由来DNAを含むか、イチモンジタナゴ由来DNAを含む可能性があるサンプルであり
PCR反応は、
DNAの熱変性を行う第1のステップと、
変性したDNAにプライマー及びプローブのアニーリングを行い、アニーリングしたプライマーからの伸長反応を50℃~57℃で行う第2のステップとを、20サイクルから80サイクル繰り返すステップとを含む、
方法。
【請求項2】
前記鋳型DNAサンプルが、淡水魚が生息する環境水から回収されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブとを含むキットであって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、又は5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)で表される配列からなるプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)で表される配列からなるプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列からなるプローブである、
キット。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法に使用するための、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含むリアルタイムPCR用の試薬であって、
前記フォワードプライマーは、5’-AGACATCTATGCAAATTAGATCAC-3’(配列番号3)、又は5’-AGATCACCCTGAGCCAATC-3’(配列番号4)で表される配列からなるプライマーであり、
前記リバースプライマーは、5’-CCTTTTCTGTCTCCCATACTTA-3’(配列番号5)で表される配列からなるプライマーであり、
前記プローブは、5’-CTAATATTTTTAATAACAT-3’(配列番号1)で表される配列からなるプローブである、
試薬。