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特開2023-114558超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物
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  • 特開-超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114558
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/12 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
A61B8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016934
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大畑 淳
(72)【発明者】
【氏名】平木 勇次
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB21
4C601BB22
4C601BB24
4C601EE04
4C601EE20
4C601FE02
4C601FE03
4C601GC01
4C601GC30
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、超音波内視鏡手技において、解剖学的理由又は重力の関係によって、脱気水をうまく溜められない臓器又は部位(例えば、食道や十二指腸等)であっても、病変部を生理学的形態で描写できる方法を提供すること等である。
【解決手段】超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物であって、当該組成物が21.5J/m以上の付着性を有する組成物を提供すること等。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物であって、当該組成物が21.5J/m以上の付着性を有する、組成物。
【請求項2】
52.0J/m以下の付着性を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
42.0mm以下のLST値を有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
25.0mm以上のLST値を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物を管腔内に充填する工程を含む、超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法。
【請求項6】
超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物が充填された超音波内視鏡。
【請求項8】
超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物の製造における、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項9】
超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための組成物の製造における、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波内視鏡は、内視鏡の先端部に超音波探触子を備えたスコープタイプの専用機と細径超音波プローブの2種類に大別され、消化器系の内腔から体内の形状、性状又は動態を可視化する。具体的には、上部消化管(胃、食道、十二指腸)、大腸、膵臓・胆道で使われ、各臓器の壁構造及び周囲臓器の変化、周囲臓器との関係、血管、リンパ節などの情報を得る目的で広く利用されている。超音波内視鏡検査では、スコープタイプの専用機を自然開口部から挿入する、又は標準の内視鏡を挿入後、鉗子チャネルを経由して細径超音波プローブを挿入し、超音波探触子を体腔内に配置して使用する。超音波探触子は、接続された超音波画像診断装置からの電気信号に応じた超音波を発信し、組織にて透過、反射された超音波を受信し、反射エコー信号に変換する。反射エコー信号は、超音波画像診断装置にて信号処理及び画像処理が行われ、モニター上に超音波画像として表示され、その画像情報を以って診断等が行われる。
【0003】
しかしながら、超音波は音響インピーダンスの差が大きい物質の境界面で反射する性質を有するため、超音波探触子と対象病変(観察部位)との間に気体(空気の層)が存在すると超音波が反射してしまい、良好な超音波画像を得ることができなくなる。
【0004】
この超音波探触子と対象病変(観察部位)との間に気体の隙間をつくらないようにする方法として、脱気水充満法(「水浸法」ともよばれる)及びバルーン法が使用されている。
【0005】
脱気水充満法は、対象病変が水浸するように管腔内に直接脱気水を溜めて超音波ビームを走査する方法であり、病変部を生理学的形態で描写できるという利点を有する。一方、解剖学的理由又は重力の関係によって、脱気水をうまく溜められない臓器又は部位(例えば、食道や十二指腸等)での走査は困難になるというデメリットがある。
【0006】
バルーン法は、スコープ先端の探触子に伸縮性を有するバルーンを被せ、バルーン内に脱気水を満たした状態で対象病変に接触させて超音波ビームを走査する方法であり、解剖学的理由又は重力の関係によって、脱気水をうまく溜められない臓器又は部位での走査が容易となる。一方、バルーンで対象病変を圧迫するため、病変部の生理学的形態の描写が損なわれるといったデメリットがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、超音波内視鏡手技において、解剖学的理由又は重力の関係によって、脱気水をうまく溜められない臓器又は部位(例えば、食道や十二指腸等)であっても、病変部を生理学的形態で描写できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、脱気水充満法における脱気水に代えて、特定の付着性を有する組成物、特に、21.5J/m以上の付着性を有する組成物を超音波伝達媒体として管腔内に注入した場合、脱気水をうまく溜めることが困難な臓器又は部位であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることを見出し、下記の本発明を完成させたものである。
【0009】
[1] 超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物であって、当該組成物が21.5J/m以上の付着性を有する、組成物。
[2] 52.0J/m以下の付着性を有する、[1]に記載の組成物。
[3] 42.0mm以下のLST値を有する、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4] 25.0mm以上のLST値を有する、[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5] [1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物を管腔内に充填する工程を含む、超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法。
[6] 超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物。
[7] [1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物が充填された超音波内視鏡。
[8] 超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物の製造における、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物の使用。
[9] 超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための組成物の製造における、[1]~[4]のいずれか一つに記載の組成物の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物は、管腔内に注入した場合、脱気水をうまく溜めることが困難な臓器又は部位(例えば、食道や十二指腸等)であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まるため、比較的長時間にわたり、病変部を生理学的形態で描写することが可能となる。また、本発明の組成物は、管腔内に注入した場合、脱気水をうまく溜めることが困難な臓器又は部位(例えば、食道や十二指腸等)であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まるため、超音波画像の描出時間が長くなり、結果的に、本発明の組成物により、より簡便かつ高い精度にて超音波内視鏡手技を行うことが可能となる。また、本組成物は、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まるため、注入するゲルの量は、脱気水充満法の脱気水の量に比べて少なくなり、腹部膨満感といった被験物質の不快感を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の組成物を使用した際に得られる代表的な内視鏡エコー画像(食道粘膜下腫瘍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一態様において、本発明は、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物であって、当該組成物が21.5J/m以上の付着性を有する、組成物に関する。
【0013】
本発明において、「超音波内視鏡手技」とは、超音波内視鏡を利用した手技全般を意味し、観察又は診断を目的とした超音波内視鏡検査や、超音波内視鏡下での手術、治療行為(たとえば、超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)やEUSガイド下治療)等を包含する。「超音波内視鏡手技」は、内視鏡の先端部に超音波探触子が備え付けられたスコープタイプの専用機を使用する態様と、標準の内視鏡に細径超音波プローブを組み合わせて使用する態様に大別されるところ、本明細書においては、「超音波内視鏡」という用語は、前者の専用機のみならず、後者の標準の内視鏡に細径超音波プローブを組み合わせたものも意味するものとして使用する。一般に、スコープタイプの専用機は細径超音波プローブに対して探触子が大きく精度が高いため、大きい病変や深部の病変に対して有用であるが、先端の硬性部が長く操作性に劣る傾向がある。他方、細径超音波プローブは、標準の内視鏡の鉗子口等から挿入して簡便に使用できる一方、操作範囲が狭く精度に劣る傾向がある。
【0014】
内視鏡(スコープタイプの専用機を含む)は、一般に、接続部、操作部、挿入部(内視鏡軟性管)、先端部に大別される。接続部は、先端部からの光学情報や超音波情報を可視化するためのビデオシステムに接続する部分である。操作部には、内視鏡を操作するためのボタン(吸引ボタン、送気・送水ボタン等)や、鉗子などの処置具類を挿入し先端部に送るための鉗子口(操作部側)等が設けられており、操作者は、操作部を介して内視鏡を操作する。挿入部は、人体内に挿入される部分であり、典型的には、鉗子口から先端部までを連通する鉗子チャンネル、先端部のレンズの水洗浄などのための送水・送気チャンネル等が内包されている。先端部には、一般に、鉗子チャンネルの出口にあたる鉗子口(先端部側)、送水・送気チャンネルの出口にあたる送気・送水ノズル、ライトガイド、対物レンズ等が設けられている。スコープタイプの専用機では、これらに加えて、先端部に超音波探触子が備え付けられており、当該超音波探触子からの情報を接続部まで伝達するためのチャンネルが挿入部に内包されている。
【0015】
スコープタイプの専用機は、超音波の走査方式によってラジアル型とコンベックス型に大別される。ラジアル型では、超音波ビームを放射状に走査し、内視鏡周囲360°の断層像を得ることができる。他方、コンベックス型では、超音波ビームを凸面に沿って走査し、内視鏡軸方向に180°断層像を得ることができる。したがって、ラジアル型は観察を目的として用いられることが大半である一方、コンベックス型は走査の特徴から穿刺のモニタリングも可能であるため、観察に加え、超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)やEUSガイド下治療にも用いられることがある。本発明の一態様において、超音波内視鏡手技において使用される「超音波内視鏡」は、スコープタイプの専用機であってよく、また、ラジアル型でも、コンベックス型であってもよい。
【0016】
内視鏡用超音波プローブは、先端部に超音波探触子を備えた細径プローブを意味し、典型的には、通常の内視鏡の鉗子口から挿入することにより簡便に使用できる。本発明の一態様において、内視鏡用超音波プローブは、先端付近に超音波探触子を備えた挿入部と、プローブ駆動ユニットと接続するための接続筒を備える。内視鏡用超音波プローブもまた、スコープタイプの専用機と同様、その超音波の走査方式によってラジアル型とリニア型に大別される。また、内視鏡用超音波プローブは、主にガイドワイヤー挿通口が設けられた胆膵用のものと、当該挿通口が設けられていない消化管用のものが市販されているが、本発明において使用される内視鏡用超音波プローブはこれらに限定されない。本発明の一態様において、超音波内視鏡手技において使用される「超音波内視鏡」は、通常の内視鏡に内視鏡用超音波プローブを組み合わせたものであってよく、当該プローブは、ラジアル型であっても、リニア型であってもよく、また、胆膵用超音波プローブ又は消化管用超音波プローブであってよい。
【0017】
本発明において、「超音波伝達媒体」とは、超音波を伝達させるための媒体を意味する。本発明の一態様において、「超音波伝達媒体」は、少なくとも、超音波内視鏡手技を妨げない程度に、超音波の伝達を減衰しない媒体を意味し、好ましくは、実質的に超音波の伝達を減衰しない媒体を意味する。
【0018】
本発明において、「管腔」とは、体内の環状器官の内側の空間を意味する。超音波内視鏡手技は、主に、内視鏡先端部を経口経由にて管腔内に挿入する態様と、肛門経由にて管腔内に挿入する態様に大別されるところ、前者の態様において内視鏡先端部を挿入する器官としては、上部消化管(食道、胃、十二指腸)を挙げることができ、後者の態様において内視鏡先端部を挿入する器官としては、下部消化管(大腸)を挙げることができ、したがって、本発明において組成物を注入する管腔としてはこれらの器官の管腔を挙げることができるが、本発明の管腔は、必ずしもこれらには限定されない。上記のとおり、本発明の組成物は、とりわけ、脱気水をうまく溜めることが困難な器官(管腔)においてその利点を発揮するため、本発明の一態様において、本発明において組成物を注入する管腔は、食道、十二指腸といった比較的水を溜め難い器官の管腔を挙げることができる。
【0019】
本発明において、組成物を管腔内に注入するための方法は、組成物を所期の管腔内に注入できる限り、あらゆる方法を包含する。たとえば、スコープタイプの専用機を使用する態様であれば、鉗子口等を経由して組成物を所期の管腔内に注入することができ、内視鏡用超音波プローブ使用する態様であれば、鉗子口や副送水口を経由して組成物を所期の管腔内に注入することができる。あるいは、本発明の組成物は、超音波内視鏡機構とは独立して管腔内に注入してもよく、たとえば、使い捨て用の静脈内延長チューブの遠位端をカットした上で、当該チューブを、内視鏡の先端部の外表面に物理的に固定し、当該チューブの近位端を本発明の組成物を充填したシリンジと連通させ、当該シリンジの押子を押すことで、本発明の組成物を所期の管腔内に注入することができる。
【0020】
本発明において、組成物を管腔内に注入するための機構としては、組成物を所期の管腔内に注入できる限り限定されないが、たとえば、シリンジを使用する態様、ウォータージェット機構を使用する態様を挙げることができる。
【0021】
本発明の一態様において、本発明の組成物は、まず1つ又は複数のシリンジ内に充填される。次いで、内視鏡の先端部を所期の管腔内まで挿入したのち、本発明の組成物が充填されたシリンジを、適当なアダプター(たとえば、イリゲーター付き鉗子栓)を介して、内視鏡の鉗子チャンネル(内径2.0~3.8mm程度)に接続する。その後、シリンジから押し出されることにより、本発明の組成物が所期の管腔内に注入される。本発明の別の一態様においては、本発明の組成物を充填したシリンジは、内視鏡の先端部を所期の管腔内まで挿入する前に、内視鏡の鉗子チャンネルに接続される。また、本発明のさらなる別の一態様では、本発明の組成物が充填されたシリンジをカテーテルの近位端に連通させ、当該カテーテルの遠位端を鉗子チャンネル内に挿入後に、シリンジの押子を押すことで、カテーテルの遠位端から本発明の組成物を所期の管腔内に注入できる。超音波プローブが使用される場合、本発明の組成物は、超音波プローブの挿入前に所期の管腔内に注入してもよいし、超音波プローブの挿入後に所期の管腔内に注入してもよい。超音波内視鏡手技の途中で、本発明の組成物を追加的に注入する必要がある場合、空になったシリンジを、本発明の組成物が充填された新たなシリンジに置き換えることにより、本発明の組成物を追加的に注入することができる。
【0022】
本発明の一態様において、本発明の組成物は、ビーカーなどの容器内に充填される。次いで、本発明の組成物が充填された容器内にウォータージェット装置の送水チューブを入れ、送水チューブのもう一端を内視鏡のチェックバルブに接続する。その後、ウォータージェット装置のフットペダルを踏むことで、本発明の組成物が所期の管腔内に注入される。
【0023】
本発明の組成物を管腔内に注入する際の量は、超音波内視鏡手技の目的や、超音波内視鏡を挿入する器官のサイズ等によって適宜決定できる。たとえば、超音波内視鏡を挿入する器官が食道であれば、通常20~500mL、好ましくは30~400mL、より好ましくは40~300mL、更に好ましくは50~200mL程度、超音波内視鏡を挿入する器官が十二指腸であれば、通常20~500mL、好ましくは40~400mL、より好ましくは50~300mL、更に好ましくは50~200mL程度が目安となるが、これらには限定されない。
【0024】
本発明において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、典型的には、増粘性物質と水とを含有するが、必ずしもこれに限定されない。本発明の一態様において、本発明の組成物は、増粘性物質と水とを含有する。
【0025】
本発明の「増粘性物質」は、水に溶解又は分散させたときに、粘度を高める作用を有する物質を意味するものである。本発明の増粘性物質は、一種類の成分からなるものであっても、二種類以上の成分の組み合わせからなるものであってもよい。このような増粘性物質としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンカテキン、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、グルコサミン、ガラクトサミンなどのアルコール類;アウレオバシジウム培養液、アマシードガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸及びその塩類、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ウェランガム、カシアガム、ガティガム、カードラン、カラギナン、カラヤガム、キサンタンガム、グァーガム、グァーガム酵素分解物、サイリウムシードガム、サバクヨモギシードガム、ジェランガム、スクシノグリカン、タマリンドガム、タラガム、トラガントガム、フルセララン、フノラン、プルラン、ペクチン、マクロホモプシスガム、ラムザンガム、ローカストビーンガム、アクリル酸デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロース及びその塩類、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸デンプン、酸化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、セルロース、リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、フコイダン、ダイユータンガム、グルコマンナン、ヒアルロン酸及びその塩類、ケラタン硫酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、スクレログルカン、シゾフィラン、オクラ抽出物、キダチアロエ抽出物、セスバニアガム、アガロース、アガロペクチン、アミロース、アミロペクチン、アルファー化デンプン、イヌリン、レバン、グラミナン、カンテン、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デキストラン、デキストリン、クロスカルメロースナトリウム、グルクロノキシラン、アラビノキシランなどの多糖類;ゼラチン、加水分解ゼラチン、コラーゲンなどのタンパク質;ポリグルタミン酸、ポリリジン、ポリアスパラギン酸などのポリアミノ酸;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸及びその塩類、ポリアクリル酸部分中和物、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどの親水性高分子;塩化カルシウム、水酸化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸銅などの金属塩などを挙げることができるが、これらには限定されない。
【0026】
本発明の増粘性物質は、好ましくは、多糖類又は親水性高分子である。本発明の増粘性物質は、より好ましくは、多糖類であり、特に、グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類(例えば、キサンタンガム、セルロース等)又はマンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類(例えば、グァーガム、ローカストビーンガム等)である。
【0027】
本発明の増粘性物質は、他成分と組み合わせた際にのみ増粘作用を有する物質を包含する。例えば、先に例示したアルコール類の一部は、タマリンドガム等の多糖類と組み合わせた場合に増粘作用を奏する。
【0028】
本発明の増粘性物質は、体内に適用した際に安全性が高いもの、すなわち、人体に悪影響をほとんど又は全く及ぼさないものであることが好ましい。このことから、本発明の増粘性物質としては、少なくとも食品添加物として認められている品質以上の品質を有する増粘性物質が好ましい。不純物を有さず安全であるという点からは、合成により得られた親水性高分子等の増粘性物質を用いることができる。
【0029】
本発明の増粘性物質として、天然物由来のもの(例えば、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム等の多糖類)を使用する場合、製造業者間やロット間での物性のばらつきが大きいことから、付着性やLST値といった所期の物性値そのものを確認しながら分散媒である水を追加する等の方法により濃度(例えば、重量%)を変えることで、本発明の組成物を調製することが好ましい。
【0030】
本発明の増粘性物質として二種類以上の成分の組み合わせからなるものを用いる場合、当該二種類以上の成分の混合比率を変えることにより、適宜、所期の物性を有する組成物を得ることができる。本発明の増粘性物質として二種類以上の成分の組み合わせからなるものを用いる場合、当該成分の一つとして多糖類を含むことが好ましい。このような多糖類としては、グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類、又はマンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類を挙げることができる。グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類としては、キサンタンガム、セルロースを挙げることができ、グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類の混合比率(増粘性物質全体における当該多糖類の重量%)としては、好ましくは5~90重量%、より好ましくは10~80重量%、さらに好ましくは20~70重量%を挙げることができる。他方、マンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類としては、例えば、グァーガム、ローカストビーンガムを挙げることができ、マンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類の混合比率(増粘性物質全体における当該多糖類の重量%)としては、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~85重量%、さらに好ましくは30~80重量%を挙げることができる。
【0031】
本発明の増粘性物質として二種類以上の成分の組み合わせからなるものを用いる場合、当該二種類以上の成分は、好ましくは、二種類の多糖類の組み合わせである。当該二種類の多糖類の組み合わせとしては、好ましくは、グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類と、マンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類の組み合わせを挙げることができ、例えば、キサンタンガムとグァーガム、又はキサンタンガムとローカストビーンガムの組み合わせを挙げることができる。当該組み合わせの重量比としては、付着性やLST値といった所期の物性値を得られることを確認しながら、適宜決定することが可能であるが、好ましくは、グルコースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類:マンノースがグリコシド結合した構造を主鎖とする多糖類の重量比として、5:95~90:10、より好ましくは10:90~80:20、さらに好ましくは20:80~70:30を挙げることができる。なお、本発明の増粘性物質として二種類以上の成分の組み合わせからなるものを用いる場合も、前記のとおり、付着性やLST値といった所期の物性値そのものを確認しながら分散倍である水を追加する等の方法により濃度(例えば、重量%)を変えることで、本発明の組成物を調製することが好ましい。
【0032】
本発明の組成物に用いられる「水」は、特に制限されないが、軟水、純水、超純水、脱イオン水、蒸留水、水道水などを含み、生理食塩水、リンゲル液、酢酸リンゲル液などの生理的水溶液であってもよい。
【0033】
本発明において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、特定の付着性を有する。本発明の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、21.5J/m以上の付着性を有し、本発明の別の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、21.5J/m~52.0J/mの付着性を有する。本発明において、付着性は、任意のクリープメータを用いて測定することができ、例えば、クリープメータModel RE2-33005C(株式会社山電)を用いて測定することができる。本発明の一態様において、組成物の付着性は、ステンレスシャーレ(外径45mm、内径41mm、外寸18mm、内寸15mm)に試験物質(組成物)を満たし、シャーレの高さに揃えて試験物質表面を平らにし、格納ピッチ:0.02sec、測定歪率:66.67%、測定速度:10mm/sec、戻り距離:5.00mm、サンプル厚さ:15.00mm、接触面:直径20.00mmの条件下において、プランジャー(株式会社山電、形状:円板、型式:P-56、摘要:φ20×t8)を用いて測定することができる。
【0034】
本発明の一態様において、本発明の組成物の付着性は、20.0J/m以上、20.5J/m以上、21.0J/m以上、21.5J/m以上、22.0J/m以上、22.5J/m以上、23.0J/m以上、23.5J/m以上、24.0J/m以上、24.5J/m以上、25.0J/m以上、25.5J/m以上、26.0J/m以上、26.5J/m以上、27.0J/m以上、27.5J/m以上、28.0J/m以上、28.5J/m以上、29.0J/m以上、29.5J/m以上、又は30.0J/m以上である。
【0035】
本発明の一態様において、本発明の組成物の付着性は、52.0J/m以下、51.5J/m以下、51.0J/m以下、50.5J/m以下、50.0J/m以下、49.5J/m以下、49.0J/m以下、48.5J/m以下、48.0J/m以下、47.5J/m以下、47.0J/m以下、46.5J/m以下、46.0J/m以下、45.5J/m以下、45.0J/m以下、44.5J/m以下、44.0J/m以下、43.5J/m以下、43.0J/m以下、42.5J/m以下、42.0J/m以下、41.5J/m以下、41.0J/m以下、40.5J/m以下、40.0J/m以下、39.5J/m以下、39.0J/m以下、38.5J/m以下、38.0J/m以下、37.5J/m以下、37.0J/m以下、36.5J/m以下、36.0J/m以下、35.5J/m以下、35.0J/m以下、34.5J/m以下、34.0J/m以下、33.5J/m以下、33.0J/m以下、32.5J/m以下、32.0J/m以下、31.5J/m以下、31.0J/m以下、30.5J/m以下、30.0J/m以下、又は29.5J/m以下である。
【0036】
水の付着性が19.3J/mであることから、それより高い付着性を有する組成物は、管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが推認される。また、組成物の付着性が、21.5J/m以上であれば、後述する傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°にしても流れ落ちないことが確認されたことから、当該組成物を管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが強く推認される。他方、付着性が極端に高い場合、たとえば、52.0J/mを超える場合、内視鏡の鉗子口や、その他のチャンネルを通して、内視鏡の先端部付近に組成物を送り込む際の操作性に支障をきたす場合がある。したがって、本発明の一態様において、本発明の組成物の付着性は、好ましくは、21.5J/m~52.0J/mである。
【0037】
本発明の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、特定の拡散性(LST値)を有する。本発明の別の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、42.0mm以下のLST値を有し、本発明のさらなる別の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、25.0mm以上のLST値を有する。本明細書において、「LST値」(Line Spread Test値の頭字語である)とは、とろみのついた溶液が一定時間に広がる距離を見ることによってとろみの程度を数値化した際の数値を意味する。LST値は、既知の方法を用いて測定することができ、たとえば、Line Spread Test(LST)用測定板(サラヤ株式会社、材質:ポリエチレン、商品コード:58023)を用いて測定することできる。本発明の一態様において、組成物のLST値は、LST用測定板(サラヤ株式会社、材質:ポリエチレン、商品コード:58023)の中央に測定用リング(サラヤ株式会社、材質:ステンレス)をセットし、試験物質(組成物)を20mL満たした後、測定用リングの高さに揃えて試験物質表面を平らにし、その後、測定用リングを垂直に持ち上げ、30秒後の試験物質の拡散距離を6箇所測定し、平均値を算出することにより測定される。
【0038】
本発明の一態様において、本発明の組成物のLST値は、46.0mm以下、45.5mm以下、45.0mm以下、44.5mm以下、44.0mm以下、43.5mm以下、43.0mm以下、42.5mm以下、42.0mm以下、41.5mm以下、41.0mm以下、40.5mm以下、40.0mm以下、39.5mm以下、39.0mm以下、38.5mm以下、38.0mm以下、37.5mm以下、37.0mm以下、36.5mm以下、36.0mm以下、35.5mm以下、35.0mm以下、34.5mm以下、34.0mm以下、33.5mm以下、33.0mm以下、32.5mm以下、32.0mm以下、31.5mm以下、31.0mm以下、30.5mm以下、30.0mm以下、29.5mm以下、又は29.0mm以下である。
【0039】
本発明の一態様において、本発明の組成物のLST値は、25.0mm以上、25.5mm以上、26.0mm以上、26.5mm以上、27.0mm以上、27.5mm以上、28.0mm以上、28.5mm以上、29.0mm以上、29.5mm以上、30.0mm以上、30.5mm以上、31.0mm以上、31.5mm以上、32.0mm以上、32.5mm以上、33.0mm以上、33.5mm以上、又は34.0mm以上である。
【0040】
水のLST値が48.3mmであることから、それより低いLST値を有する組成物は、水よりも「とろみ」が強い、すなわち、流れにくく、留まりやすいといえ、したがって、管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが推認される。また、組成物のLST値が42.0mm以下であれば、後述する傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°にしても流れ落ちないことが確認されたことから、当該組成物を管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが強く推認される。他方、LST値が極端に低い場合、たとえば、25.0mm未満となる場合、とろみが強くなりすぎることから、内視鏡の鉗子口や、その他のチャンネルを通して、内視鏡の先端部付近に組成物を送り込む際の操作性に支障をきたす場合がある。したがって、本発明の一態様において、本発明の組成物のLST値は、好ましくは、25.0mm~42.0mmである。
【0041】
本発明の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、水より流れにくい性質を有する。本発明の別の一態様において、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°にしても流れ落ちない性質を有する。本明細書において、「傾斜を用いた滑落試験」は、100μLの試験物質(組成物)をポリプロピレン製の容器上にアプライし、その後、当該容器の一端を他端に対して傾け、試験物質が流れ落ちる角度を評価することによって実施し、たとえば、本発明の一態様において、「傾斜を用いた滑落試験」は、コルク板に50mL遠沈管(材質:ポリプロピレン)を取り付け、遠沈管内に試験物質を100μLアプライし、その後、コルク板の一端の高さを上げることで傾斜角を大きくし、試験物質が流れ落ちる角度を評価することによって実施する。コルク板の傾斜角は底辺と高さから算出する。
【0042】
本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を27.2°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を32.3°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を36.2°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を40.0°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を43.4°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を46.3°にしても流れ落ちない性質を有し、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を55.0°にしても流れ落ちない性質を有し、又は、本発明の一態様において、本発明の組成物は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を60.4°にしても流れ落ちない性質を有する。
【0043】
水は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°にした場合に流れ落ちることが確認されたことから、傾斜角を22.5°にしても流れ落ちない性質を有する組成物は、管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが強く推認される。
【0044】
本発明の組成物は、分散剤、浸透圧調整剤、保存剤、防腐剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0045】
本発明の組成物は、動物(ヒト)体内に適用することが想定されているため、適用前に滅菌処理されていることが好ましい。例えば、本発明の組成物は、121℃、15分(Fo値制御:Fo=20)の条件下で滅菌処理されることが好ましい。なお、組成物は高温によりその物性が変化するものもあるので、滅菌処理をする場合は滅菌処理後に所期の物性を達成するように材料を設計するか、高温による物性変化が少ない材料を選択することが好ましい。
【0046】
本発明の一態様において、本発明の組成物は、増粘性物質を水と混合することにより得られるところ、具体的には該増粘性物質を二種以上組み合わせる、もしくは、一種類の増粘性物質を水等に溶解させて、加熱処理を施すことにより弾性を付加することなどにより得られる。本発明の組成物は、その中に気泡が有ると超音波の伝達を減衰するため、気泡を実質的に有しないものであることが好ましい。ここで言う「気泡を実質的に有しない」とは、超音波内視鏡視手技を実質的に不可能とする程の量やサイズの気泡が存在しないことを意味するものであり、例えば、組成物を肉眼で観察した際に気泡が視認できないことを言う。また、対物レンズを介した光学系にて内視鏡視野内を正確に観察する為に、本発明の組成物は無色透明であることが好ましい。ここで言う「無色透明」とは、対物レンズを介した光学系にて内視鏡視野内における観察や作業を実質的に不可能とする程、有色かつ不透明ではないことを意味するものであり、例えば、可視域波長400~800nmにおける光路長10mmでの吸光度が80%以下であることを意味するものである。
【0047】
本発明は、本発明の組成物を管腔内に充填する工程を含む、超音波内視鏡手技検査において超音波の減衰を抑制する方法にも関する。上述のとおり、本発明の組成物は、超音波伝達媒体として使用できるものであり、かつ、管腔内に注入した場合、脱気水をうまく溜めることが困難な臓器又は部位であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に留まる性質を有するものであるから、当該組成物を管腔内に充填することにより、超音波内視鏡手技検査における超音波の減衰を抑制できる。本発明の組成物を管腔内に充填する工程は、本明細書の前半部において記載したような態様にて実施することができる。また、本明細書において、「超音波の減衰を抑制する」とは、少なくとも超音波内視鏡手技を妨げない程度に、超音波の減衰を抑制することを意味する。
【0048】
本発明は、また、超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための組成物にも関する。当該組成物は、上記において説明してきた本発明の組成物と同一である。
【0049】
本発明は、さらに、本発明の組成物が充填された超音波内視鏡にも関する。本発明の組成物が充填された超音波内視鏡は、スコープタイプの専用機であってもよく、また、標準の内視鏡に細径超音波プローブを組み合わせたものであってもよい。本発明の組成物を超音波内視鏡に充填する方法は、上述のシリンジを用いる態様又はウォータージェット機構を用いる等の態様にて実施することができる。
【0050】
本発明は、さらに加えて、超音波内視鏡手技において超音波伝達媒体として管腔内に注入するための組成物の製造における、本発明の組成物の使用、及び/又は超音波内視鏡手技において超音波の減衰を抑制する方法において使用するための組成物の製造における、本発明の組成物の使用にも関する。
【実施例0051】
1.試験物質の調製
キサンタンガム(XG、製造元:三晶株式会社)とローカストビーンガム(LBG、製造元:三晶株式会社)を70℃以上に加温した水に投入し分散させた。各試験物質の濃度が、以下となるように、各試験物質を調製した。
・試験物質1:XG:0.004wt%、LBG:0.015wt%(計0.019wt%)
・試験物質2:XG:0.008wt%、LBG:0.030wt%(計0.038wt%)
・試験物質3:XG:0.009wt%、LBG:0.036wt%(計0.045wt%)
・試験物質4:XG:0.011wt%、LBG:0.042wt%(計0.053wt%)
・試験物質5:XG:0.012wt%、LBG:0.048wt%(計0.060wt%)
・試験物質6:XG:0.014wt%、LBG:0.054wt%(計0.068wt%)
・試験物質7:XG:0.015wt%、LBG:0.060wt%(計0.075wt%)
・試験物質8:XG:0.020wt%、LBG:0.080wt%(計0.100wt%)
・試験物質9:XG:0.030wt%、LBG:0.120wt%(計0.150wt%)
・試験物質10:XG:0.040wt%、LBG:0.160wt%(計0.200wt%)
・試験物質11:XG:0.060wt%、LBG:0.240wt%(計0.300wt%)
【0052】
2.傾斜を用いた滑落試験
各試験物質及び水について、傾斜を用いた滑落試験を実施した。Lコルク板に50mL遠沈管(材質:ポリプロピレン、型番:REF352098、Corning Incorporated.)を取り付け、遠沈管内に試験物質を100μLアプライした。コルク板の一端の高さを上げることで傾斜角を大きくし、試験物質が流れ落ちる角度を評価した。コルク板の傾斜角は底辺と高さから算出した。傾斜を用いた滑落試験の結果は、以下のとおりであった
【0053】
【表1】
【0054】
陰性対象として使用した水は、傾斜を用いた滑落試験において、傾斜角を22.5°とした際に流れ落ちることが判明した。対照的に、試験物質4~11は、傾斜角を22.5°とした際にも流れ落ちなかった。
【0055】
3.付着性の評価
各試験物質及び水の付着性を、クリープメータModelRE2-33005C(株式会社山電)を用いて測定した。ステンレスシャーレ(外径45mm、内径41mm、外寸18mm、内寸15mm)に試験物質を満たし、シャーレの高さに揃えて試験物質表面を平らにした。プランジャー(株式会社山電、形状:円板、型式:P-56、摘要:φ20×t8)を用いて測定した(測定条件:格納ピッチ0.02sec、測定歪率66.67%、測定速度10mm/sec、戻り距離5.00mm、サンプル厚さ15.00mm、接触面直径20.00mm)。各試験物質及び水の付着性は、以下のとおりであった。
【0056】
【表2】
【0057】
試験物質1~11は、いずれも水よりも高い付着性を示した。傾斜を用いた滑落試験では、試験物質4~11が良好な成績を示したことから、組成物の付着性が、21.5J/m以上であれば、当該組成物を管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが強く推認される。
【0058】
4.拡散性の評価(Line Spread Test)
各試験物質及び水の拡散性を、Line Spread Test(LST)用測定板(サラヤ株式会社、材質:ポリエチレン、商品コード:58023)を用いて測定した。LST用測定板の中央に測定用リング(サラヤ株式会社、材質:ステンレス)をセットし、試験物質を20mL満たした後、測定用リングの高さに揃えて試験物質表面を平らにした。
測定用リングを垂直に持ち上げ、30秒後の溶液の拡散距離を6箇所測定し、平均値を算出した。各試験物質及び水の拡散性(LST値)は、以下のとおりであった。
【0059】
【表3】
【0060】
試験物質2~11は、いずれも水よりも低いLST値を示した。傾斜を用いた滑落試験では、試験物質4~11が良好な成績を示したことから、組成物のLST値が、42.0mm以下であれば、当該組成物を管腔内に注入した場合、水の貯留が困難な臓器であっても、比較的長時間にわたり、管腔内に組成物が留まることが強く推認される。
【0061】
5.内視鏡エコー画像
本発明の組成物を使用した際に得られる代表的な内視鏡エコー画像として、食道粘膜下腫瘍の超音波画像、及び、同腫瘍を光学系にて撮影した写真を図1に示す。本発明の組成物は、食道の管腔内に留まり、長時間にわたり病変部を生理学的形態で描写することができた。
図1