(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114592
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】操業演算装置および操業演算方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/30 20060101AFI20230810BHJP
C21C 1/02 20060101ALI20230810BHJP
【FI】
C21C5/30 Z
C21C1/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016996
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】小原 丈司
(72)【発明者】
【氏名】森 純一
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
【テーマコード(参考)】
4K014
4K070
【Fターム(参考)】
4K014AA02
4K070AB17
4K070AC02
4K070AC05
4K070BD01
(57)【要約】
【課題】製鋼工程における複数の工程を一括して操業条件を管理して最適な操業条件を導出する操業演算装置および操業演算方法を提供する。
【解決手段】転炉吹錬工程までの操業条件を管理し、各工程の操業条件を最適化する操業演算装置であって、溶銑予備処理工程の操業条件を管理する溶銑予備処理管理手段と、前記溶銑予備処理管理手段によって管理された操業条件を用いて転炉吹錬工程における所定の成分の成分値を推定する転炉工程管理手段と、前記転炉吹錬工程における冷鉄源投入量を管理する冷鉄源管理手段と、を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉吹錬工程までの操業条件を管理し、各工程の操業条件を最適化する操業演算装置であって、
溶銑予備処理工程の操業条件を管理する溶銑予備処理管理手段と、
前記溶銑予備処理管理手段によって管理された操業条件を用いて転炉吹錬工程における所定の成分の成分値を推定する転炉工程管理手段と、
前記転炉吹錬工程における冷鉄源投入量を管理する冷鉄源管理手段と、
を有することを特徴とする操業演算装置。
【請求項2】
前記冷鉄源管理手段は、前記転炉工程管理手段によって推定された所定の成分値と実績値との差分に基づき冷鉄源中の所定の成分の濃度を補正し、前記冷鉄源の情報として管理することを特徴とする請求項1に記載の操業演算装置。
【請求項3】
前記冷鉄源管理手段は、前記転炉吹錬工程において投入する銘柄毎の冷鉄源の量を、前記転炉吹錬工程で投入する冷鉄源の前記所定の成分の成分値の上限を超えない範囲でコストおよび操業制約のうち少なくとも一方に基づいて決定することを特徴とする請求項2に記載の操業演算装置。
【請求項4】
前記溶銑予備処理管理手段は、溶銑予備処理がなされた溶銑の所定の成分の成分値を推定するとともに、操業実績に基づいて前記推定した成分値が実績値以上となる領域から操業条件を決定することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の操業演算装置。
【請求項5】
前記溶銑予備処理管理手段は、溶銑予備処理がなされた溶銑の所定の成分の成分値を推定するとともに、前記推定した成分値が学習済みの過去実績データの前記所定の成分の成分値以上となる確率が50%以上の所定の値から操業条件を決定することを特徴とする請求項4に記載の操業演算装置。
【請求項6】
前記転炉工程管理手段は、溶銑予備処理がなされた溶銑とともに持ち越された残留スラグ中の前記所定の成分の成分値をさらに取得し、前記取得した前記残留スラグ中の成分値を用いてマスバランスを推定することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の操業演算装置。
【請求項7】
前記転炉工程管理手段は、前記残留スラグ中の成分値を、溶銑予備処理の前後での前記所定の成分の成分値の差分を元に取得することを特徴とする請求項6に記載の操業演算装置。
【請求項8】
転炉吹錬工程までの操業条件を管理し、各工程の操業条件を最適化する操業演算装置が実行する操業演算方法であって、
溶銑予備処理工程の操業条件を管理する溶銑予備処理管理ステップと、
前記溶銑予備処理管理ステップによって管理された操業条件を用いて転炉吹錬工程における所定の成分の成分値を推定する転炉工程管理ステップと、
前記転炉吹錬工程における冷鉄源投入量を管理する冷鉄源管理ステップと、
を有することを特徴とする操業演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、複数工程の操業条件を一括して管理するために好適な操業演算装置および操業演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶銑予備処理、転炉吹錬処理など複数の工程からなる製鋼工程においては、それぞれの工程において溶銑の成分やコストなどを最適化して操業指示が行われている。しかしながら、溶銑の成分やスクラップ銘柄などの変動により、ある一定確率で出鋼後に一部の成分が目標成分範囲の上下限値を外れてしまう場合があり、その場合には二次精錬で新たな工程を追加する(以下、工程追加)など操業コストが大きく増加してしまう。例えば、溶銑成分やスクラップ銘柄の変動により溶銑中のSのインプット量が変動するため、単独工程ではS濃度を最適化することができず、計画外の二次精錬処理や目標成分範囲から外れる成分不適が発生してしまう。
【0003】
以上のように単独の工程で操業条件を最適化するのみでは、工程追加が発生する場合があるため、複数工程の操業条件を一括して最適化することが望ましい。そのためには、目標となる成分から外れる要因を複数の要因から特定し、適宜操業条件を修正して学習させる必要がある。特許文献1には、吹錬工程におけるパラメータを計算する方法として、吹錬工程内の溶鋼に含まれる成分量と溶鋼温度とを実測する第1時点と第2時点それぞれまでの第1期間および第2期間において必要な酸素量、昇熱材量、および冷却材量を算出する際に、機械学習された結果を用いて不明熱と不明酸素を予測し、前記第2期間において必要な酸素量、昇熱材量、および冷却材量は、前記第1時点における実測成分量および実測溶鋼温度などに加えて実測不明熱量と実測不明酸素量を用いて計算する技術が開示されている。
特許文献2には、溶鉄の精錬処理について一次反応式を元に成分予測を行う方法として、平衡状態の成分濃度と反応速度係数を推定し、成分濃度を都度推定する成分濃度演算装置について技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6516906号公報
【特許文献2】特開2020-15959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、ある一定確率で出鋼後に一部の成分が製品規格に基づいた上限値を超えてしまう場合があり、その要因としては、転炉内に投入する溶銑や、溶銑鍋の残留スラグ、冷鉄源、副原料などの成分が予測値からずれていることが考えられる。特にスクラップなど冷鉄源については成分を予測することが難しく、特許文献1に記載の方法では、スクラップの成分については考慮されていないため、操業条件を十分に最適化することができない。特許文献2に記載の方法では、精錬反応が進行し辛い成分系については当てはまりが悪く適用範囲が限られている。そのため、精錬反応に対し有利不利にかかわらずマスバランスと過去の実績を元に成分変動を予測する技術が新たに必要となる。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、冷鉄源の成分をより正確に予測して最適な操業条件を導出する操業演算装置および操業演算方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る操業演算装置は、転炉吹錬工程までの操業条件を管理し、各工程の操業条件を最適化する操業演算装置であって、溶銑予備処理工程の操業条件を管理する溶銑予備処理管理手段と、前記溶銑予備処理管理手段によって管理された操業条件を用いて転炉吹錬工程における所定の成分の成分値を推定する転炉工程管理手段と、前記転炉吹錬工程における冷鉄源投入量を管理する冷鉄源管理手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る操業演算方法は、転炉吹錬工程までの操業条件を管理し、各工程の操業条件を最適化する操業演算装置が実行する操業演算方法であって、溶銑予備処理工程の操業条件を管理する溶銑予備処理管理ステップと、前記溶銑予備処理管理ステップによって管理された操業条件を用いて転炉吹錬工程における所定の成分の成分値を推定する転炉工程管理ステップと、前記転炉吹錬工程における冷鉄源投入量を管理する冷鉄源管理ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、冷鉄源の成分をより正確に予測して最適な操業条件を導出することができる。これにより、製鋼工程における複数の工程を一括して操業条件を管理して最適な操業条件を導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態において脱硫処理を行う工程を説明するための図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る操業演算装置の溶銑予備処理後の溶銑中S濃度を推定するための機能構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る操業演算装置の転炉工程での操業後の溶鋼中S濃度を推定するための機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る操業演算装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図5】銘柄別に冷鉄源中のS濃度を補正する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、溶銑予備処理工程および転炉工程においてインプット量が変動しやすいSを例に説明するが、成分としてはSに限らず、例えばCuなど転炉内での除去が難しい成分や、Mnなどの転炉内で一定の除去可能なものについても同様に適用可能である。
【0012】
図1は、本実施形態において脱硫処理を行う工程を説明するための図である。
まず、溶銑予備処理工程で脱硫処理が行われ、製品規格に基づいて所定の濃度以下まで溶銑からSが除去される。本実施形態では、取鍋内の溶銑に耐火物製のインペラー(回転翼)を浸漬して回転させ、溶銑と脱硫剤を機械的に混合して脱硫反応を促進する方式(KR方式)を用いるものとする。
【0013】
この工程では脱硫剤の投入量基準が粗く、処理後の溶銑中S濃度の予測値の的中率が低くなりやすい。そこで本実施形態では、後述するKRモデル等を用いて処理後の溶銑中S濃度を推定する。次工程の転炉工程の操業までに溶銑中S濃度の分析値(実績値)を導出できる場合には、その実績値を転炉工程の操業に利用するが、実績値を導出できない場合は、後述するKRモデル等を用いて処理後の溶銑中S濃度を推定し、その推定値を用いて転炉工程の操業に利用する。
【0014】
また、転炉工程では、溶銑予備処理工程で生成されたスラグの一部が残留スラグとして持ち越される。本実施形態では、スラグ残留量判定用カメラの撮影や、目視、その他の方法などにより残留スラグの定量評価を行う。また、残留スラグ中の成分値(S量)については転炉工程におけるマスバランスの推定に用いられるが、過去のスラグ成分の実績の平均値を用いてもよく、溶銑予備処理の前後の溶銑中S濃度の差分から推定した値を用いてもよい。
【0015】
続いて、転炉工程においては、スクラップシュートから転炉に冷鉄源を装入し、その後、溶銑予備処理後の溶銑を転炉に装入し、脱硫剤などの副材を添加して脱硫処理を行う。本実施形態では、後述する炉内S管理モデルに基づき、転炉内のSマスバランスを推定するとともに、吹止後の溶鋼中S濃度を推定する。また、Sマスバランスを推定する際に、冷鉄源からのS量は推定することが難しいことから、S濃度の推定値と実績値との差分に応じて銘柄毎に冷鉄源のS量の補正を行う。この補正の詳細は後述するが、転炉内での吹止後の溶銑中S濃度を推定するとともに、溶銑中のS濃度を測定し、推定値と実績値との差分を求める。そして、銘柄別に差分値を求め、その値が予め定められた標準誤差以下である場合に、その銘柄に含まれるS量を補正する。また、冷鉄源には、鋼材製造過程で発生する屑鉄(スクラップ)や、溶銑を鋳型に流し込んで固めた型銑、その他荒鉄、雑銑と呼ばれる溶銑が様々な形状で固まった地金、転炉粗粒ダストなどの製鉄副産物を含む。
【0016】
図4は、本実施形態に係る操業演算装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
操業演算装置100は、CPU401と、ROM402と、RAM403と、記憶装置404と、入出力I/F405と、通信I/F406とを有している。CPU401は、ROM402に記憶された制御プログラムを読み出して各種処理を実行する。RAM403は、CPU401の主メモリ、ワークエリア等の一時記憶領域として用いられる。記憶装置404は、各種データや各種プログラム等を記憶する。表示装置405は、各種情報を表示する。入出力I/F406は、キーボードやマウスからユーザによる各種操作を受け付けたり、不図示の表示装置に演算結果を表示させたりするためのインターフェースである。通信I/F407は、ネットワークを介して外部装置から情報を取得するためのインターフェースである。
【0017】
図2は、本実施形態に係る操業演算装置100の溶銑予備処理後の溶銑中S濃度を推定するための機能構成例を示すブロック図である。
実績データ記憶部200には、過去の操業実績に係る実績データが保持されており、操業演算装置100は溶銑予備処理での操業条件を管理するとともに、溶銑予備処理後のS濃度を推定する。操業条件ではKRモデルを用いて最適化した条件を用い、溶銑予備処理後のS濃度を推定する。
【0018】
ここで、KRモデルについて説明する。KRモデルは機械学習モデルであり、KRモデルでは、一次反応式に従い2変数を予測するグレイボックスモデルを導入し、モデル構築部220は、実績データ取得部210で実績データ記憶部200から取得される13種類のパラメータ(溶銑見込温度、溶銑量、処理前C濃度、処理前Si濃度、処理前Mn濃度、処理前P濃度、処理前S濃度、湯面高さ、設定インペラー浸漬深さ、インペラー使用回数、CaO使用量、二次精錬滓使用量およびAl灰使用量)を使用して最適化計算を行う。そして、最適化した操業条件に従って、処理後S濃度を推定する。S濃度の推定については、特許文献2に開示されたモデルを採用する。つまり、以下の(1)式を用いて処理後S濃度[%S](質量%)を算出する。
【0019】
【0020】
(1)式中において、[%S]0は処理前S濃度[質量%]、Vは溶銑量[ton]、tは設定攪拌時間[分]を表す。また、f(x1)は平衡論的寄与に関する関数であり、g(x2)は速度論的寄与に該当する関数である。
【0021】
また、KRモデルは脱硫反応を一次反応に従う理想条件として置いており、推定した処理後S濃度に対し実績の処理後S濃度にばらつきが生じる。炉内S管理を安定させるためには、ばらつきを加味して実績の処理後S濃度が狙いS濃度以下になるよう制御する必要がある。そこで本実施形態では、モデル構築部220は、推定した処理後S濃度が実績の処理後S濃度をある確率以上で同じもしくは上回る領域の境界を分位点と定義し、分位点以下の操業実績から操業条件の最適計算を行う分位点計算を導入する。ここで、ある確率とは、50%以上の範囲であらかじめ設定された値であり、望ましくは、70%、80%、90%、95%、97%、99%と所定の間隔を保ち高い値まで設定することで、処理後のS濃度の目標到達率を高めることができる値である。
【0022】
さらに本実施形態では、最適化計算において過去の操業実績から大きく乖離した操業条件を算出することを避けるために、制約条件設定部230は、過去の実績データから推定した操業実績の確率密度関数をもとに計算される尤度関数を評価関数に追加し、最適解探索部240は、モデル構築部220により構築されたモデルを用い、尤度関数により操業条件を信頼できる範囲から探索するようにする。そして、最適解出力部250は、最適解探索部240により探索された最適解(処理後S濃度)を出力する。
【0023】
以上のように本実施形態に係るKRモデルでは、上述したグレイボックスモデルに加え、分位点計算および尤度関数を導入して信頼度の高いS濃度の推定値を導出するようにしている。
【0024】
図3は、本実施形態に係る操業演算装置100の転炉工程での操業後の溶鋼中S濃度を推定するための機能構成例を示すブロック図である。
本実施形態においては、転炉内の過去の操業実績に係る実績データからし、転炉内での脱硫処理の操業条件を管理し、吹止後の溶鋼中S濃度を推定する。本実施形態では、炉内S管理モデルに従って転炉内のSマスバランスの推定を行い、吹止後の溶鋼中S濃度を推定する。
【0025】
ここで、炉内S管理モデルについて説明する。炉内S管理モデルでは、転炉内のSマスバランス推定式の改善に加え、冷鉄源の積込みS量を推定し、銘柄毎の積込量を最適化する冷鉄源S推定モデルを導入する。まず、吹止成分推定部350では、以下の(2)式で表すSマスバランス推定式を用いて吹止後の溶鋼中S濃度XB(質量%)を推定する。
【0026】
【0027】
(2)式中、YBは吹止時のスラグ中S濃度[質量%]、VBはスクラップ等の冷鉄源を含んだ総装入溶鉄量[t]、WBは吹止時のスラグの重量[t]、Zpigは溶銑中のS量[kg]、Zchuteはスクラップ、型銑、主原料外鉄源等の冷鉄源S量[kg]、ZKRslagは前工程の溶銑予備処理から持ち越された残留スラグからのS量[kg]、ZLDslagは転炉スラグ(リサイクルスラグ)を用いた場合の転炉スラグからのS量[kg]、Zsubは投入副材からのS量[kg]を表す。なお、転炉操業が複数回吹錬および排滓を伴う操業である場合は、吹錬回数ごとにそれぞれ算出する。
【0028】
ここで、溶銑中のS量Zpigは、溶銑予備処理推定成分出力部310から出力される値を用いる。溶銑予備処理推定成分出力部310は、溶銑予備処理後の溶銑中S濃度から溶銑中のS量Zpigを算出する。このとき、前述したように溶銑予備処理後の溶銑中S濃度は、転炉工程の操業までに溶銑中S濃度の実測値を導出できる場合にはその実測値を利用するが、分析が間に合わず実測値を導出できない場合は、前述のKRモデルで算出された推定値を用いるものとする。また、前工程の溶銑予備処理から持ち越された残留スラグからのS量ZKRslagは、まず、スラグ残留量判定用カメラの撮影により、溶銑予備処理から持ち越されたスラグ量を計測する。そして、溶銑予備処理推定成分出力部310は、過去のスラグ成分の実績の平均値を残留スラグ中のS濃度とみなし、残留スラグからのS量ZKRslagを算出する。なお、溶銑予備処理の前後の溶銑中S濃度の差分から推定した値を用いて算出してもよい。この場合も、分析が間に合わず実測値を導出できない場合は、溶銑予備処理前の溶銑中S濃度と、KRモデルで算出された溶銑予備処理後の溶銑中S濃度の推定値との差分を用いて残留スラグ中のS濃度を推定してもよい。
【0029】
一方、冷鉄源S量Zchuteは、冷鉄源投入量計算部340により、冷鉄源情報取得部320で管理されている冷鉄源の銘柄別S濃度に基づいて算出される。冷鉄源のS濃度は直接測定できず、成分変動が大きい。特に他社から購入する冷鉄源は、様々な工程で発生した冷鉄源が混入されている可能性があるなど不確定要素が大きく、成分変動が特に大きい。そこで本実施形態では、この冷鉄源のS濃度の推定方法に着目し、冷鉄源S推定モデルを用いて機械学習により推定計算する。
【0030】
冷鉄源情報取得部320は、他工程で発生したスクラップや他社から購入したスクラップ、型銑、その他の副産物など数十~数百の銘柄の冷鉄源の情報を管理しており、転炉工程においては、その中からチャージ毎に異なる組み合わせの5~7銘柄を選択してスクラップシュートから投入する。なお、単一工程から発生したものは同じ銘柄として管理する。また、冷鉄源情報取得部320は、冷鉄源S推定モデルにより銘柄別に冷鉄源中のS濃度を推定し、推定値と実績値との間に差がある場合は必要に応じて補正を行う。
【0031】
図5は、銘柄別に冷鉄源中のS濃度を補正する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5に示す各処理は、転炉工程でチャージ毎に行われ、CPU401がROM402に記憶された制御プログラムを読み出して実行することにより行われる。
まず、S601において、成分誤差計算部370は、転炉工程での吹止後のS濃度の実績値(分析値実績300)を取得する。転炉工程の吹止後において溶鋼の成分分析が行われ、分析値実績300としてS濃度の実績値が入力される。
【0032】
次に、S602において、成分誤差計算部370は、推定成分出力部360から出力された吹止後のS濃度の推定値とS601で入力された実績値との間の濃度差を算出する。ここで、吹止後のS濃度の推定値は、吹止成分推定部350により上述の(2)式のSマスバランス推定式を用いて算出された値である。
【0033】
続いてS603において、成分誤差計算部370は、銘柄別S濃度補正値を算出する。ここで、kチャージ目、銘柄jの冷鉄源の投入量をvj(k)、総装入溶鉄量をV(k)、kチャージ目の吹止後のS濃度の推定値と吹止後のS濃度の実績値との間の濃度差をΔ(k)と定義する。この場合、銘柄別S濃度補正値βj(k)は以下の(3)式によって算出される。
βj(k)=Δ(k-1)*V(k-1)/vj(k-1) ・・・(3)
【0034】
なお、前述したように冷鉄源投入時は通常複数銘柄の冷鉄源を投入するが、(3)式はいずれの銘柄でも均等にS濃度の誤差が生じていると仮定したものとなっている。しかしながら実際には、S濃度を特定しやすい銘柄や特定しにくい銘柄など様々な銘柄が存在する。そこで、銘柄別S濃度補正値を算出する際に、銘柄の種類によって異なる補正係数(j)(0<補正係数(j)≦1)を銘柄別S濃度補正値βj(k)に乗算して重み付けを行ってもよい。
【0035】
続いてS604において、成分誤差計算部370は、S603で算出した銘柄別S濃度補正値の絶対値が銘柄別標準誤差未満であるか否かを判定する。冷鉄源S推定モデルでは、吹止後のS濃度における推定値と実績値との誤差は、すべて冷鉄源の成分影響から発生すると仮定している。しかし、実操業では炉内残留地金の影響や型銑焼付の溶解、分析誤差など、冷鉄源S推定モデルでは表現できてない項目が残存しており、これらの影響を除く必要がある。また、元々S濃度のばらつきが小さい銘柄であっても、投入量が多い場合には補正量が大きくなり、そのまま補正値で補正してしまったら実際のS濃度から大きく外れてしまう。そこで銘柄別の標準誤差を用い、各銘柄の成分変動幅が標準誤差を超える場合は銘柄別のS濃度の補正を行わないようにしている。つまり、S603で算出した銘柄別S濃度補正値の絶対値が銘柄別標準誤差未満である場合はS605に進み、S603で算出した銘柄別S濃度補正値の絶対値が銘柄別標準誤差以上である場合はS606に進む。
【0036】
なお、銘柄別の標準誤差は、冷鉄源情報取得部320が管理している各銘柄の冷鉄源のS濃度の変動に基づいて予め算出されるものである。
【0037】
S605において、冷鉄源情報取得部320は、該当する銘柄の冷鉄源のS濃度の補正を行う。kチャージ目、銘柄jの冷鉄源のS濃度をzj(k)、銘柄別残留率をαj(k)とした場合、以下の(4)式に従ってS濃度の補正を行う。
zj(k)=zj(k-1)+αj(k)×βj(k) ・・・(4)
【0038】
ここで、(4)式からわかる通り、S濃度の補正には前回の操業条件を使用している。したがって、その銘柄が使用されていない場合には(4)式を使用せず、成分補正を行わないこととする。
【0039】
次に、S606において、成分誤差計算部370は、計算すべき銘柄がまだあるか否かを判定する。この判定の結果、計算すべき銘柄がまだ残っている場合はS603に戻り、次の銘柄について同様の処理を行う。一方、計算すべき銘柄がない場合はそのまま処理を終了する。
【0040】
以上のように本実施形態では、成分変動の大きい冷鉄源S量Zchuteの精度を高めるために、銘柄別に冷鉄源中のS濃度を補正によって最適化するようにしている。なお、前述したようにすべての銘柄で均等にS濃度の誤差が生じていると仮定して補正値を算出しているが、この処理を繰り返すことにより各銘柄で実際のS濃度に収束するようになる。例えば投入する6つ銘柄のうち、1つ銘柄のみが実際のS濃度と大きく異なるような場合であっても、チャージごとに銘柄の組み合わせを毎回変えることによって、残りの5つの銘柄のS濃度も異なる銘柄の組み合わせによって実際のS濃度に近づいていき、各銘柄で実際のS濃度に収束するようになる。
【0041】
次に、各銘柄の積込量について説明する。冷鉄源投入量計算部340は、転炉操業を行う前に、積込最適化モデルを用いて銘柄毎の積込量の最適化を行う。冷鉄源情報取得部320では、各銘柄の冷鉄源の成分のみならず、各銘柄の価格、在庫量、その他の制約条件に関する情報も保持している。各銘柄の積込量を最適化する際には、まず、制約条件設定部330によって設定されている各銘柄の制約条件(トランプエレメント管理別の銘柄別投入量規制、吹錬種別の投入量制約、突沸等の過去のトラブルを元に設定された吸着水分値別の投入量規制、在庫管理のための同一銘柄使用上限、未溶解を防ぐための溶解し辛い冷鉄源の総量上限など)により各銘柄の積込量の上限を確定し、そのうえで在庫があるか否かを判断する。そして、在庫のある複数銘柄から適宜選択し、制約条件を踏まえて冷鉄源の銘柄別S濃度の合計が、許容できる冷鉄源S量Zchuteの上限を超えない範囲でコスト最適点を模索する。なお、許容できる冷鉄源S量Zchuteの上限は、転炉工程のマスバランスおよび製品規格に応じた溶鋼中S濃度の上限値に基づいて制約条件設定部330により算出される。
【0042】
本実施形態に係る操業演算装置100は、前述したKRモデルおよび炉内S管理モデルを組み合わせた複合モデルを構築し、溶銑予備処理工程および転炉工程を一括して管理して最適な操業条件を構築するよう制御することができる。
【0043】
以上のように本実施形態によれば、吹止時のS濃度の推定値と実績値との差分を計算して、成分変動の大きい冷鉄源の成分を必要に応じて補正し、次回以降のチャージで反映させるようにしたので、冷鉄源の積込量の最適化を行った場合に、より精度よく操業条件の最適化を行うことができる。これにより、複合モデルを構築して溶銑予備処理および転炉工程において操業条件を一括して管理し、操業条件を最適化することができる。
【0044】
(その他の実施形態)
なお、以上述べた実施形態の操業演算装置は、具体的にはコンピュータシステム或いは装置により構成されるものである。したがって、前述した機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成されることは言うまでもない。
【0045】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、プログラムコード自体及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0046】
以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。即ち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
310 溶銑予備処理推定成分出力部
320 冷鉄源情報取得部
330 制約条件設定部
340 冷鉄源投入量計算部
350 吹止成分推定部
360 推定成分出力部
370 成分誤差計算部